ゲスト
(ka0000)
【万節】ゴースト・シーブス
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/12 07:30
- 完成日
- 2014/10/16 21:40
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
崖上都市・ピースホライズン。
万霊節の祭りを見に来た観光客と、彼ら相手の商売に精を出す市民とで、
街のあらゆる通りは日夜ごった返していた。
広場へ続く大路などは道の両端に屋台が隙間なく並び立ち、
食事や小物を買い求めてそれらへ足を止める人々を避けようにも、どうしても肘や肩がぶつかる。
それでも皆、ぶつかるたび互いに軽く一言謝るだけで、
むせ返るような人混みの中でもほとんどの時間を幸福そうな顔で通していられる。
ここは歓楽の街。
祭りの空気も相まって、誰も彼も、日頃の憂さをすっかり何処かに隠してしまったようだ。
時刻は夕方。夜の仮装行列の参加者たちが、いち早く目的地へ向かわんと群衆の中へ繰り出していく。
焼き菓子や串物を売る屋台から立ち昇る煙が、
犬面、鬼面、カボチャの面その他を被った仮装者たちを取り巻いて、妖しげな空気を醸し出す。
念の入った衣装の数々に、大人に手を引かれて歩く子供たちが一瞬たじろいだ。
が、それもすぐに笑顔に変わる。返礼は、作り物の怪物たちのおどけた仕草。
不意の遭遇にきゃっ、と悲鳴を上げた少女も、すぐ微笑んで怪物と手を振り合う。
後から現れた仮装者のひとり、白塗りのデスマスクが、少女とすれ違いざまに、掌ほどの紙包みを渡す。
少女が礼を言う暇もなく、デスマスクは群衆の中に消えていった。
包みの中身は、近くの屋台で買われたクッキーだった。
見知らぬ人からの贈り物を親が咎めるより早く、一口齧って、少女は頬を綻ばす。
大人には甘過ぎる味や派手な色も、彼女の好みには合ったようだ。両親の遅ればせの小言も何処か真剣味がない。
まぁ何事も大目に見よう、今は祭りなのだから……。
●
だが『彼』は大目に見なかった。
慣れた身のこなしで行き交う人を避けながら、デスマスクの後をつける別の仮装者。
コボルドの被り物をした彼は、ピースホライズン市警備隊の隊員だった。
彼の任務――
雑魔発生の混乱に乗じ、王国領から市内へ侵入した札つきの窃盗団の捜索。
『マイヤーズ一味』はスリ、置き引き、引ったくりに熟練し、西方三国の各地で手配済みの5人組だ。
頭目の男・マイヤーズは元ハンターとの噂だった。
負傷で引退した後、身を持ち崩し、
ハンター時代に習い覚えた技を盗みに生かしていっぱしの悪党へと転身したそうだ。
格闘家としても知られ、彼に付き従う手下4人も、徒手格闘の薫陶を受けているとか。
それでもハンターとして人助けをしていた頃の矜持が多少なりとも残っているのか、
彼の一味は人を殺したり、手ひどく傷つけたことはないらしい。
マイヤーズ一味専従捜査班の所属でもある隊員は、
デスマスクの男の、一見普通だが僅かにクセのある歩き方を確かに捉えていた。
昔マイヤーズは左肩にひどい骨折をして、その骨の歪みがどうやっても戻らなかった。
だから一歩進むたび、左の肩が進行方向へ向けて不自然に突っ張る。
マイヤーズとその一味の素顔や傷痕、刺青等の外見に関するプロファイルは、
情報のある限り全て市庁舎の分樹から出力され、街に立つ警備隊全員が共有している。
しかし一味が仮装行列に紛れてしまえば、仮面で覆われた顔や傷や刺青など判別の役には立たない。
そこで、熟練の隊員たちはどんな馬鹿げた衣装を纏っても、およそ隠しきれないような身体的特徴――
本来の身長、身体の幅、古傷による動作のクセ等をこそ一番に覚え込み、特定に用いていた。
そして今まさにそのクセによって、頭目マイヤーズと思しき人物を発見出来た。
今後は彼の犯行を、それとなく割り込む、何かで注意を惹く等の消極的妨害で防ぎつつ、尾行する。
逮捕術に長けた隊員たちでも、人混みの中で賊、それも手練れと言われる男たちを、
自分や周囲の人々を傷つけずに捕まえられる保証はなかった。だから、追ってチャンスをうかがう。
何、周りに人がいなければ、例え元ハンターだろうとやっつけてやるさ――
●
――という目論見も虚しく、隊員は裏路地に入るなり、あっさりとのされてしまった。
尾行に気づかれ、こちらが撒かれまいと逸ったほんの一瞬を突かれた。
恐らく上段の回し蹴り。流石は元ハンター、鋭い蹴りだった。
紙細工で出来たコボルドの被り物には簡単に穴が空き、頭部に強い衝撃を受ける。
隊員は転倒しつつも、ふらつく足でどうにか起き上がった。
だが、デスマスクのマイヤーズは既にその場から消えている。見上げれば、
大して人通りもないだろう路地にまでわざわざ吊られた色紙つきの飾り紐が、一本外れて屋上から垂れている。
まさか、あれをよじ登ったのか。左肩のハンデを抱えて……。
路地の奥から、連絡を受けていた他の隊員が顔を見せるも、応援は遅きに失した。
蹴りを食らった隊員は、力なく笑ってかぶりを振る。班長の激怒が目に浮かぶようだ。
未練がましく飾り紐の先を見やれば、路地の合間の空はいつの間にか陽が暮れて、紺色に変わっていた。
報告を受けたマイヤーズ一味専従班班長は、思いの外怒りはしなかった。
彼はトランシーバーから静かな声で各員順々に、
マイヤーズとの接触と逮捕失敗の報、今後より慎重な捜査を行うべしとの指示、
そしてハンターオフィスへの協力依頼の決定を、連絡して回った。
●
古傷は何ともない。少なくとも今のところは。
マイヤーズは、今や警備隊に対する目印でしかない白塗りのマスクを捨てて、新しい仮面を被った。
今度は赤い、血まみれのデスマスクだ。屋上伝いにしばらく進んで、いつしか宿場通りに着く。
眼下の通りはぐっと広くなり、車道には2頭立ての馬車や、
見栄張りの金持ちが持ち出したのであろう魔導自動車までもが走っている。
今夜着いたばかりの観光客たちは路肩に車を停め、出迎える宿屋の小使いに荷物を手渡す。
車の傍には、小使いたちが運びきれない荷物が無造作に降ろされる。置き引きの良いカモだった。
実際、マイヤーズの手下の何人かは、この通りで仕事をしている最中の筈。
マイヤーズは、今度は街の中心部を振り返った。
10月の末日には大きなカボチャのバルーン等が上がり、
見世物の舞台や演台が設えられるであろう広場が見えた。
広場は今夜も街で一際明るい光を放っているが、飾りつけや何やかやはまだまだ準備中だ。
あの灯りも、スケジュールに遅れないようにと大急ぎで働く作業員たちの為のもの。
俺もまだ働かなくちゃいけない。
警備隊には勘づかれてしまったが、まだ、もう少しいける。
俺にとって『仕事』とはもう、これしかないのだ。
マイヤーズは、先程警備隊員を倒したばかりのブーツの爪先に目を落とす。
あれは良い蹴りだった。我ながら会心の一撃。殺さず、しかし追わせず。
彼はふと、考える。
ぶさまな左肩さえなければ、軽業師としてこの祭りに混じっても良かったな、と。
崖上都市・ピースホライズン。
万霊節の祭りを見に来た観光客と、彼ら相手の商売に精を出す市民とで、
街のあらゆる通りは日夜ごった返していた。
広場へ続く大路などは道の両端に屋台が隙間なく並び立ち、
食事や小物を買い求めてそれらへ足を止める人々を避けようにも、どうしても肘や肩がぶつかる。
それでも皆、ぶつかるたび互いに軽く一言謝るだけで、
むせ返るような人混みの中でもほとんどの時間を幸福そうな顔で通していられる。
ここは歓楽の街。
祭りの空気も相まって、誰も彼も、日頃の憂さをすっかり何処かに隠してしまったようだ。
時刻は夕方。夜の仮装行列の参加者たちが、いち早く目的地へ向かわんと群衆の中へ繰り出していく。
焼き菓子や串物を売る屋台から立ち昇る煙が、
犬面、鬼面、カボチャの面その他を被った仮装者たちを取り巻いて、妖しげな空気を醸し出す。
念の入った衣装の数々に、大人に手を引かれて歩く子供たちが一瞬たじろいだ。
が、それもすぐに笑顔に変わる。返礼は、作り物の怪物たちのおどけた仕草。
不意の遭遇にきゃっ、と悲鳴を上げた少女も、すぐ微笑んで怪物と手を振り合う。
後から現れた仮装者のひとり、白塗りのデスマスクが、少女とすれ違いざまに、掌ほどの紙包みを渡す。
少女が礼を言う暇もなく、デスマスクは群衆の中に消えていった。
包みの中身は、近くの屋台で買われたクッキーだった。
見知らぬ人からの贈り物を親が咎めるより早く、一口齧って、少女は頬を綻ばす。
大人には甘過ぎる味や派手な色も、彼女の好みには合ったようだ。両親の遅ればせの小言も何処か真剣味がない。
まぁ何事も大目に見よう、今は祭りなのだから……。
●
だが『彼』は大目に見なかった。
慣れた身のこなしで行き交う人を避けながら、デスマスクの後をつける別の仮装者。
コボルドの被り物をした彼は、ピースホライズン市警備隊の隊員だった。
彼の任務――
雑魔発生の混乱に乗じ、王国領から市内へ侵入した札つきの窃盗団の捜索。
『マイヤーズ一味』はスリ、置き引き、引ったくりに熟練し、西方三国の各地で手配済みの5人組だ。
頭目の男・マイヤーズは元ハンターとの噂だった。
負傷で引退した後、身を持ち崩し、
ハンター時代に習い覚えた技を盗みに生かしていっぱしの悪党へと転身したそうだ。
格闘家としても知られ、彼に付き従う手下4人も、徒手格闘の薫陶を受けているとか。
それでもハンターとして人助けをしていた頃の矜持が多少なりとも残っているのか、
彼の一味は人を殺したり、手ひどく傷つけたことはないらしい。
マイヤーズ一味専従捜査班の所属でもある隊員は、
デスマスクの男の、一見普通だが僅かにクセのある歩き方を確かに捉えていた。
昔マイヤーズは左肩にひどい骨折をして、その骨の歪みがどうやっても戻らなかった。
だから一歩進むたび、左の肩が進行方向へ向けて不自然に突っ張る。
マイヤーズとその一味の素顔や傷痕、刺青等の外見に関するプロファイルは、
情報のある限り全て市庁舎の分樹から出力され、街に立つ警備隊全員が共有している。
しかし一味が仮装行列に紛れてしまえば、仮面で覆われた顔や傷や刺青など判別の役には立たない。
そこで、熟練の隊員たちはどんな馬鹿げた衣装を纏っても、およそ隠しきれないような身体的特徴――
本来の身長、身体の幅、古傷による動作のクセ等をこそ一番に覚え込み、特定に用いていた。
そして今まさにそのクセによって、頭目マイヤーズと思しき人物を発見出来た。
今後は彼の犯行を、それとなく割り込む、何かで注意を惹く等の消極的妨害で防ぎつつ、尾行する。
逮捕術に長けた隊員たちでも、人混みの中で賊、それも手練れと言われる男たちを、
自分や周囲の人々を傷つけずに捕まえられる保証はなかった。だから、追ってチャンスをうかがう。
何、周りに人がいなければ、例え元ハンターだろうとやっつけてやるさ――
●
――という目論見も虚しく、隊員は裏路地に入るなり、あっさりとのされてしまった。
尾行に気づかれ、こちらが撒かれまいと逸ったほんの一瞬を突かれた。
恐らく上段の回し蹴り。流石は元ハンター、鋭い蹴りだった。
紙細工で出来たコボルドの被り物には簡単に穴が空き、頭部に強い衝撃を受ける。
隊員は転倒しつつも、ふらつく足でどうにか起き上がった。
だが、デスマスクのマイヤーズは既にその場から消えている。見上げれば、
大して人通りもないだろう路地にまでわざわざ吊られた色紙つきの飾り紐が、一本外れて屋上から垂れている。
まさか、あれをよじ登ったのか。左肩のハンデを抱えて……。
路地の奥から、連絡を受けていた他の隊員が顔を見せるも、応援は遅きに失した。
蹴りを食らった隊員は、力なく笑ってかぶりを振る。班長の激怒が目に浮かぶようだ。
未練がましく飾り紐の先を見やれば、路地の合間の空はいつの間にか陽が暮れて、紺色に変わっていた。
報告を受けたマイヤーズ一味専従班班長は、思いの外怒りはしなかった。
彼はトランシーバーから静かな声で各員順々に、
マイヤーズとの接触と逮捕失敗の報、今後より慎重な捜査を行うべしとの指示、
そしてハンターオフィスへの協力依頼の決定を、連絡して回った。
●
古傷は何ともない。少なくとも今のところは。
マイヤーズは、今や警備隊に対する目印でしかない白塗りのマスクを捨てて、新しい仮面を被った。
今度は赤い、血まみれのデスマスクだ。屋上伝いにしばらく進んで、いつしか宿場通りに着く。
眼下の通りはぐっと広くなり、車道には2頭立ての馬車や、
見栄張りの金持ちが持ち出したのであろう魔導自動車までもが走っている。
今夜着いたばかりの観光客たちは路肩に車を停め、出迎える宿屋の小使いに荷物を手渡す。
車の傍には、小使いたちが運びきれない荷物が無造作に降ろされる。置き引きの良いカモだった。
実際、マイヤーズの手下の何人かは、この通りで仕事をしている最中の筈。
マイヤーズは、今度は街の中心部を振り返った。
10月の末日には大きなカボチャのバルーン等が上がり、
見世物の舞台や演台が設えられるであろう広場が見えた。
広場は今夜も街で一際明るい光を放っているが、飾りつけや何やかやはまだまだ準備中だ。
あの灯りも、スケジュールに遅れないようにと大急ぎで働く作業員たちの為のもの。
俺もまだ働かなくちゃいけない。
警備隊には勘づかれてしまったが、まだ、もう少しいける。
俺にとって『仕事』とはもう、これしかないのだ。
マイヤーズは、先程警備隊員を倒したばかりのブーツの爪先に目を落とす。
あれは良い蹴りだった。我ながら会心の一撃。殺さず、しかし追わせず。
彼はふと、考える。
ぶさまな左肩さえなければ、軽業師としてこの祭りに混じっても良かったな、と。
リプレイ本文
●
夕刻、屋台通りの人混みに紛れたひとりの純朴そうな青年。
財布を剥き出しで持ち歩き、いかにも不用心だ。早速盗人が近づいて、後ろから手を――
「おっと」
財布の持ち主、トウゴウ・カイ(ka3322)は、まんまと囮にかかったゴブリンマスクを振り返った。
カイの眼に何かを感じ取った相手は、咄嗟に後退りをする。
『ちこくちこく~!』
陣羽織を着込んだウサギ怪人が、横合いから走り来る。仮装した鳴神 真吾(ka2626)だ。
彼の狙いは、カイが行き当たった盗人の近くに控えていた他の仲間。
カイは真吾がそちらを追うのを横目で見つつ、目の前の相手に集中した。
互いに構えを取り――
(こいつ、ボクシングの心得があるみたいだな)
異変に気づいた人混みが割れて、即席の小さなリングとなる。
ジャブで間合いを測りつつ、ワン、ツー。相手は前腕の外側でそれを受け止めた。
更に前へ出て、左でフェイントをかけつつ、右フックを相手の腹に叩き込む。
良い手応えだった――が倒しきれない。
すぐさま反撃が飛んできて、顎へ強烈な右ストレートを食らってしまった。
倒れたカイが周囲の人々に介抱されている間に、盗人は逃げていく。
一方、真吾はもうひとりの盗人を追い詰めていた。
追跡を察知したホブゴブリンのマスクの男は、焼き菓子の屋台を強引に乗り越えて逃げようとする。
その尻に、真吾のアルケミストデバイスが押しつけられた。
『悪い子お仕置き!』
電撃にもんどりうつ盗人を抑えつけると、真吾は駆けつけた市警備隊員へその身柄を引き渡す。
『もうひとりは?』
「あんたの相棒をのして逃げちまった。
けど、彼が気を逸らしてくれたお蔭で尾行をつけられたよ。行き先は分かる」
『……カイを頼むぜ』
ウサギ怪人は、屋台店主の拍手に見送られつつ去っていく。
●
こちらは宿場通り。観光客や宿屋の使いが、大きな荷物を抱えて歩いている。
片側2車線の車道のあちこちに馬車や自動車が停まり、客と荷物を歩道へ吐き出していく。そんな中、
「あら、ホテルのボーイも仮装してるの?」
「違うっす! ただの通りすがりの親切な紳士っすよ」
神楽(ka2032)が、いそいそと見知らぬ女性の荷物を運ぼうとする。
「それなぁに? 水風船みたいだけど」
「あっ触っちゃダメっす! 破れやすいんで」
「邪魔だよ! どいてどいて」
本物の宿屋の人間に追い払われ、つまらなそうな顔で踵を返す神楽。
腹減ったなぁ、などと呟きつつ、通りの向かいへ目をやると、
(お、美人発見! ……なんだ姫乃さんか)
早足で歩いていた紅鬼 姫乃(ka2472)へ、車道越しに手など振ってみる。
姫乃の仮装は吸血鬼……いや、獣の耳が生えている辺り、狼女だろうか?
姫乃は神楽に気づくと、彼の背後を指さした。
(うん?)
振り返った先には昆虫マスクの大男。その手には、女物の派手なハンドバッグ。
引ったくりと見るや、神楽は男の顔面に水風船を投げつけた。
「良い匂いだろ、こうなりゃ100メートル離れたって匂いで分かるっすよ!」
男が慌ててマスクを取り払う。間違いない、マイヤーズ一味だ。
「ガオー! 食べちゃうぞっす~!」
神楽の身振りに相手が怯むなり、踏み込んで、剣の柄頭で鳩尾を突いた。
反撃の大振りなパンチをかわし、剣を抜いて両膝を1発ずつ殴打する。たまらず倒れる大男。
「安心せい峰打ちじゃ……っす」
振り向けば、先程ナンパした女性が驚いた顔でこちらを見ていた。
神楽は得意げな顔でぐっ、と親指を立ててみせる。
姫乃の鞭が、もうひとりの引ったくりの足に絡んで転ばせる。
「抵抗するなら、手足の2、3本折って差し上げてもよろしくてよ?」
引ったくりは聞かず、起き上がるなり一目散に車道へ逃げ込んだ。
(まぁ、脚の速いこと)
引ったくりは走る馬車や自動車の間を縫って、反対側の通りへ行こうとする。
ところが行く手には、停まった馬車の屋根を越えてくるカーミン・S・フィールズ(ka1559)の姿。
追っ手の仲間と勘づいて、ちょうど走ってきた馬車の側面に飛びついた。
急ぎの車らしくスピードが乗っている。これなら逃げきれる――
「ハァイ♪」
見れば、走る馬車の天蓋からカーミンが引ったくりを見下ろしている。
慌てて反対車線を走る車へすれ違いざまに飛び移るが、カーミンは彼以上の身のこなしでなおも追ってきた。
たまらず地面に降りた引ったくりを、今度は姫乃が待ち受ける。
思わず後退る引ったくりの背中に、カーミンの膝蹴りが刺さった。路上へ倒れる引ったくり。
「危ないわねぇ、悪い子が真似するじゃない……私みたいに」
「少しばかり血の気を抜いてあげたら良いかしら?」
ふたりに取り押さえられる引ったくりの顔は、心なしか嬉しそうに見えた。
●
本祭会場。あちこちに足場が組まれ、その下には資材が山積みになっている。
作業員たちは、夕食前に仕事をひと段落させようと忙しい。
そんな中、スーツ姿の男が、足場の上を歩いている内にペンキの缶を蹴落としてしまった。
下に立っていた血塗れのデスマスクの男が、咄嗟に飛び退いて缶をかわす。
「申し訳ございません! お怪我はありませんか?」
スーツの男が降りてきて、デスマスクに頭を下げた。
デスマスクの履いたブーツの爪先には、ペンキの滴がひとつ落ちている。
「いや……大丈夫だ。今度から気ぃつけな」
「お召し物が汚れてらっしゃいます。拭いて差し上げますので、こちらへ」
スーツの男――宮前 怜(ka3256)は、
申し出を固辞しようとする相手をどうにか資材用テントの中へ押しやった。
「そちらの椅子に座って頂けますか」
渋々座るデスマスクへ、後ろから近づく怜。手にしたタオルを相手の頭に被せて視界を塞ごうとするが、
「この稼業も長いからな。カタギでない奴は匂いで分かるのよ」
デスマスクの右肘が、飛び退る怜の鼻先を掠めた。
デスマスクは椅子を蹴って立ち上がると、左肩を揺すりつつ構えを取る。
「失礼な野郎だな。俺はソサエティに登録された、れっきとしたハンターだ」
怜の言葉に、デスマスクの下の眼がぎらり、と光る。
「ハンター? そんなら……手加減はいらねぇな」
マイヤーズらしき人物を発見。
警備隊員経由で連絡を受けたザレム・アズール(ka0878)は、怜が一味を誘い込む予定のテントへ急いでいた。
また、屋台通りから逃げおおせた別の手下が、この本祭会場を目指して移動中らしい。
そちらの相手は単独行動の火々弥(ka3260)が引き受けた。
だがマイヤーズを捕らえねば、手下を何人捕まえたところでいずれ同じような一味を復活させかねない。
テントの前に到着すると、ちょうど中から激しく争うような物音が聴こえてきた。
中へ入れば、
「ザレム……こいつ、かなりの手練れだ。こいつがマイヤーズで間違いない……」
怜が木箱の山に寄りかかり苦しげに息を吐く。その口の端から、血が一筋垂れていた。
周囲に散乱する倒れた板材やロープを見て、
彼があらゆる道具を使い、どうにか敵を足止めしてくれたのだと分かった。
そして彼の前に立つデスマスクの男――マイヤーズ。
「お仲間のハンターかい」
「そういうことだ。2対1だが、あんたは俺たちの先輩に当たるんだからな。
多少ハンデがあっても、こそこそ逃げ回ったりはしないだろう。違うか?」
マイヤーズは鼻で笑い、左肩を揺する――
恐ろしく動きの速い男だった。
ザレムに向かって一気に間合いを縮めると、鋭いハイキックを放つ。
運動強化のかかったザレムでも回避が間に合わない。腕を上げて頭を庇った。
(防御障壁……!)
マテリアルの防護壁が砕け散り、凄まじい衝撃が腕に伝わる。
(折れただと!? ……この男、なんて力だ!)
腕に激しい痛みを覚えつつも、ザレムは素早く相手の右手へ回った。
ローキックで軸足を刈り、マイヤーズを転倒させる。
受け身を取って起きようとするマイヤーズの頭を、怜が駆け寄って蹴り上げた。
マイヤーズはその脚を捉え、怜を転がして資材に叩きつける。
「ぐぅっ!?」
「怜! ……貴様!」
飛び込んだザレムの腹に、マイヤーズの膝がめり込む。
ザレムの身体から、負荷を受けた防御障壁が煌めきながらガラスのように割れ落ちた。
どうにか攻撃を耐えきり、間合いを取り直すザレム。互いにまっすぐ向き合うと、マイヤーズが言う。
「このくそったれの左肩のせいで俺は鎧が着られない。剣もダメだ。
だがよ、技さえ錆びつかせずにいれば……手前らみたいなひよっこハンターにゃ負けはしねぇんだ!」
今度はこちらから仕掛けようと、ザレムが踏み出したその瞬間。
マイヤーズの背後の横幕がめくれて、大汗をかいた男がひとり顔を出した。
屋台通りから逃げてきたマイヤーズの手下だろう。
「ボス! 手入れです! 警備の連中、ハンターを雇いやがった」
「道理で皆、予定の時間に戻らねぇと思った。そんなら――」
敵討だ、とマイヤーズが強烈な足技を放つ。瞬速の連蹴りを食らい、ザレムはその場にダウンした。
(まずい……!)
「おぬしらの狼藉も、そこまでじゃ!」
突然、マイヤーズと手下の顔面に何かの粉末がぶちまけられる。
火々弥の握っていた胡椒が目に入り、ふたり共に手で顔を覆う。
そうしてザレムへの追撃を阻止すると、火々弥は得物の鉄扇を手下の肩口目がけて振り下ろした。
(ぬぅ!? こやつ……子分を庇いよるか)
マイヤーズは鉄扇を十字に組んだ両腕で受け止めると、前蹴りで反撃する。
「ふっ」
火々弥はブーツの底で腹を強く蹴られ、後ろへ転がった。
「……強いのう。じゃが」
受け身を取り、起き上がって再度飛びかかる。
マイヤーズの回し蹴りを掻い潜り、脇腹を鉄扇でまともに殴った。
呻き声を上げるマイヤーズ。疲労と脇腹の痛みで、彼の動きが鈍ってきた。
「無頼に堕ちたおぬしの気の乱れ、その身体に表れておるぞ!」
チャンスと見て追いすがるも、
「このアマ!」
手下のパンチが脇から飛んできて、火々弥のこめかみを強く打った。火々弥の視界が暗転する。
●
「今は他の連中も助けようがねぇ。俺たちだけでも逃げて、体勢を立て直すんだ。
街の外へは手配が回ってて出られねぇだろうから、ここは分かれて、ポイントCで落ち合うぞ」
マイヤーズから指示を受けた手下は、会場裏手の暗い通りを走っていた。
ポイントCは倉庫街に用意された隠れ家のひとつ。
食料等の備蓄があり、逃げ込められれば数日は籠って捜査をやり過ごせるだろう。
この辺りは街灯も少ない。近くの茂みに隠れれば、逃走のチャンスは大きくなる。
ふらり、と人影が現れ、彼の行く手を阻んだ。
灯りがなくて顔が見えなかったが、その背格好には見覚えがあった。
「さぁ、もう1ラウンド行ってみようか」
カイは両の拳を胸の前で打ち合わせると、
屋台通りで自分をノックアウトした男へ、すり足で近づいていく。
●
マイヤーズは手下の逃走の邪魔にならぬよう、敢えて人目の多い場所を目指した。
マスクも捨てて、無精髭に覆われた素顔を晒す。
警備員たちは自分を恐れて手出ししてこない。残りのハンターだけが本当の敵だ。
ひとりずつ誘って返り討ちにし、逃げる。
途中でハンターから衣服を奪い、新しい仮装をしても良い。問題は、何処まで体力がもつかだった。
先の格闘で上がった息をどうにか正常に戻そうとしながら、
マイヤーズはいくつかのテントを潜り抜け、建築中の仮設ステージへ足を踏み入れる――
「あーら、折角のお祭りなのに難しい顔しちゃって」
「でも、思ったよりハンサムですわよ?」
「ここにこいつがいるってことは……そういうことっすよね」
『ああ。格闘技の達人って話は本当だったようだが……もうお終いだ』
マイヤーズの眼を、照明用魔法装置の眩いライトが焼く。
逆光の中に立つ4人の影。屋台通りと宿場通りの仕事を終え、応援に駆けつけたハンターたちだった。
「……へっ。成る程こりゃお祭りだ。折角だしな、ひとつ派手にやるか」
マイヤーズは覚悟を決め、4人へ猛然と向かっていった。
●
「どうした兄ちゃん、またへばっちまいそうだぜ」
「抜かせ……!」
パンチをもらいながらも、カイは懸命に相手へ追いすがった。
疲労で鈍った彼のコンビネーションを、マイヤーズの手下は難なく受け流していく。
「ハンターったってそんなもんか? なら、俺が盗人辞めてそっちに転職してやろうか」
せせら笑う手下にカイがクリンチするような素振りをした。半歩下がる手下。
その脚へ、渾身のローキックが決まる。
痛みによろめく手下へ追撃を加えようとするカイだったが、完全に息が上がってしまって動けない。
手下が立ち直り、再びカイに殴りかかろうとすると、
「残念、ちと間に合わなかったのう」
上げかけたその腕を、出し抜けに現れた鉄扇がそっと押さえた。
鉄扇を差し出しながら、いつの間にか駆けつけていた火々弥がにやりと笑う。更に、
「こっちはもう3人いるが、まだやるか?」
「いや――TKOだ」
ザレムと怜が、後ろから手下を掴んで引き倒す。
そうして最後の手下も取り押さえられた。残るはマイヤーズただひとり。
●
マイヤーズはハンター4人を同時に相手取りながら、死力を尽くして抵抗を続けていた。
神楽が肘打ちを食らって倒れる。彼を守るように、カーミンと真吾が割って入った。
「おかしいっす。このオッサン強過ぎっす」
「神楽は無理しないで。さっきひとりで泥棒を捕まえたばっかでしょ」
『その腕なら、他にも食う道はあったろうに。
喧嘩自慢の泥棒稼業は誇らしいか? 昔の自分に……恥じはしないか』
「手前らに何が分かる! 覚醒者の若僧どもに俺の何が」
「ごめんなさい。仰る通り分かりませんわ」
吠えるマイヤーズの脇腹を、姫乃が鞭の柄で打った。
マイヤーズはゆっくりと振り返り、そして膝をつく。
火々弥と姫乃に打たれた脇腹のダメージが決め手となり、遂に彼の気力も尽きた。
苦痛と疲労に激しく息を吐き、俯いた顔からは大粒の汗が垂れる。
手下を捕らえたばかりの他の4人も、その場に集まってきた。ザレムが言う。
「あんたの負けだ。これからあんたは、手下どもと一緒に牢に入れられる。
だが、人殺しをしてないのならいつかは出られるだろう。
そのときはハンターオフィスを訪ねて、俺たちの名前を出せば良い。
ハンターでなくたって、オフィスには仕事が色々あるのさ」
「そうそう、そっちのがヤクザな仕事より安定して稼げるしモテるってもんっすよ?」
「あんただって……本当は分かってるでしょうに」
マイヤーズはぐったりとした様子のまま、投げかけられる言葉に返事もせず、目を閉じる。
作業員たちが夕食に向かい、今は静まり返った本祭会場。街中の楽しげな声々が、風に乗って聴こえてきた。
夕刻、屋台通りの人混みに紛れたひとりの純朴そうな青年。
財布を剥き出しで持ち歩き、いかにも不用心だ。早速盗人が近づいて、後ろから手を――
「おっと」
財布の持ち主、トウゴウ・カイ(ka3322)は、まんまと囮にかかったゴブリンマスクを振り返った。
カイの眼に何かを感じ取った相手は、咄嗟に後退りをする。
『ちこくちこく~!』
陣羽織を着込んだウサギ怪人が、横合いから走り来る。仮装した鳴神 真吾(ka2626)だ。
彼の狙いは、カイが行き当たった盗人の近くに控えていた他の仲間。
カイは真吾がそちらを追うのを横目で見つつ、目の前の相手に集中した。
互いに構えを取り――
(こいつ、ボクシングの心得があるみたいだな)
異変に気づいた人混みが割れて、即席の小さなリングとなる。
ジャブで間合いを測りつつ、ワン、ツー。相手は前腕の外側でそれを受け止めた。
更に前へ出て、左でフェイントをかけつつ、右フックを相手の腹に叩き込む。
良い手応えだった――が倒しきれない。
すぐさま反撃が飛んできて、顎へ強烈な右ストレートを食らってしまった。
倒れたカイが周囲の人々に介抱されている間に、盗人は逃げていく。
一方、真吾はもうひとりの盗人を追い詰めていた。
追跡を察知したホブゴブリンのマスクの男は、焼き菓子の屋台を強引に乗り越えて逃げようとする。
その尻に、真吾のアルケミストデバイスが押しつけられた。
『悪い子お仕置き!』
電撃にもんどりうつ盗人を抑えつけると、真吾は駆けつけた市警備隊員へその身柄を引き渡す。
『もうひとりは?』
「あんたの相棒をのして逃げちまった。
けど、彼が気を逸らしてくれたお蔭で尾行をつけられたよ。行き先は分かる」
『……カイを頼むぜ』
ウサギ怪人は、屋台店主の拍手に見送られつつ去っていく。
●
こちらは宿場通り。観光客や宿屋の使いが、大きな荷物を抱えて歩いている。
片側2車線の車道のあちこちに馬車や自動車が停まり、客と荷物を歩道へ吐き出していく。そんな中、
「あら、ホテルのボーイも仮装してるの?」
「違うっす! ただの通りすがりの親切な紳士っすよ」
神楽(ka2032)が、いそいそと見知らぬ女性の荷物を運ぼうとする。
「それなぁに? 水風船みたいだけど」
「あっ触っちゃダメっす! 破れやすいんで」
「邪魔だよ! どいてどいて」
本物の宿屋の人間に追い払われ、つまらなそうな顔で踵を返す神楽。
腹減ったなぁ、などと呟きつつ、通りの向かいへ目をやると、
(お、美人発見! ……なんだ姫乃さんか)
早足で歩いていた紅鬼 姫乃(ka2472)へ、車道越しに手など振ってみる。
姫乃の仮装は吸血鬼……いや、獣の耳が生えている辺り、狼女だろうか?
姫乃は神楽に気づくと、彼の背後を指さした。
(うん?)
振り返った先には昆虫マスクの大男。その手には、女物の派手なハンドバッグ。
引ったくりと見るや、神楽は男の顔面に水風船を投げつけた。
「良い匂いだろ、こうなりゃ100メートル離れたって匂いで分かるっすよ!」
男が慌ててマスクを取り払う。間違いない、マイヤーズ一味だ。
「ガオー! 食べちゃうぞっす~!」
神楽の身振りに相手が怯むなり、踏み込んで、剣の柄頭で鳩尾を突いた。
反撃の大振りなパンチをかわし、剣を抜いて両膝を1発ずつ殴打する。たまらず倒れる大男。
「安心せい峰打ちじゃ……っす」
振り向けば、先程ナンパした女性が驚いた顔でこちらを見ていた。
神楽は得意げな顔でぐっ、と親指を立ててみせる。
姫乃の鞭が、もうひとりの引ったくりの足に絡んで転ばせる。
「抵抗するなら、手足の2、3本折って差し上げてもよろしくてよ?」
引ったくりは聞かず、起き上がるなり一目散に車道へ逃げ込んだ。
(まぁ、脚の速いこと)
引ったくりは走る馬車や自動車の間を縫って、反対側の通りへ行こうとする。
ところが行く手には、停まった馬車の屋根を越えてくるカーミン・S・フィールズ(ka1559)の姿。
追っ手の仲間と勘づいて、ちょうど走ってきた馬車の側面に飛びついた。
急ぎの車らしくスピードが乗っている。これなら逃げきれる――
「ハァイ♪」
見れば、走る馬車の天蓋からカーミンが引ったくりを見下ろしている。
慌てて反対車線を走る車へすれ違いざまに飛び移るが、カーミンは彼以上の身のこなしでなおも追ってきた。
たまらず地面に降りた引ったくりを、今度は姫乃が待ち受ける。
思わず後退る引ったくりの背中に、カーミンの膝蹴りが刺さった。路上へ倒れる引ったくり。
「危ないわねぇ、悪い子が真似するじゃない……私みたいに」
「少しばかり血の気を抜いてあげたら良いかしら?」
ふたりに取り押さえられる引ったくりの顔は、心なしか嬉しそうに見えた。
●
本祭会場。あちこちに足場が組まれ、その下には資材が山積みになっている。
作業員たちは、夕食前に仕事をひと段落させようと忙しい。
そんな中、スーツ姿の男が、足場の上を歩いている内にペンキの缶を蹴落としてしまった。
下に立っていた血塗れのデスマスクの男が、咄嗟に飛び退いて缶をかわす。
「申し訳ございません! お怪我はありませんか?」
スーツの男が降りてきて、デスマスクに頭を下げた。
デスマスクの履いたブーツの爪先には、ペンキの滴がひとつ落ちている。
「いや……大丈夫だ。今度から気ぃつけな」
「お召し物が汚れてらっしゃいます。拭いて差し上げますので、こちらへ」
スーツの男――宮前 怜(ka3256)は、
申し出を固辞しようとする相手をどうにか資材用テントの中へ押しやった。
「そちらの椅子に座って頂けますか」
渋々座るデスマスクへ、後ろから近づく怜。手にしたタオルを相手の頭に被せて視界を塞ごうとするが、
「この稼業も長いからな。カタギでない奴は匂いで分かるのよ」
デスマスクの右肘が、飛び退る怜の鼻先を掠めた。
デスマスクは椅子を蹴って立ち上がると、左肩を揺すりつつ構えを取る。
「失礼な野郎だな。俺はソサエティに登録された、れっきとしたハンターだ」
怜の言葉に、デスマスクの下の眼がぎらり、と光る。
「ハンター? そんなら……手加減はいらねぇな」
マイヤーズらしき人物を発見。
警備隊員経由で連絡を受けたザレム・アズール(ka0878)は、怜が一味を誘い込む予定のテントへ急いでいた。
また、屋台通りから逃げおおせた別の手下が、この本祭会場を目指して移動中らしい。
そちらの相手は単独行動の火々弥(ka3260)が引き受けた。
だがマイヤーズを捕らえねば、手下を何人捕まえたところでいずれ同じような一味を復活させかねない。
テントの前に到着すると、ちょうど中から激しく争うような物音が聴こえてきた。
中へ入れば、
「ザレム……こいつ、かなりの手練れだ。こいつがマイヤーズで間違いない……」
怜が木箱の山に寄りかかり苦しげに息を吐く。その口の端から、血が一筋垂れていた。
周囲に散乱する倒れた板材やロープを見て、
彼があらゆる道具を使い、どうにか敵を足止めしてくれたのだと分かった。
そして彼の前に立つデスマスクの男――マイヤーズ。
「お仲間のハンターかい」
「そういうことだ。2対1だが、あんたは俺たちの先輩に当たるんだからな。
多少ハンデがあっても、こそこそ逃げ回ったりはしないだろう。違うか?」
マイヤーズは鼻で笑い、左肩を揺する――
恐ろしく動きの速い男だった。
ザレムに向かって一気に間合いを縮めると、鋭いハイキックを放つ。
運動強化のかかったザレムでも回避が間に合わない。腕を上げて頭を庇った。
(防御障壁……!)
マテリアルの防護壁が砕け散り、凄まじい衝撃が腕に伝わる。
(折れただと!? ……この男、なんて力だ!)
腕に激しい痛みを覚えつつも、ザレムは素早く相手の右手へ回った。
ローキックで軸足を刈り、マイヤーズを転倒させる。
受け身を取って起きようとするマイヤーズの頭を、怜が駆け寄って蹴り上げた。
マイヤーズはその脚を捉え、怜を転がして資材に叩きつける。
「ぐぅっ!?」
「怜! ……貴様!」
飛び込んだザレムの腹に、マイヤーズの膝がめり込む。
ザレムの身体から、負荷を受けた防御障壁が煌めきながらガラスのように割れ落ちた。
どうにか攻撃を耐えきり、間合いを取り直すザレム。互いにまっすぐ向き合うと、マイヤーズが言う。
「このくそったれの左肩のせいで俺は鎧が着られない。剣もダメだ。
だがよ、技さえ錆びつかせずにいれば……手前らみたいなひよっこハンターにゃ負けはしねぇんだ!」
今度はこちらから仕掛けようと、ザレムが踏み出したその瞬間。
マイヤーズの背後の横幕がめくれて、大汗をかいた男がひとり顔を出した。
屋台通りから逃げてきたマイヤーズの手下だろう。
「ボス! 手入れです! 警備の連中、ハンターを雇いやがった」
「道理で皆、予定の時間に戻らねぇと思った。そんなら――」
敵討だ、とマイヤーズが強烈な足技を放つ。瞬速の連蹴りを食らい、ザレムはその場にダウンした。
(まずい……!)
「おぬしらの狼藉も、そこまでじゃ!」
突然、マイヤーズと手下の顔面に何かの粉末がぶちまけられる。
火々弥の握っていた胡椒が目に入り、ふたり共に手で顔を覆う。
そうしてザレムへの追撃を阻止すると、火々弥は得物の鉄扇を手下の肩口目がけて振り下ろした。
(ぬぅ!? こやつ……子分を庇いよるか)
マイヤーズは鉄扇を十字に組んだ両腕で受け止めると、前蹴りで反撃する。
「ふっ」
火々弥はブーツの底で腹を強く蹴られ、後ろへ転がった。
「……強いのう。じゃが」
受け身を取り、起き上がって再度飛びかかる。
マイヤーズの回し蹴りを掻い潜り、脇腹を鉄扇でまともに殴った。
呻き声を上げるマイヤーズ。疲労と脇腹の痛みで、彼の動きが鈍ってきた。
「無頼に堕ちたおぬしの気の乱れ、その身体に表れておるぞ!」
チャンスと見て追いすがるも、
「このアマ!」
手下のパンチが脇から飛んできて、火々弥のこめかみを強く打った。火々弥の視界が暗転する。
●
「今は他の連中も助けようがねぇ。俺たちだけでも逃げて、体勢を立て直すんだ。
街の外へは手配が回ってて出られねぇだろうから、ここは分かれて、ポイントCで落ち合うぞ」
マイヤーズから指示を受けた手下は、会場裏手の暗い通りを走っていた。
ポイントCは倉庫街に用意された隠れ家のひとつ。
食料等の備蓄があり、逃げ込められれば数日は籠って捜査をやり過ごせるだろう。
この辺りは街灯も少ない。近くの茂みに隠れれば、逃走のチャンスは大きくなる。
ふらり、と人影が現れ、彼の行く手を阻んだ。
灯りがなくて顔が見えなかったが、その背格好には見覚えがあった。
「さぁ、もう1ラウンド行ってみようか」
カイは両の拳を胸の前で打ち合わせると、
屋台通りで自分をノックアウトした男へ、すり足で近づいていく。
●
マイヤーズは手下の逃走の邪魔にならぬよう、敢えて人目の多い場所を目指した。
マスクも捨てて、無精髭に覆われた素顔を晒す。
警備員たちは自分を恐れて手出ししてこない。残りのハンターだけが本当の敵だ。
ひとりずつ誘って返り討ちにし、逃げる。
途中でハンターから衣服を奪い、新しい仮装をしても良い。問題は、何処まで体力がもつかだった。
先の格闘で上がった息をどうにか正常に戻そうとしながら、
マイヤーズはいくつかのテントを潜り抜け、建築中の仮設ステージへ足を踏み入れる――
「あーら、折角のお祭りなのに難しい顔しちゃって」
「でも、思ったよりハンサムですわよ?」
「ここにこいつがいるってことは……そういうことっすよね」
『ああ。格闘技の達人って話は本当だったようだが……もうお終いだ』
マイヤーズの眼を、照明用魔法装置の眩いライトが焼く。
逆光の中に立つ4人の影。屋台通りと宿場通りの仕事を終え、応援に駆けつけたハンターたちだった。
「……へっ。成る程こりゃお祭りだ。折角だしな、ひとつ派手にやるか」
マイヤーズは覚悟を決め、4人へ猛然と向かっていった。
●
「どうした兄ちゃん、またへばっちまいそうだぜ」
「抜かせ……!」
パンチをもらいながらも、カイは懸命に相手へ追いすがった。
疲労で鈍った彼のコンビネーションを、マイヤーズの手下は難なく受け流していく。
「ハンターったってそんなもんか? なら、俺が盗人辞めてそっちに転職してやろうか」
せせら笑う手下にカイがクリンチするような素振りをした。半歩下がる手下。
その脚へ、渾身のローキックが決まる。
痛みによろめく手下へ追撃を加えようとするカイだったが、完全に息が上がってしまって動けない。
手下が立ち直り、再びカイに殴りかかろうとすると、
「残念、ちと間に合わなかったのう」
上げかけたその腕を、出し抜けに現れた鉄扇がそっと押さえた。
鉄扇を差し出しながら、いつの間にか駆けつけていた火々弥がにやりと笑う。更に、
「こっちはもう3人いるが、まだやるか?」
「いや――TKOだ」
ザレムと怜が、後ろから手下を掴んで引き倒す。
そうして最後の手下も取り押さえられた。残るはマイヤーズただひとり。
●
マイヤーズはハンター4人を同時に相手取りながら、死力を尽くして抵抗を続けていた。
神楽が肘打ちを食らって倒れる。彼を守るように、カーミンと真吾が割って入った。
「おかしいっす。このオッサン強過ぎっす」
「神楽は無理しないで。さっきひとりで泥棒を捕まえたばっかでしょ」
『その腕なら、他にも食う道はあったろうに。
喧嘩自慢の泥棒稼業は誇らしいか? 昔の自分に……恥じはしないか』
「手前らに何が分かる! 覚醒者の若僧どもに俺の何が」
「ごめんなさい。仰る通り分かりませんわ」
吠えるマイヤーズの脇腹を、姫乃が鞭の柄で打った。
マイヤーズはゆっくりと振り返り、そして膝をつく。
火々弥と姫乃に打たれた脇腹のダメージが決め手となり、遂に彼の気力も尽きた。
苦痛と疲労に激しく息を吐き、俯いた顔からは大粒の汗が垂れる。
手下を捕らえたばかりの他の4人も、その場に集まってきた。ザレムが言う。
「あんたの負けだ。これからあんたは、手下どもと一緒に牢に入れられる。
だが、人殺しをしてないのならいつかは出られるだろう。
そのときはハンターオフィスを訪ねて、俺たちの名前を出せば良い。
ハンターでなくたって、オフィスには仕事が色々あるのさ」
「そうそう、そっちのがヤクザな仕事より安定して稼げるしモテるってもんっすよ?」
「あんただって……本当は分かってるでしょうに」
マイヤーズはぐったりとした様子のまま、投げかけられる言葉に返事もせず、目を閉じる。
作業員たちが夕食に向かい、今は静まり返った本祭会場。街中の楽しげな声々が、風に乗って聴こえてきた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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祭の中の捕り物 火々弥(ka3260) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/10/11 22:33:55 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/11 14:47:41 |