ゲスト
(ka0000)
【幻洞】マテリアル鉱採掘実験
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/01/18 19:00
- 完成日
- 2017/01/27 12:35
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●地下に蠢くもの
光の届かない地下。時折地鳴りのような音がして、周囲が揺れる。
派手な仮面をつけた……女性だろうか。大きな椅子に気怠げに座り、蝶の飾りのついたキセルをゆらゆらと揺らす。
「まったく……アレも進路がハッキリしないねえ」
「え。アレって姐さんが使役してんじゃないんです?」
「してるよ? してるけど私の高度な命令聞けるような脳味噌持ってないみたいでねぇ」
「あー。ワシらと違って低知能でおますなー」
「あんた達だって大して変わらないよ! ……あ。また動き出したね。あんた達、追うよ!」
「「アイアイサー!!」」
女性の号令に、ビシッと敬礼を返すノッポのモグラと太ったモグラ。
1人と2匹は、暗い地下道へと消えていく。
●開拓地ホープでは
「……マテリアル鉱の採掘?」
「はい。何でも鉱物性マテリアルの供給が追い付かないそうで……帝国の助力を得て、大規模な採掘が出来るようにしていくそうです。部族会議大首長の耳にも入れておいた方がいいだろうって、カペラさんが」
開拓地ホープ。イェルズ・オイマト(kz0143)の報告に書類から顔を上げるバタルトゥ・オイマト(kz0023)。
ドワーフ工房を事実上取り仕切るカペラ(kz0064)からの手紙を渡され、目を落とす。
ノアーラ・クンタウの地下にある地下坑道の採掘の効率化を図る為の経緯と現状がまとめられたそれを熟読していたバタルトゥは、ふと補佐役に目線を戻す。
「……事情は理解した。……カペラに、情報共有の礼と……助力出来ることがあれば協力する旨を伝えて貰えるか?」
「分かりました! 族長の名前で手紙出しておきますね! あ、ついでにカペラさんをお食事にお誘いしておきましょうか?」
「……余計なことは書かなくていい……」
「はーい」
素直に返事をしつつもどこか残念そうなイェルズ。
バタルトゥはため息をつくと、再び書類の処理に戻る。
●マテリアル鉱採掘実験
「……と言う訳でね、皆にはユニットで地下に潜って貰って、マテリアル鉱が採掘できるか実験して欲しいの」
「……それって言うのは、俺達の自前のユニットを持ち込んで……ということだよな?」
「ええと……。一応魔導アーマーを貸し出せないこともないんだけど……」
ハンターの問いに、鮮やかな金色の髪を揺らして言葉を濁すカペラ。
その表情は何だかとても疲れていて……ハンター達の間に微妙な空気が流れる。
――本来であれば、帝国から貸与された魔導アーマーを使って、採掘実験を行う予定だった。
いや、この計画自体には変更がない。しいて言うなれば、魔導アーマーが変わってしまったというか……。
採掘場に魔導アーマーを導入する体制整備を整え、あとは実験するだけ……という段になって、その貸与された魔導アーマーがすさまじい変貌を遂げる事態に陥ったのだ。
何故かって、そりゃあ……ヨアキムが、何を思ったのか魔導アーマーを改造してしまったので。
帝国より『くれぐれも壊さないように』と念を押されて貸与された魔導アーマー。
『壊してない』というのが最早詭弁レベルの改造である。
彼女が体制整備の為に奔走していたことを考えても……その心労は察して余りある。
「あの……カペラさん。元気出してください」
「うん。ありがとう。大丈夫。折角皆に協力してもらうんだもの、頑張らないとね!」
笑顔を見せるカペラ。
父親がアレだというのに、何という健気さか……!
熱くなる目頭をそっと押さえるハンター達。
そうしている間も、カペラの説明が続く。
「えっと、実験してもらう場所はヴェドルの更に地下にある採掘場よ。ユニットが入れるように広くしてあるから、持ち込みに関しては心配しなくて大丈夫」
「持ち込むユニットって何でもいいのか?」
「ええ。魔導アーマーはもちろん、デュミナスとかドミニオンでもいいわよ。Gnomeもギリギリ入る……かな?」
「ヨアキムさんが改造されたという魔導アーマーは使ってもいいの?」
「希望者がいれば貸すことはできるわよ。ただ、パパが変なパーツくっつけちゃってるけどね……」
「変なパーツって?」
「うちの採掘担当がたまに拾ってくる謎の赤いパーツなの。材質も分からないけど、とにかく丈夫で」
「何で出来てるのか分からないっていうのが激しく不安だな……」
「ユニットは幻獣でもいいんですか?」
「えっ? うん。イェジド達でどれだけ掘れるか分からないけど、まあ実験だから。……馬車とかトラックは採掘できるとはちょっと思えないけど」
「それは採掘より搬出用かな。どっちかと言えば」
「今回はあくまでも採掘実験だから、搬出までは考えなくていいわよ。それから……」
言いかけたカペラ。不意に揺れる地面。
ゴゴゴゴゴ……という地鳴りが聞こえて、ハンター達が身構える。
「何だ!? 地震か!?」
「何かその割に揺れ方おかしい気がしますけど……」
「……今注意しようと思ったんだけど、最近時々こうやって地鳴りがして地震があるの。大抵すぐ止まるんだけどね。実験に当たる時はこれにも注意してね」
「了解」
頷くハンター達。どのユニットを持ち込もうかと考えながら、採掘実験の準備を開始した。
光の届かない地下。時折地鳴りのような音がして、周囲が揺れる。
派手な仮面をつけた……女性だろうか。大きな椅子に気怠げに座り、蝶の飾りのついたキセルをゆらゆらと揺らす。
「まったく……アレも進路がハッキリしないねえ」
「え。アレって姐さんが使役してんじゃないんです?」
「してるよ? してるけど私の高度な命令聞けるような脳味噌持ってないみたいでねぇ」
「あー。ワシらと違って低知能でおますなー」
「あんた達だって大して変わらないよ! ……あ。また動き出したね。あんた達、追うよ!」
「「アイアイサー!!」」
女性の号令に、ビシッと敬礼を返すノッポのモグラと太ったモグラ。
1人と2匹は、暗い地下道へと消えていく。
●開拓地ホープでは
「……マテリアル鉱の採掘?」
「はい。何でも鉱物性マテリアルの供給が追い付かないそうで……帝国の助力を得て、大規模な採掘が出来るようにしていくそうです。部族会議大首長の耳にも入れておいた方がいいだろうって、カペラさんが」
開拓地ホープ。イェルズ・オイマト(kz0143)の報告に書類から顔を上げるバタルトゥ・オイマト(kz0023)。
ドワーフ工房を事実上取り仕切るカペラ(kz0064)からの手紙を渡され、目を落とす。
ノアーラ・クンタウの地下にある地下坑道の採掘の効率化を図る為の経緯と現状がまとめられたそれを熟読していたバタルトゥは、ふと補佐役に目線を戻す。
「……事情は理解した。……カペラに、情報共有の礼と……助力出来ることがあれば協力する旨を伝えて貰えるか?」
「分かりました! 族長の名前で手紙出しておきますね! あ、ついでにカペラさんをお食事にお誘いしておきましょうか?」
「……余計なことは書かなくていい……」
「はーい」
素直に返事をしつつもどこか残念そうなイェルズ。
バタルトゥはため息をつくと、再び書類の処理に戻る。
●マテリアル鉱採掘実験
「……と言う訳でね、皆にはユニットで地下に潜って貰って、マテリアル鉱が採掘できるか実験して欲しいの」
「……それって言うのは、俺達の自前のユニットを持ち込んで……ということだよな?」
「ええと……。一応魔導アーマーを貸し出せないこともないんだけど……」
ハンターの問いに、鮮やかな金色の髪を揺らして言葉を濁すカペラ。
その表情は何だかとても疲れていて……ハンター達の間に微妙な空気が流れる。
――本来であれば、帝国から貸与された魔導アーマーを使って、採掘実験を行う予定だった。
いや、この計画自体には変更がない。しいて言うなれば、魔導アーマーが変わってしまったというか……。
採掘場に魔導アーマーを導入する体制整備を整え、あとは実験するだけ……という段になって、その貸与された魔導アーマーがすさまじい変貌を遂げる事態に陥ったのだ。
何故かって、そりゃあ……ヨアキムが、何を思ったのか魔導アーマーを改造してしまったので。
帝国より『くれぐれも壊さないように』と念を押されて貸与された魔導アーマー。
『壊してない』というのが最早詭弁レベルの改造である。
彼女が体制整備の為に奔走していたことを考えても……その心労は察して余りある。
「あの……カペラさん。元気出してください」
「うん。ありがとう。大丈夫。折角皆に協力してもらうんだもの、頑張らないとね!」
笑顔を見せるカペラ。
父親がアレだというのに、何という健気さか……!
熱くなる目頭をそっと押さえるハンター達。
そうしている間も、カペラの説明が続く。
「えっと、実験してもらう場所はヴェドルの更に地下にある採掘場よ。ユニットが入れるように広くしてあるから、持ち込みに関しては心配しなくて大丈夫」
「持ち込むユニットって何でもいいのか?」
「ええ。魔導アーマーはもちろん、デュミナスとかドミニオンでもいいわよ。Gnomeもギリギリ入る……かな?」
「ヨアキムさんが改造されたという魔導アーマーは使ってもいいの?」
「希望者がいれば貸すことはできるわよ。ただ、パパが変なパーツくっつけちゃってるけどね……」
「変なパーツって?」
「うちの採掘担当がたまに拾ってくる謎の赤いパーツなの。材質も分からないけど、とにかく丈夫で」
「何で出来てるのか分からないっていうのが激しく不安だな……」
「ユニットは幻獣でもいいんですか?」
「えっ? うん。イェジド達でどれだけ掘れるか分からないけど、まあ実験だから。……馬車とかトラックは採掘できるとはちょっと思えないけど」
「それは採掘より搬出用かな。どっちかと言えば」
「今回はあくまでも採掘実験だから、搬出までは考えなくていいわよ。それから……」
言いかけたカペラ。不意に揺れる地面。
ゴゴゴゴゴ……という地鳴りが聞こえて、ハンター達が身構える。
「何だ!? 地震か!?」
「何かその割に揺れ方おかしい気がしますけど……」
「……今注意しようと思ったんだけど、最近時々こうやって地鳴りがして地震があるの。大抵すぐ止まるんだけどね。実験に当たる時はこれにも注意してね」
「了解」
頷くハンター達。どのユニットを持ち込もうかと考えながら、採掘実験の準備を開始した。
リプレイ本文
「え、多脚機のテスト? やるやるやっちゃう! やー、こんな奴が開発されるのを今までずっと待ってたんだ」
「QSエンジンが見られると期待してたんだけど、ちょっと残念ねー。ま、仕方ないか。とりあえず、見せてもらおうじゃない。辺境カスタムとやらの性能を」
「ヨアキム王、これ……帝国から借りてるらしいけど大丈夫か……?」
様々なパーツを取り付けられた六脚の機体。ヨアキムが改造した『魔導アーマー辺境カスタム』を前に俄然やる気を見せる美亜・エルミナール(ka4055)とロベリア・李(ka4206)。
仙堂 紫苑(ka5953)のぼやきはやって来たユニットの駆動音にかき消される。
ハンター達が案内されたのは、ドワーフの地下城『ヴェドル』から少し離れた地下採掘場。
カペラが魔導アーマーの稼働実験をする為に手配したその場所は比較的広く、彼らのユニットも難無く持ち込むことが出来ていた。
「持ち込むユニットはこれで全部か?」
「ええ。皆が各自持ち込んだユニットが幻獣と魔導トラック含めて6機、お借りした魔導アーマー辺境カスタムが2機ね。ここが広いとはいえ、置く場所を考えないと……きゃあっ!?」
採掘場を見渡して言う瀬崎・統夜(ka5046)に頷くクレール・ディンセルフ(ka0586)。
彼女の声は不意に起きた揺れでかき消される。
短く、小刻みに揺れる地面。ミィナ・アレグトーリア(ka0317)は蒼銀の毛並みを持つイェジドにしがみついて眉根を寄せる。
「早速地震なのん……。何か変な揺れ方するのね」
「……火山が近くにある……なんてことは無いんですよね?」
「地形のデータも見せて貰ってるけど、火山はこの辺にはないよ。崩落と言った事故も起きてない。ああ、1回だけドワーフさんが調子に乗って掘り進んで、下の階まで突き抜けちゃって落ちたことはあるみたいだけど……」
地面をじっと見つめながら問うシリル・B・ライヘンベルガー(ka0025)に、借りて来た資料片手に答える岩井崎 メル(ka0520)。
まもなく止まった揺れ。シリルが腕を組んで考え込む。
「確かに火山性の地震はこういう揺れ方はしませんね」
「ドワーフ達が別の場所で作業していたにせよここまでは揺れないでしょうし」
「んー。そうね。地中で大規模に掘削すればこのくらい揺れるかもしれないけど……」
紫苑と美亜の呟きに沈黙を返す仲間達。
今までドワーフは手掘りで掘削作業を行っていた。今回、その効率を上げる為に初めて機材を持ち込んで実験をする訳で。
大規模な掘削など行えるはずもないのだが――。
「……何か、すごく嫌な予感がするですのん」
「その予感が当たらないことを祈るばかりだが……各自足元には十分気を付けて事を進めよう」
不安そうなミィナにため息を返す統夜。ロベリアが肩を竦める。
「気を付けるのは頭上もだわね。崩落してきて生き埋め、なんて笑えないわ」
「そうだね。安全を最優先に実験しよう」
「出来る限りデータを持って帰ろうね!」
クレールとメルの元気づけるような声に仲間達は頷くと、それぞれの持ち場について行動を開始する。
『魔導アーマー辺境カスタム』の試験稼働を前に、その装備を改めて確認したロベリアは思わず頭を抱えた。
とてもじゃないが、採掘できるとも思えない装備ばかりがついていたので。
「……何よこれ。盾はともかくなんでトゲが付いてるの!」
「カペラさんからの話によると、ヨアキム王が拾ったパーツくっつけたらこうなったらしいですねえ」
「この赤いパーツ、ものすごい頑丈らしいよね。何かに使えないかな」
「この機体には何で操縦席に冷蔵庫が付いてるのよ! 要らないでしょこれ!!」
「ああ、それは運転しながら酒が飲めるようにって考えたらしいですよ」
「面白い発想だけど飲酒運転はさすがにマズいんじゃないの……?」
「で、なあんで採掘用なのにバルカン砲があるの! 跳弾して危険でしょ! 何考えてんのよ!」
「それもヨアキム王が『爆発は男の浪漫』とか何とか言ってくっつけたと聞きましたよ」
「あはは! いいね男の浪漫! ビームとか出たりしないかなぁ」
のんびりとした紫苑の解説と美亜のズレたコメントに頭痛を覚えてこめかみを押さえる彼女。
こんな情報が得られたのもクレールとメルの事前調査のお陰ではあるが……ドワーフ王の思考は理解し難い。というか理解したくもない。
「はぁ。とにかく魔導ドリルに換装するから手伝って」
「了解です」
「えー。付け替えちゃうの? 何かもったいないな」
3人はそんな会話をしながらも、魔導アーマーの装備を外し始める。
「……ドワーフさんの坑道ってアリの巣みたいになってるのね」
「長年手掘りで掘り続けた結果、こういうことになったみたいね」
手元の地図に目を落とすメルとクレール。
彼女達が持っているのはカペラから借りた地下坑道の簡略図。
簡略図でこの状態となると、実際はもっと入り組んでいると思った方がいいだろう。
「今まではこれで大丈夫だったんだろうけど、今後は下のことも考えないといけないね」
「そうね。ユニットほど重量のある物体がこんな集中して地盤に負荷をかけること、なかったでしょうし……」
メルの言葉に頷くクレール。
今後採掘を進めて行くにあたって、地盤は頑丈なところを選ばなくては――。
今まではうっかり穴を空けて下の階とつながってしまっても、鉱夫達が転がり落ちるくらいで済んでいたが、魔導アーマーが落ちたとなっては各方面へのダメージは避けられない。
そういう不測の事態を避ける為にも、調査を積み重ねるに越したことはないのだ。
「それじゃ、採掘を開始するぞ」
漆黒に染められた魔導型デュミナスから聞こえる統夜の声。彼は慎重に魔導ドリルを構えると、岩盤に押し当てて掘削を開始する。
――本来、彼の愛機である『黒騎士』は戦闘用で、こういう作業には向いていない。
だからこそ、どこまで出来るのか。何が出来て何が出来ないのか……実証して確認する意味がある。
この機体で出来ることであれば、魔導アーマーなら難無くこなすことが出来るはずだ。
ドリルに感じる手応え。さすがはデュナミスのパワーだ。硬い岩盤も難無く切り崩せる。
隣で自機であるヘイムダル、『アイオーン』を駆使するシリル。統夜が掘り出した岩もまとめてショベルアームでどんどん後ろに送る。
「掘削自体は問題無さそうですね。人間サイズでは固い岩盤も、このサイズの魔導機械を使えば楽になるでしょうし」
「そうだな。作業が早くなる分、運び出しも平行して行えるようしないとならないが……」
「掘削と積み込みで役割分担と……外への搬送手段をトラックにしてしまえば、かなり効率上がるんじゃないでしょうか」
「ああ。ただ、そうなると導線の問題が出て来るな」
「導線、ですか?」
「搬送については、物資を持ち出すだけでなく、物資を運び入れることも必要だ。搬入、搬出のトラックが問題なく通れる手段を講じなければならんだろう」
「なるほど……。どういう手段を取るにせよ、坑道や採掘場は今までより広くなりますね。そうなると、坑道の壁や天井の補強も今まで以上にしっかり行う必要がありそうです。魔導アーマーやCAMが通る大きさの分だけ、それまであった岩盤の支えが消えてしまうわけですし」
「そうだな。鉄筋を通せれば一番いいが……足りなければ木材での支えというのも考えなくてはな」
「はい。合わせて足場の補強も必要ですね」
「支えが通せそうな、地盤がしっかりしているところを探すところから始めないとな」
「そうですね。提案としてまとめておきましょうか」
作業の手を止めぬまま、てきぱきと提案をまとめていく統夜とシリル。
その頃、クレールは『ヤタガラス』と名付けられた3本脚のヘイムダルの画面越しに、そしてミィナはイェジドのジジと一緒に岩盤を凝視していた。
「……ミィナさん、どう? ジジくん、マテリアル鉱の場所分かりそう?」
「うーん……。一生懸命探してくれてるみたいなんだけど芳しくないんー。クレールさんはどう?」
「ヴィジョンアイとアナライズデバイスでアタリつけられるかも! と思ったんだけど、岩の奥のマテリアルの反応までは見えないのかなー……」
むむむと唸る2人。そうしている間も、イェジドは岩盤をガリガリと爪で引っ掻くが、採掘するまでには至らない。
いくらイェジドの爪が硬いとはいえ、岩を掘り進めるのは難しいのかもしれない。
岩盤から目を離した2人。統夜とシリルが採掘した岩が沢山出ているのに気づいて、そちらに目線を映す。
「わう」
「ん? どうしたのん、ジジ。この石がどうかした?」
「わん」
「……あ! これ、マテリアル鉱なのん。ジジ、採掘した石なら見分けられるのん!」
「ヤタガラスのモニターからは分からないけど、アナライズデバイスにマテリアル鉱石の反応を覚えさせれば仕分けが出来るかも!!」
にっこりと微笑み合うミィナとクレール。
クレールはマテリアル鉱石を器用に拾うと、アナライズデバイスに情報の登録を試みて……ドキドキしながら装置を覗き込む彼女。複数ある石の中から、反応が返って来ているのを見てガッツポーズをする。
「これなら魔導アーマーに乗ったまま仕分けが出来る!」
呟き、その勢いのままヤタガラスに備え付けた荷台にひょいひょいと鉱石を入れて行くクレール。
魔導アーマーは、上手く採掘と運搬の折衷が出来るセッティングが出来るのが魅力だ。
生身だとこう簡単には上手く行くまい。
岩を拾っては、アナライズデバイスの画面に目を走らせる彼女。
残念ながらマテリアル反応の強弱までは分からないが……今は無理でも、他の技術を駆使すれば、石に含まれるマテリアル鉱石の大きさなどが分かるようになるかもしれない。
そうなれば、スキルトレースをして機導剣で溶断し、掘削の時点で精度の高いマテリアル鉱石を取り出す技術が生み出せそうだ。
まだ、可能性の話でしかないけれど。
今後の為にも、沢山鉱石を見て、データを収拾しなければ……!
ミィナもジジが選り分けたマテリアル鉱石をせっせと木箱に入れて行く。
「良かったのん。さすがマテリアルと仲良しな幻獣さんなのん。ちゃんと役に立つのん!」
嬉しそうなミィナに、尻尾を振るイェジド。
そしてメルは、クレールから渡される膨大な量のデータをものすごい勢いでレポートに落とし込んでいた。
渡されるデータは採掘できる量や魔導アーマーで一度に運べる鉱石の量に始まり、採掘した中にどれくらいマテリアル鉱が含まれているかなどの生産性に渡るものまで多岐に渡る。
実は彼女、今日はうっかり持ってくるはずだったユニットを忘れて来てしまったのだが、返って良かったのかもしれない。
仲良しで、後輩として可愛がっているクレール。彼女が一生懸命集めて来るデータを、こうして落とし込んで形にすることが出来る。
いつもはドジをやらかしては落ち込むけれど、今日は、今日こそは大正解だった……!
「メルさん、すみません。まとめて貰ってしまって……」
「いいのいいの! どんどんデータ渡して! ミィナ君もジジ君も気づいたことがあったら教えてね!」
「わかったのん!」
「わん!」
メルに元気に返事をするミィナとイェジド。
こうして実際に採掘して、石を切り出して、運び出して……と実際にやってみなければ気づかないことは沢山ある。
「……やっぱり煙くなってきたわね」
「何がー?」
「空気ですよ。ほら、粉塵が上がってるでしょ」
手で口を覆うロベリアに首を傾げる美亜。紫苑の指摘に、そういえば……と周囲を見渡す。
仲間達が採掘実験を始めた後、『魔導アーマー辺境カスタム』に魔導ドリルを取りつけて、稼働実験を始めた彼ら。
広い採掘場に粉塵が舞い上がり、白くなっているのを見てロベリアはやっぱりね……とため息をつく。
いくら採掘現場が広いとはいえ、多数の魔導アーマーが稼動する以上は作業環境にも考慮が必要になってくる筈だと考えていた。
作業機材で場所がとられるからにはそれだけ通気も悪くなるものだし、作業効率が上がるのに比例して粉塵も増えることになる。
そして魔導アーマーからはそれなりに排熱がある為、洞窟内の温度が上昇してくるのは避けられない。
このままの環境では、長時間の作業は難しい。
排熱と粉塵、ガス噴出に配慮した通気性の確保をしなければ……。
「スムーズな搬入出をする為には、通気口も出入り口を塞がない形にする必要があるわね。あとは水脈に当たった時の排水か……。紫苑、何かいい案ある?」
「そうですね。配管を巡らせるといいと思いますが、あまり色々つっくけるとそれだけ重くなるので……地盤を確保するついでに考えられるといいですね」
「そうね。他の子達が地盤の強化案を考えてくれてるみたいだし、それと突き合わせて考えるのがいいわね。あとはドワーフ用に魔導アーマーの操作マニュアルも作らないと……。美亜、どう? 『魔導アーマー辺境カスタム』の性能は」
「うん! なかなか面白いよこの子!」
魔導アーマーの上から、ロベリアと紫苑にひらひらと手を振る美亜。
彼女は自分の魔導アーマーである『GーCustom』と『魔導アーマー辺境カスタム』の性能の差を調査していた。
具体的には、悪路での走破性や傾斜時での削岩活動での安定性、運搬時の姿勢安定性など、主にバランスを取ることについての差を調査していた。
彼女の『GーCustom』は四足歩行タイプにカスタマイズしたヘイムダルで、従来のものに比べてかなり安定性が上昇している。
それと比べてもなお、脚が6本ある辺境カスタムの安定性は優れていたが、足が多い分場所を取り、細くなっている場所に入り辛いという難点も抱えていた。
「細い場所での作業は3脚くらいの場所取らないのがいいみたい。でも、安定性はバッチリだよ」
「蜘蛛の様に運転席を平行に保ちながら移動出来るなら、繊細な物の運搬にも使えるし、色々と夢がありますね!」
「うん。カニ歩きも出来て面白いよ、この子」
「……ところで、脚の動きはある程度自動化されてるんですよね? まさか一本一本別々に動かすなんて馬鹿な設計じゃないですよね。はははは」
「ああ、前進とか指示すればある程度勝手に動くけど、別々に動かすこともできるみたい。だからほら、3本脚でホイッ! とかも出来る」
紫苑の呟きに、アクロバティックな動きをして見せる美亜。
その時、聞こえてきた地鳴り。
ゴゴゴゴ……という鈍い音がして地面が揺れる。
「また地震ね……」
「お。丁度いいや。振動下での安定性のチェックもしとこうか」
心配そうに天井を見上げるロベリアに、前向きに魔導アーマーの動作チェックをする美亜。
その揺れに、ミィアは奇妙な違和感を覚える。
「……むぅ。やっぱり揺れ方おかしな気がするんよ。火山でもない。落盤でもない。それなのにこんな頻繁に揺れるもんかなぁ」
首を傾げる彼女。そもそも、大型の落盤なら1回揺れて終わりのはずだ。
それにこう、何というか、揺れがじわじわ近づいて来ているような……。
ミィアがそんなことを考えていると、彼女のイェジドが毛を逆立てて唸り始める。
「……? ジジ、どうしたん?」
「待って。何かいる……!」
「こっちに近づいてきてるぞ」
アナライズデバイスを覗いていたクレールと、直感視を使って周囲を伺っていた統夜の声はほぼ同時。
「……! 皆、伏せて!!」
メルの叫び。その刹那、巻き起こる轟音。上がる土煙。
ガラガラと崩れる岩――。
壁に突如として、大きな穴が開いた。
「げほっ。げほっ……。何なの?」
咳き込むロベリア。土煙が落ち着いてくると、うっすらと何かが立っているのが見えて――。
「げっ。姐さん! ハンターですよう! いやーん!」
「姐さんどうするでおますか? ぼこっと殴っちゃうでおますか?」
「お前達お止し。今日は戦う為に来てる訳じゃないからねえ。こちらから仕掛けるのは野暮ってもんだよ」
穴から顔を出したノッポのモグラとデブのモグラ。
その後ろには仮面を着用した女性。赤いソファーにグラマラスな身体を預けている。
……何でここにソファが? と思って目線を下げると、小さな土のゴーレムがソファごと運んでいるのが見えた。
「……何だ? お前達。……歪虚か?」
「そうでおます! わいはセルトポ! こっちのノッポはモルッキー! でもって、このお方がわしらのボス、トーチカ・J・ラロッカ様でおます!」
「お前達頭が高い! 控えおろうですよ!」
「全くべらべら喋るんじゃないよスカポンタン! だからあんた達はおバカだって言うんだよ!」
統夜の問いに胸を張るデブのモグラとノッポのモグラ。
トーチカと呼ばれた女性は、ボコボコと2匹の頭を順番に殴る。
「うちのバカ共が失礼したねえ」
「いえその……ここで一体何してるんですか?」
「親愛なるビックマー様の為に、ちょっと色々と、ね……」
「……ビックマー? あんた達怠惰眷属かい?」
シリルの問いに色っぽく答えるトーチカ。ロベリアの声にあら、と言いながら肩を竦める。
「ちょっと喋りすぎちまったようだねぇ。まあ、いいさ。また改めてそっちに行くから、エライ人に伝えておいておくれな」
「そんなこと簡単に漏らしちゃっていいんです?」
「構いやしないよ。……あたしは強いからねぇ?」
「やーん! 姐さん、カッコイイですー!」
「痺れるでおますー! 憧れるでおますー!」
「あんた達、バカやってないで戻るよ」
「「あいあいさー!!」」
その漫才のようなやり取りに呆然とする紫苑。
2匹のモグラはトーチカを追おうとして……思い出したように振り返る。
「あ、モルッキー。こういう時はなんていうでおますか?」
「セルトポ。こういう時はお別れの挨拶ですよ。ホラ。アレです」
「あー。アレでおますな」
「お前達! これで勝ったと思うなですよー!」
「覚えてろでおますーー!!」
「それ思いっきり負け台詞じゃん!!!」
「何アレ……」
「何か面白い子達だったのん」
「……ひとまず何もなくてよかったけど。面白いって言っていいのかなぁ……」
捨て台詞を吐いて去っていく歪虚達に思い切りツッコむ美亜。
微妙な顔をするメルに、にこにこしているミィア。
クレールは苦笑しながら、歪虚達の背を見送った。
「これが皆で纏めてきた調査レポートです」
「ちょっと量多いけど頑張って読んで!」
「こんなに調べてきてくれるなんて……! すごいわ! ありがとう!」
シリルと美亜が差し出した資料に目を輝かせるカペラ。
地盤の固さ、辺境カスタムと通常の魔導アーマーとの性能差、また1日に採掘できるマテリアル鉱の見積もり、支柱を渡しての地盤強化案、排熱と粉塵、ガス噴出に配慮した通気性の確保案、水脈を掘り当てた際の対処案、同時採掘による振動や坑道内の環境変化に関するレポート、魔導アーマー搭乗マニュアル……。
彼らのほぼ完璧と言える調査で、カペラが欲しいと思っていたものを遥かに凌駕したデータが揃ったのだから、彼女の喜びようも頷ける。
ロベリアは仕事上がりの一服とばかりに煙草を咥えると、思い出したようにカペラを見る。
「そうだ。採掘したマテリアル鉱は私のトラックで運んで来たわ。なかなかの量があるから、置く場所を教えて頂戴」
「ああ、そうね。採掘量が増えるから、一時保管場所も考えないといけないわね」
「搬出は魔導アーマーでも出来るけど、やっぱりトラックを使った方が効率が良さそうよ」
「魔導エンジンのエレベーターとかどうですかね。ユニットの搬入出にも使えますし。必要なら技術提供なら協力しますよ? 別料金ですがね」
「うーん。そうね。そこまでやると大規模な工事が必要になるから……要検討ね。でもすごく助かったわ。ありがとう」
クレールと紫苑の提案に頷くカペラ。
ミィナがヴェルナーに歩み寄り、そっと声をかける。
「あのね。ヴェルナーさん。変な歪虚に会ったのねん。モグラと女の人だったのん」
「……歪虚? それは間違いないですか?」
「ああ、間違いない。俺達を見てすぐに引き返して行ったが、また来ると伝えろってさ」
「……それは気になりますね」
「何か、地下で何かやってそうな感じだったよ」
「そうですか……。話を聞く限り……ヨアキムさんが見た白い蛇のような歪虚と関係がありそうですね。こちらでも調査を進めておきましょう。皆さん、お疲れ様でした」
ヴェルナーの労いの言葉に頷く統夜とメル。
こうしている間も時折起きる地震。
ハンター達は不穏な気配が迫っているのを感じながら、ノアーラ・クンタウを後にした。
「QSエンジンが見られると期待してたんだけど、ちょっと残念ねー。ま、仕方ないか。とりあえず、見せてもらおうじゃない。辺境カスタムとやらの性能を」
「ヨアキム王、これ……帝国から借りてるらしいけど大丈夫か……?」
様々なパーツを取り付けられた六脚の機体。ヨアキムが改造した『魔導アーマー辺境カスタム』を前に俄然やる気を見せる美亜・エルミナール(ka4055)とロベリア・李(ka4206)。
仙堂 紫苑(ka5953)のぼやきはやって来たユニットの駆動音にかき消される。
ハンター達が案内されたのは、ドワーフの地下城『ヴェドル』から少し離れた地下採掘場。
カペラが魔導アーマーの稼働実験をする為に手配したその場所は比較的広く、彼らのユニットも難無く持ち込むことが出来ていた。
「持ち込むユニットはこれで全部か?」
「ええ。皆が各自持ち込んだユニットが幻獣と魔導トラック含めて6機、お借りした魔導アーマー辺境カスタムが2機ね。ここが広いとはいえ、置く場所を考えないと……きゃあっ!?」
採掘場を見渡して言う瀬崎・統夜(ka5046)に頷くクレール・ディンセルフ(ka0586)。
彼女の声は不意に起きた揺れでかき消される。
短く、小刻みに揺れる地面。ミィナ・アレグトーリア(ka0317)は蒼銀の毛並みを持つイェジドにしがみついて眉根を寄せる。
「早速地震なのん……。何か変な揺れ方するのね」
「……火山が近くにある……なんてことは無いんですよね?」
「地形のデータも見せて貰ってるけど、火山はこの辺にはないよ。崩落と言った事故も起きてない。ああ、1回だけドワーフさんが調子に乗って掘り進んで、下の階まで突き抜けちゃって落ちたことはあるみたいだけど……」
地面をじっと見つめながら問うシリル・B・ライヘンベルガー(ka0025)に、借りて来た資料片手に答える岩井崎 メル(ka0520)。
まもなく止まった揺れ。シリルが腕を組んで考え込む。
「確かに火山性の地震はこういう揺れ方はしませんね」
「ドワーフ達が別の場所で作業していたにせよここまでは揺れないでしょうし」
「んー。そうね。地中で大規模に掘削すればこのくらい揺れるかもしれないけど……」
紫苑と美亜の呟きに沈黙を返す仲間達。
今までドワーフは手掘りで掘削作業を行っていた。今回、その効率を上げる為に初めて機材を持ち込んで実験をする訳で。
大規模な掘削など行えるはずもないのだが――。
「……何か、すごく嫌な予感がするですのん」
「その予感が当たらないことを祈るばかりだが……各自足元には十分気を付けて事を進めよう」
不安そうなミィナにため息を返す統夜。ロベリアが肩を竦める。
「気を付けるのは頭上もだわね。崩落してきて生き埋め、なんて笑えないわ」
「そうだね。安全を最優先に実験しよう」
「出来る限りデータを持って帰ろうね!」
クレールとメルの元気づけるような声に仲間達は頷くと、それぞれの持ち場について行動を開始する。
『魔導アーマー辺境カスタム』の試験稼働を前に、その装備を改めて確認したロベリアは思わず頭を抱えた。
とてもじゃないが、採掘できるとも思えない装備ばかりがついていたので。
「……何よこれ。盾はともかくなんでトゲが付いてるの!」
「カペラさんからの話によると、ヨアキム王が拾ったパーツくっつけたらこうなったらしいですねえ」
「この赤いパーツ、ものすごい頑丈らしいよね。何かに使えないかな」
「この機体には何で操縦席に冷蔵庫が付いてるのよ! 要らないでしょこれ!!」
「ああ、それは運転しながら酒が飲めるようにって考えたらしいですよ」
「面白い発想だけど飲酒運転はさすがにマズいんじゃないの……?」
「で、なあんで採掘用なのにバルカン砲があるの! 跳弾して危険でしょ! 何考えてんのよ!」
「それもヨアキム王が『爆発は男の浪漫』とか何とか言ってくっつけたと聞きましたよ」
「あはは! いいね男の浪漫! ビームとか出たりしないかなぁ」
のんびりとした紫苑の解説と美亜のズレたコメントに頭痛を覚えてこめかみを押さえる彼女。
こんな情報が得られたのもクレールとメルの事前調査のお陰ではあるが……ドワーフ王の思考は理解し難い。というか理解したくもない。
「はぁ。とにかく魔導ドリルに換装するから手伝って」
「了解です」
「えー。付け替えちゃうの? 何かもったいないな」
3人はそんな会話をしながらも、魔導アーマーの装備を外し始める。
「……ドワーフさんの坑道ってアリの巣みたいになってるのね」
「長年手掘りで掘り続けた結果、こういうことになったみたいね」
手元の地図に目を落とすメルとクレール。
彼女達が持っているのはカペラから借りた地下坑道の簡略図。
簡略図でこの状態となると、実際はもっと入り組んでいると思った方がいいだろう。
「今まではこれで大丈夫だったんだろうけど、今後は下のことも考えないといけないね」
「そうね。ユニットほど重量のある物体がこんな集中して地盤に負荷をかけること、なかったでしょうし……」
メルの言葉に頷くクレール。
今後採掘を進めて行くにあたって、地盤は頑丈なところを選ばなくては――。
今まではうっかり穴を空けて下の階とつながってしまっても、鉱夫達が転がり落ちるくらいで済んでいたが、魔導アーマーが落ちたとなっては各方面へのダメージは避けられない。
そういう不測の事態を避ける為にも、調査を積み重ねるに越したことはないのだ。
「それじゃ、採掘を開始するぞ」
漆黒に染められた魔導型デュミナスから聞こえる統夜の声。彼は慎重に魔導ドリルを構えると、岩盤に押し当てて掘削を開始する。
――本来、彼の愛機である『黒騎士』は戦闘用で、こういう作業には向いていない。
だからこそ、どこまで出来るのか。何が出来て何が出来ないのか……実証して確認する意味がある。
この機体で出来ることであれば、魔導アーマーなら難無くこなすことが出来るはずだ。
ドリルに感じる手応え。さすがはデュナミスのパワーだ。硬い岩盤も難無く切り崩せる。
隣で自機であるヘイムダル、『アイオーン』を駆使するシリル。統夜が掘り出した岩もまとめてショベルアームでどんどん後ろに送る。
「掘削自体は問題無さそうですね。人間サイズでは固い岩盤も、このサイズの魔導機械を使えば楽になるでしょうし」
「そうだな。作業が早くなる分、運び出しも平行して行えるようしないとならないが……」
「掘削と積み込みで役割分担と……外への搬送手段をトラックにしてしまえば、かなり効率上がるんじゃないでしょうか」
「ああ。ただ、そうなると導線の問題が出て来るな」
「導線、ですか?」
「搬送については、物資を持ち出すだけでなく、物資を運び入れることも必要だ。搬入、搬出のトラックが問題なく通れる手段を講じなければならんだろう」
「なるほど……。どういう手段を取るにせよ、坑道や採掘場は今までより広くなりますね。そうなると、坑道の壁や天井の補強も今まで以上にしっかり行う必要がありそうです。魔導アーマーやCAMが通る大きさの分だけ、それまであった岩盤の支えが消えてしまうわけですし」
「そうだな。鉄筋を通せれば一番いいが……足りなければ木材での支えというのも考えなくてはな」
「はい。合わせて足場の補強も必要ですね」
「支えが通せそうな、地盤がしっかりしているところを探すところから始めないとな」
「そうですね。提案としてまとめておきましょうか」
作業の手を止めぬまま、てきぱきと提案をまとめていく統夜とシリル。
その頃、クレールは『ヤタガラス』と名付けられた3本脚のヘイムダルの画面越しに、そしてミィナはイェジドのジジと一緒に岩盤を凝視していた。
「……ミィナさん、どう? ジジくん、マテリアル鉱の場所分かりそう?」
「うーん……。一生懸命探してくれてるみたいなんだけど芳しくないんー。クレールさんはどう?」
「ヴィジョンアイとアナライズデバイスでアタリつけられるかも! と思ったんだけど、岩の奥のマテリアルの反応までは見えないのかなー……」
むむむと唸る2人。そうしている間も、イェジドは岩盤をガリガリと爪で引っ掻くが、採掘するまでには至らない。
いくらイェジドの爪が硬いとはいえ、岩を掘り進めるのは難しいのかもしれない。
岩盤から目を離した2人。統夜とシリルが採掘した岩が沢山出ているのに気づいて、そちらに目線を映す。
「わう」
「ん? どうしたのん、ジジ。この石がどうかした?」
「わん」
「……あ! これ、マテリアル鉱なのん。ジジ、採掘した石なら見分けられるのん!」
「ヤタガラスのモニターからは分からないけど、アナライズデバイスにマテリアル鉱石の反応を覚えさせれば仕分けが出来るかも!!」
にっこりと微笑み合うミィナとクレール。
クレールはマテリアル鉱石を器用に拾うと、アナライズデバイスに情報の登録を試みて……ドキドキしながら装置を覗き込む彼女。複数ある石の中から、反応が返って来ているのを見てガッツポーズをする。
「これなら魔導アーマーに乗ったまま仕分けが出来る!」
呟き、その勢いのままヤタガラスに備え付けた荷台にひょいひょいと鉱石を入れて行くクレール。
魔導アーマーは、上手く採掘と運搬の折衷が出来るセッティングが出来るのが魅力だ。
生身だとこう簡単には上手く行くまい。
岩を拾っては、アナライズデバイスの画面に目を走らせる彼女。
残念ながらマテリアル反応の強弱までは分からないが……今は無理でも、他の技術を駆使すれば、石に含まれるマテリアル鉱石の大きさなどが分かるようになるかもしれない。
そうなれば、スキルトレースをして機導剣で溶断し、掘削の時点で精度の高いマテリアル鉱石を取り出す技術が生み出せそうだ。
まだ、可能性の話でしかないけれど。
今後の為にも、沢山鉱石を見て、データを収拾しなければ……!
ミィナもジジが選り分けたマテリアル鉱石をせっせと木箱に入れて行く。
「良かったのん。さすがマテリアルと仲良しな幻獣さんなのん。ちゃんと役に立つのん!」
嬉しそうなミィナに、尻尾を振るイェジド。
そしてメルは、クレールから渡される膨大な量のデータをものすごい勢いでレポートに落とし込んでいた。
渡されるデータは採掘できる量や魔導アーマーで一度に運べる鉱石の量に始まり、採掘した中にどれくらいマテリアル鉱が含まれているかなどの生産性に渡るものまで多岐に渡る。
実は彼女、今日はうっかり持ってくるはずだったユニットを忘れて来てしまったのだが、返って良かったのかもしれない。
仲良しで、後輩として可愛がっているクレール。彼女が一生懸命集めて来るデータを、こうして落とし込んで形にすることが出来る。
いつもはドジをやらかしては落ち込むけれど、今日は、今日こそは大正解だった……!
「メルさん、すみません。まとめて貰ってしまって……」
「いいのいいの! どんどんデータ渡して! ミィナ君もジジ君も気づいたことがあったら教えてね!」
「わかったのん!」
「わん!」
メルに元気に返事をするミィナとイェジド。
こうして実際に採掘して、石を切り出して、運び出して……と実際にやってみなければ気づかないことは沢山ある。
「……やっぱり煙くなってきたわね」
「何がー?」
「空気ですよ。ほら、粉塵が上がってるでしょ」
手で口を覆うロベリアに首を傾げる美亜。紫苑の指摘に、そういえば……と周囲を見渡す。
仲間達が採掘実験を始めた後、『魔導アーマー辺境カスタム』に魔導ドリルを取りつけて、稼働実験を始めた彼ら。
広い採掘場に粉塵が舞い上がり、白くなっているのを見てロベリアはやっぱりね……とため息をつく。
いくら採掘現場が広いとはいえ、多数の魔導アーマーが稼動する以上は作業環境にも考慮が必要になってくる筈だと考えていた。
作業機材で場所がとられるからにはそれだけ通気も悪くなるものだし、作業効率が上がるのに比例して粉塵も増えることになる。
そして魔導アーマーからはそれなりに排熱がある為、洞窟内の温度が上昇してくるのは避けられない。
このままの環境では、長時間の作業は難しい。
排熱と粉塵、ガス噴出に配慮した通気性の確保をしなければ……。
「スムーズな搬入出をする為には、通気口も出入り口を塞がない形にする必要があるわね。あとは水脈に当たった時の排水か……。紫苑、何かいい案ある?」
「そうですね。配管を巡らせるといいと思いますが、あまり色々つっくけるとそれだけ重くなるので……地盤を確保するついでに考えられるといいですね」
「そうね。他の子達が地盤の強化案を考えてくれてるみたいだし、それと突き合わせて考えるのがいいわね。あとはドワーフ用に魔導アーマーの操作マニュアルも作らないと……。美亜、どう? 『魔導アーマー辺境カスタム』の性能は」
「うん! なかなか面白いよこの子!」
魔導アーマーの上から、ロベリアと紫苑にひらひらと手を振る美亜。
彼女は自分の魔導アーマーである『GーCustom』と『魔導アーマー辺境カスタム』の性能の差を調査していた。
具体的には、悪路での走破性や傾斜時での削岩活動での安定性、運搬時の姿勢安定性など、主にバランスを取ることについての差を調査していた。
彼女の『GーCustom』は四足歩行タイプにカスタマイズしたヘイムダルで、従来のものに比べてかなり安定性が上昇している。
それと比べてもなお、脚が6本ある辺境カスタムの安定性は優れていたが、足が多い分場所を取り、細くなっている場所に入り辛いという難点も抱えていた。
「細い場所での作業は3脚くらいの場所取らないのがいいみたい。でも、安定性はバッチリだよ」
「蜘蛛の様に運転席を平行に保ちながら移動出来るなら、繊細な物の運搬にも使えるし、色々と夢がありますね!」
「うん。カニ歩きも出来て面白いよ、この子」
「……ところで、脚の動きはある程度自動化されてるんですよね? まさか一本一本別々に動かすなんて馬鹿な設計じゃないですよね。はははは」
「ああ、前進とか指示すればある程度勝手に動くけど、別々に動かすこともできるみたい。だからほら、3本脚でホイッ! とかも出来る」
紫苑の呟きに、アクロバティックな動きをして見せる美亜。
その時、聞こえてきた地鳴り。
ゴゴゴゴ……という鈍い音がして地面が揺れる。
「また地震ね……」
「お。丁度いいや。振動下での安定性のチェックもしとこうか」
心配そうに天井を見上げるロベリアに、前向きに魔導アーマーの動作チェックをする美亜。
その揺れに、ミィアは奇妙な違和感を覚える。
「……むぅ。やっぱり揺れ方おかしな気がするんよ。火山でもない。落盤でもない。それなのにこんな頻繁に揺れるもんかなぁ」
首を傾げる彼女。そもそも、大型の落盤なら1回揺れて終わりのはずだ。
それにこう、何というか、揺れがじわじわ近づいて来ているような……。
ミィアがそんなことを考えていると、彼女のイェジドが毛を逆立てて唸り始める。
「……? ジジ、どうしたん?」
「待って。何かいる……!」
「こっちに近づいてきてるぞ」
アナライズデバイスを覗いていたクレールと、直感視を使って周囲を伺っていた統夜の声はほぼ同時。
「……! 皆、伏せて!!」
メルの叫び。その刹那、巻き起こる轟音。上がる土煙。
ガラガラと崩れる岩――。
壁に突如として、大きな穴が開いた。
「げほっ。げほっ……。何なの?」
咳き込むロベリア。土煙が落ち着いてくると、うっすらと何かが立っているのが見えて――。
「げっ。姐さん! ハンターですよう! いやーん!」
「姐さんどうするでおますか? ぼこっと殴っちゃうでおますか?」
「お前達お止し。今日は戦う為に来てる訳じゃないからねえ。こちらから仕掛けるのは野暮ってもんだよ」
穴から顔を出したノッポのモグラとデブのモグラ。
その後ろには仮面を着用した女性。赤いソファーにグラマラスな身体を預けている。
……何でここにソファが? と思って目線を下げると、小さな土のゴーレムがソファごと運んでいるのが見えた。
「……何だ? お前達。……歪虚か?」
「そうでおます! わいはセルトポ! こっちのノッポはモルッキー! でもって、このお方がわしらのボス、トーチカ・J・ラロッカ様でおます!」
「お前達頭が高い! 控えおろうですよ!」
「全くべらべら喋るんじゃないよスカポンタン! だからあんた達はおバカだって言うんだよ!」
統夜の問いに胸を張るデブのモグラとノッポのモグラ。
トーチカと呼ばれた女性は、ボコボコと2匹の頭を順番に殴る。
「うちのバカ共が失礼したねえ」
「いえその……ここで一体何してるんですか?」
「親愛なるビックマー様の為に、ちょっと色々と、ね……」
「……ビックマー? あんた達怠惰眷属かい?」
シリルの問いに色っぽく答えるトーチカ。ロベリアの声にあら、と言いながら肩を竦める。
「ちょっと喋りすぎちまったようだねぇ。まあ、いいさ。また改めてそっちに行くから、エライ人に伝えておいておくれな」
「そんなこと簡単に漏らしちゃっていいんです?」
「構いやしないよ。……あたしは強いからねぇ?」
「やーん! 姐さん、カッコイイですー!」
「痺れるでおますー! 憧れるでおますー!」
「あんた達、バカやってないで戻るよ」
「「あいあいさー!!」」
その漫才のようなやり取りに呆然とする紫苑。
2匹のモグラはトーチカを追おうとして……思い出したように振り返る。
「あ、モルッキー。こういう時はなんていうでおますか?」
「セルトポ。こういう時はお別れの挨拶ですよ。ホラ。アレです」
「あー。アレでおますな」
「お前達! これで勝ったと思うなですよー!」
「覚えてろでおますーー!!」
「それ思いっきり負け台詞じゃん!!!」
「何アレ……」
「何か面白い子達だったのん」
「……ひとまず何もなくてよかったけど。面白いって言っていいのかなぁ……」
捨て台詞を吐いて去っていく歪虚達に思い切りツッコむ美亜。
微妙な顔をするメルに、にこにこしているミィア。
クレールは苦笑しながら、歪虚達の背を見送った。
「これが皆で纏めてきた調査レポートです」
「ちょっと量多いけど頑張って読んで!」
「こんなに調べてきてくれるなんて……! すごいわ! ありがとう!」
シリルと美亜が差し出した資料に目を輝かせるカペラ。
地盤の固さ、辺境カスタムと通常の魔導アーマーとの性能差、また1日に採掘できるマテリアル鉱の見積もり、支柱を渡しての地盤強化案、排熱と粉塵、ガス噴出に配慮した通気性の確保案、水脈を掘り当てた際の対処案、同時採掘による振動や坑道内の環境変化に関するレポート、魔導アーマー搭乗マニュアル……。
彼らのほぼ完璧と言える調査で、カペラが欲しいと思っていたものを遥かに凌駕したデータが揃ったのだから、彼女の喜びようも頷ける。
ロベリアは仕事上がりの一服とばかりに煙草を咥えると、思い出したようにカペラを見る。
「そうだ。採掘したマテリアル鉱は私のトラックで運んで来たわ。なかなかの量があるから、置く場所を教えて頂戴」
「ああ、そうね。採掘量が増えるから、一時保管場所も考えないといけないわね」
「搬出は魔導アーマーでも出来るけど、やっぱりトラックを使った方が効率が良さそうよ」
「魔導エンジンのエレベーターとかどうですかね。ユニットの搬入出にも使えますし。必要なら技術提供なら協力しますよ? 別料金ですがね」
「うーん。そうね。そこまでやると大規模な工事が必要になるから……要検討ね。でもすごく助かったわ。ありがとう」
クレールと紫苑の提案に頷くカペラ。
ミィナがヴェルナーに歩み寄り、そっと声をかける。
「あのね。ヴェルナーさん。変な歪虚に会ったのねん。モグラと女の人だったのん」
「……歪虚? それは間違いないですか?」
「ああ、間違いない。俺達を見てすぐに引き返して行ったが、また来ると伝えろってさ」
「……それは気になりますね」
「何か、地下で何かやってそうな感じだったよ」
「そうですか……。話を聞く限り……ヨアキムさんが見た白い蛇のような歪虚と関係がありそうですね。こちらでも調査を進めておきましょう。皆さん、お疲れ様でした」
ヴェルナーの労いの言葉に頷く統夜とメル。
こうしている間も時折起きる地震。
ハンター達は不穏な気配が迫っているのを感じながら、ノアーラ・クンタウを後にした。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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採掘相談! クレール・ディンセルフ(ka0586) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/01/18 05:07:42 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/01/15 23:33:47 |