ゲスト
(ka0000)
【初心】病児を乗せた馬車を護衛せよ
マスター:鮎川 渓

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- LV1~LV20
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/01/18 12:00
- 完成日
- 2017/01/26 03:15
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●とある女ハンターの休日
「ここいらはのどかでいいねぇ」
見るからに硬そうな朱色の髪を風になぶらせ、馬に揺られる女がひとり。
椀を伏せたような丘が連なる丘陵地帯、その間を縫うように走る田舎道をゆっくりと進んでいく。
この道の先にある村はひとつきりとあって、細い道はお世辞にも整備されているとは言いがたいが、見渡せば緑の丘の連なりがなんとも美しい。
「年末年始は依頼続きでバタバタしてたからなぁ。しばらく羽伸ばしたって罰当んないさね」
そう言って豪快に笑う彼女に同意するよう、愛馬が小さく嘶く。
彼女――ハンター歴四年の猟撃士であるリタ・モルガナは、遅めの正月休みをこの先の村で過ごすと決めていた。
小さいけれど豊かな自然に囲まれたのどかな村で、年若い村長とは旧知の仲。自然の中でゆっくり癒される上、彼の家に転がり込めば宿代もタダで済むというのがリタの算段である。
「ひひっ。突然行ったらびっくりすんだろうねぇ、アイツ」
目を丸くする旧友の顔を想像し、リタはにんまりと口角を上げた。
――が、次の瞬間。
こちらへ殺到するいくつもの足音を聞きとがめ、素早く四方を見回した。
しかし大小の丘に阻まれその姿は捉えられない。
「……何だろね。足音からすると四足の獣みたいだけど」
油断なく気配を探りながら、愛用の魔導拳銃を構えた時だ。
左右の丘を越え、狼達の群れが姿を現した。ただの狼ではない。獰猛なその瞳は赤々と異様な光を放っている。
「雑魔か!」
その数ざっと二十。
挟撃を受ける形になったリタだが、怯むことなく好戦的な笑みを閃かせた。狙いを定め、それぞれの群れの先頭めがけたて続けに発砲する。
先導していた数頭があっけなく灰燼に帰すのを見、後続の者どもは明らかに狼狽えていた。そこへリタが腹の底から一喝。
「休暇中のアタシに銃を抜かせたね? 上等だよぉオマエら、覚悟はできてんだろうねぇ!?」
怒気に満ち満ちた馬上のリタに恐れをなしたか、狼の姿をした雑魔どもは我先にと逃げ去った。
「ったく忌々しい! ここいらはわりかし安全なはずなのに。ハンターズソサエティに連絡してすぐに討伐を……って、アタシの正月休みはーーっ!?」
●田舎道封鎖、しかし――
「一番最初に遭遇したのが君で本当に良かったよ」
「やいジェイト、そりゃどういう意味だい?」
馬を急かしてやって来た目当ての村。
村長宅の小さな執務室で、リタは旧友で村長のジェイトと向かい合っていた。
遭遇した雑魔の群れについて報告した後のことである。
詰め寄るリタをさらりと躱し、ジェイトは眼鏡の奥の目を細める。
「変な意味じゃないさ。遭遇したのが一般人だったら、確実に被害を被っていただろう? あの丘陵に雑魔が出るなんて初めてのことで、誰も予測だにしていなかったんだからね」
「むっ」
「村中にあの道を使わないよう周知しておいたから、被害を出さずに済むだろう。君がいち早く知らせてくれたお陰だよ、リタ」
何だか納得しきれないながらも、面と向かって感謝されれば悪い気はしないリタである。眉間の皺を緩め、出されたハーブティーを啜った。
「とは言えあの道は村と外界を繋ぐ唯一の道だ、いつまでも封鎖しておくわけにはいかない。すぐにハンターズソサエティに討伐を依頼しないと」
「オッケィ、取り次ぎは任せな」
最寄りの支部へ連絡しようとリタが魔導短伝話を取り出した時だ。
戸が激しく叩かれた。ジェイトが応えを返す間もなく、少女を抱いた父親が真っ青になって転がり込んでくる。
「村長、町までの道を封鎖するってのは本当か!?」
「どうしたんです、そんなに慌てて」
「アリィナが……娘が酷い熱なんだ、水分も摂れない程弱っちまって!」
その言葉にジェイトの顔も蒼白になる。リタは首を捻った。
「この村にも診療所がひとつあるじゃないか」
ジェイトは重々しく首を振る。
「あるけどね……君と同じさ。先生は今、遅い正月休みをとって帰省中なんだ」
「げっ。……てこたぁ」
「そう、あの道を抜けて隣町まで行かなきゃならない」
苦い顔で告げるジェイト。傍らのソファに娘を寝かせ、父親はジェイトに詰め寄る。
「行かせてくれ村長、このままじゃじきに脱水症状を起こしちまう!」
「お気持ちは分かりますが危険です、きちんと討伐してもらってからでないと」
「そんな時間は……!」
言い合うふたりをよそに、リタは毛布にくるまれ横たわるアリィナを覗き込んだ。
十歳くらいだろうか。
固く目を瞑り、あどけない顔を真っ赤に染め、荒い呼吸を繰り返している。額に触れれば焼けるように熱い。それなのに手のひらは冷たく、まだ熱が上がるだろうことを予期させた。
「お母さん……」
アリィナはうわ言のように呼びながら、首に下げた銀のロケットを握りしめる。
苦しむ娘に付き添ってやらない母親がいるだろうか。恐らくそうできない事情があるのだろう。
「ジェイト、馬車を借りるぞ」
リタは毅然と立ち上がる。リタの意図を察したジェイトは慌てて袖を引いた。
「いくら君でもひとりじゃ無理だ、この子を守りながら雑魔の群れを突っ切るなんて!」
「む。言っても雑魔だ、いくら数がいようとアタシにかかりゃ……」
「無茶をして危険にさらされるのは君だけじゃない、アリィナもだ。村の長としてとても許可できないよ」
冷静なジェイトの言葉に、リタは唇を噛みしめた。
時間が惜しい。ハンターズソサエティに依頼をするにしても、とても討伐完了まで待っていられない。
リタは握ったままでいた短伝話を素早く繰ると、馴染みの受付嬢の声がするなり告げた。
「リタだ。大至急こっちに何人か回して欲しい。アタシがフォローすっからとにかく人を! 案件は――病児を乗せた馬車の護衛だ」
「ここいらはのどかでいいねぇ」
見るからに硬そうな朱色の髪を風になぶらせ、馬に揺られる女がひとり。
椀を伏せたような丘が連なる丘陵地帯、その間を縫うように走る田舎道をゆっくりと進んでいく。
この道の先にある村はひとつきりとあって、細い道はお世辞にも整備されているとは言いがたいが、見渡せば緑の丘の連なりがなんとも美しい。
「年末年始は依頼続きでバタバタしてたからなぁ。しばらく羽伸ばしたって罰当んないさね」
そう言って豪快に笑う彼女に同意するよう、愛馬が小さく嘶く。
彼女――ハンター歴四年の猟撃士であるリタ・モルガナは、遅めの正月休みをこの先の村で過ごすと決めていた。
小さいけれど豊かな自然に囲まれたのどかな村で、年若い村長とは旧知の仲。自然の中でゆっくり癒される上、彼の家に転がり込めば宿代もタダで済むというのがリタの算段である。
「ひひっ。突然行ったらびっくりすんだろうねぇ、アイツ」
目を丸くする旧友の顔を想像し、リタはにんまりと口角を上げた。
――が、次の瞬間。
こちらへ殺到するいくつもの足音を聞きとがめ、素早く四方を見回した。
しかし大小の丘に阻まれその姿は捉えられない。
「……何だろね。足音からすると四足の獣みたいだけど」
油断なく気配を探りながら、愛用の魔導拳銃を構えた時だ。
左右の丘を越え、狼達の群れが姿を現した。ただの狼ではない。獰猛なその瞳は赤々と異様な光を放っている。
「雑魔か!」
その数ざっと二十。
挟撃を受ける形になったリタだが、怯むことなく好戦的な笑みを閃かせた。狙いを定め、それぞれの群れの先頭めがけたて続けに発砲する。
先導していた数頭があっけなく灰燼に帰すのを見、後続の者どもは明らかに狼狽えていた。そこへリタが腹の底から一喝。
「休暇中のアタシに銃を抜かせたね? 上等だよぉオマエら、覚悟はできてんだろうねぇ!?」
怒気に満ち満ちた馬上のリタに恐れをなしたか、狼の姿をした雑魔どもは我先にと逃げ去った。
「ったく忌々しい! ここいらはわりかし安全なはずなのに。ハンターズソサエティに連絡してすぐに討伐を……って、アタシの正月休みはーーっ!?」
●田舎道封鎖、しかし――
「一番最初に遭遇したのが君で本当に良かったよ」
「やいジェイト、そりゃどういう意味だい?」
馬を急かしてやって来た目当ての村。
村長宅の小さな執務室で、リタは旧友で村長のジェイトと向かい合っていた。
遭遇した雑魔の群れについて報告した後のことである。
詰め寄るリタをさらりと躱し、ジェイトは眼鏡の奥の目を細める。
「変な意味じゃないさ。遭遇したのが一般人だったら、確実に被害を被っていただろう? あの丘陵に雑魔が出るなんて初めてのことで、誰も予測だにしていなかったんだからね」
「むっ」
「村中にあの道を使わないよう周知しておいたから、被害を出さずに済むだろう。君がいち早く知らせてくれたお陰だよ、リタ」
何だか納得しきれないながらも、面と向かって感謝されれば悪い気はしないリタである。眉間の皺を緩め、出されたハーブティーを啜った。
「とは言えあの道は村と外界を繋ぐ唯一の道だ、いつまでも封鎖しておくわけにはいかない。すぐにハンターズソサエティに討伐を依頼しないと」
「オッケィ、取り次ぎは任せな」
最寄りの支部へ連絡しようとリタが魔導短伝話を取り出した時だ。
戸が激しく叩かれた。ジェイトが応えを返す間もなく、少女を抱いた父親が真っ青になって転がり込んでくる。
「村長、町までの道を封鎖するってのは本当か!?」
「どうしたんです、そんなに慌てて」
「アリィナが……娘が酷い熱なんだ、水分も摂れない程弱っちまって!」
その言葉にジェイトの顔も蒼白になる。リタは首を捻った。
「この村にも診療所がひとつあるじゃないか」
ジェイトは重々しく首を振る。
「あるけどね……君と同じさ。先生は今、遅い正月休みをとって帰省中なんだ」
「げっ。……てこたぁ」
「そう、あの道を抜けて隣町まで行かなきゃならない」
苦い顔で告げるジェイト。傍らのソファに娘を寝かせ、父親はジェイトに詰め寄る。
「行かせてくれ村長、このままじゃじきに脱水症状を起こしちまう!」
「お気持ちは分かりますが危険です、きちんと討伐してもらってからでないと」
「そんな時間は……!」
言い合うふたりをよそに、リタは毛布にくるまれ横たわるアリィナを覗き込んだ。
十歳くらいだろうか。
固く目を瞑り、あどけない顔を真っ赤に染め、荒い呼吸を繰り返している。額に触れれば焼けるように熱い。それなのに手のひらは冷たく、まだ熱が上がるだろうことを予期させた。
「お母さん……」
アリィナはうわ言のように呼びながら、首に下げた銀のロケットを握りしめる。
苦しむ娘に付き添ってやらない母親がいるだろうか。恐らくそうできない事情があるのだろう。
「ジェイト、馬車を借りるぞ」
リタは毅然と立ち上がる。リタの意図を察したジェイトは慌てて袖を引いた。
「いくら君でもひとりじゃ無理だ、この子を守りながら雑魔の群れを突っ切るなんて!」
「む。言っても雑魔だ、いくら数がいようとアタシにかかりゃ……」
「無茶をして危険にさらされるのは君だけじゃない、アリィナもだ。村の長としてとても許可できないよ」
冷静なジェイトの言葉に、リタは唇を噛みしめた。
時間が惜しい。ハンターズソサエティに依頼をするにしても、とても討伐完了まで待っていられない。
リタは握ったままでいた短伝話を素早く繰ると、馴染みの受付嬢の声がするなり告げた。
「リタだ。大至急こっちに何人か回して欲しい。アタシがフォローすっからとにかく人を! 案件は――病児を乗せた馬車の護衛だ」
リプレイ本文
●いざ町へ
「そんな良い道じゃないとは思ってたけどさっ」
手綱を握るリタは、極力馬車を揺らさぬよう苦心していた。そばに馬でつけたヴィリー・シュトラウス(ka6706)は、リタの愚痴に苦笑する。
「馬と馬車とでは……」
勝手が違うのは道理というもの。四輪の幌馬車は小石を踏んでも大きく跳ねる。
相槌に首肯しリタは声を張る。
「悪いね、アタシはご覧のザマだ。皆頼んだよ!」
言われるまでもなく、ハンター達はすでに馬車の守りを固めていた。
馬車を先導するようゴースロンを飛ばすのは藤堂 小夏(ka5489)。
後方には豊かな銀髪をなびかせシルヴィア・オーウェン(ka6372)が随伴し、更にその後ろからは魔導バイクを駆るゼルド(ka6476)が、周囲を見渡せるよう間を開けて続く。
馬車左側を並走するは戦馬上のソレル・ユークレース(ka1693)。相棒であるリュンルース・アウイン(ka1694)が幌の窓から顔をのぞかすと、視線を交わし頷き合う。
右側に並走する者はないが、幌馬車の中、窓のそばには和音・歩匡(ka6459)とレナード=クーク(ka6613)が控え、四方を固めた万全の布陣と言えた。
幌の内では熱で朦朧としながらも、アリィナが落ち着きなく目を動かしている。
出立の際、父親と離れると知り大泣きした彼女だったが、それを宥めたのは小夏の一言だった。
『絶対守るから、大丈夫だよ』
頭を撫でられ、温かな手のぬくもりに一度は落ち着いたものの、いざ丘陵地帯に差し掛かるとやはり恐ろしいのだろう。熱の苦しみよりも恐怖が勝っているようだ。
リュンルースは持参したミネラルウォーターを手に、
「アリィナちゃん、お水飲めるかな?」
抱き起こしボトルを乾いた唇に宛がうも、衰弱したアリィナはうまく嚥下できなかった。ならせめてとハンカチを湿らせ口に含ませてやる。
「ポーションを飲むのも難しそうだね」
柳眉を寄せ、傍らでヒールを試みていた和音を見た。
和音は険しい表情で頭を振る。
「効果なし、か。傷じゃないしな……少しでも楽になればと思ったんだが」
不快にさせてしまったかのと、アリィナの目に涙が浮かんだ。
(……泣くガキは昔の妹を思い出す)
和音は密かに嘆息し、アリィナの額の汗を拭ってやる。
そして気付く。額が先程より熱くなっていることに。
「寒いか? もう一枚毛布被ってろ」
ぶっきらぼうな口調ながら、持参した毛布をかけてやる。アリィナは一瞬目を瞠ってから微笑んだ。
「ありがと」
照れ臭くなったか顔を背けた和音に代わり、レナードが屈みこんで言う。
「大丈夫やで、アリィナちゃん。此処に集まったハンターさん達は、みーんな悪い狼さんからアリィナちゃん達を守りに来た人なんよ」
ほんわりとした口調に、アリィナは緊張を緩めこくりと頷いた。
――が、その時リュンルースの短伝話に入電。
『前から四頭来たよー』
告げたのは普段通りの小夏の声。アリィナに聞こえても怯えさせないようにと、彼女一流の気遣いだった。
次いでエンジン音が迫って来たかと思うと、
「後ろからは四匹だ」
ゼルドの報告が響く。幌の外からは、
「左からは……何だ一匹か」
ソレルの肩透かしを食ったような声が聞こえた。
右窓の覆いを跳ね上げた和音の眼にも、丘を越え迫る二頭の狼が映る。
和音は再び緊張に強張ってしまったアリィナの頭を撫でた。
「レナードも言ってたろ。大人がコレだけいるんだ、任せて寝とけ」
リュンルースも微笑んで頷いて見せ、ソレルを援護すべく左の窓へ寄る。
レナードも、
「僕も頑張るで! アリィナちゃんがまた元気になれる様に、沢山頑張るから……安心したってね」
頼もしい笑みを浮かべ、和音と共に右の窓へ張り付いた。
「ありがと……ハンターさん達」
少女の呟きは誰にも聞き取られることはなかったが、唇にはほのかな笑みが灯っていた。
●迎撃開始
「小夏さん!」
ヴィリーは馬を急がせ、単身四頭の狼型雑魔と対峙する小夏の許へ駆けつけた。
「ヴィリー助かるー。なかなかすばしっこいのよね」
淡い靄状のオーラを纏わせた小夏は、無表情に軽い口調で応じる。
二人はアリィナを怖がらせぬよう、馬車から少し距離を開けて戦闘を開始した。
先制したのは小夏。
一撃で複数頭仕留めたい彼女だが、敵は散開し的を絞らせてくれない。ならばと手近な狼へ攻めの構えで突進する。神槍『ブリューナク』の美しい穂先が狼の喉を貫いた。
すると仲間の消滅に恐れをなしたか、一頭がふたりを大きく回り込み、猛然と馬車へ駆けだした!
「いけないっ」
ヴィリーは急いで馬首をめぐらし、ホーリーライトでその背を狙う。眩い光弾が飛び狼の足元で爆ぜたが、それでも止まらず馬車に迫る。
「それ以上は行かせませんよ!」
息を吐き集中を高めると、ヴィリーは再度光弾を放つ。思う様横っ面に被弾した狼は堪らず霧散した。
「やったね。こっちはあと二匹ー」
小夏は表情を変えぬままヴィリーに親指を立てると、肩口に挟んだ短伝話へ告げた。
一方、馬車の左側。
チャージングを使用したソレルが、単独で現れた狼を易々と屠っていた。
援護をと窓から身を乗り出していたリュンルースだったが、相棒の全く危なげない戦いぶりに目を細める。
「こっちは大丈夫みたいだね」
「あぁ、ルースは他へ手を貸してやったらどうだ」
「そうしようかな」
頷き、窓の覆いを下ろそうとした彼は、ソレルの背後の丘から飛び出してきた狼達を見つけ叫んだ。
「――ソル、後ろ!」
ソレルが振り向くが早いか、一頭の狼がその足へ食らいつく!
「クッ!」
叫ぶなり魔法陣を展開していたリュンルースの周囲に、真紅の花の幻影が舞う。ソレルから狼を引き剥がすべくファイアアローを見舞った。
紅蓮の矢が狼を穿つかに見えた時、もう一頭の狼が仲間に体当たりして突き飛ばし、矢は地面にぶつかり掻き消える。
「大丈夫?」
「かすり傷だ」
強がりではない。実際、狼の牙は頑丈なブーツに阻まれ、ソレルの肌にほとんど届いていなかった。
狼達は殺意も新たに二人を睨めつける。
その様子をソレルは興味深そうに見下ろした。
「へぇ、そっちも良い相棒がいるってわけか……でもな」
「連携なら私達だって負けないよ」
相棒の言葉にソレルは笑みを閃かせ、唸る『レギオ・レプカ』を振りかぶった。
その反対側、馬車の右側では。
二頭の狼を退けようと、和音とレナードが窓から応戦していた。
「ちょこまかとよう動きよんね」
金色に染まった瞳を凝らし、狼の動きを追うレナード。これ以上近づかぬようウィンドスラッシュで牽制するが、なかなか致命傷を与えられない。
それは和音も同じだった。子供の手前、銃を使うわけにはとホーリーライトを放つが、敵の動きを止めるには至らない。
狼達の咆哮に、アリィナが小さく悲鳴を上げた。和音は思わず振り返り、
「大丈――」
言いかけたところへ、窓から突き出したままでいた腕を、狼の鋭い爪が掠めた!
「お兄ちゃん!」
アリィナに傷口を見せぬよう、和音は腕を隠して言う。
「ガキが細かいことをあまり気にするな、これくらい何てことはない」
「もう、おいたはダメやで!」
和音の負傷にレナードの闘志が燃え上がる。和音を襲った狼へ渾身のウィンドスラッシュ!
風の刃に裂かれた狼は、黒塵となって消えた。
レナード、ぐっと拳を握る。
「まず一頭、やんね!」
そしてこちらは馬車後方。
シルヴィアは瑠璃色の瞳で戦況把握に努めていた。
「左側に新たに二頭……聞いていた数にはまだ足りませんね」
彼女は村の今後を見据え、雑魔殲滅を誰より強く望んでいる。
その目的達成のため、ある程度敵を減らしたのち希望者とここへ留まり、馬車を先に行かせる作戦を立てていた。時宜を計るためにも現状把握が不可欠なのだ。
その間ゼルドは、馬車を猛追する四頭を向こうに回し、抜かせまいと奮闘していた。
巧みなハンドリングで愛機を操り、狼達の鼻先を掠めるよう縦横無尽に駆け回る。それでも怯まぬ者には眼前でアクセルを吹かし、エンジン音と排気とで脅しつけた。
「残りはどこに」
「分からないが、一先ずこいつらをどうにかするとしないか?」
彼女はまだ気にしているようだが、間を置かず首肯する。
「そうですね、目の前の敵を確実に減らしましょう」
「おう!」
それを開戦の合図と心得、ゼルドは即座に練気発動。気が体内を駆け巡り、彼を包む翡翠めいたオーラが一層輝きを増す。気と共に高まる闘志。ゼルドは鋭い眼光で敵を見据えた。
子供の味方、ヒーローでありたいと望む彼にとって、この戦いは決して退けぬものだろう。
例え、手をかけてヒーローらしく装飾した装備が――他人はそれを魔改造と言うかもしれないが――残念なことに怪人めいた見た目であろうとも、ゼルドの心根は確かにヒーローのそれなのだ。
狙いすました気功波の直撃を受けた狼は、その身を大きく跳ね飛ばされ、地に叩きつけられると同時に消滅した。
「よしっ、あと三匹!」
シルヴィアもチャージングからの強打を鮮やかに繰り出す。聖剣に刻まれた『人を愛し守護せよ』の文言に恥じぬ意志を込め、敵を一刀両断した。
「……そろそろですね」
●あとは任せた
全体の敵の残数を確認したシルヴィアは、一旦その場をゼルドに預け、馬車に追いつくとリタに告げる。
「ここで別れましょう」
目を丸くするリタに、シルヴィアは作戦を説明。
「この子を無事に届けるだけではだめです。根本的な解決にはなりません」
その心意気や良しとリタは笑った。
「アンタ達なら大丈夫そうだ」
八人の活躍ぶりは、リタの信用を得るに充分なものだったのだ。
監督者であるリタの許可を得たシルヴィアは、
「馬車から剥がしましょう!」
仲間達へ向け、凛と号令をかけた。
それを聞いた小夏は、
「了解――こっちだよ。雑魚共」
ソウルトーチを発動すると、残りの敵を掻き集めるべく鐙を蹴った。
小柄な身体に炎めくオーラを纏った小夏の姿に、雑魔と化した獣達の赤い眼が吸い寄せられる。
小夏が襲われぬよう、ヴィリーは狼達を牽制しながら彼女と並走する。
右へ左へ駆け巡り馬車側面の敵をも引き付けた小夏は、機を見てヴィリーに合図すると、共に横手の丘へ駆けあがる。それを狼達が追って行き、馬車の行く手が拓かれた!
「今から五秒だけ馬車の速度を落とす、降りたいヤツぁその間に降りな!」
リタの宣言に、
「五秒!?」
レナードはわたわたと手荷物を確認する。
リュンルースが後方の幌を開け放つと、そこには馬を寄せたソレルの姿が。
和音はソレルの傷をヒールで癒す。勿論自らの腕も回復済みだ。
「悪ぃな和音」
「大した傷じゃなかったようだが、念の為な。あとは任せるぞ」
「そっちこそ、ちびっ子は任せたぜ」
男同士の短い会話を終えると、ソレルは相棒に手を伸べる。
「ほら、手ぇ貸せルース」
「ありがとう。和音さんも気をつけて」
リュンルースはソレルの手を取ると、ふわりと地面に降りた。
「待って、僕も降りるでぇ!」
再びスピードを上げ始めた馬車から、レナードも飛び降り……るかに見えたが、くるりとアリィナを振り返る。
「なーんも心配いらへんからね」
そう言い残し、今度こそぴょんと飛び降りる。着地の際、ととっとたたらを踏んだのはご愛嬌。
そこへ後方から駆け上がってきたゼルド、ヴィリーと分かれ丘を下ってきた小夏が、それぞれ狼達を引き連れるようにして合流する。シルヴィアも加わり、六人は道を塞ぐよう陣を展開。
相対する敵もまた六頭。
バイクから降りたゼルドは右半身で構えると、
「とにかく馬車を逃げきらせないとな」
出した右足にあえて隙を作って見せ、誘いをかける。さぁ喰らいつけとばかりに。カウンター戦法で仕留める寸法だ。
小夏もこくり頷き、
「勿論。一匹も通さないよ、帰しもしないけど」
刺突一閃の構えをとった。
「あの子の帰り道を作るためにも」
シルヴィアの双眸がマテリアルの高まりに呼応し煌めきを増す。
ソレルの半身に浮かぶ狼を思わすトライバルもまた、白光を強めていた。
彼を彩るその獣は、欲求と衝動に動くこの雑魔どもとは似て非なるものだ。
「そんじゃあ、もうひと踏ん張りいきますかね!」
「終えたらエールが待ってるよ、ソル」
リュンルースは相棒の攻撃パターンを予想。いつでも合わせられるよう魔杖『スキールニル』を強く握った。
睨み合いの膠着を破ったのはレナードだ。
杖の先、彫刻の龍の瞳が一瞬発光し、冷気が迸る。一直線に飛んだ氷の矢は敵の身体を凍てつかせ、自由を奪った。
「これなら、逃げられへんよね」
それをきっかけに、第二戦の火蓋が切って落とされた。
御者台の横を並走しながら、ヴィリーは戦場を振り返る。
(本当は僕も残って戦いたいけれど、誰かがついてなきゃ)
じきに仲間達の姿は丘の向こうに消えた。
馬車の窓に目を移すと、双眼鏡を覗き哨戒する和音の肩越しに、横たわるアリィナが垣間見えた。ぐったりとした姿にヴィリーの顔が歪む。
医学者を志す彼は、病に冒されたアリィナを放っておけなかったのだ。だからこそ戦いたいという自らの希望を堪え、最後まで馬車を守り続けることを選んだのだった。
「僕は、僕のできることを……病気で苦しんでる子が、近くに頼れるハンターがいることで安心するのなら――来た!」
ひとりごちた直後、ヴィリーは二頭の狼を見出す。シルヴィアはこれを懸念していたのだ。
和音とヴィリーは頷きあい、得物を握り直した。
●辿り着いた町で
馬車と共に町へ着いた二人は、町の入り口で六人の到着を待ち受けていた。
『今からそっち行くよー』
と小夏から連絡は受けてはいたが、ヴィリーはどこかそわそわしている。
「大丈夫だろう。ほら来た」
一仕事終えた後の一服を愉しんでいた和音は、六人を見つけ煙草の先で指し示す。
「来たよー」
「ま、一対一じゃ楽勝だったな」
「カウンター決まっとったねぇ」
がやがやとやって来た六人に、ヴィリーは頬を綻ばせ、
「良かった。怪我をした人は? 手当てをしよう」
ヒールをかけて回る。
「そちらは大丈夫でした?」
「途中で二頭現れたけれど、討伐したよ」
ヴィリーの返事にシルヴィアはにこりと頷いた。
「エールだエール!」
「それはまたあとでね。アリィナちゃんは?」
リュンルースの問いに、和音は奥の建物を指した。
「今治療中だ、確認しに行くか?」
訪れた病室ではリタに付き添われたアリィナが、ベッドで安らかな寝息を立てていた。処方された薬が効いたらしい。
それを見たシルヴィアは、一足先にそっと姿をくらませた。
残る七人も安堵と達成感を胸に、アリィナを起こさぬよう静かに病室を後にしたのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談場所 シルヴィア・オーウェン(ka6372) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/01/18 09:45:28 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/01/14 20:05:00 |