ゲスト
(ka0000)
切り裂きダリル
マスター:雪村彩人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/01/20 12:00
- 完成日
- 2017/02/01 22:14
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
――シャキン、シャキンシャキン。
地下室にハサミの鳴る音が響いた。
深夜。町外れの廃屋の地下に広がる倉庫の中であった。
「くくく。恐いか。安心せい。ハンターを始末した後、すぐにお前たちを喰ろうてやるほどに」
闇の中、老人の嗄れた声が響いた。赤光を放つ二つの光点は彼の瞳である。
老人の名はダリル。吸血鬼であった。
数ヶ月前のことである。町を吸血鬼が突如襲った。が、そのうちの四体は死亡。ハンターたちに斃されたのであった。
残るは三体の吸血鬼。老人はそのうちの一体であった。
そのダリルの足元、数人の子供達が転がされている。浚ってきた子供達だ。
「さあて」
ダリルは子供の一人の髪をつかんで引きずり起こした。泣きじゃくる子供にニタリと笑いかけると、告げた。
「お前は助けてやる。戻り、伝えるのじゃ。子供たちを浚ったのは吸血鬼たるダリル。助けたくばハンターほ寄越せ、とな」
子供を送り出して後、ダリルは両手の鋏に視線を落とした。彼の得意とする得物だ。刃は魔性の血でコーティングされており、超硬度の硬さと鋭さを秘めていた。
何故ダリルが鋏に固執するのか、理由は彼自身にもわからない。かつて理髪師であった過去に由来するのかもしれなかった。その記憶はすでに薄れているが。ただ、戦で殺された孫娘の顔のみうっすらと脳裏に残っている。それは残る吸血鬼の一体であるデリアに似ている気がダリルにはしていた。
「ハンターとやらを皆殺しにする。さすればハンターも恐れ、もはや我らの邪魔はするまいて」
ダリルはニンマリと笑った。
●
子供が両親のもとに戻ったのは、それから四十五分後のことである。話を聞いた両親は町長に報せた。
自警団の出動を一度は考えた町長であるが、すぐに諦めた。人間が吸血鬼に敵わないことは幾度の吸血鬼の来襲により思い知らされていたからだ。
「ハンターソサエティにいけ」
町長は命じた。
――シャキン、シャキンシャキン。
地下室にハサミの鳴る音が響いた。
深夜。町外れの廃屋の地下に広がる倉庫の中であった。
「くくく。恐いか。安心せい。ハンターを始末した後、すぐにお前たちを喰ろうてやるほどに」
闇の中、老人の嗄れた声が響いた。赤光を放つ二つの光点は彼の瞳である。
老人の名はダリル。吸血鬼であった。
数ヶ月前のことである。町を吸血鬼が突如襲った。が、そのうちの四体は死亡。ハンターたちに斃されたのであった。
残るは三体の吸血鬼。老人はそのうちの一体であった。
そのダリルの足元、数人の子供達が転がされている。浚ってきた子供達だ。
「さあて」
ダリルは子供の一人の髪をつかんで引きずり起こした。泣きじゃくる子供にニタリと笑いかけると、告げた。
「お前は助けてやる。戻り、伝えるのじゃ。子供たちを浚ったのは吸血鬼たるダリル。助けたくばハンターほ寄越せ、とな」
子供を送り出して後、ダリルは両手の鋏に視線を落とした。彼の得意とする得物だ。刃は魔性の血でコーティングされており、超硬度の硬さと鋭さを秘めていた。
何故ダリルが鋏に固執するのか、理由は彼自身にもわからない。かつて理髪師であった過去に由来するのかもしれなかった。その記憶はすでに薄れているが。ただ、戦で殺された孫娘の顔のみうっすらと脳裏に残っている。それは残る吸血鬼の一体であるデリアに似ている気がダリルにはしていた。
「ハンターとやらを皆殺しにする。さすればハンターも恐れ、もはや我らの邪魔はするまいて」
ダリルはニンマリと笑った。
●
子供が両親のもとに戻ったのは、それから四十五分後のことである。話を聞いた両親は町長に報せた。
自警団の出動を一度は考えた町長であるが、すぐに諦めた。人間が吸血鬼に敵わないことは幾度の吸血鬼の来襲により思い知らされていたからだ。
「ハンターソサエティにいけ」
町長は命じた。
リプレイ本文
●
「人質使って立てこもりねえ、こんなことしたら犯人の立場なら死ぬか投降しか無いんだがな……腕に自信があるか、よっぽどの馬鹿か、両方か」
陽光すら怯えて翳っているようだ。
廃屋を前に声が流れた。物陰に潜む青年が発したものだ。
ハンターで名をリカルド=フェアバーン(ka0356)というのであるが、本名ではない。本当の名はカルロス=フェアバーンといった。
かつてリカルドは麻薬組織の暗殺者であった。が、離反した。組織の内部抗争により瀕死となった友から託された任務を遂行し終えたその時に。今は自身の死を偽装し、顔を変え、リカルドとして生きているのだった。
「おそらく両方だろ」
鍛え抜かれた体躯の青年が薄く笑った。名をヴァイス(ka0364)といい、ハンターであった。
この時、彼は厄介なテキでると確信していた。
通常、犯罪者が立こもるというのは下策である。退路を自ら絶ってしまっているからだ。いくら人質をとったとしても、立てこもった銀行強盗犯などが逃げおおせた試しはなかった。
リカルドのいうとおり、ターゲットが馬鹿ならばいい。が、もしそうでないなら、どうか。ハンターを誘き寄せて殺す自身があるのだ。よほどの実力者に違いなかった。
「いや」
生真面目そうな青年が首を振った。メンカル(ka5338)という名のハンターである。
「もう一つある。奴は俺たちを侮っているんだ」
メンカルは静かに告げた。そう、静かな声音で。が、その声の底にはたわめられた殺気がある。
冷静な外見からは窺い知れないが、メンカルは怒っていた。子供を人質にとるという吸血鬼の卑劣な手段に対して。
「ハンターをなめているとするなら、ムカつくがありがたいな」
艶やかな黒髪をツインテールにした少女がニヤリとした。小柄で華奢。美しい少女だ。耳の先端が尖っているところからみてエルフであろう。
「すでに四体の吸血鬼が現れた。他にも数体いると考えた方が自然だ。そいつらが束になって襲いかかってきたしたら――」
少女――ミク・ノイズ(ka6671)は声を途切れさせた。
吸血鬼は一体であっても強力だ。超人ともいえるハンターであっても数人でかからねばならぬほどの難敵である。多対一という構図はハンターにとってはありがたいものであった。
「吸血鬼ですか……」
少なからぬ感慨をこめ、その若者は唸った。飄然としてつかみどころのない雰囲気をもった彼の名はクオン・サガラ(ka0018)というのであるが、その故郷であるリアルブルーにおいて吸血鬼は伝説上の存在であったからだ。
「クリムゾンウェストの吸血鬼については分かりませんが、リアルブルーでの伝説上の吸血鬼は……まあ、ランクによりますが、蝙蝠に変身したり、霧と化したりと多彩な能力を有する厄介なモノですが」
「こちらの吸血鬼は少し違います」
十歳ほどに見える少女がこたえた。銀糸の髪と謎めいた紅瞳をもつ神秘的な少女で、名をファリス(ka2853)という。
彼女の知る吸血鬼はクオンのいうものとは明らかに別種であった。血にまつわる能力は似ているかもしれないが、根本のところで違っている。クリムゾンウェストの吸血鬼は、その存在の最も禍々しさである爆発的ともいえる感染力を保持してはいなかった。
反面、彼らにはリアルブルーの吸血鬼のもつ弱点がなかった。ニンニクも太陽光も恐れはしない。
「……弱点がない、か」
クオンは唇を噛んだ。伝説の魔物と実際に相見える喜びに浸っている場合ではない。
その時だ。ファリスは、早く、と声をもらした。
「……一刻も早く子供達を助けるの! その為にファリス、全力を尽くすの!」
「じゃあ、そろそろいこうよ」
十代半ばほどに見える女が促した。十色 乃梛(ka5902)という名のハンターであるのだが、彼女は首を少し傾げた。レクイエムが効くかと思ったのだ。
レクイエムとは魔法であった。静かな鎮魂歌に聞こえる旋律を奏でたり、歌い上げることにより、正ならざる生命の行動を阻害するというものだ。もし効くようなら救出に利用できるかも知れなかった。
攻撃に関しててあるが、それはとにかくひたすらに鞭でうつしかないと乃梛は考えている。リアルブルーに伝わるヴァンパイアハンターのように。そのヴァンパイアハンターは彼女の憧れでもあった。
「そうだな」
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)という名のハンターがうなずいた。無論ハンターであるのだが、その蒼の瞳には激しい炎が燃え上がっている。憎悪という名の炎が。
コーネリアはかつて英国海軍大尉であった。そして歪虚との戦いで妹と部下を失った。その時に彼女は軍人であることをやめたのだった。
そのコーネリアがハンターとなった理由は一つ。ただ歪虚を殺す。そのために今日もコーネリアは修羅の道をゆくのであった。
●
地下室に通じるドアが吹き飛んだ。四角く切り取られた入口の空間に浮かんだのは一つの影である。
「こんちゃーっす三河屋でーす! お命頂戴にまいりましたー!」
やけに明るい声が影から響いた。暗視能力のある吸血鬼――ダリルはその影の顔を見てとっている。リカルドだ。
「……三河屋とな?」
「ああ。ちなみに三河屋ってのは、リアルブルーの日本で表向きは酒の販売がメインなんだが、実際は武闘派のヒットマンの集団でな。俺も仕事をしていたとき何度か出くわしたことがあったっけ……」
リカルドは不敵にニヤリとした。三河屋に関しては資料で得た知識である。製革でるのかはあまり自信はなかった。
ダリルは牙の覗く口をゆがめた。
「三河屋などに用はない。わしはハンターを寄越せといったはずじゃが。きけぬなら、まずは小童を一人殺す。よいか?」
「待て」
さすがにリカルドは慌てた。
「今のはリアルブルージョークだ」
「ならば」
「そうだ」
別の影がうなずいた。これはヴァイスである。
「俺たちはハンターだ」
告げるなり、ヴァイスは階段を駆け下りた。リカルドもまた。
ダリルが問うた。
「二人、か? このダリルもなめられたものじゃな」
「違う」
声が闇に響いた。直後、銃声が鳴り響いた。
この時、ダリルの目は銃をかまえた女の姿をとらえている。コーネリアであった。
「歪虚風情がハンターを呼び寄せてどういうつもりだ。子供など浚わずとも、殺してほしければ何時でも来てやったのだがな」
「殺せるか、わしを?」
「ああ。すぐに殺してみせる。そうすればすぐ死んだ仲間に会えるから安心しろ」
「そういくかな?」
ダリルは手を上げた。瞬間、淡い光が闇を切り裂く。ヴァイスのインストーラー――柄の部分に魔導機械が取り付けられた魔導符剣が光っているのだった。
「ぬっ」
ハンターたちの口から愕然たる呻きがもれた。
光に浮かび上がったもの。それはダリルに細い首を掴まれた子供の姿であった。
●
「……卑怯だぞ」
コーネリアが憎悪で軋む声を発した。するとダリルはふふんと嘲笑った。
「何をほざく。人質の小童がいることを承知で来たのではなかったか。まさか手駒を使わず、正々堂々と戦うとでも思っていたのではあるまいなあ。――おっと」
ダリルは三人のハンターの背後に視線をむけた。闇をぬって動く四つの影を彼の魔性の目はとらえている。
「ネズミども。動くなよ。動かばこの小童の首をへし折るぞ」
「吸血鬼め」
影の一つから呻くような声がもれた。ミクである。
悔しいが、確かに吸血鬼のいうとおりであった。吸血鬼の反射速度は人間のそれを遥かに上回る。何らかの業を使用しない限り、子供の奪還は不可能だろう。
「まずは、来い」
ダリルはハンターたちを差し招いた。仕方なくハンターたちはダリルの前に。刹那である。ダリルの手が通常人の目には視認不可能な速度で動いた。
次の瞬間、薄闇に黒々と鮮血がしぶいた。身を切り裂かれたハンターたちががくりと膝を折る。
ダリルの手には鋏が握られていた。切っ先からはポタポタと血が滴り落ち、床に血だまりをつくっている。
「哀しいのう、ハンターとやら。人質をとられてしまえば、木偶人形のごとく何もできぬとは……さあて。お遊びはここまでじゃ。そろそろ止めを刺し、仲間の供養としてくれる」
ダリルが鋏を持ち上げた。すると闇に不思議な気が満ちた。ハンター達の傷がわずかではあるが回復する。
「ほう」
ダリルの目が乃梛にむけられた。彼女の祈りによりハンターたちの傷が治癒したことに気づいたのだ。
「面白い術を使う。が。これならどうじゃ」
ダリルは再びハンターたちを切り裂いた。すると乃梛もまた祈りを捧げる。
「何度やっても同じだよ。私は仲間を傷つけさせはしない」
「そうかな」
ダリルが切る。乃梛が癒す。それが幾度続いただろうか。
「さすがに飽きたの。ならばお前を先に殺すまでのこと」
ダリルは鋏を乃梛にむけた。
その時だ。ひゅうと闇が哭いた。そして子供の首を掴むダリルの手がはなれた。
何が起こったのか、わからない。唯一暗視能力をもつダリルのみは見とめていた。コウモリの形をした黒色の武器が彼の手を切り裂いて疾ったことを。
「ハンターをなめてもらっては困る」
入口で隠れていたメンカルが呟いた。
●
クオンが跳んだ。落下する子供を抱きとめる。
「させるか」
ダリルが鋏を振り下ろし――とまった。静かな歌声が流れている。乃梛のレクイエムだ。
「吸血鬼! ファリスが相手なの!」
ファリスが手を差し出した。空間に魔法陣展開。中心から炎の矢が撃ち出された。
咄嗟にダリルは跳び退った。炎の矢が流れすぎていく。地に降り立つなり、再びダリルは跳んだ。他の子供たちのところへ。あらたな人質とするつもりであった。
が、盾が立ちはだかった。ミクだ。
反射的にダリルは別方向に跳んだ。空気のみを足場とする吸血鬼しか成し得ぬ魔性の業で。
「足掻くのはそこまでだ」
ヴァイスが刃をたばしらせた。
ギンッ。
静寂を破る悲鳴めいた音とともに眩い光が散った。空で二つの刃が噛み合っている。ダリルの鋏とインストーラーの刃が。
キリキリキリキリ。
火花を散らせつつ、鋏がインストーラーの刃をすべった。一瞬で間合いをつめたダリルの左手には別の鋏が握られている。
空でヴァイスとダリルの視線がからみあい――びしりと空間に亀裂が入った瞬間、ヴァイスとダリルは跳んで離れた。二人の眼前を銃弾が流れすぎていく。
「吸血鬼」
鋭い声がとんだ。コーネリアだ。爛と燃える目がダリルを睨み据えている。
「きさま、仲間の供養とかぬかしたな。歪虚風情が仲間の死を悼むか。大したタマだな。が、貴様らは呼び寄せる相手を間違えた」
コーネリアはパニッシュメント――聖別された銀で作られた銃身を持つ、純白の神々しい魔導拳銃のトリガーをひいた。マズルフラッシュが闇を白く染める。
瞬間、ダリルが動いた。左右手の鋏を視認不可能な速度で舞わせ、弾丸をはじく。
その動きは、さしものダリルにとっても限界を超えたものであった。破れた毛細血管からしぶく鮮血によってダリルの身が真紅にけぶる。
「やっぱり化物だね、吸血鬼というのは」
乃梛は再び術式化された歌を紡いだ。その乃梛を光が浮かび上がらせる。炎が空でゆらいでいた。
「闇は私たちが祓います」
ファリスが告げた。
その時、クオンは子供を抱いたまま走っていた。階段を駆け上がる。まずは子供達の安全をはかる必要があった。
メンカルは他の子供達のところに駆け寄っていた。
「もう大丈夫だ。怪我はないか?」
メンカルが問うと、涙をうかべた子供達がこくんとうなずいた。
「ならば逃げるぞ。動けるか? 動けるなら走れ」
メンカルが促すと、子供達ははねるように立ち上がった。多少ふらつきながに入口めがけて走っていく。
「逃がすか」
ダリルが子供達に目をむけた。その眼前、するすると立ちはだかった者がいる。ミクだ。
「邪魔じゃ」
無造作にダリルがミクの首を鋏で断ち切った。
●
ぽろりとミクの首が落ちた。
刹那である。白光がはねあがった。
「何っ」
愕然としてダリルは呻いた。刃が胸を貫いている。ミクの手の刃が。
「ぬ、ぬかった」
首はつくりものであると悟り、睨みあげているミクめがけてダリルは鋏を薙ぎつけた。
ぎいん。
火花を散らし、鋏がはじかれた。はじいたのはメンカルのディモルダクス――竜の尻尾のように見える、節をいくつも備えた禍々しい雰囲気の刀であった。
「吸血鬼は頭を潰せば死ぬんだよな?」
ダリルの頭部にリカルドは拳を叩きつけた。チャンドラヴァルマン――魔導ガントレット「チャンドラヴァルマンに包まれた拳を。
ダリルの頭部が半壊した。血と脳漿を散らせ、ダリルが跳び退る。と――。
轟音が薄闇をたたき、ダリルの額が爆ぜた。撃ち込まれた弾丸のために。
着弾の衝撃にさらに飛ばされたものの、ダリルは地に降り立った。が、動かない。動けない。それでも容赦なくコーネリアは弾丸を叩き込み続けた。
「所詮貴様らは人間の怒りに触れ、蹂躙された挙句抹殺されるのが宿命だ。貴様如きでは妹への手向けにもならんがな」
薄闇に冷たいコーネリアの声が響いた時、ダリルの頭部は完全に粉砕された。
「……ダリルが死んだわ」
ぽつりと女吸血鬼がもらした。デリアである。
「ふふん」
隣に座す美少年が笑った。
「それがどうした?」
「どうもしないわ。でも、街の奴らを殺す。ダリルたち一人につき、百人を」
デリアはいった。
「人質使って立てこもりねえ、こんなことしたら犯人の立場なら死ぬか投降しか無いんだがな……腕に自信があるか、よっぽどの馬鹿か、両方か」
陽光すら怯えて翳っているようだ。
廃屋を前に声が流れた。物陰に潜む青年が発したものだ。
ハンターで名をリカルド=フェアバーン(ka0356)というのであるが、本名ではない。本当の名はカルロス=フェアバーンといった。
かつてリカルドは麻薬組織の暗殺者であった。が、離反した。組織の内部抗争により瀕死となった友から託された任務を遂行し終えたその時に。今は自身の死を偽装し、顔を変え、リカルドとして生きているのだった。
「おそらく両方だろ」
鍛え抜かれた体躯の青年が薄く笑った。名をヴァイス(ka0364)といい、ハンターであった。
この時、彼は厄介なテキでると確信していた。
通常、犯罪者が立こもるというのは下策である。退路を自ら絶ってしまっているからだ。いくら人質をとったとしても、立てこもった銀行強盗犯などが逃げおおせた試しはなかった。
リカルドのいうとおり、ターゲットが馬鹿ならばいい。が、もしそうでないなら、どうか。ハンターを誘き寄せて殺す自身があるのだ。よほどの実力者に違いなかった。
「いや」
生真面目そうな青年が首を振った。メンカル(ka5338)という名のハンターである。
「もう一つある。奴は俺たちを侮っているんだ」
メンカルは静かに告げた。そう、静かな声音で。が、その声の底にはたわめられた殺気がある。
冷静な外見からは窺い知れないが、メンカルは怒っていた。子供を人質にとるという吸血鬼の卑劣な手段に対して。
「ハンターをなめているとするなら、ムカつくがありがたいな」
艶やかな黒髪をツインテールにした少女がニヤリとした。小柄で華奢。美しい少女だ。耳の先端が尖っているところからみてエルフであろう。
「すでに四体の吸血鬼が現れた。他にも数体いると考えた方が自然だ。そいつらが束になって襲いかかってきたしたら――」
少女――ミク・ノイズ(ka6671)は声を途切れさせた。
吸血鬼は一体であっても強力だ。超人ともいえるハンターであっても数人でかからねばならぬほどの難敵である。多対一という構図はハンターにとってはありがたいものであった。
「吸血鬼ですか……」
少なからぬ感慨をこめ、その若者は唸った。飄然としてつかみどころのない雰囲気をもった彼の名はクオン・サガラ(ka0018)というのであるが、その故郷であるリアルブルーにおいて吸血鬼は伝説上の存在であったからだ。
「クリムゾンウェストの吸血鬼については分かりませんが、リアルブルーでの伝説上の吸血鬼は……まあ、ランクによりますが、蝙蝠に変身したり、霧と化したりと多彩な能力を有する厄介なモノですが」
「こちらの吸血鬼は少し違います」
十歳ほどに見える少女がこたえた。銀糸の髪と謎めいた紅瞳をもつ神秘的な少女で、名をファリス(ka2853)という。
彼女の知る吸血鬼はクオンのいうものとは明らかに別種であった。血にまつわる能力は似ているかもしれないが、根本のところで違っている。クリムゾンウェストの吸血鬼は、その存在の最も禍々しさである爆発的ともいえる感染力を保持してはいなかった。
反面、彼らにはリアルブルーの吸血鬼のもつ弱点がなかった。ニンニクも太陽光も恐れはしない。
「……弱点がない、か」
クオンは唇を噛んだ。伝説の魔物と実際に相見える喜びに浸っている場合ではない。
その時だ。ファリスは、早く、と声をもらした。
「……一刻も早く子供達を助けるの! その為にファリス、全力を尽くすの!」
「じゃあ、そろそろいこうよ」
十代半ばほどに見える女が促した。十色 乃梛(ka5902)という名のハンターであるのだが、彼女は首を少し傾げた。レクイエムが効くかと思ったのだ。
レクイエムとは魔法であった。静かな鎮魂歌に聞こえる旋律を奏でたり、歌い上げることにより、正ならざる生命の行動を阻害するというものだ。もし効くようなら救出に利用できるかも知れなかった。
攻撃に関しててあるが、それはとにかくひたすらに鞭でうつしかないと乃梛は考えている。リアルブルーに伝わるヴァンパイアハンターのように。そのヴァンパイアハンターは彼女の憧れでもあった。
「そうだな」
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)という名のハンターがうなずいた。無論ハンターであるのだが、その蒼の瞳には激しい炎が燃え上がっている。憎悪という名の炎が。
コーネリアはかつて英国海軍大尉であった。そして歪虚との戦いで妹と部下を失った。その時に彼女は軍人であることをやめたのだった。
そのコーネリアがハンターとなった理由は一つ。ただ歪虚を殺す。そのために今日もコーネリアは修羅の道をゆくのであった。
●
地下室に通じるドアが吹き飛んだ。四角く切り取られた入口の空間に浮かんだのは一つの影である。
「こんちゃーっす三河屋でーす! お命頂戴にまいりましたー!」
やけに明るい声が影から響いた。暗視能力のある吸血鬼――ダリルはその影の顔を見てとっている。リカルドだ。
「……三河屋とな?」
「ああ。ちなみに三河屋ってのは、リアルブルーの日本で表向きは酒の販売がメインなんだが、実際は武闘派のヒットマンの集団でな。俺も仕事をしていたとき何度か出くわしたことがあったっけ……」
リカルドは不敵にニヤリとした。三河屋に関しては資料で得た知識である。製革でるのかはあまり自信はなかった。
ダリルは牙の覗く口をゆがめた。
「三河屋などに用はない。わしはハンターを寄越せといったはずじゃが。きけぬなら、まずは小童を一人殺す。よいか?」
「待て」
さすがにリカルドは慌てた。
「今のはリアルブルージョークだ」
「ならば」
「そうだ」
別の影がうなずいた。これはヴァイスである。
「俺たちはハンターだ」
告げるなり、ヴァイスは階段を駆け下りた。リカルドもまた。
ダリルが問うた。
「二人、か? このダリルもなめられたものじゃな」
「違う」
声が闇に響いた。直後、銃声が鳴り響いた。
この時、ダリルの目は銃をかまえた女の姿をとらえている。コーネリアであった。
「歪虚風情がハンターを呼び寄せてどういうつもりだ。子供など浚わずとも、殺してほしければ何時でも来てやったのだがな」
「殺せるか、わしを?」
「ああ。すぐに殺してみせる。そうすればすぐ死んだ仲間に会えるから安心しろ」
「そういくかな?」
ダリルは手を上げた。瞬間、淡い光が闇を切り裂く。ヴァイスのインストーラー――柄の部分に魔導機械が取り付けられた魔導符剣が光っているのだった。
「ぬっ」
ハンターたちの口から愕然たる呻きがもれた。
光に浮かび上がったもの。それはダリルに細い首を掴まれた子供の姿であった。
●
「……卑怯だぞ」
コーネリアが憎悪で軋む声を発した。するとダリルはふふんと嘲笑った。
「何をほざく。人質の小童がいることを承知で来たのではなかったか。まさか手駒を使わず、正々堂々と戦うとでも思っていたのではあるまいなあ。――おっと」
ダリルは三人のハンターの背後に視線をむけた。闇をぬって動く四つの影を彼の魔性の目はとらえている。
「ネズミども。動くなよ。動かばこの小童の首をへし折るぞ」
「吸血鬼め」
影の一つから呻くような声がもれた。ミクである。
悔しいが、確かに吸血鬼のいうとおりであった。吸血鬼の反射速度は人間のそれを遥かに上回る。何らかの業を使用しない限り、子供の奪還は不可能だろう。
「まずは、来い」
ダリルはハンターたちを差し招いた。仕方なくハンターたちはダリルの前に。刹那である。ダリルの手が通常人の目には視認不可能な速度で動いた。
次の瞬間、薄闇に黒々と鮮血がしぶいた。身を切り裂かれたハンターたちががくりと膝を折る。
ダリルの手には鋏が握られていた。切っ先からはポタポタと血が滴り落ち、床に血だまりをつくっている。
「哀しいのう、ハンターとやら。人質をとられてしまえば、木偶人形のごとく何もできぬとは……さあて。お遊びはここまでじゃ。そろそろ止めを刺し、仲間の供養としてくれる」
ダリルが鋏を持ち上げた。すると闇に不思議な気が満ちた。ハンター達の傷がわずかではあるが回復する。
「ほう」
ダリルの目が乃梛にむけられた。彼女の祈りによりハンターたちの傷が治癒したことに気づいたのだ。
「面白い術を使う。が。これならどうじゃ」
ダリルは再びハンターたちを切り裂いた。すると乃梛もまた祈りを捧げる。
「何度やっても同じだよ。私は仲間を傷つけさせはしない」
「そうかな」
ダリルが切る。乃梛が癒す。それが幾度続いただろうか。
「さすがに飽きたの。ならばお前を先に殺すまでのこと」
ダリルは鋏を乃梛にむけた。
その時だ。ひゅうと闇が哭いた。そして子供の首を掴むダリルの手がはなれた。
何が起こったのか、わからない。唯一暗視能力をもつダリルのみは見とめていた。コウモリの形をした黒色の武器が彼の手を切り裂いて疾ったことを。
「ハンターをなめてもらっては困る」
入口で隠れていたメンカルが呟いた。
●
クオンが跳んだ。落下する子供を抱きとめる。
「させるか」
ダリルが鋏を振り下ろし――とまった。静かな歌声が流れている。乃梛のレクイエムだ。
「吸血鬼! ファリスが相手なの!」
ファリスが手を差し出した。空間に魔法陣展開。中心から炎の矢が撃ち出された。
咄嗟にダリルは跳び退った。炎の矢が流れすぎていく。地に降り立つなり、再びダリルは跳んだ。他の子供たちのところへ。あらたな人質とするつもりであった。
が、盾が立ちはだかった。ミクだ。
反射的にダリルは別方向に跳んだ。空気のみを足場とする吸血鬼しか成し得ぬ魔性の業で。
「足掻くのはそこまでだ」
ヴァイスが刃をたばしらせた。
ギンッ。
静寂を破る悲鳴めいた音とともに眩い光が散った。空で二つの刃が噛み合っている。ダリルの鋏とインストーラーの刃が。
キリキリキリキリ。
火花を散らせつつ、鋏がインストーラーの刃をすべった。一瞬で間合いをつめたダリルの左手には別の鋏が握られている。
空でヴァイスとダリルの視線がからみあい――びしりと空間に亀裂が入った瞬間、ヴァイスとダリルは跳んで離れた。二人の眼前を銃弾が流れすぎていく。
「吸血鬼」
鋭い声がとんだ。コーネリアだ。爛と燃える目がダリルを睨み据えている。
「きさま、仲間の供養とかぬかしたな。歪虚風情が仲間の死を悼むか。大したタマだな。が、貴様らは呼び寄せる相手を間違えた」
コーネリアはパニッシュメント――聖別された銀で作られた銃身を持つ、純白の神々しい魔導拳銃のトリガーをひいた。マズルフラッシュが闇を白く染める。
瞬間、ダリルが動いた。左右手の鋏を視認不可能な速度で舞わせ、弾丸をはじく。
その動きは、さしものダリルにとっても限界を超えたものであった。破れた毛細血管からしぶく鮮血によってダリルの身が真紅にけぶる。
「やっぱり化物だね、吸血鬼というのは」
乃梛は再び術式化された歌を紡いだ。その乃梛を光が浮かび上がらせる。炎が空でゆらいでいた。
「闇は私たちが祓います」
ファリスが告げた。
その時、クオンは子供を抱いたまま走っていた。階段を駆け上がる。まずは子供達の安全をはかる必要があった。
メンカルは他の子供達のところに駆け寄っていた。
「もう大丈夫だ。怪我はないか?」
メンカルが問うと、涙をうかべた子供達がこくんとうなずいた。
「ならば逃げるぞ。動けるか? 動けるなら走れ」
メンカルが促すと、子供達ははねるように立ち上がった。多少ふらつきながに入口めがけて走っていく。
「逃がすか」
ダリルが子供達に目をむけた。その眼前、するすると立ちはだかった者がいる。ミクだ。
「邪魔じゃ」
無造作にダリルがミクの首を鋏で断ち切った。
●
ぽろりとミクの首が落ちた。
刹那である。白光がはねあがった。
「何っ」
愕然としてダリルは呻いた。刃が胸を貫いている。ミクの手の刃が。
「ぬ、ぬかった」
首はつくりものであると悟り、睨みあげているミクめがけてダリルは鋏を薙ぎつけた。
ぎいん。
火花を散らし、鋏がはじかれた。はじいたのはメンカルのディモルダクス――竜の尻尾のように見える、節をいくつも備えた禍々しい雰囲気の刀であった。
「吸血鬼は頭を潰せば死ぬんだよな?」
ダリルの頭部にリカルドは拳を叩きつけた。チャンドラヴァルマン――魔導ガントレット「チャンドラヴァルマンに包まれた拳を。
ダリルの頭部が半壊した。血と脳漿を散らせ、ダリルが跳び退る。と――。
轟音が薄闇をたたき、ダリルの額が爆ぜた。撃ち込まれた弾丸のために。
着弾の衝撃にさらに飛ばされたものの、ダリルは地に降り立った。が、動かない。動けない。それでも容赦なくコーネリアは弾丸を叩き込み続けた。
「所詮貴様らは人間の怒りに触れ、蹂躙された挙句抹殺されるのが宿命だ。貴様如きでは妹への手向けにもならんがな」
薄闇に冷たいコーネリアの声が響いた時、ダリルの頭部は完全に粉砕された。
「……ダリルが死んだわ」
ぽつりと女吸血鬼がもらした。デリアである。
「ふふん」
隣に座す美少年が笑った。
「それがどうした?」
「どうもしないわ。でも、街の奴らを殺す。ダリルたち一人につき、百人を」
デリアはいった。
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きちんと相談するの! ファリス(ka2853) 人間(クリムゾンウェスト)|13才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/01/19 19:35:12 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/01/18 08:02:44 |