ゲスト
(ka0000)
Ancient Camellia
マスター:えりあす

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/12 19:00
- 完成日
- 2014/10/19 11:51
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
山にほど近い小さな農村では、木々が衣替えをしたように美しく色づきはじめていた。少し辺りを見渡すだけでも、鮮やかに染まった紅葉が目を楽しませてくれる。この景色を見るためだけに、山を訪れる人も多いという。一年を通して、限られた期間・場所でしか見ることのできない光景は、それだけで価値があるものだ。
初秋の終わりを告げる涼しく心地よい風を肌に感じながら、男は農道を歩いていた。しかし、その目は秋の景色を楽しんでいるものではなく、殺気に満ちている。農家である彼が鋭い眼差しを巡らせているのには理由があった。
「まったく、いつも野菜を食い散らかしやがって」
出荷を控えた秋野菜が、サルやイノシシなどの動物によって被害を受けていた。昨日は追っ払ったが、今日も柵を越えてサルどもが畑に侵入しているのを目撃。こうなったら、徹底的に追い詰めてやる……鍬を矛に持ち替え、男は犯人を追っていく。
山が近くになるにつれて道は険しくなっていくが、足腰を畑仕事で鍛えた彼にとっては苦にならない。一般人なら音を上げそうな起伏の激しい道を、男は力強い足取りで進んでいった。
「ここか」
男が立ち止まった先には、野菜の食い残しが散らかっている。自然に育った野菜であるわけがなく、明らかに畑で盗まれたものだ。ヤツらはこの近くに潜んでいる。男は鬱蒼とした木々が生い茂る周囲へ、憤怒を湛えた視線を走らせた。
よく見ると、ここは薄気味悪い。地面には石畳が敷かれており、それは何かの文様を描いているようだった。そういえば、昔はこの辺りで収穫の吉凶を占う儀式があったらしい。爺から聞いた話だから、それがどういったものなのかはよくわからないが。
そんなことより、畑泥棒の犯人に一泡吹かせてやろう……男の耳に雑音が届いていた。近い。矛を持つ手に力が入る。
だが、何か変だ。男は息を潜める。木々の隙間から聞こえるノイズは、生き物がもがき苦しむ声のようだった。
そっと呻きに近づいた男の眼前に、およそ常識のものとは思えない光景が現れた。
「ギギギ……」
サルが木の根に掴まれて苦しんでいる。周りは椿の木々が連なり、その中でも特異だったのが人の姿によく似た椿だった。よく見れば女性のようにも思えるが、腕や下半身は椿そのものである。その幹は長い年月を経ているのか、目に見えて枯れ腐っており、何かを欲するようにゆっくりと異形の根がサルの首を締め上げていく。
――ボトリ。
山下の朱に染まるは花か、血か。秋咲き椿の香りに、異臭が混ざった。
おぞましい感覚が背筋を這い登る。刹那、凍りついたように硬直した男だったが……我に返ると、すぐさま悲鳴をあげながら逃げ帰った。男は無意識に、一番正しい行動を選択したのだった。
男の報告によって村は騒がしくなった。村人の大半は作り話だの夢を見たんだろうなどと笑っていたのだが、好奇心の強い少年が帰らぬ人となったことで、それが事実であることが証明されたのだ。少年の遺体に頭は、無い。
後日、ハンターオフィスに依頼が届けられた。書類には事細かに状況などが記されいるが、受付嬢はそれをため息混じりに見流している。何か依頼はないかという一瞥を投げるハンター達に、受付嬢は言った。
「木の雑魔が出たみたいなので、倒してきてください!」
初秋の終わりを告げる涼しく心地よい風を肌に感じながら、男は農道を歩いていた。しかし、その目は秋の景色を楽しんでいるものではなく、殺気に満ちている。農家である彼が鋭い眼差しを巡らせているのには理由があった。
「まったく、いつも野菜を食い散らかしやがって」
出荷を控えた秋野菜が、サルやイノシシなどの動物によって被害を受けていた。昨日は追っ払ったが、今日も柵を越えてサルどもが畑に侵入しているのを目撃。こうなったら、徹底的に追い詰めてやる……鍬を矛に持ち替え、男は犯人を追っていく。
山が近くになるにつれて道は険しくなっていくが、足腰を畑仕事で鍛えた彼にとっては苦にならない。一般人なら音を上げそうな起伏の激しい道を、男は力強い足取りで進んでいった。
「ここか」
男が立ち止まった先には、野菜の食い残しが散らかっている。自然に育った野菜であるわけがなく、明らかに畑で盗まれたものだ。ヤツらはこの近くに潜んでいる。男は鬱蒼とした木々が生い茂る周囲へ、憤怒を湛えた視線を走らせた。
よく見ると、ここは薄気味悪い。地面には石畳が敷かれており、それは何かの文様を描いているようだった。そういえば、昔はこの辺りで収穫の吉凶を占う儀式があったらしい。爺から聞いた話だから、それがどういったものなのかはよくわからないが。
そんなことより、畑泥棒の犯人に一泡吹かせてやろう……男の耳に雑音が届いていた。近い。矛を持つ手に力が入る。
だが、何か変だ。男は息を潜める。木々の隙間から聞こえるノイズは、生き物がもがき苦しむ声のようだった。
そっと呻きに近づいた男の眼前に、およそ常識のものとは思えない光景が現れた。
「ギギギ……」
サルが木の根に掴まれて苦しんでいる。周りは椿の木々が連なり、その中でも特異だったのが人の姿によく似た椿だった。よく見れば女性のようにも思えるが、腕や下半身は椿そのものである。その幹は長い年月を経ているのか、目に見えて枯れ腐っており、何かを欲するようにゆっくりと異形の根がサルの首を締め上げていく。
――ボトリ。
山下の朱に染まるは花か、血か。秋咲き椿の香りに、異臭が混ざった。
おぞましい感覚が背筋を這い登る。刹那、凍りついたように硬直した男だったが……我に返ると、すぐさま悲鳴をあげながら逃げ帰った。男は無意識に、一番正しい行動を選択したのだった。
男の報告によって村は騒がしくなった。村人の大半は作り話だの夢を見たんだろうなどと笑っていたのだが、好奇心の強い少年が帰らぬ人となったことで、それが事実であることが証明されたのだ。少年の遺体に頭は、無い。
後日、ハンターオフィスに依頼が届けられた。書類には事細かに状況などが記されいるが、受付嬢はそれをため息混じりに見流している。何か依頼はないかという一瞥を投げるハンター達に、受付嬢は言った。
「木の雑魔が出たみたいなので、倒してきてください!」
リプレイ本文
遠方に望んだときは、秋色に染め上げられた幾多の木々がハンター達の目にしばしの安らぎを与えてくれたが、山へと近づくにつれて、その景観は次第に影を帯びてくるようになった。単純に自然が間近となることで、周囲の木々が日を遮るようになり、周囲が薄暗くなったというだけのことなのだが……理由がそれだけでないように思えて、どうにも陰鬱な気分になってくる。
「この辺りまでで大丈夫かな。お兄さん、ありがと~」
胸にわだかまる黒い靄を晴らそうと、メイム(ka2290)がここまで案内してくれた農家の男に、元気な声で感謝の言葉を送った。彼によれば、この先にかつて村の儀式で使われていた場所があるらしい。村の平和を脅かす討つべき存在は、その辺りにいるはずだ。
大きく手を振って別れのあいさつをするメイムの隣で、オウカ・レンヴォルト(ka0301)も静かに男の背中を見送った。慌てて帰路につく男の危なげない足取りを見届けると、オウカは視線をバルバロス(ka2119)に向ける。目につくのは、張りあがった筋肉に刻まれた幾多の生傷。戦場でペアを組む相手が痛ましい姿だと、やはり気がかりだ。
「……大丈夫か、その傷?」
「ふはははは! この程度、どうってことないわい!」
戦士にとって傷は勲章とばかりに、バルバロスは豪快に笑い飛ばす。
「いくら頑丈だからって、あまり無理はするなよ」
ラディスラウス・ライツ(ka3084)の軽い手当と自己治癒によって、深い傷は影響がないくらいに塞がっていた。しかし、一抹の不安は残る。後の戦いで、バルバロスは自分を癒せるだけのマテリアルが残っているのだろうか。
なるべく怪我はするなよ……と、ラディスラウスは吐息のように小さくつぶやき、斧を担ぐ豪胆なドワーフの後を追った。
「俺達も行こうぜ、オウカ」
手にした地図を参照しながら、ヴァイス(ka0364)達も歩き出す。地図には、男から聞き出した事柄がいくつか記されていた。未知の事象と遭遇し、恐怖を伴う状態で目に焼き付いた事柄というものは、やはり曖昧なものとなってしまうらしい。大きさは人の倍くらい、遭遇地点から動いたかどうかはわからない……話の内容は茫漠たるものであった。
「根は地中に埋まっていない、らしいぜ」
ただ、その覚え書きの中でも、有用そうな情報のひとつが大きく丸で囲まれている。根は足の代わりにもなるのか、地中には埋まってないようだ。ならば、這いずった痕跡があるはず。動きも早くないようだし、探すのは難しくないだろう。ハンター達は先を急ぐ。
「それにしても、静かですね」
感覚を研ぎ澄まし、先程から周囲の状況に目を配るガーベラ・M・ベッドフォード(ka2401)だが、この辺りに動物の気配は見て取れない。すでに異形を警戒して遠ざかったのか、あるいは……不意に脳裏を過った不安に反応し、彼女は思わず地面へと視線を落とす。が、最悪の状況では、無い。安息が漏れる。
静寂の中に聞こえるのは、木々の紅く色づいた葉を落とそうとしている、いたずらな風の音。晩秋の気配を乗せた少し冷たい風に吹かれ、ハンター達は身震いした。この妙な悪寒は、日に日に深まってくる秋の気配を、体が感じるからなのだろうか。
「……この辺りの地面、なんだか不自然な感じがするわ」
ジェーン・ノーワース(ka2004)が今日初めて、深くかぶったフードの中から顔を出した。自然にできた起伏ではなく、明らかに人の手が入っていると思われる地面。よく見れば、そこに石畳が敷かれている。
「これは、魔術的なものが関わっているようですね」
ガーベラが石畳の規則性に気づく。敷かれた石畳の配列は籠目であり、それは幾多の格子が連なる複雑な文様だ。この辺りで過去に収穫の吉凶を占う儀式があったとのことだが、それに関わることなのだろうか。しかし、それ以上は情報もなく、ハンター達が知る由もない。
再びフードを深くかぶると、長居は無用とばかりにジェーンは儀式場を背にした。
「風の流れが変わりましたね」
この周辺が怪しいと雑魔を追うハンター達だが、流れが不自然になった風の動きが気になり、〆垣 師人(ka2709)が立ち止まる。一枚、地面に落ちている枯れ葉を拾うと、それを飛ばして風向きを確かめた。
「なるほど、そこですね」
視線の先には、茂みの中に身を潜め、大きな根を揺らしながら、こちらの首を捕らんと待ち構えている古椿の化け物……風の流れを遮っていたのは、ハンター達が追うターゲットだった。
「あ、あ、あ、足元!」
同時にメイムの小さな悲鳴が響いた。
「あれは、猿の頭のようね……まったく、悪い趣味だわ」
ジェーンは蒼色の槍を手に取り、椿雑魔との位置を慎重に見計らいながら、マテリアル発動のタイミングを探っている。同時に周囲の椿にも目をやるが、朱の花を咲かせているだけで、変わった様子もない。問題無いと認識したジェーンは、烈々たる気迫を脚に込め、力強く地を蹴った。
メイムも先ほどの声を訂正するかのように、裂帛の気合を椿の雑魔にぶつけていく。
「足元攻撃注意、人型部分も何か能力あるかもしれないから油断しないでね」
「まだ雑魔に有利な間合いだしな。慎重にいくぜ!」
無数の根を警戒しながら、ヴァイスがリボルビングソーを構えた。木を切り倒すには、うってつけのアイテムだ。ラブリュスを強く握りしめたバルバロスも、オウカの支援を受けて斬り込んでいく。様子を見る限り、ヴァイスらが懸念する地面からの奇襲はないだろう。斧が木へ食い込む鈍い音を合図に、伐採作戦が開始された。
「確かに女の姿だな。どうしてこうなったのかは知らんが」
ラディスラウスは木の幹へ遠距離攻撃の狙いを定めるため、雑魔と化した椿の木を見上げた。大きさは三、四メートルほどあろうか。胴から上は女性の姿に似ているが、下半身は木のそれという異形。腕は枝となっており、そこに鮮烈な朱の花が咲いている。雑魔がゆっくりとその腕を振り上げると、いくつかの椿の花が地面に落ちた。
数は、八つ。
「……これは、手入れするのが楽しみですね」
メタルシザーズの刃を閉じると、師人は鋭い眼光を椿の雑魔へ向けつつ、指先でそっと首のまわりをさすった。地へ落ちた八つの花の意味を、彼はわかっている……交錯する白と朱、二つの椿の香りは、肌を刺すようなひときわ冷たい風によって、散った。
木々の狭間が騒がしい。木の葉が揺れる音ですら気になった先ほどまでの静寂は、戦いの喧騒によってかき消された。今、ハンター達が気になる音は……椿雑魔が根を動かす音。
いくつもの根の中で特に大きなものは四本。これを縄のように縛りつけ、鞭のように叩きつけ、槍のように突き刺す……ラディスラウスの分析より、戦局が進むにつれて椿雑魔の動きがわかってきた。
「細いのは足のようです。太い方を狙いましょう」
ガーベラの放つ光の弾道が、仲間達の攻撃を導いていく。ハンター達の倍はあろうかという大きさの椿雑魔は、自然と脚と思われる付け根より下の方へ攻撃が流れやすかった。事前にメイムが後衛の二人へしっかりと援護を頼んでいたため、前衛は攻撃に集中できる。三組の近接は、扇状に展開しながら入れ替わり立ち代りで、椿雑魔を攻め立てていった。
時に、詩人は紅く煽り出る炎を「悪魔の舌」と形容することがある。火は一本の木はおろか、ひとつの森をも飲み込むだけの力を持つ。今や生活に無くてはならない身近な存在だが、そうなった時の炎を、畏怖の念を込めて詩人らはそう言った。
今、ヴァイスのまとうオーラも、目の前の木を焼かんとする紅蓮の焔を連想させる。
「背を預けられるってのは、心強いぜ」
師人のバックアップを受け、考えうるだけのあらゆる作戦・自分の持てる全ての力・限界までのマテリアルを投入したヴァイスの一振り……その高速で回転するノコギリの刃が、大量の大鋸屑を周囲に撒き散らした。激しく手に伝わってくる振動が、手応えを感じさせる。額から滴る汗にこびり付く大鋸屑を拭うと、ヴァイスは師人とポジションをチェンジした。
「……想定よりも、早く接敵するとは、な」
バルバロスもオウカと立ち位置を交代する。
戦いが始まるまで寡黙だったオウカだが、雰囲気と口元から漏れる笑みは威圧感が増している。その風貌もあって、手にする不動明王剣の刀身も「悪魔の舌」と呼ぶにふさわしいものだった。
「すまんな、ちょっと張り切り過ぎたわい」
致命的な一撃こそ無かったものの、やはり力で押し切る戦い方が被弾率を高くしたようだ。腕に刻まれたミミズ腫れを押さえながら、バルバロスは後方へ下がる。
攻撃の手を止めると、ラディスラウスが治癒の準備を始めた。そろそろ、仲間達の傷が心配になってくる。戦況を見る限りは、出血沙汰になるほどのダメージはないよいうだが、積み上がっていく小さな傷が原因で前線が崩壊する場合もある。
「忙しくなりそうだな」
俺のヒールでどこまで仲間を助けることができるのか……ハンター経験も少ないラディスラウスは、自信の無さを隠すように、ぶっきらぼうな様子で言った。
「そっちに行ったわ、大きい方の根に注意して!」
攻撃を掻い潜りながら根本に槍撃を繰り出していくジェーンだが、メイムと入れ替わる際に攻撃の矛先が変わったことを察した。刹那、大きな根の一撃がメイムを捉える。もしかすると、注意が足元に集中しすぎていたかもしれない。不意を突かれ、根の攻撃は彼女の首に入った。頸動脈を強く締め付けられ、徐々に意識が遠のいていく。
「……無事に帰って、チョコさんと遊びに行くって約束したんだから!」
その時、ぼんやりと意識に浮かんだのは、友の顔。我に返り、首に巻き付いた根を強引に振りほどくと、メイムはトレイターでそれを斬り払った。しかし、攻撃の手は止まらない。
「こっちよ!」
ジェーンはうまく攻撃を避けながら、椿雑魔の注意を引きつけていく。絶対に捕まらない……ジェーンの戦い方は、自身への被弾を抑えるだけでなく、後衛の負担をも軽減する見事な戦術だった。後衛は「ここはジェーンにまかせれば安心」と、彼女へ椿雑魔の注意が向いているときは、傷ついた者の回復に専念できる。
「これなら切り落とせそうですね」
巨大なハサミを開き、斧で傷ついた根に狙いを定める師人。椿雑魔を発見した時よりも、その根の動きは鈍くなってきている。チャンスだ。ハンター達を捕まえようと、ゆっくりと巨大な根を持ち上げた瞬間を狙い、師人は一気に椿雑魔との距離を詰める。刹那、メタルシザーズの刃とオウカの一撃が、巨大な根を切断した。
刻々と変わりゆく戦況を変わらぬ表情で見ながらも、ガーベラは内心で焦りを感じていた。攻撃も回復も、残されている力はあと僅か。ローテーションで入れ替わりながら戦うハンター達だったが、手数が不足しがちで持久戦となっていた。
どちらが先に消耗するのか……椿雑魔も半分ほど根を切り取られ、かなり動きが遅くなってきている。
「覚悟はしました。そちらも、相応のご覚悟を」
メイスで戦うことも視野に入れ、ガーベラが最後のホーリーライトを放つ。まばゆく鋭い閃光がぶつかり、一瞬怯んだ様子を見せた椿雑魔へ、小さな根を蹴散らしながらバルバロスが強引とも言える横薙ぎの一撃を加えた。
「ぶるぁぁぁあ!」
「さすがバルさん!」
「でも無理すんなよ、バルバロス」
メイムとヴァイスも最後の力を振り絞って椿雑魔を、切る。もはや、原始的な攻撃だ。すでに残された力も少ない。攻撃を受けないよう慎重に動こうとする気持ちと、早く倒さないといけないという焦りが混ざり合う……焦燥感に背中を押されながらも、幾多の根を切断し、ハンター達は徐々に椿雑魔を追い詰めていく。
「この紅き刀身で……灰となれ!」
オウカの斬撃で椿雑魔の体が揺らいだ。効いている。僅かな隙を逃さず、師人も畳み掛けるように攻めた。いざというときは、やはり扱い慣れたアイテムが一番安定する。巨大なハサミを自在に操り、椿雑魔の腕……朱の花咲く枝を切り落とした。ひとつ、またひとつと落ちていく椿の花。地は朱く染まる。
「これで……倒しましたか?」
のけぞるように後方へと体を揺らす椿雑魔……いや、最後に残った大きな根を振り上げようとしている。当たれば致命的になりそうな一撃を警戒し、ハンター達が身構えた。が、突如として動きが止まる。ジェーンの刺突が、椿雑魔の幹を貫いていたのだ。
「綺麗に終わったかしら」
秋風に吹かれ、木も花も、散っていく。ハンター達の火照った体に、今の冷たい風は心地よいものだった。
「怪我はないか? ヒールはないが、軽く手当ならできるぞ」
ラディスラウスが仲間の状態を見て回った。比較的傷も多く残っているが、致命的なものはない。この結果は、彼が戦いの中でしっかりと後ろから仲間達を支えていたからである。
しばしの休息後、ハンター達は周辺を捜索。無いとされる少年の頭部は、動物達の遺体に混ざって発見された。ハンター達ができることは、ここまでだ。あとは村へ顛末を報告し、少年の家族へ頭部を引き渡すことのみ。
少年の墓へ立ち寄り、黙祷を捧げたハンター達は帰路につく。話に聞いてはいたが、この辺りの景色は綺麗なものだった。山に映える紅葉もそうだが、西の空を覆う黄昏のヴェールが、その光景をさらに赤く染め上げている。紅葉と夕焼けが構築する世界に、ハンター達はしばしの時間、見入っていた。
それは、ようやく安息できる、赤。
「この辺りまでで大丈夫かな。お兄さん、ありがと~」
胸にわだかまる黒い靄を晴らそうと、メイム(ka2290)がここまで案内してくれた農家の男に、元気な声で感謝の言葉を送った。彼によれば、この先にかつて村の儀式で使われていた場所があるらしい。村の平和を脅かす討つべき存在は、その辺りにいるはずだ。
大きく手を振って別れのあいさつをするメイムの隣で、オウカ・レンヴォルト(ka0301)も静かに男の背中を見送った。慌てて帰路につく男の危なげない足取りを見届けると、オウカは視線をバルバロス(ka2119)に向ける。目につくのは、張りあがった筋肉に刻まれた幾多の生傷。戦場でペアを組む相手が痛ましい姿だと、やはり気がかりだ。
「……大丈夫か、その傷?」
「ふはははは! この程度、どうってことないわい!」
戦士にとって傷は勲章とばかりに、バルバロスは豪快に笑い飛ばす。
「いくら頑丈だからって、あまり無理はするなよ」
ラディスラウス・ライツ(ka3084)の軽い手当と自己治癒によって、深い傷は影響がないくらいに塞がっていた。しかし、一抹の不安は残る。後の戦いで、バルバロスは自分を癒せるだけのマテリアルが残っているのだろうか。
なるべく怪我はするなよ……と、ラディスラウスは吐息のように小さくつぶやき、斧を担ぐ豪胆なドワーフの後を追った。
「俺達も行こうぜ、オウカ」
手にした地図を参照しながら、ヴァイス(ka0364)達も歩き出す。地図には、男から聞き出した事柄がいくつか記されていた。未知の事象と遭遇し、恐怖を伴う状態で目に焼き付いた事柄というものは、やはり曖昧なものとなってしまうらしい。大きさは人の倍くらい、遭遇地点から動いたかどうかはわからない……話の内容は茫漠たるものであった。
「根は地中に埋まっていない、らしいぜ」
ただ、その覚え書きの中でも、有用そうな情報のひとつが大きく丸で囲まれている。根は足の代わりにもなるのか、地中には埋まってないようだ。ならば、這いずった痕跡があるはず。動きも早くないようだし、探すのは難しくないだろう。ハンター達は先を急ぐ。
「それにしても、静かですね」
感覚を研ぎ澄まし、先程から周囲の状況に目を配るガーベラ・M・ベッドフォード(ka2401)だが、この辺りに動物の気配は見て取れない。すでに異形を警戒して遠ざかったのか、あるいは……不意に脳裏を過った不安に反応し、彼女は思わず地面へと視線を落とす。が、最悪の状況では、無い。安息が漏れる。
静寂の中に聞こえるのは、木々の紅く色づいた葉を落とそうとしている、いたずらな風の音。晩秋の気配を乗せた少し冷たい風に吹かれ、ハンター達は身震いした。この妙な悪寒は、日に日に深まってくる秋の気配を、体が感じるからなのだろうか。
「……この辺りの地面、なんだか不自然な感じがするわ」
ジェーン・ノーワース(ka2004)が今日初めて、深くかぶったフードの中から顔を出した。自然にできた起伏ではなく、明らかに人の手が入っていると思われる地面。よく見れば、そこに石畳が敷かれている。
「これは、魔術的なものが関わっているようですね」
ガーベラが石畳の規則性に気づく。敷かれた石畳の配列は籠目であり、それは幾多の格子が連なる複雑な文様だ。この辺りで過去に収穫の吉凶を占う儀式があったとのことだが、それに関わることなのだろうか。しかし、それ以上は情報もなく、ハンター達が知る由もない。
再びフードを深くかぶると、長居は無用とばかりにジェーンは儀式場を背にした。
「風の流れが変わりましたね」
この周辺が怪しいと雑魔を追うハンター達だが、流れが不自然になった風の動きが気になり、〆垣 師人(ka2709)が立ち止まる。一枚、地面に落ちている枯れ葉を拾うと、それを飛ばして風向きを確かめた。
「なるほど、そこですね」
視線の先には、茂みの中に身を潜め、大きな根を揺らしながら、こちらの首を捕らんと待ち構えている古椿の化け物……風の流れを遮っていたのは、ハンター達が追うターゲットだった。
「あ、あ、あ、足元!」
同時にメイムの小さな悲鳴が響いた。
「あれは、猿の頭のようね……まったく、悪い趣味だわ」
ジェーンは蒼色の槍を手に取り、椿雑魔との位置を慎重に見計らいながら、マテリアル発動のタイミングを探っている。同時に周囲の椿にも目をやるが、朱の花を咲かせているだけで、変わった様子もない。問題無いと認識したジェーンは、烈々たる気迫を脚に込め、力強く地を蹴った。
メイムも先ほどの声を訂正するかのように、裂帛の気合を椿の雑魔にぶつけていく。
「足元攻撃注意、人型部分も何か能力あるかもしれないから油断しないでね」
「まだ雑魔に有利な間合いだしな。慎重にいくぜ!」
無数の根を警戒しながら、ヴァイスがリボルビングソーを構えた。木を切り倒すには、うってつけのアイテムだ。ラブリュスを強く握りしめたバルバロスも、オウカの支援を受けて斬り込んでいく。様子を見る限り、ヴァイスらが懸念する地面からの奇襲はないだろう。斧が木へ食い込む鈍い音を合図に、伐採作戦が開始された。
「確かに女の姿だな。どうしてこうなったのかは知らんが」
ラディスラウスは木の幹へ遠距離攻撃の狙いを定めるため、雑魔と化した椿の木を見上げた。大きさは三、四メートルほどあろうか。胴から上は女性の姿に似ているが、下半身は木のそれという異形。腕は枝となっており、そこに鮮烈な朱の花が咲いている。雑魔がゆっくりとその腕を振り上げると、いくつかの椿の花が地面に落ちた。
数は、八つ。
「……これは、手入れするのが楽しみですね」
メタルシザーズの刃を閉じると、師人は鋭い眼光を椿の雑魔へ向けつつ、指先でそっと首のまわりをさすった。地へ落ちた八つの花の意味を、彼はわかっている……交錯する白と朱、二つの椿の香りは、肌を刺すようなひときわ冷たい風によって、散った。
木々の狭間が騒がしい。木の葉が揺れる音ですら気になった先ほどまでの静寂は、戦いの喧騒によってかき消された。今、ハンター達が気になる音は……椿雑魔が根を動かす音。
いくつもの根の中で特に大きなものは四本。これを縄のように縛りつけ、鞭のように叩きつけ、槍のように突き刺す……ラディスラウスの分析より、戦局が進むにつれて椿雑魔の動きがわかってきた。
「細いのは足のようです。太い方を狙いましょう」
ガーベラの放つ光の弾道が、仲間達の攻撃を導いていく。ハンター達の倍はあろうかという大きさの椿雑魔は、自然と脚と思われる付け根より下の方へ攻撃が流れやすかった。事前にメイムが後衛の二人へしっかりと援護を頼んでいたため、前衛は攻撃に集中できる。三組の近接は、扇状に展開しながら入れ替わり立ち代りで、椿雑魔を攻め立てていった。
時に、詩人は紅く煽り出る炎を「悪魔の舌」と形容することがある。火は一本の木はおろか、ひとつの森をも飲み込むだけの力を持つ。今や生活に無くてはならない身近な存在だが、そうなった時の炎を、畏怖の念を込めて詩人らはそう言った。
今、ヴァイスのまとうオーラも、目の前の木を焼かんとする紅蓮の焔を連想させる。
「背を預けられるってのは、心強いぜ」
師人のバックアップを受け、考えうるだけのあらゆる作戦・自分の持てる全ての力・限界までのマテリアルを投入したヴァイスの一振り……その高速で回転するノコギリの刃が、大量の大鋸屑を周囲に撒き散らした。激しく手に伝わってくる振動が、手応えを感じさせる。額から滴る汗にこびり付く大鋸屑を拭うと、ヴァイスは師人とポジションをチェンジした。
「……想定よりも、早く接敵するとは、な」
バルバロスもオウカと立ち位置を交代する。
戦いが始まるまで寡黙だったオウカだが、雰囲気と口元から漏れる笑みは威圧感が増している。その風貌もあって、手にする不動明王剣の刀身も「悪魔の舌」と呼ぶにふさわしいものだった。
「すまんな、ちょっと張り切り過ぎたわい」
致命的な一撃こそ無かったものの、やはり力で押し切る戦い方が被弾率を高くしたようだ。腕に刻まれたミミズ腫れを押さえながら、バルバロスは後方へ下がる。
攻撃の手を止めると、ラディスラウスが治癒の準備を始めた。そろそろ、仲間達の傷が心配になってくる。戦況を見る限りは、出血沙汰になるほどのダメージはないよいうだが、積み上がっていく小さな傷が原因で前線が崩壊する場合もある。
「忙しくなりそうだな」
俺のヒールでどこまで仲間を助けることができるのか……ハンター経験も少ないラディスラウスは、自信の無さを隠すように、ぶっきらぼうな様子で言った。
「そっちに行ったわ、大きい方の根に注意して!」
攻撃を掻い潜りながら根本に槍撃を繰り出していくジェーンだが、メイムと入れ替わる際に攻撃の矛先が変わったことを察した。刹那、大きな根の一撃がメイムを捉える。もしかすると、注意が足元に集中しすぎていたかもしれない。不意を突かれ、根の攻撃は彼女の首に入った。頸動脈を強く締め付けられ、徐々に意識が遠のいていく。
「……無事に帰って、チョコさんと遊びに行くって約束したんだから!」
その時、ぼんやりと意識に浮かんだのは、友の顔。我に返り、首に巻き付いた根を強引に振りほどくと、メイムはトレイターでそれを斬り払った。しかし、攻撃の手は止まらない。
「こっちよ!」
ジェーンはうまく攻撃を避けながら、椿雑魔の注意を引きつけていく。絶対に捕まらない……ジェーンの戦い方は、自身への被弾を抑えるだけでなく、後衛の負担をも軽減する見事な戦術だった。後衛は「ここはジェーンにまかせれば安心」と、彼女へ椿雑魔の注意が向いているときは、傷ついた者の回復に専念できる。
「これなら切り落とせそうですね」
巨大なハサミを開き、斧で傷ついた根に狙いを定める師人。椿雑魔を発見した時よりも、その根の動きは鈍くなってきている。チャンスだ。ハンター達を捕まえようと、ゆっくりと巨大な根を持ち上げた瞬間を狙い、師人は一気に椿雑魔との距離を詰める。刹那、メタルシザーズの刃とオウカの一撃が、巨大な根を切断した。
刻々と変わりゆく戦況を変わらぬ表情で見ながらも、ガーベラは内心で焦りを感じていた。攻撃も回復も、残されている力はあと僅か。ローテーションで入れ替わりながら戦うハンター達だったが、手数が不足しがちで持久戦となっていた。
どちらが先に消耗するのか……椿雑魔も半分ほど根を切り取られ、かなり動きが遅くなってきている。
「覚悟はしました。そちらも、相応のご覚悟を」
メイスで戦うことも視野に入れ、ガーベラが最後のホーリーライトを放つ。まばゆく鋭い閃光がぶつかり、一瞬怯んだ様子を見せた椿雑魔へ、小さな根を蹴散らしながらバルバロスが強引とも言える横薙ぎの一撃を加えた。
「ぶるぁぁぁあ!」
「さすがバルさん!」
「でも無理すんなよ、バルバロス」
メイムとヴァイスも最後の力を振り絞って椿雑魔を、切る。もはや、原始的な攻撃だ。すでに残された力も少ない。攻撃を受けないよう慎重に動こうとする気持ちと、早く倒さないといけないという焦りが混ざり合う……焦燥感に背中を押されながらも、幾多の根を切断し、ハンター達は徐々に椿雑魔を追い詰めていく。
「この紅き刀身で……灰となれ!」
オウカの斬撃で椿雑魔の体が揺らいだ。効いている。僅かな隙を逃さず、師人も畳み掛けるように攻めた。いざというときは、やはり扱い慣れたアイテムが一番安定する。巨大なハサミを自在に操り、椿雑魔の腕……朱の花咲く枝を切り落とした。ひとつ、またひとつと落ちていく椿の花。地は朱く染まる。
「これで……倒しましたか?」
のけぞるように後方へと体を揺らす椿雑魔……いや、最後に残った大きな根を振り上げようとしている。当たれば致命的になりそうな一撃を警戒し、ハンター達が身構えた。が、突如として動きが止まる。ジェーンの刺突が、椿雑魔の幹を貫いていたのだ。
「綺麗に終わったかしら」
秋風に吹かれ、木も花も、散っていく。ハンター達の火照った体に、今の冷たい風は心地よいものだった。
「怪我はないか? ヒールはないが、軽く手当ならできるぞ」
ラディスラウスが仲間の状態を見て回った。比較的傷も多く残っているが、致命的なものはない。この結果は、彼が戦いの中でしっかりと後ろから仲間達を支えていたからである。
しばしの休息後、ハンター達は周辺を捜索。無いとされる少年の頭部は、動物達の遺体に混ざって発見された。ハンター達ができることは、ここまでだ。あとは村へ顛末を報告し、少年の家族へ頭部を引き渡すことのみ。
少年の墓へ立ち寄り、黙祷を捧げたハンター達は帰路につく。話に聞いてはいたが、この辺りの景色は綺麗なものだった。山に映える紅葉もそうだが、西の空を覆う黄昏のヴェールが、その光景をさらに赤く染め上げている。紅葉と夕焼けが構築する世界に、ハンター達はしばしの時間、見入っていた。
それは、ようやく安息できる、赤。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 メイム(ka2290) エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/10/12 19:26:34 |
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プレイング メイム(ka2290) エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/10/12 16:56:15 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/09 04:23:22 |