ゲスト
(ka0000)
結成! 超即席バンドin音楽祭
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/01/29 07:30
- 完成日
- 2017/01/31 22:50
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「音楽祭に参加?」
「そそそ。歌自慢的なやつ。ほら、サイアに参加させてあげたいなと思ってるの」
同じ商売の仕事仲間からの提案にミネアは戸惑った。
「あたしは美男子を眺めてるだけで妄想たぎらせられるから全然平気だけど、サイアはそういうのないからそういう息抜きがあってもいいと思うのね。なんでもその音楽祭はエルフと人間の橋渡しが歌を担っていたとかなんとかっていう歴史もあるみたいだから。でも一人で参加は厳しいでしょ? だから付き合ってあげて欲しいなと思うの」
そう話を持ち掛けてきた彼女も、そして彼女の双子の姉サイアもエルフハイム出身のエルフだ。サイアは彼女と違って物静かで、だけど、どことなく人を寄せ付けないようなそんな趣もある。
「うん、いいよ!」
歌うのは嫌いではないし、それが共に働くサイアの為になるというならば別に悪くない。
年末は仕事が忙しかった反動で正月はほとんど寝て過ごしたミネアも、リフレッシュに何かしらのイベントに行きたいとは思っていたところだ。
●
森の近くの町では音楽祭は近隣で有名なイベントだった。
元々は恋をした人間の男性がエルフの娘にこの想いを届けと、歌にして森に届けたことから始まるのだそうだ。
歌を通じて2人の想いはついに結ばれ、人間には否定的だったエルフとの交友を結んだきっかけともなり、町の人間、森のエルフ共々に栄えたというのだ。今でも互いの友好は続き、エルフは森から、人間は町から互いに音楽を届け合った。
その曲と演奏者を募る為に毎年音楽祭は開かれる。
それは地域の音楽関係者にとってはとても大切なイベントであり、ある種の登竜門とも位置づけされていた。
そう、割とガチのヤツだった。
「ど、ど、どうしよう」
「これは完全に場違いですよね……」
ミネアとサイアは人ごみの中で完全に立ちすくんでいた。
舞台は歴史を感じさせる石造りの大ホールは二人には見上げるばかりの大きさ、外壁には音楽の精霊が何百も刻まれ、足元はレッドカーペットが敷かれて奥まで続いていた。その上を歩く人々はトランペットだの、ギターだの、果てはホルンやティンパニといった大掛かりな楽器を運び込んでいる。歌を専門にしている女性などは遠目からも見てわかるような濃いファンデーションに舞台映えするルージュを引いているし絹を何重にもしたドレスに目を奪われた。
目を変えれば、吟遊詩人が路傍で早速リュートの音合わせの為か軽くかき鳴らしている。服装こそ旅のそれで豪華さはなかったものの、リュートを扱う指の動き、音の流れる調子は、軽い爪弾きだけで二人を驚嘆させるには十分だった。
「あ、あそこ、トライクロニクルじゃない。きゃああ、シュウ様ぁぁぁ」
その横でサイアの妹は、貴族っぽい美青年に黄色い声を上げて手を振りまくっている。こちらも有名な人らしい。
「あ、あなたね。このままだと吊るし上げじゃない。あああ、どうするのよミーファ」
話を持ち掛けた妹を叱りつけるサイアだが、彼女は気にした素振りもなく、ちょいちょいと隣を指さした。
そちらでは記者らしい羽帽子の女性が、この祭典の関係者らしい老人に取材をしていた。
「今回もたくさんの参加者が集まりましたね!」
「ここではどんな人間にもチャンスがあります。しかも重要なのは森のエルフさん方の心に届くかどうかという一点です。誰もが挑戦できる祭典作りのおかげで、今日までやってこれたと思い……」
意気揚々とした老人のコメントは続いているが、サイアの妹はくすくすと笑って二人に向き直った。
「サイアとミネア。エルフと人間が紡ぎ出す音楽なんて、もうやる前から高評価でしょ。チャンスあるって」
「いや、あの……」
ミネアはすっかりしょげてしまっていたが、横に立っているサイアは怒りたいやら恥ずかしいやら、心が押しつぶされそうになっているのが顔で分かった。
ここで一緒になって落ち込んでいては、勇気を出して参加したサイアにも心の傷を残してしまうかもしれない。
「は、ハンターに応援頼んでみよう。うん、歌が上手い人いるし!! 優勝はともかく楽しくね、みんなで楽しい思い出作ろうよ」
「ミネアさん……ごめんなさい」
「いいのいいの。後悔してもつまらないし。周りの評価どうこうよりやって良かったね。っていうことが目的で参加したんだし。前向きにとろうっ」
そしてその日、超即席バンドが結成されたのであった。
「そそそ。歌自慢的なやつ。ほら、サイアに参加させてあげたいなと思ってるの」
同じ商売の仕事仲間からの提案にミネアは戸惑った。
「あたしは美男子を眺めてるだけで妄想たぎらせられるから全然平気だけど、サイアはそういうのないからそういう息抜きがあってもいいと思うのね。なんでもその音楽祭はエルフと人間の橋渡しが歌を担っていたとかなんとかっていう歴史もあるみたいだから。でも一人で参加は厳しいでしょ? だから付き合ってあげて欲しいなと思うの」
そう話を持ち掛けてきた彼女も、そして彼女の双子の姉サイアもエルフハイム出身のエルフだ。サイアは彼女と違って物静かで、だけど、どことなく人を寄せ付けないようなそんな趣もある。
「うん、いいよ!」
歌うのは嫌いではないし、それが共に働くサイアの為になるというならば別に悪くない。
年末は仕事が忙しかった反動で正月はほとんど寝て過ごしたミネアも、リフレッシュに何かしらのイベントに行きたいとは思っていたところだ。
●
森の近くの町では音楽祭は近隣で有名なイベントだった。
元々は恋をした人間の男性がエルフの娘にこの想いを届けと、歌にして森に届けたことから始まるのだそうだ。
歌を通じて2人の想いはついに結ばれ、人間には否定的だったエルフとの交友を結んだきっかけともなり、町の人間、森のエルフ共々に栄えたというのだ。今でも互いの友好は続き、エルフは森から、人間は町から互いに音楽を届け合った。
その曲と演奏者を募る為に毎年音楽祭は開かれる。
それは地域の音楽関係者にとってはとても大切なイベントであり、ある種の登竜門とも位置づけされていた。
そう、割とガチのヤツだった。
「ど、ど、どうしよう」
「これは完全に場違いですよね……」
ミネアとサイアは人ごみの中で完全に立ちすくんでいた。
舞台は歴史を感じさせる石造りの大ホールは二人には見上げるばかりの大きさ、外壁には音楽の精霊が何百も刻まれ、足元はレッドカーペットが敷かれて奥まで続いていた。その上を歩く人々はトランペットだの、ギターだの、果てはホルンやティンパニといった大掛かりな楽器を運び込んでいる。歌を専門にしている女性などは遠目からも見てわかるような濃いファンデーションに舞台映えするルージュを引いているし絹を何重にもしたドレスに目を奪われた。
目を変えれば、吟遊詩人が路傍で早速リュートの音合わせの為か軽くかき鳴らしている。服装こそ旅のそれで豪華さはなかったものの、リュートを扱う指の動き、音の流れる調子は、軽い爪弾きだけで二人を驚嘆させるには十分だった。
「あ、あそこ、トライクロニクルじゃない。きゃああ、シュウ様ぁぁぁ」
その横でサイアの妹は、貴族っぽい美青年に黄色い声を上げて手を振りまくっている。こちらも有名な人らしい。
「あ、あなたね。このままだと吊るし上げじゃない。あああ、どうするのよミーファ」
話を持ち掛けた妹を叱りつけるサイアだが、彼女は気にした素振りもなく、ちょいちょいと隣を指さした。
そちらでは記者らしい羽帽子の女性が、この祭典の関係者らしい老人に取材をしていた。
「今回もたくさんの参加者が集まりましたね!」
「ここではどんな人間にもチャンスがあります。しかも重要なのは森のエルフさん方の心に届くかどうかという一点です。誰もが挑戦できる祭典作りのおかげで、今日までやってこれたと思い……」
意気揚々とした老人のコメントは続いているが、サイアの妹はくすくすと笑って二人に向き直った。
「サイアとミネア。エルフと人間が紡ぎ出す音楽なんて、もうやる前から高評価でしょ。チャンスあるって」
「いや、あの……」
ミネアはすっかりしょげてしまっていたが、横に立っているサイアは怒りたいやら恥ずかしいやら、心が押しつぶされそうになっているのが顔で分かった。
ここで一緒になって落ち込んでいては、勇気を出して参加したサイアにも心の傷を残してしまうかもしれない。
「は、ハンターに応援頼んでみよう。うん、歌が上手い人いるし!! 優勝はともかく楽しくね、みんなで楽しい思い出作ろうよ」
「ミネアさん……ごめんなさい」
「いいのいいの。後悔してもつまらないし。周りの評価どうこうよりやって良かったね。っていうことが目的で参加したんだし。前向きにとろうっ」
そしてその日、超即席バンドが結成されたのであった。
リプレイ本文
●
ミネアは震えていた。「思い出作りにしようっ」なーんて言ったはいいものの、舞台の上に立つ経験などないし、しかも周りはプロばかり。緊張しない方が無理だというものだ。
掌に書いた人は300人くらい飲んでいた気がするがまだ気持ちは収まりそうになかった。
「うなぁ」
そんなミネアの頭にナツキ(ka2481)の虎猫がのっそりとその小さな膝元に上がり、小さな鳴き声を上げた。
「ミネア、緊張しすぎ。この子撫でると落ち着く」
ミネアの横に座ったナツキは虎猫をわしゃわしゃと頭を撫でてみせるのに従い、ミネアもそうっと撫でると虎猫は非常にご満悦な顔をして「もっとやれ」と言わんばかりに身体を投げ出した。
「ナツキさんはちゃんとわかっていらっしゃいますね。ちゃんと特訓したかいがあったというものです」
真白いドレスに身を固め、明かりに負けない強いルージュが浮かぶブリジット(ka4843)が二人の前に立った。その装いもそうだが、顔つきは本職の舞手、誇りをもってそれに取り組むもののそれになっていた。
「昨日も言いましたが、音楽は技術より気持ちです。気持ちで負けていればどんなに上手でも人の心には届きません」
ぴしゃりと言い切るブリジットにミネアはますます身を縮こまらせると、ブリジットはそっとその耳元に口を寄せて囁いた。
「昨日の特訓での厳しさは足りませんでしたか?」
「ひぃっ」
思い返すは昨日の夜。ルナ・レンフィールド(ka1565)とブリジットによる特別レッスン。2人とも鈴やタンバリンといった簡単な楽器でリズムを取ったり、綺麗に響くコツを伝授してもらったり。踊りに合わせるテクニックなども事細かに教えてもらった。簡単そうに見えて意外と難しいし、体力や集中力がいるというのも改めて実感したのだ。
そして際立つは教師陣二人のスパルタ教育。
「ブリジット、脅しすぎ」
ブリジットの頭に虎猫を乗せると、虎猫はそのまま頭から彼女の顔面に張り付いてその顔を覆い隠した。
「むふー!? 『これ以上の練習はできない、やりきった!』という確信があれば緊張なんてしないもの。ナツキさんだってそうでしょう」
いつもジト目で基本無表情なナツキが緊張しているかどうかは判別しにくいが、ブリジットに被せた猫をもう一度腕の中に戻してあやす様子は何かを心配している様子ではない。
「うん。ここに来る前に家でユグディラのエーカーに色々教わった。エーカーは『連れていけ』って言ってたけど、ここ幻獣禁止だからお留守番。だから帰ったら好い報告したい。その為にこの子達連れて来た」
「誰かの為に。音楽の真髄だね」
そんな3人の鼻先に蜂蜜の甘い香りを伴った湯気が流れてくる。湯気の来る先にはカフカ・ブラックウェル(ka0794)が蜂蜜入りの紅茶を持ってやって来るところだった。
「音楽も商売も一緒じゃないかな。自分の為だけだと喜びなんて生まれない」
銀盆を下から3本の指で保ち紅茶を差し出す流麗な仕草、はらりと垂れるアッシュブロンドの前髪。月光の愛し子と呼ばれる美しさの片鱗を見せつつ、カフカは少しばかり微笑んで紅茶を差し出した。
「そっか、気持ちで負けてた……失敗したらとか、自分が迷惑かけないかとか『自分の事』ばかり気にしてた」
ティーカップに揺蕩う金色の水面に映る自分の顔を見つけながらミネアはぽつりと零しすと、ブリジットとカフカは軽くウィンクを交わした。
「音楽は言葉通り『音を楽しむ』ものだからね。間違ったらフォローする。だから心のままに奏でてみよう」
「うん、頑張る……!」
そう言って顔を上げたミネアの顔は、やっぱりまだ強張っていた。
そんなミネアの横からナツキが「ミネア」と呼びかけた。
「ミネアとともだちになってから、楽しい事たくさんあるってわかった。お花配って、チョコ作って、東方行って、会社も作って。みんな楽しかった。今日もまた『楽しい』を見つけたい。ともだち、できたらいい」
ミネアの瞳が丸くなり、強張っていた肩が氷が解けるようになだらかになっていく。
「ナツキちゃん、今のすごくいい笑顔……」
いつも無表情と言われたナツキがちょっと変わった瞬間。
●
大きな楽団が通用口を降りて楽器を下ろしていくのとすれ違うようにして皆は舞台のスポットライトが漏れる扉に向かって歩むと、メンバー紹介の声が聞こえると同時に進行係からGOサインが送られた。
一歩。書き割りの間からすり抜けると、そこはもう色も空気も違っていた。真上から降り注ぐ明かりは熱さをも感じさせ自分たちを照らしている。観客席は真っ暗で自分たちからはほとんど顔の区別はつかないけれどたくさんの人々が座って視線を送っているのは分かった。
静寂の空間。
「『萌芽 森の目覚め』と題しまして、曲をお送りします」
カフカの挨拶の言葉が終わると、彼は静かに頭を垂れて挨拶すると、皆も習ったように軽く息を吸い込んで、一斉にお辞儀をした。
もうおしゃべりはできない。本番の空気。それでも準備する動きのほんのちょっとの間にリラ(ka5679)がミネアに軽く微笑み、ミネアも頷き返す。それだけで十分。
まずはブリジットの高いフルートの音色が響き渡った。
「♪荘厳なる静謐湛える森の中」
リラが低く、腹の底に響き渡るような声でフルートの音色を引き継ぎ歌い始めた。
歌声の響く中、サイアは舞台中央に立つとひざまずき、両手を組んで祈りの姿勢と同時に内に秘めた精霊との契りを形に表す。
淡い光と共に緑の幻、全てを阻む強固なる茨の結界が生み出される。それは舞台にするすると広がり、人工的な舞台は緑に覆われていく。そんな中で、サイアはリラの歌声に合わせて自らも声を上げた。それは歌声ではなくハーモニーを生み出すための響きだった。
そこにクウ(ka3730)がクラシックギターをもって舞台に足を踏み入れた。
「♪近づきことも叶わぬこの森の。だけど知っているその奥に。響く祈りのリリック」
クウは沈鬱な曲の音色からは真反対の強く明るい音をギターで奏でた。不協和音ではない。今流れている音をベースにしたてた正しいメロディラインだ。
クウはそんな強く明るい音色をもってサイアに一歩、また一歩と近づく。が、それを真白い衣のブリジットが軽く跳躍すると、クウの正面に降り立って行く手を阻んだ。
「♪森を畏敬し愛する歌 それは凍てつく冬の氷のように 誰も寄せ付けぬ」
リラの歌声に合わせたブリジットは白い衣をひるがえしてクウに来た道へと追いやっていく。
雪の女王みたいだ、観客席で囁き声が漏れてくると、よし、思惑通り、とクウは不敵な笑みが漏れた。ここまでうまくはまってくれるとクウも演技というものに飛び込んだ甲斐があるというものだ。
「ああ、森よ! 私を受け入れておくれ」
クウの言葉と共にミネアがフェアリーベルをゆっくりと持ち上げて響かせ、盛り上がる舞台を鎮めていく。
「ド、ソ、ファ、ミ、レ、レ……」
皆が次の楽章に移るために楽器を持ち変える時間、そこはミネアが主役であった。
が、助けのないこの時間、自分に注目が集まると自覚せざるを得ない時間。ミネアの緊張は最高潮だった。
「あ」
ベルを取り違えて、どうにもメロディーラインがまとまりを欠いたのが本人にも理解できたのだろう。一瞬、空気が凍り付いた。
「幸せの言の音さえも 凍てつかせる」
ルナが音色を引き継ぐようにして静かに静かにハープを奏でた。
「それでも、歌は届く。祈りのように。幾度凍てついても春の日差しが氷を解かすように」
ルナの言葉をつないでリラが歌うと、最初のようにミネアに視線を送ると、ミネアもいつものように慌てふためくばかりではなく、再びフェアリーベルを鳴らし始める。
「光となり森に注げ」
「風となり森を駆け」
リラの言葉をつなぐように、カフカがハープへの持ち替えを完了させて、ゴールデンハープの見た目に相応しい輝くような明るい旋律を紡ぎ出した。
そしてキーボードを設置した席へと移動完了したルナがそらに音色を重ねる。
「水となり森へ流れよ」
音が重なり合って和音となる中に、しゃらららら、と音を鳴らした鉾先舞鈴をもったナツキが茨の幻影の中に飛び込み、鉾を振るった。
「♪しゃらら、春をはこべー」
「♪しゃらら、氷を溶かせー」
覚醒が生む緑の幻の中に飛び込んだナツキとクウが並んで舞台に立ち、歌声を披露し始めると一転、ノリのいいリズムにルナがすぐさまキーボードでメロディーラインを生み出していく。
観客も今までの静かな曲調からの変化に前のめりになっているのがわかる。
「さあ、観客も皆さんも一緒に春を呼び込む応援、お願い! まずは手拍子ー」
クウがぱんぱんぱぱぱんっ、手拍子をとり、客席に合図を送ると、小さいながらもいくつか手拍子が返ってくる。
「お、ありがとー! はーい、もーいっかい!」
クウがギターでメロディーを繰り返すと、また手拍子。今度は観客も成り行きが理解できたのかしっかりと手拍子が返ってくる。
その手拍子に合わせてリラがくるりと舞いながら、中央に移動し高らかに歌う。
「♪爽やかな風 温かな光 潤う水に」
春を謳うリラを祝うように、ナツキの鈴が、クウのギターが鳴り響いた。
その間にブリジットが白い衣を何度も翻して舞いながら、サイアに合図を出すと覚醒による幻影を収めて、元の舞台へと景色を戻した。
「いい調子」
「さぁ、ラストですね」
ブリジットは舞いながらミネアが担当していたベルを回収し、サイアに渡すと舞台の中央に引き連れていく。
ミネアもルナも中央に集まり、全員が揃う。
「♪さあ歌おう歓喜の歌を」
カフカがルナに視線を送りつつ手際よくハープを鳴らし、ルナもキーボードを操りながら声を合わせて一緒に歌う。
本当はまだ声を出すことには慣れていないけれど、でもみんなが集まって。一緒になって声を出せるなら。ルナも胸を高鳴らしながら、響き渡る声を披露する。
「♪さあ奏でよう生命の鼓動を」
ナツキは音に合わせて華麗にステップを踏み、クウの動きと対象になるように注意する。
クウはといえば、ナツキのぴったりな動きににんまり笑いつつ、軽快に。ナツキの鈴が広がりを見せられるようにギターを軽く振り回す。
「♪我らはこの大地に生きる仲間だ」
春を司る桃色の衣装のリラと、冬を司る白い衣装のブリジットが手を取り合って歌い上げた。
そしてコーラスに合わせて、ミネアがタンバリン、サイアがフェアリーベル鳴らして。観客と共にめいっぱいの声を集めていく。
「ありがとうございましたぁ!!」
そして歌が終了した。
●
「いやぁ、楽しかったね!」
クウは満足げな顔で『参加賞』と書かれた小さな包みを振り回した。
「うーん、やっぱり練習時間も少なかったし仕方なかったかな」
ルナはキーボードとハープを包んだ荷物を街路樹の傍に置いて、石造りの音楽ホールを振り返るとまだ予選は続いているらしく時折音が漏れ聞こえてくる。
その場で採点されるのだが、残念ながら一同のバンドは決勝進出に至る得点には至らなかった。
「でもいっぱい歌えて楽しかったですよね。みんなと一緒に仲良く歌えた点は大成功だったと思います♪」
リラはもう音楽ホールには気にした様子もなく、手渡された講評をルナに広げて見せた。
「ほら『練習不足はいなめないが、構成や物語のある楽曲、アドリブの効いた立ち回りは非常にいい。参加者の絆の強さがわかる』ですって」
「おお、本当?」
「嬉しいですね」
みんなで顔を寄せ合って講評の文字を追う様子を見て、掲示する役目のリラはくすくすと笑った。みんな前からの知り合いではあるが、こんなに身体も顔も寄せ合って、あれは良かった、ここはもっとこうすればなどと話し合う様子は、もう何年も前からずっと一緒にやって来たような感じすらある。
仲良くしましょうね。
リラの願いは本当に果たされていたと仲間達の顔を見て思うのであった。
「よーし、このまま打ち上げいこーっ」
クウが拳をぐっとあげると、みんな喝采した。
「何食べる? 干し肉?」
「そこはステーキじゃないんですか」
笑いながらまた歩き出した面々の一番後ろでルナは一人、少しだけ他の人とは違う胸のドキドキを抱えながら歩いていた。
1フレーズと、コーラス。ほんの少しだけど歌えることができた。歌を口にするトラウマは克服できたとはいえ、まだドキドキする。小さいけれども一つハードルを越えたようなドキドキがまだ熱と共に胸に余韻を残している。
「綺麗な歌声でしたね」
そんなルナに声をかけたのはサイアだった。傾き始めた日差しを背にした彼女の微笑みは、自分の気持ちをも見透かされていたようでルナは一瞬言葉を詰まらせた。
「サイアさんも。すごく堂々としていて素敵でしたよ。とても伸びやかで。おかげで私も楽しめました」
「私も。皆さんと一緒だから楽しめたんだと思います」
何度となく辛いことも楽しいことも一緒に過ごしてきて、人生の転機と言えるような出来事の時もすぐそばにいて。
ルナはなんとなくサイアの微笑みが理解できたような気がした。きっと同じこと思っている。
「お互い、一歩前進。ですね」
「おーい、おいてくよー」
気が付けば遠くなった仲間達から声が聞こえる。
「すぐ行きますー。……行きましょう!」
「はい」
2人はそろって皆の輪の中に走っていった。
ミネアは震えていた。「思い出作りにしようっ」なーんて言ったはいいものの、舞台の上に立つ経験などないし、しかも周りはプロばかり。緊張しない方が無理だというものだ。
掌に書いた人は300人くらい飲んでいた気がするがまだ気持ちは収まりそうになかった。
「うなぁ」
そんなミネアの頭にナツキ(ka2481)の虎猫がのっそりとその小さな膝元に上がり、小さな鳴き声を上げた。
「ミネア、緊張しすぎ。この子撫でると落ち着く」
ミネアの横に座ったナツキは虎猫をわしゃわしゃと頭を撫でてみせるのに従い、ミネアもそうっと撫でると虎猫は非常にご満悦な顔をして「もっとやれ」と言わんばかりに身体を投げ出した。
「ナツキさんはちゃんとわかっていらっしゃいますね。ちゃんと特訓したかいがあったというものです」
真白いドレスに身を固め、明かりに負けない強いルージュが浮かぶブリジット(ka4843)が二人の前に立った。その装いもそうだが、顔つきは本職の舞手、誇りをもってそれに取り組むもののそれになっていた。
「昨日も言いましたが、音楽は技術より気持ちです。気持ちで負けていればどんなに上手でも人の心には届きません」
ぴしゃりと言い切るブリジットにミネアはますます身を縮こまらせると、ブリジットはそっとその耳元に口を寄せて囁いた。
「昨日の特訓での厳しさは足りませんでしたか?」
「ひぃっ」
思い返すは昨日の夜。ルナ・レンフィールド(ka1565)とブリジットによる特別レッスン。2人とも鈴やタンバリンといった簡単な楽器でリズムを取ったり、綺麗に響くコツを伝授してもらったり。踊りに合わせるテクニックなども事細かに教えてもらった。簡単そうに見えて意外と難しいし、体力や集中力がいるというのも改めて実感したのだ。
そして際立つは教師陣二人のスパルタ教育。
「ブリジット、脅しすぎ」
ブリジットの頭に虎猫を乗せると、虎猫はそのまま頭から彼女の顔面に張り付いてその顔を覆い隠した。
「むふー!? 『これ以上の練習はできない、やりきった!』という確信があれば緊張なんてしないもの。ナツキさんだってそうでしょう」
いつもジト目で基本無表情なナツキが緊張しているかどうかは判別しにくいが、ブリジットに被せた猫をもう一度腕の中に戻してあやす様子は何かを心配している様子ではない。
「うん。ここに来る前に家でユグディラのエーカーに色々教わった。エーカーは『連れていけ』って言ってたけど、ここ幻獣禁止だからお留守番。だから帰ったら好い報告したい。その為にこの子達連れて来た」
「誰かの為に。音楽の真髄だね」
そんな3人の鼻先に蜂蜜の甘い香りを伴った湯気が流れてくる。湯気の来る先にはカフカ・ブラックウェル(ka0794)が蜂蜜入りの紅茶を持ってやって来るところだった。
「音楽も商売も一緒じゃないかな。自分の為だけだと喜びなんて生まれない」
銀盆を下から3本の指で保ち紅茶を差し出す流麗な仕草、はらりと垂れるアッシュブロンドの前髪。月光の愛し子と呼ばれる美しさの片鱗を見せつつ、カフカは少しばかり微笑んで紅茶を差し出した。
「そっか、気持ちで負けてた……失敗したらとか、自分が迷惑かけないかとか『自分の事』ばかり気にしてた」
ティーカップに揺蕩う金色の水面に映る自分の顔を見つけながらミネアはぽつりと零しすと、ブリジットとカフカは軽くウィンクを交わした。
「音楽は言葉通り『音を楽しむ』ものだからね。間違ったらフォローする。だから心のままに奏でてみよう」
「うん、頑張る……!」
そう言って顔を上げたミネアの顔は、やっぱりまだ強張っていた。
そんなミネアの横からナツキが「ミネア」と呼びかけた。
「ミネアとともだちになってから、楽しい事たくさんあるってわかった。お花配って、チョコ作って、東方行って、会社も作って。みんな楽しかった。今日もまた『楽しい』を見つけたい。ともだち、できたらいい」
ミネアの瞳が丸くなり、強張っていた肩が氷が解けるようになだらかになっていく。
「ナツキちゃん、今のすごくいい笑顔……」
いつも無表情と言われたナツキがちょっと変わった瞬間。
●
大きな楽団が通用口を降りて楽器を下ろしていくのとすれ違うようにして皆は舞台のスポットライトが漏れる扉に向かって歩むと、メンバー紹介の声が聞こえると同時に進行係からGOサインが送られた。
一歩。書き割りの間からすり抜けると、そこはもう色も空気も違っていた。真上から降り注ぐ明かりは熱さをも感じさせ自分たちを照らしている。観客席は真っ暗で自分たちからはほとんど顔の区別はつかないけれどたくさんの人々が座って視線を送っているのは分かった。
静寂の空間。
「『萌芽 森の目覚め』と題しまして、曲をお送りします」
カフカの挨拶の言葉が終わると、彼は静かに頭を垂れて挨拶すると、皆も習ったように軽く息を吸い込んで、一斉にお辞儀をした。
もうおしゃべりはできない。本番の空気。それでも準備する動きのほんのちょっとの間にリラ(ka5679)がミネアに軽く微笑み、ミネアも頷き返す。それだけで十分。
まずはブリジットの高いフルートの音色が響き渡った。
「♪荘厳なる静謐湛える森の中」
リラが低く、腹の底に響き渡るような声でフルートの音色を引き継ぎ歌い始めた。
歌声の響く中、サイアは舞台中央に立つとひざまずき、両手を組んで祈りの姿勢と同時に内に秘めた精霊との契りを形に表す。
淡い光と共に緑の幻、全てを阻む強固なる茨の結界が生み出される。それは舞台にするすると広がり、人工的な舞台は緑に覆われていく。そんな中で、サイアはリラの歌声に合わせて自らも声を上げた。それは歌声ではなくハーモニーを生み出すための響きだった。
そこにクウ(ka3730)がクラシックギターをもって舞台に足を踏み入れた。
「♪近づきことも叶わぬこの森の。だけど知っているその奥に。響く祈りのリリック」
クウは沈鬱な曲の音色からは真反対の強く明るい音をギターで奏でた。不協和音ではない。今流れている音をベースにしたてた正しいメロディラインだ。
クウはそんな強く明るい音色をもってサイアに一歩、また一歩と近づく。が、それを真白い衣のブリジットが軽く跳躍すると、クウの正面に降り立って行く手を阻んだ。
「♪森を畏敬し愛する歌 それは凍てつく冬の氷のように 誰も寄せ付けぬ」
リラの歌声に合わせたブリジットは白い衣をひるがえしてクウに来た道へと追いやっていく。
雪の女王みたいだ、観客席で囁き声が漏れてくると、よし、思惑通り、とクウは不敵な笑みが漏れた。ここまでうまくはまってくれるとクウも演技というものに飛び込んだ甲斐があるというものだ。
「ああ、森よ! 私を受け入れておくれ」
クウの言葉と共にミネアがフェアリーベルをゆっくりと持ち上げて響かせ、盛り上がる舞台を鎮めていく。
「ド、ソ、ファ、ミ、レ、レ……」
皆が次の楽章に移るために楽器を持ち変える時間、そこはミネアが主役であった。
が、助けのないこの時間、自分に注目が集まると自覚せざるを得ない時間。ミネアの緊張は最高潮だった。
「あ」
ベルを取り違えて、どうにもメロディーラインがまとまりを欠いたのが本人にも理解できたのだろう。一瞬、空気が凍り付いた。
「幸せの言の音さえも 凍てつかせる」
ルナが音色を引き継ぐようにして静かに静かにハープを奏でた。
「それでも、歌は届く。祈りのように。幾度凍てついても春の日差しが氷を解かすように」
ルナの言葉をつないでリラが歌うと、最初のようにミネアに視線を送ると、ミネアもいつものように慌てふためくばかりではなく、再びフェアリーベルを鳴らし始める。
「光となり森に注げ」
「風となり森を駆け」
リラの言葉をつなぐように、カフカがハープへの持ち替えを完了させて、ゴールデンハープの見た目に相応しい輝くような明るい旋律を紡ぎ出した。
そしてキーボードを設置した席へと移動完了したルナがそらに音色を重ねる。
「水となり森へ流れよ」
音が重なり合って和音となる中に、しゃらららら、と音を鳴らした鉾先舞鈴をもったナツキが茨の幻影の中に飛び込み、鉾を振るった。
「♪しゃらら、春をはこべー」
「♪しゃらら、氷を溶かせー」
覚醒が生む緑の幻の中に飛び込んだナツキとクウが並んで舞台に立ち、歌声を披露し始めると一転、ノリのいいリズムにルナがすぐさまキーボードでメロディーラインを生み出していく。
観客も今までの静かな曲調からの変化に前のめりになっているのがわかる。
「さあ、観客も皆さんも一緒に春を呼び込む応援、お願い! まずは手拍子ー」
クウがぱんぱんぱぱぱんっ、手拍子をとり、客席に合図を送ると、小さいながらもいくつか手拍子が返ってくる。
「お、ありがとー! はーい、もーいっかい!」
クウがギターでメロディーを繰り返すと、また手拍子。今度は観客も成り行きが理解できたのかしっかりと手拍子が返ってくる。
その手拍子に合わせてリラがくるりと舞いながら、中央に移動し高らかに歌う。
「♪爽やかな風 温かな光 潤う水に」
春を謳うリラを祝うように、ナツキの鈴が、クウのギターが鳴り響いた。
その間にブリジットが白い衣を何度も翻して舞いながら、サイアに合図を出すと覚醒による幻影を収めて、元の舞台へと景色を戻した。
「いい調子」
「さぁ、ラストですね」
ブリジットは舞いながらミネアが担当していたベルを回収し、サイアに渡すと舞台の中央に引き連れていく。
ミネアもルナも中央に集まり、全員が揃う。
「♪さあ歌おう歓喜の歌を」
カフカがルナに視線を送りつつ手際よくハープを鳴らし、ルナもキーボードを操りながら声を合わせて一緒に歌う。
本当はまだ声を出すことには慣れていないけれど、でもみんなが集まって。一緒になって声を出せるなら。ルナも胸を高鳴らしながら、響き渡る声を披露する。
「♪さあ奏でよう生命の鼓動を」
ナツキは音に合わせて華麗にステップを踏み、クウの動きと対象になるように注意する。
クウはといえば、ナツキのぴったりな動きににんまり笑いつつ、軽快に。ナツキの鈴が広がりを見せられるようにギターを軽く振り回す。
「♪我らはこの大地に生きる仲間だ」
春を司る桃色の衣装のリラと、冬を司る白い衣装のブリジットが手を取り合って歌い上げた。
そしてコーラスに合わせて、ミネアがタンバリン、サイアがフェアリーベル鳴らして。観客と共にめいっぱいの声を集めていく。
「ありがとうございましたぁ!!」
そして歌が終了した。
●
「いやぁ、楽しかったね!」
クウは満足げな顔で『参加賞』と書かれた小さな包みを振り回した。
「うーん、やっぱり練習時間も少なかったし仕方なかったかな」
ルナはキーボードとハープを包んだ荷物を街路樹の傍に置いて、石造りの音楽ホールを振り返るとまだ予選は続いているらしく時折音が漏れ聞こえてくる。
その場で採点されるのだが、残念ながら一同のバンドは決勝進出に至る得点には至らなかった。
「でもいっぱい歌えて楽しかったですよね。みんなと一緒に仲良く歌えた点は大成功だったと思います♪」
リラはもう音楽ホールには気にした様子もなく、手渡された講評をルナに広げて見せた。
「ほら『練習不足はいなめないが、構成や物語のある楽曲、アドリブの効いた立ち回りは非常にいい。参加者の絆の強さがわかる』ですって」
「おお、本当?」
「嬉しいですね」
みんなで顔を寄せ合って講評の文字を追う様子を見て、掲示する役目のリラはくすくすと笑った。みんな前からの知り合いではあるが、こんなに身体も顔も寄せ合って、あれは良かった、ここはもっとこうすればなどと話し合う様子は、もう何年も前からずっと一緒にやって来たような感じすらある。
仲良くしましょうね。
リラの願いは本当に果たされていたと仲間達の顔を見て思うのであった。
「よーし、このまま打ち上げいこーっ」
クウが拳をぐっとあげると、みんな喝采した。
「何食べる? 干し肉?」
「そこはステーキじゃないんですか」
笑いながらまた歩き出した面々の一番後ろでルナは一人、少しだけ他の人とは違う胸のドキドキを抱えながら歩いていた。
1フレーズと、コーラス。ほんの少しだけど歌えることができた。歌を口にするトラウマは克服できたとはいえ、まだドキドキする。小さいけれども一つハードルを越えたようなドキドキがまだ熱と共に胸に余韻を残している。
「綺麗な歌声でしたね」
そんなルナに声をかけたのはサイアだった。傾き始めた日差しを背にした彼女の微笑みは、自分の気持ちをも見透かされていたようでルナは一瞬言葉を詰まらせた。
「サイアさんも。すごく堂々としていて素敵でしたよ。とても伸びやかで。おかげで私も楽しめました」
「私も。皆さんと一緒だから楽しめたんだと思います」
何度となく辛いことも楽しいことも一緒に過ごしてきて、人生の転機と言えるような出来事の時もすぐそばにいて。
ルナはなんとなくサイアの微笑みが理解できたような気がした。きっと同じこと思っている。
「お互い、一歩前進。ですね」
「おーい、おいてくよー」
気が付けば遠くなった仲間達から声が聞こえる。
「すぐ行きますー。……行きましょう!」
「はい」
2人はそろって皆の輪の中に走っていった。
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【相談】参加者控室 ルナ・レンフィールド(ka1565) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/01/28 23:19:51 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/01/25 08:49:03 |