ゲスト
(ka0000)
フールディン籠城戦 <壁内決戦>
マスター:真太郎

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/01/29 15:00
- 完成日
- 2017/02/03 14:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
フールディンの町の秘密の抜け道に現れた元族長のヴィブ・フルディンと、デルの町の自警団長の葛葉次郎は、歪虚でないか念入りに調べられた後、ようやく町に入る事を許された。
「父様ーー!!」
娘のスズリが泣きながら父のヴィブに抱きついた。
「おぉ、スズリや。心配かけてすまなかったな」
「無事だったのだな父上! 本当に良かった……」
次男のヴィオルも安堵の面持ちで父を出迎える。
「フェグルに殺されかけたので、無事とは言い難いがな」
「父上、兄上の事なのだが……」
ヴィオルはフェグルの手紙を渡すと今まで起こった事を話した。
「フェグルはこんな事になっておったのか……。ワシが生きておるのもフェグルが手加減したからかもしれんな」
「俺もそうだと思う」
ヴィブとヴィオルは神妙な面持ちでフェグルの事を想った。
「父様は今までどうしていたの?」
「敵の首領であるクススの正体を調べるために大霊堂に行っておった。奴について分かっておる事は『自称不死身で何度でも新たに蘇ってくる』『常に甲冑を纏っている』『甲冑の形や大きさは様々』だ。
だからワシは甲冑を操っているだけだろうと考え、歪虚の特殊能力にそういう力はないかと調べ、『おもちゃの兵隊』という能力を見つけ出した」
「おもちゃの兵隊?」
「【嫉妬】の歪虚が扱う力で、知覚できる範囲内の無機物を雑魔として動かす事が出来る能力だそうじゃ。恐らくこれで間違いないじゃろう」
「敵が甲冑を遠隔操作しているなら見つけ出して倒すのは至難の業だな」
「でも動かせるのは知覚できる物だけなんでしょ。それなら甲冑の周りを探せば見つかるんじゃないの?」
「それも難しいじゃろう。奴は恐らく空が飛べて、サイズもそれほど大きくはないじゃろうからな」
「どうしてそこまで分かる?」
「次郎殿から聞いたが、デルの町に現れた奴は町の東側で倒された後、すぐに町の西側に現れたそうじゃ。その距離を次郎殿やハンター達に悟られる事なく瞬時に移動したとなれば、空を飛んだと考えるのが妥当じゃろう。
これは単なる推測じゃが、奴は甲冑内に収まる程の、恐らく1m前後の大きさだと思う」
「でも……そんなに小さいんじゃ見つけてもすぐ飛んで逃げちゃうんじゃない。どうやって倒すの?」
「奴の本体を何処にも逃げられない閉所に誘き寄せて倒せばよい」
「簡単に言ってくれるが、どうやって誘き寄せる?」
「ワシに一応策がある」
「本当か!?」
「敵を町中に入れ、お前が囮になって奴を議事堂内まで誘い込め」
「えっ! 敵を町に入れちゃうの!?」
あまりにも大胆かつ危険な策にスズリが驚く。
「ダメだ! 俺はともかく町の住人が危険すぎる!」
「じゃが他に手があるのか? この籠城だって何時までも続けてはおれんじゃろう。矢や弾はどれほど残っておる?」
「最初に切り詰めて使ったため後1~2戦できるだけはある」
「ならば頼みのハンター達はどうじゃ? もう疲れ切っておるのではないのか?」
「それは……」
「戦えるとしても後一戦がせいぜいじゃろ。ならばその一戦で敵の首領を討ち取って終止符を打つしかあるまい」
「……」
そう言われてもヴィオルは決断できないでいた。
自分の命などは惜しくない。だが住人の命が掛かっているとなると話は別だ。
重い……。
自分に伸し掛かってくる命と責任の重圧で胸が詰まる。
ヴィオルは救いを求めるようにヴィブを見た。
しかしヴィブの目は自分で決めろと言っている。
今の族長はお前なのだからと。
(これが族長という立場の重みか……)
他に策はないか?
兄上ならどうしたか?
何が最善か?
色々な事が脳裏をよぎる。
「……その策で行こう」
悩み抜いた末ヴィオルは決断した。
住人を守る最善の手段は何かを考えた時、やはりこれが一番だと判断したからだ。
これが正しい判断だったかどうかは分からない。
もし間違っていたとしたら責任など取りようのない大変な事態になるだろう。
しかし問題は責任云々ではない。
決断した以上は最善を尽くす。
それが最も大事なはずだ。
「父上、スズリ、一緒に最善の配置を考えてくれ」
「もちろんじゃ」
「うん!」
「そういう事なら自分も手を貸そう」
「ありがとう、次郎殿」
4人は知恵を出し合い、町での兵の配置を練った。
ヴィオルは兵を集めて練り上げた作戦を伝えた。
「敵を町中に……」
「そんな事をして大丈夫なのか……」
当然、兵達に動揺が走る。
「このまま籠城を続けてたらダメなのか?」
「それでは戦いが延々と長引くだけで、いずれ我々が消耗して負けてしまう。敵の首領を確実に倒せるこの策でないと戦いを終わらせられないんだ」
ヴィオルは熱心に兵に説いた。
「決戦って事か……」
「……分かった。やろう!」
「俺もやるぞ!」
「わしもじゃ!」
『オォーーー!!』
やがて兵たち全員が雄叫びを上げた。
そして時が経ち。
「来たぞ! 敵の第三波じゃ!!」
物見で監視していた兵の1人が報告にやってきた。
「遂に来たか……」
ヴィオルの顔が緊張で引き締まる。
残存の歪虚群を率いてきた甲冑歪虚のクススは町に接近しても迎撃に出てこない様を見て声を上げた。
『人間どもよ、得意の魔法はどうした? 強力な武芸は披露しないのか? ハハハッ! 大精霊の力が使えない貴様らなど所詮その程度の存在だ! 矮小な人間らしく我らに蹂躙されるがいい!!』
そして歪虚群は町に殺到し、遂に門が破られてしまう。
壊れた門からゴブリンとオーガが雪崩込んで来る。
「大通りから脇には絶対に行かせるなー!」
ドワーフ兵達は事前に住人の手も借りて大通りの小さな脇道は塞ぎ、議事堂に続くメインストリートの守りだけを薄くし、遅滞戦術で敵をジリジリと議事堂に招き寄せた。
その際に最前線に立ったのは元ハンターの次郎で、上手く敵と切り結びつつどうにかクススを議事堂前まで引き込んだ。
そこでドワーフ兵は一気にクススの周りの歪虚に攻勢を仕掛け、クススと対する者を次郎とヴィオルだけになる状況を作り上げる。
次郎は単身クススに仕掛け、わざと斬られた。
「次郎殿!」
「逃げろヴィオル!」
「くっ……すまぬ」
『逃さん!』
へたくそな演技だったが、クススは議事堂内に逃げたヴィオルを追ってきてくれた。
次郎はクススが中に入るのを見届けると扉を閉ざして鍵をかけた。
「後は頼んだぞハンター達」
『なるほど、私を孤立させるための罠だったか』
議事堂内で待ち構えていたハンター達を見てクススが感心したように言う。
『だが残念だったな』
不意にクススの甲冑の剥がれた。
剥がれた甲冑の下には別の甲冑があり、剥がれた甲冑は再び1つに組み上がる。
更に中の甲冑の体が開き、そこから1mサイズの人形のような物が転がり出てきた。
『こいつらはマグネマン。アレクサンドル・バーンズが造った物にアレンジを加えた類似品だ。大技の使えないお前達が果たして我らに勝てるかな?』
「父様ーー!!」
娘のスズリが泣きながら父のヴィブに抱きついた。
「おぉ、スズリや。心配かけてすまなかったな」
「無事だったのだな父上! 本当に良かった……」
次男のヴィオルも安堵の面持ちで父を出迎える。
「フェグルに殺されかけたので、無事とは言い難いがな」
「父上、兄上の事なのだが……」
ヴィオルはフェグルの手紙を渡すと今まで起こった事を話した。
「フェグルはこんな事になっておったのか……。ワシが生きておるのもフェグルが手加減したからかもしれんな」
「俺もそうだと思う」
ヴィブとヴィオルは神妙な面持ちでフェグルの事を想った。
「父様は今までどうしていたの?」
「敵の首領であるクススの正体を調べるために大霊堂に行っておった。奴について分かっておる事は『自称不死身で何度でも新たに蘇ってくる』『常に甲冑を纏っている』『甲冑の形や大きさは様々』だ。
だからワシは甲冑を操っているだけだろうと考え、歪虚の特殊能力にそういう力はないかと調べ、『おもちゃの兵隊』という能力を見つけ出した」
「おもちゃの兵隊?」
「【嫉妬】の歪虚が扱う力で、知覚できる範囲内の無機物を雑魔として動かす事が出来る能力だそうじゃ。恐らくこれで間違いないじゃろう」
「敵が甲冑を遠隔操作しているなら見つけ出して倒すのは至難の業だな」
「でも動かせるのは知覚できる物だけなんでしょ。それなら甲冑の周りを探せば見つかるんじゃないの?」
「それも難しいじゃろう。奴は恐らく空が飛べて、サイズもそれほど大きくはないじゃろうからな」
「どうしてそこまで分かる?」
「次郎殿から聞いたが、デルの町に現れた奴は町の東側で倒された後、すぐに町の西側に現れたそうじゃ。その距離を次郎殿やハンター達に悟られる事なく瞬時に移動したとなれば、空を飛んだと考えるのが妥当じゃろう。
これは単なる推測じゃが、奴は甲冑内に収まる程の、恐らく1m前後の大きさだと思う」
「でも……そんなに小さいんじゃ見つけてもすぐ飛んで逃げちゃうんじゃない。どうやって倒すの?」
「奴の本体を何処にも逃げられない閉所に誘き寄せて倒せばよい」
「簡単に言ってくれるが、どうやって誘き寄せる?」
「ワシに一応策がある」
「本当か!?」
「敵を町中に入れ、お前が囮になって奴を議事堂内まで誘い込め」
「えっ! 敵を町に入れちゃうの!?」
あまりにも大胆かつ危険な策にスズリが驚く。
「ダメだ! 俺はともかく町の住人が危険すぎる!」
「じゃが他に手があるのか? この籠城だって何時までも続けてはおれんじゃろう。矢や弾はどれほど残っておる?」
「最初に切り詰めて使ったため後1~2戦できるだけはある」
「ならば頼みのハンター達はどうじゃ? もう疲れ切っておるのではないのか?」
「それは……」
「戦えるとしても後一戦がせいぜいじゃろ。ならばその一戦で敵の首領を討ち取って終止符を打つしかあるまい」
「……」
そう言われてもヴィオルは決断できないでいた。
自分の命などは惜しくない。だが住人の命が掛かっているとなると話は別だ。
重い……。
自分に伸し掛かってくる命と責任の重圧で胸が詰まる。
ヴィオルは救いを求めるようにヴィブを見た。
しかしヴィブの目は自分で決めろと言っている。
今の族長はお前なのだからと。
(これが族長という立場の重みか……)
他に策はないか?
兄上ならどうしたか?
何が最善か?
色々な事が脳裏をよぎる。
「……その策で行こう」
悩み抜いた末ヴィオルは決断した。
住人を守る最善の手段は何かを考えた時、やはりこれが一番だと判断したからだ。
これが正しい判断だったかどうかは分からない。
もし間違っていたとしたら責任など取りようのない大変な事態になるだろう。
しかし問題は責任云々ではない。
決断した以上は最善を尽くす。
それが最も大事なはずだ。
「父上、スズリ、一緒に最善の配置を考えてくれ」
「もちろんじゃ」
「うん!」
「そういう事なら自分も手を貸そう」
「ありがとう、次郎殿」
4人は知恵を出し合い、町での兵の配置を練った。
ヴィオルは兵を集めて練り上げた作戦を伝えた。
「敵を町中に……」
「そんな事をして大丈夫なのか……」
当然、兵達に動揺が走る。
「このまま籠城を続けてたらダメなのか?」
「それでは戦いが延々と長引くだけで、いずれ我々が消耗して負けてしまう。敵の首領を確実に倒せるこの策でないと戦いを終わらせられないんだ」
ヴィオルは熱心に兵に説いた。
「決戦って事か……」
「……分かった。やろう!」
「俺もやるぞ!」
「わしもじゃ!」
『オォーーー!!』
やがて兵たち全員が雄叫びを上げた。
そして時が経ち。
「来たぞ! 敵の第三波じゃ!!」
物見で監視していた兵の1人が報告にやってきた。
「遂に来たか……」
ヴィオルの顔が緊張で引き締まる。
残存の歪虚群を率いてきた甲冑歪虚のクススは町に接近しても迎撃に出てこない様を見て声を上げた。
『人間どもよ、得意の魔法はどうした? 強力な武芸は披露しないのか? ハハハッ! 大精霊の力が使えない貴様らなど所詮その程度の存在だ! 矮小な人間らしく我らに蹂躙されるがいい!!』
そして歪虚群は町に殺到し、遂に門が破られてしまう。
壊れた門からゴブリンとオーガが雪崩込んで来る。
「大通りから脇には絶対に行かせるなー!」
ドワーフ兵達は事前に住人の手も借りて大通りの小さな脇道は塞ぎ、議事堂に続くメインストリートの守りだけを薄くし、遅滞戦術で敵をジリジリと議事堂に招き寄せた。
その際に最前線に立ったのは元ハンターの次郎で、上手く敵と切り結びつつどうにかクススを議事堂前まで引き込んだ。
そこでドワーフ兵は一気にクススの周りの歪虚に攻勢を仕掛け、クススと対する者を次郎とヴィオルだけになる状況を作り上げる。
次郎は単身クススに仕掛け、わざと斬られた。
「次郎殿!」
「逃げろヴィオル!」
「くっ……すまぬ」
『逃さん!』
へたくそな演技だったが、クススは議事堂内に逃げたヴィオルを追ってきてくれた。
次郎はクススが中に入るのを見届けると扉を閉ざして鍵をかけた。
「後は頼んだぞハンター達」
『なるほど、私を孤立させるための罠だったか』
議事堂内で待ち構えていたハンター達を見てクススが感心したように言う。
『だが残念だったな』
不意にクススの甲冑の剥がれた。
剥がれた甲冑の下には別の甲冑があり、剥がれた甲冑は再び1つに組み上がる。
更に中の甲冑の体が開き、そこから1mサイズの人形のような物が転がり出てきた。
『こいつらはマグネマン。アレクサンドル・バーンズが造った物にアレンジを加えた類似品だ。大技の使えないお前達が果たして我らに勝てるかな?』
リプレイ本文
アルマ・A・エインズワース(ka4901)はアレクサンドルと聞いた瞬間一瞬表情を無くしていた。
「……今、誰のお名前を呼んだですかー?」
だがすぐに笑顔でそう尋ねた。
「アレックスさんとどういったご関係です?」
『お前こそどういう関係だ? ヤツに無様にやられた口か?』
甲冑歪虚は嘲るような返事をする。
「ですよね。素直に言ってくれないって、知ってます」
元より返事は期待していなかったのか、アルマは魔導ハンマー「インパクト」を構えた。
(このサンダルは使わずに済ませたかった……)
保・はじめ(ka5800)は深い罪悪感を抱きながら戦いに臨んでいた。
なぜなら猫の毛皮で作られた『サンダル「キャットウォーク」』を履いているからだ。
(猫さんの命を犠牲にし、さらには踏みつけにするだなんて!)
性能が良い事は分かっていたが、猫好きの保は罪悪感から使えなかった。
だが近接戦闘を強いられる今の状況では使わざるを得なかったのだ。
(この憤りの全てを、あの歪虚にぶつけてやりましょう)
歪虚達は全く謂れのない憤りを保からぶつけられたのだった。
ハンター達は甲冑歪虚達を議事堂内から逃さぬように包囲した。
「ボクは魔術師って事で狙われそうだからねー」
レオナルド・テイナー(ka4157)だけは部屋の隅に走り、わざと魔術師である事を公言すると、聖盾で守りを固めて魔導拳銃「イグナイテッド」を構える。
「今度は、黒幕のお出ましか……。どうやら黒幕を倒さない限り、此方には生き延びるのが難しそうだな」
キャリコ・ビューイ(ka5044)は甲冑歪虚が分解した過程からクススの正体だと当たりを付けた小マグネマンに試作型特殊魔導拳銃「憤慨せしアリオト」を放つ。
(クススが先に建物に侵入していれば待ち伏せに気付くはず。建物を操作している場合も同様。なら小さい方のマグネマンの中に潜んでいる可能性が高い)
そう推察した保は狙いやすくクスス潜伏の疑いがある小マグネマンの胴体に魔導ガントレット「チャンドラヴァルマン」で殴り掛かる。
「スキルが使えない? 確かにそうですね……だから何だって言うんです? 燃やす……いえ。潰しますっ」
アルマは魔導ハンマーを振りかぶって小マグネマンに叩きつける。
しかし小マグネマンはハンマーを避けると、銃弾を腕で防ぎつつ、ガントレットを手で受け止めた。
そしてそのまま保の拳を握り、尖った指先が皮膚を突き破って喰い込む。
「っ!」
保は左腕の戦籠手「止水」でも殴り掛かったが、それも受け止められた。
「お人形さーん。僕と遊びましょー? アハハハッ!!」
アルマが保を掴んで動きの止まった小マグネマンにハンマーを振り下ろす。
小マグネマンは保を放すと後ろに退がって回避したが、そこにキャリコとレオナルドが魔導拳銃を撃ち放つ。
銃弾を浴びた小マグネマンは身を屈めて膝を腕で抱えて体を小さく丸めると、そのまま床をゴロゴロと転がった。
「なんなのその回避法!?」
レオナルドは楽しげに驚きながら魔導拳銃を更に撃つが、回転している体には真芯に当てる事ができず、銃弾は弾かれてしまう。
「変体的な動きには驚いたが、上手く隅に行ってくれた」
キャリコは小マグネマンを追いつつ武器をパイルバンカー「エクリシス」に持ち替える。
「アルマ、合わせろ! そちらに飛ばす!」
そして小マグネマンの起き上がりざまを狙ってパイルを射出。
少マグネマンの胴体が大きくヘコみ、衝撃で体がよろける。
全身磁鉄で見た目以上に重量のある小マグネマンを飛ばす事はできなかったが、体勢の崩れたところへアルマがハンマーを横薙ぎに叩きつけた。
「魔法がなければ物理で殴ればいいじゃなーい!」
金属がぶつかり合う甲高い音が響き、小マグネマンの体がくの字に曲がる。
だが今度もよろけただけで、すぐに貫手で反撃してきた。
アルマは咄嗟に聖盾で受け止めた。
その隙を狙ってキャリコが再びパイルバンカーを放ったが、今度は避けられた。
保もガントレットで殴り掛かるが、これも地面を転がって避けられてしまう。
「まだそんなに動けるんですか? 意外と頑丈ですねえ」
「しかも重量をカバーする変則的な動きをして、思っていたより素早いです」
「こいつはもう当たらんか」
キャリコが武器を魔導拳銃に持ち直す。
「僕があいつの動きを止めます。その隙に仕留めて下さい」
保は小マグネマンの正面から殴りかかった。
すると先程と同じように受け止められ、拳を握られる。
(かかった!)
だが今度は保からも握り返す。
こちらの意図を読んだのか小マグネマンは手を振りほどこうとしたが、更に左腕の戦籠手でも掴む。
「今です!」
合図した保の脇腹を小マグネマンが蹴りつけてきた。
鋭く尖った足の爪先が体に刺さって激痛が走る。
だが保は決して離さない。
「アハハッ! 潰してあげますよー!」
アルマが小マグネマンの真上からハンマーを叩き下ろす。
ハンマーの荷重で小マグネマンがうつ伏せで地面に叩き伏せられる。
それでも小マグネマンは地面に手を起き上がろうとした。
しかし起き上がるより先にキャリコが背中を踏みしだく。
「これで変な回避も出来ないだろう? 全弾持っていけ!」
そして小マグネマンの頭に弾丸を次々と撃ち込んだ。
それで小マグネマンは動かなくなり、塵と化して消えていったが、跡には何も残っていなかった。
「……クススさんいませんねー?」
「この人形自体がクススなんじゃないのか?」
「いえ、おそらく違うでしょう。きっと別のどこかにいます」
一方、カイン・マッコール(ka5336)は甲冑歪虚と相対していた。
「さっさと終わらせないといけない。こうしている間にもゴブリン共は町を襲っている。これ以上こいつらにゴブリン退治の邪魔をされたくはない」
カインは甲冑歪虚が突いてきたハルバードを妖剣「アンサラー」で弾くと甲冑歪虚の左側に回り込み、大盾めがけて妖剣を叩き込んだ。
その衝撃で甲冑歪虚が少しよろける。
甲冑歪虚は反撃しようとすぐに向きを変えてくるが、カインもその動きに合わせて甲冑歪虚の左側をキープし、執拗に大盾への攻撃を繰り返した。
やがて焦れた甲冑歪虚が大盾の下を薙ぐようにハルバードを振るい、カインの脚が斬り裂かれる。
だがその強引な攻撃で防御が若干緩んだ隙を逃さずカインは大盾をすくい上げるように妖剣を振った。
すると大盾を弾かれて甲冑歪虚のガードが空く。
カインは半歩前に出ると空いたガードの隙間から脚を斬りつけた。
甲冑歪虚はすぐに盾を構え直して反撃してきたが、カインは深追いせずにすぐ退がり、再び隙を伺いながら妖剣を盾に叩きつける。
『大した力と剣技だ。だが、こうすればどうかな? 来いマグネマン』
その頃、ラン・ヴィンダールヴ(ka0109)は大マグネマンを相手にしていた。
敵を部屋の隅に追い込んで退路を断つため、少し力任せで強引な攻撃を叩き込んで後ろに退かせようとした。
しかし相手は全身が磁鉄で重量がある上にゴーレム並の知性しかないマグネマン。
攻撃を喰らっても退がる事はなく、鉤爪で反撃してくる。
ランは鉤爪を神槍「ブリューナク」で受け流すと、脚を槍で薙ぎ払った。
手応えはある。だが倒れない。
「数さえ少ないなら技使えなくてもそれなりに何とかなるんだけど、コイツを動かすのは大変そうだなぁ……」
ランがどうしたものかと考えていると、不意に大マグネマンが甲冑歪虚に引き寄せられるように高速で動いた。
そして大マグネマンが甲冑歪虚に張り付き、再び一体となる。
カインが甲冑歪虚の大盾に妖剣を叩き込む。
だが大マグネマンが張り付いて重量と硬度が上がったため揺るがなくなり、完全に防がれた。
『今度はこちらの番だ』
甲冑歪虚がハルバードを薙ぎ払う。
カインが妖剣で受けると刃と刃がかち合う擦過音が響かせながら伝わる重い衝撃で腕が痺れた。
痺れを無視して妖剣を跳ね上げてハルバードの剣筋を反らし、すかさず反撃。
しかし盾で防がれた上に、甲冑歪虚は揺るぎもしない。
そこにランが飛び込んで甲冑歪虚を神槍で突いた。
神槍は大盾で防がれたが、ランは構わず更に突く。
「左右から挟み撃ちにするよ」
「了解」
カインはランとは逆側に回り込んで甲冑歪虚に斬りかかる。
しかしハルバードで受け止められた。
『この程度で私は崩せぬ!』
甲冑歪虚が反撃しようとした、その時。
「火のマテリアルよ、炎と化し……」
レオナルドの魔法の詠唱が聞こえてきた。
『チィ!』
甲冑歪虚は咄嗟に盾の裏に隠し持っていた投げナイフを引き抜いてレオナルドに投げた。
「キャー! こわ~い」
レオナルドは聖盾の裏で身を縮めた。
盾の表面で何かが当たる音がなり、足元にポトリとナイフが落ちる。
「な~に? やっぱりボクの魔法は怖い? 無視できない? とんだ臆病者ねー!」
もちろんレオナルドはもう魔法が使えないので単なるフェイクだが、そんな事はおくびにも出さず煽った。
そしてカインは甲冑歪虚がナイフを投げた隙を逃さず斬りかかる。
ハルバードは放しているので甲冑歪虚は腕で受けた。
妖剣の刃が腕に喰い込み、腕に張り付いていた大マグネマンの一部が弾け飛ぶ。
『このっ!』
甲冑歪虚は大盾をカインに叩きつけて弾き飛ばす。
そしてハルバードを掴んだが、その間にランが盾の内側に入り込んできた。
「守りがガラ空きだよー」
ランは腰を落として下肢に力を込め、神槍を持つ腕を後ろに引く。
そして地面、脚、腰、背中、腕、槍先へと力が流れるよう一気に神槍を突き出した。
神槍は甲冑歪虚の体に張り付いていた大マグネマンの裂き貫き、更に胴体も貫通し、槍先が甲冑歪虚の背中から突き出た。
だが甲冑歪虚もカウンターでハルバードの二段突きを放っており、ランの腕と脚が斬り裂かれる。
ランは神槍を引き戻して更に突きを放ったが、大盾で受け止めれた。
しかし体の各所から大マグネマンが剥がれ落ちたためか、甲冑歪虚は少しふらついた。
更に銃弾も飛来し、甲冑歪虚に弾痕が刻まれる。
小マグネマンを倒し終えて標的を甲冑歪虚に変えた保とキャリコが銃を撃ったのだ。
「正しく『甲冑』歪虚だったわけですか。中身の存在に気を取られて、まんまと惑わされましたよ」
「で、その中身はどこにいるんだ?」
「叩けば素直に話す気になってくれますかー? まあ話しても叩きますけどねー。アハハッ!」
保、キャリコ、アルマがそれぞれの武器を構える。
『くそっ、忌々しい奴らめっ!!』
甲冑歪虚の盾の裏から何かが落ちて弾け、そこから煙が吹き出し、この場にいる全員を包み込んだ。
「煙幕!?」
「うっそ! 煙幕とか聴いてないんですケド」
レオナルドが慌てた様子で体を派手に動かし、首に巻いた『リトルベル・チョーカー』の鈴をチリンチリンと鳴らし立てる。
すると煙に中から何かが迫ってくるのを感じた。
「そうだよなァ……逃げるなら弱いコを真っ先に狙うよねぇ」
レオナルドはボソリと呟き、口に端を歪めて小さく笑うと、両手で盾を構えてしっかり地面に足付けて踏ん張った。
重い衝撃が盾に掛かり、盾ごと腕が持ち上げられる。
更に続く二撃目で体を斬り裂かれ、鮮血が飛び散った。
「キャーー!! 痛いいたーい!!」
レオナルドは何故か可愛い悲鳴を上げて倒れる。
「レオナルド!!」
「そこかっ!!」
しかしレオナルドの捨て身の行動により、煙幕の中でも甲冑歪虚の位置が掴めた。
レオナルドも捨て身はしたが捨て石になる気は毛頭なく、倒れたままヒーリングポーションをがぶ飲みする。
「アハッ! そこですね、クススさん!」
アルマが煙越しにハンマーを叩きつけると大盾に当たる硬い手応えがあった。
「逃さない!」
カインが横合いから妖剣を振り下ろし、甲冑歪虚の左腕を切断。大盾が腕ごと床に落ちる。
「トドメだー!」
ランが神槍を逆袈裟に斬り上げ、甲冑歪虚の体を右腰から左肩まで斬り裂いて両断した。
分かたれた上半身が床にずれ落ち、ガランと大きな音を立てる。
そして煙の中で音もなく塵と化し、塵の中から何かが羽音と共に飛び出してきた。
「クスス!」
保は羽音を頼りにデリンジャーを撃ったが、煙のため当たったかどうか分からない。
そして何処かからコツンコツンと何かを叩く音が聞こえてくる。
「くそっ!」
キャリコは煙幕のない所まで走ると周囲を探った。
すると窓ガラスの前で滑空している体長20cm程の鳥を見つける。
『こんな所で死んでたまるか!』
鳥は嘴を必死に窓ガラスを叩きつけているが、ヒビすら入れられていなかった。
『もうすぐ最大最強の体を作れる。そうすれば脳筋なだけで威張っている巨人どもを見返せる!』
キャリコは窓ガラスを割らないよう慎重に狙いを定めて鳥を撃った。
『ギャ!』
鳥は1発で床に落ちた。
「こいつがクススか?」
キャリコは意外そうに床で藻掻く鳥を見る。
「最大最強の体を作ると言っていましたが、それがあなたの目的ですか?」
保はすでに瀕死になっている鳥のクススに尋ねた。
『そうだ。この町の全ての鉄で作ったサイクロプス並の甲冑があれば、お前達など容易く蹂躙できたものを……』
悔しげに呻くクススの体が塵と化し始める。
「……あぁ。そういえば、僕のは魔法じゃなくて機導術です。後数秒の命でしょうけど覚えておいてくださいね」
アルマの言葉が送葬となり、甲冑を操る【嫉妬】の歪虚クススはこの世から消えた。
「いやー、敵さん、結構賢い厄介な相手かなーって思ってたんだけど……退路ないとこに飛び込んじゃう辺り、そうでもなかったのかなー。あはは」
ランがカラカラと笑う。
「僕達を追い詰めて慢心したのか、目的が叶いそうなので気が急いたのか、どちらにせよ今倒せて良かったです。サイクロプスサイズの甲冑歪虚と戦う事になっていたかと思うとゾッとします」
保は感慨深げに答えた。
「皆! ありがとう! 本当にありがとう! これで町は救われた。兄上も浮かばれる!」
ヴィオルはアルマの手を取ると滂沱の涙を流して感謝した。
「まだです。外のゴブリンも駆逐しなければ町は救われない」
しかしカインが冷静に指摘する。
「そうだったな。まだ手を貸してもらえるか?」
ヴィオルに聞かれて首を振る者などいるはずがなかった。
議事堂の扉が開かれると、カインが真っ先に飛び出していった。
「ゴブリンは殺す」
カインにとってはゴブリンを殺す事が最大の目的なのだ。
「指揮官のクススは討ち取った! お前達の負けだー!」
キャリコが大声で叫んで敵の士気を挫き、他の者も敵に攻撃を仕掛ける。
この戦いで多くの敵を討ち取り、戦意を失った敵は町から逃げていった。
町には多少の被害が出たものの、フールディンの籠城戦は人間側の勝利で幕を閉じたのだった。
「……今、誰のお名前を呼んだですかー?」
だがすぐに笑顔でそう尋ねた。
「アレックスさんとどういったご関係です?」
『お前こそどういう関係だ? ヤツに無様にやられた口か?』
甲冑歪虚は嘲るような返事をする。
「ですよね。素直に言ってくれないって、知ってます」
元より返事は期待していなかったのか、アルマは魔導ハンマー「インパクト」を構えた。
(このサンダルは使わずに済ませたかった……)
保・はじめ(ka5800)は深い罪悪感を抱きながら戦いに臨んでいた。
なぜなら猫の毛皮で作られた『サンダル「キャットウォーク」』を履いているからだ。
(猫さんの命を犠牲にし、さらには踏みつけにするだなんて!)
性能が良い事は分かっていたが、猫好きの保は罪悪感から使えなかった。
だが近接戦闘を強いられる今の状況では使わざるを得なかったのだ。
(この憤りの全てを、あの歪虚にぶつけてやりましょう)
歪虚達は全く謂れのない憤りを保からぶつけられたのだった。
ハンター達は甲冑歪虚達を議事堂内から逃さぬように包囲した。
「ボクは魔術師って事で狙われそうだからねー」
レオナルド・テイナー(ka4157)だけは部屋の隅に走り、わざと魔術師である事を公言すると、聖盾で守りを固めて魔導拳銃「イグナイテッド」を構える。
「今度は、黒幕のお出ましか……。どうやら黒幕を倒さない限り、此方には生き延びるのが難しそうだな」
キャリコ・ビューイ(ka5044)は甲冑歪虚が分解した過程からクススの正体だと当たりを付けた小マグネマンに試作型特殊魔導拳銃「憤慨せしアリオト」を放つ。
(クススが先に建物に侵入していれば待ち伏せに気付くはず。建物を操作している場合も同様。なら小さい方のマグネマンの中に潜んでいる可能性が高い)
そう推察した保は狙いやすくクスス潜伏の疑いがある小マグネマンの胴体に魔導ガントレット「チャンドラヴァルマン」で殴り掛かる。
「スキルが使えない? 確かにそうですね……だから何だって言うんです? 燃やす……いえ。潰しますっ」
アルマは魔導ハンマーを振りかぶって小マグネマンに叩きつける。
しかし小マグネマンはハンマーを避けると、銃弾を腕で防ぎつつ、ガントレットを手で受け止めた。
そしてそのまま保の拳を握り、尖った指先が皮膚を突き破って喰い込む。
「っ!」
保は左腕の戦籠手「止水」でも殴り掛かったが、それも受け止められた。
「お人形さーん。僕と遊びましょー? アハハハッ!!」
アルマが保を掴んで動きの止まった小マグネマンにハンマーを振り下ろす。
小マグネマンは保を放すと後ろに退がって回避したが、そこにキャリコとレオナルドが魔導拳銃を撃ち放つ。
銃弾を浴びた小マグネマンは身を屈めて膝を腕で抱えて体を小さく丸めると、そのまま床をゴロゴロと転がった。
「なんなのその回避法!?」
レオナルドは楽しげに驚きながら魔導拳銃を更に撃つが、回転している体には真芯に当てる事ができず、銃弾は弾かれてしまう。
「変体的な動きには驚いたが、上手く隅に行ってくれた」
キャリコは小マグネマンを追いつつ武器をパイルバンカー「エクリシス」に持ち替える。
「アルマ、合わせろ! そちらに飛ばす!」
そして小マグネマンの起き上がりざまを狙ってパイルを射出。
少マグネマンの胴体が大きくヘコみ、衝撃で体がよろける。
全身磁鉄で見た目以上に重量のある小マグネマンを飛ばす事はできなかったが、体勢の崩れたところへアルマがハンマーを横薙ぎに叩きつけた。
「魔法がなければ物理で殴ればいいじゃなーい!」
金属がぶつかり合う甲高い音が響き、小マグネマンの体がくの字に曲がる。
だが今度もよろけただけで、すぐに貫手で反撃してきた。
アルマは咄嗟に聖盾で受け止めた。
その隙を狙ってキャリコが再びパイルバンカーを放ったが、今度は避けられた。
保もガントレットで殴り掛かるが、これも地面を転がって避けられてしまう。
「まだそんなに動けるんですか? 意外と頑丈ですねえ」
「しかも重量をカバーする変則的な動きをして、思っていたより素早いです」
「こいつはもう当たらんか」
キャリコが武器を魔導拳銃に持ち直す。
「僕があいつの動きを止めます。その隙に仕留めて下さい」
保は小マグネマンの正面から殴りかかった。
すると先程と同じように受け止められ、拳を握られる。
(かかった!)
だが今度は保からも握り返す。
こちらの意図を読んだのか小マグネマンは手を振りほどこうとしたが、更に左腕の戦籠手でも掴む。
「今です!」
合図した保の脇腹を小マグネマンが蹴りつけてきた。
鋭く尖った足の爪先が体に刺さって激痛が走る。
だが保は決して離さない。
「アハハッ! 潰してあげますよー!」
アルマが小マグネマンの真上からハンマーを叩き下ろす。
ハンマーの荷重で小マグネマンがうつ伏せで地面に叩き伏せられる。
それでも小マグネマンは地面に手を起き上がろうとした。
しかし起き上がるより先にキャリコが背中を踏みしだく。
「これで変な回避も出来ないだろう? 全弾持っていけ!」
そして小マグネマンの頭に弾丸を次々と撃ち込んだ。
それで小マグネマンは動かなくなり、塵と化して消えていったが、跡には何も残っていなかった。
「……クススさんいませんねー?」
「この人形自体がクススなんじゃないのか?」
「いえ、おそらく違うでしょう。きっと別のどこかにいます」
一方、カイン・マッコール(ka5336)は甲冑歪虚と相対していた。
「さっさと終わらせないといけない。こうしている間にもゴブリン共は町を襲っている。これ以上こいつらにゴブリン退治の邪魔をされたくはない」
カインは甲冑歪虚が突いてきたハルバードを妖剣「アンサラー」で弾くと甲冑歪虚の左側に回り込み、大盾めがけて妖剣を叩き込んだ。
その衝撃で甲冑歪虚が少しよろける。
甲冑歪虚は反撃しようとすぐに向きを変えてくるが、カインもその動きに合わせて甲冑歪虚の左側をキープし、執拗に大盾への攻撃を繰り返した。
やがて焦れた甲冑歪虚が大盾の下を薙ぐようにハルバードを振るい、カインの脚が斬り裂かれる。
だがその強引な攻撃で防御が若干緩んだ隙を逃さずカインは大盾をすくい上げるように妖剣を振った。
すると大盾を弾かれて甲冑歪虚のガードが空く。
カインは半歩前に出ると空いたガードの隙間から脚を斬りつけた。
甲冑歪虚はすぐに盾を構え直して反撃してきたが、カインは深追いせずにすぐ退がり、再び隙を伺いながら妖剣を盾に叩きつける。
『大した力と剣技だ。だが、こうすればどうかな? 来いマグネマン』
その頃、ラン・ヴィンダールヴ(ka0109)は大マグネマンを相手にしていた。
敵を部屋の隅に追い込んで退路を断つため、少し力任せで強引な攻撃を叩き込んで後ろに退かせようとした。
しかし相手は全身が磁鉄で重量がある上にゴーレム並の知性しかないマグネマン。
攻撃を喰らっても退がる事はなく、鉤爪で反撃してくる。
ランは鉤爪を神槍「ブリューナク」で受け流すと、脚を槍で薙ぎ払った。
手応えはある。だが倒れない。
「数さえ少ないなら技使えなくてもそれなりに何とかなるんだけど、コイツを動かすのは大変そうだなぁ……」
ランがどうしたものかと考えていると、不意に大マグネマンが甲冑歪虚に引き寄せられるように高速で動いた。
そして大マグネマンが甲冑歪虚に張り付き、再び一体となる。
カインが甲冑歪虚の大盾に妖剣を叩き込む。
だが大マグネマンが張り付いて重量と硬度が上がったため揺るがなくなり、完全に防がれた。
『今度はこちらの番だ』
甲冑歪虚がハルバードを薙ぎ払う。
カインが妖剣で受けると刃と刃がかち合う擦過音が響かせながら伝わる重い衝撃で腕が痺れた。
痺れを無視して妖剣を跳ね上げてハルバードの剣筋を反らし、すかさず反撃。
しかし盾で防がれた上に、甲冑歪虚は揺るぎもしない。
そこにランが飛び込んで甲冑歪虚を神槍で突いた。
神槍は大盾で防がれたが、ランは構わず更に突く。
「左右から挟み撃ちにするよ」
「了解」
カインはランとは逆側に回り込んで甲冑歪虚に斬りかかる。
しかしハルバードで受け止められた。
『この程度で私は崩せぬ!』
甲冑歪虚が反撃しようとした、その時。
「火のマテリアルよ、炎と化し……」
レオナルドの魔法の詠唱が聞こえてきた。
『チィ!』
甲冑歪虚は咄嗟に盾の裏に隠し持っていた投げナイフを引き抜いてレオナルドに投げた。
「キャー! こわ~い」
レオナルドは聖盾の裏で身を縮めた。
盾の表面で何かが当たる音がなり、足元にポトリとナイフが落ちる。
「な~に? やっぱりボクの魔法は怖い? 無視できない? とんだ臆病者ねー!」
もちろんレオナルドはもう魔法が使えないので単なるフェイクだが、そんな事はおくびにも出さず煽った。
そしてカインは甲冑歪虚がナイフを投げた隙を逃さず斬りかかる。
ハルバードは放しているので甲冑歪虚は腕で受けた。
妖剣の刃が腕に喰い込み、腕に張り付いていた大マグネマンの一部が弾け飛ぶ。
『このっ!』
甲冑歪虚は大盾をカインに叩きつけて弾き飛ばす。
そしてハルバードを掴んだが、その間にランが盾の内側に入り込んできた。
「守りがガラ空きだよー」
ランは腰を落として下肢に力を込め、神槍を持つ腕を後ろに引く。
そして地面、脚、腰、背中、腕、槍先へと力が流れるよう一気に神槍を突き出した。
神槍は甲冑歪虚の体に張り付いていた大マグネマンの裂き貫き、更に胴体も貫通し、槍先が甲冑歪虚の背中から突き出た。
だが甲冑歪虚もカウンターでハルバードの二段突きを放っており、ランの腕と脚が斬り裂かれる。
ランは神槍を引き戻して更に突きを放ったが、大盾で受け止めれた。
しかし体の各所から大マグネマンが剥がれ落ちたためか、甲冑歪虚は少しふらついた。
更に銃弾も飛来し、甲冑歪虚に弾痕が刻まれる。
小マグネマンを倒し終えて標的を甲冑歪虚に変えた保とキャリコが銃を撃ったのだ。
「正しく『甲冑』歪虚だったわけですか。中身の存在に気を取られて、まんまと惑わされましたよ」
「で、その中身はどこにいるんだ?」
「叩けば素直に話す気になってくれますかー? まあ話しても叩きますけどねー。アハハッ!」
保、キャリコ、アルマがそれぞれの武器を構える。
『くそっ、忌々しい奴らめっ!!』
甲冑歪虚の盾の裏から何かが落ちて弾け、そこから煙が吹き出し、この場にいる全員を包み込んだ。
「煙幕!?」
「うっそ! 煙幕とか聴いてないんですケド」
レオナルドが慌てた様子で体を派手に動かし、首に巻いた『リトルベル・チョーカー』の鈴をチリンチリンと鳴らし立てる。
すると煙に中から何かが迫ってくるのを感じた。
「そうだよなァ……逃げるなら弱いコを真っ先に狙うよねぇ」
レオナルドはボソリと呟き、口に端を歪めて小さく笑うと、両手で盾を構えてしっかり地面に足付けて踏ん張った。
重い衝撃が盾に掛かり、盾ごと腕が持ち上げられる。
更に続く二撃目で体を斬り裂かれ、鮮血が飛び散った。
「キャーー!! 痛いいたーい!!」
レオナルドは何故か可愛い悲鳴を上げて倒れる。
「レオナルド!!」
「そこかっ!!」
しかしレオナルドの捨て身の行動により、煙幕の中でも甲冑歪虚の位置が掴めた。
レオナルドも捨て身はしたが捨て石になる気は毛頭なく、倒れたままヒーリングポーションをがぶ飲みする。
「アハッ! そこですね、クススさん!」
アルマが煙越しにハンマーを叩きつけると大盾に当たる硬い手応えがあった。
「逃さない!」
カインが横合いから妖剣を振り下ろし、甲冑歪虚の左腕を切断。大盾が腕ごと床に落ちる。
「トドメだー!」
ランが神槍を逆袈裟に斬り上げ、甲冑歪虚の体を右腰から左肩まで斬り裂いて両断した。
分かたれた上半身が床にずれ落ち、ガランと大きな音を立てる。
そして煙の中で音もなく塵と化し、塵の中から何かが羽音と共に飛び出してきた。
「クスス!」
保は羽音を頼りにデリンジャーを撃ったが、煙のため当たったかどうか分からない。
そして何処かからコツンコツンと何かを叩く音が聞こえてくる。
「くそっ!」
キャリコは煙幕のない所まで走ると周囲を探った。
すると窓ガラスの前で滑空している体長20cm程の鳥を見つける。
『こんな所で死んでたまるか!』
鳥は嘴を必死に窓ガラスを叩きつけているが、ヒビすら入れられていなかった。
『もうすぐ最大最強の体を作れる。そうすれば脳筋なだけで威張っている巨人どもを見返せる!』
キャリコは窓ガラスを割らないよう慎重に狙いを定めて鳥を撃った。
『ギャ!』
鳥は1発で床に落ちた。
「こいつがクススか?」
キャリコは意外そうに床で藻掻く鳥を見る。
「最大最強の体を作ると言っていましたが、それがあなたの目的ですか?」
保はすでに瀕死になっている鳥のクススに尋ねた。
『そうだ。この町の全ての鉄で作ったサイクロプス並の甲冑があれば、お前達など容易く蹂躙できたものを……』
悔しげに呻くクススの体が塵と化し始める。
「……あぁ。そういえば、僕のは魔法じゃなくて機導術です。後数秒の命でしょうけど覚えておいてくださいね」
アルマの言葉が送葬となり、甲冑を操る【嫉妬】の歪虚クススはこの世から消えた。
「いやー、敵さん、結構賢い厄介な相手かなーって思ってたんだけど……退路ないとこに飛び込んじゃう辺り、そうでもなかったのかなー。あはは」
ランがカラカラと笑う。
「僕達を追い詰めて慢心したのか、目的が叶いそうなので気が急いたのか、どちらにせよ今倒せて良かったです。サイクロプスサイズの甲冑歪虚と戦う事になっていたかと思うとゾッとします」
保は感慨深げに答えた。
「皆! ありがとう! 本当にありがとう! これで町は救われた。兄上も浮かばれる!」
ヴィオルはアルマの手を取ると滂沱の涙を流して感謝した。
「まだです。外のゴブリンも駆逐しなければ町は救われない」
しかしカインが冷静に指摘する。
「そうだったな。まだ手を貸してもらえるか?」
ヴィオルに聞かれて首を振る者などいるはずがなかった。
議事堂の扉が開かれると、カインが真っ先に飛び出していった。
「ゴブリンは殺す」
カインにとってはゴブリンを殺す事が最大の目的なのだ。
「指揮官のクススは討ち取った! お前達の負けだー!」
キャリコが大声で叫んで敵の士気を挫き、他の者も敵に攻撃を仕掛ける。
この戦いで多くの敵を討ち取り、戦意を失った敵は町から逃げていった。
町には多少の被害が出たものの、フールディンの籠城戦は人間側の勝利で幕を閉じたのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/01/25 16:48:43 |
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相談卓 保・はじめ(ka5800) 鬼|23才|男性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2017/01/29 12:41:39 |
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質問卓 保・はじめ(ka5800) 鬼|23才|男性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2017/01/29 09:46:17 |