ゲスト
(ka0000)
幸と不幸を表裏に刻んで
マスター:紫月紫織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~7人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/01/30 07:30
- 完成日
- 2017/02/06 21:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●忌むべき場所
人里から遠く離れたその場所は、何時からか忌むべき場所として認識されるようになった。
原因は至極明快に、雑魔がよく現れるためである。
いつからそうであったのか知る者は無く、なぜそうなったのか知る者も無い。
古い文献を調べれば、どこかにそれを記す手がかりは在ったのかもしれないが、今はまだ、そこに知る者は居なかった。
その忌むべき場所にハンターズソサエティの調査が入ったのが一月ほど前の話。
調査は比較的順調に進み、そして一つの結論に至る。
雑魔たちはすべて、とある場所を中心として集まっていたということが判明したのである。
地図上に記した中心地を目指し進んだ調査隊はそこで崩れた石塔を発見し、そこに原因があると判断してすぐに発掘作業に入った。
作業は順調とは言えなかった。
作業中何度となく雑魔が襲ってくる。
調査隊にはもちろんハンターが同行していたため、最初のうちは問題なく撃退出来ていた。
変化は、発掘作業の進行と共に訪れたのである。
集う雑魔の数は次第に減り、代わりに強く、巨大になり始めたのだ。
調査が進み、石塔の最下層から石棺が運び出された、その直後に現れた雑魔はそれまでに現れたものと一線を画す強さを持っていた。
禍々しい黒銀の毛皮を持つ、巨大な四足の獣。
調査する場所が場所であり、予想された出来事ではあった。
同行していたハンターも、戦闘経験の豊富な者たちだった──だが、話はそれで終わらない。
黒銀の獣と戦う闘狩人の一人が、思わぬところで足を取られて、攻撃を避けれず重症を負った。
まるでそれが皮切りであったかのように、それは起こった。
倒れた闘狩人を援護するべく慌てて黒銀の獣を牽制しようと駆け寄った疾影士は突如舞い上がった砂埃に視界を奪われ攻撃を空振らせた。
慌てて援護射撃しようとした猟撃士の放った矢は、強風に煽られてあろうことか仲間の足を掠める。
動揺は他の仲間達にも伝播した。
隊のリーダーが不穏なものを感じて即座に撤退を指示したのはその直後の話である。
黒銀の獣の追撃をなんとかかわして調査隊が帰路につけたのは少し後。
帰還した調査隊は、運の悪い出来事が幾つも重なったと、ありえないと何度となく訴えたという。
──調査報告書より抜粋。
●ハンターオフィスにて
「なんだか変な話ですねぇ」
調査報告書、および新規の依頼書類を読みながら、愛用のアンダーリムグラスをキラリと光らせて、エリクシアはなんとも言えない表情を浮かべていた。
彼女もそれなりに多くの依頼をさばいてきたオフィス職員である、熟練とは言わないまでも、依頼から漂う匂いを嗅ぎ分ける能力は確かなのだろう。
その彼女が暗に警戒しろ、と示している。
「依頼の内容については、明確です。黒銀の獣の討伐、その後石棺を開けるまでの安全確保……いやはや、何が入っているのかわかったもんじゃありませんね。埋め戻したほうがいいんじゃないですかねぇこれ。封印を施して持ち帰って調べるって話らしいですが、ちょーっと心配ですねぇ」
絶対にヤバい代物ですよこれ。
とその表情が物語っているが、彼女のその言葉で依頼が変わるわけでもない。
何かヤバいものであるにしても、どうヤバいのか確認しないことには適切な処置が施せないのだから。
無論、口にしているエリクシア自身もそんなことはわかっているに違いない。
「警戒情報としては、やはり前回の調査に同行したハンターたちの証言が参考になるでしょうね。普段ならありえないような事故、ミス、出来事が報告書に並んでますが……何なんでしょうね」
ハンターたちの証言をまとめた一枚の紙をそっとあなた達に向けるエリクシアは、それを上から順に音読する。
・矢が強風で逸れた。
・弓の弦が弾けた。
・なにもないところで足を取られた。
・鎧の留め具が壊れた
・爪を受けた剣にヒビが入った
等と、数十項目に渡って起きた出来事が静かに読み上げられた。
「黒銀の獣とやらの、何らかの能力なんでしょうか? たまたま運が悪かったじゃ説明つかないレベルの数ですね」
ぺらりと、続けて資料を捲る。
次の話はどうやら撤退を余儀なくされた、黒銀の獣に関するもののようだ。
「現れた雑魔は巨大な黒い犬の姿をしているようです、体躯は目算ですが、体高二メートルほど。基本的な攻撃は爪による引っかきと牙による噛みつき、距離を取った場合に吐くファイアブレス。時折遠吠えをあげ、その直後によくないことが起きた気がする……だそうです。ブラックドッグとでも呼びますか?」
強そうですね、なんてのんきそうに言うエリクシアだが、実際に対峙するハンターからするとそんな言われ方をされても困るだろう。
「説明は以上です。この依頼、蹴るも受けるも貴方次第です……どうします?」
人里から遠く離れたその場所は、何時からか忌むべき場所として認識されるようになった。
原因は至極明快に、雑魔がよく現れるためである。
いつからそうであったのか知る者は無く、なぜそうなったのか知る者も無い。
古い文献を調べれば、どこかにそれを記す手がかりは在ったのかもしれないが、今はまだ、そこに知る者は居なかった。
その忌むべき場所にハンターズソサエティの調査が入ったのが一月ほど前の話。
調査は比較的順調に進み、そして一つの結論に至る。
雑魔たちはすべて、とある場所を中心として集まっていたということが判明したのである。
地図上に記した中心地を目指し進んだ調査隊はそこで崩れた石塔を発見し、そこに原因があると判断してすぐに発掘作業に入った。
作業は順調とは言えなかった。
作業中何度となく雑魔が襲ってくる。
調査隊にはもちろんハンターが同行していたため、最初のうちは問題なく撃退出来ていた。
変化は、発掘作業の進行と共に訪れたのである。
集う雑魔の数は次第に減り、代わりに強く、巨大になり始めたのだ。
調査が進み、石塔の最下層から石棺が運び出された、その直後に現れた雑魔はそれまでに現れたものと一線を画す強さを持っていた。
禍々しい黒銀の毛皮を持つ、巨大な四足の獣。
調査する場所が場所であり、予想された出来事ではあった。
同行していたハンターも、戦闘経験の豊富な者たちだった──だが、話はそれで終わらない。
黒銀の獣と戦う闘狩人の一人が、思わぬところで足を取られて、攻撃を避けれず重症を負った。
まるでそれが皮切りであったかのように、それは起こった。
倒れた闘狩人を援護するべく慌てて黒銀の獣を牽制しようと駆け寄った疾影士は突如舞い上がった砂埃に視界を奪われ攻撃を空振らせた。
慌てて援護射撃しようとした猟撃士の放った矢は、強風に煽られてあろうことか仲間の足を掠める。
動揺は他の仲間達にも伝播した。
隊のリーダーが不穏なものを感じて即座に撤退を指示したのはその直後の話である。
黒銀の獣の追撃をなんとかかわして調査隊が帰路につけたのは少し後。
帰還した調査隊は、運の悪い出来事が幾つも重なったと、ありえないと何度となく訴えたという。
──調査報告書より抜粋。
●ハンターオフィスにて
「なんだか変な話ですねぇ」
調査報告書、および新規の依頼書類を読みながら、愛用のアンダーリムグラスをキラリと光らせて、エリクシアはなんとも言えない表情を浮かべていた。
彼女もそれなりに多くの依頼をさばいてきたオフィス職員である、熟練とは言わないまでも、依頼から漂う匂いを嗅ぎ分ける能力は確かなのだろう。
その彼女が暗に警戒しろ、と示している。
「依頼の内容については、明確です。黒銀の獣の討伐、その後石棺を開けるまでの安全確保……いやはや、何が入っているのかわかったもんじゃありませんね。埋め戻したほうがいいんじゃないですかねぇこれ。封印を施して持ち帰って調べるって話らしいですが、ちょーっと心配ですねぇ」
絶対にヤバい代物ですよこれ。
とその表情が物語っているが、彼女のその言葉で依頼が変わるわけでもない。
何かヤバいものであるにしても、どうヤバいのか確認しないことには適切な処置が施せないのだから。
無論、口にしているエリクシア自身もそんなことはわかっているに違いない。
「警戒情報としては、やはり前回の調査に同行したハンターたちの証言が参考になるでしょうね。普段ならありえないような事故、ミス、出来事が報告書に並んでますが……何なんでしょうね」
ハンターたちの証言をまとめた一枚の紙をそっとあなた達に向けるエリクシアは、それを上から順に音読する。
・矢が強風で逸れた。
・弓の弦が弾けた。
・なにもないところで足を取られた。
・鎧の留め具が壊れた
・爪を受けた剣にヒビが入った
等と、数十項目に渡って起きた出来事が静かに読み上げられた。
「黒銀の獣とやらの、何らかの能力なんでしょうか? たまたま運が悪かったじゃ説明つかないレベルの数ですね」
ぺらりと、続けて資料を捲る。
次の話はどうやら撤退を余儀なくされた、黒銀の獣に関するもののようだ。
「現れた雑魔は巨大な黒い犬の姿をしているようです、体躯は目算ですが、体高二メートルほど。基本的な攻撃は爪による引っかきと牙による噛みつき、距離を取った場合に吐くファイアブレス。時折遠吠えをあげ、その直後によくないことが起きた気がする……だそうです。ブラックドッグとでも呼びますか?」
強そうですね、なんてのんきそうに言うエリクシアだが、実際に対峙するハンターからするとそんな言われ方をされても困るだろう。
「説明は以上です。この依頼、蹴るも受けるも貴方次第です……どうします?」
リプレイ本文
●印象第一
「とりあえず、だ……話を聞かせてもらっても構わないか?」
切り出したのは龍崎・カズマ(ka0178)だった。
「大体は報告書に書いた通りだよ?」
「印象が聞きたいんだ、どんな感じだった? 咆哮以外に気になったこととか」
そう切り出されて女性ハンターが少し頭を捻ったあと、何かに思い至ったように顔を上げる。
「気のせいかもだけど……巻き込まれた、って思うことがあった」
「巻き込まれた、ですかぁ?」
星野 ハナ(ka5852)が可愛らしく小首をかしげながら相槌を返す。
もっと詳しくと促すのに効果は十分だった。
「実は剣を折った人がいるんだ、折れた刀身が私の方に飛んできてベルトを掠めたの。おかげでベルト切れて短剣落としちゃって」
出費が痛いよ、と半泣きの顔を見せる。
「怪我は無かったのかしら?」
アリア・セリウス(ka6424)の問いに、女性ハンターは頷いて返す。
ベルトが切れただけだったそうだ。
「それが能力であるのかはわからないが、気になる話だな」
「でも、怪我がなかったようで何よりです」
東條 奏多(ka6425)がぽつりとつぶやいた言葉に返すようにヴィリー・シュトラウス(ka6706)が答えるように言葉をつなぐ。
少しの間の沈黙、それを破ったのはフィルメリア・クリスティア(ka3380)だった。
「どう思います? 能力と考えてよいかどうか」
「どうだろうな、あと一つぐらい決め手がほしい気がする。カズマもそう思ってるんじゃないか?」
彼女の疑問に答えたのは央崎 枢(ka5153)、その言葉に全員の視線がカズマに集まる。
そんな中、女性ハンターが再び声をあげた。
「そう言えばね、帰ってきて持ち物を確認してたら、持ってたお守りにヒビが入ってた」
そんな言葉に、カズマは鋭い目を更に細めて思案する。
ふと思いついた言葉が、口からこぼれた。
「そのお守りがなかったら、もっと悪いことが続いてたのかもしれないな」
●不吉な獣
気づかれた、そう判断した瞬間に全員が駆け出していた。
「ゴンちゃん距離は任せますよぅ、吶喊ですぅ」
先頭を征くのはゴースロンを駆るハナ、吶喊する馬の足は早く、そして彼女自身の符術の射程もあいまって最も早くブラックドッグを圏内へと捉えた。
敵と見て即座に息を吸い込み上向くブラックドッグに対し、一切の躊躇もためらいもない行動はひたすらに疾い。
「五色光符陣!」
放たれた五枚の符が風を切る、それを危険と見て回避行動を取ろうとするブラックドッグだが、それは叶わなかった。
完成された結界から迸る眩い光の奔流がブラックドッグを激しく焼く。
「いい速攻だぜハナ!」
赤く染まった髪がすぅっと黒く戻る。
全身のバネを使って放たれたクルヴェナルが大気を斬り裂き、視界を奪われたブラックドッグに突き立つのと、カズマの姿が影のように色を失うのがほぼ同時。
次の瞬間にはその姿はブラックドッグの前へと現れ、その上を跳躍し反対側へと消える。
彼の気配に気が逸れた一瞬の空隙、生まれたチャンスを余さず枢とヴィリーが息を合わせて同時に仕掛ける。
構えられたパニッシュメントから放たれた光弾は目元を狙ったもの、だが距離と激しく暴れるところに狙いは定まらず狙いとは違う場所の体毛を散らす。
そんな体毛に光弾とは別に突き立つものがあった。
枢のスローイングカードである。
体毛に防がれたがもともとがダメージを期待してのものではない。
直後、空間を滑るようにして現れた枢のティルヴィングがブラックドックの背中を引き裂く。
「俺も混ぜてくれ!」
堪らず動きを鈍らせるブラックドッグだが、枢は手に感じる感触に内心で首を傾げた。
斬られて舞う体毛はふわりと空に溶けるものと、ぱらぱらと散る硬質のもの。
「枢! 奴さん、独特な毛皮をしてるようだぜ!」
カル・ゾ・リベリアを走らせながら叫ぶカズマに、反対側になるように立体攻撃を仕掛ける枢、乱戦は激しさを増していく。
距離を縮めながら追撃するヴィリーだが、目は小さく光を奪うには至らない。
だが着実にダメージは通っているようだ。
そんなヴィリーの隣に並ぶ姿があった。
「狙うには少々的が小さいです」
ベンティスカを構えヴィリーの隣に立つフィルメリアは彼が何を、どこを狙っているのか見抜いていた。
「もう少し近づいたほうがいいですかね」
「あれだけ暴れていては、頭を狙うには近づいても相当の腕が必要でしょうね」
ハナの五色光符陣によって視界を大幅に奪われ、カズマと枢に取り付かれた、その状態で正面切って抑えるものが居ない現状、戦闘は激しく互いの位置を交錯させる乱戦となっていた。
運が悪ければ仲間に当たりかねない、カールスナウトに構え直したヴィリーは更に敵へ接近する。
その隣を一条の光が駆け抜けた。
その後も二度、三度と弾の炸裂する音の合間に迸る光がブラックドックの側面を直撃し毛皮を焼く。
「図体が大きい分、体は狙いやすいです」
次の狙いを定めながら、慣れた手つきでリロードをこなす。
「呪いの物語(ユメ)を、さあ、終らせましょう」
「援護はする、正面は任せるぞ」
破幻を構え駆け出すアリア、その隣を並走するように奏多が走る。
移動に長けた奏多のほうが接敵はやや早かった、だがそれを補うかのように射程に捉えた瞬間、アリアの破幻がブラックドッグを引き裂くべく閃く。
捉えた、そう思う絶妙のタイミング。
だが手応えとして帰ってきたのは予想よりも軽いものだった。
ぱらぱらと舞い散る体毛、斬るよりも突くほうが有効と即座に判断しティソーナを抜く。
繰り出される刺突と斬撃に、ぐるりと対象を変えたブラックドック、その間隙に幾重にも生まれた銀閃が頭や首を目掛けて迫る。
振るわれたオートMURAMASAが鎧となる体毛を斬り払った故だろう、肉が裂けてマテリアルが吹き出した。
振動する刀に僅かに絡みつく柔らかい毛を振り払い側面に降り立つ。
「少々浅かったか」
発声器官を狙うにはもう少し踏み込む必要がありそうだと、刀を構え直し狙いを定める。
こうして、戦闘はハンター達が主導権を握る形で始まった。
戦闘はやや膠着し、互いに疲弊を始めていた。
並の歪虚ならばすでに果てているであろう攻防は、けれど決定打に至っていない、細かい当たりを繰り返し互いに徐々に消耗する持久戦。
すっと、息を吸い込んだブラックドックが空を向く。
「させるかっ!」
「やらせないっ!」
挙動から吠えることを予測したカズマがブラックドッグの体を駆け上り空を舞う。
下から狙うように枢の一太刀が閃く。
そのどちらも、意に介さないようにためらいなく叫ぼうとして、迸る光の柱と吹き荒れる炎によって焼かれた。
ハナの五色光符陣、そしてフィルメリアのファイアスローワー、それぞれが交錯して激しい光と破壊を生み出す。
そのさなか微かに聞こえた聲──叫びなのか悲鳴なのか判断がつかなかった。
その光の中から、爪がカズマに向けて繰り出された。
鋭く早く、そして奪われた視界ゆえの乱雑な一撃、不運なことに、それはカズマの防御の薄い所へと吸い込まれた。
「カズマさんっ!?」
慌てて駆け寄ったヴィリーがヒールを繰り返すたび、柔らかい光が溢れて少しずつ傷を癒やす。
致命傷には至ること無く、立ち上がったカズマはヴィリーの前に出て警戒を強める、その姿を見てヴィリーはほっと息をつくのだった。
「見た目よりは浅い……ありがとな」
体勢を立て直す二人の側に、ハナがゴンにまたがったまま距離を詰めてくる。
次に使う術のため、ハナの意思を組んでゴンが距離を詰めたのだ。
浄龍樹陣、浄化の結界であるそれは咆哮に対してのカウンターとして用意してきたものである。
「悪い気はお祓いですよぅ」
撒かれた符が生み出す清浄な気配が周囲を洗い流すように広がる、その気配にブラックドッグが威嚇するように喉を鳴らした。
カズマに駆け寄ったときに開いた距離を補うため、パニッシュメントを構えて引き金を引くヴィリー。
カチン、という音が響きなにも起きないことに目を見開いた。
ガチッ、カチン、繰り返し引き金を引いても何も起きない。
(故障? このタイミングで!?)
引き金を引くのをやめ、ホーリーライトへと切り替えると、光弾が生まれブラックドッグの足を焼いた。
パニッシュメントを収め、ヴィリーは剣を構えやや後方から距離を測り始めた。
正面切ってブラックドッグを抑えるアリアだが、その体には傷が幾つも刻まれている。
定期的にハナによって視界を奪われるブラックドッグも、次第に慣れてきているのだろうか、狙いが正確になってきているように感じられる。
あるいは、自身の疲労によるものかもしれない。
何れにせよ、確実に状況は終局へ向けて動いている。
ヴィリーの銃の故障以外何も起きず、これ以上様子見に徹するのは状況が悪化するか、そう判断してフィルメリアはベンティスカを構えた。
銃撃の合間に機導砲をはさみ数度引き金を引く。
火を吹いていたベンティスカから、乾いた音が響いた。
(こっちも故障ですか……)
ガチガチガチッ、引き金を続けて引くと、何の拍子か再び火砲が再開された。
「……どうやら、不運は打ち止めのようですね」
幾重もの斬撃、度重なる砲火、そして立ち上る閃光。
すでに見るも無残な姿となったブラックドッグは、それでもまだ斃れない。
攻撃を受けながらも重心を後ろに下げ大きく息を吸い込む、その意図を理解した枢が叫んだ。
「ブレスを使うつもりだ!」
枢の指摘にブレスの射程圏内に居た三人が光りに包まれる。
意図を的確に汲み取ったヴィリーのプロテクションが、ブレスよりも一手先を行った。
首を大きくひねり、より広範囲にブレスを吐き散らそうとするブラックドッグ、燃え盛る炎が奏多を、枢を、そしてアリアを焼き尽くさんと襲う。
その色はくすんだ血よりもなお赤黒く不吉であった。
炎は前方に広く広がり避けるには後ろに下がるより他にない、だがこのチャンスを逃せば戦いは更に長引く、そう確信した枢はスローイングカードを炎の中へと放つ。
多少のダメージは覚悟の上で、炎の中をチェイシングスローで突き破った、それは窮地を突き破った先の最高のチャンスである。
振り下ろされたティルヴィングがブラックドッグの背に深々と突き立った。
突如走る激痛にブレスが大きく逸れる、その一瞬を見逃さずオートMURAMASAが唸りを上げる。
大きく逸れた、その一瞬──それはつまり奏多が狙い定めていた発声器官、喉を狙う絶好の瞬間。
立て続けに閃く白がその喉を捉え深々と幾重にも斬り裂いた時、ブラックドックの口から漏れるのは苦悶に満ちたうめき声だった。
切り裂かれた喉からは赤黒い炎が漏れるようにちらついて、それが傷の深さを否応なしに見せつける。
普通の生物ならば確実な致命傷、だが、それでもなお不吉な眼差しを持って黒い獣は奏多を睨む。
不運あれ、不吉あれと呪うように、だがそんなもの奏多にとっては踏み台に過ぎない。
だが、吐き出された炎だけはどうにもならず、広がった吹き荒れる炎が正面に立つアリアを襲う。
「アリアっ!」
迫る炎は眼前に広がって、逃げ場所など無い──否、そのような選択肢はない。
下がっても、躱しても、押さえを失ったこいつが自由になってしまうのは目に見えている。
軽く後ろへ飛ぶのは一瞬、即座に転進し焔へと飛び込む。
ティソーナを構え舞うがごとく身を翻し、正面から焔を切り裂く、散りゆく火の粉は雪のよう。
「さぁ、続きと参りましょう」
ブラックドッグの赤い瞳が炎を斬り裂いて現れたアリアに気圧されたじろいだ。
その瞬間、何度目かの閃光が溢れた。
「そろそろ終わりにするですよぅ、おねんねの時間ですぅ」
新たな符を引き抜いて立て続けに迸る閃光、ハナの言うとおり、畳み掛けるチャンスが有るとすれば今だ。
「ハナさんの言うとおりです、そろそろお終いにしましょう」
吹き荒れる炎の嵐がブラックドッグを飲み込む、ファイアスローワーが容赦ない火勢を発揮する、その炎に紛れるようにしてカズマが空を疾走った。
周囲の岩を駆け上り空高く舞い、その手に握られたカル・ゾ・リベリアの刃が閃く。
炎と光で焼き払われた体毛はもはや鎧として用をなさず、踏み込み、重心移動、体の回転、あらゆる所作のすべてを集約した必殺の一撃は、その身を刃と化したかのような鋭さを持ってするりと首筋を斬り裂いた。
そしてそこへ追撃するように大剣が閃く、こちらは下から上へ駆け上がるように、切り上げるように体重を載せた一撃だ。
だが、それと交錯するように再びブラックドッグの爪が閃く。
アリアを狙った一撃は、ぎしりと破幻によって受け止められた。
膂力の差によって押し負けるかに思えた刹那──
「させると思うか?」
振り上げられた前足とは逆の足関節にディモルダクスが絡みつき深々と食い込む。
そのまま奏多が力を入れてやれば、重心がぐらりと傾ぐ、それで充分だった。
爪がアリアの髪を掠め数本がはらりと舞う、だがそれだけだ。
捉えるには至らない、それを躱した姿勢から放たれた刹那の斬撃が頭部を左右に引き裂く。
それがとどめの一撃となり、ついに不吉の象徴は崩れ落ちたのだ。
●兵どもが
がこん、と開かれた石棺の中に収められていたのは、古びてボロボロに朽ちた鎖で縛られた一冊の書物だった。
「随分と古い書物ですね……」
「そうね、中はもう少し状態が良いかもしれないけれど」
「古い文字みたいですし、判読は難しいかもしれませんね」
調査隊の一人がそっと本を取り出そうとすると、鎖が砕けて自然と本がむき出しになる。
タイトルはかすれていて、一部が辛うじて読み解けるかどうか。
それが何を意味するのかも不明だ。
「ヴィリーも物好きだな」
石棺の中の本を覗く友人を見て、枢がそう呟いた。
「嫌な感じも消えましたね、何だったのでしょう……?」
周囲を警戒し続けていたフィルメリアとカズマがふっと緊張を解いた。
「収まったならいいんじゃねえか?」
「また何か来るようなら先手必勝でぶっ放してやりますぅ」
物騒なことをのたまうハナ。
少しして、石棺に刻まれていた文字を調べていた奏多が顔を上げた。
「かなり古いものだが、一種の封印のようだな。だが……」
この封印は、一体何に対しての封印なのだろうか。
中にあったのは一冊の本だけ、ならば本の封印とするのが妥当か?
どういうことなのだろうかと首を傾げた。
そんな奏多のとなりで、アリアが調査隊に寄って封印されていく本を見ながら、小さく呟いた。
「ね、独りは寂しいわよね?」
小さなつぶやきは、風に攫われて溶けるように消えていった。
そのつぶやきを拾えたものは、居ない。
「とりあえず、だ……話を聞かせてもらっても構わないか?」
切り出したのは龍崎・カズマ(ka0178)だった。
「大体は報告書に書いた通りだよ?」
「印象が聞きたいんだ、どんな感じだった? 咆哮以外に気になったこととか」
そう切り出されて女性ハンターが少し頭を捻ったあと、何かに思い至ったように顔を上げる。
「気のせいかもだけど……巻き込まれた、って思うことがあった」
「巻き込まれた、ですかぁ?」
星野 ハナ(ka5852)が可愛らしく小首をかしげながら相槌を返す。
もっと詳しくと促すのに効果は十分だった。
「実は剣を折った人がいるんだ、折れた刀身が私の方に飛んできてベルトを掠めたの。おかげでベルト切れて短剣落としちゃって」
出費が痛いよ、と半泣きの顔を見せる。
「怪我は無かったのかしら?」
アリア・セリウス(ka6424)の問いに、女性ハンターは頷いて返す。
ベルトが切れただけだったそうだ。
「それが能力であるのかはわからないが、気になる話だな」
「でも、怪我がなかったようで何よりです」
東條 奏多(ka6425)がぽつりとつぶやいた言葉に返すようにヴィリー・シュトラウス(ka6706)が答えるように言葉をつなぐ。
少しの間の沈黙、それを破ったのはフィルメリア・クリスティア(ka3380)だった。
「どう思います? 能力と考えてよいかどうか」
「どうだろうな、あと一つぐらい決め手がほしい気がする。カズマもそう思ってるんじゃないか?」
彼女の疑問に答えたのは央崎 枢(ka5153)、その言葉に全員の視線がカズマに集まる。
そんな中、女性ハンターが再び声をあげた。
「そう言えばね、帰ってきて持ち物を確認してたら、持ってたお守りにヒビが入ってた」
そんな言葉に、カズマは鋭い目を更に細めて思案する。
ふと思いついた言葉が、口からこぼれた。
「そのお守りがなかったら、もっと悪いことが続いてたのかもしれないな」
●不吉な獣
気づかれた、そう判断した瞬間に全員が駆け出していた。
「ゴンちゃん距離は任せますよぅ、吶喊ですぅ」
先頭を征くのはゴースロンを駆るハナ、吶喊する馬の足は早く、そして彼女自身の符術の射程もあいまって最も早くブラックドッグを圏内へと捉えた。
敵と見て即座に息を吸い込み上向くブラックドッグに対し、一切の躊躇もためらいもない行動はひたすらに疾い。
「五色光符陣!」
放たれた五枚の符が風を切る、それを危険と見て回避行動を取ろうとするブラックドッグだが、それは叶わなかった。
完成された結界から迸る眩い光の奔流がブラックドッグを激しく焼く。
「いい速攻だぜハナ!」
赤く染まった髪がすぅっと黒く戻る。
全身のバネを使って放たれたクルヴェナルが大気を斬り裂き、視界を奪われたブラックドッグに突き立つのと、カズマの姿が影のように色を失うのがほぼ同時。
次の瞬間にはその姿はブラックドッグの前へと現れ、その上を跳躍し反対側へと消える。
彼の気配に気が逸れた一瞬の空隙、生まれたチャンスを余さず枢とヴィリーが息を合わせて同時に仕掛ける。
構えられたパニッシュメントから放たれた光弾は目元を狙ったもの、だが距離と激しく暴れるところに狙いは定まらず狙いとは違う場所の体毛を散らす。
そんな体毛に光弾とは別に突き立つものがあった。
枢のスローイングカードである。
体毛に防がれたがもともとがダメージを期待してのものではない。
直後、空間を滑るようにして現れた枢のティルヴィングがブラックドックの背中を引き裂く。
「俺も混ぜてくれ!」
堪らず動きを鈍らせるブラックドッグだが、枢は手に感じる感触に内心で首を傾げた。
斬られて舞う体毛はふわりと空に溶けるものと、ぱらぱらと散る硬質のもの。
「枢! 奴さん、独特な毛皮をしてるようだぜ!」
カル・ゾ・リベリアを走らせながら叫ぶカズマに、反対側になるように立体攻撃を仕掛ける枢、乱戦は激しさを増していく。
距離を縮めながら追撃するヴィリーだが、目は小さく光を奪うには至らない。
だが着実にダメージは通っているようだ。
そんなヴィリーの隣に並ぶ姿があった。
「狙うには少々的が小さいです」
ベンティスカを構えヴィリーの隣に立つフィルメリアは彼が何を、どこを狙っているのか見抜いていた。
「もう少し近づいたほうがいいですかね」
「あれだけ暴れていては、頭を狙うには近づいても相当の腕が必要でしょうね」
ハナの五色光符陣によって視界を大幅に奪われ、カズマと枢に取り付かれた、その状態で正面切って抑えるものが居ない現状、戦闘は激しく互いの位置を交錯させる乱戦となっていた。
運が悪ければ仲間に当たりかねない、カールスナウトに構え直したヴィリーは更に敵へ接近する。
その隣を一条の光が駆け抜けた。
その後も二度、三度と弾の炸裂する音の合間に迸る光がブラックドックの側面を直撃し毛皮を焼く。
「図体が大きい分、体は狙いやすいです」
次の狙いを定めながら、慣れた手つきでリロードをこなす。
「呪いの物語(ユメ)を、さあ、終らせましょう」
「援護はする、正面は任せるぞ」
破幻を構え駆け出すアリア、その隣を並走するように奏多が走る。
移動に長けた奏多のほうが接敵はやや早かった、だがそれを補うかのように射程に捉えた瞬間、アリアの破幻がブラックドッグを引き裂くべく閃く。
捉えた、そう思う絶妙のタイミング。
だが手応えとして帰ってきたのは予想よりも軽いものだった。
ぱらぱらと舞い散る体毛、斬るよりも突くほうが有効と即座に判断しティソーナを抜く。
繰り出される刺突と斬撃に、ぐるりと対象を変えたブラックドック、その間隙に幾重にも生まれた銀閃が頭や首を目掛けて迫る。
振るわれたオートMURAMASAが鎧となる体毛を斬り払った故だろう、肉が裂けてマテリアルが吹き出した。
振動する刀に僅かに絡みつく柔らかい毛を振り払い側面に降り立つ。
「少々浅かったか」
発声器官を狙うにはもう少し踏み込む必要がありそうだと、刀を構え直し狙いを定める。
こうして、戦闘はハンター達が主導権を握る形で始まった。
戦闘はやや膠着し、互いに疲弊を始めていた。
並の歪虚ならばすでに果てているであろう攻防は、けれど決定打に至っていない、細かい当たりを繰り返し互いに徐々に消耗する持久戦。
すっと、息を吸い込んだブラックドックが空を向く。
「させるかっ!」
「やらせないっ!」
挙動から吠えることを予測したカズマがブラックドッグの体を駆け上り空を舞う。
下から狙うように枢の一太刀が閃く。
そのどちらも、意に介さないようにためらいなく叫ぼうとして、迸る光の柱と吹き荒れる炎によって焼かれた。
ハナの五色光符陣、そしてフィルメリアのファイアスローワー、それぞれが交錯して激しい光と破壊を生み出す。
そのさなか微かに聞こえた聲──叫びなのか悲鳴なのか判断がつかなかった。
その光の中から、爪がカズマに向けて繰り出された。
鋭く早く、そして奪われた視界ゆえの乱雑な一撃、不運なことに、それはカズマの防御の薄い所へと吸い込まれた。
「カズマさんっ!?」
慌てて駆け寄ったヴィリーがヒールを繰り返すたび、柔らかい光が溢れて少しずつ傷を癒やす。
致命傷には至ること無く、立ち上がったカズマはヴィリーの前に出て警戒を強める、その姿を見てヴィリーはほっと息をつくのだった。
「見た目よりは浅い……ありがとな」
体勢を立て直す二人の側に、ハナがゴンにまたがったまま距離を詰めてくる。
次に使う術のため、ハナの意思を組んでゴンが距離を詰めたのだ。
浄龍樹陣、浄化の結界であるそれは咆哮に対してのカウンターとして用意してきたものである。
「悪い気はお祓いですよぅ」
撒かれた符が生み出す清浄な気配が周囲を洗い流すように広がる、その気配にブラックドッグが威嚇するように喉を鳴らした。
カズマに駆け寄ったときに開いた距離を補うため、パニッシュメントを構えて引き金を引くヴィリー。
カチン、という音が響きなにも起きないことに目を見開いた。
ガチッ、カチン、繰り返し引き金を引いても何も起きない。
(故障? このタイミングで!?)
引き金を引くのをやめ、ホーリーライトへと切り替えると、光弾が生まれブラックドッグの足を焼いた。
パニッシュメントを収め、ヴィリーは剣を構えやや後方から距離を測り始めた。
正面切ってブラックドッグを抑えるアリアだが、その体には傷が幾つも刻まれている。
定期的にハナによって視界を奪われるブラックドッグも、次第に慣れてきているのだろうか、狙いが正確になってきているように感じられる。
あるいは、自身の疲労によるものかもしれない。
何れにせよ、確実に状況は終局へ向けて動いている。
ヴィリーの銃の故障以外何も起きず、これ以上様子見に徹するのは状況が悪化するか、そう判断してフィルメリアはベンティスカを構えた。
銃撃の合間に機導砲をはさみ数度引き金を引く。
火を吹いていたベンティスカから、乾いた音が響いた。
(こっちも故障ですか……)
ガチガチガチッ、引き金を続けて引くと、何の拍子か再び火砲が再開された。
「……どうやら、不運は打ち止めのようですね」
幾重もの斬撃、度重なる砲火、そして立ち上る閃光。
すでに見るも無残な姿となったブラックドッグは、それでもまだ斃れない。
攻撃を受けながらも重心を後ろに下げ大きく息を吸い込む、その意図を理解した枢が叫んだ。
「ブレスを使うつもりだ!」
枢の指摘にブレスの射程圏内に居た三人が光りに包まれる。
意図を的確に汲み取ったヴィリーのプロテクションが、ブレスよりも一手先を行った。
首を大きくひねり、より広範囲にブレスを吐き散らそうとするブラックドッグ、燃え盛る炎が奏多を、枢を、そしてアリアを焼き尽くさんと襲う。
その色はくすんだ血よりもなお赤黒く不吉であった。
炎は前方に広く広がり避けるには後ろに下がるより他にない、だがこのチャンスを逃せば戦いは更に長引く、そう確信した枢はスローイングカードを炎の中へと放つ。
多少のダメージは覚悟の上で、炎の中をチェイシングスローで突き破った、それは窮地を突き破った先の最高のチャンスである。
振り下ろされたティルヴィングがブラックドッグの背に深々と突き立った。
突如走る激痛にブレスが大きく逸れる、その一瞬を見逃さずオートMURAMASAが唸りを上げる。
大きく逸れた、その一瞬──それはつまり奏多が狙い定めていた発声器官、喉を狙う絶好の瞬間。
立て続けに閃く白がその喉を捉え深々と幾重にも斬り裂いた時、ブラックドックの口から漏れるのは苦悶に満ちたうめき声だった。
切り裂かれた喉からは赤黒い炎が漏れるようにちらついて、それが傷の深さを否応なしに見せつける。
普通の生物ならば確実な致命傷、だが、それでもなお不吉な眼差しを持って黒い獣は奏多を睨む。
不運あれ、不吉あれと呪うように、だがそんなもの奏多にとっては踏み台に過ぎない。
だが、吐き出された炎だけはどうにもならず、広がった吹き荒れる炎が正面に立つアリアを襲う。
「アリアっ!」
迫る炎は眼前に広がって、逃げ場所など無い──否、そのような選択肢はない。
下がっても、躱しても、押さえを失ったこいつが自由になってしまうのは目に見えている。
軽く後ろへ飛ぶのは一瞬、即座に転進し焔へと飛び込む。
ティソーナを構え舞うがごとく身を翻し、正面から焔を切り裂く、散りゆく火の粉は雪のよう。
「さぁ、続きと参りましょう」
ブラックドッグの赤い瞳が炎を斬り裂いて現れたアリアに気圧されたじろいだ。
その瞬間、何度目かの閃光が溢れた。
「そろそろ終わりにするですよぅ、おねんねの時間ですぅ」
新たな符を引き抜いて立て続けに迸る閃光、ハナの言うとおり、畳み掛けるチャンスが有るとすれば今だ。
「ハナさんの言うとおりです、そろそろお終いにしましょう」
吹き荒れる炎の嵐がブラックドッグを飲み込む、ファイアスローワーが容赦ない火勢を発揮する、その炎に紛れるようにしてカズマが空を疾走った。
周囲の岩を駆け上り空高く舞い、その手に握られたカル・ゾ・リベリアの刃が閃く。
炎と光で焼き払われた体毛はもはや鎧として用をなさず、踏み込み、重心移動、体の回転、あらゆる所作のすべてを集約した必殺の一撃は、その身を刃と化したかのような鋭さを持ってするりと首筋を斬り裂いた。
そしてそこへ追撃するように大剣が閃く、こちらは下から上へ駆け上がるように、切り上げるように体重を載せた一撃だ。
だが、それと交錯するように再びブラックドッグの爪が閃く。
アリアを狙った一撃は、ぎしりと破幻によって受け止められた。
膂力の差によって押し負けるかに思えた刹那──
「させると思うか?」
振り上げられた前足とは逆の足関節にディモルダクスが絡みつき深々と食い込む。
そのまま奏多が力を入れてやれば、重心がぐらりと傾ぐ、それで充分だった。
爪がアリアの髪を掠め数本がはらりと舞う、だがそれだけだ。
捉えるには至らない、それを躱した姿勢から放たれた刹那の斬撃が頭部を左右に引き裂く。
それがとどめの一撃となり、ついに不吉の象徴は崩れ落ちたのだ。
●兵どもが
がこん、と開かれた石棺の中に収められていたのは、古びてボロボロに朽ちた鎖で縛られた一冊の書物だった。
「随分と古い書物ですね……」
「そうね、中はもう少し状態が良いかもしれないけれど」
「古い文字みたいですし、判読は難しいかもしれませんね」
調査隊の一人がそっと本を取り出そうとすると、鎖が砕けて自然と本がむき出しになる。
タイトルはかすれていて、一部が辛うじて読み解けるかどうか。
それが何を意味するのかも不明だ。
「ヴィリーも物好きだな」
石棺の中の本を覗く友人を見て、枢がそう呟いた。
「嫌な感じも消えましたね、何だったのでしょう……?」
周囲を警戒し続けていたフィルメリアとカズマがふっと緊張を解いた。
「収まったならいいんじゃねえか?」
「また何か来るようなら先手必勝でぶっ放してやりますぅ」
物騒なことをのたまうハナ。
少しして、石棺に刻まれていた文字を調べていた奏多が顔を上げた。
「かなり古いものだが、一種の封印のようだな。だが……」
この封印は、一体何に対しての封印なのだろうか。
中にあったのは一冊の本だけ、ならば本の封印とするのが妥当か?
どういうことなのだろうかと首を傾げた。
そんな奏多のとなりで、アリアが調査隊に寄って封印されていく本を見ながら、小さく呟いた。
「ね、独りは寂しいわよね?」
小さなつぶやきは、風に攫われて溶けるように消えていった。
そのつぶやきを拾えたものは、居ない。
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相談卓 アリア・セリウス(ka6424) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/01/29 22:35:07 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/01/28 00:42:27 |