ゲスト
(ka0000)
【幻洞】サーベルタイガー
マスター:韮瀬隈則

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/02/05 19:00
- 完成日
- 2017/02/13 06:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
佐々木満桜はロッソ格納庫に居並ぶ新型CAM、R7エクスシアを眺めている。その背中に声をかける者があった。
「やっぱり兵装実験に行くか」
苦笑、したのだろうか。一拍置いて満桜は振り返り、曖昧な笑顔で声の主である壮年男性に頷いた。満桜はロッソ嘱託CAM整備士、彼は満桜が専属で整備を受け持つCAM小隊の隊長である。思えば長い付き合いだ。転移前、デュミナスのみで編成された小隊がロッソに配属されてからなのだから。
そのデュミナス小隊に件の新型CAMが配備された。
それなりに練度の高いパイロットを優先したゆえ、だから、喜ばしい話ではある。が、それで割り切れないのが感傷というものだ。その相手は戦場を共に過ごしたデュミナスだ。
全てが切り替わるわけではない。が、小隊の構成が変わる──
つまり今までの役割通りには動けない。特に、満桜が特に可愛がる機体『虎』は、新たな想定任務に就くにはピーキーすぎた。
来し方行く末を考えるに、機体リセットを行い新任務用に再構築するかハンター用に所属を変えるか。多分それが最適解なのだろう。
しかし、満桜と『虎』のパイロットが選んだのはもうひとつの選択肢。ピーキーさを活かした新兵装実験機、としての道、である。
「辺境……ヴェドルから早速招聘がかかったの。遺跡からの発掘品の副産物でね、『板』らしいわ。多分、古代兵器の装甲か防御壁じゃないかって」
凄いじゃないか! と小隊長の表情を見て取ったのか、満桜は頭を振る。
「極端に加工しにくい。って話だから期待には添えないと思うけど?」
「ふむ……」
小隊長の残念そうな顔はすぐ、「まぁそうだわな」と悟ったものに変わる。「そうなると──」とすぐ続ける視線の先にあるのは『虎』だ。
「彼に盾を装備するとなると、看板のかけかえになっちまうじゃないか?」
ひょうきんに片眉をあげ、親指で『虎』を指す。その機体名と虎縞のペイントが施された外装と、近接に大きく振った仕様。2本の剣を両手に固定兵装のごとく装備した『虎』の揶揄された渾名は『サーベルタイガー』──
「滅びの虎、ね。長大な犬歯をもつ剣歯虎、時代遅れの頂点捕食者」
そんなつもりで言ったんじゃない。小隊長が慌てる先制を期して、満桜はむしろ挑戦的に笑う。
「ピーキーな旧型機だからこそ生き残る術に貪欲になれるって話」
私達人間はいつだってそうだった。
──それに。
『虎』は『虎』であることを辞めることはない。絶対に。
70年の時を経て、この地で再開した満桜の祖父。佐々木寅次もまた『虎』とともに生きてきたのだ。
●
「盾と装甲板、それに獣盾。一応これの前に人間用の鎧も作ったンだがな。とにかく歩留まりが悪りぃ」
ぽんぽんっ。ドワーフの親方が叩いて返る音は予想より軽い。実際、軽くて堅牢なのだ、この積層装甲にも似た『板』は。
ここはヴェドルよりさらに辺境。第二採掘場にある採掘物集積場のひとつである。
坑道と地上への橋渡し。漏斗状に地上から掘られた縦穴と、漏斗から伸びた採掘場へ続く幾多の坑道。見上げれば漏斗の内側を螺旋を描くように馬車道がへばりついて地上を目指している。
──その底、平地はおよそ50m×200m四方ほどだろうか。
集積された板、板、板。
「採掘の狙いからしたら外道も外道よ。なンせヨアキム様が喜びそうな例のパーツでもねぇ。装甲としての性能は重量比じゃ破格だから捨てるにゃ惜しいが、加工は殆ど出来ゃしねぇ」
「それで『板』としか形容できなかったわけね?」
ンだンだ。満桜の問いに親方が頷く。
単純な性能テストのほか模擬戦を予定してか、満桜と『虎』パイロットのほか数名のハンターが愛機や幻獣を持ち込んでいた。うーん、と思案するのは満桜だけではない。特に気合を入れて加工したという人間用の鎧は、研磨により瑪瑙のような幾重もの積層構造を顕して美しい。しかし兵装に求められる一面は性能以上に歩留まり、である。『板』の加工を最小限にコストを下げて、それで有用な兵装が作れるだろうか?
「俺の私見じゃ、バリケード材にしちまうのが一番楽だたぁ思うンだがなぁ」
実績が挙げられなけりゃ早晩そうなるだろうよ、と親方の弁。
「せっかく装備したのだし、私達はこのために来たのだし」
この任務について何度目かの苦笑で満桜がテスト開始を宣言する。
その時──
坑道から響き渡る警報。
同時にわらわらとまろび出てくる何十人ものドワーフ採掘夫が、親方を認めると息せき切って我先に報告をがなりたてる。
数日前から出没が報告されていたロックワン、その眷属がここ第二採掘場へ達したということだろう。
●
親方が簡易見取り図を地面に広げた。
「ここに到達するのは約5分後、ってトコか……」
噂のデカいのじゃねぇンだな? と念を押すが、返った答えは楽観できるものではない。
「全長20mの角はやしたクジラがデカくないといえばそうでがすがね、オマケに2mくれぇのコバンザメみたいなのを飛ばしてくるんでがすから、もう!」
でかいのが2匹、随伴が残り20匹程度。というところか。採掘夫が描いた敵の絵をみて、『虎』パイロットが端的な感想を述べる。
「まるでイッカクとダツ、だな。攻撃はそれぞれ、デカブツが身体をたわめてからのジャンプして突進、雑魚がデカブツからの発射、でいいんだな?」
比較的小型のグランドワームの変種を、更に改造したのだろう。掘り進んだ地中から坑道に躍り出てひとしきり暴れまわると、再度、坑道の網を縫い広げるように潜ってはまた出没しながら、集積場を目指している。らしい。採掘夫が乗ってきたトロッコ後部を指差す。砕かれた車両……先端の堅さは相当なものだ、と言いたいのだ。
「……まずいな」
親方がしきりに冷や汗を拭う。
「反対側の坑道はヴェドルに近い第一採掘場方向にかなり長く伸びているンだ。それとココの採掘物処理工作機を壊されたら生産力がガタッと落ちる。なにより、この漏斗状の地形……暴れられたら生身の俺たちはひとたまりもない」
上に逃げるには時間が足りない。
どうする?
問うまでもない。
満桜は『板』と『虎』を見上げる。
佐々木満桜はロッソ格納庫に居並ぶ新型CAM、R7エクスシアを眺めている。その背中に声をかける者があった。
「やっぱり兵装実験に行くか」
苦笑、したのだろうか。一拍置いて満桜は振り返り、曖昧な笑顔で声の主である壮年男性に頷いた。満桜はロッソ嘱託CAM整備士、彼は満桜が専属で整備を受け持つCAM小隊の隊長である。思えば長い付き合いだ。転移前、デュミナスのみで編成された小隊がロッソに配属されてからなのだから。
そのデュミナス小隊に件の新型CAMが配備された。
それなりに練度の高いパイロットを優先したゆえ、だから、喜ばしい話ではある。が、それで割り切れないのが感傷というものだ。その相手は戦場を共に過ごしたデュミナスだ。
全てが切り替わるわけではない。が、小隊の構成が変わる──
つまり今までの役割通りには動けない。特に、満桜が特に可愛がる機体『虎』は、新たな想定任務に就くにはピーキーすぎた。
来し方行く末を考えるに、機体リセットを行い新任務用に再構築するかハンター用に所属を変えるか。多分それが最適解なのだろう。
しかし、満桜と『虎』のパイロットが選んだのはもうひとつの選択肢。ピーキーさを活かした新兵装実験機、としての道、である。
「辺境……ヴェドルから早速招聘がかかったの。遺跡からの発掘品の副産物でね、『板』らしいわ。多分、古代兵器の装甲か防御壁じゃないかって」
凄いじゃないか! と小隊長の表情を見て取ったのか、満桜は頭を振る。
「極端に加工しにくい。って話だから期待には添えないと思うけど?」
「ふむ……」
小隊長の残念そうな顔はすぐ、「まぁそうだわな」と悟ったものに変わる。「そうなると──」とすぐ続ける視線の先にあるのは『虎』だ。
「彼に盾を装備するとなると、看板のかけかえになっちまうじゃないか?」
ひょうきんに片眉をあげ、親指で『虎』を指す。その機体名と虎縞のペイントが施された外装と、近接に大きく振った仕様。2本の剣を両手に固定兵装のごとく装備した『虎』の揶揄された渾名は『サーベルタイガー』──
「滅びの虎、ね。長大な犬歯をもつ剣歯虎、時代遅れの頂点捕食者」
そんなつもりで言ったんじゃない。小隊長が慌てる先制を期して、満桜はむしろ挑戦的に笑う。
「ピーキーな旧型機だからこそ生き残る術に貪欲になれるって話」
私達人間はいつだってそうだった。
──それに。
『虎』は『虎』であることを辞めることはない。絶対に。
70年の時を経て、この地で再開した満桜の祖父。佐々木寅次もまた『虎』とともに生きてきたのだ。
●
「盾と装甲板、それに獣盾。一応これの前に人間用の鎧も作ったンだがな。とにかく歩留まりが悪りぃ」
ぽんぽんっ。ドワーフの親方が叩いて返る音は予想より軽い。実際、軽くて堅牢なのだ、この積層装甲にも似た『板』は。
ここはヴェドルよりさらに辺境。第二採掘場にある採掘物集積場のひとつである。
坑道と地上への橋渡し。漏斗状に地上から掘られた縦穴と、漏斗から伸びた採掘場へ続く幾多の坑道。見上げれば漏斗の内側を螺旋を描くように馬車道がへばりついて地上を目指している。
──その底、平地はおよそ50m×200m四方ほどだろうか。
集積された板、板、板。
「採掘の狙いからしたら外道も外道よ。なンせヨアキム様が喜びそうな例のパーツでもねぇ。装甲としての性能は重量比じゃ破格だから捨てるにゃ惜しいが、加工は殆ど出来ゃしねぇ」
「それで『板』としか形容できなかったわけね?」
ンだンだ。満桜の問いに親方が頷く。
単純な性能テストのほか模擬戦を予定してか、満桜と『虎』パイロットのほか数名のハンターが愛機や幻獣を持ち込んでいた。うーん、と思案するのは満桜だけではない。特に気合を入れて加工したという人間用の鎧は、研磨により瑪瑙のような幾重もの積層構造を顕して美しい。しかし兵装に求められる一面は性能以上に歩留まり、である。『板』の加工を最小限にコストを下げて、それで有用な兵装が作れるだろうか?
「俺の私見じゃ、バリケード材にしちまうのが一番楽だたぁ思うンだがなぁ」
実績が挙げられなけりゃ早晩そうなるだろうよ、と親方の弁。
「せっかく装備したのだし、私達はこのために来たのだし」
この任務について何度目かの苦笑で満桜がテスト開始を宣言する。
その時──
坑道から響き渡る警報。
同時にわらわらとまろび出てくる何十人ものドワーフ採掘夫が、親方を認めると息せき切って我先に報告をがなりたてる。
数日前から出没が報告されていたロックワン、その眷属がここ第二採掘場へ達したということだろう。
●
親方が簡易見取り図を地面に広げた。
「ここに到達するのは約5分後、ってトコか……」
噂のデカいのじゃねぇンだな? と念を押すが、返った答えは楽観できるものではない。
「全長20mの角はやしたクジラがデカくないといえばそうでがすがね、オマケに2mくれぇのコバンザメみたいなのを飛ばしてくるんでがすから、もう!」
でかいのが2匹、随伴が残り20匹程度。というところか。採掘夫が描いた敵の絵をみて、『虎』パイロットが端的な感想を述べる。
「まるでイッカクとダツ、だな。攻撃はそれぞれ、デカブツが身体をたわめてからのジャンプして突進、雑魚がデカブツからの発射、でいいんだな?」
比較的小型のグランドワームの変種を、更に改造したのだろう。掘り進んだ地中から坑道に躍り出てひとしきり暴れまわると、再度、坑道の網を縫い広げるように潜ってはまた出没しながら、集積場を目指している。らしい。採掘夫が乗ってきたトロッコ後部を指差す。砕かれた車両……先端の堅さは相当なものだ、と言いたいのだ。
「……まずいな」
親方がしきりに冷や汗を拭う。
「反対側の坑道はヴェドルに近い第一採掘場方向にかなり長く伸びているンだ。それとココの採掘物処理工作機を壊されたら生産力がガタッと落ちる。なにより、この漏斗状の地形……暴れられたら生身の俺たちはひとたまりもない」
上に逃げるには時間が足りない。
どうする?
問うまでもない。
満桜は『板』と『虎』を見上げる。
リプレイ本文
●
「そうじゃろう! そうじゃろうともよ! 後ほど見せるがの、最先端ではできぬ改造がな、あるのよな。のう!?」
ばすっばすっ!
外部スピーカを通じて聞こえてくるのは、ミグ・ロマイヤー(ka0665)が愛機のコンソールを誇らしげに叩いている音だろう。今回は置いてきたという機体の資料を見せるとは聞いていたが、現在彼女自身が操縦し、バリケードを構築しているこの機体の外見だけでミグの改造ポリシーは明らかだ。ミグの愛機──ハリケーン・バウ。極端な装甲強化を施して、ベース機体が魔導型ドミニオンだと一見で即答できる者は一般人ではマニアくらいだろう。どっしりとしたフォルムのCAMはいま、振るう機棍で『板』を地面に打ち込んでいる。
「あとは足場かねての防壁、じゃったか?」
スピーカから再度、ミグの声が漏れる。宛先は親方から図面を借り避難路を策定した守原 有希弥(ka0562)である。
ザザ……と雑音混じりの守原から返答。歪虚の影響ではない。作業音。特急作業ゆえに騒音は仕方ない。
「念のためです。ここは擂鉢の底だ。護るだけなら一点防御でいい。けれど俺たちの機動まで制限される、そんな頭が敵にあったら、と。杞憂ならよいのですがね」
ザザ……ザザ……
はン!
ミグの鼻息が聞こえたのは守原だけだろうか。
「デカブツめは穴掘りが不得手なのじゃろ? ドワーフのミグやそなたらにかなうわけなしよ。だからの! 工作機械防衛は我々に任せぃ!」
守原の表情がゆるむ気配。機体越しでも感情は伝わるものだ。DViDSlayerと名付けられた魔導型デュミナスもまた異相、である。口吻部をツインフェイス化した機体が向けた視線の先に、黙々と作業小屋の補強に勤しむ採掘夫達と親方がいた。
先ほどまで──自らで護ると聞かなかったのだ、彼らは。クレーンで引き上げられた資材と『板』が、土壁に沿って積まれまたは貼り付けられてゆく。
「……簡単なものだが保塁として機能するはずだ。……残り2つほどで完了するから、……あとは作業小屋の天井を護るように『板』を組んで退避してくれ」
親方達がバリケード保守に従事することはない。……それより、なにより御身大事にだ。
No.0(ka4640)、レイヴェンと呼ばれるフルフェイスを被る若者は口下手である。彼の代わりに能弁をふるうのは、物言わぬ刻令ゴーレムが次々と土壁を築いていくさまだ。なるほど、彼なら戦闘中のバリケード損壊に対応可能だろう。
「……実験兵装か。実用化のため……頼むぞ……ゴーレム君」
おまえとはこれが共闘2回目か……と、レイヴェンはゴーレムの隣で配置された『板』を槌で打ち込んでゆく。機動用の空間をあけた複数層バリケードは、もはや『陣』だ。
ヴェドル方面の坑道を資材と『板』で塞いで、榊 兵庫(ka0010)とエルバッハ・リオン(ka2434)がミグに完了の合図を送る。
周囲の側道含めての敷設。突き抜けようとイッカクが図っても、ド下手な掘りでは無様な掘りあとで尻尾をつかませてくれるじゃろうよ、とはミグの見立てだ。
「気付いたか」
外部スピーカ越しの榊の問いにエルバッハは頷く。情報共有事項として、魔導短伝話を添えて外部マイクで返す。
「バリにと積んだ破損トロッコの傷。痕跡を観ましたがダツの推進力によるものではない。また回転特有の傷ではない。付け入るスキがあるかもしれない。要観測です。しかし……」
今度はスピーカ越しではない。エルバッハは「ガルム、頼みますよ」と漆黒に一筋の鮮血、雌のイェジドへ騎乗し、榊機の外部カメラを振り向く。
「それ以前。初撃で削ります」
「敵さんにとっても初撃で優位を稼ぎたいはずだ。誤算は俺たちの存在と『板』。完全に飛び道具を潰せはしないだろうが……」
榊の答えも明確だ。
敵がドワーフ達を追い散らした坑道へ向けられたマテリアルライフル。狙うは速射性を重視し整備されたR7エクスシア。マテリアル兵装運用を前提とした再新鋭CAM。ダークブルーに塗装されたその機体名は烈風。
守原機がクレーン「サルキナエ」から武器を試作CAMブレード「KOJIーLAW」に切り替える。
「手持ちでどうにか間に合ったか」
来た、のだ。
「『虎』の旦那。行くぜ」
搭乗者の彼、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)の帯びる赤と同じ、トライアンフ──勝利という名のR7エクスシアが、バリ構築作業にあたっていた『虎』と満桜に告げる。睨むは守原機が指し示す、ひときわ径を広く漏斗内壁に接続している坑道だ。
「オフェンスを2マンセル2組。安定して早期討伐を図る最適解と思うが」
守原が『虎』へ促す。
「そういうことだ。3年ぶりに共闘たのむぜ、『虎』の旦那」
……知っているのか!?
はっとした顔が見えたのだろう。レイオスは満桜の通信機にも聞かせるように、連れ立つ『虎』パイロットと交信を続ける。
「俺だけじゃない。守原も榊もロッソの元パイロットだ。所属こそ違うが俺は1度、『虎』と戦域を同じくしたことがある」
あの小隊は一部じゃ有名だったからな、と続け、よろしくな相棒、と結ぶ。
ディフェンス、守原機、ミグ機、レイヴェン機。
オフェンス、榊機とエルバッハのイェジド。そしてレイオスと『虎』……!
●
「狙い通りだな」
地響き、か? いや、悲鳴を上げる金属音。坑道内部の採掘設備をことごとく破壊して、イッカクが坑道を進む音だ。
「侵攻速度優先かと思ったのですが、途中に構築物か生命体が存在すれば攻撃せずにはすまない、と。……好機とみるべきですね」
地上へ続く漏斗。地中を進むものにとってはぽっかりと天井知らずの大空間。
──気配。
こちらも気づいたが、向こうも気づいた。
身体をたわめて、飛び出すのはダツかイッカク自身か。
「縦列なのが地形のためだと、楽すぎてつまらないかもしれません」
「前衛後衛の頭がある虫かも……ってか? ぞっとしないが、分断からの流れはまかせてくれ」
エルバッハとレイオスの交信は、直後、彼女自身が放つ火球の炸裂音にかき消された。続けて榊機のマテリアルライフルの軌跡が火球を割る。
2体続けて宙へと飛び出した水棲生物にも似た巨大ワーム……イッカクは、先頭の初撃に放たれたダツ2匹と身体側面前部に装着していたダツ2匹を失った。続く2体目のイッカクもまたダツ2匹を榊機によって失っていた。
「装着状態のメボシはつけていたんだが、側面からだとこんなものか……」
初撃ボーナスとしてはこんなものだろう。榊は次発に思考を切り替える。
イッカクにとり、迎撃するハンターがいるのは想定内。
特にこのルートは最終目的地ヴェドルへ続く坑道と集積所を備えている。想定外は、そのハンター達が各自ユニットを携えていたことと、その理由、である。
ともあれ……
身に付いた本能か何者かにプログラムされたものか。妨害排除に動く1体に呼応するように、もう1体のイッカクは目標の力量を探るようにその索敵センサを巡らせた。
「ガルム、あの濃紺のCAMと交互に走りなさい。攻撃の機と囮と援護も交互に巡ります」
応える吼声。土を蹴る四肢。
「知っていたか」
ロッテ戦術。
「榊さんの機体名を聞いたので、もしやと」
──烈風。第日本帝国時代の艦上戦闘機。
「ん。そういう意図ってわけでも……来るぞ!」
ガルムと烈風。一気に散開。体勢を立て直し一気にたわむイッカクへ、散開間際にエルバッハは火球を見舞う。
イッカクごとダツを焼く。
「さすがに初撃ほどは効きませんか」
もとより承知の上ですがと、さして残念そうでもなくエルバッハの手はガルムの首をなでる。
(そう、その調子。横乗りしている私に遠慮することはありませんよ)
火球が消える。その陰から再度、榊の烈風からほとばしる電光。烈風のリロード性能は榊がこだわった一点、である。
「紫の電光か。烈風じゃなくて紫電改、と、昔の仲間に笑われるかな」
榊機のアクティブスラスターを駆使した機動。エルバッハのイェジドとめまぐるしく位置を変え、イッカクの横腹に大穴を狙う。
(このアクティブスラスターの機動に合わせるには必須、ということだ)
再度リロード!
標的はしかし、連携体制を図ろうとする後続のイッカク。
手薄、とみたのだろう。
連携を阻止された先発のイッカクは、優先順位を施設破壊から榊に狙いを向けてたわみ……エルバッハから放たれた風の刃で突放した1匹のダツを命中させることなく失った。榊機、烈風。アクティブスラスターを使うまでもない。切断されホーミング機能を失った飛び道具など、歴戦の榊にとっては想定済みだ。
「余計な手出しであったかもしれません」
「いや、助かった。それより奴さん、俺たちコンビを侮って先に片づけるつもりらしい」
「……」
ぐるり、と巨大な角を回して、先発のイッカクが榊とエルバッハをねめつける。
榊の軽口に無言で返すエルバッハの胸中は察するまでもない。彼女を舐めてかかるものを許すはずはないのだから。
「好都合です」
「だな!」
二人を狙うイッカクのダツ、残り5……
数瞬前──
「で、オマエはどっちにするんだ? 虫ケラの頭じゃ考えられないか?」
榊とエルバッハのコンビネーションにより前衛と引き離された後衛のイッカクを、レイオス機が挑発するようにマテリアルライフルで狙う。側面を確実に狙うには角度が悪い。
(オレに襲いかかれば重畳、『虎』の旦那の好機になる。小屋か坑道突破にいくなら……?)
イッカクが身を捩る。
飛んだのはイッカク自身──
詰めた距離の先に、先ほど最後のドワーフ採掘夫が駆け込んだ小屋があった。
「ここを終いの場所に選んだわけだ?」
守原機の異相に隠れた回路にマテリアルが疾る。
「ははっ! だからの、傾斜防御という基本を未だ理解せぬからの、歪虚はアホウだというのじゃよ!」
軽い衝突音。続けてもう一つ。さらにまた一つ。
ははっ! はははは!
ミグ機ハリケーン・バウの後部ライトが点滅する。最後衛のゴーレム君。レイヴェンへのサインだ。
(良いぞ、良い。ミグが後方に弾いてなお、跳弾を気にせず魚めを始末できる。すばらしい陣、じゃな!)
返答はただ、「……応」とだけ。
CAMの全方位カメラに映るゴーレム君は、既に土壁のダメージ補修にとりかかっている。
イッカクから放たれたダツは2匹……
ミグ機が盾として『板』で弾いたそれらのうち、1匹は、方向転換の機を逸したまま後方の土壁の『板』に激突。守原機に横腹を晒して消えている。もう1匹はレイヴェン自身の構築した攻性防壁が勢いを弱め、あえて『板』を貼らず残した土壁に顎を捕らえられハンマーの露となる。
「と、まぁ。重畳なのはここまでなのじゃが……なにかわかったかの?」
愚直にいまの動作を繰り返してくれれば楽なのじゃが、そうもいかんのよな? ミグの鼻息が、ふむぅとニュアンスを変える。
「排他的射出機構、そう断言してよい。かと」
イッカクが地中を掘り進めるためにダツは体躯に密着させねばならず、しかしグランドワーム変種とみられるイッカクに後付けされたとなれば、元から該当器官を持たない以上、装填はダツ自身の器官依存。とみるべきだ。問題は……発射をイッカク──グランドワームの習性動作を応用したものであるか、ダツに推進機能があるかどうか……
──これが会敵前、観測と管制を受け持った守原の懸念、である。
「ダツについていたのは、コバンザメに似た吸着機構のみ。独立推進機構は認められず」
ということです。守原の声に勝利の確信の響き。
「っしゃ! 背面を見せてくれてサンクスだぜ」
テメェはオレや『虎』を襲っても、小屋や坑道を破壊しようとしても、弱点を晒すことに変わりはなかったさ。レイオス機コクピット内に点灯する自機コード。勝利。
肢体をくねらせ跳躍するイッカクの背に、マテリアルライフルが刻む傷跡。
「さぁ、捌くぜ……あ? あぁッ!?」
(跳んだ、跳びやがった。信じられねェ、さすが虫……)
「おい。出てくるのはどこだ?」
マジか。レイオス機の索敵が、漏斗内壁の螺旋に穿たれた細い廃坑道の一つに消えたイッカクを探す。螺旋にして一段、ほんの数mとはいえ上方をとられた。畏れていた事態。
「第二次迎撃予測地点!」
レイオスは守原機が示す地点へ『虎』と向かう。
「親方! 小屋から離れろ」
ゴゴ……と掘削音に時折ひどい衝突音が混ざる。もこり、と漏斗の一点に隆起。……浅い!
「ほれ、の。何ぞ企んでもそこから出るしかないのよな」
ミグの高笑いはもちろん、守原機がドワーフ待避をその背に庇って完了し、レイヴェン機の防具である『板』と土壁が空中で放たれたダツを処理しているのを見越してのことだ。
「万一の対処はしていたが……」
レイヴェンのフルフェイスの奥に潜む静かな目。ボディプレスを試み、小屋直上からの侵攻を螺旋中の『板』に阻まれたイッカクが悔し紛れに空中からの射撃を試み、自身はむなしく地に落ちる様をみる。
「そこに落ちてもらうのが、良いのだ」
守原の示した第二迎撃地点。イッカクを挟んでレイオス機、そして『虎』!
「この近辺ではの。穴掘りはキツいぞ、虫よ」
「親方たちが頑張っちゃってな、埋まってんだよ『板』が」
地中覇権へのドワーフの意地、すごいなオイ!
ミグが言い出した時は大丈夫かと思ったが、あの短時間に打ち込んじまって、それがビンゴだぜビンゴ!
再度──地中に逃れようとしたイッカクの腹に1発また1発。レイオス機のマテリアルライフルが撃ち込まれる。
「しかしッ、往生際がッ、悪りぃぜッ!」
「支障ない……全て引き受けても……構わん」
逃げては『板』に、守原機に、ミグ機に阻まれ、しかし近づけばダツを放つ。
削いで削いで、ようやく動きは鈍ったか?
あと2匹。残るダツをレイヴェンは、たとえ生身で受けたとしてもと、じり……と進む。
無駄撃ちさせれば楽だろう。だが──
「速攻で倒して加勢に行きたいんだよッ。オレは!」
レイオスが吼える。応えたのは守原機!
「そうだ……そうじゃないか。なにを寝ぼけていたんだ、うちは……ッ!」
答えは観測で、榊とエルバッハとの通信で、すでに出ていたじゃないか!
「総攻撃ッ。『ダツごとヤツを捻らせるな』!」
「はっ! ははっ! そうであったわ。つい弾幕が楽しすぎて、のう!」
ミグ機が得物をカノン砲から機棍に替える。
行く手に立ちふさがるのは……俺が。
レイヴェンが今度も行動で示す。ただ小声で、「ゴーレム君、やろう」とだけ。
──ゆらり。
イッカクが頭をもたげて揺らぐ。身体をたわめて、今度はヴェドル方面坑道をねめつけて、跳んだ!
突如出現した土壁を崩し、奥に現れた障壁に挫かれ、角ごと鼻先に横殴りの大木槌。
「……潰せた」
「ナイスショット、じゃの!」
いや、ナイスパス! じゃったか?
目の前に忌々しい角ごとイッカクが転がってくる。一丁前にドリルの形をした、長さと堅さだけの代物が。案外、この手は根元が甘いものよ。
レイヴェンとゴーレムのコンビネーションが、ミグに角破断の好機をもたらす。
「『虎』の旦那。鰻は好きかい?」
唐突なレイオスの問い。
「守原の出身は関西だと思うんだけど、関東との違いは開きの向きだけだったかと思ってさ」
旦那はトライアンフのマテリアルカーテンに便乗してくれ。機体サインで示して一気にイッカクへ寄せる。反対方向から守原機。
「まさかとは思うが……」
「そのまさかなんだよなー」
3機の通信に、満桜が割って入った。
「『虎』は背中を裂く。そうよね?」
「おうよ。蒲焼にしても不味そうだが……なっ!」
レイオス機の「祢々切丸」が固定の目打ち替りに使われた稀な実例、だろう。
守原機DViDSlayerの放熱がマスクを焼く。超音波振動がイッカクの腹を裂く向こう側に機体カメラが捉えたのは、二刀流──『虎』いや、サーベルタイガーの姿であった。
ボロボロのイッカク──
ボロボロのダツ──
それでも未だ跳躍力を失わず、発射能力を失わず。
「ガルム。温存していた咆哮の1回、そろそろ使うときのようですよ」
優しい仔なのですよ。常に私を庇い私の戦術を援けて。
エルバッハはイェジドへ横乗りのまま身をかがめ、首をかき抱くと耳の後ろで囁く。
「奴らの動きが直線的に振れるだけで、随分と楽になるものだ」
回避に疲れの見えたガルムを狙ったダツが、榊機の30mmアサルトライフルで霧散する。胴の筋肉が破断しているのだ。エルバッハのファイアーボールとウィンドスラッシュによって。榊機のマテリアルライフルによって。
だが、直後二人で溜息。イッカクが地中に消えた。
「これが無ければ……」
「『板』が埋まった地点で暴れて、もう1匹と連携とられるよりマシだったと考えようか?」
過去形ですね?
過去形だな。
もう、連携破断重視戦術をとらなくてもいいわけだ。いいのですよ。
「エルバッハ、榊ィ。ちぃっと遅くなっちまった」
「ミグと守原が観測中だ……」
ほら来た。来ました。
レイオス機とともに駆け寄るレイヴェンのゴーレムに、エルバッハが小首を傾げて可愛らしく頼む。
「荷台に乗せていただけませんか?」
優しいからこそ強い仔なので。イェジドの背から降り、「ガルム、行きなさい」と単独行動へ送り出す。
「兵庫もトライアンフに乗るか? 荷台無ぇけど」
「バカ言え」
エスコートに来たんじゃなかったのか? 軽口と共に2機のR7エクスシアは並んで駆ける。レイオス機のマテリアルカーテンの下、榊機が抜刀するは斬機刀「建御雷」。
「距離10!」
「挙動が丸見えじゃのう。出てきて吶喊かますか飛び道具かはわからんが」
地中から飛び出たイッカクが、受ける洗礼は弾幕と相場は決まっている。
「デュミナスの火器管制システムも捨てたものじゃないってことだ」
「じゃろ? じゃろう?」
守原機とミグ機の弾幕でダツが落ちる。落ちて跳ねる力も無く。狼の顎に噛み砕かれ消えてゆく。
エルバッハの一礼。
「ありがとう。最大効率であれを凍らせることができました」
レイヴェンの盾が彼女を護っていたことへの感謝、だろう。
エルバッハの背後、件のイッカクが身体をもたげたまま覆われているのは一面の薄霜。
紫電の煌めきが、1度。更に、更に、紫電が奔る。──そして地響き。
地中へ潜る掘削音、ではない。どう、と巨体が斃れる音、である。
「榊流【狼牙一式】よりの手、確かに仕留め候也」
強い踏み込みの刺突から一連の剣技。榊機の鞘鳴りに合わせたかのように、歪虚の残骸が崩れ落ちる。
「凄ぇッ! 榊流超凄ぇ! さすが紫電改!」
……。
…………。
「あのなレイオス。こいつの名は、烈風」
●
満桜は微笑みと共に、何度目かの記録映像再生ボタンを押す。
戦闘記録と機体データ。それと事後に行われた口述記録だ。
刻令ゴーレムに興味を持ったらしい親方に、例の謎パーツを組み込まないかと持ちかけられ挙動不審になるレイヴェンが、一生懸命バリケードと『板』について考察を述べている。
あのゴーレムと組み合わせた運用を鑑みれば、確かに単なるバリケード素材に限定するのは惜しい。「積層素材の特質を深く掴んでから組めていれば」と結ぶレイヴェンに、親方が食い下がっている。
「ナニを言うとる!」
唐突に割り入る声はミグだ。
びくり! と怯えるレイヴェンを押しのけ、親方にぐいと顔を近づけ張り合いだす、
「今! 時代は飛行ユニットじゃろうが! 組み込むならば航空系の機構じゃろ。の? これを見ぃ!」
もちろん、時代は飛行というのは極端な(正確にはロマイヤー家界隈の)ローカル傾向であるが、ミグがそちらも見ぃとカメラ前に突きつけた図面に満桜は一時停止をかける。極限までに装甲を削り追加パーツでカスタマイズしたデュミナス。型番を調べれば、スクラップとして払い下げられた機体だと判明するだろう。
ゆえに軽量の装甲……できれば傾斜防御を後付け可能な防具に期待するのだ、とミグは図面と顔を交互にカメラに密着させている。
暫しの暗転後、笑いを堪えた声。
榊が、「……いや、失礼」とカメラを直す。
「近接特化。割り切った良い機体だと俺は思う。これは実証実験に限ったことじゃなく、実戦での話でもある。汎用機が最も活きるのは特化機と連携できることと考えている。極めるべきだ。『虎』の道を」
おっと! 『板』の報告だったな。口元を軽く掻く。
「攻撃力重視の俺みたいなのは、追加装甲板が軽くて高性能だと好都合なんだ」
よし、次替わるぞ。ぽんと肩を叩かれて、守原。
「人のこたぁ言えませんが、皆、どピーキーすぎですよ」
榊に軽く手を上げてから、真面目な顔で向き直る。
「本当に加工器具は発掘されてない、と? 『板』で『板』を加工している、ということか」
画面外で頷く親方に頷き返す。
「それで作れる防具なら、ポイントアーマーという手があるかな。装甲板を載せられない時もあるだろうから」
親方と守原の会話を聞いていたのだろう。
「ここは古代の要塞か艦艇だった、って仮説はどうだろうな。余所を掘れば、製造施設や機体だらけの戦場が出てくる。だが……それでもその文明は滅びた。そう想像すると、恐ろしく感じると共に俺たちは勝つぞって、不思議な震えがくるんだ」
……っと! らしくなかったな!
レイオスは一転、明るく付け加える。
「CAM装甲でもバリでもいいけどさ、いっそロッソに貼り付けてもイケると思うぜ」
じゃなー。画面端から振られる手。
そしてエルバッハ。
ガルムの毛並みを優しく撫ぜる。
「軽い防具で、ガルムも動きやすかったろうと思います」
一礼。そしてこれは本題ではないのだが、と切り出す。
「歪虚の残骸を片付けて思ったのです。イッカクの角は最後まで残った。つまり後付けでしょう。これはあの3人組だけの画策でしょうか? 何者かの思惑のもとでしょうか?」
資料を纏めてロッソの廊下を歩く満桜を、CAM小隊長が呼び止める。
「いい笑顔してるじゃないか」
「『虎』は『虎』って自覚したから、かな」
禅問答みたいだがわかるな、俺も。小隊長は頭を掻き掻き満桜を見送った。
「そうじゃろう! そうじゃろうともよ! 後ほど見せるがの、最先端ではできぬ改造がな、あるのよな。のう!?」
ばすっばすっ!
外部スピーカを通じて聞こえてくるのは、ミグ・ロマイヤー(ka0665)が愛機のコンソールを誇らしげに叩いている音だろう。今回は置いてきたという機体の資料を見せるとは聞いていたが、現在彼女自身が操縦し、バリケードを構築しているこの機体の外見だけでミグの改造ポリシーは明らかだ。ミグの愛機──ハリケーン・バウ。極端な装甲強化を施して、ベース機体が魔導型ドミニオンだと一見で即答できる者は一般人ではマニアくらいだろう。どっしりとしたフォルムのCAMはいま、振るう機棍で『板』を地面に打ち込んでいる。
「あとは足場かねての防壁、じゃったか?」
スピーカから再度、ミグの声が漏れる。宛先は親方から図面を借り避難路を策定した守原 有希弥(ka0562)である。
ザザ……と雑音混じりの守原から返答。歪虚の影響ではない。作業音。特急作業ゆえに騒音は仕方ない。
「念のためです。ここは擂鉢の底だ。護るだけなら一点防御でいい。けれど俺たちの機動まで制限される、そんな頭が敵にあったら、と。杞憂ならよいのですがね」
ザザ……ザザ……
はン!
ミグの鼻息が聞こえたのは守原だけだろうか。
「デカブツめは穴掘りが不得手なのじゃろ? ドワーフのミグやそなたらにかなうわけなしよ。だからの! 工作機械防衛は我々に任せぃ!」
守原の表情がゆるむ気配。機体越しでも感情は伝わるものだ。DViDSlayerと名付けられた魔導型デュミナスもまた異相、である。口吻部をツインフェイス化した機体が向けた視線の先に、黙々と作業小屋の補強に勤しむ採掘夫達と親方がいた。
先ほどまで──自らで護ると聞かなかったのだ、彼らは。クレーンで引き上げられた資材と『板』が、土壁に沿って積まれまたは貼り付けられてゆく。
「……簡単なものだが保塁として機能するはずだ。……残り2つほどで完了するから、……あとは作業小屋の天井を護るように『板』を組んで退避してくれ」
親方達がバリケード保守に従事することはない。……それより、なにより御身大事にだ。
No.0(ka4640)、レイヴェンと呼ばれるフルフェイスを被る若者は口下手である。彼の代わりに能弁をふるうのは、物言わぬ刻令ゴーレムが次々と土壁を築いていくさまだ。なるほど、彼なら戦闘中のバリケード損壊に対応可能だろう。
「……実験兵装か。実用化のため……頼むぞ……ゴーレム君」
おまえとはこれが共闘2回目か……と、レイヴェンはゴーレムの隣で配置された『板』を槌で打ち込んでゆく。機動用の空間をあけた複数層バリケードは、もはや『陣』だ。
ヴェドル方面の坑道を資材と『板』で塞いで、榊 兵庫(ka0010)とエルバッハ・リオン(ka2434)がミグに完了の合図を送る。
周囲の側道含めての敷設。突き抜けようとイッカクが図っても、ド下手な掘りでは無様な掘りあとで尻尾をつかませてくれるじゃろうよ、とはミグの見立てだ。
「気付いたか」
外部スピーカ越しの榊の問いにエルバッハは頷く。情報共有事項として、魔導短伝話を添えて外部マイクで返す。
「バリにと積んだ破損トロッコの傷。痕跡を観ましたがダツの推進力によるものではない。また回転特有の傷ではない。付け入るスキがあるかもしれない。要観測です。しかし……」
今度はスピーカ越しではない。エルバッハは「ガルム、頼みますよ」と漆黒に一筋の鮮血、雌のイェジドへ騎乗し、榊機の外部カメラを振り向く。
「それ以前。初撃で削ります」
「敵さんにとっても初撃で優位を稼ぎたいはずだ。誤算は俺たちの存在と『板』。完全に飛び道具を潰せはしないだろうが……」
榊の答えも明確だ。
敵がドワーフ達を追い散らした坑道へ向けられたマテリアルライフル。狙うは速射性を重視し整備されたR7エクスシア。マテリアル兵装運用を前提とした再新鋭CAM。ダークブルーに塗装されたその機体名は烈風。
守原機がクレーン「サルキナエ」から武器を試作CAMブレード「KOJIーLAW」に切り替える。
「手持ちでどうにか間に合ったか」
来た、のだ。
「『虎』の旦那。行くぜ」
搭乗者の彼、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)の帯びる赤と同じ、トライアンフ──勝利という名のR7エクスシアが、バリ構築作業にあたっていた『虎』と満桜に告げる。睨むは守原機が指し示す、ひときわ径を広く漏斗内壁に接続している坑道だ。
「オフェンスを2マンセル2組。安定して早期討伐を図る最適解と思うが」
守原が『虎』へ促す。
「そういうことだ。3年ぶりに共闘たのむぜ、『虎』の旦那」
……知っているのか!?
はっとした顔が見えたのだろう。レイオスは満桜の通信機にも聞かせるように、連れ立つ『虎』パイロットと交信を続ける。
「俺だけじゃない。守原も榊もロッソの元パイロットだ。所属こそ違うが俺は1度、『虎』と戦域を同じくしたことがある」
あの小隊は一部じゃ有名だったからな、と続け、よろしくな相棒、と結ぶ。
ディフェンス、守原機、ミグ機、レイヴェン機。
オフェンス、榊機とエルバッハのイェジド。そしてレイオスと『虎』……!
●
「狙い通りだな」
地響き、か? いや、悲鳴を上げる金属音。坑道内部の採掘設備をことごとく破壊して、イッカクが坑道を進む音だ。
「侵攻速度優先かと思ったのですが、途中に構築物か生命体が存在すれば攻撃せずにはすまない、と。……好機とみるべきですね」
地上へ続く漏斗。地中を進むものにとってはぽっかりと天井知らずの大空間。
──気配。
こちらも気づいたが、向こうも気づいた。
身体をたわめて、飛び出すのはダツかイッカク自身か。
「縦列なのが地形のためだと、楽すぎてつまらないかもしれません」
「前衛後衛の頭がある虫かも……ってか? ぞっとしないが、分断からの流れはまかせてくれ」
エルバッハとレイオスの交信は、直後、彼女自身が放つ火球の炸裂音にかき消された。続けて榊機のマテリアルライフルの軌跡が火球を割る。
2体続けて宙へと飛び出した水棲生物にも似た巨大ワーム……イッカクは、先頭の初撃に放たれたダツ2匹と身体側面前部に装着していたダツ2匹を失った。続く2体目のイッカクもまたダツ2匹を榊機によって失っていた。
「装着状態のメボシはつけていたんだが、側面からだとこんなものか……」
初撃ボーナスとしてはこんなものだろう。榊は次発に思考を切り替える。
イッカクにとり、迎撃するハンターがいるのは想定内。
特にこのルートは最終目的地ヴェドルへ続く坑道と集積所を備えている。想定外は、そのハンター達が各自ユニットを携えていたことと、その理由、である。
ともあれ……
身に付いた本能か何者かにプログラムされたものか。妨害排除に動く1体に呼応するように、もう1体のイッカクは目標の力量を探るようにその索敵センサを巡らせた。
「ガルム、あの濃紺のCAMと交互に走りなさい。攻撃の機と囮と援護も交互に巡ります」
応える吼声。土を蹴る四肢。
「知っていたか」
ロッテ戦術。
「榊さんの機体名を聞いたので、もしやと」
──烈風。第日本帝国時代の艦上戦闘機。
「ん。そういう意図ってわけでも……来るぞ!」
ガルムと烈風。一気に散開。体勢を立て直し一気にたわむイッカクへ、散開間際にエルバッハは火球を見舞う。
イッカクごとダツを焼く。
「さすがに初撃ほどは効きませんか」
もとより承知の上ですがと、さして残念そうでもなくエルバッハの手はガルムの首をなでる。
(そう、その調子。横乗りしている私に遠慮することはありませんよ)
火球が消える。その陰から再度、榊の烈風からほとばしる電光。烈風のリロード性能は榊がこだわった一点、である。
「紫の電光か。烈風じゃなくて紫電改、と、昔の仲間に笑われるかな」
榊機のアクティブスラスターを駆使した機動。エルバッハのイェジドとめまぐるしく位置を変え、イッカクの横腹に大穴を狙う。
(このアクティブスラスターの機動に合わせるには必須、ということだ)
再度リロード!
標的はしかし、連携体制を図ろうとする後続のイッカク。
手薄、とみたのだろう。
連携を阻止された先発のイッカクは、優先順位を施設破壊から榊に狙いを向けてたわみ……エルバッハから放たれた風の刃で突放した1匹のダツを命中させることなく失った。榊機、烈風。アクティブスラスターを使うまでもない。切断されホーミング機能を失った飛び道具など、歴戦の榊にとっては想定済みだ。
「余計な手出しであったかもしれません」
「いや、助かった。それより奴さん、俺たちコンビを侮って先に片づけるつもりらしい」
「……」
ぐるり、と巨大な角を回して、先発のイッカクが榊とエルバッハをねめつける。
榊の軽口に無言で返すエルバッハの胸中は察するまでもない。彼女を舐めてかかるものを許すはずはないのだから。
「好都合です」
「だな!」
二人を狙うイッカクのダツ、残り5……
数瞬前──
「で、オマエはどっちにするんだ? 虫ケラの頭じゃ考えられないか?」
榊とエルバッハのコンビネーションにより前衛と引き離された後衛のイッカクを、レイオス機が挑発するようにマテリアルライフルで狙う。側面を確実に狙うには角度が悪い。
(オレに襲いかかれば重畳、『虎』の旦那の好機になる。小屋か坑道突破にいくなら……?)
イッカクが身を捩る。
飛んだのはイッカク自身──
詰めた距離の先に、先ほど最後のドワーフ採掘夫が駆け込んだ小屋があった。
「ここを終いの場所に選んだわけだ?」
守原機の異相に隠れた回路にマテリアルが疾る。
「ははっ! だからの、傾斜防御という基本を未だ理解せぬからの、歪虚はアホウだというのじゃよ!」
軽い衝突音。続けてもう一つ。さらにまた一つ。
ははっ! はははは!
ミグ機ハリケーン・バウの後部ライトが点滅する。最後衛のゴーレム君。レイヴェンへのサインだ。
(良いぞ、良い。ミグが後方に弾いてなお、跳弾を気にせず魚めを始末できる。すばらしい陣、じゃな!)
返答はただ、「……応」とだけ。
CAMの全方位カメラに映るゴーレム君は、既に土壁のダメージ補修にとりかかっている。
イッカクから放たれたダツは2匹……
ミグ機が盾として『板』で弾いたそれらのうち、1匹は、方向転換の機を逸したまま後方の土壁の『板』に激突。守原機に横腹を晒して消えている。もう1匹はレイヴェン自身の構築した攻性防壁が勢いを弱め、あえて『板』を貼らず残した土壁に顎を捕らえられハンマーの露となる。
「と、まぁ。重畳なのはここまでなのじゃが……なにかわかったかの?」
愚直にいまの動作を繰り返してくれれば楽なのじゃが、そうもいかんのよな? ミグの鼻息が、ふむぅとニュアンスを変える。
「排他的射出機構、そう断言してよい。かと」
イッカクが地中を掘り進めるためにダツは体躯に密着させねばならず、しかしグランドワーム変種とみられるイッカクに後付けされたとなれば、元から該当器官を持たない以上、装填はダツ自身の器官依存。とみるべきだ。問題は……発射をイッカク──グランドワームの習性動作を応用したものであるか、ダツに推進機能があるかどうか……
──これが会敵前、観測と管制を受け持った守原の懸念、である。
「ダツについていたのは、コバンザメに似た吸着機構のみ。独立推進機構は認められず」
ということです。守原の声に勝利の確信の響き。
「っしゃ! 背面を見せてくれてサンクスだぜ」
テメェはオレや『虎』を襲っても、小屋や坑道を破壊しようとしても、弱点を晒すことに変わりはなかったさ。レイオス機コクピット内に点灯する自機コード。勝利。
肢体をくねらせ跳躍するイッカクの背に、マテリアルライフルが刻む傷跡。
「さぁ、捌くぜ……あ? あぁッ!?」
(跳んだ、跳びやがった。信じられねェ、さすが虫……)
「おい。出てくるのはどこだ?」
マジか。レイオス機の索敵が、漏斗内壁の螺旋に穿たれた細い廃坑道の一つに消えたイッカクを探す。螺旋にして一段、ほんの数mとはいえ上方をとられた。畏れていた事態。
「第二次迎撃予測地点!」
レイオスは守原機が示す地点へ『虎』と向かう。
「親方! 小屋から離れろ」
ゴゴ……と掘削音に時折ひどい衝突音が混ざる。もこり、と漏斗の一点に隆起。……浅い!
「ほれ、の。何ぞ企んでもそこから出るしかないのよな」
ミグの高笑いはもちろん、守原機がドワーフ待避をその背に庇って完了し、レイヴェン機の防具である『板』と土壁が空中で放たれたダツを処理しているのを見越してのことだ。
「万一の対処はしていたが……」
レイヴェンのフルフェイスの奥に潜む静かな目。ボディプレスを試み、小屋直上からの侵攻を螺旋中の『板』に阻まれたイッカクが悔し紛れに空中からの射撃を試み、自身はむなしく地に落ちる様をみる。
「そこに落ちてもらうのが、良いのだ」
守原の示した第二迎撃地点。イッカクを挟んでレイオス機、そして『虎』!
「この近辺ではの。穴掘りはキツいぞ、虫よ」
「親方たちが頑張っちゃってな、埋まってんだよ『板』が」
地中覇権へのドワーフの意地、すごいなオイ!
ミグが言い出した時は大丈夫かと思ったが、あの短時間に打ち込んじまって、それがビンゴだぜビンゴ!
再度──地中に逃れようとしたイッカクの腹に1発また1発。レイオス機のマテリアルライフルが撃ち込まれる。
「しかしッ、往生際がッ、悪りぃぜッ!」
「支障ない……全て引き受けても……構わん」
逃げては『板』に、守原機に、ミグ機に阻まれ、しかし近づけばダツを放つ。
削いで削いで、ようやく動きは鈍ったか?
あと2匹。残るダツをレイヴェンは、たとえ生身で受けたとしてもと、じり……と進む。
無駄撃ちさせれば楽だろう。だが──
「速攻で倒して加勢に行きたいんだよッ。オレは!」
レイオスが吼える。応えたのは守原機!
「そうだ……そうじゃないか。なにを寝ぼけていたんだ、うちは……ッ!」
答えは観測で、榊とエルバッハとの通信で、すでに出ていたじゃないか!
「総攻撃ッ。『ダツごとヤツを捻らせるな』!」
「はっ! ははっ! そうであったわ。つい弾幕が楽しすぎて、のう!」
ミグ機が得物をカノン砲から機棍に替える。
行く手に立ちふさがるのは……俺が。
レイヴェンが今度も行動で示す。ただ小声で、「ゴーレム君、やろう」とだけ。
──ゆらり。
イッカクが頭をもたげて揺らぐ。身体をたわめて、今度はヴェドル方面坑道をねめつけて、跳んだ!
突如出現した土壁を崩し、奥に現れた障壁に挫かれ、角ごと鼻先に横殴りの大木槌。
「……潰せた」
「ナイスショット、じゃの!」
いや、ナイスパス! じゃったか?
目の前に忌々しい角ごとイッカクが転がってくる。一丁前にドリルの形をした、長さと堅さだけの代物が。案外、この手は根元が甘いものよ。
レイヴェンとゴーレムのコンビネーションが、ミグに角破断の好機をもたらす。
「『虎』の旦那。鰻は好きかい?」
唐突なレイオスの問い。
「守原の出身は関西だと思うんだけど、関東との違いは開きの向きだけだったかと思ってさ」
旦那はトライアンフのマテリアルカーテンに便乗してくれ。機体サインで示して一気にイッカクへ寄せる。反対方向から守原機。
「まさかとは思うが……」
「そのまさかなんだよなー」
3機の通信に、満桜が割って入った。
「『虎』は背中を裂く。そうよね?」
「おうよ。蒲焼にしても不味そうだが……なっ!」
レイオス機の「祢々切丸」が固定の目打ち替りに使われた稀な実例、だろう。
守原機DViDSlayerの放熱がマスクを焼く。超音波振動がイッカクの腹を裂く向こう側に機体カメラが捉えたのは、二刀流──『虎』いや、サーベルタイガーの姿であった。
ボロボロのイッカク──
ボロボロのダツ──
それでも未だ跳躍力を失わず、発射能力を失わず。
「ガルム。温存していた咆哮の1回、そろそろ使うときのようですよ」
優しい仔なのですよ。常に私を庇い私の戦術を援けて。
エルバッハはイェジドへ横乗りのまま身をかがめ、首をかき抱くと耳の後ろで囁く。
「奴らの動きが直線的に振れるだけで、随分と楽になるものだ」
回避に疲れの見えたガルムを狙ったダツが、榊機の30mmアサルトライフルで霧散する。胴の筋肉が破断しているのだ。エルバッハのファイアーボールとウィンドスラッシュによって。榊機のマテリアルライフルによって。
だが、直後二人で溜息。イッカクが地中に消えた。
「これが無ければ……」
「『板』が埋まった地点で暴れて、もう1匹と連携とられるよりマシだったと考えようか?」
過去形ですね?
過去形だな。
もう、連携破断重視戦術をとらなくてもいいわけだ。いいのですよ。
「エルバッハ、榊ィ。ちぃっと遅くなっちまった」
「ミグと守原が観測中だ……」
ほら来た。来ました。
レイオス機とともに駆け寄るレイヴェンのゴーレムに、エルバッハが小首を傾げて可愛らしく頼む。
「荷台に乗せていただけませんか?」
優しいからこそ強い仔なので。イェジドの背から降り、「ガルム、行きなさい」と単独行動へ送り出す。
「兵庫もトライアンフに乗るか? 荷台無ぇけど」
「バカ言え」
エスコートに来たんじゃなかったのか? 軽口と共に2機のR7エクスシアは並んで駆ける。レイオス機のマテリアルカーテンの下、榊機が抜刀するは斬機刀「建御雷」。
「距離10!」
「挙動が丸見えじゃのう。出てきて吶喊かますか飛び道具かはわからんが」
地中から飛び出たイッカクが、受ける洗礼は弾幕と相場は決まっている。
「デュミナスの火器管制システムも捨てたものじゃないってことだ」
「じゃろ? じゃろう?」
守原機とミグ機の弾幕でダツが落ちる。落ちて跳ねる力も無く。狼の顎に噛み砕かれ消えてゆく。
エルバッハの一礼。
「ありがとう。最大効率であれを凍らせることができました」
レイヴェンの盾が彼女を護っていたことへの感謝、だろう。
エルバッハの背後、件のイッカクが身体をもたげたまま覆われているのは一面の薄霜。
紫電の煌めきが、1度。更に、更に、紫電が奔る。──そして地響き。
地中へ潜る掘削音、ではない。どう、と巨体が斃れる音、である。
「榊流【狼牙一式】よりの手、確かに仕留め候也」
強い踏み込みの刺突から一連の剣技。榊機の鞘鳴りに合わせたかのように、歪虚の残骸が崩れ落ちる。
「凄ぇッ! 榊流超凄ぇ! さすが紫電改!」
……。
…………。
「あのなレイオス。こいつの名は、烈風」
●
満桜は微笑みと共に、何度目かの記録映像再生ボタンを押す。
戦闘記録と機体データ。それと事後に行われた口述記録だ。
刻令ゴーレムに興味を持ったらしい親方に、例の謎パーツを組み込まないかと持ちかけられ挙動不審になるレイヴェンが、一生懸命バリケードと『板』について考察を述べている。
あのゴーレムと組み合わせた運用を鑑みれば、確かに単なるバリケード素材に限定するのは惜しい。「積層素材の特質を深く掴んでから組めていれば」と結ぶレイヴェンに、親方が食い下がっている。
「ナニを言うとる!」
唐突に割り入る声はミグだ。
びくり! と怯えるレイヴェンを押しのけ、親方にぐいと顔を近づけ張り合いだす、
「今! 時代は飛行ユニットじゃろうが! 組み込むならば航空系の機構じゃろ。の? これを見ぃ!」
もちろん、時代は飛行というのは極端な(正確にはロマイヤー家界隈の)ローカル傾向であるが、ミグがそちらも見ぃとカメラ前に突きつけた図面に満桜は一時停止をかける。極限までに装甲を削り追加パーツでカスタマイズしたデュミナス。型番を調べれば、スクラップとして払い下げられた機体だと判明するだろう。
ゆえに軽量の装甲……できれば傾斜防御を後付け可能な防具に期待するのだ、とミグは図面と顔を交互にカメラに密着させている。
暫しの暗転後、笑いを堪えた声。
榊が、「……いや、失礼」とカメラを直す。
「近接特化。割り切った良い機体だと俺は思う。これは実証実験に限ったことじゃなく、実戦での話でもある。汎用機が最も活きるのは特化機と連携できることと考えている。極めるべきだ。『虎』の道を」
おっと! 『板』の報告だったな。口元を軽く掻く。
「攻撃力重視の俺みたいなのは、追加装甲板が軽くて高性能だと好都合なんだ」
よし、次替わるぞ。ぽんと肩を叩かれて、守原。
「人のこたぁ言えませんが、皆、どピーキーすぎですよ」
榊に軽く手を上げてから、真面目な顔で向き直る。
「本当に加工器具は発掘されてない、と? 『板』で『板』を加工している、ということか」
画面外で頷く親方に頷き返す。
「それで作れる防具なら、ポイントアーマーという手があるかな。装甲板を載せられない時もあるだろうから」
親方と守原の会話を聞いていたのだろう。
「ここは古代の要塞か艦艇だった、って仮説はどうだろうな。余所を掘れば、製造施設や機体だらけの戦場が出てくる。だが……それでもその文明は滅びた。そう想像すると、恐ろしく感じると共に俺たちは勝つぞって、不思議な震えがくるんだ」
……っと! らしくなかったな!
レイオスは一転、明るく付け加える。
「CAM装甲でもバリでもいいけどさ、いっそロッソに貼り付けてもイケると思うぜ」
じゃなー。画面端から振られる手。
そしてエルバッハ。
ガルムの毛並みを優しく撫ぜる。
「軽い防具で、ガルムも動きやすかったろうと思います」
一礼。そしてこれは本題ではないのだが、と切り出す。
「歪虚の残骸を片付けて思ったのです。イッカクの角は最後まで残った。つまり後付けでしょう。これはあの3人組だけの画策でしょうか? 何者かの思惑のもとでしょうか?」
資料を纏めてロッソの廊下を歩く満桜を、CAM小隊長が呼び止める。
「いい笑顔してるじゃないか」
「『虎』は『虎』って自覚したから、かな」
禅問答みたいだがわかるな、俺も。小隊長は頭を掻き掻き満桜を見送った。
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依頼相談掲示板 | |||
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作戦相談卓 No.0(ka4640) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/02/05 19:18:24 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/02/01 22:17:59 |