• 初心

【初心】あれは島ですか? いいえ亀です。

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
LV1~LV20
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/02/08 19:00
完成日
2017/02/15 00:55

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●むしろ雑魔です。
 よく晴れた日の早朝。
 漁師の兄弟はいつものように、村のそばにある大きな湖へと舟を漕ぎ出した。
 彼らの村の男達の大半は、この湖で漁をし生計を立てている。まだ十代の兄弟は、経験の不足を努力で補うべく、毎朝誰よりも早く漁へ出ていた。

 朝霧立ち込める湖を、手漕ぎの小舟でゆったり進む。
 湖面は朝日を反射してきらきらと煌めき、水は冷たく清んでいる。
 漕ぎだすとほどなくして、仲良く連なる三つの小島が見えてきた。
 水面からひょっこりと顔を出す島々は、大きい順に「父島」「母島」「子島」と呼ばれ、村人達から親しまれている。
 岸から一番近い父島の上には、漁場らしく小さな魚霊碑と祠とが鎮座していて、そこはかとなく厳かな雰囲気が漂う。

 弟は舟の上から島へ手を合わせ、
「今日もたくさん魚がとれますように……あれ?」
 日課となっているお祈りをしたのだが。
 小首を傾げた弟に、櫂を繰る兄も首を捻る。
「どうした?」
「どうしたっていうか……兄ちゃん、アレ」
 弟が指さす先を見て、兄は我が目を疑った。

 ――島が四つに増えている。

 岸と父島との間に、こんもり丸い島が増えていたのだ。
「島、かな?」
「まさか、突然島が増えるわけないだろ」
 兄は舟をその島へ寄せる。
 近づいてよくよく見れば、新たな島とおぼしき物体には、一面六角形の模様が刻まれていた。
「兄ちゃん。島、かな?」
「亀、じゃね?」
「やだなぁ、こんな大きな亀がいるわけないじゃん」
「じゃあこの模様はなんだよ、どう見ても亀の甲羅じゃねぇか!」
「いやいやいや」
 兄弟が言い合っていると、突如近くの水面が持ち上がった。次いで、ざばぁっと飛沫をあげ巨大な亀の頭が現れる。
「うわっ!」
 小さな舟は激しく揺れ、弟は慌てて縁にしがみつく。兄はじっと亀を見つめていた。
 亀はかぱっと大きな口を開けたかと思うと、その口を水面につける。
「……何かよく分かんねぇけど、マズそうだぞ」
 言うなり大急ぎで亀から遠ざかるべく、力いっぱい櫂を漕ぐ。
 途端、

 ――ズ、ズズズズ……

 亀が水を飲み込み始めた。水草も魚の群れもいっしょくたに、物凄い勢いで口の中へ吸い込まれていく。
 兄弟の乗る小舟も引きずり込まれそうになったが、兄が死にもの狂いで漕ぎ続けたお陰で、何とか危機を脱することができた。そのまま全速で岸を目指す。
「兄ちゃん、アイツこっち向いたよ!」
 兄に代わり亀を見張っていた弟が叫ぶ。
 次の瞬間、亀の口から舟めがけ大量の水が噴出された!
 衝撃に小舟が傾ぐ。
「うわあぁぁ……――!」
 兄弟はなすすべなく湖に投げ出された。


●ハンターさん、出番です。
「……ということがあったらしいんですね」
 集まった初々しいハンター達を前に、きゃるんとした若い受付嬢が告げる。
「敵は雑魔化した亀さん……まぁ随分と巨大化してるみたいなんですけど、一匹です。動く気がないのか動けないのかは分かりませんけども、今も同じ場所に留まっているそうですよ。村の方が現場まで案内してくれる手筈になってます」
 そこでひとりのハンターが手を挙げ、心配そうに尋ねた。
 その問いに受付嬢はにっこり微笑み、大きな目をくるくると動かして言う。
「ご心配なく、ご兄弟はご無事です。現場までの案内を請け負ってくれたのもおふたりなんですよぉ。『あの湖を荒らされちゃ生活が成り立たない、あの勢いで魚を食い尽くされてたまるか!』って、随分意気込んでらっしゃいました」
 そして手にしていた書類を置くと、
「一般人のご兄弟が逃げ切れたことから、敵の攻撃力はさほどではないだろうと判断されまして。それでこうして、新人ハンターさん達にお願いすることになったんです。サポートしてくださる先輩ハンターさんはいませんし、亀さんはやたら硬そうですけども、まぁ何とかなりますって! 叩きまくればきっと倒せますから、はい!」
 不安要素も朗らかに元気よく述べて手を叩く。
「ずばぁんとカッコよく討伐してきてくださいねー。ではでは、いってらっしゃーい♪」

リプレイ本文

●もしもし亀よ。
「大きな、亀……」
 二匹の蛇を身に絡ませた少女が吐息交じりに呟く。爬虫類好きのロゼッタ・ラプタイル(ka6434)だ。
 晴れ渡る空、澄んだ湖。その狭間にひょこりと出現した巨大な亀雑魔。甲羅はみっしりと苔むして、その大きさと相まって本当に小島のよう。
 岸に向かって首を突き出し、気持ち良さそうに午睡中。
 レム・フィバート(ka6552)は手をぶんぶん回し、
「これはぶっ飛ばしがいがありますなぁっ、アーくん♪」
 言いつつ周りに舟などがないかきょろきょろ。
 のどか過ぎる光景に一瞬呑まれていたアーくんことアーク・フォーサイス(ka6568)は、我に返り気を引きしめる。
「直接人命に関わるわけではない……と言っても、このまま放置しておけば周囲の環境も変わってしまうだろうね。そうなれば生活にも関わるし。なら、やっぱり倒さないと」
「そうですね。幸い、まだ人への被害は出ていないみたいですが、このままだと時間の問題でしょうし」
 アークの言葉に首肯するカメリア(ka6669)。
 一方リアルブルー出身の鍛島 霧絵(ka3074)は、かつて観た怪獣映画を思い出していた。
「子供の頃、大きな亀の映画を見た事があるわ。その亀は火を噴きつつ回転しながら空を飛んでいたのだけれど」
 その呟きに首を捻るのはクリムゾンウェスト育ちのレナード=クーク(ka6613)。
「そないに怖くは見えへんけど……」
「そうね、こっちはそうじゃないみたいで良かったわ……いえ、良くないわね」
 霧絵、冷静にセルフツッコミを入れ気を引き締める。
 どうにも気が抜けてしまうのは、平和然とし過ぎた亀のせいだろう。
 和音・歩匡(ka6459)は『着火の指輪』で煙草に火をつけつつ、
「冬に水場に近づくと風邪ひきそうな気がするんだよな」
 なんてぼやいていたり。
 ライフル担いだ柊 恭也(ka0711)は火力十全な仲間を見回し、
「どうみても亀はサンドバッグ確定じゃねぇか。まぁ楽な仕事で金も貰えるのはありがたいが……」
 何だかなという風に肩を竦めた。

 ロゼッタはここまで案内してきた漁師兄弟を伴い、少し離れた岩陰へ歩いていく。
「ごめんね。危ないから、ここで待っていてね……お二人も戦闘が終わるまではこちらで」
 二匹の蛇、ファリンとエキドナをそっと下ろす彼女に、漁師の兄弟は頭を下げる。
「どうか宜しくお願いします!」
 ロゼッタは少し驚いたように目を瞠り言葉を探していたが、ややあってこっくり深く頷いて見せ、仲間達の許へ戻っていった。


●いざ!
「これできっと、水の上でもスイスイ動けるようになるはずやで!」
 レナードは接近戦に臨む三人へ順にウォーターウォークをかけていく。
 最初にかけられたレム、待ちきれないとばかりに水面を駆け、亀の正面へ飛び出した!
「さーて! 真っ向から打ち砕いてみせまっしょーう!」
 気配を察し、ぱちりと亀の目が開く。途端に連続した銃声が響き、その眼前を覆う弾幕が張られた。霧絵の制圧射撃だ。
「漁場を荒らされては困るもの。大人しくしていてね」
 霧絵の手の中で鈍い輝きを放つのはオートマチック『アレニスカ』。砂岩めいた色合いに相応しい土属性を帯びた銃だ。
 この亀は水属性。つまり土属性に弱い。
 まずは仲間の援護をと考えている彼女だが、攻撃に転じた際有利になるようしっかり土属性武器を備えて来ていた。
 それは飛び出したレムも同じ。
「いざじんじょーにしょーぶといきましょーうっ!!」
 拳を固めるは、同じく土属性の戦籠手『止水』。手の甲の白玉を煌めかせ、突構えからの螺旋突を甲羅に叩き込む!
 が。
「かっ……たぁーい!」
 甲羅、予想以上に硬かった。レムの拳にビリビリと衝撃が走る。
「でもそう来なくっちゃー♪」
 レムの脇をすり抜け、光彩の軌跡を描き一匹の蝶が飛ぶ。
「お昼寝は終わりですよ」
 カメリアの胡蝶符だ。蝶は甲羅の表面の苔を大きく削ぎ取り消えた。
 その間にレナードの術を受けたロゼッタも、アックス『カタクテスィ』を手に亀の側面へ馳せ参じる。彼女の表情は先程までとは別人のように凛々しい。
「行きます……!」
 身の丈よりも長い石斧をぶん回し、ワイルドラッシュで土属性を乗せた連撃を甲羅へ浴びせる。
 しかし甲羅、やはり硬い。
 これだけの攻撃を受けてなお、欠片を落としただけだった。

 水際から離れた岸では、恭也が甲羅に狙いを定めていた。
 彼の『メルヴイルM38』は、装弾数を増加してある代わりにずしりと重い。亀のそばには仲間の姿がある。安定した射撃を行うべく、伏臥の姿勢で無心に引き金を引いていく。
 腹に響くような音を響かせ撃たれた弾に、亀の甲羅がかすかに揺れる。
 けれど亀はまだどこかのんびりとハンター達を見下ろしていた。
「まるで案山子だなっと」
 呟く恭也から少し離れた場所では、すでに一度ホーリーライトを見舞った和音が、霧絵と同じ『アレニスカ』に持ち替え発砲。己が持つ手段の中から一番有効なのはと撃ち比べていたのだ。
「属性持ちには不利属性を、か。こっちの方が効くみてぇだな」
 念のため自らにもウォーターウォークをかけたレナードも、レヴェリーワンドを掲げアースバレット!
「おっきい攻撃やないかもやけど、塵も積もれば……何とかって言うし……!」
 鼻先に被弾した亀は煩わしそうに首を振る。嫌がる素振りを見るに確かに効いているのだ。
 その隙に亀の喉元へ飛び込んだのはアークだった。
 無数の花で飾られた鞘から桜色の刀身を抜き放つや、一之太刀・気息充溢からの電光石火と流れるように技を繋げ、裂帛の気合いと共に振り下ろす!
 亀の注意が逸れた好機、淀みなく紡がれた技、日本刀『百花繚乱』の持つ土属性。
 並みの雑魔であれば間違いなく首を落とされていただろう。けれどこの亀、硬いのは甲羅ばかりではなかった。無論甲羅程ではないにせよ、皮膚は細かな鱗のような物に覆われそれなりの強度を誇っていたのだ。
 それでも深手を負った亀は、黒々とした瞳でハンター達を睥睨したかと思うと、口を開け湖の水を吸い込み始める。
「離れろ!」
 アーク、頭のそばにいたレムに声をかけ自らも飛び退る。
「っとっと!」
「きゃっ!」
 吸い込みの影響で水面が大きく揺らぐ。回避したレムだったが堪らず水面に尻もちをつき、ロゼッタは慌てて甲羅に縋る。
 飲み終えた亀は、甲羅の中へ素早く引っ込んでしまった。
 静けさがシンと辺りを包む。

 霧絵は亀の動向を怪訝に思っていた。
「牽制してるとは言え……攻撃できないというより、する気がないみたい」
 雑魔とは、『負のマテリアルに落としたい』という欲求と衝動で動くものではなかったか。
 カメリアも同意する。
「おかしな雑魔ですね。甲羅に篭ってやり過ごすつもりのようです」
 霧絵は制圧射撃の残回数をひとつ残し、銃にマテリアルを集中させる。
「なら――甲羅砕きの本番といきましょう?」
「いいねぇ、ぶっちゃけ甲羅割りに来たようなモンだし」
 ニッと笑って恭也はライフルを構え直す。
 甲羅の隙間から中を狙えないかとうかがっていた和音、結局こうなるのかとやれやれ気味に首を振る。
 レナードも灰色から金へ色を変えた瞳で亀を見据え、土の気をワンドに込めた。
 水上の三人もご同様。
 ロゼッタは石斧を両手でしっかりと握りしめ、ふぅっと息を吐く。
 アークは再び一之太刀を繰り出すべく大上段に構え、傍らのレムに目配せした。それを受けたレム、鎧徹しの構えで威勢よく大号令。
「むずかしー話はなしで! いっくよー!」
 それを機に怒涛の集中砲火が始まった!
 閃く白刃、間断なく響く銃声と剣戟の音。硝煙を裂いて飛ぶは、可憐な蝶と礫。
 各自持てる術と力を、余すことなく甲羅へ叩き込んでいった。


●亀さんよ?
 そろそろレムのウォーターウォークが切れるかという頃。
 亀は依然甲羅に篭ったままだんまりを決め込んでいた。
 甲のそこここには細かなヒビが入り、あと一押しの所まで来ている。しかしここまで来るのに、各々スキルの残回数も残りわずかとなっていた。
「想像以上に硬いな」
「もうちょっとだと思うんだけどなー!」
 額に滲んだ汗を拭うアークの横で、レムは口を尖らせキャスケットを被り直す。
 ロゼッタは弾む息を深呼吸して整えると、甲羅の天辺を見据えた。
「まだ、まだ行けます!」
 甲羅の縁を足掛かりに飛び上がり、わずかでもヒビの深い場所へ最後のワイルドラッシュ!
 石斧が上手くヒビにめり込んだ瞬間、ガッと大きな音と共に甲羅全体に亀裂が走り、隙間から内側の柔らかな肉が覗いた。
 その瞬間、

 ズズズ、ズズ……

 地響きめいた音をたて、亀が小刻みに震えだす。
「何だ?」
 すると岸側の水面が大きく膨れ上がり、亀が頭を現した。亀は首を高々ともたげると、声無き咆哮を迸らせる。
「ようやくヤル気になったか。来るぞ!」
 恭也の声が飛ぶが早いか、亀は水際に立つカメリアへ大量の水を噴出!
「っ!」
 咄嗟に『クリアフィールド』を構えようとしたカメリアだったが、亀の豹変ぶりに一瞬対応が遅れた。そして……
 ――ばっしゃーん。
「大丈夫か!」
 水浸しになったカメリア、髪や服からぽたぽた滴を垂らしながら、恭也の声にこくり頷く。
「えぇ、全くダメージはないのですが。その、何でしょう、とても残念な気持ちに……」
 ローブの裾をぎゅっと絞って、改めて亀に向き直る。
「さて……その自慢の防御すら失ったあなたに、何ができるのでしょうか?」
 問いかける彼女に、亀は苛立ったように再び水を吹き出す。
 けれど二度も同じ手は食わない。カウンターに桜幕符を見舞う!
「桜の音色に酔いしれていなさいな」
 幻影の桜吹雪で視界を塞がれた亀を、再び襲う桜色の刃。
「これでどうだ!」
 ここぞという時の為、温存していた技を連ねたアークの強烈な一撃に、甲羅の側面が大きく剥落した!
「よーしっ、みんなであそこを狙い打ちに――」
 亀は元気な声をあげるレムへ首を巡らせ、頭突きの構えを見せる。
「わわっ!」
 しかし再びの弾幕がそれを防いだ。
「良かったわ、一回分残しておいて」
 最後の制圧射撃を放った霧絵が、岸辺でホッと息をついた。
 すると亀、気がふれたようにその場でぐるぐる回り始めた。水面が激しく波立ち、三人は堪らず屈みこむ。その様子を楽しむように回り続けていた亀だったが、やがて父島の方を向きぴたりと止まった。

「拙いぞ」
 ぽつり呟いた和音の言葉に、レナードは首を傾げる。
 鋭敏視覚で油断なく亀を観察していた和音は、ある事に気付いた。
「吸った水の量に比べ、吐き出した量が少な過ぎる」
「ってことは……まだ水鉄砲出せるかもしれん、ってことやんね!?」
 叫ぶと同時にレナード、父島へ向け猛ダッシュ!
 余波もなんのその、身軽さと器用さで波頭を飛び渡り駆けていく。アースウォールで祠と碑を保護するつもりだったが、あと少しで島に着くという所で亀の顎が開く。レナードは咄嗟に両手を広げ、亀の正面へ躍り出た。
 ――ばっしゃーん。
「あれ、ほんまに痛くない……でも冷た、は、はくしょっ!」
 レナードは大きなくしゃみをしたが、身を挺した甲斐あって水は父島へ届かなかった。
「やるじゃねぇか!」
 ニッと唇の端をつり上げた恭也、レナードの頑張りに応えるべく狙い澄まして引き金を引く。銃床に死神の文様を持つライフルが火を吹き、放たれた弾丸が剥き出しの胴を撃ち抜いた――!


●亀さんよ。
「酒! 飲まずにはいられない!」
 とどめの一撃を気持ちよくキメた恭也、機嫌よく缶ビールをぐびり。
「雑魔になって日が浅かったのね」
 亀の亡骸のそばで霧絵がぽつり。通常雑魔は骸など残さないものだ。
 漁師兄弟はロゼッタに愛蛇を引き渡すと、改めて見る巨大な亀を呆けたように見上げる。蛇達は来た時と同じように主の身体へ巻き付いた。
 レムとアークは術の効果が残っている内に島へ渡り、現場の無事を確認して回る。
「良かった、壊れた物はないね」
「でもいきなり亀さんが出てきて雑魔になるなんて変なかんじー」
 一方戦闘後にウォーターウォークをかけてもらった者もいた。カメリアと和音だ。
 カメリアは祠の前で手を合わせ優雅に一礼。
「騒がしくしてしまいましたね……あら?」
 祠の隅にある物を見つけ目を丸くした。
 和音は亀の亡骸周辺を丹念に観察して歩く。
「しかしまあ、動けねぇってことはここで雑魔化したのか? ……あれ、こいつ足の先赤かったんだな。気付かなかったぜ」
「足が赤い?」
 和音の言葉に反応したのは、水際にいた漁師の兄だった。心当たりがあるのかと恭也が問えば、兄は歯切れ悪く答える。
「まさか本当にいたなんて……湖の西側に凄ぇ深い淵があるんですけど」
 淵周辺の森ではここ最近雑魔が現れるようになり、ソサエティに討伐を依頼したこともあると言う。
「淵にはこの湖のヌシ――何百年も生きてて、足の先が赤い大亀が住んでるって伝承がうちの村にあって」
「ヌシ?」
「年寄り達は子供の頃に釣り餌取られたとか一緒に泳いだとか言ってるけど、俺らの親世代は誰も見たことないって言うし、伝承に乗っかったただの与太話だと思ってたんです」
「与太話ではないのかもしれませんよ」
 戻ってきたカメリアが兄弟に渡したのは、祠で見つけた小さな木彫りの亀。酷く年季の入ったそれは子供が作ったらしく粗雑な作りだが、何とも愛嬌のある顔をしている。足の先には微かに丹が残っていた。
「随分親しみを込めて作られた物のようです」
「昔、村の子が作って祠にそっと置いたのかもしれんね」
 レナード、像を覗き込みその愛らしさににっこり。
 霧絵は改めて息絶えた亀を見やった。
「最初はヌシとしての理性が残っていたのかしら」
「わざと攻撃してこなかったってことー?」
「可能性はあるね」
 レムの言葉に神妙な面持ちで頷くアーク。
「雑魔に襲われ雑魔化したってとこか。湖を荒らしちまわないようここでじっとしてたんだな」
 聖導士の和音、目を伏せ小さく祈る。恭也は水際に寄ると、ビールを数滴湖へ垂らした。
「淵に潜んでりゃ良いものを、わざわざこんな目立つ場所でよ。まるで理性が残ってる内にとっとと見つけてもらって、討伐しに来る俺らを待ってたみてぇじゃねぇか……ビールじゃ清めの酒とはいかねぇだろうが、勘弁な」
 ロゼッタは愛しい蛇達の鱗をそっと撫でながら、
「雑魔となってしまった以上……仕方ありませんよね。一度雑魔になってしまったら、もう……戻れませんから」
 小声で呟く。

 束の間しんみりとしたハンター達だったが、兄弟が村総出で亀を弔うことを約束すると笑みを取り戻した。
 そして兄弟に別れを告げ帰路に着いたのだった。

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MVP一覧

  • 覚醒したらすごいんです
    ロゼッタ・ラプタイルka6434
  • 決意は刃と共に
    アーク・フォーサイスka6568
  • 夜空に奏でる銀星となりて
    レナード=クークka6613

重体一覧

参加者一覧

  • Commander
    柊 恭也(ka0711
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 話上手な先生
    鍛島 霧絵(ka3074
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 覚醒したらすごいんです
    ロゼッタ・ラプタイル(ka6434
    人間(蒼)|17才|女性|霊闘士
  • 不器用な優しさ
    和音・歩匡(ka6459
    人間(紅)|26才|男性|聖導士
  • キャスケット姐さん
    レム・フィバート(ka6552
    人間(紅)|17才|女性|格闘士
  • 決意は刃と共に
    アーク・フォーサイス(ka6568
    人間(紅)|17才|男性|舞刀士
  • 夜空に奏でる銀星となりて
    レナード=クーク(ka6613
    エルフ|17才|男性|魔術師
  • 桜の舞い
    カメリア(ka6669
    人間(紅)|14才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
柊 恭也(ka0711
人間(リアルブルー)|18才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/02/05 00:39:06
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/02/02 23:05:36