ゲスト
(ka0000)
Jitterbug
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/02/09 07:30
- 完成日
- 2017/02/23 23:25
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●負の温床
南方大陸。そこは最南端に“南方版・星の傷跡”である負のマテリアル火山を要する不毛の大陸。
その土地の殆どを砂漠と奇岩に覆われており、未だ負のマテリアルが強いため、この土地で活動出来るのはハンターのみという未開の土地でもある。
そんな地ではあるが、しぶとくこの地で生活する者達もいる。
亜人であるコボルド達だ。
南方大陸に住まう彼らは古代人の残した遺跡などをうまく活用して生活し、またハンター達人類を『救世主(メシア)』と呼ぶなど、大変友好的な種族でもある。
その中でも、マテリアル火山にほど近い、奇岩遺跡に本拠地を置く“青の一族”と呼ばれるコボルド達はゲートのある『竜の巣』の監視管理を任されていた。
……とは言え、負のマテリアルの濃い場所に違いは無く、そういう場所には強敵が出現しやすい。
コボルド達には自分達の手に負えない大型歪虚が出た場合は、一日一回定期連絡に転移門を潜ってやってくるギルド職員に必ず連絡をすることを約束させていた。
そして。
ついにその連絡がオフィスへと飛び込んで来た。
●ハンターオフィスにて
「リザードマンの亜種……のような歪虚です。
大きさは4m弱。主に二足歩行タイプです。
長い鋭い爪に、左右の腋から腕にかけてフリンジのような触手が何本もあり、これが伸縮して鞭のようにしなります。
尾は周囲の岩などを打ち飛ばしてきますので、それに直接叩かれた場合は相当の傷を負うと思って下さい。
動きもその巨体に見合わぬ素早さを持っていますので、十分ご注意下さい」
そう説明係の女性はあなた達の顔を見て言った。
「なんだそれ……かなり厄介じゃ無いか」
ハンターの1人がうんざりとした様子でその説明に補足を求める。
「恐らく、竜という点から強欲種でしょう。
となると、かなりの確率でドラッケンブレスを吐けると思いますが、残念ながらコボルド達と対峙したときにはブレスを吐かなかったそうなので、詳細は不明です。
ただ用心した方がいいでしょう」
ブレスを吐いてこないならそれにこしたことはないが、対策を失念した結果、大ダメージを負うことになれば目も当てられない。
「色は?」
「ワカメのような深い緑色、だそうです」
「……わかっかんねぇなぁ……」
せめて赤とか黒とかその属性に近い色なら良かったが、ワカメっぽいとなると風か、もしくは毒か。
「……っていうか、何ワカメって。それしっとり系?」
「いえ、普通に硬い鱗状だそうで。
……恐らく砂漠には緑というと、サボテンのような色か、水中のワカメのような色のどちらかになるのだと思いますよ」
「……あぁ、なるほど」
「今回は緊急ということもあり、募集人数が多くはありません。
その分、厳しい戦いになるかと思います。
無理だと思ったら引き返すこともまた勇気である事をお忘れなく。
それでは、ご武運を」
女性は資料を閉じると、深々と頭を下げたのだった。
南方大陸。そこは最南端に“南方版・星の傷跡”である負のマテリアル火山を要する不毛の大陸。
その土地の殆どを砂漠と奇岩に覆われており、未だ負のマテリアルが強いため、この土地で活動出来るのはハンターのみという未開の土地でもある。
そんな地ではあるが、しぶとくこの地で生活する者達もいる。
亜人であるコボルド達だ。
南方大陸に住まう彼らは古代人の残した遺跡などをうまく活用して生活し、またハンター達人類を『救世主(メシア)』と呼ぶなど、大変友好的な種族でもある。
その中でも、マテリアル火山にほど近い、奇岩遺跡に本拠地を置く“青の一族”と呼ばれるコボルド達はゲートのある『竜の巣』の監視管理を任されていた。
……とは言え、負のマテリアルの濃い場所に違いは無く、そういう場所には強敵が出現しやすい。
コボルド達には自分達の手に負えない大型歪虚が出た場合は、一日一回定期連絡に転移門を潜ってやってくるギルド職員に必ず連絡をすることを約束させていた。
そして。
ついにその連絡がオフィスへと飛び込んで来た。
●ハンターオフィスにて
「リザードマンの亜種……のような歪虚です。
大きさは4m弱。主に二足歩行タイプです。
長い鋭い爪に、左右の腋から腕にかけてフリンジのような触手が何本もあり、これが伸縮して鞭のようにしなります。
尾は周囲の岩などを打ち飛ばしてきますので、それに直接叩かれた場合は相当の傷を負うと思って下さい。
動きもその巨体に見合わぬ素早さを持っていますので、十分ご注意下さい」
そう説明係の女性はあなた達の顔を見て言った。
「なんだそれ……かなり厄介じゃ無いか」
ハンターの1人がうんざりとした様子でその説明に補足を求める。
「恐らく、竜という点から強欲種でしょう。
となると、かなりの確率でドラッケンブレスを吐けると思いますが、残念ながらコボルド達と対峙したときにはブレスを吐かなかったそうなので、詳細は不明です。
ただ用心した方がいいでしょう」
ブレスを吐いてこないならそれにこしたことはないが、対策を失念した結果、大ダメージを負うことになれば目も当てられない。
「色は?」
「ワカメのような深い緑色、だそうです」
「……わかっかんねぇなぁ……」
せめて赤とか黒とかその属性に近い色なら良かったが、ワカメっぽいとなると風か、もしくは毒か。
「……っていうか、何ワカメって。それしっとり系?」
「いえ、普通に硬い鱗状だそうで。
……恐らく砂漠には緑というと、サボテンのような色か、水中のワカメのような色のどちらかになるのだと思いますよ」
「……あぁ、なるほど」
「今回は緊急ということもあり、募集人数が多くはありません。
その分、厳しい戦いになるかと思います。
無理だと思ったら引き返すこともまた勇気である事をお忘れなく。
それでは、ご武運を」
女性は資料を閉じると、深々と頭を下げたのだった。
リプレイ本文
●
案内役のコボルドが指を指す。
念のため、CAMを置いてひっそりと戦況を確認しに訪れた一同が岩肌の影からそっとカルデラを覗く。
現在地から1kmほど奥、そこには確かに珍妙な強欲竜が退屈を紛らわすかのように彷徨いている。
「ん。ちゃんと案内できてえらいぞ」
この中では最もコボルド達と縁深いグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が頭を撫でて褒めてやる。
褒められて嬉しそうに尻尾を振っていたコボルドだが、戦闘が開始になる前に脱兎の如く走り去っていった。
「場所は火山でコボルトたちはさっさと退避済、派手にやって問題なしだね」
ウーナ(ka1439)が周囲を見回し、他に介入してくるモノがないか確認して頷いた。
「じゃぁ、作戦通りでOK?」
久瀬 ひふみ(ka6573)が隣のデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)を見て問うと、デスドクロはズバァツ! と腰に手を当てて立ち上がった!
「グーハハハ!! なぁに、このデスドクロ様に任せておけばあんな竜の1匹や10匹恐るるに足らフガフガッ!」
「シーッ!!」
バリトン(ka5112)がデスドクロの口元を抑え、力尽くで地に伏せさせる。
和泉 澪(ka4070)が自分の口元に人差し指を立てて「静かにっ!」と声をひそめる。
不安げに一同を見つめる夕凪 沙良(ka5139)の横で、注意深く強欲竜を見ていた生嶋 朔夜(ka6678)が、静かに後退を促す。
「……大丈夫です。敵はこちらには気付いていないようです。さ、今のうちに」
一同は速やかに後退すると、自身の相棒の元へと戻っていた。
(足を引っ張らないようにだけは、しないとな)
モニターをチェックしながら朔夜は『折角のR7の初陣、できれば勝ち戦で終わりたい』と願う。
いや、朔夜だけではない。今回戦場を共にするR7エクスシアに搭乗している者は皆初陣だった。
「うん……まぁ負マテ沢山あるからな。こういうのも生まれるよな」
先ほど見た珍妙な強欲竜を思い出して、思わず独りごちたグリムバルドは慣れ親しんだヴェルガンドの操縦桿を握る。
遠距離担当は自分と、ウーナ、澪と朔夜のハズだ。
「強欲竜も色々いるなぁ……でも、こんな言い方悪いけど、ちょっと助かった」
(問答無用に滅茶苦茶強そうな方が、あれこれ考えずに済むからな……)
数値を見て、額の汗を拭う。
覚醒していれば南方大陸の特有の熱も影響が無いとは言え、コックピットの中はちょっとした蒸し風呂状態だ。
「シンプルに、命を懸けた勝負といきますか。……久しぶりの南方だ。
早く帰って青の一族の皆と遊びたいので大人しく此処で倒れて貰おうか!」
ヴェルガンドの瞳に光が宿ると、カルデラ目がけて走り出した。
最も瞬発力に秀でている澪のCenturionがカルデラの上に走り降り立つと、そのままハイパーブーストで射撃位置まで全力で走り始めた。
「さて開戦の合図と行きますかっ」
澪が動いたのを見て、ウーナと沙良もまたエクスシア・TTT、そしてリインフォース、それぞれの武器を携え飛び出した。
「相手にとって不足なし。いこっか、TTT(トリニティ)!」
「今の所乱入はないようですが、長引くと何が起きるか判りませんからね、さっさと仕留めさせてもらいますよ」
「自分にできること」
朔夜は小さく口に出した後、ぐっと奥歯を噛み締め操縦パネルを弾いた。
「しっかりと援護させてもらいますよ」
朔夜とグリムバルドもそれぞれに全速力で敵を射程に捕らえるべく機体を走らせる。
「さて、初めての実戦だ。気合いを入れていくよ」
ひふみは先日迎え入れたばかりでまだ名前のないイェジドに語りかけた。
イェジドは力強く大地を蹴るとCenturionの横、最も左外側を走る。
「さて、ではわしらも行くか」
イェジドのイルザ首元を撫でるように優しく叩くと、イルザはCenturionとヴェルガンドの間をバリトンを乗せて走り出す。
「ブッハハハ!」
高笑いと共に閻王の盃(プルートー)を己の手足のように動かしながらデスドクロが飛び出した。
「このデスドクロ様の漆黒の機体、プルートーのお披露目だ。
常人ならユニットを駆ることで、戦闘力の更なる上昇を期待するだろう。
だがしかし! このデスドクロ様にとって機動兵器は拘束具と同義。
圧倒的宇宙戦闘力を誇る生身の俺様が、持ちうる力を制限無く使ったとしたら……
名も無き虚構なぞ、瞬きする余裕もなく塵となって消滅しちまうからな。
それを防ぐために! あえて! 己の力をセーブするために! エクスシアに乗るのだ!
グーハハハ!! さあ、ユニット戦闘のデータを存分に取るとしようじゃねぇか」
盛大な独り言を全力で語りながらだが、その操縦の的確さは流石機導師といったところか。
ヴェルガンドと朔夜の操縦するR7エクスシアの間をなめらかに走らせる。
流石の強欲竜も、6~8mと自分より大きな機体が方々から走り寄ってくるとなれば、それは敵だと直ぐ様認識したのだろう。
耳障りな咆吼一つ、迫り来る機体と幻獣を慎重に見つめ……ひふみの方へと走り始めた。
●
「ちょ、何で端っこ狙うかな!?」
アクティブスラスターを用いて移動力を高め、強欲竜の背後に回る予定だったウーナは慌てて進行方向の修正に入る。
近距離戦を仕掛ける者達で足止め、そして遠距離からの十字砲火。
言うのは簡単だが、ただっ広いカルデラにいる一体を囲う、その手段の打ち合わせが大雑把過ぎた。
一番遠回りとなってしまったウーナには災難だが、一方で敵の接近を喜んだ者もいる。
狙われた当のひふみと澪、そして最大射程140mを越えるロングレンジの対空砲CC-01を装備していたグリムバルドである。
「よーく狙って、撃ちます!」
Centurionの片膝を付いた状態でスナイパーライフルを構えると、画面上の十字マークが重なった瞬間、澪は引き金を引いた。
画面越しに強欲竜に命中したのを確認したが、敵の脚は鈍らない。
グリムバルドはパネルを素早く操作し、ヴェルガンドに攻性強化をトレースさせると砲撃した。
ヴェルガンドの背部から対空砲が発射される。その衝撃でヴェルガンドの足元に土煙が起こるが、乗っているグリムバルドとしては思ったより強くない、という印象だった。
「っち。ハズしたか」
射撃における最大の難点は距離が離れれば離れる分だけ命中率が下がる点にある。
当たれば高火力を期待できる銃や弾丸でも、当たらなければゴツイ鉄パイプや爆ぜない鉛球と変わらない。
朔夜のR7もまたアクティブスラスターを使いながらマテリアルライフルの最大射程地点へと到達した。
「さて、トカゲ退治と行きますか?」
周囲のマテリアルが一瞬ライフルを中心に濃くなったような錯覚を覚えると共に銃口から飛び出した非実体の弾丸が強欲種の触手の一つを穿つ。
スラスターをフル稼働させたTTTがようやくラプターCS9の射程に強欲竜を捕らえた。
「猛禽の如く、行けー!」
ウーナがトリガーに力を込めると、圧縮された空気の爆ぜる音が響く。
次の瞬間、強欲竜の肩口が爆ぜ、その巨体が揺らいだ。
TTTの横をリインフォースが駆け抜けていく。
沙良はマテリアルライフルを撃ち込みながら接敵をと思っていたが、ここまで全力で移動しなければその射程にさえ敵を捕らえられなかった。
ウーナの横を抜け、ようやく射程には捕らえた。だが、まだ遠い。
沙良は逸る気持ちを抑え、冷静に距離を測っていく。
強欲竜に最初に対峙したのは、狙われたひふみとイェジドだった。
「まずは挨拶だ……砕けろ…!」
イェジドが強欲竜に飛び掛かるのに合わせて、ひふみも黒い炎を纏わせたマサークルを振り下ろす。
マウントロックは相手がイェジドより小さければ転倒させることが出来るが、この強欲竜は4m弱と大きく転倒させるには至らない。
そして見た目よりも機敏な動きでひふみの一撃を躱した強欲竜はその尾でイェジドの脚を払うと、触手を伸ばしひふみを捕らえ、爪で切り裂いた。
「ひふみ嬢ちゃん!」
怒濤の走りで追いついたイルザがその勢いのまま強欲竜へと飛びかかり、さらにそこからバリトンも飛び降りるに合わせて天墜をその尾へと振り下ろす。
「まったく……遠距離が頼もしいから最初のうちは任せて、と思っておったのに」
バリトンは初めて来た南方大陸の熱と砂埃に胸を躍らせていた。
北方とは全く違う、西方のどこにも無く、東方よりも容赦のない荒々しさ。
この年になって新しき地へと赴けるという、その幸せを噛み締め、口角を上げた。
「わしはこの後観光して帰るんじゃ。トカゲ、早々に始末させてもらうぞ」
「ふん……この手のタイプはアレだ。
搦め手があんま有効じゃねぇーっつーか、何かに特化してるワケじゃない分、明確な弱点も無ぇ戦士型と見たぜ。
俺様の超絶宇宙経験から導き出した結論は、ひとつ。
こういう奴相手に楽して勝とうとすんのは愚策。泥臭く打撃を積み重ねんのが、面倒なようで確実だぜ」
デスドクロは冷静に強欲竜を分析しながら冥王の盃を走らせる。
スラスターを装着せずに来たデスドクロは先を行く仲間達を見て、「それも計算の内よ!」と片付けた。
「俺様の操る機動兵器が皆と同じ機動力を得れば、皆の活躍の場を奪ってしまうからな! グワーッハッハッハッ!」
流石、暗黒皇帝(シュヴァルツカイザー)。小さいことは気にしない。持ち前の豪快な前向きさで一笑に伏すとゴルペアールの射程位置まで地道に冥王の盃を走らせ続けた。
耳障りな咆吼が耳につく。
ひふみは荒い息を吐きながら斬竜斧を大きく振るった。
フリンジのように蠢く触手が数本切れるが、だがそれだけだ。
強欲竜は触手に痛覚が無いのか、意に介さずひふみへと伸び、ひふみの生命力を奪う。
「ぐぅ……!」
「ふん!」
バリトンのかけ声と共にひふみに伸ばされていた触手が絶たれ、ひふみの後ろ襟口を咥えたイェジドによって一端後方へと下げられる。
「なるほどな、若い女がいいってか。中々ドスケベだな! この大トカゲ!!」
デスドクロが嗤いながらオリゾンで脚を狙う。
「……最低ですね」
マテリアルライフルの最短射程距離から沙良が撃ち込む。
これで6発。次からはマテリアルソードで接近戦を挑むか、リロードするか。
尾撃による砂礫攻撃のダメージがが地味に蓄積して来ている中、問題はまだこの竜がドラッケンブレスを吐いていないという事だ。
下手に接近戦に持ち込むより、暫く様子を見た方がいいかもしれないと、沙良は冷静に状況を見ていく。
攻撃範囲に収めるまでにすったもんだあったものの、当初の計画通りポジショニングを完了させてしまえばほぼこちらの独壇場だった。
東西南北に遠距離攻撃組が位置し、その間に入るように前衛組が入り込む。
ただ今回に限ってトランシーバーを持参または機体に装着している者が少なく、普段の戦闘ならばアイコンタクトや声掛けなどでフォロー出来る部分が、機体越し、更には距離のあるこの戦場では難しい。
ゆえに、遠距離組は前衛の動きと敵の動きに注視し、仲間を巻き込まないように引き金を引かねばならないという普段以上の緊張を強いられた中で戦っていた。
『ウーナさん』
トランシーバー越しに朔夜の声がTTT内に響く。
「こっちはおっけーだよ」
返しつつ、ウーナはパネルを操作し、Enterを打ち込む。同時にTTTの魔導エンジンが低いうなり声を上げる。
それに合わせて、朔夜のR7も同様にパネル操作を完了した。
お互いが唯一の通信相手である朔夜とウーナは一つの案を試してみることにした。
そしてそれは、2人の思惑通りに動いた。
TTTとR7の背部のマジックエンハンサーが展開されたのを見た澪とグリムバルドも“とっておきの一撃”の為に各々準備を整え始めたのだ。
忙しなく動く前衛の2機と2人と2頭の動きに4人は注視する。
そして、ひふみがイェジドと共に後退し、全員が一度後方へと間を取った瞬間。
「ぶち抜いてたげるっ! ファイア!」
「行きます!」
ウーナと朔夜がほぼ同時に引き金を引いた。
「十字砲火、開始ですっ!」
「これでも喰らえ!!」
マテリアルライフルから漏れる光を視認した瞬間に澪とグリムバルドも攻撃を開始した。
Centurionの構えた試作型スラスターライフルから地響きのような音を立てながら弾丸が発射される。
コックピット内に激しい反動が伝わり、澪はそれに負けない様しっかりと操縦桿を握り締めた。
ヴェルガンドが蒼白く光を放つアルケミックギアブレイドを振り下ろした。強欲竜までの直線上をマテリアルの閃光が迸り、強欲竜に衝突する。
――何度目かの、不快な咆吼がハンター達の耳に届いた。
●
強欲竜の顎が大きく開かれた。
「来る!?」
沙良が警戒し、身構える。
デスドクロは見極めるためにストルクトゥーラを冥王の盃の眼前に構え防御姿勢を取り、バリトンとひふみは避ける為に腰を落とす。
吐き出されたのは鱗の色に近い緑色の煙。
「煙……?」
「毒系か!」
遠方から様子を窺っていたグリムバルドと朔夜もそのブレスらしからぬブレスに眉間にしわを寄せた。
直撃を受けたのはひふみとバリトン、そして2人のイェジド。
目に鼻に刺激を受け……というか、とんでも無く、臭い。
肥だめに落とされたような臭いとでも言うのか、鼻が曲がるどころではない。粘膜が焼き爛れるような酷い刺激臭に2人は鼻と口元を抑え、イェジド達は首を振りながら煙の外へと走り出した。
風が吹く。
煙は流されて、デスドクロへと迫り……デスドクロもコックピット内で鼻を摘むと煙から逃れるように思わず移動する。
「な、何です……この臭い……?」
直撃は受けていないハズの沙良の元まで臭いは漂ってきた。
ただ、臭いだけで刺激はない。
だが、近寄りたくない。乙女として。そしてリインフォースをこの臭いに晒したくない気がしてくる。
沙良もまたじりじりと煙から距離を取る。
「え? 何? どうしたの?」
ウーナは困惑しながら前衛組の行動を見ていた。
遠方にいる4人にはひふみとバリトンの動きは何となく察するとしても他の2名の動きの意味がわからない。
観察する限り、ブレスの範囲はおおよそ120度20mといったところか。
ただ、煙様の毒素がその場に残って風向きにより広がっていくのが見える。
「……とにかく、攻撃あるのみ、ですよね!?」
我に返った澪がマテリアルライフルの引き金を引く。
銃声を聞いてウーナもグリムバルドも、そして朔夜も我を取り戻すと銃撃を再開したのだった。
「ブッ、ブハハハハハハハハ!」
銃撃に晒される竜を見て、デスドクロは爆笑していた。
「あぁ、くせぇ! くせぇ!! なんだ、お前はアレか。スカンクか!? いや、色的にカメムシか!!」
恐らくこの臭いで昏倒した獲物を蹂躙するとか、その隙に逃げるとかするタイプなのだろう。
しかし、R7エクスシアにはイニシャライズフィールドという機能があり、これがどうやらこの毒素も中和させる働きをしてくれたらしい。
そして、デスドクロ本人の資質(抵抗)がこの臭いすら凌駕した。
「恨みはねーが、この暗黒皇帝の目に止まったのが運の尽きと諦めてくれや」
冥王の盃がアーマーペンチを振り上げ、強欲竜の右大腿に突き立てる。
元々、バリトンやひふみが執拗に狙っていた部位だった。
重鈍い音を立てて強欲竜の脚がついに折れた。
「なるほど……そういう性質ですか」
沙良は無くなったはずの臭いがまだするような気がして眉間にしわを寄せたまま、マテリアルソードを構え、一気に間合いを詰めると右の肩から腕ごと触手を叩き斬り落とした。
相手の手の内がわかってしまえば恐れるモノはもうほとんど無い。
……というよりは、あのブレスを二度と喰らいたくないので早々に倒してしまいたい、という切実な想いがデスドクロ以外の前衛3人とイェジド達に渦巻く。
イルザが怒りの咆吼を上げ、竜を威嚇しその爪で鱗を切り裂くのに合わせ、バリトンも身を捻りながら連続で胴を斬り付けていく。
「……そろそろ終わらせようか……」
正直満身創痍で、あの臭いの元となると近寄りたくないという生理的嫌悪感が拭えないのだが、それでもひふみは斬竜斧の柄を握り締め、同じく傷だらけのイェジドを宥めるように首元を撫でた。
「数多の龍を殺した戦斧……そして数多の龍を食い殺した黒狼の一撃だ。味わって喰らえ……!」
イェジドの地を駆る勢いそのまま、戦斧を大きく振り上げたひふみは、黒炎の如きオーラを纏った斧を頭上から一気に振り下ろした。
「倒すまでは諦めないんだから!」
ウーナが最後のマテリアル弾を撃ち込み、朔夜は既に交換済みの残弾を確認し困ったように眉を下げた。
「マテリアルライフルってのは、案外融通が利かないもんですね」
そろそろ倒れてくれないかな、とぼやきながら引き金を引く。
「あなたには何の因縁もありませんが越えるべき壁として、この場で倒させて頂きますっ!」
澪は以前、別の強欲種に付けられた疵が疼くのを感じながらスラスターライフルで胴を撃ち抜いた。
グリムバルドは竜へと近寄りながら機導砲をトレースさせ、射程いっぱいから放った。
それでもなお、流石はしぶとい強欲竜と言えよう。
バリトンのマテリアルを奪おうと伸ばされた触手を叩き斬ると、バリトンは返る刃で竜の首を刎ねた。
そうしてようやく強欲竜は塵へと還ったのだった。
●
「ふぅ……やっと終わったか……お疲れ様」
傷だらけの体を大地に投げ出すと、同じく歩み寄ってきた傷だらけの相棒に労いの言葉をかけ、そっと頬を撫でた。
「大丈夫か?」
ヴェルガンドから降りたグリムバルドが前衛の4人へと声を掛ける。
「まぁ、なんとかのう」
ポーションをイルザと分け合いながら飲んでいたバリトンがそれに応え、沙良もリインフォースから降りると機体の損傷具合を確認していく。
「今回はなんとか倒せましたね。CAMに乗ってもこれだけ苦戦するんですから、生身で戦うのは中々厳しそうです」
澪と朔夜、ウーナも機体から降りると、ホッとしたように視線を交わす。
「ぶわーーーーはっはっは! このデスドクロ様にかかればトカゲ野郎の1匹や2匹恐るるに足らんわっ!」
高笑いするデスドクロに笑顔を返しつつ澪が小首を傾げた。
「ところであのブレスって結局何だったんですか?」
「臭い」
「くさい」
即答のひふみに朔夜が要領を得ない、というようにオウム返しで問う。
「あのガスの中にいると、肥だめの中にいるような恐ろしい思いをする。そして粘膜が痛い」
「こえだめ……ねんまく……」
ウーナが想像して……死んだ魚のような目になった。
「あんな、にぎりっ屁みたいな攻撃、このデスドクロ様には通じぬ!」
「あー、うん、そうですね」
沙良はリインフォースからあの臭いがしないことを確認して心から胸を撫で下ろした。
「使うか?」
「あ、ありがとう」
ひふみがお礼を言いつつグリムバルドからリペアキットを受け取る。
「やっぱりマテリアルの濃い所では強力な歪虚が出るんですねー。浄化術があるとはいえこういう場所は中々減らないですからね。竜の巣というだけあって次また出てくる事もあるでしょうか」
澪の一言に、場が一瞬凍る。
「と、とにかく帰ろうか」
幸いにして大した怪我も無く済んだグリムバルドは、縁あるコボルド達と戯れたくて解散を促す。
「おぉ、そうじゃな。わしももう少しこの南方大陸を見て回りたい」
持ち前の頑丈さとポーションのお陰でほとんどの傷を癒やしたバリトンの言葉に、イルザが『お供しますよ』とばかりに立ち上がった。
熱い熱い風が、8人と2頭の間を吹き抜けていく。
負のマテリアル火山、“竜の巣”。
次相対する強欲竜は果たしてどのような竜なのだろうか……
「次は……普通に強いヤツがいいなぁ……」
強欲竜が塵となった場所を振り返ったひふみがぼそりと呟けば、横にいた沙良とウーナも深く深く頷いた。
案内役のコボルドが指を指す。
念のため、CAMを置いてひっそりと戦況を確認しに訪れた一同が岩肌の影からそっとカルデラを覗く。
現在地から1kmほど奥、そこには確かに珍妙な強欲竜が退屈を紛らわすかのように彷徨いている。
「ん。ちゃんと案内できてえらいぞ」
この中では最もコボルド達と縁深いグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が頭を撫でて褒めてやる。
褒められて嬉しそうに尻尾を振っていたコボルドだが、戦闘が開始になる前に脱兎の如く走り去っていった。
「場所は火山でコボルトたちはさっさと退避済、派手にやって問題なしだね」
ウーナ(ka1439)が周囲を見回し、他に介入してくるモノがないか確認して頷いた。
「じゃぁ、作戦通りでOK?」
久瀬 ひふみ(ka6573)が隣のデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)を見て問うと、デスドクロはズバァツ! と腰に手を当てて立ち上がった!
「グーハハハ!! なぁに、このデスドクロ様に任せておけばあんな竜の1匹や10匹恐るるに足らフガフガッ!」
「シーッ!!」
バリトン(ka5112)がデスドクロの口元を抑え、力尽くで地に伏せさせる。
和泉 澪(ka4070)が自分の口元に人差し指を立てて「静かにっ!」と声をひそめる。
不安げに一同を見つめる夕凪 沙良(ka5139)の横で、注意深く強欲竜を見ていた生嶋 朔夜(ka6678)が、静かに後退を促す。
「……大丈夫です。敵はこちらには気付いていないようです。さ、今のうちに」
一同は速やかに後退すると、自身の相棒の元へと戻っていた。
(足を引っ張らないようにだけは、しないとな)
モニターをチェックしながら朔夜は『折角のR7の初陣、できれば勝ち戦で終わりたい』と願う。
いや、朔夜だけではない。今回戦場を共にするR7エクスシアに搭乗している者は皆初陣だった。
「うん……まぁ負マテ沢山あるからな。こういうのも生まれるよな」
先ほど見た珍妙な強欲竜を思い出して、思わず独りごちたグリムバルドは慣れ親しんだヴェルガンドの操縦桿を握る。
遠距離担当は自分と、ウーナ、澪と朔夜のハズだ。
「強欲竜も色々いるなぁ……でも、こんな言い方悪いけど、ちょっと助かった」
(問答無用に滅茶苦茶強そうな方が、あれこれ考えずに済むからな……)
数値を見て、額の汗を拭う。
覚醒していれば南方大陸の特有の熱も影響が無いとは言え、コックピットの中はちょっとした蒸し風呂状態だ。
「シンプルに、命を懸けた勝負といきますか。……久しぶりの南方だ。
早く帰って青の一族の皆と遊びたいので大人しく此処で倒れて貰おうか!」
ヴェルガンドの瞳に光が宿ると、カルデラ目がけて走り出した。
最も瞬発力に秀でている澪のCenturionがカルデラの上に走り降り立つと、そのままハイパーブーストで射撃位置まで全力で走り始めた。
「さて開戦の合図と行きますかっ」
澪が動いたのを見て、ウーナと沙良もまたエクスシア・TTT、そしてリインフォース、それぞれの武器を携え飛び出した。
「相手にとって不足なし。いこっか、TTT(トリニティ)!」
「今の所乱入はないようですが、長引くと何が起きるか判りませんからね、さっさと仕留めさせてもらいますよ」
「自分にできること」
朔夜は小さく口に出した後、ぐっと奥歯を噛み締め操縦パネルを弾いた。
「しっかりと援護させてもらいますよ」
朔夜とグリムバルドもそれぞれに全速力で敵を射程に捕らえるべく機体を走らせる。
「さて、初めての実戦だ。気合いを入れていくよ」
ひふみは先日迎え入れたばかりでまだ名前のないイェジドに語りかけた。
イェジドは力強く大地を蹴るとCenturionの横、最も左外側を走る。
「さて、ではわしらも行くか」
イェジドのイルザ首元を撫でるように優しく叩くと、イルザはCenturionとヴェルガンドの間をバリトンを乗せて走り出す。
「ブッハハハ!」
高笑いと共に閻王の盃(プルートー)を己の手足のように動かしながらデスドクロが飛び出した。
「このデスドクロ様の漆黒の機体、プルートーのお披露目だ。
常人ならユニットを駆ることで、戦闘力の更なる上昇を期待するだろう。
だがしかし! このデスドクロ様にとって機動兵器は拘束具と同義。
圧倒的宇宙戦闘力を誇る生身の俺様が、持ちうる力を制限無く使ったとしたら……
名も無き虚構なぞ、瞬きする余裕もなく塵となって消滅しちまうからな。
それを防ぐために! あえて! 己の力をセーブするために! エクスシアに乗るのだ!
グーハハハ!! さあ、ユニット戦闘のデータを存分に取るとしようじゃねぇか」
盛大な独り言を全力で語りながらだが、その操縦の的確さは流石機導師といったところか。
ヴェルガンドと朔夜の操縦するR7エクスシアの間をなめらかに走らせる。
流石の強欲竜も、6~8mと自分より大きな機体が方々から走り寄ってくるとなれば、それは敵だと直ぐ様認識したのだろう。
耳障りな咆吼一つ、迫り来る機体と幻獣を慎重に見つめ……ひふみの方へと走り始めた。
●
「ちょ、何で端っこ狙うかな!?」
アクティブスラスターを用いて移動力を高め、強欲竜の背後に回る予定だったウーナは慌てて進行方向の修正に入る。
近距離戦を仕掛ける者達で足止め、そして遠距離からの十字砲火。
言うのは簡単だが、ただっ広いカルデラにいる一体を囲う、その手段の打ち合わせが大雑把過ぎた。
一番遠回りとなってしまったウーナには災難だが、一方で敵の接近を喜んだ者もいる。
狙われた当のひふみと澪、そして最大射程140mを越えるロングレンジの対空砲CC-01を装備していたグリムバルドである。
「よーく狙って、撃ちます!」
Centurionの片膝を付いた状態でスナイパーライフルを構えると、画面上の十字マークが重なった瞬間、澪は引き金を引いた。
画面越しに強欲竜に命中したのを確認したが、敵の脚は鈍らない。
グリムバルドはパネルを素早く操作し、ヴェルガンドに攻性強化をトレースさせると砲撃した。
ヴェルガンドの背部から対空砲が発射される。その衝撃でヴェルガンドの足元に土煙が起こるが、乗っているグリムバルドとしては思ったより強くない、という印象だった。
「っち。ハズしたか」
射撃における最大の難点は距離が離れれば離れる分だけ命中率が下がる点にある。
当たれば高火力を期待できる銃や弾丸でも、当たらなければゴツイ鉄パイプや爆ぜない鉛球と変わらない。
朔夜のR7もまたアクティブスラスターを使いながらマテリアルライフルの最大射程地点へと到達した。
「さて、トカゲ退治と行きますか?」
周囲のマテリアルが一瞬ライフルを中心に濃くなったような錯覚を覚えると共に銃口から飛び出した非実体の弾丸が強欲種の触手の一つを穿つ。
スラスターをフル稼働させたTTTがようやくラプターCS9の射程に強欲竜を捕らえた。
「猛禽の如く、行けー!」
ウーナがトリガーに力を込めると、圧縮された空気の爆ぜる音が響く。
次の瞬間、強欲竜の肩口が爆ぜ、その巨体が揺らいだ。
TTTの横をリインフォースが駆け抜けていく。
沙良はマテリアルライフルを撃ち込みながら接敵をと思っていたが、ここまで全力で移動しなければその射程にさえ敵を捕らえられなかった。
ウーナの横を抜け、ようやく射程には捕らえた。だが、まだ遠い。
沙良は逸る気持ちを抑え、冷静に距離を測っていく。
強欲竜に最初に対峙したのは、狙われたひふみとイェジドだった。
「まずは挨拶だ……砕けろ…!」
イェジドが強欲竜に飛び掛かるのに合わせて、ひふみも黒い炎を纏わせたマサークルを振り下ろす。
マウントロックは相手がイェジドより小さければ転倒させることが出来るが、この強欲竜は4m弱と大きく転倒させるには至らない。
そして見た目よりも機敏な動きでひふみの一撃を躱した強欲竜はその尾でイェジドの脚を払うと、触手を伸ばしひふみを捕らえ、爪で切り裂いた。
「ひふみ嬢ちゃん!」
怒濤の走りで追いついたイルザがその勢いのまま強欲竜へと飛びかかり、さらにそこからバリトンも飛び降りるに合わせて天墜をその尾へと振り下ろす。
「まったく……遠距離が頼もしいから最初のうちは任せて、と思っておったのに」
バリトンは初めて来た南方大陸の熱と砂埃に胸を躍らせていた。
北方とは全く違う、西方のどこにも無く、東方よりも容赦のない荒々しさ。
この年になって新しき地へと赴けるという、その幸せを噛み締め、口角を上げた。
「わしはこの後観光して帰るんじゃ。トカゲ、早々に始末させてもらうぞ」
「ふん……この手のタイプはアレだ。
搦め手があんま有効じゃねぇーっつーか、何かに特化してるワケじゃない分、明確な弱点も無ぇ戦士型と見たぜ。
俺様の超絶宇宙経験から導き出した結論は、ひとつ。
こういう奴相手に楽して勝とうとすんのは愚策。泥臭く打撃を積み重ねんのが、面倒なようで確実だぜ」
デスドクロは冷静に強欲竜を分析しながら冥王の盃を走らせる。
スラスターを装着せずに来たデスドクロは先を行く仲間達を見て、「それも計算の内よ!」と片付けた。
「俺様の操る機動兵器が皆と同じ機動力を得れば、皆の活躍の場を奪ってしまうからな! グワーッハッハッハッ!」
流石、暗黒皇帝(シュヴァルツカイザー)。小さいことは気にしない。持ち前の豪快な前向きさで一笑に伏すとゴルペアールの射程位置まで地道に冥王の盃を走らせ続けた。
耳障りな咆吼が耳につく。
ひふみは荒い息を吐きながら斬竜斧を大きく振るった。
フリンジのように蠢く触手が数本切れるが、だがそれだけだ。
強欲竜は触手に痛覚が無いのか、意に介さずひふみへと伸び、ひふみの生命力を奪う。
「ぐぅ……!」
「ふん!」
バリトンのかけ声と共にひふみに伸ばされていた触手が絶たれ、ひふみの後ろ襟口を咥えたイェジドによって一端後方へと下げられる。
「なるほどな、若い女がいいってか。中々ドスケベだな! この大トカゲ!!」
デスドクロが嗤いながらオリゾンで脚を狙う。
「……最低ですね」
マテリアルライフルの最短射程距離から沙良が撃ち込む。
これで6発。次からはマテリアルソードで接近戦を挑むか、リロードするか。
尾撃による砂礫攻撃のダメージがが地味に蓄積して来ている中、問題はまだこの竜がドラッケンブレスを吐いていないという事だ。
下手に接近戦に持ち込むより、暫く様子を見た方がいいかもしれないと、沙良は冷静に状況を見ていく。
攻撃範囲に収めるまでにすったもんだあったものの、当初の計画通りポジショニングを完了させてしまえばほぼこちらの独壇場だった。
東西南北に遠距離攻撃組が位置し、その間に入るように前衛組が入り込む。
ただ今回に限ってトランシーバーを持参または機体に装着している者が少なく、普段の戦闘ならばアイコンタクトや声掛けなどでフォロー出来る部分が、機体越し、更には距離のあるこの戦場では難しい。
ゆえに、遠距離組は前衛の動きと敵の動きに注視し、仲間を巻き込まないように引き金を引かねばならないという普段以上の緊張を強いられた中で戦っていた。
『ウーナさん』
トランシーバー越しに朔夜の声がTTT内に響く。
「こっちはおっけーだよ」
返しつつ、ウーナはパネルを操作し、Enterを打ち込む。同時にTTTの魔導エンジンが低いうなり声を上げる。
それに合わせて、朔夜のR7も同様にパネル操作を完了した。
お互いが唯一の通信相手である朔夜とウーナは一つの案を試してみることにした。
そしてそれは、2人の思惑通りに動いた。
TTTとR7の背部のマジックエンハンサーが展開されたのを見た澪とグリムバルドも“とっておきの一撃”の為に各々準備を整え始めたのだ。
忙しなく動く前衛の2機と2人と2頭の動きに4人は注視する。
そして、ひふみがイェジドと共に後退し、全員が一度後方へと間を取った瞬間。
「ぶち抜いてたげるっ! ファイア!」
「行きます!」
ウーナと朔夜がほぼ同時に引き金を引いた。
「十字砲火、開始ですっ!」
「これでも喰らえ!!」
マテリアルライフルから漏れる光を視認した瞬間に澪とグリムバルドも攻撃を開始した。
Centurionの構えた試作型スラスターライフルから地響きのような音を立てながら弾丸が発射される。
コックピット内に激しい反動が伝わり、澪はそれに負けない様しっかりと操縦桿を握り締めた。
ヴェルガンドが蒼白く光を放つアルケミックギアブレイドを振り下ろした。強欲竜までの直線上をマテリアルの閃光が迸り、強欲竜に衝突する。
――何度目かの、不快な咆吼がハンター達の耳に届いた。
●
強欲竜の顎が大きく開かれた。
「来る!?」
沙良が警戒し、身構える。
デスドクロは見極めるためにストルクトゥーラを冥王の盃の眼前に構え防御姿勢を取り、バリトンとひふみは避ける為に腰を落とす。
吐き出されたのは鱗の色に近い緑色の煙。
「煙……?」
「毒系か!」
遠方から様子を窺っていたグリムバルドと朔夜もそのブレスらしからぬブレスに眉間にしわを寄せた。
直撃を受けたのはひふみとバリトン、そして2人のイェジド。
目に鼻に刺激を受け……というか、とんでも無く、臭い。
肥だめに落とされたような臭いとでも言うのか、鼻が曲がるどころではない。粘膜が焼き爛れるような酷い刺激臭に2人は鼻と口元を抑え、イェジド達は首を振りながら煙の外へと走り出した。
風が吹く。
煙は流されて、デスドクロへと迫り……デスドクロもコックピット内で鼻を摘むと煙から逃れるように思わず移動する。
「な、何です……この臭い……?」
直撃は受けていないハズの沙良の元まで臭いは漂ってきた。
ただ、臭いだけで刺激はない。
だが、近寄りたくない。乙女として。そしてリインフォースをこの臭いに晒したくない気がしてくる。
沙良もまたじりじりと煙から距離を取る。
「え? 何? どうしたの?」
ウーナは困惑しながら前衛組の行動を見ていた。
遠方にいる4人にはひふみとバリトンの動きは何となく察するとしても他の2名の動きの意味がわからない。
観察する限り、ブレスの範囲はおおよそ120度20mといったところか。
ただ、煙様の毒素がその場に残って風向きにより広がっていくのが見える。
「……とにかく、攻撃あるのみ、ですよね!?」
我に返った澪がマテリアルライフルの引き金を引く。
銃声を聞いてウーナもグリムバルドも、そして朔夜も我を取り戻すと銃撃を再開したのだった。
「ブッ、ブハハハハハハハハ!」
銃撃に晒される竜を見て、デスドクロは爆笑していた。
「あぁ、くせぇ! くせぇ!! なんだ、お前はアレか。スカンクか!? いや、色的にカメムシか!!」
恐らくこの臭いで昏倒した獲物を蹂躙するとか、その隙に逃げるとかするタイプなのだろう。
しかし、R7エクスシアにはイニシャライズフィールドという機能があり、これがどうやらこの毒素も中和させる働きをしてくれたらしい。
そして、デスドクロ本人の資質(抵抗)がこの臭いすら凌駕した。
「恨みはねーが、この暗黒皇帝の目に止まったのが運の尽きと諦めてくれや」
冥王の盃がアーマーペンチを振り上げ、強欲竜の右大腿に突き立てる。
元々、バリトンやひふみが執拗に狙っていた部位だった。
重鈍い音を立てて強欲竜の脚がついに折れた。
「なるほど……そういう性質ですか」
沙良は無くなったはずの臭いがまだするような気がして眉間にしわを寄せたまま、マテリアルソードを構え、一気に間合いを詰めると右の肩から腕ごと触手を叩き斬り落とした。
相手の手の内がわかってしまえば恐れるモノはもうほとんど無い。
……というよりは、あのブレスを二度と喰らいたくないので早々に倒してしまいたい、という切実な想いがデスドクロ以外の前衛3人とイェジド達に渦巻く。
イルザが怒りの咆吼を上げ、竜を威嚇しその爪で鱗を切り裂くのに合わせ、バリトンも身を捻りながら連続で胴を斬り付けていく。
「……そろそろ終わらせようか……」
正直満身創痍で、あの臭いの元となると近寄りたくないという生理的嫌悪感が拭えないのだが、それでもひふみは斬竜斧の柄を握り締め、同じく傷だらけのイェジドを宥めるように首元を撫でた。
「数多の龍を殺した戦斧……そして数多の龍を食い殺した黒狼の一撃だ。味わって喰らえ……!」
イェジドの地を駆る勢いそのまま、戦斧を大きく振り上げたひふみは、黒炎の如きオーラを纏った斧を頭上から一気に振り下ろした。
「倒すまでは諦めないんだから!」
ウーナが最後のマテリアル弾を撃ち込み、朔夜は既に交換済みの残弾を確認し困ったように眉を下げた。
「マテリアルライフルってのは、案外融通が利かないもんですね」
そろそろ倒れてくれないかな、とぼやきながら引き金を引く。
「あなたには何の因縁もありませんが越えるべき壁として、この場で倒させて頂きますっ!」
澪は以前、別の強欲種に付けられた疵が疼くのを感じながらスラスターライフルで胴を撃ち抜いた。
グリムバルドは竜へと近寄りながら機導砲をトレースさせ、射程いっぱいから放った。
それでもなお、流石はしぶとい強欲竜と言えよう。
バリトンのマテリアルを奪おうと伸ばされた触手を叩き斬ると、バリトンは返る刃で竜の首を刎ねた。
そうしてようやく強欲竜は塵へと還ったのだった。
●
「ふぅ……やっと終わったか……お疲れ様」
傷だらけの体を大地に投げ出すと、同じく歩み寄ってきた傷だらけの相棒に労いの言葉をかけ、そっと頬を撫でた。
「大丈夫か?」
ヴェルガンドから降りたグリムバルドが前衛の4人へと声を掛ける。
「まぁ、なんとかのう」
ポーションをイルザと分け合いながら飲んでいたバリトンがそれに応え、沙良もリインフォースから降りると機体の損傷具合を確認していく。
「今回はなんとか倒せましたね。CAMに乗ってもこれだけ苦戦するんですから、生身で戦うのは中々厳しそうです」
澪と朔夜、ウーナも機体から降りると、ホッとしたように視線を交わす。
「ぶわーーーーはっはっは! このデスドクロ様にかかればトカゲ野郎の1匹や2匹恐るるに足らんわっ!」
高笑いするデスドクロに笑顔を返しつつ澪が小首を傾げた。
「ところであのブレスって結局何だったんですか?」
「臭い」
「くさい」
即答のひふみに朔夜が要領を得ない、というようにオウム返しで問う。
「あのガスの中にいると、肥だめの中にいるような恐ろしい思いをする。そして粘膜が痛い」
「こえだめ……ねんまく……」
ウーナが想像して……死んだ魚のような目になった。
「あんな、にぎりっ屁みたいな攻撃、このデスドクロ様には通じぬ!」
「あー、うん、そうですね」
沙良はリインフォースからあの臭いがしないことを確認して心から胸を撫で下ろした。
「使うか?」
「あ、ありがとう」
ひふみがお礼を言いつつグリムバルドからリペアキットを受け取る。
「やっぱりマテリアルの濃い所では強力な歪虚が出るんですねー。浄化術があるとはいえこういう場所は中々減らないですからね。竜の巣というだけあって次また出てくる事もあるでしょうか」
澪の一言に、場が一瞬凍る。
「と、とにかく帰ろうか」
幸いにして大した怪我も無く済んだグリムバルドは、縁あるコボルド達と戯れたくて解散を促す。
「おぉ、そうじゃな。わしももう少しこの南方大陸を見て回りたい」
持ち前の頑丈さとポーションのお陰でほとんどの傷を癒やしたバリトンの言葉に、イルザが『お供しますよ』とばかりに立ち上がった。
熱い熱い風が、8人と2頭の間を吹き抜けていく。
負のマテリアル火山、“竜の巣”。
次相対する強欲竜は果たしてどのような竜なのだろうか……
「次は……普通に強いヤツがいいなぁ……」
強欲竜が塵となった場所を振り返ったひふみがぼそりと呟けば、横にいた沙良とウーナも深く深く頷いた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/02/06 19:35:28 |
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相談卓 和泉 澪(ka4070) 人間(リアルブルー)|19才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/02/08 18:30:17 |