ゲスト
(ka0000)
雪の宿場町防衛戦
マスター:赤羽 青羽

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/02/10 12:00
- 完成日
- 2017/02/18 05:52
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
風の音は明け方になってようやく止んだ。
若い男は犬を連れ、宿場町の門の外へ出た。
雪原の上を朝霧が流れていく。昇ったはずの太陽は、白い雲の向こうに呑まれてうすぼんやりと周囲を照らしていた。
男はブーツのふくらはぎまで雪に埋めながら歩いていく。相棒の大型犬は、雪の表面を腹で撫でながら跳ねるようにしてついてきた。体の芯まで凍りつきそうな風にフードの紐をきつく締める。
「思ったほどには積もってないな」
立ち枯れた草むらが点々と揺れる広大な平原を眺めて呟く。
昨日は昼過ぎからひどい吹雪だった。途中で雪は止んだが、一晩中、建物全体を揺さぶるような風が吹き荒れた。
犬ぞりで行商を行っているこの男も、昨晩は犬たちと一緒にこの宿場町に身を寄せていたのだった。
思ったよりも早く仕事が再開できそうなのを確認し、町に引き返そうとして男は相棒の様子に気づいた。
「どうした、シロマル」
そり犬のリーダーをつとめる賢い犬は、しきりに雪に鼻を押し付けている。そして、数メートル歩いてから立ち止まると、顔をあげて風上をじっと見つめた。
その視線を追って、男は目を見張った。
雪原に染みのように浮かんだ黒い影。
豆粒程度の大きさだが、いつも雪原を眺めている自分と鼻の良い相棒になら分かる。
(あれは……雑魔だ)
若い男はおののくように後ずさりすると、相棒を呼び寄せ、急を知らせに宿場町へ走った。
●
「そうですか、そちらも」
駆け込んできた行商人の男の話に老婆は深く頷いた。
宿屋のロビーには、既に町の住民が集まっていた。外のやぐらでは警戒の鐘の音が鳴り響いている。皆一様に落ち着かない雰囲気で、椅子に座った老婆を囲んでいた。
「へ。町長、そちらもってことは……」
「大変だー!」
言いかけた男の言葉を遮って、宿屋のドアがけたたましく開いた。
転げるように現れたドワーフの男は、髭どころか全身に雪をまとわせて『町長』と呼ばれた老婆の前に膝をつく。
「山に雑魔が出やがったんだ。崖の上から見ただけだが、白い狼っぽい奴がいっぺぇと、黒熊っぽいのが一緒くたに集まって町を見下ろしてる」
「山もだと……!? 囲まれてるじゃないか!」
集まった人々の間から、悲鳴に似た声が上がる。不穏なざわめきに、母親の腕に抱えられた乳飲み子が泣き出した。ローブを纏った助祭がロザリオを手に祈りを呟く。
町には子供や非戦闘員も多く住んでいる。
積雪の中、雑魔の攻撃に耐えつつこの人数を連れて脱出するのは不可能に近い。
防御柵を頼りに町に立て籠もるにしても、今回は敵の数が多すぎる。自警団の殲滅力ではきっと間に合わないだろう。
行商人の男は唇を噛んだ。
動揺する人々を静まらせたのは、町長が床についた杖の音だった。
集まる視線を小さな体で受け止めた老婆は、ひじ掛けと杖に頼るようにしてゆっくりと立ちあがる。
「我が町の自警団でも、この数は対処しきれないでしょう。ですが……」
その眼はじっと宿屋の一角を見つめていた。
そこには、騒ぎやただならぬ様子に気づいてやってきた、あなたたちがいる。
杖をつきながらも、老婆はしっかりした歩みで目の前までやってきた。
「目を見ればわかります。ハンターの方々でしょう? できる限りのお礼はいたします。お客様にこのような事を頼むのは恐縮ですが」
老婆は深い海色の瞳でひとりひとりの顔に視線を巡らせてから、まっすぐに首(こうべ)を垂れた。
「お願いします。どうかこの町を、町の皆をお救い下さい」
つられるようにして行商人の男が、さらには周りの町民たちが次々とあなたがたに頭を下げた。
若い男は犬を連れ、宿場町の門の外へ出た。
雪原の上を朝霧が流れていく。昇ったはずの太陽は、白い雲の向こうに呑まれてうすぼんやりと周囲を照らしていた。
男はブーツのふくらはぎまで雪に埋めながら歩いていく。相棒の大型犬は、雪の表面を腹で撫でながら跳ねるようにしてついてきた。体の芯まで凍りつきそうな風にフードの紐をきつく締める。
「思ったほどには積もってないな」
立ち枯れた草むらが点々と揺れる広大な平原を眺めて呟く。
昨日は昼過ぎからひどい吹雪だった。途中で雪は止んだが、一晩中、建物全体を揺さぶるような風が吹き荒れた。
犬ぞりで行商を行っているこの男も、昨晩は犬たちと一緒にこの宿場町に身を寄せていたのだった。
思ったよりも早く仕事が再開できそうなのを確認し、町に引き返そうとして男は相棒の様子に気づいた。
「どうした、シロマル」
そり犬のリーダーをつとめる賢い犬は、しきりに雪に鼻を押し付けている。そして、数メートル歩いてから立ち止まると、顔をあげて風上をじっと見つめた。
その視線を追って、男は目を見張った。
雪原に染みのように浮かんだ黒い影。
豆粒程度の大きさだが、いつも雪原を眺めている自分と鼻の良い相棒になら分かる。
(あれは……雑魔だ)
若い男はおののくように後ずさりすると、相棒を呼び寄せ、急を知らせに宿場町へ走った。
●
「そうですか、そちらも」
駆け込んできた行商人の男の話に老婆は深く頷いた。
宿屋のロビーには、既に町の住民が集まっていた。外のやぐらでは警戒の鐘の音が鳴り響いている。皆一様に落ち着かない雰囲気で、椅子に座った老婆を囲んでいた。
「へ。町長、そちらもってことは……」
「大変だー!」
言いかけた男の言葉を遮って、宿屋のドアがけたたましく開いた。
転げるように現れたドワーフの男は、髭どころか全身に雪をまとわせて『町長』と呼ばれた老婆の前に膝をつく。
「山に雑魔が出やがったんだ。崖の上から見ただけだが、白い狼っぽい奴がいっぺぇと、黒熊っぽいのが一緒くたに集まって町を見下ろしてる」
「山もだと……!? 囲まれてるじゃないか!」
集まった人々の間から、悲鳴に似た声が上がる。不穏なざわめきに、母親の腕に抱えられた乳飲み子が泣き出した。ローブを纏った助祭がロザリオを手に祈りを呟く。
町には子供や非戦闘員も多く住んでいる。
積雪の中、雑魔の攻撃に耐えつつこの人数を連れて脱出するのは不可能に近い。
防御柵を頼りに町に立て籠もるにしても、今回は敵の数が多すぎる。自警団の殲滅力ではきっと間に合わないだろう。
行商人の男は唇を噛んだ。
動揺する人々を静まらせたのは、町長が床についた杖の音だった。
集まる視線を小さな体で受け止めた老婆は、ひじ掛けと杖に頼るようにしてゆっくりと立ちあがる。
「我が町の自警団でも、この数は対処しきれないでしょう。ですが……」
その眼はじっと宿屋の一角を見つめていた。
そこには、騒ぎやただならぬ様子に気づいてやってきた、あなたたちがいる。
杖をつきながらも、老婆はしっかりした歩みで目の前までやってきた。
「目を見ればわかります。ハンターの方々でしょう? できる限りのお礼はいたします。お客様にこのような事を頼むのは恐縮ですが」
老婆は深い海色の瞳でひとりひとりの顔に視線を巡らせてから、まっすぐに首(こうべ)を垂れた。
「お願いします。どうかこの町を、町の皆をお救い下さい」
つられるようにして行商人の男が、さらには周りの町民たちが次々とあなたがたに頭を下げた。
リプレイ本文
●準備
「では、各方面に1人ずつ防衛要員を置き、他の者は遊撃班として中央で待機。鐘の合図があった場所へ駆けつける」
住民が固唾をのんで見守る中、宿屋のロビーでテーブルを囲んだハンターたちは一様に頷いた。
木の天板の上には日用品がばらばらに置かれている。宿場町と周囲の地形を模した即席の配置図だ。
銀色の髪を揺らし、リアリュール(ka2003)はマッチ箱の『門』の内側を指した。
「ここに足場を作っておいて、遊撃班はそこから攻撃ね」
「ああ、近くにある樽や木箱を使えば素早く設置できそうだ。柵の外には梯子をかけ、門を閉めた状態でも出入りできるようにする。戦闘中に別の方角から新手が来た時は、遊撃班から1人残して援護に向かおう」
近衛 惣助(ka0510)は明快な口調で各員に確認しつつ、ガラス瓶を取り上げて町の中央付近に置いた。
「やぐらはこの辺りだな」
「そうですね。鐘の合図は平原が1回、森林が2回、山岳が3回。緊急連絡にはトランシーバーを使用します」
柔らかな笑顔を浮かべ、落ち着いた声で応えたのは鳳城 錬介(ka6053)だ。
片手を腰に当てた久延毘 羽々姫(ka6474)が、トランシーバーを取り出し机に置いた。
「あたしはふたつ持ってるからね。やぐらの自警団に渡して、鐘だけで伝えきれない情報はこれで知らせて貰おうか」
「敵が多い分、自警団の人たちにもがんばってもらわないとねー。あたしは自警団と一緒に動くよ」
そう宣言するリュミア・ルクス(ka5783)を、惣助は心配そうに見やる。
リュミアは怪我の湯治のために町を訪れ、この襲撃に遭遇した。元気そうに振舞っているがまだ本調子ではないはずだ。
「任せるが、無茶はしないようにな」
「りょーかいだよ」
自警団へ指示を出しに宿を出るリュミアに続き、無雲(ka6677)が椅子から立ち上がる。
「それじゃ、ボクは平原担当だね。町の平和の為にも、全力でいっちゃうよー♪」
その足取りは「ちょっと近くへ」とでもいうような軽快さだ。
緊張した面持ちの樹導 鈴蘭(ka2851)も、覚悟を決めたように席を立つ。
「ボクは森林方面か。町長……鈴と紐はあるかな。音が鳴るなら鈴じゃなくてもいいんだけど」
「町の者に聞いてみましょう」
「住民の皆さんはここで待機を。俺達が戻るまで待っていて下さい」
声をかけて惣助も準備に向かう。
それぞれが別々に、同じ目的のために行動を開始する。
●
「これで全部です」
「十分だよ、ありがとう。後はみんなと一緒に宿に隠れててねー」
リュミアは武器屋の男に礼を言い避難を促した。
宿屋の軒下には、槍と弓、矢束が並べられている。ひとつずつ点検しているとエンジン音が近づいてきた。
振り向けば、錬介が魔導バイクを停めて降りてくるところだった。
「町の中ならバイクでもなんとか走れそうです。バリケードは概ね完成しましたよ。近衛さんとリアリュールさんは……」
「やぐらを見てくるって言ってたから、すぐ戻ると思うよー」
見上げた薄曇りの空には、小さいながら高さのあるやぐらがそびえていた。
●
警戒の鐘を鳴らしていたのは14~5歳の少年だった。
リアリュールは高い場所から周辺の地形を頭に入れる。そこに梯子を登ってきた惣助が顔を出した。大柄な惣助は梯子に足を残したまま少年を手招く。双眼鏡と羽々姫のトランシーバーを持ってきたのだ。
「上からでも森林方面は見え難いな」
昇ったついでに眼下の森林を見おろして惣助は呟いた。
雪を乗せた針葉樹の枝が広がっている。地表は柵付近しか見えない。
その声に森林へ双眼鏡を向けた少年は、不思議そうに首を傾げる。
「あれ? 町から誰か出てきましたよ?」
桃色の頭が柵の外へ降り、森の中へ歩いていく。
●
紐をしっかりと結わえつける。
樹と樹の間に張ったそれに触れると、鈴がころころと澄んだ音を立てた。可愛らしい音色に鈴蘭は頬を緩ませる。小さな女の子からの預かり物で作った『鳴子』だ。
(これで敵の接近ぐらいは知れる……かな?)
最後のひとつを結び付け立ち上がり、はっとした。
カン……カン……カン
鳴子の音じゃない。
鈴蘭は急いで柵へと引き返した。
●
鐘の音を背に緩やかな斜面を見上げる。雪上の狼は思った以上に見え難い。
「来たね。しかし、随分と数が多いなあ……ま、良い運動にはなりそうだね」
バリケードを築いた橋を横に、凍った川を前に、羽々姫は不敵に笑って拳を握る。
それを足元に思い切り打ちおろした。
●襲撃
拳を中心に、鈍い音を立てて岸辺の氷にヒビが入る。先頭の狼が数匹、流れ去る氷に足を取られた。低く腰を落として腕を引き、羽々姫は全身の力を利き手に集中させる。
刹那、水面を舐めるように衝撃波が走った。羽々姫の拳から一直線に放たれた力の奔流が狼に襲い掛かる。吹き飛ぶ暇(いとま)も与えず、数匹が灰と化して散ってゆく。
(よし! ……おっと)
勢いよく跳躍してきた狼の牙を、利き腕とは逆のグローブで受け止めた。羽々姫はゆっくりと後ずさりして、柵の方へ下がっていく。
先程の一撃を警戒しているのだろう。羽々姫の死角を探るように円を描いて歩く狼たちに、今度は無数の銃弾が降り注いだ。
タイミングを合わせたリアリュールと惣助の『フォールシュート』だ。
リュミアの合図で自警団も弓を引く。
「早すぎるんじゃないのかい?」
仲間の増援に冗談交じりに応え、銃弾を逃れた狼に『炎獄』の一撃を叩き込む。密度の濃い連携攻撃は着実に狼の数を減らしていった。
こうなれば、後は時間の問題だろう。
その場にいるハンターたちがそう確信した時、次の鐘が打ち鳴らされた。
「1回。平原だね。残りは大丈夫だ!」
応援団で鍛えた羽々姫の声はよく通る。
木箱の上で手際よく次の弾を込めたリアリュールが、アサルトライフルを構えた。
「私が残るわ。ここの地形はよく見ておいたから」
「ではお任せします」
遊撃班は2人に後を託し、風上へと向かった。
●
風が耳元で唸っている。平原の地形をざっと見回って、一番居心地が良い地面に立つ。
鬼の少女は、ひとり集中力を高めていた。
風が着物の裾を弄び、漆黒の髪を空に舞いあげる。相応に着込んできたが、不思議と寒さをそこまで感じない。
これから起こる出来事に胸が高鳴っている。無雲はこの場所の危機を知らせる鐘の音を聞きながら、湧き上がる高揚感にそっと微笑んだ。
黒い影が随分近くまで来た。だが、その姿に気を取られすぎてはいけない事を無雲は感じ取っている。大きな物のそばにある小さな影は見落としやすい。ここは雪原。保護色のような灰白色の敵なら、なおのことだ。
(ん、来た来た♪)
だから、近くの枯草が突然鳴った時、無雲は即座に動くことができた。鋭い牙は中空で拳に受け流されて空を切る。
「残念だけど此処は通さないよ、通りたかったら力ずくで来ると良いよー?」
●
鈴蘭は周囲を素早く、左右色違いの瞳で窺う。
少し前に山岳の襲撃を知らせる鐘が鳴った。そして今、平原の急を知らせる鐘が鳴り響いている。
(これもひとつの修行。……男を見せないとね)
中性的な顔立ちで誤解されがちだが、樹導 鈴蘭は男だ。小柄なのも相まって、鈴蘭はより男らしくあろうという気持ちが人一倍強い。
(とはいえ寒いのは苦手だなぁ……うー、早く暖まらないと)
かじかむ手を白い息で温める。
平原の鐘がようやく止まった。遊撃班が到着したのだろう。
それと同時に鈴蘭は『新たな音』を耳にした。
飲食店の来客を告げるベルの音。犬ぞりの涼やかな鈴の音。普段は牛の首にあるカウベル。
間違いない。
音色の違いが功を奏して大まかな距離も分かる。設置したのは、他でもない自分だからだ。
鈴蘭はトランシーバーを掴んだ。柵の向こうに霞むやぐらを真っ直ぐに見上げる。
「森林方面から連絡! こっちも来たみたいだ」
●
柵から外の地面に着地し、錬介は片目でやぐらを振り返った。
鐘が2回。
残る森林にも雑魔が襲来したのだ。トランシーバーは雑音を拾いながらも、少年の声で危機を伝えている。
(ほぼ同時に来ますか。……泣き言は言っていられませんね)
眼前に広がる平原では、無雲が雑魔に囲まれながらも見事な身のこなしで狼の群れを捌いている。
敵は広大な平原を走ってきた。身軽な狼と熊の間には、それなりに距離が開いている。
殲滅速度さえ落とさなければ勝機はあるはずだ。
「近衛さん」
それだけで伝わったのだろう。惣助が柵の向こうで頷く。
リュミアからも自警団と共に森林に向かうと連絡が入った。
「ここは頼んだ」
「全力を尽くすとしましょう」
鬼の青年は笑って応えると、雪原へ走った。
拳の表面から相手へと振動が伝わる。胴を抉られた狼は、波紋のように揺らいで灰と化し、風に溶け広がっていった。金剛を纏った無雲の防御は、狼の群れを相手にしても揺らがない。
手の甲に纏った黒い残滓を払い、近付いてきた錬介に視線を向ける。
傷らしい傷も負っていない無雲の姿を見て、錬介は安堵した。
奇しくも雪原に鬼2人。今度は自分の番だ。
目を伏せるようにして錬介は自らを追う気配を探る。雪原を駆けてきた彼の後ろには、狼と熊がひしめいている。
タイミングを見計らい、片足を支点にくるりと体を反転させる。群れに真正面から向き直ると、聖機剣「タンホイザー」で襲い来る牙を残さず弾き返す。たちまち狼の群れに囲まれてしまうが、それこそが待っていた瞬間だ。
十分に敵を引き付けてから剣の柄を握る手に力を込める。錬介の姿が光の向こうに溶ける。
セイクリッドフラッシュの鮮烈な光が、衝撃に舞った氷の粒を煌めかせた。巻き込まれた狼たちはその体色と同じ灰白の灰と化し形を失ってゆく。
収束した光に目を開いて、錬介は再び表情を引き締めた。
至近で衝撃波を受けてなお耐えきった黒熊が咆哮をあげたのだ。眩んだ瞳が焦点を取り戻し目の前の青年を睨みつける。
その青年の影から、既に構えを作った無雲が飛び出した。体には練気で循環させた力が巡っている。
渾身の力で放たれた無雲の青龍翔咬波が、熊の体を貫いた。
●
羽々姫はある事に気づいた。
狼を片づけ終わったが、さっきまでいたはずの熊の姿が見えない。
「羽々姫さん!」
リアリュールの声と視線に気づいた時には、バリケードが吹き飛んでいた。砕けた木の破片が、とっさに構えた羽々姫の腕に赤い線を描く。
直観視でいち早く状況を察していたリアリュールは、躊躇せず柵から飛び降りると黄金拳銃を抜き撃った。着弾した熊の右肩から灰のような粉が零れ落ちる。
怒りの声をあげる熊を誘うように、ステップを踏んで川へ導く。橋の上流には、まだ氷が残っている。軽い足取りで対岸に渡り、リアリュールはくるりと振り返った。
エルフの少女を追った熊は、唐突に川の真ん中でバランスを崩した。重みに耐えきれず足元の氷が陥没している。もしかしたら、下流で羽々姫が氷を割った際にヒビが入っていたのかもしれない。
精神を集中させ、リアリュールは熊に向かって引き金を引いた。
狩猟知識に裏付けされた、熊本来の弱点を狙った攻撃だ。放たれた銃弾は頭の中で描いた弾道に沿って、熊を二度貫く。
ぐらりとよろめいた眉間に照準し、もう一度トリガーを引いた。
小さく息を吐いたリアリュールの前で、今度こそ倒れ伏した熊の雑魔は、大量の灰となって氷の上に広がった。
●
リュミアは自警団と共に森林を目指す。
15人の自警団は深刻な表情で隣を走っている。緊迫した状況に悲壮感すら漂わせかねない彼らに、リュミアは明るく声をかけた。
「もーいちど確認。必ず誰かと一緒に戦ってね。柵に取りついた狼は槍で攻撃。走り寄ってきたら弓を射かけるんだよー」
「はいっ!」
「倒しきる必要はないからね。時間稼ぎしてれば、後はみんなが片づけてくれるんだよ」
緊張しすぎていては普段通りの力すら出せない。覚醒者ではない彼らの能力に配慮した指示は、団員たちを安心させた。張り詰めた空気が少しだけゆるむ。
「うぅー、それにしても外は寒いんだよー。温かいお酒、飲みたーい!」
天真爛漫な彼女に、所々で笑いが零れた。
●
蒼い炎を纏った鳳凰が2体の狼を貫く。
ばらばらに現れる敵を、鈴蘭は順番に撃ち抜いていった。
足場の悪さは遠距離攻撃の優位さにつながる。
視界の悪さは全数の把握を困難にしていた。
5体の狼に目の前の空間を払う。扇状に広がった炎が狼を灰に変える。そこに新たな2体が飛び込んでくる。
先の見えない防戦に、少しずつ疲れがたまっていく。
次の瞬間、狼の足元に矢が撃ち込まれた。驚きながらも、鈴蘭は足を止めた2体を焼き払う。
「樹導さーん、お待たせだよ」
「リュミアさん!」
リュミアの作戦に従い、自警団が狼の足止めを始めた。鈴蘭はそれを片端から焼き払っていく。
(この調子ならいけそうだ)
人々がそう感じ始めた時だった。
自警団がざわめき、幾人かが森の奥を指差した。のっそりと現れた大きな熊が人間たちを睥睨する。
足を止めた熊に、鈴蘭は腰に佩いた剣を抜く。
緑の鳳凰を呼び出し熊に向けて飛ばす。鳳凰はあっけないほど簡単に命中し、熊はよろめいて前足をついた。
次の瞬間、熊は雪煙とともに少年めがけて突進する。躱そうと、鈴蘭は地を横に蹴った。その体を、力任せに熊の腕が殴り飛ばす。
「樹導さん!!」
背中から柵に叩きつけられ地に落ちる。衝撃に息ができなくなる。装備の厚い胴に当たったのは不幸中の幸いだった。
霞む視界の中、手放した剣の柄を探して雪の表面を掻いた。
今にも少年を圧し潰しそうな獣を止めたのは、一発の銃弾だった。
「無事かっ!」
力強い声に鈴蘭はなんとか頷き返す。平原から惣助が駆け付けたのだ。
惣助は制圧射撃で熊をその場に釘付けにする。周りの狼は、落ち着きを取り戻した自警団が対処していた。
形を取り戻す視界の中で、鈴蘭は大熊の背中を見上げる。剣を拾い上げ、柵に手をつき立ち上がる。
仲間の援護のもと、緑の炎を纏った鳳凰と共に剣を振りぬいた。
●報告
惣助の報告に町長は改めて礼を述べる。
「本当に感謝致します」
「凄い戦いの腕だよな。あんな数を倒しちまうとは」
「戦いの腕も勿論です。ですが、それだけではありませんよ」
興奮気味に語る行商人に、町長はやんわりと付け加えた。
「数の多い相手に対し、ハンターの皆さんは戦力に流動性を持たせて動きました。どこかが不利になった時、リスクを回避する手段も準備してね。戦術と戦法、どちらも揃っていたのです」
「町長、そういうのにやたら詳しいよな。この人達にも気づいたし」
「目を見れば判りますよ。昔の私と、共に戦った仲間と、同じ光を見た気がしたのです」
老婆は質問を躱すように穏やかに笑うと、階下の宴へ2人の青年を促した。
「では、各方面に1人ずつ防衛要員を置き、他の者は遊撃班として中央で待機。鐘の合図があった場所へ駆けつける」
住民が固唾をのんで見守る中、宿屋のロビーでテーブルを囲んだハンターたちは一様に頷いた。
木の天板の上には日用品がばらばらに置かれている。宿場町と周囲の地形を模した即席の配置図だ。
銀色の髪を揺らし、リアリュール(ka2003)はマッチ箱の『門』の内側を指した。
「ここに足場を作っておいて、遊撃班はそこから攻撃ね」
「ああ、近くにある樽や木箱を使えば素早く設置できそうだ。柵の外には梯子をかけ、門を閉めた状態でも出入りできるようにする。戦闘中に別の方角から新手が来た時は、遊撃班から1人残して援護に向かおう」
近衛 惣助(ka0510)は明快な口調で各員に確認しつつ、ガラス瓶を取り上げて町の中央付近に置いた。
「やぐらはこの辺りだな」
「そうですね。鐘の合図は平原が1回、森林が2回、山岳が3回。緊急連絡にはトランシーバーを使用します」
柔らかな笑顔を浮かべ、落ち着いた声で応えたのは鳳城 錬介(ka6053)だ。
片手を腰に当てた久延毘 羽々姫(ka6474)が、トランシーバーを取り出し机に置いた。
「あたしはふたつ持ってるからね。やぐらの自警団に渡して、鐘だけで伝えきれない情報はこれで知らせて貰おうか」
「敵が多い分、自警団の人たちにもがんばってもらわないとねー。あたしは自警団と一緒に動くよ」
そう宣言するリュミア・ルクス(ka5783)を、惣助は心配そうに見やる。
リュミアは怪我の湯治のために町を訪れ、この襲撃に遭遇した。元気そうに振舞っているがまだ本調子ではないはずだ。
「任せるが、無茶はしないようにな」
「りょーかいだよ」
自警団へ指示を出しに宿を出るリュミアに続き、無雲(ka6677)が椅子から立ち上がる。
「それじゃ、ボクは平原担当だね。町の平和の為にも、全力でいっちゃうよー♪」
その足取りは「ちょっと近くへ」とでもいうような軽快さだ。
緊張した面持ちの樹導 鈴蘭(ka2851)も、覚悟を決めたように席を立つ。
「ボクは森林方面か。町長……鈴と紐はあるかな。音が鳴るなら鈴じゃなくてもいいんだけど」
「町の者に聞いてみましょう」
「住民の皆さんはここで待機を。俺達が戻るまで待っていて下さい」
声をかけて惣助も準備に向かう。
それぞれが別々に、同じ目的のために行動を開始する。
●
「これで全部です」
「十分だよ、ありがとう。後はみんなと一緒に宿に隠れててねー」
リュミアは武器屋の男に礼を言い避難を促した。
宿屋の軒下には、槍と弓、矢束が並べられている。ひとつずつ点検しているとエンジン音が近づいてきた。
振り向けば、錬介が魔導バイクを停めて降りてくるところだった。
「町の中ならバイクでもなんとか走れそうです。バリケードは概ね完成しましたよ。近衛さんとリアリュールさんは……」
「やぐらを見てくるって言ってたから、すぐ戻ると思うよー」
見上げた薄曇りの空には、小さいながら高さのあるやぐらがそびえていた。
●
警戒の鐘を鳴らしていたのは14~5歳の少年だった。
リアリュールは高い場所から周辺の地形を頭に入れる。そこに梯子を登ってきた惣助が顔を出した。大柄な惣助は梯子に足を残したまま少年を手招く。双眼鏡と羽々姫のトランシーバーを持ってきたのだ。
「上からでも森林方面は見え難いな」
昇ったついでに眼下の森林を見おろして惣助は呟いた。
雪を乗せた針葉樹の枝が広がっている。地表は柵付近しか見えない。
その声に森林へ双眼鏡を向けた少年は、不思議そうに首を傾げる。
「あれ? 町から誰か出てきましたよ?」
桃色の頭が柵の外へ降り、森の中へ歩いていく。
●
紐をしっかりと結わえつける。
樹と樹の間に張ったそれに触れると、鈴がころころと澄んだ音を立てた。可愛らしい音色に鈴蘭は頬を緩ませる。小さな女の子からの預かり物で作った『鳴子』だ。
(これで敵の接近ぐらいは知れる……かな?)
最後のひとつを結び付け立ち上がり、はっとした。
カン……カン……カン
鳴子の音じゃない。
鈴蘭は急いで柵へと引き返した。
●
鐘の音を背に緩やかな斜面を見上げる。雪上の狼は思った以上に見え難い。
「来たね。しかし、随分と数が多いなあ……ま、良い運動にはなりそうだね」
バリケードを築いた橋を横に、凍った川を前に、羽々姫は不敵に笑って拳を握る。
それを足元に思い切り打ちおろした。
●襲撃
拳を中心に、鈍い音を立てて岸辺の氷にヒビが入る。先頭の狼が数匹、流れ去る氷に足を取られた。低く腰を落として腕を引き、羽々姫は全身の力を利き手に集中させる。
刹那、水面を舐めるように衝撃波が走った。羽々姫の拳から一直線に放たれた力の奔流が狼に襲い掛かる。吹き飛ぶ暇(いとま)も与えず、数匹が灰と化して散ってゆく。
(よし! ……おっと)
勢いよく跳躍してきた狼の牙を、利き腕とは逆のグローブで受け止めた。羽々姫はゆっくりと後ずさりして、柵の方へ下がっていく。
先程の一撃を警戒しているのだろう。羽々姫の死角を探るように円を描いて歩く狼たちに、今度は無数の銃弾が降り注いだ。
タイミングを合わせたリアリュールと惣助の『フォールシュート』だ。
リュミアの合図で自警団も弓を引く。
「早すぎるんじゃないのかい?」
仲間の増援に冗談交じりに応え、銃弾を逃れた狼に『炎獄』の一撃を叩き込む。密度の濃い連携攻撃は着実に狼の数を減らしていった。
こうなれば、後は時間の問題だろう。
その場にいるハンターたちがそう確信した時、次の鐘が打ち鳴らされた。
「1回。平原だね。残りは大丈夫だ!」
応援団で鍛えた羽々姫の声はよく通る。
木箱の上で手際よく次の弾を込めたリアリュールが、アサルトライフルを構えた。
「私が残るわ。ここの地形はよく見ておいたから」
「ではお任せします」
遊撃班は2人に後を託し、風上へと向かった。
●
風が耳元で唸っている。平原の地形をざっと見回って、一番居心地が良い地面に立つ。
鬼の少女は、ひとり集中力を高めていた。
風が着物の裾を弄び、漆黒の髪を空に舞いあげる。相応に着込んできたが、不思議と寒さをそこまで感じない。
これから起こる出来事に胸が高鳴っている。無雲はこの場所の危機を知らせる鐘の音を聞きながら、湧き上がる高揚感にそっと微笑んだ。
黒い影が随分近くまで来た。だが、その姿に気を取られすぎてはいけない事を無雲は感じ取っている。大きな物のそばにある小さな影は見落としやすい。ここは雪原。保護色のような灰白色の敵なら、なおのことだ。
(ん、来た来た♪)
だから、近くの枯草が突然鳴った時、無雲は即座に動くことができた。鋭い牙は中空で拳に受け流されて空を切る。
「残念だけど此処は通さないよ、通りたかったら力ずくで来ると良いよー?」
●
鈴蘭は周囲を素早く、左右色違いの瞳で窺う。
少し前に山岳の襲撃を知らせる鐘が鳴った。そして今、平原の急を知らせる鐘が鳴り響いている。
(これもひとつの修行。……男を見せないとね)
中性的な顔立ちで誤解されがちだが、樹導 鈴蘭は男だ。小柄なのも相まって、鈴蘭はより男らしくあろうという気持ちが人一倍強い。
(とはいえ寒いのは苦手だなぁ……うー、早く暖まらないと)
かじかむ手を白い息で温める。
平原の鐘がようやく止まった。遊撃班が到着したのだろう。
それと同時に鈴蘭は『新たな音』を耳にした。
飲食店の来客を告げるベルの音。犬ぞりの涼やかな鈴の音。普段は牛の首にあるカウベル。
間違いない。
音色の違いが功を奏して大まかな距離も分かる。設置したのは、他でもない自分だからだ。
鈴蘭はトランシーバーを掴んだ。柵の向こうに霞むやぐらを真っ直ぐに見上げる。
「森林方面から連絡! こっちも来たみたいだ」
●
柵から外の地面に着地し、錬介は片目でやぐらを振り返った。
鐘が2回。
残る森林にも雑魔が襲来したのだ。トランシーバーは雑音を拾いながらも、少年の声で危機を伝えている。
(ほぼ同時に来ますか。……泣き言は言っていられませんね)
眼前に広がる平原では、無雲が雑魔に囲まれながらも見事な身のこなしで狼の群れを捌いている。
敵は広大な平原を走ってきた。身軽な狼と熊の間には、それなりに距離が開いている。
殲滅速度さえ落とさなければ勝機はあるはずだ。
「近衛さん」
それだけで伝わったのだろう。惣助が柵の向こうで頷く。
リュミアからも自警団と共に森林に向かうと連絡が入った。
「ここは頼んだ」
「全力を尽くすとしましょう」
鬼の青年は笑って応えると、雪原へ走った。
拳の表面から相手へと振動が伝わる。胴を抉られた狼は、波紋のように揺らいで灰と化し、風に溶け広がっていった。金剛を纏った無雲の防御は、狼の群れを相手にしても揺らがない。
手の甲に纏った黒い残滓を払い、近付いてきた錬介に視線を向ける。
傷らしい傷も負っていない無雲の姿を見て、錬介は安堵した。
奇しくも雪原に鬼2人。今度は自分の番だ。
目を伏せるようにして錬介は自らを追う気配を探る。雪原を駆けてきた彼の後ろには、狼と熊がひしめいている。
タイミングを見計らい、片足を支点にくるりと体を反転させる。群れに真正面から向き直ると、聖機剣「タンホイザー」で襲い来る牙を残さず弾き返す。たちまち狼の群れに囲まれてしまうが、それこそが待っていた瞬間だ。
十分に敵を引き付けてから剣の柄を握る手に力を込める。錬介の姿が光の向こうに溶ける。
セイクリッドフラッシュの鮮烈な光が、衝撃に舞った氷の粒を煌めかせた。巻き込まれた狼たちはその体色と同じ灰白の灰と化し形を失ってゆく。
収束した光に目を開いて、錬介は再び表情を引き締めた。
至近で衝撃波を受けてなお耐えきった黒熊が咆哮をあげたのだ。眩んだ瞳が焦点を取り戻し目の前の青年を睨みつける。
その青年の影から、既に構えを作った無雲が飛び出した。体には練気で循環させた力が巡っている。
渾身の力で放たれた無雲の青龍翔咬波が、熊の体を貫いた。
●
羽々姫はある事に気づいた。
狼を片づけ終わったが、さっきまでいたはずの熊の姿が見えない。
「羽々姫さん!」
リアリュールの声と視線に気づいた時には、バリケードが吹き飛んでいた。砕けた木の破片が、とっさに構えた羽々姫の腕に赤い線を描く。
直観視でいち早く状況を察していたリアリュールは、躊躇せず柵から飛び降りると黄金拳銃を抜き撃った。着弾した熊の右肩から灰のような粉が零れ落ちる。
怒りの声をあげる熊を誘うように、ステップを踏んで川へ導く。橋の上流には、まだ氷が残っている。軽い足取りで対岸に渡り、リアリュールはくるりと振り返った。
エルフの少女を追った熊は、唐突に川の真ん中でバランスを崩した。重みに耐えきれず足元の氷が陥没している。もしかしたら、下流で羽々姫が氷を割った際にヒビが入っていたのかもしれない。
精神を集中させ、リアリュールは熊に向かって引き金を引いた。
狩猟知識に裏付けされた、熊本来の弱点を狙った攻撃だ。放たれた銃弾は頭の中で描いた弾道に沿って、熊を二度貫く。
ぐらりとよろめいた眉間に照準し、もう一度トリガーを引いた。
小さく息を吐いたリアリュールの前で、今度こそ倒れ伏した熊の雑魔は、大量の灰となって氷の上に広がった。
●
リュミアは自警団と共に森林を目指す。
15人の自警団は深刻な表情で隣を走っている。緊迫した状況に悲壮感すら漂わせかねない彼らに、リュミアは明るく声をかけた。
「もーいちど確認。必ず誰かと一緒に戦ってね。柵に取りついた狼は槍で攻撃。走り寄ってきたら弓を射かけるんだよー」
「はいっ!」
「倒しきる必要はないからね。時間稼ぎしてれば、後はみんなが片づけてくれるんだよ」
緊張しすぎていては普段通りの力すら出せない。覚醒者ではない彼らの能力に配慮した指示は、団員たちを安心させた。張り詰めた空気が少しだけゆるむ。
「うぅー、それにしても外は寒いんだよー。温かいお酒、飲みたーい!」
天真爛漫な彼女に、所々で笑いが零れた。
●
蒼い炎を纏った鳳凰が2体の狼を貫く。
ばらばらに現れる敵を、鈴蘭は順番に撃ち抜いていった。
足場の悪さは遠距離攻撃の優位さにつながる。
視界の悪さは全数の把握を困難にしていた。
5体の狼に目の前の空間を払う。扇状に広がった炎が狼を灰に変える。そこに新たな2体が飛び込んでくる。
先の見えない防戦に、少しずつ疲れがたまっていく。
次の瞬間、狼の足元に矢が撃ち込まれた。驚きながらも、鈴蘭は足を止めた2体を焼き払う。
「樹導さーん、お待たせだよ」
「リュミアさん!」
リュミアの作戦に従い、自警団が狼の足止めを始めた。鈴蘭はそれを片端から焼き払っていく。
(この調子ならいけそうだ)
人々がそう感じ始めた時だった。
自警団がざわめき、幾人かが森の奥を指差した。のっそりと現れた大きな熊が人間たちを睥睨する。
足を止めた熊に、鈴蘭は腰に佩いた剣を抜く。
緑の鳳凰を呼び出し熊に向けて飛ばす。鳳凰はあっけないほど簡単に命中し、熊はよろめいて前足をついた。
次の瞬間、熊は雪煙とともに少年めがけて突進する。躱そうと、鈴蘭は地を横に蹴った。その体を、力任せに熊の腕が殴り飛ばす。
「樹導さん!!」
背中から柵に叩きつけられ地に落ちる。衝撃に息ができなくなる。装備の厚い胴に当たったのは不幸中の幸いだった。
霞む視界の中、手放した剣の柄を探して雪の表面を掻いた。
今にも少年を圧し潰しそうな獣を止めたのは、一発の銃弾だった。
「無事かっ!」
力強い声に鈴蘭はなんとか頷き返す。平原から惣助が駆け付けたのだ。
惣助は制圧射撃で熊をその場に釘付けにする。周りの狼は、落ち着きを取り戻した自警団が対処していた。
形を取り戻す視界の中で、鈴蘭は大熊の背中を見上げる。剣を拾い上げ、柵に手をつき立ち上がる。
仲間の援護のもと、緑の炎を纏った鳳凰と共に剣を振りぬいた。
●報告
惣助の報告に町長は改めて礼を述べる。
「本当に感謝致します」
「凄い戦いの腕だよな。あんな数を倒しちまうとは」
「戦いの腕も勿論です。ですが、それだけではありませんよ」
興奮気味に語る行商人に、町長はやんわりと付け加えた。
「数の多い相手に対し、ハンターの皆さんは戦力に流動性を持たせて動きました。どこかが不利になった時、リスクを回避する手段も準備してね。戦術と戦法、どちらも揃っていたのです」
「町長、そういうのにやたら詳しいよな。この人達にも気づいたし」
「目を見れば判りますよ。昔の私と、共に戦った仲間と、同じ光を見た気がしたのです」
老婆は質問を躱すように穏やかに笑うと、階下の宴へ2人の青年を促した。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/02/05 21:10:33 |
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雪の宿場町防衛戦 無雲(ka6677) 鬼|18才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2017/02/10 08:21:03 |