ゲスト
(ka0000)
復興への足掛かり
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/02/13 09:00
- 完成日
- 2017/02/20 04:55
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●蓬生の行方
憤怒歪虚の残党を率いていた『九蛇頭尾大黒狐 蓬生』は、憤怒本陣での攻防戦で姿を消している。
以後の所在は不明だ。幕府はその行方を求めて探索を続けているが決定的な情報は得られていない。
「……」
「……」
龍尾城の一室に二人の侍。
エトファリカ征夷大将軍である立花院 紫草 (kz0126) と、大轟寺 蒼人の二人だった。
「大轟寺家の力を持ってしても、行方は掴めませんでしたか」
「面目ないです」
紫草は報告書を蒼人へと返した。
大轟寺家は朝廷と縁が深い武家の一つである。隠密的な役割を担ってきたのだが、それだとしても、蓬生の行方は掴みきれなかった。
「蓬生の事です。動き出す時は、既に何かの策を講じての事なはずですからね」
深刻そうな表情を浮かべた紫草。
今までの憤怒歪虚とは性質が異なる。怒りに身を任せて突撃してくる方が、まだ組み易いというものだ。
「引き続き、調査を継続します」
「頼みますよ、蒼人。それと、十鳥城の方はどうでしたか?」
十鳥城は現在、幕府の直轄領となっており、代官を何名か派遣している。
蒼人は十鳥城の監視役でもあった。
「えと……」
バツが悪そうな蒼人の態度。
ポリポリと頭を掻き、メガネの位置を直してから申し訳なさそうに言った。
「実は探索に忙しくて、ほとんどー。把握してないです」
「……まだまだですね」
十鳥城の復興の事もそうだが、蒼人の仕事ぶりにもだ。
だが、責める事は出来ない。そもそも、十鳥城は現在、幕府の直轄領。その長は、当然、紫草になるのだから。
「あ。でも、なんだか、新しい事を始めるとかなんだか」
「興味深い話ですね」
「農業? 栽培? なにかやるみたいです」
蒼人の答えになっていない言葉に紫草は苦笑した。
これは、“自分”で直接見た方が早いと思ったからだ。
●栽培
カカオ豆の栽培には、長江のような湿潤な気候と土壌が必要であるのは分かっていた。
長江から西に位置する十鳥城一帯は、この条件を満たしていない。
満たしていないが――条件を満たす場所、いわば、長江の西端までの距離は、遠くはなかった。
「……なるほど。生産から加工、交易まで一括した農園経営ですか。考えましたね」
説明を聞いたタチバナの言葉に緊張しまくりの正秋が背筋を伸ばして返事をした。
「は、はい! ハンター達の助言で思い付きました」
「彼らは色々な経験や豊富な知識を持っています。良い縁に恵まれましたね」
良縁に恵まれるかどうかは運もあるが、正秋自身の人柄や持った生まれた力というものだろう。
助けてくれる、力になってくれる存在が居るという事は、かけがえのないものだ。
「しかし、前途多難な状態には変わりはないようですね」
「憤怒歪虚の残党と、雑魔。農園と街道の整備が当面の目的です」
カカオ豆の木が群生している丘を見つけたので、農園の整備はすぐに開始できるだろうが、やはり、歪虚や雑魔の存在が邪魔となっていた。
「それだけではありませんよ。そもそも、長江一帯は十鳥城の領地ではありませんからね」
ある意味、勝手に領地を増やそうという行為でもある。
見方によっては幕府を敵に回すようなものだ。武家の中には心良く思わない者もいるかもしれない。
「申し訳ありません!」
もう腹を切る覚悟のような勢いで平伏する正秋。
しかし、タチバナは怒っていなかった。顔を上げるように伝えると、手を伸ばす。
「ここに、“征夷大将軍”は居ませんよ、正秋殿」
「将ぐ……タチバナ様、どう致せば?」
「知っての通り、歪虚残党はまだまだ残っています。蓬生の行方も不明ですし、警戒は必要な状況ですからね」
そのタチバナの台詞に正秋は考える。
戦う事ぐらいしかまともに出来ない自分達が、出来る事を。
「……蓬生の行方!」
正秋が奇跡的にも答えにたどり着いたようだった。
「早速、幕府へ書状を書きたいと思います!」
●出陣
長江に蓬生の分体が現れたのは、憤怒本陣攻略前の事だ。ハンター達の活躍により退けたのは記憶に新しい。
本体か分体か分からないが、蓬生らしき人物が長江一帯で目撃されたとの情報を“得た”十鳥城は幕府へと書状を出した。
つまり、長江での探索に協力する為、兵を出すという事だ。
「よっしゃ、出陣だな!」
正秋の盟友、瞬が威勢良く叫んだ。
この所、城で書類に追われる日々だったからか、体を動かせる事が嬉しい様子だ。
「瞬……すまない。留守番を頼む」
「えー!」
代官である正秋が外に出るのだ。誰か留守番が居ないといけないのだろう。
駄々をこねるような瞬は、正秋の隣に居る浪人――タチバナ――に対して言った。
「てめぇ、冴えない顔してねーで、しっかり働け。正秋になにかあったら、ただで帰れると思うなよ!」
その浪人が将軍だと知らないとはいえ、恐ろしい発言だ。
刀を振り回しながら城へと戻っていく瞬の背中を見送りながら、正秋は気が遠くなりかけた意識を辛うじて繋ぐ。
「ご、ご無礼申し訳ありません」
「なんの事でしょうか」
ニッコリと笑ったタチバナが無駄に怖いと正秋は思った。
今回、長江西端への派兵には、正秋とタチバナの他、ハンター達も同行する事になっている。
城の財政の為、出せる報酬は少ないが――それも、ほとんどはタチバナの“後援者”からの援助だ。
「生産が安定すれば、長江一帯での栽培で特産が増えますからね。先駆者がいるなら支援して経過を見たいというのが“後援者”の考えなのでしょう」
「頑張ります!」
気合を入れる正秋だった。
憤怒歪虚の残党を率いていた『九蛇頭尾大黒狐 蓬生』は、憤怒本陣での攻防戦で姿を消している。
以後の所在は不明だ。幕府はその行方を求めて探索を続けているが決定的な情報は得られていない。
「……」
「……」
龍尾城の一室に二人の侍。
エトファリカ征夷大将軍である立花院 紫草 (kz0126) と、大轟寺 蒼人の二人だった。
「大轟寺家の力を持ってしても、行方は掴めませんでしたか」
「面目ないです」
紫草は報告書を蒼人へと返した。
大轟寺家は朝廷と縁が深い武家の一つである。隠密的な役割を担ってきたのだが、それだとしても、蓬生の行方は掴みきれなかった。
「蓬生の事です。動き出す時は、既に何かの策を講じての事なはずですからね」
深刻そうな表情を浮かべた紫草。
今までの憤怒歪虚とは性質が異なる。怒りに身を任せて突撃してくる方が、まだ組み易いというものだ。
「引き続き、調査を継続します」
「頼みますよ、蒼人。それと、十鳥城の方はどうでしたか?」
十鳥城は現在、幕府の直轄領となっており、代官を何名か派遣している。
蒼人は十鳥城の監視役でもあった。
「えと……」
バツが悪そうな蒼人の態度。
ポリポリと頭を掻き、メガネの位置を直してから申し訳なさそうに言った。
「実は探索に忙しくて、ほとんどー。把握してないです」
「……まだまだですね」
十鳥城の復興の事もそうだが、蒼人の仕事ぶりにもだ。
だが、責める事は出来ない。そもそも、十鳥城は現在、幕府の直轄領。その長は、当然、紫草になるのだから。
「あ。でも、なんだか、新しい事を始めるとかなんだか」
「興味深い話ですね」
「農業? 栽培? なにかやるみたいです」
蒼人の答えになっていない言葉に紫草は苦笑した。
これは、“自分”で直接見た方が早いと思ったからだ。
●栽培
カカオ豆の栽培には、長江のような湿潤な気候と土壌が必要であるのは分かっていた。
長江から西に位置する十鳥城一帯は、この条件を満たしていない。
満たしていないが――条件を満たす場所、いわば、長江の西端までの距離は、遠くはなかった。
「……なるほど。生産から加工、交易まで一括した農園経営ですか。考えましたね」
説明を聞いたタチバナの言葉に緊張しまくりの正秋が背筋を伸ばして返事をした。
「は、はい! ハンター達の助言で思い付きました」
「彼らは色々な経験や豊富な知識を持っています。良い縁に恵まれましたね」
良縁に恵まれるかどうかは運もあるが、正秋自身の人柄や持った生まれた力というものだろう。
助けてくれる、力になってくれる存在が居るという事は、かけがえのないものだ。
「しかし、前途多難な状態には変わりはないようですね」
「憤怒歪虚の残党と、雑魔。農園と街道の整備が当面の目的です」
カカオ豆の木が群生している丘を見つけたので、農園の整備はすぐに開始できるだろうが、やはり、歪虚や雑魔の存在が邪魔となっていた。
「それだけではありませんよ。そもそも、長江一帯は十鳥城の領地ではありませんからね」
ある意味、勝手に領地を増やそうという行為でもある。
見方によっては幕府を敵に回すようなものだ。武家の中には心良く思わない者もいるかもしれない。
「申し訳ありません!」
もう腹を切る覚悟のような勢いで平伏する正秋。
しかし、タチバナは怒っていなかった。顔を上げるように伝えると、手を伸ばす。
「ここに、“征夷大将軍”は居ませんよ、正秋殿」
「将ぐ……タチバナ様、どう致せば?」
「知っての通り、歪虚残党はまだまだ残っています。蓬生の行方も不明ですし、警戒は必要な状況ですからね」
そのタチバナの台詞に正秋は考える。
戦う事ぐらいしかまともに出来ない自分達が、出来る事を。
「……蓬生の行方!」
正秋が奇跡的にも答えにたどり着いたようだった。
「早速、幕府へ書状を書きたいと思います!」
●出陣
長江に蓬生の分体が現れたのは、憤怒本陣攻略前の事だ。ハンター達の活躍により退けたのは記憶に新しい。
本体か分体か分からないが、蓬生らしき人物が長江一帯で目撃されたとの情報を“得た”十鳥城は幕府へと書状を出した。
つまり、長江での探索に協力する為、兵を出すという事だ。
「よっしゃ、出陣だな!」
正秋の盟友、瞬が威勢良く叫んだ。
この所、城で書類に追われる日々だったからか、体を動かせる事が嬉しい様子だ。
「瞬……すまない。留守番を頼む」
「えー!」
代官である正秋が外に出るのだ。誰か留守番が居ないといけないのだろう。
駄々をこねるような瞬は、正秋の隣に居る浪人――タチバナ――に対して言った。
「てめぇ、冴えない顔してねーで、しっかり働け。正秋になにかあったら、ただで帰れると思うなよ!」
その浪人が将軍だと知らないとはいえ、恐ろしい発言だ。
刀を振り回しながら城へと戻っていく瞬の背中を見送りながら、正秋は気が遠くなりかけた意識を辛うじて繋ぐ。
「ご、ご無礼申し訳ありません」
「なんの事でしょうか」
ニッコリと笑ったタチバナが無駄に怖いと正秋は思った。
今回、長江西端への派兵には、正秋とタチバナの他、ハンター達も同行する事になっている。
城の財政の為、出せる報酬は少ないが――それも、ほとんどはタチバナの“後援者”からの援助だ。
「生産が安定すれば、長江一帯での栽培で特産が増えますからね。先駆者がいるなら支援して経過を見たいというのが“後援者”の考えなのでしょう」
「頑張ります!」
気合を入れる正秋だった。
リプレイ本文
●復興へと至る道
「今日は、『タチバナ』さんなんだね。宜しくね♪」
天竜寺 詩(ka0396)が嬉しそうな微笑みを浮かべながら、立花院 紫草(kz0126)――タチバナ――へと声を掛ける。
その横に立つ、正秋がギョッとした視線を詩へと向けた。彼の正体を知っているのかという驚きの視線だ。その視線に気が付く詩。
「初めまして。お代官様、山吹色のお菓子は好きかな?」
「い、いや、何の事か、拙者には……」
助けを求めるように正秋はタチバナへと視線を向けるが、彼は非情な事に、わざとらしく咳払いして視線を外す。
「まぁ、好きだと困るんだけどね」
詩の微笑みに、思わず照れる正秋。
女性慣れしていないのは、生まれ育った環境か、単に性格の問題か。
「いえーい、今回も、ばっちし! お手伝い!」
元気なミィリア(ka2689)の声が響いた。
ガチャガチャと和鎧が音を立て、思わず苦笑を浮かべる正秋。
「気合が入っていますね」
「戦闘となっちゃあ、おサムライさんを目指す為にも、一層気合入れなくっちゃだし!」
そして、チラっとタチバナを見る。
なかなかおサムライさんパワーが大きいようにも見えた。タチバナはニコっと微笑んで応える。
「復興への第一歩となる依頼と聞き、約束通り助力に参った」
「障害は多くとも前進には違いない。先日約束した通り俺も力になろう」
銀 真白(ka4128)と七葵(ka4740)がミィリアの左右に並んで言う。
正秋にとっては、頼もしい友である。
「無事歪虚を退治し、資金源の獲得となるよう尽力しよう」
「はい!」
真白の言葉に背筋をピンっと伸ばした正秋の返事。
頷きながら、真白の言葉は続く。
「しかし、敵ながら、鍛え上げた筋肉とは中々……武人として遅れは取れぬな」
胸を張った――が、そこには敢えて何も語らず。次に右手拳をギュっと握る。
「正秋殿は、俺達と一緒に戦おう」
「はい!」
七葵の台詞にも、正秋は即答で答える。
肩を並べて一緒に戦うのは久々なのかもしれない。ある意味、楽しみなものだ。
「将ぐ……立花さ……立花殿には、後方からの襲撃に注意して頂ければ」
「分かりました。後ろからしっかりと見させていただきます……即疾隊の実力を」
最後、付け加えるようにボソっと言うタチバナは微笑みを崩していない。
これが強者の余裕というもの――なのだろうか。
「十鳥城の復興なら、協力は惜しまないよ? 深く関わってる身だしね」
青い髪を揺らしてシェルミア・クリスティア(ka5955)が正秋とタチバナに告げた。
「今回も、よろしくお願いします」
バカ丁寧に頭を下げる正秋と無言で軽く会釈するタチバナ。
十鳥城の開放、陸路でホープへと目指す戦い、正秋や瞬との出逢い。
(そして……立花院さんの見据える、その先を……同じ様に見てみたいと思う)
その為には自身も強くならないといけないし、まずは今回の依頼も達成しなければならない。
「長江の残党討伐後に、カカオの採取もするって感じかなぁ」
「そう思っていただければ」
しっかりと答えた正秋に紫炎(ka5268)が尋ねる。
「カカオ豆とは、どういうものなんだろう?」
「食用に使えます。西方諸国ではチョコレートという菓子になると聞いています」
「ふむ……それを使って復興に役立てるという事か」
ならば、その為に、剣を振るえる事は喜ばしい。
「十鳥城の復興はまだ始まったばかりですが、少しでも前に進みたいので」
「良い心意気だ」
正秋の決意に、紫炎は力強く頷いた。
アニス・エリダヌス(ka2491)が静かに穏やかな様相で正秋の前に進み出る。
「詩天では歪虚の動きが徐々に大きくなり、わたしの大切な人も戦に赴いています」
「まだ、憤怒歪虚の残党は残っているようで……」
十鳥城と詩天では距離が離れているが、同じ東方の中である。
憤怒本陣にあったヴォイドゲートは破壊したものの、憤怒歪虚の残党勢力は残ったままだ。
「元気な地方を見せられるよう、準備しておきたいですね」
その時、目的地へと向かう一行を包むように、濃い霧が流れてきた。
心配するようにチョココ(ka2449)が杖をギュッと握る。
「マッチョいっぱいで、囲まれたらイヤですの……」
それは昨年の事。
カカオ豆を求め長江一帯に進出したハンター達の前に現れた特異な雑魔達。
ムキムキの筋肉は今でも思い出せるインパクトがある。きっと、今回も現れるに違いない。
「残らずふっ飛ばしたいところですわ」
「無理のない範囲でお願いします」
チョココの意気込みに対し、タチバナが添えるように告げた。
霧がだんだん深くなってきた。こうなると、視覚に頼っていない雑魔が居た場合、ハンター達の不利になる。
「あちらは見える。こちらは見えない。ちと厄介じゃの」
レーヴェ・W・マルバス(ka0276)がライフルを肩に掛けながら、タチバナへと声を掛ける。
「地形と霧に乗じて囲まれないようにしなければ」
「そうですね」
警戒しているのか、それとも、そもそも真剣に戦うつもりはないのか、タチバナの立ち振る舞いは変わらない。
その理由を問うことは無いとレーヴェは心の中で決める。
「これは、酷い霧じゃのう。はぐれないように気をつけるのじゃ」
ゴーグルを掛けた。きっと、敵の襲撃があるなら、この霧に乗じてだろうと思ったからだった。
●霧の街道
真っ白な霧に包まれる。
完全に視界を失った。幸いなのは街道が真っ直ぐ伸びているので、迷子にはならない事だろう。
「目以上に耳が頼りか。耳を澄まして敵の接近を事前に察知したい所じゃな」
レーヴェの言葉に一行は静かに頷き、耳を澄ます。
直後、聞こえてきたのは――
『オ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛……』
酷い程の雑魔の叫び声だった。
突如として霧の中から出現した鳩の頭を持つ筋肉マッチョな人型の雑魔。通称、鳩マッチョ。鍛え抜かれたその胸筋は、ある意味、豊かな胸だ。
霧のせいか、地形のせいか、雑魔の叫び声が反響した。
こうなると、音を頼りにという事は難しい。
「鳩が筋肉もってやってきよるわ。この場合、何が得られるのじゃろ? 鳥肉じゃろうか?」
だとしても、さすがにあの胸筋は食べたくない。
咄嗟にライフルを構え、強襲してきた鳩マッチョへと銃口を向けた。
「また鳥ですわ。鳩だの鴉だのと付く敵と、いらないご縁がありますのー」
悲壮感漂う表情でチョココが魔法を唱える。
絶対出ると思ったら、やっぱり、鳩マッチョだ。
「可愛くないので、ご遠慮しますわ!」
『『『オ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!』』』
可愛くないという言葉に反応してか、更なる雄叫びが返ってきた。それに呼応するように周囲からも叫び声が響く。
チョココに迫る雑魔に対し、アニスが機械剣と盾を構えて庇うように前に立った。
「近寄らせませんよ」
マテリアルが機械剣の機構を作動させると、光の刃が出現する。
それで鳩マッチョの厚い胸板を貫いた。直後、盾に強い衝撃を感じた。見れば拳ほどの大きさの石が転がっている。恐らく、霧の中から投げてきたのだろう。
「彼の者に、正しき安息を与えたまえ」
鎮魂歌を歌うアニス。ただの歌ではない。
アンデットや歪虚であれば、行動を阻害できる魔法だ。
「視界が悪いな……注意していこう」
紫炎は刀を正眼に構え、多方向からの襲撃に備える。
間違いなく、雑魔はハンター達の位置を把握しているだろう。
「此方には、随分と奇抜な輩がいるのだな」
投石だけではない。負のマテリアルが細かく振動し、それが波となって襲いかかってくる。
どんな攻撃なのかと疑問に思ったが、それはすぐに判明した。
霧の中から現れた鳩マッチョならぬ、虎の頭をした虎マッチョ。
鳩マッチョよりも、更に鍛え上げられた筋肉が眩しい。油っているのか、筋肉という筋肉が黒々と負のマテリアルを放ち光っていた。
「……筋肉が光っているって、随分変わった姿だね……」
シェルミアが眉を顰めながら符を手に持った。
式神を使って進行方向を確認していたのだが、敵が左右から出現したのは残念な事だ。
彼女の符術よりも早く、虎マッチョの筋肉魔法が放たれる。
「え? 筋肉が、震えて?」
「超光速で筋肉を震えさせて、負のマテリアルの波動を周囲に広げているようだ」
平常心で事態を見つめたシェルミアの呟きに、紫炎が補足するように応える。
クルセイダーに波動を放つ魔法があるが、それと似たような魔法(筋肉)なのだろうか。
その光景に、詩は連れてきた愛犬をタチバナの傍へと向けつつ声を出した。あんなもの、覚醒者以外がまともに受けたら木っ端微塵になってしまう――だろう、きっと。
「何あれ。きっついなぁ」
虎マッチョの筋肉魔法は止まらない処か、数体が並び、波動を合わせてきた。
おまけに、無駄にポージングを取りながら筋肉をますます震わせる。
「まさか、あれって某王国の某マッチョが使ったポージング魔法!?」
あれに対抗するには、こちらも相応の力が必要だ。
仲間達を見渡し、詩は両手指を組み合わせて意識を高める。
刹那、茨模様の幻影が彼女から広がって、仲間を包み込む。『茨の王』の力を模した防御魔法だ。強力過ぎるこの魔法は術者への負担が大きいが、味方への支援には絶大な効果を発揮する。
『オ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!』
「カウンターマジックが追いつかないですの~」
数が多く、チョココの魔法も、これでは焼け石に水だ。
筋肉魔法が中断された虎マッチョが雄叫びをあげた。怒っているようだ。
ムキムキっと膨れ上がり、一際殺る気をみせた筋肉が拳大の石を全力投球してきた。
投石の正体はこの事なのだろう。遠近の襲撃を受ける形になったが、ハンター達に備えが無かった訳ではなかった。
石が飛んできた方角に対し、マテリアルの刃を放つ、ミィリア。
「ふっふーんだ! ミィリアだって女子力で、射撃できるもんね!」
「そうか、筋肉とは女子力。女子力の勝負であれば、ミィリア殿もひけは取らぬ筈だ」
横に並んだ真白が迷言めいた事を告げる。
威力が高い事を一部のハンター内では“女子力が高い”とも表現される場合もある……らしい。
二人は視線が合うと頷いた。筋肉には女子力。今こそ、女子力の出番だ。
「視界は悪いが、マテリアルを感知する敵であれば、ソウルトーチは無視できぬ筈」
「これはそう、もはや絶対に負けられない戦いでござる……!」
ペカーと二人から女子力(注:マテリアルの炎)が吹き上がる。
それは深い霧の中、まるで灯台の灯りのように輝いた。それは十二分に目立つ。
『オ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!』
直後、灯りに群がる夏虫のように、一斉に雑魔が集まって来た。
それをバッサバッサと切り捨てる七葵と正秋。彼らの後方からは銃撃や魔法、符術の援護が飛ぶ。
「筋肉魔法に、筋肉射撃とは面妖な……しかし、女子力恐るべし」
「注意したいと思います」
七葵の注意に真面目に応える正秋だった。筋肉に注意なのか、女子力に注意なのか。
「この隙は逃さず、素早く仕留めよう」
勢いよく囮のハンターに食いついた筋肉共――ではなく、雑魔共だったが、思わぬ反撃を受けて戦意を喪失したようだ。
ハンター達はしっかりとした役割分担で攻守共に隙がない。
「逃がしませんの」
「正秋は十鳥城の代官だから、その立場に見合う結果を与えてあげないと」
チョココとシェルミアの魔法が、逃亡を図る雑魔の足を邪魔する。
逃げ遅れても強引に筋肉を震わす虎マッチョの一体に正秋が鋭い一撃を叩き込んだ。
今回、ハンターとしては初の依頼となった彼を活躍させる機会を作る事は、今後の彼の立場にも有利な事だろう。
逆にいうと、タチバナはなるべく、戦って欲しくないものだが……。
「詩さんの護衛をしてますね」
タチバナは刀さえも抜かず、詩の隣で、のほほんと戦いの経過を見ていた。
もはや、戦況的に問題ないという事なのかもしれない。
「筋肉で魔法を使うのか。凄い筋肉じゃの」
レーヴェも足止めの射撃を繰り返す。
苦し紛れに雑魔の中には攻撃を続ける存在もあった為、ハンター達も無傷という訳にはいかなかった。
特に、囮役の二人と、茨の祈りを続ける詩は消耗が大きい。
「必要ならすぐに回復できますから」
アニスが鳩マッチョを粉砕しながら仲間達に告げる。
敵の攻撃が集中しても、回復対象が絞られる分には問題ないからだ。
攻撃しても倒せず、逃げようにも逃げられず、マッチョ雑魔が大いに慌てだした。
「このまま一気に畳み掛けようか」
紫炎の言う通り、反撃のチャンスを見逃すハンター達ではない。
真白とミィリアの二人は女子力を燃やしつつ、刀を振り続けた。
「これが私達の――」
「――女子力で、ござる!」
こうして襲撃してきた雑魔全ては倒されたのだった。
●長江西
街道を進んでいると唐突に霧が晴れた。
目の前には小高い丘と――
「すご~い。私、カカオ豆って、生で見るの初めてだよ♪」
詩が嬉しそうにタチバナに視線を向ける。
そこにはカカオが一面自生していた。かなりの規模になるかもしれない。
「栽培が軌道に乗れば、チョコも手に入りやすくなるし」
そうなれば、スメラギに色々とチョコ料理を出す事が出来るかも知れない。
「その時は、また味見お願いね、タチバナさん♪」
「楽しみにしておきますね」
タチバナが優しく笑う。
西方との交易は、十鳥城だけの事ではなく東方全体での課題でもある。カカオ豆の栽培が上手くいけば特産が増える事になる。
「確か、加工も行う予定……でしょうか?」
地に転がっていたカカオ豆を拾いながらアニスは正秋に質問する。
「一応、その予定です」
「それなら、東方の趣があるデザインの菓子などいいかもしれません」
と、アニスが過去に作った花形のチョコレートの話を持ち出した。
ただ加工するだけではなく、特産品としての価値を高められれば、交易を行う上でも意味があるだろう。
「焼きマッチョに、圧しマッチョ~。しのさんとマッチョ~」
「これは回収するだけでも、なかなか、重労働じゃの」
チョココとレーヴェの二人がカカオ豆を回収していく。一休みのおやつは後回しだ。
さすがに丘全体に自生している分を一度に回収するのは難しいだが、ある程度は持って帰ってもいいだろう。
もっとも、持ち帰った分は全て十鳥城へと運ばれるのだが。
「この豆により、より多くの民が救われる様に」
祈るように紫炎がそんな事を言いながら、彼もカカオ豆を回収する。
十鳥城は歪虚の勢力から開放されたばかりであり、まだまだ、そこに住む人々は貧しい状態が続いている。
今回の依頼で得られたカカオ豆で、少しでも民が救われるのであればと思う。
「東方でも、カカオ豆の製品が流通する様になればいいね」
拾ったカカオ豆の一つを品定めしながらシェルミアが呟く。
チョコレートやココアの需要は何も、西方世界だけではなく、東方でも受け入れられるものであるはずだ。
人気が出れば栽培も進む可能性は高いはずだし。
「それなら、私も手伝いましょうか。先程は、あまり運動出来なかったですし」
袖を捲ってタチバナもやる気を出したみたいだ。
全員で持てるだけのカカオ豆の回収が始まった。
品質も色々とあるようで、どんな豆が良いかとか盛り上がる中、ミィリアは手に取ったカカオ豆にちょっぴりと懐かしい気分に浸る。
「そういえば、闇市で聞き込みするのにチョコを持ってったっけな~」
それは、今からちょうど一年位前の話だろうか。
十鳥城へと潜入して情報収集の時に持ち込んだのだ。十鳥城城主であり堕落者であった矢嗚文を打倒して、そして、自分達を贄役として受け入れてくれた代官の死。
代官と接触が多かったシルディ(ka2939)の姿が無かった事に正秋は、とても残念そうだった。
(蒼人さんは……今も、元気にナンパ失敗とかしてるかな~)
遠く空を眺めながらそんな事に思いを馳せるミィリア。
きっと、今頃、くしゃみでもして、眼鏡の位置でも直しているだろうか。というか、失敗前提……。
「真白殿、その鉢巻は……」
正秋がせっせとカカオ豆を回収している真白の頭に巻かれている緑色の鉢巻に今更、気がついた。
きっと、髪型を変えても美容院に行っても、この男は気が付くのが遅いタイプの男子だろう。
「相応の戦果が必要かと感じ、気合を入れようと」
真白が眩しい程の笑顔で答えた。
その鉢巻は大切な思い出の品だ。
「正秋殿と戦っていると、ホープへと至るあの戦いを思い出す、な」
彼の肩をポンと叩き、七葵が声を掛ける。
「皆さんの強さを見習って、拙者もより一層、頑張りたいと思います!」
「それなら、俺も抜かれないように精進しなければならないか」
正秋がグッと握った拳に、七葵が手で合わせた。
今回、蓬生の姿は見られなかった。憤怒歪虚の残党も完全に居なくなった訳ではない。
詩天地方でも何らかの動きがあるという噂も耳にする。
戦いは、まだ終わっていないのだ。
十鳥城代官の正秋、流浪の侍タチバナと共に長江西へと向かったハンター達は街道途中に現れた雑魔を残らず討伐。
周辺の脅威を取り除き、カカオ豆自生の丘へと無事に到着したのだった。回収したカカオ豆を西方世界に売る事でそれを元手に集積所や加工場の設置、農園の管理が始まったのだった。
おしまい。
「今日は、『タチバナ』さんなんだね。宜しくね♪」
天竜寺 詩(ka0396)が嬉しそうな微笑みを浮かべながら、立花院 紫草(kz0126)――タチバナ――へと声を掛ける。
その横に立つ、正秋がギョッとした視線を詩へと向けた。彼の正体を知っているのかという驚きの視線だ。その視線に気が付く詩。
「初めまして。お代官様、山吹色のお菓子は好きかな?」
「い、いや、何の事か、拙者には……」
助けを求めるように正秋はタチバナへと視線を向けるが、彼は非情な事に、わざとらしく咳払いして視線を外す。
「まぁ、好きだと困るんだけどね」
詩の微笑みに、思わず照れる正秋。
女性慣れしていないのは、生まれ育った環境か、単に性格の問題か。
「いえーい、今回も、ばっちし! お手伝い!」
元気なミィリア(ka2689)の声が響いた。
ガチャガチャと和鎧が音を立て、思わず苦笑を浮かべる正秋。
「気合が入っていますね」
「戦闘となっちゃあ、おサムライさんを目指す為にも、一層気合入れなくっちゃだし!」
そして、チラっとタチバナを見る。
なかなかおサムライさんパワーが大きいようにも見えた。タチバナはニコっと微笑んで応える。
「復興への第一歩となる依頼と聞き、約束通り助力に参った」
「障害は多くとも前進には違いない。先日約束した通り俺も力になろう」
銀 真白(ka4128)と七葵(ka4740)がミィリアの左右に並んで言う。
正秋にとっては、頼もしい友である。
「無事歪虚を退治し、資金源の獲得となるよう尽力しよう」
「はい!」
真白の言葉に背筋をピンっと伸ばした正秋の返事。
頷きながら、真白の言葉は続く。
「しかし、敵ながら、鍛え上げた筋肉とは中々……武人として遅れは取れぬな」
胸を張った――が、そこには敢えて何も語らず。次に右手拳をギュっと握る。
「正秋殿は、俺達と一緒に戦おう」
「はい!」
七葵の台詞にも、正秋は即答で答える。
肩を並べて一緒に戦うのは久々なのかもしれない。ある意味、楽しみなものだ。
「将ぐ……立花さ……立花殿には、後方からの襲撃に注意して頂ければ」
「分かりました。後ろからしっかりと見させていただきます……即疾隊の実力を」
最後、付け加えるようにボソっと言うタチバナは微笑みを崩していない。
これが強者の余裕というもの――なのだろうか。
「十鳥城の復興なら、協力は惜しまないよ? 深く関わってる身だしね」
青い髪を揺らしてシェルミア・クリスティア(ka5955)が正秋とタチバナに告げた。
「今回も、よろしくお願いします」
バカ丁寧に頭を下げる正秋と無言で軽く会釈するタチバナ。
十鳥城の開放、陸路でホープへと目指す戦い、正秋や瞬との出逢い。
(そして……立花院さんの見据える、その先を……同じ様に見てみたいと思う)
その為には自身も強くならないといけないし、まずは今回の依頼も達成しなければならない。
「長江の残党討伐後に、カカオの採取もするって感じかなぁ」
「そう思っていただければ」
しっかりと答えた正秋に紫炎(ka5268)が尋ねる。
「カカオ豆とは、どういうものなんだろう?」
「食用に使えます。西方諸国ではチョコレートという菓子になると聞いています」
「ふむ……それを使って復興に役立てるという事か」
ならば、その為に、剣を振るえる事は喜ばしい。
「十鳥城の復興はまだ始まったばかりですが、少しでも前に進みたいので」
「良い心意気だ」
正秋の決意に、紫炎は力強く頷いた。
アニス・エリダヌス(ka2491)が静かに穏やかな様相で正秋の前に進み出る。
「詩天では歪虚の動きが徐々に大きくなり、わたしの大切な人も戦に赴いています」
「まだ、憤怒歪虚の残党は残っているようで……」
十鳥城と詩天では距離が離れているが、同じ東方の中である。
憤怒本陣にあったヴォイドゲートは破壊したものの、憤怒歪虚の残党勢力は残ったままだ。
「元気な地方を見せられるよう、準備しておきたいですね」
その時、目的地へと向かう一行を包むように、濃い霧が流れてきた。
心配するようにチョココ(ka2449)が杖をギュッと握る。
「マッチョいっぱいで、囲まれたらイヤですの……」
それは昨年の事。
カカオ豆を求め長江一帯に進出したハンター達の前に現れた特異な雑魔達。
ムキムキの筋肉は今でも思い出せるインパクトがある。きっと、今回も現れるに違いない。
「残らずふっ飛ばしたいところですわ」
「無理のない範囲でお願いします」
チョココの意気込みに対し、タチバナが添えるように告げた。
霧がだんだん深くなってきた。こうなると、視覚に頼っていない雑魔が居た場合、ハンター達の不利になる。
「あちらは見える。こちらは見えない。ちと厄介じゃの」
レーヴェ・W・マルバス(ka0276)がライフルを肩に掛けながら、タチバナへと声を掛ける。
「地形と霧に乗じて囲まれないようにしなければ」
「そうですね」
警戒しているのか、それとも、そもそも真剣に戦うつもりはないのか、タチバナの立ち振る舞いは変わらない。
その理由を問うことは無いとレーヴェは心の中で決める。
「これは、酷い霧じゃのう。はぐれないように気をつけるのじゃ」
ゴーグルを掛けた。きっと、敵の襲撃があるなら、この霧に乗じてだろうと思ったからだった。
●霧の街道
真っ白な霧に包まれる。
完全に視界を失った。幸いなのは街道が真っ直ぐ伸びているので、迷子にはならない事だろう。
「目以上に耳が頼りか。耳を澄まして敵の接近を事前に察知したい所じゃな」
レーヴェの言葉に一行は静かに頷き、耳を澄ます。
直後、聞こえてきたのは――
『オ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛……』
酷い程の雑魔の叫び声だった。
突如として霧の中から出現した鳩の頭を持つ筋肉マッチョな人型の雑魔。通称、鳩マッチョ。鍛え抜かれたその胸筋は、ある意味、豊かな胸だ。
霧のせいか、地形のせいか、雑魔の叫び声が反響した。
こうなると、音を頼りにという事は難しい。
「鳩が筋肉もってやってきよるわ。この場合、何が得られるのじゃろ? 鳥肉じゃろうか?」
だとしても、さすがにあの胸筋は食べたくない。
咄嗟にライフルを構え、強襲してきた鳩マッチョへと銃口を向けた。
「また鳥ですわ。鳩だの鴉だのと付く敵と、いらないご縁がありますのー」
悲壮感漂う表情でチョココが魔法を唱える。
絶対出ると思ったら、やっぱり、鳩マッチョだ。
「可愛くないので、ご遠慮しますわ!」
『『『オ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!』』』
可愛くないという言葉に反応してか、更なる雄叫びが返ってきた。それに呼応するように周囲からも叫び声が響く。
チョココに迫る雑魔に対し、アニスが機械剣と盾を構えて庇うように前に立った。
「近寄らせませんよ」
マテリアルが機械剣の機構を作動させると、光の刃が出現する。
それで鳩マッチョの厚い胸板を貫いた。直後、盾に強い衝撃を感じた。見れば拳ほどの大きさの石が転がっている。恐らく、霧の中から投げてきたのだろう。
「彼の者に、正しき安息を与えたまえ」
鎮魂歌を歌うアニス。ただの歌ではない。
アンデットや歪虚であれば、行動を阻害できる魔法だ。
「視界が悪いな……注意していこう」
紫炎は刀を正眼に構え、多方向からの襲撃に備える。
間違いなく、雑魔はハンター達の位置を把握しているだろう。
「此方には、随分と奇抜な輩がいるのだな」
投石だけではない。負のマテリアルが細かく振動し、それが波となって襲いかかってくる。
どんな攻撃なのかと疑問に思ったが、それはすぐに判明した。
霧の中から現れた鳩マッチョならぬ、虎の頭をした虎マッチョ。
鳩マッチョよりも、更に鍛え上げられた筋肉が眩しい。油っているのか、筋肉という筋肉が黒々と負のマテリアルを放ち光っていた。
「……筋肉が光っているって、随分変わった姿だね……」
シェルミアが眉を顰めながら符を手に持った。
式神を使って進行方向を確認していたのだが、敵が左右から出現したのは残念な事だ。
彼女の符術よりも早く、虎マッチョの筋肉魔法が放たれる。
「え? 筋肉が、震えて?」
「超光速で筋肉を震えさせて、負のマテリアルの波動を周囲に広げているようだ」
平常心で事態を見つめたシェルミアの呟きに、紫炎が補足するように応える。
クルセイダーに波動を放つ魔法があるが、それと似たような魔法(筋肉)なのだろうか。
その光景に、詩は連れてきた愛犬をタチバナの傍へと向けつつ声を出した。あんなもの、覚醒者以外がまともに受けたら木っ端微塵になってしまう――だろう、きっと。
「何あれ。きっついなぁ」
虎マッチョの筋肉魔法は止まらない処か、数体が並び、波動を合わせてきた。
おまけに、無駄にポージングを取りながら筋肉をますます震わせる。
「まさか、あれって某王国の某マッチョが使ったポージング魔法!?」
あれに対抗するには、こちらも相応の力が必要だ。
仲間達を見渡し、詩は両手指を組み合わせて意識を高める。
刹那、茨模様の幻影が彼女から広がって、仲間を包み込む。『茨の王』の力を模した防御魔法だ。強力過ぎるこの魔法は術者への負担が大きいが、味方への支援には絶大な効果を発揮する。
『オ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!』
「カウンターマジックが追いつかないですの~」
数が多く、チョココの魔法も、これでは焼け石に水だ。
筋肉魔法が中断された虎マッチョが雄叫びをあげた。怒っているようだ。
ムキムキっと膨れ上がり、一際殺る気をみせた筋肉が拳大の石を全力投球してきた。
投石の正体はこの事なのだろう。遠近の襲撃を受ける形になったが、ハンター達に備えが無かった訳ではなかった。
石が飛んできた方角に対し、マテリアルの刃を放つ、ミィリア。
「ふっふーんだ! ミィリアだって女子力で、射撃できるもんね!」
「そうか、筋肉とは女子力。女子力の勝負であれば、ミィリア殿もひけは取らぬ筈だ」
横に並んだ真白が迷言めいた事を告げる。
威力が高い事を一部のハンター内では“女子力が高い”とも表現される場合もある……らしい。
二人は視線が合うと頷いた。筋肉には女子力。今こそ、女子力の出番だ。
「視界は悪いが、マテリアルを感知する敵であれば、ソウルトーチは無視できぬ筈」
「これはそう、もはや絶対に負けられない戦いでござる……!」
ペカーと二人から女子力(注:マテリアルの炎)が吹き上がる。
それは深い霧の中、まるで灯台の灯りのように輝いた。それは十二分に目立つ。
『オ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!』
直後、灯りに群がる夏虫のように、一斉に雑魔が集まって来た。
それをバッサバッサと切り捨てる七葵と正秋。彼らの後方からは銃撃や魔法、符術の援護が飛ぶ。
「筋肉魔法に、筋肉射撃とは面妖な……しかし、女子力恐るべし」
「注意したいと思います」
七葵の注意に真面目に応える正秋だった。筋肉に注意なのか、女子力に注意なのか。
「この隙は逃さず、素早く仕留めよう」
勢いよく囮のハンターに食いついた筋肉共――ではなく、雑魔共だったが、思わぬ反撃を受けて戦意を喪失したようだ。
ハンター達はしっかりとした役割分担で攻守共に隙がない。
「逃がしませんの」
「正秋は十鳥城の代官だから、その立場に見合う結果を与えてあげないと」
チョココとシェルミアの魔法が、逃亡を図る雑魔の足を邪魔する。
逃げ遅れても強引に筋肉を震わす虎マッチョの一体に正秋が鋭い一撃を叩き込んだ。
今回、ハンターとしては初の依頼となった彼を活躍させる機会を作る事は、今後の彼の立場にも有利な事だろう。
逆にいうと、タチバナはなるべく、戦って欲しくないものだが……。
「詩さんの護衛をしてますね」
タチバナは刀さえも抜かず、詩の隣で、のほほんと戦いの経過を見ていた。
もはや、戦況的に問題ないという事なのかもしれない。
「筋肉で魔法を使うのか。凄い筋肉じゃの」
レーヴェも足止めの射撃を繰り返す。
苦し紛れに雑魔の中には攻撃を続ける存在もあった為、ハンター達も無傷という訳にはいかなかった。
特に、囮役の二人と、茨の祈りを続ける詩は消耗が大きい。
「必要ならすぐに回復できますから」
アニスが鳩マッチョを粉砕しながら仲間達に告げる。
敵の攻撃が集中しても、回復対象が絞られる分には問題ないからだ。
攻撃しても倒せず、逃げようにも逃げられず、マッチョ雑魔が大いに慌てだした。
「このまま一気に畳み掛けようか」
紫炎の言う通り、反撃のチャンスを見逃すハンター達ではない。
真白とミィリアの二人は女子力を燃やしつつ、刀を振り続けた。
「これが私達の――」
「――女子力で、ござる!」
こうして襲撃してきた雑魔全ては倒されたのだった。
●長江西
街道を進んでいると唐突に霧が晴れた。
目の前には小高い丘と――
「すご~い。私、カカオ豆って、生で見るの初めてだよ♪」
詩が嬉しそうにタチバナに視線を向ける。
そこにはカカオが一面自生していた。かなりの規模になるかもしれない。
「栽培が軌道に乗れば、チョコも手に入りやすくなるし」
そうなれば、スメラギに色々とチョコ料理を出す事が出来るかも知れない。
「その時は、また味見お願いね、タチバナさん♪」
「楽しみにしておきますね」
タチバナが優しく笑う。
西方との交易は、十鳥城だけの事ではなく東方全体での課題でもある。カカオ豆の栽培が上手くいけば特産が増える事になる。
「確か、加工も行う予定……でしょうか?」
地に転がっていたカカオ豆を拾いながらアニスは正秋に質問する。
「一応、その予定です」
「それなら、東方の趣があるデザインの菓子などいいかもしれません」
と、アニスが過去に作った花形のチョコレートの話を持ち出した。
ただ加工するだけではなく、特産品としての価値を高められれば、交易を行う上でも意味があるだろう。
「焼きマッチョに、圧しマッチョ~。しのさんとマッチョ~」
「これは回収するだけでも、なかなか、重労働じゃの」
チョココとレーヴェの二人がカカオ豆を回収していく。一休みのおやつは後回しだ。
さすがに丘全体に自生している分を一度に回収するのは難しいだが、ある程度は持って帰ってもいいだろう。
もっとも、持ち帰った分は全て十鳥城へと運ばれるのだが。
「この豆により、より多くの民が救われる様に」
祈るように紫炎がそんな事を言いながら、彼もカカオ豆を回収する。
十鳥城は歪虚の勢力から開放されたばかりであり、まだまだ、そこに住む人々は貧しい状態が続いている。
今回の依頼で得られたカカオ豆で、少しでも民が救われるのであればと思う。
「東方でも、カカオ豆の製品が流通する様になればいいね」
拾ったカカオ豆の一つを品定めしながらシェルミアが呟く。
チョコレートやココアの需要は何も、西方世界だけではなく、東方でも受け入れられるものであるはずだ。
人気が出れば栽培も進む可能性は高いはずだし。
「それなら、私も手伝いましょうか。先程は、あまり運動出来なかったですし」
袖を捲ってタチバナもやる気を出したみたいだ。
全員で持てるだけのカカオ豆の回収が始まった。
品質も色々とあるようで、どんな豆が良いかとか盛り上がる中、ミィリアは手に取ったカカオ豆にちょっぴりと懐かしい気分に浸る。
「そういえば、闇市で聞き込みするのにチョコを持ってったっけな~」
それは、今からちょうど一年位前の話だろうか。
十鳥城へと潜入して情報収集の時に持ち込んだのだ。十鳥城城主であり堕落者であった矢嗚文を打倒して、そして、自分達を贄役として受け入れてくれた代官の死。
代官と接触が多かったシルディ(ka2939)の姿が無かった事に正秋は、とても残念そうだった。
(蒼人さんは……今も、元気にナンパ失敗とかしてるかな~)
遠く空を眺めながらそんな事に思いを馳せるミィリア。
きっと、今頃、くしゃみでもして、眼鏡の位置でも直しているだろうか。というか、失敗前提……。
「真白殿、その鉢巻は……」
正秋がせっせとカカオ豆を回収している真白の頭に巻かれている緑色の鉢巻に今更、気がついた。
きっと、髪型を変えても美容院に行っても、この男は気が付くのが遅いタイプの男子だろう。
「相応の戦果が必要かと感じ、気合を入れようと」
真白が眩しい程の笑顔で答えた。
その鉢巻は大切な思い出の品だ。
「正秋殿と戦っていると、ホープへと至るあの戦いを思い出す、な」
彼の肩をポンと叩き、七葵が声を掛ける。
「皆さんの強さを見習って、拙者もより一層、頑張りたいと思います!」
「それなら、俺も抜かれないように精進しなければならないか」
正秋がグッと握った拳に、七葵が手で合わせた。
今回、蓬生の姿は見られなかった。憤怒歪虚の残党も完全に居なくなった訳ではない。
詩天地方でも何らかの動きがあるという噂も耳にする。
戦いは、まだ終わっていないのだ。
十鳥城代官の正秋、流浪の侍タチバナと共に長江西へと向かったハンター達は街道途中に現れた雑魔を残らず討伐。
周辺の脅威を取り除き、カカオ豆自生の丘へと無事に到着したのだった。回収したカカオ豆を西方世界に売る事でそれを元手に集積所や加工場の設置、農園の管理が始まったのだった。
おしまい。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/02/11 20:52:40 |
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相談卓 本多 七葵(ka4740) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2017/02/12 21:12:32 |