• 詩天

【詩天】若峰の戦い

マスター:近藤豊

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/02/13 15:00
完成日
2017/02/16 06:35

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「ううむ」
 三条家軍師、水野 武徳(kz0196)は腕を組んで思案する。
 その表情には苦々しさが滲み出ていた。
「軍師殿、そろそろ指示出しちゃくれませんか。あんまり時間はありませんぜ」
 一方、即疾隊局長の江邨雄介には笑顔が浮かんでいた。
 だが、その笑顔の裏に冷や汗を流す本心がある。部下の手前、怯える姿など見せる訳にはいかないからだ。
 軽口を叩いているが、この若峰に危機は迫っている。
「もしかして、軍師殿に良き策は浮かんでおられないのかな? 軍師形無しって奴ですかね」
「策はある。だが、駒が足りぬのだ」
 現在、若峰には敵の軍勢が迫っている。
 三条 真美(kz0198)は三条 秋寿――否、初代詩天の三条 仙秋を追って若峰を離れている。
 この隙をついて仙秋は若峰へ攻撃を仕掛けたのだ。
「確か、隠忍倭衆の報告では軍師様が戦ったあの『本田喜兵衛』らしいじゃないですか。一度は退けたようですが、大丈夫なんですかい?」
 雄介は態度を変えずに武徳へ話し掛ける。
 詩天で活動する隠密組織『隠忍倭衆』の報告によれば、敵将は先日武徳と戦った本田喜兵衛。金砕棒と剛腕が武器の歪虚側武将である。
「無論。これが青木とかいう槍使いであればまずかったが、あの死んでも馬鹿が治らなかった喜兵衛なら問題ない」
「どうするんですかい?」
「まず、喜兵衛を若峰へ引き入れる」
「はぁ?」
 雄介は思わず聞き返した。
 守るべき対象である街へ敵をわざと入れるというのだ。街を警護してきた即疾隊にとっては許しがたい暴挙だ。
「それ、本気で言ってるんじゃありませんよね? だったら、タダじゃ……」
「まあ聞け。敵はあの喜兵衛じゃ。力ばかりの馬鹿者だが、正面から戦えばこちらの被害も甚大。仮に街の外へ布陣しても街すべてを守るだけの戦力もない。おまけに奴がこちらの陣を突破すればそれでおしまいじゃ。
 ならば、あの馬鹿者を挑発して罠にかける。わしが囮になれば、直情的な喜兵衛じゃ。必ずわしに向かってくる」
 前回の戦いでも喜兵衛が武徳に抱く恨みは相当なものだ。
 何せ、千石原の乱は武徳の裏切りによって真美側の圧勝になったのだ。秋寿側だった喜兵衛にとっては何回殺しても気が済まないだろう。
「それで?」
「敵を入れた段階で街の入り口にある橋を隠忍倭衆に落とさせる。これで敵は容易に撤退できないはずじゃ。そして、喜兵衛を黒駒城前の広場へ誘き寄せたところで符術師に結界を張らせ、喜兵衛の動きを止める。そこを一気に叩いて喜兵衛に引導を渡すのじゃ。喜兵衛を倒せば後は烏合の衆。どうとでもなるだろうな」
 喜兵衛は体を覆う剛毛が防具の代わりとなっている。その上攻撃を受けている最中でも仰け反る事無く金砕棒を繰り出してくる。
 喜兵衛を倒すには高火力な攻撃を一気に叩き込まなければならない。
「なんだ、策はできてるじゃねぇですか。どこに迷う事があるんです?」
「隠忍倭衆の報告によれば、喜兵衛は骸骨兵の部隊を引き連れているらしい。結界を張っていられるのは精々数分。仮に喜兵衛を結界に封じ込めたとしても、こちらの攻撃が届く前に結界は消えてしまうじゃろうな」
 武徳の誤算は、仙秋が引き起こした符術師の誘拐事件であった。
 あの事件のせいで優秀な符術師が若峰から姿を消した。今から天ノ都へ符術師を呼び戻したとしても間に合うはずがない。
 さらに喜兵衛へ火力を集中させる為には、周囲にいる骸骨兵を何とかしなければならない。骸骨兵を排除して喜兵衛に攻撃を集中させるには結界の時間が持たないのだ。
 思い悩む武徳。
 そこへ、話を聞いていた雄介の脳裏に一つの妙案が浮かぶ。
「……もしかしたら、何とかなるかもしれませんぜ」
「誠か!」
 顔を上げる武徳。
 雄介は小さく頷いた後で話を続ける。
「隊士から聞いたんですがね。何でもハンターが『きゃむ』とか『まどーあーまー』いう機械人形を持っているらしいんですわ」
「『きゃむ』? 『まどーあーまー』?
 なんだそれは?」
「どうもハンターが動かす人型兵器で、その兵器が持つ武器ってぇのが魔導銃と比較にならない程強力らしいですぜ」
 以前は詩天にCAMや魔導アーマーを持ち込む事はできなかった。
 これは転移門の大きさが小さく、CAMや魔導アーマーを持ち込めなかったからだ。しかし、先の蓬生との戦いの折に転移門は拡張。ハンターも依頼に応じて大型ユニットを持ち込む事ができるようになった。
「その武器を使えば、骸骨兵を巻き込んで喜兵衛を叩けるんじゃありませんかね?」
「それだ! でかしたぞ」
 武徳は膝を叩く。
 ハンターの持つ大型ユニットを伏兵にし、結界術で動きを封じた後で攻撃を仕掛ければ如何に喜兵衛であっても防ぎ切れない。お誂え向きに黒駒城の入り口は地下へと続く洞窟となっている。ここへCAMか魔導アーマーを隠し、結界で動けない喜兵衛目掛けて撃ち抜けばいい。
「こうしてはおれん。早速動かねばならん。
 即疾隊には街の東側住人の避難。それから敵の群れから漏れた骸骨兵の対応を頼む」
「御意。へへっ、調子出てきたじゃありませんか」
 策も決まり動き出す武徳。
 雄介も腰を上げて動き出す。
 早々に部下へ指示を出さなければならない。
 僅かな時間の間にできる事をやらなくては――。
「待っておれ、喜兵衛。大博打の始まりじゃ」


「待っておれ、武徳め」
 喜兵衛は詩天へ向かって走り出す。
 手には金砕棒。胸には復讐の炎を宿している。
 武徳が千石原で裏切らなければ――。
 秋寿が捕縛されなければ――。
 憤怒と後悔の念が、喜兵衛を突き動かす。
「今回は以前のようにはいかんぞ。何せ、秋寿様から法具を授かったのだ。これを使えば増援を呼び出せるとか仰ってたな」
 喜兵衛の懐には一つの宝玉があった。
 仙秋から預かったその宝珠を使えば、かつて仙秋が使役していた歪虚が現れるらしい。僧兵のような錫杖を持った存在だ。驚異的なのはその大きさで、喜兵衛と比較しても倍以上の大きさらしい。
 だが、喜兵衛はあまりこの法具を使いたくない。
 憎き武徳をこの手で潰さなければ意味が無いと考えたからだ。
「真美を叩けぬのは残念だが、それは秋寿様に譲るとしよう。
 ――さぁ、若峰にて拙者の暴れぶりを見せてくれよう。拙者を止められる者なら、止めてみせいっ!」

リプレイ本文

「武徳ぃぃぃっ!」
 詩天の東側、街の入り口にて本田喜兵衛は大声を上げる。
 視線の先にいるのは三条家軍師、水野 武徳(kz0196)の姿。その傍らには護衛役のミュオ(ka1308)とイェジドのまくら、黒耀 (ka5677)と輪廻が固める。
 だが、喜兵衛の視線は武徳に釘付けとなる。
 黒耀 とミュオが傍目から見る限り、喜兵衛の怒りは高まりつつある。
「久しいな、喜兵衛」
「武徳、よく拙者の前に姿を現せたな」
 対峙する二人。
 反射的に黒耀 が武徳の前へ出ようとするが――。
(……水野様)
 武徳は黒耀 の前に手を伸ばす。
 護衛は無用という意味合いだ。その指示を察した黒耀 は、黙って身を引いた。
(御自ら囮にされた上……本当に無茶をされる方だ)
 黒耀 は内心、武徳の身を案じた。
 武徳が立てた作戦では喜兵衛を怒らす事が必須。その為に指揮官である武徳自らが囮となる事を決意していた。
 万一の惨事を防ぐ為に黒耀 とミュオが護衛役に就いているのだが……。
(分かってる。水野さんは、必ず守るよ。
 まくら、初陣ですよ。一緒に頑張りましょうね!)
 黒耀 の送った視線を受け、ミュオは小さく頷く。
 ふわふわとした毛並みのイェジドであるまくら。
 ミュオとまくらが一緒に参加した初依頼は、武徳の護衛という重要な役割であった。
「愚かな。まだ分からぬか」
「なに!?」
 武徳の言葉で、喜兵衛はさらに怒りを増幅する。
 おそらく喜兵衛は武徳の行動一つ一つに苛立ちを感じのだろう。
「歪虚と化しても、未だこの国の行く末が理解できぬとは」
「何を言う! 秋寿様を追い落とし、自ら詩天の座を独占した真美一派に義などある訳も無い」
「それよ。一度は歪虚に奪われた詩天の地。そして、そこに住む民を蔑ろにして何が詩天よ」
 言葉を交わす二人。
 だが、言葉を重なる度に二人の溝は劇的に広がっていく。
 人と歪虚――否、人同士であったとしても敵対は避けられなかっただろう。
「黙れっ!」
「黙らぬよ。お前の頭では理解できぬかもしれんが……消え逝く定めじゃった。お前も、そして秋寿様も」
 秋寿。
 その一言で、喜兵衛の怒りは頂点に達した。
「武徳ぅぅぅ! 許さんっ!」
 巨大な金砕棒を片手に喜兵衛は、武徳へと迫る。
 その背後からは骸骨兵の群れが続く。
「さぁ、大作戦の始まりです。テンションマックスです。デュエルスタンバイします」
「みんな、行くよ! まくら、お願いしますね」
 ミュオと黒耀 の声を受け、武徳は馬に乗って移動を開始。

 手筈通り、作戦に従ってすべてが動き出した。


「4連カノン砲発射準備完了。目標地点の観測を開始。別命あるまで待機」
 龍崎・カズマ(ka0178)は、愛機の魔導型デュミナス『VIRTUE』の操縦席で次の指示を待つ。
 予定であれば、武徳ら別班が目標地点へ喜兵衛を誘引する事になっている。
 カズマはVIRTUEを黒狗城へ続く地下道の入り口に潜ませている。ターゲットを狙える時間はあまり長くない。適確にターゲットへ4連カノンを叩き込みたいところだ。
「問題は囮役の不慮の事故、か」
 カズマはトランシーバーと魔導短伝話を併用して別班の動きを気にしていた。
 転倒等の予期せぬ事態による遅延、不慮の事故は十分に起こりえる。万一、作戦が失敗するようであれば早急に敵を倒す為に出動しなければならない。
「作戦は順調。今の所、異常なし」
 カズマは自分にそう言い聞かせながら、周囲の警戒を続けていた。

 一方、別の地点で待機する者もいる。
「久しぶりにCAMで射撃、か……腕が鳴るわね、Arqueiro」
 魔導型デュミナス『Arqueiro』に騎乗するマリィア・バルデス(ka5848)は、愛機に話し掛ける。
 マシンガン「プレートスNH3」。
 マシンガン「コンステラ」。
 30mmアサルトライフル 。
 射撃に特化したArqueiroにとって、今回の役割はまさに適任であった。
 ターゲットが目標地点に到達するまで何度も照準の確認を行っている。仲間を信じ、武徳の指示があるまでこの場所から動くつもりはない。だが、周囲の状況把握に努めて僅かな変化でも対応するよう準備は怠らない。
「役割は果たす。敵を確実に仕留める」
 マリィアは心を落ち着けるように、大きく息を吐いた。


「逃さぬっ!」
 馬で逃げる武徳を追いかける喜兵衛。
 スピードは感じられないが、三メートルを超える巨体が地響きを立てながら走っているのだ。歩幅だけでも大きさがかなり違う。
「まくら、今ですっ!」
 ミュオを乗せて走るまくらは、喜兵衛が攻撃する瞬間に大きくジャンプする。
 次の瞬間、金砕棒の一撃が地面に炸裂。
 土が舞い上がり、周囲の建物に振動が伝わる。
「これで終わりじゃないよ」
 落下するまくらに乗ったミュオ。
 その手に握られるのは、サイズ「アダマス」だ。
「とりゃあ!」
 振るわれるアダマス。
 刃は確実に喜兵衛の胴を捉えた。
 しかし、喜兵衛を止める事はできない。
「これしきで止められると思うな」
 斬られた箇所を物ともせず、喜兵衛は前へ突き進む。
 喜兵衛は体毛が硬い上に表皮も硬い事から防御は高い。挙げ句、攻撃を受けても仰け反りなどをせず、攻撃を無効化したかのように金砕棒を振りってくる。
 自由に攻撃をさせれば厄介な相手である。
「邪魔だ!」
 今度は勢いを付けて金砕棒を横に薙ぐ喜兵衛。
 その攻撃を先読みしていた黒耀 。
 魔導二輪「闘走」から一枚の符を後方に投げつける。
「ふぅはははは! トラップカード発動!」
 投げた符は、光輝く鳥に姿を変える。
 鳥は金砕棒の一撃を受けると霧散してしまった。
「貴様の力はこの程度か! これでは我がカードデッキにすら及ばない! 現世に権限せし最高のモンスターカード、輪廻の防御力の前では塵芥も当然よぉ!!
 ――なあ、輪廻!!!」
 武徳の乗る馬で盾を構える輪廻。
 やや馬のスピードは落ちるが、黒耀 がフォローに回れば大事ない。何より武徳を少しでも守る為には致し方ない判断だ。
 黒耀 の挑発はさらに喜兵衛を怒らせる。
「うぬぅ! ならば、射貫くのだ! やれっ!」
 喜兵衛は足を止める。そして、喜兵衛の声を受けて骸骨兵の弓部隊が進み出る。
 弓を引き、矢を番う。
 放たれた矢は放物線を描きながら、武徳の方へ落下する。
「させないよ!」
 武徳の斜め後ろをまくらと走るミュオ。
 アダマスの刃で矢を叩き落としていく。
 さらに輪廻が、盾で矢の飛来をしっかりとガードする。
 それでも数本の矢が武徳の間際に落下。もう少しで武徳に命中するところであった。
「ふぅ。何かに守られているようじゃな」
「くそぉ、武徳めぇ!」
 弓が当たらないと見た喜兵衛は再び走り出そうとする。
 足を止めた喜兵衛。それはまさに絶好の攻撃チャンスであった。
「待て」
 建物の間から、するりとすり抜けるように鞍馬 真(ka5819)が現れる。
 鞍馬はイェジド『レグルス』に跨がり、一直線に喜兵衛へ向かって行く。
「むっ!」
 突然の敵に喜兵衛が金砕棒で防御を試みる。
 だが、喜兵衛が反応するよりも早く、試作振動刀「オートMURAMASA」の一撃が炸裂。武徳の体に強烈な一撃が入った。
「わざわざ会いに来てやったぞ、喜兵衛」
 ブラッドバーストを乗せた一撃が武徳の体へ叩き込まれる。
 深い蒼色の毛並みを持つイェジドに乗って、一気に間合いを詰めたからこそ加えられた一撃だ。
 しかし、それでも。
「以前出会った優男か。さらに出来るようになったか」
「その言葉、もう一人の会いに来た奴にも言ってやるんだな」
「!?」
 飛来する手裏剣「八握剣」。
 喜兵衛は反射的に金砕棒で八握剣で弾き飛ばす。
「主役の登場だ。拍手で出迎えろ」
 喜兵衛の前に姿を現したのはアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
 その姿を見た喜兵衛は、再び顔色を変える。
「赤髪か。一体、どういうつもりだ。拙者と互角の力を持ちながら……これは何の真似だ?」
 喜兵衛は不満げだ。
 なにせ、以前アルトは怪力自慢の喜兵衛と正面から勝負を繰り広げていた。喜兵衛はアルトを優秀な兵士と認識していたのだが、今回は八握剣を投げるという遠距離攻撃。
 それもこの攻撃で倒せると思われているのなら、喜兵衛にとって侮辱も良いところだ。「なに、挨拶代わりだ。
 それより良いのか? かなり先まで行ってしまったぞ?」
「そうだったな。ここで道草を食っていても良いのか?」
 アルトと鞍馬は、進行方向を向く。
 その瞬間、喜兵衛は自分が何をしていたか思い出した。
「……武徳……武徳ぃ、武徳ぃぃぃぃ!!」
 怒れる猪武者は、再び突進を再開した。
 遅れを取り戻すかのように道を突き進む喜兵衛。
 だが、アルトと鞍馬もこのまま一人で進ませるつもりはない。
 鞍馬は、レグルスと共に建物の屋根へと駆け上がる。
「歓迎の準備はできている。楽しんでくれ」
 剛力矢を番えて骸骨兵を狙い撃つ。
 放たれた矢が骸骨の頭を貫き、吹き飛ばしていく。
 一方、アルトはイェジド『イレーネ』と共に喜兵衛へと肉薄する。
「ダンスのエスコートもできないのか。所詮は猪だな」
「抜かせっ!」
 金砕棒を振るう喜兵衛。 
 アルトは 超重刀「ラティスムス」で攻撃を受けるが、イレーネと共に一瞬よろけて小脇へ逃れる。
「邪魔をするからだ。待っておれ。武徳を叩き潰したら、次は貴様だ」
 アルトを無視して加速する喜兵衛。
 だが、まだ喜兵衛は気付かない。
 武徳の策が未だ進行中である事を――。
「まだダンスは終わりじゃない。お楽しみは……死のダンスは、これからだ」


 喜兵衛と骸骨兵の群れが黒狗城前の広場へ到達した。
 城へと続く道の前で、武徳と黒耀 、そして武徳の後ろには輪廻が守備を固めている。「そろそろです」
「うむ」
 黒耀 の一言に、武徳は小さく頷いた。
 すべては順調。あとは喜兵衛をうまく誘導するだけである。
「逃げるのを諦めたか、武徳。そこで待て。拙者が止めを刺してくれる」
「そう急くな。諦めるのは本当に最後の時よ」
「む?」
 武徳の一言に警戒を強める喜兵衛。
 だが、既に喜兵衛は目標の地点へ到達していた。
「今だっ!」
「トラップカード、オープン! 結界発動っ!」
 黒耀 の声と共に周囲に潜んでいた符術師が喜兵衛を中心に結界が発動する。
 光の方陣は喜兵衛とその周囲にいた骸骨兵の動きを縛った。
「おのれっ、まただまし討ちかっ! 卑怯なっ!」
「続けて鉄人形の砲撃じゃ!」
 武徳が合図を送る。
 それは出番を待ち続けていた二体の魔導型デュミナス――。
「ようやく出番だ。全弾叩き込む」
 カズマのVIRTUEは、マルチロックオンで複数ターゲット。
 狙うは、結界で動けない骸骨兵。
「4連カノン砲、砲撃開始」
 カズマは、引き金を引く。
 強烈な反動がVIRTUEに加わる。飛来するカノン砲は、結界の両端で炸裂。その衝撃で骸骨兵が派手に吹き飛んでいく。
 さらにスキルトレースで物陰で潜んでいたマリィアのArqueiroも行動を開始する。
「Arqueiro、行くよ。いつものように、うまくやればいいのよ」
 高速演算を起動。
 マシンガン「プレートスNH3」で結界を照準にロック。
 放たれる弾丸はいつもより加速され、骸骨兵と喜兵衛へ襲いかかる。
「ぬおおおっ!」
 吹き飛ぶ骸骨の群れ。
 先程まで動いていた骸骨達は、結界で縛られて逃げる事もできずにバラバラとなる。そして結界に居た喜兵衛もタダでは済まない。
 衝撃と弾丸が体を掠め、派手に突き刺さる。
 たとえ防御力が高い喜兵衛であっても甚大なダメージだ。
「……た、武徳めっ。だが、この結界とやらの効力も終わったぞ。体に自由が戻ってきたわ」
「まだ生きておるのか。だが、それも折り込み済みよ」
「ターンはまだ終わらない。カードオープン! ハンター召喚!」
 黒耀 は符を手にしながら、作戦の最終段階を告げる。
 輪廻は武徳の背後から降りると所定の位置まで移動する。
 さらに隠れていた他のハンター達も、作戦に従った陣形を取り始める。
「な、なんだ?」
 見回す喜兵衛。
 気付けば、喜兵衛を中心にハンターが敵の群れを取り囲んでいた。
 そこへ純白の毛並みを持つイェジドが一頭、歪虚の群れへ飛び込んでいく。
「言っただろう? お楽しみは、これからだって」
 アルトを乗せたイレーヌは、吼える。
 空気を震わせるような威圧感に周囲の骸骨達は、一瞬動けなくなる。
 そして、その咆哮が作戦を最終段階へと導いた。
「かかれっ!」
 武徳の号令が、かかる。


 作戦の最終段階。
 それは、ハンターと武徳の部下による歪虚の殲滅であった。
 周囲を包囲して一気に叩き潰す。
 武徳の策にかかった時点で士気を大きく落とした敵陣に、ハンター達は容赦なく襲い掛かった。
「まくら、ウォークライです」
 ミュオの指示を受けてウォークライで威圧するまくら。
 威圧で動けなくなる骸骨兵を、ミュオはアダマスで薙ぎ払う。
 ミュオの役目は確実に骸骨兵を倒していく事。ここで打ち損じれば、若峰の民に仇為すに違いない。
 必ず、ここで仕留めなければならない。
「作戦が成功しているだけあって、簡単に敵を倒せますね。
 ……あれ? もしかして、まくらは勝負を挑んでます?」
 挑発的な視線を感じたミュオ。
 見れば、息を切らせながらまくらがこちらの様子を窺っている。
 挑戦と受け取ったミュオは、まくらへ堂々と言い放つ。
「いいですよ。どっちが多く倒せるか、勝負しますか。
 勝った方がおいしいご飯を食べられるという事でいいですか?」
 ばふっと気のない返事を返すまくら。
 ミュオは満足そうに頷くと、アダマスを片手に敵を刈り始める。
「まくら、負けませんからね!」

 一方、黒耀 は輪廻と共に戦場を駆け回っている。
「まだターンは終わりじゃない。行け、輪廻!!」
 雪水晶を輪廻自身にかけさせ、小柄な体型を利用して骸骨達の足下を短刀「陽炎」で斬りつけていた。
 骸骨兵を完全に倒すまでには至らなくとも、行動を阻害させるには充分だ。
 それも包囲されて浮き足立つ骸骨兵ならば尚更だ。
「周囲の骸骨は、かなり減っているな。となれば……」
 黒耀 は、馬上から包囲陣の中央に視線を送る。
 この戦いも大詰め。黒耀 も仕上げに向けて動き出す。


「レグルスっ!」
 鞍馬はレグルスを駆り、前面の骸骨へブロッキングを仕掛ける。
 前へ行こうとしていた骸骨達。
 次の瞬間、鞍馬の試作振動刀「オートMURAMASA」による薙ぎ払いが炸裂。
 骸骨達は一撃で吹き飛ばされた。
「大事な時間を邪魔するな」
 鞍馬が言った大事な時間。
 それは、歪虚と化してまで真っ直ぐに進もうとしている猛将との戦いであった。
「ぬぐぐぐっ」
「どうした? これで終わりか? やはりダンスの相手は勤まらないようだ」
 アルトは、魔導ワイヤー「フェッセルン」で喜兵衛の右手を絡め取る。
 力自慢の喜兵衛であればワイヤーを引いてアルトを懐へ引っ張り混むかと思いきや、その願いは叶わない。
 いつもの状態であればアルトと互角な戦いも行えていた喜兵衛。
 しかし、武徳の策にかかってカズマのVIRTUEとマリィアのArqueiroの射撃を受けている状態だ。瀕死とも言うべき重傷を負った喜兵衛がアルトに力で勝てるはずがなかった。
「おのれ……」
「一つ良いか? 
 分かっているのか? 今、貴方が従っているのが秋寿の死を招いた元凶だという事を。過去の亡霊もどき……しかも、その体を操り詩天の名を汚している事を」
「…………」
 アルトの言葉に、押し黙る喜兵衛。
 あるとはさらに言葉を続ける。
「あの優しかった彼が。
 部下の為ならば、自身の命すら差し出すような彼が。
 詩天の為に尽くしていた彼が。
 たとえ死したとして……その地に住まう人を脅すのか?」
 アルトは、問いかけた。

 この詩天の悲劇を招いた人物。
 先代詩天を死に追い詰め、千石原の乱という悲劇を招いた者。
 その上、喜兵衛が敬愛していた三条秋寿という人物の殺害――初代詩天、三条仙秋という名の亡霊。

 喜兵衛は、この亡霊の存在を知っているのか。
 本当に怒りを向けるべきは、その亡霊ではないのか。

 その想いがアルトの口からこぼれ落ちる。
 ――だが。
「黙れ、黙れ、黙れっ! 秋寿様は蘇られたっ!
 こうして拙者を蘇らせてくれたっ! あの秋寿様が別人など認めぬぅぅぅ!」
 叫びながら暴れる喜兵衛。
 アルトは、その姿に憐れみさえ感じてしまう。
「やはり、歪虚となった故に通じないか……イレーヌ、双爪っ!」
 アルトはフェッセルンを力一杯引く。
 バランスを崩す喜兵衛。
 そこへイレーヌが狼牙「アマルティア」で一撃。
 さらにすれ違うように 超重刀「ラティスムス」によるアルトの一撃。
 僅かにタイミングをずらした連撃が、確実に喜兵衛の体を捉える。
「うぐっ!」
 強烈な一撃に片膝を付く喜兵衛。
 そこへ鞍馬とイグルスが歩み寄る。
 気付けば、骸骨の始末も粗方終わっている。残すは喜兵衛だけとなっていた。
「もう終わりだ」
「ふざけるな! まだだっ! こうなれば、貴様らも道連れにしてくれる!」
 喜兵衛は懐から宝珠を空へ掲げる。
 宝珠は漆黒に染まり、空に向かって黒い雲を生み出した。
 次の瞬間、雲の中から8メートルを超える僧兵姿の骸骨が振ってくる。
 突然の来訪者に驚く武徳の部下達。
 喜兵衛は、非情なる命を下す。
「行けっ! 勧進髑髏っ! すべてをぶち壊せっ!」


「新手か!? Arqueiro、行くよ」
 マシンガン「プレートスNH3」からマシンガン「コンステラ」へ持ち替えたArqueiro。
 アクティブスラスターで間合いを詰めながら、勧進髑髏へ弾丸を集中させる。
 CAMとほぼ同じサイズの勧進髑髏は僧衣を弾丸で破られながらも、錫杖を手にArqueiroへ近づいていく。
「大丈夫。確実にダメージは与えているはず」
 マリィアは、愛機に優しく声をかける。
 事実、僧衣の間から見える骨格。
 同じ場所に弾丸が命中してヒビが入っている箇所もある。決して倒せない相手ではない。高加速射撃と高速演算で、さらに弾丸を集中させる。
「どこを見ている。もう貴様のターンは終わりだ」
 馬で背後に回り込んだ黒耀 。
 レアカード【五光】を発動させて勧進髑髏へ攻撃。
 サイズ的な問題からか倒すには至らない。だが、黒耀 の狙いはそこではなかった。
 周囲に、一瞬広がる光が広がる。
 さすがに勧進髑髏の行動を阻害するまでにはいかなかったが、味方の行動を一瞬隠す事に成功する。
「随分、大層なモノを呼んでくれたものだ。倒し甲斐があるな!」
 レグルスで足下まで駆け込んだ鞍馬は、ブラッドバーストによる試作振動刀「オートMURAMASA」の一撃を叩き込んだ。さらに続けざまにレグルスのクラッシュバイトが勧進髑髏の足を捉える。
「!?」
 バランスを崩す勧進髑髏。
 そこへカズマのVIRTUEが、ハイパーブーストで突進する。
「もう大丈夫。後は、こちらに任せて敵対象に集中して欲しい。
 最低限そちらが片付くまで、時間稼ぎはこちらで行う。
 何、そんなに時間はかかるまい?」
 吹き飛ばされる勧進髑髏。武徳の部下から引き離されて、地面へ派手に転倒する。
 VIRTUEの手には斬魔刀。
 カズマは、接近戦にて勧進髑髏の動きを封じるつもりだ。


 切り札の勧進髑髏もハンターの前では防戦一方。
 今もカズマの斬魔刀で強烈な一撃が叩き込まれている。
 最早、時間の問題と言っても過言ではないだろう。
「喜兵衛」
 終わりを感じ取った武徳は、瀕死の喜兵衛の元に歩み寄った。
 歪虚と化した喜兵衛も、今が最期の時だという事が理解できているようだ。
「武徳、拙者は後悔しておらぬ。戦にこそ破れはしたが、再び戦場の華となる事ができた。もう一花、咲かす事ができたのだ」
「そうか……」
 感情を込めた喜兵衛の言葉に、武徳はそう返すのが精一杯だった。
 死してもなお、武士であろうとしたまっすぐな喜兵衛。
 だが、千石原の乱で違えた縁は、もう戻る事は無い。
「あの喜兵衛って人は……」
「かつて水野様のご友人だったそうです。千石原の乱で水野様が討たれました」
 ミュオの問いに、黒耀 は答える。
 黒耀 は事実を告げただけであるが、その言葉に多くの真実が隠れている事を知っていた。
 裏切らなければならなかった理由。
 武徳の胸裏にある想い。
 黒耀 もすべてを知る訳ではない。
 ただ、苦渋の選択だった事は知っている。
「仙秋……やはり許す訳にはいかない」
 アルトは事件を引き起こした三条仙秋へ意識を向ける。
 詩天の事件を引き起こした存在は、確実にこの手で終わらせなければならない。
 散っていった詩天の武士の為にも――。

「悪いが、これで終わりだ。還るがいい」
 離れた場所で勧進髑髏が地面に倒れる音が響き渡る。
 見れば、頭部に斬魔刀が突き刺さっていた。
 次の瞬間、勧進髑髏は黒い霧となって霧散する。
「やった……お疲れ様、Arqueiro」
 カズマの後方でアサルトライフルによる援護射撃を行っていたマリィア。
 思わず、体を座席へ投げ出した。
 後は――武徳の前で膝を折る歪虚が倒されれば、すべてが終わる。

「私にできるのは、その無念を受け止め、終わらせる事だけだ」
 鞍馬は喜兵衛の背後へ回った。
 手にしているのは試作振動刀「オートMURAMASA」。
 ――友に裏切られ、歪虚として蘇った喜兵衛。
 同情の念が無いとなれば、嘘になる。
 だが、歪虚である以上、見逃す訳にはいかない。

 一撃で首を刎ねる。
 それが鞍馬にできる唯一の優しさだ。

「喜兵衛、先に逝っておれ。すぐにわしも逝く。
 なに、そんなに長くは待たせはせぬ」
「抜かせ、大嘘つきめ」
 武徳への別れの言葉を告げた後、喜兵衛はゆっくりと目を閉じる。
 それを合図に鞍馬は、手にした刀を振り下ろした。


 ――こうして。
 若峰を巡る戦いの一つが、終焉を迎える。
 運命の掛け違いにより起こった悲劇が、また一つ幕を閉じた。

依頼結果

依頼成功度成功
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MVP一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマka0178
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ヴァーチェ
    VIRTUE(ka0178unit002
    ユニット|CAM
  • 純粋若葉
    ミュオ(ka1308
    ドワーフ|13才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    マクラ
    まくら(ka1308unit001
    ユニット|幻獣
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イレーネ(ka3109unit001
    ユニット|幻獣
  • 千の符を散らして
    黒耀 (ka5677
    鬼|25才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    リンネ
    輪廻(ka5677unit001
    ユニット|幻獣

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    レグルス
    レグルス(ka5819unit001
    ユニット|幻獣
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    アルケリオ
    Arqueiro(ka5848unit001
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
鞍馬 真(ka5819
人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2017/02/13 09:04:08
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/02/10 00:10:24