Dirty Green

マスター:楠々蛙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/02/11 22:00
完成日
2017/02/19 01:15

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 エチル臭と紫煙を孕んだ、退廃とした空気。
 そこは、うらぶれた酒場。店内に屯す数人の男達もまた、到底堅気とも思えぬ雰囲気を纏っている。
 時は夕暮れ。光源と言えば、窓から差し込む夕陽のみ。
 オレンジ色に照らされる店内で、男達はカード遊びに興じていた。
 だが、軋みを上げてスウィングドアが開かれるや否や、彼らは一様に、開閉を繰り返すドアへと視線を集中させる。いや正確には、スウィングドアを通り抜けて、店内へと足を踏み入れた男──バリー=ランズダウンを、だ。
 突き刺さる視線。険の籠められたそれを無視して、バリーは店の奥へと進む。暗緑色のダスターコート、その裾端が歩調に合わせてひらり、また、ひらりと揺れる。
 彼は、店の最奥に位置する丸テーブル、その席に着く男の前へ辿り着くと、歩みを止めた。天板の上に置かれているのは、空になった酒瓶。
 バリーは天版に突っ伏しイビキを掻く男を一瞥すると、彼が腰掛けている椅子の足を蹴った。椅子が男の尻の下から失せ、必然、男は床板に尻餅を突く羽目になる。
「な、なんだぁ、地面が落っこちやがった……?」
 出来上がった酔っ払いも、これには堪らず眼を覚ました。バリーは、朧げな視線を巡らす男に鼻を鳴らすと、彼の襟首を掴み上げた。
「な、なにしや──ガッ……!?」
「……聞きたい事がある」
 喚く酔っ払いの背を壁に叩き付け、バリーは問うた。
「ここいらで銃を扱ってるのはどいつだ? 何処に行けば会える」
 肺の空気を押し出され、喘ぐ酔っ払い。代わりとばかりに、他に酒場に屯す男達が、バリーへと応じる。無論、見た目通りの無法者である彼らは、問答よりも簡単で安易な手法で以って応えようとした。
 すなわち言葉ではなく、銃声を以ってして。

 BAANG!

 店内に響き渡った銃声は、しかし男達のパーカッションリボルバーから発せられた物ではなかった。
 一筋の硝煙を上げるのは、バリーの右手に握られたデリンジャー。手首を直角に曲げる独特の動作の後に、スリーブガンギミックによってダスターコートの袖口から飛び出した、上下二連の中折れ式デリンジャーである。
 放たれた弾丸は、最も早く抜銃を果たした男の肩口を貫いた。男は銃を取り落し、苦鳴を上げて蹲る。それを見た他の男達は、銃把に手を掛けこそしたものの、二の轍を踏むまいと抜銃を躊躇い、二の足を踏む。その気配をすかさず読み取ったバリーは、銃口を動かし、酔っ払いへ突き付けようとして、ふと──手を止めた。

 ──これが、あなたを守ってくれますように
 脳裏を過ったのは、とある少女が口にした祈りの言葉。
 
 動きを止めたのは一秒にも満たない間。バリーは再び手首を曲げて、デリンジャーを袖内に仕舞うと、銃把の台尻を前にして左ホルスターに納まる、ブレイクオープンリボルバーを引き抜いた。
「……手早く答えろ。その方が、弾代も浮いてこっちも助かる」
「ち、チクショウが……」
 顎元に添えられた凍える鉄の感触に、酒気も飛んだ男は忌々し気に舌打ちを漏らした。
「テメェ、一体なにモンだ……! 軍の人間には見えねえ、だとすっと雇われハンターか……?」
 男が返したのは、尋問への応答ではなく、誰何の問い。生殺与奪を握られた上で張った、精一杯の虚勢を鼻で哂い、バリーはコッキングによる最後通告を告げながら、答えた。
「どうしようもない、ただの男さ」



 土壁作りの家屋が林立する、坂の町。
 夕陽に背を向けてバリーが歩くのは、この町の中でも一等治安の悪い区画だった。通りの左右に並ぶ家屋からは、生活感が感じられない。が、何者かの気配だけは、先程から常に纏わり続けている。この区画に足を踏み入れたばかりの時は、まだしも慎みがあったが、今や隠すつもりはないらしい。寧ろ、縄張りに足を踏み入れたバリーに対して、威圧している節さえ感じられた。
「……そろそろ、か」
 肌に突き刺さる敵意が飽和するまでに濃くなったのを見計らって、バリーは足を止め、右手を外套の左前身頃へと差し入れた。とその時──
「──それは、オススメしないな」
 前方に立つ建物の陰から現れた男が、銃把に手を掛けようとしたバリーを制する。
 彼を見下ろすのは、然したる特徴のない東洋系の男。雑踏に紛れれば誰も興味を示さない、そんな印象の男である。その手は、空手。銃どころか、ナイフの一本も持ってはいなかった。
 しかしバリーは男の言葉に従い、五指を開いたまま右手を外套から引き抜いて、両手を挙げる。
 建物の玄関、屋上、そこかしこから向けられた銃口の群れの真っ只中に立つ彼に、他に取り得る術はなかった。酒場に屯していた男達とは、質も量も桁が違う。仮に指一本でも、ホルスターから突き出た紫檀(ローズウッド)の木目に触れようものなら、その瞬間にダスターコートは蜂の巣にされていた事だろう。
「さて、どうやらオレの事を探っていたようだが、用件を聞こうか?」
 ホールドアップするバリーを値踏みするように眺めると、東洋系の男はそう切り出した。
「……聞きたい事がある。答えてさえ貰えれば、すぐに立ち去ろう」
「内容次第、だな。何でも喋るわけにはいかない。わかるだろう?」
 肩を竦める男。別段、同調を求めたわけではないだろう。バリーは肯定も否定もせず、ただ問いの言葉を吐き出した。
「ギャレット=コルトハート。その名に聞き覚えはあるか」
 男の瞳が、僅かながらに揺れ動いた。やがて彼はかぶりを振る。
「……残念だ。答えるわけにはいかない問いだ。そして更に残念な事に、見送りもできそうにない」
 男が手を振り上げると同時、周囲から、コッキングの音が響き渡った。舌打ちを漏らす、バリー。
「こっちも残念だよ。……できれば、穏便に事を運びたかった」
「なにを──」
 眉を顰める、東洋系。構わずバリーは、右手の手首を直角に曲げた。直後──

 BAANG……!

 バリーの右方に立ち、カービンライフルを握る男のこめかみから、紅い飛沫が弾ける。銃声の発生源は、バリーの右手に納まるデリンジャーではない。別地点からの狙撃だ。
 周囲を取り囲む男達の注意が逸れるのを見るや、バリーはデリンジャーを手近な男の下肢に向けて銃爪を絞り、包囲を突破する。
 手狭な路地を駆け抜け、建物の陰に身を隠すと、外套の内から通信機を取り出した。


『おい、あの東洋人は殺すなよ!』
「わぁーってるよ」
 鉄火場から離れた地点にある貯水塔。錆びたキャットウォークに座し、硝煙上げるリボルビングライフルの銃身を突き出した左肘に乗せ、アイアンサイトを覗き込むキャロル=クルックシャンクは、傍らに置いた通信機から発せられる相棒の声に、舌打ちを返す。
「クソッ、狙撃はガラじゃ──っと、妙な連中が向かって来てんぞ」
 悪態を吐こうとしたキャロルは、鉄火場に近付いて行く集団を見咎め、照星から目を離した。
『まさか、新手か?』
「いや、あいつらは──」

リプレイ本文

 にゃぁ。編み籠を手に提げ、市場の陳列棚に積まれた野菜を物色していたラウラ=フアネーレの背後で、不意にルーナが鳴いた。この黒猫は無意味に鳴いたりはしない。いや鳴声のみならず、その一挙手一投足には、必ず何かしらの意味がある。
 それを知っているラウラは「どうしたの?」と、紅い根菜を握ったまま振り向いた。
「あ」すると、長い尻尾を揺らすルーナの向こうに、つい先日知り合ったばかりの顔を見付けて、思わず声を上げた。
「あ」猫の声に脊髄反射で反応し、視線をやった相手もまた、ラウラと眼を合わせて声を上げる。
「サクラ!」「ラウラちゃん!」
 ラウラと、町並みから浮く着物姿の宵待 サクラ(ka5561)が、同時に互いの名を呼び合った。



 近付いて来る足音を聞き咎めたバリーは、通信機を.四四口径のブレイクオープンリボルバーの銃把へと持ち替え、カップ&ソーサーグリップに構えた。
 撃鉄を起こすと同時に手狭な通路に人影が二つ飛び出して来る。息を吸う間も惜しんで、銃爪を絞った。敵の片割れを仕留めるも、もう片割れは健在。
 即座にコッキングしようとするも、まだ初弾を撃ち終えていない敵の銃の方が一歩先を行くのは、必然である。
 一髪千鈞を引く、その刹那。
 突如、新たに通路へ飛び込んで来た黒い塊が、先走った勝利の甘露に口端を歪ます男を弾き飛ばした。
 土壁に激突し昏倒する男から眼を離し、黒い塊──一匹の黒犬へと眼を向けたバリーは、そのシェパード犬に見覚えがある事に気が付いた。
「まさか……、マックス、か?」
 とその時、別の脇道から厳かに響いて来る足音に振り返り、銃口を走らせる。
「……!?」
 果たして、照星を覗く己の視線とかち合う.四五口径の銃口を備えた自動拳銃の主は、それもまた見知った男であった。
「エリー、か……?」
「バリーちゃん、か?」
 訝しむような声はやはり、エリミネーター(ka5158)のそれに相違ない。
 想定外の状況に二人が立ち竦むのも、そう長くはなく、
「どうして──」
 どちらともなしに、そう口を開いたかと思えば、互いの視界が銃を構える敵の姿を捉える。
「「っ……!」」
 お互い銃口の向きはそのままに、僅か照準を逸らして銃爪を引き絞った。
 .四四口径を受けた男がエリミネーターの背後で倒れ、.四五口径を受けた男がバリーの背後で頽れる。
 それを確認したバリーは、銃口を上げて、エリミネーターへ視線を向けた。
「それで、どうしておたくが?」
「軍からの依頼でね。ほれ、ついこないだ追っ払った強盗共さ。奴さん達に武器流した連中を追ってたら、この騒ぎだ。誰とドンパチやってんのかと思ったら、まぁさか、バリーちゃんとはねぇ。──んで、そっちの用向きは?」
「……野暮用だ」
 僅かな間を置いて応えるバリー。
 エリミネーターが言葉を返す前に、マックスが吼え声を上げる。彼もまた、意味なく吼える犬ではない。愛犬の声の意味する所を覚った主人は、軍用コートの内から、もう一挺の銃を引き抜き、外套の裾を翻してバリーの背後へと踊り出た。
 二つの銃口を、唸りを上げながらマックスが睨む先へと向けると、まさに路地の角から新手の鼻先が飛び出す所だった。躊躇う事なく左右の人差し指にトリガープルを掛ける。
 轟然と吼え立てる、二挺拳銃。雨あられと降り注ぐ銃弾が土壁を抉る。
「ここは請け負うぜ、バリーちゃんよ。──その代わり、今度酒でも奢ってくれよ?」
「──安酒でよければ」マックスを見遣り「勿論、ミルクも付けよう」と言って、バリーはその場を後にする。
 遠退く足音を背で見送ったエリミネーターは、賭けに出たか、銃を構えて角から飛び出した男に猛連射を浴びせた。
 頬を擦過する敵弾。しかし、男の太腿からも血飛沫が上がった。
 頬を走る紅い筋を指で撫でて血を拭い取ると、短く溜息を吐き、空になったマガジンを地面へと落とした。

 住人の居ない家屋、その二階の窓際で古ぼけた椅子に腰掛けながら、霧島 キララ(ka2263)は、ライフルに取り付けたスコープを覗き込む。 
 照準を動かして、レティクルの中心へ、一発の銃声を契機に騒ぎ始めた標的の一人を捉える。射程の距離は、予めゼロインに調整しておいた間合い。微調整の必要はない。
「……協力者が他に居るとは、聞いてない筈だがね」
 その事に関して気にはなるが、今は取り敢えず呟くだけに留めておいて、ともあれ彼女は銃爪を引いた。
 然程の距離ではない。撃発と着弾の時差は、殆ど同時だった。
 着弾点──標的の太腿から血飛沫が上がったかと思えば、それは地面の染みとなる事なく、紅い逆さ氷柱となって、元の宿主と同様に静止した。新たに別地点から狙撃を受けて、敵集団が混乱する最中、狙撃点を悟られる前に、更に彼女は立て続けに二度撃発を果たす。
 空薬莢と共に、エジェクションポートから吐き出される、冷気を孕んだ霧。形の良い唇に挟んだ煙草に点る火が、霧に触れて消える。見下ろせば、先端には霜が張り付いていた。
 舌打ちと共に、霧島は煙草を吐き捨てた。薬莢の転がる床へと煙草が落ちると、パッと氷の粒が弾けて霧散した。
 その時、屋上を駆けて行く軽やかな踏み足の音を聞き咎めた霧島は、椅子を軋ませながら立ちあがると、ライフルのスリングを肩に掛けた。
「さぁて、私もそろそろ場所を移すとしようか」

 屋上の縁に足を着けた霧雨 悠月(ka4130)は、躊躇いなく足場を踏み蹴り、空中へ身を躍らせた。
 一瞬の浮遊感。銀糸に変わった髪が、重力の枷を振り切ったかのように浮き上がる。が、それも束の間、すぐに放物線の頂点を過ぎて、霧雨は隣家の屋上へと着地した。
 衝撃にたたらを踏む間もなく、屋上に居合わせた敵ガンマンと視線が交錯する。
 銃口が動くより尚早く、霧雨は左手を一閃させた。掌中に秘していた手裏剣が風を切り、銃把を握る右手へと突き刺さる。
 銃を取り落したガンマンは、しかし諦め悪く、逆の手を腰の後ろへと回した。ベルトとジーンズの間に挟んでおいたポケットリボルバーの銃把へ手を伸ばす。が──
「よしたほうが良いと思うけど?」
 抜き放つその前に、一足で接近を果たした霧雨の刀、その鞘の鐺が左肩へと当たる。しかしそれはすぐに、一寸ばかりの間を空けて肩から離れた。
 ガンマンが霧雨を見遣ると、彼は小首を傾げてみせる。それでもヤルの? と火を着けるように。
 間は、たっぷりと三秒。
 やがてガンマンは、握った銃をゆっくりとした動きで放り捨てた。それを言外そうに見詰めた霧雨は、しかしにっこりと笑みを浮かべると「よくできまし、たっ」思い切り鞘を払って、ガンマンの顎を打ち抜いた。
 昏倒し倒れる男を見下ろした後、彼は鯉口を切り、僅かに覗く綺麗な刀身を見る。
「でもちょっとだけ残念かな。……ホントにちょっとだけなんだけど」

 銃声木霊す鉄火場に、パカラッと蹄の音を響かす、一頭の馬。その鞍上で手綱を握りながら、ディーナ・フェルミ(ka5843)は、半ば眼を回していた。
「ど、ドウドウなの~!」
 手綱を引き、というより口頭で告げると、賢いもので、騎手の言葉に従って馬は立ち止まった。
 ディーナは小柄な身体で懸命に足を延ばし、おっかなびっくりと馬上から降りようとした。が、見るも無残に失敗し、「うわわ!?」鞍から転げ落ちる。
 しかし、彼女の馬は中々にできた馬で、主の襟元を咥えて立たせてやった。
「おぉ、ありがとうなの♪」
 礼を告げるディーナに、いいから早よ行けとでも言わんばかりに、馬は鼻を鳴らした。



「今日は一人なんだね」
 手に持ったティーカップ、その中で湯気を立てるハーブティーを冷ましながら、宵待はテーブルの対面に座るラウラにそう問い掛けた。
 偶然再会した二人は、近くの喫茶店へ立ち寄ったのである。
 林檎の香りと、仄かな甘味のあるカモミールティーに口を付けると「ん、おいしい」と呟き、
「あとの──ええと、キャロルさんとバリーさんだっけ──二人はどうしたの?」
 と続ける。するとラウラは、何も言わずに一口、こちらはレモングラスを啜った。その反応に「……もしかして、聞いちゃダメだった?」と、声を潜ませる。彼女らの足下では、ルーナが深皿に注がれたミルクを優雅に舐めていた。
 ラウラは「ううん、違うの」と、首を振った。
「ただ、わたしにもわかんなくて」
 小さく音を立てて、カップを皿の上に置く。
「たまにね、あるんだ。そういうこと。なにも言わないで、どっかに行っちゃうの。ああいう時の二人は、もう戻って来ないみたいで、……こわい」
 宵待は、再びハーブティーを一口含むとカップを置き「ラウラちゃんは」と切り出した。
「ラウラちゃんは、知りたいの? 二人がどこに行くのか、なにしに行くのか」
 問われて、ラウラは視線を落とし、手元のカップを見詰めた。薄れた湯気の奥に映る唇が「……知りたいよ」と呟く。
「知らないままなのは、イヤ。……けど、それはわたしのワガママだから」
 顔を上げて、しょうがないよ──と、彼女は笑う。独り、くすんだ鏡の前で浮かべるような、そんな笑顔だった。
「わ」考える間もなく、宵待はテーブルに手を付き、身を乗り出していた。
「ワガママなんてことないよ! 家族を心配して、なにを悩んでるのか知りたいと想うのは、当然のことだよ!」
「家族……?」ラウラはその言葉に反応した。首から提げた細鎖に通してある二つの指輪に、思わず指先が触れる。
「そっか……、うん、家族か」
 また、彼女は笑う。今度は、何処かくすぐったそうな、そんな笑顔だった。
 それを見て安堵の溜息を零した宵待は、萎むように椅子に座り直した。
「きっと今は、まだ痛いままなんじゃないかな。触れられたら痛いから、手を伸ばされても、拒んじゃうよ」
 でも──
「触れられる人が居るなら、それはラウラちゃんだけなんじゃないかな」とそこまで言って、少し気まずそうに「──なんて、わたし勝手言ってるね」と頬を掻く。
「ううん、そんなことない」
 ありがと、サクラ──とラウラは笑いながら、そっと指輪を握り締めた。『家族』という言葉は、暖かな想いを甦らせると同時に、なにか不吉な予感を孕んでいた。



 連城 壮介(ka4765)は、一人のガンマンと対峙していた。
 彼は既に血に濡れた刀を振り、血を払う。地面に紅い孤を描くや、連城は刀を鞘内に納めた。そして左脚を僅かに後ろに退くと、右の手を柄の上に掲げてみせる。
 対するガンマンも、無言のまま右手のリボルバーを、ガンスピンを交えてホルスターに戻す。そしてやはり同じく、銃把の上に右手を翳した。
 一陣の風が流れる、吹かれて転がるタンブルウィード、巻き上がる砂塵。
 やがて風が止んだその刹那──両者は己が得物を握っていた。
 銃声、刃鳴り──そして斬響。
 横一文字に奔った刀身、その刃の上に、二つに別たれた鉛玉の半身があった。
 連城はひそやかに笑う。そしてガンマンはと言えば、彼もまた笑っていた。喉元を裂いて作られた、第二の口で以って。
 刃風は巻かなかった。両者の間に立ち込める砂塵には、弾丸の軌跡が残るのみ。連城の剣気が狭間を超えて、一筋の刃閃としてガンマンの喉元で発現したのである。
 これぞ舞刀士、秘奥の剣技──次元斬。
 刀身に乗った鉛の欠片を振り落として、刀を鞘へと納める。金丁の音と同時、頽れるガンマン。
 連城は苦笑を零した。
「いけませんねぇ、ついつい興が乗ってしまいました」


 バリーは土壁に黄燐マッチの頭薬を擦り付けると、生じた火花を、折れ曲がった咥え煙草の先端に近付けた。放り捨てたマッチを踏み出した足で踏み躙り、シケモク独特の苦い煙を深く吸い込む。
 ジリリと灰が進む。
 武器密売組織の郎党はあらかた片付いた。頭目である、東洋人を除いては。
「──それは、オススメしないな」
 吐き出した紫煙の奥から、東洋人を見据えるバリー。その忠言を無視して、男は隠し持っていたデリンジャーを引き抜いた。

 BAANG……!
 銃声と殆ど同時に、たなびく煙の幕に風穴が開き、血飛沫が散る。

 撃発を果たせぬままデリンジャーが地に落ち、その銃身を血滴が濡らす。ダスターコートの肩を撫ぜながら飛来した鉛玉が、男の肩口を貫いたのだ。
 バリーは足を振り上げると、真新しい銃創を踏み抜き、男の肩を赤錆の浮いたダストボックスへと押し付けた。苦鳴を上げる男の耳元に、咥え煙草を寄せて囁き掛ける。
「今度ばかりは、しかと答えて貰おうか。──ギャレット=コルトハートは何処に居る」
 その途端、苦鳴を堪えて、男は喉を震わせた。
「哂うぜ、あんた──今まさにゲロしようとしてるこの俺を、あの男がほっておくと、本気でそう思ってるのか?」
 その返答を聞いて、僅かにバリーが身を退いた、まさにその時だった──

 見ぃつけた♪

 煙草の先端が吹き飛ぶ。
 血滴が、パタタ──と僅かにバリーの頬へ跳ねた。こめかみに仄暗い穴を開けた男が、ふらりと横に倒れた。と同時に、ようやくバリーは彼方から木霊す銃声を耳にした。
「──っ!?」
 ダストボックスの陰へと飛び込み、狙撃点があると思しき方角から身を隠す。しかし、いつまで経っても次弾はやって来なかった。
 随分と短くなった煙草を吐き出し傍らに倒れた死体を見遣ると、バリーは握り締めた拳をダストボックスへと叩き付けた。


 土壁に背を押し付けながら紫煙を燻らすバリーは、歩み寄って来るディーナに気付くと、煙草を地面に落として踏み躙った。
「どうした、ミス・フェルミ。怪我人の治療はもう終わったのか?」
 ディーナは応える事なくバリーの間近まで近付くと、真下から彼の顔を睨み付ける。かと思えば、唐突に彼女はバリーの足を踏み付け、更に渾身のボディブロゥを叩き込んだのだ。
 寸での所で掌を差し入れたバリーは、あぁ──と言葉を探すように呻く。
「これは失礼、平手を黙って受けるくらいの甲斐性なら持ち合わせがあったんだが。こいつはどういうワケかな?」
 ディーナは拳を退かぬままにバリーをキッと見ると「ラウラちゃんは」と声を上げた。
「ラウラちゃんは、ちゃんと知ってるの?」
 バリーの碧い瞳へ、一転して眼を伏せたディーナが映り込む。
「わたしはバリーさん達の事情は知らないし、無理して聞こうとは思わないの」
 また、若く力強い紫苑の瞳が「でも」と上を向く。
「それでも、ラウラちゃんだけには、打ち明けて欲しいの。もし、もしもそれがダメだったとしても、──そんな顔してあの子のところに帰るのだけは、絶対に許さないから」
 掌を通して伝わる、拳の震え。眼を見開いたバリーは、やがて微笑を浮かべた。
「──感謝するよ、ミス・フェルミ。これからも、ラウラと仲良くしてやって欲しい」
「言われなくたって、そうするの!」
 ふんすと鼻を鳴らして、ディーナは胸を張った。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 8
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 愛憐の明断
    霧島 キララ(ka2263
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士
  • 感謝のうた
    霧雨 悠月(ka4130
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 三千世界の鴉を殺し
    連城 壮介(ka4765
    人間(紅)|18才|男性|舞刀士
  • クールガイ
    エリミネーター(ka5158
    人間(蒼)|35才|男性|猟撃士
  • イコニアの騎士
    宵待 サクラ(ka5561
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン ブリーフィング
エリミネーター(ka5158
人間(リアルブルー)|35才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/02/09 07:38:07
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/02/08 06:51:53