大人になる方法

マスター:KINUTA

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2017/02/16 19:00
完成日
2017/02/23 01:01

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング




 大晦日にえらい目に遭ってから一月足らず――カチャは母ケチャから『ちょっと話があるから戻ってきなさい』という旨の手紙を受け取った。
 もちろん手紙なのだから無視することは出来る。
 だが、そうすると確実に母本人がリゼリオまで上京してくる。
 それだけは避けたいという一念のもと、カチャは、帰省することとなった。


●部族の郷


「ただいまー」

 頑丈な木組みの家屋。
 扉を開けたカチャを出迎えたのは、弟キクル。
 年末は寝込んでいたが、今はすっかり元気な様子だ。

「お帰りお姉ちゃん」

「ただいま。お母さんはどこにいます?」

「お蔵にいるよ。何か探しているみたい」

「機嫌が悪そうとか、そういうことはない?」

「ううん、特にはなかったけど……お姉ちゃん、またどこかで借金したの?」

「してないっ」

「じゃあなんでそんなにお母さんの機嫌、気にしてるの?」

「あのねキクル、大きくなると色々あるの」

「色々って?」

「そりゃ……何かとたくさんあるってことかなあ」

 茶を濁していたところ、父が出てきた。台所仕事をしていたらしく、割烹着姿である。

「おや、お帰りカチャ」

「ただいま、お父さん」

 これ幸いと弟との会話を打ち切りし、足早に蔵へ。
 いったん呼吸を整えてから、戸を開ける。

「ただいまー……」

 奥の方で何かを探していた母、ケチャが振り向いた。

「ああ、帰ってきたのねカチャ。ちょっとこっちにいらっしゃい」

 カチャはぎこちない足取りで母のもとに歩み寄り、毛皮の上に座る。

「あのー、お母さん。話って一体何?」

「あなた、この間うちに来た子と結婚するつもりなの?」

 前置きなしの直球に、カチャ、動きを止める。

「……い……いや……どうなのかな……まだ話はそこまで……いってないけど……」

「『まだ』っていうことは、する気はあるわけかしら?」

「……えっと……お母さんあの子は女の子ですけど……その点こう問題とかは……」

「別にないわよ」

「……そ、そう……」

「そんなことより、うちの部族は外部のものと婚姻する際、嫁取り婿取り以外の形はとらないってこと、ちゃんと話した?」

「う、うん。部族に入らなくちゃいけなくなるっていうことは、話して……」

「返事は?」

「……そうしてもいいってことでした」

「あらそう。それなら確定ってことね」

「い、いやちょっと待って、あのーう」

「何」

「よその人にうちの部族に入ってもらう時って、入れ墨しなくちゃいけないでしょ?」

「そうよ」

「前から思ってたんだけど……あれ、別になくてもよくないかな……」

「何を言ってるのあなたは。なくていいわけがないでしょう。入れ墨は、守護精霊との契約を示すものよ。まあそれはさておき結婚云々言い出すんだったら、その前にあなた、成人式済ませておかないとね」

 と言いながらケチャは、毛皮の包みを取り出した。
 それをカチャに渡す。開いてみるとそこには、斧が入っていた。

「これで首を取ってきなさい。一人でね――――人間以外の首」

 一体何が起源なのか知らないが、成人の証しとして首を取って来いというこの奇習、どうにかならないのか。とカチャは思うのであった。


●ジェオルジ山中


 最近この地では、冬眠しそこなったオスの大熊が出没して、人間を襲うようになった。
 家畜の被害が既に何件も出ている。通常より二回りは大きい熊であり、頭がよい。
 猟師に駆除を頼んでみたがことごとく罠を避けられ、うまくいかない。
 どうしたものか頭を悩ませていた所、折よく、カチャと名乗るハンターが話を聞き付け、是非駆除したいと申し出てきた。特に報酬もいらないからと。
 住民は、ひとまず任せてみることにした。
 それから丸二日たった。
 熊は出てこなくなった。
 しかし意気揚々山に入って行ったハンターもまた、帰ってこない。
 住民たちはひそひそ囁きあった。

「……おい、まずいんでねえだか? あの娘っこ、山ん中で死んどるんでねえか?」

「確かめに行くべか?」

「待て待て、万一まだ熊がおったらおおごとじゃで。まずはハンターオフィスに問い合わせてみるべ」


●勝者、カチャ


 意識の空白から覚めた瞬間、カチャを激痛が襲った。

「……つ……」

 浅い息を吐きながら、自分自身に回復魔法をかける。
 なんとか体が動くようになってから、やっと周囲を見回す余裕が出来た。
 目の前にあるのは逆さになった熊の顔。歯茎と黄色い犬歯が剥き出しだ。頭蓋が割れ脳漿が飛び出している。
 剛毛に包まれた体は、ガチガチに固まっていた。死んでからそれなりの時間がたっているようだ。
 見上げてみれば、岸壁。
 眩しげに目を細めるカチャは、徐々に、どうして自分がここにいるのか思い出してきた。

(……あー、そうだ……熊を狩りに来て……最後格闘みたいになって……崖から落ちたんだった……)

 改めて周囲をよく見れば、ごつごつの岩棚。まともに当たっていたら自分も危なかったと、今更冷や汗をかき、改めて身の回りを点検する。
 離れたところに斧が飛んでいた。他の所有品も。
 それらを全てかき集めてから、改めて斧を手に取り、熊を見下ろす。ごわごわの毛を撫でて、呟く。

「……すいませんね……」

 切り離した熊の頭は、かなり重かった。


リプレイ本文

 ハンターたちは仕掛け罠がある箇所を避け、冬山を進む。
 熊は罠のある場所に出没しない。であるならそこにカチャがいる可能性は低い、と踏んで。
 リナリス・リーカノア(ka5126)が鳴らすタンバリンの音。それに合わせて吠える彼女のコリー、レオポルト。
 その合間合間に挟みこまれる、ミグ・ロマイヤー(ka0665)の話し声。

「あのカチャ殿が死ぬことは万に一つもないであろうが心配よな」

「そうなんだよねー。山に入る時、たいした装備してなかったらしいし……食料も持ってないんじゃないかなあ」

「そのへんは大事無いじゃろ。遭難一週間で生存した人間がわさびマヨネーズで生き延びたなんて話もあるように、飯は無くとも高カロリーな少量の摂取物があれば、人間生きて行ける。カチャ殿には獲物の熊がある。一カ月は余裕で生存可能じゃろう」

 ディヤー・A・バトロス(ka5743)はじゃれてくる飼い犬の頭を押しのけつつ、舌なめずりした。

「ワシ食ったことあるが、熊肉はいいぞ。絶品じゃ」

 ステラ・レッドキャップ(ka5434)は、いささか柄の悪い口調で言う。

「どんな肉だって生じゃしょうがねえだろ。つうかよお、カチャ自身が罠にはまってる可能性は本当にねえのか?」

「いや、いくらカチャ殿でも、さすがにそれはやらんと思うが」

「そうかあ? 自分から進んで落とし穴にはまるタイプじゃねえ? あれ」

「……言われてみればそうかもしれんの……」

 つい納得しそうになるディヤー。
 彼に代わってエルバッハ・リオン(ka2434)が、場にいないカチャを弁護する。

「それはないでしょう。カチャさんも罠のある場所は避けているはずですよ。ああ見えて、生存能力は高いですから」

 唐突に、バサッという音がした。
 水城もなか(ka3532)が、すかさず銃口を向ける――単に枝から雪が落ちただけだった。
 しかしもなかは木から視線をそらさない。見つけたのである。幹に刻まれた爪痕を。

「皆さん、あれ」

 彼女が指さす方を見たステラは、思わず顔をしかめる。

「前足があの位置まで届いてるってこたあ……余裕で3メートルあるんじゃねえか?」

 レオポルトが高速後ずさりをし、リナリスの後ろに隠れた。
 それを見たミグは、小声でリナリスに問う。

「……リナリス殿、この犬は使い物になるのかの?」

「あはは、この子ちょっと臆病で。もー、レオったら、すぐびびっちゃうんだからー」

 そこに、雪を踏む足音。
 先行していたルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が戻ってきたのだ。

「皆さん! ニンジャセンサーともふらちゃんが、それっぽい足跡を見つけましたー!」

 吉報だ。
 リナリスはレオポルトに、懐から取り出した布切れを掲げ見せる。

「これは密かに奪……借りたカチャのパn……下着! レオ、この匂い嗅いでカチャの足跡を辿るんだ♪」





「もし途中で川から上がってどこかに行こうとしている足跡とか匂いを見つけたら教えるの」

 ディーナ・フェルミ(ka5843)は飼い犬にそう言い聞かせ、ゴースロンに跨がった。
 彼女は仲間と別行動。沢沿いのルートを溯って、カチャの捜索をする。

「カチャさん聖導士だった気がするの。聖導士がフルリカバリー使えば大抵の怪我は治るの。それで治らないって……川に落ちて風邪を引いたとか実はまだ元気に熊と格闘中とか……?」

 格闘中は別としてもし川に落ちたとするならば、どこかの洞窟で暖を取っているものと思われる。ならこうやって川の付近を探していれば、遭遇出来ることだろう。
 期待しつつ岩だらけの川辺を進む所、犬がはたと立ち止まった。
 馬がふうっと鼻息を吹く。
 ……どこからか微かに、狼の遠吠え。
 ハンターが熊はもちろん狼に後れを取るとも思えないが……何しろ、今どんな状態にあるのか不明なのである。

(早く見つけてあげないと)

 新たに気を引き締めたところに、トランシーバーから、ミグの声が聞こえてきた。

『ディーナ殿、カチャ殿は見つかったかの?』

「いいえ、それはまだ……そちらはどうですか?」

『うむ、こちらはのう、戦闘の痕跡を見つけた所じゃて……』





「何分にも派手にやらかしたらしいのぅ」

 言いながらミグは、へし折れた木の幹を叩いた。
 斜面に生えている木立のいたるところ爪痕と、刃物で切られた跡だらけ。
 背の低い潅木の茂みは軒並み踏み荒らされ、圧しひしがれている。
 滑落の痕跡が崖の縁まで続いていた。カチャが熊と一緒にここから落ちたであろうことは間違い無さそうだ。
 リナリスは、恐れげもなく絶壁から身を乗り出した。
 なにやら灰色をした生き物が、崖下に蠢いている。
 ステラともなかも身を乗り出し、はるか下方に目をすがめる。

「……山犬……かの」

「……いや、ありゃあ狼じゃねえか?……何か食ってんな、あれ……」

 リナリスの顔に、一瞬焦燥が浮かぶ。
 その思うところを察し、ディヤーが言った。

「大丈夫じゃ。カチャ殿は、狼に食われるようなタマではない――よくわからんが、大切な人なのじゃろ? 信用してやってよいと思うぞ」

「――うん、そうだね」

 ルンルンが、横に並んだ。

「カチャさん、大丈夫かな……」

 呟いた後彼女は、はっと目を見開く。

「……まさか熊に飯綱落としを決めて下に……この世界に忍者界屈指の必殺技が伝わっていたとは驚きです……」

 感銘を受けた面持ちで、式符を崖の下に落とす。

「ルンルン忍法分身の術!」

 急に降って来た闖入者に狼たちは驚き、騒ぎ立てた。そのせいで群れが少しばらけた。下の様子がより見えるようになった。
 食われていたのは、大きな黒い塊。人ではない、獣だ。
 もなかは、担いでいたロープをその場に置く。

「使ってください。先に見てきます」

 両足の裏を崖の壁面をつけ、走り降りて行く。
 リナリスはレオポルトを負ぶい紐で固定した。
 もなかが残していったロープを自分、リオン、ステラ、ディヤーのロープと手早く繋ぎ合わる。
 片方を手近な木に、もう片方を自分の腰に結わえ付ける。

「あたしがロープを下まで降ろすから、それを使って!」

 言って、崖の下に降りて行く。ショットアンカーで落下速度を緩めながら。
 ステラ、ミグ、リオンが後に続いた。
 ディヤーはリナリスがしたように犬を負ぶい、ロープを伝い降りて行く。

「付き合おうてもらうぞ犬! よいか、暴れるでないぞ、ましてちびったりしてはならんぞ!」

 ルンルンは、一番最後になった。連れてきた忍犬もふらと忍猫ネガポジを、それぞれ背中側と腹側にくくりつけるのに手間取ってしまって。





 カチャは風の当たらない岩陰で、何度目かの休憩を取った。熊の頭を地面に降ろし、その上に座り込む。斧を足の間に挟み込んで。
 口をついて出るのは、目下骨身に染みて感じているところ。

「……あ゛ー……お腹すいた……」

 こんなことなら熊の肉を少し剥いでくればよかったかも知れないと思い、ため息をつく。
 そこに、犬の吠える声が聞こえてきた。

「……ん?」

 岩陰から出てみれば、色のついた煙が空にたなびいているのが見えた。
 下手から犬が走ってくる。人を乗せた馬も、近づいてくる。





 崖下に降りたもなかは、銃口を宙に向け引き金を引いた。
 発砲音に狼の群れはぎくりとし、場から離れる。しかし完全には逃げない。遠巻きにしている。
 そこにステラの射撃とリオンのウィンドスラッシュが、追い打ちをかけた。
 狼たちは踵を返し走り去る。
 群れが消えた後に残っていたのは、身の大部分を食われた頭部のない熊の死骸。
 ステラはしゃがんで、首の根元を観察した。落下の衝撃でもげたのではない。刃物で切断されている。
 とくれば、カチャがここに居た可能性が高い。次いで、移動した可能性も。
 外にも何かないか探したが、岩場にこびりついた血以外、目ぼしい物は見当たらない。

「水源から離れては行くまいて。このあたりから重点的に調べて行く必要があるのう」

 とミグが言ったとき、ディーナからの緊急連絡が入った。

『カチャさんを見つけたのー』

「なぬ、本当か! それはよかったのう。大事無さそうかの」

『はい、随分疲れているみたいですけど、元気そうなの』





 ゴースロンから降りたディーナはカチャにケープを被せ、フルリカバリーをかけた。見るからに疲労困憊な様子だったので。
 それからブランデーを振る舞い、一通りの事情を聞く。仲間が来るまでの間。

「――というわけで、部族の習わしなんですよね、これ」

「カチャさん凄いの、これで部族の試練クリアなのおめでとうございますなの。首から下がないのは熊鍋できなくて残念だけど、カチャさんが無事の方がうれしいしおめでたいの」

「ありがとうございます――」

 カチャは不意に立ち上がった。誰かに呼ばれたような気がしたのだ。

「……?」

 ゴムボートが下ってきた。
 乗っているのが誰なのか見て取ったカチャは、手を振る。

「あー、リナリスさん! もなかさん!」

 カチャの姿を認めたリナリスはボートが岸につけられるのも待たず、飛び降りた。

「リナリスさん、危ないですよ!」

 もなかの注意も聞かず膝まで急流に浸し、カチャの元に駆け寄ろうとする。

「何してるんですかリナリスさん!」

 手を貸すため岸から降りてきたカチャの姿を前に、彼女は、声を詰まらせる。

「無事だったんだね、よかっ……」

 いつも通りに振る舞おうとする先から声が震え、涙が出てくる。

「あ、あれ?……っ……うわあああん!」

「わっ!?」

 感極まってカチャに抱き着くリナリス。レオポルトを加えた重みに負けて、水の中に倒れ込むカチャ。
 徒歩で下って来た一同が現場にたどり着いたのは、ちょうどその時であった。
 ミグは、好々姥然と目を細める。

「青春じゃのお」

 ルンルンも頬を染め、目を細める。

「愛ってすばらしいですね」

 翻ってステラは、冷静に物事を見ていた。

「おい、なんか流されかけてんぞあいつら」

 リオンはロープの先を結んで輪にし、カチャたちに向かって投げる。

「仕方ありませんねえ。これを掴んでください!」

 カチャたちがロープを頼りに岸へ上がってくるのを見届けたディヤーは、枯れ枝を探す作業にかかる。どちらにしろあれでは双方ずぶぬれだ。火がないとどうにもなるまいと。

「全く無茶をするのう」






「よかった心配したのです……これでも飲んで落ち着いてください」

 ルンルンが水筒から差し出したのは、熱いお茶。
 それを受けるカチャの手は震えていた。

「どどどうもルンルンさん」

 歯の根も合っていない。
 たださえ寒い中全身ぬれねずみなので、無理からぬところ。
 ステラは持ってきた毛布を、カチャの頭にかけてやった。

「2日も山の中って……あまり無茶な事するなよ?」

「……本当はもっと早く片が付くはずだったんですけどね……わざわざ探しに来ていただいて、ありがとうございます」

 そう言ってカチャはひとつ、大きなクシャミ。ステラは照れ隠しなのか目をそらす。

「ま、とりあえず顔を拭く手間は省けたな」

 リナリスは、カチャの袖を引く。

「カチャ、とりあえずその服脱いじゃお。風邪引くよ♪」

「え? 私替えの服持ってきていませんよ」

 そこでルンルンも、すかさず毛布を差し出した。

「大変、冷えは天敵だもの……麓に降りる活力の為、リナリスさん、思いっ切り暖めあっちゃってください!」

「いや、ルンルンさん、そ「ありがとールンルン! それなら遠慮なく使わせてもらうねー♪」

 カチャが、ステラの張っておいたテントの中に引きずり込まれて行く。

「ちょっと待ってちょっと待って何してるんですか!」

「えー、どこかに傷が残ってないかなーと思ってぇ、確認♪」

 ミグがテントの中に頭を突っ込み、注意。

「これこれ、戯れは後にせえ。体力が戻ったらすぐ山を下りなければならんでな」

 ステラは、ディヤーが起こしている焚き火に手をかざす。
 近くに置かれている熊の頭を横目にすれば、リナリス、ルンルン、ディヤー、ディーナの犬たちが匂いを嗅ぎ回っていた。
 猫のネガポジのみが火の側に丸まり、知らん顔。

「……つーか、結局何で熊狩りなんかやってたんだ?」

 それについてはディーナが説明する。

「あのね、カチャさんの部族では、男の子も女の子も、自分一人で獣の首を取ってこないと、成人出来ないらしいの」

 近くの枯れ枝を取ってきたリオンが、口を挟む。

「よくある話ですね」

 ディヤーもうんうん頷いた。

「左様。部族の通過儀礼としてよくあるパターンじゃ。獣を狩るというのは」

「あ、昔はカチャさんの部族、獣じゃなくて人の首を取ってこいだったみたいなの。でも40年くらい前から止めたそうなの。ほかの部族といざこざが絶えないの、この風習のせいじゃないかって気づいて」

「ソフト路線に変更したわけですね」

「抗えぬ時代の流れという奴かのう」

「その時点まで気づけてねえあたりがホントすげえわ」

 ステラが半眼になったところで、ミグが、濡れた服を抱えやってくる。

「さあさ、どんどん薪を入れるがええ」

 焚き火の側に枝を突き刺し、服をかける。
 テントから、毛布にくるまったカチャとリナリスが出てきた。

「ひゃー、あったかい」

「生き返りますよ」

 ややもして、村人達へカチャの無事を知らせに行っていたもなかが、ゴムボートを担ぎ戻ってきた。

「あたしも当たらせてくださーい」

 服が乾くまでの間、カチャは、改めて部族のしきたりやら何やら説明することとなった。ナッツとチョコとブランデーの補給を受けつつ。どうして成人式をすることになったのかも。
 全部聞いた後でリナリスは、改めてカチャに抱き着く。力一杯に。

「もー、カチャったらあたしのためにそこまで!」

 ディーナは心から感動した面持ちでカチャの手を取り、ぶんぶん振る。

「結婚するために試練を受けるなんて女の子の夢だと思うの。カチャさんはエクラ教徒じゃないかもしれないけど、力一杯祝福するの」

「あ、ありがとうございます」

 私だったら結婚するために試練を『受ける』より『受けさせる』方がいいなあ、と密かに思うルンルンは夢見る乙女。
 しばらくして一行は、山を下りた。焚き火をきちんと消して。

 村に戻ったカチャとリナリスは、身繕いのため風呂を貸してもらった。そこでいかなる事が話されたかについては、二人だけの秘密事項である。






 リナリスが取った狩猟記念写真と熊の首の現物をとっくり見回し、ケチャは、満足そうに笑む。

「よくやったわね、カチャ。これなら成人式に使うのに、遜色ないわ」

 カチャはほっと安堵の息を吐いた。駄目、やり直しとか言われたらどうしようかと思っていたので。
 そこに続けて以下の言葉。

「早速今から1人で山に入って守護精霊に成果を報告してきなさい……なんて顔してるの。当然でしょう。大人になるっていうのは、そう簡単なことじゃないのよ?」

 試練は、まだまだ続く。


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  • また、あなたと
    リナリス・リーカノアka5126
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜ka5784
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミka5843

重体一覧

参加者一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 特務偵察兵
    水城もなか(ka3532
    人間(蒼)|22才|女性|疾影士
  • また、あなたと
    リナリス・リーカノア(ka5126
    人間(紅)|14才|女性|魔術師
  • Rot Jaeger
    ステラ・レッドキャップ(ka5434
    人間(紅)|14才|男性|猟撃士
  • 鉄壁の機兵操者
    ディヤー・A・バトロス(ka5743
    人間(紅)|11才|男性|魔術師
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
リナリス・リーカノア(ka5126
人間(クリムゾンウェスト)|14才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/02/16 18:45:26
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/02/13 11:52:57