ゲスト
(ka0000)
【万節】りんご飴が食べたい
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/14 19:00
- 完成日
- 2014/10/21 07:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●食べるために
「リンゴが旬になる季節だ」
エルヴィンバルト要塞の食堂で、カミラ・ゲーベル(kz0053)は窓の外を眺めた。
マーフェルスを含む近隣地域ではリンゴが広く生産されている。
大体は酒の材料になるのだが、この時期のリンゴは旬で一番美味しく、一般にも多く出回る。
近隣では帝国が強く推しているじゃが芋、次いで玉葱。そして量は少ないけれども甘い芋、リアルブルーで言うところのさつま芋も作られている。そこに果物のリンゴも加わり、甘いものに対して他よりも少しばかり貪欲な嗜好が人々の生活に根付いていた。
「もうすぐポテトアップルパイの時期ですねー」
カミラに紅茶をおいたのは、主計兵のジークリット・ブランシュ上等兵。ウェーブのかかった髪を高い位置でひとつに纏め、モノクルをつけた女性だ。
「もうそんな時期か」
この地域ではいいことがあると、お祝いに甘く煮たリンゴとサツマイモを使ったパイを食べる習慣がある。
のんびりと紅茶を一口。その甘い味に首をかしげた。
「ジーク、新しいシロップか?」
「さすがですねーカミラ様。ずっと試作していて、やっと完成したキャンディシロップなんですよ」
一番に味見していただきたくて。微笑むジークリットは機導師でもある。こうして料理と機動術の観点をあわせた試作品ができるとカミラに出してくる。
「いい味だ。次の師団長デーまでに量産できるか?」
シュラーフドルンでは月に数回、カミラが師団全員の昼食を作って振る舞う日が設定されている。カミラが珍しい食材を買い込んだ時や、ジークリットの試作品は、いつもそこで第三師団の面々に供されていた。
「もうできてますー」
これで何を作ろうと想像するカミラに、ジークリットは銃を手渡した。
「これは?」
ウォーターガンのようにも見える。しかし水よりも重い何かがカートリッジに詰められている。
「シロップの用途、食用だけではないのですー」
紅茶に入れたものと同じシロップが充填してあるらしい。
「去年、カミラ様がリンゴ雑魔を食べたいとおっしゃってたので作ってみましたー」
本来ならば倒すと消えてしまう歪虚だが、例外は存在する。例えば歪虚になったばかりの動物を、すぐに倒した場合等は死体がその場に残ることがある。ごく稀にだが、そういった動物の肉は本来よりも美味になっていることがあるのだ。
その話を元に、カミラは去年リンゴ雑魔を見て『植物歪虚も食べられないだろうか』と言ったことがある。
「このシロップそのもので、歪虚にダメージを与えることはできませんー。でも『倒した後の体を消えずに残す』効果を与えることができるんですー」
雑魔の持つ負のマテリアルに反応して、ぐるっと固めるイメージですねと補足が入る。
「まずこのシロップでリンゴ雑魔をコーティングしてー、その後に倒せば、キャンディコーティングされた状態のリンゴが残りますー」
リアルブルー出身の者なら、りんご飴と言えばすぐにわかるかもしれない。
「すごいじゃないか!」
どんな味になるのか、想像するだけでうっとりしてしまう。
「雑魔を消さないで食べられるようにする効果は、すぐに実現できたんですけどねー」
なかなか美味しいシロップにならなくて時間がかかったと言うジークリット。
「リンゴが旬の時期に間に合ったのだから十分だ」
流石だなと言いながら、一つ疑問が浮かんだ。
「他の雑魔でも効果があるのか? 応用できたりするのか?」
だとしたら一気に食料が増える。雑魔も倒せて食料が増える一石二鳥じゃないかと期待の眼差しを向けた。
「いえー、リンゴ雑魔にしか効果がありませんー」
ジークリットとしても可能性を見出そうと試行錯誤はしたのだが。他の雑魔にはただの甘い液体でしかなかった。
「そうか……だがこのシロップは大量にあるんだな?」
「ええ。全部、カートリッジに詰めてありますー」
性質上再充填が難しいシロップだから、カートリッジに詰めた状態で保管してあるらしい。
「この銃はいくつあるんだ?」
「予算のやりくりも難しくて。この零号機と、レプリカが6丁といったところですー」
「シロップ全部持っていっても?」
「また作れますし、使い切ってしまっていいですよー。カミラ様、今日は一日お休みでしたっけー?」
「ああ、早く試したい! ピースホライズンの監視も兼ねて行ってくる」
祭の準備期間で特に賑やかにしているこの時期だからなのか、リンゴ雑魔は不思議と人の多い場所で見かけることが多いのだ。
「カミラ様、ハロウィンの仮装はされるんですか?」
仮装をした方が、きっと楽しめますよとジークリット。
「準備していないな」
服には頓着しないカミラである。流石に師団長としての最低限は整えているけれど。
「よかったら是非これをー。専用ポケットもついてますからー♪」
そうして用意された衣装を言われるままに身に着けて、カミラは意気揚々とピースホライズンへと向かっていった。
「りんご飴が食べたいな、早速行ってくる」
●舞台の事情
(歌劇部隊だかが地方巡業をしているらしいな)
アイドルとか言っただろうか。せっかくだから寄り道がてら様子を見ておこう。他の師団の様子を実際に見る機会はあまり多くない。
記憶を頼りに、町の入口の小さな特設会場へと向かっていく。
「ここみたいだな」
賑やかな楽曲が聞こえてくる。その邪魔をしないように、そっと入っていった。
グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)の曲が終わった瞬間、ふっと頭上に影が差した。急ぎ見上げれば――蝙蝠の羽根が生えたリンゴと、空飛ぶジャック・オ・ランタン――雑魔の群れだ!
考えるより先に、体が動いていた。
「どうかしたのか?」
さりげなく舞台に上がり、グリューエリンに説明を求める。仮装のおかげで、観客達にはそれも演出だと思ってもらえたようだ。
すばやく簡単に自己紹介を交わす。お互い一方的にだが、顔と名前を知っていた。
「あれが雑魔だと知らない子ども達が手を出してしまったら大変です。ですが、ここにいるのは子ども達ばかり、避難させるにもパニックを起こしてしまえば、守りきれないかもしれませんわ」
だから舞台の演目仕立てで雑魔を片付けてしまおうという算段らしい。だが、人手が心もとないとのことで。
「遊びに来ているハンターもいくらかいるだろう。少しならこの場で私が雇ってしまえばいいさ。私は既に舞台に上がっている」
演じるのは得意ではないが、仮装で誤魔化されてくれるだろうとカミラに、グリューエリンも頷いた。
「リンゴとカボチャの悪魔が来たようだ! 倒すのを手伝ってくれる『ハンター』は居ないか?」
ハンター、の言葉を強く強調しながら客席に向かって叫ぶ。そしてマントを広げ、そこにしまっていた武器を掲げた。
「このキャンディガンで一緒に戦ってくれないか? お礼は倒した後の悪魔たち、そのお菓子を山分けだ!」
「リンゴが旬になる季節だ」
エルヴィンバルト要塞の食堂で、カミラ・ゲーベル(kz0053)は窓の外を眺めた。
マーフェルスを含む近隣地域ではリンゴが広く生産されている。
大体は酒の材料になるのだが、この時期のリンゴは旬で一番美味しく、一般にも多く出回る。
近隣では帝国が強く推しているじゃが芋、次いで玉葱。そして量は少ないけれども甘い芋、リアルブルーで言うところのさつま芋も作られている。そこに果物のリンゴも加わり、甘いものに対して他よりも少しばかり貪欲な嗜好が人々の生活に根付いていた。
「もうすぐポテトアップルパイの時期ですねー」
カミラに紅茶をおいたのは、主計兵のジークリット・ブランシュ上等兵。ウェーブのかかった髪を高い位置でひとつに纏め、モノクルをつけた女性だ。
「もうそんな時期か」
この地域ではいいことがあると、お祝いに甘く煮たリンゴとサツマイモを使ったパイを食べる習慣がある。
のんびりと紅茶を一口。その甘い味に首をかしげた。
「ジーク、新しいシロップか?」
「さすがですねーカミラ様。ずっと試作していて、やっと完成したキャンディシロップなんですよ」
一番に味見していただきたくて。微笑むジークリットは機導師でもある。こうして料理と機動術の観点をあわせた試作品ができるとカミラに出してくる。
「いい味だ。次の師団長デーまでに量産できるか?」
シュラーフドルンでは月に数回、カミラが師団全員の昼食を作って振る舞う日が設定されている。カミラが珍しい食材を買い込んだ時や、ジークリットの試作品は、いつもそこで第三師団の面々に供されていた。
「もうできてますー」
これで何を作ろうと想像するカミラに、ジークリットは銃を手渡した。
「これは?」
ウォーターガンのようにも見える。しかし水よりも重い何かがカートリッジに詰められている。
「シロップの用途、食用だけではないのですー」
紅茶に入れたものと同じシロップが充填してあるらしい。
「去年、カミラ様がリンゴ雑魔を食べたいとおっしゃってたので作ってみましたー」
本来ならば倒すと消えてしまう歪虚だが、例外は存在する。例えば歪虚になったばかりの動物を、すぐに倒した場合等は死体がその場に残ることがある。ごく稀にだが、そういった動物の肉は本来よりも美味になっていることがあるのだ。
その話を元に、カミラは去年リンゴ雑魔を見て『植物歪虚も食べられないだろうか』と言ったことがある。
「このシロップそのもので、歪虚にダメージを与えることはできませんー。でも『倒した後の体を消えずに残す』効果を与えることができるんですー」
雑魔の持つ負のマテリアルに反応して、ぐるっと固めるイメージですねと補足が入る。
「まずこのシロップでリンゴ雑魔をコーティングしてー、その後に倒せば、キャンディコーティングされた状態のリンゴが残りますー」
リアルブルー出身の者なら、りんご飴と言えばすぐにわかるかもしれない。
「すごいじゃないか!」
どんな味になるのか、想像するだけでうっとりしてしまう。
「雑魔を消さないで食べられるようにする効果は、すぐに実現できたんですけどねー」
なかなか美味しいシロップにならなくて時間がかかったと言うジークリット。
「リンゴが旬の時期に間に合ったのだから十分だ」
流石だなと言いながら、一つ疑問が浮かんだ。
「他の雑魔でも効果があるのか? 応用できたりするのか?」
だとしたら一気に食料が増える。雑魔も倒せて食料が増える一石二鳥じゃないかと期待の眼差しを向けた。
「いえー、リンゴ雑魔にしか効果がありませんー」
ジークリットとしても可能性を見出そうと試行錯誤はしたのだが。他の雑魔にはただの甘い液体でしかなかった。
「そうか……だがこのシロップは大量にあるんだな?」
「ええ。全部、カートリッジに詰めてありますー」
性質上再充填が難しいシロップだから、カートリッジに詰めた状態で保管してあるらしい。
「この銃はいくつあるんだ?」
「予算のやりくりも難しくて。この零号機と、レプリカが6丁といったところですー」
「シロップ全部持っていっても?」
「また作れますし、使い切ってしまっていいですよー。カミラ様、今日は一日お休みでしたっけー?」
「ああ、早く試したい! ピースホライズンの監視も兼ねて行ってくる」
祭の準備期間で特に賑やかにしているこの時期だからなのか、リンゴ雑魔は不思議と人の多い場所で見かけることが多いのだ。
「カミラ様、ハロウィンの仮装はされるんですか?」
仮装をした方が、きっと楽しめますよとジークリット。
「準備していないな」
服には頓着しないカミラである。流石に師団長としての最低限は整えているけれど。
「よかったら是非これをー。専用ポケットもついてますからー♪」
そうして用意された衣装を言われるままに身に着けて、カミラは意気揚々とピースホライズンへと向かっていった。
「りんご飴が食べたいな、早速行ってくる」
●舞台の事情
(歌劇部隊だかが地方巡業をしているらしいな)
アイドルとか言っただろうか。せっかくだから寄り道がてら様子を見ておこう。他の師団の様子を実際に見る機会はあまり多くない。
記憶を頼りに、町の入口の小さな特設会場へと向かっていく。
「ここみたいだな」
賑やかな楽曲が聞こえてくる。その邪魔をしないように、そっと入っていった。
グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)の曲が終わった瞬間、ふっと頭上に影が差した。急ぎ見上げれば――蝙蝠の羽根が生えたリンゴと、空飛ぶジャック・オ・ランタン――雑魔の群れだ!
考えるより先に、体が動いていた。
「どうかしたのか?」
さりげなく舞台に上がり、グリューエリンに説明を求める。仮装のおかげで、観客達にはそれも演出だと思ってもらえたようだ。
すばやく簡単に自己紹介を交わす。お互い一方的にだが、顔と名前を知っていた。
「あれが雑魔だと知らない子ども達が手を出してしまったら大変です。ですが、ここにいるのは子ども達ばかり、避難させるにもパニックを起こしてしまえば、守りきれないかもしれませんわ」
だから舞台の演目仕立てで雑魔を片付けてしまおうという算段らしい。だが、人手が心もとないとのことで。
「遊びに来ているハンターもいくらかいるだろう。少しならこの場で私が雇ってしまえばいいさ。私は既に舞台に上がっている」
演じるのは得意ではないが、仮装で誤魔化されてくれるだろうとカミラに、グリューエリンも頷いた。
「リンゴとカボチャの悪魔が来たようだ! 倒すのを手伝ってくれる『ハンター』は居ないか?」
ハンター、の言葉を強く強調しながら客席に向かって叫ぶ。そしてマントを広げ、そこにしまっていた武器を掲げた。
「このキャンディガンで一緒に戦ってくれないか? お礼は倒した後の悪魔たち、そのお菓子を山分けだ!」
リプレイ本文
●演者が増えた!
「はーいっ♪」
一番に響いた元気な声はラウリィ・ディバイン(ka0425)。まるごとうさぎの姿だったから、子供達はラウリィがショーの出演者なのだと信じ込んだ。
(女の子が歌って踊る至福の時を味わいに来たのに、とんだ邪魔が入ったものだよねー)
ハロウィンを理由に、いつもと違った可愛い仮装の女の子も見れるとあって折角だからと張り切ったのだ。仮装用のまるごとうさぎも、シャツを重ねお洒落に着こなして。少しだけ動きにくいかもしれないけれど、そんなことは言っていられない。だって女の子のピンチなんだから!
「俺の楽しみと女の子を邪魔するヤツには容赦しないよ?」
にっこりと敵に向かってすごむうさぎはあまり怖くはないけれど。
「ここにいるぞ!」
両手と共に声をあげたメリエ・フリョーシカ(ka1991)は、カミラの視線が自分に向いたことを確認してから舞台縁に手をかけた。ねこの騎士は身軽なのだと言わんばかりに一回転を加えたジャンプで舞台に上がる。
「カミラ様! 不肖このメリエ。微力ながら助太刀します!」
マントを翻しカミラの隣を確保する。帝国の力になれるならこんな好機はない。
(持っててよかったエストック!)
騎士らしさの演出と、護身のために持っていた得物の形状に活路を見出していた。
「私も手を貸そうか」
シャーリーン・クリオール(ka0184)の服装は鳥を意識したもの。もともと好きで着ている普段着だけれど、ショーの出演者という状況が彼女を特別な存在に見せていた。
(ふむ、祭りを見物していただけなのだけど……浮かぶリンゴとカボチャとは不可思議なものだね)
偶然居合わせたイーディス・ノースハイド(ka2106)が状況を確認する。数は多いが雑魔、それもさほど強そうには見えない。けれど子供にとっては弱かろうと歪虚なのだ。
舞台上のカミラが持つキャンディガンと、手をあげたハンターの数を見比べて、まだ手が必要らしいと判断する。
「倒すことに否やは無いさ。私も手伝おう」
「り、りんごが飛んでるーッ!? ……あ、かわいいかも」
一歩遅れて声をあげたカミル・イェジェク(ka3174)も立ち上がる。自分もハンターだから手伝うと声をあげ他が慌てて口を抑えた。子供達がそれを聞いて、雑魔に手を伸ばしてしまったら危ないからだ。
「わ、わたっ! 私も戦えます!」
別の場所からマコト・タツナミ(ka1030)も立ち上がる。声が少し震えているけれど、背の高いおねえさんはそれだけでも格好良く見えるもので、子供達はきらきらとした目で見上げている。
雑魔ではなく出演者となったハンター達に意識を向けさせることができていて、これなら誘導へもスムーズに取り掛かれるだろう。
●声援は力の源!
南瓜は舞台の上に寄っているが、りんごは数が多く範囲も広い。更に南瓜と比べてすばしっこくもあるようだ。
(南瓜はあちらの面々が相手してくれるとして)
シャーリーンが考える合間、舞台からハンターが一人、りんごの群を迂回し観客の前までおりてくる。敵役として振る舞っていた一人が雑魔達の指揮者として演じはじめたのだ。
「戦いに巻き込まれない様、皆下がっておくんだ!」
「み、みんな! ここは私達に任せて逃げて!」
子供達を誘導する切欠としてもちょうどいい。シャーリーンやマコトの声に、ショーの演出だと信じ込んでいる子供達は示された場所にまで下がっていった。
空いた場所にキャンディガンを持ったハンター達が入ったことで雑魔を挟み込む陣形が完成した。
「あぶないじゃん! 覚悟しろっ!」
きゃぁー!
舞台が整いラウリィが張り上げた声に、子供達からも声援が上がる。
「特に女の子達がねっ」
後付けでウインク。その格好つけた様子に女の子は黄色い声で答えてくれたけれど。男の子は少し膨れた顔も居た模様。格好いいヒーローには憧れるけれど、好きな子の目線まで持っていかれてはたまらない。逆の構図は、アイドルグリューエリンの歌の時にも起きていたはずだけれど。そこは子供だからご愛嬌。
ともあれ今、ハンター達は子供達の視線を一手に集めている。
「ヒーロー達にはみんなの応援が必要だよ!」
「そのまま声援を送ってくれ!」
マコトが応援を促し、シャーリーンも調子を合わせる。子供達の声が大きくなり、ハンター達の短い打ち合わせの声はその中に紛れていく。
「何、コレでアレをりんご飴にする……と?」
イーディスがキャンディガンと雑魔を見比べる。シロップが詰められたカートリッジが小さくたぷんと音を立てた。玩具のようにも見えるけれど、カミラの様子を見る限り真実らしい。
(帝国の人間は不思議な事を考えるんだね)
王国に居た頃は聞いたことがない考えのような気がする。ただ生真面目なイーディスが居た周囲にはなかっただけかもしれないけれど。
「そういうオーダーなら協力はするよ」
確かに帝国は他と比べると食糧事情がよろしくない。もしかしたらそのせいで発想も変わっているのかもしれない等と考えながらシールドも構えた。
「さぁ悪魔共! 正義の鉄槌を受けるがいい!」
打ち合わせが終わった合図も兼て、メリエがポーズを決めた。舞台上はヒーロー役のハンター達が南瓜を相手取っているから、彼らの雄姿を遮らない位置にカミラと共に陣取ったのだ。マント装備のねことうさぎは、自然と互いに背を預ける形になる。
「来いよ悪魔! 浮遊なんか捨ててかかってこい!」
植物型の雑魔達に聴覚があるかはわからないけれど、メリエの挑発を兼ねた台詞は効果があったようだ。舐められたと認識したのか、りんご達は敵意を向けてくるハンター達の方へとその表面を向けた。子供達に向かわないならそれでいい。そう思い対峙すれば結構な数のつるつるの表面が迫ってくる。南瓜と違って顔がない分能面なのが不気味なようにも見える。蝙蝠のような羽根がなかったら、多分もっと単調な見た目で怖いかもしれない。ある意味ハロウィンの仮装の一環としては効果的な見た目なのだけれど。
「あはは! まってまってー!」
弱いはずの雑魔に対して視覚的恐怖を感じそうになっていた中、カミルの明るい声が響いた。ショーのための台詞というよりも、心の底からの言葉。キモ可愛いりんご雑魔に、玩具の進化系キャンディガン、そして子供達が見ている舞台。テンション上がらない方がおかしいというものだ。
早速手近なりんごから狙い撃っていく。そこそこにすばしっこいのだが、数が多いこともあり簡単にシロップが雑魔に命中していく。
そう、数だけは非常に多いのだ。
「応援だってあるんだから、皆のためにもお菓子になってもらわないとね!」
女の子の笑顔のためにも! ラウリィの声がまた黄色い声を呼んだ。
●りんご飴つくろう!
「子供達に手だしはさせんぞ!」
シャーリーンが戦隊の一人のような台詞を叫びながら、子供達の方に向かおうとした雑魔にシロップを撃ち込んでいく。雑魔に対しては速乾性があるようで、シロップはりんご雑魔を包み込むとすぐに固まった。
「こっちからも反撃だっ!」
終始楽しげなカミルがりんご達と子供達の意識をひきつける。楽しそうな様子は見る側も楽しめるものなのだ。自分も観客も楽しめるなんて格好いい、そんなことを思いつつキャンディガンでシロップを撃ちまくる。
(あれ?)
子供達の反応を見ていたカミルは気付いてしまった。
(親玉役のあの人も、もしかして攻撃しなきゃ駄目?)
敵役のハンターにも、形だけとはいえ攻撃しておかなければいけないという事実に。
主役でもあるヒーローたちは舞台上で、親玉はこちら側、自分達はダメージを与えることのない安全な武器を持っていて、観客はそれよりももっと近くに居て……
「えいっ!」
答えは一つ。りんご雑魔に対しては効果のあるシロップも、ハンターにはただのシロップなのだから。
(ごめんなさいっ、あとで洗ってね……!)
コーティングされても雑魔は雑魔、シロップに包まれてちょっぴり輝きを増したりんご雑魔達は、キャンディガンで狙ってくるハンター達をしっかり敵として認識したようだった。
(ダメージは与えないと言っていたが、何か不快感でもあるのだろうか)
そもそもこの歪虚達はいったい何がしたいのだろう。それを歪虚に求めるのも難しいとは思うけれど、イーディスは考えずにいられない。
隙を見てシロップを打ち込みつつ、シールドでりんご雑魔の体当たりを防いでいく。
「……おや」
シールドに真正面から激突する形になった雑魔のうちの数個が、力尽きたように落ちていく様子が視界に入る。イーディスの守りの堅さが功を奏したようである。反動で自滅してしまうほどそれほどまでに弱い敵だったということだ。
「流石にコーティング前のものは消えてしまうか」
攻撃せずとも倒せるならば、もう少しシロップを撃ちこむ頻度をあげてみよう。イーディスはグラディウスをしまい込みキャンディガンとシールドを構えなおした。
(うまく注意を引けているようだ)
りんご雑魔達の動きを見てボウを構えるシャーリーン。ウィップでからみ取れればよかったのだが、高さが今一つ足りなかった。まだコーティング前の雑魔も残っているが、手は足りていると判断して撃ち落とす側にシフトする。小さな仮設舞台に天井はないが壁はある。舞台上のハンター達の位置も確認し、射線が確保できることを確認しながら射抜けば、壁に縫い留める形で雑魔の動きも封じることができるだろう。
(なるべくコーティング済みのものを狙わないといけないな)
それもハンターの腕の見せ所である。
「ほんっとキリがないねえ。でも、そろそろかなっ?」
撃ち甲斐だけはあるけれど。ラウリィがちらりと舞台を確認する。南瓜雑魔の方も殲滅は時間の問題のようだ。
(十分な数コーティングできたんじゃないかなあ)
子供達に配って、自分達でも食べて……既に対峙されただのりんご飴になった分もちらりと見やる。
「みんなで食べるのも、楽しみだね♪」
さあ、追い上げていくよ!
「ごめんなさい、電撃の鉄槌で痺れててね!」
マコトのハンマーが振り下ろされると共に、電撃がりんご雑魔を焼く。一撃で止めを刺された雑魔はコーティング済みだったおかげで、ハンマーの勢いに押し負けてぐしゃりと潰れた。
「……あっ、勿体ないことしちゃったね」
次からはクローで輪切りの方がいいかもしれないな、と得物を変えた。
メリエの突剣は効率の意味でもパフォーマンスの意味でも有利に使用できていた。
シロップでコーティングされたりんご雑魔を貫通させる形で突いていく。その度に剣にりんごが積み重なって串団子のような状態になっていくのだ。少しずつ取り回しに気を付ける度合いは上がっていくが、時間が惜しい。突剣の先までりんごが連結してから、その都度皿に盛って置いていった。
(こういう曲芸あったなー)
まさか自分がやることになるとは思わなかったけれど。知識としてあったからこそこうして活用できているのだから悪いことではない。
りんご雑魔の大半が片付いたところで、南瓜雑魔の方も片が付いたらしい。敵役のハンターが捨て台詞を叫び去っていく。
「残念だったな悪魔共! 我等ハンターある限り、お前達の好きにはさせないぞ!」
さあ、最後の仕上げといこうか!
●美味しくできたかな?
皿に盛られたもの、壁に矢で縫い留められたもの、輪切りになったものと、まるごと地面に落ちてしまったもの。流石に落ちてしまったものは飴が溶けない程度に洗って、少しばかり乾かしてから、声援のお礼として子供達に配ることに。
「みんなのおかげで悪い奴らをやっつけられたよ」
マコトが代表して子供達に感謝を述べる。
「応援してくれたから勝てたんだ、お宝のお菓子はみんなで山分けだよっ」
カミルの声に子供達が一斉に集まってくる。
「ほら、良い子ならきちんと並ぶんだ。押したり横入りする悪い子にはあげないからね」
イーディスが子供達の列を整えていく。
「はいはい、並んで並んでー。順番だよー」
ラウリィも声をかけながら、手製の棒を刺したりんご飴を配っていく。特に女の子にはきらきらの笑顔付きだ。
「はいっ、楽しんで食べてね♪」
何年後かに再び会える時が特に楽しみな子には、さりげなく頭を撫でてみたりする。
(矢付きのはどうしたものかな……)
シャーリーンも、自身が壁に縫い留めたりんご、その鏃と矢羽を取ってから配ることにする。奇跡的に二個が連結したものは男の子たちの取り合いになった。
「はいっ、もう一個! 更に追加っ!」
りんご飴を待つ間も楽しんでもらおうと、メリエが列の近くで行うのはパフォーマンス。戦っていた時と同じようにりんごを突剣に刺していく。今度は自分で動かないりんご飴だけれど、子供達に投げて貰う形にすればお互いに楽しめる。
「さぁさぁ甘いりんご飴だよっ。皆も祭りをたのしんでねっ」
配り終えた頃には、舞台の復旧も終わっている。先ほどのショーはサプライズということにして、中断していた分のステージが再開された。
「皆で食べると美味しいねえ」
子供達と一緒に、カミルもりんご飴にかぶりつく。
自分もりんご飴を食べながら、マコトは舞台に見入る子供達を眺めた。
(今までの依頼で海老雑魔とかキノコ雑魔とか食べてきたけど……)
敵を食べる機械は今回が初めてではなかった。だからこそ見えることがある。
(みんなを助けて美味しい物も食べられるって素敵な事だね)
仮装の衣装が功を奏したのか、舞台上の演者たち同様に子供達に懐かれた三人は子供達に囲まれた席で舞台を眺めていた。
(ま、結果的に子供達が楽しかったのなら良いさね)
シャーリーンの視界には楽しそうに笑う子供達の、その笑顔が映っている。
女の子達が幸せそうに頬張る様子を堪能していたラウリィがカミラを振り返った。恍惚とした表情で輪切りのりんご飴を食べる様子に微笑んで、持っていた分を差し出す。
「おいしい? 俺の分も食べる?」
「くれるのか!」
「カミラ様、わたしのもいかがですか」
「貰お……いや、まだあるから大丈夫だ」
簡単に食いつくカミラだが、メリエの言葉に立場を思い出し正気に戻った模様。本当に食べ物に目がないのだなとラウリィが再び微笑む。エルフのラウリィにとってみれば、カミラも可愛い女の子扱いになるのだった。
「しかし、これの元になったリンゴを栽培していた人や販売していた者には大打撃だろうね。帝国として何か保証はしないのかい?」
疑問を口にしたのはイーディス。
「帝国に被害の申し出があれば、勿論対応はする」
栽培農家からも、扱う商人からも報告がないのだとカミラは答えた。
それはハロウィンシーズン特有の魔法なのか、それとも?
答えを知る者はこの場には居なかった。
「はーいっ♪」
一番に響いた元気な声はラウリィ・ディバイン(ka0425)。まるごとうさぎの姿だったから、子供達はラウリィがショーの出演者なのだと信じ込んだ。
(女の子が歌って踊る至福の時を味わいに来たのに、とんだ邪魔が入ったものだよねー)
ハロウィンを理由に、いつもと違った可愛い仮装の女の子も見れるとあって折角だからと張り切ったのだ。仮装用のまるごとうさぎも、シャツを重ねお洒落に着こなして。少しだけ動きにくいかもしれないけれど、そんなことは言っていられない。だって女の子のピンチなんだから!
「俺の楽しみと女の子を邪魔するヤツには容赦しないよ?」
にっこりと敵に向かってすごむうさぎはあまり怖くはないけれど。
「ここにいるぞ!」
両手と共に声をあげたメリエ・フリョーシカ(ka1991)は、カミラの視線が自分に向いたことを確認してから舞台縁に手をかけた。ねこの騎士は身軽なのだと言わんばかりに一回転を加えたジャンプで舞台に上がる。
「カミラ様! 不肖このメリエ。微力ながら助太刀します!」
マントを翻しカミラの隣を確保する。帝国の力になれるならこんな好機はない。
(持っててよかったエストック!)
騎士らしさの演出と、護身のために持っていた得物の形状に活路を見出していた。
「私も手を貸そうか」
シャーリーン・クリオール(ka0184)の服装は鳥を意識したもの。もともと好きで着ている普段着だけれど、ショーの出演者という状況が彼女を特別な存在に見せていた。
(ふむ、祭りを見物していただけなのだけど……浮かぶリンゴとカボチャとは不可思議なものだね)
偶然居合わせたイーディス・ノースハイド(ka2106)が状況を確認する。数は多いが雑魔、それもさほど強そうには見えない。けれど子供にとっては弱かろうと歪虚なのだ。
舞台上のカミラが持つキャンディガンと、手をあげたハンターの数を見比べて、まだ手が必要らしいと判断する。
「倒すことに否やは無いさ。私も手伝おう」
「り、りんごが飛んでるーッ!? ……あ、かわいいかも」
一歩遅れて声をあげたカミル・イェジェク(ka3174)も立ち上がる。自分もハンターだから手伝うと声をあげ他が慌てて口を抑えた。子供達がそれを聞いて、雑魔に手を伸ばしてしまったら危ないからだ。
「わ、わたっ! 私も戦えます!」
別の場所からマコト・タツナミ(ka1030)も立ち上がる。声が少し震えているけれど、背の高いおねえさんはそれだけでも格好良く見えるもので、子供達はきらきらとした目で見上げている。
雑魔ではなく出演者となったハンター達に意識を向けさせることができていて、これなら誘導へもスムーズに取り掛かれるだろう。
●声援は力の源!
南瓜は舞台の上に寄っているが、りんごは数が多く範囲も広い。更に南瓜と比べてすばしっこくもあるようだ。
(南瓜はあちらの面々が相手してくれるとして)
シャーリーンが考える合間、舞台からハンターが一人、りんごの群を迂回し観客の前までおりてくる。敵役として振る舞っていた一人が雑魔達の指揮者として演じはじめたのだ。
「戦いに巻き込まれない様、皆下がっておくんだ!」
「み、みんな! ここは私達に任せて逃げて!」
子供達を誘導する切欠としてもちょうどいい。シャーリーンやマコトの声に、ショーの演出だと信じ込んでいる子供達は示された場所にまで下がっていった。
空いた場所にキャンディガンを持ったハンター達が入ったことで雑魔を挟み込む陣形が完成した。
「あぶないじゃん! 覚悟しろっ!」
きゃぁー!
舞台が整いラウリィが張り上げた声に、子供達からも声援が上がる。
「特に女の子達がねっ」
後付けでウインク。その格好つけた様子に女の子は黄色い声で答えてくれたけれど。男の子は少し膨れた顔も居た模様。格好いいヒーローには憧れるけれど、好きな子の目線まで持っていかれてはたまらない。逆の構図は、アイドルグリューエリンの歌の時にも起きていたはずだけれど。そこは子供だからご愛嬌。
ともあれ今、ハンター達は子供達の視線を一手に集めている。
「ヒーロー達にはみんなの応援が必要だよ!」
「そのまま声援を送ってくれ!」
マコトが応援を促し、シャーリーンも調子を合わせる。子供達の声が大きくなり、ハンター達の短い打ち合わせの声はその中に紛れていく。
「何、コレでアレをりんご飴にする……と?」
イーディスがキャンディガンと雑魔を見比べる。シロップが詰められたカートリッジが小さくたぷんと音を立てた。玩具のようにも見えるけれど、カミラの様子を見る限り真実らしい。
(帝国の人間は不思議な事を考えるんだね)
王国に居た頃は聞いたことがない考えのような気がする。ただ生真面目なイーディスが居た周囲にはなかっただけかもしれないけれど。
「そういうオーダーなら協力はするよ」
確かに帝国は他と比べると食糧事情がよろしくない。もしかしたらそのせいで発想も変わっているのかもしれない等と考えながらシールドも構えた。
「さぁ悪魔共! 正義の鉄槌を受けるがいい!」
打ち合わせが終わった合図も兼て、メリエがポーズを決めた。舞台上はヒーロー役のハンター達が南瓜を相手取っているから、彼らの雄姿を遮らない位置にカミラと共に陣取ったのだ。マント装備のねことうさぎは、自然と互いに背を預ける形になる。
「来いよ悪魔! 浮遊なんか捨ててかかってこい!」
植物型の雑魔達に聴覚があるかはわからないけれど、メリエの挑発を兼ねた台詞は効果があったようだ。舐められたと認識したのか、りんご達は敵意を向けてくるハンター達の方へとその表面を向けた。子供達に向かわないならそれでいい。そう思い対峙すれば結構な数のつるつるの表面が迫ってくる。南瓜と違って顔がない分能面なのが不気味なようにも見える。蝙蝠のような羽根がなかったら、多分もっと単調な見た目で怖いかもしれない。ある意味ハロウィンの仮装の一環としては効果的な見た目なのだけれど。
「あはは! まってまってー!」
弱いはずの雑魔に対して視覚的恐怖を感じそうになっていた中、カミルの明るい声が響いた。ショーのための台詞というよりも、心の底からの言葉。キモ可愛いりんご雑魔に、玩具の進化系キャンディガン、そして子供達が見ている舞台。テンション上がらない方がおかしいというものだ。
早速手近なりんごから狙い撃っていく。そこそこにすばしっこいのだが、数が多いこともあり簡単にシロップが雑魔に命中していく。
そう、数だけは非常に多いのだ。
「応援だってあるんだから、皆のためにもお菓子になってもらわないとね!」
女の子の笑顔のためにも! ラウリィの声がまた黄色い声を呼んだ。
●りんご飴つくろう!
「子供達に手だしはさせんぞ!」
シャーリーンが戦隊の一人のような台詞を叫びながら、子供達の方に向かおうとした雑魔にシロップを撃ち込んでいく。雑魔に対しては速乾性があるようで、シロップはりんご雑魔を包み込むとすぐに固まった。
「こっちからも反撃だっ!」
終始楽しげなカミルがりんご達と子供達の意識をひきつける。楽しそうな様子は見る側も楽しめるものなのだ。自分も観客も楽しめるなんて格好いい、そんなことを思いつつキャンディガンでシロップを撃ちまくる。
(あれ?)
子供達の反応を見ていたカミルは気付いてしまった。
(親玉役のあの人も、もしかして攻撃しなきゃ駄目?)
敵役のハンターにも、形だけとはいえ攻撃しておかなければいけないという事実に。
主役でもあるヒーローたちは舞台上で、親玉はこちら側、自分達はダメージを与えることのない安全な武器を持っていて、観客はそれよりももっと近くに居て……
「えいっ!」
答えは一つ。りんご雑魔に対しては効果のあるシロップも、ハンターにはただのシロップなのだから。
(ごめんなさいっ、あとで洗ってね……!)
コーティングされても雑魔は雑魔、シロップに包まれてちょっぴり輝きを増したりんご雑魔達は、キャンディガンで狙ってくるハンター達をしっかり敵として認識したようだった。
(ダメージは与えないと言っていたが、何か不快感でもあるのだろうか)
そもそもこの歪虚達はいったい何がしたいのだろう。それを歪虚に求めるのも難しいとは思うけれど、イーディスは考えずにいられない。
隙を見てシロップを打ち込みつつ、シールドでりんご雑魔の体当たりを防いでいく。
「……おや」
シールドに真正面から激突する形になった雑魔のうちの数個が、力尽きたように落ちていく様子が視界に入る。イーディスの守りの堅さが功を奏したようである。反動で自滅してしまうほどそれほどまでに弱い敵だったということだ。
「流石にコーティング前のものは消えてしまうか」
攻撃せずとも倒せるならば、もう少しシロップを撃ちこむ頻度をあげてみよう。イーディスはグラディウスをしまい込みキャンディガンとシールドを構えなおした。
(うまく注意を引けているようだ)
りんご雑魔達の動きを見てボウを構えるシャーリーン。ウィップでからみ取れればよかったのだが、高さが今一つ足りなかった。まだコーティング前の雑魔も残っているが、手は足りていると判断して撃ち落とす側にシフトする。小さな仮設舞台に天井はないが壁はある。舞台上のハンター達の位置も確認し、射線が確保できることを確認しながら射抜けば、壁に縫い留める形で雑魔の動きも封じることができるだろう。
(なるべくコーティング済みのものを狙わないといけないな)
それもハンターの腕の見せ所である。
「ほんっとキリがないねえ。でも、そろそろかなっ?」
撃ち甲斐だけはあるけれど。ラウリィがちらりと舞台を確認する。南瓜雑魔の方も殲滅は時間の問題のようだ。
(十分な数コーティングできたんじゃないかなあ)
子供達に配って、自分達でも食べて……既に対峙されただのりんご飴になった分もちらりと見やる。
「みんなで食べるのも、楽しみだね♪」
さあ、追い上げていくよ!
「ごめんなさい、電撃の鉄槌で痺れててね!」
マコトのハンマーが振り下ろされると共に、電撃がりんご雑魔を焼く。一撃で止めを刺された雑魔はコーティング済みだったおかげで、ハンマーの勢いに押し負けてぐしゃりと潰れた。
「……あっ、勿体ないことしちゃったね」
次からはクローで輪切りの方がいいかもしれないな、と得物を変えた。
メリエの突剣は効率の意味でもパフォーマンスの意味でも有利に使用できていた。
シロップでコーティングされたりんご雑魔を貫通させる形で突いていく。その度に剣にりんごが積み重なって串団子のような状態になっていくのだ。少しずつ取り回しに気を付ける度合いは上がっていくが、時間が惜しい。突剣の先までりんごが連結してから、その都度皿に盛って置いていった。
(こういう曲芸あったなー)
まさか自分がやることになるとは思わなかったけれど。知識としてあったからこそこうして活用できているのだから悪いことではない。
りんご雑魔の大半が片付いたところで、南瓜雑魔の方も片が付いたらしい。敵役のハンターが捨て台詞を叫び去っていく。
「残念だったな悪魔共! 我等ハンターある限り、お前達の好きにはさせないぞ!」
さあ、最後の仕上げといこうか!
●美味しくできたかな?
皿に盛られたもの、壁に矢で縫い留められたもの、輪切りになったものと、まるごと地面に落ちてしまったもの。流石に落ちてしまったものは飴が溶けない程度に洗って、少しばかり乾かしてから、声援のお礼として子供達に配ることに。
「みんなのおかげで悪い奴らをやっつけられたよ」
マコトが代表して子供達に感謝を述べる。
「応援してくれたから勝てたんだ、お宝のお菓子はみんなで山分けだよっ」
カミルの声に子供達が一斉に集まってくる。
「ほら、良い子ならきちんと並ぶんだ。押したり横入りする悪い子にはあげないからね」
イーディスが子供達の列を整えていく。
「はいはい、並んで並んでー。順番だよー」
ラウリィも声をかけながら、手製の棒を刺したりんご飴を配っていく。特に女の子にはきらきらの笑顔付きだ。
「はいっ、楽しんで食べてね♪」
何年後かに再び会える時が特に楽しみな子には、さりげなく頭を撫でてみたりする。
(矢付きのはどうしたものかな……)
シャーリーンも、自身が壁に縫い留めたりんご、その鏃と矢羽を取ってから配ることにする。奇跡的に二個が連結したものは男の子たちの取り合いになった。
「はいっ、もう一個! 更に追加っ!」
りんご飴を待つ間も楽しんでもらおうと、メリエが列の近くで行うのはパフォーマンス。戦っていた時と同じようにりんごを突剣に刺していく。今度は自分で動かないりんご飴だけれど、子供達に投げて貰う形にすればお互いに楽しめる。
「さぁさぁ甘いりんご飴だよっ。皆も祭りをたのしんでねっ」
配り終えた頃には、舞台の復旧も終わっている。先ほどのショーはサプライズということにして、中断していた分のステージが再開された。
「皆で食べると美味しいねえ」
子供達と一緒に、カミルもりんご飴にかぶりつく。
自分もりんご飴を食べながら、マコトは舞台に見入る子供達を眺めた。
(今までの依頼で海老雑魔とかキノコ雑魔とか食べてきたけど……)
敵を食べる機械は今回が初めてではなかった。だからこそ見えることがある。
(みんなを助けて美味しい物も食べられるって素敵な事だね)
仮装の衣装が功を奏したのか、舞台上の演者たち同様に子供達に懐かれた三人は子供達に囲まれた席で舞台を眺めていた。
(ま、結果的に子供達が楽しかったのなら良いさね)
シャーリーンの視界には楽しそうに笑う子供達の、その笑顔が映っている。
女の子達が幸せそうに頬張る様子を堪能していたラウリィがカミラを振り返った。恍惚とした表情で輪切りのりんご飴を食べる様子に微笑んで、持っていた分を差し出す。
「おいしい? 俺の分も食べる?」
「くれるのか!」
「カミラ様、わたしのもいかがですか」
「貰お……いや、まだあるから大丈夫だ」
簡単に食いつくカミラだが、メリエの言葉に立場を思い出し正気に戻った模様。本当に食べ物に目がないのだなとラウリィが再び微笑む。エルフのラウリィにとってみれば、カミラも可愛い女の子扱いになるのだった。
「しかし、これの元になったリンゴを栽培していた人や販売していた者には大打撃だろうね。帝国として何か保証はしないのかい?」
疑問を口にしたのはイーディス。
「帝国に被害の申し出があれば、勿論対応はする」
栽培農家からも、扱う商人からも報告がないのだとカミラは答えた。
それはハロウィンシーズン特有の魔法なのか、それとも?
答えを知る者はこの場には居なかった。
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相談卓 マコト・タツナミ(ka1030) 人間(リアルブルー)|21才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/10/13 22:27:48 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/10 23:49:42 |