ゲスト
(ka0000)
嫁を殺人犯にしないで!
マスター:水

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/02/15 12:00
- 完成日
- 2017/02/21 00:41
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●幸せ? それとも……
昨年末、誰も知らない所で艱難辛苦を乗り越え結ばれた一組の夫婦が居た。夫は覚醒者として虚無に対抗し、放浪しながら人々に降り注ぐあらゆる危機をその手で救ってきた。
一方の妻はどこにでも居るような町娘だった。だが彼女は人の気持ちに敏感で、夫となった男の笑顔から強がりと孤独を感じ取り、せめて彼が町に滞在している間だけでも傍に居られないかと考えるようになる。
転機となったのは、ある大雨の日の事だった。虚無との戦闘で勝つには勝ったが致命傷を負ってしまい、町の入り口までたどり着いたが、そこで意識が途絶え倒れてしまう。男の帰りが遅く心配になった町娘は妙な胸騒ぎを覚え家を飛び出し彼が出ていった方向へと走っていった。
そこには致命傷を負って倒れ、血漿を広げている男の無残な姿だった。町娘は諦めず助けを呼び、賢明な処置と寝ずの看病で何とか一命を取り留めた。
数週間後に男が目を覚ました時、最初に発した言葉は誰が自分をここまで運んでくれたのか、という事だった。
男を治療した医者は、その内いの一番に見舞いに来るとだけ残し、他の患者の様子を見に行ってしまう。そしてその数分後、沢山の見舞いの品をもって男に想いを寄せる町娘の姿。
二人は退院した後も互いに顔を合わせるようになり、困っている人たちを救わねばならないという使命感と、町娘を愛したいという気持ちの狭間に揺れ動いていたが、町娘の持つ温かさに魅かれ、ついに想いを伝える決心が着く。
こうして二人は様々な人々からの祝福を受け、新しいスタートを、新しい生活を始め、しばらくの充電期間を送るのだった。
と、ここまで来ればどこにでもあるようなお話なのだが、実は町娘にはとんでもない秘密が隠されており、今回の依頼が発行されるきっかけになっていたりする。
●外食で命を繋げ!
「はいあなた。おまたせっ」
はにかんだ笑顔を浮かべ、妻となった町娘は手料理をテーブルへと並べていく。
見た目は特に変わった様子は無い。これで香りや味も良ければ妬みから命を狙われそうなほどの幸せを噛みしめられたに違いない。
そう、妻の味覚は壊滅的なほどおかしい方向に向かっており、さらに妻の家族もそれ以上の、それはもう酷いとしか言えない味覚をしていたのだ。
グラタンからは何故かドリアンの香りとサルミアッキの味が、コーンスープからは何を入れればこうなるのか、倒した覚えのある虚無の何とも言い難い苦みが漂っていた。
まともに食べられるのは食パンのみ。男として、一家の大黒柱がこの程度でくたばってなるものかと、生命線である食パンを中心に無理やり流し込む生活が続いていた。
「ご……ごちそうさま」
「はいっ、お粗末様でしたっ」
唯一報われたと感じるのは、食べ終えた後に喜んで後片付けに勤しむ妻の後ろ姿が拝めることぐらいだ。精神的にはものすごく満足しているのだが、このままでは体が壊れてしまう。
男はその事が妻をこの上なく傷つける裏切り行為だと知りながらも、命を繋ぐための必要悪だと考え、毎月貰えるお小遣いを使って買い食いする日々を送るようになる。
しかし、最初は体調が回復するのを実感できるようになった買い食いも、次第にその罪悪感から一口齧るたびに涙があふれ出てくるのだ。
ついに我慢できなくなった男は、妻に対してだいぶオブラートに包んだ言葉で説得し、彼女を料理教室へ通わせるように成功する。その時の言葉は自分が歩んできた人生の中でも会心の出来だと夜な夜な自分を褒めたたえるほどのものだった。
だが現実は無情である。神が存在するなら、なんと冷たいお心をお持ちであろうか、その料理教室の講師はあろうことか妻に対して冷たくこう言った。
「旦那に料理を作ってもらいなさい。私には無理です」
その一言、この時妻は初めて自分が重度の味覚音痴だという事を突き付けられたのだ。今まで食べてくれてたのは強がりだったのか、初めての夫婦喧嘩は夜が明けるまで続く。
だが相思相愛の二人は、これで別れたくはないと強く願うようになる。そして一縷の望みを求め、藁でも掴むような思いである場所へと向かった。
ハンターズソサエティである。
昨年末、誰も知らない所で艱難辛苦を乗り越え結ばれた一組の夫婦が居た。夫は覚醒者として虚無に対抗し、放浪しながら人々に降り注ぐあらゆる危機をその手で救ってきた。
一方の妻はどこにでも居るような町娘だった。だが彼女は人の気持ちに敏感で、夫となった男の笑顔から強がりと孤独を感じ取り、せめて彼が町に滞在している間だけでも傍に居られないかと考えるようになる。
転機となったのは、ある大雨の日の事だった。虚無との戦闘で勝つには勝ったが致命傷を負ってしまい、町の入り口までたどり着いたが、そこで意識が途絶え倒れてしまう。男の帰りが遅く心配になった町娘は妙な胸騒ぎを覚え家を飛び出し彼が出ていった方向へと走っていった。
そこには致命傷を負って倒れ、血漿を広げている男の無残な姿だった。町娘は諦めず助けを呼び、賢明な処置と寝ずの看病で何とか一命を取り留めた。
数週間後に男が目を覚ました時、最初に発した言葉は誰が自分をここまで運んでくれたのか、という事だった。
男を治療した医者は、その内いの一番に見舞いに来るとだけ残し、他の患者の様子を見に行ってしまう。そしてその数分後、沢山の見舞いの品をもって男に想いを寄せる町娘の姿。
二人は退院した後も互いに顔を合わせるようになり、困っている人たちを救わねばならないという使命感と、町娘を愛したいという気持ちの狭間に揺れ動いていたが、町娘の持つ温かさに魅かれ、ついに想いを伝える決心が着く。
こうして二人は様々な人々からの祝福を受け、新しいスタートを、新しい生活を始め、しばらくの充電期間を送るのだった。
と、ここまで来ればどこにでもあるようなお話なのだが、実は町娘にはとんでもない秘密が隠されており、今回の依頼が発行されるきっかけになっていたりする。
●外食で命を繋げ!
「はいあなた。おまたせっ」
はにかんだ笑顔を浮かべ、妻となった町娘は手料理をテーブルへと並べていく。
見た目は特に変わった様子は無い。これで香りや味も良ければ妬みから命を狙われそうなほどの幸せを噛みしめられたに違いない。
そう、妻の味覚は壊滅的なほどおかしい方向に向かっており、さらに妻の家族もそれ以上の、それはもう酷いとしか言えない味覚をしていたのだ。
グラタンからは何故かドリアンの香りとサルミアッキの味が、コーンスープからは何を入れればこうなるのか、倒した覚えのある虚無の何とも言い難い苦みが漂っていた。
まともに食べられるのは食パンのみ。男として、一家の大黒柱がこの程度でくたばってなるものかと、生命線である食パンを中心に無理やり流し込む生活が続いていた。
「ご……ごちそうさま」
「はいっ、お粗末様でしたっ」
唯一報われたと感じるのは、食べ終えた後に喜んで後片付けに勤しむ妻の後ろ姿が拝めることぐらいだ。精神的にはものすごく満足しているのだが、このままでは体が壊れてしまう。
男はその事が妻をこの上なく傷つける裏切り行為だと知りながらも、命を繋ぐための必要悪だと考え、毎月貰えるお小遣いを使って買い食いする日々を送るようになる。
しかし、最初は体調が回復するのを実感できるようになった買い食いも、次第にその罪悪感から一口齧るたびに涙があふれ出てくるのだ。
ついに我慢できなくなった男は、妻に対してだいぶオブラートに包んだ言葉で説得し、彼女を料理教室へ通わせるように成功する。その時の言葉は自分が歩んできた人生の中でも会心の出来だと夜な夜な自分を褒めたたえるほどのものだった。
だが現実は無情である。神が存在するなら、なんと冷たいお心をお持ちであろうか、その料理教室の講師はあろうことか妻に対して冷たくこう言った。
「旦那に料理を作ってもらいなさい。私には無理です」
その一言、この時妻は初めて自分が重度の味覚音痴だという事を突き付けられたのだ。今まで食べてくれてたのは強がりだったのか、初めての夫婦喧嘩は夜が明けるまで続く。
だが相思相愛の二人は、これで別れたくはないと強く願うようになる。そして一縷の望みを求め、藁でも掴むような思いである場所へと向かった。
ハンターズソサエティである。
リプレイ本文
●下準備
待ち合わせ場所として指定された市場の露店で夫婦と落ち合った十色 エニア(ka0370)、ファリス(ka2853)、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)、コントラルト(ka4753)の四人は、早速夫婦宅へと訪れる。
二人だけの愛の巣とも思えるような場所に見えたが、実際のところは実家暮らしであり、妻の家族共々円満に暮らしていると依頼人である夫から伝えられる。
「今日は、よろしくお願いします」
少し緊張した様子の妻は、集まった四人にそう挨拶し、頭を下げた。皆夫のような覚醒者であり、普段は助けてもらう立場の妻からすると仕事とはいえ自分たち夫婦の為に時間を使ってくれる事に少し気後れしているようだ。
「うん、よろしくね。それと、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。普段旦那さんと一緒に居る時と同じぐらいリラックスして大丈夫だから」
「そうだ。ボク達は貴女の旦那さんと同じ立場の人間、何も特別な事は無いよ」
エニアとアルトはそんな緊張した妻を落ち着かせるように優しく声をかけると、早速本題に取り掛かろうと下準備を開始する。
普段から家事を行っており、台所を任されているだけあって、調理器具や食材の準備自体はテキパキと要領よく出来ている。
問題はもっと先の、調理工程に問題があるのかもしれない。
「旦那さん、もしよろしければ昨日のお夕飯に食べた料理のメニューを教えてほしいの」
指導役へと回ったファリスは早速、普段どのようなメニューを食べているのかを尋ね、同じ指導役であるコントラルトと共に一通り作ってみる事にしてみるようだ。
夫は昨晩の夕食に食べたメニューを思い出し、ファリスとコントラルトへ伝える。
「夕べの晩御飯はさっき市場で買ってきたパンに、付け合わせでビーフシチュー、後は特製ドレッシングのかかったサラダだよ」
夫は特に言い淀む事無く昨晩のメニューを答えるが、こんな暖かなメニューであるにも関わらずハンターズソサエティーで依頼が発行され、こうして料理指導に駆り出されているのだから、一体どんなものか想像出来ないが恐らく一筋縄にはいかない味をしていたのだろう。
このままでは夫の方も味覚障害になってしまうかもしれない、それだけは何としても阻止しなければ。
そんな決意を胸に秘め、妻に遵守させる為のレシピメモを作る為に、ファリスとコントラルトは腕を捲り調理を開始した。
「それじゃ、私とファリスでそのメニューを実際に作ってみるわ。一度旦那さんに食べてもらって、そこから味の調整をしてレシピにして、実際にやってもらうわ」
「……まず旦那さんが喜ぶ料理を作る事が第一なの。何かを付け加えるとかはまず基本が出来てからなの。だから、ファリス達の書いたレシピは絶対に遵守! なの。ところで、その特製ドレッシングというのはどこにあるの?」
ファリスは普段食べているメニューを尋ねる延長線上として、手作りであろうドレッシングの存在をそれとなく聞いてみると、夫は不思議そうな顔をして首を横に振った。
「私が食事を終える頃には使い切ってしまったようだ。何かを発酵させたような香りぐらいしか覚えていない。妻の家族はドレッシングも含めてその日に作ったものはその日の内に消費してしまうんだ」
香り、と言うと聞こえはいいが、実際は臭いと言いたいのをオブラートに包んでいるのだろう。
これは後々夫にも色々アドバイスをした方がいいかもしれない。謎のドレッシングの事を聞いたお礼を言うファリスを尻目に、コントラルトはビーフシチュー用に用意した牛肉を食べやすい大きさへカットし始めた。
●レシピ通りに
シチューを煮る時間も含めて一時間ほど経った後の事、ファリスとコントラルトが作った昨晩の夕食メニューが台所に並ぶ。正常な味覚を持つ夫は妻に申し訳無いと思いつつも満足している様子だったが、どうやら妻の方が何だか物足りないような顔をしながらしきりに味見を続けている。
その様子を見て、ファリスは妻に声をかけた。
「何か物足りないとか、味が薄いとか思うかもしれないの。でもこれが旦那さんが好きな味なの。だから、まずこの味を覚えて欲しいの」
「はい……頑張ってみます」
五度目の味見を終えて、味見に使っていた小皿をテーブルに置いた妻は、物足りないが、これが大切な人の好みの味なんだと留飲を下げ、同じメニューを作る為の準備に取り掛かる。
その一方で、既に夫の味覚に合わせた分量が記されたレシピを一通り纏めていたファリスとコントラルトは、監視役に回っていたアルトに声をかけられていた。
「次は実際に奥さんが作る番だろう? 指導しているきみ達の目が届かない所で余計な物を入れないか見張る為にそのメニューを写させてほしいんだ」
アルトはどうやら妻が調理中、レシピに無い物を入れないよう監視する為の資料を欲している様子だった。恐らく妻は料理に限らず、色んな事を自分の感覚だけに頼っているようで、他人の指示に従う事を不安に思ってしまうのだ。
メモの写しを受け取ったエニアとアルトは、それまでお手本を見せるだけだったファリスとコントラルトが指導に回ったのを確認すると、渡されたレシピの写しを元に、包丁を握る妻の監視を始めるのだった。
その妻の手さばきや技術自体は普通。指摘すべき点は無い。その手並みを見ていたコントラルトは褒めるように妻へアドバイスを出す。
「技術自体は問題無さそうね。でも、旦那さんの好みの味を作るという意味では初挑戦。だから、こんな初歩的な事、と思わずにしっかりとレシピ通りの分量や時間を守ってやってみましょう」
「はい」
その後もレシピを元に順調に調理が進んでいき、結婚してから一度も味わったことのない普通のシチューの香りが辺りを漂い始めると、その香りが鼻孔を通った夫の目から薄っすらと涙が浮かび始める。よほど不健康で筆舌しがたいメニューを平らげてきたらしい。
だが、涙を流して浮かれているのは妻の成長を見届ける夫だけであった。妻を監視するエニアとアルトは、今までの経験から順調な時ほど足元を掬われ易いと考え、注意深くレシピと妻の動きを交互に見ていた。
その時、味見をしていた妻が違和感を感じたような表情を浮かべると、いきなり余った生の牛肉を順調に仕上がっていたビーフシチューの鍋へぶち込もうとしたのだ。
「ちょっと待って?」
露骨にタイミングが違う材料を、しかも狙ってなのか指導に当っていたファリスとコントラルトが視線を切った瞬間に加えようとしていた妻をやんわりと止めたエニア、突然止められた妻は反射的に手を止め、エニアの声に対してちょっと考えられないような言い訳が飛び出す。
「えっ……でも、お肉の味が足りない気がして、こうすれば、私の父のような男の人が好む肉の味がするんです」
今までレシピ通りに進めていたのであれば、これ以上牛肉を入れる必要は無く、また入れたところで調理時間にズレが生じ取り返しのつかない事になってしまう。
味の調整は後でいくらでも出来る事をあらかじめ伝えた上で、これまたやんわりと妻を諭す。
「良い物だけを足したり寄せ集めても、決して良い結果になるとは限らないよ。何事にも相性はあるし、過ぎるのもよくない。料理も同じで、多すぎたり組み合わせ次第では本来の良さが発揮されなくなってしまうのよ」
「あっ……ご、ごめんなさい。そうよね、シチューまでお肉の味にしてしまったら、シチューにする意味がありませんもの……」
ここで今までの指導が効いてきたのか、冷静になり納得した様子で生の牛肉を下し、じっくり煮込んでいる間にそれを氷で冷やす冷蔵庫へと戻した。
「そうそう。大きな愛を伝えたい気持ちもわかるけど、愛も味も、強すぎると受け止めるのが大変になるからね~。あと、仮に薄味だったとしても、完成後でも塩などで比較的簡単に調整できるし、次回作る時に少しづつ増やして調整していけばいいから、今は焦らないでレシピ通りに作ろう」
そんなエニアのアドバイスと共に、何とか山場を乗り越えた。誤投入的な意味で肝を冷やす場面こそあるものの、ファリスとコントラルトの指導の下、調理は順調に進み、鍋に焦げつかぬようシチューをかき回しながらサラダ用のドレッシングづくりへと着手する。
女同士での料理というのはやはり楽しい物なのだろうか? コントラルトは楽しそうに作業する妻と指導がてらのお喋りをしながら調理を進めていた。
「料理は女の仕事と構え過ぎずに、旦那さんに味見をしてもらいながら作るっていうのはどうかしらね? 一緒にやればいちゃいちゃする時間も増えるわよ? うちの両親とかもそんな感じで未だにいちゃついてるし……ところで、旦那さんとはどういう経緯で知り合ったの?」
「この町に雑魔が襲ってきた時、町が発行した依頼を受けてこの町へやって来たんです。知り合ってから直ぐ、彼が孤独に対して強がっているのが解りました。少しでも弱みを見せまいと強がって、その事で喧嘩もする事もありましたけど、そんな彼を、受け止められるような人になりたいと思っていましたが、先にプロポーズされちゃいました」
そんな妻の惚気話を皆でワイワイと楽しく聞いたりしながら、妻は出来上がったドレッシングを小匙で掬って味見してみると、やはり何か足りないらしく、首を傾げて調理台の周辺を物色し始める。
一難去ってまた一難とはまさにこの事だろうか? 今度は油と酢とお好みで塩やコショウを入れて瓶を振るだけのドレッシングに、またしてもファリスとコントラルトの目を盗んでどこから持ち出してきたのか、動物の血液のような赤い液体を入れようとする。
これもその瞬間を捉えたアルトによって抑えられるが、二度も目を盗んで材料を投入しようとしたという悪意は微塵も感じられず、本当に良かれと思って入れようとしていた様子であった。
「確かにすっぽんの生き血は体に良いと言われている。美味しくしようと隠し味を入れるのも、栄養をしっかり取ってもらおうと具材をたくさん入れるのも、旦那さんのことを思ってだよね」
「はい……このままだと、油分の取り過ぎで体に悪いかなと思って……」
二度目の過ちである事にやっと気づいた妻は、心底申し訳なさそうに俯いてしまう。だがアルトは如何に旦那を愛し、健康でいてもらいたいかを、このドレッシングに投入しようとしていた材料を見て察し、これまた優しく諭す。
「料理には愛情を入れるってよく言うよね。これは、食べてくれる人のことを想って、その人が好きな味付けにしようってことだと思うんだ。でも、家庭料理は外で食べるようなびっくりより、夫婦や家族で過ごす時間のように安心っていうのかな? 安らげるような料理がいいと思うんだ。旦那さんにも好き嫌いがあると思うし、色々入れてみる前に一言相談したり、旦那さんと一緒に料理作るのはどうだろう? 旦那さんと一緒にいる時間増やせるしね!」
アルトの言葉を聞いた妻は、まるで生まれ変わったかのように明るい表情を浮かべ、全てにおいて特別である必要は無いのだと悟るようになる。この時になって初めて妻は自分やその家族の味覚がおかしい事に気づき、彼女の中で家族の味覚障害も直せるような料理を作れるよう、基本に帰って努力しようと誓ったのだ。
●夫にもアドバイスを
しばらくして出来上がった妻の料理がテーブルへと並べられ、そのまま試食会を開く流れになる。
テーブルに並べられた料理は決してレストランなどで出されるような気取ったものではないが、長い間夫が忘れていた故郷を思い起こさせる暖かさがビーフシチューの湯気を通じて伝わってきた。
「これから毎日ずっとボクらが監視できるわけじゃないし、一緒にいる時間を少しでも増やしたいって一緒に料理作るようにしたらどうかな? 味の好みも伝えれるし、夫婦仲も深まると思うし」
テーブルに着く直前、アルトはこっそりと夫にそう耳打ちする。
考えてみれば、夫にもこのような事態を招いた原因があるようにも思える。だが夫は戦う事しか知らず、抱いた恋愛感情にも最初は戸惑いがあった事が妻の惚気話からわかったように、コミュニケーションや料理が苦手であった為、妻を手伝うどころか足を引っ張ってしまうと考えていたのかもしれない。
だがその内夫も料理が得意になるだろう。今回の指導でより魅力的になった妻と共に台所に立てば、自分の好みの味をより正確に伝える事が出来るだけでなく、将来彼一人で家事を行わなければならない時が来た場合に備える事も出来る。
その事を気にしてか、ファリスも夫に対して発破をかける様なアドバイスを出した。
「自分だけが我慢すればいい、と言う問題ではないの。いずれ二人の間に赤ちゃんが生まれた時、きちんとした味を知らなかったら、その子が不幸になるの。子供の幸せを奪う権利は親にもないの。だから、どんなに厳しくとも奥さんのメシマズをきちんと治すの。その為には心を鬼にしてダメなところはきちんと指摘しないといけないの」
「あぁ……そうだね。私は、初恋の相手を、そして初めての妻を傷つけるのが怖くて、ひどい事をしてしまった。妻を料理教室に通わせようとした時も、なるだけ傷つけない言葉を選ぼうと必死だった。今思えば、あの言葉もただ妻の心を傷つけるだけだったのかもしれないな。すまなかった」
夫はファリスの言葉で自らの過ちに気づき、人前だと言うのにそっと妻を抱きしめて今まで嘘を詫び、妻は放免の証として大胆にもその唇を塞ぎ始めた。
そんな夫婦が絆を確かめ合う熱い姿を見届けるも、料理が冷めてしまっては本末転倒だと直ぐに離れ、修行の成果を確認するために妻の手料理を皆一斉に口にした。
因みに試食会で食べる事となった妻の料理は、当たり前という言い方にはあまりにも雑ではあるが、普段から体を動かす夫の好みに合わせて作られている為、女性陣達からすると少しカロリーが気になる程には濃口な味付けだった。
待ち合わせ場所として指定された市場の露店で夫婦と落ち合った十色 エニア(ka0370)、ファリス(ka2853)、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)、コントラルト(ka4753)の四人は、早速夫婦宅へと訪れる。
二人だけの愛の巣とも思えるような場所に見えたが、実際のところは実家暮らしであり、妻の家族共々円満に暮らしていると依頼人である夫から伝えられる。
「今日は、よろしくお願いします」
少し緊張した様子の妻は、集まった四人にそう挨拶し、頭を下げた。皆夫のような覚醒者であり、普段は助けてもらう立場の妻からすると仕事とはいえ自分たち夫婦の為に時間を使ってくれる事に少し気後れしているようだ。
「うん、よろしくね。それと、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。普段旦那さんと一緒に居る時と同じぐらいリラックスして大丈夫だから」
「そうだ。ボク達は貴女の旦那さんと同じ立場の人間、何も特別な事は無いよ」
エニアとアルトはそんな緊張した妻を落ち着かせるように優しく声をかけると、早速本題に取り掛かろうと下準備を開始する。
普段から家事を行っており、台所を任されているだけあって、調理器具や食材の準備自体はテキパキと要領よく出来ている。
問題はもっと先の、調理工程に問題があるのかもしれない。
「旦那さん、もしよろしければ昨日のお夕飯に食べた料理のメニューを教えてほしいの」
指導役へと回ったファリスは早速、普段どのようなメニューを食べているのかを尋ね、同じ指導役であるコントラルトと共に一通り作ってみる事にしてみるようだ。
夫は昨晩の夕食に食べたメニューを思い出し、ファリスとコントラルトへ伝える。
「夕べの晩御飯はさっき市場で買ってきたパンに、付け合わせでビーフシチュー、後は特製ドレッシングのかかったサラダだよ」
夫は特に言い淀む事無く昨晩のメニューを答えるが、こんな暖かなメニューであるにも関わらずハンターズソサエティーで依頼が発行され、こうして料理指導に駆り出されているのだから、一体どんなものか想像出来ないが恐らく一筋縄にはいかない味をしていたのだろう。
このままでは夫の方も味覚障害になってしまうかもしれない、それだけは何としても阻止しなければ。
そんな決意を胸に秘め、妻に遵守させる為のレシピメモを作る為に、ファリスとコントラルトは腕を捲り調理を開始した。
「それじゃ、私とファリスでそのメニューを実際に作ってみるわ。一度旦那さんに食べてもらって、そこから味の調整をしてレシピにして、実際にやってもらうわ」
「……まず旦那さんが喜ぶ料理を作る事が第一なの。何かを付け加えるとかはまず基本が出来てからなの。だから、ファリス達の書いたレシピは絶対に遵守! なの。ところで、その特製ドレッシングというのはどこにあるの?」
ファリスは普段食べているメニューを尋ねる延長線上として、手作りであろうドレッシングの存在をそれとなく聞いてみると、夫は不思議そうな顔をして首を横に振った。
「私が食事を終える頃には使い切ってしまったようだ。何かを発酵させたような香りぐらいしか覚えていない。妻の家族はドレッシングも含めてその日に作ったものはその日の内に消費してしまうんだ」
香り、と言うと聞こえはいいが、実際は臭いと言いたいのをオブラートに包んでいるのだろう。
これは後々夫にも色々アドバイスをした方がいいかもしれない。謎のドレッシングの事を聞いたお礼を言うファリスを尻目に、コントラルトはビーフシチュー用に用意した牛肉を食べやすい大きさへカットし始めた。
●レシピ通りに
シチューを煮る時間も含めて一時間ほど経った後の事、ファリスとコントラルトが作った昨晩の夕食メニューが台所に並ぶ。正常な味覚を持つ夫は妻に申し訳無いと思いつつも満足している様子だったが、どうやら妻の方が何だか物足りないような顔をしながらしきりに味見を続けている。
その様子を見て、ファリスは妻に声をかけた。
「何か物足りないとか、味が薄いとか思うかもしれないの。でもこれが旦那さんが好きな味なの。だから、まずこの味を覚えて欲しいの」
「はい……頑張ってみます」
五度目の味見を終えて、味見に使っていた小皿をテーブルに置いた妻は、物足りないが、これが大切な人の好みの味なんだと留飲を下げ、同じメニューを作る為の準備に取り掛かる。
その一方で、既に夫の味覚に合わせた分量が記されたレシピを一通り纏めていたファリスとコントラルトは、監視役に回っていたアルトに声をかけられていた。
「次は実際に奥さんが作る番だろう? 指導しているきみ達の目が届かない所で余計な物を入れないか見張る為にそのメニューを写させてほしいんだ」
アルトはどうやら妻が調理中、レシピに無い物を入れないよう監視する為の資料を欲している様子だった。恐らく妻は料理に限らず、色んな事を自分の感覚だけに頼っているようで、他人の指示に従う事を不安に思ってしまうのだ。
メモの写しを受け取ったエニアとアルトは、それまでお手本を見せるだけだったファリスとコントラルトが指導に回ったのを確認すると、渡されたレシピの写しを元に、包丁を握る妻の監視を始めるのだった。
その妻の手さばきや技術自体は普通。指摘すべき点は無い。その手並みを見ていたコントラルトは褒めるように妻へアドバイスを出す。
「技術自体は問題無さそうね。でも、旦那さんの好みの味を作るという意味では初挑戦。だから、こんな初歩的な事、と思わずにしっかりとレシピ通りの分量や時間を守ってやってみましょう」
「はい」
その後もレシピを元に順調に調理が進んでいき、結婚してから一度も味わったことのない普通のシチューの香りが辺りを漂い始めると、その香りが鼻孔を通った夫の目から薄っすらと涙が浮かび始める。よほど不健康で筆舌しがたいメニューを平らげてきたらしい。
だが、涙を流して浮かれているのは妻の成長を見届ける夫だけであった。妻を監視するエニアとアルトは、今までの経験から順調な時ほど足元を掬われ易いと考え、注意深くレシピと妻の動きを交互に見ていた。
その時、味見をしていた妻が違和感を感じたような表情を浮かべると、いきなり余った生の牛肉を順調に仕上がっていたビーフシチューの鍋へぶち込もうとしたのだ。
「ちょっと待って?」
露骨にタイミングが違う材料を、しかも狙ってなのか指導に当っていたファリスとコントラルトが視線を切った瞬間に加えようとしていた妻をやんわりと止めたエニア、突然止められた妻は反射的に手を止め、エニアの声に対してちょっと考えられないような言い訳が飛び出す。
「えっ……でも、お肉の味が足りない気がして、こうすれば、私の父のような男の人が好む肉の味がするんです」
今までレシピ通りに進めていたのであれば、これ以上牛肉を入れる必要は無く、また入れたところで調理時間にズレが生じ取り返しのつかない事になってしまう。
味の調整は後でいくらでも出来る事をあらかじめ伝えた上で、これまたやんわりと妻を諭す。
「良い物だけを足したり寄せ集めても、決して良い結果になるとは限らないよ。何事にも相性はあるし、過ぎるのもよくない。料理も同じで、多すぎたり組み合わせ次第では本来の良さが発揮されなくなってしまうのよ」
「あっ……ご、ごめんなさい。そうよね、シチューまでお肉の味にしてしまったら、シチューにする意味がありませんもの……」
ここで今までの指導が効いてきたのか、冷静になり納得した様子で生の牛肉を下し、じっくり煮込んでいる間にそれを氷で冷やす冷蔵庫へと戻した。
「そうそう。大きな愛を伝えたい気持ちもわかるけど、愛も味も、強すぎると受け止めるのが大変になるからね~。あと、仮に薄味だったとしても、完成後でも塩などで比較的簡単に調整できるし、次回作る時に少しづつ増やして調整していけばいいから、今は焦らないでレシピ通りに作ろう」
そんなエニアのアドバイスと共に、何とか山場を乗り越えた。誤投入的な意味で肝を冷やす場面こそあるものの、ファリスとコントラルトの指導の下、調理は順調に進み、鍋に焦げつかぬようシチューをかき回しながらサラダ用のドレッシングづくりへと着手する。
女同士での料理というのはやはり楽しい物なのだろうか? コントラルトは楽しそうに作業する妻と指導がてらのお喋りをしながら調理を進めていた。
「料理は女の仕事と構え過ぎずに、旦那さんに味見をしてもらいながら作るっていうのはどうかしらね? 一緒にやればいちゃいちゃする時間も増えるわよ? うちの両親とかもそんな感じで未だにいちゃついてるし……ところで、旦那さんとはどういう経緯で知り合ったの?」
「この町に雑魔が襲ってきた時、町が発行した依頼を受けてこの町へやって来たんです。知り合ってから直ぐ、彼が孤独に対して強がっているのが解りました。少しでも弱みを見せまいと強がって、その事で喧嘩もする事もありましたけど、そんな彼を、受け止められるような人になりたいと思っていましたが、先にプロポーズされちゃいました」
そんな妻の惚気話を皆でワイワイと楽しく聞いたりしながら、妻は出来上がったドレッシングを小匙で掬って味見してみると、やはり何か足りないらしく、首を傾げて調理台の周辺を物色し始める。
一難去ってまた一難とはまさにこの事だろうか? 今度は油と酢とお好みで塩やコショウを入れて瓶を振るだけのドレッシングに、またしてもファリスとコントラルトの目を盗んでどこから持ち出してきたのか、動物の血液のような赤い液体を入れようとする。
これもその瞬間を捉えたアルトによって抑えられるが、二度も目を盗んで材料を投入しようとしたという悪意は微塵も感じられず、本当に良かれと思って入れようとしていた様子であった。
「確かにすっぽんの生き血は体に良いと言われている。美味しくしようと隠し味を入れるのも、栄養をしっかり取ってもらおうと具材をたくさん入れるのも、旦那さんのことを思ってだよね」
「はい……このままだと、油分の取り過ぎで体に悪いかなと思って……」
二度目の過ちである事にやっと気づいた妻は、心底申し訳なさそうに俯いてしまう。だがアルトは如何に旦那を愛し、健康でいてもらいたいかを、このドレッシングに投入しようとしていた材料を見て察し、これまた優しく諭す。
「料理には愛情を入れるってよく言うよね。これは、食べてくれる人のことを想って、その人が好きな味付けにしようってことだと思うんだ。でも、家庭料理は外で食べるようなびっくりより、夫婦や家族で過ごす時間のように安心っていうのかな? 安らげるような料理がいいと思うんだ。旦那さんにも好き嫌いがあると思うし、色々入れてみる前に一言相談したり、旦那さんと一緒に料理作るのはどうだろう? 旦那さんと一緒にいる時間増やせるしね!」
アルトの言葉を聞いた妻は、まるで生まれ変わったかのように明るい表情を浮かべ、全てにおいて特別である必要は無いのだと悟るようになる。この時になって初めて妻は自分やその家族の味覚がおかしい事に気づき、彼女の中で家族の味覚障害も直せるような料理を作れるよう、基本に帰って努力しようと誓ったのだ。
●夫にもアドバイスを
しばらくして出来上がった妻の料理がテーブルへと並べられ、そのまま試食会を開く流れになる。
テーブルに並べられた料理は決してレストランなどで出されるような気取ったものではないが、長い間夫が忘れていた故郷を思い起こさせる暖かさがビーフシチューの湯気を通じて伝わってきた。
「これから毎日ずっとボクらが監視できるわけじゃないし、一緒にいる時間を少しでも増やしたいって一緒に料理作るようにしたらどうかな? 味の好みも伝えれるし、夫婦仲も深まると思うし」
テーブルに着く直前、アルトはこっそりと夫にそう耳打ちする。
考えてみれば、夫にもこのような事態を招いた原因があるようにも思える。だが夫は戦う事しか知らず、抱いた恋愛感情にも最初は戸惑いがあった事が妻の惚気話からわかったように、コミュニケーションや料理が苦手であった為、妻を手伝うどころか足を引っ張ってしまうと考えていたのかもしれない。
だがその内夫も料理が得意になるだろう。今回の指導でより魅力的になった妻と共に台所に立てば、自分の好みの味をより正確に伝える事が出来るだけでなく、将来彼一人で家事を行わなければならない時が来た場合に備える事も出来る。
その事を気にしてか、ファリスも夫に対して発破をかける様なアドバイスを出した。
「自分だけが我慢すればいい、と言う問題ではないの。いずれ二人の間に赤ちゃんが生まれた時、きちんとした味を知らなかったら、その子が不幸になるの。子供の幸せを奪う権利は親にもないの。だから、どんなに厳しくとも奥さんのメシマズをきちんと治すの。その為には心を鬼にしてダメなところはきちんと指摘しないといけないの」
「あぁ……そうだね。私は、初恋の相手を、そして初めての妻を傷つけるのが怖くて、ひどい事をしてしまった。妻を料理教室に通わせようとした時も、なるだけ傷つけない言葉を選ぼうと必死だった。今思えば、あの言葉もただ妻の心を傷つけるだけだったのかもしれないな。すまなかった」
夫はファリスの言葉で自らの過ちに気づき、人前だと言うのにそっと妻を抱きしめて今まで嘘を詫び、妻は放免の証として大胆にもその唇を塞ぎ始めた。
そんな夫婦が絆を確かめ合う熱い姿を見届けるも、料理が冷めてしまっては本末転倒だと直ぐに離れ、修行の成果を確認するために妻の手料理を皆一斉に口にした。
因みに試食会で食べる事となった妻の料理は、当たり前という言い方にはあまりにも雑ではあるが、普段から体を動かす夫の好みに合わせて作られている為、女性陣達からすると少しカロリーが気になる程には濃口な味付けだった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 ファリス(ka2853) 人間(クリムゾンウェスト)|13才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/02/15 03:34:21 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/02/15 02:04:13 |