クリスとマリーとルーサーと 辻道、交差

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/02/14 22:00
完成日
2017/02/22 19:06

みんなの思い出

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オープニング

「では、私たちはこの捕らえた『賊』らを引き連れてダフィールド侯爵家へと赴き、彼ら『取締官』たちによって旧スフィルト子爵領にて行われている『非道』について男爵家に上訴し、状況の改善を訴える── これを目的とすることでよろしいですね?」
 ──侯爵家の統治に対する暴動が発生しかけた村を出でて最初の夜。小道沿いに焚いた野宿の火に照らされた皆の顔を見渡しながら、オードラン伯爵家令嬢クリスティーヌは確認の意味を込めてそう問い掛けた。
 応、と真っ先に応じて見せたのは、一見、狩人の様な格好をした身なりの粗末な男ら8人。いずれも先の『暴動が起きかけた村』で『暴動を起こしかけた』農民たちだった。
「その為に我らは皆の代表として村を出た。それが果たされぬのであれば、俺たちは今すぐ『奴ら』を皆殺しにして村に帰る」
 農民たちのリーダーなのだろう、その男がそう言うと、農民たちは彼らが『奴ら』と呼ぶ者たちを憎々し気に睨みつけた。その視線の先には、侯爵家の統治をいち早く受け入れた村長と、縄で縛られ一繋ぎとされた、農民たちが『賊』と呼ぶ『逃散民取締官』の男たちの姿がある。
「……上訴など本当に上手くいくと思っているのか。侯爵家は我らに辛苦を強いている統治の大元、まさに根源なのだぞ?」
 旅装を整えた壮年の男──村長が村人たちに翻意を促し、反駁する。
「黙れ! その侯爵家の統治を──悪政を真っ先に受け入れたのは、村長、お前だろう!」
「真っ先に受け入れたからこそ、あの程度で済んでいるのだ! 侯爵家から徴税官が派遣された村々がどのような有様か、お前たちは知らんのだ!」
 口角泡飛ばして言葉を交える村人たちと村長の論争を、『賊』の一人、『口髭の男』ならぬ『片鬚の男』がニヤニヤと笑いながら見ていた。彼は、すぐに『処刑』されるのでなければ何にせよ、公的機関についた時点で自由の身になれると楽観していた。なぜなら、彼らの『業務』──重税に耐え切れずに逃げ出した逃散民を『取り締まり』、その財産を『没収』する役目──は、侯爵家より正式に『委託』されたものだったからだ。
 一方、『片鬚の男』と同様に捕らえられた、彼とは別グループの『取り締まりチーム』の頭、『落ち着き払った男』とその部下7人は、淡々とした表情でそのやり取りを見つめていた。彼らの頭は『口髭の男』ほど楽観的にはなれぬ様子だった。「訴えを受けた侯爵家が全ての罪を俺たちになすりつけ、トカゲの尻尾切りをしてくる可能性がある」と、先の暴動騒ぎの際にクリスらに告げたことがある……
(厄介事に巻き込まれているなぁ……)
 その自覚がクリスにはあった。どうしてこんなことに…… と愚痴も零せず、天を仰ぐ。
 お付きの若い侍女マリーを連れて王国巡礼の旅に出て。ひょんな事からダフィールド侯爵家の四男ルーサーを実家に送り届ける事となり。途中、誘拐騒ぎやユグディラを助けたりといった小冒険を経てようやく辿り着いた侯爵領で。先年、スフィルト子爵領から『割譲』された新領にて、重税に喘ぎ逃げ出した逃散民の家族と出会い、彼らを捕まえに来た山賊紛いの『取締官』たちを逆に捕らえて。訪れた村で彼らの引き渡しを求める村人たちの暴動騒ぎに巻き込まれた。
「悪政、か……」
「……大丈夫?」
 父の統治方法を目の当たりにして落ち込むルーサーを、心配したマリーが覗き込む。彼女が膝の上に抱えたユグディラがそんな両者を交互に見やって、どうにか身振り手振りで励まそうとする。
 ルーサーがダフィールド侯爵の子息であることは、クリスとルーサー、そして同道するハンターたち以外には、この場にいる誰にも明かしてはいなかった。誰に知られるにせよ、ひと悶着起きるであろうことは火を見るより明らかだったからだ。
「……何にせよ、その話はこれまでです。言葉で決着がつくのであれば、先の暴動騒ぎなど起こらなかったはずですから……」
 村長と村人たちの口論が堂々巡りとなったところで、クリスは両者の間に割って入った。不承不承と言った態で、その場は論争の矛を収めた。
「……では、我々は侯爵家に向かうこととします。次に、どの様なルートで目的地に向かうかですが……」
 クリスは内心の溜息を隠しながら、新たな議題を提示した。
 旧子爵領を抜けて侯爵家(本領)に入った後は、大まかに二つのルートがあった。ひとつは、これまで通り街道を通って宿場町や村々を抜けていくルート。もう一つは裏街道を使ってなるべく人目につかないよう進むルートだ。
 街道を進むルートは町や村も多く、人目もあることでこの一行の内部での揉め事は起き難いと思われた。商店や宿屋も多く、体力の消耗率や食料・雑貨の入手といった点では利点が多い。逆に、人目がある事で起こる予想外のトラブルが発生しないとも限らないという懸念もある。当然、『賊』たちを縄に繋いだまま町村に入るわけにはいかなくなるだろう。
 裏街道を使うルートは、逆に人目につかないのがメリットだ。途中、村がないわけではないので物資の調達はやり方次第だろうが、山道や野宿が増えるので体力の消耗は多くなる。デメリットは利点であるはずの『人目つかないこと』が裏目に出る可能性。誰かに出会えば「なぜ旅人がわざわざこんな道を」と怪訝に思われるであろうし、人目がなければ荒事にも躊躇はいらない。村人たちも完全に一枚岩というわけでもないだろうし、万が一、外部勢力に取り囲まれるようなことがあれば対応が難しくなる。
「何か……どちらを選んでもトラブルを避けられませんと言っているように聞こえますな」
 村長がそう冗談めかして笑ったが、当のクリスは「あ、は、は……」とその笑みを引きつらせた。以前、彼女はハンターの一人にこう言われたことがある。次から次へとトラブルばかり──そういう星の下に生まれたのか、と……
「ともあれ、選択はしなければなりません。トラブルは避けられないとしても、その種類を選べるだけ常よりマシかと」
 クリスのその返しに笑ったのはマリーだけだった。しかも、笑いは笑いでも苦笑だった。
 クリスとマリーは苦み走った笑みを消して、皆に視線を走らせた。
 無言で村長や『賊』たちを睨み続ける村人たち── ルーサーは落ち込んだまま。『賊』のグループは押し黙ったまま沈黙し。ただ一人、『片鬚の男』だけが皆を見渡してニヤニヤと笑い続けている……
 クリスと村長は大きな溜息を吐いた。そして、互いに気づいて苦笑を交わし合った。
 ……正直、今回もトラブルは免れ得ぬだろう。クリスにとっては、同道するハンターたちだけが頼りであった。

リプレイ本文

 何とも面倒な旅に居合わせてしまったものだ── 街道の傍に取った野営の場。道行を共にする面々を見渡しながら。門垣 源一郎(ka6320)は灰に溜めた空気をゆっくりと吐き出した。
 一癖も二癖もありそうな逃散民取締官に、怒れる屈強な村人たち── 対するこちらは若い女か子供ばかり…… 無論、皆、ハンターとしての実力は疑うべくもないが、それでも賊や村人たちから無意識に侮られている可能性は排除できない。
 故に、源一郎は唯一の『大人の男』として、賊や村人たちを威圧する役目を自らに課していた。睨みつけるような視線で見張っていることをアピールしながら…… 今もこうして無言のまま彼らに正対し続けている。
(もっとも、元々視線はキツイと言われていたからな…… わざわざ睨まなくても勝手に威圧されてくれたかもしれん)
 ふと懐かしい顔が脳裏に浮かんで、源一郎は僅かに表情を緩めた。だが、すぐにその暖かな感情を寂寥と共に仕舞い込む……

 そんな源一郎の後ろでは、朝食を終えたハンターたちがもう一つの焚火を囲んで、これから進むべきルートを話し合っていた。
 その間、雀舟 玄(ka5884)は誰かの使用人の様な風情で忙しそうに立ち回りながら、道を往来する人々に対して警戒の視線を向けていた。さりげなく、不自然さのないように。目が合った者には「こんにちは!」と笑顔を返す。
(監視されている可能性もありますからね。……しかし、先程からやたらと目が合いますね)
 なぜでしょう、と小首を傾げる玄。目が合う理由──玄が注目される理由は、和装が王国では珍しいこと、かつ玄本人がお人形さんの様に可愛らしいからなのだが…… ともあれ、不自然に目を逸らすような怪しい輩はこれまで出ておらず。困惑する玄の頭上に?マークが幾つも浮かぶ……
「まぁ、普通に人目のある道を行く方がいいんじゃないかな? 下手に裏道を通ると不測の事態が発生した時に対応できないし、警戒を強めたまま旅をしないといけないから」
 薪の爆ぜる音の下、ルーエル・ゼクシディア(ka2473)が己の意見を述べると、向かいに座ったシレークス(ka0752)が積極的に賛同した。
「大所帯でやがりますからね。安全面を考えると裏街道は得策ではねーです。つーか、自分たちには何も疚しいことはねーのですから、正面から堂々と向かうべきです」
 反対する意見はない。
「うん。こうなったら思いっきり堂々と行こう!」
 時音 ざくろ(ka1250)が立ち上がり、元気よくこぶしを突き上げる。

 出発の準備が始まった。
 表街道は街や村の規模も大きく、その分、人目も多くなる。アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は『落ち着き払った男』らの縄を解くと、いかにも騒ぎを起こしそうな『片鬚の男』のみを改めてワイヤーウィップで拘束した。そして、一見して分からぬように、上から外套を重ねて、隠す。
「こういう事はあまり好きではないのですが……まあ、甘んじて受け入れていただきましょう。……あ、片鬚というのもいかにも目立ちますね。全部剃っておいた方がいいでしょうか?」
「ん。見た目も悪いですし、剃ってしまいましょう。大人しくしていてくださいね……」
 アデリシアを手伝うべく、サクラ・エルフリード(ka2598)がナイフを(善意で)取り出し。煌くその刃に恐怖の表情(石鹸や蒸しタオルを使わぬ髭剃りはすんごく痛い)を浮かべた男が思わず抵抗し……
「あ」
 次の瞬間、サクラの持つナイフの刃先が、男の髪の毛を(取り返しのつかない規模で)サパーッと切り払う。うん、不幸な事故である。
「……じゃ、こっちも剃ってしまいましょうか」
「やめてー!」
 ……十分後。必死の抵抗も空しく、髭と一緒に髪の毛まで大雑把に剃られた『片髭の男』ならぬ『坊主頭の男』は、半泣きのままアデリシアの馬へと乗せられていた。
 そこへ愛馬ハヤテ丸を引いたざくろがシレークスと共にやって来た。先の話し合いの結果、一部を先行させて道先を確認しておくこととなり、彼らはユナイテル・キングスコート(ka3458)、玄と共にその任につくことになっていた。
「先の街を見て来るから、こっちの事はよろしくね」
「聖堂教会に渡りをつけて、宿泊所を融通してくれるようナシを付けに行ってくるです」
 サクラに告げるシレークスの横で、ざくろは恋人であるアデリシアを抱擁するとその頬に軽く唇を押し当てて。「お気をつけて」と見送る彼女にウィンクを返しつつ馬上に上がる。

 やがて、先行した一行は昼過ぎに直近の宿場町へと辿り着くと、まずは宿泊所があるという教会へと向かった。
「御機嫌よう。わたくし、流離いのシスター、シレークスと申します」
 誰!? とツッコミたくなるようなにこやかな営業スマイルで挨拶し。ハンターと聖職者である証を立てたシレークスがとんとん拍子に教会の宿泊所を借り受けた。
「良かった。雨風が凌げるだけでも有難い」
 案内された宿泊所の部屋の様子を確認しながら、ユナイテルは騎士の礼でもって教会の修道士に感謝を示す。
「私は一応、ここに残って、宿の中と周囲を散策(と言う名の見回り)しておきます。ここの間取りや周囲の道や建物も把握しておきたいですし」
 そう言う玄を──主が来る前に支度を整えておくという名目で──宿泊所に残し、一行はその場を後にした。彼らを見送った後、玄は「さて」と呟くと襷で腕捲りをしてハタキを取った。そして、実際にパタパタ掃除をしながらさりげなく宿の裏口や周辺部に式符を落とすと、トコトコと歩かせては各所へと潜ませる……
「この街はやけに活気がありますね。今までの町村はこうではなかったはずですが」
 宿を決め、一度皆の所へ戻ろうと馬首を返し……自分たちが泊まる街を改めて見回りながら、ユナイテルは複雑な表情で呟いた。……これまで見てきた旧スフィルト子爵領とは余りに対照的だった。彼らは重い重税に喘ぎ、暴動騒ぎまで起こしたというのに。
「なんでだろ…… ちょっと聞いて来るね!」
 疑問に思った事は即解決。ざくろが人懐っこい笑みを浮かべながら、その辺りの事情を聞くべく土産物屋のおばちゃんの所まで走っていく。
 彼が戻るまでの間、シレークスはユナイテルと共にそれを待った。そして、街中に立つ制服姿の男たちに気付き、それが官憲の役人だと知らされた。
(あの連中の前で賊らに騒がれると何かと厄介かもしれねーですね……)
 シレークスは再び(何度見ても)見事な営業スマイルを浮かべると、己の身分を明かしながらにこやかに官憲へ話しかけた。
「……旧スフィルト子爵領で新たに2つの鉱山開発が始まったから景気が良いんだって。そのうち入植も始まるだろうって」
 その間に、おばちゃんに話を聞き終えたざくろが戻って来て。その内容にユナイテルは沈黙した。
 ──豊かな街。物資の調達や休息も容易そうだし、治安も良い。
 だが…… この活気を見た村人たちはどう思うだろう? 自分たちの犠牲の上に成り立つ、この街の繁栄を……

「ふざけるな…… ふざけるな!」
 ユナイテルが懸念した通り、村人たちは激怒した。それでも、事前に話をしていたお陰で、街中で騒ぎを起こすことだけはなかった。
 だが、その我慢も宿泊所に入るまでだった。侯爵による統治の理不尽を目の当たりにした彼らは、そこで己の感情を爆発させた。
「なぜ奴らは笑っていられる?! なぜ俺たちだけがあのような仕打ちを受けねばならん!?」
「落ち着いてください」
「しかし……!」
「まだ旅の途上です。こんな所で問題を起こすようなら、これ以上同行させるわけにはいかなくなります」
 激発する村人たちに対し、静かな口調で、ユナイテル。村人たちは短絡的な暴発はせず……代わりに拳を宿の石壁に叩きつけることで、どうしようもない怒りをぶつけた。
「……あなたたちの怒りはもっともなもので、それを否定はしませんし、できません。しかし、事態は一時的な暴力で根本的に解決できるものでもありません」
「皆さん、今は抑えてください。……ここで問題を起こしてしまったら、領主への直訴が叶わなくなってしまいますよ?」
 何の為にはるばるここまで来たのか── 彼らが落ち着くのを待ってから、冷静に諭しに掛かる玄とサクラ。ざくろは村人に近づくと傷ついた拳をそっと握り……涙を浮かべた瞳で訴えかけた。
「ここで暴れたら全てが水の泡だよ…… 村に残して来た家族のことを考えて。今は、堪えて……」
 苦しんでいる村人の力になりたい──そのざくろの真摯な想いに、村人たちは憤怒を抱いたまま、世の理不尽に涙する……

 その日の夜──
 宿泊所の広い室内で、それぞれグループごとに分かれて遅い夕食を取る一行── そんな中、一人離れた所に座って食も進まぬ様子のルーサーの元へ、心配したルーエルが自分の皿を持って訪ねた。
「……食事はしっかりと取った方がいいよ。いざって時に力が入らないと旅はできないからね」
 生返事のルーサー。……無理もない、とルーエルは同情した。この本領の活気を目の当たりにしたことで、父が旧子爵領で行っている『悪政』とのコントラストがより強く感じられてしまっただろうから……
「善意で悪を為す者もいれば、悪意から善を為す者もいる。それぞれに立場があればこそな」
 背後から声がした。ルーサーと同様、一人で飯を食べていた源一郎が、背を向けたまま、悩み傷ついた少年に向けて己の言葉を紡いだ。
「……村人や村長たちの諍いがまさにそれだ。最善と信じて暴力を振るい、悪の統治に進んで服従する事で次善となす。……或いは、お前の父や兄たちも。その事情がお前に許容し得るものであるかどうかは別にして」
 侯爵はどんな男か、と源一郎は尋ねた。ルーサーは消え入るような声で、殆ど会ったことがないと答えた。身分の低かった母は爵の寵愛を受けて成り上がり──金以外何もないあの館で、自分は『父の素晴らしさ』と『貴族の誇り』と『貧者に対する軽蔑』だけを繰り返し聞かされて育ってきたから──
 ルーエルは言葉もなかった。源一郎は何も言わなかった。
 二人はただ無言で。ルーサーの傍にい続けた。
「……お前は、お前が必要だと信じた事をすればいい。それで、少なくとも後悔はしなくて済む」
「だから今は…… うん。一緒にご飯を食べよっか」

 同刻──
 一人、窓辺で月夜を見上げる『落ち着き払った男』の元に、見回りを玄と交代して戻って来たユナイテルが話し掛けた。
「侯爵家からの尻尾切りを怖れている割には、随分と余裕ですね?」
 ユナイテルに男が顔を向ける。その表情に、彼女は最初に彼らと対峙した時のことを思い出していた。……あの時と比べれば、彼我の立場も状況も大きく異なっている。今のユナイテルには、彼らがただの賊とは思えない。
「なぜそう思う?」
「……村長の館で髭の男は逃げたのに貴方たちは逃げなかった。最初から共謀していれば容易に逃げれたはずなのに」
「あの時、村は容易に脱出できる状況にはなかった」
「では、なぜ中央に行くことを条件に?」
 『騎士』の問いに『賊の頭』は答えなかった。代わりにこんなことを言った。
「この状況は成り行きだが…… 我々は図らずして目的の半分を達成した。流石にこれ以上流されっぱなしというのもまずいが……俺一人くらいなら、もう少し食い込んでみるのも悪くない」

 その会話を、少し離れた場所でサクラも聞いていた。
 サクラは黙考した。少なくとも、あの『落ち着き払った男』たちは、元『髭の男』とは明らかに行動原理が違うように思える……

 翌朝── 一行は一宿の礼を返すと、次の宿場町へ移るべく教会を後にした。
 アデリシアは『坊主の男』を連れて隊列後方に下がると、腰に巻いたワイヤーを引いてその存在を意識させつつ、男を愛馬の上へと上げた。
「逃げようとしないでくださいね。まあ、逃げ出そうとしたところで、また『戦乙女の槍』を使うだけですが」
 その言葉に男は反駁もせず、黙って馬の背に乗った。アデリシアは警戒した。男は昨晩からずっと不気味なくらいに静かだった。
「ここからはより注意を払って行きましょう。途中で躓くわけにもいきませんし」
 そんな男を注視しながら、サクラはクリスやルーサーたちに自分の側から離れないよう指示を出した。
(何が起こるか分からない…… いざという時は彼らだけでも)
 一行が出発する。
 ルーエルは街並みを睨みつける村人たちの間に進んで交わり、積極的に彼らに話を聞いた。
 活気溢れる街並みから彼らの意識を逸らそうという意図は勿論ある。せめて愚痴を吐き出させる為、良き聞き手になろうとも。
 だが、同時に、ルーエルは単純に彼らのことがもっと知りたかった。家族構成や人間関係、どの様な人生を送って来たのかを── 『暴動を起こした村人』ではなく、一人の人間として。

 やがて、一行は官憲のいる駐在所の前を通りかかり── 案の定、それまで大人しくしていた坊主頭が、その場で騒ぎを起こし始めた。
「た、助けてくれ! 俺は逃散民取締官だ! こいつらによって不法に捕らえられている! こいつらは直訴に向かう謀反人だ!」
 官憲の前──故に剣呑な手段でそれを止めるわけにもいかず、叫びたい放題の坊主頭。その騒動に何事かと飛び出して来た官憲たちに坊主頭が笑みを浮かべ…… だが、シレークスは意味ありげな目配せをした瞬間、霧散する。
「すみません…… この人、ちょっとおかしくなりかけていて…… 今から大きな病院に連れて行こうとしているんです」
 しおらしく頭を下げたサクラに言葉に、官憲は「ああ、この人が」と返す。
 何……? と慄く坊主頭に、官憲から見えない所でシレークスがジッタリした笑みを浮かべた。
 彼女は先の訪問の際、あらかじめ官憲たちにこう言い含めておいたのだ。──後続の仲間たちの中に『病人』がいる。突然騒いだりするかもしれないが、ハンターたちが同行しているので心配はいらない、と──
(『事前』対策にしてはピンポイント過ぎる……!)
 男は戦慄し。だが、すぐに思考を切り替えた。そして、グッと苦しそうに息を詰まらせると、自ら馬上から落下して……なんと血まで吐いて見せた。
(こいつ……!)
 目を瞠るシレークスに、官憲から見えぬ角度でニヤリと笑って見せる坊主頭。
「すぐに診療所へ!」
 慌てて医者の手配をする官憲たちを、静止する術はなかった。

 その騒動の最中に、『落ち着き払った男』の手下たちがひっそりと人込みに紛れて消えた。
 頭の男だけはその場に残り、一行と共に後へと続いた。

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参加者一覧

  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • いつも心に盾を
    ユナイテル・キングスコート(ka3458
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 和歌纏う者
    雀舟 玄(ka5884
    人間(蒼)|11才|女性|符術師

  • 門垣 源一郎(ka6320
    人間(蒼)|30才|男性|疾影士

サポート一覧

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/02/12 00:03:31
アイコン 行く道相談・・・
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/02/14 21:01:58