戦う乙女のがぁるずとぉく。

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~6人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2017/02/16 07:30
完成日
2017/02/24 22:39

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●戦う女性の恋愛事情を取材したいの
「うあー……ヒマぁ」
 ここはとあるハンターズソサエティ支部。
 黒髪の少年がカウンターの内側に座り、だらしなく突っ伏していた。
 その頭を職員の女性がファイルで叩く。
「痛っ、何すんのぉ? 髪乱れちゃう」
「女々しいこと言ってんじゃないわよ玲、この駄ハンター!」
 駄ハンターこと玲の「ヒマ」の言葉に反し、奥で書類の山と格闘していた彼女・モリスは目をつり上げる。
「年末年始に立て込んだイベントやら何やらの事後処理で大変なの! 『支部のお手伝い』の名目でソコ座ってんなら手伝いなさいよ!」
「えームリぃ、僕お箸より重い物なんて持ったことないしぃ」
「フザケンナ! 君そもそも大精霊と契約した覚醒者でしょ? 依頼に行きなさい依頼に!」
「えームリぃ、僕元々インドアだしぃ外出るとかホント無理、戦うとかマジ勘弁なんだけどぉ」
 ぶりっ子よろしく頬に手を当てのたまう玲に、モリスはがしがしと頭を掻きむしる。
「っあああぁぁ、何でこんなヤツと契約したかなぁ大精霊サマは!?」
「リアルブルー出身だからねぇ、マテリアルとの親和性がナントカ……ま、一言で言うと才能的な?」
 その言葉でついにモリスがキレた。
 細っこい玲の腰をがしっと掴み、カウンターの外へ押し出そうとする。
「うっせえ! ここで働かないなら依頼に行け! 他人様のお役に立て! 雑魔の一匹でも討伐して来やがれぃ!」
「いーやーだぁー! 誰か助けてぇ、可愛い玲クンが逆セクハラ受けてるよー!」 
「やかましぃっ、しまいにゃどつくぞ!」
 追い出そうとするモリスと抵抗する玲とで、果てしなくみっともない争いを繰り広げていたまさにその時。

 キィッと扉が開き、ひとりの老女がやって来た。
「あら、お取込み中だったかしら?」
 白髪をきっちりとひっつめたその老女は、物腰といい身なりといい品がある。
 天の助けとばかりに、玲は背筋を伸ばし取り澄ます。
「とんでもありません、ご依頼ですか? 僕が承ります」
 行儀よく一礼した玲の変貌ぶりに、モリスは心の中でハンカチをギリギリした。

 玲は、勧めた椅子に老女が腰かけるのを待って尋ねる。
「それで、ご依頼の内容はどういったものでしょう?」
「実はね」
 老女は春風のように微笑む。
「戦う女性の恋愛事情を取材したいの」
「――は?」


●もうすぐバレンタインですもの
「劇作家さんでいらしたんですね。それで次作の取材に、と」
 老女の職業を聞きモリスは首肯する。
 リアルブルー出身の玲は、
「クリムゾンウェストにも『劇作家』って職業があるんだ」
 ぽつりとひとりごちる。それを聞き老女は目を輝かせた。
「まぁ、貴方リアルブルーのご出身なのね? あちらのように『映画』、でしたかしら? そういったものはないけれど、お芝居を楽しむ文化はこちらにもありますのよ」
「僕ヒッキー……いえ、まだこちらに慣れてないもので知りませんでした。脚本を書くお仕事なんてすごいですね」
 褒める玲に、老女は頬を赤らめる。
「そんな大それた者ではありませんわ。あら失礼、自己紹介がまだでしたわね。私、ヘイディ・バーリと申しますの」
 その名にモリスがガタッと立ち上がる。
「ヘイディ・バーリ!?」
 突然呼び捨てたモリスに対しても、老女・ヘイディは笑みを崩さずふんわりと頬を緩める。
「あらまぁ、私をご存知? お恥ずかしい」
「全ッ然恥ずかしいことなんかないです、ファンです! 前作の悲恋物とっても良かったです泣きました号泣しました鼻水も出ましたもうとっても……!」
「ちょっとモリスさん、一旦落ち着こうか? ね?」
 身を乗り出して唾飛ばすモリスを椅子に座らせ、玲はヘイディに非礼を詫びた。もっとも、ヘイディは全く気にしてない風だったが。

「それでお友達の旅楽団長さんから、『恋に悩める戦乙女』をヒロインにした歌劇の脚本を依頼されたのだけれど」
「歌劇、」
 オペラみたいなモンかな? と玲は内心首を捻る。
「私、お恥ずかしながら戦うどころか、運動さえ苦手で……文学少女だったものですから」
「文学少女、」
 それ自分で言っちゃうんだ、と玲は唇の内でツッコんだがさておいて。
「戦う女性ならではの出逢いや悩みなんかも、きっと皆さんおありでしょう? けれどそういったものがなかなか想像できなくて……ですから、ハンターとして活動する女性達が秘めた繊細な恋心を、こっそりお聞かせ願えないかと思いましたの」
「繊細な恋心、」
 おっとこのお婆さん歳の割に乙女回路満開だぞ、と玲は以下略。
「けれど恋愛に関するお話を伺うのに、こちらのロビーの一角をお借りして……というわけには参りませんでしょう?」
 ヘイディは壁に下げられた暦に目をやる。
「もうじきバレンタインデーですわね。リアルブルーでも、女性が恋人やお慕いする方にチョコレートを送って、想いを告げる日だとか」
 玲はバレンタインデー本来の意味を思い出し苦笑い。
「んーまぁ、僕がいた日本ではそうでしたね。女性に縁遠い男達がもれなく打ちのめされる恐ろしい日です」
「あら、とっても素敵なイベントですのに」
 ヘイディはまるで少女のように首を傾げる。
「折角そういうイベントも近いことですから、拙宅に皆さんをお招きして、お菓子を作りながらお話を聞けたらと思っていますの」
 そう言ってうっとり微笑むヘイディの頭の中では、甘い香りに包まれきゃっきゃうふふと恋バナに花咲かす、可憐な乙女達の光景が浮かんでいるに違いない。
 このお婆さん満開どころか爆発してんぞと玲は以下略。

 日取りなどの条件が決まると、ヘイディは品よく席を立つ。
「それでは――宜しくお願いしますわね。皆様のお越しをお待ちしておりますわ」

リプレイ本文


「いらっしゃい♪」
 訪れた六人を出迎えたのは、手入れされた前庭と瀟洒な洋館、そして劇作家ヘイディの笑顔だった。
「アルスレーテ・フュラー(ka6148)よ」
「何て眩い銀の御髪、素敵だわ」
 そう評したヘイディ、後に彼女がハンターになった経緯を聞きたまげる事になるのだが。
「エステル・ソル(ka3983)です。よろしくお願いします」
 ちょこんと淑女のお辞儀をして見せたエステルに、思わず頬を綻ばす。
「これはご丁寧に。可愛らしいレディだこと」
「わたくし、特別な好きを知りたくて来ましたの!」
 レディの言葉に頬を染め、エステルはぎゅっと拳を握った。
「えぇ、きっと見つけられますよ」
 頷いていると、今度は赤髪を揺らせた凛とした女性が。
「ヘルヴェル(ka4784)です、エスティの付き添い、でもありますね。よろしくお願いいたします」
「まぁ綺麗なオッドアイ! 貴女はどんな恋をしてらっしゃるのかしら?」
「いえ、あたしは」
 乙女思考を爆発させぐいぐい来るヘイディに、ヘルヴェルは少々たじろいだ。助け船を出すべく、もう一人の赤髪の持ち主がずいっと割り込む。
「乙女の恋バナをすると聞いて駆けつけたロゼさんでーす♪」
 ロス・バーミリオン(ka4718)だ。
「私の事はちゃんとロゼさんって呼ぶ事! いいわね!?」
 そう周囲に念押す彼女を不思議とも思わず、ヘイディはロゼのすらりとした身体を見上げ、
「まぁ、まるで舞台女優さんみたい」
「やだお上手♪」
「本音よ♪」
 きゃっきゃうふふと盛り上がる。この二人案外気が合うのかもしれない。
 そこへはいはいとばかりに割り込むは一本角の骸香(ka6223)と、ツインテールを揺らした七夜・真夕(ka3977)。
「こんな事するなんてないけども、いいかたまにはー……ってことで、骸香っす」
「あたしは真夕。七夜・真夕よ。よろしくね」
「お二人とも艶やかな黒髪ねぇ♪ お婆さんになると黒髪に堪らなく憧れたりするものよ、若さの象徴って感じがしてね。お二人の恋のお話もとっても楽しみだわ!」
 共に恋人がいる骸香と真夕、目配せしてこっそり苦笑し合ってみたり。
 ともあれ、こうして乙女達のがぁるずとぉくは幕を開けた。


「本格的なオーブンね、これならケーキも一気に焼けちゃう。女の子達が火傷したら大変だから私がやるわね?」
 キッチンに入るや早速オーブンに火を入れようとするロゼに、エステルきょとん。
「ロゼお姉さんも女の子では?」
「んー、この中では年長者だからって事♪」
 ロゼ、エステルの疑問を華麗に躱す。
 中央のテーブルでは、骸香が山と積まれたチョコを刻みにかかった。計七台の焼き型と見比べ首を捻る。
「全体的に材料が多くないっすか?」
「あんまり楽しみで、つい買い込んでしまったの」
「なら折角だし、使って良いなら生チョコでも作りますか。結構簡単にできるっすよ」
 ヘイディの快諾を得た骸香は、腕まくりしてチョコを刻んでいく。欠片も漏らさずボウルに移していく手際はなかなかだ。そんな彼女にメモ片手のヘイディが話を振る。
「まずは骸香さんのお話を伺っても?」
「ぇ? 出会った経緯は……うちは此処に来て間もない頃で、室内でソファにごろ寝した時に知り合ったかなぁ」
 骸香は長い黒髪が印象的な彼を思い浮かべくすくす笑う。相手を思うだけで自然と笑みが零れてくるのは、それだけ充実した関係を築けているということだろう。
「皆が期待する劇的なものでないかもっすけどねぇ」
 意地悪っぽく言ってみせるも、幸せいっぱいなオーラは隠しきれていない。
「日々命懸けで戦う乙女の、束の間の穏やかな時間……そんな中でのふとした出会い。素敵ねぇ」
 何かが琴線に触れたらしい。ヘイディはしきりにペンを動かしていった。

 ヘルヴェルはメレンゲを作るため、清潔な布巾でボウルを拭い、
「一緒にやりませんか~」
「やってみたい!」
 応じた真夕と並んでボウルに卵白を選り分けていく。
「ほんの少しだけお塩を入れて混ぜだすのがコツ、ですね。生地に蜂蜜入れてみませんか? 砂糖とは又違った風味で美味しいですよ?」
「ヘルヴェルってとっても凛々しく見えるのに、女子力も高いのね」
「そんなこと……あぁ、メレンゲも多くできそうです。お茶請けに簡単なメレンゲクッキーも作りますか? ココアにプレーン、少しだけはちみつを入れたものとか」
「やっぱり相当高いと思うわ」
 オーブンが温まるのを待つ間、ロゼはメモに没頭中のヘイディに代わり真夕に尋ねる。
「お姉さん真夕ちゃんの話も聞きたいわー♪」
 うきうきした様子を見るに、気遣ってというより趣味かもしれない。真夕は軽く目を瞑り、大好きな彼女の姿を瞼の裏に描き出す。
「私の相手は女の子なの。とっても素敵な……」
 赤い髪をした和装の似合う少女が、真夕に向け微笑んでくれた。
「それは経緯が気になっちゃうわね……あ、エプロン貸して。え? 乙女ちっく? 乙女だから問題ない」
 借り受けたフリフリフリルがたっぷりのエプロンを着け、アルスレーテが身を乗り出す。目を開けた真夕は彼女の面影の余韻を味わいつつ首を振る。
「あ、そっちのケがある訳では無いつもりです。彼女だけ、特別」
「特別?」
 その言葉に反応したエステル、チョコを湯煎しつつ話に聞き入る。
「ギルドで出会って何度か触れ合う内に惹かれていったの」
「告白はどちらからです?」
「それは向こうから。受けるのは実は正直迷ったわ、だってとても素敵な子だから……きっといい人が見つかるって思ったし、私でいいのかなって思った。
 でも、『真夕がいい。他の誰でもなく』ってまっすぐ言われて、落ちちゃったわ。もう、私にもこの子しかいないんだって。とっくに落ちていたのかもね」
 真夕は当時の逡巡を思い出してか束の間目を伏せたものの、
「その時から、世界がまるで違う様に見えたわ。何もかもが優しく見えた」
 顔を上げふわりと微笑んだ。

 手際良くチョコを溶かし終えテーブルに戻ったエステルは、エプロンを揺らしほぅっと息をつく。
「とっても素敵です! わたくしも、特別な好きに出会ったらどきどきしますか?」
「エスティ」
 エステルが抱く密かな――まだ恋と呼ぶには幼く朧気なものかもしれないが――想いに気付いているヘルヴェルはうっすらと口角を上げる。見守る瞳はとても優しい。
 チョコを生クリームと合わせながら骸香が振り返る。
「特別な好きに会ったら、そりゃするよ」
 ねぇ、と同意を求められ真夕も頷く。アルスレーテも卵黄をほぐしながら、
「そりゃもう人生変わっちゃうわよ。私なんて彼がきっかけハンターになった位だしね」
 もっともらしく頷く。エステルは感銘を受けた様子で目を丸くする。
「素敵……あの、わたくしは、特別な好きはまだ分かりませんけれど……バタルトゥさんの幸せ計画さんを成功させたくて!」
「幸せ計画さん?」
 今度は大人達が目を丸くする番だった。
 バタルトゥと言えば、言わずと知れたオイマト族の若き族長、バタルトゥ・オイマト(kz0023)その人だ。
「バタルトゥさん、お顔は怖いです……でもとっても優しいです。それにお裁縫も、お料理もとっても上手です!」
 両手を胸に当て彼に思いを馳せる。
「バタルトゥさんはいつも眉間に皺を寄せています。よくありません……わたくし笑顔さんにしたいです。その為には、特別な好きを知る必要があります。特別な好きがあれば、バタルトゥさんを幸せさんに出来るはずです!」
「それが『幸せ計画さん』なのねぇ」
 ロゼは口許を綻ばせ、
「健気ねぇ」
 アルスレーテもこくり頷く。卵黄とチョコを混ぜ合わせていく彼女の顔を、ロゼはにんまりと覗き込む。
「ふふ、そう言うアルスレーテちゃんはどうなのぉ?」
「えーっとね」
 アルスレーテはチョコの香りに鼻をくすぐらせ、故郷での記憶を手繰り始めた。

「私元々辺境の集落に住んでたんだけど、たまたまその集落に、当時ハンターやってた彼がやってきたのが最初ね。小さな泉があって、そこで水浴びしてたんだけど、そこに偶然現れたんだったかな」
「わぁお」
 骸香、その光景を想像し目を瞬く。
「その後も何度か集落に来て、今では定住しちゃった。ハンターになったのは彼の一言がきっかけ」
 そこでヘイディが顔を上げた。
「乙女を戦場に駆り立ててしまう一言って、どんなものだったのかしら?」
 期待に満ちた眼差しに、アルスレーテはさらりと。
「『運動不足じゃない?』って」
 一同、再びきょとん。
「だから『ちょっと太り気味かもしれない、愛想尽かされちゃうかも』って思って」
「ダイエットするためにハンターになったってことぉ?!」
 目を白黒させるロゼに、アルスレーテはまたこくり。
「そうよ? 逆に彼はうちの集落に留まってて、実質ハンター引退しちゃってるのよね。ちょっと申し訳なく。今頃、うちのクソ……もとい、お母様と一緒に、まだ小さい妹たちの世話してるんじゃないかしら」
 事もなげに言い、ロゼを促し生地を入れた型をオーブンに送り込む。人生経験豊かなヘイディも度肝を抜かれたようで。
「彼の愛を得続けるため、戦場へ……流石の一言だわ」
 ひとりごち、再びメモを取っていった。

 オーブンに入れてしまえばケーキ作りは小休止。
 一足先に生チョコ作りを終えていた骸香が紅茶を入れ、休憩時間と相成った。
「おいしくなーれ♪ 幸せいっぱいになーれ♪」
 オーブンを見ながらエステルが歌うように言う。
 その間ヘルヴェルはクッキー生地を絞り袋に入れ、真夕が準備したバットの上に絞り出していた。
「ヘルお姉さまはいかがですの?」
 何がと問いたげな彼女に、
「恋、していませんの?」
 エステルが小首を傾げる。
「私も興味あるわ」
 真夕にも促され、ヘルヴェルは整形し終えた生地をロゼに託してから口を開く。
「今のところは……興味がない、といったら嘘になりますが……如何せん傭兵育ち、惚れた腫れたより切った張ったの世界でしたので」
「以前は傭兵でいらしたのね」
 首肯するヘイディに彼女は茶目っ気たっぷりに微笑む。
「意外と戦う方はこういうの多いかもしれませんね、生きるか死ぬかでは……恋よりも生存本能のほうが勝っちゃいますから」
「そんなヘルヴェルちゃんの理想のタイプ、うちとっても気になるなぁ」
「理想ですか」
 骸香の問いにヘルヴェルはしばし考えてから、少しはにかんだように笑った。
「背中を預けられる人、ですね。共に歩める方、が理想です」
「いいわねぇ♪ 恋の話をしてる時の女の子の顔ってみーんな魅力的で可愛いわぁ。私も恋をしたくなっちゃうっ!」
 身を捩るロゼに、ヘルヴェルは少し早口に言う。
「そう言うロゼさんはどうなんです?」
 けれどロゼ、人差し指を唇に当てぱちりとウィンク。
「うふふ、いーい? 大人のオンナっていうのは秘密があった方がミステリアスな感じがして魅力的なのよ☆ 恋のお悩みがあったら聞いてあげちゃうわよぉ? 私ったら女の子の気持ちもわかるし男の子の気持ちもわかるのよ♪」
「どうしてですの?」
 かくりと首を傾げたエステルを、
「それはヒ・ミ・ツ♪ さーて、ケーキはどうかしらー?」
 再び華麗に煙に巻き立ち上がる。
「あ、この間ね」
 そして話を再開しかけた時だった。

「……っあっづ!!!」

 突如響いた低い声。
 皆一斉に声のした方を見る。
 視線の先には、オーブンを覗いていたロゼが。
 じゅっとやってしまった指に息を吹きかけていたロゼは、視線にハッとなり咳込む。
「あらやだ……風邪でも引いちゃったかしら」
「大丈夫ですの?」
「だ、大丈夫よー。あっ、ケーキいい感じに焼けてるじゃないのー! ここからは皆で好きなようにデコっちゃいましょ♪」
 やれやれなんだ、それなら安心。一同ほっと息をつく。
 野暮な事は言いっこなし。安心ったら安心なのだ。

 生地が冷めるのを待って、各々一台ずつデコレーションしていく。
「んー、やっぱり私の様に美しくて可憐な感じがいいわよね?」
 臆面がないロゼの物言いにも、
「ぴったりです! わたくし、小さいのをいくつか持ち帰って、お兄様やお義姉様やお友達へ贈りたいです!」
 エステルは無邪気に頷き、生地を切り分けてからたっぷりのチョコでコーティング。
「ドライフルーツ乗せたりなんかもいいよね♪」
 真夕は艶めくチョコの上に品よく果実を配した。
 皆思い思いにアザランやナッツ、早摘み苺などをあしらっていく。飾られていくケーキ達に、ロゼは眼鏡の奥の瞳を細める。
「皆好きな人を想って飾りつけしてるのねー♪ 貰った人はさぞ幸せになれるでしょうね♪ 誰にあげるとかじゃなくっても心さえ篭っていればそれでいいのよ☆ 私も想われたいし想いたーいっ!」
 熱い叫びが館中に響き渡った。


 全て作り終えたら、お楽しみの試食会。
 ヘルヴェルと真夕が作ったメレンゲクッキーに、骸香が拵えた生チョコ。勿論彼女はココアを振るのを忘れなかった。それにエステルが持参した一口チョコと、余分に作ったザッハトルテを切り分けて、テーブルにはお菓子がたんと並んだ。それらを口に運びつつ、
「相手の好きなところ? ベタだけど全部! 顔とかぶつくさ文句言いながら私を甘やかしてくれるところとか、たまにヘタレるところとか全部! というか、何度か会ううちに気付いたら意識するようになってて、どこがって言われてもピンと来なかったり?」
「アルスレーテちゃんったら♪」
「私も全部。可愛い所も、甘えてくれる所も、甘えさせてくれる所も」
「七夜さんもですか」
「うちは……弄られて拗ねてる所も好きだしうちが何しても受け入れてくれる所も好きだし。意地悪って言って顔真っ赤にさせてる所なんて最高ですよね♪」
「骸香お姉さん、かっこいいです!」
「意地悪って言いながら顔赤いまま引っ付いてくれるんですよ? 可愛いし抱きついて構い倒しますよ」
「男前ですね。……恋とは何でしょうか」
 惚気てみたり、恋について考えたり。おしゃべりは尽きることがない。
「この間のお休みの日ね? 寒かったから布団から出ても一緒にいたの。手を握ったり、背中から抱きしめたりしながらずっとね。特に何をするでもなく、窓から雪が降ってるのを眺めたり他愛無いお喋りしたり」
「素敵♪」
 お菓子よりも甘やかな時間はあっという間に過ぎていき、乙女達の囀りは空が赤くなるまで続いた。

 そしてとうとう終わりを迎え、ケーキ箱を手に玄関に立つ。ヘイディは丁寧に礼を述べ、六人に小さな包みを渡した。
「これは?」
「私からバレンタインの贈り物。桜の時期にはまだ早いけれど」
 それはヘイディ手製の桜餅だった。桜の葉の酸く甘い香りがふんわりと舞う。
「お陰できっといい脚本が書けるわ、楽しい時間をありがとう」
 手を振る彼女に挨拶をし、六人は揃って歩き出した。道すがらまた恋の話を語らいながら。

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MVP一覧

  • Lady Rose
    ロス・バーミリオンka4718

重体一覧

参加者一覧

  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • Lady Rose
    ロス・バーミリオン(ka4718
    人間(蒼)|32才|男性|舞刀士
  • 絆を繋ぐ
    ヘルヴェル(ka4784
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士
  • 孤独なる蹴撃手
    骸香(ka6223
    鬼|21才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/02/14 00:31:58
アイコン 相談?雑談?卓
アルスレーテ・フュラー(ka6148
エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2017/02/16 00:44:26