• 王臨

【王臨】【空の研究】輝く嵐が通る道

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~4人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/02/19 22:00
完成日
2017/02/26 21:26

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 毎日着ている、黒いローブが近頃妙に重く感じる。
 アメリア・マティーナ(kz0179)は研究所の屋上にしつらえられた計測室で空を見上げながらそう思った。
 雲の流れが遅い。風が少ないのだ。王都の気候はおそらく、しばらくの間穏やかであろう。しかし。
「雨雲が停滞している地域が、ありそうですねーえ」
 この季節にしては珍しいことと言える。アメリアが、空から視線を外して帳簿に記録を取っていると。階下から足音が聞こえた。
「所長。ただいま戻りました」
「ああ、スバルさん、ご苦労さまでしたねーえ。どうでした」
 アメリアがスバルと呼んだのは長身の青年だった。まだあどけなさを残しつつ精悍さを身に着け始めた十八歳のこの青年は、現在「空の研究所」にいる唯一の職員である。ただし、「職員」ではあるが「研究員」ではない。
「ご本人にはお会いできませんでしたが、妹さんが帰ってきました。なんでも、友人の結婚式のために遠方へ行っていたそうで、数日家を空けていたそうです」
「そうですか。それで、彼……“本人”もその結婚式に?」
「いえ。違うようです。妹さんの話によると、三か月ほど家を空けているそうです。実験、だとかなんとか言っていたような気がするけれど詳しいことはわからない、と言ってました」
「ははあ。実験ねーえ。なるほど」
 アメリアが、深くかぶったフードの下で笑った。
 アメリアはこのところ、王都に居をかまえる、とある人物に会うため何度もその邸宅に足を運んでいた。しかし、留守ばかりで一向に会うことができない。そのため、スバルに行方を探させていたのだ。
「それで、どこへ行っているかはわからないのですかねーえ?」
「それが……」
 スバルが言いにくそうに顔を曇らせた。
「どうやら、リベルタースの方にいらっしゃると」



 リベルタース地方。
 これはまた厄介なところに、とアメリアは思って、その心中の言葉とは裏腹にほくそ笑んだ。
 アメリアが設立した「空の研究所」は、現在、研究員を募集していた。しかし、闇雲に人数を増やせばいいというわけではない。一般公募はせず、まずはアメリア自身が「協力してくれそうな人物」に声をかけるところから始めていた。それが、「とある人物」である。
「研究所に来る意志はあるとのことですが、ふむ、これは困ったことになりましたねーえ」
 彼の所在がわかってすぐ、アメリアは手紙を出していた。正直なところ、その手紙が届くかどうかも危ぶんでいたのだが、上手く流通経路に乗れたらしい。まだそこまでの混乱はないとみるべきか、はたまた運が良かったのか。ともかく、手紙は無事その人物へと届き、返事も戻ってきた。
「現在、リベルタース中部のカント村という小さな村にいる……。ふむ、だいぶ西寄りの村ですね……。人の出入りが制限されつつある……? ははあ……。これはまたタイミングの悪い」
 アメリアは手紙を読んで苦笑した。カント村周辺を不穏な影がうろついているらしい。影、という表現は抽象的すぎるが、明らかに好意を持っていない武装集団であるようだ。その正体について明言はされていなかったが、おそらくは。
「ベリアルの手の者ですかねーえ」
 こちらへ攻め入ってくる様子は今のところないが、下手に動くことはできない、と手紙にはあった。
「まあ、目立ちますからねーえ、あの男は。ひとりでこっそり抜け出してくることは容易でない。それにしても相変わらず運がないですね、キランは」
 アメリアは笑った。とある人物、とは、もともとは医者だ。買い物に出れば店はすべて臨時休業、ハイキングに行けば突然の土砂崩れで通行止め、と、運のなさは天下一品だ。アメリアにとって、友人と呼べるほどの間柄ではないが、決して浅くはない縁を持つ男であった。キラン、という不思議な響きを持つ名前は「輝嵐」と書くらしい。嵐の文字にふさわしく、というべきか、破天荒な外見をしている。
「しかしまあ、今回、天候についての運は持ち合わせているようですねーえ」
 空の研究所の研究員に誘われた人物にふさわしく、彼は手紙にカント村周辺の天候について事細かに書き記していた。雨が続いているらしい。停滞した雨雲の所為で、しばらくは晴れそうにない、おかげで実験に使う草がなかなか手に入れられない、と愚痴まで書いてよこしていた。
 雨。
 それも、長く降り続く雨。
 ぴったりの魔法を、アメリアは有している。
「スバルさん。これを持ってハンターオフィスへお願いします」
 アメリアは旅支度を整えた姿で、スバルに書状を差し出した。
「は。所長は、どちらに……?」
「一足先にハルトフォートへ向かいます。ラーズスヴァン殿に挨拶しておいた方がいいでしょうからねーえ。マーロウに連なる者、もしくはマーロウとも一線を画した第三勢力と誤解されては困りますし」
 後半は独り言のように、アメリアは呟いた。アメリアは政治に詳しくない。だが、詳しくはなくても身の振り方を考えねばならない立場になったという自覚はあった。スバルが、表情に乏しい顔を、それでも心配そうにする。
「あちらは危険と聞き及びます。本当に、行かれるのですか」
「ええ。キランを連れ帰ります。しかしまあ、私一人では無理ですからねーえ、そのためにハンターに協力を頼みたいのですよーお。詳細は、そこに書きましたが、できれば、楽器の演奏ができる方、もしくは歌える方を、と強調してください」
「はい。……楽器、ですか」
 不思議そうに首を傾げるスバルに、アメリアは頷いた。
「優しい雨の睡魔を、呼び寄せましょうねーえ」
 アメリアの声は、多少の緊張をはらみつつも楽しげであった。

リプレイ本文

●交渉
 アメリア・マティーナ(kz0179)の依頼によって集まったハンターたちが、ハルトフォート砦に駆けつけたとき、空はすでに夜の色に染まっていた。兵士に案内された部屋に入ると、アメリアがハルトフォート司令・ラーズスヴァンと差向いに座っていた。
「ああ、皆さん到着しましたか」
「うむ? 話に出ていたハンターだな?」
 ラーズスヴァンがハンターたちの顔をぐるりと見た。
「はい。メトロノームと申します」
 メトロノーム・ソングライト(ka1267)が代表して挨拶すると、ラーズスヴァンはひとつ頷き、立ち上がった。
「くれぐれも、無理はするなよ。村の安全が第一だからな」
 そう言って、部屋を出て行こうとする。アメリアが立ち上がって見送ろうとすると、彼は首だけで振り返ってそれを制した。
「自分が先に来て交渉するたぁ手回しがいいな。アメリアとか言ったな、なかなか見どころがありそうだ」
「ありがとうございます。今後とも、どうぞよろしくお願いしますねーえ」
 アメリアがゆっくりとお辞儀をしてから、改めてハンターたちに向き直る。
「皆さん、ご苦労をかけますねーえ」
「私は尽力する。空の研究所。その研究員確保のために」
 雨を告げる鳥(ka6258) が真剣な面持ちでそう告げ、ラーズスヴァンが去った方を気にしながら言葉を続けた。
「彼に、村への立ち入りの許可を願い出た方が良いと思ったのだが」
「はい。私もそう思ったので、すでに話をつけてありますよーお。カント村への書状や、ベリアル軍と思しき小隊の調査依頼も、研究所宛に正式にいただきました。しかし、調査は本来の目的ではありませんからねーえ、情報量は些少で構わぬ、とのことです。さすが、豪胆な方ですねーえ」
「そう……、もう交渉は済んでいたのですね」
「さすが所長」
 メトロノームがホッと息をついてから、ジルボ(ka1732)がニッカリ笑うと、アメリアもフードの下で微笑んだ。
「こういうことは責任者の仕事ですからねーえ。さて。今からここを出てはカント村へ着くのは夜中。砦で一晩ご厄介になり、明日の朝、出発するとしましょーう」



●カント村へ
 翌朝。今にも雨の降り出しそうな分厚い灰色の雲の下、一行は出発した。
 フィーナ・マギ・ルミナス(ka6617)は、昨夜、砦でリハーサルを行った「雨の子守唄」のメロディーを頭の中で何度も確認しながら、周囲を警戒して歩いていた。
「そういえば……、連れて帰りたいという、その変わった名前の……、そう、キランさんという人はどういう人なんです?」
 エリオ・アスコリ(ka5928)が尋ねると、アメリアはふむ、と少し考えるように小首をかしげつつ、そうですねーえ、と説明を始めた。
「医者、なのですがねーえ。明るい、というか、愉快、というか……、姿かたちも言動も、落ち着きのない男です。目立ちますからすぐわかりますよーお。何せ、タンポポを発光させたくらいに鮮やかな黄色い髪をしていますからねーえ」
「タンポポを、発光、ですかー」
 小宮・千秋(ka6272)が一生懸命どんな色かと想像している隣で、ジルボがくっく、と笑った。
「所長の知り合いなら十中八九変わり者だと思ってはいたが、これはまた強烈な奴に出会えそうだ」
 そんなことを話しながら街道をまっすぐ歩を進め、そろそろ村が見えてくる、という頃になって、ぽつり、と冷たい雫が皆の頬を打った。
「降りだしましたねーえ」
 アメリアが濡れることすらも嬉しそうに空を見上げる。上機嫌そうな口調とは裏腹に、背中には緊張を背負っていた。
「さあ、皆さん。そろそろ二手に分かれておきましょう」
「そうだね。打ち合わせどおりに」
 エリオが頷いて、アメリアの隣に立った。鳥もそれに続く。この三人で、カント村に入ることにしていた。
「わたしたちは外で警戒していますね」
「何かあったら、すぐ連絡しあおう」
 メトロノームとジルボがアメリアたちに声をかけ、千秋、フィーナと共に身を低くして脇道へそれて行った。
 アメリアたちは、四人の姿をしばらく見送ってから、村への入り口へと進んで行った。



●村の中
『こちらジルボ。村の周辺に今のところ小隊らしき影はない』
『了解。村へ入る』
 機材越しにジルボと短いやりとりをしたエリオが、アメリアと鳥に頷いて見せ、三人はカント村へと足を踏み入れた。普段は門番など置いていないのであろう、即席の詰所と見られる小屋から、すぐに男がひとり、飛び出してきた。
「何者だ!? 運送の者でもないようだが」
 警戒心たっぷりのその男に、まずはエリオが微笑みかけた。
「ボクたちは王都イルダーナの空の研究所というところから参った者です。キラン、という人物を探しているのですが」
「ああ、キランさんの知り合いか」
「ご存じなんですか?」
「ご存じも何も」
 男は苦笑する。
「あの人は目立つから」
「でしょうねーえ」
 アメリアも苦笑気味に頷いた。男は、多少警戒を解いてくれたようだが、それでもまだ道を塞ぐように立ったままだ。
「キランさんの知り合いだという人を疑いたくはないが、今は誰も彼もを通すわけにはいかねえんだ」
「もっともだ。状況を考えれば無理はない」
 鳥が頷き、アメリアを促す。アメリアも頷き返して、ラーズスヴァンから得ていた書状を差し出した。
「ハルトフォート司令・ラーズスヴァン殿からの書状です。これで我々の身元を証明できるかと」
「それと、人探しだけでなく、最近の気掛かりなことについて詳しく教えてくれないかな? 最近この地方各所で歪虚の目撃情報があるし、ハルトフォート司令ラーズスヴァン様とオフィスに報告しようと思っていてね。詳しく事情を聞かせて貰えると有事の際に王国軍やハンターが迅速に対応し易いんだけど」
 アメリアに続いてエリオがそう言い添えると、男は真剣な面持ちで書状を受け取って、わかった、と言った。
「そういうことなら、村長のところへ案内しよう。最近の事情も、そっちの方が詳しく聞けるだろう」
 男は、村の最奥、見張り台の傍にある村長の家へと案内してくれた。五十歳そこそこと見られる村長に、エリオと鳥が言葉を尽くして説明をすると、村長はここ最近の状況を細かく教えてくれたばかりか、アメリアたちが村を訪ねたことに感謝すらしてくれたのである。
「なにせ、具体的な衝突は何ひとつ起きておりませんからな。助けを求めるのも躊躇われて」
「なるほど。何か起きてからでは遅いとはいえ、確かに何か起きる前では助けを求めづらいだろう」
 鳥が村長の心中を察して頷いた。かなりの情報を得られたと思ったが、しかし、アメリアは浮かぬ様子だった。エリオが首を傾げる。
「なにか?」
「いえ、めぼしい情報はないな、と思いまして。キランが手紙で書き送ってきたことと大差ありませんからねーえ」
「やはり、小隊を直接調べないとダメってことかな」
「でしょうねーえ」
「ところで村長。キランさんは、どこに?」
 エリオが尋ねると、村長はちょっと困ったような顔をした。
「それがですね……」
 村長が言葉を切ったその間に、タイミング良くと言うべきか悪くというべきか、ジルボから通信が入った。
『例の小隊を発見。雨の子守唄を使用して接近を試みる』
 エリオが了解、と返してから村長に向き直ると。
「キランさんは今、植物を採取するとか言って花畑が丘へ行っていまして」
「それは」
 鳥は心配げに、アメリアを見た。アメリアは珍しくため息をついて、苦笑した。
「不運の匂いがしますよーお、キラン……」



●雨の子守唄
 一方、村の外で待機していた四人は、林の方面を見通しやすく、かつ、林からは見えにくいであろうポイントに身を隠していた。ジルボが素早く作った簡易テントは見事に草木に紛れ、おいそれと見つからないようになっている。
 アメリアたちが村に入るのとほぼ同時に、メトロノームは小隊がよく現れるというポイントを調査に向かった。ひとりでは危険かと思われる行動だが、この場合大勢で行く方が危険だ、との判断に基づいた。妖精「アリス」に周囲を警戒させつつ、ジルボが双眼鏡で広範囲を見張ってメトロノームの安全を確保した。
 ほどなくして戻ってきたメトロノームは、パルムに記録を取らせつつ、調査結果を皆に報告した。
「特に何かある、ということはありませんでした。ただ、あのポイントは大きな樹が多く、村の見張り台から見づらい位置であるようです。それでいて、砦へ続く街道の様子はよく見渡せます」
「……ハルトフォート砦への侵攻ルートを模索している……?」
 フィーナが小首を傾げつつ呟くと、おそらくそうでしょう、とメトロノームが同意する。そうしているうちに、雨がだんだんと強さを増してきた。雨ふりは覚悟の上だったとはいえ、水煙が双眼鏡の視界を邪魔するほどになってくると、さすがに顔をしかめざるを得ない。
「これは少々つらいですねー。魔法の効き目はあがりそうですがー」
 千秋が首をすくめ、フィーナも無言で頷いた。
「まあなあ。……ん? おい、来たぞ」
 ジルボが林の奥に何かが動くのを見つけた。ただの黒い影だったそれは、だんだんと生き物の形を取ってくる。メトロノームも自分の双眼鏡を覗き込んだ。
「例の小隊でしょうか」
「わからん。だが、さっき調べてきたポイントに向かってきているということは……」
「そういうことでしょうねー」
 ジルボの言葉を引き継いで、千秋がそっと立ち上がる。
「……子守唄、使う?」
 フィーナはチューニングを万全に整えているヴァイオリンをそっと示した。
「使おう。でも、ここからじゃちょっと遠いな……」
「演奏しつつ近付きましょう。雨で視界が悪いのは、向こうも同じはずです」
 メトロノームの言葉に全員が頷いた。
「あの」
 フィーナが、遠慮がちに口を開いた。
「大事なのは、小隊に「演奏を聞いていたら眠っていた」と思わせること。絶対に、カント村に敵意を向けさせちゃいけない。小隊はきっと斥候だから。攻められるとしたら、きっと大きな部隊でくるはずだから。出来得る限り、刺激しないように。徹底しましょう」
「そうですね。持ち物なども盗まない方がいいでしょう」
 メトロノームが同意し、他のふたりもしっかりと頷いて同意した。
 ジルボが素早く村の中の三人に連絡を入れ、濡れた布で耳栓をした。自分たちが眠ってしまわないようにするためだ。楽器の持ち合わせがなく、歌に自信がないという千秋も耳栓をした。演奏はメトロノームとフィーナのふたりにかかっている。
 ふたりはしっかりと呼吸を合わせ、フィーナのヴァイオリンのスタッカートから、曲はスタートした。すぐに、ピアノパートをメトロノームが歌いだす。奥深い、ドルチェの旋律。激しい雨の音に、不思議なほど溶け込んでいくのが、フィーナにはわかった。これが雨の子守唄の魔法か、とまだ効果を目にしていなくても実感する。
 耳栓をしたジルボがハンドサインで前進の合図をした。演奏するふたりの足元を千秋がチェックしながら先導し、四人は小隊に見つからぬよう細心の注意を払って距離を詰めて行った。
 音楽と、耳栓。それゆえに、四人は気が付かなかった。彼らの背後で、どさり、と何かが倒れたような音がしたのに。



●調査
 ゆっくり、ゆっくり、四人は小隊との距離を詰めて行った。次第にその姿がはっきりしてくる。重そうな鎧を纏い、手に鞭を持った歪虚が一体。雑魔化していると思われるゴブリンが、三体。ゴブリンはいずれも足がふらついており、そのたびに歪虚が鞭をぴしりと鳴らして姿勢を正させていた。だが、その鞭の動きもどうも鈍い。
 雨の子守唄が、効いてきている。
 四人ともが、そう確信して頷いた。
 あまりに近付きすぎて、音が大きくなれば怪しまれるため、そこからは一定の距離を保ってしばらく演奏を続けた。いくらもたたず、小隊は眠りに落ちた。まずはゴブリンが足からくずおれ、それを鞭で叱ろうとした歪虚が、腕を振り下ろすこともできずに草の上に突っ伏した。
 ジルボが、ハンドサインでメトロノームとフィーナに演奏を続けるように合図し、千秋とともに倒れた小隊の方へ近付いて行った。
 どうやらぐっすり眠っているようだ、とジルボは千秋と頷き合い、歪虚とゴブリンの写真を素早く撮影した。見たところ、武器を持っているのは歪虚だけだ。小ぶりなナイフが三本、ベルトに用意してあるところを見ると、必要なときだけにゴブリンに渡しているのだと思われた。持ち物も詳しく調べたいところだったが、鎧の下までは調べられない。ふたりは、そっと、小隊から離れた。
 雨が、上がり始めていた。メトロノームとフィーナは演奏をやめ、小隊が寝入っている間にと、フィーナがスリープクラウドを重ねがけした。これで、当分は起きないはずだ。
 ジルボがふとパルムの様子を見ると、眠そうにふらふらしている。
「ふーん。パルムにも効果はあるみたいだな。他の生き物より効き目は薄そうだが」
 呟きつつ、耳栓を取る。
「さて調査は完了ですねー。さてー、キランさんは見つけられたでしょうかー?」
 千秋がそう言ったとき、エリオから連絡が入った。



●輝く嵐
 アメリア、エリオ、鳥の三人はなんと、ジルボたち四人が身を隠していたあたりに立っていた。鳥が手を挙げて四人に合図する。近付いてもいいらしい。
「注意するべきだ。足元に」
「足元?」
 フィーナが首を傾げ、下を見ると。
「!?」
 真っ黄色の、トゲトゲしたモノが目に入った。よくよくみると、それは人の頭だった。パイナップルのヘタのような髪型の男がうつぶせに、倒れている。
「もしかして……」
「そう、これがキランさんだって」
 エリオが苦笑する。鳥が説明をした。
「実験に使うための草を採取するため、花畑が丘に行っていたそうだ。だが、帰り道は街道側を選んだのだろうな。運悪く、雨の子守唄を聞いてしまったらしい」
「あら……」
 メトロノームが苦笑する。
「ボクが背負って帰ろうか」
 エリオが申し出ると、アメリアは首を横に振った。
「そんなに甘やかすことはありませんよーお。キラン、起きてください」
 アメリアは、キランのわき腹付近を強く蹴飛ばした。ウッ、という呻きののち、男がよろよろと起き上がる。ハンターたちの顔を寝ぼけ眼で見回し、そして、ハッとしたように立ち上がった。そして。
「アメリア! と、初めましての皆さん! 輝嵐と言います! 俺はいつも、キラーンと輝く! 輝嵐だけに! なんつって!」
 実に強烈な自己紹介をかました。
「こりゃまた、すげー奴に出会っちまったなあ」
 ジルボの面白そうなコメントに皆が苦笑した。
「小隊が眠っているうちに帰りましょうかねーえ。調査結果を、道中で聞かせてください」
アメリアの号令で、一行は街道を砦方面に向けて出発した。雲は未だ晴れなかったが、雨は、そっと水滴の翼を畳んでいた。

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MVP一覧

  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボka1732
  • 緑青の波濤
    エリオ・アスコリka5928

重体一覧

参加者一覧

  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボ(ka1732
    人間(紅)|16才|男性|猟撃士
  • 緑青の波濤
    エリオ・アスコリ(ka5928
    人間(紅)|17才|男性|格闘士
  • 雨呼の蒼花
    雨を告げる鳥(ka6258
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • 一肌脱ぐわんこ
    小宮・千秋(ka6272
    ドワーフ|6才|男性|格闘士
  • 丘精霊の絆
    フィーナ・マギ・フィルム(ka6617
    エルフ|20才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】雨に唄えば
メトロノーム・ソングライト(ka1267
エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/02/19 21:58:45
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/02/19 20:29:16