ゲスト
(ka0000)
【黒祀】塹壕と弓矢と雑魔
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2014/10/14 19:00
- 完成日
- 2014/10/21 01:45
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
夜闇が包む草原に、少女が二人居た。彼方を眺めながら、片割れが口を開く。
「楽しみだね!」
「いえ、とても不愉快だわ」
「……なんで?」
「フラベル。貴女が愉しそうだからよ」
「にひっ! クラベル、それ、ほんとにっ?」
「嘘よ」
少女達の姿は、鏡写しのように似ていた。ただ、その声色だけが大きく異なる。夫々に沈まぬ太陽と、光を返さぬ新月を想起させる声音。
「面倒くさい仕事だなと思っただけ」
「そうかな。大事なことだよ?」
「どうでもいいことだわ」
クラベルと呼ばれた少女は憂鬱な息を吐き、言う。
「誰も彼も皆、勝手に踊り狂っていればいい。貴女も」
「にひっ」
フラベルと呼ばれた少女は晴れやかに笑い、言う。
「うん、踊ってくるねっ! 一杯一杯殺して、褒めてもらうんだぁ」
●
馬車馬に複数の矢が突き立ち、どう、と重い音を立てて倒れた。
「敵襲!」
「旦那を守れ!」
傭兵が盾を並べて雇用主を守り、反撃の糸口を探るため周囲を厳しく警戒する。
とん、とん、と軽い音と共に馬車に矢が突き刺さる。
「どこからだ」
傭兵のリーダーが危険を承知で前に出る。
人も地面も夕焼け色に染まり酷く視界が悪い。
かん、と甲高い音が胸甲から響く。
「そこか!」
剣を振るう。
二の矢と三の矢を見事打ち砕く、という展開にはならなず空振りする。
宙の矢を切る技量があるならもっと割のよい仕事にありつけているので当然すぎる展開だ。
「大将!」
「あんたは頭脳担当でしょうがっ」
「大人しく肉壁やってろ!」
部下からの暖かい声援に肩を落として後退する。立派なスーツアーマーが子供のように落ち込むのは寸劇にも見えた。
かん、こん、きん、と矢が鉄鎧を貫けずにはじき返され地面に落ちる。
「見つけました。雑魔の野郎、40メートル先の窪地から打ってきてます」
「数は!」
「ひのふの……」
唐突に、ひひんと悲痛な嘶きが響いた。
「反対側から矢がっ」
慌てる部下。緊張に耐えかね気絶する商人。そして、重装甲を生かして馬を庇うリーダー。
刺さったのは尻の1本だけだ。聖堂教会に駆け込めば問題なく直る。
「撃ち返せ!」
ショートボウを構えて反撃する男達。
矢の数は雑魔の倍はあり、射撃開始から数分後には雑魔の反撃は途絶えていた。
否。途絶えていたのではなく、まるで最初から計画していたように撤退していたのだった。
●
3Dディスプレイに、全身鎧が弓を構えている姿が映し出された。
画面の端っこには、推定です、多分こうなってます、間違ってたらごめんねっ、という文章が繰り返し表示されている。
全身鎧型雑魔は街道を進む馬車へ攻撃し、少しでも被害が出そうなら矢だけ放って逃げ出している。
それが2度3度と繰り返される。
襲われる側も1度襲撃された後は皆護衛をつけていたのに、雑魔は窪んだ地形を塹壕のように利用して一方的に攻撃し、常に戦力を保ったまま追撃を振り切っている。
「同じ雑魔が何度も街道を襲ってる?」
「ゲリラ屋のやり口じゃねぇか。雑魔にそんな知恵があるのか?」
ディスプレイを見てハンターが口々に言う。
非常にきなくさい。表示を信じるなら弓が使えるだけの紙装甲並腕力の雑魔だが、ろくでもない罠を使ってくるかもしれない。
「リスクが大きすぎる」
「俺ぁ罠を踏みつぶせるほど強くねぇ」
馬車貸し出しマス、何があっても損害賠償しなくていいヨという文が右から左に流れていく。が、依頼を見てうける気になるハンターは、なかなか現れそうになかった。
「楽しみだね!」
「いえ、とても不愉快だわ」
「……なんで?」
「フラベル。貴女が愉しそうだからよ」
「にひっ! クラベル、それ、ほんとにっ?」
「嘘よ」
少女達の姿は、鏡写しのように似ていた。ただ、その声色だけが大きく異なる。夫々に沈まぬ太陽と、光を返さぬ新月を想起させる声音。
「面倒くさい仕事だなと思っただけ」
「そうかな。大事なことだよ?」
「どうでもいいことだわ」
クラベルと呼ばれた少女は憂鬱な息を吐き、言う。
「誰も彼も皆、勝手に踊り狂っていればいい。貴女も」
「にひっ」
フラベルと呼ばれた少女は晴れやかに笑い、言う。
「うん、踊ってくるねっ! 一杯一杯殺して、褒めてもらうんだぁ」
●
馬車馬に複数の矢が突き立ち、どう、と重い音を立てて倒れた。
「敵襲!」
「旦那を守れ!」
傭兵が盾を並べて雇用主を守り、反撃の糸口を探るため周囲を厳しく警戒する。
とん、とん、と軽い音と共に馬車に矢が突き刺さる。
「どこからだ」
傭兵のリーダーが危険を承知で前に出る。
人も地面も夕焼け色に染まり酷く視界が悪い。
かん、と甲高い音が胸甲から響く。
「そこか!」
剣を振るう。
二の矢と三の矢を見事打ち砕く、という展開にはならなず空振りする。
宙の矢を切る技量があるならもっと割のよい仕事にありつけているので当然すぎる展開だ。
「大将!」
「あんたは頭脳担当でしょうがっ」
「大人しく肉壁やってろ!」
部下からの暖かい声援に肩を落として後退する。立派なスーツアーマーが子供のように落ち込むのは寸劇にも見えた。
かん、こん、きん、と矢が鉄鎧を貫けずにはじき返され地面に落ちる。
「見つけました。雑魔の野郎、40メートル先の窪地から打ってきてます」
「数は!」
「ひのふの……」
唐突に、ひひんと悲痛な嘶きが響いた。
「反対側から矢がっ」
慌てる部下。緊張に耐えかね気絶する商人。そして、重装甲を生かして馬を庇うリーダー。
刺さったのは尻の1本だけだ。聖堂教会に駆け込めば問題なく直る。
「撃ち返せ!」
ショートボウを構えて反撃する男達。
矢の数は雑魔の倍はあり、射撃開始から数分後には雑魔の反撃は途絶えていた。
否。途絶えていたのではなく、まるで最初から計画していたように撤退していたのだった。
●
3Dディスプレイに、全身鎧が弓を構えている姿が映し出された。
画面の端っこには、推定です、多分こうなってます、間違ってたらごめんねっ、という文章が繰り返し表示されている。
全身鎧型雑魔は街道を進む馬車へ攻撃し、少しでも被害が出そうなら矢だけ放って逃げ出している。
それが2度3度と繰り返される。
襲われる側も1度襲撃された後は皆護衛をつけていたのに、雑魔は窪んだ地形を塹壕のように利用して一方的に攻撃し、常に戦力を保ったまま追撃を振り切っている。
「同じ雑魔が何度も街道を襲ってる?」
「ゲリラ屋のやり口じゃねぇか。雑魔にそんな知恵があるのか?」
ディスプレイを見てハンターが口々に言う。
非常にきなくさい。表示を信じるなら弓が使えるだけの紙装甲並腕力の雑魔だが、ろくでもない罠を使ってくるかもしれない。
「リスクが大きすぎる」
「俺ぁ罠を踏みつぶせるほど強くねぇ」
馬車貸し出しマス、何があっても損害賠償しなくていいヨという文が右から左に流れていく。が、依頼を見てうける気になるハンターは、なかなか現れそうになかった。
リプレイ本文
左右に緑が広がる風光明媚な街道のはずだった。
しかし今は酷く荒れ果てた雰囲気で、道行く荷馬車は葬列の一部のようにも見えた。
「イイコだ」
御者用の席につく月(ka3244)が、手綱を軽く動かし荷車をひく馬を褒めてやる。
2頭の馬が安堵の息を吐き、乱れかけていた歩調がもとに戻る。
「こちら馬車です異常有りませんどうぞっ」
幌つき荷車の中からハイテンションな声が聞こえる。
トランシーバー片手に別行動中の仲間と通信中のアンフィス(ka3134)だ。
騒いでいるのは不注意でも油断でもない。明るい雰囲気をつくらないと前方から流れてくる腐臭に馬たちが怯えきってしまいそうだし、油断しきった獲物を演じる必要があるのだ。
「本部で見た地図より遠いね」
アンフィスが演技を止め仲間にだけ聞こえる大きさでつぶやく。
手元にあるカービンは良い銃だけれども、雑魔が潜んでいるだろう地形は街道から遠く一方的に射られる可能性があった。
「そうですね。今攻められたら我々だけでは厳しい」
音桐 奏(ka2951)は厳しい言葉とは対照的な、柔らかな微笑みを浮かべている。
視線がトランシーバーに向く。連絡をとりあっていた左右の班は、既に援護可能な位置に到着しているはずだった。
何の前触れもなく前方から馬の嘶きが響く。
光の防御壁が崩壊する気配も複数。
「ロドリゲス! この程度なら直撃してもかすり傷だと言っておろうがっ」
竿立ちになりかかる愛馬をミグ・ロマイヤー(ka0665)が必死に宥める。
前方には馬車の残骸に馬の亡骸があり、斜め左右より複数の矢が飛んでくる。
射手の腕が拙く距離もあり、ミグが避けなくても半分も当たらない。
仮に乗用馬に直撃しても死ぬどころか重傷を負いもしないだろうが、この状況で落ち着けるような乗用馬はあまりいない。
「逃がさないためにも相手にとって有利な戦場を提供してやるほかない、とはいえ」
眼帯の下から溢れるオーラを意識して抑えて吐きすてる。
盾を動かし馬に向かった矢を食い止める。続く矢はミグの頭部を覆う兜に命中してかすり傷をつけることもできず地面に転がり落ちた。
「この、下手くそがっ」
左右斜め前、それぞれ2、3体顔を出した雑魔に対して毒づく。
ミグはわざと胴体部分の護りを外している。盾があっても巨大な隙であり、少しでも考える頭があるなら狙うのが当然な場所だ。
が、今回の雑魔はそもそも狙って当てるだけの技術がなく、ミグを狙った矢は盾か重装甲部位で弾かれ、たまたま馬に向かった矢はほとんどが盾に弾かれる。
前に出れば馬の性根も据わり矢に耐えて雑魔を蹴散らせるが、今回の仕事は雑魔の確実な殲滅であり今の役割はこの場に雑魔の注意を引きつけることだ。つまり現状では後退するしか無く、当然のように荷馬車に追い抜かれてしまう。
「では、戦いと観察を始めましょう」
荷車の奏が飛び降りる。2頭を荷車から解放して逃がす。
馬はひひんと鳴いて反転、急ぎ足で幌突き荷車の後ろへ移動した。
「弓。使う。相手! 板。使う。盾!」
片言というより厳選した言葉という表現が相応しい。月は御者席から後ろへ飛び込み分厚い板を盾にする。それをもう一度繰り返して幌の内側に防壁をつくりあげた。
矢はまだ降り続けている。
幌に矢が何本も突き刺さる。外から見れば全滅寸前にしか見えなかった。
「恐怖や焦り、痛みに耐える事が兵士に最も求められる技能。私も兵士ですからね、持ちこたえて見せましょう」
奏が馬車に戻る。奏とアンフィスは銃ではなくトランシーバーを手に取り敵のいる方向と攻撃の程度を別班へ伝える。
極希に板を抜いてくる矢はある。だがマテリアルヒーリングで簡単に癒せる程度の威力だった。
●連なる罠
雑魔がミグに対して攻撃を仕掛けた頃、ハンターの別働隊は密やかに行動を開始していた。
触れれば肌を裂く草が混じった下生えを飛び越え、荒れた林の中を優れた方向感覚で行く。
「映画のようには無理か」
切金・菖蒲(ka2137)はチェーンウィップを携帯しやすい形にまとめて腰に吊るす。
木の幹を蹴って高さ数メートルの枝に取り付き、勢いを殺さずに最も林の端に着地した。
数秒遅れてレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が隣に着地する。
「すごいな。忍者って奴か」
「フリーランニング」
愛想の欠片もなく応える菖蒲に、レイオスはにこりと笑って賞賛を伝える。身体能力で負ける気は無いものの、見本無しで菖蒲の進路をいくのは不可能に近かったからだ。
2人が駆け出す。今度はレイオスが先で、何故か速度は本来出せる限界より遅い。
呼吸を乱さず疑問の視線を向ける。レイオスは言葉では応えず足下近くを踏みつけた。
左右の草を集めて結んだだけの雑な罠が壊れる。
木片を並べただけの鳴子もどきが粉砕される。
「キルゾーンの設定に加えて罠まであるのか。確実に頭がいるな」
レイオスは、雑魔より上のヴォイドとの戦いを覚悟した。
菖蒲がうなずいて前進、徐々に速度を落として何もない地面で身をかがめる。
「こちら切金。南端の窪地4メートル手前に到着。以上」
『了解。10秒後に仕掛けます』
きっかり10秒後に馬車が揺れる。幌が揺れ、まるでこちらに向かって逃げだそうとしているようにも見えた。
菖蒲の数歩先の地面に雑魔の頭と弓が現れる。素早く周囲を警戒する動きは妙に洗練されていない。優れた兵か将に言われたことを実行しているだけのようだった。
レイオスの森林迷彩柄の効果もあったのかもしれない。雑魔はレイオス達を見ても半秒ほど認識できなかった。無論半秒後には全力で後退しようとするがレイオスの足と反応の方がはるかに速い。
「打って逃げるヒット・アンド・アウェイなら、こっちは懐に潜りこんで撃つインファイトだぜ」
太刀を上段に構えて振り下ろす。
刃がかすめた弓が砕け雑魔の胸から腹が半分ほど断ち割れる。
雑魔は全力で逃げる。攻撃を完全に諦めた、文字通りの全力だ。
「甘い」
菖蒲が一歩踏み出し鎖鞭を繰り出す。
雑魔の全力移動に追いつく速度ではない。しかし雑魔の逃亡を待ち構えて潰すには十分な速度だ。
直線に見えて実際は弧を描く進路で雑魔の認識を狂わせる。
獰猛な大蛇のごとく鉄鎖がうねり雑魔へと向かい、雑魔が急所への直撃だけは防ごうとするが目測を誤り、首と脇の急所の薄い部分に巻き付かれる。
「口がきけるなら捕らえて割るんだが」
レイオスが溜息をつく。
菖蒲は無言のまま切れ味鋭く手を動かし、その動きが何倍にも増幅され鉄鎖が雑魔を粉微塵に砕くのだった。
●疑問
荒廃した林の中を、数十メートルしか離れていない雑魔に気付かれないよう隠密行動。
こんな命令をしたら命令者が殴られてもほとんど誰からも文句がでないだろう、常軌を逸した難易度の行動である。
「射撃して直ぐに移動せぬ狙撃手は……悪い狙撃手としか言えんな」
それを平然の足し遂げたロイド・ブラック(ka0408)は、矢の音に気づいた時点で積極的な隠密行動を止めた。
距離と戦況から判断し、雑魔が気づかないことを確信して己と仲間の攻撃力を強化する。
「今回の敵は妙に違和感があるんだよな」
いつでも駆け出せる体勢を保ったまま、リック=ヴァレリー(ka0614)がつぶやいた。
配置の見事さの割に雑魔の動きが非常に雑だ。つまり。
「俺の思い過ごしで何事もなければいいが」
雑魔ではないヴォイドの関与を、リックは半ば確信していた。
『10秒後に南西方向の窪地に陽動を仕掛けます』
ハンターの聴力でぎりぎり拾える音量でトランシーバーが囁いた。
正確に10秒後、ロイドとリックは街道左方の窪地めがけて移動を開始した。
小さな岩やわずかな茂みなど、辛うじて遮蔽物といえないこともないものを利用して窪地に迫る。
途中、縄が千切れる音や固い物が踏み砕かれる音が何度も発生する。ヴォイド側の何がが仕掛けた罠だ。ハンターが引っかかれば無傷とはいかない程度の効果はあっても、軽い負傷を覚悟すれば無視できる威力しかない。
「纏めて斬らせてもらおう」
雑魔が潜む窪地の半メートル手前で、ロイドが御幣を両手剣のように構え水平に振る。
手元から光の剣が伸び茂みにしか見えない場所を切り裂く。
弓の弦が切れる音が、草の音に混じって聞こえた。
「遮蔽を失ったのが運の尽き……今だ! 応射の時間である!」
それまで守りに徹していた馬車より矢が飛来する。
ロイドが擬装の一部を壊したため、雑魔の簡易塹壕の機能が衰え面白いように当たる。
雑魔複数の視線が壊れた擬装越しにロイドを見、矢が飛んできた方向を見、ようやく命令を思い出して予め準備していた道を使い逃げようとした。
「生憎昔から射撃は苦手だが……近づけばこっちにだって分がある!」
リックが前進を継続する。
茨混じりの擬装をバックラーで押しのけ、足下の拙い罠を踏みつぶし、その結果わずかに崩れた体勢からカッツバルゲルごと突っ込む。
一見無謀過ぎる行動。実際には非常に合理的かつ安全な選択だった。
健在な雑魔が上半身を90度まわして矢をつがえる。おそらく発生以来最高の動きであり、本来なら確実に急所を射貫けたはずだった。
矢が雑魔の指を離れる。射程未満の距離にいるリックにぎりぎりで当たりかけ、鎧の端に引っかかって明後日の方向へ飛んでいく。リックの狙い通り、どんな弓でも射程未満の距離ではこんなものだ。
リックはさらに踏み込み強く打つ。
雑魔の胸が大きく凹み、弓ごと肩が外れて宙を舞い、両膝が砕けて崩れ落ちる。
ロイドが光の刃を縦に振る。逃げようとしたもう1体の利き腕を切り飛ばす。雑魔はもう1体の肩を借り、塹壕から抜け森に向かって全力で駆けた。
「2体逃亡。後は任せたぞ……!」
ロイドがトランシーバーに向けて喋ると、囮班はこれまでの倍以上の矢弾を繰り出すのだった。
●鎮圧
幌馬車が爆発した。
正確には、蹴られた防護壁が幌をぶち抜いて大穴を開けた。
穴から見えるのは力と健康的な美そのものである月の足。
月は無造作に飛び降り地面へ降り立ち、先祖を思わせる完成された動作で矢を取り出した。
左右の窪みから矢が飛んでくる。
恐怖に駆られた雑魔の矢は狙いが甘く、しかし数があるため1本が月の首に直撃しかけた。
月は姿勢を保ったまま半歩位置をずらし、矢が接触する瞬間に腕に力を込めた。
「負けられないな!」
鏃は革手袋を貫通し腕の筋に数ミリ刺さった時点で止まり、自重に負けて地面に落ちる。
その美しさからは想像できないほど、月の体は強いのだ。
矢をつがえる。
マテリアルの集中が鏃を緑色の水晶のように見せる。
鍛え抜かれた体内で巡るオーラが月の目元に太陽のごとき線を描く。
ただ、離す。
片腕の雑魔の後頭部に当たり、貫通し、核の部分を砕いて眼窩から飛び出て地面に突き刺さる。雑魔は地に倒れることも出来ずに薄れて消えていく。
「今回は弓矢が主役かよっ」
カービンを片手にアンフィスが走る。
馬車の残骸を飛び越え馬の亡骸の脇を走り抜け、右側より雑魔の矢の歓迎を受ける。
「くっ、このっ」
動物霊の力で拡張された視力で矢を捉えて直撃を避ける。もともと威力が低くそれだけでほぼ無効化できたが異様に鬱陶しい。
「その位置は私の間合いです。逃しはしません、撃ち抜きます」
離れた場所、おそらく馬車に近い場所から銃声が聞こえた。
奏のカービンから1発ずつ銃弾が飛び出す。
弓と比べて威力が高く射程が短くなりがちな銃、しかも遠距離射撃に向いたライフルでもないのに、ずいぶんと遠くまで弾が届く。見事な遠射の腕だった。
銃弾は右の雑魔の遮蔽物を貫き、潜んでいた1体に頭部と腕に複数の穴を開ける。
恐怖に襲われ塹壕の中へかがみ込む雑魔。這うように逃げだそうとして、退路を逆走してくるレイオスに気づいた。
「いつまでも安全圏から攻撃しようなんて、砂糖菓子より甘すぎるぜ」
退路に罠はないと見切り、太刀だけを持って飛び込む。
弓を棍棒として使う雑魔、当然のように切り飛ばすレイオス。
返す刀で雑魔の首を刎ねてとどめを刺したとき、レイオスは街道上の残骸の陰で弓を構える弓兵に気づいた。
「そこに1匹!」
カービンがうなり弓ごと雑魔が砕かれる。
「警戒しておいて正解でしたね」
奏は驚きもせずにリロードをして、最後に残った雑魔に向き直る。
カービンが吼える。
奏のものではなくアンフィスのプフェールトKT9だ。
塹壕無しの雑魔は非常に脆く、ろくに回避も防御もできずに銃弾を浴び、穴だらけになって全身にひびが入る。
乾いた音と共に全身が砕ける。風に崩されるより早く薄れていき、雑魔は何の痕跡も残さずこの世から消えた。
「終わったな」
ミグが幌の下からタオルを取りだし近くにいる物に投げ渡す。
遠くにいたハンターも敵がいないのを確認し駆け戻る。
戦闘中は我慢できていたが、腐敗臭が凄まじいのだ。
月がタオルで口と鼻を覆い亡骸の埋葬に向かう。
ハンター達が埋葬を終えたときには、夕日が横から照りつけ冷たい風が吹いていた。
しかし今は酷く荒れ果てた雰囲気で、道行く荷馬車は葬列の一部のようにも見えた。
「イイコだ」
御者用の席につく月(ka3244)が、手綱を軽く動かし荷車をひく馬を褒めてやる。
2頭の馬が安堵の息を吐き、乱れかけていた歩調がもとに戻る。
「こちら馬車です異常有りませんどうぞっ」
幌つき荷車の中からハイテンションな声が聞こえる。
トランシーバー片手に別行動中の仲間と通信中のアンフィス(ka3134)だ。
騒いでいるのは不注意でも油断でもない。明るい雰囲気をつくらないと前方から流れてくる腐臭に馬たちが怯えきってしまいそうだし、油断しきった獲物を演じる必要があるのだ。
「本部で見た地図より遠いね」
アンフィスが演技を止め仲間にだけ聞こえる大きさでつぶやく。
手元にあるカービンは良い銃だけれども、雑魔が潜んでいるだろう地形は街道から遠く一方的に射られる可能性があった。
「そうですね。今攻められたら我々だけでは厳しい」
音桐 奏(ka2951)は厳しい言葉とは対照的な、柔らかな微笑みを浮かべている。
視線がトランシーバーに向く。連絡をとりあっていた左右の班は、既に援護可能な位置に到着しているはずだった。
何の前触れもなく前方から馬の嘶きが響く。
光の防御壁が崩壊する気配も複数。
「ロドリゲス! この程度なら直撃してもかすり傷だと言っておろうがっ」
竿立ちになりかかる愛馬をミグ・ロマイヤー(ka0665)が必死に宥める。
前方には馬車の残骸に馬の亡骸があり、斜め左右より複数の矢が飛んでくる。
射手の腕が拙く距離もあり、ミグが避けなくても半分も当たらない。
仮に乗用馬に直撃しても死ぬどころか重傷を負いもしないだろうが、この状況で落ち着けるような乗用馬はあまりいない。
「逃がさないためにも相手にとって有利な戦場を提供してやるほかない、とはいえ」
眼帯の下から溢れるオーラを意識して抑えて吐きすてる。
盾を動かし馬に向かった矢を食い止める。続く矢はミグの頭部を覆う兜に命中してかすり傷をつけることもできず地面に転がり落ちた。
「この、下手くそがっ」
左右斜め前、それぞれ2、3体顔を出した雑魔に対して毒づく。
ミグはわざと胴体部分の護りを外している。盾があっても巨大な隙であり、少しでも考える頭があるなら狙うのが当然な場所だ。
が、今回の雑魔はそもそも狙って当てるだけの技術がなく、ミグを狙った矢は盾か重装甲部位で弾かれ、たまたま馬に向かった矢はほとんどが盾に弾かれる。
前に出れば馬の性根も据わり矢に耐えて雑魔を蹴散らせるが、今回の仕事は雑魔の確実な殲滅であり今の役割はこの場に雑魔の注意を引きつけることだ。つまり現状では後退するしか無く、当然のように荷馬車に追い抜かれてしまう。
「では、戦いと観察を始めましょう」
荷車の奏が飛び降りる。2頭を荷車から解放して逃がす。
馬はひひんと鳴いて反転、急ぎ足で幌突き荷車の後ろへ移動した。
「弓。使う。相手! 板。使う。盾!」
片言というより厳選した言葉という表現が相応しい。月は御者席から後ろへ飛び込み分厚い板を盾にする。それをもう一度繰り返して幌の内側に防壁をつくりあげた。
矢はまだ降り続けている。
幌に矢が何本も突き刺さる。外から見れば全滅寸前にしか見えなかった。
「恐怖や焦り、痛みに耐える事が兵士に最も求められる技能。私も兵士ですからね、持ちこたえて見せましょう」
奏が馬車に戻る。奏とアンフィスは銃ではなくトランシーバーを手に取り敵のいる方向と攻撃の程度を別班へ伝える。
極希に板を抜いてくる矢はある。だがマテリアルヒーリングで簡単に癒せる程度の威力だった。
●連なる罠
雑魔がミグに対して攻撃を仕掛けた頃、ハンターの別働隊は密やかに行動を開始していた。
触れれば肌を裂く草が混じった下生えを飛び越え、荒れた林の中を優れた方向感覚で行く。
「映画のようには無理か」
切金・菖蒲(ka2137)はチェーンウィップを携帯しやすい形にまとめて腰に吊るす。
木の幹を蹴って高さ数メートルの枝に取り付き、勢いを殺さずに最も林の端に着地した。
数秒遅れてレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が隣に着地する。
「すごいな。忍者って奴か」
「フリーランニング」
愛想の欠片もなく応える菖蒲に、レイオスはにこりと笑って賞賛を伝える。身体能力で負ける気は無いものの、見本無しで菖蒲の進路をいくのは不可能に近かったからだ。
2人が駆け出す。今度はレイオスが先で、何故か速度は本来出せる限界より遅い。
呼吸を乱さず疑問の視線を向ける。レイオスは言葉では応えず足下近くを踏みつけた。
左右の草を集めて結んだだけの雑な罠が壊れる。
木片を並べただけの鳴子もどきが粉砕される。
「キルゾーンの設定に加えて罠まであるのか。確実に頭がいるな」
レイオスは、雑魔より上のヴォイドとの戦いを覚悟した。
菖蒲がうなずいて前進、徐々に速度を落として何もない地面で身をかがめる。
「こちら切金。南端の窪地4メートル手前に到着。以上」
『了解。10秒後に仕掛けます』
きっかり10秒後に馬車が揺れる。幌が揺れ、まるでこちらに向かって逃げだそうとしているようにも見えた。
菖蒲の数歩先の地面に雑魔の頭と弓が現れる。素早く周囲を警戒する動きは妙に洗練されていない。優れた兵か将に言われたことを実行しているだけのようだった。
レイオスの森林迷彩柄の効果もあったのかもしれない。雑魔はレイオス達を見ても半秒ほど認識できなかった。無論半秒後には全力で後退しようとするがレイオスの足と反応の方がはるかに速い。
「打って逃げるヒット・アンド・アウェイなら、こっちは懐に潜りこんで撃つインファイトだぜ」
太刀を上段に構えて振り下ろす。
刃がかすめた弓が砕け雑魔の胸から腹が半分ほど断ち割れる。
雑魔は全力で逃げる。攻撃を完全に諦めた、文字通りの全力だ。
「甘い」
菖蒲が一歩踏み出し鎖鞭を繰り出す。
雑魔の全力移動に追いつく速度ではない。しかし雑魔の逃亡を待ち構えて潰すには十分な速度だ。
直線に見えて実際は弧を描く進路で雑魔の認識を狂わせる。
獰猛な大蛇のごとく鉄鎖がうねり雑魔へと向かい、雑魔が急所への直撃だけは防ごうとするが目測を誤り、首と脇の急所の薄い部分に巻き付かれる。
「口がきけるなら捕らえて割るんだが」
レイオスが溜息をつく。
菖蒲は無言のまま切れ味鋭く手を動かし、その動きが何倍にも増幅され鉄鎖が雑魔を粉微塵に砕くのだった。
●疑問
荒廃した林の中を、数十メートルしか離れていない雑魔に気付かれないよう隠密行動。
こんな命令をしたら命令者が殴られてもほとんど誰からも文句がでないだろう、常軌を逸した難易度の行動である。
「射撃して直ぐに移動せぬ狙撃手は……悪い狙撃手としか言えんな」
それを平然の足し遂げたロイド・ブラック(ka0408)は、矢の音に気づいた時点で積極的な隠密行動を止めた。
距離と戦況から判断し、雑魔が気づかないことを確信して己と仲間の攻撃力を強化する。
「今回の敵は妙に違和感があるんだよな」
いつでも駆け出せる体勢を保ったまま、リック=ヴァレリー(ka0614)がつぶやいた。
配置の見事さの割に雑魔の動きが非常に雑だ。つまり。
「俺の思い過ごしで何事もなければいいが」
雑魔ではないヴォイドの関与を、リックは半ば確信していた。
『10秒後に南西方向の窪地に陽動を仕掛けます』
ハンターの聴力でぎりぎり拾える音量でトランシーバーが囁いた。
正確に10秒後、ロイドとリックは街道左方の窪地めがけて移動を開始した。
小さな岩やわずかな茂みなど、辛うじて遮蔽物といえないこともないものを利用して窪地に迫る。
途中、縄が千切れる音や固い物が踏み砕かれる音が何度も発生する。ヴォイド側の何がが仕掛けた罠だ。ハンターが引っかかれば無傷とはいかない程度の効果はあっても、軽い負傷を覚悟すれば無視できる威力しかない。
「纏めて斬らせてもらおう」
雑魔が潜む窪地の半メートル手前で、ロイドが御幣を両手剣のように構え水平に振る。
手元から光の剣が伸び茂みにしか見えない場所を切り裂く。
弓の弦が切れる音が、草の音に混じって聞こえた。
「遮蔽を失ったのが運の尽き……今だ! 応射の時間である!」
それまで守りに徹していた馬車より矢が飛来する。
ロイドが擬装の一部を壊したため、雑魔の簡易塹壕の機能が衰え面白いように当たる。
雑魔複数の視線が壊れた擬装越しにロイドを見、矢が飛んできた方向を見、ようやく命令を思い出して予め準備していた道を使い逃げようとした。
「生憎昔から射撃は苦手だが……近づけばこっちにだって分がある!」
リックが前進を継続する。
茨混じりの擬装をバックラーで押しのけ、足下の拙い罠を踏みつぶし、その結果わずかに崩れた体勢からカッツバルゲルごと突っ込む。
一見無謀過ぎる行動。実際には非常に合理的かつ安全な選択だった。
健在な雑魔が上半身を90度まわして矢をつがえる。おそらく発生以来最高の動きであり、本来なら確実に急所を射貫けたはずだった。
矢が雑魔の指を離れる。射程未満の距離にいるリックにぎりぎりで当たりかけ、鎧の端に引っかかって明後日の方向へ飛んでいく。リックの狙い通り、どんな弓でも射程未満の距離ではこんなものだ。
リックはさらに踏み込み強く打つ。
雑魔の胸が大きく凹み、弓ごと肩が外れて宙を舞い、両膝が砕けて崩れ落ちる。
ロイドが光の刃を縦に振る。逃げようとしたもう1体の利き腕を切り飛ばす。雑魔はもう1体の肩を借り、塹壕から抜け森に向かって全力で駆けた。
「2体逃亡。後は任せたぞ……!」
ロイドがトランシーバーに向けて喋ると、囮班はこれまでの倍以上の矢弾を繰り出すのだった。
●鎮圧
幌馬車が爆発した。
正確には、蹴られた防護壁が幌をぶち抜いて大穴を開けた。
穴から見えるのは力と健康的な美そのものである月の足。
月は無造作に飛び降り地面へ降り立ち、先祖を思わせる完成された動作で矢を取り出した。
左右の窪みから矢が飛んでくる。
恐怖に駆られた雑魔の矢は狙いが甘く、しかし数があるため1本が月の首に直撃しかけた。
月は姿勢を保ったまま半歩位置をずらし、矢が接触する瞬間に腕に力を込めた。
「負けられないな!」
鏃は革手袋を貫通し腕の筋に数ミリ刺さった時点で止まり、自重に負けて地面に落ちる。
その美しさからは想像できないほど、月の体は強いのだ。
矢をつがえる。
マテリアルの集中が鏃を緑色の水晶のように見せる。
鍛え抜かれた体内で巡るオーラが月の目元に太陽のごとき線を描く。
ただ、離す。
片腕の雑魔の後頭部に当たり、貫通し、核の部分を砕いて眼窩から飛び出て地面に突き刺さる。雑魔は地に倒れることも出来ずに薄れて消えていく。
「今回は弓矢が主役かよっ」
カービンを片手にアンフィスが走る。
馬車の残骸を飛び越え馬の亡骸の脇を走り抜け、右側より雑魔の矢の歓迎を受ける。
「くっ、このっ」
動物霊の力で拡張された視力で矢を捉えて直撃を避ける。もともと威力が低くそれだけでほぼ無効化できたが異様に鬱陶しい。
「その位置は私の間合いです。逃しはしません、撃ち抜きます」
離れた場所、おそらく馬車に近い場所から銃声が聞こえた。
奏のカービンから1発ずつ銃弾が飛び出す。
弓と比べて威力が高く射程が短くなりがちな銃、しかも遠距離射撃に向いたライフルでもないのに、ずいぶんと遠くまで弾が届く。見事な遠射の腕だった。
銃弾は右の雑魔の遮蔽物を貫き、潜んでいた1体に頭部と腕に複数の穴を開ける。
恐怖に襲われ塹壕の中へかがみ込む雑魔。這うように逃げだそうとして、退路を逆走してくるレイオスに気づいた。
「いつまでも安全圏から攻撃しようなんて、砂糖菓子より甘すぎるぜ」
退路に罠はないと見切り、太刀だけを持って飛び込む。
弓を棍棒として使う雑魔、当然のように切り飛ばすレイオス。
返す刀で雑魔の首を刎ねてとどめを刺したとき、レイオスは街道上の残骸の陰で弓を構える弓兵に気づいた。
「そこに1匹!」
カービンがうなり弓ごと雑魔が砕かれる。
「警戒しておいて正解でしたね」
奏は驚きもせずにリロードをして、最後に残った雑魔に向き直る。
カービンが吼える。
奏のものではなくアンフィスのプフェールトKT9だ。
塹壕無しの雑魔は非常に脆く、ろくに回避も防御もできずに銃弾を浴び、穴だらけになって全身にひびが入る。
乾いた音と共に全身が砕ける。風に崩されるより早く薄れていき、雑魔は何の痕跡も残さずこの世から消えた。
「終わったな」
ミグが幌の下からタオルを取りだし近くにいる物に投げ渡す。
遠くにいたハンターも敵がいないのを確認し駆け戻る。
戦闘中は我慢できていたが、腐敗臭が凄まじいのだ。
月がタオルで口と鼻を覆い亡骸の埋葬に向かう。
ハンター達が埋葬を終えたときには、夕日が横から照りつけ冷たい風が吹いていた。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 7人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼相談場所 音桐 奏(ka2951) 人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/10/14 18:30:38 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/10 22:57:40 |