楽しい後始末 ~襲われる妖精の丘~

マスター:天田洋介

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/02/23 15:00
完成日
2017/03/03 17:46

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 野ねずみの群れ、そして荒れ狂う幻獣野ねずみによって、リンダールの森のある妖精の丘は多大な被害に遭った。
 どちらもハンター達の活躍によって収束。妖精家族や依頼者である少年ハンスは無事に済んだ。しかし丘は酷い有様で、以前の美しい情景は微塵も感じられない。
 それでも幻獣野ねずみとの戦いの後に行われた応急の補修のおかげで、雨風は凌げるようになっている。
「今日はこの木で最後にしよう」
 ハンスは父妖精タッタと共に周辺の森を歩き回った。ハシバミの樹木を探しだしては枝を伐り落とす。まとめて丘の空洞に運び込み、空いた時間にナタで割っていく。
 よくしなるハシバミの割り枝は柵状に編みあげるのに最適な素材だ。丘の穴を本格的に埋めるための骨組みとなる。
 大量の粘土が採取できる水辺も見つかった。丘を完全修復する目処が整ったところで、ハンスは古都【アークエルス】を訪れる。
「えっと、森の中に家を建てたいんです。ハンターのみなさんに協力してもらいたくて――」
 妖精は人の目を気にするので、大っぴらに募集をかけるわけにはいかない。依頼書には以前参加してくれたハンター達にわかるような表現を用いてもらう。
「それにしてもよかったなあ。みんなハンターのみなさんのおかげだよ」
 ハンスは賑わうハンターズソサエティー支部をぼんやりと眺めた。
 一時間も待たずに冒険都市リゼリオのハンターオフィスへと依頼内容が伝えられる。まもなく募集が開始されたのだった。

リプレイ本文


 古都でハンスと合流したハンター一行は買い物を済ませて一路、森深い妖精の丘へと向かう。数日をかけての到着は夕暮れ時。父妖精タッタが出迎えてくれる。
 丘の空洞内にある住処では母妖精マニィが赤ん坊妖精リッタをあやしていた。ハンター五人を視たリッタは両手を伸ばしてキャッキャと笑う。
「よいしょっと」
 リアリュール(ka2003)が担いできた小麦袋を石台の上に置く。
「じゃが芋もそばでいいのかしら?」
 エミリオ・ブラックウェル(ka3840)も愛馬シャムヴェーラに積んできた食糧を運び込んだ。
「すみません。こんなに必要なのは僕のせいなんで」
 食糧の大半はハンスが妖精の丘へと長居するために買い込んだようなものだ。もちろん妖精家族もご相伴に預かるのだが。
「ハンスはしばらくここで暮らすつもりなんだよね。なら必要だから、気にする必要はないよ」
 宵待 サクラ(ka5561)は道中の間にハンスから心意を聞いていた。情が湧いて妖精家族から離れがたくなってしまい、どうであれ春までは逗留するつもりだという。
「割ってあるこれがハシバミの木材だよね。足りるのかな?」
「もう少しあればと思っているんですけど」
 玉兎 小夜(ka6009)がハンスに訊くと、ハシバミの枝はもう少しだけ集めないとならないようだ。そこで森のどの辺りに樹木が育っているのかを教えてもらう。
「これは掃除が必要ですね」
 玉兎・恵(ka3940)は生活空間を確認して回った。必要不可欠な範囲は綺麗にしてあるが、多くは放置されたままだ。それだけ被害が大きかったともいえる。
 もうすぐ日が暮れるので、今日のところは往路の疲れを癒やすことにした。
 エプロン姿に着替えた玉兎恵が指示をだす。野菜の皮剥き、火熾し、水運び等、全員で手分けして一時間もかからずにシチューが完成する。
『うまい!』
『うまい! うまい!』
 妖精家族も大喜びでシチューを堪能。すり潰した特製シチューをスプーンで赤ん坊の口元へ運ぶと幸せそうに飲む。こうして到着初日の夜は過ぎていった。


 スコップで簡易補修の際に埋めた土を穴から掻きだす。小さな穴なら単に粘土を詰めて化粧として土を被せればよいが、人が通れるほどの大穴となると話は別。長年放置し続けると崩壊の原因になってしまう。今行っているのが、それを防ぐための本格的な作業だ。
「まずはこうするのね」
『まっすぐ、まっすぐ』
 リアリュールは父妖精タッタに作業の指南をしてもらう。
 まずはハシバミの割り枝を歪ませて、穴中央部の天地へと差し込んだ。次に横へと編むように組み合わせる。こうして穴の中に柵のようなものを作っていく。

 エミリオはハンスの案内で粘土が採取できる水辺へと向かう。
「タッタがいってましたけど、粘土だとひけるのが少ないのも利点なんだそうです」
「頑張って、妖精家族が安心して暮らせるお家にしたいわ♪」
 エミリオの愛馬の背には二つの樽がバランスよく取りつけられている。その中へ小石を取り除きつつ粘土を詰めていった。
 かなりの量が必要なので、これから何十回も往復することになるだろう。

「リフォームならなんとかなるかな。住みやすくなるように頑張るよ」
 宵待は古都で購入してきた木材を鋸で切り、まずは棚を作ろうとした。石の棚は崩壊してしまい、使い物にならなくなっていたからだ。手際よく寸法通りに切り、玄翁で釘を打ちつけて組み上げる。
 ちなみに木材は借りた荷車に積み、魔導バイクで引っ張ってきた。馬車だと幅があり過
ぎて木々の間を通り抜けられなかったからである。

 玉兎小夜は森の中でハシバミの木を見つけて作業を開始する。
「まるでチェーンソーみたいに切れるよ!」
 オートMURAMASAの刃が触れただけで枝がさっくりと落ちた。たくさん集めて縄で三つの束に括っておく。
「もしもしー」
『愛してますかー?』
「もちろん。恵の兎への想いの倍は想ってる!」
『♪』
 玉兎小夜が魔導短伝話で玉兎恵に連絡をとる。掃除で集まったゴミを野外で燃やしていたようだ。それからまもなくして魔導トライクに跨がった玉兎恵が現れた。
「枝集め、大変じゃないです?」
「MURAMASAのおかげで面白いぐらいだったよ」
 枝束を載せ、二人乗りでゆっくりと妖精の丘まで運んだのだった。

 運んだ粘土はスコップで練り、一晩放置して水気を抜いてから使用する。
 到着二日目にはハシバミの枝集めが終わり、採集して丘へ運び込むのは粘土のみとなった。
 割り枝を組むのは主にリアリュールとハンスの役目。内装や掃除については宵待が頑張る。粘土の採取と輸送、そして練る作業はエミリオ、玉兎小夜が奮闘。玉兎恵は魔導バイクで輸送を手伝いつつ、掃除や調理にも力を注いでくれた。
 割り枝の骨組みが完成した個所から粘土を盛っていく。一気に埋めてしまうと乾燥に時間がかかるので、少しずつに留める。タッタによれば妖精のご先祖様から伝えられた修復方法なのだという。
 杭であけたような細い穴は妖精夫婦が埋めていく。こちらは枯れ草を混ぜた粘土を詰めていく作業となった。
「だいぶ形になってきたようだね」
「もうひとがんばりです」
 夕暮れ時、泥だらけになった玉兎小夜と玉兎恵は一緒にお風呂へと浸かる。空洞内に使われていない石槽があったので、沸かしたお湯を張ったのだ。仲間達も全員汗を流してから晩食となる。
「野鳥が何羽か穫れたんで、鍋と炙り肉にしてみたんです」
 料理は玉兎恵が頑張ってくれていたが、その日はハンスが引き受けていた。
「今日で骨組みは終わったわ。明日からは粘土塗りを手伝うわね」
 リアリュールは温かいスープを飲んでほっとした表情を浮かべる。
「最後は粘土ではなくて土を被せるのよね?」
「ええ、そうすれば草も生えてくるはずですし」
 エミリオは持ち込んだ一袋をハンスに見せた。中身は古都で購入してきたハーブの種だ。蒔く理由を説明すると、ハンスだけでなく妖精夫婦も納得してくれる。
「もうすぐいいもの作ってあげるから、楽しみにしてね」
 宵待のウィングに妖精夫婦は顔を見合わせたのだった。


 計画通り粘土層が固まったところで、表面に普通の土を被せて完成である。
 全員で外から妖精の丘を眺めた。
 誰も口にはしなかったものの、修復した表面が土剥きだしで痛々しい。元々は枯れ草で覆われているはずが、戦闘で削れた分も合わせて約五分の一がまだらに剥げていた。
 ここでエミリオが担いでいた大袋から種の小袋を取りだす。
「ついにこのときがきたわ。丘の上にはこの赤い印がついた種を蒔いて、回りにはこの青い印の種にしてくれるかしら」
 エミリオが一人一人に袋を手渡した。その中身はハッカ等の害獣が嫌がるハーブの種である。
「お花、いいですね。早く咲きますように」
 宵待が掴んだ種を大地へとばらまく。どの種も生命力が強いので特に耕さなくても大丈夫だ。
「これは楽しみね。この辺りは任せてね」
 リアリュールは歩きながらぱらりぱらりと足元に種を蒔いていった。
「うさぎさんー、この辺りが全然だから一緒に蒔きましょう」
「木削りに泥遊びの次は、庭の手入れのようなものか」
 玉兎恵に誘われて玉兎小夜も丘の斜面をのぼる。二人して豆まきのように剥きだしの部分へと種を蒔く。
 種を巻き終わった後、玉兎小夜は枯れ野に仕掛けた罠のところまでハンスと妖精夫婦を案内した。
「備えは大事なんだよ?」
 玉兎小夜が指さしたのは、丈夫な枯れ草が結ばれた草輪の罠である。今後のためにも定期的に作っておくことを勧めた。
 丘の空洞内へ戻ると、宵待が張り切って改装していた居間がお披露目となった。家具に関しては玉兎恵も非常に尽力している。
「ものすごく綺麗な板張りだね」
「床張りは初めてやってみたけど……うまくいったみたいね」
 ハンスが妖精家族と一緒に新しくなった居間を確かめる。これまでは石床に枯れ草を敷いていたので、そのまま座っても冷たくないと喜んだ。
 細かい部分にも手が加えられている。外見はただの丘に過ぎないが、これまで以上にわかりにくい出入り口になっていた。
「ミヤビがマニィちゃんからどんなのかいいのか教えてもらったわ。特に力作なのは覗き窓のカーテンよ」
 エミリオの頭上で妖精ミヤビと母妖精マニィが躍るように舞う。六個所ある野外監視用の覗き穴はどれも色鮮やかなパッチワークのカーテンで覆われている。ちなみに野外から覗き込んでも暗いだけだ。
『ありがとう、ありがとう』
『たすかった、たすかった』
 妖精夫婦のタッタとマニィがハンター一人一人に感謝した。赤ん坊妖精リッタはマニィの腕の中でキャッキャッと喜んでいる。
「みなさんのおかげで妖精の丘はもう大丈夫です。感謝してもしきれません。今晩は派手にやりましょう! 妖精の丘、復活のパーティです!」
 ハンスは大張り切りでパーティの準備を始めた。古都から持ち込んだ食材で下拵えが行われる。
「この蓋付きの土鍋なら蒸し焼きに使えそうね」
 リアリュールは野菜の蒸し焼きをしようと考えていた。チーズは炙りやすいように串に刺しておく。他にも下拵えに余念がない。
「うん。よい出来ね☆」
 エミリオが野外の簡易釜戸で作ったのはカレースープだ。冬の枯れた野や丘に食欲をそそる香りが漂う。他にも苺などの季節の果物を美しく盛りつけて、フルーツサラダも用意する。
「えーと、食べるのは頑張るよ? 作る方はみんなにお任せするよ」
 宵待は獣皮のヤスリで妖精用の椅子と卓の仕上げに精をだす。
 外に並べられた卓や椅子はリアリュールのお手製だ。輪切りにした丸太の内側をくり抜き、それに背もたれを取りつけた椅子はハンスがとても気に入っていた。
 玉兎恵と玉兎小夜は魔導トライクに乗って水汲みへと向かう。
「ここでの仕事はどうだった?」
「首刈りじゃないから手ごたえがないね。けど、つまらなくはなかったよ」
 枯れ野で風を切りながら、そんなことを話した二人だった。


 宵の口、井形に組まれた薪へと火が熾される。煌々と輝く焚き火の側で妖精の丘復活を祝したパーティは始まった。
 妖精用の卓と椅子は人間用のそれの上に置かれる。細やかな心遣いとして赤ちゃん用のベッドまで用意されていた。
「このカレースープ、美味しいですよ。寒い冬にぴったりです」
「お褒め頂いて嬉しいわ」
 宵待がエミリオが作ったカレースープのお替わりをもらう。
「それにこの焼きたてパン、とってもふっくら。ハンスってパン職人だったのかな?」
「路銀を稼ぐために旅先で少し働いたことが」
 宵待にパンを誉められたハンスが照れていた。
 妖精夫婦が野菜の蒸し焼きに興味を示す。
「ちょっと待って下さいね」
 リアリュールが小さめに切った蒸し野菜を妖精用のお皿に並べていく。遠火でとろけたチーズをナイフで削ぐようにかけたら完成である。
『やわらかい』
 タッタとマニィが両頬を膨らませて美味しそうに頬張っていた。マニィが大丈夫な部分を選んでリッタに食べさせる。
「美味しいですね」
 リアリュールも味わってみた。満天の星空の下で味わう料理は格別だった。
「こんなにたくさん、いいんですか?」
 隣の卓へと移ったハンスが並ぶ料理に目を見張る。
「ほら、遠慮せずに食べてよね」
 エミリオが持ち込んだ料理はバラエティに富んでいた。透明山菜万菜スープに山鳥の北京ダック風、チーズが仕込まれた炙り肉に、レトルトカレーまである。
「スープとこちらの御飯にかけたもの。カレーといってもいろいろあるんですね」
 ハンスは味や食感の違いに驚いていた。
 玉兎小夜は隣に座る玉兎恵にしっかりと抱きつく。酒は嗜んでいないので、どうやら場に酔ってしまったようだ。
「恵は兎のよめいどなんだからくっつかないと駄目!」
「うさぎさん、何がいいですか? とりますよ?」
「じゃあ、そこの炙り肉」
「はい♪ ごしゅじんさま? あーん♪」
 玉兎夫婦の仲睦まじさは寒さを吹き飛ばす。焚き火がなくても他のみんなの身体が火照ってくるぐらいに。
 楽しい語らいに美味しい食事。食後のデザートであるピーチパイとハーブティを楽しみながら眺める月夜は、普段よりも美しく感じられた。
「タッタさんたち、踊るの好きだったわよね。ハンス君も笛をお願いできる?」
「もちろんです。是非にやりましょう」
 リアリュールがバイオリンを奏でて、ハンスは笛を吹き鳴らす。少しだけ練習した後でリアリュールの故郷に伝わる曲を即興で演奏する。
 タッタとマニィが羽根を広げて夜空へと舞い上がった。ミヤビも一緒に手を繋いで、夜空に弧を描く。
 まもなくハンターとハンスは不思議な光景を目の当たりにする。
 妖精が舞う真下の枯れ草が一瞬のうちに一掃され、新たな芽吹きが大地から一斉に顔をだす。冬枯れの樹木の上空に差し掛かれば、新緑の葉が一斉に生えそろう。種を蒔いたばかりの土地も緑の野の一部となる。春の花が咲き乱れて、わずかな間に景色が一変した。
(……兎入ってないけど、まぁいっか)
 玉兎小夜はこっそりと魔導カメラを取りだした。妖精の仕業に驚いている全員が収まるよう写しておく。それに気づいた玉兎恵が玉兎小夜に駆けよって笑みを零す。
 パーティは夜遅くまで続いたのだった。


 翌朝に眺めると大地は枯れ葉色に染まっていた。但し、あれば夢ではない。一年草は別にして、剥きだしだった土地が枯れ草に覆われていたからだ。
 蒔いた種も育ちきったところで、新たな種を大地に落としたと思われる。春の訪れとともに、あらためて緑を溢れさせることだろう。
「皆さん、本当に大変でしたね……。復興したらどうするとか何かビジョンあるのですか?」
 帰り際、玉兎恵がハンスに訊ねた。
「妖精の丘は、きっとこのままがいいと思うんです。僕も春になった立ち去るつもりでいます。……でも、少ししたらきっとまた寄るつもりです」
 ハンスはこのまま丘に残ることとなる。
「これ、写しておいたから」
 玉兎小夜がハンスに贈ったのは写真だった。全員が写った一枚に、玉兎恵が撮った玉兎小夜の一枚もついてくる。
「もしまた何かあればまた呼んで下さいね!」
「楽しい時間だったわ。しばらくは大丈夫ね。また何かあったら呼んでね」
 玉兎恵とリアリュールだけでなく、妖精家族はハンター全員と指切りを交わした。別れを惜しみつつ、ハンター一行は帰路に就く。

 妖精の丘はリンダールの森のどこかにある。これからもひっそりと妖精の家族達が暮らしていくことだろう。

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • よき羊飼い
    リアリュール(ka2003
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • 愛しき陽の守護星
    エミリオ・ブラックウェル(ka3840
    エルフ|19才|男性|機導師
  • 白兎と重ねる時間
    玉兎・恵(ka3940
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • イコニアの騎士
    宵待 サクラ(ka5561
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 兎は今日も首を狩る
    玉兎 小夜(ka6009
    人間(蒼)|17才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 妖精の丘、ビフォーアフター作戦
エミリオ・ブラックウェル(ka3840
エルフ|19才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/02/23 09:50:32
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/02/18 22:23:08