ゲスト
(ka0000)
マゴイと黒い箱
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/02/26 19:00
- 完成日
- 2017/03/04 22:28
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●事の発端
ハンターオフィス・ジェオルジ支局のマスコット、コボルドコボちゃん。
本日はちょっと遠出。
人里離れた場所に隠れ暮らしているコボルド仲間――以前歪虚から助けた(実際に助けたのはハンターだが)――の様子を見に行くのだ。
つい最近新しいコボルドの群れを引き合わせたばかりなのだが、その後うまくやれているかなあと思って。
人間には分からない道を通り、テリトリーに入り、あいさつ。
「わしわっしー。わしー」
枯れた草むらから仲間が出てきた。
お互い匂いを確かめてから巣穴に移動する。
仲間が増えたせいだろう、キノコ栽培のための部屋が広げられている。
この分なら食料に困ることはなさそう。
安堵するコボちゃんに、群れのうちでも一番年を取っているコボルドが、変なものを持ってきた。
50センチ×50センチ大の、真っ黒な箱。
見た感じ金属っぽいが、触ってみた感触は柔らかい。片手ですんなり持ち上げられてしまうほど軽い。
聞いてみれば穴を広げているとき、掘り出したとのこと。
「……うぉふ……うぉふ?」
何の役にも立ちそうに無いが、よかったらお前いらないか、ということなので、コボちゃんは貰い受けた。
そして、コボちゃんハウスの隅に置いておいた。
●数日後
ハンターオフィス・ジェオルジ支局。マリーが魔導短伝話で長話をしている。
「ええ、温泉に行ってたの」
オフィスには、彼女一人。もう一人の職員ジュアンは、所用で村役場に出かけている。
「――それで、その人が言ったのよ、完成品を待ってるだけじゃ駄目だって。原石を拾って磨き上げろって。ええもう、目からうろこって奴よ。でね――」
伝話に夢中なその背後をコボちゃんが、椅子を担いで横切って行く。戸棚の一番上にある、犬用ビスケットを取るつもりなのだ。
しかし、椅子に上っても手が届かない。
そこでふとコボちゃんは、仲間から貰ってきた箱のことを思い出した。
早速コボちゃんハウスへ取りに戻る。
再び戻ってきて箱を椅子の上に置き、その上に乗ると――手が届いた。
そうしている間に箱から一本の太い管が突き出し、神霊樹に向かってするする伸び、幹に吸い付いたのだが、コボちゃんは気づかない。
ビスケットの袋を手にするや、さっさと外に出て行く。
そこでマリーが、ようやく伝話を切った。
「うん、じゃあねーバイバイ」
さあ仕事をしようと意識を切り替えたところで、ようやく背後の異変を知る。
「あーっ! コボ、またやったわね!」
とっちめてやらねばと思いながら椅子から立ち上がり、数歩歩いたところで、何かにつまづいた。
「とっ、と! 何なのこの管、危ないじゃないの!」
一体どこから伸びているのかと目で追い、椅子の上にある黒い箱を見つける。
箱の内側に、目玉のような物が浮かんでいた。薄緑色の微光を帯びて。
見られている。そう感じ後退りするマリーは一瞬、立ちくらみを覚えた。
どこかで声がした。
【スキャン終了――翻訳機能に新しい言語体系を加えました】
目玉がゆっくり回転し始めた。
【市民、あなたの精神状態は十分に安定しておりません。これはあなたにとって、とてもよくないことです】
「え?」
【市民、是非ユニオンにご相談ください。ユニオンはあなたの問題を解決いたします。あなたの精神的な不具合を治療いたします。あなたの幸福を取り戻します】
「な、何……」
【市民、幸福はあなたの権利です。ユニオンはその権利を保証する義務があります。共同体は誰も一人にはしません。皆はあなたを受け入れます。あなたも皆を受け入れます。だから幸福なのです。市民、それを思い出してください、思い出してください……】
●亜空間より
『赤と青は……緑に……緑は……赤と青に……果たしてどちらが……先か……卵か……鶏か……』
亜空間を漂いながら思索に耽っていたマゴイは、不意にそれを中断し、首を巡らせた。
『……これは……もしや……通報信号……?』
片手を持ち上げ空間に穴を空け、そこに滑り込む。
周辺を漂っていたあやしげなものが、これ幸いと後に続いた。
しかし全身が通過する前に、穴が閉ざされた。
●歪虚発生
村役場から戻る道筋。
自転車に乗ったジュアンは、向こうから走ってくるコボちゃんに出くわした。
「あれ、コボちゃんどうしたの」
「わし! わしわしわし! わーわわーし!」
身振り手振り口ぶりからして、オフィスで何か問題が起きたらしい。
ジュアンは急いで彼を荷台に乗せ、ペダルをこいだ。
しかしすぐさま、急ブレーキ。
「な……何だあれ……」
蜻蛉型の歪虚が、行く手にいた。異様なことにその体、右半分だけしかない。
しきりと羽を打ち鳴らし飛ぼうとしているが飛べるはずもない。動くこともままならない。そのことに苛立っているのか、金切り声を上げている。
ジュアンは、大急ぎで引き返す。ハンターたちを呼ぶために。
●マゴイ到着
耳を塞いでもどうにもならない。畳み掛けるように繰り返される言葉は、頭の中から響いてくるのだ。
【市民、あなたは皆のもの。市民、皆はあなたのもの。あなたは皆の一部であり、皆はあなたの一部。それはとても幸せなことです。市民、ユニオンはあなたの幸福を保証します。あなたはどこまでも幸福になる権利を有します。ユニオンはそれを保証します。ユニオンはあなたの味方です】
見覚えのない景色、見覚えのない人の顔、見覚えのない建物、そういった映像まで、どんどん流れ込んでくる。
自我が溶かされていく感覚にマリーは、悲鳴を上げた。
「やめて!……入ってこないで!……やめて!……やめて!!」
突如箱の攻勢が止まった。
目の前に見知らぬ女がいる。それだけを認識してマリーは、昏倒した。
『……やはり……ウォッチャー……どこに落ちていたかしらね……それにしても……懐かしい……』
ハンターオフィス・ジェオルジ支局のマスコット、コボルドコボちゃん。
本日はちょっと遠出。
人里離れた場所に隠れ暮らしているコボルド仲間――以前歪虚から助けた(実際に助けたのはハンターだが)――の様子を見に行くのだ。
つい最近新しいコボルドの群れを引き合わせたばかりなのだが、その後うまくやれているかなあと思って。
人間には分からない道を通り、テリトリーに入り、あいさつ。
「わしわっしー。わしー」
枯れた草むらから仲間が出てきた。
お互い匂いを確かめてから巣穴に移動する。
仲間が増えたせいだろう、キノコ栽培のための部屋が広げられている。
この分なら食料に困ることはなさそう。
安堵するコボちゃんに、群れのうちでも一番年を取っているコボルドが、変なものを持ってきた。
50センチ×50センチ大の、真っ黒な箱。
見た感じ金属っぽいが、触ってみた感触は柔らかい。片手ですんなり持ち上げられてしまうほど軽い。
聞いてみれば穴を広げているとき、掘り出したとのこと。
「……うぉふ……うぉふ?」
何の役にも立ちそうに無いが、よかったらお前いらないか、ということなので、コボちゃんは貰い受けた。
そして、コボちゃんハウスの隅に置いておいた。
●数日後
ハンターオフィス・ジェオルジ支局。マリーが魔導短伝話で長話をしている。
「ええ、温泉に行ってたの」
オフィスには、彼女一人。もう一人の職員ジュアンは、所用で村役場に出かけている。
「――それで、その人が言ったのよ、完成品を待ってるだけじゃ駄目だって。原石を拾って磨き上げろって。ええもう、目からうろこって奴よ。でね――」
伝話に夢中なその背後をコボちゃんが、椅子を担いで横切って行く。戸棚の一番上にある、犬用ビスケットを取るつもりなのだ。
しかし、椅子に上っても手が届かない。
そこでふとコボちゃんは、仲間から貰ってきた箱のことを思い出した。
早速コボちゃんハウスへ取りに戻る。
再び戻ってきて箱を椅子の上に置き、その上に乗ると――手が届いた。
そうしている間に箱から一本の太い管が突き出し、神霊樹に向かってするする伸び、幹に吸い付いたのだが、コボちゃんは気づかない。
ビスケットの袋を手にするや、さっさと外に出て行く。
そこでマリーが、ようやく伝話を切った。
「うん、じゃあねーバイバイ」
さあ仕事をしようと意識を切り替えたところで、ようやく背後の異変を知る。
「あーっ! コボ、またやったわね!」
とっちめてやらねばと思いながら椅子から立ち上がり、数歩歩いたところで、何かにつまづいた。
「とっ、と! 何なのこの管、危ないじゃないの!」
一体どこから伸びているのかと目で追い、椅子の上にある黒い箱を見つける。
箱の内側に、目玉のような物が浮かんでいた。薄緑色の微光を帯びて。
見られている。そう感じ後退りするマリーは一瞬、立ちくらみを覚えた。
どこかで声がした。
【スキャン終了――翻訳機能に新しい言語体系を加えました】
目玉がゆっくり回転し始めた。
【市民、あなたの精神状態は十分に安定しておりません。これはあなたにとって、とてもよくないことです】
「え?」
【市民、是非ユニオンにご相談ください。ユニオンはあなたの問題を解決いたします。あなたの精神的な不具合を治療いたします。あなたの幸福を取り戻します】
「な、何……」
【市民、幸福はあなたの権利です。ユニオンはその権利を保証する義務があります。共同体は誰も一人にはしません。皆はあなたを受け入れます。あなたも皆を受け入れます。だから幸福なのです。市民、それを思い出してください、思い出してください……】
●亜空間より
『赤と青は……緑に……緑は……赤と青に……果たしてどちらが……先か……卵か……鶏か……』
亜空間を漂いながら思索に耽っていたマゴイは、不意にそれを中断し、首を巡らせた。
『……これは……もしや……通報信号……?』
片手を持ち上げ空間に穴を空け、そこに滑り込む。
周辺を漂っていたあやしげなものが、これ幸いと後に続いた。
しかし全身が通過する前に、穴が閉ざされた。
●歪虚発生
村役場から戻る道筋。
自転車に乗ったジュアンは、向こうから走ってくるコボちゃんに出くわした。
「あれ、コボちゃんどうしたの」
「わし! わしわしわし! わーわわーし!」
身振り手振り口ぶりからして、オフィスで何か問題が起きたらしい。
ジュアンは急いで彼を荷台に乗せ、ペダルをこいだ。
しかしすぐさま、急ブレーキ。
「な……何だあれ……」
蜻蛉型の歪虚が、行く手にいた。異様なことにその体、右半分だけしかない。
しきりと羽を打ち鳴らし飛ぼうとしているが飛べるはずもない。動くこともままならない。そのことに苛立っているのか、金切り声を上げている。
ジュアンは、大急ぎで引き返す。ハンターたちを呼ぶために。
●マゴイ到着
耳を塞いでもどうにもならない。畳み掛けるように繰り返される言葉は、頭の中から響いてくるのだ。
【市民、あなたは皆のもの。市民、皆はあなたのもの。あなたは皆の一部であり、皆はあなたの一部。それはとても幸せなことです。市民、ユニオンはあなたの幸福を保証します。あなたはどこまでも幸福になる権利を有します。ユニオンはそれを保証します。ユニオンはあなたの味方です】
見覚えのない景色、見覚えのない人の顔、見覚えのない建物、そういった映像まで、どんどん流れ込んでくる。
自我が溶かされていく感覚にマリーは、悲鳴を上げた。
「やめて!……入ってこないで!……やめて!……やめて!!」
突如箱の攻勢が止まった。
目の前に見知らぬ女がいる。それだけを認識してマリーは、昏倒した。
『……やはり……ウォッチャー……どこに落ちていたかしらね……それにしても……懐かしい……』
リプレイ本文
●第一の問題クリア
天竜寺 舞(ka0377)とルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は歪虚の姿に対し、率直な感想を示す。
「うぉっ! 気持ち悪っ! 何のホラーだよ!」
「半分しかない、とってもきしょいのです……」
リナリス・リーカノア(ka5126)はメイム(ka2290)に小声で囁いた。
「メイムさん、あのとんぼ2/1の尻切れ感、例の指輪騒動の時のアレに似てない?」
「……言われてみれば。去年のムカデもどきよりは心に優しい見た目だね、気味悪いのは変わらないけど」
トリプルJ(ka6653)は得々と語る。興味なさそうな顔をしているルベーノ・バルバライン(ka6752)相手に。
「この世界にはないがファンタジー小説だと空間魔法とか次元断とかあってな、これ何かそれっぽいだろ? 俺ぁパルプマガジンも大好物なんで、こういうの見ると好奇心がなぁ……」
トンボは長い尻を屈伸させ、尺取り虫のように這いずり回る。羽根をひっきりなし羽ばたかせるが、片翼だけで飛べるはずもない。自らの起こした風圧で、もんどり打ったりしている。
予測が難しい動きをするが、移動速度は遅い。そこを確認してからハンターたちは、標的を囲むよう散開した。
まずロニ・カルディス(ka0551)がレクイエムを歌う。
続いてソラス(ka6581)がアイスボルトで羽を貫き、一時的に動きを止める。
ルンルンはトンボの脚部目がけて地縛符を投げ付けた。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法土蜘蛛の術! きしょいから近づいちゃ駄目なのです!」
トンボの動きが格段に鈍った。
「んじゃ行くかぁ!」
接近攻撃の一番手はJ。
猛速度でトンボに向かって突進、顎に向けて回し蹴り。続けて二度蹴りの二段攻撃。
トンボがけたたましい声で鳴いた。
「囲んで殴ればこっちの勝ちってな……おっと」
食いつこうとする顎を跳び避けるJ。
二番手の舞がトンボの背を、ヒートソードで切りつけた。
頭部全体が眼球であるトンボには、後方がしっかり認識出来る。舞を弾こうとして、長い尾を背中側に回してくる。
舞はそれらの攻撃を全てかわした。
「疾れス・ペット」
メイムの飼い猫が炎に身を包み、複眼に体当たりする。
注意をそらされた隙をついてメイムは、盾を構え、斧で切りつけた。
狙うのは牙。
硬い。アックスでも、一撃では折れない。
ルベーノがトンファーで加勢する。
「異形だろうが所詮虫、所詮歪虚。倒してしまえば問題ない」
牙が欠けた。
トゲだらけの脚部が伸びて、盾を持たぬルベーノの皮膚を裂く。
その痛みは、彼をより燃え立たせた。
「ハハハハッ! 腕が鳴るぞ! これを覇道の魁にしてくれるわっ!」
トンボは体を縮め、空中に我が身を跳ね上げる――力が足りず中途半端に終わり、地響きを立て地に落ちる。
ロニがセイクリッドフラッシュを放った。
ソラスはウィンドスラッシュを浴びせる。羽を削ぎ落とすように。
メイムが後衛に呼びかける。
「範囲魔法使うなら、撃つ前に声かけて~!」
応じて、リナリスが叫ぶ。
「みんな、今からブリザードかけるから離れてー!!」
冷気の嵐がトンボを襲い、表面を凍らせる。
格段に動きが鈍ったのを見計らい、Jは、地についた手を軸にした回転蹴りを、再度トンボの顎に食らわせる。
顎が牙もろとも砕けるのを見届け、ひゅうと口笛を吹き離れる。 ルンルンが攻撃をしかけてきたので。
「ルンルン忍法五星花! 煌めいて星の花弁☆目ーがーってなっちゃえ」
目を焼くような光が結界内に満ちた。
トンボの全身を覆う甲殻が、剥落していく。
メイムは首と胸の隙間に一撃を加える。
筋の繊維が切れた。トンボの頭部は支えを失い、ぐらぐらになる。
舞が背に飛び乗り、ヒートソードで止めを刺した。
「虫焼きにしてやるよ!」
頭部が落ち、燃え上がる。
が、それで終わりではない。体はまだ動いている。
ルンルンは再度皆に下がってもらい、術を繰り出した。
「ジュゲームリリカル、ルンルン忍法三雷神の術! もういっちょ行ってみようなのです」
雷を浴びたトンボは原形を失った。
しかし残った一部が、まだかさこそしている。
ロニは嘆息し、八卦鏡を向けた。
「こうものたうち回られると狙いを定めにくいな……ならば狙わないだけなのだが」
歪虚は今度こそ、跡形もなく消しされれた。
影も形も残らなかったことがJには少し残念だった。標本にでもして、持って帰りたいと思っていたので。
勝負がついたと見て、離れたところに避難していたジュアンとコボが戻ってくる。
「皆さん、ご苦労様です」
「こんなの朝飯前だよ。二人とも、怪我はない?」
舞がジュアンたちを気遣う横で、メイムは、懐から肉を取り出す。
「コボちゃん依頼の余りだけどお土産の『肉』だよ。マリーさんに用事あったけどどこー?」
コボちゃん早速飛びついて、むしゃむしゃ。それから身振り手振り交えて、吠える。
「うーわわわわ、わししーわししし!」
詳しくは分からないが、オフィスで何かが起きた模様。
リナリスは最も思い当たるところを、ジュアンに尋ねる。
「マリーさんまた暴れてるの?」
「いや、そこは定かでないんですけど……」
歪虚を倒したついでだ。ということでハンターたちもジュアンらと一緒に、様子見に行くとした。
Jのバイクには舞が、ロニの馬にはルンルンが同乗。
ジュアンとコボちゃんは、引き続き自転車。
後のメンバーは、徒歩。
●第二の問題遭遇
「へえ、そのマゴイってなあ、エバーグリーンの住人なのか」
「妹に聞いた話だと、そうらしいよ。他にスペットっていうのもいてね……」
世間話しながらバイクから降りたところで、Jと舞は、半狂乱な叫び声を聞いた。
「入ってこないで!……やめて!……やめて!!」
顔を見合わせる手間も惜しみ、即座にオフィスの扉を蹴り開ける。
マリーが床に倒れているのが、目に入った。
二人は一目散に駆け寄ろうとする。
声が、それを押し止どめた。威圧的でないのに強制力を帯びた声が。
【お待ちください市民。あなたの精神状態は十分に安定しておりません。不安定はあなたを不幸にします。是非ユニオンにご相談ください】
自分の意識を自分以外の意識が侵食して行くことに、舞は、激しい拒否反応を示す。
【市民、あなたは皆のもの。市民、皆はあなたのもの。あなたの好むところは皆の好むところ、皆の好むところはあなたの好むところ。それは幸せなことなのです市民】
「ふざけんな。皆が皆同じ思考になって何が面白いんだよ。あたしの不幸も幸せも、決めるのはあたし自身だよ。あんたなんかに決めてくれなんて頼んだ覚えはないし、決めさせたりなんかしない!」
そこにロニとルンルンが入ってくる。
目に飛び込んできたのは倒れているマリーと、頭を抱える仲間たち。黒い箱と、マゴイ。
ルンルンはマゴイを指さした。続けて口を開いたが、声が出ない。言うはずだった言葉を突然忘れてしまったのだ。
ロニも自分が今何をしようとしていたのか、咄嗟に分からなくなる。
【市民、あなたは幸福であるべきなのです。幸福はあなたの権利です。ユニオンはあなたを幸福にします。共同体無くして安定はありません。安定無くして幸福はありません】
ルンルンが夢見るように呟く。
「……幸福である事は、市民の義務です」
Jは脂汗を流し、吠えた。
「壊れた機械なんざ、壊してから直せばいいんだよっ!」
そこで、ふっと声が止んだ。
ルンルンが目をぱちくりさせる。
「……はっ、私今何を?」
舞は荒い息をつき、肩を上下させた。
ひとまず呼吸を整えてから、マゴイに礼を言う。
「変な声を止めたのは、あんた? ありがとう」
『……どういたしまして……それにしても……あなたたちの意識形態は……随分と……未発達なこと……』
●教えてマゴイさん
マゴイからウォッチャーについての説明を受けたリナリスは、首を傾げた。
「なんでそんな物がこの世界に?」
『……恐らく何らかの……事故によるもの……これは……全く壊れていないから……捨てたのじゃ……ないわね……』
「壊れていたら捨てたりすることもあるの?」
『……ないとは言えない……』
「えっと、エバーグリーンは異世界を産廃場みたいに考えていたんじゃないよね?}
『……』
「そこは否定してほしいんだけど……とりあえず、これの写真撮ってもいーい?」
『……どうぞ……』
許可を得て写真を撮り始めるリナリス。
ソラスは箱に顔を近づける。一体これはどうやって動いているのだろうと、知的好奇心を滾らせて。
「支障のない程度でかまいませんから、中を見せていただくことは出来ませんか?」
『……いいけど……』
マゴイは箱に手を置いた。
目玉が消えた、無数の光る点が現れる。点は互いに、細い光の線で結ばれていた。その様はさながら、蜘蛛の巣にかかった星屑。
「――この箱から出る信号は、亜空間を超えて連絡できるということですか?」
「……私なら出来る……ウォッチャーの管理は……マゴイの管轄だから……」
平気で箱に手をかけているマゴイに、ルンルンは、もやもやした疑問を投げかける。
「ユニオン、それにその機械、貴方は何を知っているの? そんな機械で洗脳する世界は本当に幸せ?」
『……何か誤解してるようだけど……これは……単なるインフラの一つ………』
脇で話を聞いていたJが口を挟む。
「マゴイ……もしかしてお前の世界は生まれる前から人間にも遺伝子操作してんのか」
『……当然……ユニオンは各々が……やるべき職務に応じた……最良の資質を有して……生まれる権利を保証する……』
「全ての卵を1つの籠に入れるなって言うだろ? 例え最善に見えてもベットするやり方を間違えてたんじゃねぇかと思うぜ」
そこにルベーノも参加する。
「社会を形成する一員としての一部という面は確かにある。自分を形成する経験が関わりあった他者からもたらされるものであったという点において、他者は自分の一部となり得る面も確かにある。しかしそれを全てに広げて考えようとするのは暴論で論外だ」
彼らの言い分に対しマゴイは、肩をすくめるような仕草をした。
『……そういうことは……ユニオンの創設期に……議論され尽くしてる……』
メイムは議論に関わらず、ソファに寝かせたマリーの頬を、ぺしぺしやっている。
「マリーさん大丈夫? 起きて―」
気掛かりそうに見守る、J、ロニ、舞、ジュアン。
そこにコボちゃんが来て、生乾きの雑巾をマリーの顔にべちゃり。
「――くっさっ!」
たちまちマリーが起きた。
メイムはすかさずヒーリングポーションを差し出す。
「落ち着いた? 今回は難儀だったね、前後の記憶あるー?」
「……前後?」
マリーはぼんやり周囲を見回し、黒い箱を視界に認めるや、引きつり声を出した。
「ひっ!?」
舞が後ろから肩を押さえ、落ち着かせる。
「大丈夫。マゴイが抑えている限り、話しかけてこないみたいだから」
ところがそこで、リナリスが言った。
「ねえマゴイ、あたしもちょっとウォッチャーの精神攻撃受けてみたいんだけどいいかな?」
ソラスまでもが言った。
「私も興味がありますね。向こうの世界がかいま見えるなら……」
マゴイは少し考え、箱から手を放した。
『……なら……どうぞ……』
Jはマリーをお姫様抱っこして、メイムはコボちゃんを小わきに抱えて、オフィスの外へ飛び出した。
舞、ルンルン、ロニ、ジュアンが急いで後に続く。
ルベーノはその場に留まった。ふとマゴイの世界をかいま見てみたくなって。
●トリップ
【市民、あなたはユニオンの一員です。ユニオンはあなたのためにあるのです】
恐らく農地なのだろう広大な緑地帯。その中央にそびえ立つのは、巨大な塔。
数限りない方形の集合体からなる塔は、螺旋状にねじれている。全ての階へ平等に日が行き渡るように。
ソラスは目を細める。地平線からさあっと日が差してきた。塔にある無数の窓が、光を受け輝く。
【おはようございます。W-59区・Α、Β、Γ、Δセクトに所属するワーカーの皆さん。起きてください。後4時間でお仕事が始まりますよ】
ルベーノはうす赤い光に満ちた廊下に立っていた。
作業員たちがコンベアの前で作業をしている。
運ばれてくるのは豆粒のような胎児が入った容器。それらをさも大事そうな手つきで、更に大きな容器へと詰めていく……。
【市民、あなたはユニオンの一員です。皆が知っていることであなたが知らないことは一つもないし、あなたが知っていることで皆が知らないことは一つもないのです】
服も身長も顔もそっくりな一群の子供たちが仲良く手を繋ぎ、大人に引率されながら、街角を歩いて行く。
広くて明るくて清潔な通り。
壁の要所要所にはめ込まれたウォッチャーが、愛想よく語りかける。
【ハロウ、市民。あなたは楽しく過ごせていますか?】
他者の記憶がまるで自分の記憶のように書き換えられて行く。
「そんな機械なんかに負けないよっ……!」
リナリスは頭の中に侵入してくるものを締め出そうとした。自分しか知らないカチャの表情を、声を、吐息を思い浮かべることで。
――頬に手が触れる。
目の前にカチャがいた。
彼女は言う。優しい目で。
「市民、あなたは今私に対して間違った感情を抱いています。それはあなたを不幸にします。私はあなたのものじゃない。あなたも私のものじゃない。あなたも私も皆のものです。そのことを思い出してください、市民」
●マゴイさん帰る
リナリスは息を詰まらせ目を開く。
ロニ、ルンルン、Jの顔がそこにあった。
「ああ、起きたか」
「心配しましたよ、急に倒れちゃいましたから」
「あの姉さん帰るらしいぜ」
身を起こしてみれば、箱を伴い床に沈んで行くマゴイの姿。
ソラスとルベーノが、別れの挨拶をしている。
「あ、話は変わりますが、スペットさんの記憶が戻りつつあるようです」
『あら……そう……じゃあ……近いうち……会ってみないと……』
「……マゴイと言ったか。また会えたなら、是非もっとその世界の事を教えてくれないか。俺は世界の残滓たるきみに興味がある」
『……いいけど……』
声だけ残しマゴイは消えた。
メイムは「あ、そうだ」と手を打ち合わせ、マリーに笑顔を向ける。
「そうそう、言い忘れてたんだけど、今日ここにあたしが来たのはねー、カチャさんが今度――」
リナリスは何度も頭を振る。先程見せられたものの余韻を消したくて。
舞はジュアンに言った。
「台所貸してくれる? 豚の生姜焼きとオニオンスープでも作るよ。先ずは疲労回復が最優先だからね」
「あ、はい」
ところでメイムの話はなお続いている。
「――ほんと、ジェオルジは先進的だよね、あたし同性のカップルしか見た事ないよ♪ ねーコボちゃん」
「わっふしー」
マリーが荒れ狂いだすまで、後数秒。
天竜寺 舞(ka0377)とルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は歪虚の姿に対し、率直な感想を示す。
「うぉっ! 気持ち悪っ! 何のホラーだよ!」
「半分しかない、とってもきしょいのです……」
リナリス・リーカノア(ka5126)はメイム(ka2290)に小声で囁いた。
「メイムさん、あのとんぼ2/1の尻切れ感、例の指輪騒動の時のアレに似てない?」
「……言われてみれば。去年のムカデもどきよりは心に優しい見た目だね、気味悪いのは変わらないけど」
トリプルJ(ka6653)は得々と語る。興味なさそうな顔をしているルベーノ・バルバライン(ka6752)相手に。
「この世界にはないがファンタジー小説だと空間魔法とか次元断とかあってな、これ何かそれっぽいだろ? 俺ぁパルプマガジンも大好物なんで、こういうの見ると好奇心がなぁ……」
トンボは長い尻を屈伸させ、尺取り虫のように這いずり回る。羽根をひっきりなし羽ばたかせるが、片翼だけで飛べるはずもない。自らの起こした風圧で、もんどり打ったりしている。
予測が難しい動きをするが、移動速度は遅い。そこを確認してからハンターたちは、標的を囲むよう散開した。
まずロニ・カルディス(ka0551)がレクイエムを歌う。
続いてソラス(ka6581)がアイスボルトで羽を貫き、一時的に動きを止める。
ルンルンはトンボの脚部目がけて地縛符を投げ付けた。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法土蜘蛛の術! きしょいから近づいちゃ駄目なのです!」
トンボの動きが格段に鈍った。
「んじゃ行くかぁ!」
接近攻撃の一番手はJ。
猛速度でトンボに向かって突進、顎に向けて回し蹴り。続けて二度蹴りの二段攻撃。
トンボがけたたましい声で鳴いた。
「囲んで殴ればこっちの勝ちってな……おっと」
食いつこうとする顎を跳び避けるJ。
二番手の舞がトンボの背を、ヒートソードで切りつけた。
頭部全体が眼球であるトンボには、後方がしっかり認識出来る。舞を弾こうとして、長い尾を背中側に回してくる。
舞はそれらの攻撃を全てかわした。
「疾れス・ペット」
メイムの飼い猫が炎に身を包み、複眼に体当たりする。
注意をそらされた隙をついてメイムは、盾を構え、斧で切りつけた。
狙うのは牙。
硬い。アックスでも、一撃では折れない。
ルベーノがトンファーで加勢する。
「異形だろうが所詮虫、所詮歪虚。倒してしまえば問題ない」
牙が欠けた。
トゲだらけの脚部が伸びて、盾を持たぬルベーノの皮膚を裂く。
その痛みは、彼をより燃え立たせた。
「ハハハハッ! 腕が鳴るぞ! これを覇道の魁にしてくれるわっ!」
トンボは体を縮め、空中に我が身を跳ね上げる――力が足りず中途半端に終わり、地響きを立て地に落ちる。
ロニがセイクリッドフラッシュを放った。
ソラスはウィンドスラッシュを浴びせる。羽を削ぎ落とすように。
メイムが後衛に呼びかける。
「範囲魔法使うなら、撃つ前に声かけて~!」
応じて、リナリスが叫ぶ。
「みんな、今からブリザードかけるから離れてー!!」
冷気の嵐がトンボを襲い、表面を凍らせる。
格段に動きが鈍ったのを見計らい、Jは、地についた手を軸にした回転蹴りを、再度トンボの顎に食らわせる。
顎が牙もろとも砕けるのを見届け、ひゅうと口笛を吹き離れる。 ルンルンが攻撃をしかけてきたので。
「ルンルン忍法五星花! 煌めいて星の花弁☆目ーがーってなっちゃえ」
目を焼くような光が結界内に満ちた。
トンボの全身を覆う甲殻が、剥落していく。
メイムは首と胸の隙間に一撃を加える。
筋の繊維が切れた。トンボの頭部は支えを失い、ぐらぐらになる。
舞が背に飛び乗り、ヒートソードで止めを刺した。
「虫焼きにしてやるよ!」
頭部が落ち、燃え上がる。
が、それで終わりではない。体はまだ動いている。
ルンルンは再度皆に下がってもらい、術を繰り出した。
「ジュゲームリリカル、ルンルン忍法三雷神の術! もういっちょ行ってみようなのです」
雷を浴びたトンボは原形を失った。
しかし残った一部が、まだかさこそしている。
ロニは嘆息し、八卦鏡を向けた。
「こうものたうち回られると狙いを定めにくいな……ならば狙わないだけなのだが」
歪虚は今度こそ、跡形もなく消しされれた。
影も形も残らなかったことがJには少し残念だった。標本にでもして、持って帰りたいと思っていたので。
勝負がついたと見て、離れたところに避難していたジュアンとコボが戻ってくる。
「皆さん、ご苦労様です」
「こんなの朝飯前だよ。二人とも、怪我はない?」
舞がジュアンたちを気遣う横で、メイムは、懐から肉を取り出す。
「コボちゃん依頼の余りだけどお土産の『肉』だよ。マリーさんに用事あったけどどこー?」
コボちゃん早速飛びついて、むしゃむしゃ。それから身振り手振り交えて、吠える。
「うーわわわわ、わししーわししし!」
詳しくは分からないが、オフィスで何かが起きた模様。
リナリスは最も思い当たるところを、ジュアンに尋ねる。
「マリーさんまた暴れてるの?」
「いや、そこは定かでないんですけど……」
歪虚を倒したついでだ。ということでハンターたちもジュアンらと一緒に、様子見に行くとした。
Jのバイクには舞が、ロニの馬にはルンルンが同乗。
ジュアンとコボちゃんは、引き続き自転車。
後のメンバーは、徒歩。
●第二の問題遭遇
「へえ、そのマゴイってなあ、エバーグリーンの住人なのか」
「妹に聞いた話だと、そうらしいよ。他にスペットっていうのもいてね……」
世間話しながらバイクから降りたところで、Jと舞は、半狂乱な叫び声を聞いた。
「入ってこないで!……やめて!……やめて!!」
顔を見合わせる手間も惜しみ、即座にオフィスの扉を蹴り開ける。
マリーが床に倒れているのが、目に入った。
二人は一目散に駆け寄ろうとする。
声が、それを押し止どめた。威圧的でないのに強制力を帯びた声が。
【お待ちください市民。あなたの精神状態は十分に安定しておりません。不安定はあなたを不幸にします。是非ユニオンにご相談ください】
自分の意識を自分以外の意識が侵食して行くことに、舞は、激しい拒否反応を示す。
【市民、あなたは皆のもの。市民、皆はあなたのもの。あなたの好むところは皆の好むところ、皆の好むところはあなたの好むところ。それは幸せなことなのです市民】
「ふざけんな。皆が皆同じ思考になって何が面白いんだよ。あたしの不幸も幸せも、決めるのはあたし自身だよ。あんたなんかに決めてくれなんて頼んだ覚えはないし、決めさせたりなんかしない!」
そこにロニとルンルンが入ってくる。
目に飛び込んできたのは倒れているマリーと、頭を抱える仲間たち。黒い箱と、マゴイ。
ルンルンはマゴイを指さした。続けて口を開いたが、声が出ない。言うはずだった言葉を突然忘れてしまったのだ。
ロニも自分が今何をしようとしていたのか、咄嗟に分からなくなる。
【市民、あなたは幸福であるべきなのです。幸福はあなたの権利です。ユニオンはあなたを幸福にします。共同体無くして安定はありません。安定無くして幸福はありません】
ルンルンが夢見るように呟く。
「……幸福である事は、市民の義務です」
Jは脂汗を流し、吠えた。
「壊れた機械なんざ、壊してから直せばいいんだよっ!」
そこで、ふっと声が止んだ。
ルンルンが目をぱちくりさせる。
「……はっ、私今何を?」
舞は荒い息をつき、肩を上下させた。
ひとまず呼吸を整えてから、マゴイに礼を言う。
「変な声を止めたのは、あんた? ありがとう」
『……どういたしまして……それにしても……あなたたちの意識形態は……随分と……未発達なこと……』
●教えてマゴイさん
マゴイからウォッチャーについての説明を受けたリナリスは、首を傾げた。
「なんでそんな物がこの世界に?」
『……恐らく何らかの……事故によるもの……これは……全く壊れていないから……捨てたのじゃ……ないわね……』
「壊れていたら捨てたりすることもあるの?」
『……ないとは言えない……』
「えっと、エバーグリーンは異世界を産廃場みたいに考えていたんじゃないよね?}
『……』
「そこは否定してほしいんだけど……とりあえず、これの写真撮ってもいーい?」
『……どうぞ……』
許可を得て写真を撮り始めるリナリス。
ソラスは箱に顔を近づける。一体これはどうやって動いているのだろうと、知的好奇心を滾らせて。
「支障のない程度でかまいませんから、中を見せていただくことは出来ませんか?」
『……いいけど……』
マゴイは箱に手を置いた。
目玉が消えた、無数の光る点が現れる。点は互いに、細い光の線で結ばれていた。その様はさながら、蜘蛛の巣にかかった星屑。
「――この箱から出る信号は、亜空間を超えて連絡できるということですか?」
「……私なら出来る……ウォッチャーの管理は……マゴイの管轄だから……」
平気で箱に手をかけているマゴイに、ルンルンは、もやもやした疑問を投げかける。
「ユニオン、それにその機械、貴方は何を知っているの? そんな機械で洗脳する世界は本当に幸せ?」
『……何か誤解してるようだけど……これは……単なるインフラの一つ………』
脇で話を聞いていたJが口を挟む。
「マゴイ……もしかしてお前の世界は生まれる前から人間にも遺伝子操作してんのか」
『……当然……ユニオンは各々が……やるべき職務に応じた……最良の資質を有して……生まれる権利を保証する……』
「全ての卵を1つの籠に入れるなって言うだろ? 例え最善に見えてもベットするやり方を間違えてたんじゃねぇかと思うぜ」
そこにルベーノも参加する。
「社会を形成する一員としての一部という面は確かにある。自分を形成する経験が関わりあった他者からもたらされるものであったという点において、他者は自分の一部となり得る面も確かにある。しかしそれを全てに広げて考えようとするのは暴論で論外だ」
彼らの言い分に対しマゴイは、肩をすくめるような仕草をした。
『……そういうことは……ユニオンの創設期に……議論され尽くしてる……』
メイムは議論に関わらず、ソファに寝かせたマリーの頬を、ぺしぺしやっている。
「マリーさん大丈夫? 起きて―」
気掛かりそうに見守る、J、ロニ、舞、ジュアン。
そこにコボちゃんが来て、生乾きの雑巾をマリーの顔にべちゃり。
「――くっさっ!」
たちまちマリーが起きた。
メイムはすかさずヒーリングポーションを差し出す。
「落ち着いた? 今回は難儀だったね、前後の記憶あるー?」
「……前後?」
マリーはぼんやり周囲を見回し、黒い箱を視界に認めるや、引きつり声を出した。
「ひっ!?」
舞が後ろから肩を押さえ、落ち着かせる。
「大丈夫。マゴイが抑えている限り、話しかけてこないみたいだから」
ところがそこで、リナリスが言った。
「ねえマゴイ、あたしもちょっとウォッチャーの精神攻撃受けてみたいんだけどいいかな?」
ソラスまでもが言った。
「私も興味がありますね。向こうの世界がかいま見えるなら……」
マゴイは少し考え、箱から手を放した。
『……なら……どうぞ……』
Jはマリーをお姫様抱っこして、メイムはコボちゃんを小わきに抱えて、オフィスの外へ飛び出した。
舞、ルンルン、ロニ、ジュアンが急いで後に続く。
ルベーノはその場に留まった。ふとマゴイの世界をかいま見てみたくなって。
●トリップ
【市民、あなたはユニオンの一員です。ユニオンはあなたのためにあるのです】
恐らく農地なのだろう広大な緑地帯。その中央にそびえ立つのは、巨大な塔。
数限りない方形の集合体からなる塔は、螺旋状にねじれている。全ての階へ平等に日が行き渡るように。
ソラスは目を細める。地平線からさあっと日が差してきた。塔にある無数の窓が、光を受け輝く。
【おはようございます。W-59区・Α、Β、Γ、Δセクトに所属するワーカーの皆さん。起きてください。後4時間でお仕事が始まりますよ】
ルベーノはうす赤い光に満ちた廊下に立っていた。
作業員たちがコンベアの前で作業をしている。
運ばれてくるのは豆粒のような胎児が入った容器。それらをさも大事そうな手つきで、更に大きな容器へと詰めていく……。
【市民、あなたはユニオンの一員です。皆が知っていることであなたが知らないことは一つもないし、あなたが知っていることで皆が知らないことは一つもないのです】
服も身長も顔もそっくりな一群の子供たちが仲良く手を繋ぎ、大人に引率されながら、街角を歩いて行く。
広くて明るくて清潔な通り。
壁の要所要所にはめ込まれたウォッチャーが、愛想よく語りかける。
【ハロウ、市民。あなたは楽しく過ごせていますか?】
他者の記憶がまるで自分の記憶のように書き換えられて行く。
「そんな機械なんかに負けないよっ……!」
リナリスは頭の中に侵入してくるものを締め出そうとした。自分しか知らないカチャの表情を、声を、吐息を思い浮かべることで。
――頬に手が触れる。
目の前にカチャがいた。
彼女は言う。優しい目で。
「市民、あなたは今私に対して間違った感情を抱いています。それはあなたを不幸にします。私はあなたのものじゃない。あなたも私のものじゃない。あなたも私も皆のものです。そのことを思い出してください、市民」
●マゴイさん帰る
リナリスは息を詰まらせ目を開く。
ロニ、ルンルン、Jの顔がそこにあった。
「ああ、起きたか」
「心配しましたよ、急に倒れちゃいましたから」
「あの姉さん帰るらしいぜ」
身を起こしてみれば、箱を伴い床に沈んで行くマゴイの姿。
ソラスとルベーノが、別れの挨拶をしている。
「あ、話は変わりますが、スペットさんの記憶が戻りつつあるようです」
『あら……そう……じゃあ……近いうち……会ってみないと……』
「……マゴイと言ったか。また会えたなら、是非もっとその世界の事を教えてくれないか。俺は世界の残滓たるきみに興味がある」
『……いいけど……』
声だけ残しマゴイは消えた。
メイムは「あ、そうだ」と手を打ち合わせ、マリーに笑顔を向ける。
「そうそう、言い忘れてたんだけど、今日ここにあたしが来たのはねー、カチャさんが今度――」
リナリスは何度も頭を振る。先程見せられたものの余韻を消したくて。
舞はジュアンに言った。
「台所貸してくれる? 豚の生姜焼きとオニオンスープでも作るよ。先ずは疲労回復が最優先だからね」
「あ、はい」
ところでメイムの話はなお続いている。
「――ほんと、ジェオルジは先進的だよね、あたし同性のカップルしか見た事ないよ♪ ねーコボちゃん」
「わっふしー」
マリーが荒れ狂いだすまで、後数秒。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/02/25 18:20:42 |
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相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/02/26 17:59:08 |