ゲスト
(ka0000)
【幻洞】決戦兵器防衛戦
マスター:近藤豊
オープニング
「ひっひっふー……ひっひっふー……」
幻獣王チューダ(kz0173)は息も絶え絶えであった。
地下からの歪虚侵攻に対して連合軍は敵を第二採掘場で撃退。だが、歪虚は戦力を再編して再び襲撃してくる事は間違いなかった。
元を絶たねばならない。
この状況においてあるハンターが口にした言葉だ。
その言葉に対して帝国ノアーラ・クンタウ要塞管理者のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、早急に行動で示した。
連合軍へイニシャライザーの貸出を打診。これをドワーフ工房で改良を加え、イニシャライザーの制御を可能にした。
さらにヴェルナーはドワーフ王ヨアキム(kz0011)へ決戦兵器の製造を打診した。これは歪虚側が地底の移動路構築に利用していると思われる大型グランドワーム「ロックワン」を撃滅する為に用いられる兵器であった。
――しかし。
「おい、マジかよ」
「……ひっ……そんなこと……言ったって……」
地面に両手をついて疲労度をアピールするチューダ。
その前でヨアキムは唖然とする他なかった。
対ロックワン用最終決戦兵器『ロックワンバスター』。
以前、歪虚が辺境の地へ攻め込んだ際、ナナミ川の戦いでヨアキムが開発した漢気全開機導砲。今回はこの機導砲を改良、安全性よりも威力を重視してロックワン撃破を狙っている。一発のみの発射だが、マテリアルの大量供給が行われればロックワンに致命的な一撃を加えられるはずだ。
「おやおや、困りましたね」
前線の指揮を追えたヴェルナーが、心配になって姿を見せた。
ヨアキムは、ちらりとヴェルナーを見る。その表情は苦々しげだ。
「ああ。ロックワンバスターの要は大量のマテリアル供給。そいつを改良型QSエンジンで補おうとしたんだけどよ……」
ロックワンバスターに搭載されているのは改良型QSエンジン。幻獣キューソが歯車を回してマテリアルを供給するシステムを逃げ足自慢のチューダ用にアレンジ。『チューダエンジン』と名付けられた新型エンジンでロックワンバスター発射に必要なマテリアルを手に入れようとしていた。
だが、当のチューダは30秒程回しただけでグロッキー。逃げ足自慢どころか、デブのキューソというポジションが確立していた。
「運動不足ですね。聞けば、巫女やハンターにご飯を食べさせてもらって寝る毎日。太るのは当たり前です」
「ううっ、こんなはずでは……」
ヴェルナーの指摘に愕然とするチューダ。
辺境の命運がチューダにかかっているなど考えたくもない。しかし、現実はチューダの不摂生で重大な危機に直面していた。
「ヨアキムさん、発射までに後どれくらいかかりますか?」
「そうだなぁ。何せ、チューダが休み休み回しているからな。急遽防衛用の魔導アーマー辺境カスタムのQSエンジンをロックワンバスターに増設してマテリアルを供給しているが……急いでも30分ってところだな」
「30分……」
ヨアキムの回答にヴェルナーは呟く。
予定通りであれば、イニシャライザーで追い込まれたロックワンバスターがこの第二採掘場へ姿を現すのが30分後。
ギリギリ間に合うといったところか。
しかし、敵がいくらトーチカ一味でもそう甘くはない。
「アニキっ! 奴ら、ロックワンバスターに感づきやがった!
三カ所の侵入路から押し寄せて来るぜ」
「なにぃ!?」
ドワーフの一人がヨアキムの元へ駆け込んできた。
大型のロックワンバスターが第二採掘場へ搬入された事から敵に気付かれる可能性はあった。トーチカ一味が間抜けで搬入時には気付かれなかったが、まさかこのタイミングで気付くとは……。
「やれやれ。敵も見逃してはくれませんか。策を弄する暇もなし。正面からロックワンバスターを防衛する他ありませんね。
ハンターへ出動要請致しますが、彼らのCAMは運べますか?」
ヴェルナーは振り返りながら部下へ確認する。
「CAMはこの第二採掘場へ運び込むには間に合いません。イェジドやリーリー、魔導アーマーなら時間をいただければ……」
「となれば、即応できるのはユグディラやユキウサギを連れたハンターですか。
それから帝国重装兵部隊へ伝達。ロックワンバスターの護衛を指示して下さい」
早々に頭を切り替えて取るべき方策を選ぶ出すヴェルナー。
今や、このロックワンバスターこそが唯一の希望。ならば、すべてをこれに託す他無い。
チューダに託しているようで不安なのだが……。
「それからヨアキムさん、チューダさんの事を頼みましたよ」
そう言い残すとヴェルナーは、ロックワンバスター防衛の為に踵を返す。
チューダは、ヴェルナーの後ろ姿を見守る事しかできなかった。
「な、情けないであります。
我輩だって……我輩だってやればできる子であります……」
●
トーチカ一味のセルトポがロックワンバスターを発見したのは偶然であった。
敵の動きが活発化している事が気になって偵察行っていたところ、巨大な大砲を準備しているではないか。
早速トーチカへ報告したところ、トーチカから部下を引き連れて大砲を壊すよう命じられたのだ。
「ぷぷっ、何も知らないで準備してるでおます。おい達に壊されるとも知らないで」
壁の隙間から第二採掘場を覗くセルトポ。
必死に作れば作るほど、壊した時は気分爽快。トーチカに褒めてもらえる事間違い無しだ。
「それに前回負けたのは一カ所から突入したからでおます。反省生かして、おいは部隊を分けたでおます。おいったら、あったまいいー!」
セルトポは前回ハンターに負けた原因は突入口が一カ所だったからと考えた。
それ以外にも山ほど問題はあったはずなのだが、セルトポにとっては都合のよいところは目に入らないようだ。
「今度こそおい達の勝利でおます。
さぁ、全員突貫! 対応を壊すでおます!」
幻獣王チューダ(kz0173)は息も絶え絶えであった。
地下からの歪虚侵攻に対して連合軍は敵を第二採掘場で撃退。だが、歪虚は戦力を再編して再び襲撃してくる事は間違いなかった。
元を絶たねばならない。
この状況においてあるハンターが口にした言葉だ。
その言葉に対して帝国ノアーラ・クンタウ要塞管理者のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、早急に行動で示した。
連合軍へイニシャライザーの貸出を打診。これをドワーフ工房で改良を加え、イニシャライザーの制御を可能にした。
さらにヴェルナーはドワーフ王ヨアキム(kz0011)へ決戦兵器の製造を打診した。これは歪虚側が地底の移動路構築に利用していると思われる大型グランドワーム「ロックワン」を撃滅する為に用いられる兵器であった。
――しかし。
「おい、マジかよ」
「……ひっ……そんなこと……言ったって……」
地面に両手をついて疲労度をアピールするチューダ。
その前でヨアキムは唖然とする他なかった。
対ロックワン用最終決戦兵器『ロックワンバスター』。
以前、歪虚が辺境の地へ攻め込んだ際、ナナミ川の戦いでヨアキムが開発した漢気全開機導砲。今回はこの機導砲を改良、安全性よりも威力を重視してロックワン撃破を狙っている。一発のみの発射だが、マテリアルの大量供給が行われればロックワンに致命的な一撃を加えられるはずだ。
「おやおや、困りましたね」
前線の指揮を追えたヴェルナーが、心配になって姿を見せた。
ヨアキムは、ちらりとヴェルナーを見る。その表情は苦々しげだ。
「ああ。ロックワンバスターの要は大量のマテリアル供給。そいつを改良型QSエンジンで補おうとしたんだけどよ……」
ロックワンバスターに搭載されているのは改良型QSエンジン。幻獣キューソが歯車を回してマテリアルを供給するシステムを逃げ足自慢のチューダ用にアレンジ。『チューダエンジン』と名付けられた新型エンジンでロックワンバスター発射に必要なマテリアルを手に入れようとしていた。
だが、当のチューダは30秒程回しただけでグロッキー。逃げ足自慢どころか、デブのキューソというポジションが確立していた。
「運動不足ですね。聞けば、巫女やハンターにご飯を食べさせてもらって寝る毎日。太るのは当たり前です」
「ううっ、こんなはずでは……」
ヴェルナーの指摘に愕然とするチューダ。
辺境の命運がチューダにかかっているなど考えたくもない。しかし、現実はチューダの不摂生で重大な危機に直面していた。
「ヨアキムさん、発射までに後どれくらいかかりますか?」
「そうだなぁ。何せ、チューダが休み休み回しているからな。急遽防衛用の魔導アーマー辺境カスタムのQSエンジンをロックワンバスターに増設してマテリアルを供給しているが……急いでも30分ってところだな」
「30分……」
ヨアキムの回答にヴェルナーは呟く。
予定通りであれば、イニシャライザーで追い込まれたロックワンバスターがこの第二採掘場へ姿を現すのが30分後。
ギリギリ間に合うといったところか。
しかし、敵がいくらトーチカ一味でもそう甘くはない。
「アニキっ! 奴ら、ロックワンバスターに感づきやがった!
三カ所の侵入路から押し寄せて来るぜ」
「なにぃ!?」
ドワーフの一人がヨアキムの元へ駆け込んできた。
大型のロックワンバスターが第二採掘場へ搬入された事から敵に気付かれる可能性はあった。トーチカ一味が間抜けで搬入時には気付かれなかったが、まさかこのタイミングで気付くとは……。
「やれやれ。敵も見逃してはくれませんか。策を弄する暇もなし。正面からロックワンバスターを防衛する他ありませんね。
ハンターへ出動要請致しますが、彼らのCAMは運べますか?」
ヴェルナーは振り返りながら部下へ確認する。
「CAMはこの第二採掘場へ運び込むには間に合いません。イェジドやリーリー、魔導アーマーなら時間をいただければ……」
「となれば、即応できるのはユグディラやユキウサギを連れたハンターですか。
それから帝国重装兵部隊へ伝達。ロックワンバスターの護衛を指示して下さい」
早々に頭を切り替えて取るべき方策を選ぶ出すヴェルナー。
今や、このロックワンバスターこそが唯一の希望。ならば、すべてをこれに託す他無い。
チューダに託しているようで不安なのだが……。
「それからヨアキムさん、チューダさんの事を頼みましたよ」
そう言い残すとヴェルナーは、ロックワンバスター防衛の為に踵を返す。
チューダは、ヴェルナーの後ろ姿を見守る事しかできなかった。
「な、情けないであります。
我輩だって……我輩だってやればできる子であります……」
●
トーチカ一味のセルトポがロックワンバスターを発見したのは偶然であった。
敵の動きが活発化している事が気になって偵察行っていたところ、巨大な大砲を準備しているではないか。
早速トーチカへ報告したところ、トーチカから部下を引き連れて大砲を壊すよう命じられたのだ。
「ぷぷっ、何も知らないで準備してるでおます。おい達に壊されるとも知らないで」
壁の隙間から第二採掘場を覗くセルトポ。
必死に作れば作るほど、壊した時は気分爽快。トーチカに褒めてもらえる事間違い無しだ。
「それに前回負けたのは一カ所から突入したからでおます。反省生かして、おいは部隊を分けたでおます。おいったら、あったまいいー!」
セルトポは前回ハンターに負けた原因は突入口が一カ所だったからと考えた。
それ以外にも山ほど問題はあったはずなのだが、セルトポにとっては都合のよいところは目に入らないようだ。
「今度こそおい達の勝利でおます。
さぁ、全員突貫! 対応を壊すでおます!」
リプレイ本文
「ふふ、これは困りましたね」
帝国ノアーラ・クンタウ要塞管理者のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、対ロックワン決戦兵器である『ロックワンバスター』の護衛を開始するのだが……困った問題が一つあった。
「はい……本当に、困ります……」
桜憐りるか(ka3748)とユグディラの小太郎の前には、地面に丸々黄色い物体があった。
何を隠そう、このひしゃげた温泉饅頭のような物体がこの辺境の命運を握る幻獣王『チューダ(kz0173)』その人であった。
「こ、こんなはずでは……ひっひっふー」
息も絶え絶えで王の威厳は……元からないが、単なる巨大な肉饅頭と化したのには理由がある。
この決戦兵器ロックワンバスターは、巨大な機導砲で膨大なマテリアルを発射する。このマテリアルを蓄積する新型エンジンこそ、『チューダエンジン』と呼ばれるものなのだ。
予定ではチューダが歯車を回す事でマテリアルを蓄積する予定だったのだが、日頃の不摂生が祟って30秒でダウンしてしまった。
「それにしても、チューダさんは……ダイエットが必要、です? でも食べる姿が、可愛いの……ですね」
小太郎がチューダを慰めるように背中を撫でる横で、りるかは優しく微笑んだ。
そこへ駆け込んでくるのはチューダを先生として慕う雪都(ka6604)とユグディラのリストだ。
「先生っ! ご無事ですか!」
「おお……雪都でありますか。我輩、精一杯戦った、であります……」
雪都に抱き起こされるチューダ。
ちなみに精一杯戦ったといっても、30分のうちの30秒だけ歯車を回しただけである。
「先生、大丈夫です。俺が何とか……します。
まるごとハムスターを着て代わりに俺がチューダエンジンを……」
「いや、あの……チューダさんじゃないと入れないのでは……」
りるかの冷静なツッコミ。
だが、それが聞こえていないのか雪都からの反応は無い。
勝手にチューダと雪都のメルヘンワールドが広がっていく。
「くっ……俺の体ではチューダエンジンに乗り込む事ができない。
俺は、何て無力なんだーっ!」
「雪都、心配は無用であります」
脂肪を溜めまくった肥満体を引き摺るように起こすチューダ。
ゆっくりと起き上がり、チューダエンジンへと向かって行く。
「我輩のしなやかな体から生み出された一流の逃げ足を取り戻す為に、ここは頑張るであります」
どうやらチューダは辺境の命運よりも太りすぎて自慢の逃げ足が失われた事がショックのようだ。
というか、チューダエンジンはチューダの為のダイエット器具ではない。
だが、雪都は体を引き摺るように歩くチューダを見て思わず手で顔を塞ぐ。
「……うっ、やはり先生には深いお考えがあったんだ。そうでなければあんな醜態を晒すなどあり得ない。先生は『どんな切羽詰まった状況でも決して諦めない。焦れば失敗へ繋がる。こういう時こそ休憩を取り、自分のペースを乱さない。それが成功への鍵となる』……という事を俺に伝えたかったんですね。
くっ。また先生に教えられるとは」
完全に独自のワールドが広がっているのだが、幸いにもチューダは諦めていない。
休み休みになるかもしれないが、サブエンジンとしてキューソエンジンを複数ロックワンバスターへ搭載して回し続けている。各地で歪虚と戦っている面々が奮戦してくれれば、思ったより早くエネルギーの充電が終わるかもしれない。
「ヴェルナーさん。えと……行って、きます」
チューダを見守った後、りるかはヴェルナーへ挨拶を交わす。
情報によれば間もなくこの第二採掘場へ敵が現れる。
りるかにはヴェルナーへ伝えるべき言葉が無数にあった。
しかし、限られた時間と語る勇気が未だなかった。
勇気を絞り出して語った言葉。それが今の挨拶であった。
それを察しているのかは不明だが、ヴェルナーはいつもの優しい笑顔をりるかへ向ける。
「はい。期待していますよ、りるかさん」
●
「シュネーハーゼ、先に言っておきますが、私はとても負けず嫌いです。
負けて死ぬのも勝って死ぬのも同じくらい論外です。再戦できる以上、戦って生き延びる事は絶対です。
その上で、負けない。勝つ。依頼であるなら成功させる。
お互いの背中はお互いで守りましょう。この世界で戦い続ける限り、あなたと私は永遠のパートナーです」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)とユキウサギのシュネーハーゼにとって、今回の依頼は初陣であった。
ハンターとして初めて参加する依頼を前に、長く相棒となるシュネーハーゼにハンスは死生観の共有をしておきたかった。
ハンスにとって死は絶対回避すべきもの。
死んでしまっては次に続く事は無い。
必ず、戦って生き延びる。
「そこにもう一つ付け加えてもらえるかな」
ハンスの傍らに現れたのは、アルバ・ソル(ka4189)。
ハンスから見れば幾度もの依頼を果たしてきたハンターである。
「あなたは?」
「僕の名前は、アルバ。アルバ・ソルだ。よろしくね。
もう一つというのは、依頼には同じハンターが一緒に参加しているって事。頼るのは相棒だけじゃない。同じく依頼を成功させようと頑張るハンターも忘れちゃいけないね」
アルバはワンド「ドラゴンコール」を傍らにおいて岩に腰掛ける。
依頼は他のハンターも参加している。目的は依頼の成功なのだから、ハンター同士でも助け合いが必須。頼るべきところはハンター同士でも頼った方が良い。
「なるほど。ご教授、感謝致します」
「いや、感謝するのは後回しで。そろそろ敵が来るから」
アルバは、壁の方へ視線を送る。
先程と変わって壁から小石が何度も落下している。
そして、微妙に揺れる振動。
敵が違いと考えるのが自然だろう。
「そろそろ所定の位置についた方がいいね」
「……行きましょう、シュネーハーゼ」
アルバとハンスは、動き出す。
敵がこの第二採掘場へ現れれば、ここは戦場となる。
依頼開始の時間は、そこまで迫っている。
●
「私自身が風に乗る鷹になる!」
第二採掘場の左翼にてジーナ(ka1643)が歪虚の一団と交戦を開始する。
風属性のグイントクローを手に、手近に居たパペットマンへワイルドラッシュを叩き込む。
数発叩き込まれたパペットマンは、あっさり泥の塊へと戻っていく。
前回の戦闘でパペットマンが風属性に弱い事は調査済みだ。
「無策なら楽だったが、そうもいかないか」
ジーナの視界には倒したパペットマンを踏み越えて多数のパペットマンが押し寄せている。
前回の戦いでは進入路は一箇所であったが、今回は三箇所。
中央と左翼、右翼に別れて敵が侵入。敵が狙うのはロックワンバスター。この為、ハンター達は必然的に三箇所に戦力を分散して戦闘をしていた。
味方戦力がロックワンを第二採掘場へ誘導する時間とロックワンバスターのエネルギー重点を考えれば、この場所を30分は防衛し続けなければならない。
「それでも……ドワーフ王と幻獣王の競演が特等席で見られるなら十分だ」
ジーナは身を屈め、パペットマン目掛けて足払い。
うまく払われ転倒したパペットマンの顔面に、グイントクローの一撃を加えていく。パペットマンは遠くから泥を投げて攻撃する特製がある。ロックワンバスターへ被害を出さない為にもパペットマンは確実に仕留めておきたい。
「同胞の地で、これ以上の好き勝手はさせん!」
次々とトドメを刺すジーナ。
長丁場の時間稼ぎが必要な作戦を考慮して、可能な限り体力を温存する構えで臨んでいる。
だが、ここで見慣れない敵が姿を見せる。
パペットマンの腹に扇風機がついた『バキューマー』である。
「新手か」
ジーナは、バキューマーへ向き直る。
次の瞬間、バキューマーの扇風機が回転。ジーナの周囲にあった空気が風となる。
「くっ、引かれているのか」
足を踏ん張るジーナ。
しかし、扇風機によって少しずつバキューマーの方へ引かれていく。
(風に任せて一気に突っ込むか? いや、前に出れば孤立する恐れもあるか)
ジーナは、瞬時に次の展開をする。
目的はロックワンバスターの防衛だ。前に出て力任せに暴れてロックワンバスターの元へ下がる事も可能だが、ここから長丁場である事を考えれば無理は避けるべきだ。
考えを巡らすジーナ。
今も引かれているが、ここで新たな展開を迎える。
「先生の怒りを知れっ!」
雪都の放った風雷陣の一撃が、稲妻となってバキューマーを貫いた。
扇風機の止まったバキューマーは、前のめりとなって倒れ込む。
「リスト、ジーナを回復だ」
「にゃー!」
リストがジーナの傍らまで走り寄り、『げんきににゃ~れ!』で傷を癒す。
柔らかい光がジーナの傷を包み込む。
「ありがとう、と言いたい所だけど……」
立ち上がるジーナ。
しかし、周囲は既にパペットマンとバキューマーの群れに囲まれている。
「この窮地を脱した後で改めて礼を言う」
「……それでいい。命を削る先生には誰も近付けさせない」
得物を手に構える二人。
歪虚を近付けまいと奮戦を続けている。
●
「……ぷほっ。ここら辺でおますかな」
謎のデブモグラであるセルトポは、地面からひょっこり顔を出した。
トーチカから大砲を壊すよう指示を受けたセルトポであったが、ここで無い知恵を振り絞って考えた。
『もしかして、パペットマンとバキューマーへ突撃させておいて自分が地面から潜行すれば大砲まで一気に近付けるんじゃね?』
珍しく頭脳を発揮したセルトポ。
この考えは大当たり。セルトポはロックワンバスターの近くで地上に出る事に成功する。
「おおっ!? あの大砲は何でおますか!
あんなのでロックワンを狙われたらやべぇでおます!」
手持ちのシャベルを片手に前進するセルトポ。
デブだけあって動きは鈍いが、確実にロックワンバスターへと近づいていく。
「早速、大砲を壊して……んっ? これはなんでおますか?」
セルトポの腹に当たる一本の縄。
見れば、縄には木の板が取り付けられ、激しい音を奏でる。
「敵だ! ロックワンバスターに敵が近づいているぞ」
アルバが周囲に向かって叫ぶ。
万一を考えてアルバが設置していた鳴子にセルトポが引っかかったのだ。
「重装兵部隊、敵を近付けるな」
アルバは手にした魔導拳銃「マーキナ」で銃撃を加えながら帝国の重装兵部隊へ指示を出す。
指示を受けて防御を固める兵士達。
だが、そこへバキューマーを吹き飛ばしていた無雲(ka6677)が突然を大声で叫ぶ。
「やーい、おマヌケ臆病モグラー! 今回も怖がって逃げちゃうのかなぁ??」
「……あっ! あいつは先日の小娘でおますっ! 許せないでおます!」
セルトポは来た道を引き返して無雲へ向かって走り出す。
当初の目的をすっかり忘れてあっさり挑発に引っかかる辺りが、セルトポの残念な頭脳。所詮は茶番劇集団トーチカ一味である。
「あの……これを……」
中央で一緒に戦うりるかは、無雲にストーンアーマーを付与する。
今も回復を小太郎に任せてパペットマンとバキューマーを近付けないように奮戦しているが、無雲がセルトポを相手するとなれば負担は一気に増す。
それでもここは無雲にセルトポを任せたかった。
「ありがとう。さっさと片付けてそっちを手伝うからね。少しだけ小太郎と頑張って。
行こうか、ごまみつ!」
ユキウサギのごまみつと一緒に走り出す無雲。
その先にいるのはシャベルを片手に立つセルトポであった。
「おいの前に立つでおますか」
「ふふ。悪口言ってごめんねぇ……さ、ボクと遊んでね?」
ごめんと言いながら、無雲は前回逃げられて悔しさを噛み締めていた。
その恨みが込められての叫びだったのだが、当のセルトポにはその記憶はすっかり抜け落ちていた。
「覚悟でおま!」
セルトポは飛び掛かり、シャベルを上から振り下ろす。
無雲は、ハンマー「アイゼンフォルト」の柄でシャベルの一撃を受け止める。
そして、柄の周囲を回るように体を捻って左足の一撃を叩き込む。
「ぐっ!」
空中で一撃を受けたセルトポは地面へと叩きおとされる。
バウンドするセルトポ。
そこへごまみつが駆け寄って獣爪「ヴォルフォーナー」の一撃を狙う。
「やるでおますな、小娘」
ごまみつの一撃はシャベルの柄に阻まれて届かない。
無雲の蹴りを受けても、まだ致命的なダメージは負っていない。ただのデブモグラでは無いのだ。
「小娘じゃない、無雲だってば」
「無雲……あれ? 前にも聞いたような」
「だから、前に会ってるよ!」
「……ん? ああ、そうだ。前にもここで……って、おいは逃げたんじゃないでおます! 未来への転進でおます!」
今頃になって悪口へ言い訳をするセルトポ。
そんな馬鹿相手でも楽しそうに戦いを挑む無雲。
意外と良いコンビなのかもしれない。
「さっさと本気出してよ。残念だけどあんまり時間も無いんだ」
「良いでおます。本気出すでおます」
そう言ったセルトポの体は、突如大きくなる。
筋肉増強が始まったのだ。セルトポの一撃は、より重くなっていく。
それでも、これから始まる死闘に心を躍らさずにはいられない。
「いいね。面白いよ……じゃあ、行くよっ!」
再び無雲は、走り出した。
●
「ここより先は通行禁止、です、よっ」
バキューマーへ引き寄せられると同時にユナイテッド・ドライブ・ソードを叩き込むハンス。
扇風機が止まり、バキューマーは土塊へと帰っていく。
「シュネーハーゼ!」
ハンスが一撃を叩き込んだ隙に、背中へ向けて攻撃を仕掛けるパペットマン。
そこへシュネーハイゼが回り込み、パペットマンの一撃を獣拳「セーメイオン」で食い止める。ハンスの背中を見事シュネーハーゼが守っている。
「見事なコンビネーションだ」
シュネーハーゼが止めたパペットマンをワンド「ドラゴンコール」で後ろから仕留めるアルバ。
二人と一匹の奮戦により左翼の戦況は悪くは無い。
だが、中央にセルトポが現れた関係からりるか一人で中央を押し止める事は難しく、左右の戦況に歪虚が流れ込んでいる。
ハンスは既に何体も倒しているが、未だ敵は攻め寄せてくる。
「前衛として剣を振るっていますが、さすがにこれはキリがありません」
後衛をアルバに任せてハンスはシュネーハーゼと共に前で歪虚を切り伏せていた。
士道に興味は無いが、刀の一撃で命を散らしていく歪虚を前にハンスは静かに心を震わせる。
儚い命を消える瞬間の美しさに見惚れてしまう。
だが、あまりにも数が多いとその一瞬の美しさは興ざめへと変わってしまう。
「そろそろやってみるか。ハンス、後ろへ下がって」
アルバはハンストシュハーネーゼを一旦下がらせた後、敵の群れに向けてグラビティフォールを炸裂。
紫色の光を伴う重力波を発生させ、敵の前衛の動きを止める。
「今です、ハンス」
「承知。シュネーハーゼ!」
ハンスはシュネーハーゼと一気に駆け出した。
突然群れが二分されて慌てるパペットマンとバキューマーを一気に斬り伏せるハンス達。
「刀が軽いっ……楽しいと思いませんか、シュネーハーゼ」
シュネーハーゼの傍らでユナイテッド・ドライブ・ソードを振るい続けるハンス。
シュネーハーゼは、その背後を守るように敵を押し退ける。
「本当、良いコンビだ。二人とも。
自分達ですべてをやる必要は無い。やるべき事を、分担すればいいだけだ」
アンスはアースウォールを作り出しながら、魔導拳銃「マーキナ」でパペットマンを倒していく。
各地で奮戦するハンター。
あと少しで予定時間へ到達する。
●
「小太郎さん、もう少し頑張って!」
無雲がセルトポを押さえている間、中央の戦線はりるかと小太郎にかかっていた。
左右へ流れる敵は配置されたハンターが打ち倒してくれるが、中央を突破しようとする敵はりるかと小太郎が頑張る他ない。
「えいっ!」
ウィンドスラッシュがまとめてパペットマンを貫く。
土塊へ戻るパペットマンであったが、大軍がその土塊を踏み越えて突き進む。
とてもりるか一人で抑えきれる数ではない。
「絶対……誰も、近付けさせない……あの人も、頑張っているのだから……」
奮戦するりるか。
しかし、無情にもパペットマンはロックワンバスターに向かってりるかの傍らを通過していく。
「待って、ダメ……行かせない……」
追いすがろうとするりるか。
次の瞬間――銃声が鳴り響き、りるかの前を歩いていたパペットマンの頭が弾け飛んだ。
「あ……ヴェルナーさん……」
見ればりるかの瞳に飛び込むヴェルナーの姿。
魔導銃を手に遠くからりるかを援護していたようだ。
ヴェルナーはりるかへ小さく頷くと振り返ってドワーフ王ヨアキム(kz0011)へ叫ぶ。
「ロックワンバスターのエネルギーは?」
「もうすぐだ、もうすぐで満タンだ!」
計器に視線を落としながら、ヨアキムはチューダを応援する。
見れば、既に息も絶え絶えのチューダが、鼻水とヨダレいっぱいの顔面を振って走り続けていた。
「ひっひっふー……我輩、もう限界……」
歯車の中でぶっ倒れるチューダ。
だが、マテリアルの確保は十分であった。
ヨアキムは所定の座席へ座り、狙いを定める。
「来たぞ!」
「ヴェルナー様、別働隊から報告です。ロックワンが間もなく到達します!」
「そうですか。ヨアキムさん、お願いします」
「任せとけ! ハンターとワシらの力を思い知れ!」
●
左翼で奮戦するジーナ。
体が動き続ける限り、敵と倒し続けている。
「まだか。まだ準備は整わないのか……」
そう呟いた瞬間、中央の壁が大きく崩れる。
そこへ姿を現すのは白い体を持つ巨大なグランドワーム『ロックワン』。
見れば口周りに傷を負っており、激しい戦いがあった事を感じさせる。
「そうだ、ロックワンバスターは!」
ジーナは、反射的に振り返った。
そこにはマテリアルの蓄積を終えて発射を待つロックワンバスターの姿。
既にヨアキムがすべての準備を終えて発射タイミングを計っている。
「先生っ! ついに、ついにやり遂げられたのですね!」
歓喜する雪都。
既に照準はロックワンの口に会わせられている。
パペットマンをグインクローで貫いた後――ジーナは、叫ぶ。
「消えろ、歪虚! 我が同胞の地は……我らドワーフのものだ!」
ジーナの、ドワーフの想いを乗せて、巨大機導砲が火を噴いた。
砲身から光が溢れ、ロックワンの口に目掛けて撃ち出される。
光はロックワン体を貫き、巨体を後方へと吹き飛ばす。
巨大なエネルギーがロックワンに突き刺さり、葬りさった瞬間であった。
●
「よいしょっ!」
ハンマー「アイゼンフォルト」を振り下ろす無雲。
地響きと共に強烈な一撃が炸裂するも、セルトポは一歩下がって攻撃を回避する。
ごまみつも前に出ようとするが、素早くシャベルを構えるセルトポを前に足を止める。
「相変わらず、ただのモグラじゃないね。いいよ。楽しくなってきたよ」
「こうなったら、おいの第二形態を……って、ああ! ロックワンがっ!」
セルトポが無情な声を上げる。。
無雲と良い勝負をしていたのだが、肝心のロックワンが撃破されてしまった。
「ありゃー、残念だったねぇ。でも、僕達の戦いは……あれ?」
ロックワンから視線を外し、セルトポへ向ける無雲。
だが、そこにはセルトポの姿はなかった。
地面に空いた穴が一つ。
「あ! また逃げたっ!」
ロックワンが倒されたと分かり、セルトポは逃走したのだ。
「こらー、戻って来ーい! 僕とごまみつがやっつけてやるんだから!」
「あー、おいはトーチカ様に呼ばれたので残念ながら引くでおます。今度あったらただじゃおかないでおますー」
お決まりのセリフを吐いて逃げ出すセルトポ。
こうしてドワーフに訪れた危機は見事回避されたのであった。
帝国ノアーラ・クンタウ要塞管理者のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、対ロックワン決戦兵器である『ロックワンバスター』の護衛を開始するのだが……困った問題が一つあった。
「はい……本当に、困ります……」
桜憐りるか(ka3748)とユグディラの小太郎の前には、地面に丸々黄色い物体があった。
何を隠そう、このひしゃげた温泉饅頭のような物体がこの辺境の命運を握る幻獣王『チューダ(kz0173)』その人であった。
「こ、こんなはずでは……ひっひっふー」
息も絶え絶えで王の威厳は……元からないが、単なる巨大な肉饅頭と化したのには理由がある。
この決戦兵器ロックワンバスターは、巨大な機導砲で膨大なマテリアルを発射する。このマテリアルを蓄積する新型エンジンこそ、『チューダエンジン』と呼ばれるものなのだ。
予定ではチューダが歯車を回す事でマテリアルを蓄積する予定だったのだが、日頃の不摂生が祟って30秒でダウンしてしまった。
「それにしても、チューダさんは……ダイエットが必要、です? でも食べる姿が、可愛いの……ですね」
小太郎がチューダを慰めるように背中を撫でる横で、りるかは優しく微笑んだ。
そこへ駆け込んでくるのはチューダを先生として慕う雪都(ka6604)とユグディラのリストだ。
「先生っ! ご無事ですか!」
「おお……雪都でありますか。我輩、精一杯戦った、であります……」
雪都に抱き起こされるチューダ。
ちなみに精一杯戦ったといっても、30分のうちの30秒だけ歯車を回しただけである。
「先生、大丈夫です。俺が何とか……します。
まるごとハムスターを着て代わりに俺がチューダエンジンを……」
「いや、あの……チューダさんじゃないと入れないのでは……」
りるかの冷静なツッコミ。
だが、それが聞こえていないのか雪都からの反応は無い。
勝手にチューダと雪都のメルヘンワールドが広がっていく。
「くっ……俺の体ではチューダエンジンに乗り込む事ができない。
俺は、何て無力なんだーっ!」
「雪都、心配は無用であります」
脂肪を溜めまくった肥満体を引き摺るように起こすチューダ。
ゆっくりと起き上がり、チューダエンジンへと向かって行く。
「我輩のしなやかな体から生み出された一流の逃げ足を取り戻す為に、ここは頑張るであります」
どうやらチューダは辺境の命運よりも太りすぎて自慢の逃げ足が失われた事がショックのようだ。
というか、チューダエンジンはチューダの為のダイエット器具ではない。
だが、雪都は体を引き摺るように歩くチューダを見て思わず手で顔を塞ぐ。
「……うっ、やはり先生には深いお考えがあったんだ。そうでなければあんな醜態を晒すなどあり得ない。先生は『どんな切羽詰まった状況でも決して諦めない。焦れば失敗へ繋がる。こういう時こそ休憩を取り、自分のペースを乱さない。それが成功への鍵となる』……という事を俺に伝えたかったんですね。
くっ。また先生に教えられるとは」
完全に独自のワールドが広がっているのだが、幸いにもチューダは諦めていない。
休み休みになるかもしれないが、サブエンジンとしてキューソエンジンを複数ロックワンバスターへ搭載して回し続けている。各地で歪虚と戦っている面々が奮戦してくれれば、思ったより早くエネルギーの充電が終わるかもしれない。
「ヴェルナーさん。えと……行って、きます」
チューダを見守った後、りるかはヴェルナーへ挨拶を交わす。
情報によれば間もなくこの第二採掘場へ敵が現れる。
りるかにはヴェルナーへ伝えるべき言葉が無数にあった。
しかし、限られた時間と語る勇気が未だなかった。
勇気を絞り出して語った言葉。それが今の挨拶であった。
それを察しているのかは不明だが、ヴェルナーはいつもの優しい笑顔をりるかへ向ける。
「はい。期待していますよ、りるかさん」
●
「シュネーハーゼ、先に言っておきますが、私はとても負けず嫌いです。
負けて死ぬのも勝って死ぬのも同じくらい論外です。再戦できる以上、戦って生き延びる事は絶対です。
その上で、負けない。勝つ。依頼であるなら成功させる。
お互いの背中はお互いで守りましょう。この世界で戦い続ける限り、あなたと私は永遠のパートナーです」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)とユキウサギのシュネーハーゼにとって、今回の依頼は初陣であった。
ハンターとして初めて参加する依頼を前に、長く相棒となるシュネーハーゼにハンスは死生観の共有をしておきたかった。
ハンスにとって死は絶対回避すべきもの。
死んでしまっては次に続く事は無い。
必ず、戦って生き延びる。
「そこにもう一つ付け加えてもらえるかな」
ハンスの傍らに現れたのは、アルバ・ソル(ka4189)。
ハンスから見れば幾度もの依頼を果たしてきたハンターである。
「あなたは?」
「僕の名前は、アルバ。アルバ・ソルだ。よろしくね。
もう一つというのは、依頼には同じハンターが一緒に参加しているって事。頼るのは相棒だけじゃない。同じく依頼を成功させようと頑張るハンターも忘れちゃいけないね」
アルバはワンド「ドラゴンコール」を傍らにおいて岩に腰掛ける。
依頼は他のハンターも参加している。目的は依頼の成功なのだから、ハンター同士でも助け合いが必須。頼るべきところはハンター同士でも頼った方が良い。
「なるほど。ご教授、感謝致します」
「いや、感謝するのは後回しで。そろそろ敵が来るから」
アルバは、壁の方へ視線を送る。
先程と変わって壁から小石が何度も落下している。
そして、微妙に揺れる振動。
敵が違いと考えるのが自然だろう。
「そろそろ所定の位置についた方がいいね」
「……行きましょう、シュネーハーゼ」
アルバとハンスは、動き出す。
敵がこの第二採掘場へ現れれば、ここは戦場となる。
依頼開始の時間は、そこまで迫っている。
●
「私自身が風に乗る鷹になる!」
第二採掘場の左翼にてジーナ(ka1643)が歪虚の一団と交戦を開始する。
風属性のグイントクローを手に、手近に居たパペットマンへワイルドラッシュを叩き込む。
数発叩き込まれたパペットマンは、あっさり泥の塊へと戻っていく。
前回の戦闘でパペットマンが風属性に弱い事は調査済みだ。
「無策なら楽だったが、そうもいかないか」
ジーナの視界には倒したパペットマンを踏み越えて多数のパペットマンが押し寄せている。
前回の戦いでは進入路は一箇所であったが、今回は三箇所。
中央と左翼、右翼に別れて敵が侵入。敵が狙うのはロックワンバスター。この為、ハンター達は必然的に三箇所に戦力を分散して戦闘をしていた。
味方戦力がロックワンを第二採掘場へ誘導する時間とロックワンバスターのエネルギー重点を考えれば、この場所を30分は防衛し続けなければならない。
「それでも……ドワーフ王と幻獣王の競演が特等席で見られるなら十分だ」
ジーナは身を屈め、パペットマン目掛けて足払い。
うまく払われ転倒したパペットマンの顔面に、グイントクローの一撃を加えていく。パペットマンは遠くから泥を投げて攻撃する特製がある。ロックワンバスターへ被害を出さない為にもパペットマンは確実に仕留めておきたい。
「同胞の地で、これ以上の好き勝手はさせん!」
次々とトドメを刺すジーナ。
長丁場の時間稼ぎが必要な作戦を考慮して、可能な限り体力を温存する構えで臨んでいる。
だが、ここで見慣れない敵が姿を見せる。
パペットマンの腹に扇風機がついた『バキューマー』である。
「新手か」
ジーナは、バキューマーへ向き直る。
次の瞬間、バキューマーの扇風機が回転。ジーナの周囲にあった空気が風となる。
「くっ、引かれているのか」
足を踏ん張るジーナ。
しかし、扇風機によって少しずつバキューマーの方へ引かれていく。
(風に任せて一気に突っ込むか? いや、前に出れば孤立する恐れもあるか)
ジーナは、瞬時に次の展開をする。
目的はロックワンバスターの防衛だ。前に出て力任せに暴れてロックワンバスターの元へ下がる事も可能だが、ここから長丁場である事を考えれば無理は避けるべきだ。
考えを巡らすジーナ。
今も引かれているが、ここで新たな展開を迎える。
「先生の怒りを知れっ!」
雪都の放った風雷陣の一撃が、稲妻となってバキューマーを貫いた。
扇風機の止まったバキューマーは、前のめりとなって倒れ込む。
「リスト、ジーナを回復だ」
「にゃー!」
リストがジーナの傍らまで走り寄り、『げんきににゃ~れ!』で傷を癒す。
柔らかい光がジーナの傷を包み込む。
「ありがとう、と言いたい所だけど……」
立ち上がるジーナ。
しかし、周囲は既にパペットマンとバキューマーの群れに囲まれている。
「この窮地を脱した後で改めて礼を言う」
「……それでいい。命を削る先生には誰も近付けさせない」
得物を手に構える二人。
歪虚を近付けまいと奮戦を続けている。
●
「……ぷほっ。ここら辺でおますかな」
謎のデブモグラであるセルトポは、地面からひょっこり顔を出した。
トーチカから大砲を壊すよう指示を受けたセルトポであったが、ここで無い知恵を振り絞って考えた。
『もしかして、パペットマンとバキューマーへ突撃させておいて自分が地面から潜行すれば大砲まで一気に近付けるんじゃね?』
珍しく頭脳を発揮したセルトポ。
この考えは大当たり。セルトポはロックワンバスターの近くで地上に出る事に成功する。
「おおっ!? あの大砲は何でおますか!
あんなのでロックワンを狙われたらやべぇでおます!」
手持ちのシャベルを片手に前進するセルトポ。
デブだけあって動きは鈍いが、確実にロックワンバスターへと近づいていく。
「早速、大砲を壊して……んっ? これはなんでおますか?」
セルトポの腹に当たる一本の縄。
見れば、縄には木の板が取り付けられ、激しい音を奏でる。
「敵だ! ロックワンバスターに敵が近づいているぞ」
アルバが周囲に向かって叫ぶ。
万一を考えてアルバが設置していた鳴子にセルトポが引っかかったのだ。
「重装兵部隊、敵を近付けるな」
アルバは手にした魔導拳銃「マーキナ」で銃撃を加えながら帝国の重装兵部隊へ指示を出す。
指示を受けて防御を固める兵士達。
だが、そこへバキューマーを吹き飛ばしていた無雲(ka6677)が突然を大声で叫ぶ。
「やーい、おマヌケ臆病モグラー! 今回も怖がって逃げちゃうのかなぁ??」
「……あっ! あいつは先日の小娘でおますっ! 許せないでおます!」
セルトポは来た道を引き返して無雲へ向かって走り出す。
当初の目的をすっかり忘れてあっさり挑発に引っかかる辺りが、セルトポの残念な頭脳。所詮は茶番劇集団トーチカ一味である。
「あの……これを……」
中央で一緒に戦うりるかは、無雲にストーンアーマーを付与する。
今も回復を小太郎に任せてパペットマンとバキューマーを近付けないように奮戦しているが、無雲がセルトポを相手するとなれば負担は一気に増す。
それでもここは無雲にセルトポを任せたかった。
「ありがとう。さっさと片付けてそっちを手伝うからね。少しだけ小太郎と頑張って。
行こうか、ごまみつ!」
ユキウサギのごまみつと一緒に走り出す無雲。
その先にいるのはシャベルを片手に立つセルトポであった。
「おいの前に立つでおますか」
「ふふ。悪口言ってごめんねぇ……さ、ボクと遊んでね?」
ごめんと言いながら、無雲は前回逃げられて悔しさを噛み締めていた。
その恨みが込められての叫びだったのだが、当のセルトポにはその記憶はすっかり抜け落ちていた。
「覚悟でおま!」
セルトポは飛び掛かり、シャベルを上から振り下ろす。
無雲は、ハンマー「アイゼンフォルト」の柄でシャベルの一撃を受け止める。
そして、柄の周囲を回るように体を捻って左足の一撃を叩き込む。
「ぐっ!」
空中で一撃を受けたセルトポは地面へと叩きおとされる。
バウンドするセルトポ。
そこへごまみつが駆け寄って獣爪「ヴォルフォーナー」の一撃を狙う。
「やるでおますな、小娘」
ごまみつの一撃はシャベルの柄に阻まれて届かない。
無雲の蹴りを受けても、まだ致命的なダメージは負っていない。ただのデブモグラでは無いのだ。
「小娘じゃない、無雲だってば」
「無雲……あれ? 前にも聞いたような」
「だから、前に会ってるよ!」
「……ん? ああ、そうだ。前にもここで……って、おいは逃げたんじゃないでおます! 未来への転進でおます!」
今頃になって悪口へ言い訳をするセルトポ。
そんな馬鹿相手でも楽しそうに戦いを挑む無雲。
意外と良いコンビなのかもしれない。
「さっさと本気出してよ。残念だけどあんまり時間も無いんだ」
「良いでおます。本気出すでおます」
そう言ったセルトポの体は、突如大きくなる。
筋肉増強が始まったのだ。セルトポの一撃は、より重くなっていく。
それでも、これから始まる死闘に心を躍らさずにはいられない。
「いいね。面白いよ……じゃあ、行くよっ!」
再び無雲は、走り出した。
●
「ここより先は通行禁止、です、よっ」
バキューマーへ引き寄せられると同時にユナイテッド・ドライブ・ソードを叩き込むハンス。
扇風機が止まり、バキューマーは土塊へと帰っていく。
「シュネーハーゼ!」
ハンスが一撃を叩き込んだ隙に、背中へ向けて攻撃を仕掛けるパペットマン。
そこへシュネーハイゼが回り込み、パペットマンの一撃を獣拳「セーメイオン」で食い止める。ハンスの背中を見事シュネーハーゼが守っている。
「見事なコンビネーションだ」
シュネーハーゼが止めたパペットマンをワンド「ドラゴンコール」で後ろから仕留めるアルバ。
二人と一匹の奮戦により左翼の戦況は悪くは無い。
だが、中央にセルトポが現れた関係からりるか一人で中央を押し止める事は難しく、左右の戦況に歪虚が流れ込んでいる。
ハンスは既に何体も倒しているが、未だ敵は攻め寄せてくる。
「前衛として剣を振るっていますが、さすがにこれはキリがありません」
後衛をアルバに任せてハンスはシュネーハーゼと共に前で歪虚を切り伏せていた。
士道に興味は無いが、刀の一撃で命を散らしていく歪虚を前にハンスは静かに心を震わせる。
儚い命を消える瞬間の美しさに見惚れてしまう。
だが、あまりにも数が多いとその一瞬の美しさは興ざめへと変わってしまう。
「そろそろやってみるか。ハンス、後ろへ下がって」
アルバはハンストシュハーネーゼを一旦下がらせた後、敵の群れに向けてグラビティフォールを炸裂。
紫色の光を伴う重力波を発生させ、敵の前衛の動きを止める。
「今です、ハンス」
「承知。シュネーハーゼ!」
ハンスはシュネーハーゼと一気に駆け出した。
突然群れが二分されて慌てるパペットマンとバキューマーを一気に斬り伏せるハンス達。
「刀が軽いっ……楽しいと思いませんか、シュネーハーゼ」
シュネーハーゼの傍らでユナイテッド・ドライブ・ソードを振るい続けるハンス。
シュネーハーゼは、その背後を守るように敵を押し退ける。
「本当、良いコンビだ。二人とも。
自分達ですべてをやる必要は無い。やるべき事を、分担すればいいだけだ」
アンスはアースウォールを作り出しながら、魔導拳銃「マーキナ」でパペットマンを倒していく。
各地で奮戦するハンター。
あと少しで予定時間へ到達する。
●
「小太郎さん、もう少し頑張って!」
無雲がセルトポを押さえている間、中央の戦線はりるかと小太郎にかかっていた。
左右へ流れる敵は配置されたハンターが打ち倒してくれるが、中央を突破しようとする敵はりるかと小太郎が頑張る他ない。
「えいっ!」
ウィンドスラッシュがまとめてパペットマンを貫く。
土塊へ戻るパペットマンであったが、大軍がその土塊を踏み越えて突き進む。
とてもりるか一人で抑えきれる数ではない。
「絶対……誰も、近付けさせない……あの人も、頑張っているのだから……」
奮戦するりるか。
しかし、無情にもパペットマンはロックワンバスターに向かってりるかの傍らを通過していく。
「待って、ダメ……行かせない……」
追いすがろうとするりるか。
次の瞬間――銃声が鳴り響き、りるかの前を歩いていたパペットマンの頭が弾け飛んだ。
「あ……ヴェルナーさん……」
見ればりるかの瞳に飛び込むヴェルナーの姿。
魔導銃を手に遠くからりるかを援護していたようだ。
ヴェルナーはりるかへ小さく頷くと振り返ってドワーフ王ヨアキム(kz0011)へ叫ぶ。
「ロックワンバスターのエネルギーは?」
「もうすぐだ、もうすぐで満タンだ!」
計器に視線を落としながら、ヨアキムはチューダを応援する。
見れば、既に息も絶え絶えのチューダが、鼻水とヨダレいっぱいの顔面を振って走り続けていた。
「ひっひっふー……我輩、もう限界……」
歯車の中でぶっ倒れるチューダ。
だが、マテリアルの確保は十分であった。
ヨアキムは所定の座席へ座り、狙いを定める。
「来たぞ!」
「ヴェルナー様、別働隊から報告です。ロックワンが間もなく到達します!」
「そうですか。ヨアキムさん、お願いします」
「任せとけ! ハンターとワシらの力を思い知れ!」
●
左翼で奮戦するジーナ。
体が動き続ける限り、敵と倒し続けている。
「まだか。まだ準備は整わないのか……」
そう呟いた瞬間、中央の壁が大きく崩れる。
そこへ姿を現すのは白い体を持つ巨大なグランドワーム『ロックワン』。
見れば口周りに傷を負っており、激しい戦いがあった事を感じさせる。
「そうだ、ロックワンバスターは!」
ジーナは、反射的に振り返った。
そこにはマテリアルの蓄積を終えて発射を待つロックワンバスターの姿。
既にヨアキムがすべての準備を終えて発射タイミングを計っている。
「先生っ! ついに、ついにやり遂げられたのですね!」
歓喜する雪都。
既に照準はロックワンの口に会わせられている。
パペットマンをグインクローで貫いた後――ジーナは、叫ぶ。
「消えろ、歪虚! 我が同胞の地は……我らドワーフのものだ!」
ジーナの、ドワーフの想いを乗せて、巨大機導砲が火を噴いた。
砲身から光が溢れ、ロックワンの口に目掛けて撃ち出される。
光はロックワン体を貫き、巨体を後方へと吹き飛ばす。
巨大なエネルギーがロックワンに突き刺さり、葬りさった瞬間であった。
●
「よいしょっ!」
ハンマー「アイゼンフォルト」を振り下ろす無雲。
地響きと共に強烈な一撃が炸裂するも、セルトポは一歩下がって攻撃を回避する。
ごまみつも前に出ようとするが、素早くシャベルを構えるセルトポを前に足を止める。
「相変わらず、ただのモグラじゃないね。いいよ。楽しくなってきたよ」
「こうなったら、おいの第二形態を……って、ああ! ロックワンがっ!」
セルトポが無情な声を上げる。。
無雲と良い勝負をしていたのだが、肝心のロックワンが撃破されてしまった。
「ありゃー、残念だったねぇ。でも、僕達の戦いは……あれ?」
ロックワンから視線を外し、セルトポへ向ける無雲。
だが、そこにはセルトポの姿はなかった。
地面に空いた穴が一つ。
「あ! また逃げたっ!」
ロックワンが倒されたと分かり、セルトポは逃走したのだ。
「こらー、戻って来ーい! 僕とごまみつがやっつけてやるんだから!」
「あー、おいはトーチカ様に呼ばれたので残念ながら引くでおます。今度あったらただじゃおかないでおますー」
お決まりのセリフを吐いて逃げ出すセルトポ。
こうしてドワーフに訪れた危機は見事回避されたのであった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/02/21 21:10:32 |
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決戦兵器防衛戦 無雲(ka6677) 鬼|18才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2017/02/25 21:03:41 |