ゲスト
(ka0000)
【幻洞】GG発ヴェドル行き
マスター:韮瀬隈則

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/02/23 12:00
- 完成日
- 2017/03/06 21:52
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
──某日某所。
「如何ですか? 諸兄等は我々の実力を目のあたりにし、その偉大さに感嘆したことと思います。えー、おほん」
カンッ!
杖だろうか。床を打つ高い音が響く。
「敵の侵攻は続いており、士気高揚は必須にして急務であります。我々はいま、切実に求めるものであります。物資を! 最高級の補給物資を!」
──某日某所。
『我々の部隊にも指令が下された。■■様は進まぬ事態にご心痛であり、速やかなヴェドル攻略とそのための情報を必要とされておる』
『…して、なんと?』
『補給線破断! すでに別部隊が作戦についておる、が…』
『依然、奴らの機械は駆動を続けている。と?』
頷く気配。
『しかしながら。我々は名の通り隠密といえば聞こえはよいが任務といえば戦場漁り。果たして大役務まりますか…』
『懸念無用。敵全滅は条件ではない。物資を奪い秘密を持ち帰ること。そのため全員のハーピー騎乗を許されておる』
おお! おおお!
『我ら、スカベンジャー部隊、いざ出動!』
●
市場で購入した新聞を読んでいた男が、ええぇ! と情けない悲鳴をあげて隣の座席に座る女の袖を引っ張った。
「おい、また補給部隊と集積所が強襲されたみたいじゃないか。僕たちの行き先だろ、ここ」
「はン! だから! 私達が行くのじゃないの。襲われたのはみな軍事施設と関係車両でしょ? フツーの隊商は無視されてるっていうんだから大丈夫よ」
ごとごとと。GG──商業管理事務所ゴルドゲイルのひときわ地味な隊商馬車が、街道を曲がり辺境東部のとある倉庫街へ入って行く。簡素な座席から飛び降りて、靴音高く査収に向かうのは、GG東部支部倉庫の偉い人の子飼い、調達下請け「レイサイン」のデザイナー女史。慌ててへっぴり腰でついていくのは同プランナー氏である。
本来、彼らの調達範囲は辺境東部であり、帝国国境にほど近いここ──GGの西部第7穀物倉庫界隈ではない。もちろん、ヴェドルもだ。それがはるばる出張ってきたのは、偉い人直々に調達ならびに補給を命令されたからである。
東部倉庫からの荷に加え西部各地の倉庫を回る。ピックアップする荷はどれも高級品ばかりだ。加えて──
「「くれぐれもフツーの一般隊商として振る舞ってくンなはれ。他言無用。秘密厳守。ええですか? くれぐれもお願いしますわ」…って話でしょ。有るのよ、今まで積んだ荷物の中に最新秘密兵器が!」
「しぃッ。声がでかいよ。うんアレだ。一昨日積んだ赤いドレス。美しさに加え素晴らしい防御力…アレこそが秘密兵器だよ!」
「は?→ これだからダサいってのよ。昨日査収した青いバラのコサージュに決まってンでしょ」
因みに矢印はイントネーション表現である。なかなか迫力があって怖い。
「ななな、なんだよ。フン。…っと、査収だよ査収、今日の査収」
「わかってるわよ。今日は…特選桃缶ナチュレピーチLL。それとティヴァ村名産ピーナツ。また食品ね」
「一昨々日は、製菓用高級ヒマワリの種にピスタチオ。なるほど! 嗜好品の隊商を装うわけ…っ痛!」
バカ。機密よ消されるわよ。すんごいヒールでプランナー氏の足を踏みつけ、デザイナー女史はGG駐在員と査収を済ませてゆく。
最後に、換え馬とともに引き合わされたのが数名のハンター達だ。各々が商人風に身をこらして、しかし任務は間違いなく当偽装隊商の護衛、である。
●
明日にはヴェドル到着、という岩だらけの丘の狭間。それでも2車線が確保された街道をお気楽に、隊商車列が進む。
「本当に素通しだねぇ」
プランナー氏がのんびり空を仰ぐ。
つられてGG直属の御者も仰ぎ見て、直後怪訝な顔に変わる。
「おい! あれは何だ?」
こちらが気がついた事を向こうも感づいたのか。甲高い呼子笛の音が響き、丘の上の空中から、黒点がみるみる大きくなる。──急降下機動。
「ハーピーと黒尽くめのゴブリン…だと!?」
迎撃をする間もない。直上数mほどからの空挺から即時、黒衣にゴーグルのゴブリン5匹は集結し何か意味ありげなセリフとポーズをかますと、通常のゴブリンではあり得ない素早さで荷車に襲いかかり…積み荷を奪い取ったのである。
『スカベンジャージャッカル!』
『スカベンジャーハイエナ!』
『スカベンジャーグリズリー!』
『スカベンジャーコンドル!』
『スカベンジャークラブ!』
『我らスカベンジャー部隊。■■様の命により只今見参!』
なお、訛りの強いゴブリン言語の名乗りと意味不明のポーズを理解する才能は、残念ながらここには居ない。
「きゃぁ! ちょっとナニすんのよ私達フツーの通りすがりの隊商よ返しなさいよ戻しなさいよなんでピンポイントでドレスとバラと桃缶持ってくのよバカァ!」
一気にまくし立てるデザイナー女史を余所に、ハンター等は事態の収拾に動いている。
だからプランナー氏の観測周知がしばらく遅れたとして責められはすまい。
「パイオツカイデーな鳥が積み荷の穀物ついばみかけてるよ、おい! 駄目だったら、こら逃げるな! 助走つけてるうちに捕まえ…って、なんだあの顔? なんでカメラなんかついてるんだ?」
へぶしっ!
プランナー氏が助走をつけるハーピーへ駆けより乳ビンタを喰らって吹っ飛んだ。
こんなしょーもない隊商にも歪虚は遠慮知らずに襲いかかる。
ただ、しつこいようだが、積んでいるのは機密物資、である。どうかご留意を。
──某日某所。
「如何ですか? 諸兄等は我々の実力を目のあたりにし、その偉大さに感嘆したことと思います。えー、おほん」
カンッ!
杖だろうか。床を打つ高い音が響く。
「敵の侵攻は続いており、士気高揚は必須にして急務であります。我々はいま、切実に求めるものであります。物資を! 最高級の補給物資を!」
──某日某所。
『我々の部隊にも指令が下された。■■様は進まぬ事態にご心痛であり、速やかなヴェドル攻略とそのための情報を必要とされておる』
『…して、なんと?』
『補給線破断! すでに別部隊が作戦についておる、が…』
『依然、奴らの機械は駆動を続けている。と?』
頷く気配。
『しかしながら。我々は名の通り隠密といえば聞こえはよいが任務といえば戦場漁り。果たして大役務まりますか…』
『懸念無用。敵全滅は条件ではない。物資を奪い秘密を持ち帰ること。そのため全員のハーピー騎乗を許されておる』
おお! おおお!
『我ら、スカベンジャー部隊、いざ出動!』
●
市場で購入した新聞を読んでいた男が、ええぇ! と情けない悲鳴をあげて隣の座席に座る女の袖を引っ張った。
「おい、また補給部隊と集積所が強襲されたみたいじゃないか。僕たちの行き先だろ、ここ」
「はン! だから! 私達が行くのじゃないの。襲われたのはみな軍事施設と関係車両でしょ? フツーの隊商は無視されてるっていうんだから大丈夫よ」
ごとごとと。GG──商業管理事務所ゴルドゲイルのひときわ地味な隊商馬車が、街道を曲がり辺境東部のとある倉庫街へ入って行く。簡素な座席から飛び降りて、靴音高く査収に向かうのは、GG東部支部倉庫の偉い人の子飼い、調達下請け「レイサイン」のデザイナー女史。慌ててへっぴり腰でついていくのは同プランナー氏である。
本来、彼らの調達範囲は辺境東部であり、帝国国境にほど近いここ──GGの西部第7穀物倉庫界隈ではない。もちろん、ヴェドルもだ。それがはるばる出張ってきたのは、偉い人直々に調達ならびに補給を命令されたからである。
東部倉庫からの荷に加え西部各地の倉庫を回る。ピックアップする荷はどれも高級品ばかりだ。加えて──
「「くれぐれもフツーの一般隊商として振る舞ってくンなはれ。他言無用。秘密厳守。ええですか? くれぐれもお願いしますわ」…って話でしょ。有るのよ、今まで積んだ荷物の中に最新秘密兵器が!」
「しぃッ。声がでかいよ。うんアレだ。一昨日積んだ赤いドレス。美しさに加え素晴らしい防御力…アレこそが秘密兵器だよ!」
「は?→ これだからダサいってのよ。昨日査収した青いバラのコサージュに決まってンでしょ」
因みに矢印はイントネーション表現である。なかなか迫力があって怖い。
「ななな、なんだよ。フン。…っと、査収だよ査収、今日の査収」
「わかってるわよ。今日は…特選桃缶ナチュレピーチLL。それとティヴァ村名産ピーナツ。また食品ね」
「一昨々日は、製菓用高級ヒマワリの種にピスタチオ。なるほど! 嗜好品の隊商を装うわけ…っ痛!」
バカ。機密よ消されるわよ。すんごいヒールでプランナー氏の足を踏みつけ、デザイナー女史はGG駐在員と査収を済ませてゆく。
最後に、換え馬とともに引き合わされたのが数名のハンター達だ。各々が商人風に身をこらして、しかし任務は間違いなく当偽装隊商の護衛、である。
●
明日にはヴェドル到着、という岩だらけの丘の狭間。それでも2車線が確保された街道をお気楽に、隊商車列が進む。
「本当に素通しだねぇ」
プランナー氏がのんびり空を仰ぐ。
つられてGG直属の御者も仰ぎ見て、直後怪訝な顔に変わる。
「おい! あれは何だ?」
こちらが気がついた事を向こうも感づいたのか。甲高い呼子笛の音が響き、丘の上の空中から、黒点がみるみる大きくなる。──急降下機動。
「ハーピーと黒尽くめのゴブリン…だと!?」
迎撃をする間もない。直上数mほどからの空挺から即時、黒衣にゴーグルのゴブリン5匹は集結し何か意味ありげなセリフとポーズをかますと、通常のゴブリンではあり得ない素早さで荷車に襲いかかり…積み荷を奪い取ったのである。
『スカベンジャージャッカル!』
『スカベンジャーハイエナ!』
『スカベンジャーグリズリー!』
『スカベンジャーコンドル!』
『スカベンジャークラブ!』
『我らスカベンジャー部隊。■■様の命により只今見参!』
なお、訛りの強いゴブリン言語の名乗りと意味不明のポーズを理解する才能は、残念ながらここには居ない。
「きゃぁ! ちょっとナニすんのよ私達フツーの通りすがりの隊商よ返しなさいよ戻しなさいよなんでピンポイントでドレスとバラと桃缶持ってくのよバカァ!」
一気にまくし立てるデザイナー女史を余所に、ハンター等は事態の収拾に動いている。
だからプランナー氏の観測周知がしばらく遅れたとして責められはすまい。
「パイオツカイデーな鳥が積み荷の穀物ついばみかけてるよ、おい! 駄目だったら、こら逃げるな! 助走つけてるうちに捕まえ…って、なんだあの顔? なんでカメラなんかついてるんだ?」
へぶしっ!
プランナー氏が助走をつけるハーピーへ駆けより乳ビンタを喰らって吹っ飛んだ。
こんなしょーもない隊商にも歪虚は遠慮知らずに襲いかかる。
ただ、しつこいようだが、積んでいるのは機密物資、である。どうかご留意を。
リプレイ本文
●
「ちょっとナニすんのよ首が180度廻ったじゃないパイオツデカけりゃいいってもんじゃないわよ返しなさいよ機密物資!」
デザイナー女史の悲鳴が一帯に響き渡る。
「ちょっ……ま、いっか」
いち早くプランナー氏の奇禍に反応した八原 篝(ka3104)が、機密物資という言葉に焦るがデザイナー女史が指差すのがドレスとバラなのに気付き、あっさり闖入者排除に頭と行動を切り替えた。
「襲撃は覚悟していたけど空からとはねぇ」
地中から来ると警戒してたのに、敵も人手不足なのかしら? 得意な得物が使えそうだからいいけれど。
連続する銃声。青白い光、異邦人という名のライフル。きぃ、と耳障りな悲鳴を上げて、1羽のハーピーが身を塵に変えた。こつりと頭部のあった位置から落ちる機械。
さらにもう一度銃声を発して、どうも上手くない、と八原は顔を僅かに顰めた。
「間に合ったのぉ、1羽だけだったですねぇ」
やはりしょぼくれた風に八原に話しかけるのは、ハーピーが塵と消えるまで、足を捕まえていた泥の主、星野 ハナ(ka5852)だ。
ゴブリン──スカベンジャー部隊の空挺後、荷物を総出で漁って見咎められれば空へ逃げる。よたよた助走をつける隙を狙ったのだが……即応が遅れたのが災いした。というより、プランナー氏が余計な手間を増やして救助優先せざるをえなかったのが災いした、のである。
ひらひら。ハナが顔の前で陰陽鎧「六合」から取り出した符を振ってブーイングする。
「反則ですよねぇ、あの超回避っ」
逃げるハーピーに向けた風雷陣がカスリもしなかった。いくら無駄撃ち覚悟とはいえ、牽制にもならないってどういうことなんですぅ? ぶーぶー。
不満の元の残りハーピー4羽は、スカベンジャー部隊の指示待機なのか他に目的があるのか、悠々直上の空を舞っている。
「放置するわけにもいかないのが更に癪だわね。誰がやったかしらないけど、エゲツない仕様になってるじゃない」
あれ、みてよ。八原が路上に転がる機械をよく見ろと指をさす。
──残るからには後付けなのだろう。リアルブルー出身の八原とハナ、2人にはよく見知った機械。鹵獲品らしき監視カメラだ。幸い、旧型なのか無線機能はない。
「偵察部隊にこんなドふざけた一団送ってくるなんて、舐められたもんですぅ。まぁ、ゴブリンの足兼用っていうのならぁ、戦隊気取りのが残ってれば逃げないんだろうしぃ、ピンチをチャンスにしちゃえばいいと思いまぁすっ」
ふんすっ!
鼻息あらく八原とハナは空を睨む。
みたのだ。さっき。
あのパイオツカイデー、一度地面に足をついたら垂直離陸できないのだ。よたよた助走をつけるしかない。それがハーピーの習性なのだろうが、二人は肉体のアンバランスさ(察して頂きたい)が原因だろうと決め付けていた。
「ザギンでシースーお見舞いしてやるわよ!」
「むしろギロッポンですぅ」
八原10代、ハナ20代。遠きバブルスラングには無縁のうら若き乙女達、である。
「偵察っ!? 大事な物資は絶対! 渡さないの!」
大変なの! 逃がさないの!
ぱすっ! ……と、GGの御者から強引に借りてディーナ・フェルミ(ka5843)がゴブリンへ撃った銃は、当然ながら大ハズレであり、連発するたびに明後日の方向にずれていく。
「それより、は……やく、ドレスを取り返し……」
騎乗のディーナの鞍の前、チチビンタを喰らって即応で救助されたプランナー氏が、弱々しくも切実にゴブリンに向け、ぢたぢた虫の様に蠢く。
「動いちゃダメなの。未だ完全に治ってないし、私の射撃が当たらな……」
はぅあっ!
暴れるプランナー氏を庇ったディーナがぼてりとゴースロンから転げ落ちる。はずみに──彼女が任務に赴く折に大事にポケットに詰め込んだナッツ菓子がだばぁっ! と周囲にぶちまけられた。
「ひぃやぁ! お雛様パーティのお菓子なのに、お供え物なのに、うわぁぁあああん!」
落馬してずっこけた姿勢のまま泣き叫ぶ少女……。一瞬、周囲の目が全てディーナに向く。我に返った途端にナニが重要物資なのか悟ったか……スカベンジャー部隊は無駄にキメポーズを再度とると、ナッツ類を放置して後生大事にドレスとコサージュを抱え込む。
『ガキのエサに用は無い! 我らスカベンジャー部隊、機密は戴くぞ!』
「ねぇちょっとぉ、大丈夫なんですぅ?」
「ディーナちゃんのアレは欺瞞でやってるんだろうし、レイサインの二人もドレスとバラ相手に騒いでるなら、いい目晦ましになるから放置でいいんじゃない?」
ハナも八原もゴブリン語などは解さないが、時折混ざる人語との共通名詞と身振りで大体の見当はつくものだ。
「桃缶も離すの! 桃の節句なんだから大事なケーキ材料なの!」
涙で顔をぐちゃぐちゃにして、ディーナが立ち上がる。なお、彼女が泣くのも怒るのも欺瞞ではなく本気とかいてマジである。
●
ギャース! 怪獣音に近い騒音はレイサインの二人の悲鳴だ。個別に台詞を描写すると字数問題が浮上するので仕方ない。
「馬車に隠れてなさいな。大丈夫よ、彼が奪還に行ってるから」
八原が二人を宥めるのを背に、片手を軽く挙げて走る仙石 春樹(ka6003)が応える。
「カインさん、正面ヨロっす。てかお約束って世界共通なんすかね?」
うわー。ドンびきだわ。しかもコレ悪役の方のキメポーズじゃね?
楽できる依頼と踏んだのに形容しがたいゴブ集団相手かよ萎えるわぁ……と、千石。ポーカーフェイスに出さなくても態度には出るものだ。やる気控えめの迂回接近。それが存在感を薄める彼の戦術というのは次の瞬間に判る。
──斬!
逃したか? だがそれでも構わぬ、と、長大な斬魔刀「祢々切丸」を横に薙いだカイン・マッコール(ka5336)が次はオマエだと、一番近いゴブリンへ屈めた身を起こす動作に続く流れで最接近する。
──斬!
外れた!?
「殺し損ねたくらいで残念がると思ったか?」
なにか。狙われたゴブリン自身の回避だけではない阻害。反撃を試みたのならお前の命は無かった。カインは再度、単体にではなくスカベンジャー部隊相手に相対する。
「ナイス。超GJ。カインさん暫くこんな感じでヨロ」
助かったわー。ふぃーと息を吐き出してやりとげた男の顔で手を振る千石。握っているのはゴブリンから掏り盗ったドレスだ。
(次はバラと桃缶の奪還かぁ……マト小さいから難儀っすなぁ)
常にカインがスカベンジャー部隊に正面戦を強い続ければ、千石の奪還機会も続く。ただ──
(あのカインさんが攻撃を外す、ねぇ?)
こいつら……想像以上に厄介な相手かもしれない。
未だ空手のスカベンジャー部隊が1匹、そろりそろりと摺足で位置を変えようとしていた。リーダーと思しき個体(確かジャッカルと名乗っていたか?)から目配せを受け、ドレスを奪われた個体と頷きあって。彼らなりの役割分担があるのだろう。
喚くレイサインの二人に閉口している御者らに、空を睨む八原とハナ。泣いているディーナを慰める長身の男(不吉なことに黒衣に悪魔の骸骨の風貌だ!)……
ゴブリンが駆ける! 盗む! そして。
「魔法の運用実験台志願とは感心なことだ」
雷火に撃たれた。
ゆらり。ディーナの泥汚れを祓っていた長身が振り向く。骸骨が1つ。更に2つ。
「うまく当たりさえすれば、高位の歪虚ゴブリンらしき賊も脆い。とみて宜しいかと」
一礼し報告するチマキマル(ka4372)はコキと首骨(本当の)を鳴らす。彼らの回避の可否条件は何だろうか、と。
「チマキマルくぅん、距離。距離をさぁ、なんとかしてくださいますぅ?」
身振り交じりのハナへ承知と頷く三つの骸骨。骨に纏わる三つの名を自称する異形の学士、チマキマル……。彼の灰色の脳細胞が囁く。アレらを馬車に近づけてはいけない。射程内、もっと具体的には馬車道の外……荒野に放ってはいけない、ということか。
「学問には贄が必要だ……永遠の学士たる私の渇いた知識欲の砂漠を潤す、贄の血が……」
計測はお手の物だ。実験動物の扱いも慣れたもの。囲いにとりこんで逃がさない。いずれ観測報告もあがる。さぁ、さぁ!
じり……と残るゴブリン達へ相対するカインと千石に呼応して、朗々としかし陰鬱にチマキマルの詠唱が響く。
「わかった。こいつらの戦い方は他者依存と支援だ」
与ダメージはまたも軽傷。カインの声が心なしか不機嫌になる。ゴブリンは危険だ。知恵をつけるから。悪事に便乗し卑怯な手しか使わない。現にこいつらは──
カインは何度目かの踏み込み攻勢をかける。今度ははっきりと違和感。筋肉質のを狙えば弾かれ避けられる。紅一点を気取るメスを狙えば足が笑う。その癖、自身の攻撃は弱い。これは──
「隠密特化? ああ、本体が居る前提のだな!」
だから、だから嫌いなのだゴブリンは。
「つまり……足だと思ってたボインが本体?」
ぅえぇぇ……アレ、ますます厄介じゃない? とうとう馬車の屋根に陣取って対空砲役に徹する八原が、露骨に厭な顔をしてハナと天を仰ぐ。
「八原ちゃん、バブルから遡りすぎの死語ですぅ。それ」
「アッシーならアッシーらしく呼べばすぐ来いっての」
ぷんすか!
脹れっ面の八原がぼやいた途端。カインは我が意を得たりと再度、斬魔刀を振りかぶった。
「全体を狙え。殺し損ねても構わない。笛を吹くまで逃がさず嬲り続けろ」
(そのスキに荷物も取り返してやれ。レイサインの喚き声が煩くてかなわん)
街道の外に出すまいとチマキマルが放つ火球から、慌てて迂回ルートをとった千石に、カインはすれ違いざま囁く。
「うぃーす。ワイヤーウィップが特殊強化鋼製なんすけど、うっかりあっさり殺っちまったらサーセン」
おいぃ……ますます難易度上がってるじゃないっすか? 活かさず殺さずってできるかね? 八原の言でカインが意図するところは多分、アッシー召還だろう。千石はチラとスカベンジャー部隊を見て、ディーナを見る。
「お前、歪虚ね? 桃缶と命おいてけなの! お前がッ、桃缶を返すまで、殴るのを辞めてやらないのッ!」
ディーナが妖怪桃缶置いてけだか紳士だかになって、本当に殴るのを辞めていない。
(ディーナさんスゲェ……セイクリッドフラッシュって鈍器的運用もできるんだな……)
新鮮な感動と共に千石は、ゴブリン達がハーピーを呼んで万が一にも飛び去らないうちに、青バラのコサージュ奪還に動き出す。桃缶? 流石にディーナとゴブリンの間に挟まって無事ですむ自信はない。
●
ピィーッ!
呼子笛の音が幾つも響く。
堪らず呼んだのだ。ハーピーを。彼らが元から自分達ではなくハーピーが本体だと悟っていたとは思えない。再度、無駄に負け台詞とポーズをとり、自滅すべきであったのだ。偵察目的ならば。本来のスカベンジャー部隊の役目は観測されること。しかし、戦闘は支援特化という特性と、■■様へ機密物資を届けるという余計な使命感が、彼らの判断を誤らせた。
「降りてきた! えーと、チマキマル君奴らの合流場所、路上に絞ってくれる?」
コキつかって御免ね? 馬車の屋根から八原は「私ここから動けないから」と片手で詫びを入れる。
「千石君とぉカイン君はぁ、チャンネー宜しくぅ」
私もトリモチ仕掛けるとのぉ、羽毟るのに忙しいからぁ。ね? ハナも両手の指全てに符を挟み込んで騎乗ウインクを決め込んだ。
迂回路を炎と地響きに阻まれて、唯一残された街道はまさに地獄の滑走路、であった。
「原罪にて舗装された道を逝け。魂を業火に投じよ……薪として捧げよ……」
チマキマルの陰鬱な詠唱。何度も何度も。スカベンジャー部隊は、いやハーピーらも。この道を走らなければ彼らを遣わせた者の元に帰ることは叶わない。
走って走って──
泥に足を掴まれ青白い燐光を帯びた弾丸に翼をもがれ羽を散らす。
「お立ち台で扇子振るがいいですぅ」
ねーっ? すっかり意気投合した八原とハナの連携がバブルの残照を散らす。飛ばせない。最優先にして最適解。
「へぶしっ! ……なぁカインさん。今更っすけど……ごばっ! ゴブリンどもさっさと殺っちゃって、呼子笛奪って俺らがこのナオン……ぶっ……呼べば簡単だったんじゃないっすかね……ぅわらばっ!」
少しバラのコサージュの端っこ踏んじゃったけどまぁいいか。千石があのまま囲ってボコればこんな目に遭わないですんだ、と、連続パイオツカイデーチチビンタを喰らいながら騎乗しかけたゴブリンとハーピーを引き剥がす。
「笛に口つけるのは僕は構わないがおまえも平気か?」
今度こそ妨害されることなく、敢えて胸元に入ったカインの刃がハーピーを両断する。
殺傷力は弱い。頭を揺らすか窒息させるか。おそらくハーピーも支援を受けなければ役に立たない歪虚なのだろう。
「間接キッス……確かに厭っすね! でもカインさん、いいんすか? 残りのゴブリンをディーナさんに任せて」
ぶるる。身震いしながら千石が問う。珍しいゴブリン殲滅者(カインの業だ!)の笑みが返る。
……なるほど。アレなら適任だ。
カインが振るう刀で指し示した先にはディーナ。感嘆の声とともに千石はワイヤーで拘束したハーピーを踏みつけ、今度こそ密着射撃でカメラごと撃ち抜いた。
「わかんないの! 人語話せないなら死ぬのね。歪虚の首はいらないの、桃缶だけ置いてくの!」
おそらく断末魔の前と後に■■様バンザイ、と叫んだのだろう。ぼとり……ぼとり……と何かを落としながら残るスカベンジャー部隊がディーナの聖槍で塵となってゆく。
「ラロッカとかオシオキダベーとか意味不すぎるのね!」
●
「申し訳ございません! 赤いドレスにカギ裂きが、青いバラに踏み跡が……」
ヴェドル到着後の査収中のことである。
土下座するレイサインの二人にあっさりと、GG本部職員はどうでもよさげに「そのへん置いといて」とスルーして、大事そうに高級食料品をロックワンバスター展開エリア宛の武装車両に積み替えてゆく。
「コレが機密扱いってことは、あの子達の頑張りにかかってるってことかぁ」
結局最後までナッツが本命ってあの二人は知らなかった、か。八原はもう少し黙っておこうとQSエンジン燃料=ナッツの箱を優しく撫でる。
「機密っていえばぁ気になる動きがあったんですぅ。ねぇ?」
ハナがディーナとカインを呼び寄せる。これ以外はカインが処分済みだと見せたのはガラクタ数種。ハーピーのカメラに収奪したらしい遺跡発掘物。
「ラロッカバンザイって言ってこんなの落としてたの」
「黒幕はそいつだ。情報収集だけじゃない、遺跡探査も行っていたと見るべきだ」
前線行きの馬車にディーナが駆け寄ってゆく。
何かを手渡してご機嫌で戻ってきた彼女は言う。
「チューダ様のお夜食も追加したの!」
──発注者のダイエット成功は遠そうである。
「ちょっとナニすんのよ首が180度廻ったじゃないパイオツデカけりゃいいってもんじゃないわよ返しなさいよ機密物資!」
デザイナー女史の悲鳴が一帯に響き渡る。
「ちょっ……ま、いっか」
いち早くプランナー氏の奇禍に反応した八原 篝(ka3104)が、機密物資という言葉に焦るがデザイナー女史が指差すのがドレスとバラなのに気付き、あっさり闖入者排除に頭と行動を切り替えた。
「襲撃は覚悟していたけど空からとはねぇ」
地中から来ると警戒してたのに、敵も人手不足なのかしら? 得意な得物が使えそうだからいいけれど。
連続する銃声。青白い光、異邦人という名のライフル。きぃ、と耳障りな悲鳴を上げて、1羽のハーピーが身を塵に変えた。こつりと頭部のあった位置から落ちる機械。
さらにもう一度銃声を発して、どうも上手くない、と八原は顔を僅かに顰めた。
「間に合ったのぉ、1羽だけだったですねぇ」
やはりしょぼくれた風に八原に話しかけるのは、ハーピーが塵と消えるまで、足を捕まえていた泥の主、星野 ハナ(ka5852)だ。
ゴブリン──スカベンジャー部隊の空挺後、荷物を総出で漁って見咎められれば空へ逃げる。よたよた助走をつける隙を狙ったのだが……即応が遅れたのが災いした。というより、プランナー氏が余計な手間を増やして救助優先せざるをえなかったのが災いした、のである。
ひらひら。ハナが顔の前で陰陽鎧「六合」から取り出した符を振ってブーイングする。
「反則ですよねぇ、あの超回避っ」
逃げるハーピーに向けた風雷陣がカスリもしなかった。いくら無駄撃ち覚悟とはいえ、牽制にもならないってどういうことなんですぅ? ぶーぶー。
不満の元の残りハーピー4羽は、スカベンジャー部隊の指示待機なのか他に目的があるのか、悠々直上の空を舞っている。
「放置するわけにもいかないのが更に癪だわね。誰がやったかしらないけど、エゲツない仕様になってるじゃない」
あれ、みてよ。八原が路上に転がる機械をよく見ろと指をさす。
──残るからには後付けなのだろう。リアルブルー出身の八原とハナ、2人にはよく見知った機械。鹵獲品らしき監視カメラだ。幸い、旧型なのか無線機能はない。
「偵察部隊にこんなドふざけた一団送ってくるなんて、舐められたもんですぅ。まぁ、ゴブリンの足兼用っていうのならぁ、戦隊気取りのが残ってれば逃げないんだろうしぃ、ピンチをチャンスにしちゃえばいいと思いまぁすっ」
ふんすっ!
鼻息あらく八原とハナは空を睨む。
みたのだ。さっき。
あのパイオツカイデー、一度地面に足をついたら垂直離陸できないのだ。よたよた助走をつけるしかない。それがハーピーの習性なのだろうが、二人は肉体のアンバランスさ(察して頂きたい)が原因だろうと決め付けていた。
「ザギンでシースーお見舞いしてやるわよ!」
「むしろギロッポンですぅ」
八原10代、ハナ20代。遠きバブルスラングには無縁のうら若き乙女達、である。
「偵察っ!? 大事な物資は絶対! 渡さないの!」
大変なの! 逃がさないの!
ぱすっ! ……と、GGの御者から強引に借りてディーナ・フェルミ(ka5843)がゴブリンへ撃った銃は、当然ながら大ハズレであり、連発するたびに明後日の方向にずれていく。
「それより、は……やく、ドレスを取り返し……」
騎乗のディーナの鞍の前、チチビンタを喰らって即応で救助されたプランナー氏が、弱々しくも切実にゴブリンに向け、ぢたぢた虫の様に蠢く。
「動いちゃダメなの。未だ完全に治ってないし、私の射撃が当たらな……」
はぅあっ!
暴れるプランナー氏を庇ったディーナがぼてりとゴースロンから転げ落ちる。はずみに──彼女が任務に赴く折に大事にポケットに詰め込んだナッツ菓子がだばぁっ! と周囲にぶちまけられた。
「ひぃやぁ! お雛様パーティのお菓子なのに、お供え物なのに、うわぁぁあああん!」
落馬してずっこけた姿勢のまま泣き叫ぶ少女……。一瞬、周囲の目が全てディーナに向く。我に返った途端にナニが重要物資なのか悟ったか……スカベンジャー部隊は無駄にキメポーズを再度とると、ナッツ類を放置して後生大事にドレスとコサージュを抱え込む。
『ガキのエサに用は無い! 我らスカベンジャー部隊、機密は戴くぞ!』
「ねぇちょっとぉ、大丈夫なんですぅ?」
「ディーナちゃんのアレは欺瞞でやってるんだろうし、レイサインの二人もドレスとバラ相手に騒いでるなら、いい目晦ましになるから放置でいいんじゃない?」
ハナも八原もゴブリン語などは解さないが、時折混ざる人語との共通名詞と身振りで大体の見当はつくものだ。
「桃缶も離すの! 桃の節句なんだから大事なケーキ材料なの!」
涙で顔をぐちゃぐちゃにして、ディーナが立ち上がる。なお、彼女が泣くのも怒るのも欺瞞ではなく本気とかいてマジである。
●
ギャース! 怪獣音に近い騒音はレイサインの二人の悲鳴だ。個別に台詞を描写すると字数問題が浮上するので仕方ない。
「馬車に隠れてなさいな。大丈夫よ、彼が奪還に行ってるから」
八原が二人を宥めるのを背に、片手を軽く挙げて走る仙石 春樹(ka6003)が応える。
「カインさん、正面ヨロっす。てかお約束って世界共通なんすかね?」
うわー。ドンびきだわ。しかもコレ悪役の方のキメポーズじゃね?
楽できる依頼と踏んだのに形容しがたいゴブ集団相手かよ萎えるわぁ……と、千石。ポーカーフェイスに出さなくても態度には出るものだ。やる気控えめの迂回接近。それが存在感を薄める彼の戦術というのは次の瞬間に判る。
──斬!
逃したか? だがそれでも構わぬ、と、長大な斬魔刀「祢々切丸」を横に薙いだカイン・マッコール(ka5336)が次はオマエだと、一番近いゴブリンへ屈めた身を起こす動作に続く流れで最接近する。
──斬!
外れた!?
「殺し損ねたくらいで残念がると思ったか?」
なにか。狙われたゴブリン自身の回避だけではない阻害。反撃を試みたのならお前の命は無かった。カインは再度、単体にではなくスカベンジャー部隊相手に相対する。
「ナイス。超GJ。カインさん暫くこんな感じでヨロ」
助かったわー。ふぃーと息を吐き出してやりとげた男の顔で手を振る千石。握っているのはゴブリンから掏り盗ったドレスだ。
(次はバラと桃缶の奪還かぁ……マト小さいから難儀っすなぁ)
常にカインがスカベンジャー部隊に正面戦を強い続ければ、千石の奪還機会も続く。ただ──
(あのカインさんが攻撃を外す、ねぇ?)
こいつら……想像以上に厄介な相手かもしれない。
未だ空手のスカベンジャー部隊が1匹、そろりそろりと摺足で位置を変えようとしていた。リーダーと思しき個体(確かジャッカルと名乗っていたか?)から目配せを受け、ドレスを奪われた個体と頷きあって。彼らなりの役割分担があるのだろう。
喚くレイサインの二人に閉口している御者らに、空を睨む八原とハナ。泣いているディーナを慰める長身の男(不吉なことに黒衣に悪魔の骸骨の風貌だ!)……
ゴブリンが駆ける! 盗む! そして。
「魔法の運用実験台志願とは感心なことだ」
雷火に撃たれた。
ゆらり。ディーナの泥汚れを祓っていた長身が振り向く。骸骨が1つ。更に2つ。
「うまく当たりさえすれば、高位の歪虚ゴブリンらしき賊も脆い。とみて宜しいかと」
一礼し報告するチマキマル(ka4372)はコキと首骨(本当の)を鳴らす。彼らの回避の可否条件は何だろうか、と。
「チマキマルくぅん、距離。距離をさぁ、なんとかしてくださいますぅ?」
身振り交じりのハナへ承知と頷く三つの骸骨。骨に纏わる三つの名を自称する異形の学士、チマキマル……。彼の灰色の脳細胞が囁く。アレらを馬車に近づけてはいけない。射程内、もっと具体的には馬車道の外……荒野に放ってはいけない、ということか。
「学問には贄が必要だ……永遠の学士たる私の渇いた知識欲の砂漠を潤す、贄の血が……」
計測はお手の物だ。実験動物の扱いも慣れたもの。囲いにとりこんで逃がさない。いずれ観測報告もあがる。さぁ、さぁ!
じり……と残るゴブリン達へ相対するカインと千石に呼応して、朗々としかし陰鬱にチマキマルの詠唱が響く。
「わかった。こいつらの戦い方は他者依存と支援だ」
与ダメージはまたも軽傷。カインの声が心なしか不機嫌になる。ゴブリンは危険だ。知恵をつけるから。悪事に便乗し卑怯な手しか使わない。現にこいつらは──
カインは何度目かの踏み込み攻勢をかける。今度ははっきりと違和感。筋肉質のを狙えば弾かれ避けられる。紅一点を気取るメスを狙えば足が笑う。その癖、自身の攻撃は弱い。これは──
「隠密特化? ああ、本体が居る前提のだな!」
だから、だから嫌いなのだゴブリンは。
「つまり……足だと思ってたボインが本体?」
ぅえぇぇ……アレ、ますます厄介じゃない? とうとう馬車の屋根に陣取って対空砲役に徹する八原が、露骨に厭な顔をしてハナと天を仰ぐ。
「八原ちゃん、バブルから遡りすぎの死語ですぅ。それ」
「アッシーならアッシーらしく呼べばすぐ来いっての」
ぷんすか!
脹れっ面の八原がぼやいた途端。カインは我が意を得たりと再度、斬魔刀を振りかぶった。
「全体を狙え。殺し損ねても構わない。笛を吹くまで逃がさず嬲り続けろ」
(そのスキに荷物も取り返してやれ。レイサインの喚き声が煩くてかなわん)
街道の外に出すまいとチマキマルが放つ火球から、慌てて迂回ルートをとった千石に、カインはすれ違いざま囁く。
「うぃーす。ワイヤーウィップが特殊強化鋼製なんすけど、うっかりあっさり殺っちまったらサーセン」
おいぃ……ますます難易度上がってるじゃないっすか? 活かさず殺さずってできるかね? 八原の言でカインが意図するところは多分、アッシー召還だろう。千石はチラとスカベンジャー部隊を見て、ディーナを見る。
「お前、歪虚ね? 桃缶と命おいてけなの! お前がッ、桃缶を返すまで、殴るのを辞めてやらないのッ!」
ディーナが妖怪桃缶置いてけだか紳士だかになって、本当に殴るのを辞めていない。
(ディーナさんスゲェ……セイクリッドフラッシュって鈍器的運用もできるんだな……)
新鮮な感動と共に千石は、ゴブリン達がハーピーを呼んで万が一にも飛び去らないうちに、青バラのコサージュ奪還に動き出す。桃缶? 流石にディーナとゴブリンの間に挟まって無事ですむ自信はない。
●
ピィーッ!
呼子笛の音が幾つも響く。
堪らず呼んだのだ。ハーピーを。彼らが元から自分達ではなくハーピーが本体だと悟っていたとは思えない。再度、無駄に負け台詞とポーズをとり、自滅すべきであったのだ。偵察目的ならば。本来のスカベンジャー部隊の役目は観測されること。しかし、戦闘は支援特化という特性と、■■様へ機密物資を届けるという余計な使命感が、彼らの判断を誤らせた。
「降りてきた! えーと、チマキマル君奴らの合流場所、路上に絞ってくれる?」
コキつかって御免ね? 馬車の屋根から八原は「私ここから動けないから」と片手で詫びを入れる。
「千石君とぉカイン君はぁ、チャンネー宜しくぅ」
私もトリモチ仕掛けるとのぉ、羽毟るのに忙しいからぁ。ね? ハナも両手の指全てに符を挟み込んで騎乗ウインクを決め込んだ。
迂回路を炎と地響きに阻まれて、唯一残された街道はまさに地獄の滑走路、であった。
「原罪にて舗装された道を逝け。魂を業火に投じよ……薪として捧げよ……」
チマキマルの陰鬱な詠唱。何度も何度も。スカベンジャー部隊は、いやハーピーらも。この道を走らなければ彼らを遣わせた者の元に帰ることは叶わない。
走って走って──
泥に足を掴まれ青白い燐光を帯びた弾丸に翼をもがれ羽を散らす。
「お立ち台で扇子振るがいいですぅ」
ねーっ? すっかり意気投合した八原とハナの連携がバブルの残照を散らす。飛ばせない。最優先にして最適解。
「へぶしっ! ……なぁカインさん。今更っすけど……ごばっ! ゴブリンどもさっさと殺っちゃって、呼子笛奪って俺らがこのナオン……ぶっ……呼べば簡単だったんじゃないっすかね……ぅわらばっ!」
少しバラのコサージュの端っこ踏んじゃったけどまぁいいか。千石があのまま囲ってボコればこんな目に遭わないですんだ、と、連続パイオツカイデーチチビンタを喰らいながら騎乗しかけたゴブリンとハーピーを引き剥がす。
「笛に口つけるのは僕は構わないがおまえも平気か?」
今度こそ妨害されることなく、敢えて胸元に入ったカインの刃がハーピーを両断する。
殺傷力は弱い。頭を揺らすか窒息させるか。おそらくハーピーも支援を受けなければ役に立たない歪虚なのだろう。
「間接キッス……確かに厭っすね! でもカインさん、いいんすか? 残りのゴブリンをディーナさんに任せて」
ぶるる。身震いしながら千石が問う。珍しいゴブリン殲滅者(カインの業だ!)の笑みが返る。
……なるほど。アレなら適任だ。
カインが振るう刀で指し示した先にはディーナ。感嘆の声とともに千石はワイヤーで拘束したハーピーを踏みつけ、今度こそ密着射撃でカメラごと撃ち抜いた。
「わかんないの! 人語話せないなら死ぬのね。歪虚の首はいらないの、桃缶だけ置いてくの!」
おそらく断末魔の前と後に■■様バンザイ、と叫んだのだろう。ぼとり……ぼとり……と何かを落としながら残るスカベンジャー部隊がディーナの聖槍で塵となってゆく。
「ラロッカとかオシオキダベーとか意味不すぎるのね!」
●
「申し訳ございません! 赤いドレスにカギ裂きが、青いバラに踏み跡が……」
ヴェドル到着後の査収中のことである。
土下座するレイサインの二人にあっさりと、GG本部職員はどうでもよさげに「そのへん置いといて」とスルーして、大事そうに高級食料品をロックワンバスター展開エリア宛の武装車両に積み替えてゆく。
「コレが機密扱いってことは、あの子達の頑張りにかかってるってことかぁ」
結局最後までナッツが本命ってあの二人は知らなかった、か。八原はもう少し黙っておこうとQSエンジン燃料=ナッツの箱を優しく撫でる。
「機密っていえばぁ気になる動きがあったんですぅ。ねぇ?」
ハナがディーナとカインを呼び寄せる。これ以外はカインが処分済みだと見せたのはガラクタ数種。ハーピーのカメラに収奪したらしい遺跡発掘物。
「ラロッカバンザイって言ってこんなの落としてたの」
「黒幕はそいつだ。情報収集だけじゃない、遺跡探査も行っていたと見るべきだ」
前線行きの馬車にディーナが駆け寄ってゆく。
何かを手渡してご機嫌で戻ってきた彼女は言う。
「チューダ様のお夜食も追加したの!」
──発注者のダイエット成功は遠そうである。
依頼結果
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相談卓 カイン・A・A・カーナボン(ka5336) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/02/23 03:13:41 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/02/21 23:32:28 |