ゲスト
(ka0000)
【王臨】炎の檻に出口は1つ
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/03/03 22:00
- 完成日
- 2017/03/10 16:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
中央の神鳥ゴーレムから見て遥か南方。
出現した『古の』ゴーレムは、余りにもみすぼらしかった。
肌はひび割れだらけの木炭。
眼窩には古びた硝子玉。
口には歯の1本も残っていない。
長い年月に負けて戦う力を喪失したのかもしれない。
あるいは単なる擬態かもしれない。
いずれにせよ"古の塔"攻略のためにはこれも破壊する必要が有る訳で、ハンター達は一瞬たりとも油断せずにサラマンダー型ゴーレムに近づいた。
温度が上がる。
高温を持つに至った空気が揺れてサラマンダーの姿がぼやけ、色が黒から赤に変わっていく。
硝子玉が膨大な熱量に晒され、生き物にも見える潤んだ瞳を先頭のハンターに向けた。
目が笑った。
一瞬ごとに生気が抜けていく目が、歓喜に震えながらハンターを凝視している。
歯無しの口が大きく開いて上を向いた。
一抱えはある白い炎が、途切れることなく果てのない天井へ。
先端が視認不可能になり、サラマンダーがようやく口を閉じた数秒後。
音もなく熱を伴い無数の白い柱が降り注ぐ。
ハンターとサラマンダーを囲む形で垂直に落下。材質不明の床に当たって動きを止める。
3桁近い白炎の柱は、巨大過ぎる熱量を持つ檻にも見えた。
「……」
ハンター達もただ見ていた訳ではない。
挨拶として一撃――ハンターによってはそれ以上の打撃をくれてやったがゴーレムは健在だ。
凹んだ鼻先を、炎で出来た舌でぬらりと舐めた。
口内の穴から青い牙が生じ、口内だけでなくゴーレム全体が音を立てて燃え始める。
我と戦え。
勝って我が存在意義を完成させろ。
紅蓮に燃える脚を一歩踏み出すたびに、炎の柱が内側に向かって微かに動く。
サラマンダーが一定のリズムで息を吐くたびに火の粉が舞う。
見た目は貧相でも威力がかなりのものだ。
とにかく、非常に、暑い。
幸い防具が効くようだが、どれだけ防護が厚くても急所に当たれば結構な被害を受けてしまう。
さらに問題なのは被害の範囲だ。火の粉状ブレスは見渡す限りの範囲に届いてしまっている。
これは大火力をぶつけて一気に仕留めるべきかと気合を入れたそのとき、他のゴーレムと対しているハンターがこちらに向けて呼びかけてきた。
「気を付けろ! そっちにバフが飛んでる」
最悪である。
サラマンダーをよくよく観察してみると、赤熱した外皮を水属性のマテリアルが覆っていた。
これでは水属性攻撃を浴びせてもダメージ5割増しならずダメージ半減だ。
しかも素の防護点まで上がっている気配がある。
いや、これはひょっとすると状態異常解除の効果まであるような。
それでもやることは変わらない。
サラマンダーを殴り倒して、分からず屋の番人にこちらの力を示せばいいのだ。
歓喜に燃える硝子の瞳を睨み返し、あなた達はそれぞれの得物を手にサラマンダーに襲いかかった。
出現した『古の』ゴーレムは、余りにもみすぼらしかった。
肌はひび割れだらけの木炭。
眼窩には古びた硝子玉。
口には歯の1本も残っていない。
長い年月に負けて戦う力を喪失したのかもしれない。
あるいは単なる擬態かもしれない。
いずれにせよ"古の塔"攻略のためにはこれも破壊する必要が有る訳で、ハンター達は一瞬たりとも油断せずにサラマンダー型ゴーレムに近づいた。
温度が上がる。
高温を持つに至った空気が揺れてサラマンダーの姿がぼやけ、色が黒から赤に変わっていく。
硝子玉が膨大な熱量に晒され、生き物にも見える潤んだ瞳を先頭のハンターに向けた。
目が笑った。
一瞬ごとに生気が抜けていく目が、歓喜に震えながらハンターを凝視している。
歯無しの口が大きく開いて上を向いた。
一抱えはある白い炎が、途切れることなく果てのない天井へ。
先端が視認不可能になり、サラマンダーがようやく口を閉じた数秒後。
音もなく熱を伴い無数の白い柱が降り注ぐ。
ハンターとサラマンダーを囲む形で垂直に落下。材質不明の床に当たって動きを止める。
3桁近い白炎の柱は、巨大過ぎる熱量を持つ檻にも見えた。
「……」
ハンター達もただ見ていた訳ではない。
挨拶として一撃――ハンターによってはそれ以上の打撃をくれてやったがゴーレムは健在だ。
凹んだ鼻先を、炎で出来た舌でぬらりと舐めた。
口内の穴から青い牙が生じ、口内だけでなくゴーレム全体が音を立てて燃え始める。
我と戦え。
勝って我が存在意義を完成させろ。
紅蓮に燃える脚を一歩踏み出すたびに、炎の柱が内側に向かって微かに動く。
サラマンダーが一定のリズムで息を吐くたびに火の粉が舞う。
見た目は貧相でも威力がかなりのものだ。
とにかく、非常に、暑い。
幸い防具が効くようだが、どれだけ防護が厚くても急所に当たれば結構な被害を受けてしまう。
さらに問題なのは被害の範囲だ。火の粉状ブレスは見渡す限りの範囲に届いてしまっている。
これは大火力をぶつけて一気に仕留めるべきかと気合を入れたそのとき、他のゴーレムと対しているハンターがこちらに向けて呼びかけてきた。
「気を付けろ! そっちにバフが飛んでる」
最悪である。
サラマンダーをよくよく観察してみると、赤熱した外皮を水属性のマテリアルが覆っていた。
これでは水属性攻撃を浴びせてもダメージ5割増しならずダメージ半減だ。
しかも素の防護点まで上がっている気配がある。
いや、これはひょっとすると状態異常解除の効果まであるような。
それでもやることは変わらない。
サラマンダーを殴り倒して、分からず屋の番人にこちらの力を示せばいいのだ。
歓喜に燃える硝子の瞳を睨み返し、あなた達はそれぞれの得物を手にサラマンダーに襲いかかった。
リプレイ本文
●サラマンダー炎上
果ての見えない部屋に火の粉が溢れていた。
1つ1つは厚めの布で防げる熱量しか持たないが数が膨大過ぎる。
「余裕かましてる暇ないね! はなっから全力だ!!」
頭頂から足先までを分厚い装甲で固め、日高・明(ka0476)が全力で駆け出した。
シルフが巨大な風の動きをつくる。
火の粉が風に乗り巨大な流れを作り。
ほんの2、3の火の粉が兜のスリットから入って明の肌を傷つけた。
「暑ぅっ。これ風属性混じってますよぉ」
星野 ハナ(ka5852)は呪符を一束抜いて鋭く投げる。
風と火の障害を貫き、明達の背中にぴたりと張り付いた。
「1度にまとめて打てるのがこの術のいいところですぅ。みなさん頑張ってくださいねぇ……地脈鳴動」
明の刃がぬらりと艶を増す。
赤く鈍く輝く寸胴の蜥蜴――サラマンダー型ゴーレムがぎろりとハナを睨み付けた。
「おおおおっ!!」
明の気合いがサラマンダーの思考を正面から圧迫する。
ゴーレムの動きの精度が一時的に低下。
対する明は 迷いの無い踏み込みからの高速刺突。
サラマンダーの頬から喉にかけてれぐれ、肩の近くまで切れ目をいれて止まる。
表面の赤と内部の黒の境目が熱い空気にさらされた。
「まだ、だ!」
全身の力を使って太刀を引き戻す。
同時に反対側の手で大型盾を叩き付けるように前に。
サラマンダーの口から固体にしか見えない青の炎が伸び、分厚い装甲の裏から十数センチ突き出した。
「戦ってるのは!」
青の牙に直接当たった訳でも無いのにとんでもない高温だ。
熱いを通り越してとにかく痛い。
明は感覚がおかしい腕を勘だけで操り、第一の青牙を外して次に備える。
「僕たちだけじゃない!! 皆が頑張ってる!!」
複数箇所でハンター対ゴーレムの激戦が展開中だ。
こちらに風を飛ばすゴーレムと戦うハンターもいるし、サラマンダー型の装甲にエネルギーを供給するゴーレムと戦うハンターもいる。
明達も、他の戦場にも火の粉を飛ばすサラマンダー型を倒さなくてはならない。
明は第2の青牙に盾をあわせる。
覚悟はしていたがその威力は絶大で、装甲の一部が溶け肉と骨がこんがりと焼けた。
「戦神よ、ご加護を」
光が明の腕を包み込む。
残骸寸前の肉と骨が半死半生に引き戻される。
炎の刃と急速な回復による異様な感覚に襲われながら、明は奥歯を噛みしめ斜め上方からカウンターの刃を叩き込んだ。
「なるほど、これは難物だ。一筋縄では行きそうもないな」
アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は次の癒やしの術を準備しながら眉を寄せた。
敵の攻撃力が予想より強大だ。
短射程の青い炎だけなら打ち勝てる。
しかし、風と火の粉のブレスが加わると少々どころでなく分が悪い。
「一合二合で勝負がつく相手ではない。無理せず安全地帯に向かえ」
光で以て魔法障壁を作る。
青の牙がそれをあっさり貫いた上で、連撃2発目を躱しきれなかった明を焼き、切り裂いた。
明が斜め前方に身を躍らせた。
黄色く輝くサラマンダーの眼球に失望の色が浮かんで、強靱な大顎が明を砕こうと上下に閉まる。
が、閉まる前に何故か体全体が後ろに引っ張られていた。
大顎が何も噛めずに噛み合わされる。
明は自身の意図したとおりにサラマンダーの真横至近距離で前回り前転受け身を行い、火の粉がない場所でポーションを煽った。
サラマンダー型ゴーレムを挟んだ単体側。
高速、大重量に加えて高温でもある尻尾が振り回されているはずの場所で、テノール(ka5676)が赤黒い極太尻尾を両手片足で取り押さえていた。
「眼前の恐怖も想像力の生みなす恐怖ほど恐ろしくはない。というのをリアルブルーのある劇作家が書いていたが」
サラマンダーが身をよじろうとする。
全長6メートル、全高4メートル近い巨体は炎無しでも脅威であり、負傷した明や小柄なユグディラが再起不能レベルの傷を負う可能があった。
だが可能性でしかない。
サラマンダーから見て右脇側。相棒のユグディラ【クリオスィタ】が演奏しながら、ろくにダメージにならない程度の蹴りを入れただけで勢いが衰え。
サラマンダーから見て左脇側。クリスティン・ガフ(ka1090)が恐るべき威力の突きをめり込ませるとサラマンダーの足が完全に止る。
「その通りだな。形をとってくれた方が壊し方を考えられる」
腕の力を抜き足を半歩下げる。
テノールをはね飛ばすつもりだった尻尾が空しく斜めに突き出され、隙だらけの伸びきった尻尾を直線のマテリアルが貫いた。
尻尾に無視できないサイズの穴を開けてもマテリアルは止まらない。
サラマンダー本体の背から胸にかけて小さな穴を開け、ようやく消滅する。
ばたん、ばたんと尻尾が斜めに左右に振り回される。
波の兵士が数名まとめて肉塊に変えられる威力はあるが、目と判断力に優れたテノールにとっては大道芸に等しい。
「甘いのか歪虚を甘く見ているのか」
怪獣サイズの歪虚や、大威力の術とあくどい状態異常を駆使する歪虚と比べると、このゴーレム達は力はあっても素直すぎた。
何度目か分からない尻尾の振り回しが、単なる偶然でテノールの回避術を上回る。
盾による防御も間に合わない。
「どちらであっても」
テノールは防具の最も厚い箇所で受け止める。
防具で吸収できない分はダメージを受けた後体内を巡るものに合流させて拳から出す。
「やることは変わらないがな」
衝撃が拳からガーゴイルの臀部に、臀部から骨格を伝わり背中から外へ。
外部からのエネルギー供給で防御力が上がっているはずの全てを貫き、深刻な損害をゴーレムに与えた。
にゃっ。
刃と赤熱木炭が撃ち合う音に紛れて猫の鳴き声に近い声が聞こえる。
「どうした」
一瞬だけ相棒に目を向けると、リュートを演奏中の【クリオスィタ】から焦げ臭さを感じた。
いつも元気な髭が力をなくし、いつもは艶のある毛も妙に水気が無い。
「切り替えろ」
ユグディラがこくりとうなずいた。
聞く者の動きを鋭くする旋律から穏やかなものに変更。
火の粉と風の被害を無くすほどの回復効果はないが、サラマンダー尻尾攻撃さえ躱せば5分は耐えられる程度にテノールを癒す。
「ユグディラちゃんゴーゴー!」
すささ。
四足走行による加速で、別のユグディラが【クリオスィタ】に合流して火の粉の被害から逃れた。
【クリオスィタ】のリュートにハンドベルの演奏が加わり、賑やかな音が癒やしの力を伴いサラマンダー周辺の戦場に漂う。
「もうユグディラちゃんの回復だけが頼りですぅ。……本当に」
ハナの口調が、ほんのわずかであるが崩れていた。
なにしろ全く回復術が足り無かったのだ。
1人2人の重傷者ならアデリシアがこの世に引き戻すのだが、回避も防御も不可能な火の粉と風が戦場全体を覆っているので2匹の演奏がなけばそろそろ全滅していたかもしれない。
「ふう。暑かった」
ハナもユグディラ達に合流。
とても可愛らしい……少なくとも本人はそう思っている所作で額の汗をぬぐい、実戦で磨き抜かれた美しい動きで新たな符を放つ。
炎に触れて符が燃え尽き、代わりに飛び出した光の蝶がサラマンダーの胴を深くまで抉る。
黒々とした傷口が酸素に触れて赤く染まり、木炭で出来た内臓にみちりと傷が生じた。
「そっちは大丈夫ですかー?」
「結構厳しいかなっ」
ハナの声にレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が元気に答えた。
巨人用にしか見えない見えない特大ハンマーを横に振る。
青い炎と火の属性を持つ鋼が反発し合い、レイオスへ届く熱量を半分にまで引き下げた。
「大丈夫そうだな」
この場の唯一の聖導士、つまり最大の命綱であるアデリシアの声を聞いてレイオスが顔色を変える。
「実質1人で耐えているだんよっ!?」
他の面々が不甲斐ない訳では無い。
サラマンダーが最も高威力の攻撃をレイオスだけに集中させているのだ。
戦闘開始からこれまで、サラマンダーは青い牙を使った噛みつきを延々繰り返している。
毎回毎回速度を変えての超高音噛みつき2連撃。
確実に殺すための戦法であり、最も過酷な試練になり得る戦法でもあった。
「時間を掛ければジリ貧か」
2連撃は躱しづらい。
レイオスの回避術も普段の半分程度しか役に立たない。
「だったら攻撃あるのみだ!」
火の大マンハーを盾の如く扱い、普段は披露する機会の少ない受け技術で以て炎の刃を防ぐ。
そして、生体マテリアルを載せたオートMURAMASAで以て突く、突く、突く。
頭がサラマンダーの形を失い半球状のこけしのように。
喉から胸にかけても多数亀裂が生じ奥の炎が見えた。
サラマンダーが身動きを止める。
口を閉じ、レイオスをじっと見つめて、火の粉以外のエネルギーを青い刃に集中させた。
口を大きく開く。
熱量が倍増した、青白い炎の牙がレイオスに向かう。
「力を見せろってことだろ? だったら」
戦友から預かったマテリアルが増えた威力と拮抗。
そろそろ危険な体力を使ってハンマーで受け止め。
「真正面からブチ破ってやるっ!」
反撃のMURAMASAが喉を貫く。
奥の炎が衝撃に負けて広がり、サラマンダーの各所から炎が噴き出した。
●足を止めて打ち合う
追撃の青牙が炎のハンマーと激突した。
文字通りの火花が散り、ひびだらけのサラマンダーの肌とアーサー・ホーガン(ka0471)の頬に当たって両方をわずかに黒くする。
「久しぶりの大物相手だな」
そのまま安全地帯に向かうようレイオスへ伝え、アーサーは彼のかわりにサラマンダーの正面に立ちふさがる。
「千年越しの晴れ舞台なんだろうが、見せ場をくれてやるわけにはいかねぇぜ」
火傷の痛みなど気にもせず、ゴーレムの前脚へ刃を振り下ろす。
もう一方の手に大太刀を持っているのにハンマーの速度は素晴らしく、1発では無理でも2発か3発に脚先を潰せるように見えた。
「さすがに甘くはねぇか」
サラマンダー型ゴーレムが足を一歩下げ。
赤い鎚頭が爪先をかすめる寸前で空振りする。
部位狙い用のスキル無しで狙えば命中確率が落ちるという、よくある現象を確認しただけで終わった。
アーサーの攻撃を退けたのにサラマンダーは警戒心を露わにしている。
青色の柄を持つ大太刀に、酷く不吉な気配を感じたのだ。
「気づいたか」
薄く微笑む。
大太刀を軽く揺らすと、水と火属性溢れる空間に微かな水の気配が生じた。
「ウィンディーネ像が潰れたらこれを使うぞ。どうした。来ないのか」
サラマンダーの属性が火だけになれば、この大太刀はサラマンダーにとっての死神になる。
火蜥蜴の形を持つゴーレムは、試練という役目を全うするため、攻撃可能な相手のうち脅威度の高い相手へ全力で踏み込んだ。
「応えてやるさ。お前らと、お前らの創造主の期待にな」
視線はサラマンダーに固定したまま片手の動きで合図を送る。
ポーション多数を飲み終えた明が攻撃を再開。
クリスティンがより効率のよい攻撃のため、アーサーと同じくサラマンダーの正面に立つ。
剣と刀が赤い肌を削り、高温の炭を地面に撒き散らした。
さらにアーサーのハンマーが、練りに練れられたマテリアルを上乗せされて赤い肩にめり込んだ。
既にサラマンダーに見えない頭から青い牙が伸びる。
アーサーは火のハンマーで受ける。
だがダメージが蓄積しすぎている。彼の意思に反して右膝から力が抜け体勢が崩れた。
「回復は温存しろ!」
一言言い残しサラマンダーの腹の至近にある安全地帯へ飛び込む。
青い牙による追撃を受けても、微かな悲鳴すらあげなかった。
「戦神よ。これほどの戦いに出会えたことを感謝致します」
アデリシアは透き通るような笑みを浮かべて印を切る。
清らかである以上に苛烈な光が彼女から溢れ、サラマンダーの前身に派手な傷をつけた。
「浅い」
サラマンダーは巨体に見合った頑丈さを持つのでこれではダメージが足りない。
アデリシアはそう判断して、水属性の障壁が解除されるのを待つことにした。
「経緯はさておき強敵には違いない」
巨大刀「祢々切丸」を赤黒いオーラが覆う。
赤く無機質なサラマンダーの炎とは異なり、生々しく仄暗く、研ぎ澄ませた刃の如く美しい。
「竜型。行くぞ」
ゴーレムがクリスティンの姿を見失う。
衝撃が全身を突き抜ける。
右肩から背中近くまで深刻なダメージを負ったことが頭脳に報告される。
再びハンターの視認に成功したとき、彼女が長大な刀をゴーレム本体から抜くのも見えた。
牙を剥く。
高速の二連撃はクリスティンほどの技の持ち主でも躱すは難しい。
だから彼女は、火の属性を持つ盾で青炎を防いで被害を最低限に抑える。
歓喜と危機感が半々の目玉の動きを観察しつつ、クリスティンは高速で現状の分析を始めた。
退路を塞ぐ白い柱は動いていない。
柱の柱の間からは、戦いで押してはいるがかなり傷ついたハンターが見える。
ゴーレムが息を吐くタイミングで盾を押しつける。
息は横にそれる。
火の粉は複雑な気流に乗って複数の戦場に広がり、これまで通りにハンターを苦しめた。
にゃっ? にゃっ。
パタパタ振られていた2本の尻尾が止まる。
尻尾が元気よく上を向き、演奏に陽気な気配が濃くなった。
ゴーレムが愕然とした気配を漂わせる。
肌から水属性の守りが消えている。
防御力も明らかに落ちている。
ハンターに気づかれる前に守りを捨てた猛攻に移ろうとして、何故か尻尾が意図しない動きをしたことにに気づいた。
「時間だ」
籠手で覆われたテノールの腕が、巨大な尻尾を地面に押さえつけている。
筋力や自重では1桁近く差があっても、単純な動きしかできないゴーレムと格闘士では技量が違いすぎる。
「お前の望んだ、時間だ」
片足で踏むことで完全に尻尾と本体の移動を封じ、テノールは前を見るようサラマンダーへ促した。
「熱燗焼き鳥は大好きですけどぉ、自分がなるのはノーサンキューですぅ」」
ハナは白いハンカチで汗を拭う際にこっそり化粧を直す。
「ここは奴を倒すことが最優先だ。まあ、死なない程度には気を使わねばなるまいが」
アデリシアが汗を吸った髪をなでつけると、黒から銀のグラデーションが炎の色を反射する。
『……』
戦闘中に何をやっているだと思考するゴーレムだが、そう考えてしまうのがこのゴーレムの限界だった。
「ふぅ、暑い、胡蝶符打ち止め前に倒したいですぅ~」
のんきな声と言動は本心であるが同時にフェイントでもある。
壮絶な密度のマテリアルが蝶の形をとって、ふよふよ緊張感が抜ける動きでゴーレムに迫り、弾けた。
それまで無傷だった背中の一部に蝶の形の穴が開き、直上から見れば床が見えるまで貫通する。
「負傷者がいたら言え!」
でないと気づけない。
ハナに見送られてアデリシアが馬を駆けさせる。
釣られてゴーレムが右旋回しようとしても、至近の安全地帯で回復中の面々が殴る斬るの攻撃を仕掛けて邪魔される。
アデリシアは自身の祈りを呼び水に純度の高いマテリアルを導き、強い光に変えゴーレム目がけて解放した。
超高温とはいえ赤く染まっただけの炭が全体的に凹み、細かな亀裂が広がり、亀裂から青に近い炎が噴き出した。
硝子の眼球が戸惑いと恐怖に揺れてもアデリシアは動じない。
淡々と、容赦なく、祈りを通じて古いゴーレムを崩壊に近づける。
クリスティンがゆっくりと上段に構え、刃渡りだけでも3メートル近い刃をゴーレムの頭から臀部にかけてめり込ませた。
中心部にあるまだ燃えていなかった箇所が空気にさらされ、熱に耐えきれずに自ら発火して爆発的な炎をまき散らす。
黄色い硝子玉が溶け、サラマンダーの眼窩から涙のように流れ出た。
クリスティンは静かにうなずく。ゴーレムの頭突きと青牙を盾で受け止めその反動を活かして刃をさらに押し込む。
サラマンダーの動きが緩慢になり、火の粉の量が明らかに減った。
「満足したか? 守護者よ」
中に何もない目が見開かれる。
炭が割れる音が龍の怒号の如く響く。
「来い」
体中火傷だらけで足取りも怪しいのに、明は太刀をしっかり握りしめて真正面からみつめた。
尻尾が砕け表皮が崩壊しながらサラマンダーが急角度で曲がる。明の刃と青牙が交錯し大量の血と火の粉が飛び散る。
アーサーが横から、テノールが背後から、避けも受けもできないゴーレムに一撃を入れる。
手を抜かないのが最大の敬意の表現だった。
「ふぇ……アル、じゃなくて水欲しいですぅ」
本音半分のボケをかますハナも、内心は冷や汗でびっしょりだ。
そろそろ熱中症かレアな焼き具合のハンターが現れてもおかしくない。
「これで」
最後の蝶がひらりと飛んで、正面の喉から入って核と予備を砕き尻尾のあった場所から飛び出た。
サラマンダーの全身が崩れ、炭の火力が弱まり、各部位ばらばらになって地面にごろごろ転がった。
「ありがとう」
あくまで試練として戦ってくれて。
試練に正面から挑んでくれて。
明の零した言葉が、この戦いの締め括りになった。
「今の王国を見て回るのも悪く無いだろ」
自らの肩に落ちた小さな炭をレイオスがそっとハンカチに包み、大事そうにポケットに仕舞っていた。
果ての見えない部屋に火の粉が溢れていた。
1つ1つは厚めの布で防げる熱量しか持たないが数が膨大過ぎる。
「余裕かましてる暇ないね! はなっから全力だ!!」
頭頂から足先までを分厚い装甲で固め、日高・明(ka0476)が全力で駆け出した。
シルフが巨大な風の動きをつくる。
火の粉が風に乗り巨大な流れを作り。
ほんの2、3の火の粉が兜のスリットから入って明の肌を傷つけた。
「暑ぅっ。これ風属性混じってますよぉ」
星野 ハナ(ka5852)は呪符を一束抜いて鋭く投げる。
風と火の障害を貫き、明達の背中にぴたりと張り付いた。
「1度にまとめて打てるのがこの術のいいところですぅ。みなさん頑張ってくださいねぇ……地脈鳴動」
明の刃がぬらりと艶を増す。
赤く鈍く輝く寸胴の蜥蜴――サラマンダー型ゴーレムがぎろりとハナを睨み付けた。
「おおおおっ!!」
明の気合いがサラマンダーの思考を正面から圧迫する。
ゴーレムの動きの精度が一時的に低下。
対する明は 迷いの無い踏み込みからの高速刺突。
サラマンダーの頬から喉にかけてれぐれ、肩の近くまで切れ目をいれて止まる。
表面の赤と内部の黒の境目が熱い空気にさらされた。
「まだ、だ!」
全身の力を使って太刀を引き戻す。
同時に反対側の手で大型盾を叩き付けるように前に。
サラマンダーの口から固体にしか見えない青の炎が伸び、分厚い装甲の裏から十数センチ突き出した。
「戦ってるのは!」
青の牙に直接当たった訳でも無いのにとんでもない高温だ。
熱いを通り越してとにかく痛い。
明は感覚がおかしい腕を勘だけで操り、第一の青牙を外して次に備える。
「僕たちだけじゃない!! 皆が頑張ってる!!」
複数箇所でハンター対ゴーレムの激戦が展開中だ。
こちらに風を飛ばすゴーレムと戦うハンターもいるし、サラマンダー型の装甲にエネルギーを供給するゴーレムと戦うハンターもいる。
明達も、他の戦場にも火の粉を飛ばすサラマンダー型を倒さなくてはならない。
明は第2の青牙に盾をあわせる。
覚悟はしていたがその威力は絶大で、装甲の一部が溶け肉と骨がこんがりと焼けた。
「戦神よ、ご加護を」
光が明の腕を包み込む。
残骸寸前の肉と骨が半死半生に引き戻される。
炎の刃と急速な回復による異様な感覚に襲われながら、明は奥歯を噛みしめ斜め上方からカウンターの刃を叩き込んだ。
「なるほど、これは難物だ。一筋縄では行きそうもないな」
アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は次の癒やしの術を準備しながら眉を寄せた。
敵の攻撃力が予想より強大だ。
短射程の青い炎だけなら打ち勝てる。
しかし、風と火の粉のブレスが加わると少々どころでなく分が悪い。
「一合二合で勝負がつく相手ではない。無理せず安全地帯に向かえ」
光で以て魔法障壁を作る。
青の牙がそれをあっさり貫いた上で、連撃2発目を躱しきれなかった明を焼き、切り裂いた。
明が斜め前方に身を躍らせた。
黄色く輝くサラマンダーの眼球に失望の色が浮かんで、強靱な大顎が明を砕こうと上下に閉まる。
が、閉まる前に何故か体全体が後ろに引っ張られていた。
大顎が何も噛めずに噛み合わされる。
明は自身の意図したとおりにサラマンダーの真横至近距離で前回り前転受け身を行い、火の粉がない場所でポーションを煽った。
サラマンダー型ゴーレムを挟んだ単体側。
高速、大重量に加えて高温でもある尻尾が振り回されているはずの場所で、テノール(ka5676)が赤黒い極太尻尾を両手片足で取り押さえていた。
「眼前の恐怖も想像力の生みなす恐怖ほど恐ろしくはない。というのをリアルブルーのある劇作家が書いていたが」
サラマンダーが身をよじろうとする。
全長6メートル、全高4メートル近い巨体は炎無しでも脅威であり、負傷した明や小柄なユグディラが再起不能レベルの傷を負う可能があった。
だが可能性でしかない。
サラマンダーから見て右脇側。相棒のユグディラ【クリオスィタ】が演奏しながら、ろくにダメージにならない程度の蹴りを入れただけで勢いが衰え。
サラマンダーから見て左脇側。クリスティン・ガフ(ka1090)が恐るべき威力の突きをめり込ませるとサラマンダーの足が完全に止る。
「その通りだな。形をとってくれた方が壊し方を考えられる」
腕の力を抜き足を半歩下げる。
テノールをはね飛ばすつもりだった尻尾が空しく斜めに突き出され、隙だらけの伸びきった尻尾を直線のマテリアルが貫いた。
尻尾に無視できないサイズの穴を開けてもマテリアルは止まらない。
サラマンダー本体の背から胸にかけて小さな穴を開け、ようやく消滅する。
ばたん、ばたんと尻尾が斜めに左右に振り回される。
波の兵士が数名まとめて肉塊に変えられる威力はあるが、目と判断力に優れたテノールにとっては大道芸に等しい。
「甘いのか歪虚を甘く見ているのか」
怪獣サイズの歪虚や、大威力の術とあくどい状態異常を駆使する歪虚と比べると、このゴーレム達は力はあっても素直すぎた。
何度目か分からない尻尾の振り回しが、単なる偶然でテノールの回避術を上回る。
盾による防御も間に合わない。
「どちらであっても」
テノールは防具の最も厚い箇所で受け止める。
防具で吸収できない分はダメージを受けた後体内を巡るものに合流させて拳から出す。
「やることは変わらないがな」
衝撃が拳からガーゴイルの臀部に、臀部から骨格を伝わり背中から外へ。
外部からのエネルギー供給で防御力が上がっているはずの全てを貫き、深刻な損害をゴーレムに与えた。
にゃっ。
刃と赤熱木炭が撃ち合う音に紛れて猫の鳴き声に近い声が聞こえる。
「どうした」
一瞬だけ相棒に目を向けると、リュートを演奏中の【クリオスィタ】から焦げ臭さを感じた。
いつも元気な髭が力をなくし、いつもは艶のある毛も妙に水気が無い。
「切り替えろ」
ユグディラがこくりとうなずいた。
聞く者の動きを鋭くする旋律から穏やかなものに変更。
火の粉と風の被害を無くすほどの回復効果はないが、サラマンダー尻尾攻撃さえ躱せば5分は耐えられる程度にテノールを癒す。
「ユグディラちゃんゴーゴー!」
すささ。
四足走行による加速で、別のユグディラが【クリオスィタ】に合流して火の粉の被害から逃れた。
【クリオスィタ】のリュートにハンドベルの演奏が加わり、賑やかな音が癒やしの力を伴いサラマンダー周辺の戦場に漂う。
「もうユグディラちゃんの回復だけが頼りですぅ。……本当に」
ハナの口調が、ほんのわずかであるが崩れていた。
なにしろ全く回復術が足り無かったのだ。
1人2人の重傷者ならアデリシアがこの世に引き戻すのだが、回避も防御も不可能な火の粉と風が戦場全体を覆っているので2匹の演奏がなけばそろそろ全滅していたかもしれない。
「ふう。暑かった」
ハナもユグディラ達に合流。
とても可愛らしい……少なくとも本人はそう思っている所作で額の汗をぬぐい、実戦で磨き抜かれた美しい動きで新たな符を放つ。
炎に触れて符が燃え尽き、代わりに飛び出した光の蝶がサラマンダーの胴を深くまで抉る。
黒々とした傷口が酸素に触れて赤く染まり、木炭で出来た内臓にみちりと傷が生じた。
「そっちは大丈夫ですかー?」
「結構厳しいかなっ」
ハナの声にレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が元気に答えた。
巨人用にしか見えない見えない特大ハンマーを横に振る。
青い炎と火の属性を持つ鋼が反発し合い、レイオスへ届く熱量を半分にまで引き下げた。
「大丈夫そうだな」
この場の唯一の聖導士、つまり最大の命綱であるアデリシアの声を聞いてレイオスが顔色を変える。
「実質1人で耐えているだんよっ!?」
他の面々が不甲斐ない訳では無い。
サラマンダーが最も高威力の攻撃をレイオスだけに集中させているのだ。
戦闘開始からこれまで、サラマンダーは青い牙を使った噛みつきを延々繰り返している。
毎回毎回速度を変えての超高音噛みつき2連撃。
確実に殺すための戦法であり、最も過酷な試練になり得る戦法でもあった。
「時間を掛ければジリ貧か」
2連撃は躱しづらい。
レイオスの回避術も普段の半分程度しか役に立たない。
「だったら攻撃あるのみだ!」
火の大マンハーを盾の如く扱い、普段は披露する機会の少ない受け技術で以て炎の刃を防ぐ。
そして、生体マテリアルを載せたオートMURAMASAで以て突く、突く、突く。
頭がサラマンダーの形を失い半球状のこけしのように。
喉から胸にかけても多数亀裂が生じ奥の炎が見えた。
サラマンダーが身動きを止める。
口を閉じ、レイオスをじっと見つめて、火の粉以外のエネルギーを青い刃に集中させた。
口を大きく開く。
熱量が倍増した、青白い炎の牙がレイオスに向かう。
「力を見せろってことだろ? だったら」
戦友から預かったマテリアルが増えた威力と拮抗。
そろそろ危険な体力を使ってハンマーで受け止め。
「真正面からブチ破ってやるっ!」
反撃のMURAMASAが喉を貫く。
奥の炎が衝撃に負けて広がり、サラマンダーの各所から炎が噴き出した。
●足を止めて打ち合う
追撃の青牙が炎のハンマーと激突した。
文字通りの火花が散り、ひびだらけのサラマンダーの肌とアーサー・ホーガン(ka0471)の頬に当たって両方をわずかに黒くする。
「久しぶりの大物相手だな」
そのまま安全地帯に向かうようレイオスへ伝え、アーサーは彼のかわりにサラマンダーの正面に立ちふさがる。
「千年越しの晴れ舞台なんだろうが、見せ場をくれてやるわけにはいかねぇぜ」
火傷の痛みなど気にもせず、ゴーレムの前脚へ刃を振り下ろす。
もう一方の手に大太刀を持っているのにハンマーの速度は素晴らしく、1発では無理でも2発か3発に脚先を潰せるように見えた。
「さすがに甘くはねぇか」
サラマンダー型ゴーレムが足を一歩下げ。
赤い鎚頭が爪先をかすめる寸前で空振りする。
部位狙い用のスキル無しで狙えば命中確率が落ちるという、よくある現象を確認しただけで終わった。
アーサーの攻撃を退けたのにサラマンダーは警戒心を露わにしている。
青色の柄を持つ大太刀に、酷く不吉な気配を感じたのだ。
「気づいたか」
薄く微笑む。
大太刀を軽く揺らすと、水と火属性溢れる空間に微かな水の気配が生じた。
「ウィンディーネ像が潰れたらこれを使うぞ。どうした。来ないのか」
サラマンダーの属性が火だけになれば、この大太刀はサラマンダーにとっての死神になる。
火蜥蜴の形を持つゴーレムは、試練という役目を全うするため、攻撃可能な相手のうち脅威度の高い相手へ全力で踏み込んだ。
「応えてやるさ。お前らと、お前らの創造主の期待にな」
視線はサラマンダーに固定したまま片手の動きで合図を送る。
ポーション多数を飲み終えた明が攻撃を再開。
クリスティンがより効率のよい攻撃のため、アーサーと同じくサラマンダーの正面に立つ。
剣と刀が赤い肌を削り、高温の炭を地面に撒き散らした。
さらにアーサーのハンマーが、練りに練れられたマテリアルを上乗せされて赤い肩にめり込んだ。
既にサラマンダーに見えない頭から青い牙が伸びる。
アーサーは火のハンマーで受ける。
だがダメージが蓄積しすぎている。彼の意思に反して右膝から力が抜け体勢が崩れた。
「回復は温存しろ!」
一言言い残しサラマンダーの腹の至近にある安全地帯へ飛び込む。
青い牙による追撃を受けても、微かな悲鳴すらあげなかった。
「戦神よ。これほどの戦いに出会えたことを感謝致します」
アデリシアは透き通るような笑みを浮かべて印を切る。
清らかである以上に苛烈な光が彼女から溢れ、サラマンダーの前身に派手な傷をつけた。
「浅い」
サラマンダーは巨体に見合った頑丈さを持つのでこれではダメージが足りない。
アデリシアはそう判断して、水属性の障壁が解除されるのを待つことにした。
「経緯はさておき強敵には違いない」
巨大刀「祢々切丸」を赤黒いオーラが覆う。
赤く無機質なサラマンダーの炎とは異なり、生々しく仄暗く、研ぎ澄ませた刃の如く美しい。
「竜型。行くぞ」
ゴーレムがクリスティンの姿を見失う。
衝撃が全身を突き抜ける。
右肩から背中近くまで深刻なダメージを負ったことが頭脳に報告される。
再びハンターの視認に成功したとき、彼女が長大な刀をゴーレム本体から抜くのも見えた。
牙を剥く。
高速の二連撃はクリスティンほどの技の持ち主でも躱すは難しい。
だから彼女は、火の属性を持つ盾で青炎を防いで被害を最低限に抑える。
歓喜と危機感が半々の目玉の動きを観察しつつ、クリスティンは高速で現状の分析を始めた。
退路を塞ぐ白い柱は動いていない。
柱の柱の間からは、戦いで押してはいるがかなり傷ついたハンターが見える。
ゴーレムが息を吐くタイミングで盾を押しつける。
息は横にそれる。
火の粉は複雑な気流に乗って複数の戦場に広がり、これまで通りにハンターを苦しめた。
にゃっ? にゃっ。
パタパタ振られていた2本の尻尾が止まる。
尻尾が元気よく上を向き、演奏に陽気な気配が濃くなった。
ゴーレムが愕然とした気配を漂わせる。
肌から水属性の守りが消えている。
防御力も明らかに落ちている。
ハンターに気づかれる前に守りを捨てた猛攻に移ろうとして、何故か尻尾が意図しない動きをしたことにに気づいた。
「時間だ」
籠手で覆われたテノールの腕が、巨大な尻尾を地面に押さえつけている。
筋力や自重では1桁近く差があっても、単純な動きしかできないゴーレムと格闘士では技量が違いすぎる。
「お前の望んだ、時間だ」
片足で踏むことで完全に尻尾と本体の移動を封じ、テノールは前を見るようサラマンダーへ促した。
「熱燗焼き鳥は大好きですけどぉ、自分がなるのはノーサンキューですぅ」」
ハナは白いハンカチで汗を拭う際にこっそり化粧を直す。
「ここは奴を倒すことが最優先だ。まあ、死なない程度には気を使わねばなるまいが」
アデリシアが汗を吸った髪をなでつけると、黒から銀のグラデーションが炎の色を反射する。
『……』
戦闘中に何をやっているだと思考するゴーレムだが、そう考えてしまうのがこのゴーレムの限界だった。
「ふぅ、暑い、胡蝶符打ち止め前に倒したいですぅ~」
のんきな声と言動は本心であるが同時にフェイントでもある。
壮絶な密度のマテリアルが蝶の形をとって、ふよふよ緊張感が抜ける動きでゴーレムに迫り、弾けた。
それまで無傷だった背中の一部に蝶の形の穴が開き、直上から見れば床が見えるまで貫通する。
「負傷者がいたら言え!」
でないと気づけない。
ハナに見送られてアデリシアが馬を駆けさせる。
釣られてゴーレムが右旋回しようとしても、至近の安全地帯で回復中の面々が殴る斬るの攻撃を仕掛けて邪魔される。
アデリシアは自身の祈りを呼び水に純度の高いマテリアルを導き、強い光に変えゴーレム目がけて解放した。
超高温とはいえ赤く染まっただけの炭が全体的に凹み、細かな亀裂が広がり、亀裂から青に近い炎が噴き出した。
硝子の眼球が戸惑いと恐怖に揺れてもアデリシアは動じない。
淡々と、容赦なく、祈りを通じて古いゴーレムを崩壊に近づける。
クリスティンがゆっくりと上段に構え、刃渡りだけでも3メートル近い刃をゴーレムの頭から臀部にかけてめり込ませた。
中心部にあるまだ燃えていなかった箇所が空気にさらされ、熱に耐えきれずに自ら発火して爆発的な炎をまき散らす。
黄色い硝子玉が溶け、サラマンダーの眼窩から涙のように流れ出た。
クリスティンは静かにうなずく。ゴーレムの頭突きと青牙を盾で受け止めその反動を活かして刃をさらに押し込む。
サラマンダーの動きが緩慢になり、火の粉の量が明らかに減った。
「満足したか? 守護者よ」
中に何もない目が見開かれる。
炭が割れる音が龍の怒号の如く響く。
「来い」
体中火傷だらけで足取りも怪しいのに、明は太刀をしっかり握りしめて真正面からみつめた。
尻尾が砕け表皮が崩壊しながらサラマンダーが急角度で曲がる。明の刃と青牙が交錯し大量の血と火の粉が飛び散る。
アーサーが横から、テノールが背後から、避けも受けもできないゴーレムに一撃を入れる。
手を抜かないのが最大の敬意の表現だった。
「ふぇ……アル、じゃなくて水欲しいですぅ」
本音半分のボケをかますハナも、内心は冷や汗でびっしょりだ。
そろそろ熱中症かレアな焼き具合のハンターが現れてもおかしくない。
「これで」
最後の蝶がひらりと飛んで、正面の喉から入って核と予備を砕き尻尾のあった場所から飛び出た。
サラマンダーの全身が崩れ、炭の火力が弱まり、各部位ばらばらになって地面にごろごろ転がった。
「ありがとう」
あくまで試練として戦ってくれて。
試練に正面から挑んでくれて。
明の零した言葉が、この戦いの締め括りになった。
「今の王国を見て回るのも悪く無いだろ」
自らの肩に落ちた小さな炭をレイオスがそっとハンカチに包み、大事そうにポケットに仕舞っていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 クリスティン・ガフ(ka1090) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/03/03 20:14:59 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/01 11:27:39 |