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　宝飾工房コンフォート、モニカが１人で営むこの店に不意の来客。大きな鞄を抱え、豪奢なブロンドをストールを被って隠した貴族の、一見してそれと分かる上質なドレスを着た女性。
　小さな弟のピノを負ぶったモニカが、いらっしゃいませと首を傾げる。ピノも一緒になって首を傾げて、お客さん、と小さな手を振っている。
　女性はカウンターに指輪の箱を置いた。
「買い取りをお願いしたいの」
　モニカは箱を開けると、目を瞠った。
　柔らかなクッションの上に鎮座する、大粒のルビー。血を思わせるほどに鮮やかに赤いその石を、繊細な細工が取り囲む艶やかな金の細いリング。
　黙りこんで、じっとそれを見詰めるモニカに、女性は声を掛ける。
「珍しい？」
　古い小さな店を揶揄する様な声で笑う。
「……まあ、ここまで大きい石は、そう見ないですよ」
「そう。でも、そんなにじっと見て。好きなのね？」
「そりゃ、こんな生業ですし。……まあ、その、少しは……見たことあるルビーの中でも、２番目くらいに大きい石ですし」
　モニカは手袋を着けてリングを摘まむ。ルーペを片手に石を注視し、全体を眺めて箱に戻した。
「――１番は？」
「さあ。どこかにあるんじゃ無いですかね。……これ、うちでは買い取れませんよ。出せて相場の半分ってところです。街の方にはもっと確り鑑定して、高く買ってくれるところもありますよ」
　早口に、そういうことで。と、話しを終えようとしたモニカを遮り、女性はそれで良いと言う。
「……曰く付きとかですか？　それにしては新しいし……イニシャルですか、ここのデザイン。洒落てますね、オーダーメイドですよね」
　細工に紛れた文字を指すと女性は顔を顰めた。
「私を付け回してる男に押し付けられたの。それは、彼の名前よ。……気持ち悪い。幾らでも良いから引き取ってよ。街に戻って見付かるのは嫌なの。……ジェオルジにパパの親戚の農園があるの、そこに匿って貰えるまでの資金の足しにしたいの。無理なら、潰して、砕いてくれるだけで良いから！」

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　交渉の末、相場の半額で買い取りその不足分として、出立まで女性を匿うこととなった。
　実家に連絡を取りたいという彼女の外出のために、この界隈に溶け込めそうな服を買いに走ったり、彼女に変わってジェオルジまでの馬車の手配と、護衛の依頼に向かった。
　モニカよりも３つ４つ年上の彼女は、初日こそ案内された部屋で怯えていたが、一夜明けると落ち付いた笑顔を見せ、改めて自己紹介をしながらよろしくと手を差し出した。
　工房で指輪の石が外され、綺麗なのに勿体ないと言いながら装飾が潰されるのを見ると女性は安堵の息を吐く。
「……随分、親切にしてくれるのね」
「……厄介事はもう沢山なんですけどね、寝覚めが悪いじゃ無いですか」
　あなたに何かあったときに、出来ることをしなかったと後悔するのは。

　彼女のコンフォートでの生活は数日間続き、店の裏に付けた馬車に乗ってヴァリオスを発っていった。
　護衛のハンター達に囲まれた馬車が見えなくなると、見送りに出ていたモニカはピノをあやしながら店の中に戻る。
　年の近い友人というのは、あんな感じなのだろうかと瞼を伏せて思い浮かべる。
「無事に着くといいね」
　彼女の置いていったルビー、鮮やかな赤を指先で弄びながらモニカは呟いた。
　背中でピノがふにゃふにゃと笑っている。
「あのルビーも、いつか見付けないとねー……」
　見たことある中で、１番大きくて美しい紅玉。
　その表情を思いながら、モニカは深々と溜息を吐いた。

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　密やかに見送られて、ヴァリオスの路地裏を発つ小さな馬車。
　怯えながら回りを伺っていた依頼人も、通りの安全を知ると背筋を伸ばし、改めてよろしくと軽く会釈をする。
「ハンターらしい仕事って感じでやすね。稼ぎに行きやすか」
　飄々としながらも意気込んで、風祭　剣斗(ka6696)が勝ち気に笑って依頼人を振り返る。
　馬車は静かにヴァリオスの街を走り抜けて、ジェオルジへ向かう街道へ入った。
　道中依頼人の事情を聞いたセルゲン(ka6612)は依頼人の側に馬を寄せると、連れてきた猫を膝に乗せた。
「……すまないが、道中猫を預かってもらえないか。大人しいから爪を立てたりはしない」
　その言葉通り、猫は依頼人の膝で丸くなる。
「シマという。いざという時は役に立つはずだ」
　大男が傍に控えているよりも良いだろうと依頼人を覗えば、セルゲンの大柄な体躯に萎縮し、竦んでいた肩の力を抜き、シマ、と静かに呼びながら細い指で喉を擽る様に撫でている。
　猫の欠伸にくすりと笑うと、ありがとうと礼を告げながら猫に和んだ穏やかな面持ちでセルゲンを見上げた。
　大切にお預かりしますねと言う依頼人の言葉に顎を引いて、セルゲンは騎乗する馬を馬車の後方へ付けた。
「じゃーん、今日連れてきたのはのんびり屋の九郎と、元祖愛され屋の十三郎でっす」
　犬を２匹抱えた宵待　サクラ(ka5561)が馬車の方へと身を乗り出した。
「犬も嫌いじゃなければどんどん構って、存分にモフモフ成分を補給してくれなさい」
　犬と猫に囲まれた依頼人が温かいと微笑んでいる。
「私の名前は宵待サクラだよ？　リアルブルーだと、袖振り合うも多生の縁って言ってね」
　知り合った縁はどこかで繋がるから大事にするべきという言葉がある。だから。と、少女らしい好奇心に輝く緑の瞳が、依頼人をじっと見詰めた。
　愚痴で良いから話すと楽になるよとにこりと笑んだ。
　宵待に促される様に依頼人はぽつり、ぽつりと話し始めた。穏やかな声は次第に憤り、激高する。
　感情のままに零れる言葉に、つまり、とカーミン・Ｓ・フィールズ(ka1559)は呟いた。
「その男、ストーカーってわけ。最悪ね……」
　ふと、言葉を切る。
　彼は依頼人にとても高価な品を贈っていたという。話を聞けばそれは１度では無いらしい。
　それ程の力を持った男だ、何か仕掛けていないだろうか。過ぎる不安に厳しい視線を周囲に走らせる。
「安全な道行になるといいわねー」
　けれど、声は明るく。ジェオルジまでの長い旅で、これ以上依頼人を不安にさせないように。
　荷台に腰掛けて後方を眺め、時にセルゲンの馬に手を揺らし、転がりそうな依頼人の鞄を押し留め。
　イスタ・イルマティーニ(ka1764)はカーミンの言葉に頷きながら、目的地の農業都市を思い浮かべる。
「きっとのどかなところなのでしょうね……」
　社交界の窮屈さは知っている、長閑な農園で羽を伸ばすのも今の依頼人には必要だろう。
　依頼人が振り返り、イスタの押さえた鞄を受け取って幌の柱に括り付ける。
　ジェオルジの話しは、モニカの知り合いが仕入れによく向かうらしく、ヴァリオスとは違って広々とした景色と、華やかさは無いけれど自然が鮮やかで食べ物が美味しい良いところだと聞いている。
「静養されるのにもぴったりですね」
　鞄を手伝いながらイスタが言うと依頼人は、はいと頷いて笑み、鞄をイスタに任せて前を向き直した。
　手綱を撓らせアリア・セリウス(ka6424)が依頼人の傍へと馬を繰る。
　悪夢の様な過去からの逃避。小さく温かな同行者と戯れる依頼人の微笑んだ横顔に浮かぶ不安を思う。消し去りたい記憶は、細い身の内に秘めた激情はアリア自身も苛んでいる。
　だからこそ、と気丈に振る舞う依頼人に、穏やかな声で囁く。
「きっと明日は、素敵なものになる」
　依頼人が目を瞠ってアリアを見詰めた。
「根拠なんてなくても、きっと、見付けられる……絶対、幸せのある明日へ送り届けるから」
　信じて。澄んだ青い瞳が真っ直ぐに見詰め、馬を走らせて馬車の前へ。
　道の先を見てくると、少し細くなった街道の陰りを指して仲間に告げ、アリアは青毛の馬を駆らせる。
「承知！……宝石は魅力的でやすけど、重い愛は勘弁でやすね」
　風祭が続き、馬車を追い抜くと依頼人を振り返りながら肩を竦めた。
　金以上に面倒くさいもの背負うのは、採算が取れない。そうだろうと依頼人を見ると猫を抱えながら頷いた。

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　アリアと風祭の背が遠ざかるが、馬車からの目視に堪えうる距離を保ち、芽吹き始めた木々や茂みの陰りに馬を寄せては、逐一無事を伝えてくる。
　セルゲンは馬車の速度に合わせて馬を走らせ、依頼人と馭者の傍にはカーミンと宵待が付いている。
「――余計辛くなっちゃうと思うんだ。上見て横見て斜め見て、そしたら名案が浮かんでくるかもしれないじゃん？　後はムカついたことを大声で叫んでみるとか？」
　器用に馬を操りながら宵待の喋る声は止まらず。
　折角、他に誰もいない街道なのだからと、促す依頼人の言葉にも耳を傾けている。
　カーミンは、馭者の側から先を眺め、時折、馭者に街道の様子や目的地について、世間話に交えて尋ねている。
「私なら……馬車の足を止めるけど」
　あの辺り、そう言って指した枝を、数歩馬を駆けさせて短刀で切り落とす。
　視界を遮られ、その先で木の根や泥濘みに馬の脚を取られれば、簡単に止まってしまうだろう。
　罠を警戒するカーミンに、馭者は笑って首を横に振った。
　この辺りのゴブリンに、そこまで賢いものはいないと言う。
　警戒するに超したことは無いが。そう言いながら、遮る物の無い道を一定の速度で馬車を走らせる。
　賢いものがいない代わりに、矢鱈と飛び出してくるものがいる。
　馭者の呟きと、カーミンが先の陰りを警戒したのは同時だった。

「――ええ、見えているわ。それに……」
　何かいる気配もひりつくほど感じている。
　カーミンからの連絡に先行の２人は馬を止めてトランシーバーを取る。
　警戒した箇所は、後方からも怪しく見えるらしく、その報せに頷いたアリアは佩いた得物の鞘を払い、馬上で脇に構える。
　瞬間、青の瞳の中心が龍を思わせる様に細く、その高揚を示す様に縦長に開き、同時に雪の舞った様に淡いマテリアルの光りが燦めいた。
　道まで伸びた茂みに馬を近づける風祭の前にゴブリンが、飛び出してくる。
「５匹、棒きれ持ってるだけでやす――片付ける。馬車を止めてくれ」
　風に嬲られた黒い髪が青く染まる。マテリアルを介するトランシーバーに向かって叫ぶように伝えながら、自身の得物を構えた。

「少々失礼致しますわね」
　トランシーバーに入った連絡に、イスタは幌の柱に上る。行儀には欠けるが今は仕方ない。
　双眼鏡を覗くと、戦闘を始めた２人と、道に出てきたゴブリンが見えた。
　馬車を進めれば、片を付ける前に行き合ってしまいそうだ。
　カーミン様、と風に揺れる絹のドレスの裾を抱え、支柱から声を掛ける。
「お嬢が大胆ねぇ……はいはい、任せなさい」
　鐙を踏み込み馬の横腹を蹴ってゴースロンを走らせる。
　得物の射程に敵を捕らえると馬を留まらせる。
　指に挟み構えた黒の手裏剣に細い光りの線が行き渡り、桃色の双眸はそれを横目に敵を見据える。
　ここまでは来ないと思うけれど。戦況を見下ろしながら、イスタは杖を構えた。
　眼前の戦闘に馬が怯えぬ様に壁を立てて視界を遮り、音の感覚を澄ませるセルゲン、宵待と共に馬車の周囲への出没を警戒する。

　風祭の伝わせたマテリアルを帯びた、アリアの大振りの刀が接近するゴブリンの首を飛ばし、胴を薙ぐ。
　寸前で躱した別の１匹は、振り下ろした棍棒を刀身に弾かれ返す刀に貫かれた。
　カーミンの加勢に振り返った風祭が、得物を片手にトランシーバーを握り直してエネルギーに変えたマテリアルを伝える。
　可憐な毒花の名を囁いて投じられ、カーミンの指先から空気を裂いて飛んだ得物は違わずに敵に刺さる。
　痛みに呻きながら刺さった手裏剣を引き抜いて棍棒を振り上げるが、尚、襲う痛みに足下をふらつかせた。
　そこを狙ってアリアが刃を振り下ろした。
「今のが最後みたいね……まだ、いそうだけれど」
　血糊を払ってアリアが先を眺めた。
　カーミンも頷き、馬車を振り返る。イスタの土壁が崩れた所だ。トランシーバーを取って前方の無事を伝える。
　セルゲンと宵待も周囲の安全を確かめて馬車に続いた。

　然程経たない内に、ハンター達は再び足を止める。
　辺りに戦闘の気配が伝わっていたのだろう、陰った先からいくつもの敵の気配が伝わってくる。
　多いなと、潜む息遣いを数えながらセルゲンが呟いた。
　風が揺らした様に髪が戦いで、マテリアルに鋭く伸びた犬歯が牙のように覗いている。
「伏せていて貰えるか。……戦いは、見たくはないだろう」
　前方だけならば壁で足りるだろうが、この数では保たないこともあり得るだろう。
　イスタも杖を握り締めて頷いた。壁を守るよりも攻撃に転じた方が早く終えられそうだ。
「お姉さんは馬車の中で身を低くしてて」
　はしゃいでいた声を低く真摯に。宵待は犬の背を撫でて依頼人の側に押しやると、馬を反転させ馬車に背を向けて庇う様に数歩進ませる。
「十一郎、近づく敵は蹴り殺せっ」
　これ以上進ませないと、馬の手綱を引き締め、鞘を払う得物にマテリアルを込めた。
　
　前に出て街道を警戒する２人が交戦する最中、がさ、と葉の擦れる音を聞く。構える猶予を十分に、目の前に飛び出してきたゴブリンの棍棒を、炎を閉じ込めた宝石を柄にあしらう両刃の剣で受け留める。
　怯んだそれの逃走を許さず、祖霊への祈りに高めたマテリアルを込めて挿し貫く。
　こちらは１匹だったらしいと、止めを刺してから周囲の警戒に戻る。
「――追撃はお願い致しますわ」
　馬車の側面へ走り込んだゴブリンに氷の矢を落としてイスタが声を掛ける。
　任せてと、宵待がマテリアルを昂ぶらせて刀を振るう。
　回避の隙を与えずに首を狙う。咄嗟に差し出された棍棒を斬り飛ばすと、振り下ろされるそれを刀身で弾いて、再度首を狙った。
　互いに片付いたらしく無傷な馬車と依頼人の様子に、馬車を挟んでセルゲンと宵待は安堵の息を吐いた。

「明日を目指す人の道阻むなら、終幕の旋律を、刃にて奏でましょう」
　雪の幻影を舞わせて大太刀を振るう。長い柄に腕を沿わせ、しなやかに操って、馬の駆る勢いを乗せた一撃で敵を貫く。
　周囲の音が消えるまで舞い踊る様に刀を振るって、物言わぬ骸を重ねていく。
「カーミン様、そこです！」
　前に出た２人との間に作られた土の壁はまだ保っているが、横を抜けようとする敵が多い。
　壁の傍で得物を構えるカーミンの背後を示し、イスタが叫ぶ。
「逃がしても面倒だし。ごめんねー？」
　口角を上げて投じられた手裏剣、抜けたとしても後ろの２人が構えているだろうが通す必要は無い。
　嗾けられた様な不自然さは無いが、数の多さに溜息が零れた。
　毒に藻掻くゴブリンに短刀を突き立てて崩れ始めた壁の外を眺める。

　戦いが終わっても暫く猫と犬を抱えたまま怯える依頼人を宥めながら馬車は進み、血の匂いも消えた頃猫を撫でて顔を上げた依頼人がほっと息を吐いた。
　抱えて乱れた３匹の毛並みを撫でて整えながら、強いんですねと感嘆の声を零す。
　馭者も頷いて馬車を急がせている。
　ハンター達は警戒を保って元の位置に戻り、時折馬車を止めながら慎重にジェオルジを目指した。

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　街の灯が見え、馬車に揺られた依頼人にも疲れの色が濃く見える頃、アリアが静かに囁いた。
「ずっと逃げても、悪夢は追ってくるばかり」
　悪夢を怖がって、後ろを振り返り続けるより、明日には幸せが、夢があると信じて欲しい。
　静かな声が染み入る様に、依頼人は、街道を振り返り、そして森を抜けて開けたジェオルジの街並みを眺めた。
　あるだろうかと依頼人が呟くと、アリアは得物を撫でて頷く。
　私は刃に明日への祈りを宿した。そうして、幸せを願ってきたと。
　到着し馬車を降りると、カーミンは依頼人の傍へ寄る。
「……気を付けて」
　依頼人を追う男の事を考えれば、ここまで何も無い方が不自然だから。
　カーミンが馭者に視線を向ける。
「諦めて下さると良いのですけれど」
　そう呟くイスタと、鞄を解いてカーミンと依頼人を振り返った馭者は怪訝そうに瞬いた。
　その様子に、彼は無関係の様だけれどと、カーミンは肩を竦めた。
　イスタはドレスの埃を払い佇まいを整え、依頼人の今度を気遣って言い含める。
　本当にストーカーになってしまっては怖いですから、と。

　依頼人が１匹ずつ撫でて礼を告げ、宵待とセルゲンに犬と猫を返す。
「モフモフ成分は補給出来ました？」
　飼い主の元に帰って甘える犬たちを相手にしながら宵待が尋ねると、依頼人はとても温かかったと微笑んだ。
　シマも、とセルゲンの腕に帰った猫に礼を告げる。
　セルゲンは軽く頷くと、依頼人を気遣う他の仲間に背を向けた。
「良いんですかい？」
　それに気付いた風祭が声を掛ける。
「……傷心の彼女を励ますにしても、女性同士の方が良いだろうしな」
　春先の微風に掻き消される声で答えて、馬を引いて足早に去る。
　眩しい西日に目の眩む広い田園の向こう、依頼人の到着を知った迎えの手を振る影が長く伸びていた。