ゲスト
(ka0000)
【初心】Clean for donuts
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/03/10 09:00
- 完成日
- 2017/03/14 20:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
それは、まったく漫画チックな出来事だった。
道端で、買い物袋が破れてしまって困っているおばあさんに出会う、なんてそんなベタな展開は、そうそうあるものではない。何かの罠か、と思わぬことはなかったが、こんな一匹狼のハンターひとりを罠にかけて得られるものなどたかが知れているだろう、と思い直した。
(ちょっと警戒しすぎているかな。このところ、世情が落ち着かないものだからね)
ミリィは内心でそう呟いて苦笑した。王国は今、変動の時を迎えている。ミリィのように単独行動を旨とするハンターにとっても、無関係ではいられないほどの大きなうねりだ。
(ま、それに乗じてお仕事もらおうって言うんだから、業が深い商売よね、ハンターってやつも)
肩をすくめつつ、重たい包みを担ぎ上げる。
「悪いわねえ、お嬢さん」
「いいのよお、ちょっとした寄り道よ」
一匹オオカミを気取っているミリィだが、根がお節介なのか、困っている人、自分より立場が弱い者には手を差し伸べてしまう癖があった。こうした行きずりの人もそうだが、後輩ハンターについてもそうだ。なりゆきであってもついつい、面倒をみてしまう。おかげでソサエティからは最近「そういう役目のハンター」とみなされてしまった節がある。
(なあんか、今度は「研修」でも組んでくれ、って言ってたなあ。あー、面倒だなあ)
ちょうど仕事がひとつ終わったところではあるし、何にせよ一度オフィスへ行かなければならないな、と思いつつ、ミリィは荷物を運んだ。これが、驚くほど重い。
「これをひとりで運ぼうとしてたなんて無茶もいいところだわ、おばあさん……。いったい何を買ったの?」
「小麦粉と、チョコレートと、生クリームよ」
「へええ?」
(美味しそうな気配がするじゃない)
ミリィの足取りは自然と軽くなった。
「台所へ運んでもらえるかしらねえ」
「はーい」
荷物を抱えておばあさんの家までやってきたミリィは、屋内に一歩足を踏み入れて絶句した。
と、いうのも。
天井には蜘蛛の巣。窓枠にはこんもり綿埃。棚の戸はねじが外れて傾いているし、引き出しにも取っ手がない。
「ごめんなさいねえ、とんだあばら家で」
おばあさんが恥ずかしそうに眉を下げる。ミリィは引きつった笑いで誤魔化しつつ、案内されるままに奥の台所へ向かった。歩くたびに床がきしむ。
「ずっと一人暮らしでねえ。足腰が悪いものだから掃除も修理もままならなくて。台所を綺麗にしておくだけで精一杯。ああ、荷物はそこへ置いて頂戴」
おばあさんが台所だけは、と言うように、通り抜けてきた部屋とは打って変わって、台所は清潔そのものだった。食器も調理台も、良く使いこまれていてあたたかみがある。
「そうなの。ひとりで……。大変ね」
「慣れれば平気ですよ。ありがとうね、助かったわ」
おばあさんはにっこり嬉しそうにして、荷物の中からチョコレートを一枚取り出してミリィにくれようとした。
「ちょ、ちょっと待っておばあさん」
ミリィは、気が付いたらそう言っていた。
「おや、チョコレートはお嫌い?」
「いえ、大好きよ。そうじゃなくて。ねえ、おばあさん、そのチョコレートで何か作ろうと思ってたんじゃないの?」
そう尋ねながら、ミリィの頭はフル回転をしていた。
自分はこれからハンターオフィスに行くところだ。
後輩研修についても考えなくてはならない。
だから何日もここに滞在することはできない。
だけどこの家をこのままにして去るのは後味が悪い。
でもこの家の修理や掃除はひとりじゃ絶対何日もかかるし、おばあさんも遠慮しそう……。
「ええ、ドーナツでも作ろうかと思っていたの。ちょっと自信があるのよ、わたし」
「ドーナツ!」
ミリィの目が輝いた。
そして妙案も閃いた。
「ねえ、おばあさん。あたしとちょっと競争しない?」
「競争?」
「そう。あたし、今から後輩……いや、友だちをこの家に呼ぼうと思うの。あたしとその友だちが、この家を綺麗に掃除するのと、おばあさんがドーナツを三十個作るのと、どっちが早いか競争。あたしたちが買ったら、そのドーナツをご馳走して頂戴。あたしたちが負けたら、おばあさんが買い物に行くときこれからずーっと必ずお供するわ。どう?」
ミリィの突然の申し出に、おばあさんはきょとん、としていたが、やがてくすくすと笑い始めた。
「面白いことを考えるお嬢さんねえ」
「でしょ? あたしはスイーツ・ギャンブラーのミリィ。ちょっと有名なんだから」
もちろん、「有名」は「自称」である。
「ね、どうする?」
「いいですとも、受けて立ちましょう」
おばあさんは嬉しそうににこにこ笑った。
「いいこと!? よーく聞くのよ? ハンターのお仕事ってのは何も、強い敵と戦うだけじゃないの」
集まった後輩ハンターたちの前で、ミリィはもっともらしく説明した。
「市民の役に立つことも立派なハンターの役目なのよ。特に、積極的になるべきなのは、こうした身近に助けてくれる人のいないお年寄りの力になることね。オーケー?」
後輩ハンターたちは、はあ、と一応頷く。
「ただ力になるだけじゃなくて、相手に気を使わせないことも大事ね。だからこうして、ゲーム仕立てにしたってわけよ」
言い訳もせず、ただ黙って頷く後輩たちに、さすがに後ろめたいものを感じたのか、ミリィはそれ以上喋ることをやめて、ごほん、と咳払いした。
「さあ! 頑張ってお掃除するわよ!」
そして、誰よりも早く、掃除に取り掛かった。
ドーナツ欲しさに、というのも否定はできないが、それでもミリィの「おばあさんの役に立ちたい」という気持ちは、本物であるのだ。
道端で、買い物袋が破れてしまって困っているおばあさんに出会う、なんてそんなベタな展開は、そうそうあるものではない。何かの罠か、と思わぬことはなかったが、こんな一匹狼のハンターひとりを罠にかけて得られるものなどたかが知れているだろう、と思い直した。
(ちょっと警戒しすぎているかな。このところ、世情が落ち着かないものだからね)
ミリィは内心でそう呟いて苦笑した。王国は今、変動の時を迎えている。ミリィのように単独行動を旨とするハンターにとっても、無関係ではいられないほどの大きなうねりだ。
(ま、それに乗じてお仕事もらおうって言うんだから、業が深い商売よね、ハンターってやつも)
肩をすくめつつ、重たい包みを担ぎ上げる。
「悪いわねえ、お嬢さん」
「いいのよお、ちょっとした寄り道よ」
一匹オオカミを気取っているミリィだが、根がお節介なのか、困っている人、自分より立場が弱い者には手を差し伸べてしまう癖があった。こうした行きずりの人もそうだが、後輩ハンターについてもそうだ。なりゆきであってもついつい、面倒をみてしまう。おかげでソサエティからは最近「そういう役目のハンター」とみなされてしまった節がある。
(なあんか、今度は「研修」でも組んでくれ、って言ってたなあ。あー、面倒だなあ)
ちょうど仕事がひとつ終わったところではあるし、何にせよ一度オフィスへ行かなければならないな、と思いつつ、ミリィは荷物を運んだ。これが、驚くほど重い。
「これをひとりで運ぼうとしてたなんて無茶もいいところだわ、おばあさん……。いったい何を買ったの?」
「小麦粉と、チョコレートと、生クリームよ」
「へええ?」
(美味しそうな気配がするじゃない)
ミリィの足取りは自然と軽くなった。
「台所へ運んでもらえるかしらねえ」
「はーい」
荷物を抱えておばあさんの家までやってきたミリィは、屋内に一歩足を踏み入れて絶句した。
と、いうのも。
天井には蜘蛛の巣。窓枠にはこんもり綿埃。棚の戸はねじが外れて傾いているし、引き出しにも取っ手がない。
「ごめんなさいねえ、とんだあばら家で」
おばあさんが恥ずかしそうに眉を下げる。ミリィは引きつった笑いで誤魔化しつつ、案内されるままに奥の台所へ向かった。歩くたびに床がきしむ。
「ずっと一人暮らしでねえ。足腰が悪いものだから掃除も修理もままならなくて。台所を綺麗にしておくだけで精一杯。ああ、荷物はそこへ置いて頂戴」
おばあさんが台所だけは、と言うように、通り抜けてきた部屋とは打って変わって、台所は清潔そのものだった。食器も調理台も、良く使いこまれていてあたたかみがある。
「そうなの。ひとりで……。大変ね」
「慣れれば平気ですよ。ありがとうね、助かったわ」
おばあさんはにっこり嬉しそうにして、荷物の中からチョコレートを一枚取り出してミリィにくれようとした。
「ちょ、ちょっと待っておばあさん」
ミリィは、気が付いたらそう言っていた。
「おや、チョコレートはお嫌い?」
「いえ、大好きよ。そうじゃなくて。ねえ、おばあさん、そのチョコレートで何か作ろうと思ってたんじゃないの?」
そう尋ねながら、ミリィの頭はフル回転をしていた。
自分はこれからハンターオフィスに行くところだ。
後輩研修についても考えなくてはならない。
だから何日もここに滞在することはできない。
だけどこの家をこのままにして去るのは後味が悪い。
でもこの家の修理や掃除はひとりじゃ絶対何日もかかるし、おばあさんも遠慮しそう……。
「ええ、ドーナツでも作ろうかと思っていたの。ちょっと自信があるのよ、わたし」
「ドーナツ!」
ミリィの目が輝いた。
そして妙案も閃いた。
「ねえ、おばあさん。あたしとちょっと競争しない?」
「競争?」
「そう。あたし、今から後輩……いや、友だちをこの家に呼ぼうと思うの。あたしとその友だちが、この家を綺麗に掃除するのと、おばあさんがドーナツを三十個作るのと、どっちが早いか競争。あたしたちが買ったら、そのドーナツをご馳走して頂戴。あたしたちが負けたら、おばあさんが買い物に行くときこれからずーっと必ずお供するわ。どう?」
ミリィの突然の申し出に、おばあさんはきょとん、としていたが、やがてくすくすと笑い始めた。
「面白いことを考えるお嬢さんねえ」
「でしょ? あたしはスイーツ・ギャンブラーのミリィ。ちょっと有名なんだから」
もちろん、「有名」は「自称」である。
「ね、どうする?」
「いいですとも、受けて立ちましょう」
おばあさんは嬉しそうににこにこ笑った。
「いいこと!? よーく聞くのよ? ハンターのお仕事ってのは何も、強い敵と戦うだけじゃないの」
集まった後輩ハンターたちの前で、ミリィはもっともらしく説明した。
「市民の役に立つことも立派なハンターの役目なのよ。特に、積極的になるべきなのは、こうした身近に助けてくれる人のいないお年寄りの力になることね。オーケー?」
後輩ハンターたちは、はあ、と一応頷く。
「ただ力になるだけじゃなくて、相手に気を使わせないことも大事ね。だからこうして、ゲーム仕立てにしたってわけよ」
言い訳もせず、ただ黙って頷く後輩たちに、さすがに後ろめたいものを感じたのか、ミリィはそれ以上喋ることをやめて、ごほん、と咳払いした。
「さあ! 頑張ってお掃除するわよ!」
そして、誰よりも早く、掃除に取り掛かった。
ドーナツ欲しさに、というのも否定はできないが、それでもミリィの「おばあさんの役に立ちたい」という気持ちは、本物であるのだ。
リプレイ本文
先輩・ミリィを追って家の中へ入ったハンターたちは、そこの惨状に目を見張った。埃や蜘蛛の巣、家財道具の摩耗具合。ミリィが後輩を呼び寄せてまで掃除に手を貸したくなるのもうなずける有様であったのだ。
「ああ、皆さんなんですね、お掃除をお手伝い……じゃなくて、私と勝負してくれるというのは」
「作りたてドーナツが食べられるんだろ? いいぜ、受けて立つ!」
くすくす笑いながら挨拶をするおばあさんにきらきらとした笑顔を向けながら、道元 ガンジ(ka6005)は胸中でそっと思った。ミリィの考え、バレてんじゃねえか、と。
「じゃあ、早速勝負を始めましょう!」
ミリィの号令で、おばあさんは台所でドーナツ作りへ、ハンターたちは部屋の掃除へと取り掛かった。
部屋を見分して役割分担を決めた結果、坂上 瑞希(ka6540)と白樺 伊織(ka6695)は窓の掃除に当たることとなった。窓枠にはこんもりと埃が積もり、ガラスは向こう側がちっとも見えないほどに曇り、汚れがこびりついている。
「ピカピカにしようね、伊織さん」
瑞希がにっこりと声をかけると、長い髪を一つに纏め、エプロンやマスク、三角巾を装着した準備万端の伊織がこっくりと頷いた。
「……窓から、外が伺えないのは……寂しいです、ね……。頑張りましょう……」
ふたりはまず、小さな箒を使って窓枠の埃を取り除くことにした。ガタガタと音のする窓をなんとか開くと、それだけで埃を伴った空気が外へ流れ出る。埃をはらったあとは、ガラスを磨く。瑞希が持参した洗剤と伊織が手作りした洗剤を使い、ふたりで手分けして内側からと外側からの両方を磨いていった。
「かなり汚れています、ね……。時間までに間に合うでしょうか……」
懸命に手を動かしながら伊織が呟くと、瑞希がそれに同意しつつも丁寧な作業を変えることなく言った。
「あんまり焦り過ぎても、綺麗じゃないと意味、ない。ドーナツ楽しみだけどちゃんと、やろう」
「そうですね……」
ふたりはにっこりと頷き合って窓の掃除を続けた。掃除道具も場所と汚れに合わせて取り替え、細かいところも逃すことなく綺麗にしていく。その動きはテキパキと無駄がなく、見ていて気持ちが良いくらいであった。
と、そこへ、不思議な掛け声が、聞こえてきた。
「トンカツ、トンカツ~!」
そんな不思議な掛け声をうきうきと響かせながら、「トンカチ」を握りしめているのはアレクシス・ラッセル(ka6748)であった。
「おい、振り回すんじゃねえぞ!」
妻崎 五郷(ka0559)が叫ぶ。とにかく怪我なく掃除を終わらせなければ、という気持ちが五郷にはあった。アレスとふたりで、床の修理を担当することになっていたが、トンカチをトンカツと呼ぶアレスに対しての不安を隠せない。
「うん、わかってるヨ! トンカツのアツカイならマカセテー!!トントンってすればいーんだヨネ!」
五郷の不安を知ってか知らずか、アレスは自信満々な様子だ。ため息を押し殺しつつ、五郷はまず、修理の必要な床の箇所を確認していった。途中、おばあさんにも立ち合ってもらい、特に歩く頻度の高い導線を中心に修理していくことを決めた。家の裏手に板材が積んであり、自由に使ってよいとのことだったため、適当な大きさの板を運び入れて作業を開始した。
「床の軋みっつーのは色々要因が考えられっから難しいんだが……、このへんは床板の間に隙間が出来ちまってるみてぇだな……。あっちはだいぶたわんでるから、補強したほうがよさそうだ。……おい、アレス、お前、あっち頼めるか?」
「オッケーだよ、イサトー!」
「本当かよ……? まあいいや、俺も頑張っかね」
五郷は手際よく板を削って隙間にはめ込み、釘を打ちつけていった。アレスはというと、そんな五郷の手つきを横目で見つつ、見よう見まねで釘を打ち始める。
「ドーナツのためにトンカツで頑張るヨー! アレ?」
威勢は良かったのだが、使い慣れていないトンカチは思うように釘に当たってくれず、上手く打ちこめないばかりか、ぐんにゃりと変な形に曲がってしまった。
「アレ? アレレ? うーん、上手くいかないや……。……。イサトー! ボクの分も頑張ってー!」
「おい! 早々に応援側に回ってんじゃねえよ、お前も仕事するんだよ! ったく、しょーがねーなー! ほら、こうやってやんだよ、よく見てろ!」
五郷に叱られ、しょんぼりしたアレスだったが、その五郷が手本を見せつつ教えてやると、ふんふんと頷いてトンカチの使い方を習得していった。
床の修繕が必要なら、その真逆に位置する天井も、しっかりした掃除が必要な状態だった。蜘蛛の巣が張り放題の天井を見上げ、ようし、と意気込むのは鳳凰院瑠美(ka4534)だ。持参したチノ・パンツ、チュニック、肉球グローブを装備して準備は万端。
(私だってやれば掃除とか出来るんだもん! 帰ったらお兄に自慢してやるんだ♪)
屋敷を出る際に心配そうな様子だった兄の顔を思い出しながら、瑠美は共に天井を担当することになったミリィの方を向いた。
「ミリィさん、競争しない? どちらが早く担当区分を綺麗に出来るか」
「競争?」
「そう。買った方には報酬として、負けた方からドーナツ一個をもらうの。どう?」
勝負事からは逃げたくない気性のミリィは、たちまち勝気な目を輝かせた。特に、甘いものが絡んだ勝負は大得意。スイーツ・ギャンブラーの名は伊達ではないのだ。
「いいでしょう、乗ったわ! 後輩だからって手加減しないわよ」
ミリィは脚立を使って天井の中央部分を、瑠美は壁歩きを使って天井の外周を担当することに決めて、ふたりは掃除を開始した。
ハタキを使っておおまかに埃や蜘蛛の巣を払ってから、天井板に張り付いた汚れを雑巾で拭いていく。脚立の上で、常に見上げた体勢のミリィを時おり気遣いながら、瑠美はもくもくと掃除をしていった。作業は順調に進んでいたが、担当している範囲が半分ほど終わった頃。
「……いい匂いがしてきたわね……」
台所の方から、あったかくて甘い香りが流れてきた。おばあさんがドーナツを焼き上げに入ったらしい。途端に、ミリィの集中が削がれる。
「ミリィさん、よそ見してると危ないよ?」
瑠美がすかさず声をかける。競争相手の作業速度が落ちるのはラッキーだが、安全に終了できてこその競争だ。ミリィはハッとしたように天井に視線を戻した。
「いけない、いけない……」
ミリィはふるふると首を振って掃除に集中しなおした。
「お腹が鳴りそうだなあ……」
そう呟いたとき、脚立の下から本当にぐう、と誰かのお腹が鳴る音がした。
お腹の音の主は、戸棚の修理を担当していたガンジであった。
「……匂いが、たまらん……」
戸棚の中のものをすべて取り出し、傾いた戸の蝶番を直し、今は外れかかった取っ手をつけなおしているところだった。
「くっ……ミリィ、掃除が終わったらだ、終わらせらんない子には当たらねえぜ……!」
自分と同じく集中を切れさせているらしいミリィに声をかける。脚立の上から、「わかってるわよっ」と声が降ってきた。
「頑張れ俺。ねじを回して取っ手をつけろ! 思い出のつまった大切な棚を修理しきるぜ。
しゅうちゅうだ、しゅうちゅ……う……かんせいまであと、すこし……」
自分で自分を励ます言葉を呟きながら、ガンジはなんとか戸棚の修理を終えた。ふう、と一息ついて、戸棚の中から取り出した物たちを眺める。古いアルバムや、綺麗な貝殻の詰まった瓶、年代物のランプなど、様々な物があった。
「これを仕舞う作業は、おばあさんとやりたいよな」
ガンジはうんうん、と頷きつつ、それらの埃も払い、棚の中の汚れも綺麗にしていった。
掃除は、終盤を迎えていた。床の修繕を終えたアレスは、ミリィの脚立を支えつつ必死に応援していた。
「ミリィ、ちゃんとおソージしないとドーナツ食べられナイヨー?イッパイ食べたいデショー? センパイとしてボクたちにおテホン見せてヨー!!」
「うるっさいわね、わかってるわよっ!」
必死に応援しすぎてミリィに怒鳴られ、アレスはすごすごと脚立を離れた。まだ戸棚の汚れを雑巾で擦っているガンジに近寄り、その作業を手伝うことにする。
「ドーナツ、楽しみだネ!」
「そうだな! さっきからいい匂いがしてたまらないぜ」
アレスとガンジがそう言い合うと、懸命に窓を拭いていた瑞希と伊織も頷いた。どうやら、窓の掃除もほぼ完了したようだ。ふたりの丁寧な仕事によって、家じゅうの窓が見違えるようにぴかぴかになっていた。
「これ、で、少しでも……過ごし、や、すくなると良いの、だけれど……」
伊織が、磨き上げた窓ガラスから外を覗きつつ言うと、隣で瑞希が大きく頷いてにっこりした。
「きっと喜んでもらえるよ。綺麗になったね」
そのとき、天井から声が上がった。
「ミリィさーん、こっちの分担、終わったよ!」
「嘘!? えええ、あたしの負けぇ!?」
天井掃除の競争に、勝負がついたようだった。ミリィは心底悔しそうに何度も「嘘でしょ!?」と叫ぶ。
「あたしだってもうちょっとだったのに!」
その言葉に嘘はなく、ミリィも瑠美に一瞬遅れて、天井掃除を完了させた。
「こうやって皆でワイワイやると、掃除も楽しい物なんだね! 実は掃除って本格的にやったのって、これが初めてなんだ」
天井から降りてきた瑠美がそう言うと、ミリィはがっくりと肩を落とした。
「あたし、初めて掃除をした後輩に負けちゃったわけぇ?」
しかし気落ちしている暇はない。本当の勝負の相手はおばあさんなのだから。気を取り直して、脚立や工具、掃除道具を片付ける。テーブルも綺麗に拭きあげたら。
「ようし! お掃除、完了!」
ミリィが満足そうに宣言した声は、台所まで届いていたらしい。おばあさんの笑い声が、かすかに聞こえてきた。
「あらあら、どうやら私、負けちゃったみたいねえ。ふふふ、皆さん、ドーナツ、もうすぐ出来上がりますからね」
「ヤッター!!! ん? そういえば、イサトはー?」
アレスは歓声を上げてから、五郷の姿が見えないことに気が付いて首を傾げた。すると、外へ出ていたらしい五郷が戻ってきた。
「おー、綺麗になってんじゃねえか」
「イサト! 何してタの?」
「ん? ちょっと余った板材で、台車を作ってたんだ」
五郷がそんなことをさらっと言ったとき、おばあさんが台所から山盛りのドーナツを運んできた。
「Thanks! 待ちに待ったドーナツダヨー♪ ドーナツ、ドーナツ♪」
アレスが待ちきれないと言うようにドーナツを見つめていた。綺麗に焼き上がっているドーナツは、プレーンとチョコレートの二種類。三十個、というミリィの勝手な個数設定をはるかに超える量が出来上がっていた。
台所では、そのドーナツと一緒に飲むための紅茶やコーヒーを、伊織が用意しているところだった。その間に、ガンジはおばあさんと共に戸棚の中のものを見分して仕舞っていく。
「ああ、懐かしいねえ、これは私が若い娘だった頃に夢中になって集めた貝殻だよ」
「へええ! 綺麗だなあ。折角だから良く見えるところに置こうぜ」
「そうだね、そうしましょう」
ひとつひとつ手に取りながら戸棚に仕舞っていくおばあさんとガンジは楽しげで、本当の祖母と孫のようだった。
「お待たせしました」
伊織がポットやカップを運んできたところで、皆が待ち望んだドーナツをいただくことになった。
「いただきまーす!」
真っ先に頬張るのはアレスとガンジだ。両手にドーナツを持って満面の笑みでかぶりつく姿は、周囲の食欲も増幅させた。
「おいしーい!」
瑞希が顔をほころばすと、伊織も幸せそうに微笑む。
「ドーナツ……美味しい、です……美味しい、は、嬉しい、ですね……」
「ミリィさん、約束よ?」
「わかってるわよぅ。ほら」
競争に負けたミリィは、実に悔しそうに自分の分のドーナツをひとつ、瑠美に差し出した。見事余分にドーナツを手に入れた瑠美はホクホク顔で受け取って頬張りつつ、帰宅してからのことを考えていた。お屋敷の掃除を申し出たら、兄や妹にびっくりされるだろうか、などと。
五郷はというと、ドーナツを口にしつつ、おばあさんに台車の説明をしていた。
「即席で作ったものなんだが。これからの買い物に、ちょっとは役に立つだろ」
「まああ、ありがたいわねえ。掃除もしてもらえたばかりか、そんな便利なものまで作っていただけるなんて」
感激しているおばあさんが五郷の手を取って大げさな感謝を述べるので、五郷は少しばかり照れくさそうであった。
「おかわり!」
ガンジの明るい声が、綺麗になった家に響く。
「たくさん、召し上がってね」
おばあさんは、勝負に負けたというのに嬉しそうだった。その顔を見て、ミリィも皆も、喜ばしい気持ちに、なった。
「あなたたちに頼んで、良かったわ」
今更、先輩らしいことを言う気にもなれないミリィは、誰にも聞こえないようにこっそりと、優秀な後輩たちに感謝の言葉を呟いた。
「ああ、皆さんなんですね、お掃除をお手伝い……じゃなくて、私と勝負してくれるというのは」
「作りたてドーナツが食べられるんだろ? いいぜ、受けて立つ!」
くすくす笑いながら挨拶をするおばあさんにきらきらとした笑顔を向けながら、道元 ガンジ(ka6005)は胸中でそっと思った。ミリィの考え、バレてんじゃねえか、と。
「じゃあ、早速勝負を始めましょう!」
ミリィの号令で、おばあさんは台所でドーナツ作りへ、ハンターたちは部屋の掃除へと取り掛かった。
部屋を見分して役割分担を決めた結果、坂上 瑞希(ka6540)と白樺 伊織(ka6695)は窓の掃除に当たることとなった。窓枠にはこんもりと埃が積もり、ガラスは向こう側がちっとも見えないほどに曇り、汚れがこびりついている。
「ピカピカにしようね、伊織さん」
瑞希がにっこりと声をかけると、長い髪を一つに纏め、エプロンやマスク、三角巾を装着した準備万端の伊織がこっくりと頷いた。
「……窓から、外が伺えないのは……寂しいです、ね……。頑張りましょう……」
ふたりはまず、小さな箒を使って窓枠の埃を取り除くことにした。ガタガタと音のする窓をなんとか開くと、それだけで埃を伴った空気が外へ流れ出る。埃をはらったあとは、ガラスを磨く。瑞希が持参した洗剤と伊織が手作りした洗剤を使い、ふたりで手分けして内側からと外側からの両方を磨いていった。
「かなり汚れています、ね……。時間までに間に合うでしょうか……」
懸命に手を動かしながら伊織が呟くと、瑞希がそれに同意しつつも丁寧な作業を変えることなく言った。
「あんまり焦り過ぎても、綺麗じゃないと意味、ない。ドーナツ楽しみだけどちゃんと、やろう」
「そうですね……」
ふたりはにっこりと頷き合って窓の掃除を続けた。掃除道具も場所と汚れに合わせて取り替え、細かいところも逃すことなく綺麗にしていく。その動きはテキパキと無駄がなく、見ていて気持ちが良いくらいであった。
と、そこへ、不思議な掛け声が、聞こえてきた。
「トンカツ、トンカツ~!」
そんな不思議な掛け声をうきうきと響かせながら、「トンカチ」を握りしめているのはアレクシス・ラッセル(ka6748)であった。
「おい、振り回すんじゃねえぞ!」
妻崎 五郷(ka0559)が叫ぶ。とにかく怪我なく掃除を終わらせなければ、という気持ちが五郷にはあった。アレスとふたりで、床の修理を担当することになっていたが、トンカチをトンカツと呼ぶアレスに対しての不安を隠せない。
「うん、わかってるヨ! トンカツのアツカイならマカセテー!!トントンってすればいーんだヨネ!」
五郷の不安を知ってか知らずか、アレスは自信満々な様子だ。ため息を押し殺しつつ、五郷はまず、修理の必要な床の箇所を確認していった。途中、おばあさんにも立ち合ってもらい、特に歩く頻度の高い導線を中心に修理していくことを決めた。家の裏手に板材が積んであり、自由に使ってよいとのことだったため、適当な大きさの板を運び入れて作業を開始した。
「床の軋みっつーのは色々要因が考えられっから難しいんだが……、このへんは床板の間に隙間が出来ちまってるみてぇだな……。あっちはだいぶたわんでるから、補強したほうがよさそうだ。……おい、アレス、お前、あっち頼めるか?」
「オッケーだよ、イサトー!」
「本当かよ……? まあいいや、俺も頑張っかね」
五郷は手際よく板を削って隙間にはめ込み、釘を打ちつけていった。アレスはというと、そんな五郷の手つきを横目で見つつ、見よう見まねで釘を打ち始める。
「ドーナツのためにトンカツで頑張るヨー! アレ?」
威勢は良かったのだが、使い慣れていないトンカチは思うように釘に当たってくれず、上手く打ちこめないばかりか、ぐんにゃりと変な形に曲がってしまった。
「アレ? アレレ? うーん、上手くいかないや……。……。イサトー! ボクの分も頑張ってー!」
「おい! 早々に応援側に回ってんじゃねえよ、お前も仕事するんだよ! ったく、しょーがねーなー! ほら、こうやってやんだよ、よく見てろ!」
五郷に叱られ、しょんぼりしたアレスだったが、その五郷が手本を見せつつ教えてやると、ふんふんと頷いてトンカチの使い方を習得していった。
床の修繕が必要なら、その真逆に位置する天井も、しっかりした掃除が必要な状態だった。蜘蛛の巣が張り放題の天井を見上げ、ようし、と意気込むのは鳳凰院瑠美(ka4534)だ。持参したチノ・パンツ、チュニック、肉球グローブを装備して準備は万端。
(私だってやれば掃除とか出来るんだもん! 帰ったらお兄に自慢してやるんだ♪)
屋敷を出る際に心配そうな様子だった兄の顔を思い出しながら、瑠美は共に天井を担当することになったミリィの方を向いた。
「ミリィさん、競争しない? どちらが早く担当区分を綺麗に出来るか」
「競争?」
「そう。買った方には報酬として、負けた方からドーナツ一個をもらうの。どう?」
勝負事からは逃げたくない気性のミリィは、たちまち勝気な目を輝かせた。特に、甘いものが絡んだ勝負は大得意。スイーツ・ギャンブラーの名は伊達ではないのだ。
「いいでしょう、乗ったわ! 後輩だからって手加減しないわよ」
ミリィは脚立を使って天井の中央部分を、瑠美は壁歩きを使って天井の外周を担当することに決めて、ふたりは掃除を開始した。
ハタキを使っておおまかに埃や蜘蛛の巣を払ってから、天井板に張り付いた汚れを雑巾で拭いていく。脚立の上で、常に見上げた体勢のミリィを時おり気遣いながら、瑠美はもくもくと掃除をしていった。作業は順調に進んでいたが、担当している範囲が半分ほど終わった頃。
「……いい匂いがしてきたわね……」
台所の方から、あったかくて甘い香りが流れてきた。おばあさんがドーナツを焼き上げに入ったらしい。途端に、ミリィの集中が削がれる。
「ミリィさん、よそ見してると危ないよ?」
瑠美がすかさず声をかける。競争相手の作業速度が落ちるのはラッキーだが、安全に終了できてこその競争だ。ミリィはハッとしたように天井に視線を戻した。
「いけない、いけない……」
ミリィはふるふると首を振って掃除に集中しなおした。
「お腹が鳴りそうだなあ……」
そう呟いたとき、脚立の下から本当にぐう、と誰かのお腹が鳴る音がした。
お腹の音の主は、戸棚の修理を担当していたガンジであった。
「……匂いが、たまらん……」
戸棚の中のものをすべて取り出し、傾いた戸の蝶番を直し、今は外れかかった取っ手をつけなおしているところだった。
「くっ……ミリィ、掃除が終わったらだ、終わらせらんない子には当たらねえぜ……!」
自分と同じく集中を切れさせているらしいミリィに声をかける。脚立の上から、「わかってるわよっ」と声が降ってきた。
「頑張れ俺。ねじを回して取っ手をつけろ! 思い出のつまった大切な棚を修理しきるぜ。
しゅうちゅうだ、しゅうちゅ……う……かんせいまであと、すこし……」
自分で自分を励ます言葉を呟きながら、ガンジはなんとか戸棚の修理を終えた。ふう、と一息ついて、戸棚の中から取り出した物たちを眺める。古いアルバムや、綺麗な貝殻の詰まった瓶、年代物のランプなど、様々な物があった。
「これを仕舞う作業は、おばあさんとやりたいよな」
ガンジはうんうん、と頷きつつ、それらの埃も払い、棚の中の汚れも綺麗にしていった。
掃除は、終盤を迎えていた。床の修繕を終えたアレスは、ミリィの脚立を支えつつ必死に応援していた。
「ミリィ、ちゃんとおソージしないとドーナツ食べられナイヨー?イッパイ食べたいデショー? センパイとしてボクたちにおテホン見せてヨー!!」
「うるっさいわね、わかってるわよっ!」
必死に応援しすぎてミリィに怒鳴られ、アレスはすごすごと脚立を離れた。まだ戸棚の汚れを雑巾で擦っているガンジに近寄り、その作業を手伝うことにする。
「ドーナツ、楽しみだネ!」
「そうだな! さっきからいい匂いがしてたまらないぜ」
アレスとガンジがそう言い合うと、懸命に窓を拭いていた瑞希と伊織も頷いた。どうやら、窓の掃除もほぼ完了したようだ。ふたりの丁寧な仕事によって、家じゅうの窓が見違えるようにぴかぴかになっていた。
「これ、で、少しでも……過ごし、や、すくなると良いの、だけれど……」
伊織が、磨き上げた窓ガラスから外を覗きつつ言うと、隣で瑞希が大きく頷いてにっこりした。
「きっと喜んでもらえるよ。綺麗になったね」
そのとき、天井から声が上がった。
「ミリィさーん、こっちの分担、終わったよ!」
「嘘!? えええ、あたしの負けぇ!?」
天井掃除の競争に、勝負がついたようだった。ミリィは心底悔しそうに何度も「嘘でしょ!?」と叫ぶ。
「あたしだってもうちょっとだったのに!」
その言葉に嘘はなく、ミリィも瑠美に一瞬遅れて、天井掃除を完了させた。
「こうやって皆でワイワイやると、掃除も楽しい物なんだね! 実は掃除って本格的にやったのって、これが初めてなんだ」
天井から降りてきた瑠美がそう言うと、ミリィはがっくりと肩を落とした。
「あたし、初めて掃除をした後輩に負けちゃったわけぇ?」
しかし気落ちしている暇はない。本当の勝負の相手はおばあさんなのだから。気を取り直して、脚立や工具、掃除道具を片付ける。テーブルも綺麗に拭きあげたら。
「ようし! お掃除、完了!」
ミリィが満足そうに宣言した声は、台所まで届いていたらしい。おばあさんの笑い声が、かすかに聞こえてきた。
「あらあら、どうやら私、負けちゃったみたいねえ。ふふふ、皆さん、ドーナツ、もうすぐ出来上がりますからね」
「ヤッター!!! ん? そういえば、イサトはー?」
アレスは歓声を上げてから、五郷の姿が見えないことに気が付いて首を傾げた。すると、外へ出ていたらしい五郷が戻ってきた。
「おー、綺麗になってんじゃねえか」
「イサト! 何してタの?」
「ん? ちょっと余った板材で、台車を作ってたんだ」
五郷がそんなことをさらっと言ったとき、おばあさんが台所から山盛りのドーナツを運んできた。
「Thanks! 待ちに待ったドーナツダヨー♪ ドーナツ、ドーナツ♪」
アレスが待ちきれないと言うようにドーナツを見つめていた。綺麗に焼き上がっているドーナツは、プレーンとチョコレートの二種類。三十個、というミリィの勝手な個数設定をはるかに超える量が出来上がっていた。
台所では、そのドーナツと一緒に飲むための紅茶やコーヒーを、伊織が用意しているところだった。その間に、ガンジはおばあさんと共に戸棚の中のものを見分して仕舞っていく。
「ああ、懐かしいねえ、これは私が若い娘だった頃に夢中になって集めた貝殻だよ」
「へええ! 綺麗だなあ。折角だから良く見えるところに置こうぜ」
「そうだね、そうしましょう」
ひとつひとつ手に取りながら戸棚に仕舞っていくおばあさんとガンジは楽しげで、本当の祖母と孫のようだった。
「お待たせしました」
伊織がポットやカップを運んできたところで、皆が待ち望んだドーナツをいただくことになった。
「いただきまーす!」
真っ先に頬張るのはアレスとガンジだ。両手にドーナツを持って満面の笑みでかぶりつく姿は、周囲の食欲も増幅させた。
「おいしーい!」
瑞希が顔をほころばすと、伊織も幸せそうに微笑む。
「ドーナツ……美味しい、です……美味しい、は、嬉しい、ですね……」
「ミリィさん、約束よ?」
「わかってるわよぅ。ほら」
競争に負けたミリィは、実に悔しそうに自分の分のドーナツをひとつ、瑠美に差し出した。見事余分にドーナツを手に入れた瑠美はホクホク顔で受け取って頬張りつつ、帰宅してからのことを考えていた。お屋敷の掃除を申し出たら、兄や妹にびっくりされるだろうか、などと。
五郷はというと、ドーナツを口にしつつ、おばあさんに台車の説明をしていた。
「即席で作ったものなんだが。これからの買い物に、ちょっとは役に立つだろ」
「まああ、ありがたいわねえ。掃除もしてもらえたばかりか、そんな便利なものまで作っていただけるなんて」
感激しているおばあさんが五郷の手を取って大げさな感謝を述べるので、五郷は少しばかり照れくさそうであった。
「おかわり!」
ガンジの明るい声が、綺麗になった家に響く。
「たくさん、召し上がってね」
おばあさんは、勝負に負けたというのに嬉しそうだった。その顔を見て、ミリィも皆も、喜ばしい気持ちに、なった。
「あなたたちに頼んで、良かったわ」
今更、先輩らしいことを言う気にもなれないミリィは、誰にも聞こえないようにこっそりと、優秀な後輩たちに感謝の言葉を呟いた。
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お掃除vsドーナツ! アレクシス・ラッセル(ka6748) 人間(リアルブルー)|23才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/03/07 21:59:26 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/05 16:43:19 |