ゲスト
(ka0000)
フマーレ内用水路遡上阻止戦
マスター:えーてる

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/17 12:00
- 完成日
- 2014/10/25 06:46
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「蒸気都市フマーレの治安問題については、皆様ご存知かと思います」
受付嬢イルムトラウトは、依頼の説明に際しそんな前置きを持ってきた。
「心当たりのある方もいるでしょうか。例によってまた、ヴォイドが侵入したようです」
フマーレ内部へのヴォイドの侵入を検知、これを排除して欲しい。オフィスに時折持ち込まれる依頼内容であった。
蒸気都市は、自由都市同盟の中でも王国に繋がる主要な街道に直結している。陸軍の目はそこの維持に向けられていて、誤解を恐れず言ってしまえば他の警備はザルだ。人手が足りないのである。
そのため、内部に入ってきたヴォイドの退治が、こうやって労働者・雇用者を通じてオフィスに持ち込まれることも少なくない。
「フマーレの警備体制の問題点はひとまず保留としましょう。依頼の説明に入らせていただきます」
敵個体はフマーレ沿岸部から生活用水路に侵入、これを遡上している。用水路はフマーレ中央部を南北に横切る河川に繋がっており、このまま河川へ到達された場合、ヴォイドは市街地中央に出現、市民に大きな被害を出す可能性があった。
そのため、ハンターは河川側から用水路へ突入し、正面からヴォイドの遡上を迎撃してもらうことになる。
用水路の入り口に近い位置では万が一突破された場合の対処が難しく、また流れ弾が思わぬ被害を生む可能性もある。十分に前進する必要があるだろう。よって、迎撃戦ではあるが罠を仕掛ける余裕があるかは疑わしい所だ。
「これはマージンを取って頂く理由でもあるのですが、今回は敵の総数が不明です。確認されただけでは2体ですが、それ以外の個体が移動する音を複数人が聞きつけています」
敵は大型の蛙に似たヴォイドで、用水路の水流内でも難なく行動するようだ。水中を泳ぐか、通路を跳ねて移動している。
「地理的にはこちらが不利かと思われます。敵が水流を抜けていくことがないように留意してください」
当然だが、用水路の水流内では移動は阻害される。足を止めるのも難しいかもしれない。
どうやって水中の敵を迎撃するかが問題になるだろう。
「では、よろしくお願い致します」
「蒸気都市フマーレの治安問題については、皆様ご存知かと思います」
受付嬢イルムトラウトは、依頼の説明に際しそんな前置きを持ってきた。
「心当たりのある方もいるでしょうか。例によってまた、ヴォイドが侵入したようです」
フマーレ内部へのヴォイドの侵入を検知、これを排除して欲しい。オフィスに時折持ち込まれる依頼内容であった。
蒸気都市は、自由都市同盟の中でも王国に繋がる主要な街道に直結している。陸軍の目はそこの維持に向けられていて、誤解を恐れず言ってしまえば他の警備はザルだ。人手が足りないのである。
そのため、内部に入ってきたヴォイドの退治が、こうやって労働者・雇用者を通じてオフィスに持ち込まれることも少なくない。
「フマーレの警備体制の問題点はひとまず保留としましょう。依頼の説明に入らせていただきます」
敵個体はフマーレ沿岸部から生活用水路に侵入、これを遡上している。用水路はフマーレ中央部を南北に横切る河川に繋がっており、このまま河川へ到達された場合、ヴォイドは市街地中央に出現、市民に大きな被害を出す可能性があった。
そのため、ハンターは河川側から用水路へ突入し、正面からヴォイドの遡上を迎撃してもらうことになる。
用水路の入り口に近い位置では万が一突破された場合の対処が難しく、また流れ弾が思わぬ被害を生む可能性もある。十分に前進する必要があるだろう。よって、迎撃戦ではあるが罠を仕掛ける余裕があるかは疑わしい所だ。
「これはマージンを取って頂く理由でもあるのですが、今回は敵の総数が不明です。確認されただけでは2体ですが、それ以外の個体が移動する音を複数人が聞きつけています」
敵は大型の蛙に似たヴォイドで、用水路の水流内でも難なく行動するようだ。水中を泳ぐか、通路を跳ねて移動している。
「地理的にはこちらが不利かと思われます。敵が水流を抜けていくことがないように留意してください」
当然だが、用水路の水流内では移動は阻害される。足を止めるのも難しいかもしれない。
どうやって水中の敵を迎撃するかが問題になるだろう。
「では、よろしくお願い致します」
リプレイ本文
●
「デカい蛙は食用のやつだけで十分やんなあ」
紗耶香(ka3356)は通路を歩きながら、そうぼやいた。
「蛙ならゲコゲコ鳴いたりとかしてないっすかね?」
耳を澄ませながら隣を歩く無限 馨(ka0544)が、その話に乗っかった。
しかし、ヴァイス(ka0364)は「どうだかな」と首を捻る。
「相手はヴォイドだ、見た目だけって線もあるぜ」
「確かにな。いずれにしろ、早急に排除せねばなるまい」
ザレム・アズール(ka0878)はLEDライトで水路を照らしながら歩いている。戦闘時の光源としてランタンも持ってきていた。
「そうだね、何としても食い止めなくっちゃ!」
ステラ・ブルマーレ(ka3014)も気合を入れる。不意にトライデント「ウェーブ」を握る手に力が篭った。
「敵の総数が不明という事が、少し気に掛かりますね」
リチャード・バートン(ka3303)が懸念を口にすると、ザレムも頷いた。
「一直線に遡上してくると分かっているのが救いだな。最悪、水路の終わりまで下れば、総数が確認できるはずだ」
それを聞いた紗耶香は、思わず「うへえ」と呻いた。
「固まってる蛙は見たくないなあ。さっさと片付けて、風呂屋で熱燗飲みたいわあ」
その隅で、レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は、通路の綺麗な一角にシートを引いてタオルと着替えを乗せた。
「……今から、洗濯をするのが楽しみですね」
普段は家事全般を担っているという彼であるが、ここで几帳面さを発揮する。ステラは「どういう趣味なんだろう?」と思ったが、それはあえて言わずにおいた。
●
各々通路を光源で照らしながら、一行は水路を下っていく。
「できれば陸に上げてから片付けたいっすけど、ここで迎え討たなきゃいけないなら無理そうっすね」
馨は状況を整理しながら、今も耳を澄ませて異音を探っていた。
ヴァイスとレイは、ロープを自分の胴体に巻きつけている。反対側は短剣に括りつけた。2人は水路で足止めを行う役であり、これは水に流された時の対策である。
ヴァイスはこれを「まぁ、気休め程度だろうな」と口にした。そもそも流されないようにするのが一番なのは、言うまでもない。
と、その時。
「何か聞こえるっすね」
「うちも聞いたわ、ペタペタいっとるな」
「足音か」
ザレムが視線を向ける前に、水路組の2人は配管にロープを結びつけて、水路へ降りる準備を終えた。
紗耶香は弓を番えると、音と勘を頼りに一発放つ。
「うちの直感やとこの辺やと思うけど」
果たして、放った矢は命中したらしい。遠くから「ギィギィ」と、不快な鳴き声が聞こえてきた。
「……蛙の声ではないですねぇ」
リチャードは苦笑して、ショートソードを構え前に出た。
通路をペタペタと飛び跳ねながら、ヴォイドが姿を現した。
ヴァイスは水路に降りてすぐ、クレイモアを足元に突き立てる。
(く、想像通りだが流れが速いな。だが……)
彼は事前にどっしりと構えていれば、攻撃する余裕がありそうだと感じた。ただ、それもあまり長くは続かないだろう。
レイもぐっと身を弛めて水流に耐える。二人は横並びになって立ちはだかった。
「すみません、攻撃は難しそうです」
「うちらに任しときぃ」
紗耶香が答える横で、リチャードが視線を走らせる。通路左に1体、右に2体。
「黙視できない個体は、水中に居る可能性が高い……でしょうか」
「いえ、水路に1匹見えますね」
レイが指差した。集団から少々遅れる形で、水路を1匹が遡上している。
「まずは先頭の奴から狙っていきましょう。仕止めれなかった奴は前衛で引き受けるっす!」
左側通路には、馨と紗耶香。馨が鞭を構え、紗耶香はそれに合わせて弓を引き絞る。
「遠距離は苦手なんだけど……そうも言ってられないよね!」
右側通路は、リチャードとザレムとステラが展開。
ステラは大きく槍を振り回し、横に薙ぎ払うように振りぬいた。動作に紐付けられた風の魔術が発動する。
「戒め解き放たれし風よ……、切り裂け!」
魔術師の杖ともなるその槍は、鋭い風を生み出して敵を穿つ。それは見事に右通路先頭の個体に命中すると、ザレムはそちらに狙いを定めて渾身の矢を放った。水中での使用に適するというロングボウ「シーホース」から放たれる攻撃は、この水路では効果があるように見えるから不思議だ。事実、その矢は敵に向かって飛び、容赦なく刺し貫くのだから。
レイは霊の加護を身に宿す。その間、ヴァイスは水流にぐっと耐えた。
後衛がひたすら射撃を繰り返すことで、右通路の1体は接近前に倒すことができた。左の1体もまた、それなりにダメージを受けている。
「上々っすね!」
馨は鞭を振るって、敵の足を叩く。反撃に伸ばされたヴォイドの舌をうまく潜り、金色の雄はメイル・ブレイカーを構えた。
「行きますよ!」
リチャードは素早く相手の懐に潜り込み、小剣で切りつける。後衛に攻撃が届かぬように前に出ながら、水路へ突き飛ばされぬように壁に隣接してのヒットアンドアウェイを心がける。俊敏な動作で動きまわり、狙いを定めさせないようにする魂胆だ。
遅れて、水路のヴォイドがレイへ突進を敢行した。レイは円形の盾でうまく突進を受け止め、それを押し返す。
「ここは通しません!」
更にマテリアルで強化された声でヴォイドを威嚇すると、敵は目に見えて怯んだ。これはベルセルクの声や動作による威嚇のスキル、ブロウビート。これならば、派手な動作は必要ない。
「ナイスだ!」
そこへ、ヴァイスがクレイモアによる一撃をがら空きの腹に叩き込む。更に後衛から矢が放たれ、蛙の表皮に突き立っていく。
「……攻撃は、お任せできますから」
レイはあくまで防御の構えを取って前を見据えると、すぐに気付いた。
「皆さん、水路にもう1匹いるようです」
遅れてきたらしい蛙の異形が、水路の奥で顔を出した。
●
何度か前衛が突き飛ばされたが、水路に落ちたり隊列が崩れるということはなく、ダメージも殆ど無いまま、比較的順調に戦闘は進行した。
とはいえ、ヴァイスもそろそろ攻撃し続けるのが辛くなってきた頃である。防御に専念するべく体勢を整えた彼だが、ほんの少しだけ足を滑らせた。
「しまった!」
「ヴァイスさん!」
レイは手を差し伸べようとするが、この状況で彼を引っ張れば、おそらく自分も流される。レイは彼が流された時に備えて、前へ進む準備をした。
必死の形相でロープを引っ張るヴァイスだが、止めなく襲い来る急流がそれを許さない。
「ヴァイス!」
そこへ、ザレムが咄嗟に弓を差し出した。ヴァイスは反射的にそれを掴み、なんとか姿勢を元に戻す。
「大丈夫か」
「助かった」
ヴァイスが体勢を立て直したのを見てから、ザレムはレイに張り付くヴォイドに対し、矢をまた一本突き立てる。
が、ここで水路のヴォイドが1匹、突然上へ飛び出した。右通路へ上がるや否や、ザレムを標的に舌を繰り出す。何度も攻撃を加えてきたザレムに狙いを変更したらしい。
「なるほど。だが!」
伸ばされた舌に対して、ザレムは落ち着いて機導術を発動。発生した光の壁が伸びる舌を弾き返し、そこから更に間を詰め、電撃の機導術を発動。エレクトリックショックが敵の身を大いに震わす。
「甘かったな」
好機と見たリチャードは、目の前の敵の攻撃を掻い潜り、痙攣して行動不能になった蛙へと肉薄。全身にマテリアルを巡らせ、鋭く一閃。なるべく傷ついた箇所を抉るように攻撃を仕掛ける。攻め時と判断すれば、積極的に切る。それが彼の戦術だ。
「もう1体!」
矢だらけ傷だらけになったヴォイドは、彼の攻撃で絶命して塵となった。
一方、水路を行く新手のヴォイドは、ヴァイスにしつこく攻撃を繰り出していた。ヴァイスは防御の構えを取り、余裕を見て一撃を繰り出す。
突進をがっしりと受け止めたヴァイスは、勢い良くそれを押し返すと、そのまま一撃を叩き込む。流れを利する動きから繰り出されるクレイモアの威力は、今もまだ高まっているようにも見えた。
「紗耶香!」
「任しとき!」
弓からスピアガンに持ち替えた紗耶香は、怯んだヴォイドの喉元めがけて強かな一撃を叩き込んだ。
その横で、馨は茨の如き鞭を器用に振り回し、それをうまくヴォイドの足元に絡みつかせることに成功する。
「足掻けば足掻くほど、棘が食い込むっすよ?」
ヴォイドは苦し紛れにその場で舌を伸ばして攻撃するが、馨は俊敏にそれを回避。
そこへステラがさらに石礫の魔術を唱えたが、これは発動に失敗してしまう。
(やっぱり相性合わない、使い難い!)
虚しく通路に激突した礫を見て、ステラは思わず歯噛みした。
ステラは火や地の魔術は苦手である、が。
「もう一度ぉ……!」
槍を頭上へ真っ直ぐ掲げ、風の魔術を使うのと同じ要領で、上段から振り下ろしながら魔術を放った。
「母なりし無限の大地よ……、貫け!」
諦めない気持ちがいい方向に作用したのか、今度は礫が蛙の腹を直撃し、馨が捕らえたヴォイドはそれで消滅した。
残るは水路の1匹だけ。レイは水流に流されそうになるのをぐっと堪え、伸びてきた舌を受け流して吠えた。
「此処は、通しません! 皆様の家事を邪魔させないためにも!」
ヴォイドが怯んだところへ、紗耶香の一射がとどめを刺した。
「さすがにもうお腹いっぱいや。そろそろ終わろか?」
彼女の言葉を聞く前に、敵は断末魔の叫びと共に消え去った。
●
討伐しきったかの確認をしなければならない。一行は水路をさらに下っていった。
ザレムは水面を見つめながら苦笑した。
「また足元から不意打ちとか、ゴメンだからな」
紗耶香も水面を見つめて唸る。
「こいつらのオタマジャクシとかおったら困るやんなあ。あとでちゃんと調べてもろといたほうがええんとちゃう?」
「ヴォイドが生殖するかどうかは怪しいっすけど、まぁ調査しない理由はないっすね」
馨は呟いた。
「しかしこんなザル警備で大丈夫なんすかね、この街……」
「用水路の途中に柵作るとか、河川側の出口にゲートを設けて貰うとか、色々出来そうなことはあるけど」
ちなみに門や柵は(十分とは言いがたいが)あったのだが、どれも壊されてしまっていた。ヴォイドの膂力は馬鹿にならない。
レイは濡れた服を絞りながら言った。
「ともあれ、蒸気都市のご家庭の平和は護られたのです。それでいいではないですか」
「あー、うち寒ぅなって来たわ。早よお風呂入りたいんよ」
そうこうしているうちに、用水路の端までやって来た。いちおう音なども確認したが、怪しい物はなかった。
一同は水路を引き返した。レイが配るタオルを受けとり、ザレムは外の眩しさに思わず手でひさしを作った。
「結構濡れてしまいましたね」
リチャードは苦笑しながら、タオルで体を拭いた。
「うへぇ、ちょっと寒いな」
ヴァイスはぼやいた。
水路で激しい戦闘をしたせいで、皆飛沫を浴びて濡れてしまっている。
特に水路に入ったヴァイスとレイは全身ずぶ濡れであった。
「こういうこともあろうかと!」
と、妙に嬉しそうにレイは替えの服を差し出す。皆さんは私の客人です、彼はそう言いたげな表情のまま恭しく礼をするのだった。
「デカい蛙は食用のやつだけで十分やんなあ」
紗耶香(ka3356)は通路を歩きながら、そうぼやいた。
「蛙ならゲコゲコ鳴いたりとかしてないっすかね?」
耳を澄ませながら隣を歩く無限 馨(ka0544)が、その話に乗っかった。
しかし、ヴァイス(ka0364)は「どうだかな」と首を捻る。
「相手はヴォイドだ、見た目だけって線もあるぜ」
「確かにな。いずれにしろ、早急に排除せねばなるまい」
ザレム・アズール(ka0878)はLEDライトで水路を照らしながら歩いている。戦闘時の光源としてランタンも持ってきていた。
「そうだね、何としても食い止めなくっちゃ!」
ステラ・ブルマーレ(ka3014)も気合を入れる。不意にトライデント「ウェーブ」を握る手に力が篭った。
「敵の総数が不明という事が、少し気に掛かりますね」
リチャード・バートン(ka3303)が懸念を口にすると、ザレムも頷いた。
「一直線に遡上してくると分かっているのが救いだな。最悪、水路の終わりまで下れば、総数が確認できるはずだ」
それを聞いた紗耶香は、思わず「うへえ」と呻いた。
「固まってる蛙は見たくないなあ。さっさと片付けて、風呂屋で熱燗飲みたいわあ」
その隅で、レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は、通路の綺麗な一角にシートを引いてタオルと着替えを乗せた。
「……今から、洗濯をするのが楽しみですね」
普段は家事全般を担っているという彼であるが、ここで几帳面さを発揮する。ステラは「どういう趣味なんだろう?」と思ったが、それはあえて言わずにおいた。
●
各々通路を光源で照らしながら、一行は水路を下っていく。
「できれば陸に上げてから片付けたいっすけど、ここで迎え討たなきゃいけないなら無理そうっすね」
馨は状況を整理しながら、今も耳を澄ませて異音を探っていた。
ヴァイスとレイは、ロープを自分の胴体に巻きつけている。反対側は短剣に括りつけた。2人は水路で足止めを行う役であり、これは水に流された時の対策である。
ヴァイスはこれを「まぁ、気休め程度だろうな」と口にした。そもそも流されないようにするのが一番なのは、言うまでもない。
と、その時。
「何か聞こえるっすね」
「うちも聞いたわ、ペタペタいっとるな」
「足音か」
ザレムが視線を向ける前に、水路組の2人は配管にロープを結びつけて、水路へ降りる準備を終えた。
紗耶香は弓を番えると、音と勘を頼りに一発放つ。
「うちの直感やとこの辺やと思うけど」
果たして、放った矢は命中したらしい。遠くから「ギィギィ」と、不快な鳴き声が聞こえてきた。
「……蛙の声ではないですねぇ」
リチャードは苦笑して、ショートソードを構え前に出た。
通路をペタペタと飛び跳ねながら、ヴォイドが姿を現した。
ヴァイスは水路に降りてすぐ、クレイモアを足元に突き立てる。
(く、想像通りだが流れが速いな。だが……)
彼は事前にどっしりと構えていれば、攻撃する余裕がありそうだと感じた。ただ、それもあまり長くは続かないだろう。
レイもぐっと身を弛めて水流に耐える。二人は横並びになって立ちはだかった。
「すみません、攻撃は難しそうです」
「うちらに任しときぃ」
紗耶香が答える横で、リチャードが視線を走らせる。通路左に1体、右に2体。
「黙視できない個体は、水中に居る可能性が高い……でしょうか」
「いえ、水路に1匹見えますね」
レイが指差した。集団から少々遅れる形で、水路を1匹が遡上している。
「まずは先頭の奴から狙っていきましょう。仕止めれなかった奴は前衛で引き受けるっす!」
左側通路には、馨と紗耶香。馨が鞭を構え、紗耶香はそれに合わせて弓を引き絞る。
「遠距離は苦手なんだけど……そうも言ってられないよね!」
右側通路は、リチャードとザレムとステラが展開。
ステラは大きく槍を振り回し、横に薙ぎ払うように振りぬいた。動作に紐付けられた風の魔術が発動する。
「戒め解き放たれし風よ……、切り裂け!」
魔術師の杖ともなるその槍は、鋭い風を生み出して敵を穿つ。それは見事に右通路先頭の個体に命中すると、ザレムはそちらに狙いを定めて渾身の矢を放った。水中での使用に適するというロングボウ「シーホース」から放たれる攻撃は、この水路では効果があるように見えるから不思議だ。事実、その矢は敵に向かって飛び、容赦なく刺し貫くのだから。
レイは霊の加護を身に宿す。その間、ヴァイスは水流にぐっと耐えた。
後衛がひたすら射撃を繰り返すことで、右通路の1体は接近前に倒すことができた。左の1体もまた、それなりにダメージを受けている。
「上々っすね!」
馨は鞭を振るって、敵の足を叩く。反撃に伸ばされたヴォイドの舌をうまく潜り、金色の雄はメイル・ブレイカーを構えた。
「行きますよ!」
リチャードは素早く相手の懐に潜り込み、小剣で切りつける。後衛に攻撃が届かぬように前に出ながら、水路へ突き飛ばされぬように壁に隣接してのヒットアンドアウェイを心がける。俊敏な動作で動きまわり、狙いを定めさせないようにする魂胆だ。
遅れて、水路のヴォイドがレイへ突進を敢行した。レイは円形の盾でうまく突進を受け止め、それを押し返す。
「ここは通しません!」
更にマテリアルで強化された声でヴォイドを威嚇すると、敵は目に見えて怯んだ。これはベルセルクの声や動作による威嚇のスキル、ブロウビート。これならば、派手な動作は必要ない。
「ナイスだ!」
そこへ、ヴァイスがクレイモアによる一撃をがら空きの腹に叩き込む。更に後衛から矢が放たれ、蛙の表皮に突き立っていく。
「……攻撃は、お任せできますから」
レイはあくまで防御の構えを取って前を見据えると、すぐに気付いた。
「皆さん、水路にもう1匹いるようです」
遅れてきたらしい蛙の異形が、水路の奥で顔を出した。
●
何度か前衛が突き飛ばされたが、水路に落ちたり隊列が崩れるということはなく、ダメージも殆ど無いまま、比較的順調に戦闘は進行した。
とはいえ、ヴァイスもそろそろ攻撃し続けるのが辛くなってきた頃である。防御に専念するべく体勢を整えた彼だが、ほんの少しだけ足を滑らせた。
「しまった!」
「ヴァイスさん!」
レイは手を差し伸べようとするが、この状況で彼を引っ張れば、おそらく自分も流される。レイは彼が流された時に備えて、前へ進む準備をした。
必死の形相でロープを引っ張るヴァイスだが、止めなく襲い来る急流がそれを許さない。
「ヴァイス!」
そこへ、ザレムが咄嗟に弓を差し出した。ヴァイスは反射的にそれを掴み、なんとか姿勢を元に戻す。
「大丈夫か」
「助かった」
ヴァイスが体勢を立て直したのを見てから、ザレムはレイに張り付くヴォイドに対し、矢をまた一本突き立てる。
が、ここで水路のヴォイドが1匹、突然上へ飛び出した。右通路へ上がるや否や、ザレムを標的に舌を繰り出す。何度も攻撃を加えてきたザレムに狙いを変更したらしい。
「なるほど。だが!」
伸ばされた舌に対して、ザレムは落ち着いて機導術を発動。発生した光の壁が伸びる舌を弾き返し、そこから更に間を詰め、電撃の機導術を発動。エレクトリックショックが敵の身を大いに震わす。
「甘かったな」
好機と見たリチャードは、目の前の敵の攻撃を掻い潜り、痙攣して行動不能になった蛙へと肉薄。全身にマテリアルを巡らせ、鋭く一閃。なるべく傷ついた箇所を抉るように攻撃を仕掛ける。攻め時と判断すれば、積極的に切る。それが彼の戦術だ。
「もう1体!」
矢だらけ傷だらけになったヴォイドは、彼の攻撃で絶命して塵となった。
一方、水路を行く新手のヴォイドは、ヴァイスにしつこく攻撃を繰り出していた。ヴァイスは防御の構えを取り、余裕を見て一撃を繰り出す。
突進をがっしりと受け止めたヴァイスは、勢い良くそれを押し返すと、そのまま一撃を叩き込む。流れを利する動きから繰り出されるクレイモアの威力は、今もまだ高まっているようにも見えた。
「紗耶香!」
「任しとき!」
弓からスピアガンに持ち替えた紗耶香は、怯んだヴォイドの喉元めがけて強かな一撃を叩き込んだ。
その横で、馨は茨の如き鞭を器用に振り回し、それをうまくヴォイドの足元に絡みつかせることに成功する。
「足掻けば足掻くほど、棘が食い込むっすよ?」
ヴォイドは苦し紛れにその場で舌を伸ばして攻撃するが、馨は俊敏にそれを回避。
そこへステラがさらに石礫の魔術を唱えたが、これは発動に失敗してしまう。
(やっぱり相性合わない、使い難い!)
虚しく通路に激突した礫を見て、ステラは思わず歯噛みした。
ステラは火や地の魔術は苦手である、が。
「もう一度ぉ……!」
槍を頭上へ真っ直ぐ掲げ、風の魔術を使うのと同じ要領で、上段から振り下ろしながら魔術を放った。
「母なりし無限の大地よ……、貫け!」
諦めない気持ちがいい方向に作用したのか、今度は礫が蛙の腹を直撃し、馨が捕らえたヴォイドはそれで消滅した。
残るは水路の1匹だけ。レイは水流に流されそうになるのをぐっと堪え、伸びてきた舌を受け流して吠えた。
「此処は、通しません! 皆様の家事を邪魔させないためにも!」
ヴォイドが怯んだところへ、紗耶香の一射がとどめを刺した。
「さすがにもうお腹いっぱいや。そろそろ終わろか?」
彼女の言葉を聞く前に、敵は断末魔の叫びと共に消え去った。
●
討伐しきったかの確認をしなければならない。一行は水路をさらに下っていった。
ザレムは水面を見つめながら苦笑した。
「また足元から不意打ちとか、ゴメンだからな」
紗耶香も水面を見つめて唸る。
「こいつらのオタマジャクシとかおったら困るやんなあ。あとでちゃんと調べてもろといたほうがええんとちゃう?」
「ヴォイドが生殖するかどうかは怪しいっすけど、まぁ調査しない理由はないっすね」
馨は呟いた。
「しかしこんなザル警備で大丈夫なんすかね、この街……」
「用水路の途中に柵作るとか、河川側の出口にゲートを設けて貰うとか、色々出来そうなことはあるけど」
ちなみに門や柵は(十分とは言いがたいが)あったのだが、どれも壊されてしまっていた。ヴォイドの膂力は馬鹿にならない。
レイは濡れた服を絞りながら言った。
「ともあれ、蒸気都市のご家庭の平和は護られたのです。それでいいではないですか」
「あー、うち寒ぅなって来たわ。早よお風呂入りたいんよ」
そうこうしているうちに、用水路の端までやって来た。いちおう音なども確認したが、怪しい物はなかった。
一同は水路を引き返した。レイが配るタオルを受けとり、ザレムは外の眩しさに思わず手でひさしを作った。
「結構濡れてしまいましたね」
リチャードは苦笑しながら、タオルで体を拭いた。
「うへぇ、ちょっと寒いな」
ヴァイスはぼやいた。
水路で激しい戦闘をしたせいで、皆飛沫を浴びて濡れてしまっている。
特に水路に入ったヴァイスとレイは全身ずぶ濡れであった。
「こういうこともあろうかと!」
と、妙に嬉しそうにレイは替えの服を差し出す。皆さんは私の客人です、彼はそう言いたげな表情のまま恭しく礼をするのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/14 20:03:03 |
|
![]() |
作戦相談所 無限 馨(ka0544) 人間(リアルブルー)|22才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/10/16 23:21:31 |