• 界冥

【界冥】松前陽動・警邏隊を撃破せよ!

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
8~14人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/03/13 19:00
完成日
2017/03/24 08:17

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●陽動依頼
「……ふむ」
 新たな依頼内容を記した書類に目を落とし、モリスは眉根を寄せた。
 このソサエティ支部ではベテランの部類に入る事務員の彼女。普段であればすぐさまハンター達に募集をかけるのだが、今回の依頼には思う所があるらしい。
 カウンターの内側にへろりと座った黒髪の少年が、彼女の様子に首を捻る。
「どうしたのモリスさん、何か難しい依頼来たの?」
「玲」
 モリスは少年の名を呼ぶとこっそり手招いた。カウンターの向こうで依頼を物色するハンター達にはまだ聞かせたくないようだ。そう察し、玲は静かに席を立つ。
 実のところこの受付員然として座っていた少年・玲も、大精霊と契約済みの聖導士……つまりハンターであるのだが。何せ元々がリアルブルーの日本・東北の片田舎でインドア生活満喫していたもやしっ子なため、
『や、戦うのとかマジ無理だし』
 と言い張り、支部長の温情で『お手伝い』としてオフィスに籍を置いているのだ。

 寄って来た玲へモリスは書類をちらつかせる。
「リアルブルーでの戦闘依頼なんだけどね」
「りあるぶるー?」
 玲はきょとんと首を傾げる。
「ソレってアレでしょ、僕がいた地球でしょ? え、何で地球から依頼? 今ってこっちから地球に行けんの?」
 モリス、唖然。
 玲の色白の顔を凝視しながら、恐る恐る問いかける。
「ついこの間ナゴヤにできたクラスタ殲滅のため、大規模な作戦が決行されたばかりじゃない……その後アキハバラにソサエティの支部が置かれて……知らないわけじゃないでしょう?」
「名古屋にアキバ? 日本じゃん! へぇ、そんな事あったんだぁ」
 モリス、撃沈。
 コイツに全てを理解させるのは無理だと三秒で悟り、『ちょー凄い博士がみらくるな仕組みを作り、ハンターなら時間制限付きでリアルブルーに転移できるようになった』と玲にも解る言葉で説明した。
「へー」
「へー、って。仮にも君の故郷でしょうに。興味ないわけ?」
「僕、別にあっちに執着ないんだよねぇ。え、何? アキバの支部ってメイド喫茶なの? 行ってみたーい」
 モリスは激怒した。
 が、するだけ無駄だと一秒で悟り、息を吐いて怒りを逃す。
「……ともかくね。その名古屋クラスタ殲滅戦でのハンター達の活躍が認められて、今日本とソサエティとは『協力関係』にあるの。それで今度は、日本の函館ゴリョウカクという所にあるクラスタ殲滅に向け動き出してるのよ」
 モリスは『協力関係』という単語を口にする時やや複雑な顔をしたが、玲はさっぱり気付かない。
「五稜郭? アレだよね、新選組の土方歳三終焉の地」
「誰?」
「やっだー知らないの? ちょー有名人だよ、もっと勉強して?」
「オメーにだきゃ言われたくねぇわ!!」
 怒りのあまり地が出たモリスへ、ハンター達の視線が集中した。モリス、慌ててごほんと咳ひとつ。

●肝心の依頼内容
「話を戻すわ。函館クラスタ殲滅にあたって、まずは松前にある要塞攻めを敢行しようとしてるの」
「松前と言ったら松前漬けだねぇ。それはそうと、十四歳の僕にも解るように説明して? モリスさんったらカタいカタ~い!」
 モリス、脱力。
「『函館クラスタちょーカタい、迎撃ちょーキツい、困ったなー。あ♪ じゃあ迎撃の要の松前要塞を先にぶっ壊せばいいんじゃない? でも要塞もちょーカタい、あっちこっちで陽動しなきゃ☆』……って事。解った?」
「うん。でもクラスタの前にモリスさんが壊れちゃったのかと思った」
「よし黙れ、次に話の腰を折ったら貴様の腰骨も折る」
 玲、両手で自らの口を塞いで見せる。
 モリスは書類に添付されていた地図をデスクに広げた。
「この依頼はそのひとつ。あちらさんの現地調査で、函館と松前を繋ぐ国道を定期的に巡回する狂気歪虚の一群がいると分かったの」
 玲、ぴっと手を挙げた。
「狂気歪虚って?」
「君、向こうにいたならお馴染みじゃないの? この一群にいるので言うと、宙に浮くクラゲっぽいのや、それがくっついて人型になってるヤツね。名古屋にいたものと同じ」
「へー」
「報告によればそのクラゲ型二〇、人型一四の全三四体。支配地の警邏を目的とした一群だから、個々の戦力は大したことなさそうね。狂気歪虚特有の、人を狂気に陥れる力には注意しないといけないけれど」
「ごめん、もっと解りやすく」
「『ザコいけどバットステータス付与すんぞ☆』」
「どうしたらいいの?」
「抵抗値を高めて臨むことね。それでもダメだった時には聖導士の『ピュリフィケーション』で解除できるわ。あちらさんの方で増援が来にくそうな場所まで見繕ってくれたから、この依頼で相手取るのはこの三十体だけ」

 なるほどーと殊勝に頷きながら、玲は話を自分なりにまとめてみる。
「敵はそんな強くないし、タイプも数もきっちり分かってる……ちょーっと数は多いけど、増援もなさそうな場所で戦うんでしょ? ちょーカタい要塞攻めの陽動としたらちょろい方じゃないの? なのに何で難しい顔してたのさ」
「そこが問題と言えば問題でね」
 モリスは疲れたように目頭を揉んだ。
「この依頼に関して、あちらさんは転移地点から現場までの移送は請け負ってくれたものの、それ以上の関与はできないと……ユニットも、嵩張るから遠慮して欲しいんですって」
「関与っていうか協力できないって事だよねソレ。薄情ぉ」
「要塞攻めや各地陽動で人手が足らないそうよ」
 だからこそ陽動として易しい部類の本依頼は、ハンター達のみで対応して欲しいと。
「『ここまで調べてお膳立てはしてやった、あとはヨロシク☆』って事だね? もー、我が故郷ながらホントにさぁ」
 ぶつくさ零す日本人の玲の手前、モリスは苦笑するにとどめ、少しばかり表情を引き締めた。
「君のようなリアルブルー出身のハンターは多い……けれど、向こうに慣れたハンターばかりというわけでもない。移送担当者はハンター達を置いたらすぐ戻ってしまうらしいし、そこが少々不安でね。せめて、一人でもあちらの様子を知るサポーターが用意できればと思っているん、だけ……ど」
 そこまで言った時、モリスは眼鏡の奥の瞳をカッと見開いた。

 ――いるじゃない!
 リアルブルーの日本出身、おまけに『ピュリフィケーション』持ちの聖導士。依頼にも行かず暇こいてる駄ハンターがここに!!

 視線に気付き、玲はぎょっと身を縮める。
「い、行かないよ?」
「サポーター確保ぉッ! はい、そこの君これ掲示して!」
 モリス、有無を言わさず書類にバーンッと判を押し、近くにいた別の事務員に渡した。手を叩きながらカウンターの向こうへ回る。
「皆さん、新しい依頼です! 相手は狂気歪虚ですが安心安全、『ピュリフィケーション』持ちの聖導士と行く日帰り討伐無双旅!! リアルブルーに行きたいかーッ!?」
「ちょっとおおぉぉ!?」

リプレイ本文


「函館クラスタ殲滅のための前哨戦である松前要塞攻略ですか」
 双眼鏡の下で艶やかな唇が漏らす。
「まずは受けた依頼を成功させることが大切ですね」
 草叢に身を潜めたエルバッハ・リオン(ka2434)だ。
 片や国道脇の堤防にもたれ、軍用双眼鏡を覗き込む少女がもう一人。
「来たわね」
 湾の東端――海に突き出した岬から狂気歪虚の群れを認め、八原 篝(ka3104)は口許を引き締めた。

 その姿は湾中程で防衛線を張る面々の目にも映った。
「うわぁ、うじゃうじゃいる……」
 うへぇと肩を落とす藤堂 小夏(ka5489)を、羊谷 めい(ka0669)が宥めた。
「直接一緒に戦うわけではなくても、松前要塞を攻略する方々の支援にもなるのなら……よりいっそう頑張らないと、です。わたしたちが頑張った分だけ、みなさんが戦いやすくなるのですから!」
 リアルブルー――蒼界出身のメイにとっては生まれた故郷を守るための戦いである。それは小夏にとっても同じ事。
「VOIDが我が物顔しているのは嫌だし、狂気はVOIDの中でも一番嫌いだし、上手くいくように頑張りますよ」
 頷き、今はまだ弦のない龍弓「シ・ヴリス」を軽く振った。

 歪虚どもは覚醒前の彼らにまだ気付かぬ様子。早々に覚醒し、万が一回れ右されては元も子もない。連中が湾深く入り込むのを待ち受ける。
 先導するのはクラゲ擬きの浮遊型ども。後ろには四メートル級の人型が続く。二車線のみの道上にあっては、その巨躯はさながら動く壁。
「そろそろだなァ」
 時宜を見定め、前列のシガレット=ウナギパイ(ka2884)が咥え煙草のまま片手を挙げると、国道上の面々は一瞬の遅れもなく覚醒する。にわかに高まったマテリアルに反応し、一塊だったクラゲどもは空を覆うがごとく散開。人型どもも地響き上げてハンター達に殺到した。


「じゃ――楽しませてくれよな?」
 愉し気な声が響くが早いか、マシンガン「プレートスNH3」が火を吹いた!
 戦いの口火を切ったのは、戦線後方に陣取る少女……否、少女と見紛う可憐な見目に反し、物々しい機関銃を繰るステラ・レッドキャップ(ka5434)。
 戦線一の瞬発力とマシンガンの射程を活かし機先を制す。ばら撒くはマテリアルにより威力を高めた特製の重撃弾。的となったクラゲはあまりの威力に木っ端と散った。額に手を翳しその様を満足気に仰ぐ。
「多数の敵を一方的に撃つってのは、一番楽しいよな!」
 気持ちよくぶっ放してからのトンデモ発言。可愛いフリしてこの子、わりとどころじゃなくヤるもんである。

「浮遊型は頼んだぜェ?」
 シガレットは魔導二輪「龍雲」のアクセルを開き、飛来するクラゲどもを掻い潜る。
 狙うは後ろから迫る巨人の如き人型。初っ端からこんな質量で防衛線に突っ込まれては堪らない。単騎駆けの危険は承知だが、指折りの移動力を有す彼はあえて突っ込まざるを得なかった。彼の力は悲劇を生まぬ為のもの。その志を象徴するよう吹いた紫煙が十字を描いた。
 巨体の行く手に立ち塞がると、魔杖を渾身の力で振り抜く! 極彩色の杖は虹彩の軌跡を描き、脇腹を大きく抉った。
「魔杖とフォースクラッシュの組み合わせは、前々から試したいと思ってたんだよなァ」
 それなりに納得のいく手応えだったらしい。口の端をニヤリとつり上げる。
 ところが。
 巨体の左右から回り込んできた人型どもが彼を挟み込むよう展開。眼前の敵より小さいが皆二メートル近い。
「相変わらず数だけはいるんだよなァ狂気の連中は」
 先の名古屋戦が脳裏を過る。攻撃に備えシールドを構えた時だ。
 車輪の音がしたかと思うと、左側の一体の腕が宙に舞った。振り向くと、ハンス・ラインフェルト(ka6750)が小太刀「芙蓉」片手に微笑む。
「遅れをとりましたが、一人二体は受け持ちでしょう? いくら若輩とはいえそれぐらいは果たしませんとっ」
 ママチャリで颯爽と追いあげてきたのだ。狂気感染する馬が使えず、かつ足場がしっかりと舗装されたこの戦場では、自転車は中々に優秀な移動手段と言えた。
 次いでシガレットを背後から狙っていたクラゲ二体が、水の気を含むマテリアルの奔流に叩き落される。
「にっしし、レムさんさーんじょーうっ! ふふん、この位問題ありませんぞっ」
 ぽっこり丸いキャスケットが愛らしいレム・フィバート(ka6552)だった。歩兵である彼女は元気に駆けて来る。
「あっちは良いのかァ?」
 尋ねられ、くいっと親指で後方を指した。

 見れば、マテリアルの燐光を纏わせためいが、クラゲどもの最中へ果敢に踏み込んでいた。篝のハウンドバレットによる援護と、掲げた美しい白金の盾とが、頭上の敵から彼女を守る。
「行きますよ!」
 利き手で「サイレントスタッフ」を掲げると、めいを中心に聖なる光が波紋のように広がり、不浄な存在たるクラゲどもを焼いていく。敵中に乗り込んだ彼女の術は、思惑通り複数体を巻き込む事に成功した。
 龍弓に光の弦を現した小夏が、回避する空間をなくすよう射かけていく。それでも逃げ出そうとする者は悉くステラの重撃弾、あるいは丘より飛び来る光弾や風の刃の的となる。辛くも致命傷を免れ地に落ちた者は、
「ここを通りたければ私達を倒してから通って下さいませ。……等と言うとこちらが負けそうですが殲滅するので問題ないですね」
 不敵な台詞を口にするメアリ・ロイド(ka6633)の機導剣、
「邪魔だ!」
 そしてルベーノ・バルバライン(ka6752)が放つ気功波――人型目指し駆け上がる両名が、行きがけの駄賃とばかりに放つ一撃に止めを刺された。

「あっちはモンダイなさそーだなーって!」
「そりゃァ、」
 レムの言葉にシガレットが頷いた時、ハンス目掛け伸ばされた触手を、追いついてきた南護 炎(ka6651)が魔剣で受け流した。
「気合入れていくぜ!」
「じゃ、皆孤立しねェようにな」
 応えの代わりに、各自力強くアスファルトを蹴った。



 ――時は少し遡る。
 防衛線の面々が一斉に覚醒する中、あえて覚醒しない者達もいた。
 国道北、斜面の草叢に隠形でもって潜む榊 兵庫(ka0010)と妻崎 五郷(ka0559)。彼らから数歩離れた場所には、迷彩塗装を施した外套で背景に溶け込むエル、そして油断なく敵を注視するヴィリー・シュトラウス(ka6706)もいる。

 同じ作戦を立てていた兵庫と五郷は、事前に互いの動きを確認し合っていた。仲間達へ殺到する敵が過ぎるのをじっと待つ。
「大規模作戦でカチコミかけた時以来かね……しかしまさか、こんな状況になっちまってたとはな」
 五郷が目を眇める。二人もまた蒼界出身、歪虚が跋扈する故郷の光景に思う所もあるだろう。兵庫は生真面目な顔で応じる。
「ここで敵増援を防がなくては、要塞強襲作戦に支障が出かねないからな。俺も任された任務は果たす事としよう」
「俺『ら』、な」
 ニヤリと笑う五郷に、兵庫はうっすら口許を緩めた。
 次の瞬間、開戦を告げるステラの発砲音が轟く。二人は同時にマテリアルを解放。兵庫の肌には歴戦の傷痕が、五郷の肌にはトライバルめいた文様が赤く浮かび上がる。
 奇しくも共に紅を纏った二人は草叢から躍りだすや、まず兵庫が殿の巨大人型へ急襲を仕掛ける。敵が振り向くが兵庫は止まらない。草履を撓ませ、 疾駆の勢いそのままに十文字槍「人間無骨」を繰り出す!
 武術家である彼の一族が脈々と伝えてきた刺突技――榊流【狼牙一式】。年月をかけ研鑽された技、そして槍を最も得手とする兵庫の腕が合わさった一撃は、敵の厚い胸を容易く貫いた。
 敵の足が止まる。飛び退いた兵庫と入れ替わりに、
「そっちだけじゃァ物足りねェだろ? こっちも相手してくれや!」
 背後に回り込んだ五郷が、精霊と祖霊の力を得た強烈なローキックを見舞う。機械脚甲「モートル」で固めた脚が脚を強打すると、敵は堪らず体勢を崩した。
 地に膝つかされた敵は全身の眼から光線を照射。緑の閃光が乱舞した。その幾筋かが五郷の肌を焼いたが、即座に彼を光が包む。
「これッくらいなら屁でもねェよ!」
 鋭い犬歯を覗かせ、敵の太刀を踏み折った。
 得物を失った敵は、体液に塗れた触手を傷口から出しざわめかせる。下位の狂気歪虚に感情などありはしないが、その様は激昂、あるいは慄いているように見えた。
 けれどこの者に、否この一群に退路などありはしない。
 行く手には十名の覚醒者による防衛線が、背後にはこの二人がいる。
 奇襲成功。これにより前後からの挟撃が成った。



「ヴィリーさんもお気付きですか」
 丘の上、奇襲組の二人と同時に覚醒していたエルとヴィリー。
 魔法、あるいは祈りの力で、空泳ぐクラゲどもを撃っていく。先程丘から飛来した風の刃や光球はこの二人によるものだった。戦場を俯瞰できる丘の上は、遠距離攻撃手段を持つ二人に都合が良い。
 けれどここから動かない理由は別にあった。
 そもヴィリーは聖剣を振るい戦う事を想定していた。しかし敵の逃走阻止を強く意識していた彼は、エルの指摘通りある事に気付いてしまった為に、この場から離れられずにいたのだ。
「浮遊型の中に妙な動きをしているヤツがいる」
 レーザーひとつ撃つでもなく、一定の高度を保ち続けている個体が数体いる気がする。皆似たり寄ったりのため見紛っているのかもしれないが。そう慎重に答えるヴィリーにエルが首肯する。
「双眼鏡で見ていた時に、一塊で飛ぶ浮遊型の内、数体がわずかに離れ飛行しているように見えました。恐らくヴィリーさんの仰る者達と、私が見たそれらは同じ個体かと」
「この一群は警邏隊……僕達のような侵入者を排除するだけが仕事じゃないかもしれないね」
 ならば別の仕事とは。
 その答えは後ほど明らかとなる。

「くっ!」
 前線で人型と対峙していたハンスは、自らの変調を感じていた。先程から思い描く太刀筋と、実際に放つ太刀筋とにズレが生じるのだ。だが。
「強くなりたい強くなりたい、あの刀を振れるほど強くッ」
 振るう一太刀一太刀が目指す高みに己を導いてくれると信じ、執念で小太刀を振るう。
 傍らには共闘する炎がいる。二人は同じ舞刀士。場数で言えば炎の方が踏んできている。
「オラオラ! こんなもんかよ!!」
 覚醒した事で好戦的な一面を顕わにした炎は、武者甲冑で錆びた弾丸を跳ね除け斬り込んでいく。ハンスは戦いの最中にありながら己の糧とすべく、炎の背、剣筋を目で追った。
「烈しい剣です。私としては、視点が後頭部から始まる状況が理想なんですが、なかなかその域に達しなくて。こればかりは場をこなすしか……おっと」
 飛来した弾丸を軌道に逆らわず受け流す。と、そんな彼らの周囲を白光が包んだ。シガレットによる浄化術だ。
「今のが狂気の感覚でしたか、お手間をおかけします」
「なァに」
 報いるべくハンスは柄を握り直す。もう違和感は感じない。
「喰らうがいい!」
 ルベーノの気功波で敵の注意が逸れると、すかさず飛び込み斬り伏せた。
「倒すには至らんか……腹が立つものだな」
 思うような戦果が得られずもどかしいのか、ルベーノが忌々しげに唇を歪めた。胸を掻きむしるようなその衝動はハンスにも理解できる。
「お互い焦らずいきましょう」
「最初から人に頼った戦術を組んでどうする。倒れるならば前のめり、それ以外に何の意味があるっ」
 吠えるように叫ぶと、猛る赤髪の格闘士は新たな敵求め踏み込んで行った。

 そこで炎、ふと気付く。
「アイツは?」
 いたはずだ、聖導士のサポーターが。シガレットの手を煩わせずともこんな時こそ出番だろうに。
「西の端で待機していたはずですが」
 ハンスが答え、振り返った二人は頭を抱えたくなった。
 二人が見たもの。それは後衛のステラよりもなお後ろから、えっちらおっちら駆けてくる玲の姿だった。転移時には持っていなかった盾を背に括り、遠目に分かるほど肩を上下させている。
「あ、立ち止まりましたよ」
「…………」
「休憩でしょうか」
「あの馬鹿っ!」
 玲の護衛を引き受けてしまったのが炎の運の尽き。
「お迎えですか? でしたら私が」
 自転車に跨りながらハンスが言うと、炎はきっぱり首を横に振った。
「迎えじゃないっ、説教してやるんだ!」
「お供しましょう」
 ハンス、にっこり。目が笑ってないのは気のせいか。
 篝もまた、振り返り脱力した一人だった。呆れ顔でトランシーバーを握る。
「何してるの?」
 遠くで玲がトランシーバーを取り出すのが見えた。
『おねえさんが貸してくれたこの盾重くってぇ!』
「それでもハンター!?」
『怒んないでよ~恐ーい!』
 そんな玲を炎とハンスが確保するのを見、篝は深く息を吐いた。

 レムの援護を受けたシガレットがサイズ二の人型を倒すと、その後ろから再び巨大人型が現れる。レムは依然元気いっぱい。練り上げたマテリアルで我が身を強化し、
「真っすぐ行ってぶっとばーす!!」
 言葉通り正面から仕掛け、温存していた高威力の青龍翔咬波を敵の腹に叩き込む。一見猪突猛進に見える彼女だが、実は威力の異なる青龍翔咬波を用意し使い分けていた。
「情けも容赦もいらない、一体一体、本気でぶっ飛ばす。よ!」
 大太刀の横薙ぎを回避し、間合いを詰める。覚醒する事で死への恐怖が薄れたレムは、彼女の倍以上ある巨躯を前にしても笑みを絶やさない。
 自分がどこまでやれるのか確かめる為――あるいは胸の伽藍洞を闘志で満たす為か、金の髪をなびかせ戦場に舞う。
 横手の人型を倒し終えたメアリが加勢に駆けつける。
「気色わりぃのが寄せ集まったとこで、雑魚は雑魚」
 一瞬耳を疑うほどメアリの口調は豹変していた。けれど変わったのは口調だけではない、顔つきもだ。眼鏡の奥の菫青石めく瞳が、敵を鋭く睨み据える。
「散り散りに分解して消してやるよ虫共」
 メアリが迸らせた雷撃に、敵の身体が硬直する。
「ありがと♪ じゃ、もーいっかいッ!」
 レムが再び見舞おうとしたその時だ。

 ――ぞぞゾ、ぞ、

 湿った物が擦れるような音がして、敵の輪郭がふいに揺らいだ。
「な、何!?」
「様子がおかしい、退けっ!」
 数歩引いた場所で、視界を広くとっていたルベーノが叫ぶ。と……

 ――ぐちゃり。

 巨体が崩れ、幾体ものクラゲ擬きに変化した! 否、戻ったと言うべきだろう。こいつは元々クラゲ擬きの集合体。何故人の形を真似るのかは分からないが、その気がなくなれば個々に散る事も可能らしい。
 予想だにしなかった行動に、人型を相手取っていた面々は咄嗟に動くことができなかった。バラけたクラゲどもは宙へ飛び立つ事なく、触手を蠢かせ路上を這う。こうなるとクラゲと言うより虫に近い。虫擬きどもは光線を撒き散らしながらレムへ殺到した。
「わわっ!」
 レムは横っ飛びに回避。虫どもはレムを追わずそのまま直進していく。その先には小夏やめいがいるが、浮遊するクラゲどもを撃つ彼女達は当然空を見上げていた。
「足元だ!」
 ルベーノの鋭い声が飛ぶ。虫擬きに気付いた二人は騒然。
「まだこんなに浮遊型が!?」
「触手で這ってるーやっぱキモイこのクラゲー」
 慌てながらも、二人は何とか路肩へ退避する。
 そんな中、ただ一人虫どもを追って飛び出した者がいた。
「どこまでも気色わりぃ連中だな」
 メアリだ。彼女だけは人型がバラけることを予想していたのだ!
「纏めて潰してやるよ!」
 そうして魔導ガントレット「シザーハンズ」の腕を振り上げ――しかしここで、彼女は狙った技が使えない事に気付いた。装備に漏れがあったらしい。
「チッ、なら……!」
 即座に機導剣に切り替え一体を斬り捨てたが、虫どもの進行は止まらない。
「マズい、突破されるぞ!」
 重いマシンガンを構えるステラも、衝突を免れるのが精一杯だった。脇を抜けて行く虫どもを歯噛みして振り返る。
 だが。
 本来ステラが最後衛だったのだが、今虫どもの行く手には玲を確保しに来ていた炎とハンスがいた(玲もいるっちゃいる)。
 虫どもの接近までに間があった二人は迎撃の姿勢をとった。
「まさかこの馬鹿叱りに来た事が功を奏すとは」
「お守りを買って出たお陰ですね」
「お守りって何さぁ! 僕はね、この重い盾さえなかったら逃げ足最速なん――」
 ぷんすかする玲へレーザーが飛ぶ。が、背負っていた盾が弾いた。そう、篝が玲に貸した盾だ。玲、ふるふるしてトランシーバーを握る。
『おっおおねえさぁんっ! 盾ありがとっ、恐いなと思ったけど実は優しいおねえさんだったんだねえぇっ!』
「……役に立ったなら何より」
 篝、言い切って通話も切った。彼女の瞳は空へ向けられている。そして、
「援護するぜ!」
 ステラが虫どもの方へ向き直ろうとするのを引き止める。
「待って、上よ!」
 仰いだステラの目の前で、残っていた八体のクラゲどもが左右に散った。

 丘を飛び越え逃走を図る四体のクラゲを、エルとヴィリーが迎え撃つ。
 二人が危惧していたのはこれだったのだ。警邏隊の役目――侵入者を排除する以外にあるなら、それは仲間への伝達。無論、それも援軍を呼ぶ事で排除に繋がる。
「そちらも陽動とはね、油断は一ミリもできないというヤツだ」
 あの虫どもは恐らく、ハンター達の意識を足元へ向ける為あえて地を這ったのだろう。このクラゲどもを逃す為に。
「けれど通しませんよ」
 エルはワンド「アブルリー」にマテリアルを込め火球を放つ! 朱色の炎がクラゲどもを跡形もなく焼き尽くした。しかし逃れた一匹が丘を越えんと北へ飛ぶ!
「任せて!」
 ヴィリーは既に走り出していた。狂気にとらわれぬよう敵の目から視線を外し、狙いを定める。
「――逃がさないよ。塵は塵に、灰は灰に」
 聖剣が祈りに呼応し生み出した光弾は、過たず敵を屠った。無事丘越えを阻止した二人は、目線を交わし頷きあった。

「やっぱりね。妙なのがいると思ったのよ」
 海上を飛び西の岬に向かうクラゲ達を、 魔導バイク「ソーペルデュ」を駆る篝が追う。四体の内半分が既にステラの銃撃に散っているので、残り二体。番えた龍矢の文様をなぞる。呪紋が光り矢を現すと、ダブルシューティングで一気に撃ち落とす! ほっと息をついた篝へ玲が喚いた。
「絶対いると思ったんだぁ、湾をショートカットしようとするヤツ! 僕ムダに後ろにいたわけじゃないんだよっ」
 応じるのも面倒になった彼女は、人型対応に向かうべく黙ってハンドルをきった。

「びっくりさせてくれましたね」
 クラゲもとい浮遊型を駆逐し終え人型と相対しためいは、レクイエムを奏でるべく集中する。並んだ小夏も、
「うーん、弓の扱いは慣れてないんだよね」
 なんて言いながら、巨大な人型へ貫通の矢をぶち込むべく光の弦をぎりぎり引き絞る。
 驚かされご立腹なのか、彼女達の高まる闘志に、合流したヴィリーは小さく震えた。シガレットの煙草からぽろりと灰が落ちる。
「行動阻害かけますねっ」
「オッケーよろしくー」
「榊さんと妻崎さんも良いですか?」
「いつでも」
「こっちからは抜かせねェよ!」
「やっちゃってー」
 小さな湾にめいのレクイエムが響き渡ると、直後苛烈な剣戟の音が重なった。様々な色のマテリアル光が入り乱れ、硝煙が風に散る。こうなればもう殲滅は時間の問題だった。



「はいはーいお疲れ様っ。回復するね~」
 十数分後、国道上にはハンター達の姿のみがあった。各自の傷や感染を四人の聖導士が癒して回る。手厚い回復術で全員転移時の姿に戻った。
 堤防に腰かけた五郷は、まだ多くの歪虚が徘徊しているのだろう湾の外へ視線を放る。
「……言ったって仕方ねえがよ」
 その呟きに、蒼界出身者達は遠くを見つめた。紅界出身者達も、どこへ行っても続く歪虚との戦いに思いを馳せる。帰還の時を待つ彼らの頭上には、穏やかな青空が素知らぬ顔で広がっていた。

依頼結果

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MVP一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫ka0010
  • 蒼狼奮迅
    妻崎 五郷ka0559
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオンka2434
  • 弓師
    八原 篝ka3104
  • BravePaladin
    ヴィリー・シュトラウスka6706

重体一覧

参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • 蒼狼奮迅
    妻崎 五郷(ka0559
    人間(蒼)|36才|男性|霊闘士
  • Sanctuary
    羊谷 めい(ka0669
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • Rot Jaeger
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ステラ・レッドキャップ(ka5434
人間(クリムゾンウェスト)|14才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/03/13 09:14:11
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/03/11 14:05:36