ゲスト
(ka0000)
ぴょこ、お使いに行く。
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/03/18 19:00
- 完成日
- 2017/03/24 19:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
シャン郡ペリニョン村には、ぴょこという英霊がおわす。
目下黒ロップイヤーのぬいぐるみ(人間大)に憑依しているこの英霊、生前の経歴・年齢・種族・性別・名前、すべて不明。
第一に本人がきれいさっぱり忘れているからだ。
第二に祭っている村人も知らないからだ。
村一番の古老も、『昔々、この地をとても強い歪虚が襲った。そのときどこからともなく颯爽と勇者が現れ、一命を投げ打ち危機を救ってくれた。この地のものはその勇者を称え、祠を作り祭ることにしたのじゃ』という、雑な知識しか持ち合わせていない。
名を名乗るヒマも無く果てたという次第なのか否か。
ろくに記録も残らない片田舎での出来事ということもあり、全ては忘却の彼方なのである。
●
今日も穏やかなペリニョン村。
ぴょこがスペアの赤うさぐるみ、青うさぐるみと一緒にわが身を虫干ししているところに、村長さんがやってきた。
「ぴょこ様、ちょっとご相談があるのですが、よろしいでしょうか」
『うむ。よろしいぞよ。何でも話してみるがよい』
「では……実はですね、村に新しく燻製工場を建てようと思うのです」
『燻製? ハムとかソーセージとかベーコンとかかの』
「はい。新春恒例のたまご祭りを見ても分かりますように、我が村では、養鶏が盛んです。現在は卵も肉もギルドを通して市場に出しているのですが、その一部を村で加工し独自販売を手掛けてみてはという、若手役員からの意見がありまして。で、何を作ろうかということになりまして、相談の結果、保存の効く燻製を作るのがいいんじゃないかという結論に……」
『ほほう。いいんではないかの。いいんではないかの。楽しそうじゃの。燻製工場作るがよい。ぴょこも手伝ってやろうぞ。まずは予定地の地ならしじゃな。完膚無きまでに平たくのし上げるのじゃ! のし上げるのじゃ!』
ノリノリになって跳びはねるぴょこ。
村長は慌てた。
残念ながらぴょこは、ものを作るのにすこぶる向いていない性分。地ならしでもさせた日には、地面そのものを吹き飛ばしてしまいかねない。
「あ、いえ、ぴょこ様には別のことをしていただきたく思いまして」
『む? 別のこととはなんじゃいの』
「はい。燻製を作るのには塩が必要です。なるべく安く、しかし品質は一定水準のものが欲しい。我々八方手を尽くしまして、その両方の要求が満たせるルートを見つけました」
『ほほう。して、それはどこじゃな』
「国境山麓付近にあります、バシリア刑務所です。そこは岩塩鉱山を所有しておりまして。作業に囚人を使っておりますので人件費がほとんどかからない。従って、価格が安く抑えられております。本来は公営ギルドにしか卸していないのですが『商品に刑務所産の塩を使っていることを明記する』との条件つきで、今回特別に個別契約を結んでくださるとのことで――」
●
朝のバシリア刑務所。食堂。
刑務所のまずいパンを仲間と一緒に齧るスペットは、眉間にしわを刻んでいる。
「どうしたい、猫大将。パンに虫でも入ってたか」
「いや、ちょっとな。夢見が悪うてな」
「何だべ。近所の魚屋に追いかけられる夢だべか」
「ちゃうわボケ。元カノや。元カノがちらっと出てきたんや」
「そりゃ、いい夢じゃねえんかい」
「ようない。ええとこで顔が見えへんねん。朝日だか夕日だかで逆光なってん。おまけに髪の毛ふわあってなっててな」
「もしかしてお前の元カノ、よっぽどまずい面してたんじゃね? で、それを無意識に忘れようとしてるから思い出せねえんじゃね?」
「なんやとコラしばくぞボケ!」
「いてーなこのドラ猫!」
食堂の一隅で始まった騒ぎを聞き付け、早速看守がやってくる。
「やめんかそこ! ケンカをするな――」
そこに何の前触れも脈絡もなく、ウサギのぬいぐるみが飛び込んできた。
『おお! 猫か! 猫じゃな! この刑務所には猫が服役していると聞いたが、実際本当に猫じゃな! 癒し殺されるのう! のう!』
もふもふパンチを思う様スペットに浴びせるウサギ。
そこにどやどやとハンターの一団がやってきた。
「ぴょこさん、こんなところで何やってるんですか!」
『うむ、猫と戯れておるのよ』
「刑務所の中勝手に歩き回っちゃ駄目ですって! 戻りますよ」
リプレイ本文
●いってきますペリニョン村
「ぴょこ様のこと、どうぞよろしくお願い致します」
エルバッハ・リオン(ka2434)、天竜寺 詩(ka0396)、ミオレスカ(ka3496)、リナリス・リーカノア(ka5126)に村長が、脱帽して一礼。
『今日は遠出じゃ、遠出じゃ!』
英霊ぴょこはぴょんこぴょんこ跳ね回っている。かなりの躁状態にある模様だ。垂れ耳を揺らしてハンターたちに猛突進。
『ぬお、見たことのある面々がおるではないか! 今日はよろしゅうのう!』
一気に距離を詰められたミオレスカ、気圧されながら挨拶。
「ぴょこさんと言う方なのですね、はじめまして。どこかでお会いしたこと、あるでしょうか?」
『いや、おぬしに関してはないぞよ! もしか会ったことがあるとしても忘れとるでやっぱり初めましてじゃのう! わはははは!』
豪快なぴょこの物言いに、ますます気圧されるミオレスカ。そこで詩が耳打ちする。
「ぴょこはね、忘れっぽいんだ。自分が生きてたときの年齢も種族も性別も名前すら忘れてるの。ぴょこっていうのは、リナリスさんがつけた名前なんだよ」
『そうじゃ、最近つけた名前じゃ! わしは、これがすごーく気にいっとる!』
人事ながらミオレスカは気掛かりになってきた。そんなに何もかも忘れて、困らないものなのだろうか、と。
だがぴょこ自身が塵ほども気にかけていなさそうなので、以下のように考えを改める。
(いえ、些細なことですね)
兎にも角にもハンターたちは英霊を引き取り、目的地のバシリア刑務所まで同行するとした。
それはもう一言で言って、初めて遠足に出掛ける園児を引率するようなもの。一時たりとも目が離せない。
『ほおおおお! これが転移門か!』
「ぴょこさん、待ってー! 手を放さないでー!」
『おおおおお! 車がいっぱいじゃー!』
「飛び出したら轢かれるから!」
『あれはなんじゃ! なんじゃー!』
「ぴょこさん、そろそろ時間ですよ」
『鉄のでかい人形が歩いとるー!』
「あれはね、CAMって言うんだよ、ぴょこ♪」
●やってきましたバシリア
「先にお仕事を済ませないとだよ。刑務所に着いたら、差支えない範囲で色々見せてもらえるよう、職員さんに頼んであげるから」
と詩が言い聞かせたにもかかわらず、気もそぞろなぴょこは刑務所についた途端、どこかに跳ねて行ってしまった。
勝手にあちこち見回る訳には行かないので職員同伴の上、捜索。
詩は廊下の両側にある鉄格子のはまった窓を覗いてみた――誰もいない。
「皆もう仕事してるのかな?」
その質問に職員は、首を振った。
「いや、今は全員食堂に集まっているはずです。朝食時間ですから」
そこに騒ぎ声が聞こえてきた。今言った食堂からのようだ。
リナリスは愉快そうに口笛を吹く。
「鉱山労働で疲れてるはずなのに喧嘩始めるなんて、血の気が多いね~♪」
現場に向かえば丁度ぴょこがスペットに、きぐるみぱんちをしているところ。
『うほほほ、猫じゃ猫じゃ!』
「猫ちゃうわ止めえや! 看守、こいつは何や!」
「わしが知るわけなかろうが!」
詩は急いで止めに入った。
ぴょこの両手を持ち連打を止め、めっと睨む。
「駄目だよ、ぴょこ。無闇やたらに人にパンチを浴びせちゃ。ケガするでしょ」
『ケガせんようにしとるがの』
「してても駄目。英霊たる物毅然としていないと沽券にかかわるよ。ぴょこだって何だアイツ、って見下されるのは嫌でしょ? スペット、大丈夫?」
スペットは、むくれた面で詩に返す。
「朝から気分悪いわホンマに」
ミオレスカがその近くに寄って行き、声をかける。
「スペットさん、お会いしたことがありますね」
顔の毛を直す手を止め、ミオレスカの顔をじっと見るスペット。
「……おー、なんや見たことあんな」
「こんなところにいたとは……無事に更正しているようなら、なによりです――ですよね?」
「さあ、どやろな」
リオンはぴょこの動きが止まっている機会に、さりげなく首後ろを掴んでおいた。またぞろ暴れだしても制御出来るように。
リナリスが囚人たちに聞く。
「そもそも何の騒ぎだったの?」
「ああ、猫大将が夢で元カノを見たとかなんとか言いだしてな。それをこいつがちっとからかったんだよ」
それを聞いた詩は眼を輝かせ、早速スペットを問いただしにかかる。
「え!? 一体どんな姿なの!?」
「どんなちゅうてもなあ、顔が出てきいへん」
「じゃあ、顔以外は? ほら、体型とか、髪の色とか、いろいろあるじゃない?」
「――せやなあ、スタイルごっつええねん。すらっとして乳張っとんし髪は金色で長うてなあ、ふわっとくせがついとんねや」
心なしでれでれした口調になってくるスペットを、喧嘩相手が鼻で笑う。
「それ妄想の産物じゃねえか?」
「妄想ちゃうわ! 実在しとったわ!」
またぞろ喧嘩が始まりそうなところ、ぴょこが割って入った。
『まあそう怒るでない。わしお主を見下したのではないでな。気に障ったらあいすまんの。すまんの』
と言いながらスペットの頭を撫で撫で。
彼も喧嘩相手も、なんだか勢いがそがれたらしい。言い争いはそこまでになった。
ミオレスカがぴょこと手を繋ぐ。
「ぴょこさん、行きましょう。所長さんがお待ちですよ」
リオンがぴょこの向きを変え、リナリスがぴょこの背を押す。
「そうそう、英霊様がいないと交渉が始まらないんだから。それが終わったらあちこち見せて上げるよー」
こうしてぴょこは、半ば強制的に場所移動。
食堂を出て行く間際詩は、スペットに顔を向け、言った。
「でもシータさんの事そこまで思い出せたならきっとあと少しだよ。焦らないでね」
●こんにちは所長さん
『おお、つるつるじゃ。つるつるじゃ。あまりにもつるつるじゃで褒めて遣わすぞよ』
所長の頭をなで回すぴょこ。
リオンはその頭部を、両手で挟み込んだ。そして一回転半ねじ回した。
「ぴょこさん、あまり度が過ぎますと、大事なところを捩じ切りますよ」
『おおおおお? 待て待て。なんか首の継ぎ目がぷちぷち言っとる。ぷちぷち言っとる』
ミオレスカは所長に頭を下げ、全力でフォローする。
「すいませんすいません、あの、ぴょこさんは田舎から出てきたばかりの英霊ですので……」
「大丈夫です。英霊様についての大体のところは、村長さんから事前に聞かされておりますのでな。それはそれとしまして、契約書へのサインを」
落ち着いた人でよかったと安堵する詩は、続けてふと頭に思い浮かんだことを尋ねてみる。
「もしかしてここを題材にした『番外地シリーズ』なんて劇とか作られたりしてません?」
「……いや? そう言った話は初めて聞きますが」
リナリスがぴょこに羽根ペンを渡す。
「英霊様、サインをお願いします♪」
『んむ。よきにはからえ』
頭が後ろに向いたままのぴょこが契約書に、金釘流のサインを書く。
これで一応当初の目的は果たされた。
しかし当然の話。ぴょこがこんなことだけで満足するはずもない。
『では、色々見せてもらうのじゃーー! もらうのじゃー!』
●施設巡り
まずは刑務所の、施設内巡り。案内役の職員を連れて。先程の監房から食堂、浴場、運動場など見て回る。
「英霊として見苦しくないように、節度をもたないと駄目だよ、ぴょこ」
詩が釘を刺すもぴょこ、聞いているのかいないのかスキップ歩行。
「当刑務所は岩塩採掘だけを行わせているのではございませんで。こちらの作業場では囚人の職業訓練も兼ね、戸棚や椅子、机、食器やスプーンなども製造しております。岩塩の袋詰めも、こちらで行っております」
様々な道具や材料が並んでいる作業場に来た途端、ドラマーのごとく金づちで鉄鈷を叩きまくる。
『うほほほ! おもしろいのう!』
続いて天井から下がる荷吊り用の鎖を発見し飛びつき、ブランコ遊び。
糸を解いて四肢をバラバラにしたら少しは大人しくなるんじゃないか……という考えがリオンの頭をよぎる。
「ぴょこ! 危ないから降りておいで!」
詩が呼びかけたところで滑車から鎖が外れ、ぴょこ落下。その上に重い鎖が落ちてくる。
「あーあ、また綿が片寄っちゃって……」
あちこち押したり引っ張ったりして、歪んだぬいぐるみの形を整えてやるリナリス。
その間にミオレスカは、袋に詰められた岩塩を見せてもらっていた。ひとかけ手に取り、鼻を近づける。
「海辺の潮の香りとは、少し違いますね」
それに、色も。うっすら赤みがかっている。
(醤油の普及にも、塩は欠かせないものですし……これでお醤油を作ったら、どうなるのでしょう)
●岩塩坑
「すいません、写真撮ってもいい? 顔出しはしないから」
塩坑に入ったリナリスは了解を得ながら、資料写真を撮りためていく。
働いている人は疎らだ。昼休みだと案内者は言っていたが、ぴょこが来るので予め散らせているのかもしれない。
しかし坑道に入ったぴょこは、意外と静かだった。あんまり跳ねたら天井に当たると分かっているからかもしれないが、ミオレスカに手を引かれ、目につく囚人たちに激励のハグを贈っている。
『ご苦労であるな、ほめて遣わすぞ!』
「いていていておいこらちっと止めろあばらがやばい」
力の加減は相変わらず出来ていないようだが、まあ――これなら大丈夫だろう。
そう見たリオンは引率の場から席を外し、スペットに会いに行った。
「初めまして、エルバッハ・リオンです。よろしければ、エルと呼んでください。よろしくお願いします」「……お願いしますて言われてもなあ……」
看守に付き添われてきたスペットは訝しげに、面会者であるリオンを眺める。
「急に一体何の用や」
「いえ、用というほどの用ではないのですが……これまで幾度かあなたに関する依頼を受けたことはあるのですが、そういえば直に会うのはこれが初めてではないかと。それならきちんと挨拶をしておいた方がいいかと思いまして。いい機会ですから」
スペットに右手を差し出すリオン。
不得要領な顔で喉をかいていたスペットは、しょうがないかと言った具合に握手する。
「しかし、オレに関する依頼てなんや」
「主に指輪がらみでしょうか……そうそう、マゴイさんにもお会いしたことがありますよ」
「ホンマか! なんやあいつ。俺んとこには出てきくさらんくせして」
ぶつぶつ零す彼にリオンは、笑顔を向ける。
「今日は面会に応じていただきありがとうございます。今後、お仕事でご一緒することがありましたら、その時はよろしくお願いします」
●余興もあるよ
刑務所、運動場。
『ほあたたたたたたたたたたあたあ!』
「ムダムダムダムダムダムダぁ!」
目にも留まらぬぴょこのラッシュ。それを受けるリナリス。双方の間を飛び交う、緑に輝く風の軌跡。
「おお、すげえ!」
「いいぞ、ウサギ!」
「そこだ、入れろ!」
血の気の多い囚人たちがスパーリングを取り囲み大盛り上がりしている。
さほど血の気の多くない囚人たちはリナリスの連れてきたコリーのレオと猫のムカリを構っている。
「よーしよしよしよし。動物はいいよなあ。俺も昔は、犬を飼っててな」
こわもての巨漢にからまれたレオは緊張のあまりぶるぶる震え、泣きそうな顔。ミオレスカが一所懸命それをなだめている。
「レオさん、大丈夫ですよ。この人たちは怖くありませんからね」
ムカリはもとよりぐうたらなこともあって、どんなに触られても知らん顔。
しかしさすがに煩くなってきたのか起き上がり、動き出す。それから、スペットの肩の上に飛び乗った――顔からして仲間とでも思ったのかもしれない。
「さー、スパーリング試合はこれにて終了! 続いてはぴょこが、素手でアースウォール割りをするよ!」
『これリナリス、1枚だけでは薄すぎるぞよ』
「おっけー。それじゃ5枚重ねにするよー」
『うむ、このくらいならいいであろう。見るがよい、わしのぴょこたれぱ-んち!』
綿と布で出来た拳から放たれた一撃が一瞬で5枚のアースウォールを突き抜け、塵に返す。突き抜けた衝撃波はそのまま進み、刑務所の壁に到達。どん、という鈍い音を立てた。
巻き起こった突風で砂が舞い上がる。観客の目鼻を襲う。
「うぇっ、げほげほげほ!」
「なんだ、今何がどうなったんだ!」
リオンは看守が激しくむせている脇をこっそり離れ、刑務所の壁を確認した。
幸い、ひびが入ったりはしていない。
よかった。これで建物に疵を入れたなら、今度こそぴょこの首をもぎってお詫びしなればいけないところであった、と胸を撫で下ろす。
『さあ、ここから先はわしとリナリスのボクシング教室じゃ! 我こそはと思うものは名乗りいでるがよい! 鍛え殺してやるでな!』
「頑張った人にはぴょこから、熱烈ハグがもらえるよ! ついでにあたしの投げキッスも♪」
ぴょこのフリーダムさは一体どこから来るのだろう、と詩は怪しむ。
(生前バーサーカーだった、とかなのかな……)
●ただいま
『皆の衆、ただいまなのじゃー! 今戻ったのじゃ、戻ったのじゃ!』
「おお、ぴょこさまお帰りで――お疲れさまでした」
と頭を下げ英霊を迎えた村長は、ささっとハンターたちのもとに寄ってきた。
「……で、首尾の方はいかがでしたか?」
リオンと詩は胸を張って答える。
「大丈夫です。万事私たちがフォローいたしました」
「何度か危ない局面もあったけど、抑え切ったよ」
それを聞いて初めて村長は、肩の力を抜いた。
「そうですか。いや有り難い」
リナリスはそんな彼に、岩塩坑採掘の資料写真を見せる。
「村長さん、これ、商品案内のパンフに載せてみたらどうかな。服役囚が真面目に働いて生産していることを表に出せば売りにもなると思うんだ。刑務所の知名度も上がるし、服役囚のモチベーションも上がる。三方いいことづくめだよ」
ミオレスカはぴょこと手を繋ぎ、『燻製工場予定地』に足を運ぶ。
早くも地ならしが始まっているそこには、多くの建築材が積み上げられている。
「燻製工場とは、素敵な響きですね」
『うむ、素敵じゃ。ソーセージやハムやサラミがどっさりこじゃ』
「村特産の燻製、楽しみにしていますね」
『うむ、楽しみにするがよい。わしも楽しみじゃでな。売って売って売り殺すのじゃ!』
●後日。
後日ハンターたち全員に、村から封書が届いた。
中から出てきたのは、小さなストラップ。鎌と槌が組み合わされた紋章の入る旗と、ぴょこが印刷されている。
同封の手紙にはこうあった。
『当村のオリジナル商標が決まりましたので、お送り致します。ご協力ありがとうございました。追伸:バシリア刑務所では、捨て犬捨て猫の保護活動を始めたそうです。ボクシング教室も新設されたそうです。ぴょこ様はトレーナーとして、出張されたいとの由。今のところは皆で止めていますが、止め切れなかったらそのときはどうか、また力をお貸しくださいませ。』
「ぴょこ様のこと、どうぞよろしくお願い致します」
エルバッハ・リオン(ka2434)、天竜寺 詩(ka0396)、ミオレスカ(ka3496)、リナリス・リーカノア(ka5126)に村長が、脱帽して一礼。
『今日は遠出じゃ、遠出じゃ!』
英霊ぴょこはぴょんこぴょんこ跳ね回っている。かなりの躁状態にある模様だ。垂れ耳を揺らしてハンターたちに猛突進。
『ぬお、見たことのある面々がおるではないか! 今日はよろしゅうのう!』
一気に距離を詰められたミオレスカ、気圧されながら挨拶。
「ぴょこさんと言う方なのですね、はじめまして。どこかでお会いしたこと、あるでしょうか?」
『いや、おぬしに関してはないぞよ! もしか会ったことがあるとしても忘れとるでやっぱり初めましてじゃのう! わはははは!』
豪快なぴょこの物言いに、ますます気圧されるミオレスカ。そこで詩が耳打ちする。
「ぴょこはね、忘れっぽいんだ。自分が生きてたときの年齢も種族も性別も名前すら忘れてるの。ぴょこっていうのは、リナリスさんがつけた名前なんだよ」
『そうじゃ、最近つけた名前じゃ! わしは、これがすごーく気にいっとる!』
人事ながらミオレスカは気掛かりになってきた。そんなに何もかも忘れて、困らないものなのだろうか、と。
だがぴょこ自身が塵ほども気にかけていなさそうなので、以下のように考えを改める。
(いえ、些細なことですね)
兎にも角にもハンターたちは英霊を引き取り、目的地のバシリア刑務所まで同行するとした。
それはもう一言で言って、初めて遠足に出掛ける園児を引率するようなもの。一時たりとも目が離せない。
『ほおおおお! これが転移門か!』
「ぴょこさん、待ってー! 手を放さないでー!」
『おおおおお! 車がいっぱいじゃー!』
「飛び出したら轢かれるから!」
『あれはなんじゃ! なんじゃー!』
「ぴょこさん、そろそろ時間ですよ」
『鉄のでかい人形が歩いとるー!』
「あれはね、CAMって言うんだよ、ぴょこ♪」
●やってきましたバシリア
「先にお仕事を済ませないとだよ。刑務所に着いたら、差支えない範囲で色々見せてもらえるよう、職員さんに頼んであげるから」
と詩が言い聞かせたにもかかわらず、気もそぞろなぴょこは刑務所についた途端、どこかに跳ねて行ってしまった。
勝手にあちこち見回る訳には行かないので職員同伴の上、捜索。
詩は廊下の両側にある鉄格子のはまった窓を覗いてみた――誰もいない。
「皆もう仕事してるのかな?」
その質問に職員は、首を振った。
「いや、今は全員食堂に集まっているはずです。朝食時間ですから」
そこに騒ぎ声が聞こえてきた。今言った食堂からのようだ。
リナリスは愉快そうに口笛を吹く。
「鉱山労働で疲れてるはずなのに喧嘩始めるなんて、血の気が多いね~♪」
現場に向かえば丁度ぴょこがスペットに、きぐるみぱんちをしているところ。
『うほほほ、猫じゃ猫じゃ!』
「猫ちゃうわ止めえや! 看守、こいつは何や!」
「わしが知るわけなかろうが!」
詩は急いで止めに入った。
ぴょこの両手を持ち連打を止め、めっと睨む。
「駄目だよ、ぴょこ。無闇やたらに人にパンチを浴びせちゃ。ケガするでしょ」
『ケガせんようにしとるがの』
「してても駄目。英霊たる物毅然としていないと沽券にかかわるよ。ぴょこだって何だアイツ、って見下されるのは嫌でしょ? スペット、大丈夫?」
スペットは、むくれた面で詩に返す。
「朝から気分悪いわホンマに」
ミオレスカがその近くに寄って行き、声をかける。
「スペットさん、お会いしたことがありますね」
顔の毛を直す手を止め、ミオレスカの顔をじっと見るスペット。
「……おー、なんや見たことあんな」
「こんなところにいたとは……無事に更正しているようなら、なによりです――ですよね?」
「さあ、どやろな」
リオンはぴょこの動きが止まっている機会に、さりげなく首後ろを掴んでおいた。またぞろ暴れだしても制御出来るように。
リナリスが囚人たちに聞く。
「そもそも何の騒ぎだったの?」
「ああ、猫大将が夢で元カノを見たとかなんとか言いだしてな。それをこいつがちっとからかったんだよ」
それを聞いた詩は眼を輝かせ、早速スペットを問いただしにかかる。
「え!? 一体どんな姿なの!?」
「どんなちゅうてもなあ、顔が出てきいへん」
「じゃあ、顔以外は? ほら、体型とか、髪の色とか、いろいろあるじゃない?」
「――せやなあ、スタイルごっつええねん。すらっとして乳張っとんし髪は金色で長うてなあ、ふわっとくせがついとんねや」
心なしでれでれした口調になってくるスペットを、喧嘩相手が鼻で笑う。
「それ妄想の産物じゃねえか?」
「妄想ちゃうわ! 実在しとったわ!」
またぞろ喧嘩が始まりそうなところ、ぴょこが割って入った。
『まあそう怒るでない。わしお主を見下したのではないでな。気に障ったらあいすまんの。すまんの』
と言いながらスペットの頭を撫で撫で。
彼も喧嘩相手も、なんだか勢いがそがれたらしい。言い争いはそこまでになった。
ミオレスカがぴょこと手を繋ぐ。
「ぴょこさん、行きましょう。所長さんがお待ちですよ」
リオンがぴょこの向きを変え、リナリスがぴょこの背を押す。
「そうそう、英霊様がいないと交渉が始まらないんだから。それが終わったらあちこち見せて上げるよー」
こうしてぴょこは、半ば強制的に場所移動。
食堂を出て行く間際詩は、スペットに顔を向け、言った。
「でもシータさんの事そこまで思い出せたならきっとあと少しだよ。焦らないでね」
●こんにちは所長さん
『おお、つるつるじゃ。つるつるじゃ。あまりにもつるつるじゃで褒めて遣わすぞよ』
所長の頭をなで回すぴょこ。
リオンはその頭部を、両手で挟み込んだ。そして一回転半ねじ回した。
「ぴょこさん、あまり度が過ぎますと、大事なところを捩じ切りますよ」
『おおおおお? 待て待て。なんか首の継ぎ目がぷちぷち言っとる。ぷちぷち言っとる』
ミオレスカは所長に頭を下げ、全力でフォローする。
「すいませんすいません、あの、ぴょこさんは田舎から出てきたばかりの英霊ですので……」
「大丈夫です。英霊様についての大体のところは、村長さんから事前に聞かされておりますのでな。それはそれとしまして、契約書へのサインを」
落ち着いた人でよかったと安堵する詩は、続けてふと頭に思い浮かんだことを尋ねてみる。
「もしかしてここを題材にした『番外地シリーズ』なんて劇とか作られたりしてません?」
「……いや? そう言った話は初めて聞きますが」
リナリスがぴょこに羽根ペンを渡す。
「英霊様、サインをお願いします♪」
『んむ。よきにはからえ』
頭が後ろに向いたままのぴょこが契約書に、金釘流のサインを書く。
これで一応当初の目的は果たされた。
しかし当然の話。ぴょこがこんなことだけで満足するはずもない。
『では、色々見せてもらうのじゃーー! もらうのじゃー!』
●施設巡り
まずは刑務所の、施設内巡り。案内役の職員を連れて。先程の監房から食堂、浴場、運動場など見て回る。
「英霊として見苦しくないように、節度をもたないと駄目だよ、ぴょこ」
詩が釘を刺すもぴょこ、聞いているのかいないのかスキップ歩行。
「当刑務所は岩塩採掘だけを行わせているのではございませんで。こちらの作業場では囚人の職業訓練も兼ね、戸棚や椅子、机、食器やスプーンなども製造しております。岩塩の袋詰めも、こちらで行っております」
様々な道具や材料が並んでいる作業場に来た途端、ドラマーのごとく金づちで鉄鈷を叩きまくる。
『うほほほ! おもしろいのう!』
続いて天井から下がる荷吊り用の鎖を発見し飛びつき、ブランコ遊び。
糸を解いて四肢をバラバラにしたら少しは大人しくなるんじゃないか……という考えがリオンの頭をよぎる。
「ぴょこ! 危ないから降りておいで!」
詩が呼びかけたところで滑車から鎖が外れ、ぴょこ落下。その上に重い鎖が落ちてくる。
「あーあ、また綿が片寄っちゃって……」
あちこち押したり引っ張ったりして、歪んだぬいぐるみの形を整えてやるリナリス。
その間にミオレスカは、袋に詰められた岩塩を見せてもらっていた。ひとかけ手に取り、鼻を近づける。
「海辺の潮の香りとは、少し違いますね」
それに、色も。うっすら赤みがかっている。
(醤油の普及にも、塩は欠かせないものですし……これでお醤油を作ったら、どうなるのでしょう)
●岩塩坑
「すいません、写真撮ってもいい? 顔出しはしないから」
塩坑に入ったリナリスは了解を得ながら、資料写真を撮りためていく。
働いている人は疎らだ。昼休みだと案内者は言っていたが、ぴょこが来るので予め散らせているのかもしれない。
しかし坑道に入ったぴょこは、意外と静かだった。あんまり跳ねたら天井に当たると分かっているからかもしれないが、ミオレスカに手を引かれ、目につく囚人たちに激励のハグを贈っている。
『ご苦労であるな、ほめて遣わすぞ!』
「いていていておいこらちっと止めろあばらがやばい」
力の加減は相変わらず出来ていないようだが、まあ――これなら大丈夫だろう。
そう見たリオンは引率の場から席を外し、スペットに会いに行った。
「初めまして、エルバッハ・リオンです。よろしければ、エルと呼んでください。よろしくお願いします」「……お願いしますて言われてもなあ……」
看守に付き添われてきたスペットは訝しげに、面会者であるリオンを眺める。
「急に一体何の用や」
「いえ、用というほどの用ではないのですが……これまで幾度かあなたに関する依頼を受けたことはあるのですが、そういえば直に会うのはこれが初めてではないかと。それならきちんと挨拶をしておいた方がいいかと思いまして。いい機会ですから」
スペットに右手を差し出すリオン。
不得要領な顔で喉をかいていたスペットは、しょうがないかと言った具合に握手する。
「しかし、オレに関する依頼てなんや」
「主に指輪がらみでしょうか……そうそう、マゴイさんにもお会いしたことがありますよ」
「ホンマか! なんやあいつ。俺んとこには出てきくさらんくせして」
ぶつぶつ零す彼にリオンは、笑顔を向ける。
「今日は面会に応じていただきありがとうございます。今後、お仕事でご一緒することがありましたら、その時はよろしくお願いします」
●余興もあるよ
刑務所、運動場。
『ほあたたたたたたたたたたあたあ!』
「ムダムダムダムダムダムダぁ!」
目にも留まらぬぴょこのラッシュ。それを受けるリナリス。双方の間を飛び交う、緑に輝く風の軌跡。
「おお、すげえ!」
「いいぞ、ウサギ!」
「そこだ、入れろ!」
血の気の多い囚人たちがスパーリングを取り囲み大盛り上がりしている。
さほど血の気の多くない囚人たちはリナリスの連れてきたコリーのレオと猫のムカリを構っている。
「よーしよしよしよし。動物はいいよなあ。俺も昔は、犬を飼っててな」
こわもての巨漢にからまれたレオは緊張のあまりぶるぶる震え、泣きそうな顔。ミオレスカが一所懸命それをなだめている。
「レオさん、大丈夫ですよ。この人たちは怖くありませんからね」
ムカリはもとよりぐうたらなこともあって、どんなに触られても知らん顔。
しかしさすがに煩くなってきたのか起き上がり、動き出す。それから、スペットの肩の上に飛び乗った――顔からして仲間とでも思ったのかもしれない。
「さー、スパーリング試合はこれにて終了! 続いてはぴょこが、素手でアースウォール割りをするよ!」
『これリナリス、1枚だけでは薄すぎるぞよ』
「おっけー。それじゃ5枚重ねにするよー」
『うむ、このくらいならいいであろう。見るがよい、わしのぴょこたれぱ-んち!』
綿と布で出来た拳から放たれた一撃が一瞬で5枚のアースウォールを突き抜け、塵に返す。突き抜けた衝撃波はそのまま進み、刑務所の壁に到達。どん、という鈍い音を立てた。
巻き起こった突風で砂が舞い上がる。観客の目鼻を襲う。
「うぇっ、げほげほげほ!」
「なんだ、今何がどうなったんだ!」
リオンは看守が激しくむせている脇をこっそり離れ、刑務所の壁を確認した。
幸い、ひびが入ったりはしていない。
よかった。これで建物に疵を入れたなら、今度こそぴょこの首をもぎってお詫びしなればいけないところであった、と胸を撫で下ろす。
『さあ、ここから先はわしとリナリスのボクシング教室じゃ! 我こそはと思うものは名乗りいでるがよい! 鍛え殺してやるでな!』
「頑張った人にはぴょこから、熱烈ハグがもらえるよ! ついでにあたしの投げキッスも♪」
ぴょこのフリーダムさは一体どこから来るのだろう、と詩は怪しむ。
(生前バーサーカーだった、とかなのかな……)
●ただいま
『皆の衆、ただいまなのじゃー! 今戻ったのじゃ、戻ったのじゃ!』
「おお、ぴょこさまお帰りで――お疲れさまでした」
と頭を下げ英霊を迎えた村長は、ささっとハンターたちのもとに寄ってきた。
「……で、首尾の方はいかがでしたか?」
リオンと詩は胸を張って答える。
「大丈夫です。万事私たちがフォローいたしました」
「何度か危ない局面もあったけど、抑え切ったよ」
それを聞いて初めて村長は、肩の力を抜いた。
「そうですか。いや有り難い」
リナリスはそんな彼に、岩塩坑採掘の資料写真を見せる。
「村長さん、これ、商品案内のパンフに載せてみたらどうかな。服役囚が真面目に働いて生産していることを表に出せば売りにもなると思うんだ。刑務所の知名度も上がるし、服役囚のモチベーションも上がる。三方いいことづくめだよ」
ミオレスカはぴょこと手を繋ぎ、『燻製工場予定地』に足を運ぶ。
早くも地ならしが始まっているそこには、多くの建築材が積み上げられている。
「燻製工場とは、素敵な響きですね」
『うむ、素敵じゃ。ソーセージやハムやサラミがどっさりこじゃ』
「村特産の燻製、楽しみにしていますね」
『うむ、楽しみにするがよい。わしも楽しみじゃでな。売って売って売り殺すのじゃ!』
●後日。
後日ハンターたち全員に、村から封書が届いた。
中から出てきたのは、小さなストラップ。鎌と槌が組み合わされた紋章の入る旗と、ぴょこが印刷されている。
同封の手紙にはこうあった。
『当村のオリジナル商標が決まりましたので、お送り致します。ご協力ありがとうございました。追伸:バシリア刑務所では、捨て犬捨て猫の保護活動を始めたそうです。ボクシング教室も新設されたそうです。ぴょこ様はトレーナーとして、出張されたいとの由。今のところは皆で止めていますが、止め切れなかったらそのときはどうか、また力をお貸しくださいませ。』
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/18 17:29:17 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/03/17 21:00:52 |