• 界冥

【界冥】イカロスの翼 ~持たざる者~

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/03/13 19:00
完成日
2017/03/20 20:36

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 函館クラスタ殲滅のため、北海道への上陸を目指す統一連合軍は、VOIDが作り出した松前要塞を攻略する作戦に出る。
 松前要塞は複数の生体マテリアル砲を有し、その圧倒的な射程距離で北海道への上陸を目指す人類軍の障害となっていた。
 この排除の為、異世界戦力……すなわちハンターを用いた松前要塞の攻略戦が行われる事となった。
「もうじき敵の砲撃圏内に入るぞ!」
「本当にこんなシールドで砲撃に耐えられるのかよ……」
 整備員が慌ただしく走り回る中、篠原神薙は空母の甲板に立ち、水平線の向こうの北海道を見つめていた。
 歩兵戦力を松前要塞に送り込む為に、あえて艦隊は敵砲撃圏内に突入。
 マテリアルシールドで攻撃を受け止めながら北上し、松前要塞よりはるか北の江差町への上陸を目指す。
 そう、これは捨て身の陽動だ。こちらへ敵戦力と攻撃が集中している間に別働隊が奇襲を仕掛け、松前要塞を落とす。
 言葉にすれば単純だが、その間この艦隊は敵の攻撃に耐えながら北を目指さねばならない。
「異世界人はもう何百年もVOIDと戦争をしているから、命を投げ打つ作戦には慣れていると聞いた」
 声をかけながら近づいてくるのは神薙と同じような背格好の少年だ。
 軍用の特殊なスーツとヘルメットから素顔は窺い知れない。
「だが、異世界に転移した地球人はそうではないらしい」
「そうだね。俺は戦いが怖いよ。何度戦場に立っても、慣れる事はないみたいだ」
 潮風に髪を揺らす神薙の横顔を見つめ、軍人らしき少年は鼻を鳴らす。
「お前、日本人か」
「国籍はね。でも、俺はコロニーでの暮らしの方が長いから」
「そうか。コロニーはその半分近くが既にVOIDに滅ぼされた。今じゃクラスタ化して奴らの拠点になっているところもある。地球より宇宙の方が状況はずっと悪い。なのに統一連合軍はこんな意味のない戦いに手を焼いている」
「意味がないだって?」
「そうだ。日本の戦線は平穏なものだ。世界全体に比べれば取るに足らない。この世界には、もっと他にお前たちの力を必要としている人々がいる」
 少年の言葉は抑揚もなくきわめて冷静だった。しかし、どこかもどかしさや熱を感じられる。
「俺達とお前たちの違いはなんだ? 特別な力を持つ者と、そうではない者。救われる者と救われない者。神様ってやつは何の権利があって、世界に不平等を強いる?」
「君は……」
『残り10分ほどで艦隊は敵拠点の射程圏内に入ります! シールド展開準備! CAMパイロットは起動プロセスを開始してください!』
 若い女性オペレーターの声が響き渡ると、少年は踵を返し走り出す。
「統一連合軍は、君みたいな子供を戦場に投入しているのか!?」
「俺の住んでいたコロニーは、VOIDに破壊された」
 一度足を止め、少年は振り返る。
「元々少年兵なんか珍しいものじゃない。ただ状況が変わって、それが少し目につきやすくなっただけだ」
 走り去った少年は甲板に膝を着いていた黒いエクスシアに乗り込む。
 武装は手にしていない。傍らに横たわっていた、機体の全長にも等しい巨大なシールドを両手で支えている。
『松前要塞は高所にある。敵の砲撃は甲板上で防御可能だ。逆に言えば、何もしなければ艦が沈むより先にお前らが蒸発する事になる。せいぜい身体を張って艦を守るんだな』
 黒いエクスシアのスピーカーから聞こえる声に神薙は眉を潜める。
「言われなくたって、守ってやるさ。誰の命も使わずに……」
 そう呟いた直後、遠方から飛来した眩い光が艦隊の一つに突き刺さった。
 艦そのものも試作型のマテリアルシールドで守られている。だが、それでも被害は抑えきれず、友軍艦の甲板に火の手が上がった。
『4番艦に着弾! シールド出力38%に低下!』
『マテリアルシールドなら防げるんじゃなかったのか!?』
『試作品だって言っただろ! CAM隊のシールド急げ!』
「誰の命も使わずに、か……」
 黒いエクスシアのコクピットで少年は苦笑する。
 そんなモノは理想論だ。ここは戦場で、戦えば誰かが死ぬ。
 VOIDはそんなに優しくない。あいつらは生物ですらない。
 本能だけでただ生物を殺し、環境を壊す。良心の呵責も、目的すらない。
 コロニーへの攻撃で、何十万、何百万という人々が犠牲になった。
「必ず代償を支払わせてやる」
 その為には“力”が要る。
 異世界人は“力”をもたらしてくれる。今は彼らと行動を共にし守ることが、VOIDを滅ぼす事に繋がる。
 松前要塞にも函館クラスタにも日本にも興味はない。
 だが、今は“力”の芽を摘ませるわけにはいかなかった。

リプレイ本文

「あれが松前キャノン……?」
 双眼鏡を覗き込む水城もなか(ka3532)が見たのは、山間に聳える巨大なVOIDだ。
 そう、松前キャノンの正体は変質した一種のVOID。つまりあれは生体兵器なのだ。
 50近い砲門はぐねぐねと蠢く触手でもある。それら一つ一つが、統一連合艦隊を砲撃している。
「成程。ここまで破格の性能とは……北海道上陸が阻まれるわけです」
「松前要塞には……Z04が向かっていましたね。彼女を援護するためにも全力を尽くしましょう……」
 ルーファス(ka5250)は操縦桿を確かめるように強く握り直す。
 あの要塞には仲間たちが攻略に向かっている。背後からの攻撃で要塞が沈黙すれば、あの生体兵器も停止する道理。
「函館クラスタ攻略の第一歩だ。みんな! この作戦、絶対に成功させてやろう! まずは俺だ、このシールドがどれ程の物か……確かめる!」
 近衛 惣助(ka0510)は愛機「真改」の両手で巨大なシールドを構え、敵側に移動する。
 この専用のマテリアルシールドがあれば、松前キャノンにも耐えられる見込みだ。
 松前キャノンは50門もの要塞砲。それこそ雨のように海を進む艦隊へと降り注ぐ。
 紫色の太いレーザーが艦の近くに着弾し、海水を巻き上げる。それが何度か続くと、ハンターらが乗る艦にも光が飛来した。
 惣助はこれを問題なくマテリアルシールドで防ぐ。まばゆい閃光はレーザーを霧散させる。
「まさかCAMで要塞砲を受け止める事になるとはな……だが、耐えられる! いいぞ、いくらでも撃って来い!」
 結論から言うと、ハンターらのCAMは十二分の防御性能を持っていた。
 松前キャノンの威力は苛烈だが、彼らのCAMはシールドを使えば十分耐えることが可能。
 このマテリアルシールドは艦についているものと理屈は同じ。つまり、一つのシールドで連続して受けると防御性能が下がっていく。
 だがハンターらはシールド持ちをローテーションさせ、より長く攻撃に耐える準備があった。
「流石惣助さん、防御は問題ないようですね。……全機警戒してください! 敵VOID第一陣、来ます!」
 もなかに言われるまでもない。要塞からおびただしい数の黒点が空を埋め尽くさんと吹き上がる。
 それらはまるで渦巻く奔流のように、連合艦隊へ襲いかかろうとしていた。
「DADーZ09、サジタリウスのグシスナウタル……小隊とゾディアックの中で最も優れた狙撃手と呼んでくれたメンバーの皆の為にも、全力で行きますっ!」
 ルーファスはまず射程の長いスナイパーライフルで迎撃を開始。
 グシスナウタルに自身のマテリアルを共鳴させ、更に能力を高めていく。
「スキルトレース開始。補助脚展開、シューターシステム、FCS起動。キューピィ、風速や波のデータの計測は随時手伝ってね。ゼーエン最大望遠モードでセット。狙撃用環境データ演算開始……行きます!」
 照準を合わせ、ルーファスの指とグシスナウタルの指がシンクロする。
 放たれた弾丸は真っ直ぐにVOIDの群れを貫く。特に狙いは大型の個体だ。
 まだ敵はこちらを射程に収めていない。一方的な迎撃である。
 それが敵の興味を引いたのか、多くのVOIDがハンターらを目指してくる。
「松前キャノンの再装填を確認! 次が来ます!」
「っしゃあ! 次は俺の番だぜ! んで、これは専用の盾ないと死にそうなの?」
「松前キャノンはかなり威力があるからな。シールドも何度も使うと壊れるくらいだ」
「ちぇ、仕方ねぇな~。こんな所で命捨てるつもりもねぇし、使ってやるか」
 松前キャノンに膨れ上がる紫色の光。それが吹き出すと同時に、空を無数の光の線が覆う。
 紫月・海斗(ka0788)は専用のシールドを構え、エクスシアでこの攻撃を受け止める。
「うほーっ、すっげぇ眩しいぜぇ! 皆生きてっかぁ!?」
「この艦に問題はありません。でも……」
『こちら8番艦、シールド出力40%を切った!』
『6番艦、シールドが破壊された……これ以上は持たん!』
 ハンターの居ない艦隊にとって松前キャノンの威力は高すぎる。
 CAMの性能差もあるが、パイロットの技量に雲泥の差があるのだ。
「ブリッジに進言します! 艦をもっと陸地に寄せて下さい!」
『なんだって!?』
「私達が一番攻撃に耐えられるんです。このままでは作戦が成功しても、多くの艦が落とされます!」
 もなかはそう言って無線機を片手に神薙を一瞥する。
「神薙さんの『誰の命も使わずに』という言葉良いと思います。有言実行できるようあたしもお手伝いしましょう」
「水城さん……でも、皆に危険が……」
「俺たちなら大丈夫だ。ローテーションを組めば何発でも耐えられるさ。艦長、やってくれ!」
 惣助は力強い言葉と共にコクピットでぐっと親指を立てる。
 実際、彼らに問題はない。今回の戦いでおよそ想定できる限りのトラブルを回避できるだろう。
『承知した。これより我が艦は被弾の多い4番艦を支援しつつ前に出る!』
「次の砲撃が来ます! 艦長、回避を!」
 もなかの声に回頭しつつ海上を進む艦、その上を鍛島 霧絵(ka3074)のデュミナスがスラスターで疾走する。
 角度が変わり、キャノンの着弾面が変わっても、彼女は冷静に砲撃を見極めていた。
「無茶な作戦ね。でも……この砲撃が本隊に向けられないのはいい事だわ」
 僅かに口元を緩め、霧絵は跳んだ。
 そしてシールドで松前キャノンの光の中へと飛び込んだ。
 覆い尽くされる視界を突き抜けるようにシールドで弾き飛ばし、再び甲板に着地する。
「そうね……どうせなら、誰も死なない方がいい。さて……出来る事をしましょうか」
 そしていよいよVOIDの大群と接敵する。VOIDらが放つレーザーが艦のバリアに弾かれ、しかし衝撃と共にバリアが減衰する。
「次の砲撃は俺が受ける。あんた達は迎撃を頼む」
 OF-004の搭乗した黒いエクスシアがシールドを手に移動する。すれ違いながら海斗は口笛を吹いた。
「何だあのエクスシア……黒とかカッケェなおい! 俺も早くカスタマイズしてぇなー」
「CAMのカスタマイズはいいぜぇ? なぁ、『赤龍』!」
 リュー・グランフェスト(ka2419)はエクスシアにマテリアルの炎を纏わせていく。
「うおおおお! 一体たりとも、近づけねえ! エクスシア『赤龍』……いくぜぃ!」
 マシンガンを撃ちながら走る赤龍。スキルトレースで纏ったマテリアルの光に引かれ、VOIDが群がってくる。
 それこそがリューの狙い。シールド発生機のある艦の中央から端へ移動し、敵を誘導したのだ。
「へっ、ごっそり来やがった! 一箇所に集める! あとよろしく!」
 リューは自前の盾を構えつつ、マテリアルカーテンを広げ艦への着弾を防ぐ。
「こんな状態では外す理由がありませんね。全データ統合、照準補正完了……マルチロック――ファイア!」
 ルーファスはカノン砲を次々に放ち、VOIDの群れに大穴を穿つ。
 視界に入る敵を次々に左右の銃でロックし、引き金を引きまくる。銃弾は吸い込まれるように目玉を吹き飛ばしていく。
 海斗はスキルトレースの力をマテリアルライフルに伝達。デルタレイを帯びたライフルによる三方向拡散射撃でVOIDを迎撃する。
「オラオラァ! 異世界人様の力を思い知りやがれ! こっちはビームいっぱい出るんですぅー!」
「装置に近寄るなよVOID、船ごと蒸発なんて御免だからな」
 アサルトライフルでVOIDを迎撃する惣助。そうしている間に松前キャノンをOF-004が受け止める。
「皆、一度受け止めたら後退して機体チェックと回復に専念してくれ」
「俺は問題ない……それより次が来るぞ」
 OF-004に言われるまでもない。今やこの艦は最も松前要塞に近づこうとしている。
「黒いエクスシアのパイロットさん……さっきの声からするとボクと同じ少年兵でしょうか? すみません、もう少し敵の注意を惹きます。仲間があの要塞の前で踏ん張っているもので」
「変わっているな、お前たちは。わざわざ危険な戦いを選ぶとは」
 応答にルーファスは苦笑を浮かべる。
「言ったでしょう? 仲間のためですよ。それにVOIDは野放しにしちゃいけないんです」
「……それは同感だな」
 群がるVOIDに黒いエクスシアはマテリアルカーテンを広げ、ルーファスを守る。
 そしてルーファスはカーテンの内側から迫るVOIDを撃ち抜いた。
「守ってくれてありがとう……ボクの方は大丈夫です。これでも怖い悪竜や邪神とも、正面から何度もやりあっていますから」
「勘違いするな。お前たちに死なれると俺が困る……それだけだ」
 こうしてハンター達は砲撃をローテーションで受け止めつつ、迫るVOIDを撃破していく。
 その活躍は想定以上のもので、この艦の活躍で被弾した友軍艦は無事に離脱していく。
 だが、その中にひとつ取り残された艦があった。特に損傷の大きかった4番艦だ。
『こちら4番艦……もう持たない! 我々は艦を放棄する……!』
「了解です、こちらで受け入れます! ……誰か、私を4番艦に投げてください!」
「え……? 投げるの?」
 引き金を引きながら首を傾げる霧絵。もなかは仲間のCAMに手を振っている。
「4番艦のシールドはまだ生きています。シールド装置を防衛すれば、脱出した乗組員を収容するまでの囮と盾に使えます!」
「なるほど。そういう事なら俺も!」
「お前たちだけ行って何が出来る? ……乗れ」
 膝をついて手を伸ばしてきたのはOF-004のエクスシアだった。
「ありがとうございます、OF-004……コードネームなのはわかりますが、呼びづらいですね」
「無駄口を叩いていると舌を噛むぞ」
 黒いエクスシアは二人を乗せてアクティブスラスターを全開し、跳躍する。
 隣接していた4番艦に着地すると、シールド発生機に群がる敵へ駆け寄り、もなかが次々にナイフで切り裂いていく。
 VOIDの接触までシールド発生機では防げない。群がる敵集団へ神薙と共に切り込んでいく。
「黒いの、なかなか思い切ったことするじゃねぇか! っとぉ……うじゃうじゃと邪魔なんだっつーの!」
 海斗のエクスシアはポレモスを変形させ剣と成す。
 そこへスキルトレースで纏わせた火炎を振るい、近づくVOIDを薙ぎ払った。
「ここからでも十分支援可能です。仲間のために全ての銃身が焼け落ちるまで、ボクはお前達狂気を滅ぼし続ける!」
 ルーファスは4番艦へ向かうVOIDも狙撃で撃墜。長い射程で全体を良くカバーしていた。
「よし、いい感じだ……! 皆うまく攻撃をさばけている!」
 惣助が更に松前キャノンの砲撃をシールドで受け止める。そろそろシールドにもガタが来始めたが、機体の自前の装甲もあり、まだまだ耐えられる。
「ただの歩兵だったのに、いつの間にかCAMに乗って……人生は不思議だわ」
 イースクラの先端にマテリアルの刃を形成し、霧絵は巨大な目玉のVOIDを両断する。
「まだ調整は甘いと思っていたけれど……この程度のVOID相手ならば、今の私でも十分」
 更に銃に変形させたイースクラとマシンガンを左右の手に構え、飛来する目玉めがけて撃ちまくる。
「船の上を行ったり来たり、走ってビームを打ち返すたぁ、なんか楽しくなってくるなぁ!」
 前方に立ちふさがるVOID。これを巨大シールドで殴り飛ばす。
「はぁーい!シールドホームラーーーン!! からの、ディフェーーーンス!」
 松前キャノンをシールドで受け止める。この作業をうまく継続できたのは、VOIDの邪魔が少なかったから。
 ローテーションやシールド持ちの数で砲撃防御をうまくさばけていたのは勿論だが、リューが細々とした攻撃を引き受けてくれたのが大きい。
 それが不測の事態を防ぐことにつながり、安定した防御を実現してた。
「防御班は今回の要だからな……邪魔はさせねぇんだよ!」
 群がるVOIDの中からスラスターで跳躍した赤龍は斬機刀を両手で握り締め、マテリアルの炎を纏って空を突き抜ける。
「纏めて薙ぎ払ってやるよ! 紋章剣、“天槍”! 食い破れ、赤龍――!!」
 群がるVOIDを次々に粉砕し、火花を散らしながら看板に着地する赤龍は、腕を振るいまるでマントを靡かせるようにオーラを振り払う。
「この俺の目が黒いうちは、仲間は一人もやらせねぇ!」
『4番艦の乗組員の救助を完了した! 諸君らの尽力に感謝する! 作戦の刻限は既に過ぎた……本艦も戦域を離脱するぞ!』
「水城さん、俺達も戻りましょう!」
「ぼさっとするな……乗れ!」
 再びOF-004のエクスシアの手に乗り、もなかは空を渡る。
 だが、離脱を開始した艦までの距離は行きよりも開いていた。
「こ、これは……もしかして微妙に届かない!?」
 神薙が青ざめた様子でつぶやき、OF-004が舌打ちする声が通信機に聞こえる。
 だが次の瞬間、惣助の機体が腕を伸ばし、黒いエクスシアの手を掴んだ。
 手にしていた神薙ともなかを先に甲板に下ろすと、手を借りてOF-004も無事によじ登ることができた。

 陽動作戦は無事に完了した。後は松前要塞に潜入した別働隊の活躍次第だ。
 だが、少なくとも松前キャノンの迎撃に晒される事はなく陸地にたどり着けたはずだ。
「帰ってきたのね……」
 甲板に降り立った霧絵は潮風に靡く髪を抑えながら遠い陸地を見つめる。
 巨大な鉄の塊、空母の上での戦いとはいえ、ここは地球。
「ずっとはいられないけれど、それでも嬉しいわ」
「にしても松前キャノン、か……。あー、松前漬け食いてぇー」
 海斗の言葉に僅かに眉を寄せる霧絵。
「熱々白米と一緒にかっこみてぇー。俺たちだいぶ上手くやったしよ、報酬に海の幸食べ放題とかさせてくんねーかなー」
「滞在時間には制限があるから、どうかしらね」
 ここからの予定は時間制限で強制帰還が始まるまではこのまま艦隊が北上するのに同行する。
「しかし、篠原が異世界人扱いであるように、俺たちも同じ扱いか……」
 惣助の言葉の通り、この艦の人たちからの扱いは“異世界人”という様相だ。
 勿論、今回の大活躍の成果もあり、悪い意味ではない。
 だが、まるでこの世界の一員ではないと言われているようで複雑な心境だった。
「早いとこVOIDを片付けて、大手を振って帰還したいものだな」
「へっ、んなもん悩んだってしょうがないぜ。人種なんかノリだ、ノリ」
「彼らに異質な存在になってしまったことは事実でしょうね。私もあんなにCAMを動かせる自分に違和感を覚えるほどだもの……」
 自らの掌をじっと見つめる霧絵。そう、昔とは違うのだ。立場も、手にした力も。
「俺はリュー。リュー・グランフェストだ。ナイスファイトだったな。これからもよろしく頼む」
 黒いエクスシアから降りてきた少年へリューは握手を求めるように手を差し出す。
 少年は少し考えた後、その手を真っ直ぐに握り返した。
「あんたは無茶をしたな」
「そりゃお互い様だろ?」
 ニカっと晴れやかに笑い、それからリューは目を瞑る。
「俺は異世界人だが、死ぬのは怖いさ。当たり前じゃねぇ? ……ま、お前はまるで死ぬのなんか怖くないって感じだけどな」
 ぱっと手を放し、リューは真剣な様子で少年を見つめる。
 これまで何度も“命を捨てて闘う者”を見てきたリューだからこそわかる。
「命を放り捨てるのとは違うんだぜ。怯えて逃げて、何もかも失うのは死ぬより怖い。だから闘う……それが覚悟、勇気ってもんだろ?」
「その通りだ。俺は……逃げてはいけない時に……逃げてしまったから」
「でも、キミはボクたちを守ってくれましたよね。悪い人じゃないなって……そう思いました」
 おずおずと申し出るルーファス。OF-004は重苦しいヘルメットを外し、相変わらずぶっきらぼうな……しかしどこか優しげな眼差しをルーファスへ向ける。
「少年兵というのは複雑なものも感じますが、協力していけるといいですね」
「そうですね……」
 惣助の言葉にもなかは目つきを鋭くさせる。
 確かに、悪い人間ではないように思う。だがOF-004は諜報員。異世界人監視のために送り込まれた人材だ。
 自分が以前似たような仕事をしていただけに、頭から信用するのは危険に思えた。
「お、お前……その顔……!?」
 驚きの声を上げたのは神薙だ。ヘルメットを脇に抱えたOF-004は髪を靡かせながら神薙と向き合う。
「マコト……なのか?」
 問いに答えず、少年は艦を見渡す。
「聞いたか、神薙? 今回の作戦は、かなりの犠牲を想定していた。なのに負傷者はあれど、作戦の戦死者は……ゼロだった。やっぱり特別な力があるやつってのは凄いよな。正直、羨ましいよ」
 再びヘルメットをかぶり、呆然とする神薙とすれ違う。
「――どうして、俺達のコロニーがやられた時に……来てくれなかったんだ?」
 ハンターらはこの戦いで英雄的な活躍を残し、統一連合軍の兵たちに大いに感謝された。
 名も無き兵士たちの命を救ったハンターの戦場は、更に北の大地へと続いていく……。

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MVP一覧

  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェストka2419

重体一覧

参加者一覧

  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    シンカイ
    真改(ka0510unit002
    ユニット|CAM
  • 自爆王
    紫月・海斗(ka0788
    人間(蒼)|30才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ツキウミ
    月海(ka0788unit003
    ユニット|CAM
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ロート
    紅龍(ka2419unit003
    ユニット|CAM
  • 話上手な先生
    鍛島 霧絵(ka3074
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    マドウガタデュミナス
    魔導型デュミナス(ka3074unit001
    ユニット|CAM
  • 特務偵察兵
    水城もなか(ka3532
    人間(蒼)|22才|女性|疾影士
  • 竜鱗穿つ
    ルーファス(ka5250
    人間(蒼)|10才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    サジタリウス/グシスナウタル
    【Sgr】グシスナウタル(ka5250unit004
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
近衛 惣助(ka0510
人間(リアルブルー)|28才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/03/13 12:25:36
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/03/10 08:36:12