ゲスト
(ka0000)
想い出を守り抜け!
マスター:玖田蘭

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/19 07:30
- 完成日
- 2014/10/27 07:06
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
幼い頃は広く感じた家も、こうして大人になって見回してみると随分狭く感じた。両親が二人で慎ましく暮らしているのならこの広さでもいいだろうが、そこに成人の自分が加わっているところを想像するとひどく窮屈なように思える。
暖炉とちょっとした寝具を除いて空っぽになった家を見回して、青年はそっと溜息をついた。父が死んで十年間この家を守ってくれた母も、つい半年前に他界してしまった。この村から随分と離れた別の街に住んでいる青年は突然の知らせに取るものも取らずこの田舎町に帰ってきて、それからずっと葬儀屋やら遺品整理やらで忙しく動き回っていたのだ。
「残ったのはこれだけか……」
家財道具も古いものは捨てて、買い手がついたものは売った。子供の頃の思い出は鮮やかで大切なものだったが、一人暮らしの青年に大きな茶箪笥や柱時計は必要なかった。
残ったのは、母が生前大事にしていた金色のブローチと、子供のころ読み聞かせてもらった絵本だけ。三日後の出立までは少し時間があるから、少し酒場で飲んでいこう。
幼馴染みの経営する小さな酒場を思い浮かべて、青年はうっすらと微笑みを浮かべた。
●
「え、この界隈に、雑魔が出るってのかい?」
狭いながらも人々の笑い声であふれかえる酒場に、素っ頓狂な声が響いた。情報通で知られるこの店のマスターは、日に焼けた顔を少し陰らせて声を落とした。
「おうよ、なんでもこう、白いトカゲみてぇな形をした雑魔でな、ちっこいのは人間の子供くらいの大きさで、こう、四足でベタベタ這ってくるらしい。その癖な、とんでもなく跳ぶって聞いたぜ。お前の背丈なんかひとっ跳びとかなんとか」
「小さいのってことは、大きいのもいるんだね……?」
マスターにつられて声を落とした青年の顔に、汗が一筋流れた。ゴクリと唾を飲み込むと、マスターが大仰に首を振る。
「俺は話を聞いただけだけどよ、何でも親分格は大人一人分の大きさがあるらしい。ヤツは身体がデカくて跳べねぇみたいだが、この前も街から来た旅人が怪我をさせられたんだ。ありゃあ酷かったぜ、顔に大火傷と引っ掻き傷、体には殴られた痕もあったんだ。ヤツら武器は持ってなかったみたいだが、尻尾で殴られたり、爪でもって引っ掻いてくるらしい」
青年はもう、周りの喧騒など気にならなくなっていた。
――大人一人分の大トカゲなんて冗談じゃない。
ぶるりと体を震わせた青年だったが、ふとあることに気が付いたらしい。
「僕は街から乗合馬車でここまで来たんだ。けど雑魔なんて出なかったし……」
「それがよ、なんでも出るのは決まって夜らしい。お前、おふくろさんが死んで飛んできたのは朝方だったじゃねぇか。命拾いしたなぁ。きっとおふくろさんが守ってくれたんだぜ」
あの時は夕方に報せを聞いて、とにかく無我夢中で村に向かう馬車に乗り込んだのだ。村から自宅まで、よほど早朝に家を出ない限りはどうやっても雑魔の出没する時間帯と重なってしまう。
「ど、どうしたらいいんだぁ……」
青年は小刻みにぶるぶると震えだした。酒の味は、もう分かりそうもない。
●
「以上が、今回の依頼内容の概略です。この小さな村から彼の住む街までの道は、山あいの古びた道が一本。街に着くまで、周囲は殆ど森に囲まれています」
ぱら、と依頼書を捲る音がする。
「トカゲ型の雑魔は大型のものが一体で、小型のものが十体程度だと報告が上がっています。武器の所持等は確認されていません。なお、大型のトカゲは口から炎を吐き出す模様。小型のものは炎こそ吐き出しませんが鋭い爪と高い跳躍力を持ち、双方とも主に太い尻尾で攻撃をしてくるようです」
淡々と依頼書を読み上げる受付嬢は、さして表情を変えることなくその情報を付け足した。先日襲われたという、哀れな旅人からの証言である。
「これに留意し、依頼人本人とお母様の遺品を無事ご自宅まで送り届けてください」
幼い頃は広く感じた家も、こうして大人になって見回してみると随分狭く感じた。両親が二人で慎ましく暮らしているのならこの広さでもいいだろうが、そこに成人の自分が加わっているところを想像するとひどく窮屈なように思える。
暖炉とちょっとした寝具を除いて空っぽになった家を見回して、青年はそっと溜息をついた。父が死んで十年間この家を守ってくれた母も、つい半年前に他界してしまった。この村から随分と離れた別の街に住んでいる青年は突然の知らせに取るものも取らずこの田舎町に帰ってきて、それからずっと葬儀屋やら遺品整理やらで忙しく動き回っていたのだ。
「残ったのはこれだけか……」
家財道具も古いものは捨てて、買い手がついたものは売った。子供の頃の思い出は鮮やかで大切なものだったが、一人暮らしの青年に大きな茶箪笥や柱時計は必要なかった。
残ったのは、母が生前大事にしていた金色のブローチと、子供のころ読み聞かせてもらった絵本だけ。三日後の出立までは少し時間があるから、少し酒場で飲んでいこう。
幼馴染みの経営する小さな酒場を思い浮かべて、青年はうっすらと微笑みを浮かべた。
●
「え、この界隈に、雑魔が出るってのかい?」
狭いながらも人々の笑い声であふれかえる酒場に、素っ頓狂な声が響いた。情報通で知られるこの店のマスターは、日に焼けた顔を少し陰らせて声を落とした。
「おうよ、なんでもこう、白いトカゲみてぇな形をした雑魔でな、ちっこいのは人間の子供くらいの大きさで、こう、四足でベタベタ這ってくるらしい。その癖な、とんでもなく跳ぶって聞いたぜ。お前の背丈なんかひとっ跳びとかなんとか」
「小さいのってことは、大きいのもいるんだね……?」
マスターにつられて声を落とした青年の顔に、汗が一筋流れた。ゴクリと唾を飲み込むと、マスターが大仰に首を振る。
「俺は話を聞いただけだけどよ、何でも親分格は大人一人分の大きさがあるらしい。ヤツは身体がデカくて跳べねぇみたいだが、この前も街から来た旅人が怪我をさせられたんだ。ありゃあ酷かったぜ、顔に大火傷と引っ掻き傷、体には殴られた痕もあったんだ。ヤツら武器は持ってなかったみたいだが、尻尾で殴られたり、爪でもって引っ掻いてくるらしい」
青年はもう、周りの喧騒など気にならなくなっていた。
――大人一人分の大トカゲなんて冗談じゃない。
ぶるりと体を震わせた青年だったが、ふとあることに気が付いたらしい。
「僕は街から乗合馬車でここまで来たんだ。けど雑魔なんて出なかったし……」
「それがよ、なんでも出るのは決まって夜らしい。お前、おふくろさんが死んで飛んできたのは朝方だったじゃねぇか。命拾いしたなぁ。きっとおふくろさんが守ってくれたんだぜ」
あの時は夕方に報せを聞いて、とにかく無我夢中で村に向かう馬車に乗り込んだのだ。村から自宅まで、よほど早朝に家を出ない限りはどうやっても雑魔の出没する時間帯と重なってしまう。
「ど、どうしたらいいんだぁ……」
青年は小刻みにぶるぶると震えだした。酒の味は、もう分かりそうもない。
●
「以上が、今回の依頼内容の概略です。この小さな村から彼の住む街までの道は、山あいの古びた道が一本。街に着くまで、周囲は殆ど森に囲まれています」
ぱら、と依頼書を捲る音がする。
「トカゲ型の雑魔は大型のものが一体で、小型のものが十体程度だと報告が上がっています。武器の所持等は確認されていません。なお、大型のトカゲは口から炎を吐き出す模様。小型のものは炎こそ吐き出しませんが鋭い爪と高い跳躍力を持ち、双方とも主に太い尻尾で攻撃をしてくるようです」
淡々と依頼書を読み上げる受付嬢は、さして表情を変えることなくその情報を付け足した。先日襲われたという、哀れな旅人からの証言である。
「これに留意し、依頼人本人とお母様の遺品を無事ご自宅まで送り届けてください」
リプレイ本文
●
一定のリズムを刻み夜道を行く馬車の中。
青年は、小さくなっていた。
「安心するがよい、大王たるこのボクと仲間たちできっと貴殿を守り抜いてみせよう!」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は頼もしく頷いて、今にも卒倒しそうなほど青ざめた顔の青年に向かって笑顔を向けた。夜の闇すらも照らし出すような彼女の笑顔に安心したのか、青年はほうっと息を吐いた。
「せっかくの退屈な移動時間、怯えるだけじゃもったいないわよ?」
いっそ面白いほど震えていた青年に向かって、十色 エニア(ka0370)もそう笑いかける。もっとも、青年が小さくなっているのはそれだけではなかった。馬車の中に自分しか男がいないと思いこんでいるのだ。
「大丈夫だって! そんな顔しなくてもちゃんと守るからさ」
アーシェ・ネイラス(ka1066)にも励まされて、青年は顔を赤くしながらもほんの少しだけ笑みをこぼした。
一方、馬車の外では松岡 奈加(ka0988)が自ら引き連れる馬の上から、ミネット・ベアール(ka3282)が馬車の屋根からそれぞれ索敵を続けていた。
先ほどからシャインを使い闇を照らしている奈加の耳に、エニアの声が飛び込んできた。
「奈加さんお疲れ様――私もこっち側を見てみるね」
馬車の中から身を乗り出したエニアが、身軽にミネットのいる馬車の屋根へと飛び移った。手に握られているのはLEDライトだ。
「ありがとう十色さん。ミネットさんも、寒くない?」
奈加の言葉に、エニアが首を横に振る。
「ううん、夜風はなんか好き。……流石に、ちょっと寒いけど」
ミネットも破顔一笑すると、元気に応えを返した。
「平気です! 奈加さんとエニアさんのおかげで、かなり道も見やすくなりました。これなら、敵の気配を感じたらすぐに弓を放つことが出来ます」
そんな会話から、どれくらい経っただろうか。ゴトゴトと揺れる馬車の上で、ミネットがハッと顔を上げた。
「います……多分、かなり近くに――皆さん、攻撃の準備をお願いします!」
その言葉を受け取ったエニアと奈加が、それぞれ頷いた。光に照らされてのそのそと這い出てくるのは、白いトカゲだ。
「他にも潜んでるかも。ミネットさん、探すの手伝うね!」
奈加がすばやく他の敵を探している間に、エニアはミュージカルノートを使って馬車の中のメンバーに危険を知らせる。
馬車が、止まった。
「距離があるうちに一匹でも多く仕留めましょう!」
ガサガサと、道の傍らの茂みが音を立てる。這いずるように出てきた一匹のトカゲに矢を放ちながら、ミネットはそう叫んだ。
「暗闇からのお迎えだよ! 消え去れ!」
一匹認識できれば後はぞろぞろとその後をついて出てくる。奈加が最も距離のある一体をシャドウブリットで弾き飛ばした頃、武器を携えたディアドラとアーシェが馬車から飛び出してきた。
●
「各自前衛と後衛に別れよ! ボクは前へ出る!」
遠距離攻撃の為にデリンジャーを構えたディアドラは、果敢に前へ出てその引き金を引いた。幾つかはなった銃弾のうち一発が、トカゲの脳天を捉えた。ひっくり返ったトカゲが動かなくなったのを確認して、ディアドラは武器をグラディウスに持ち替えた。
「わたしもいくよ! はあぁぁぁっ!」
リボルビングソーを構えたアーシェが、一気に踏み込む。早くも跳躍を始めたトカゲのうち、最も馬車に近い一匹を見つけると一気に駆けだした。
「こういう小さいのは苦手なんだよね――っと!」
ギュルギュル回る刃が、アーシェのマテリアルに呼応するようにさらに高く唸りを上げた。一気に振り下ろせば、耳につくような声を上げたトカゲはそのまま真っ二つになった。
「む、まずいぞ」
ディアドラが思わず固い声を上げた。トカゲが一匹、今にも馬車に近づこうとしている。それを見つけたディアドラに、アーシェが頷いた。
「次はアレだね……!」
何としても馬車の中にいる依頼人だけは守らなくてはならない。二人は即座に駆け出した。
「待て!」
まずディアドラが踏み込み前に出ると、グラディウスで強い一撃を浴びせる。一度は足を踏ん張り攻撃に耐えたトカゲだったが、彼女の強撃が続くととうとうひっくり返ってしまった。足をバタバタさせているトカゲに、すかさずアーシェが一閃――言葉はなかったが、まるで示し合わせたかのような鮮やかな手際で二人はトカゲをもう一体討伐してみせた。
●
「ぞろぞろ出てきたわね……これでどうかしら!」
五匹ほど連れ立って出てきたトカゲに、エニアがスリープクラウドを食らわせる。その内の二匹が眠ってしまったため、足並みが崩れた。
奈加が追撃するようにシャドウブリットを食らわせ、そこにエニアのウォーターシュートが畳みかけるように炸裂する。前衛の手の届かない敵のうち、二体をそうして撃退した。
大型のトカゲはまだ姿を現さないが、小型のものがこれだけ前へ出てきているということはそう遠くにはいないはずだ。索敵を続ける奈加は、上手く馬車を通すことが出来ないかを考えていた。
「どう、奈加さん……」
馬車を守るように戦う前衛の二人を視界に端に入れながら、エニアが問う。
「大型のトカゲの居場所さえ分かれば動きやすいんだけど……」
その隙にも、トカゲは飛んだり跳ねたりしながら馬車に近づいてくる。奈加は小さく首を横に振ると決意したように顔を上げた。
「馬車単独で通すのは危険だね。私達で守り抜こう」
それだけ言うと、傷ついた前衛組の回復をすると言って奈加は走って行ってしまった。後には、中衛として陣形を把握するエニアと馬車を中心に矢を放つ後衛のミネットが残った。
「依頼者さん、大丈夫ですよ! 全部終わったら美味しいものを食べましょう!」
馬車の中の依頼者を必死に励まし続けるミネットが、弓を引き絞る。今にも馬車に襲い掛かろうとする一匹のトカゲに向かって、思い切り矢を放つ。幾ら相手が跳ぼうと、鳥でもない限り空中では避けることも方向を変えることも出来ない。馬車の中で震えているであろう青年のことを考えながらも、ミネットは今しがた倒したトカゲをどうやって食べるかを考えていた。戦闘中に倒れたトカゲたちを探すようなことはしないが、もしかしたらとんでもないご馳走かもしれない。
丸焼き、塩ゆで、或いは煮込み――ゴクリと喉を鳴らしながらも警戒は怠らず、ミネットはさらに元気に青年に話しかけた。幾らか、これで彼が安心してくれればいいのだが。
「もう少しですよ! ですから、気をしっかり持ってくださいね!」
一方その頃、面々の回復に乗り出した奈加は、前衛であるディアドラが負った掠り傷を治癒していた。同じく前線で戦い続けているアーシェも細かい傷を幾つか負っていたが、彼女は自らマテリアルヒーリングを使うとまたリボルビングソーを担いで戦いに行ってしまった。
「はい、これで大丈夫よ! とはいえ応急処置だから、怪我には気を付けてね」
「恩に着るぞ奈加! 少しはトカゲの数も減らせたか……」
「うん……けど問題は、大きな方がまだ出てきてないってことなんだけどね」
前衛で三匹、後衛で四匹のトカゲを倒し、残るトカゲはあと三体。だが何よりも警戒すべきなのは、大型のトカゲの攻撃力が未知数だということだ。
尻尾と炎を武器にする大トカゲがいつ姿を現すかが分からない以上、気を抜けない――そんなことを考えているところで、二人はズシンという妙な揺れを感じた。
顔を見合わせたディアドラと奈加は、それぞれの武器を握る手に力を込める。
どうやら、親分のご登場らしい。
●
ズシン、と、それが一歩足を踏み出すごとに大地が揺れるようだった。のっしのっしと緩慢な動きでやってくる白いトカゲは、明らかにこれまで撃退してきたものよりも大きい。
「やっと出てきたみたいね」
ぽつりとエニアが言い放つ。
今眼前にいる雑魔は、小型のものが三匹に大型のものが一匹。突撃して倒せない数ではない。もっとも、警戒すべきは大型のトカゲが吐くと言われる炎なのだが。
「小さい方はわたしたちに任せてよ!」
更に刃の回転を速くさせたアーシェのリボルビングソーが、近くのトカゲに向かってギラリときらめいた。飛びかかるトカゲの爪を腕で受け止めながら、刃を振り下ろす。
「馬車には近づかせないよ!」
残る二匹のうち一匹に焦点を合わせた奈加が、再びシャドウブリッドを放つ。吹き飛ばされたトカゲが動かなくなるのを確認する間もなく、素早く踏み込んだディアドラがグラディウスを振り上げる。
ディアドラの真っ直ぐな性格同様、一つも歪むことのない一閃がトカゲの胴体を真っ二つにする――その場にいた誰もがそう思っていた。
「なぁっ……!」
誰よりも驚いたのは、剣を振るったディアドラだった。ディアドラの剣を避ける形で跳躍したトカゲが、太い尾を叩きつけるような姿勢をとる。
「ぐっ……」
「させないわよ!」
鋭い声が上がったのはその時だ。エニアのウィンドガストが、トカゲを捉える。逸らされた攻撃をディアドラが上手く避けると、今度こそ高く剣を振り上げ、勢いよく下ろした。
真っ二つになったトカゲを見て、ディアドラが深く息を吐く。
「間一髪ってところね」
「恩に着るぞ……うむ、助かった」
これで厄介な小型トカゲはすべて退けた。残るはあの、大きなトカゲ一匹を倒すのみだ。
●
「これは……大物です!」
馬車の屋根から降りたミネットが、ゴクリと喉を鳴らす。これまで倒したトカゲたちも十分ご馳走だが、この大トカゲを食べられたら――いやいや、今はトカゲの討伐が最優先である。頭を振ると、弓を引き絞り遠射を試みる。
「炎と尻尾に気を付けて――あんまり近いと黒焦げだよ!」
奈加が注意を促す。十分な距離をとった攻撃でないと、下手にこちらが傷ついてしまう恐れがあった。
「大丈夫、こっちに引き付けるよ」
声と共に、エニアのウォーターシュートが炸裂する。それまで緩慢な動作で這っていたトカゲの目が、明らかにエニアを睨み付ける。
どうやら、意識をエニアに向けることには成功したようだ。
グルグルと喉を鳴らす大トカゲに向かって続いて勇敢に刃を向けたのはアーシェだった。
「ふぅっ!」
呼気と共に得物を振り回して立ち向かうアーシェにエニアに気を取られていたトカゲが尾を振り回した。
「アーシェ!」
叫んだのは誰だっただろうか。
大木の様な尻尾がアーシェの行く手を阻むが、彼女はそれに臆することなく刃をかざす。ドワーフ仕込みの怪力でもって、思い切りそれを振り下ろす――。
――ギァァァァァッ!
地を割る様なトカゲの絶叫が森の中に響く。思わず耳を塞ぎたくなるような叫び声だったが、ハンターたちはそれに怯むことはない。
「援護します!」
アネットの威勢のいい宣言の後、まるで雨のように矢が降り注ぐ。それに少なからず動きを鈍らせたトカゲは、煩わしげに動きを止めて一度上体をのけぞらせた。
ただ、その時だった。情けない悲鳴が馬車の中から上がる。どうやら、大トカゲを見てしまったらしい青年が思わず声を上げてしまったようだ。あまりに大きな悲鳴に、トカゲの視線もそちらに向かう。
「いけない、依頼者さんが!」
今まさに炎を吐き出さんとするトカゲの意識を何とか逸らさねばならない。奈加がすぐ青年の元へ駆けた。
「任せよ! エニア、もう一度頼む!」
ディアドラが叫んだ。
「わかったわ!」
もう一度、今度は敵を引きつける分だけの球体の水をエニアが放つ。マテリアルが込められたそれに、トカゲの意識は防衛へと傾いたようだ。溜めた息を勢い良く、炎と共に吐き出す。注意を引きつけるためのウォーターシュートはあっさり破られ地面が焼けこげるが、その中でもディアドラは何度もトカゲに斬りかかった。トカゲの体が、ぐらりと傾く。
「そろそろだね。皆下がって、一気に終わらせるわよ!」
その時誰もが彼女の背に翼を見た。九枚の美しい翼が、一瞬だけ暗闇に浮かび上がる。
高出力のウォーターシュートが、燃え広がろうとする炎もろともトカゲの体を飲み込んだ。
「やった!」
ウォーターシュートの効果はその場に残らない。目を剥いてひっくり返った大トカゲに、一同が安堵の息を吐いた。
「あぁ! トカゲが……」
緊迫した状況が過ぎ去ったためか、ややあってミネットが声を上げた。先程倒したはずのトカゲの姿が消えているのだ。大型のものも、小型のものも、その影も形もない。てっきりトカゲを美味しく頂けると思っていたミネットは、がっくりと肩を落とした。
「食べられないだなんて、残念です……」
無駄な殺生を好まないミネットに、周囲が僅かに笑みをこぼした。こればかりは仕方がない。
だがこれで、馬車の中で奈加に宥められながらガタガタと震えている情けない青年と、思い出の品は守られた。顔をぐしゃぐしゃにしながら馬車から降りてきた青年に一同は笑顔を向けた。
「もう大丈夫だよ。家まではその絵本とブローチの思い出を聞かせてほしいなっ」
彼についていた奈加も、笑みを浮かべたままだ。ようやく涙を拭いた青年が、皆につられて小さく笑顔を浮かべる。無事だったのだ。家族の思い出も、自分自身も。
彼を守るように首から下げられたブローチは、僅かに白んできた空の光に当てられ優しくきらめいていた。
一定のリズムを刻み夜道を行く馬車の中。
青年は、小さくなっていた。
「安心するがよい、大王たるこのボクと仲間たちできっと貴殿を守り抜いてみせよう!」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は頼もしく頷いて、今にも卒倒しそうなほど青ざめた顔の青年に向かって笑顔を向けた。夜の闇すらも照らし出すような彼女の笑顔に安心したのか、青年はほうっと息を吐いた。
「せっかくの退屈な移動時間、怯えるだけじゃもったいないわよ?」
いっそ面白いほど震えていた青年に向かって、十色 エニア(ka0370)もそう笑いかける。もっとも、青年が小さくなっているのはそれだけではなかった。馬車の中に自分しか男がいないと思いこんでいるのだ。
「大丈夫だって! そんな顔しなくてもちゃんと守るからさ」
アーシェ・ネイラス(ka1066)にも励まされて、青年は顔を赤くしながらもほんの少しだけ笑みをこぼした。
一方、馬車の外では松岡 奈加(ka0988)が自ら引き連れる馬の上から、ミネット・ベアール(ka3282)が馬車の屋根からそれぞれ索敵を続けていた。
先ほどからシャインを使い闇を照らしている奈加の耳に、エニアの声が飛び込んできた。
「奈加さんお疲れ様――私もこっち側を見てみるね」
馬車の中から身を乗り出したエニアが、身軽にミネットのいる馬車の屋根へと飛び移った。手に握られているのはLEDライトだ。
「ありがとう十色さん。ミネットさんも、寒くない?」
奈加の言葉に、エニアが首を横に振る。
「ううん、夜風はなんか好き。……流石に、ちょっと寒いけど」
ミネットも破顔一笑すると、元気に応えを返した。
「平気です! 奈加さんとエニアさんのおかげで、かなり道も見やすくなりました。これなら、敵の気配を感じたらすぐに弓を放つことが出来ます」
そんな会話から、どれくらい経っただろうか。ゴトゴトと揺れる馬車の上で、ミネットがハッと顔を上げた。
「います……多分、かなり近くに――皆さん、攻撃の準備をお願いします!」
その言葉を受け取ったエニアと奈加が、それぞれ頷いた。光に照らされてのそのそと這い出てくるのは、白いトカゲだ。
「他にも潜んでるかも。ミネットさん、探すの手伝うね!」
奈加がすばやく他の敵を探している間に、エニアはミュージカルノートを使って馬車の中のメンバーに危険を知らせる。
馬車が、止まった。
「距離があるうちに一匹でも多く仕留めましょう!」
ガサガサと、道の傍らの茂みが音を立てる。這いずるように出てきた一匹のトカゲに矢を放ちながら、ミネットはそう叫んだ。
「暗闇からのお迎えだよ! 消え去れ!」
一匹認識できれば後はぞろぞろとその後をついて出てくる。奈加が最も距離のある一体をシャドウブリットで弾き飛ばした頃、武器を携えたディアドラとアーシェが馬車から飛び出してきた。
●
「各自前衛と後衛に別れよ! ボクは前へ出る!」
遠距離攻撃の為にデリンジャーを構えたディアドラは、果敢に前へ出てその引き金を引いた。幾つかはなった銃弾のうち一発が、トカゲの脳天を捉えた。ひっくり返ったトカゲが動かなくなったのを確認して、ディアドラは武器をグラディウスに持ち替えた。
「わたしもいくよ! はあぁぁぁっ!」
リボルビングソーを構えたアーシェが、一気に踏み込む。早くも跳躍を始めたトカゲのうち、最も馬車に近い一匹を見つけると一気に駆けだした。
「こういう小さいのは苦手なんだよね――っと!」
ギュルギュル回る刃が、アーシェのマテリアルに呼応するようにさらに高く唸りを上げた。一気に振り下ろせば、耳につくような声を上げたトカゲはそのまま真っ二つになった。
「む、まずいぞ」
ディアドラが思わず固い声を上げた。トカゲが一匹、今にも馬車に近づこうとしている。それを見つけたディアドラに、アーシェが頷いた。
「次はアレだね……!」
何としても馬車の中にいる依頼人だけは守らなくてはならない。二人は即座に駆け出した。
「待て!」
まずディアドラが踏み込み前に出ると、グラディウスで強い一撃を浴びせる。一度は足を踏ん張り攻撃に耐えたトカゲだったが、彼女の強撃が続くととうとうひっくり返ってしまった。足をバタバタさせているトカゲに、すかさずアーシェが一閃――言葉はなかったが、まるで示し合わせたかのような鮮やかな手際で二人はトカゲをもう一体討伐してみせた。
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「ぞろぞろ出てきたわね……これでどうかしら!」
五匹ほど連れ立って出てきたトカゲに、エニアがスリープクラウドを食らわせる。その内の二匹が眠ってしまったため、足並みが崩れた。
奈加が追撃するようにシャドウブリットを食らわせ、そこにエニアのウォーターシュートが畳みかけるように炸裂する。前衛の手の届かない敵のうち、二体をそうして撃退した。
大型のトカゲはまだ姿を現さないが、小型のものがこれだけ前へ出てきているということはそう遠くにはいないはずだ。索敵を続ける奈加は、上手く馬車を通すことが出来ないかを考えていた。
「どう、奈加さん……」
馬車を守るように戦う前衛の二人を視界に端に入れながら、エニアが問う。
「大型のトカゲの居場所さえ分かれば動きやすいんだけど……」
その隙にも、トカゲは飛んだり跳ねたりしながら馬車に近づいてくる。奈加は小さく首を横に振ると決意したように顔を上げた。
「馬車単独で通すのは危険だね。私達で守り抜こう」
それだけ言うと、傷ついた前衛組の回復をすると言って奈加は走って行ってしまった。後には、中衛として陣形を把握するエニアと馬車を中心に矢を放つ後衛のミネットが残った。
「依頼者さん、大丈夫ですよ! 全部終わったら美味しいものを食べましょう!」
馬車の中の依頼者を必死に励まし続けるミネットが、弓を引き絞る。今にも馬車に襲い掛かろうとする一匹のトカゲに向かって、思い切り矢を放つ。幾ら相手が跳ぼうと、鳥でもない限り空中では避けることも方向を変えることも出来ない。馬車の中で震えているであろう青年のことを考えながらも、ミネットは今しがた倒したトカゲをどうやって食べるかを考えていた。戦闘中に倒れたトカゲたちを探すようなことはしないが、もしかしたらとんでもないご馳走かもしれない。
丸焼き、塩ゆで、或いは煮込み――ゴクリと喉を鳴らしながらも警戒は怠らず、ミネットはさらに元気に青年に話しかけた。幾らか、これで彼が安心してくれればいいのだが。
「もう少しですよ! ですから、気をしっかり持ってくださいね!」
一方その頃、面々の回復に乗り出した奈加は、前衛であるディアドラが負った掠り傷を治癒していた。同じく前線で戦い続けているアーシェも細かい傷を幾つか負っていたが、彼女は自らマテリアルヒーリングを使うとまたリボルビングソーを担いで戦いに行ってしまった。
「はい、これで大丈夫よ! とはいえ応急処置だから、怪我には気を付けてね」
「恩に着るぞ奈加! 少しはトカゲの数も減らせたか……」
「うん……けど問題は、大きな方がまだ出てきてないってことなんだけどね」
前衛で三匹、後衛で四匹のトカゲを倒し、残るトカゲはあと三体。だが何よりも警戒すべきなのは、大型のトカゲの攻撃力が未知数だということだ。
尻尾と炎を武器にする大トカゲがいつ姿を現すかが分からない以上、気を抜けない――そんなことを考えているところで、二人はズシンという妙な揺れを感じた。
顔を見合わせたディアドラと奈加は、それぞれの武器を握る手に力を込める。
どうやら、親分のご登場らしい。
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ズシン、と、それが一歩足を踏み出すごとに大地が揺れるようだった。のっしのっしと緩慢な動きでやってくる白いトカゲは、明らかにこれまで撃退してきたものよりも大きい。
「やっと出てきたみたいね」
ぽつりとエニアが言い放つ。
今眼前にいる雑魔は、小型のものが三匹に大型のものが一匹。突撃して倒せない数ではない。もっとも、警戒すべきは大型のトカゲが吐くと言われる炎なのだが。
「小さい方はわたしたちに任せてよ!」
更に刃の回転を速くさせたアーシェのリボルビングソーが、近くのトカゲに向かってギラリときらめいた。飛びかかるトカゲの爪を腕で受け止めながら、刃を振り下ろす。
「馬車には近づかせないよ!」
残る二匹のうち一匹に焦点を合わせた奈加が、再びシャドウブリッドを放つ。吹き飛ばされたトカゲが動かなくなるのを確認する間もなく、素早く踏み込んだディアドラがグラディウスを振り上げる。
ディアドラの真っ直ぐな性格同様、一つも歪むことのない一閃がトカゲの胴体を真っ二つにする――その場にいた誰もがそう思っていた。
「なぁっ……!」
誰よりも驚いたのは、剣を振るったディアドラだった。ディアドラの剣を避ける形で跳躍したトカゲが、太い尾を叩きつけるような姿勢をとる。
「ぐっ……」
「させないわよ!」
鋭い声が上がったのはその時だ。エニアのウィンドガストが、トカゲを捉える。逸らされた攻撃をディアドラが上手く避けると、今度こそ高く剣を振り上げ、勢いよく下ろした。
真っ二つになったトカゲを見て、ディアドラが深く息を吐く。
「間一髪ってところね」
「恩に着るぞ……うむ、助かった」
これで厄介な小型トカゲはすべて退けた。残るはあの、大きなトカゲ一匹を倒すのみだ。
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「これは……大物です!」
馬車の屋根から降りたミネットが、ゴクリと喉を鳴らす。これまで倒したトカゲたちも十分ご馳走だが、この大トカゲを食べられたら――いやいや、今はトカゲの討伐が最優先である。頭を振ると、弓を引き絞り遠射を試みる。
「炎と尻尾に気を付けて――あんまり近いと黒焦げだよ!」
奈加が注意を促す。十分な距離をとった攻撃でないと、下手にこちらが傷ついてしまう恐れがあった。
「大丈夫、こっちに引き付けるよ」
声と共に、エニアのウォーターシュートが炸裂する。それまで緩慢な動作で這っていたトカゲの目が、明らかにエニアを睨み付ける。
どうやら、意識をエニアに向けることには成功したようだ。
グルグルと喉を鳴らす大トカゲに向かって続いて勇敢に刃を向けたのはアーシェだった。
「ふぅっ!」
呼気と共に得物を振り回して立ち向かうアーシェにエニアに気を取られていたトカゲが尾を振り回した。
「アーシェ!」
叫んだのは誰だっただろうか。
大木の様な尻尾がアーシェの行く手を阻むが、彼女はそれに臆することなく刃をかざす。ドワーフ仕込みの怪力でもって、思い切りそれを振り下ろす――。
――ギァァァァァッ!
地を割る様なトカゲの絶叫が森の中に響く。思わず耳を塞ぎたくなるような叫び声だったが、ハンターたちはそれに怯むことはない。
「援護します!」
アネットの威勢のいい宣言の後、まるで雨のように矢が降り注ぐ。それに少なからず動きを鈍らせたトカゲは、煩わしげに動きを止めて一度上体をのけぞらせた。
ただ、その時だった。情けない悲鳴が馬車の中から上がる。どうやら、大トカゲを見てしまったらしい青年が思わず声を上げてしまったようだ。あまりに大きな悲鳴に、トカゲの視線もそちらに向かう。
「いけない、依頼者さんが!」
今まさに炎を吐き出さんとするトカゲの意識を何とか逸らさねばならない。奈加がすぐ青年の元へ駆けた。
「任せよ! エニア、もう一度頼む!」
ディアドラが叫んだ。
「わかったわ!」
もう一度、今度は敵を引きつける分だけの球体の水をエニアが放つ。マテリアルが込められたそれに、トカゲの意識は防衛へと傾いたようだ。溜めた息を勢い良く、炎と共に吐き出す。注意を引きつけるためのウォーターシュートはあっさり破られ地面が焼けこげるが、その中でもディアドラは何度もトカゲに斬りかかった。トカゲの体が、ぐらりと傾く。
「そろそろだね。皆下がって、一気に終わらせるわよ!」
その時誰もが彼女の背に翼を見た。九枚の美しい翼が、一瞬だけ暗闇に浮かび上がる。
高出力のウォーターシュートが、燃え広がろうとする炎もろともトカゲの体を飲み込んだ。
「やった!」
ウォーターシュートの効果はその場に残らない。目を剥いてひっくり返った大トカゲに、一同が安堵の息を吐いた。
「あぁ! トカゲが……」
緊迫した状況が過ぎ去ったためか、ややあってミネットが声を上げた。先程倒したはずのトカゲの姿が消えているのだ。大型のものも、小型のものも、その影も形もない。てっきりトカゲを美味しく頂けると思っていたミネットは、がっくりと肩を落とした。
「食べられないだなんて、残念です……」
無駄な殺生を好まないミネットに、周囲が僅かに笑みをこぼした。こればかりは仕方がない。
だがこれで、馬車の中で奈加に宥められながらガタガタと震えている情けない青年と、思い出の品は守られた。顔をぐしゃぐしゃにしながら馬車から降りてきた青年に一同は笑顔を向けた。
「もう大丈夫だよ。家まではその絵本とブローチの思い出を聞かせてほしいなっ」
彼についていた奈加も、笑みを浮かべたままだ。ようやく涙を拭いた青年が、皆につられて小さく笑顔を浮かべる。無事だったのだ。家族の思い出も、自分自身も。
彼を守るように首から下げられたブローチは、僅かに白んできた空の光に当てられ優しくきらめいていた。
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護衛任務ですっ!(相談卓) ミネット・ベアール(ka3282) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/10/19 03:15:23 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/15 19:46:22 |