ゲスト
(ka0000)
【魔性】エリオットは魔物になった
マスター:雪村彩人

- シナリオ形態
- シリーズ(新規)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/03/19 07:30
- 完成日
- 2017/04/01 18:57
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
何度も殴られた。理由はわからない。
むかつくからだ。ブライアンはいった。
面白いからだ。レスリーはいった。
ただの暇つぶしだ。マイクはいった。
痛いよう。
苦しいよう。
悔しいよう。
その日も泣きながら帰った。その途中、僕は死んだ。そして、生まれ変わった。人から魔物に。
何故か。
理由は一つだ。あいつらへの復讐。殺してやろうと思ったのだ。
●
三日後の夜のことである。
呼びとめられ、マイクは足をとめた。振り返る。そしてニヤリと笑った。
「何だ、エリオットじゃないか。どうしたんだ、こんなところで。また殴られにきたのか?」
「ああ」
エリオットと呼ばれた少年はうなずいた。
「けれど殴られるために来たんんじゃない。お前を殺すために来たんだ」
くわっ、とエリオットは口を開いた。まるで獣のもののような犬歯をけむきだす。
「ひっ」
悲鳴をあげてマイクは逃げ出した。信じられないほどの速さで。恐怖が彼に爆発的な瞬発力を与えているのだった。
「逃がすかよ」
エリオットの腕から紐のようなものがのびた。
それは血であった。エリオットは自らの血を凝固させ、鞭のようにふるうことが可能なのだった。
鞭がマイクの首に巻き付いた。するとぐいとエリオットはひいた。軽くひいたようであったのに、まるで子猫のように長身のマイクの身が引き戻された。
「すぐには殺さない」
エリオットはマイクの顔を殴った。軽く殴ったようにみえて、それだけでマイクの顔面は粉砕されている。
「おっと」
エリオットは顔をしかめた。やりすぎてしまったことに気づいたのだ。
「まだ死ぬなよ。お楽しみはこれからだ」
エリオットはニンマリと笑った。
翌日の早朝、引き裂かれた無残なマイクの死体が発見された。
さらにその三日後のことである。今度はレスリーの死体が発見された。
「くそっ。いったい何が起こってやがるんだ?」
苛立ちと怯えに震えながら、ブライアンは家を出た。
何度も殴られた。理由はわからない。
むかつくからだ。ブライアンはいった。
面白いからだ。レスリーはいった。
ただの暇つぶしだ。マイクはいった。
痛いよう。
苦しいよう。
悔しいよう。
その日も泣きながら帰った。その途中、僕は死んだ。そして、生まれ変わった。人から魔物に。
何故か。
理由は一つだ。あいつらへの復讐。殺してやろうと思ったのだ。
●
三日後の夜のことである。
呼びとめられ、マイクは足をとめた。振り返る。そしてニヤリと笑った。
「何だ、エリオットじゃないか。どうしたんだ、こんなところで。また殴られにきたのか?」
「ああ」
エリオットと呼ばれた少年はうなずいた。
「けれど殴られるために来たんんじゃない。お前を殺すために来たんだ」
くわっ、とエリオットは口を開いた。まるで獣のもののような犬歯をけむきだす。
「ひっ」
悲鳴をあげてマイクは逃げ出した。信じられないほどの速さで。恐怖が彼に爆発的な瞬発力を与えているのだった。
「逃がすかよ」
エリオットの腕から紐のようなものがのびた。
それは血であった。エリオットは自らの血を凝固させ、鞭のようにふるうことが可能なのだった。
鞭がマイクの首に巻き付いた。するとぐいとエリオットはひいた。軽くひいたようであったのに、まるで子猫のように長身のマイクの身が引き戻された。
「すぐには殺さない」
エリオットはマイクの顔を殴った。軽く殴ったようにみえて、それだけでマイクの顔面は粉砕されている。
「おっと」
エリオットは顔をしかめた。やりすぎてしまったことに気づいたのだ。
「まだ死ぬなよ。お楽しみはこれからだ」
エリオットはニンマリと笑った。
翌日の早朝、引き裂かれた無残なマイクの死体が発見された。
さらにその三日後のことである。今度はレスリーの死体が発見された。
「くそっ。いったい何が起こってやがるんだ?」
苛立ちと怯えに震えながら、ブライアンは家を出た。
リプレイ本文
●
「……ここか」
一軒の家屋を見上げ、精悍な風貌の若者が興味深そうに黒瞳を光らせた。
名は榊 兵庫(ka0010)。ハンターである。
彼が見上げているのはエリオットの自宅であった。両親は中にいるはずだ。
「確かにエリオットくんは歪虚なのかもしれないの」
兵庫の傍らに立つ銀髪の少女がいった。優しげな美少女だ。名をディーナ・フェルミ(ka5843)という。
ディーナは首を傾げた。
「でも、普通の歪虚はおうちに帰らないと思うの。マイクもレスリーも亡くなって、エリオットくんだって家に帰らなくて。どうして彼のおうちの人は何もしないの? そこが一番不思議なの」
「まあ、会ってみりゃあわかるさ」
兵庫はドアをノックした。すると女が顔を覗かせた。おそらく母親であろう。暗い目をしていた。
エリオットについて訊こうとすると、女は何も知らないといった。本当に何も知らないようであった。興味がないのであろう。とっくにエリオットのことを見捨てているに違いなかった。それがディーナの抱いた疑問の答えであった。
母親に承諾を得て、二人はエリオットの部屋にむかった。そして机の引き出しから日記を見つけた。
ぱらぱらとめくり、兵庫はため息をもらした。そこには人の暗黒面が記されていたのである。
凄絶な虐めの記録。まるで紙面から悲鳴が聞こえてきそうであった。
「……以上だ」
作戦内容を、柊 恭也(ka0711)という名の少年が告げた。独り立つという気概の滲みでた少年だ。
「いや、それでは」
ブライアンの両親が困惑したように声をあげた。恭也の告げた作戦はブライアンを囮とするものであったからだ。すると恭也は手を上げて制した。
「心配なのはわかるが、ブライアンを囮にして犯人をどうにかしないと根本的な解決にならん」
恭也はいった。
話に聞く犠牲者の状態。もしかすると犯人は堕落者であるのかもしれない。そうであるならば上位歪虚が絡んでいる可能性があった。
「わかってくれ。役人にはどうしようもない。俺たちがやらなければならないんだ」
「わかりました」
ブライアンの両親は項垂れた。
●
恭也がブライアンの両親と話をしていた頃、二人の男女がエリオットの知り合いであるという若者の前に立っていた。
男は生真面目そうなドワーフの若者。女は澄んだ碧の瞳をもつ美麗なエルフの少女であった。それぞれに名をロニ・カルディス(ka0551)、リン・フュラー(ka5869)という。
「……そうか」
ロニがうなずくと、若者は背を返した。その背を見送りつつ、ロニは重いため息を零した。
知り合いといって、彼はほどんどエリオットのことを知らなかった。わかったのはエリオットがいつも独りであったということ、それに常に傷を負っていたということだけだ。
「哀れだな」
ロニがぽつりともらした。たった独りで、誰にも相談できず、エリオットはどれほどの痛みに耐えていたのだろうか。
するとリンはうなずいた。
「依頼人の話ではエリオットさんが事件に関与していると思われるとのことですが……まあ、どんな形であれ、ほぼ間違いなくエリオットさんは関係しているでしょうね」
「ああ。そうだろうな」
「仮に犯人がエリオットさんとして、エリオットさんには同情の余地はありますし、ブライアンさんや殺されたお二人にも大きな問題はあります。……ですが、問題を放置していい訳はありません。止めなくては……」
自身に言い聞かせるようにリンはいった。哀れは哀れとして――いや、哀れなればこそ、この悲劇はなんとしても断ち切らねばならなかった。
「自業自得じゃないのさぁ? 楽しくいじめて恨まれないとでも思うのかねぇ」
呆れたように、その娘は肩をすくめてみせた。野性味のにじむ美しい娘であるのだが――人、ではなかった。額にぬらりと生えた角。鬼であった。名を骸香(ka6223)という。
するとしなやかな肢体の少女がうなずいた。立ち居振る舞いが人並み外れて軽やかであるのは、もしかすると特殊な訓練を積んでいるのかもしれない。名を天竜寺 舞(ka0377)といった。
その時だ。一人の少年が歩み寄ってきた。はりぼてのふてぶてしさを纏わせている。ブライアンであった。場所は彼の勤める工場であった。
「あんたらか、俺に用があるっていうのは?」
「ああ」
骸香がうなずいた。
「おまえ、エリオットを虐めてたんだってな」
「なっ」
ブライアンは顔を赤黒く染めた。
「そ、そんなことはして――」
「それは、いい」
手をあげて舞が制した。
「あたしたちはハンター。あんたを守るためにきた。だから聞かせてほしい。エリオットに最後に会った日に振るった暴力は死ぬ程のものだったのかを」
「そんなことはない」
ふてくされた様子でブライアンはこたえた。すると骸香が鼻を鳴らした。
「ふん。ちゃんと手加減はしたってか? お利口なことだな」
「もう一つ」
舞が口を開いた。
「エリオットはマイクとレスリーを殺せるような奴なのか?」
「いいや」
戸惑った顔でブライアンは首を横に振った。エリオットはチビで痩せっぽちで、腕っ節も強くない。体格のいいマイクやレスリーを殺すことなどできるはずもなかった。
「奴には、そんな根性もあるはすがないんだ」
「窮鼠、猫を噛む。リアルブルーにはそんな言葉があるそううだが……恨まれないで済むと思ってたんかねぇ」
骸香が冷たい視線を送った。
「くっ。もういいだろ」
唾を吐き捨てると、ブライアンは背を返した。その背を見送りつつ、舞はつぶやいた。
「イメージ的に逆に返り討ちにされそうだけど、死体の二人に施された暴力から、可能性としてエリオットは暴力が原因で死に、その後歪虚化したとも考えられる。もしそうだとしても裁くのは司法の仕事。例えクソ野郎でも私刑を認める訳にはいかないよね」
その頃、八人めのハンターはエリオット宅の近くにいた。
二十歳ほどの娘。ひどく痩せていて、肌は病的なほど青白い。名を烏羽 華凪(ka6772)といった。その両足は歪虚のために失われ義足となっているのだが、その事実を感じさせないほど軽やかな身ごなしをもっている。
その華凪は近辺の人々に怪しい人物をみかけなかったかと尋ねていた。するとたった一人ではあるが、この辺りでは見かけない人物を見たという者がいた。老婦人だ。
「ここは繁華街じゃないからね。そうそう知らない人がやってくることはないのよ」
「なるほど」
うなずいた華凪はどのような人物であったか問うた。
「すごく綺麗な青年よ」
老婦人はこたえた。
●
「……ブライアン」
しわがれた声が呼んだ。はじかれたようにブライアンが振り返る。彼は暗い夜道に佇む少年の姿を見出した。
「お、おまえ……エリオットか?」
「そうだよ」
少年がこたえた。その顔を一目見て、ひっ、とブライアンは息をひいた。
吊り上がったエリオットの目。それは紅く光っていた。人間の目ではない。
「いつもみたいに遊んでくれよ」
エリオットがニンマリ笑った。魔性の笑みである。
「こんにちはぁ?」
ブライアンの背後。この場にはそぐわぬほど明るい声が響いた。骸香である。
「楽しい時間を中断してごめんねぇ?」
「何だ、お前?」
エリオットが骸香を睨みつけた。
「ハンターだ」
ブライアンの前に舞が立ちはだかった。すると骸香がエリオットに笑いかけた。
「マイクとレスリーを殺したな。憎い二人を殺してどうだった? 楽しいと思ったか?」
「ああ」
くすくすとエリオットは笑った。楽しくてたまらぬように。すると舞が告げた。
「こいつが憎いのは解るけど殺させる訳にはいかない!」
「なら、お前から殺してやるよ」
エリオットが手を振った。その先端から赤光が噴出した。鞭だ。エリオットは血を凝固させ、鉄鞭と化さしめることが可能なのだった。
「やっぱり歪虚化してたのか!」
唸る鞭を舞は躱した。同時にダッシュ。一気にエリオットとの距離を詰める。
赤光が閃いた。赤熱化した刃の一閃である。
エリオットは袈裟に斬られた。常人ならば即死であろう。が、彼は常人ではない。魔物であった。
ヒートソードを薙ぎ下ろした姿勢の舞にエリオットは掴みかかった。腕を声だのようにへし折る。がちゃりとヒートソードが地に落ちた。
「楽しそうだな。うちも混ぜてくれないか? 今すぐにでもお前を壊したくてしょうがないんだ」
不気味に目を爛と光らせ、骸香が地を蹴った。疾風の速度で接近。エリオットの腰めがけて脚をはね上げた。
迅雷の蹴り。さすがにエリオットも躱せない。
岩が相博つような音が響いた。衝撃にエリオットの身が後退する。
「くっ」
呻いたのは、しかし骸香の方であった。彼女の足は岩を蹴りつけたような感触を覚えている。
その時だ。鞭が唸りとんだ。それは骸香の首にするすると巻き付いた。
あっ、と思った時は遅かった。ものすごい力に骸香の身体が引きずられた。
次の瞬間、灼熱の激痛が骸香を襲った。エリオットの手刀が彼女の腹を貫いている。
「俺を壊したくてしょうがない、だと。馬鹿が」
エリオットが血まみれの手を引き抜いた。骸香の口から鮮血が溢れ出る。
「次はお前だぜ。ブライアン」
紅くぬめ光る目をエリオットはブライアンにむけた。そして襲った。鞭がしなる。
びしりっ。
鋭く硬い音が響いた。そして光が乱れちった。
鞭がはじかれている。エネルギー障壁によって。
「もう、よせ」
ロニがいった。
●
「同情はする。悲しい事だとも思う。だが、今行おうとしている事、これまでに行った事は認められない」
痛ましげに、しかし決然たる声でロニが告げた。
「同情だと?」
エリオットは怒りに顔をゆがめた。
「そんなものが何になる。誰も俺を助けてくれなかった。だから俺は奴らを殺したんだ。あの人の――」
いいかけてエリオットはやめた。聞きとがめたリンが眉をひそめる。
「あの人とは……」
「うるさい」
エリオットの手から鞭が飛んだ。それは意思あるもののごとくしなり、リンを打った。いや――。
毒蛇のように襲った鞭がはじかれた。分厚い刀身を持つ大太刀――土蜘蛛によって。
「あの人とは何者なのか。聞かせてもらいますよ」
リンが地を蹴った。瞬く間に間合いを詰める。そして軽々と彼女は大太刀の刃を疾らせた。地を擦るようような逆袈裟である。
「くそっ」
エリオットが跳び退った。その面上をかすめるように刃が流れすぎていく。巻き起こした刃風により、エリオットの顔面から噴いた血が渦を巻いた。
「じゃっ」
エリオットの脚がはねあがった。数頭の馬に蹴られたような衝撃にリンの身が吹き飛ぶ。
「まだだ!」
リンに止めを刺すべくエリオットが跳んだ。
刹那である。銃声が轟いた。着弾の衝撃にエリオットの足がとまる。
「そこまでだ」
建物の屋根の上。恭也の姿があった。その手の名銃――ワン・オブ・サウザンドの銃口からは硝煙があがっていた。
「くっ」
エリオットは辺りを見回した。逃走経路を探す。
さしもの彼も攻撃を受けすぎた。このままでは危ない。
突如、エリオットの身が空に舞った。何の予備動作も見せぬ跳躍である。
その時、再び銃声が鳴り響いた。エリオットが地に落ちる。そして被弾した傷を手でおさえて呻いた。
「あなたを逃がすわけにはいかない。ここで悲劇は終わりにします」
アサルトライフル――フロガピレインをかまえた華凪が告げた。
「黙れ」
エリオットが吼えた。そして獣のように地を走った。恭也と華凪が狙撃する。が、弾丸はむなしく流れすぎた。
その時――。
エリオットの眼前にバイクが迫った。操っているのは兵庫である。
った。
「どけえ」
エリオットが迫った。バイクも迫る。
二つの影がすれちがった。きらりと煌めいたのは兵庫のもつ十文字槍――人間無骨であったか。それともエリオットの爪か。
兵庫はバイクを旋回させ、停止。彼の目は槍に串刺しされたエリオットの姿をとらえている。
「人の心に安寧をもたらせてこその聖職者なの。それをスルーしたら私は聖導士を名乗れなくなるの」
だから――。ディーナがエリオットに歩み寄った。そして破邪の光をエリオットに与えた。
「最後に聞かせて。あなたをこんな哀しいモノに変えたのは誰なの?」
「あ、悪魔。いや、天使か。彼の名は――」
エリオットの声が途切れた。負のマテリアルに満ちたその身が塵と化す。
「おい」
震えるブライアンに舞が声をかけた。
「いいか、良く聞け。今回の事でエリオットの身内が酷い目に遭うようなことがあれば、あんたのした事もばらすからな」
恐い声で舞は警告した。
「……ハンターか。余計な真似を」
「いいや。これはこれで、なかなかに面白い見世物だったよ」
含み笑う声は、死闘の場所からやや離れた闇の中で響いた。
「……ここか」
一軒の家屋を見上げ、精悍な風貌の若者が興味深そうに黒瞳を光らせた。
名は榊 兵庫(ka0010)。ハンターである。
彼が見上げているのはエリオットの自宅であった。両親は中にいるはずだ。
「確かにエリオットくんは歪虚なのかもしれないの」
兵庫の傍らに立つ銀髪の少女がいった。優しげな美少女だ。名をディーナ・フェルミ(ka5843)という。
ディーナは首を傾げた。
「でも、普通の歪虚はおうちに帰らないと思うの。マイクもレスリーも亡くなって、エリオットくんだって家に帰らなくて。どうして彼のおうちの人は何もしないの? そこが一番不思議なの」
「まあ、会ってみりゃあわかるさ」
兵庫はドアをノックした。すると女が顔を覗かせた。おそらく母親であろう。暗い目をしていた。
エリオットについて訊こうとすると、女は何も知らないといった。本当に何も知らないようであった。興味がないのであろう。とっくにエリオットのことを見捨てているに違いなかった。それがディーナの抱いた疑問の答えであった。
母親に承諾を得て、二人はエリオットの部屋にむかった。そして机の引き出しから日記を見つけた。
ぱらぱらとめくり、兵庫はため息をもらした。そこには人の暗黒面が記されていたのである。
凄絶な虐めの記録。まるで紙面から悲鳴が聞こえてきそうであった。
「……以上だ」
作戦内容を、柊 恭也(ka0711)という名の少年が告げた。独り立つという気概の滲みでた少年だ。
「いや、それでは」
ブライアンの両親が困惑したように声をあげた。恭也の告げた作戦はブライアンを囮とするものであったからだ。すると恭也は手を上げて制した。
「心配なのはわかるが、ブライアンを囮にして犯人をどうにかしないと根本的な解決にならん」
恭也はいった。
話に聞く犠牲者の状態。もしかすると犯人は堕落者であるのかもしれない。そうであるならば上位歪虚が絡んでいる可能性があった。
「わかってくれ。役人にはどうしようもない。俺たちがやらなければならないんだ」
「わかりました」
ブライアンの両親は項垂れた。
●
恭也がブライアンの両親と話をしていた頃、二人の男女がエリオットの知り合いであるという若者の前に立っていた。
男は生真面目そうなドワーフの若者。女は澄んだ碧の瞳をもつ美麗なエルフの少女であった。それぞれに名をロニ・カルディス(ka0551)、リン・フュラー(ka5869)という。
「……そうか」
ロニがうなずくと、若者は背を返した。その背を見送りつつ、ロニは重いため息を零した。
知り合いといって、彼はほどんどエリオットのことを知らなかった。わかったのはエリオットがいつも独りであったということ、それに常に傷を負っていたということだけだ。
「哀れだな」
ロニがぽつりともらした。たった独りで、誰にも相談できず、エリオットはどれほどの痛みに耐えていたのだろうか。
するとリンはうなずいた。
「依頼人の話ではエリオットさんが事件に関与していると思われるとのことですが……まあ、どんな形であれ、ほぼ間違いなくエリオットさんは関係しているでしょうね」
「ああ。そうだろうな」
「仮に犯人がエリオットさんとして、エリオットさんには同情の余地はありますし、ブライアンさんや殺されたお二人にも大きな問題はあります。……ですが、問題を放置していい訳はありません。止めなくては……」
自身に言い聞かせるようにリンはいった。哀れは哀れとして――いや、哀れなればこそ、この悲劇はなんとしても断ち切らねばならなかった。
「自業自得じゃないのさぁ? 楽しくいじめて恨まれないとでも思うのかねぇ」
呆れたように、その娘は肩をすくめてみせた。野性味のにじむ美しい娘であるのだが――人、ではなかった。額にぬらりと生えた角。鬼であった。名を骸香(ka6223)という。
するとしなやかな肢体の少女がうなずいた。立ち居振る舞いが人並み外れて軽やかであるのは、もしかすると特殊な訓練を積んでいるのかもしれない。名を天竜寺 舞(ka0377)といった。
その時だ。一人の少年が歩み寄ってきた。はりぼてのふてぶてしさを纏わせている。ブライアンであった。場所は彼の勤める工場であった。
「あんたらか、俺に用があるっていうのは?」
「ああ」
骸香がうなずいた。
「おまえ、エリオットを虐めてたんだってな」
「なっ」
ブライアンは顔を赤黒く染めた。
「そ、そんなことはして――」
「それは、いい」
手をあげて舞が制した。
「あたしたちはハンター。あんたを守るためにきた。だから聞かせてほしい。エリオットに最後に会った日に振るった暴力は死ぬ程のものだったのかを」
「そんなことはない」
ふてくされた様子でブライアンはこたえた。すると骸香が鼻を鳴らした。
「ふん。ちゃんと手加減はしたってか? お利口なことだな」
「もう一つ」
舞が口を開いた。
「エリオットはマイクとレスリーを殺せるような奴なのか?」
「いいや」
戸惑った顔でブライアンは首を横に振った。エリオットはチビで痩せっぽちで、腕っ節も強くない。体格のいいマイクやレスリーを殺すことなどできるはずもなかった。
「奴には、そんな根性もあるはすがないんだ」
「窮鼠、猫を噛む。リアルブルーにはそんな言葉があるそううだが……恨まれないで済むと思ってたんかねぇ」
骸香が冷たい視線を送った。
「くっ。もういいだろ」
唾を吐き捨てると、ブライアンは背を返した。その背を見送りつつ、舞はつぶやいた。
「イメージ的に逆に返り討ちにされそうだけど、死体の二人に施された暴力から、可能性としてエリオットは暴力が原因で死に、その後歪虚化したとも考えられる。もしそうだとしても裁くのは司法の仕事。例えクソ野郎でも私刑を認める訳にはいかないよね」
その頃、八人めのハンターはエリオット宅の近くにいた。
二十歳ほどの娘。ひどく痩せていて、肌は病的なほど青白い。名を烏羽 華凪(ka6772)といった。その両足は歪虚のために失われ義足となっているのだが、その事実を感じさせないほど軽やかな身ごなしをもっている。
その華凪は近辺の人々に怪しい人物をみかけなかったかと尋ねていた。するとたった一人ではあるが、この辺りでは見かけない人物を見たという者がいた。老婦人だ。
「ここは繁華街じゃないからね。そうそう知らない人がやってくることはないのよ」
「なるほど」
うなずいた華凪はどのような人物であったか問うた。
「すごく綺麗な青年よ」
老婦人はこたえた。
●
「……ブライアン」
しわがれた声が呼んだ。はじかれたようにブライアンが振り返る。彼は暗い夜道に佇む少年の姿を見出した。
「お、おまえ……エリオットか?」
「そうだよ」
少年がこたえた。その顔を一目見て、ひっ、とブライアンは息をひいた。
吊り上がったエリオットの目。それは紅く光っていた。人間の目ではない。
「いつもみたいに遊んでくれよ」
エリオットがニンマリ笑った。魔性の笑みである。
「こんにちはぁ?」
ブライアンの背後。この場にはそぐわぬほど明るい声が響いた。骸香である。
「楽しい時間を中断してごめんねぇ?」
「何だ、お前?」
エリオットが骸香を睨みつけた。
「ハンターだ」
ブライアンの前に舞が立ちはだかった。すると骸香がエリオットに笑いかけた。
「マイクとレスリーを殺したな。憎い二人を殺してどうだった? 楽しいと思ったか?」
「ああ」
くすくすとエリオットは笑った。楽しくてたまらぬように。すると舞が告げた。
「こいつが憎いのは解るけど殺させる訳にはいかない!」
「なら、お前から殺してやるよ」
エリオットが手を振った。その先端から赤光が噴出した。鞭だ。エリオットは血を凝固させ、鉄鞭と化さしめることが可能なのだった。
「やっぱり歪虚化してたのか!」
唸る鞭を舞は躱した。同時にダッシュ。一気にエリオットとの距離を詰める。
赤光が閃いた。赤熱化した刃の一閃である。
エリオットは袈裟に斬られた。常人ならば即死であろう。が、彼は常人ではない。魔物であった。
ヒートソードを薙ぎ下ろした姿勢の舞にエリオットは掴みかかった。腕を声だのようにへし折る。がちゃりとヒートソードが地に落ちた。
「楽しそうだな。うちも混ぜてくれないか? 今すぐにでもお前を壊したくてしょうがないんだ」
不気味に目を爛と光らせ、骸香が地を蹴った。疾風の速度で接近。エリオットの腰めがけて脚をはね上げた。
迅雷の蹴り。さすがにエリオットも躱せない。
岩が相博つような音が響いた。衝撃にエリオットの身が後退する。
「くっ」
呻いたのは、しかし骸香の方であった。彼女の足は岩を蹴りつけたような感触を覚えている。
その時だ。鞭が唸りとんだ。それは骸香の首にするすると巻き付いた。
あっ、と思った時は遅かった。ものすごい力に骸香の身体が引きずられた。
次の瞬間、灼熱の激痛が骸香を襲った。エリオットの手刀が彼女の腹を貫いている。
「俺を壊したくてしょうがない、だと。馬鹿が」
エリオットが血まみれの手を引き抜いた。骸香の口から鮮血が溢れ出る。
「次はお前だぜ。ブライアン」
紅くぬめ光る目をエリオットはブライアンにむけた。そして襲った。鞭がしなる。
びしりっ。
鋭く硬い音が響いた。そして光が乱れちった。
鞭がはじかれている。エネルギー障壁によって。
「もう、よせ」
ロニがいった。
●
「同情はする。悲しい事だとも思う。だが、今行おうとしている事、これまでに行った事は認められない」
痛ましげに、しかし決然たる声でロニが告げた。
「同情だと?」
エリオットは怒りに顔をゆがめた。
「そんなものが何になる。誰も俺を助けてくれなかった。だから俺は奴らを殺したんだ。あの人の――」
いいかけてエリオットはやめた。聞きとがめたリンが眉をひそめる。
「あの人とは……」
「うるさい」
エリオットの手から鞭が飛んだ。それは意思あるもののごとくしなり、リンを打った。いや――。
毒蛇のように襲った鞭がはじかれた。分厚い刀身を持つ大太刀――土蜘蛛によって。
「あの人とは何者なのか。聞かせてもらいますよ」
リンが地を蹴った。瞬く間に間合いを詰める。そして軽々と彼女は大太刀の刃を疾らせた。地を擦るようような逆袈裟である。
「くそっ」
エリオットが跳び退った。その面上をかすめるように刃が流れすぎていく。巻き起こした刃風により、エリオットの顔面から噴いた血が渦を巻いた。
「じゃっ」
エリオットの脚がはねあがった。数頭の馬に蹴られたような衝撃にリンの身が吹き飛ぶ。
「まだだ!」
リンに止めを刺すべくエリオットが跳んだ。
刹那である。銃声が轟いた。着弾の衝撃にエリオットの足がとまる。
「そこまでだ」
建物の屋根の上。恭也の姿があった。その手の名銃――ワン・オブ・サウザンドの銃口からは硝煙があがっていた。
「くっ」
エリオットは辺りを見回した。逃走経路を探す。
さしもの彼も攻撃を受けすぎた。このままでは危ない。
突如、エリオットの身が空に舞った。何の予備動作も見せぬ跳躍である。
その時、再び銃声が鳴り響いた。エリオットが地に落ちる。そして被弾した傷を手でおさえて呻いた。
「あなたを逃がすわけにはいかない。ここで悲劇は終わりにします」
アサルトライフル――フロガピレインをかまえた華凪が告げた。
「黙れ」
エリオットが吼えた。そして獣のように地を走った。恭也と華凪が狙撃する。が、弾丸はむなしく流れすぎた。
その時――。
エリオットの眼前にバイクが迫った。操っているのは兵庫である。
った。
「どけえ」
エリオットが迫った。バイクも迫る。
二つの影がすれちがった。きらりと煌めいたのは兵庫のもつ十文字槍――人間無骨であったか。それともエリオットの爪か。
兵庫はバイクを旋回させ、停止。彼の目は槍に串刺しされたエリオットの姿をとらえている。
「人の心に安寧をもたらせてこその聖職者なの。それをスルーしたら私は聖導士を名乗れなくなるの」
だから――。ディーナがエリオットに歩み寄った。そして破邪の光をエリオットに与えた。
「最後に聞かせて。あなたをこんな哀しいモノに変えたのは誰なの?」
「あ、悪魔。いや、天使か。彼の名は――」
エリオットの声が途切れた。負のマテリアルに満ちたその身が塵と化す。
「おい」
震えるブライアンに舞が声をかけた。
「いいか、良く聞け。今回の事でエリオットの身内が酷い目に遭うようなことがあれば、あんたのした事もばらすからな」
恐い声で舞は警告した。
「……ハンターか。余計な真似を」
「いいや。これはこれで、なかなかに面白い見世物だったよ」
含み笑う声は、死闘の場所からやや離れた闇の中で響いた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/15 23:02:40 |
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相談卓 リン・フュラー(ka5869) エルフ|14才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2017/03/19 00:36:52 |