• 陶曲

【陶曲】水の底に沈む影

マスター:真柄葉

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~3人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/03/22 12:00
完成日
2017/04/04 02:08

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

●港湾都市ポルトワール
 不快と緊迫を孕んだ熱気が月に照らされる街を支配する。
「――司令官殿、中央へと続く幹線および環状路の封鎖を完了です。中央部への進攻止まりました」
 参謀が伝令より受け取った報告書の束を簡潔に纏め上げ報告した。
「よし! 各小隊は引き続き住民の避難を最優先に、バリケードの補強を続けろ! 奴ら数に任せて押してくる。だがそれだけだ! 押し止めるのはたやすいぞ!」
 指揮官の的確な指令と状況判断に鼓舞された部下たちは、意気揚々と持ち場へと戻っていく。
「ふぅ、これで何とか持つか」
 参謀より渡されたカップを受け取り口を付けた司令官は、バリケードの奥に蠢く歪虚の群れへと視線を向けた。
 バリケード越しに覗く黒く塗装された陶器人形型歪虚の大群は、堅固な壁に阻まれ行軍と止めている。
「いえ、相手は歪虚です。このまま何事もなく終わるとはとても思えません。他所と同様ここももっと補強した方がよろしいかと思います」
「なるほど……わかった。おい!」
 参謀の言葉を聞き入れた指揮官はすぐさま部下を数名招集した。
「軍本部へ赴き、補強資材の調達と移送の準備を整えろ!」
 『ハッ!』と声を合わせ承服した部下たちは急ぎ街の中心部へと馬を走らせる。

 バリケードによる進軍の阻止より数刻――。
「……波が引きませんな」
 バリケードの奥には無数の歪虚。進行自体は止まっているものの引き上げる様子はまるでない。
「なに、この均衡状態を保てばいずれ時が来る。その時こそ、この街をターゲットに選んだ事を後悔する時だ」
「援軍の到着からの反攻」
「海と陸からの挟撃を目論んだんだろうが、甘いな。地の利はこちらにある事を思い知らせてやる」
「それならばよいのですが……」
「なんだ、何か心配事でもあるのか?」
「心配事しかありませんよ」
「またか。考えすぎるのがお前の悪い癖だぞ?」
「考えることが私の仕事ですので、考えるなと言われると職を失ってしまいますよ」
 司令官の皮肉にも皮肉で返し、参謀は再び思考に沈む。
「溢れた水は必ず零れます……それが街の外ならばいいのです。しかし、中ならば――」
 そこまで口にすると参謀は簡易の机の上に広げられていた街の地図を凝視した。
「中だと? 通りは全て抑えたんだ、一体どこから入るというんだ」
「……」
「そもそも、あんな人形どもの行進なんかで同盟軍最大の軍港をそう易々と落とせると思われては困る」
 既に勝利を確信したとでも言うような余裕を見せる司令官の顔を一瞥し、参謀は再び地図に視線を走らせる。
「街を落とす……? なぜこのポルトワールなんだ。この国で最も堅牢でもっとも強固な軍事施設だぞ」
 司令官の耳にも届かぬ声で呟く参謀。
「同盟の機能を停止させたいのならヴァリオスが妥当。しかし、敵はこの街を選んだ。なぜだ、何故この街だ」
「どうした。まだ何か悩んでいるのか?」
「見方を変えろ。奇襲は最大の効果を発揮した。しかし、詰めが甘すぎる。この街を落とす気はないのか? ならば何が目的だ」
 質問を無視され眉を顰める司令官の事など最早目に入らない。
「まさか、ただの遊戯だとでもいうのか? あの敵の姿――嫉妬に属する歪虚ならばあり得なくはない。……あり得なくはないが」
 奇襲の見事さとは対照的に、その後の進行状況はあまりにずさん。
「ははは、まさか遊びに来てるとでも言いたいのか? それならば、こっちも相応の出迎えをせねばならんな」
 思考に沈む参謀にも届くような大きな声で、司令官は顎を掻く。
「武器庫から魔導砲でも引っ張り出してくるか。援軍が来るまで待つ必要もない。こちらで少しでも数を減らし――」
 半分は冗談だったのだろう。司令官の言葉が終わるのを待たずして参謀が顔を上げた。
「武器庫……武器庫か!!」
「な、なんだ!?」
 突然声を荒げた参謀に、司令官は目を剥く。
「まずい。司令官! 相手の目的は武器庫――ここです!」
 そう言って参謀は、地図の一点を指さした。
「馬鹿な。例え奴らの目的が武器庫だとして、こんな街中までどうやって進行してくるんだ」
「それは――ここです」
「ここ……? これは排水路、か?」
 参謀が次に指さしたのは、ポルトワールに無数に走る運河の一つ。工場群で使われる冷却水を海から引くための運河であった。
「海と同じです。奴らは排水路――運河の底を来るつもりです!」
「なっ!?」
「海からの敵を囮とし、陸からの軍が本命と見せかけて、更にそれをも囮とした三重作戦がこの本質……!」
「くそっ! 今から兵を回して間に合うか!」
「五分五分……いえ、間に合わないかもしれません」
「くっ……! 後方で待機させているハンター達へも至急の要請だ! 何としてでも食い止めろ!!」
 参謀は己の知の至らなさに拳をきつく握った。

リプレイ本文

●武器庫周辺
 彼方からの残響とは裏腹に、辺りは気味が悪い程、静寂に包まれている。
「――了解だエア、そちらは任せた」
 トランシーバから聞こえる相棒の声に、シルヴェイラ(ka0726)は満足げに頷いた。
「さて、どこからくる」
 武器庫に隣接する工場の屋根に陣取り、闇に沈む工廠群を見渡す。申し訳程度に灯る街灯を頼りに、双眼鏡の奥に敵影を探る。
「せめて昼ならな……」
 そんな言葉が飛び出す程度には、状況は芳しいものではなかった。
 参謀の直感が導き出した敵の策に、逸早く対応する為待機していたハンター達は、連絡を受けると即座に行動を開始した。
 ハンター達の迅速な動きは、敵の思惑を上回りったのだろう。十分とは言えないものの迎撃の態勢を構築する時間を作り出した。

●工廠群外周
「はぁはぁ……ここも違う!」
 切れた息を吹き飛ばす様に顔を上げたジュード・エアハート(ka0410)は、すぐさまトランシーバに向け叫んだ。
「エアさん! 次の場所を!」
 繋がれたチャンネルから聞こえてくる最愛の隣人の声が頼もしく耳朶を打ち、こんな状況にもかかわらず思わず口元が綻ぶ。
「――え、あ、うん! 聞いてるよ、もちろん! 西だね、すぐに向かう!」
 今回は別行動で防衛線の構築に当たっているエアルドフリスの指示に力強く頷いたジュードは。
「――うん、ありがとう。そちらも気を付けてね」
 少し名残惜しそうに送信ボタンに掛けた指を離した。

●西水路
「ここを狙うとは、敵のたいしょーもなかなかやるネー!」
 黒い水路から這出てくる人型を見、パトリシア=K=ポラリス(ka5996)は感嘆の声を上げる。
 ジュードよりも一足先に指定ポイントへと到着したパトリシアは、敵の上陸に遭遇していた。
「だけど、パティの大切なもう一つの故郷をこれ以上メチャクチャにさせないんダカラ!」
 まるで意思の感じられない陶器人形たちを睨み付けると、
「敵、上陸を確認! これより、作戦行動に移るヨー!」
 腰に下げていたトランシーバを手に取り叫んだ。

 続々と上陸してくる歪虚群を背に、パトリシアは細い路地を駆け抜ける。
「――うん、ちょっと予想を超える感じ。ルディ、そっちの準備は? え? 違うし! 戦略的てったいってやつだよ!」
 などと細い路地を走りながらトランシーバの向こうにいる学友とやり取りする。

 どんっ!

「あたっ!?」
 と、突然、角から飛び出してきた影とぶつかった。
「あいたた……あ、ジュード?」
「うぅ、いたた……え? あ、パティ? 大丈夫、怪我はない? って、そうだ! 状況は!?」
「あ、うん。状況はー……話せばながーくなるけど、きく?」
「え……? あ、じゃぁ、聞こうかな?」
 いつもの朗らかな笑顔で問いかけてくるパトリシアに、ジュードも思わずこくりと頷く。
「コホンっ。それじゃ――」
「ふ、二人とも暢気に話なんかしてないで!? もうそこまで来てるよ、早く早く!」
 そんな、放課後の一幕よろしい二人に、路地の奥から現れた時音 ざくろ(ka1250)が慌てて声をかけた。
「あ、そうだったヨ。作戦作戦」
「そうだよパティ、もっとシャンとしなきゃ!」
「えー、パティのせい? ジュードがどんってぶつかってきたから――」
「もう、二人とも!!」
 三人のいる場所に着実に近づいてきている不気味な足音。ざくろは半ば強引に二人の手を取ると、急いで駆け出した。

「こういう奇襲っぽい作戦って、少数精鋭ってのがセオリーだと思うんだけど、ずいぶんたくさん来てるね……」
 夜の工廠群に響く陶器独特の甲高い足音を背に、ざくろは呟いた。
「そうなの? さんぼーさんが本命はここだって言ってたし、そういうとこって大軍で攻めて来るのもなんだと思ってたヨ」
「時と場合によるかな。でも、今回の夜襲はどっちとも取れるし……ちょっと敵の意図が読めないよね」
 今回の敵襲について語りながらも、三人は闇深い路地を進んでいた。
 そして、それは突然現れた。
「飛び越えてください!」
 突然現れた瓦礫の山の向こうから聞こえる声に、三人は互いに目配せすると一気に飛び越えた。
「ここでいったん堰き止めます。少し後ろへ」
 瓦礫に背を預ける鳳城 錬介(ka6053)は、飛び越えてきた三人に少し下がる様に伝えると、構えたウォーピックを「ふんっ!」と気合一閃、脇の建物の壁へと突き差した。
「ふぅ、これでよし。このまま敵を押し止めます」
 ガラガラと爆音と土煙を巻き上げ崩壊する工場の壁。それがバリケードの最後の仕上げとなった。
「他の場所は?」
「エアルドフリスさんやテオバルトさんが手分けをして塞いでくれています。ここよりも派手にやってるみたいですよ」
 ざくろの問いに錬介が、「ほら聞こえるでしょ?」と暗い夜空を指さす。
「これで敵はここに集まってくるはずです。なんとしてもここで止めます。力を貸してください!」
 そう言って銃を構えた錬介は、バリケードの隙間から銃身を突き出した。

●武器庫周辺
 月の明かりすらも頼りない闇夜の下、シルヴェイラは周辺の状況を観察していた。
 第二次防衛線で繰り広げられる戦闘で、ざくろの放った火の嵐が陶器人形たちに降り注ぐ。
「……やはりその姿形の通り耐火耐熱仕様か。これでは炎熱系の攻撃は効果が薄い」
 しかし、陶器人形たちはその形状通りの性能を有しているようで、炎の雨をものともせず進軍を続けていた。
「――ふむ、光による攪乱も効果薄、か。ただの鈍躯ではないな」
 ならばと放たれたパトリシアの目くらましもまた、大きな効果をもたらさない。
「だが、やりようならほかにもある。――エア、聞こえるか」
 敵がその姿通りの性質を持つのであれば、対応のしようもある。シルヴェイラは相方へと繋がるチャンネルを開いた。
「少々問題が起きた――なに、些末な事だ。多少敵兵の性能が予想を上回っただけだ――ああ、これからプランβへ移行する。そちらも頼むぞ」
 相方の返事はわかっている。シルヴェイラはエルティアとのチャンネルを早々に切ると、前線で戦う仲間達との通信を繋いだ。

●第二防衛線
 唯一効果的に働いた銃撃をメインに、防衛線での迎撃が続いていた。
「何体居るんですか……!」
 銃に弾を補充しながら錬介が苦々しく呟く。
 倒れた歪虚を踏み台に、後続の敵が次々と押し寄せてくる。
「エアさん達が上陸地点で迎撃をしてくれてるみたいだけど、ダメ! 数が多すぎるって! きっと、他の防衛地点の歪虚が水路を伝ってこっちに流れてきてるんだろうって!」
 ジュードがトランシーバから聞こえる苦痛に満ちた声を皆に伝える。
 予想を超える敵兵の性能と数に、バリケードを盾にした4人は防戦を強いられていた。
「大丈夫です、ここさえ抜かれなければ我々の勝ちです!」
 そう励ます錬介の表情にも焦りが見え隠れする。
「でも、このまま防戦一方じゃ……。こうなったら、一か八か!」
 頼みの同盟軍が救援に駆け付けるまでにはもう少しの時間を要するだろう。ざくろが意を決しメイスを片手に瓦礫に足を掛けるが。
「ダメェェ!! そんなの死にに行くようなものダヨ!!」
 狭い通路で包囲されないとはいえ、バリケードに迫る敵は夥しい数に上る。熟練の戦士であるざくろであっても、無傷では済まないだろう。パトリシアは急くざくろの腕を両手でつかみ何とか押し止めた。
「とはいえ、このままではこのバリケードもいつまで持つか――ん? 通信です」
 と、錬介の手にしたトランシーバからシルヴェイラの声が響く。
「――あ、はい。その通りです。今は何とか防衛を――え? で、でもそんな……」
 シルヴェイラの声は戦闘の音のかき消され、錬介にしか届かない。三人は期待と不安の入り混じった表情で、通話の終了を固唾を飲んで見守った。
「皆さん、シルヴェイラさんからの指示です。今行ってるすべての攻撃を中止し――」
「「「えっ!?」」」
 言葉途中にも拘らず、錬介の話に三人は思わず声を上げる。
「打撃による攻撃に切り替えるようにと」
「だ、打撃……? そんな武器持ってないヨ!?」
「それなら、やっぱりざくろが!」
「だからダメだヨ!? 一人で行っちゃ!」
「ならば二人で行きましょう」
 口惜しさに顔を歪めるざくろの隣には、いつの間にか鉄槌を抱えた錬介が真剣な表情で立っていた。
「錬介……」
「どこかで見てるだろう敵将に、ハンターの実力を見せつけてやりましょう」
「そんな、二人とも……」
 大きな瞳に今にも零れ落ちそうなほど涙を溜め、パトリシアは決意に表情を固めた二人を見つめる。
「あ、二人とも、ちょっと待って」
 そんな決死行を半ば心に決め頷きあった二人に向け、ジュードが落ち着いた声で話しかけた。
「そんな危険を冒さなくても多分、大丈夫だよ。――パティ、はい」
「へ?」
 と、ジュードに手渡されたのは工場の残骸――レンガだ。パトリシアは何の事かわからず目を泳がせる。
「鈍器。覚醒者の投擲ならきっと効果抜群だよ」
 そう言ってにっこりとほほ笑みかけてくるジュードの言葉に、パトリシアもようやく理解した。
「反撃開始。同盟軍が駆け付けるまでに終わっちゃうかもね」
 そう言って微笑んだジュードは瓦礫を駆け上がった。

 こうして、シルヴェイラの意図をくみ取ったジュードの提案により、瓦礫投擲による迎撃作戦が始まった。
 それはシルヴェイラの予想通り大きな効果を生む。
 覚醒者の力をもって放たれたレンガは凶悪な弾丸と化し、その姿通りの耐性しか持たない陶器人形を次々と破砕していった。
「よし、ざくろだって!」
 二人の活躍?を指を咥えて見ているわけにはいかない。
 ざくろはすっと立ち上がり、手近にあったレンガをいくつか抱えると、バリケードを駆け上がる。
「行くぞ!」
 頂上に立ったざくろは腕を大きく振りかぶると。
「輝け、勝利の光!」
 天高く掲げた足で大きく踏み込み。
「今必殺の――大○ーグボー……じゃなくて、デルタレイぃぃ!!(物理)」
 高らかに技名(?)を叫ぶと、手に持った三つのレンガを同時に投げつけた。

 瓦礫投擲による迎撃は効果を発揮し、歪虚の侵攻を大きく遅らせる。
 このまま、防衛ラインを堅持すれば同盟軍との挟撃により、一気に殲滅。そう誰しもが思い始めた、その時。

 ガラガラガラガラガラ――!!

 突然、巨大な崩落音と共に辺りに砂塵が立ち込めた。
「周りの工場を!? このままじゃバリケードを迂回される!!」
 瓦礫の頂上で事態を見つめていたジュードが、戦闘で枯れかけた声を張り上げる。
 そんなハンター達の焦りなど気にもせず、歪虚達は狭い進軍路を拡張すべく、周囲の工場の破壊を始めた。

●武器庫周辺
「流動的にバリケードを作成! 相手が崩した瓦礫も使うんだ!」
 武器庫周辺にシルヴェイラの声が響いた。
 瓦礫投擲により一時的には敵の進攻は緩むものの、瓦礫を投げればその分バリケードが小さくなる。
 バリケードの生成と迂回が鼬ごっこの如く繰り返される悪循環の中、ハンター達は最終防衛ラインを何とか死守していた。
「――側壁として利用していた工場群を破壊しながら撤退を。少しでも敵の進攻を遅らせるんだ」
 トランシーバ越しに求められる指示に、回生の策を提示できない事に表情を歪ませる。
「……敵もやる。だが、私達もこのままでは終わらん。――頼んだぞ……!」
 敵の作戦を素直に称賛しながらも、シルヴェイラは北へと視線を向けた。

「あぁっ! もう武器庫が見えたんダヨ!」
 シルヴェイラの指示通り路地の周りの壁を破壊しながら後退した4人の眼前に、ついに武器庫が姿を現した。
「くっ! ここでもう一度防衛線を!」
 ジュードの背後からは無尽蔵とも思える陶器人形の波が押し寄せる。
「もう瓦礫が!」
「それでも! ここで何とか食い止めるんだ! これ以上は……!」
 最早、ここで防がねば武器庫が落とされるのは時間の問題。ハンター達は意を決して武器を構えた、その時――。
「ふはぁ、間に合った……」
 4人の背後から突然声がした。
「ルディ!? 今までどこいってたの! パティ達とっても大変だったんダカラ!」
 そんな級友の問い詰めに、そこに立っていたルドルフ・デネボラ(ka3749)は、ごめんごめんと手刀を切った。
「ちょっと準備に手こずっちゃってね。でももう大丈夫」
「準備? 大丈夫? どういうことダヨー?」
「仕方ないなぁ、教えてあげるよ。それじゃ、カウントを始めよう――9,8,7――」
 頭の上に「?」を掲げるパトリシアに微笑みルドルフは、カウントダウンを開始する。
 そして、皆が見つめる中、カウントが0になった、その瞬間。

 ごぉぉぉぉぉ―――――。

 轟音と共に地面が揺れた。
「ルディ、一体何したんダヨ……?」
 その揺れを気にもせず地面に腰を下ろしたルドルフに、パトリシアは不安げに問いかける。
「そうだね、もう少し待ってればわかるかな。――ほら」
 と、パトリシアに優し気な笑みを返したルドルフは、歪虚の群れを指さした。
「動揺――じゃないか。指揮系統が混乱してるの、かな」
 ざくろが敵の動きを機敏に感じ取る。今までその行軍に意思を感じられなかった歪虚達に、明らかな乱れが見えた。
「ジュードさん、上陸地点の仲間達に伝令をお願いします。敵増援はもう大丈夫。武器庫に向けて進撃してください、って」
「う、うん、それはいいんだけど……でも、どうやったの……?」
「ああ、えっと。後続を押し流したんですよ」
「お、押し流した……? どういうことダヨ?」
「運河に流れを作るために堰をして、干潮を待ってたんだ。だから遅くなった。ごめんね」
 そう言って、まだ理解の追いついていないパトリシアの頭を数度撫でたルドルフは続ける。
「さぁ、掃討戦を開始しましょう。同盟軍もそろそろ駆けつけてくれるでしょう」
 残兵掃討のため、各々武器を構えたハンター達はルドルフの言葉に大きく頷いたのだった。

●掃討完了
「はぁぁぁ!!」
 気合一閃、錬介の鉄槌が最後の一体に振り下ろされる。パリーンと高い音を立て砕け散る歪虚を見下ろし、錬介は額に浮いた汗をぬぐった。
 後続を遮断された陶器人形たちは、無尽蔵であった突進力を失いあっけなく壊滅する。
「これだけの大群を用いて、中枢を狙うのではなくわざわざ武器庫などを狙う。作戦規模に対して狙いが小さすぎる」
「同盟軍の秘密兵器があるとか、でしょうか?」
「そんな話は聞いていないヨ……?」
「ああ、さっき中を見てきたけど、せいぜい魔導砲が数機あるくらいだったぜ」
「何か意図があっての行動なのだろうけど……解せないわね」
「存外、何の意図もなかったりするのかもしれないぞ?」
「何の意図もないって、それじゃ気まぐれにって事……?」
 その問いに答えられる者はいない。
 結局、敵の真の意図を計れぬまま、ポルトワールは朝を迎えたのだった。

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MVP一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハートka0410
  • カウダ・レオニス
    ルドルフ・デネボラka3749

重体一覧

参加者一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 時の手綱、離さず
    シルヴェイラ(ka0726
    エルフ|21才|男性|機導師
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • カウダ・レオニス
    ルドルフ・デネボラ(ka3749
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 金色のもふもふ
    パトリシア=K=ポラリス(ka5996
    人間(蒼)|19才|女性|符術師
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士

サポート一覧

  • エルティア・ホープナー(ka0727)
  • テオバルト・グリム(ka1824)
  • エアルドフリス(ka1856)

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
ルドルフ・デネボラ(ka3749
人間(リアルブルー)|18才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/03/20 21:33:12
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/03/21 19:40:50
アイコン 武器庫をまもろー!(相談卓)
パトリシア=K=ポラリス(ka5996
人間(リアルブルー)|19才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2017/03/22 11:36:41