恐怖の兎狩り

マスター:鳴海惣流

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/03/23 09:00
完成日
2017/03/29 04:56

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●兎狩り

 十代半ばと思われる二人の少年は、最近になって始めた狩りに夢中になっていた。
 きっかけは住んでいる近くの村で帰りを待っている妹に、ご飯をお腹一杯食べさせてあげたいと思ったことだった。
 両親が病気で働けなくなり、家で畑を持っているわけでもない一家の生活は困窮した。兄弟は村の地主の畑を手伝うことで給金を得ていたが、それだけでは決して足りない。
 そこで休みを貰えた日は父親が持っていた古い銃を手に、狩りをするようになった。
 最初は本当に家族の為を思っていた。けれど上手く獲物を仕留められる日が続き、少しばかり調子に乗ってしまった。

「兄ちゃん、あそこに兎がいるよ」
「ようし、いただきだ!」

 だからこの兄弟は気づかなかった。様々な生物が蠢く森において、自分たちが決して狩る側にだけ立てるわけではないことを。

●お兄ちゃんはどこ

 獲物を片手に笑顔で帰宅する。
 そんな兄二人を家でずっと待っていたが、朝になっても戻って来なかった。
 十代前半の少女は、おかっぱの黒髪を弾ませながら、兄達がいつも狩りに使っているという森へ恐る恐る足を踏み入れる。
 危険なのはわかっている。けれどもいつも自分と遊んでくれた兄二人が心配だった。
 右を見て左を見て、森の不気味さにごくりと息を呑みながら道ではない道を歩く。
 葉を掻き分ける音が悲鳴みたいに聞こえ、心細さから涙が滲む。

「どこ……お兄ちゃん……どこにいるの……」

 怖さを紛らわすように声を出した少女。体勢を崩し、地面に膝をつく。

「キャッ。何かに躓いちゃった……石、かな……」

 スカートから覗く膝が擦り切れてないか確認しようとして、少女の時間は停止した。
 べっとりと付着している赤い色。
 不快極まりない濡れた感触。
 唇を震わせて、地面についた両手がぬるりと滑る。

「ひいっ……こ、これ……血……血だ……」

 震えが止まらない。ガクガクと揺れる膝に力が入らない。
 息が苦しい。目の前まで赤く染まりそうだ。

 逃げなきゃ。

 四つん這いで歩こうとする少女。
 生きたいと願う人間の本能が彼女を動かし、そして絶望の光景を目撃させる。

「お、兄……ちゃ……い、いや……嫌あァァァ!!!」

 折り重なるように倒れていた二つの骸。それは昨日の朝まで、普段と変わらぬ笑顔を見せてくれていた兄達の変わり果てた姿だった。

「な、んで……どうし……?」

 少女は気づく。どこか遠くから自分を見る不気味な二つの目に。
 姿を現したのは小さな兎。見た目こそ可愛いが、口元をいびつに吊り上げる様に、えも言われぬおぞましさを覚える。
 そしてその後ろ。小さな兎が誘うように姿を消した草むらの中で、新たな兎の影が浮かぶ。
 けれど先ほどとは大きさが違う。兎と思われるそのシルエットは、一メートルを超えていたのである。

「キャアア!!!」

 弾かれたように少女は逃げる。
 本来兎には声帯がないはずなのに、少女の耳には兎達の笑い声が聞こえたような気がした。

●ハンターズソサエティへの依頼

 グラズヘイム王国ラスリド領内にあるハンターズソサエティの支部には、今日も様々な依頼が掲示板に張り出されている。
 そのうちの一つに、小さな村からの依頼があった。
 受付の若い女性は言う。

「命からがら逃げてきたという少女の目撃情報によれば、自分の身長と同じくらいの巨大な兎だったらしいです。その話が本当であれば、普通の兎ではないでしょう。恐らくは雑魔。そしてその村に住む若者が二人――目撃者の少女の兄だそうですが、犠牲になっています」

 現場は村から十五分ほどの場所にある小さな森。日の光は届くので日中でも極端な見辛さはない。けれどその森は敵のホームとなる。いかなる策を用いてくるかはまったくの不明。
 若者二人も銃を持っていたにもかかわらず、惨殺された。もっとも相手が雑魔であれば、戦闘訓練も積んでいない非覚醒者では敵うはずもないのだが。
 受付の女性はカウンターに手をつき、依頼の内容が書かれた紙をハンターに差し出す。

「村を代表して依頼した村長は、一刻も早い退治を希望しているようです。向かうつもりであれば、十分にお気をつけください」

●小さな森

 森に足を踏み入れたハンター達の前に、一匹の兎が現れた。
 じっと目を見つめたあと、まるで誘うように茂みの奥へと走り去る。
 その後を追うハンター。するとどこに隠れていたのか、ぞろぞろと新たな気配が現れる。
 それは巨大な兎だった。巨体に似合わず俊敏な動きで散ると、瞬く間にハンターたちを囲む。
 最初からそうするつもりだったとでも言いたげに、ニヤニヤと笑いながら。

リプレイ本文

●包囲網

 緊張を含んだような生暖かい風が、開けた森の緑の木々を揺らす。ざわめきのような音の狭間、連携の取れた動きでハンターを取り囲んだ巨大な兎がニヤけ顔を晒す。

「……笑う兎は初めて見たな」

 雑魔である兎の一体を見て、どこか興味深そうに鞍馬 真(ka5819)は呟いた。
 彼に相槌を打つように頷いたのは自らを兎と自称する玉兎 小夜(ka6009)だ。

「まったくだね。それに雑魔におちるとは兎にあるまじき行為。悔い改めよ」

 憤りを含んだ声を大気に震わせた小夜は刀の先を兎の一体に向けて不敵に笑う。

「……けど。兎を狩る兎は兎なのかな?」

 圧力をかけるような視線にも兎の雑魔はたじろがない。数で勝り、囲んだ時点で自分たちを捕食者側だと確信しているようでもあった。
 戦闘の舞台となった場の片隅の土には乾いた血がこびりついている。さらにその側、折り重なるようなむごたらしい遺体が二つある。犠牲者となった兄弟だった。
 狩りに出かけた兄を探して森に入り、惨状を発見したという少女を思い出し、セレス・フュラー(ka6276)は小さく肩を竦めた。

「……ま、こんなご時世だからね。誰がいつどこで死んだって不思議じゃない。だから、目撃者の女の子が特別可哀想とは思えない」

 それでもセレスのエメラルドを連想させる緑の瞳には兎雑魔への敵意が宿る。

「ただ、まあ……あたしがあの子の立場だったとして、殺されたのがあたしのお姉様たちだったりとかは嫌だからね。だから、今度はあたしたちが、こいつらを狩るよ」

 雑魔の放つ瘴気ゆえか、僅かに煙るような戦場の森でセレスは苦笑を顔に乗せる。

「もっとも、うちのお姉様たちがその辺の雑魔にそうそう殺されるとも思えないけど、そこはそれ」

 先手を打って包囲網を完成させた兎雑魔は浮かべたいやらしい笑みを消さない。緊迫感はまるでなく、有利者の愉悦に浸っているようにも感じられる。
 その一体一体に視線を飛ばし、ルナリリル・フェルフューズ(ka4108)は小さな唇をややぶっきらぼうに動かす。

「囲まれたか……しかし速い敵って厄介だよねぇ……。ま、面倒な敵を相手にするのもいつもの事か。これ以上被害を出さない為にも確実に仕留めるとしよう」

 調子を確かめ終え、銃を構えたアバルト・ジンツァー(ka0895)が呆れ半分に赤髭を蓄えた口元を歪める。

「……包囲すれば我々に勝てる、とでも考えたのか? 所詮は雑魔という事か。その甘さ、死を以って後悔するが良い」
「なんだか腹の立つ顔もしているしな。これなら余計な手心を加えずに済みそうだ。……もとからそのつもりもないが」

 同調する真。兎雑魔はすぐにでも飛び掛かってきそうだが、悠然とした態度には気負いも焦りも見当たらない。

「本当にたくさんいるね。でも数もそうだけど、囲んでいれば有利って訳でもないのよ?」

 顎に人差し指を当てる可愛らしい仕草を披露した十色 乃梛(ka5902)が、敵をぐるりと見回す。その上で彼女はふと思いついたとばかりに手を叩く。

「倒したあと、死骸が残れば兎鍋とか出来ないかな~?」

 何気なく発せられた言葉に、一瞬兎雑魔が怯んだように見えたのはきっと気のせいだろう。

●突撃

 破裂しそうに膨らんだ緊張感の真っ只中を乃梛が駆ける。

「私の奏でる鎮魂歌を聞いても平然としていられるかな」

 敵を見据える澄みきった空のごとき蒼眼に浮かぶ九芒星。生まれる暖かな光が捧げる安心感が、風になったかのように純真な少女の黒髪を揺らす。
 紡がれるのはアンバサという謎の祈り言葉。踊るように舞うのは白い指。奏でられるのは雑魔の動きを阻害するレクイエム。
 正面奥と右奥の兎が抵抗出来ずに足を止めたのを確認し、乃梛が後ろを振り返る。

「二体の動きを鈍らせましたよ。今のうちにお願い」

 炎の玉に明確な殺意を宿らせた小夜が呼応し前に出る。流れる髪に風を纏わせる白い肌の舞刀士。両の側頭部には真白の垂れた耳が、腰の下方にはふわふわと柔らかそうな同じく雪を連想させる尾が出現する。

「兎であることを捨てたお前らに、ヴォーパルバニーである私が引導を渡してやろう」

 正確な一撃を放つために精神の集中を高めていた小夜の刀が、正面奥の雑魔を狙い定めた空間で両断する。
 乃梛のレクイエムにより回避能力を低下させていた巨大な兎は、迫りくる刃の前になすすべく胴から肉体を二つに斬られて絶命した。

「雑魔になったところで首狩り鬼にはなれないのだよ?」

 消えゆく骸を見下ろす小夜の派手な斬撃に、ほぼ一斉に敵の注意が集まる。血走ったように赤い目が彼女を集中的に狙うと告げているみたいだった。
 敵を引きつける狙いもあった小夜にはまさに計算通り。その様子を見ていた他の仲間にも慌てる様子はなかった。


 乃梛と小夜の連携を横目で眺めていたアバルトは、敵との距離が詰まっている事から拳銃を用いての攻撃を行うつもりだった。

「あちらの敵は味方が動きを封じたか。では自分は別の敵を狙おう」

 戦場全体の動きを把握し、仲間への適切な援護射撃を心がけるアバルトが標的としたのは正面左奥の敵だった。

「……氷狼の牙、その身で味わうが良い」

 弾丸に込められたマテリアルが凍える冷気を引き連れて、淀んだ森の空気を切り裂いていく。狙われた雑魔は慌てて飛び退こうとするも、その前にアバルトのFenrir Stoszahnが敵の背中を食い千切ろうとするかのように命中した。
 一歩だけよろめくように進んだ雑魔の巨体がドサリと地面に崩れ落ちる。もう息はしていなかった。

「作戦として包囲は有効だが、その後に力押しだけでは足元をすくわれるぞ。特に相手が我々のような実力者であればな」

 疾影士のセレスは、近くにいるアバルトへ声を掛けようとして、ふと思案顔になる。

「アバルトくん……いや、年上には敬意を払っとこうか。いや見た目が年上っぽいってだけなんだけど」

 声が聞こえたアバルトはセレスを振り返ると、表情を崩さずに言葉を返す。

「好きに呼べば良い。自分は特に気にしない」

 頷いたセレスはさん付けで呼ぼうと改めて決めたあと、アバルトによって命を失った雑魔を一瞥する。

「アバルトさんの攻撃に合わせて接近しようと思ってたんだけど、予想より敵の生命力はたいしたことないみたいだね。それなら――」

 セレスの周囲に吹いた風が、一本一本がまるで上質な銀の絹糸のような髪の毛をなびかせる。長さも腰のあたりまで伸び、彼女の動きに合わせて美しく舞い踊る。
 右斜め後方にいた雑魔へセレスが最初に仕掛けたのはエンタングル。相手を牽制し、回避をしにくくした上で持ち替えた投擲用の武器に、毒を与えるミゼリアの憎しみを乗せて投げ放つ。
 俊敏な回避を封じられた兎雑魔は急所を穿たれて、あえなく生を終える。

「恨みつらみに嫉妬はどこまでも昏い毒になるってね。蝕まれて――って、もう死んでるんだ。こりゃ、素早いだけの敵だね」
「それでも油断はできないし、するつもりもない。焼き払え、真雷炎波」

 真紅の双眸で敵を睨むルナリリルの背に、漆黒のオーラが巨大な光翼を纏わせる。大きな羽撃きに舞い散る黒羽が、真雷炎波の発動に合わせて輝きを伴う紅に染まる。
 プラズマ化された高圧火炎が大波のように呑み込もうとするのは、左に位置する雑魔だった。

「回避能力が高いなら高いなりの戦い方がある。一部分だけが突出していても、戦場における絶対的な有利にはならない」

 それはまるで予言のようでもあった。狙われたその兎は必死の回避も振るわず、頭から火炎の餌食になって二度と目を開かなかった。

「さて次はどいつにしようか。いかなる状況になっても私は戦える。遠慮せずにかかってきてもいいぞ」

 ルナリリルの挑発的な言動にも、生存中の兎雑魔は動く様子を見せない。

「ならばこちらか狙い撃つ……なんてね。私の間合いからは逃げられないよ」


「派手にやってるな。北側の脅威はほぼなくなった。私は南側の敵を叩こう。だが、まずは――」

 真が鋭い視線を飛ばした相手は、右側で凶悪な牙を光らせている一体だ。
 青い瞳が一瞬だけ金色に輝き、直後に真は黒髪を揺らして土の上を走る。

「味方の戦いぶりを見ても、気をつけるのは敵のスピードだけか。ではこれならどうだ」

 両手でも持つ死神の名を関する人骨をモチーフにした不気味な大鎌を、真は大きく踏み込みながら突き出す。軌道上にいる兎雑魔に見舞われる刺突一閃は、あっさりと敵の胴を斬り裂いた。
 悲鳴を上げる暇もなく倒れた雑魔の絶命を確認後、真は敵を葬り去った大鎌を見て感想を呟く。

「……初めて使う武器だが、意外とどうにかなるものだな」

 乱戦時は味方を巻き込まないように刀を使おうと考えていたが、どうやら心配は杞憂に終わりそうだった。
 小夜が集中的に狙われそうになっているが、包囲した強みを活かしての常に標的の死角を狙った攻撃が敵をするのは数の上で難しくなっていた。

「残りは三体か。これでは自慢の包囲攻撃も意味をなさないな。安心するにはまだ早いが、先が見えてきたか」

 当初の予定通りに以降は近くの敵から順に倒していこうと決め、真はグリムリーパーを構え直した。


 勝利を確信する要因となった包囲網が、瞬く間にハンターの手で破られた。それでも生き残っている兎雑魔は逃げようとせず、狙いをつけた小夜の柔らかそうな手足を食い千切ってやろうと獰猛な目を光らせる。
 自分だけが狙われていると察した小夜は敵に間合いを詰められる前に、近くの乃梛を気遣う。

「少し離れてて。連中の標的は私一人みたいだからね」

 牙が届く距離まで接近するように見せかけ、僅かに小夜が目を離した隙に三体はタイミングを合わせて近くにあったやや大きめの石を蹴り上げた。
 だがそれは決して不意を突いたものではなかった。小夜は少しも慌てず、刀を用いて飛んできた石を弾く。

「一匹を大勢で倒す。うん、被食者としては正しいね」

 乃梛のレクイエムの影響を受けている一体の蹴った石が、明後日の方向に飛んでいくのを眺めながら淡々と小夜は言った。
 その彼女の横から乃梛が、接近を続ける二体の兎雑魔へ新たにレクイエムを放つ。

「まとまって近づいて来るなら好都合だよ。お得意の素早い動き、封じさせてもらうからね」

 真南と南西の二体が抵抗空しく行動を阻害される。そこへ敵がまとめて射程に入ったのを確認した小夜が次元斬を食らわせたる。
 咄嗟に回避行動を取ろうとする兎雑魔だが、鈍っている動きでは想定通りに攻撃をかわすのは不可能だった。

「さっきの続きだけど、首狩り兎なら捕食者であろうか」

 繰り出された刀が二体を背中から真っ赤に噴き上がる血の薔薇を咲かせる。
 大地に降り注ぐのは敵にとって絶望の雨。生き残った最後の兎雑魔は、不自由な動きにも構わずにハンターから逃げようとする。


 呆気に取られたわけではないが、戦場から離れようと足を動かす敵の背を見るルナリリルはどこかつまらなさそうだ。

「多少は近寄られるのも心配していたが、まさか逃げようとするとはな」

 さりとて住民の脅威になるであろう敵を、このまま逃すつもりはルナリリルになかった。
 向かってくれば労せず一撃で仕留められるが、生き延びるのに必死な兎は限界まで身をよじって方向を変え、ハンターのいない場所から逃れようとする。

「……狩られる覚悟もなく、自分たちに向かってくるとは、な。では、これからは戦闘ではなく狩猟という事だな」

 懸命に遠ざかろうとする巨大な兎雑魔の背中に狙いを定めるのはアバルトだ。持ち替えたライフルの引き金を引くと甲高い音が木霊し、続いてドサリと雑魔の倒れる音が響いた。

「これで終わりか。存外、呆気なかったものだな」
「ああ。アルコルでの単体射撃も視野に入れていたんだが……出番がなかった」

 アバルトが射撃体勢に入ったのを見て、援護するように兎雑魔の逃げ道を塞いでいたルナリリルが小さなため息をついた。

●戦い終えた後で

「ふ……魔におちた兎などこの程度か。サキムニとかうちの兎たちにも言い聞かせないとなぁ」

 そう言いながらも、小夜は刀だけで雑魔たちを倒せた事実に満足げだった。
 静けさが戻った森の奥で、乃梛が飛び跳ねるように手を挙げた。

「辺りを軽く回ってみようよ。歪虚化した発生原因がわかるかも。これ以上の犠牲者が出ないようにしないとだし」
「賛成だな。短時間だとしても近くに巣などが無いか見回ろう。もちろんあれば壊す」

 真だけではなく、セレスもすぐに同意する。

「じゃ、あたしも一緒しようかな。不完全燃焼ってわけでもないけど、何かあっても戦える余力は残ってるしね。アバルトさんは?」
「同行しよう。村やそこに住まう人々に、さらなる被害を出させたくない気持ちは自分も同じだ」

 快く承諾したアバルトの隣では、聞かれるまでもないとばかりにルナリリルが言う。

「全員で行けばいい。世界の平和を守るだけでなく、人々を安心させるのもハンターの役目だ」


 素早く隊列を組み、目が届く範囲で森の捜索を終えたハンターたちは揃って元の場所へと戻ってきた。幸いにして全滅させた兎雑魔たちの他に、人々の脅威になりそうなものはなかった。
 一安心という雰囲気が漂う中、雑魔とは違って森に置かれたままの二つの遺体を真は眺める。兎雑魔の被害者となった兄弟であり、見るも無残な有様となっていた。

「……遺体の損傷が激しいな。出来れば生まれ故郷へ連れ帰ってやりたかったが、埋葬するしかないか。だがせめて、遺品は持って帰ってやりたいな」
「形で残ってるのは銃くらいのものだね。形見といえば形見だけど……ま、渡してあげよっか」

 セレスが落ちていた兄弟の物と思われる銃を拾い上げ、そのあと全員で彼らを土に埋葬して弔った。

「きちんと弔えて良かったわ。あとは犠牲になった兄弟の妹さんね。会ったばかりの他人が慰められるものじゃないかもしれないけど……同じく、ある日突然兄を失った者として放ってはおけないわ」

 静かに祈りを捧げた乃梛は安堵を宿していた瞳に、新たに決意の光を宿らせた。


 村に戻ったハンターたちは村長に兎雑魔の退治を報告すると、その足で兄弟を失った小さな少女の家のドアを叩いた。
 怯えた様子で出てきた少女は、ハンターに差し出された銃を大事そうに抱き締める。失われた兄の温もりを少しでも思いだそうとするかのように。

「お兄さんを失ったのは、とてもとてもつらいけど……どうか後を追おうなんて考えないでね?」

 優しく慰める乃梛の服を小さな手が掴む。体の片側で銃を抱える少女が、心優しハンターの胸に顔を埋めて泣きじゃくる。それは少女が二人の兄の死を目撃して以降、初めて流した涙だった。
 他のハンターも見守る中、乃梛は少女が落ち着くまで、ずっと彼女の髪を撫でていた。

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MVP一覧

  • 疾風の癒し手
    十色 乃梛ka5902
  • 兎は今日も首を狩る
    玉兎 小夜ka6009

重体一覧

参加者一覧

  • 孤高の射撃手
    アバルト・ジンツァー(ka0895
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • 竜潰
    ルナリリル・フェルフューズ(ka4108
    エルフ|16才|女性|機導師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 疾風の癒し手
    十色 乃梛(ka5902
    人間(蒼)|14才|女性|聖導士
  • 兎は今日も首を狩る
    玉兎 小夜(ka6009
    人間(蒼)|17才|女性|舞刀士
  • 風と踊る娘
    通りすがりのSさん(ka6276
    エルフ|18才|女性|疾影士

サポート一覧

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/03/18 17:55:26
アイコン 相談卓
通りすがりのSさん(ka6276
エルフ|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/03/22 23:35:11