ゲスト
(ka0000)
【詩天】心残の果て
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/03/23 12:00
- 完成日
- 2017/03/30 09:16
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
若峰郊外にある即疾隊の一室……局長の部屋に数名の影があった。
一番小さな影が部屋をでると、局長である江邨雄介は神妙な顔で目を細めている。
「局長……」
副局長の前沢も同じ表情であり、二人して床に広げている地図を見下ろしていた。
「即疾隊を出しますか」
「それしかあるめぇ。ハンターの力も借りて、総出でやらねぇと若峰が潰れる」
江邨の強面顔が凄んで床の地図を睨みつけた。
「こりゃ、水野様に報告だな」
ため息交じりに立ち上がった江邨は部屋を出る。
●
即疾隊の屯所を出た江邨は足早で水野武徳の方へと向かっていた。
武徳の方でもまた、その情報は掴んでおり、長江へ向かった真美……九代目詩天がいない隙を狙ったかのような歪虚の進軍に頭を抱えているようだ。
「即疾隊とハンターで歪虚を討伐します」
「ああ」
江邨の報告を聞いていた武徳の様子はどこか上の空だった。
「……水野様?」
武徳の様子を推し量るかのような江邨の呼びかけに武徳は「聞こえておる」とだけ返す。
「何か、こちらの作戦に不足でも」
確認しようとする江邨に武徳はそうではないと言いたいようだった。
「ここで、奇策をとった奴がいたな……と思い出していた」
「ほう」
わざとらしく目を丸くする江邨の顔を煙たげに武徳は目を細める。
「千石原の乱で、秋寿側の若い兵士を逃がそうとしていた奴がいた。奴らしい甘い考えだ」
「若い兵士を……?」
江邨の言葉に武徳は頷いた。
「人失くして国は存在せん。奴は次代の詩天を託すために逃そうとしていた。先を見通せない愚かな奴だ。命あっても、立場無くては支えることは難しい」
「……その武将の名は」
早口で吐き捨てた武徳の言葉を江邨が拾う。
触れてはどうするものではない。
過去は過去なのだから。
しかし、武徳はこともなげに言った。
「上原柊一郎という男だ。その場所で若い兵を逃がしていた者の中に、人とは思えぬ姿をした兵もいたと言っていた」
相当の手練れでもいたのだろうと武徳は言ったが、彼は江邨の表情を見てはいなかった。
●
即疾隊の屯所に戻ってきた江邨はまず、副局長の前沢と一番隊長の壬生和彦を呼び出す。
先月に続き、再び歪虚は若峰へと進軍してくることを副局長から告げられた和彦は表情を厳しくし、二人の言葉の続きを待つ。
「場所は千石原だ」
前沢はそう言って、千石原周辺の地図を広げ、敵の動きの予想とこちらの陣を伝える為に碁石を並べ始める。
「ハンターにも協力を要請し、戦ってもらう」
「はい」
「一番隊は、半分はここで陣を張り、お前含むもう半数は月下城から攻め込み、敵に奇襲をかける。二番隊と三番隊にはお前たちが動きやすいように囮となってもらう」
そこまで言った前沢は顔をあげて和彦の様子を見る。
「また置いて行かれたって顔をするな」
「そ、そうようなことは……」
口ごもる和彦に江邨がくつくつと笑う。
「一番隊がいるところはな、上原修一郎が擁する軍がいた場所だ。水野様のお話し曰く、その当時には人とは思えぬ姿をした兵がいたらしいな」
江邨が先ほど水野より教えて貰ったことを教えるなり、和彦は言葉を失って局長の方を向いている。
「一番隊の奇襲組にはお前の他、ハンターをつけることになる。お前が一番隊を助けるんだ」
いいな。と、念を押した江邨に和彦の中で感覚が変わったのか、気を引き締めたように一つ頷いた。
「はいっ」
返事すら少し明るい和彦の現金な様子が面白かったのか、江邨はぶふーっと、噴き出す。
「局長」
真面目な打ち合わせの場所なんだからと、副局長が局長を睨みつけると、当人は反省の色もなく、まぁまぁと前沢を宥める。
「俺達の仕事とはいえ……陣を張るのが敗れた三条側ってのも、因果だねぇ」
顎を摩る江邨の視線から逃れるように和彦は顔を俯かせた。
「……皆、この地を守りたいだけです」
千石原の乱には様々な思惑があれど、皆が詩天を思っていたのは、誰もが知っている。
――凡ては、詩天が為。
一番小さな影が部屋をでると、局長である江邨雄介は神妙な顔で目を細めている。
「局長……」
副局長の前沢も同じ表情であり、二人して床に広げている地図を見下ろしていた。
「即疾隊を出しますか」
「それしかあるめぇ。ハンターの力も借りて、総出でやらねぇと若峰が潰れる」
江邨の強面顔が凄んで床の地図を睨みつけた。
「こりゃ、水野様に報告だな」
ため息交じりに立ち上がった江邨は部屋を出る。
●
即疾隊の屯所を出た江邨は足早で水野武徳の方へと向かっていた。
武徳の方でもまた、その情報は掴んでおり、長江へ向かった真美……九代目詩天がいない隙を狙ったかのような歪虚の進軍に頭を抱えているようだ。
「即疾隊とハンターで歪虚を討伐します」
「ああ」
江邨の報告を聞いていた武徳の様子はどこか上の空だった。
「……水野様?」
武徳の様子を推し量るかのような江邨の呼びかけに武徳は「聞こえておる」とだけ返す。
「何か、こちらの作戦に不足でも」
確認しようとする江邨に武徳はそうではないと言いたいようだった。
「ここで、奇策をとった奴がいたな……と思い出していた」
「ほう」
わざとらしく目を丸くする江邨の顔を煙たげに武徳は目を細める。
「千石原の乱で、秋寿側の若い兵士を逃がそうとしていた奴がいた。奴らしい甘い考えだ」
「若い兵士を……?」
江邨の言葉に武徳は頷いた。
「人失くして国は存在せん。奴は次代の詩天を託すために逃そうとしていた。先を見通せない愚かな奴だ。命あっても、立場無くては支えることは難しい」
「……その武将の名は」
早口で吐き捨てた武徳の言葉を江邨が拾う。
触れてはどうするものではない。
過去は過去なのだから。
しかし、武徳はこともなげに言った。
「上原柊一郎という男だ。その場所で若い兵を逃がしていた者の中に、人とは思えぬ姿をした兵もいたと言っていた」
相当の手練れでもいたのだろうと武徳は言ったが、彼は江邨の表情を見てはいなかった。
●
即疾隊の屯所に戻ってきた江邨はまず、副局長の前沢と一番隊長の壬生和彦を呼び出す。
先月に続き、再び歪虚は若峰へと進軍してくることを副局長から告げられた和彦は表情を厳しくし、二人の言葉の続きを待つ。
「場所は千石原だ」
前沢はそう言って、千石原周辺の地図を広げ、敵の動きの予想とこちらの陣を伝える為に碁石を並べ始める。
「ハンターにも協力を要請し、戦ってもらう」
「はい」
「一番隊は、半分はここで陣を張り、お前含むもう半数は月下城から攻め込み、敵に奇襲をかける。二番隊と三番隊にはお前たちが動きやすいように囮となってもらう」
そこまで言った前沢は顔をあげて和彦の様子を見る。
「また置いて行かれたって顔をするな」
「そ、そうようなことは……」
口ごもる和彦に江邨がくつくつと笑う。
「一番隊がいるところはな、上原修一郎が擁する軍がいた場所だ。水野様のお話し曰く、その当時には人とは思えぬ姿をした兵がいたらしいな」
江邨が先ほど水野より教えて貰ったことを教えるなり、和彦は言葉を失って局長の方を向いている。
「一番隊の奇襲組にはお前の他、ハンターをつけることになる。お前が一番隊を助けるんだ」
いいな。と、念を押した江邨に和彦の中で感覚が変わったのか、気を引き締めたように一つ頷いた。
「はいっ」
返事すら少し明るい和彦の現金な様子が面白かったのか、江邨はぶふーっと、噴き出す。
「局長」
真面目な打ち合わせの場所なんだからと、副局長が局長を睨みつけると、当人は反省の色もなく、まぁまぁと前沢を宥める。
「俺達の仕事とはいえ……陣を張るのが敗れた三条側ってのも、因果だねぇ」
顎を摩る江邨の視線から逃れるように和彦は顔を俯かせた。
「……皆、この地を守りたいだけです」
千石原の乱には様々な思惑があれど、皆が詩天を思っていたのは、誰もが知っている。
――凡ては、詩天が為。
リプレイ本文
強い風が千石原に吹きつけていた。
まるで警笛のように鳴る高い音、獣が唸るような低い風の音が入り混じって千石原の向こうから若峰の方へ吹いている。
「ここが千石原」
そう呟いたのはマシロビ(ka5721)だったが、風が彼女の声を流してしまう。
春を告げる風とは違う禍々しさをマシロビは白皙の肌で受け止めていた。
「留守だからって、隙をつくとはな。ちゃんと、守ってやらないと」
南護 炎(ka6651)の視線はマシロビと同じこれから歪虚が向かってくる方向であり、強い風は彼の短い髪もかきあげる。
黒い軍勢が確かにこちらへと向かってきているのを見ていた。
「再び、ここで戦いが起きるのね」
目に塵が入らないように符を扇のように数枚広げて顔を守っているのは和音・空(ka6228)。
大きな戦いとなるとはいえ、彼女の表情に恐れはなかったが、いつもの晴れやかに毅然とした様子はなく、曇っている。
「ここの人には悪いけど、やっぱり、いい修行場になってしまうわ」
「如何なる場所でも日々修行といいます。空さんをはじめ、皆さんの力が存分に発揮できる戦いにしましょう」
ため息交じりに呟いた空の言葉を拾ったのは和彦だった。
戦いを前に高揚した様子はなかったが、冷静かつ、口端をあげて返すのは余裕があるからだろうか。
「そうね。そう言われたら、気合が入りそうね」
広げていた符を目のあたりから口元に下ろして空は少しだけ笑った。
「お。和彦、前より更に隊長っぽいな」
明るく軽口をたたくのは綿狸 律(ka5377)。
「律さんっ。か、からかわないでくださいっ」
どこか照れている声音を含んで和彦が返す。
「あまりからかうな。先ほどまで、新人隊士を指導していたのだからな」
穏やかに律を窘める皆守 恭也(ka5378)は和彦の様子を見ていたようで、当人は戦いに赴く新人隊士を感覚のまま、話しかけていたようであった。
「ちゃんと隊長してますよ」
マシロビが微笑んで言えば、和彦は照れて顔を手で覆ってしまう。
そんな和彦を見ていた花厳 刹那(ka3984)が微笑む。
ハンター達と隊長の様子を少し遠巻きに見ていた隊士達も少しだけ緊張が緩んだような感覚になり、気持ちを切り替えるように敵の方を見始めた。
ハンター達と和彦は本陣を離れ、月下城の方へと周り、敵の動きを見ていた。
「近づいているな」
渋い表情を浮かべる律に恭也は彼を守るように傍に立っている。
一番前に立っていた和彦はハンター達に背を向けていてその表情は見えなかったが、刹那は彼の手がぎゅっと握りしめているところを確認していた。
とことこ歩いて刹那は和彦の後ろに立っても彼は振り向かない。
「悩み事?」
和彦の背後から後ろから抱きついた刹那がどこかあどけない表情で和彦の後ろ頭を見つめて問いかける。
抱きつかれ、声をかけられてから気づいた和彦は似たような年齢の娘である刹那であることに気づいて我に返って急いで離れて振り向いた。
「刹那殿……っ」
なんとか声量を抑えて和彦が咎めると、彼女は静まった水面のような青い瞳でまっすぐ見ている。
「……自分が使いに出ている間、父や、兄弟子たちがあそこにいたんだなと思うと……」
やりきれないような様子を見せる和彦にハンター達も視線を動かしてしまう。
「だったら、さっさと行こうぜ」
そう言ったのは炎だ。
「そうそ、今は戦うことだけ考えてろよ。過去はやり直しきかないけど、そこにいる一番隊は守れるだろ?」
炎の言葉を肯定して続けたのは律だ。
「今も詩天の為の戦が広げられる。俺たちも今回の千石原の戦いに加わるんだ。まずは、戦い抜き、勝とう」
背中は守らせて貰うと付け加えて恭也が和彦に告げる。
「行きましょう」
マシロビは和彦の向こう……若峰へ攻める歪虚の大軍を指さした。
「来るわね」
群れではなく、向こうも陣形を作っているようであり、空が目を眇める。
●
歪虚達は乱れることなく一定の速度で進んでいた。
鬼や落ち武者や雑兵がそれぞれの配置についている。
荒くれ者ぞろいと言われた即疾隊だが、現在は実戦もままならない新人隊士も出陣せねばならない状態で、余裕がない。
故に、和彦とハンターは歪虚の陣を崩して混乱に陥れるべく、月下城から奇襲せんがために回り込んでいた。
「範疇内に入ったわね」
注意深く確認していたのは空だ。
奴らはまだ気づいていない。
「さぁ……派手に行くわよ」
符を放つと、風で勢いよく舞い上がった。
空が符より雷を呼び出すと、三つの稲光が走って鬼の方へと雷が落とされる。
雷の三つの内、二つが鬼を守る雑兵へ直撃し、地に伏した。落ち武者狙いでもあったが、目的の鬼は稲妻の衝撃で痺れてしまったのだろうか、動きが鈍い。
「即疾隊一番隊切り込み隊長、南護炎! 行くぜ!」
先陣切って駆けて行ったのは炎だ。
「いつからそんなことに」
炎の気合に和彦はくすっと笑ってしまったが、すぐに真剣な表情へと戻す。
横から突っ込んでくるハンター達の姿に気づいた歪虚達が進軍していた向きを変えた。
槍を持っていた落ち武者姿の歪虚が炎へ狙いをすまして槍を突き出す。
「おっと! 切り込み隊長同士の戦いってね!」
軽口を叩いている炎だったが、集中してマテリアルを高めて強く踏み出した。
先に攻撃を仕掛けたのは歪虚だ。素早い動きに炎は身を捩って避けようとしたが、鎖帷子越しに衝撃が走る。
それでも納刀状態の炎の剣は一気に引き抜かれ、太陽の輝きが見えると、歪虚の上半身を横に真っ二つにした。
「さぁて、行くぜ!!」
仲間がやられたことに感づいたのだろうか、歪虚達は炎の方へと更に進んでいく。
「あまり突っ走らないでくださいねー」
更に突っ込もうとする炎に声をかけたのは刹那だった。
彼女の周囲には雑兵達が囲っている。
柄が以上に長い斬龍刀をどこか優雅に抜き放った刹那は下段に構えた。
「参ります」
花弁の幻影が見えると、刹那は一気にトップスピードに乗って地を蹴る。
雑兵達が気づいた頃には彼女の刀が腕ごと武器を斬り、中空高く放られる。足を止めることなく刹那は次の一撃を見据え、隣にいた歪虚の首を飛ばす。
首がなくなった歪虚の後ろにいた雑兵が刀を構える隙を与えずに鎧の隙間を縫って刀を突き立てた。
攻撃の反動に身を委ねた刹那が左足で踏ん張り、右足を後方へと足払いをかける。
彼女が動きを止める隙をみていたのだろうか、歪虚がゆっくり動いて刹那の方へと向かっているのを橙の瞳が見ており、符が中空を舞った。
背後に歪虚の気配を感じた刹那であったが攻撃を受けることなく、敵は稲妻に打たれて倒れる。
「さぁ、援護しますよ!」
後方で叫んだのはマシロビだった。彼女が刹那の危機を察知してくれたのだ。
「助かります!」
くるっと、前を向いた刹那は更に奥へと走っていく。
「仲間はこれ以上やらせねぇよ」
本陣の前線では交戦が始まっている。
二番隊、三番隊の覚醒者が囮となっており、早く歪虚の陣を崩さねば、こちらが不利となるだろう。
律は龍矢の表面をゆっくりなぞり、光の矢を形成させた。
矢を番えた律は弦を震わせて矢を放ち、素早い動きで連続射撃を行う。
光の雨が如くに歪虚達へと矢が降り続け、敵……手近な鬼がいる陣を制圧して動きを鈍らせていった。
「皆さんに負けてられませんね」
ぽつりと呟いたのは和彦だ。
彼は恭也と共に背を任せていた。
「恭也さん、中列の鬼がこちらへ向かってきているようです」
「了解。ここで引き付けて片付けよう」
雑兵達が二人の方へと群れを成して向かってきていた。
和彦は一度、刀を納めてマテリアルを練る。
その間、恭也は和彦を狙う歪虚を上段より斬り倒しており、その場に留まらずに刀を水平にして雑兵の胴を斬りつけた。
マテリアルの練り上げが完了した和彦に気づいた恭也は彼の一撃の邪魔にならないように身を退く。
一気に抜き放たれた和彦の攻撃は一直線に敵を薙ぎ払っていった。
雑兵は吹き飛ばされた後は動くことはなかったが、鬼は一度倒れたものの、再び立ち上がろうとしていた。
更に追撃を落としたのは、空の風雷陣。
まだ来るわよと言わんばかりに空は指を鬼へと向けていた。
「追います」
言わずもがなと和彦が応え、恭也に声をかける。
「了解した」
和彦の一撃で鬼への道が出来て二人が鬼を片付けるべく駆け出した。
攻撃を免れていた雑兵達が恭也達へ狙いを定め突撃を始めるなり、雑兵の一体が横に吹き飛んだ。
「はぐれて悪い!」
炎が和彦を狙う歪虚を斬り倒して合流する。
「一気に仕留めよう」
恭也の言葉に二人が応じた。
まずは、和彦が周囲の雑兵を斬り倒していき、炎が真っ向から鬼の一撃を剣で受け、身体を引いて鬼の刀を受け流す。
胴ががら空きになった瞬間を恭也は見逃さずに、半身の姿勢で刀を水平に構え、一気に間合いを詰めて大太刀を鬼の身体へと斬り入れた。
深く斬りこまれた攻撃に抗うことが出来ず、鬼は倒れる。
「前線では交戦が始まってる。二番隊と三番隊が囮になってくれてるが、一番隊の方へも歪虚が流れているぜ」
炎が確認した戦況に和彦は表情を硬くして一番隊がいるだろう方向を見つめている。
「壬生殿、まずはここの陣の混乱からだ」
恭也が静かに、確りと和彦へ言えば、彼は一呼吸を置く。
「一気に突き進みましょう」
隊長の判断に二人は快諾し、最前線へ向かう。
最前線にいたのは刹那であり、その後ろには空が控えている。
「下がって!」
空が刹那へ警告を叫ぶと、彼女は目の前の雑兵を斬り倒してから後ろへ飛んだ。
複数の符が赤く光り、結界が形成されてゆく。
その中に歪虚達が含まれており、光が敵を焼いた。倒れるものがいれば、堪えるものがいたが、その動きは視界を奪われたせいであり、とても緩慢だ。
逃がさないとばかりに律の矢が雑兵達へ射られていく。
「マシロビ! 向こうだ!」
中衛の一人であるマシロビへ律が指示を向けると、彼女は符を中空に舞わせる。
三つの稲妻が歪虚達に落ちてその身が地に伏せられ、その向こうから前衛の恭也達が駆けつけてきた。
「待たせた。律、状況は」
律の無事に安心した恭也が説明を求めるが、彼は少し表情を苦くした。
「混乱はしてるけど、前にいる鬼が結構固くってさ」
「さっさと潰さねぇとやばそうだな」
前を見据える炎の表情に悲観した色はなく、まだ思いっきり刀が振れるということに意欲が増している。
「状況を把握するのは大事なことですが、悠長にはできませんね」
そう言ったのはマシロビであり、自分達の近くを定めて五色光符陣を発動させた。
話している間にも敵は自分達の陣地に紛れ込んだハンター達を狙っている。
「空さん! 律さんが制圧射撃を行いますので、周囲の雑兵の動きを止めてください!」
「わかったわ!」
和彦が叫ぶと、空はすぐに了承した。
後方では律が弓を構えており、制圧射撃を始めていた。
矢継ぎ早に繰り出される光りの矢は歪虚の動きを誘導するように、射止めていく。
更にマシロビが風雷陣を使って周囲の数を減らしていった。
機会を伺っていた空はここだと思う瞬間に光の結界を発動させる。
五色に輝く結界は雑兵や鬼を含めて身を、視界を焼く。
攻撃に耐えきれなかった敵が一体、また一体と倒れていき、陣の中で残った歪虚……特に鬼へ空とマシロビの風雷陣が追い打ちで発動された。
尚も動き、斧を構える鬼に律が動く。
「これならどうだ」
彼が番える矢に冷気が纏われていき、龍矢の効果もあってか、曇天の中でも冷気が煌めいた。
空気の震える音と共に矢が放たれると、鬼が武器を握っている腕に矢が突きぬけた。
鬼は自身の腕を貫いた矢を引き抜こうにも、引っかかっているようだったが、身体の中身まで引きずりだすように無理やり引っ張り、炎の方へと投げつける。
「おわっと!」
驚いた炎が慌てて避けたが、甲冑の隙間に矢じりが掠ってよろけてしまう。
「随分乱暴じゃない」
即座に空が風雷陣を発動させて鬼の動きを更に鈍らせていき、和彦が鬼の懐に飛び込み、律が凍らせた腕を切り落とした。
「動けますか」
長い前髪の奥から和彦の瞳が炎を見つめる。
「おうよ!」
一番隊の長に言われた炎は素早く踏み出して刀を抜き、上段より思いっきり鬼へと振り下ろし、大きな図体を背から倒した。
視界の中に一番隊の影を見つけたのは刹那だ。
先ほど、炎が和彦達の方へと行ってしまったので、周囲の雑兵達を切り倒していた。
近くで風雷陣や五色陣の発光を確認しており、そろそろこちらへ来るだろう。
その刹那が視界に捉えるのは一際大きな鬼。
歪虚の陣を崩すハンター達の存在に気づいたのか、その鬼は早く進めており、一番隊の方へと向かっていった。
このままいけば、この鬼は一番隊へとぶつかるだろう。
「お待ちなさい」
斬龍刀を構えなおした刹那が自身のマテリアルを変質させて武器に纏わせる。
次に全身をマテリアルのオーラで包み込み一気に走り出す。刹那はフェイントをかけて横へ跳んで鬼へその刀を斬りつけた。
その速さを捉えるのは難しく、鬼はあてずっぽう宜しく槍を振るう。
「あ……っ」
刹那のつま先が槍の柄に引っかかって中空で体制を崩すも、なんとか着地した。
鬼は近くにいた雑兵の刀を奪い取り、刹那へ投げつけようとするが、身体を蝕むような痛みに近い苦しみに気づく。
瞬間、刹那の目の前で稲妻が自身を狙おうとする鬼の刀に落ち、周囲で結界が展開されて光が歪虚達を貫いて焼く。
「悪い!」
「お帰りなさいませ」
炎が刹那を守るように剣を構えると、彼女は穏やかに返事をする。
「間に合って何よりですが……」
状況を憂うマシロビが見ているのは一番隊の方向。
「ここで立ち止まるわけにはいかないわ」
早期決着は必至と判断した空が符を舞わせてとどめの雷撃を鬼へ落とした。
一番隊へ合流し、加勢しなくてはならない。
「急ご……」
恭也が声をかけようとすると、視界の端にまだ動く鬼の姿を捕えた。
狙いの先は制圧射撃をしている律へ武器を投げようとしていた。彼が守る和彦も気づいており、構えている。
恭也は速く鬼の方へと間合いを詰め、腰を捩じり、低い姿勢から剣を抜いて地面を擦りあげるように鬼を斬り裂いた。
その場に留まらぬことなく、身体を翻した恭也は更に自分を狙おうとする雑兵を上段より真っ二つに斬って、後方へ戻る。
ハンターと一番隊長が歪虚をかき分けるように倒して一番隊に合流すると、一番隊の士気が上がったような気がした。
「二番隊の方が苦戦してるから、行ってくるわね」
刹那と空は更に落ち武者に苦戦している二番隊の方へと応援に駆けつけに向かう。
それから一刻後。
負傷者は出ていたものの、死傷者も少なく、再び火蓋が切られた千石原の戦いは人類の勝利となった。
まるで警笛のように鳴る高い音、獣が唸るような低い風の音が入り混じって千石原の向こうから若峰の方へ吹いている。
「ここが千石原」
そう呟いたのはマシロビ(ka5721)だったが、風が彼女の声を流してしまう。
春を告げる風とは違う禍々しさをマシロビは白皙の肌で受け止めていた。
「留守だからって、隙をつくとはな。ちゃんと、守ってやらないと」
南護 炎(ka6651)の視線はマシロビと同じこれから歪虚が向かってくる方向であり、強い風は彼の短い髪もかきあげる。
黒い軍勢が確かにこちらへと向かってきているのを見ていた。
「再び、ここで戦いが起きるのね」
目に塵が入らないように符を扇のように数枚広げて顔を守っているのは和音・空(ka6228)。
大きな戦いとなるとはいえ、彼女の表情に恐れはなかったが、いつもの晴れやかに毅然とした様子はなく、曇っている。
「ここの人には悪いけど、やっぱり、いい修行場になってしまうわ」
「如何なる場所でも日々修行といいます。空さんをはじめ、皆さんの力が存分に発揮できる戦いにしましょう」
ため息交じりに呟いた空の言葉を拾ったのは和彦だった。
戦いを前に高揚した様子はなかったが、冷静かつ、口端をあげて返すのは余裕があるからだろうか。
「そうね。そう言われたら、気合が入りそうね」
広げていた符を目のあたりから口元に下ろして空は少しだけ笑った。
「お。和彦、前より更に隊長っぽいな」
明るく軽口をたたくのは綿狸 律(ka5377)。
「律さんっ。か、からかわないでくださいっ」
どこか照れている声音を含んで和彦が返す。
「あまりからかうな。先ほどまで、新人隊士を指導していたのだからな」
穏やかに律を窘める皆守 恭也(ka5378)は和彦の様子を見ていたようで、当人は戦いに赴く新人隊士を感覚のまま、話しかけていたようであった。
「ちゃんと隊長してますよ」
マシロビが微笑んで言えば、和彦は照れて顔を手で覆ってしまう。
そんな和彦を見ていた花厳 刹那(ka3984)が微笑む。
ハンター達と隊長の様子を少し遠巻きに見ていた隊士達も少しだけ緊張が緩んだような感覚になり、気持ちを切り替えるように敵の方を見始めた。
ハンター達と和彦は本陣を離れ、月下城の方へと周り、敵の動きを見ていた。
「近づいているな」
渋い表情を浮かべる律に恭也は彼を守るように傍に立っている。
一番前に立っていた和彦はハンター達に背を向けていてその表情は見えなかったが、刹那は彼の手がぎゅっと握りしめているところを確認していた。
とことこ歩いて刹那は和彦の後ろに立っても彼は振り向かない。
「悩み事?」
和彦の背後から後ろから抱きついた刹那がどこかあどけない表情で和彦の後ろ頭を見つめて問いかける。
抱きつかれ、声をかけられてから気づいた和彦は似たような年齢の娘である刹那であることに気づいて我に返って急いで離れて振り向いた。
「刹那殿……っ」
なんとか声量を抑えて和彦が咎めると、彼女は静まった水面のような青い瞳でまっすぐ見ている。
「……自分が使いに出ている間、父や、兄弟子たちがあそこにいたんだなと思うと……」
やりきれないような様子を見せる和彦にハンター達も視線を動かしてしまう。
「だったら、さっさと行こうぜ」
そう言ったのは炎だ。
「そうそ、今は戦うことだけ考えてろよ。過去はやり直しきかないけど、そこにいる一番隊は守れるだろ?」
炎の言葉を肯定して続けたのは律だ。
「今も詩天の為の戦が広げられる。俺たちも今回の千石原の戦いに加わるんだ。まずは、戦い抜き、勝とう」
背中は守らせて貰うと付け加えて恭也が和彦に告げる。
「行きましょう」
マシロビは和彦の向こう……若峰へ攻める歪虚の大軍を指さした。
「来るわね」
群れではなく、向こうも陣形を作っているようであり、空が目を眇める。
●
歪虚達は乱れることなく一定の速度で進んでいた。
鬼や落ち武者や雑兵がそれぞれの配置についている。
荒くれ者ぞろいと言われた即疾隊だが、現在は実戦もままならない新人隊士も出陣せねばならない状態で、余裕がない。
故に、和彦とハンターは歪虚の陣を崩して混乱に陥れるべく、月下城から奇襲せんがために回り込んでいた。
「範疇内に入ったわね」
注意深く確認していたのは空だ。
奴らはまだ気づいていない。
「さぁ……派手に行くわよ」
符を放つと、風で勢いよく舞い上がった。
空が符より雷を呼び出すと、三つの稲光が走って鬼の方へと雷が落とされる。
雷の三つの内、二つが鬼を守る雑兵へ直撃し、地に伏した。落ち武者狙いでもあったが、目的の鬼は稲妻の衝撃で痺れてしまったのだろうか、動きが鈍い。
「即疾隊一番隊切り込み隊長、南護炎! 行くぜ!」
先陣切って駆けて行ったのは炎だ。
「いつからそんなことに」
炎の気合に和彦はくすっと笑ってしまったが、すぐに真剣な表情へと戻す。
横から突っ込んでくるハンター達の姿に気づいた歪虚達が進軍していた向きを変えた。
槍を持っていた落ち武者姿の歪虚が炎へ狙いをすまして槍を突き出す。
「おっと! 切り込み隊長同士の戦いってね!」
軽口を叩いている炎だったが、集中してマテリアルを高めて強く踏み出した。
先に攻撃を仕掛けたのは歪虚だ。素早い動きに炎は身を捩って避けようとしたが、鎖帷子越しに衝撃が走る。
それでも納刀状態の炎の剣は一気に引き抜かれ、太陽の輝きが見えると、歪虚の上半身を横に真っ二つにした。
「さぁて、行くぜ!!」
仲間がやられたことに感づいたのだろうか、歪虚達は炎の方へと更に進んでいく。
「あまり突っ走らないでくださいねー」
更に突っ込もうとする炎に声をかけたのは刹那だった。
彼女の周囲には雑兵達が囲っている。
柄が以上に長い斬龍刀をどこか優雅に抜き放った刹那は下段に構えた。
「参ります」
花弁の幻影が見えると、刹那は一気にトップスピードに乗って地を蹴る。
雑兵達が気づいた頃には彼女の刀が腕ごと武器を斬り、中空高く放られる。足を止めることなく刹那は次の一撃を見据え、隣にいた歪虚の首を飛ばす。
首がなくなった歪虚の後ろにいた雑兵が刀を構える隙を与えずに鎧の隙間を縫って刀を突き立てた。
攻撃の反動に身を委ねた刹那が左足で踏ん張り、右足を後方へと足払いをかける。
彼女が動きを止める隙をみていたのだろうか、歪虚がゆっくり動いて刹那の方へと向かっているのを橙の瞳が見ており、符が中空を舞った。
背後に歪虚の気配を感じた刹那であったが攻撃を受けることなく、敵は稲妻に打たれて倒れる。
「さぁ、援護しますよ!」
後方で叫んだのはマシロビだった。彼女が刹那の危機を察知してくれたのだ。
「助かります!」
くるっと、前を向いた刹那は更に奥へと走っていく。
「仲間はこれ以上やらせねぇよ」
本陣の前線では交戦が始まっている。
二番隊、三番隊の覚醒者が囮となっており、早く歪虚の陣を崩さねば、こちらが不利となるだろう。
律は龍矢の表面をゆっくりなぞり、光の矢を形成させた。
矢を番えた律は弦を震わせて矢を放ち、素早い動きで連続射撃を行う。
光の雨が如くに歪虚達へと矢が降り続け、敵……手近な鬼がいる陣を制圧して動きを鈍らせていった。
「皆さんに負けてられませんね」
ぽつりと呟いたのは和彦だ。
彼は恭也と共に背を任せていた。
「恭也さん、中列の鬼がこちらへ向かってきているようです」
「了解。ここで引き付けて片付けよう」
雑兵達が二人の方へと群れを成して向かってきていた。
和彦は一度、刀を納めてマテリアルを練る。
その間、恭也は和彦を狙う歪虚を上段より斬り倒しており、その場に留まらずに刀を水平にして雑兵の胴を斬りつけた。
マテリアルの練り上げが完了した和彦に気づいた恭也は彼の一撃の邪魔にならないように身を退く。
一気に抜き放たれた和彦の攻撃は一直線に敵を薙ぎ払っていった。
雑兵は吹き飛ばされた後は動くことはなかったが、鬼は一度倒れたものの、再び立ち上がろうとしていた。
更に追撃を落としたのは、空の風雷陣。
まだ来るわよと言わんばかりに空は指を鬼へと向けていた。
「追います」
言わずもがなと和彦が応え、恭也に声をかける。
「了解した」
和彦の一撃で鬼への道が出来て二人が鬼を片付けるべく駆け出した。
攻撃を免れていた雑兵達が恭也達へ狙いを定め突撃を始めるなり、雑兵の一体が横に吹き飛んだ。
「はぐれて悪い!」
炎が和彦を狙う歪虚を斬り倒して合流する。
「一気に仕留めよう」
恭也の言葉に二人が応じた。
まずは、和彦が周囲の雑兵を斬り倒していき、炎が真っ向から鬼の一撃を剣で受け、身体を引いて鬼の刀を受け流す。
胴ががら空きになった瞬間を恭也は見逃さずに、半身の姿勢で刀を水平に構え、一気に間合いを詰めて大太刀を鬼の身体へと斬り入れた。
深く斬りこまれた攻撃に抗うことが出来ず、鬼は倒れる。
「前線では交戦が始まってる。二番隊と三番隊が囮になってくれてるが、一番隊の方へも歪虚が流れているぜ」
炎が確認した戦況に和彦は表情を硬くして一番隊がいるだろう方向を見つめている。
「壬生殿、まずはここの陣の混乱からだ」
恭也が静かに、確りと和彦へ言えば、彼は一呼吸を置く。
「一気に突き進みましょう」
隊長の判断に二人は快諾し、最前線へ向かう。
最前線にいたのは刹那であり、その後ろには空が控えている。
「下がって!」
空が刹那へ警告を叫ぶと、彼女は目の前の雑兵を斬り倒してから後ろへ飛んだ。
複数の符が赤く光り、結界が形成されてゆく。
その中に歪虚達が含まれており、光が敵を焼いた。倒れるものがいれば、堪えるものがいたが、その動きは視界を奪われたせいであり、とても緩慢だ。
逃がさないとばかりに律の矢が雑兵達へ射られていく。
「マシロビ! 向こうだ!」
中衛の一人であるマシロビへ律が指示を向けると、彼女は符を中空に舞わせる。
三つの稲妻が歪虚達に落ちてその身が地に伏せられ、その向こうから前衛の恭也達が駆けつけてきた。
「待たせた。律、状況は」
律の無事に安心した恭也が説明を求めるが、彼は少し表情を苦くした。
「混乱はしてるけど、前にいる鬼が結構固くってさ」
「さっさと潰さねぇとやばそうだな」
前を見据える炎の表情に悲観した色はなく、まだ思いっきり刀が振れるということに意欲が増している。
「状況を把握するのは大事なことですが、悠長にはできませんね」
そう言ったのはマシロビであり、自分達の近くを定めて五色光符陣を発動させた。
話している間にも敵は自分達の陣地に紛れ込んだハンター達を狙っている。
「空さん! 律さんが制圧射撃を行いますので、周囲の雑兵の動きを止めてください!」
「わかったわ!」
和彦が叫ぶと、空はすぐに了承した。
後方では律が弓を構えており、制圧射撃を始めていた。
矢継ぎ早に繰り出される光りの矢は歪虚の動きを誘導するように、射止めていく。
更にマシロビが風雷陣を使って周囲の数を減らしていった。
機会を伺っていた空はここだと思う瞬間に光の結界を発動させる。
五色に輝く結界は雑兵や鬼を含めて身を、視界を焼く。
攻撃に耐えきれなかった敵が一体、また一体と倒れていき、陣の中で残った歪虚……特に鬼へ空とマシロビの風雷陣が追い打ちで発動された。
尚も動き、斧を構える鬼に律が動く。
「これならどうだ」
彼が番える矢に冷気が纏われていき、龍矢の効果もあってか、曇天の中でも冷気が煌めいた。
空気の震える音と共に矢が放たれると、鬼が武器を握っている腕に矢が突きぬけた。
鬼は自身の腕を貫いた矢を引き抜こうにも、引っかかっているようだったが、身体の中身まで引きずりだすように無理やり引っ張り、炎の方へと投げつける。
「おわっと!」
驚いた炎が慌てて避けたが、甲冑の隙間に矢じりが掠ってよろけてしまう。
「随分乱暴じゃない」
即座に空が風雷陣を発動させて鬼の動きを更に鈍らせていき、和彦が鬼の懐に飛び込み、律が凍らせた腕を切り落とした。
「動けますか」
長い前髪の奥から和彦の瞳が炎を見つめる。
「おうよ!」
一番隊の長に言われた炎は素早く踏み出して刀を抜き、上段より思いっきり鬼へと振り下ろし、大きな図体を背から倒した。
視界の中に一番隊の影を見つけたのは刹那だ。
先ほど、炎が和彦達の方へと行ってしまったので、周囲の雑兵達を切り倒していた。
近くで風雷陣や五色陣の発光を確認しており、そろそろこちらへ来るだろう。
その刹那が視界に捉えるのは一際大きな鬼。
歪虚の陣を崩すハンター達の存在に気づいたのか、その鬼は早く進めており、一番隊の方へと向かっていった。
このままいけば、この鬼は一番隊へとぶつかるだろう。
「お待ちなさい」
斬龍刀を構えなおした刹那が自身のマテリアルを変質させて武器に纏わせる。
次に全身をマテリアルのオーラで包み込み一気に走り出す。刹那はフェイントをかけて横へ跳んで鬼へその刀を斬りつけた。
その速さを捉えるのは難しく、鬼はあてずっぽう宜しく槍を振るう。
「あ……っ」
刹那のつま先が槍の柄に引っかかって中空で体制を崩すも、なんとか着地した。
鬼は近くにいた雑兵の刀を奪い取り、刹那へ投げつけようとするが、身体を蝕むような痛みに近い苦しみに気づく。
瞬間、刹那の目の前で稲妻が自身を狙おうとする鬼の刀に落ち、周囲で結界が展開されて光が歪虚達を貫いて焼く。
「悪い!」
「お帰りなさいませ」
炎が刹那を守るように剣を構えると、彼女は穏やかに返事をする。
「間に合って何よりですが……」
状況を憂うマシロビが見ているのは一番隊の方向。
「ここで立ち止まるわけにはいかないわ」
早期決着は必至と判断した空が符を舞わせてとどめの雷撃を鬼へ落とした。
一番隊へ合流し、加勢しなくてはならない。
「急ご……」
恭也が声をかけようとすると、視界の端にまだ動く鬼の姿を捕えた。
狙いの先は制圧射撃をしている律へ武器を投げようとしていた。彼が守る和彦も気づいており、構えている。
恭也は速く鬼の方へと間合いを詰め、腰を捩じり、低い姿勢から剣を抜いて地面を擦りあげるように鬼を斬り裂いた。
その場に留まらぬことなく、身体を翻した恭也は更に自分を狙おうとする雑兵を上段より真っ二つに斬って、後方へ戻る。
ハンターと一番隊長が歪虚をかき分けるように倒して一番隊に合流すると、一番隊の士気が上がったような気がした。
「二番隊の方が苦戦してるから、行ってくるわね」
刹那と空は更に落ち武者に苦戦している二番隊の方へと応援に駆けつけに向かう。
それから一刻後。
負傷者は出ていたものの、死傷者も少なく、再び火蓋が切られた千石原の戦いは人類の勝利となった。
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相談卓 綿狸 律(ka5377) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/03/23 01:56:35 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/20 11:25:53 |