• 初心

【初心】野辺を彷徨う骸達

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
LV1~LV20
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/03/22 07:30
完成日
2017/03/30 14:22

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●花摘む少女
 冬の盛りを通り過ぎ、積もった雪が解けだした野山には、少しずつだが春の気配が訪れていた。
「去年は確かこの辺に……あ、あった!」
 そんな山裾の森の入り口をひとり歩いていた少女は、木漏れ日の下に群生する花を見つけ駆け寄った。
 少女はしゃがみ込み、夢中でその花を摘み始める。六片の花弁の中心にほのかな瑠璃色を滲ませた花は、手折ると清涼感のある香りを振りまいた。
「お母さんが好きだったお花……いい匂い」
 次々に摘んでは手にしていた篭に納めていく。ほどなくして小さな篭はいっぱいになった。少女はスカートの上に落ちた朝露を払い立ち上がる。
「もういいかな。お昼までには戻らないと、お父さんが心配しちゃう」
 そうして小道を戻って行こうとした時だった。

 ――……シャン、カシャン……

 耳慣れない音を聞きつけ、少女はハッと息を飲む。鉄と鉄が触れ合う音。村の者が山に入る時に持つ熊よけの鈴とは違う。狩人達が立てる物音でもない。もっと、本能的な恐怖を掻きたてるような――
「な、なに?」
 音は徐々に近づいてくる。少女は咄嗟にすぐそばの灌木の中へ身を押し込んだ。
 段々気配が寄ってくると、喧しい鉄の音に混じりまばらな足音達が聞こえだす。
 そして……
「……ッ!」
 少女は悲鳴をあげそうになる自らの口を、必死に両手で押さえこんだ。
 葉の隙間から垣間見たもの――

 それは物言わぬ死者の葬列。
 常ならぬのは、葬列を成すのが白骨と化した死者当人達であること――スケルトンの一群だった。

 歩くたび肉の支えを失った顎が揺れ、剥き出しの歯がカラカラと鳴り、まるでおぞましい嗤い声のよう。
 乾ききった白骨の表は細かにひび割れ、闇孕む虚ろな眼窩はどこを見ているのか分からない。それが余計に恐ろしい。目玉なんぞありはしないが、もしこちらを向かれたら……目が合ってしまったらと思うと、少女の身体はどうしようもなく震えた。
 小さな唇を噛みしめ、じっと異形の者どもが過ぎるのを待つ。ほんの数秒のはずなのに、少女には数時間にも半日にも感じられた。そしてそれらが見えなくなると茂みからまろび出た。

 ――早く村の皆に知らせなきゃ!

 脳裏に浮かぶのは優しい父の顔。
 そして、正月明けから村に滞在し続けている赤髪の女ハンターの顔だった。


●平和な地で何故
「……落ち着いたかい、アリィナ」
 リタは先程弾丸のように転がり込んできた少女・アリィナへ、特製のホットチョコを差し出した。
 村長宅でのことである。
 正月休みと言い張って、旧友である村長宅にもう二か月以上も居座っているリタだが、これでなかなかに腕利きの現役猟撃士である。スケルトン出現の知らせに難しい顔で緋色の髪をかき上げた。
「こんな平和な村の近くでスケルトンが出るなんてねぇ」
「う、うそじゃないもん、本当に見たんだもん!」
 疑われているのかと目を丸くしたアリィナを、若村長ジェイトが宥める。
「アリィナが嘘をついているなんて、リタも僕も思ってないよ。そうじゃなくてね、この村の周辺は雑魔が現れることさえ稀な平和な土地だろう? なのにどうして急にスケルトンが現れたのか、リタはその原因を訝しんで……いや、おかしいなって思っているのさ」
 幼い頃から慣れ親しんだジェイトの温和な眼差しと口調に、アリィナはほっと息をつき、ようやくカップに口をつけた。疲弊した幼い心に甘さと温かさが染みていく。
 リタは顎に手を当てひとりごちる。
「スケルトンか……倒すのは容易い、でも現れた原因を突き止めないとね。スケルトンといやぁ暴食に属す歪虚だけど、土地柄を考えるとそんな大それたものじゃなく、負のマテリアル汚染による自然発生的なものか」
 そこまで言うと、リタは椅子に座るアリィナの前にしゃがみ込んだ。
「ちょっとおっかないと思うけど、頑張って思い出してみてくれるかい? スケルトンは何体だった?」
 アリィナはじっとカップに目を落とし、恐怖と戦いながら懸命に記憶と向き合う。
「……人のかたち、したのが八人……四人はぼろぼろの服を着て、太い枝か杖みたいなの、持ってたと思う。残りの四人は、傭兵さんみたいな鉄の鎧に、剣を持ってた。鎧も剣も錆だらけだったけど」
「凄い、よくそこまで覚えてたね」
 エライとリタが頭を撫でてやると、アリィナは長い髪を揺らせ微笑む。それからハッとなり、
「あとね、馬みたいな動物が……骨だけど……一頭いたの。とっても怖かった」
「そうかい。もう十分だよアリィナ、ありがとね。さ、外はまだ寒かったろう? それ飲んで身体あっためな」
 アリィナはこくり頷くと、言われた通り温かな液体を喉に流し込んでいった。

 と、
「アリィナ、無事か!?」
「お父さんっ」
 慌ただしく戸が開き、血相変えたアリィナの父が飛び込んできた。娘が異形の集団に遭遇したと聞き、仕事を放り出して駆けつけたのだ。娘の前に膝を折ると、抱きしめ無事を喜んだ。だが、
「いくら森の浅い場所とは言え……どうして一人で行ったんだ、何故父さんに言ってくれなかった?」
 一頻り喜ぶと娘の不用心を咎めた。まぁまぁとジェイトが取りなすと、アリィナは俯きぽつり、ぽつりと。
「だって……お父さんはお仕事だけでも大変なのに、お家の中のこともしてくれてて忙しいから……明日はお母さんの命日でしょ? お母さんが好きだったお花、供えてあげたくて……だから、」
 そこまで言って、アリィナは慌てて辺りを見回した。
「あ、あれ? お花は!?」
「花?」
 リタとジェイトは顔を見合わす。アリィナは小篭いっぱいに花を摘んできたと言うのだが、ここへ駆けこんできた時には篭どころか花一輪持ってはいなかった。
「慌てて放り出しちゃったのかもしれないね」
「そんなぁ」
 涙目になるアリィナの頭を、父親の大きな手が優しく撫でる。
「花ならまた摘みに行こう、今度は父さんと二人で」
 言って父親は、すでに魔導短伝話でソサエティに依頼を出し始めているリタを見やった。無論、ハンター達が討伐を終えた後でという事だ。アリィナは不安げに眉を寄せる。
「でも、それじゃあ明日には間に合わないよ……」
 少女の潤んだ瞳が、祈るようにリタを映した。

リプレイ本文


 その日、長閑な村はざわついた。
 朝スケルトン出現の報に肝を冷やしたかと思うと、午後には見慣れぬ若者達がひょっこり現れたのだから。


「あの、この近くに巡礼路か何か……護衛付きで向かうような場所って、ありませんか?」
 物珍しさから寄ってきた村人へ、フードで顔を隠し恥ずかしそうに尋ねるメルヤ・リーパ(ka6352)。携えた魔琴の弦が風に揺れ、甘い音で彼女の声を彩る。
「険しい道とかはないかな? 例えば事故に遭いそうな」
 言い加えたのは雅・彩楓(ka6745)だ。背の高い村人の視界に入りこもうと、こっそり背伸びしているのは内緒だ。

 可憐な少女達が村の通りを賑わす一方。
「特に異常はないようですね」
 ハンス・ラインフェルト(ka6750)は墓所で呟く。金髪碧眼に黒地の着物、腰には日本刀といういでたちの彼は誰より人目を引きそうでいて、その実ひっそりと村奥へ来ていた。
「近くに古戦場はありますか? 最近行方不明者が出たりは?」
 そうして、案内役の祭司へ穏やかに問いかけるのだった。

 若村長宅では。
「花のこと、もう少し教えてもらえる?」
「ボクでよければ力になるよっ」
 これまた可憐な少女達(に見えて実は少年もいるのだが)が集い、アリィナを囲んでいた。尋ねたのはエプロンドレスが似合うエーミ・エーテルクラフト(ka2225)。白磁の肌のシエル・ユークレース(ka6648)はトンと胸を叩いて見せる。
 武具図録を見ていた観那(ka4583)も顔を上げた。
「怪我がなくて何よりでございました……安全に花を摘めに行けるよう、尽力いたします」
 図録に記されたこの地域の武具の特徴を頭に詰め込む。鍛冶知識を持つドワーフの彼女にとっては難しい事ではなかった。
「村長さん、村に立ち寄ったきり帰らなかった一団などに心当たりはありませんか?」
 図録を閉じながら尋ねると、
「このご時勢だからね。定期的に来ていた商人さんがふっつり来なくなるなんて事は、そう珍しい事じゃないんだ」
 若き村長は眼鏡の奥で目を伏せた。

 その時。
「おーい、そろそろ出ないと日暮れまでに終わんないよー!」
 表でリタの声が響いた。
 六人が集ってみると、リタはスコップなどを括ったバックパックを背負っていた。それを見て村の護衛を求める意見や討伐に加わって欲しい等の意見が挙がったが、リタは赤髪をかき上げ苦笑する。
「悪ぃね、アタシは皆の監督役って事でお手当貰ってンだ、同行はしなくちゃならない。でもアタシがあんまり戦闘で手ェ出しちまうとぉ……」
 リタは六人へぼそりと耳打ち。「成功度」が何とか聞こえた気がする。六人は即自分達だけでやり遂げようと決めた。

 そして見送りに来たアリィナと村長へ手を振る。
「行ってまいります」
「私達がいない間気をつけててね?」
「アリィナさんとお母さんの好きなお花を守る為にも頑張ってきます!」
「お花ちゃんと摘んで来るよ。任せて♪」
「リタさんと私達でアリィナさんの花篭を本日中に持ち帰りますから。そうですよね、リタさん……っと、荷物持ちましょうか?」
 五人が挨拶を済ませる中、エーミははっとしてアリィナの許へ駆け戻る。
「なぁに?」
 目を瞬くアリィナへ、エーミは屈みこんでにっこり。
「ねぇ、お母さんの思い出の味ってある?」



 スケルトンの現れた森へ向かう道中、六人は簡単に名乗りあった。六人は予め同行者としてリタの名を聞いていたが、リタの方はそうじゃなかったのだ。リタ、馬上のシエルを仰ぐ。
「ユークレース? あ、こないだ兄さんもここへ来たっけね」
 大好きな兄の事を聞き、シエルは顔を輝かせた。
「ボクのお兄ちゃんカッコよかったでしょー?」
 その言葉に、
「え、なになに?」
「前にもこの村で何か?」
「誰がかっこいいの?」
「村長さんは落ち着いた大人の男性でしたね」
「で、リタさんと若村長さんとはどんな関係?」
 女性陣、きゃいきゃい。
 女性というより少女と言った方がしっくり来る彼女達だ。すぐに打ち解け会話に花を咲かせだす。リタのスコップを担いだハンスは、景色を眺めながら静かについていく。
「ジェイトはただの古馴染さ。さ、森に入ったら遭遇場所はすぐそこだよっ」
「アヤしいわね、どう思う?」
「え? えーっと」
 エーミに尋ねられた観那が頬に手を当てた時だ。

 六人は不穏な気を感じさっと得物に手をやった。前方に見える森の入り口へ、覚醒者達の鋭い視線が集中する。
「あら残念、この話はお預けね」
 呟き、エーミは八卦鏡「恵方」を取り出した。鏡が陽を反射して煌めく。
「こんなにあっさり見つかるなんて」
 スケルトンを捜索する気だったメルヤが目を丸くすると、
「でもお陰で探す手間が省けました」
 観那は長大な妖斧を事もなげに構え微笑む。
 ややあって茂みの奥からスケルトンの一団が姿を現した。アリィナの証言通り、鎧を着けたもの、ぼろを纏ったものが四体ずつ。いずれも徒歩だ。そして元は馬だったのだろう四つ足のスケルトンがいた。
 骨の馬は威嚇するように嘶くと、単身森を抜けハンター達に突進してくる。
「全力でいっくよー☆」
「お相手しましょう」
 愛らしい見た目に反し、孤高の狼を思わすトライバルを浮かび上がらせたシエルは、炎めく刀身のレイピア「ティソーナ」を。覚醒しどこか儚げな空気を醸すハンスは、風と光の力を秘めた日本刀「風花」を、それぞれすらりと抜き放った。

 最初に飛び出したのはチーム一の瞬発力を誇る彩楓だ。
「スケルトン退治! っていうとハンターのお仕事って感じだよね!」
 彼女には目標とする女剣士がいる。積み重ねが必要だと言うかの人の言葉を思い出し、感覚を研ぎ澄ます。このまま真っ直ぐ突っ込まれては後衛の皆に被害が出かねない。彩楓は陽炎を纏う短剣を構えた。
「あの人に教わった捌き型の一つ、試してみるよ!」
 充分に引きつけてから流れるように横へ身を引き、振り上げられた前脚にトンッと刃の側面を押し当てる。軽い動きに見えたが、相手の力に逆らわず受け流すことで、馬の突進軌道を逸らす事に成功した!
「できたっ!」
 躱し様後脚を切りつける。けれど骨馬の突進は止まらない。
「好き勝手させないわ」
 エーミは地の精霊の力を借り、馬の鼻先へ巨大な土壁を出現させた。馬は避けきれず激突! 壁越しに伝わる振動にエーミは目を細める。
「仕上げは任せたわ」
「任されたよっ☆」
 壁の陰から飛び出したシエルへ、
「シエルさんっ」
 メルヤが魔琴の音と共に祈りを注ぐ。シエルのレイピアが光に包まれ鋭さを増した。
「ありがとー! さて」
 シエルは小首を傾げる。
「普通の生き物なら急所をざっくりいけばはやく片付くと思うけど、骨だもんね。それならっ」
 戦馬で脇を駆け抜け様、右前脚の肩関節をレイピアで突き砕く!
「やはり脚は早めに奪った方が良さそうですね」
 壁の反対側から躍り出た観那は、妖斧「ニライカナイ」を低く構えたまま駆けると、後ろ蹴りを繰り出せぬよう後脚を勢いよく斬り上げる。全長二メートルを超す妖斧の一撃は、馬の頑丈な大脛骨を二本まとめてぶち折った!
 骨馬、堪らずどうと地に伏せる。
「機動力さえ奪ってしまえばそう怖い物でもありません」
 観那の赤い双眸が静かに骨馬を見下す。成す術のない骨馬へ一斉に刃が振り下ろされた――!

「貴様らの事も忘れてはいませんよ」
 その間、人型のスケルトン達はハンター達目掛け押し寄せていた。行く手につと進み出たのはハンスだ。彼が零すのは平時と異なる熱帯びた声音。
 先手必勝、間合いを詰めると円を描くような動きで敵を翻弄。その様はさながら舞を舞うかの如し。八体を向こうに回し大立ち回りを演じる。
「ここは通しません!」
 早くも一体斬り伏せた彼の許へ、骨馬を片付けた五人が駆けてくる。
「お待たせしましたっ」
 ゴースロンを急かし駆けつけたメルヤは、彼の傷を癒していく。
「もうあと七体? あっけないね」
 言うが早いか彩楓、小柄な体格を生かし敵中に切り込んで行った。
「遺品の保護をしませんと。装備品は傷めないようにしましょう」
 慎重さを見せる観那の横で、エーミは掌の上に火球を作り出す。
「そうね、これならどう? 大丈夫燃えはしないわ。ウェルダンがお好みかしら?」
「装備品保護了解☆ 顔でも首でもちゃんと狙って突いてあげるね……♪」
 シエルはちろりと舌なめずり。

 数分後、彼らの足元には遺品だけが転がっていた。



「スケルトンって遺体から自然発生するんだっけ? 近くで亡くなった人がいるって事なのかなー」
 シエルはスケルトンが残した指輪を西陽に翳した。
 今は各自聞き込みなどで得た情報を持ち寄りながら、遺品を調べている最中だ。
 エーミは非武装スケルトンが持っていた杖を眺める。
「普通の杖ね」
「お年寄りが使うような?」
 ハンスの問いにエーミは頭を振る。
「獣よけの鈴がついてる、山歩き用ね」
「そうですか。村の墓所は特に荒れてはいませんでした」
「なら遭難者でしょうか」
 錆びた剣を手に観那が呟くと、彩楓はぴっと人差し指を立てた。
「ここから北に山越えのルートがあるんだって。でも足場が悪くて、村の人はほとんど使わないみたい」
「なるほど……剣はこの辺で作られた物ではなさそうです。近隣の方ではないのかもしれません」
 観那が図録を思い出しながら言うと、メルヤは別の剣を手に取る。彫金と鍛冶の知識を持つ彼女は柄飾りに目をつけた。
「ここより北の地方の傭兵さんが好む意匠と似てますね」
「なら北から来て、山越えの途中で遭難した傭兵さん達かも?」
 とシエル。けれどすぐに自分の仮説に首を傾げる。
「でも全員が武装してたわけじゃないもんね。それにあの馬、鞍つけてなかったし」
 彩楓が顔を上げた。
「商人と護衛の傭兵さんの組み合わせって感じじゃない? 鞍つけてなかったのは、きっと荷車か馬車を牽いてたんだよ!」
 それなら馬が一頭だったのも合点がいく。メルヤ、大きく頷いた。
「でしたら、私達は山越えルートを中心に捜索してみましょう」
 六人は三人ずつに分かれ、スケルトン発生原因の捜索を開始した。

 メルヤ・シエル・彩楓の三人は、森の小道から山越えルートへと順に辿る。北から村を目指していたのなら通る道筋だ。彩楓は連れていたモフロウを空へ放つ。
「怪しい場所があったら教えてね!」
 主の声に応じ、モフロウは可愛らしい鳴き声で応じた。
「アリィナさんが安心して花摘みに来られるよう、原因をちゃんと突きとめないと、ですね」
「アリィナちゃんが欲しがってたお花も見つかるといいな」
 頷きあい、メルヤとシエルは揃って鐙を蹴った。
 
 エーミ・観那・ハンスの三人は、ペットを使った捜索を行う。リタはこちらの班に同行していた。
「さて、こちらが終着なら逆側ね。匂いの元を辿りましょ?」
「お願いします」
 エーミは柴犬、観那は狛犬に遺品を嗅がせ、匂いを辿る作戦だ。二匹はくんくん鼻を鳴らすと、茂みを突っ切り走り出す。
「悪路などお構いなしだったようですね」
 四人は枝葉を掻き分けながら、道なき道を進み始めた。
 ところがエーミは度々足を止め梢に手を伸ばした。不思議に思った三人が尋ねると、エーミは微笑んで理由を告げる。それを聞いた三人も、枝先に成った橙色の実を摘みながら歩くのだった。



「見て!」
 山越えルートは進むほど険しさを増し、遂には切り立った崖沿いにやって来た。彩楓が指した上空では、モフロウが何かを伝えるよう旋回を繰り返している。
 メルヤ、崖下を覗きごくりと唾を飲む。下は渓谷、結構な高さだ。けれど崖は反っており真下の様子は窺えない。シエルは背後の山肌を見てふと気付く。
「この辺だけ木が小さくない?」
「土砂崩れがあったのかもしれません、もう何年も前でしょうけど……はぁ」
 息切れした観那の声に振り向くと、身体中に木の葉や枝をくっつけた四人の姿があった。匂いを辿ってきた四人もまたここへ辿り着いたのだ。
「ここを通っている時に、土砂崩れに巻き込まれたのでしょうか」
「下へ降りられるかしら。リタさんロープはある?」
「勿論さ」
 切り立った崖であろうと、ここに居るのは皆ハンター。駆け出しであろうと身体能力は常人と比ぶるべくもない。リタが用意していたロープやピッケルを使い、全員無事谷底へ降り立った。崖下には長年の風雨にさらされた土砂が堆積しており、それをスコップで掘っていくと――
「これは……」
 荷車の残骸らしい木片が多数見つかった。積み荷らしい木箱も。
 メルヤは頭上を覆うように反り返った崖を仰ぐ。
「これじゃ気付いてもらえませんよね……長い間寂しい思いをさせてしまった事、お詫びします」
 言ってそっと祈りを捧げる。観那は遺体がないか探していたが、遺体そのものがスケルトン化してしまっていたらしい。
「村と交流のあった商人さんなら、遺品を村で見てもらえば身元が判るかもしれません。ご遺体はなくとも……せめてご遺族に遺品だけでも届けられたら、それも供養になりますよね」
 微笑み、祈るメルヤの肩にそっと手を乗せた。



「お帰りなさい!」
 ハンスが回収した小篭いっぱいの花を持って凱旋した一同を、アリィナの笑顔が出迎えた。嬉しすぎるお土産に、アリィナの目に涙が浮かぶ。
「ありがとう、これでお母さんにお花があげられる!」
 そんなアリィナへ、後ろ手に何かを隠したエーミが歩み寄った。
「泣いたら可愛いお顔が台無しよ?」
 エーテルクラフトの魔法、見せてあげるわ。そう言って彼女が差し出したのは、硝子瓶に詰めた蜜漬けの果実。料理を愛する彼女は、料理でアリィナを笑顔にしたいと考えていた。それで出がけにあんな質問をしていたのだ。返ってきたのは料理とも言えない簡単な物だったが、それでもアリィナが望むならと急ぎ拵えたのだ。実を洗ったり選別したりといった作業は全員で手伝った。
 蜜色に輝く瓶に、アリィナの目が負けじと輝く。
「これ! お母さん、私が風邪の時によく食べさせてくれたの。優しいお母さんの思い出そのもの……ありがとうおねえちゃん!」
「ううん、皆で漬けたのよ。はい、これレシピのメモね。ひと月は寝かせておいて」
「うん!」
 花と瓶を抱く少女の笑顔は、昼間とは別人のように晴れやかで。無事依頼を終えた六人は顔を見合わせ、互いに顔を綻ばせた。

 ――その後オフィスに届いた若村長から礼状によれば、遺品から無事商人達の身元が判明し、山向こうの遺族の許へ届けられたという。村人達はハンターの提案で定期的に野山を巡回するようになり、以来スケルトンは現れていないという事だ。

依頼結果

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MVP一覧

  • 解を導きし者
    エーミ・エーテルクラフトka2225

  • 雅・彩楓ka6745

重体一覧

参加者一覧

  • 解を導きし者
    エーミ・エーテルクラフト(ka2225
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 清淑にして豪胆
    観那(ka4583
    ドワーフ|15才|女性|闘狩人
  • ローブ下に潜めた優しさ
    メルヤ・リーパ(ka6352
    エルフ|15才|女性|聖導士
  • なにごとも楽しく♪
    シエル・ユークレース(ka6648
    人間(紅)|15才|男性|疾影士

  • 雅・彩楓(ka6745
    人間(紅)|13才|女性|舞刀士
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【初心】野辺を彷徨う骸達
エーミ・エーテルクラフト(ka2225
人間(リアルブルー)|17才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/03/21 22:11:37
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/03/18 22:46:32