ゲスト
(ka0000)
Les Patineurs
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2017/03/20 19:00
- 完成日
- 2017/04/03 23:30
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●氷姫の湖
その湖には昔、美しい女が住んでいたという。
澄んだ水は凍っても水底が見えるほどの透明度を持っていたが、春が過ぎ夏が来てもなお、心の蔵を止める程の冷たさを持つ湖に近寄る者は無かった。
ある、冬の日。
雪と氷に閉ざされた女の家に、1人の男が迷い込んだ。
女は男を介抱し、女のお陰で男は春までにすっかり体調を取り戻した。
2人は雪解けまでの間、仲睦まじく暮らした。
しかし、男はどうしても自分の住んでいた村へ戻らねばならなかった。
夫婦となって一緒に村へ行こうという提案に、女は決して首を縦には振らず、男を送り出した。
「俺は必ずここに帰ってくる。そうしたら、2人で暮らそう」
男の言葉に女は哀しそうに目を伏せ告げた。
「あなたは二度とここへは戻って来ない。……それでももし、あなたが本当にここに戻ってきたときのために、私も一つ証を残しておきましょう」
男は後ろ髪を引かれつつ、村へと帰っていった。
1年が過ぎ、3年が過ぎ、5年、10年が過ぎた。
男は雪の中を彷徨っていた。
すぐに、女の元へと帰る予定だったが、残してきた両親や村でのしがらみに捕らわれ中々村を出ることが出来なかった。
それでも、女を忘れることが出来ず、他に嫁を取ることもせず過ごした。
そうして両親を看取り、全てのしがらみを捨て、男はようやく女を求めて旅立った。
しかし、雪の中。10年も前の道を覚えておらず、男は同じ景色の中をもう何日も彷徨っていた。
そうして、3月の雪の止んだ日。
男はついに湖に辿り着いた。
駆け寄った家には人の姿はなく、ただただ冷たい静寂だけがあった。
男は女の姿を求めて周囲を探し、湖の畔に立ってついに気付いた。
凍った水底に、愛しい女が沈んでいることに。
女は変わらぬ姿で男を待つために。
変わらぬ想いで男を待つために。
変わらぬ証としてその身を湖に沈めていた。
男は遅くなった事を泣いて詫びながら、死ぬまで女の家で湖の番人として生活したという。
●スケーターズワルツ
「そんな伝説があったりなかったりする湖が帝国内にあるなんて初耳です」
ハンターオフィスの説明係の女性は、話してくれたフランツ・フォルスター(kz0132)を不思議そうに見つめる。
「まぁ、そうじゃろうのぅ。何しろ、シュレーベンラント州内でもザールバッハは特殊じゃからのぅ。
そうそう。湖はそんな伝説から通称“氷姫の湖”と呼ばれておるんじゃが、ここで毎年鎮魂祭をしておってな。
今年は何でも伝説から300年の節目……ということじゃから、ハンターの皆さんにも参加して盛り上げてもらいたいんじゃ」
雪深い地なので、雪遊びはもちろん、スケートも出来る。
なるべく賑やかに過ごして欲しい、とフランツは告げる。
「恐らく、スケートが出来るのは氷の厚さを見るにラストチャンスじゃろう。是非楽しんでいただきたいの」
フランツが好々爺のように笑えば、説明係の女性も目尻を下げた。
「わかりました、募集をかけてみますね」
「あぁ、よろしく頼むよ」
こうして、ハンターオフィスにまた一つ、依頼が張り出されたのだった。
その湖には昔、美しい女が住んでいたという。
澄んだ水は凍っても水底が見えるほどの透明度を持っていたが、春が過ぎ夏が来てもなお、心の蔵を止める程の冷たさを持つ湖に近寄る者は無かった。
ある、冬の日。
雪と氷に閉ざされた女の家に、1人の男が迷い込んだ。
女は男を介抱し、女のお陰で男は春までにすっかり体調を取り戻した。
2人は雪解けまでの間、仲睦まじく暮らした。
しかし、男はどうしても自分の住んでいた村へ戻らねばならなかった。
夫婦となって一緒に村へ行こうという提案に、女は決して首を縦には振らず、男を送り出した。
「俺は必ずここに帰ってくる。そうしたら、2人で暮らそう」
男の言葉に女は哀しそうに目を伏せ告げた。
「あなたは二度とここへは戻って来ない。……それでももし、あなたが本当にここに戻ってきたときのために、私も一つ証を残しておきましょう」
男は後ろ髪を引かれつつ、村へと帰っていった。
1年が過ぎ、3年が過ぎ、5年、10年が過ぎた。
男は雪の中を彷徨っていた。
すぐに、女の元へと帰る予定だったが、残してきた両親や村でのしがらみに捕らわれ中々村を出ることが出来なかった。
それでも、女を忘れることが出来ず、他に嫁を取ることもせず過ごした。
そうして両親を看取り、全てのしがらみを捨て、男はようやく女を求めて旅立った。
しかし、雪の中。10年も前の道を覚えておらず、男は同じ景色の中をもう何日も彷徨っていた。
そうして、3月の雪の止んだ日。
男はついに湖に辿り着いた。
駆け寄った家には人の姿はなく、ただただ冷たい静寂だけがあった。
男は女の姿を求めて周囲を探し、湖の畔に立ってついに気付いた。
凍った水底に、愛しい女が沈んでいることに。
女は変わらぬ姿で男を待つために。
変わらぬ想いで男を待つために。
変わらぬ証としてその身を湖に沈めていた。
男は遅くなった事を泣いて詫びながら、死ぬまで女の家で湖の番人として生活したという。
●スケーターズワルツ
「そんな伝説があったりなかったりする湖が帝国内にあるなんて初耳です」
ハンターオフィスの説明係の女性は、話してくれたフランツ・フォルスター(kz0132)を不思議そうに見つめる。
「まぁ、そうじゃろうのぅ。何しろ、シュレーベンラント州内でもザールバッハは特殊じゃからのぅ。
そうそう。湖はそんな伝説から通称“氷姫の湖”と呼ばれておるんじゃが、ここで毎年鎮魂祭をしておってな。
今年は何でも伝説から300年の節目……ということじゃから、ハンターの皆さんにも参加して盛り上げてもらいたいんじゃ」
雪深い地なので、雪遊びはもちろん、スケートも出来る。
なるべく賑やかに過ごして欲しい、とフランツは告げる。
「恐らく、スケートが出来るのは氷の厚さを見るにラストチャンスじゃろう。是非楽しんでいただきたいの」
フランツが好々爺のように笑えば、説明係の女性も目尻を下げた。
「わかりました、募集をかけてみますね」
「あぁ、よろしく頼むよ」
こうして、ハンターオフィスにまた一つ、依頼が張り出されたのだった。
リプレイ本文
●走る滑る見事に転ぶ
「うっわー、太陽の光が銀世界に反射して、キラキラしてて綺麗……♪」
最寄りの転移門からトナカイの馬車に揺られること3時間。
ようやく揺れから解放されたアルカ・ブラックウェル(ka0790)が歓声を上げた。
もみの木によく似た針葉樹の枝葉は降り積もった雪で白く覆われ、もこもこと膨れあがっている。
その奥に凍った湖を発見し、アルカはルナ・レンフィールド(ka1565)とエステル・クレティエ(ka3783)、エリオ・アスコリ (ka5928)を誘って湖の縁へ。
一歩踏みしめるごとに膝下まで雪に埋まる。
新雪を踏みしめるごとにぎゅむっぎゅむっとした感覚は嗜虐心とも取れる高揚感を伴い、楽しい。
近隣の村の子なのだろう。「スケートをするなら」と、靴に直接ベルトで固定するタイプのブレードを渡された一同は撥水性のシートが被せられたベンチでスケートの準備をして、いざ、氷上へと進み出た。
「ふふふ、今こそワシの実力を見せる時! 一番槍、頂くぞ!」
ルナとエステルに誘われての参戦となったディヤー・A・バトロス(ka5743)が勢いよく着氷し、お手本のように綺麗に尻餅をついた。
「わはは、面白い! どれもう一度!」
笑っているせいか一向に立てない。だがディヤーはそれすらも楽しくてさらに笑い転げてしまう。
一応、リアルブルーでスケートの経験がある浅黄 小夜(ka3062)がそっと氷上に降り立てば、ルナが「上手上手」と褒めた讃えた。
「私、やったことないけど、どうかなあ」
恐る恐るルナが氷に片脚を乗せ……見事にひっくり返った!
「る、ルナさん!? きゃああああっ!!!!」
そんなルナを見て動揺したエステルがつるりと滑り出し……止まれず明後日の方向へと。
「ルナのおねえはん! エステルのおねえはんっ!?」
小夜がルナを助けようと手を差し出した姿勢のまま、暴走していくエステルを見て固まった。
「エステルさ……!?」
エリオが慌ててその後を追おうとするが、その真横でまた別の悲鳴が上がり、見ればアルカが転んで立とうとしてまた転んでいる。
そんな散々たる状況に村の子ども達が助けに走るのをユグディラのフィルレが楽しそうに湖の縁から見守っていた。
「えへへー、またこうしてお出かけ出来るなんて嬉しいやんね!」
笑顔と雪の眩しさに細い目を更に細めて、レナード=クーク(ka6613)が後ろを歩くクラン・クィールス(ka6605)に聞こえるようにはしゃぎ声を上げる。
「……ま、息抜きには丁度いいな」
『一面の銀世界』。話しには聞いたし、降る雪もうっすらと積もった雪も見た事はあったが、ここまで文字通りの銀世界を体験するのは初めてのクラン。
はしゃぎ走るレナードとは対照的に、この静かで冷たいが美しい世界をしみじみと感動にも似た感情で受け止めていた。
「では、雪遊びに関しては僕の方が先輩やからね! リードするで!」
ブレードを付けて、ひょいと氷の上に降り立ったレナードは、すいっと弧を描くように回った後、右手を湖の縁に居るクランに差し出した。
その手を取るか取るまいか逡巡して……男の意地もあってまずは一人で氷の上に片脚を降ろし……見事にひっくり返った。
「あはは!」
「……仕方ないだろ、見るのすら初めてなんだから」
「うん、僕もスケートは初めてやけど、何とかなってよかったで!」
屈託の無いレナードの言葉に、クランは少しムッとした表情になりつつも、差し出された手を今度は素直に掴んで立ち上がった。
「……どうやれば上手く滑れるんだ?」
「……んー……“すい~すいっ”って感じや!」
「さっぱりわからん」
氷上で、この細いブレードでどうやったらバランスが取れるのか……クランは冷静に考えながら、レナードに手を引かれそっと一歩を滑り出した。
●雪上の交流(物理)
(すっげー! すっげー! マジで見渡す限り雪だらけじゃん!)
故郷の鎌倉ではこんな大量の雪を見た事が無かった大伴 鈴太郎(ka6016)は、両目をキラッキラと輝かせて噛み締めるように感動していた。
「わあああー! 真っ白だー!! すごいね、リンちゃん」
そんな鈴太郎の横では対照的に感動を素直に言葉と満面の笑顔で表している央崎 遥華(ka5644)の姿。
(こんな機会メッタねぇンだ。こいつは雪合戦やるっきゃねぇだろ! ……ンでも、この年で「雪合戦やろうぜ!」なんて言い出すのはちっと恥ずいよなぁ)
きょときょとと周囲を見回し、雪合戦をしている子ども達を発見した鈴太郎は雪を掻き分け子ども達へと近付いた。
「何? なかまに入りたいの? いいよ」
小生意気な男の子の上から目線に、ひくりと目元を引きつらせたが、鈴太郎はこれ幸いと両手を振って声を上げた。
「おーい、コイツら雪合戦してぇンだってさ! しゃーねーから付き合ってやろうぜ!」
「えー」
不満げな男の子に、鈴太郎はにっかりと笑顔を向ける。
「いいじゃん、間違っちゃ……ぶはっ」
「うそつきにはこうだー!」
「って、いきなりはずるいだろ-!」
「ぎゃっ! やったなー、このぼうりょくおんなー!」
ギャイのギャイのと騒ぎながら雪玉をぶつけ始める鈴太郎と村の子ども達。
「私も参加するー!」
手のひらサイズの雪だるまを作っていた遥華も、その騒ぎへと加わっていく。
「……雪合戦? 楽しそうなの! ファリスもするの!」
ファリス(ka2853)がぎゅっぎゅと握って投げた雪玉は、足を雪に取られたせいで見事明後日の方向へ……そしてメアリ・ロイド(ka6633)の後頭部に直撃。
「……・私の全力の雪合戦、見せて差し上げます。……とはいえ、するのは初めてなのですが」
ケーブルニットセーターにカジュアルミンクのコート、革製のブーツ、さらには革手袋で全身防具ばっちりにも関わらず表面上はわからないが実は寒さに震えていたメアリ。
ここは動いた方が暖かくなるのでは……? と思い至り雪合戦へと飛び込んだ。
「賑やかだな」
かまくらの中でのんびり温かなお茶をすすっていた鞍馬 真(ka5819)が、外の賑やかさに顔を出した。
「おー! シンも一緒にやろうぜー!」
真を発見し、ぶんぶんと手を振る鈴太郎に特大の雪玉が直撃。鈴太郎は雪に埋まった!!
「お、おぉ!? 大丈夫かー!?」
流石に驚いた真が雪玉一つ作りながら鈴太郎を助けようと近付いていくと、真を狙って雪玉が次々に飛んで来る。
それらを走って避けながら真は、自分を狙った少年の手元へと雪玉を放った。
「……童心に返る、というのはこういうことかな」
なお、鈴太郎に特大雪玉をぶつけた柄永 和沙(ka6481)。
「……あれ、ちょっと大きすぎたかな……? すずー? 大丈夫-?」
ちょっとすずの面白い顔を見てみたい……という思いからの一撃だったのだが、思いの外綺麗に命中してしまって、ほんのり心配になる。
ぶはっ、と雪の中から自力で顔を上げた鈴太郎が和沙の顔を見て不穏な笑みを浮かべた。
「カーズーサーぁ!!」
「ちょ、俺は投げてない! まっ!」
和沙と二人きりでのんびりと……なんて思っていたテオバルト・グリム(ka1824)だったが、和沙を狙った流れ弾を必死に避ける。……が、ついにぼすっと顔面にクリーンヒット。
「……ルドラも体動かしたいよな? よーし、雪合戦だー!」
やられっぱなしは性に合わない。イェジドのルドラもテオバルドの声に楽しそうにひと鳴きして答えると、弾丸のように雪玉が飛び交う中へと飛び込んで行く。
そんなはっちゃめっちゃな雪合戦を遠巻きに見ていたのはリアリュール(ka2003)とユグディラのティオー。
じっと雪合戦の様子を見つめているティオーを見て、人が多いのは少し苦手だが、好奇心は旺盛なので、恐らく雪合戦を見て「面白そう」と思ったのだろうとリアリュールは察する。
「……雪をこうやって、きゅっきゅってして、誰かに投げるの」
しゃがみ込んで、雪をかき集めて雪玉を作って見せると、リアリュールはティオーに微笑んだ。
「当たったら負けだから、がんばってよけるのよ」
そう教えられ、ティオーはやや耳としっぽをぴんと立てて緊張した様子で雪玉を握る。
「そう、上手」
褒められて、ティオーは嬉しそうに瞳を輝かせると、雪合戦の戦場を見た。
「いってらっしゃい。応援しているわ」
暖かな純白のケープが大暴れしても着崩れないように、襟元の紐を結び直してラッキースターで固定すると、リアリュールはティオーを送り出したのだった。
「なるほど、話には聞いていたが銀世界とは綺麗なものだ……ふふ、童心に帰りたくなるナ」
ロックス・ルックハート(ka6737)が初めての雪景色にやや興奮気味に周囲を見回す。
村の子ども達が雪だるまを作っているのを見て、真似て作ってみる。
厚手の手袋越しでも雪に触れている内に指先が悴んできて、その体験も面白くて「なるほど、なるほど」と一人頷きながら、手を握ったり開いたりと動かしてみる。
と、木々の向こうから「キャー!」という悲鳴にも似た歓声が聞こえてそちらを見やる。
どうやら子ども達とハンター達が雪合戦に興じているらしい。
「ほうほう」
新雪を踏み分け、最短距離を行く……と、流れ弾がロックスの前でぽすりと落ちた。
「おっと」
足を止め、出来た雪穴を覗き込む。「あぁ! 危ないっ!!」という前方から警告とも悲鳴とも取れる声が聞こえ、ロックスが顔を上げると頭を殴られるような衝撃と同時に視界が真っ白に染まった。
頭を振って頭上を見上げる。どうやら樹に積もっていた雪が落ちてきたらしい。
「あははははは」
初めての体験づくしに楽しくて思わず笑い声を上げたロックスに、周囲は「頭大丈夫だろうか……」と不安げに顔を見合わせたのだった。
「兄ちゃん! 次!」
「あいよ!」
すっかり雪玉生成器と化している藤堂研司(ka0569)が雪玉をせっせとこしらえると、男の子に向かってふんわりと雪玉をパスする。
大量の雪玉をストックしたところで、すっかり全身雪まみれになりつつ研司は雪合戦から身を引いた。
「あーぁ、雪だらけじゃない」
イェジドの桜華と共に子ども達の相手をしていた沢城 葵(ka3114)が引き上げてきた研司を見て笑った。
「女の子が多いし、顔は止めておこうと思ったら、容赦無い攻撃にあっちゃったよ」
雪を払いつつも研司は楽しそうに白い息を吐いた。
「それにしても、上手ね、雪玉作り」
「合戦のキモはリロードにありって織田信長が言ってたからね!」
「そうだったかしら?」
研司の答えに葵は曖昧に首を傾げる。
「ねー、おねーさん、まだー?」
「あぁ、ハイハイ。じゃぁ、次の子、どうぞ」
子ども達を乗せたソリを桜華に牽かせると、子ども達の黄色い歓声が上がる。
「おねーさん」
「何か?」
「いえ。なぁんにも」
葵から視線を逸らし、持ってきた荷物を漁る。
「ちと時期が遅いけど……鏡開きといきますか!」
取り出した材料を見て、葵がすぐに見当を付けた。
「あら、お汁粉? いいわね、手伝うわよ」
「ありがと、じゃ、沢城さん、頑張ろ!」
子どもを乗せて、ぐるりと回って帰ってきた桜華からソリを外し、モフモフタイムへと移行させる。
「その前に」
葵がぎゅうっと桜華を抱きしめその暖かで柔らかでしなやかな身体を堪能する。
「こんな感じで、優しく撫でたりぎゅってしてあげてね?」
「「「はーい」」」
最初は初めて見るイェジドにおっかなびっくりだった子ども達も、ソリで一緒に遊ぶ内に桜華の穏やかな性格にすっかり懐いている。
桜華自身も子どもの相手が嫌いではないのだろう。日当たりのいい開けた場所へと移動すると子ども達と戯れ始めた。
それを見て葵も安心して研司の元へと向かったのだった。
●雪上の交流(精神)
「スノウさん雪さんです! スノウさんと同じお名前さんです、とっても綺麗です」
白い毛並みのペルシャ猫であるスノウと共に白銀の世界に降り立ったエステル・ソル(ka3983)は、早速スノウを傍らに見守りながら雪だるまを作り始めた。
雪の上に降りたスノウは初めての雪の冷たさに驚いたものの、飛んで跳ねて足跡を付けてと大はしゃぎ。
「スノウさん! スノウさんどこですか!?」
うっかり雪だるま制作に夢中になったエステルがスノウを見失った事に気付いて声を掛ける。
鳴き声にスノウを見つけてぎゅっと抱きしめると、その小さな体温がとても暖かくてエステルはホッとした。
完成した雪だるまをスノウに見せると、スノウはエステルの腕からするりと抜けだし、雪だるまの頭の上へまさかの大ジャンプ。
「ああっ、スノウさん!? ……あううう」
雪だるまは見事に首からもげて崩れ、エステルもまたがっくりと肩を落としたが、スノウだけは「どうしたの?」と言わんばかりに小首を傾げ、再びエステルの腕の中へ悠々と戻ったのだった。
初めて見る一面の銀世界に染み入るように感動している月雪 涼花(ka6591)の横で、着物姿の氷雨 柊(ka6302)がのんびりと口を開いた。
「雪景色なんて久々かもしれませんねぇ、昔住んでいた場所には降ったのですけれど、移ってしまってからは見てませんでしたからぁ」
「さぁ、かまくらを作りましょう」という柊の格好を見て、涼花が眉尻を上げた。
「……まさか、その格好で、ですか?」
「はい」
きょとんとした柊に涼花は思わず天を仰いだ。
「古来より「雪を舐めるな」と言う言い伝えもあるので動きやすく暖かい恰好で行きましょうとお話したでしょう?」
「そうだったかしら?」と首を傾げる柊に、涼花は自分が着ていたトレンチコートを羽織らせる。
「それで無いよりはマシでしょう」
「まぁ、悪いですわぁ」
遠慮する柊に「見ている方も寒いのだ」と説得し、いざ、かまくら作りへ。
「ええ、わが家の名に懸けてやるからにはきっちり良いものを作りあげましょう」
道具は貸し出してくれたし、ベースとなる雪山はすでにあったり、コツなども村の人達が教えてくれたので、二人は非常にスムーズにかまくら作りを進めることが出来た。
「……結構、重労働ですね」
額の汗を拭いながら涼花が言うと、柊が「でしょうー?」とのんびり笑う。
経験者らしい柊はそののんびりとした口調とは対照的に、無駄なく雪を盛って、スコップで固めて行く。
次いで入口を決めて雪を削り、中をくり抜いて、雪を掻き出すとかまくらは完成した。
「しっかりしたものが出来ましたね」
少しムラのある外装、ちょっとでこぼこしている内側。
だが、途中で崩れることも無く作りきることが出来た二人は満足げに顔を見合わせた。
「ふふふ、やりましたねぇ」
シートを借りて中に敷いて、小さなテーブルを設置。
「あら……意外と狭いかしらー…? でも、くっつけば入れそうですねぇ」
柊が先に中へ入ると、その横に涼花もちょこんと座った。
「はい、お疲れ様でしたぁ」
カップに注がれた温かなココアを受け取り、涼花もまた鞄からマカロンを取り出した。
そうして小さくコップの縁を合わせて乾杯して、二人はのんびりと話しに花を咲かせたのだった。
羊谷 めい(ka0669)はイェジドのネーヴェとのんびりと湖の周りを散策していた。
一面の雪景色は美しい一方、人々の声が聞こえる範囲は賑やかだが、少し外れればそれらの音は雪に吸われてぐんと冷たさと寂しさを増す。
それでもめいが心細さを感じないのは、隣を歩くネーヴェの迷い無い足取りがあるからだ。
「ねえ、綺麗ですね、ネーヴェ。雪、真っ白でネーヴェとおそろいですね」
めいの言葉に、ネーヴェは尾を振って応える。
純白の雪を思わせる毛並み、澄んだ海のような青い瞳は本当に美しいとめいは誇らしい気持ちで傍らの相棒を見つめた。
湖の縁に立って、凍った水面を覗く。
この下に沈んだとされる氷姫を思うと切なくて、めいが氷姫の立場だったらどうするだろうかと考える。
思ったより前屈みになっていたようで、ずるりと足元が滑ってバランスを崩しためいを、ネーヴェが咄嗟にスカートの裾を咥えて引き戻す。
「……ありがとうございます」
礼を告げれば、ふい、とそっぽを向いてしまう。
呆れられてしまったのだろうかとめいが俯くと、「そうではない」と言うように鼻先が押しつけられた。
「まだ理想には届いていないけれど………、わたしがんばりますから。これからあなたの力を借りることも、たくさん出てくると思います。それでも、いっしょに来てくれますか?」
「当然だ」と言わんばかりにより一層鼻先をぐりぐりと押しつけられて、めいはその首元に抱きついた。
「……あぁ、あったかい」
独りじゃ無い、ということはこんなにも暖かい。
めいは目を閉じてその温もりを享受した。
●氷上の妖精はいづこ
「寒っ」
何度も尻餅をついていたため、すっかりゴシックドレスが濡れそぼってしまったアルカは、寒さにフィルレを抱っこして暖を取りながら氷上でまだ練習に励む友人達を見ていた。
「あれだけ転べばのう」
水を吸って重くなった自分のローブを干しながら、ディヤーが笑う。
「……そう言いつつ、ディヤーはそこそこ滑れてたよね?」
「いや、もう太腿が限界じゃ」
ディヤーは普段使わない内太腿を拳で軽く叩いてみせ、「紅茶と緑茶どちらがいい?」と問う。
「んー……じゃぁ緑茶かな」
「うむ、賜った」
ディヤーは姉弟子譲りの茶を点て、アルカに差し出し、自分もコップを片手に撥水シートの上に座った。
「……おいしい」
「氷雪で点てるのも乙じゃろう」
ふふふ、と得意げに胸をはるディヤーに同意しつつ、アルカは湖の伝説、『氷姫』に思いを馳せる。
(ボクは……幼馴染と従兄……どちらの手を取れば良いんだろう……2人共、ボクを大事に想ってくれているのが分かるから……)
知らぬ間に抱く腕に力が入ったのだろう、フィルレが苦しそうにもがいて、慌てて力を緩める。
「おぉ! ルナ殿すごいの!」
歓声と拍手の音に我に返ってディヤーを見る。
「見ておらなんだか? 今、くるんと回ったのじゃ!」
すごいすごいと立ち上がって声援を送るディヤーを見て、アルカは両頬を挟み込むように叩いて立ち上がった。
「よし、休憩終わり! 滑ってくる! お茶ありがと」
「おぉ、頑張れ!」
フィルレもまた手を振って応援してくれるのを見て、アルカは笑い返すと、ゆっくりと氷の上へと舞い降りた。
「ルナさんすごい……」
一通りそつなく滑れるようになったエリオに手を引いて立たせてもらいながら、エステルは両眉を下げる。
(こういう時兄様がいたら……)
器用に滑る兄を想像し……咳払いと共にその想像を払拭する。
そんなエステルの前で氷の削れる音と共に、たたらを踏みつつも何とか転ばずにルナが止まった。
「まだまだ止まるのは苦手なんですけど、楽しいですね」
エステルの空いている手を取って、エリオと二人エステルを挟むように立つと、ルナが紅潮した顔で笑う。
「いや、ルナさん上手だよ。僕より上手かも」
「それは褒め過ぎでしょう?」
照れて更に顔を赤くしたルナが謙遜しつつ手を振る。
しかし、エリオの言葉は別にお世辞でもない。
女の子が怪我をする前に助けに入られる程度には上達したいと考えていたエリオだが、ルナの滑りは素人が見ていても安定感があり、フォームが美しいのがわかる。
「滑るのは、むずかしいんですけど、でも、本当に楽しい、ですね。……転ぶと、痛いし冷たいんですけど」
生まれたての子鹿のように内股気味に立っている今の状態では優雅に氷上で演奏とか遠すぎるけど……とエステルがしょげつつも微笑み返す。
小夜から聞いた“フィギュアスケート”のように優雅に踊るように滑る……なんていうのは無理でも、せめて小物だけはと衣装も妖精をイメージしたゴシックドレスにマリアヴェール、ふわふわのファーマフラーと着飾ってはみた。
だが、『オシャレは我慢』という格言があるように、止まっていると……寒い。
そして転けると痛いし冷たい。
でも滑れるようになりたいと、エステルは持ち前の精神力で練習に励む。
「一緒に滑ろー」
アルカがルナに体当たりするように抱きつく。
「じゃぁ、女の子三人で滑っておいでよ」
エリオが遠慮して離そうとした手を、エステルが必死の形相で引き留めた。
「お願い、一緒に滑って……!」
「え、あ、ハイ」
……この日、最後まで音を上げず練習に励んだエステルはみんなの協力もあって、最終的には一人で湖の外周を転ばずに滑りきることが出来るようになったのだった。
「ふふーん、滑るのなんて簡単……ってうわわ?!」
「お前は止まるのが苦手なんだから、スピードを出すな」
バランスを崩して派手に転んだレナードの横でぴたりと止まったクランが呆れ顔で注意する。
「いやいや、ゆっくり滑る方がバランスむずかしーねん!」
一息で立ち上がろうとしたレナードは疲労からか再び転倒。「冷た!」と騒ぐレナードにクランが手を貸してようやく立ち上がった。
「……そろそろ上がるか」
気付けば随分長い時間滑り続けていた気がする。
「せやね。上手に出来るか心配やったけど、楽しかったやんね! クランさん。」
眩しい物を見るように目を細めたクランは、静かに頷いた。
「……あぁ」
●雪上の戦い(終結)
「イサト! ユキダルマ作ろー! イサトはアタマの人ネ! ボクはカラダの人!」
雪景色にはしゃぎ回っていたアレクシス・ラッセル(ka6748)の唐突な提案に妻崎 五郷(ka0559)は「あ?」と首を傾げた。
「雪だるまの頭? まあ、いいけどよ」
雪遊びなんて何年ぶりかッてェ話だな……なんて独りごちながら、五郷とアレクシスは背中合わせに「よーいどん」で雪玉を転がし始めた。
「……って。胴体をどんだけデカくするかによってもサイズが」
五郷が口にしながら振り返って……止まった。
「……大分デカくね?」
一緒に作り始めたにも関わらず、「イチバンおっきなユキダルマつくっちゃおー!」と張り切って駆け回ったアレクシスの作った『胴体』は明らかに五郷の作っている『頭部』よりデカイ。
「ヘタにやると見窄らしくなっちまうし、キッチリやらねェとか……」
見た目は“いい大人”だが、まだまだ若人の五郷のやる気スイッチがオンになった。
一方で、既に胴体を作り終えその装飾用の枝などを探していたアレクシスはハッ! と閃いた。
「……ゆきだま、イサトに当てちゃおっカナー……イサトきっとビックリダネっ!」
五郷は黙々と雪玉を転がしいい感じの大きさまで成長させると、大きく伸びをして曲げていた腰を労る。
「アレス、頭出来tヘブシッッッ!!」
「ワーイ! イサトのカオにClean hit!!」
飛び跳ねて喜んで……五郷が直立不動のまま拳を握り締めているのにようやく気づいたアレクシスが、恐る恐る訊ねる。
「……って、アレ? イサト、おこった? イサトおこった!?」
「……オイ。アレス。お、ま、え、がッ! 雪だるま作りたいッつッたよなァ……いい度胸だそこに直れ!」
「うわーん! ゴメンナサイ!! タノシーカナっておもったダケダヨー!」
飛んで来る雪玉を避けながら、アレクシスが謝罪と言い訳を口にする……が。
「デモデモ! まけナイヨ! ボクもいっぱいなげてヤルー!!」
「ちッとばッかし仕置だ! ぶっ飛ばしてやヘブッッ」
「Nice!」
「ナイス! じゃねぇえええ!! ッコンニャロ、やりやがったな……!?」
大の男二人が真剣に雪合戦に興じ、雪の上に転がるまで後20分、この乱闘は続くのだった。
メアリは村の少年と共に木の陰に身を隠し、雪玉を敵に向けて投げる。
……そう、気付けば何となく二組に分かれている。
村の子ども達が最初二組に分かれていたからなのだろう。
ハンターも何となく二組のチーム戦になっていた。
鈴太郎、遥華、メアリ、真 vs ファリス、和沙、テオバルト、ルドラ、それからリアリュールのティオー。
ここに子ども達も加わるので、自然とスキルの使用は禁止、という暗黙のルールが成り立っていた。
「そこの少年。1・2の3で同時に飛び出てあの銀髪のハンターを狙いませんか?」
「いいぜ!」
二人はタイミングを合わせ、飛び出る。
が。和沙の作った特大雪玉がメアリにクリーンヒット。
「ねーちゃん!」
「私の犠牲を大事に……あなたはいってください……」
雪玉まみれになりながら真顔サムズアップの後、その手が雪の上に落ちた。
「おっけ、ねーちゃんの仇はうってやっからなぁっ!!」
案外軽いノリで少年は抱えた雪玉を乱れ撃ちしながら走り去っていった。
「いい? 飛び出してきたところを狙うの。でも深追いは禁物なの!」
お姉さんらしい振る舞いでファリスが子ども達に指示を飛ばす。
木陰でせっせせっせと雪玉を作り、子ども達に手渡していく。
(雪玉、子どもに当たるかも知れないから、当たってもすぐに崩れる程度の堅さにしておくの)
ところが。
「ねーちゃん、こんな硬さじゃすぐ壊れちゃう。もっとしっかり握らなきゃ!」
「え?」
……どうやら子ども達、意外にしっかりした雪玉で戦っているらしい。
「頑張ろうな、ねーちゃん。こっちはもうあの猫とオレ達しかいねーから」
「え? え? 和沙姉様は?」
「あのねーちゃんならカレシとどっかいった」
「えぇーーーー!?」
見れば、和沙とテオバルトの姿が本当に消えていた。
「……それでも……遊びでも手を抜かないの! せっかくなら勝者になりたいの」
そう叫んだファリスが雪玉を抱えて、隣の樹へと走る。
「甘い!」
しかし、その樹の更にもう一本先の大木の影にいつの間にか潜んでいた真の小粒早撃ち戦法によりファリスは抱えていた雪玉を全て崩され、降参を余儀なくされたのだった。
……結果。
「おーっし! 勝ったーーー!!」
鈴太郎が真と遥華とハイタッチすると、子ども達一人一人とも手を合わせていく。
なお、メアリは火のそばで温まっているところなので遠くから手を振るに留まった。
「ぐ……こ、今回の勝利は譲ってやんよ!」
「あっはっは、負け惜しみ負け惜しみ」
すっかり村の子ども達と仲良くなった鈴太郎がその濡れた頭をくしゃくしゃとタオルでかき混ぜる。
「ぎゃーやめろよー!」
「オラ! ちゃんと拭いとかねぇと風邪引くって!」
鈴太郎が子ども達の世話を焼くのを見ながら、遥華は微笑んだ。
本気で子どもといっしょになってはしゃいだり、実は面倒見がいいところが鈴太郎の良い所だと遥華は思っている。
「おかえりなさい。楽しかった?」
すっかり毛が雪だらけになったティオーの毛をタオルで拭いてやりながらリアリュールが笑いかける。
「応援の声、聞こえた?」
キラキラの瞳とピンと上を向いた髭で興奮冷めやらぬといった表情のティオーが大きく何度も頷いてみせる。
空中分解してしまう雪玉を見かねて、村の子どもが雪玉を作って渡してくれたりと、見守る気分はすっかり母親のようで。
最初は右往左往していたティオーが徐々に雪玉を遠くに投げられるようになっていくのを見るのは、リアリュールにとっても楽しかった。
「今日はたくさん遊べてたのしかったね」
全身で頷くティオーにリアリュールは目を細めてその頭を撫でた。
●からだとこころをあたためるもの
「おーい! みんなー! お汁粉出来たぞー!」
「コーンスープにココアもあるわよー」
研司と葵の声に、全員が歓声を上げ、走り寄っていく。
ニット帽とコートについた雪を払っていた真もその報せに、口元を綻ばせるとのんびりと温もりを求める人々の後を追った。
「やぁ! すっかり雪まみれだね」
笑う研司からお汁粉を受け取り、ふーと息を吹きかけ、一口。
痺れるような甘さと熱が雪合戦で疲労した身体に染み渡り、真は「美味いな」としみじみ呟いたのだった。
「スケートはもういいの?」
スケートを切り上げ桜華と戯れていた小夜は、葵が持ってきてくれた研司お手製のお汁粉を笑顔で受け取った。
「おおきに。……いただきます」
二人はふー、ふー、と息を吹きかけ、よく伸びる餅をはふはふ言いながら頬張った。
食べ終わって暫くして、ぽそりと小夜の唇から言葉が溢れた。
「氷姫のお話が……よう、わからなくて」
好きならずっと一緒にいたいと思うのでは……と小夜は首を傾げる。
「んー……そうねぇ。難しいわよねぇ……あたしにもよくわからないわ」
意外そうに小夜が葵を見上げる。
「でも、わからなくっていいんじゃないかしら? 時代も違うし。氷姫と小夜ちゃんも違うんだし」
「何? 何の話し?」
研司が2人の元へとやってきた。すると葵が小夜を研司から隠すように腕を広げた。
「女子トークですー。男子禁制ですー」
「えぇ!?」
「えぇっと、あの、えっと」
「そういうこと言うと、コーンスープあげないぞ」
お盆の上には暖かな湯気を昇らせるコップが3つ。
「や、飲みたいです!!」
思わず小夜が立ち上がって手を伸ばす。
その勢いに研司は目を丸くし、2人を見て葵は楽しそうに笑い、小夜は顔を真っ赤にして俯いた。
「冗談だよ、小夜ちゃんにはいっぱい入ってるヤツをあげるね」
はい、と手渡され、小夜はまだ赤い顔のままそれを受け取る。
「いいわぁ。小夜ちゃん可愛いわぁ」
複雑な心中のまま、小夜はコーンスープを一口啜った。
こんな気持ちなのに研司の作ったコーンスープはやっぱり温かくて美味しくて、ずるいなぁと思いながら小夜は綺麗に飲み干したのだった。
雪合戦を途中退場した和沙とテオバルトは湖の畔にいた。
静かに氷姫とその恋人へと祈りを捧げる。
どちらともなく自然と握られた手から、賑やかな時だけではない、こんな静かな時も二人一緒に過ごせることに幸せを感じる。
ふと視線が絡み合う。
(和沙がいればそれで幸せだよ)
(テオが居ればそれでいい)
そんな二人の想いが瞳に映り交差する。
「和沙……どわぁっ!?」
「る、ルドラ!?」
背中をドーンと押されてつんのめったテオバルトは和沙に抱きつく形となって「ごめんごめん」と身を離す。
すると、ルドラは不満げに尻尾で雪を打つ。
「あ、ごめん、ルドラも一緒だよ!」
ルドラとしては“空気を読んで”『弟分が何やらいちゃこらしたいらしいから自分が切欠を作ってやろう』ぐらいの気持ちだったのだが、残念ながらその想いは二人に届かない。
『ほっとかれて寂しくなったのかも』と勘違いした二人はルドラを撫でて笑う。
「そうだ、小さな雪だるまでも作らない?」
競争しようと言われて、テオバルトは腕まくりをする。
「よーし、負けないぜ! ついでにウサギでもつくるか! ルドラは監督な!」
言うが早いか毛布が敷かれ、ルドラはその上に伏せると“世話のかかる弟分”であるテオバルトとその恋人の和沙の楽しそうな笑顔と次々に出来る雪だるまと雪兎を見守ったのだった。
針葉樹と雪のコントラストは、道中の西洋的な街並みも相まって転移前のロンドンの街並みを思い出させる。
遥華は暖かなココアで身も心も温めながら、1人のんびりと森の中を歩いていた。
雪合戦の後の心地いい疲労感と、久しぶりに味わう冬らしい過ごし方、そしてまだ誰も踏みしめていない新雪を踏みしめる感覚に浮き立った心のまま、遥華はばたっと雪の中へその身を沈めた。
「ふふふ」
もだもだともがいて何とか仰向けにひっくり返ると、頭上に広がるのは木々の隙間から見える青い空。
徐々に背面から冷気が身体を侵食し、静かな白い闇に吸い込まれるような感覚に襲われる。
「こういう時間もあってもいいよね」
雪の冷たさは骨に染み入る。
さて、そろそろ起きるか……と立ち上がった遥華は、ざざぁっという音と樹から降ってきたパウダースノウに頭から全身をさらに雪だらけにされたのだった。
……だが、ずっと空を見上げていた遥華は気付かなかった。
その樹の根元には、小さな小さな春の訪れが鮮やかに芽吹いていたことに。
●氷姫の湖の番人
孤独な孤独な湖の番人がおりました。
彼はたった1人でずうっと湖を見守っておりました。
ある日、もう陽も落ちようという頃。1人の旅人が番人の小屋へと迷い込みました。
旅人は一夜の宿を番人に願い、番人はそれを承諾しました。
「あなたはこんな寂しいところで何をしているのですか?」
旅人の問いに彼はこう答えました。
「この湖と共に生きているのです」
そうして番人は旅人にある男と美しい女の話を語りました。
「ですが私ももうこの冬を越えることはできないでしょう。
どうか私が死んだ後、彼女が寂しくないように。
暖かな春が来て、この湖が温むように。
祭りを開いて欲しいのです。
そうすれば皆の暖かな心が、暖かな笑い声が、雪解けを促し、氷を解かすでしょう」
善良な旅人は快く了解すると、翌日、最初に立ち寄った村でこの話しをしたのです。
最初、村人達は半信半疑でした。
ですが、厳しい冬が続く中、春の訪れを心待ちにするその気持ちは誰よりも良く知っていました。
だから、その年の冬の終わり。
早く春よ来いと、村人総出で祭りを行いました。
するとどうでしょう。
氷が割れ、雪の下から緑が芽吹いたのです。
以来、春が過ぎ夏が来てもなお、心の蔵を止める程の冷たさを持っていた湖は、少し温み。
森の動物達の憩いの場となったのでした。
めでたし、めでたし。
「うっわー、太陽の光が銀世界に反射して、キラキラしてて綺麗……♪」
最寄りの転移門からトナカイの馬車に揺られること3時間。
ようやく揺れから解放されたアルカ・ブラックウェル(ka0790)が歓声を上げた。
もみの木によく似た針葉樹の枝葉は降り積もった雪で白く覆われ、もこもこと膨れあがっている。
その奥に凍った湖を発見し、アルカはルナ・レンフィールド(ka1565)とエステル・クレティエ(ka3783)、エリオ・アスコリ (ka5928)を誘って湖の縁へ。
一歩踏みしめるごとに膝下まで雪に埋まる。
新雪を踏みしめるごとにぎゅむっぎゅむっとした感覚は嗜虐心とも取れる高揚感を伴い、楽しい。
近隣の村の子なのだろう。「スケートをするなら」と、靴に直接ベルトで固定するタイプのブレードを渡された一同は撥水性のシートが被せられたベンチでスケートの準備をして、いざ、氷上へと進み出た。
「ふふふ、今こそワシの実力を見せる時! 一番槍、頂くぞ!」
ルナとエステルに誘われての参戦となったディヤー・A・バトロス(ka5743)が勢いよく着氷し、お手本のように綺麗に尻餅をついた。
「わはは、面白い! どれもう一度!」
笑っているせいか一向に立てない。だがディヤーはそれすらも楽しくてさらに笑い転げてしまう。
一応、リアルブルーでスケートの経験がある浅黄 小夜(ka3062)がそっと氷上に降り立てば、ルナが「上手上手」と褒めた讃えた。
「私、やったことないけど、どうかなあ」
恐る恐るルナが氷に片脚を乗せ……見事にひっくり返った!
「る、ルナさん!? きゃああああっ!!!!」
そんなルナを見て動揺したエステルがつるりと滑り出し……止まれず明後日の方向へと。
「ルナのおねえはん! エステルのおねえはんっ!?」
小夜がルナを助けようと手を差し出した姿勢のまま、暴走していくエステルを見て固まった。
「エステルさ……!?」
エリオが慌ててその後を追おうとするが、その真横でまた別の悲鳴が上がり、見ればアルカが転んで立とうとしてまた転んでいる。
そんな散々たる状況に村の子ども達が助けに走るのをユグディラのフィルレが楽しそうに湖の縁から見守っていた。
「えへへー、またこうしてお出かけ出来るなんて嬉しいやんね!」
笑顔と雪の眩しさに細い目を更に細めて、レナード=クーク(ka6613)が後ろを歩くクラン・クィールス(ka6605)に聞こえるようにはしゃぎ声を上げる。
「……ま、息抜きには丁度いいな」
『一面の銀世界』。話しには聞いたし、降る雪もうっすらと積もった雪も見た事はあったが、ここまで文字通りの銀世界を体験するのは初めてのクラン。
はしゃぎ走るレナードとは対照的に、この静かで冷たいが美しい世界をしみじみと感動にも似た感情で受け止めていた。
「では、雪遊びに関しては僕の方が先輩やからね! リードするで!」
ブレードを付けて、ひょいと氷の上に降り立ったレナードは、すいっと弧を描くように回った後、右手を湖の縁に居るクランに差し出した。
その手を取るか取るまいか逡巡して……男の意地もあってまずは一人で氷の上に片脚を降ろし……見事にひっくり返った。
「あはは!」
「……仕方ないだろ、見るのすら初めてなんだから」
「うん、僕もスケートは初めてやけど、何とかなってよかったで!」
屈託の無いレナードの言葉に、クランは少しムッとした表情になりつつも、差し出された手を今度は素直に掴んで立ち上がった。
「……どうやれば上手く滑れるんだ?」
「……んー……“すい~すいっ”って感じや!」
「さっぱりわからん」
氷上で、この細いブレードでどうやったらバランスが取れるのか……クランは冷静に考えながら、レナードに手を引かれそっと一歩を滑り出した。
●雪上の交流(物理)
(すっげー! すっげー! マジで見渡す限り雪だらけじゃん!)
故郷の鎌倉ではこんな大量の雪を見た事が無かった大伴 鈴太郎(ka6016)は、両目をキラッキラと輝かせて噛み締めるように感動していた。
「わあああー! 真っ白だー!! すごいね、リンちゃん」
そんな鈴太郎の横では対照的に感動を素直に言葉と満面の笑顔で表している央崎 遥華(ka5644)の姿。
(こんな機会メッタねぇンだ。こいつは雪合戦やるっきゃねぇだろ! ……ンでも、この年で「雪合戦やろうぜ!」なんて言い出すのはちっと恥ずいよなぁ)
きょときょとと周囲を見回し、雪合戦をしている子ども達を発見した鈴太郎は雪を掻き分け子ども達へと近付いた。
「何? なかまに入りたいの? いいよ」
小生意気な男の子の上から目線に、ひくりと目元を引きつらせたが、鈴太郎はこれ幸いと両手を振って声を上げた。
「おーい、コイツら雪合戦してぇンだってさ! しゃーねーから付き合ってやろうぜ!」
「えー」
不満げな男の子に、鈴太郎はにっかりと笑顔を向ける。
「いいじゃん、間違っちゃ……ぶはっ」
「うそつきにはこうだー!」
「って、いきなりはずるいだろ-!」
「ぎゃっ! やったなー、このぼうりょくおんなー!」
ギャイのギャイのと騒ぎながら雪玉をぶつけ始める鈴太郎と村の子ども達。
「私も参加するー!」
手のひらサイズの雪だるまを作っていた遥華も、その騒ぎへと加わっていく。
「……雪合戦? 楽しそうなの! ファリスもするの!」
ファリス(ka2853)がぎゅっぎゅと握って投げた雪玉は、足を雪に取られたせいで見事明後日の方向へ……そしてメアリ・ロイド(ka6633)の後頭部に直撃。
「……・私の全力の雪合戦、見せて差し上げます。……とはいえ、するのは初めてなのですが」
ケーブルニットセーターにカジュアルミンクのコート、革製のブーツ、さらには革手袋で全身防具ばっちりにも関わらず表面上はわからないが実は寒さに震えていたメアリ。
ここは動いた方が暖かくなるのでは……? と思い至り雪合戦へと飛び込んだ。
「賑やかだな」
かまくらの中でのんびり温かなお茶をすすっていた鞍馬 真(ka5819)が、外の賑やかさに顔を出した。
「おー! シンも一緒にやろうぜー!」
真を発見し、ぶんぶんと手を振る鈴太郎に特大の雪玉が直撃。鈴太郎は雪に埋まった!!
「お、おぉ!? 大丈夫かー!?」
流石に驚いた真が雪玉一つ作りながら鈴太郎を助けようと近付いていくと、真を狙って雪玉が次々に飛んで来る。
それらを走って避けながら真は、自分を狙った少年の手元へと雪玉を放った。
「……童心に返る、というのはこういうことかな」
なお、鈴太郎に特大雪玉をぶつけた柄永 和沙(ka6481)。
「……あれ、ちょっと大きすぎたかな……? すずー? 大丈夫-?」
ちょっとすずの面白い顔を見てみたい……という思いからの一撃だったのだが、思いの外綺麗に命中してしまって、ほんのり心配になる。
ぶはっ、と雪の中から自力で顔を上げた鈴太郎が和沙の顔を見て不穏な笑みを浮かべた。
「カーズーサーぁ!!」
「ちょ、俺は投げてない! まっ!」
和沙と二人きりでのんびりと……なんて思っていたテオバルト・グリム(ka1824)だったが、和沙を狙った流れ弾を必死に避ける。……が、ついにぼすっと顔面にクリーンヒット。
「……ルドラも体動かしたいよな? よーし、雪合戦だー!」
やられっぱなしは性に合わない。イェジドのルドラもテオバルドの声に楽しそうにひと鳴きして答えると、弾丸のように雪玉が飛び交う中へと飛び込んで行く。
そんなはっちゃめっちゃな雪合戦を遠巻きに見ていたのはリアリュール(ka2003)とユグディラのティオー。
じっと雪合戦の様子を見つめているティオーを見て、人が多いのは少し苦手だが、好奇心は旺盛なので、恐らく雪合戦を見て「面白そう」と思ったのだろうとリアリュールは察する。
「……雪をこうやって、きゅっきゅってして、誰かに投げるの」
しゃがみ込んで、雪をかき集めて雪玉を作って見せると、リアリュールはティオーに微笑んだ。
「当たったら負けだから、がんばってよけるのよ」
そう教えられ、ティオーはやや耳としっぽをぴんと立てて緊張した様子で雪玉を握る。
「そう、上手」
褒められて、ティオーは嬉しそうに瞳を輝かせると、雪合戦の戦場を見た。
「いってらっしゃい。応援しているわ」
暖かな純白のケープが大暴れしても着崩れないように、襟元の紐を結び直してラッキースターで固定すると、リアリュールはティオーを送り出したのだった。
「なるほど、話には聞いていたが銀世界とは綺麗なものだ……ふふ、童心に帰りたくなるナ」
ロックス・ルックハート(ka6737)が初めての雪景色にやや興奮気味に周囲を見回す。
村の子ども達が雪だるまを作っているのを見て、真似て作ってみる。
厚手の手袋越しでも雪に触れている内に指先が悴んできて、その体験も面白くて「なるほど、なるほど」と一人頷きながら、手を握ったり開いたりと動かしてみる。
と、木々の向こうから「キャー!」という悲鳴にも似た歓声が聞こえてそちらを見やる。
どうやら子ども達とハンター達が雪合戦に興じているらしい。
「ほうほう」
新雪を踏み分け、最短距離を行く……と、流れ弾がロックスの前でぽすりと落ちた。
「おっと」
足を止め、出来た雪穴を覗き込む。「あぁ! 危ないっ!!」という前方から警告とも悲鳴とも取れる声が聞こえ、ロックスが顔を上げると頭を殴られるような衝撃と同時に視界が真っ白に染まった。
頭を振って頭上を見上げる。どうやら樹に積もっていた雪が落ちてきたらしい。
「あははははは」
初めての体験づくしに楽しくて思わず笑い声を上げたロックスに、周囲は「頭大丈夫だろうか……」と不安げに顔を見合わせたのだった。
「兄ちゃん! 次!」
「あいよ!」
すっかり雪玉生成器と化している藤堂研司(ka0569)が雪玉をせっせとこしらえると、男の子に向かってふんわりと雪玉をパスする。
大量の雪玉をストックしたところで、すっかり全身雪まみれになりつつ研司は雪合戦から身を引いた。
「あーぁ、雪だらけじゃない」
イェジドの桜華と共に子ども達の相手をしていた沢城 葵(ka3114)が引き上げてきた研司を見て笑った。
「女の子が多いし、顔は止めておこうと思ったら、容赦無い攻撃にあっちゃったよ」
雪を払いつつも研司は楽しそうに白い息を吐いた。
「それにしても、上手ね、雪玉作り」
「合戦のキモはリロードにありって織田信長が言ってたからね!」
「そうだったかしら?」
研司の答えに葵は曖昧に首を傾げる。
「ねー、おねーさん、まだー?」
「あぁ、ハイハイ。じゃぁ、次の子、どうぞ」
子ども達を乗せたソリを桜華に牽かせると、子ども達の黄色い歓声が上がる。
「おねーさん」
「何か?」
「いえ。なぁんにも」
葵から視線を逸らし、持ってきた荷物を漁る。
「ちと時期が遅いけど……鏡開きといきますか!」
取り出した材料を見て、葵がすぐに見当を付けた。
「あら、お汁粉? いいわね、手伝うわよ」
「ありがと、じゃ、沢城さん、頑張ろ!」
子どもを乗せて、ぐるりと回って帰ってきた桜華からソリを外し、モフモフタイムへと移行させる。
「その前に」
葵がぎゅうっと桜華を抱きしめその暖かで柔らかでしなやかな身体を堪能する。
「こんな感じで、優しく撫でたりぎゅってしてあげてね?」
「「「はーい」」」
最初は初めて見るイェジドにおっかなびっくりだった子ども達も、ソリで一緒に遊ぶ内に桜華の穏やかな性格にすっかり懐いている。
桜華自身も子どもの相手が嫌いではないのだろう。日当たりのいい開けた場所へと移動すると子ども達と戯れ始めた。
それを見て葵も安心して研司の元へと向かったのだった。
●雪上の交流(精神)
「スノウさん雪さんです! スノウさんと同じお名前さんです、とっても綺麗です」
白い毛並みのペルシャ猫であるスノウと共に白銀の世界に降り立ったエステル・ソル(ka3983)は、早速スノウを傍らに見守りながら雪だるまを作り始めた。
雪の上に降りたスノウは初めての雪の冷たさに驚いたものの、飛んで跳ねて足跡を付けてと大はしゃぎ。
「スノウさん! スノウさんどこですか!?」
うっかり雪だるま制作に夢中になったエステルがスノウを見失った事に気付いて声を掛ける。
鳴き声にスノウを見つけてぎゅっと抱きしめると、その小さな体温がとても暖かくてエステルはホッとした。
完成した雪だるまをスノウに見せると、スノウはエステルの腕からするりと抜けだし、雪だるまの頭の上へまさかの大ジャンプ。
「ああっ、スノウさん!? ……あううう」
雪だるまは見事に首からもげて崩れ、エステルもまたがっくりと肩を落としたが、スノウだけは「どうしたの?」と言わんばかりに小首を傾げ、再びエステルの腕の中へ悠々と戻ったのだった。
初めて見る一面の銀世界に染み入るように感動している月雪 涼花(ka6591)の横で、着物姿の氷雨 柊(ka6302)がのんびりと口を開いた。
「雪景色なんて久々かもしれませんねぇ、昔住んでいた場所には降ったのですけれど、移ってしまってからは見てませんでしたからぁ」
「さぁ、かまくらを作りましょう」という柊の格好を見て、涼花が眉尻を上げた。
「……まさか、その格好で、ですか?」
「はい」
きょとんとした柊に涼花は思わず天を仰いだ。
「古来より「雪を舐めるな」と言う言い伝えもあるので動きやすく暖かい恰好で行きましょうとお話したでしょう?」
「そうだったかしら?」と首を傾げる柊に、涼花は自分が着ていたトレンチコートを羽織らせる。
「それで無いよりはマシでしょう」
「まぁ、悪いですわぁ」
遠慮する柊に「見ている方も寒いのだ」と説得し、いざ、かまくら作りへ。
「ええ、わが家の名に懸けてやるからにはきっちり良いものを作りあげましょう」
道具は貸し出してくれたし、ベースとなる雪山はすでにあったり、コツなども村の人達が教えてくれたので、二人は非常にスムーズにかまくら作りを進めることが出来た。
「……結構、重労働ですね」
額の汗を拭いながら涼花が言うと、柊が「でしょうー?」とのんびり笑う。
経験者らしい柊はそののんびりとした口調とは対照的に、無駄なく雪を盛って、スコップで固めて行く。
次いで入口を決めて雪を削り、中をくり抜いて、雪を掻き出すとかまくらは完成した。
「しっかりしたものが出来ましたね」
少しムラのある外装、ちょっとでこぼこしている内側。
だが、途中で崩れることも無く作りきることが出来た二人は満足げに顔を見合わせた。
「ふふふ、やりましたねぇ」
シートを借りて中に敷いて、小さなテーブルを設置。
「あら……意外と狭いかしらー…? でも、くっつけば入れそうですねぇ」
柊が先に中へ入ると、その横に涼花もちょこんと座った。
「はい、お疲れ様でしたぁ」
カップに注がれた温かなココアを受け取り、涼花もまた鞄からマカロンを取り出した。
そうして小さくコップの縁を合わせて乾杯して、二人はのんびりと話しに花を咲かせたのだった。
羊谷 めい(ka0669)はイェジドのネーヴェとのんびりと湖の周りを散策していた。
一面の雪景色は美しい一方、人々の声が聞こえる範囲は賑やかだが、少し外れればそれらの音は雪に吸われてぐんと冷たさと寂しさを増す。
それでもめいが心細さを感じないのは、隣を歩くネーヴェの迷い無い足取りがあるからだ。
「ねえ、綺麗ですね、ネーヴェ。雪、真っ白でネーヴェとおそろいですね」
めいの言葉に、ネーヴェは尾を振って応える。
純白の雪を思わせる毛並み、澄んだ海のような青い瞳は本当に美しいとめいは誇らしい気持ちで傍らの相棒を見つめた。
湖の縁に立って、凍った水面を覗く。
この下に沈んだとされる氷姫を思うと切なくて、めいが氷姫の立場だったらどうするだろうかと考える。
思ったより前屈みになっていたようで、ずるりと足元が滑ってバランスを崩しためいを、ネーヴェが咄嗟にスカートの裾を咥えて引き戻す。
「……ありがとうございます」
礼を告げれば、ふい、とそっぽを向いてしまう。
呆れられてしまったのだろうかとめいが俯くと、「そうではない」と言うように鼻先が押しつけられた。
「まだ理想には届いていないけれど………、わたしがんばりますから。これからあなたの力を借りることも、たくさん出てくると思います。それでも、いっしょに来てくれますか?」
「当然だ」と言わんばかりにより一層鼻先をぐりぐりと押しつけられて、めいはその首元に抱きついた。
「……あぁ、あったかい」
独りじゃ無い、ということはこんなにも暖かい。
めいは目を閉じてその温もりを享受した。
●氷上の妖精はいづこ
「寒っ」
何度も尻餅をついていたため、すっかりゴシックドレスが濡れそぼってしまったアルカは、寒さにフィルレを抱っこして暖を取りながら氷上でまだ練習に励む友人達を見ていた。
「あれだけ転べばのう」
水を吸って重くなった自分のローブを干しながら、ディヤーが笑う。
「……そう言いつつ、ディヤーはそこそこ滑れてたよね?」
「いや、もう太腿が限界じゃ」
ディヤーは普段使わない内太腿を拳で軽く叩いてみせ、「紅茶と緑茶どちらがいい?」と問う。
「んー……じゃぁ緑茶かな」
「うむ、賜った」
ディヤーは姉弟子譲りの茶を点て、アルカに差し出し、自分もコップを片手に撥水シートの上に座った。
「……おいしい」
「氷雪で点てるのも乙じゃろう」
ふふふ、と得意げに胸をはるディヤーに同意しつつ、アルカは湖の伝説、『氷姫』に思いを馳せる。
(ボクは……幼馴染と従兄……どちらの手を取れば良いんだろう……2人共、ボクを大事に想ってくれているのが分かるから……)
知らぬ間に抱く腕に力が入ったのだろう、フィルレが苦しそうにもがいて、慌てて力を緩める。
「おぉ! ルナ殿すごいの!」
歓声と拍手の音に我に返ってディヤーを見る。
「見ておらなんだか? 今、くるんと回ったのじゃ!」
すごいすごいと立ち上がって声援を送るディヤーを見て、アルカは両頬を挟み込むように叩いて立ち上がった。
「よし、休憩終わり! 滑ってくる! お茶ありがと」
「おぉ、頑張れ!」
フィルレもまた手を振って応援してくれるのを見て、アルカは笑い返すと、ゆっくりと氷の上へと舞い降りた。
「ルナさんすごい……」
一通りそつなく滑れるようになったエリオに手を引いて立たせてもらいながら、エステルは両眉を下げる。
(こういう時兄様がいたら……)
器用に滑る兄を想像し……咳払いと共にその想像を払拭する。
そんなエステルの前で氷の削れる音と共に、たたらを踏みつつも何とか転ばずにルナが止まった。
「まだまだ止まるのは苦手なんですけど、楽しいですね」
エステルの空いている手を取って、エリオと二人エステルを挟むように立つと、ルナが紅潮した顔で笑う。
「いや、ルナさん上手だよ。僕より上手かも」
「それは褒め過ぎでしょう?」
照れて更に顔を赤くしたルナが謙遜しつつ手を振る。
しかし、エリオの言葉は別にお世辞でもない。
女の子が怪我をする前に助けに入られる程度には上達したいと考えていたエリオだが、ルナの滑りは素人が見ていても安定感があり、フォームが美しいのがわかる。
「滑るのは、むずかしいんですけど、でも、本当に楽しい、ですね。……転ぶと、痛いし冷たいんですけど」
生まれたての子鹿のように内股気味に立っている今の状態では優雅に氷上で演奏とか遠すぎるけど……とエステルがしょげつつも微笑み返す。
小夜から聞いた“フィギュアスケート”のように優雅に踊るように滑る……なんていうのは無理でも、せめて小物だけはと衣装も妖精をイメージしたゴシックドレスにマリアヴェール、ふわふわのファーマフラーと着飾ってはみた。
だが、『オシャレは我慢』という格言があるように、止まっていると……寒い。
そして転けると痛いし冷たい。
でも滑れるようになりたいと、エステルは持ち前の精神力で練習に励む。
「一緒に滑ろー」
アルカがルナに体当たりするように抱きつく。
「じゃぁ、女の子三人で滑っておいでよ」
エリオが遠慮して離そうとした手を、エステルが必死の形相で引き留めた。
「お願い、一緒に滑って……!」
「え、あ、ハイ」
……この日、最後まで音を上げず練習に励んだエステルはみんなの協力もあって、最終的には一人で湖の外周を転ばずに滑りきることが出来るようになったのだった。
「ふふーん、滑るのなんて簡単……ってうわわ?!」
「お前は止まるのが苦手なんだから、スピードを出すな」
バランスを崩して派手に転んだレナードの横でぴたりと止まったクランが呆れ顔で注意する。
「いやいや、ゆっくり滑る方がバランスむずかしーねん!」
一息で立ち上がろうとしたレナードは疲労からか再び転倒。「冷た!」と騒ぐレナードにクランが手を貸してようやく立ち上がった。
「……そろそろ上がるか」
気付けば随分長い時間滑り続けていた気がする。
「せやね。上手に出来るか心配やったけど、楽しかったやんね! クランさん。」
眩しい物を見るように目を細めたクランは、静かに頷いた。
「……あぁ」
●雪上の戦い(終結)
「イサト! ユキダルマ作ろー! イサトはアタマの人ネ! ボクはカラダの人!」
雪景色にはしゃぎ回っていたアレクシス・ラッセル(ka6748)の唐突な提案に妻崎 五郷(ka0559)は「あ?」と首を傾げた。
「雪だるまの頭? まあ、いいけどよ」
雪遊びなんて何年ぶりかッてェ話だな……なんて独りごちながら、五郷とアレクシスは背中合わせに「よーいどん」で雪玉を転がし始めた。
「……って。胴体をどんだけデカくするかによってもサイズが」
五郷が口にしながら振り返って……止まった。
「……大分デカくね?」
一緒に作り始めたにも関わらず、「イチバンおっきなユキダルマつくっちゃおー!」と張り切って駆け回ったアレクシスの作った『胴体』は明らかに五郷の作っている『頭部』よりデカイ。
「ヘタにやると見窄らしくなっちまうし、キッチリやらねェとか……」
見た目は“いい大人”だが、まだまだ若人の五郷のやる気スイッチがオンになった。
一方で、既に胴体を作り終えその装飾用の枝などを探していたアレクシスはハッ! と閃いた。
「……ゆきだま、イサトに当てちゃおっカナー……イサトきっとビックリダネっ!」
五郷は黙々と雪玉を転がしいい感じの大きさまで成長させると、大きく伸びをして曲げていた腰を労る。
「アレス、頭出来tヘブシッッッ!!」
「ワーイ! イサトのカオにClean hit!!」
飛び跳ねて喜んで……五郷が直立不動のまま拳を握り締めているのにようやく気づいたアレクシスが、恐る恐る訊ねる。
「……って、アレ? イサト、おこった? イサトおこった!?」
「……オイ。アレス。お、ま、え、がッ! 雪だるま作りたいッつッたよなァ……いい度胸だそこに直れ!」
「うわーん! ゴメンナサイ!! タノシーカナっておもったダケダヨー!」
飛んで来る雪玉を避けながら、アレクシスが謝罪と言い訳を口にする……が。
「デモデモ! まけナイヨ! ボクもいっぱいなげてヤルー!!」
「ちッとばッかし仕置だ! ぶっ飛ばしてやヘブッッ」
「Nice!」
「ナイス! じゃねぇえええ!! ッコンニャロ、やりやがったな……!?」
大の男二人が真剣に雪合戦に興じ、雪の上に転がるまで後20分、この乱闘は続くのだった。
メアリは村の少年と共に木の陰に身を隠し、雪玉を敵に向けて投げる。
……そう、気付けば何となく二組に分かれている。
村の子ども達が最初二組に分かれていたからなのだろう。
ハンターも何となく二組のチーム戦になっていた。
鈴太郎、遥華、メアリ、真 vs ファリス、和沙、テオバルト、ルドラ、それからリアリュールのティオー。
ここに子ども達も加わるので、自然とスキルの使用は禁止、という暗黙のルールが成り立っていた。
「そこの少年。1・2の3で同時に飛び出てあの銀髪のハンターを狙いませんか?」
「いいぜ!」
二人はタイミングを合わせ、飛び出る。
が。和沙の作った特大雪玉がメアリにクリーンヒット。
「ねーちゃん!」
「私の犠牲を大事に……あなたはいってください……」
雪玉まみれになりながら真顔サムズアップの後、その手が雪の上に落ちた。
「おっけ、ねーちゃんの仇はうってやっからなぁっ!!」
案外軽いノリで少年は抱えた雪玉を乱れ撃ちしながら走り去っていった。
「いい? 飛び出してきたところを狙うの。でも深追いは禁物なの!」
お姉さんらしい振る舞いでファリスが子ども達に指示を飛ばす。
木陰でせっせせっせと雪玉を作り、子ども達に手渡していく。
(雪玉、子どもに当たるかも知れないから、当たってもすぐに崩れる程度の堅さにしておくの)
ところが。
「ねーちゃん、こんな硬さじゃすぐ壊れちゃう。もっとしっかり握らなきゃ!」
「え?」
……どうやら子ども達、意外にしっかりした雪玉で戦っているらしい。
「頑張ろうな、ねーちゃん。こっちはもうあの猫とオレ達しかいねーから」
「え? え? 和沙姉様は?」
「あのねーちゃんならカレシとどっかいった」
「えぇーーーー!?」
見れば、和沙とテオバルトの姿が本当に消えていた。
「……それでも……遊びでも手を抜かないの! せっかくなら勝者になりたいの」
そう叫んだファリスが雪玉を抱えて、隣の樹へと走る。
「甘い!」
しかし、その樹の更にもう一本先の大木の影にいつの間にか潜んでいた真の小粒早撃ち戦法によりファリスは抱えていた雪玉を全て崩され、降参を余儀なくされたのだった。
……結果。
「おーっし! 勝ったーーー!!」
鈴太郎が真と遥華とハイタッチすると、子ども達一人一人とも手を合わせていく。
なお、メアリは火のそばで温まっているところなので遠くから手を振るに留まった。
「ぐ……こ、今回の勝利は譲ってやんよ!」
「あっはっは、負け惜しみ負け惜しみ」
すっかり村の子ども達と仲良くなった鈴太郎がその濡れた頭をくしゃくしゃとタオルでかき混ぜる。
「ぎゃーやめろよー!」
「オラ! ちゃんと拭いとかねぇと風邪引くって!」
鈴太郎が子ども達の世話を焼くのを見ながら、遥華は微笑んだ。
本気で子どもといっしょになってはしゃいだり、実は面倒見がいいところが鈴太郎の良い所だと遥華は思っている。
「おかえりなさい。楽しかった?」
すっかり毛が雪だらけになったティオーの毛をタオルで拭いてやりながらリアリュールが笑いかける。
「応援の声、聞こえた?」
キラキラの瞳とピンと上を向いた髭で興奮冷めやらぬといった表情のティオーが大きく何度も頷いてみせる。
空中分解してしまう雪玉を見かねて、村の子どもが雪玉を作って渡してくれたりと、見守る気分はすっかり母親のようで。
最初は右往左往していたティオーが徐々に雪玉を遠くに投げられるようになっていくのを見るのは、リアリュールにとっても楽しかった。
「今日はたくさん遊べてたのしかったね」
全身で頷くティオーにリアリュールは目を細めてその頭を撫でた。
●からだとこころをあたためるもの
「おーい! みんなー! お汁粉出来たぞー!」
「コーンスープにココアもあるわよー」
研司と葵の声に、全員が歓声を上げ、走り寄っていく。
ニット帽とコートについた雪を払っていた真もその報せに、口元を綻ばせるとのんびりと温もりを求める人々の後を追った。
「やぁ! すっかり雪まみれだね」
笑う研司からお汁粉を受け取り、ふーと息を吹きかけ、一口。
痺れるような甘さと熱が雪合戦で疲労した身体に染み渡り、真は「美味いな」としみじみ呟いたのだった。
「スケートはもういいの?」
スケートを切り上げ桜華と戯れていた小夜は、葵が持ってきてくれた研司お手製のお汁粉を笑顔で受け取った。
「おおきに。……いただきます」
二人はふー、ふー、と息を吹きかけ、よく伸びる餅をはふはふ言いながら頬張った。
食べ終わって暫くして、ぽそりと小夜の唇から言葉が溢れた。
「氷姫のお話が……よう、わからなくて」
好きならずっと一緒にいたいと思うのでは……と小夜は首を傾げる。
「んー……そうねぇ。難しいわよねぇ……あたしにもよくわからないわ」
意外そうに小夜が葵を見上げる。
「でも、わからなくっていいんじゃないかしら? 時代も違うし。氷姫と小夜ちゃんも違うんだし」
「何? 何の話し?」
研司が2人の元へとやってきた。すると葵が小夜を研司から隠すように腕を広げた。
「女子トークですー。男子禁制ですー」
「えぇ!?」
「えぇっと、あの、えっと」
「そういうこと言うと、コーンスープあげないぞ」
お盆の上には暖かな湯気を昇らせるコップが3つ。
「や、飲みたいです!!」
思わず小夜が立ち上がって手を伸ばす。
その勢いに研司は目を丸くし、2人を見て葵は楽しそうに笑い、小夜は顔を真っ赤にして俯いた。
「冗談だよ、小夜ちゃんにはいっぱい入ってるヤツをあげるね」
はい、と手渡され、小夜はまだ赤い顔のままそれを受け取る。
「いいわぁ。小夜ちゃん可愛いわぁ」
複雑な心中のまま、小夜はコーンスープを一口啜った。
こんな気持ちなのに研司の作ったコーンスープはやっぱり温かくて美味しくて、ずるいなぁと思いながら小夜は綺麗に飲み干したのだった。
雪合戦を途中退場した和沙とテオバルトは湖の畔にいた。
静かに氷姫とその恋人へと祈りを捧げる。
どちらともなく自然と握られた手から、賑やかな時だけではない、こんな静かな時も二人一緒に過ごせることに幸せを感じる。
ふと視線が絡み合う。
(和沙がいればそれで幸せだよ)
(テオが居ればそれでいい)
そんな二人の想いが瞳に映り交差する。
「和沙……どわぁっ!?」
「る、ルドラ!?」
背中をドーンと押されてつんのめったテオバルトは和沙に抱きつく形となって「ごめんごめん」と身を離す。
すると、ルドラは不満げに尻尾で雪を打つ。
「あ、ごめん、ルドラも一緒だよ!」
ルドラとしては“空気を読んで”『弟分が何やらいちゃこらしたいらしいから自分が切欠を作ってやろう』ぐらいの気持ちだったのだが、残念ながらその想いは二人に届かない。
『ほっとかれて寂しくなったのかも』と勘違いした二人はルドラを撫でて笑う。
「そうだ、小さな雪だるまでも作らない?」
競争しようと言われて、テオバルトは腕まくりをする。
「よーし、負けないぜ! ついでにウサギでもつくるか! ルドラは監督な!」
言うが早いか毛布が敷かれ、ルドラはその上に伏せると“世話のかかる弟分”であるテオバルトとその恋人の和沙の楽しそうな笑顔と次々に出来る雪だるまと雪兎を見守ったのだった。
針葉樹と雪のコントラストは、道中の西洋的な街並みも相まって転移前のロンドンの街並みを思い出させる。
遥華は暖かなココアで身も心も温めながら、1人のんびりと森の中を歩いていた。
雪合戦の後の心地いい疲労感と、久しぶりに味わう冬らしい過ごし方、そしてまだ誰も踏みしめていない新雪を踏みしめる感覚に浮き立った心のまま、遥華はばたっと雪の中へその身を沈めた。
「ふふふ」
もだもだともがいて何とか仰向けにひっくり返ると、頭上に広がるのは木々の隙間から見える青い空。
徐々に背面から冷気が身体を侵食し、静かな白い闇に吸い込まれるような感覚に襲われる。
「こういう時間もあってもいいよね」
雪の冷たさは骨に染み入る。
さて、そろそろ起きるか……と立ち上がった遥華は、ざざぁっという音と樹から降ってきたパウダースノウに頭から全身をさらに雪だらけにされたのだった。
……だが、ずっと空を見上げていた遥華は気付かなかった。
その樹の根元には、小さな小さな春の訪れが鮮やかに芽吹いていたことに。
●氷姫の湖の番人
孤独な孤独な湖の番人がおりました。
彼はたった1人でずうっと湖を見守っておりました。
ある日、もう陽も落ちようという頃。1人の旅人が番人の小屋へと迷い込みました。
旅人は一夜の宿を番人に願い、番人はそれを承諾しました。
「あなたはこんな寂しいところで何をしているのですか?」
旅人の問いに彼はこう答えました。
「この湖と共に生きているのです」
そうして番人は旅人にある男と美しい女の話を語りました。
「ですが私ももうこの冬を越えることはできないでしょう。
どうか私が死んだ後、彼女が寂しくないように。
暖かな春が来て、この湖が温むように。
祭りを開いて欲しいのです。
そうすれば皆の暖かな心が、暖かな笑い声が、雪解けを促し、氷を解かすでしょう」
善良な旅人は快く了解すると、翌日、最初に立ち寄った村でこの話しをしたのです。
最初、村人達は半信半疑でした。
ですが、厳しい冬が続く中、春の訪れを心待ちにするその気持ちは誰よりも良く知っていました。
だから、その年の冬の終わり。
早く春よ来いと、村人総出で祭りを行いました。
するとどうでしょう。
氷が割れ、雪の下から緑が芽吹いたのです。
以来、春が過ぎ夏が来てもなお、心の蔵を止める程の冷たさを持っていた湖は、少し温み。
森の動物達の憩いの場となったのでした。
めでたし、めでたし。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/19 23:58:23 |
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相談卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2017/03/20 17:00:43 |