ゲスト
(ka0000)
【初心】ウルフ・サーカス
マスター:深夜真世

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- LV1~LV20
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/03/29 19:00
- 完成日
- 2017/04/11 20:09
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「おかしい……」
ある村の猟師がいつもの森を回った時、嫌な予感がした。
「森全体が息をひそめているみたいだ」
風になびく枝葉の音が耳につく。普段なら少なくとも鳥たちの羽ばたく音くらいは響くものだ。雪は日陰に残るがもう春は近いのだから。
あるいは――
「あるいは、何か鳥たちも逃げるような……はっ」
つぶやき改めて周りを見て、気付いた。
遠くの木々の闇の中、ピンク色の何かが動いたのだ。桜の花吹雪のようではあるが季節ではない。もちろん、こんな西洋風の森の中にサクラなど根付いているわけもない。
――ぐる……。
何事かと木立の間を凝視していると、影の中ぐわと大きな熊の顔がこちらを向いた。
何と、この大熊の右肩には桜吹雪のような地毛が交じっていたのだ。
「まさか……」
猟師、恐怖に顔を引きつらせた。大熊、後肢で大地を蹴る。
「まさか……」
猟師、手にしていた弓を捨て振り返った。大熊、一気に加速。大地が揺れる。
凶悪な顔で邪魔になる枝などお構いなしに一直線。太い枝が邪魔なら大きな手の平と鋭い爪を一閃。へし折ってまだ加速し突っ込んでくる。
そのさま、まさに「殿、ご乱心」。
この大熊、森を広域に動き周辺各村を震え上がらせていた。
いつしかついたあだ名が、まさかまさかの……
「まさかの、『暴れん坊』じゃぁぁ……」
叫んだときにはもう遅い。
ぐわっ、と猟師の背後に迫っていた。猟師の捨てた弓が踏まれてばきりと悲しき音がした。
なぜ、猟師はこの弓を構えなかったのか?
森の中での鳥類の狩りである。取り回しのいい小さめの弓でしかない。仮に大きな弓を持っていてもこの大熊には通用すまい。
哀れ。猟師の命運、ここまでか。
その時だった。
――オオオーン!
横あいから不気味な遠吠えが響いた。
狼の叫びである。
振り向く暴れん坊大熊。絶体絶命に尻餅をついた猟師も思わず見る。
そこには――遠方の小高い場所に、狼の群れ。
いや。
狼たちの額には鋭い一角が生えているではないか。
「歪虚……のオオカミ……」
猟師、恐怖に震える声を出し這って逃げた。背後で、大熊がオオカミに向かっていく気配を感じた。
しばらく後、四つん這いで逃げていた猟師はようやく立ち上がって全力疾走していた。
「そ、そうじゃ。暴れん坊大熊、歪虚と戦うことも多かったんじゃった」
思い出し安堵する。完全に歪虚の方に向かったようだ。暴れん坊大熊が周囲に恐れられつつ、本格的に討伐されない理由でもある。
とにかく、転がるように走る。
やがて気付いた。
「そういえばさっき、襲ってくる時に左腕を動かしてなかったような?」
すでに戦いの音が遥か彼方に遠のき、ついに聞こえなくなって命拾いしたと安心していた。もしかして怪我してたのか、と振り返る。実際、暴れん坊大熊は人に出会うとまず威嚇して、戦うのか逃げるのか確認してくると言われている。
ただ、今回はすぐに襲ってきた。聞いていた話と違う。
おかしいな、と思った時だった。
――ガオオオオオォぉぉォン……。
聞いたこともないような、周囲を震わせる恐ろしい唸り声が聞こえた。
暴れん坊大熊の断末魔に違いなかった。
「こりゃいかん。暴れん坊大熊がやられたとしたら……」
猟師、改めて逃げる。
もう、森には歪虚と戦ってくれる存在はないのだ。
「村がやられるかもしれん」
「と、いうわけで一本角オオカミの歪虚討伐依頼が寄せられました。初華さんの役目ですからね!」
ここはどこぞのハンターオフィス。
係員が南那初華(kz0135)に依頼書を突き出していた。
「なんでいきなりなのよう」
初華、不満ありあり。
「いいの? 初華さん、ちょっと前にこの『暴れん坊大熊』の偵察依頼を受けてたんじゃないの?」
「んあっ! そういえば」
大熊が村に近寄らないよう追い払う依頼で現地に行くと、大型浮遊歪虚が村を襲っていたとこがあった。その件はひとまず落ち着いた。今回は元々の大熊退治だ。
「どれどれ……あ、間違いないかも」
初華、依頼書をひったくり目を走らせ断定。
「……ほへ? 負傷してるの? もしかしてあの大型歪虚と戦ったから、かなぁ」
続けてぽわわん、とそんなことも。
「だったら弔い合戦しないと!」
真相はともかく話を合わせぐっ、と拳を固める係員。
「うんっ、そうだねっ!」
まんまと乗せられ新人依頼のバックアップを任される初華だった。
というわけで、森と村の中間にある草原で一角歪虚オオカミ10体を殲滅してもらえる人、求ム。
ある村の猟師がいつもの森を回った時、嫌な予感がした。
「森全体が息をひそめているみたいだ」
風になびく枝葉の音が耳につく。普段なら少なくとも鳥たちの羽ばたく音くらいは響くものだ。雪は日陰に残るがもう春は近いのだから。
あるいは――
「あるいは、何か鳥たちも逃げるような……はっ」
つぶやき改めて周りを見て、気付いた。
遠くの木々の闇の中、ピンク色の何かが動いたのだ。桜の花吹雪のようではあるが季節ではない。もちろん、こんな西洋風の森の中にサクラなど根付いているわけもない。
――ぐる……。
何事かと木立の間を凝視していると、影の中ぐわと大きな熊の顔がこちらを向いた。
何と、この大熊の右肩には桜吹雪のような地毛が交じっていたのだ。
「まさか……」
猟師、恐怖に顔を引きつらせた。大熊、後肢で大地を蹴る。
「まさか……」
猟師、手にしていた弓を捨て振り返った。大熊、一気に加速。大地が揺れる。
凶悪な顔で邪魔になる枝などお構いなしに一直線。太い枝が邪魔なら大きな手の平と鋭い爪を一閃。へし折ってまだ加速し突っ込んでくる。
そのさま、まさに「殿、ご乱心」。
この大熊、森を広域に動き周辺各村を震え上がらせていた。
いつしかついたあだ名が、まさかまさかの……
「まさかの、『暴れん坊』じゃぁぁ……」
叫んだときにはもう遅い。
ぐわっ、と猟師の背後に迫っていた。猟師の捨てた弓が踏まれてばきりと悲しき音がした。
なぜ、猟師はこの弓を構えなかったのか?
森の中での鳥類の狩りである。取り回しのいい小さめの弓でしかない。仮に大きな弓を持っていてもこの大熊には通用すまい。
哀れ。猟師の命運、ここまでか。
その時だった。
――オオオーン!
横あいから不気味な遠吠えが響いた。
狼の叫びである。
振り向く暴れん坊大熊。絶体絶命に尻餅をついた猟師も思わず見る。
そこには――遠方の小高い場所に、狼の群れ。
いや。
狼たちの額には鋭い一角が生えているではないか。
「歪虚……のオオカミ……」
猟師、恐怖に震える声を出し這って逃げた。背後で、大熊がオオカミに向かっていく気配を感じた。
しばらく後、四つん這いで逃げていた猟師はようやく立ち上がって全力疾走していた。
「そ、そうじゃ。暴れん坊大熊、歪虚と戦うことも多かったんじゃった」
思い出し安堵する。完全に歪虚の方に向かったようだ。暴れん坊大熊が周囲に恐れられつつ、本格的に討伐されない理由でもある。
とにかく、転がるように走る。
やがて気付いた。
「そういえばさっき、襲ってくる時に左腕を動かしてなかったような?」
すでに戦いの音が遥か彼方に遠のき、ついに聞こえなくなって命拾いしたと安心していた。もしかして怪我してたのか、と振り返る。実際、暴れん坊大熊は人に出会うとまず威嚇して、戦うのか逃げるのか確認してくると言われている。
ただ、今回はすぐに襲ってきた。聞いていた話と違う。
おかしいな、と思った時だった。
――ガオオオオオォぉぉォン……。
聞いたこともないような、周囲を震わせる恐ろしい唸り声が聞こえた。
暴れん坊大熊の断末魔に違いなかった。
「こりゃいかん。暴れん坊大熊がやられたとしたら……」
猟師、改めて逃げる。
もう、森には歪虚と戦ってくれる存在はないのだ。
「村がやられるかもしれん」
「と、いうわけで一本角オオカミの歪虚討伐依頼が寄せられました。初華さんの役目ですからね!」
ここはどこぞのハンターオフィス。
係員が南那初華(kz0135)に依頼書を突き出していた。
「なんでいきなりなのよう」
初華、不満ありあり。
「いいの? 初華さん、ちょっと前にこの『暴れん坊大熊』の偵察依頼を受けてたんじゃないの?」
「んあっ! そういえば」
大熊が村に近寄らないよう追い払う依頼で現地に行くと、大型浮遊歪虚が村を襲っていたとこがあった。その件はひとまず落ち着いた。今回は元々の大熊退治だ。
「どれどれ……あ、間違いないかも」
初華、依頼書をひったくり目を走らせ断定。
「……ほへ? 負傷してるの? もしかしてあの大型歪虚と戦ったから、かなぁ」
続けてぽわわん、とそんなことも。
「だったら弔い合戦しないと!」
真相はともかく話を合わせぐっ、と拳を固める係員。
「うんっ、そうだねっ!」
まんまと乗せられ新人依頼のバックアップを任される初華だった。
というわけで、森と村の中間にある草原で一角歪虚オオカミ10体を殲滅してもらえる人、求ム。
リプレイ本文
●
「いた? そんじゃ、こっからは歩きでお願いね」
ききっ、と荒野で魔導トラックを止めると南那初華(kz0135)は出撃を促した。
「あのちっこいのか? くぅーっ、キンチョーすっけど、ようやくやってやれるぜ!」
ゴースロン種の馬を駆っていた少女が右手をひさしにして遠くを見るようにしている。ちっこい少女だが騎乗していると遠くまで見える。竜胆(ka6789)である。
「覚醒した力、この戦斧……南那さんだっけ? いいとこ見せてやるよ!」
「ほれほれ、慌てるでない。ちっこいのは距離があるからじゃ。気付かれればおそらく一気に襲われるでのぅ」
助手席から出て来た神立(ka6676)は煙管をくゆらせながら竜胆をなだめる。
「村に結構近いですよね? 来るのが遅れていたら大変なことに……」
続けて荷台からひらりと飛び降りたカメリア(ka6669)が横に立ち面を引き締める。
いや、途中で言うのをやめて首を振った。
「いえ、主のくまさんが戦ってくれたおかげで私たちが間に合ったんですね」
再び面を上げて言い切った。先ほどとは違い晴れやかだ。
「そうですねー」
その横に氷雨 柊(ka6302)が立つ。優雅に鉄扇を口元に当てている。
片手で抱くペットの猫をあやしながら続ける。
「歯向かわない人は決して襲わないいい子だって聞きました。暴れん坊熊さんの弔い合戦。負けるわけにはいかないですねぇ」
「それにしても、南那殿は慎重とお見受けするのぅ」
柊がにっこりと意気を上げたところで、神立が煙管を仕舞いながら背中越しに振り向き、にやり。
「ええっと、長い武器は運転席に入り切らないから後ろの荷台に……ほへ?」
初華、作業中だった。まとめていた武器の荷捌きをしていたようで。
傍で御法 莉乃(ka6796)が「そう、これですわ」とか言いつつ蛇節槍「ネレイデス」を受け取り、セーラー服の袖の上からヒドゥンハンドを装備するなど準備中。
「あ、この距離? うっかり近付きすぎとかドジ踏むわけにはいかないもん。それに、こういう距離感は得意だし」
言われた内容に気付いた初華、にっこりと説明。
「そういうのを買われて同行してくれてるんだな! よろしく頼むぜ!」
「……なるほど、ドジっ娘かのぅ」
言葉をまっすぐ受け取る竜胆に、やや斜に構えた感じに受け取り意地悪そうににまにまする神立。
「慎重に演奏……ううん、お仕事に入るのは悪いことでもないですよ?」
カメリアはにこにこととりなす。
「いきなり敵に突っ込むとこうやって楽しくお話もできませんしねぇ」
柊は着物の袂で口元を隠しくすくす。
ここで「半折れ角」ことセルゲン(ka6612)がのっそりと。
「まあ、以前もこんな感じでうまくいった。……南那殿、また世話になる」
「うんっ。今回も頑張ってね、セルゲンさん!」
初華への信頼を口にするセルゲン。実際、肩越しに言う姿は、「後ろは任せる」。初華の方もすっかり安心した様子で励ましの声。友人に掛ける言葉である。
「お待たせしましたわ。二組に分かれ、確実に敵の数を減らしていく方針でございましたわね……はい、始めましょう」
セーラー服姿の莉乃、身をひねりきょろきょろと裾の乱れなど確認してから改めて蛇節槍を構える。戦闘準備完了だ。
皆、頷き遠くに固まる黒い影に向かっていくのだった。
●
荒野を一騎と五人が走る。
「気付いたな」
走るセルゲンがぼそりと呟いたように、のんびりとたむろしていた狼の群れに動きがあった。
すべての狼が立ち上がり、早速こちらに向かってきたのだ。
さすがに速い。
「悪くない見立てだったようじゃのぅ」
「村に近い分、負けられません」
神立とカメリアもセルゲンに続く。
「じゃ、少し間を空けるぜ?」
竜胆、馬を少し右に振り分派。
「相手は機敏そうですねぇ。しっかり準備しましょー」
覚醒し猫耳猫しっぽ姿となった柊もこちらだ。
「……セルゲンさん、神立さんたちと一緒でございますわね」
莉乃はついて行かなかった。
これで本隊四人、分隊二人と主従が明確になった。意図の見えやすい陣形を取った。
竜胆、少数隊となったがむしろ意気に感じていた。
一人騎馬なのを利用し速度を上げる!
っと、仲間に気付いた。
「大丈夫か?」
「持久力には少し自信があるんですよー」
大地を走る柊、ちゃんとついて来ている。
これを確認し本格的に声を張った!
「サァサァお立ち会いィ! 遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ! これが竜胆さんの初陣だァッ!いっくぜーっ!!」
戦斧「ネメシス」をぶん回し、どんと加速。
「大丈夫でしょうか?」
先行した少数隊を心配するカメリア。
「そう来たか……むしろ動きやすい。こぼれた敵を討つ」
セルゲン、戦闘意欲をむしろ高ぶらせている。
「よいよい。どうとでもなろうて」
神立も楽しそうだ。
「あっという間」
莉乃の言う通り。
まず敵の十匹はやや右に開いた二人に襲い掛かって行った。
圧倒的数的有利を作るつもりか?
「その後背を狙えばよかろうのぅ」
「そういうことだな」
その激突に一瞬だけ遅れるタイミングで入れるよう、神立とセルゲンが狙う!
ここでカメリアが立ち止まった。
「……どうなさいました?」
追い抜きつつ声を掛ける莉乃。
「弾き始めはアレグロモデラート。……多数が相手ですからね、より先手を取れるように」
五線譜であれば「緩やかに速く」を示す演奏記号を口にして、陰陽符「降魔結界」をひらり。禹歩で吉方などを占い感じるのだった。
莉乃、納得して前方二人を追う。
そして竜胆が敵と激突したッ!
「オラオラ、何処見てんだ! コッチだぜ!」
竜胆、豪快に白銀の戦斧を振り回した。
かなり広い範囲を巻き込むように大きく振るった。
正確性は二の次だ。まずは目立って敵を引き付ける。
その分、狼は身を伏せたり大きく跳躍したりして斧の軌道をかわしている。
「くっ!」
そればかりか、勢いそのままに額の角で体ごと付きかかってきた。
すべての敵が忠実にこれを実行していた。かなりの迫力である。
「その分、こっちが楽ですねー」
背後では柊が静かに薙刀「静」を下段から振り上げていた。狼たちは竜胆に突っかかっていた分、回避しきれないようでしっかり当たる。もっとも、体毛は剛毛のようで一撃で倒れることはない。
「狙う相手はこちらにもいること、忘れてしまっては困りますねぇっ」
しっかりと手数をくわえていく。
一方、竜胆。
「くそっ。まだまだぁ!」
味方が楽に戦えている様子を見て改めて気力を振り絞った。実際、まだまだ戦える。
「次はそう簡単にはいかねぇぞ!」
馬首を巡らせる。
この時、敵の動きが変わったことに気付いた。
●
この時、本隊。
「ほぅ、囮には食いつかんようじゃの……では手早く1匹片付けるとするかのう」
神立、敵本隊がほぼこちらに向かっていることに感心していた。
「一撃離脱……ですわね」
莉乃は一糸乱れぬスピードと戦法に目を見張っていた。
「何とか出ばなをくじきたいところだな」
セルゲン、 鉄拳「紫微星」の拳ではなくシールド「グランシャリオ」に頼ることにした。
そしてぐんと前に出た!
「付き合ってもらう。かかって来るがいい」
もちろん、なだれ込んで来た敵は先の竜胆と同じく突出したセルゲンに集中攻撃をする。
端から盾をがっちりと構えているのだ。狼たちはどうせ守るだけと勢いよく突っ込んできた。
ところが!
「面で叩く!」
――がきっ!
何とセルゲン、まるでナックルのように構えた盾で相手の攻撃を受け止めるようにクラッシュブロウで殴り倒した!
『オォウン……』
振り抜く垂直構えの盾。大地を踏みしめ伸び切るセルゲンの身体。
そして、盾に押し返され空中で身をひねる狼。細い角はぱきんと砕け散っている。
――どう……。
狼、大地に落ちた。角が折れても戦意は失っていないが、明らかに慎重になっている。
これにより、得意になって攻め立てていた他の狼たちも少し動きが鈍った。
そこに、さらに畳み掛けるような衝撃が戦場を駆け抜けることになる!
「雷鳴と稲妻、古より神と崇め畏れられた自然の力。慟哭とともにその身に刻みなさい!」
後方のカメリアだ。
投げ上げた陰陽符が三つの雷光となり、いまセルゲン、神立、莉乃に襲い掛かろうとしていた狼を撃ち抜いた。跳躍しているところだったので大地に落ちることとなる。
「さすがに流れが変わりましたわね」
莉乃、敵の勢いが無くなったのを感じ攻勢に転じた。
積極的に前に出る。
が、しかし。
――カツン、カラン……。
振りかぶった蛇節槍が一本の槍になったと思ったのに、ばらりと七節昆に――いや、つながった節もあるので三節昆くらいに――戻ってしまっていた。
「……よくわからないわ」
莉乃、攻撃失敗。
もともとどこかからの貰い物。奇妙な武器だと思いつつも扱っていただけだ。しかも実戦は初めて。
この隙に改めて狼が飛びかかってきた。
もう槍の間合いではない。至近距離だ。
「よくわからないけど……」
おっと、ヒドゥンハンドで三つに分かれた一つを固定しくるりと振り向く。
なびくセーラー服のスカート。背中に三節昆となった中間が添えられて曲がり、切っ先は敵にぐっさり。至近距離にちょうどいい長さになったようで。
さらに敵が飛びかかって来る。
「わからないなりに……」
今度は下から縄跳びのように「お入んなさい♪」な感じに振り上げ。
ついでに、カメリアの方に行こうとした敵には……。
「……いいんじゃないかしら?」
振り下ろしつつかちんかちんと本来の槍に。遠心力も相まって、結構な威力で上から叩きつけた。
遠近自在に戦っていた。
こちら、神立。
「確かによう動く……実際の数より多く感じられるのはそのせいじゃの」
実はセルゲンと莉乃のラインからは外れて気まぐれ……もとい、自由気ままに動いていた。
ところが敵の中にも気まぐれなのがいる。ちゃんと付け狙っていたのだ。
力強い四肢で跳躍し、額の一角で突いてくる。
これはかわすが、実は噛みつきのためのフェイントだった。モロに食らってしまう。ほかの誰もがこの戦術に一度は騙されていた。
「なかなかやる……じゃが」
ふらっと足元が怪しくなる神立。敵、これを見逃さない。
が、これは神立のフェイント。攻撃を誘ったのだ。
敵、角で薙いできた!
「所詮は獣よ」
膝を付き、試作鉄甲「エチイベ」の拳でアッパーカット。
やられてもまた来た。今度は正面からだ。
「悟れはしても止まる理性も知恵も無い」
もはや突っ込んでくる勢いがダメージとなるのだ、と諭しつつ軸をずらす。
そのまま螺旋突をフック気味に放つ。もちろん、身をひねりながらなのでナチュラルにコークスクリュー気味となる。敵の左顎にもろに入った。
「カウントは不要じゃの」
動かなくなった狼歪虚を捨て置き、次の得物に走る。
●
「よし!」
一方のセルゲンは会心の声を上げていた。
左から飛びかかる狼を盾で防ぐ。
同時に右に流れつついなし、次の一頭には拳を入れる。背後からの気配に振り向くが、これは間に合わない。当世具足「封鬼」を信じて大型の肩当に当たるように体をひねる。
派手に戦い、敵から集中攻撃を受けていたのだ。
それでもむしろ生き生きしている。
ちら、と莉乃を見る。元気に戦っている。若い。
くるっ、とカメリアの方を見る。じっくりと敵を観察しつつ戦っている。若い。
「……嫁さんと同じ年頃の子が囲まれんのは見たくない」
ぽそ、と本音が漏れた。
もちろん、わざと囲まれたからには醜態を見せるわけにはいかない。
「乗って来た」
ひどく冷静に言うと、盾を捨てた。
次の瞬間、言葉とは裏腹に激しく両手でワイルドラッシュ。にやりと歪む口に牙のような犬歯が覗く。ざわりと襟足。
昂っているようだ。
こちら、柊。
実は苦戦していた。
鞍上の竜胆と薙刀の柊は大胆に戦ううちはいいが、いざ一体集中となるとうまくいかなかった。
理由は、敵が倒し切る戦いではなく時間稼ぎをする戦いをしているため。間合いが広い分、駆け引きに引きずり込まれていたのだ。
「どうれ、逃げ回るでない」
そこに、敵後背から気紛れに神立が登場。
敵、包囲されこの突破のために積極的に戦うことになる。
「こやつら、隙を作ると狙い良かったぞ!」
ついでにアドバイスも送る神立。
「隙……ですねぇ」
柊、からんと薙刀を捨てた。
ここに狼が突っ込んできた!
しかしッ!
「横からファミリアアタックですー」
涼しい言葉とともに、飛びかかった狼の横合いから魔法の力を纏ったペットの猫がにゃにゃん!
これが狼にきれいに入る。
激しくうろたえたところに鉄扇で止め。
「これでいきましょうー」
うまくいった柊、鉄扇で口元を隠し得意顔。この戦法に味をしめることになる。
竜胆の方はもう馬には乗っていない。目立つ必要はなくなった。
「見せ場はこっらだよっ!」
立ち合いから一転、攻撃しまくっている。
もちろん狙われもする。
飛びかかって来る狼がいるが、それは最初に食らって何度も見ているッ!
「せェのぉっ!!」
思い切りよく踏み込み戦斧一閃!
『ォオゥン!』
がっちりカウンターで入りノックアウト。
「さあさあ、お帰りは早いよ。お代は見てからだ!」
口調も滑らか。
ここで離れた敵に気付いた。
視線の先で、カメリア。
「本当にリーダーはいないんですね」
後方にいたが目敏い狼が襲ってきていた。
「その仲間内の信頼に敬意を表しまして……アニマート」
今度は演奏記号で言うところの「元気に、動いて」。敵の突撃を食らうも左に流れいなしながら符綴「花吹雪」をつまむ。
「桜の綺麗な時期でしょう?」
振り向くカメリア。過ぎ去った狼も振り向いたところだ。
「はらりはらりと花が舞い、山の風と共に嵐を呼ぶ……」
ここで、桜幕符。
ぶひょう、と桜吹雪が舞った。
「ようこそ、春の吹雪の異界へ」
これで十分、とばかりに背を向けた。
そして思い出したように付け加えるのだ。
「場所の取り合いにはご注意を」
にっこり。
先ほど、騎乗した竜胆が突っ込んできたのは確認済みだ。
「逃がすか、よっ!」
吹雪に突っ込んだ竜胆の止めの音がする。
●
狼をすべて討伐した後、一行は森に入っていた。
セルゲンのペット、カラスを使ったファミリアズアイなどで捜索し、暴れん坊熊の遺体を発見した。
「やっぱりこうなってたか」
寂しそうに竜胆が言う。
「無事に狼はやっつけましたよー」
「安心してください」
手を合わせる柊とカメリア。
「これでいいだろ。……動物霊として俺についてくりゃ思う存分、暴れさせてやれるんだが」
墓を掘り墓標を立てるセルゲン。
背後では初華が合掌し、莉乃も黙祷している。
最後に神立が一輪、「ほれ」とその辺で摘んだ花を手向けた。
風が、爽やかだった。
「いた? そんじゃ、こっからは歩きでお願いね」
ききっ、と荒野で魔導トラックを止めると南那初華(kz0135)は出撃を促した。
「あのちっこいのか? くぅーっ、キンチョーすっけど、ようやくやってやれるぜ!」
ゴースロン種の馬を駆っていた少女が右手をひさしにして遠くを見るようにしている。ちっこい少女だが騎乗していると遠くまで見える。竜胆(ka6789)である。
「覚醒した力、この戦斧……南那さんだっけ? いいとこ見せてやるよ!」
「ほれほれ、慌てるでない。ちっこいのは距離があるからじゃ。気付かれればおそらく一気に襲われるでのぅ」
助手席から出て来た神立(ka6676)は煙管をくゆらせながら竜胆をなだめる。
「村に結構近いですよね? 来るのが遅れていたら大変なことに……」
続けて荷台からひらりと飛び降りたカメリア(ka6669)が横に立ち面を引き締める。
いや、途中で言うのをやめて首を振った。
「いえ、主のくまさんが戦ってくれたおかげで私たちが間に合ったんですね」
再び面を上げて言い切った。先ほどとは違い晴れやかだ。
「そうですねー」
その横に氷雨 柊(ka6302)が立つ。優雅に鉄扇を口元に当てている。
片手で抱くペットの猫をあやしながら続ける。
「歯向かわない人は決して襲わないいい子だって聞きました。暴れん坊熊さんの弔い合戦。負けるわけにはいかないですねぇ」
「それにしても、南那殿は慎重とお見受けするのぅ」
柊がにっこりと意気を上げたところで、神立が煙管を仕舞いながら背中越しに振り向き、にやり。
「ええっと、長い武器は運転席に入り切らないから後ろの荷台に……ほへ?」
初華、作業中だった。まとめていた武器の荷捌きをしていたようで。
傍で御法 莉乃(ka6796)が「そう、これですわ」とか言いつつ蛇節槍「ネレイデス」を受け取り、セーラー服の袖の上からヒドゥンハンドを装備するなど準備中。
「あ、この距離? うっかり近付きすぎとかドジ踏むわけにはいかないもん。それに、こういう距離感は得意だし」
言われた内容に気付いた初華、にっこりと説明。
「そういうのを買われて同行してくれてるんだな! よろしく頼むぜ!」
「……なるほど、ドジっ娘かのぅ」
言葉をまっすぐ受け取る竜胆に、やや斜に構えた感じに受け取り意地悪そうににまにまする神立。
「慎重に演奏……ううん、お仕事に入るのは悪いことでもないですよ?」
カメリアはにこにこととりなす。
「いきなり敵に突っ込むとこうやって楽しくお話もできませんしねぇ」
柊は着物の袂で口元を隠しくすくす。
ここで「半折れ角」ことセルゲン(ka6612)がのっそりと。
「まあ、以前もこんな感じでうまくいった。……南那殿、また世話になる」
「うんっ。今回も頑張ってね、セルゲンさん!」
初華への信頼を口にするセルゲン。実際、肩越しに言う姿は、「後ろは任せる」。初華の方もすっかり安心した様子で励ましの声。友人に掛ける言葉である。
「お待たせしましたわ。二組に分かれ、確実に敵の数を減らしていく方針でございましたわね……はい、始めましょう」
セーラー服姿の莉乃、身をひねりきょろきょろと裾の乱れなど確認してから改めて蛇節槍を構える。戦闘準備完了だ。
皆、頷き遠くに固まる黒い影に向かっていくのだった。
●
荒野を一騎と五人が走る。
「気付いたな」
走るセルゲンがぼそりと呟いたように、のんびりとたむろしていた狼の群れに動きがあった。
すべての狼が立ち上がり、早速こちらに向かってきたのだ。
さすがに速い。
「悪くない見立てだったようじゃのぅ」
「村に近い分、負けられません」
神立とカメリアもセルゲンに続く。
「じゃ、少し間を空けるぜ?」
竜胆、馬を少し右に振り分派。
「相手は機敏そうですねぇ。しっかり準備しましょー」
覚醒し猫耳猫しっぽ姿となった柊もこちらだ。
「……セルゲンさん、神立さんたちと一緒でございますわね」
莉乃はついて行かなかった。
これで本隊四人、分隊二人と主従が明確になった。意図の見えやすい陣形を取った。
竜胆、少数隊となったがむしろ意気に感じていた。
一人騎馬なのを利用し速度を上げる!
っと、仲間に気付いた。
「大丈夫か?」
「持久力には少し自信があるんですよー」
大地を走る柊、ちゃんとついて来ている。
これを確認し本格的に声を張った!
「サァサァお立ち会いィ! 遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ! これが竜胆さんの初陣だァッ!いっくぜーっ!!」
戦斧「ネメシス」をぶん回し、どんと加速。
「大丈夫でしょうか?」
先行した少数隊を心配するカメリア。
「そう来たか……むしろ動きやすい。こぼれた敵を討つ」
セルゲン、戦闘意欲をむしろ高ぶらせている。
「よいよい。どうとでもなろうて」
神立も楽しそうだ。
「あっという間」
莉乃の言う通り。
まず敵の十匹はやや右に開いた二人に襲い掛かって行った。
圧倒的数的有利を作るつもりか?
「その後背を狙えばよかろうのぅ」
「そういうことだな」
その激突に一瞬だけ遅れるタイミングで入れるよう、神立とセルゲンが狙う!
ここでカメリアが立ち止まった。
「……どうなさいました?」
追い抜きつつ声を掛ける莉乃。
「弾き始めはアレグロモデラート。……多数が相手ですからね、より先手を取れるように」
五線譜であれば「緩やかに速く」を示す演奏記号を口にして、陰陽符「降魔結界」をひらり。禹歩で吉方などを占い感じるのだった。
莉乃、納得して前方二人を追う。
そして竜胆が敵と激突したッ!
「オラオラ、何処見てんだ! コッチだぜ!」
竜胆、豪快に白銀の戦斧を振り回した。
かなり広い範囲を巻き込むように大きく振るった。
正確性は二の次だ。まずは目立って敵を引き付ける。
その分、狼は身を伏せたり大きく跳躍したりして斧の軌道をかわしている。
「くっ!」
そればかりか、勢いそのままに額の角で体ごと付きかかってきた。
すべての敵が忠実にこれを実行していた。かなりの迫力である。
「その分、こっちが楽ですねー」
背後では柊が静かに薙刀「静」を下段から振り上げていた。狼たちは竜胆に突っかかっていた分、回避しきれないようでしっかり当たる。もっとも、体毛は剛毛のようで一撃で倒れることはない。
「狙う相手はこちらにもいること、忘れてしまっては困りますねぇっ」
しっかりと手数をくわえていく。
一方、竜胆。
「くそっ。まだまだぁ!」
味方が楽に戦えている様子を見て改めて気力を振り絞った。実際、まだまだ戦える。
「次はそう簡単にはいかねぇぞ!」
馬首を巡らせる。
この時、敵の動きが変わったことに気付いた。
●
この時、本隊。
「ほぅ、囮には食いつかんようじゃの……では手早く1匹片付けるとするかのう」
神立、敵本隊がほぼこちらに向かっていることに感心していた。
「一撃離脱……ですわね」
莉乃は一糸乱れぬスピードと戦法に目を見張っていた。
「何とか出ばなをくじきたいところだな」
セルゲン、 鉄拳「紫微星」の拳ではなくシールド「グランシャリオ」に頼ることにした。
そしてぐんと前に出た!
「付き合ってもらう。かかって来るがいい」
もちろん、なだれ込んで来た敵は先の竜胆と同じく突出したセルゲンに集中攻撃をする。
端から盾をがっちりと構えているのだ。狼たちはどうせ守るだけと勢いよく突っ込んできた。
ところが!
「面で叩く!」
――がきっ!
何とセルゲン、まるでナックルのように構えた盾で相手の攻撃を受け止めるようにクラッシュブロウで殴り倒した!
『オォウン……』
振り抜く垂直構えの盾。大地を踏みしめ伸び切るセルゲンの身体。
そして、盾に押し返され空中で身をひねる狼。細い角はぱきんと砕け散っている。
――どう……。
狼、大地に落ちた。角が折れても戦意は失っていないが、明らかに慎重になっている。
これにより、得意になって攻め立てていた他の狼たちも少し動きが鈍った。
そこに、さらに畳み掛けるような衝撃が戦場を駆け抜けることになる!
「雷鳴と稲妻、古より神と崇め畏れられた自然の力。慟哭とともにその身に刻みなさい!」
後方のカメリアだ。
投げ上げた陰陽符が三つの雷光となり、いまセルゲン、神立、莉乃に襲い掛かろうとしていた狼を撃ち抜いた。跳躍しているところだったので大地に落ちることとなる。
「さすがに流れが変わりましたわね」
莉乃、敵の勢いが無くなったのを感じ攻勢に転じた。
積極的に前に出る。
が、しかし。
――カツン、カラン……。
振りかぶった蛇節槍が一本の槍になったと思ったのに、ばらりと七節昆に――いや、つながった節もあるので三節昆くらいに――戻ってしまっていた。
「……よくわからないわ」
莉乃、攻撃失敗。
もともとどこかからの貰い物。奇妙な武器だと思いつつも扱っていただけだ。しかも実戦は初めて。
この隙に改めて狼が飛びかかってきた。
もう槍の間合いではない。至近距離だ。
「よくわからないけど……」
おっと、ヒドゥンハンドで三つに分かれた一つを固定しくるりと振り向く。
なびくセーラー服のスカート。背中に三節昆となった中間が添えられて曲がり、切っ先は敵にぐっさり。至近距離にちょうどいい長さになったようで。
さらに敵が飛びかかって来る。
「わからないなりに……」
今度は下から縄跳びのように「お入んなさい♪」な感じに振り上げ。
ついでに、カメリアの方に行こうとした敵には……。
「……いいんじゃないかしら?」
振り下ろしつつかちんかちんと本来の槍に。遠心力も相まって、結構な威力で上から叩きつけた。
遠近自在に戦っていた。
こちら、神立。
「確かによう動く……実際の数より多く感じられるのはそのせいじゃの」
実はセルゲンと莉乃のラインからは外れて気まぐれ……もとい、自由気ままに動いていた。
ところが敵の中にも気まぐれなのがいる。ちゃんと付け狙っていたのだ。
力強い四肢で跳躍し、額の一角で突いてくる。
これはかわすが、実は噛みつきのためのフェイントだった。モロに食らってしまう。ほかの誰もがこの戦術に一度は騙されていた。
「なかなかやる……じゃが」
ふらっと足元が怪しくなる神立。敵、これを見逃さない。
が、これは神立のフェイント。攻撃を誘ったのだ。
敵、角で薙いできた!
「所詮は獣よ」
膝を付き、試作鉄甲「エチイベ」の拳でアッパーカット。
やられてもまた来た。今度は正面からだ。
「悟れはしても止まる理性も知恵も無い」
もはや突っ込んでくる勢いがダメージとなるのだ、と諭しつつ軸をずらす。
そのまま螺旋突をフック気味に放つ。もちろん、身をひねりながらなのでナチュラルにコークスクリュー気味となる。敵の左顎にもろに入った。
「カウントは不要じゃの」
動かなくなった狼歪虚を捨て置き、次の得物に走る。
●
「よし!」
一方のセルゲンは会心の声を上げていた。
左から飛びかかる狼を盾で防ぐ。
同時に右に流れつついなし、次の一頭には拳を入れる。背後からの気配に振り向くが、これは間に合わない。当世具足「封鬼」を信じて大型の肩当に当たるように体をひねる。
派手に戦い、敵から集中攻撃を受けていたのだ。
それでもむしろ生き生きしている。
ちら、と莉乃を見る。元気に戦っている。若い。
くるっ、とカメリアの方を見る。じっくりと敵を観察しつつ戦っている。若い。
「……嫁さんと同じ年頃の子が囲まれんのは見たくない」
ぽそ、と本音が漏れた。
もちろん、わざと囲まれたからには醜態を見せるわけにはいかない。
「乗って来た」
ひどく冷静に言うと、盾を捨てた。
次の瞬間、言葉とは裏腹に激しく両手でワイルドラッシュ。にやりと歪む口に牙のような犬歯が覗く。ざわりと襟足。
昂っているようだ。
こちら、柊。
実は苦戦していた。
鞍上の竜胆と薙刀の柊は大胆に戦ううちはいいが、いざ一体集中となるとうまくいかなかった。
理由は、敵が倒し切る戦いではなく時間稼ぎをする戦いをしているため。間合いが広い分、駆け引きに引きずり込まれていたのだ。
「どうれ、逃げ回るでない」
そこに、敵後背から気紛れに神立が登場。
敵、包囲されこの突破のために積極的に戦うことになる。
「こやつら、隙を作ると狙い良かったぞ!」
ついでにアドバイスも送る神立。
「隙……ですねぇ」
柊、からんと薙刀を捨てた。
ここに狼が突っ込んできた!
しかしッ!
「横からファミリアアタックですー」
涼しい言葉とともに、飛びかかった狼の横合いから魔法の力を纏ったペットの猫がにゃにゃん!
これが狼にきれいに入る。
激しくうろたえたところに鉄扇で止め。
「これでいきましょうー」
うまくいった柊、鉄扇で口元を隠し得意顔。この戦法に味をしめることになる。
竜胆の方はもう馬には乗っていない。目立つ必要はなくなった。
「見せ場はこっらだよっ!」
立ち合いから一転、攻撃しまくっている。
もちろん狙われもする。
飛びかかって来る狼がいるが、それは最初に食らって何度も見ているッ!
「せェのぉっ!!」
思い切りよく踏み込み戦斧一閃!
『ォオゥン!』
がっちりカウンターで入りノックアウト。
「さあさあ、お帰りは早いよ。お代は見てからだ!」
口調も滑らか。
ここで離れた敵に気付いた。
視線の先で、カメリア。
「本当にリーダーはいないんですね」
後方にいたが目敏い狼が襲ってきていた。
「その仲間内の信頼に敬意を表しまして……アニマート」
今度は演奏記号で言うところの「元気に、動いて」。敵の突撃を食らうも左に流れいなしながら符綴「花吹雪」をつまむ。
「桜の綺麗な時期でしょう?」
振り向くカメリア。過ぎ去った狼も振り向いたところだ。
「はらりはらりと花が舞い、山の風と共に嵐を呼ぶ……」
ここで、桜幕符。
ぶひょう、と桜吹雪が舞った。
「ようこそ、春の吹雪の異界へ」
これで十分、とばかりに背を向けた。
そして思い出したように付け加えるのだ。
「場所の取り合いにはご注意を」
にっこり。
先ほど、騎乗した竜胆が突っ込んできたのは確認済みだ。
「逃がすか、よっ!」
吹雪に突っ込んだ竜胆の止めの音がする。
●
狼をすべて討伐した後、一行は森に入っていた。
セルゲンのペット、カラスを使ったファミリアズアイなどで捜索し、暴れん坊熊の遺体を発見した。
「やっぱりこうなってたか」
寂しそうに竜胆が言う。
「無事に狼はやっつけましたよー」
「安心してください」
手を合わせる柊とカメリア。
「これでいいだろ。……動物霊として俺についてくりゃ思う存分、暴れさせてやれるんだが」
墓を掘り墓標を立てるセルゲン。
背後では初華が合掌し、莉乃も黙祷している。
最後に神立が一輪、「ほれ」とその辺で摘んだ花を手向けた。
風が、爽やかだった。
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『暴れん坊』熊弔い合戦(?) セルゲン(ka6612) 鬼|24才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/03/29 18:10:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/26 00:22:25 |