ゲスト
(ka0000)
宝石の原石
マスター:江口梨奈

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/24 09:00
- 完成日
- 2014/11/01 11:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
まさか、宝石の原石を積んだ荷馬車が、野盗に襲われるとは思わなかった。
その馬車は、T鉱山から産出されたガーネットの原石を、加工場まで運ぶものだった。
宝石とはいえ、原石のままだと、ただの石だ。職人の手によって切り出され、研磨され、それでようやく価値が出てくるものなのだ。宝石となったガーネットならば、腕っこきの護衛も何人もつけ、厳重に運搬されるのだが、なにせ原石、重たいだけの石ころ。呑気な御者と荷下ろしの人足が煙草をふかしながら下らないことを喋りながら、ぽっくりぽっくり進んでいるところを襲われて、綺麗サッパリ奪われてしまった。
10人ぐらいの、覆面をした男女混じった集団だ。石の詰まった袋を軽々運んでいたから、若い連中だろう。そやつらも馬車を用意しており、荷を積み替え、あっという間に居なくなった。……そんな事態が、1度や2度ではなく続いたのだ。
運搬時の人数を増やし、警戒を強めて、その騒ぎも収まったと思われた頃だった。
何人かの加工職人たちの所に、出所のはっきりしないガーネットが持ち込まれるようになった。持ち込んだ顧客は、それなりに地位のある金持ち連中でよい客なので、職人達もどこで宝石を手に入れたかなど聞いたりはしない。けれど、しばらく前の事件を知っている者としては、疑わざるをえない。
そこで職人達は預かった怪しい石を持ち寄って、採掘人やら研磨職人やら鑑定人やら宝石商人やらにも声をかけて集まり、石の素性について調べてみた。
「これが、盗まれたT鉱山のガーネットかもしれない、ってことか?」
鑑定人は拡大鏡を嵌めた目でまじまじと観察する。
「たしかに、あの時分に掘った石は、これっぽい色だったな」
採掘人が言う。
「石の質を見たところ、T鉱山のもので間違いないようですね。それも、見事に削り上げている。角度も綺麗で、形も整っていて」
鑑定人は溜息をついた。これだけ完成された宝石なら、それなりの値で売買がなされたことだろう。
「これほどに削り出せる人間が野盗の中にいるってのは、厄介ですね」
「どうですか、これまでギルドにいた方で、例えば身を持ち崩して、盗賊になったような職人がいるとかは?」
「いやあ……」
研磨職人がルーペから目を離し、疲れた目頭を押さえながら言った。
「こりゃあ、ギルドに籍を置いていた人間の仕事じゃない。たいてい、作品には職人のクセが出るもんだ、師弟でそれが似てきたり、な。でも、この石にゃ、それがない。わしらの知らない人間が削ったんじゃないか」
「つまり、職人じゃないのに、これだけの仕事をする人間がいるってことじゃないのか?」
職人達は顔を見合わせた。もしそうなら、なんと勿体ないことであろうか!
「ちょっと、これは欲しい腕だぞ」
「そうだな、盗賊なんぞにくれてやることはない」
これを加工した人物が、何を理由に野盗に身を置いているかは分からない。単に金のためであるのなら、この人物はきちんとした師匠の元で修行を積めば、野盗などとは比べものにならない富を手に入れる可能性があるというのに!
「そやつと、話がしたいな。どうにかして会えないものか」
いつの時代も技の後継には頭を悩ますものだ。せっかく見つけた天賦の才能の持ち主を、みすみす逃したくはない。
「しかし、この石を買った人から辿るのは、たいへんデリケートな話ですね。となると……」
野盗に襲ってもらおう。
原石を積んだ荷馬車が用意され、野盗に立ち向かえるハンター達が集められた。
その馬車は、T鉱山から産出されたガーネットの原石を、加工場まで運ぶものだった。
宝石とはいえ、原石のままだと、ただの石だ。職人の手によって切り出され、研磨され、それでようやく価値が出てくるものなのだ。宝石となったガーネットならば、腕っこきの護衛も何人もつけ、厳重に運搬されるのだが、なにせ原石、重たいだけの石ころ。呑気な御者と荷下ろしの人足が煙草をふかしながら下らないことを喋りながら、ぽっくりぽっくり進んでいるところを襲われて、綺麗サッパリ奪われてしまった。
10人ぐらいの、覆面をした男女混じった集団だ。石の詰まった袋を軽々運んでいたから、若い連中だろう。そやつらも馬車を用意しており、荷を積み替え、あっという間に居なくなった。……そんな事態が、1度や2度ではなく続いたのだ。
運搬時の人数を増やし、警戒を強めて、その騒ぎも収まったと思われた頃だった。
何人かの加工職人たちの所に、出所のはっきりしないガーネットが持ち込まれるようになった。持ち込んだ顧客は、それなりに地位のある金持ち連中でよい客なので、職人達もどこで宝石を手に入れたかなど聞いたりはしない。けれど、しばらく前の事件を知っている者としては、疑わざるをえない。
そこで職人達は預かった怪しい石を持ち寄って、採掘人やら研磨職人やら鑑定人やら宝石商人やらにも声をかけて集まり、石の素性について調べてみた。
「これが、盗まれたT鉱山のガーネットかもしれない、ってことか?」
鑑定人は拡大鏡を嵌めた目でまじまじと観察する。
「たしかに、あの時分に掘った石は、これっぽい色だったな」
採掘人が言う。
「石の質を見たところ、T鉱山のもので間違いないようですね。それも、見事に削り上げている。角度も綺麗で、形も整っていて」
鑑定人は溜息をついた。これだけ完成された宝石なら、それなりの値で売買がなされたことだろう。
「これほどに削り出せる人間が野盗の中にいるってのは、厄介ですね」
「どうですか、これまでギルドにいた方で、例えば身を持ち崩して、盗賊になったような職人がいるとかは?」
「いやあ……」
研磨職人がルーペから目を離し、疲れた目頭を押さえながら言った。
「こりゃあ、ギルドに籍を置いていた人間の仕事じゃない。たいてい、作品には職人のクセが出るもんだ、師弟でそれが似てきたり、な。でも、この石にゃ、それがない。わしらの知らない人間が削ったんじゃないか」
「つまり、職人じゃないのに、これだけの仕事をする人間がいるってことじゃないのか?」
職人達は顔を見合わせた。もしそうなら、なんと勿体ないことであろうか!
「ちょっと、これは欲しい腕だぞ」
「そうだな、盗賊なんぞにくれてやることはない」
これを加工した人物が、何を理由に野盗に身を置いているかは分からない。単に金のためであるのなら、この人物はきちんとした師匠の元で修行を積めば、野盗などとは比べものにならない富を手に入れる可能性があるというのに!
「そやつと、話がしたいな。どうにかして会えないものか」
いつの時代も技の後継には頭を悩ますものだ。せっかく見つけた天賦の才能の持ち主を、みすみす逃したくはない。
「しかし、この石を買った人から辿るのは、たいへんデリケートな話ですね。となると……」
野盗に襲ってもらおう。
原石を積んだ荷馬車が用意され、野盗に立ち向かえるハンター達が集められた。
リプレイ本文
●条件
「在野の人材引き抜きって、物語に出てきそうなお仕事よね」
と、シェール・L・アヴァロン(ka1386)は言った。雑魔だヴォイドだと血生臭い仕事に比べて、こちらはいくらか夢があるではないか。
「なにか、事情があるのではないかなぁ」
オウル(ka2420)は腕を組んで頭を捻る。依頼主たちが口を揃えて欲しがるほどの能力を持った者が、野盗などに身をやつしているとは。自分たちの思い至らない理由があるのか、それとも単に、自分の価値を知らないのか。
クレール(ka0586)はより現実的に、確認したいことがあった。
「引き抜きの条件について、先に聞いてもいいかな?」
「うむ、それはわしも知りたい」
イーリス・クルクベウ(ka0481)も続けた。宝石加工の腕を持つ彼(もしくは彼女)を引き抜くために、どこまでの条件ならば呑めるのか。
「その者が仲間との仁義を通す者だったら? 他の者の処遇も考えなくては、良い返事は返って来ぬじゃろうの」
「『他の者』? はン、盗賊なんか、全員ふん縛って、二度を悪さが出来んよう、腕を潰せばいいんだ」
壮年の職人が叫いた。
「おおなるほど、懲らしめればよいのでござるね!」
厳たるサムライのシオン・アガホ(ka0117)は、胸を叩きながら立ち上がる。「よし、やったれ」「恨み晴らしてやれ」などと、周りから喝采があがる。
「まあまあ」
騒がしくなった彼女らを制したのは、集まっている中で一番年嵩の男だった。
「確かにな。一人だけ足を洗わそうったって、そうはいかんだろうな」
ピマと名乗った年嵩の男は、それなりに発言力があるようだった、ピマの制止に先の職人は大人しく言うことを聞いた。
「連中が働く術を知らずに盗賊をしているというなら、世話してやらんこともない。じゃが、荒事が好きだというなら、そやつらは只の悪人だ、さっさと役人に引き渡すだけのことよ」
「なにか、仕事ってあるのん?」
ミィナ・アレグトーリア(ka0317)が心配そうに尋ねた。普通なら、野盗あがりには何も出来やしないと思うだろう。けれど、ミィナは、たとえどんな場所にいようとも、そこで与えられた役割をこなしていたのなら、それを生かした仕事につけるはずだと考える。
「本気で働く気があるなら、な。石関係でなくとも、多少のつてはある」
それを聞いて、ミィナはとりあえず胸をなで下ろした。
「それで相談なんだが、その、件の人物が削った石はお借り出来ないか?」
アルメイダ(ka2440)が申し出る。
「必要なら仕方ないが、くれぐれも無くさないでくれよ」
念を押されながら渡された石をアルメイダは大事そうに受け取った。
「僕にも見せてもらっていいかい?」
興味深そうに、エリオット・ウェスト(ka3219)が首を伸ばしてきた。
「ふうん……」
『目利き』に自信のあるエリオットは、このガーネットに何か特徴は無いかと探る。
「見たところ、そんな特別なカットとは思えないけど、リアルブルーとこっちの世界とで、何か差違があるのかな?」
「お前さんが期待するほどは無いよ。木や粘土ならともかく、硬いものの削り方なぞ、そうそう手法があるでなし、自然、どこでも似てくるだろうな」
エリオットは、もしかしたら盗賊は、リアルブルーの人間かもしれないと推測していたが、どうやら断定はできないようだ。
「研磨職人と普通の人との、差違はあるのかしら?」
シェールが別の質問をしてみた。ピマは、「そうだなあ……」と自分の手を見ながら考えた。
「同じ道具を長い時間使うから、タコができるかもな。じゃが、それは料理人も樵夫も同じだろう?」
ピマと、他の職人たちは、似た場所にタコがあった。同席していた商人や採石人は違う場所にタコがあった。これは参考になるかもしれない。
「差違があるかどうか、会えたら分かることだ。期待していなよ、全員ふん縛ってくるからね」
どうかこの囮の荷馬車に、野盗たちがひっかかりますようにと願いながら、アルメイダは大量のロープをかかえ、乗り込んだ。それに続き、他の仲間たちも石の詰まった袋の間に銘々の場所を見つけては座り、いざご対面と意気込んだ。
●野盗
囮の馬車を御しているのは、例の野盗に襲われた人物だった。「この辺りでした」などと、状況を説明してくれる。鉱山から加工場までの道のりは、山は深いけれど、道は整っており、静かで、馬の蹄の音がリズムよく聞こえてくるだけだ。話を聞かなければ野盗が出るなど考えられず、彼らが呑気にここを通っていたのも頷ける。
しかし今は呑気どころではなく、荷台の中には、いつでも覚醒して力を使えるよう、ハンター達が気を張っている。そして、野盗はどこから現れるのかと、今か今かと待っているのだ。
道がゆるやかにカーブし、先が見づらいな、と思ったと同時だった。荷馬車が急に動かなくなり、がたがたと揺れた。
「あっ!!」
車輪の輻(や)に太い棒のようなものが突き立てられ、動きを止められたのだ。急な制止に馬が暴れそうなものだが、荷台の重さに、それが制されていた。
わっ、と、10人ほどの覆面連中に、道を塞がれた。
「待っていたでござるよ!」
漆黒の髪を柔らかく翻させたシオンと、白い翼を背に顕現させたミィナが、それぞれのワンドに全神経を集中させる。その間にシェールは、彼女らに近い範囲にいる仲間に『レジスト』を纏わせた。
「眠れ!」
『スリープクラウド』が発動された。馬車の周りに集まっていた盗賊は、面白いようにばたばたと倒れていく。
「え、なんだ、どうした?」
後方にいた2、3人は、残念ながら術の範囲の外にいたか効果無く、けれど、突然に仲間が倒れたことに狼狽えていた。
「ちくしょうッ」
腰に差していた剣を抜いた。なるほど、仲間を見捨てて逃げないだけ天晴れか。けれどもその虚勢も、勢力の逆転した場面では通じず、イーリスとクレールによる『エレクトリックショック』でたやすく動けなくされてしまった。
「は~、やっぱり実戦って怖いな……」
「そんな怖がるような場面じゃないだろう、誰も怪我してないようだし」
弱気な科学者を思いやるアルメイダの発言に、地面に転がっている覆面男が異議をとなえた。
「こ、こっちは痛ェ、ん、だよ……」
電撃による痺れで、舌が上手く回らないようだ。
アルメイダはその男の眼前をかすらせるように、右手に生み出させた光の剣を地面に突き立てた。
「降伏しろ。こんなところでいきなり死にたくはないだろう?」
男は硬直し、そろそろ痺れもとれた頃合いだろうに、動く気配はなかった。
もっとも、動こうにも、すでに全員の体はロープに絡め取られてはいるのだけれど。
「おお、これがスマキというものでござるか? ならが拙者も、もう一手間お手伝いするでござる」
盗賊どもは後ろ手に縛られる、それに加えてシオンは、舌を噛み切られぬように猿ぐつわをはめていく。どこか嬉しそうなのは、彼女の信じるサムライ文化を実践出来ているからだろうか。若干の情報の交錯があるようだけれど。
緊縛される振動で目を覚ましつつあるが、まだ朦朧としているようだ。まだ大人しいうちにハンター達は、盗賊たちの手元を確認していった。
宝石をじっくり、丁寧に削り出す技能を持った者の手に残る特徴がありはしないかと。
(ねえ、これ……)
クレールが気が付いた、依頼主たちと似たような場所にタコがある手を。
覆面を剥いでみると、自分よりもずっと若い……いや、幼い。13、4歳ぐらいの少年だった。
「ほれ、しゃんとせい」
眠っていた盗賊たちを揺り起こすオウル。ぞんざいに扱っているようだが、実は一人一人に触れて怪我がないか確認している。これから大事な話をするというのに、血が流れたり骨が折れてたりしてはそれどころではない。
全員の覆面を剥がすと、皆、若い。一番年上の者でも、二十歳になってない風の男だった。年齢からして彼が頭首かもしれない。男は観念したように俯いていたが、中にはこちらを睨み付ける者もあった。件の少年もその一人だ。
「さて、あんた達に聞きたいことがある」
アルメイダは預かった大事な石を取り出した。
「このガーネットを削ったのは誰だ? ギルドの職人達が、えらく褒めてたぞ」
そう言うと、少年の表情が緩んだ。他の者の顔は変わらない。どうやら彼で間違いないようだ。
「どうやら、きみみたいだね」
「ふうん」と品定めするように、エリオットは少年を無遠慮に眺め、猿ぐつわを外した。
「この世界の人間? それとも、リアルブルーから?」
そっぽを向いて答えようとしないが、構わず続ける。
「師匠もいない、習作品もない、それでどうやって、これだけの作品が作れたの?」
「知るか」
「こちらの言ってることは分かるようじゃな、なら聞いておれ。お主に朗報じゃ」
イーリスは反応に構わず、そのまま話を続けた。
「依頼者から、お主の罪は問わず、正式な職人として勉強させたいとの打診があっての。お主の腕をそれは高く評価しておったぞ。このまま賊を続けていくよりも、真っ当で稼ぎも良いと思うんじゃが……どうじゃ?」
「ハッ、そんな美味い話があるかよ」
聞く耳を持たない少年に、クレールは悲しそうに言った。
「私は、あなたの才能が羨ましいな……」
家業の鍛冶屋を継ぐために技術を磨いている最中のクレール。一時はスランプにも陥り、己の腕を疑ったこともあった。目の前の少年は、本職の人間から乞われるほどの技術を既に持っているという、しかもそれを磨く機会を今まさに与えられようとしているのだ。全く嫉妬しないといえば嘘になってしまう。
「どうせアレだろ。オレがこっち側にいるとアンタらの商売があがったりだから、取り込もうってんだろ? 残念だったな、オレの仲間はアンタらじゃなくて、こいつらなんだよ」
『仲間』と呼ばれて、残る連中は目を細めた。少年の発言を喜んでいるようだった。だが、頭首らしい男は険しい顔をしていた。
「その仲間と、屋根の下でご飯食べて、ちゃんと仕事して、うちらみたいなのに襲われないような生活、したくないのん?」
ミィナの言葉に、皆が振り向いた。
「いくつか、仕事のつてはあるみたいなの。もちろん、本気で働くつもりがあるなら、って条件つきだけど。けど、働きたくない、盗賊を続けたいって言うなら、速攻でお役人さんに引き渡すだけのん」
「何だよそれ、脅しじゃねーか!」
頑なに牙を剥き出す少年。
と、年長の男が足を鳴らし、ハンター達を呼んだ。顎を突き出し、猿ぐつわを外すことを求められたので、シオンはそうしてやった。喋ることが自由になった男は、逆に質問してきた。
「まず。あんたらは何者なんだ?」
「ハンターズソサエティに所属するハンターでござる。前に貴殿らが宝石の原石を奪った、その被害者達から依頼を受けたでござる」
その肩書きに疑い様はないだろう、彼らの術によって綺麗に眠らされてしまったのは、他ならぬ自分たちなのだ。
「おい、ロイ」
『ロイ』と言うのが、少年の名前らしい。
「ロイ、おまえ、この人らに付いていって、職人になれ」
「兄貴? こいつらの言うこと、信じるのか?」
周りの仲間も驚いた様子だ。
「今の状況を見てみろ、俺たち全員、捕まってんだぞ? この人らが俺らを放してくれる、そんな可能性がどのくらいある?」
ロイは黙った。後ろ手に縛られて、立ち上がるのも難儀する。武器は全部取り上げられて、この状態では反撃することも逃げることもできやしない。
「こうなったら後は、腕を斬られても首を斬られても文句は言えねえ。そしたらロイ、おまえのその器用な手もどこにも売り込めない。今なら高値で買ってくれるってんだ、ありがたい話だよ」
頭首の正論は応えたようだ。アルメイダに促されてハンター達の乗ってきた馬車に乗せられるときも、抵抗することはなかった。
●帰路
盗賊たちの持っている馬車は不釣り合いに立派なものだった。これも過去に荷と馬ごと奪ってきたものを便利に活用しているだという。
賓客扱いのロイはハンター達の馬車に乗せられ、残りの連中は縛られたまま、こちらの馬車に放り込まれ、当然、ハンターの見張りがついた。
全員、猿ぐつわは外されてはいるが、ただ黙って座っていた。
オウルは、頭首の隣に座っていた。
「おぬしは、話が通じるようじゃな」
声をかけた。拒絶はされなかったが、歓迎もしていない、無愛想なままだ。
「おぬしらは、なんでこんな事しとる? 理由があるなら話してみろ」
「理由なんてないさ。親がいなかったり、いてもロクデナシで、まともに学校も行けず、職にも就けずで、この有様だ」
悪童になる連中の、特に珍しくもないパターンだ。おそらく彼らのようなものはどこにでもいるだろう。
「あのロイという少年は、どこで技術を覚えたのじゃ?」
「さあねえ、元々器用なヤツで。もしかしたら、親がそんなのに関わった仕事をしてたかもしれない。まあ、互いの事は聞かないってのが、俺らの暗黙のルールだったんでね」
話は弾まず、重苦しい沈黙を乗せたまま、馬車はがたごとと進む。
「あ、あの……」
耐えかねてシェールが口を開く。
「宝石職人のみなさん、とてもいい人達でした。ピマさんっていう偉い人がいるだけど、とても優しかったのよ」
静かな荷台の中を、シェールの鈴のような声が通る。穏やかな外見の通りに柔らかに歌うように、皆のこれからについて話していく。
ピマは言った、働く術を知らないのなら教えると。野盗たちは言っている、働こうにも職に就けなかったと。
ならば、見えている結末はひとつではないか。
「きっと、いい仕事が見つかるわ」
馬の蹄の音は、リズムよく聞こえていた。
「在野の人材引き抜きって、物語に出てきそうなお仕事よね」
と、シェール・L・アヴァロン(ka1386)は言った。雑魔だヴォイドだと血生臭い仕事に比べて、こちらはいくらか夢があるではないか。
「なにか、事情があるのではないかなぁ」
オウル(ka2420)は腕を組んで頭を捻る。依頼主たちが口を揃えて欲しがるほどの能力を持った者が、野盗などに身をやつしているとは。自分たちの思い至らない理由があるのか、それとも単に、自分の価値を知らないのか。
クレール(ka0586)はより現実的に、確認したいことがあった。
「引き抜きの条件について、先に聞いてもいいかな?」
「うむ、それはわしも知りたい」
イーリス・クルクベウ(ka0481)も続けた。宝石加工の腕を持つ彼(もしくは彼女)を引き抜くために、どこまでの条件ならば呑めるのか。
「その者が仲間との仁義を通す者だったら? 他の者の処遇も考えなくては、良い返事は返って来ぬじゃろうの」
「『他の者』? はン、盗賊なんか、全員ふん縛って、二度を悪さが出来んよう、腕を潰せばいいんだ」
壮年の職人が叫いた。
「おおなるほど、懲らしめればよいのでござるね!」
厳たるサムライのシオン・アガホ(ka0117)は、胸を叩きながら立ち上がる。「よし、やったれ」「恨み晴らしてやれ」などと、周りから喝采があがる。
「まあまあ」
騒がしくなった彼女らを制したのは、集まっている中で一番年嵩の男だった。
「確かにな。一人だけ足を洗わそうったって、そうはいかんだろうな」
ピマと名乗った年嵩の男は、それなりに発言力があるようだった、ピマの制止に先の職人は大人しく言うことを聞いた。
「連中が働く術を知らずに盗賊をしているというなら、世話してやらんこともない。じゃが、荒事が好きだというなら、そやつらは只の悪人だ、さっさと役人に引き渡すだけのことよ」
「なにか、仕事ってあるのん?」
ミィナ・アレグトーリア(ka0317)が心配そうに尋ねた。普通なら、野盗あがりには何も出来やしないと思うだろう。けれど、ミィナは、たとえどんな場所にいようとも、そこで与えられた役割をこなしていたのなら、それを生かした仕事につけるはずだと考える。
「本気で働く気があるなら、な。石関係でなくとも、多少のつてはある」
それを聞いて、ミィナはとりあえず胸をなで下ろした。
「それで相談なんだが、その、件の人物が削った石はお借り出来ないか?」
アルメイダ(ka2440)が申し出る。
「必要なら仕方ないが、くれぐれも無くさないでくれよ」
念を押されながら渡された石をアルメイダは大事そうに受け取った。
「僕にも見せてもらっていいかい?」
興味深そうに、エリオット・ウェスト(ka3219)が首を伸ばしてきた。
「ふうん……」
『目利き』に自信のあるエリオットは、このガーネットに何か特徴は無いかと探る。
「見たところ、そんな特別なカットとは思えないけど、リアルブルーとこっちの世界とで、何か差違があるのかな?」
「お前さんが期待するほどは無いよ。木や粘土ならともかく、硬いものの削り方なぞ、そうそう手法があるでなし、自然、どこでも似てくるだろうな」
エリオットは、もしかしたら盗賊は、リアルブルーの人間かもしれないと推測していたが、どうやら断定はできないようだ。
「研磨職人と普通の人との、差違はあるのかしら?」
シェールが別の質問をしてみた。ピマは、「そうだなあ……」と自分の手を見ながら考えた。
「同じ道具を長い時間使うから、タコができるかもな。じゃが、それは料理人も樵夫も同じだろう?」
ピマと、他の職人たちは、似た場所にタコがあった。同席していた商人や採石人は違う場所にタコがあった。これは参考になるかもしれない。
「差違があるかどうか、会えたら分かることだ。期待していなよ、全員ふん縛ってくるからね」
どうかこの囮の荷馬車に、野盗たちがひっかかりますようにと願いながら、アルメイダは大量のロープをかかえ、乗り込んだ。それに続き、他の仲間たちも石の詰まった袋の間に銘々の場所を見つけては座り、いざご対面と意気込んだ。
●野盗
囮の馬車を御しているのは、例の野盗に襲われた人物だった。「この辺りでした」などと、状況を説明してくれる。鉱山から加工場までの道のりは、山は深いけれど、道は整っており、静かで、馬の蹄の音がリズムよく聞こえてくるだけだ。話を聞かなければ野盗が出るなど考えられず、彼らが呑気にここを通っていたのも頷ける。
しかし今は呑気どころではなく、荷台の中には、いつでも覚醒して力を使えるよう、ハンター達が気を張っている。そして、野盗はどこから現れるのかと、今か今かと待っているのだ。
道がゆるやかにカーブし、先が見づらいな、と思ったと同時だった。荷馬車が急に動かなくなり、がたがたと揺れた。
「あっ!!」
車輪の輻(や)に太い棒のようなものが突き立てられ、動きを止められたのだ。急な制止に馬が暴れそうなものだが、荷台の重さに、それが制されていた。
わっ、と、10人ほどの覆面連中に、道を塞がれた。
「待っていたでござるよ!」
漆黒の髪を柔らかく翻させたシオンと、白い翼を背に顕現させたミィナが、それぞれのワンドに全神経を集中させる。その間にシェールは、彼女らに近い範囲にいる仲間に『レジスト』を纏わせた。
「眠れ!」
『スリープクラウド』が発動された。馬車の周りに集まっていた盗賊は、面白いようにばたばたと倒れていく。
「え、なんだ、どうした?」
後方にいた2、3人は、残念ながら術の範囲の外にいたか効果無く、けれど、突然に仲間が倒れたことに狼狽えていた。
「ちくしょうッ」
腰に差していた剣を抜いた。なるほど、仲間を見捨てて逃げないだけ天晴れか。けれどもその虚勢も、勢力の逆転した場面では通じず、イーリスとクレールによる『エレクトリックショック』でたやすく動けなくされてしまった。
「は~、やっぱり実戦って怖いな……」
「そんな怖がるような場面じゃないだろう、誰も怪我してないようだし」
弱気な科学者を思いやるアルメイダの発言に、地面に転がっている覆面男が異議をとなえた。
「こ、こっちは痛ェ、ん、だよ……」
電撃による痺れで、舌が上手く回らないようだ。
アルメイダはその男の眼前をかすらせるように、右手に生み出させた光の剣を地面に突き立てた。
「降伏しろ。こんなところでいきなり死にたくはないだろう?」
男は硬直し、そろそろ痺れもとれた頃合いだろうに、動く気配はなかった。
もっとも、動こうにも、すでに全員の体はロープに絡め取られてはいるのだけれど。
「おお、これがスマキというものでござるか? ならが拙者も、もう一手間お手伝いするでござる」
盗賊どもは後ろ手に縛られる、それに加えてシオンは、舌を噛み切られぬように猿ぐつわをはめていく。どこか嬉しそうなのは、彼女の信じるサムライ文化を実践出来ているからだろうか。若干の情報の交錯があるようだけれど。
緊縛される振動で目を覚ましつつあるが、まだ朦朧としているようだ。まだ大人しいうちにハンター達は、盗賊たちの手元を確認していった。
宝石をじっくり、丁寧に削り出す技能を持った者の手に残る特徴がありはしないかと。
(ねえ、これ……)
クレールが気が付いた、依頼主たちと似たような場所にタコがある手を。
覆面を剥いでみると、自分よりもずっと若い……いや、幼い。13、4歳ぐらいの少年だった。
「ほれ、しゃんとせい」
眠っていた盗賊たちを揺り起こすオウル。ぞんざいに扱っているようだが、実は一人一人に触れて怪我がないか確認している。これから大事な話をするというのに、血が流れたり骨が折れてたりしてはそれどころではない。
全員の覆面を剥がすと、皆、若い。一番年上の者でも、二十歳になってない風の男だった。年齢からして彼が頭首かもしれない。男は観念したように俯いていたが、中にはこちらを睨み付ける者もあった。件の少年もその一人だ。
「さて、あんた達に聞きたいことがある」
アルメイダは預かった大事な石を取り出した。
「このガーネットを削ったのは誰だ? ギルドの職人達が、えらく褒めてたぞ」
そう言うと、少年の表情が緩んだ。他の者の顔は変わらない。どうやら彼で間違いないようだ。
「どうやら、きみみたいだね」
「ふうん」と品定めするように、エリオットは少年を無遠慮に眺め、猿ぐつわを外した。
「この世界の人間? それとも、リアルブルーから?」
そっぽを向いて答えようとしないが、構わず続ける。
「師匠もいない、習作品もない、それでどうやって、これだけの作品が作れたの?」
「知るか」
「こちらの言ってることは分かるようじゃな、なら聞いておれ。お主に朗報じゃ」
イーリスは反応に構わず、そのまま話を続けた。
「依頼者から、お主の罪は問わず、正式な職人として勉強させたいとの打診があっての。お主の腕をそれは高く評価しておったぞ。このまま賊を続けていくよりも、真っ当で稼ぎも良いと思うんじゃが……どうじゃ?」
「ハッ、そんな美味い話があるかよ」
聞く耳を持たない少年に、クレールは悲しそうに言った。
「私は、あなたの才能が羨ましいな……」
家業の鍛冶屋を継ぐために技術を磨いている最中のクレール。一時はスランプにも陥り、己の腕を疑ったこともあった。目の前の少年は、本職の人間から乞われるほどの技術を既に持っているという、しかもそれを磨く機会を今まさに与えられようとしているのだ。全く嫉妬しないといえば嘘になってしまう。
「どうせアレだろ。オレがこっち側にいるとアンタらの商売があがったりだから、取り込もうってんだろ? 残念だったな、オレの仲間はアンタらじゃなくて、こいつらなんだよ」
『仲間』と呼ばれて、残る連中は目を細めた。少年の発言を喜んでいるようだった。だが、頭首らしい男は険しい顔をしていた。
「その仲間と、屋根の下でご飯食べて、ちゃんと仕事して、うちらみたいなのに襲われないような生活、したくないのん?」
ミィナの言葉に、皆が振り向いた。
「いくつか、仕事のつてはあるみたいなの。もちろん、本気で働くつもりがあるなら、って条件つきだけど。けど、働きたくない、盗賊を続けたいって言うなら、速攻でお役人さんに引き渡すだけのん」
「何だよそれ、脅しじゃねーか!」
頑なに牙を剥き出す少年。
と、年長の男が足を鳴らし、ハンター達を呼んだ。顎を突き出し、猿ぐつわを外すことを求められたので、シオンはそうしてやった。喋ることが自由になった男は、逆に質問してきた。
「まず。あんたらは何者なんだ?」
「ハンターズソサエティに所属するハンターでござる。前に貴殿らが宝石の原石を奪った、その被害者達から依頼を受けたでござる」
その肩書きに疑い様はないだろう、彼らの術によって綺麗に眠らされてしまったのは、他ならぬ自分たちなのだ。
「おい、ロイ」
『ロイ』と言うのが、少年の名前らしい。
「ロイ、おまえ、この人らに付いていって、職人になれ」
「兄貴? こいつらの言うこと、信じるのか?」
周りの仲間も驚いた様子だ。
「今の状況を見てみろ、俺たち全員、捕まってんだぞ? この人らが俺らを放してくれる、そんな可能性がどのくらいある?」
ロイは黙った。後ろ手に縛られて、立ち上がるのも難儀する。武器は全部取り上げられて、この状態では反撃することも逃げることもできやしない。
「こうなったら後は、腕を斬られても首を斬られても文句は言えねえ。そしたらロイ、おまえのその器用な手もどこにも売り込めない。今なら高値で買ってくれるってんだ、ありがたい話だよ」
頭首の正論は応えたようだ。アルメイダに促されてハンター達の乗ってきた馬車に乗せられるときも、抵抗することはなかった。
●帰路
盗賊たちの持っている馬車は不釣り合いに立派なものだった。これも過去に荷と馬ごと奪ってきたものを便利に活用しているだという。
賓客扱いのロイはハンター達の馬車に乗せられ、残りの連中は縛られたまま、こちらの馬車に放り込まれ、当然、ハンターの見張りがついた。
全員、猿ぐつわは外されてはいるが、ただ黙って座っていた。
オウルは、頭首の隣に座っていた。
「おぬしは、話が通じるようじゃな」
声をかけた。拒絶はされなかったが、歓迎もしていない、無愛想なままだ。
「おぬしらは、なんでこんな事しとる? 理由があるなら話してみろ」
「理由なんてないさ。親がいなかったり、いてもロクデナシで、まともに学校も行けず、職にも就けずで、この有様だ」
悪童になる連中の、特に珍しくもないパターンだ。おそらく彼らのようなものはどこにでもいるだろう。
「あのロイという少年は、どこで技術を覚えたのじゃ?」
「さあねえ、元々器用なヤツで。もしかしたら、親がそんなのに関わった仕事をしてたかもしれない。まあ、互いの事は聞かないってのが、俺らの暗黙のルールだったんでね」
話は弾まず、重苦しい沈黙を乗せたまま、馬車はがたごとと進む。
「あ、あの……」
耐えかねてシェールが口を開く。
「宝石職人のみなさん、とてもいい人達でした。ピマさんっていう偉い人がいるだけど、とても優しかったのよ」
静かな荷台の中を、シェールの鈴のような声が通る。穏やかな外見の通りに柔らかに歌うように、皆のこれからについて話していく。
ピマは言った、働く術を知らないのなら教えると。野盗たちは言っている、働こうにも職に就けなかったと。
ならば、見えている結末はひとつではないか。
「きっと、いい仕事が見つかるわ」
馬の蹄の音は、リズムよく聞こえていた。
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宝石職人のスカウト(相談卓) イーリス・エルフハイム(ka0481) エルフ|24才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/10/23 22:11:51 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/21 11:07:02 |