• 陶曲

【陶曲】闇夜のスナイパー

マスター:奈華里

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/03/26 12:00
完成日
2017/04/07 02:40

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 カタ カタタタタタッ
 ここはフマーレの武器工房だった。
 職人達が仕事を終えて、街が静まり返っているそんな時間に奇妙な音が倉庫に響く。
 しかし、それを知る者はいなかった。何故なら皆疲れ果てて眠っていたし、時間も深夜を過ぎている。誰もが明日への活力を蓄える為のこの時間に活動しているとすれば、夜行性の動物位だろう。餌もないのに、おこぼれを探して屋根裏からやってくるのは小さな鼠…それを狙って野良猫が路地裏で目を光らせる。空では蝙蝠やらフクロウが我が物顔で夜空を支配する。
 だが、この夜だけは違った。
 音を立てたそれがふわりと浮き上がり、ゆっくりと獲物を探し浮遊する。
 それはとても不気味な光景であったが、翌朝更なる恐怖を伴う事等誰が予想できようか?

「朝だよー、新聞だよー!」
 職人街の朝一番を告げるのは新聞配達の少年だった。
 鞄にぎっしりと新聞を詰めて、朝日が昇る少し前から職人街を駆けまわる。
 が、彼が小さな橋に差し掛かった時その元気な声が悲鳴へと変わる。
「え……わっ、わぁああああ!!」
 始めは酔っ払いがうっかりその場で眠ってしまっているのかと思った。
 しかし、近付くにつれて見えてきたのはその身体のど真ん中に刺さる一本の矢――心臓目掛けて放たれたらしいその矢は見事に胸を射抜かれ、死んだ男は即死だったに違いない。僅かに口元から血を流し、見開かれた瞳は驚きの色を残している。
「何っ、どうし…ってこりゃあひどい」
 悲鳴を聞きつけてやって来た大人がその遺体を見て言葉する。
 死んだ男はどうやらこの辺の者ではないようだった。夜遅くにでもこちらにやって来たのかもしれない。だが、そんな遅くに来るにしては護身用の一つも所持していなくて、些か不用心だった事は否めない。
「しっかし、どういうことだ…こいつ、何かやましい事でもしてたのか?」
 矢で一思いにやられた男への疑念――普通こんな町中で夜盗に襲撃されるとは考えにくいし、殺され方としても些か手際が良過ぎる。暗殺者級のその腕を持つ誰かにやられたのだとすれば、それ即ち彼が何らかの恨みを買っていたのではという事になる。
 だが、この事件はこれだけでは終わらなかった。
 次の夜も、また次の夜も……場所はさまざまであるが、死体が挙がるようになったのだ。
「嘘だろ…誰がこんな事…」
「怖いわねぇ。絶対夜は外に出ちゃ駄目よっ」
 街中でそんな言葉が交わされて、警戒の毎日。夜の巡回を始めようという話になって、腕に自信のある職人ら数名で動いてみるもののその時は襲撃者は現れず。けれど、朝になると遺体が上がるから恐怖と不安ばかりが増幅されていく。
「一体何処に潜んでやがる…」
「余所もんなら顔見りゃ判る筈だがなぁ」
 普通の町であればそんな事は不可能かもしれないが、ここは職人街だ。
 しかも工房が密集している地域だからご近所さんの顔は割れている。とすると考えられるのは最悪のケース。
(身内に犯人がいるのか…? そうだ。あの矢を調べれば何か判るかも)
 一筋の希望とばかりに男はそれを調べて、行きついた先は。
「すまんが、上からのお達しだ。ギア、当分工房に来ないでくれないか」
 彼の名はギア=ルキアス。武器職人のホープであり、たまたま現在新たなクロスボウの開発を行っていた人物だ。
「そんな…僕はあの事件とは関係ないですよ。だって僕は昨日まで出張で隣町に…」
「いや、しかしだな。困った事にお前の開発途中の弓と矢が」
「ないんですか?」
 恐る恐る尋ねると、すまなそうに視線を逸らす工房長の姿がある。
「そんな、まさか…盗まれた?」
「すまん。施錠はしっかりしていた筈なんだが、いつの間にかなくなっていてな…気付くのが遅かった」
 工房長が深々と頭を下げる。だが、ギアは些か納得がいかない。
 確かに九割方出来ていたとはいえ、そんな未完のものを盗むだろうか。
「本当にすまない。犯人はおまえではないはずだ。だが、状況が悪過ぎるんだ」
 開発中の弓がなくなっている以上、ギアが持ち出して試し打ちでもしていたと言われても仕方がない。
「今、組合の方もハンターに掛け合う準備をしている。だから不本意だろうが少しだけ」
「……判りました。僕は無実ですし、すぐ捕まりますよ。だからそんな謝らないで下さい」
 もやもやした気持ちを胸に抱えながらもギアは出張後の報告を済ませて、自分の部屋へと帰っていく。
(大丈夫。あの方々ならきっとすぐに解決してくれる筈です)
 そう信じて…今出来るのはただ待つ事だけなのだ。
(しかし、困りました…もし、あの稼働に気付いたら面倒かもしれません)
 彼の開発中のクロスボウ。それは可変式の代物であった。

リプレイ本文

●謎、深まる
 倉庫の車輪付き引き戸を開く。ここは問題のクロスボウがあった工房だ。
 無くなった時の状況から犯人が特定できないかと樹導 鈴蘭(ka2851)はそう思ったのだ。
 何かしらの音や不審なものが残されていれば歪虚の可能性もある。逆に全く痕跡がなければプロの仕業か。
 しかしながら、事は寝静まった折に起こったようで工房の者達も無くなった翌日に変だと感じる点はなかったと語り、現場にしてもこれと言って何かが残されている訳ではない。
(こういう事件だから予想をつけるのが大事だと思ったけど…手掛かりさえ掴めないとは)
 静かに息を吐き鈴蘭が目を伏せる。
 すると足元に差し込む光の帯が見えて、視線を移せばそこには小さな窓がある。
「あの、あそこにガラスは入っていないかな?」
 サイズは凡そ三十cm四方の四角形。その間には頑丈そうな鉄格子が二本はめられている。
「ああ、あれには入っていないよ。それに倉庫とはいえ換気も必要だからねぇ。それにガラスは高いから」
 万一光の収束で火事にならないとも限らない。そう言う事で倉庫にはガラスなしの窓が四方に設置されているそうだ。
(もしあそこから鉄格子を外して侵入したとしたら?)
 彼はその可能性を考え、梯子を借りて窓枠を調べる。
 けれど、如何にも埃は平均的に積もったままで誰かが通った様子もない。
(本当におかしな事件なんだよ…)
 彼は静かに思案する。一方その頃、トリプルJ(ka6653)はギアの部屋を訪れて事情徴収と注意勧告。
 彼は身内の妬みによる線を考えているらしい。蒼の世界にいた頃は活字中毒とさえ言われる位文字を漁っていた彼だ。数々読んできたミステリの事件を思い出しつつ、例え確率が低かろうと可能性があるならと予防線を張る。
「アンタと仲の良くない工房や人間、知り合いで弓術の得意な人間は?」
 そうギアに尋ねて、思い浮かんだ人間がいれば用心しろ、くれぐれも説得には向かうなと釘を刺す。
 ギアは素直にその言葉を聞き入れて、その帰り際開発中だったクロスボウの詳細を提供してくれる。
 依頼書には既に記されていたものであるが、彼の弓は可変式のかなり特殊なもので暗器的機能も有しているから仕組みが解るのは有難い。
「ああ、助かる。この情報は仲間と共有するな」
 Jはそう言い、彼の部屋を後にする。外では日があるうちにと残りの面子が現場を調査中だ。
 フォークス(ka0570)と柊 恭也(ka0711)は現場から見える建物に注意し狙撃地点の絞り込みに。被害者の倒れ方や矢の向きから判断し、潜伏先を推測すると共に関連性がないかを探る。ケイ(ka4032)は現場近くでの聞き込みを開始し、余所者や不審人物がいないかを徹底的に調べる。そして、八原 篝(ka3104)は魔導カメラを片手に現場を撮影。見落としがないか判断する。
「んー、高いって言っても三階建てが限度だよな。こんなに正確に当てれるもんか?」
 蒼の世界なら高層ビルが普通であるが、ここは紅の世界だ。職人街であるこの辺りは余り高い建物は存在しない。
「射程はあっても風の影響は受ける筈だ。だがこの調書によれば矢の角度が…」
「真っ直ぐってのが気になるわよね?」
 フォークスの言葉を聞いて、篝が話に割って入る。
「こういう撃たれ方になるにはやっぱり真正面。しかも標的と同じ高さに構えないとだし…すると考えられるのは」
 カメラのレンズ越し、狙撃ポイントになりそうな路地にファインダーを向ける。そこは小さな路地だった。
 けれど夜だとしても正面に人影があれば普通気付くものではないだろうか。
「ん~~、足跡すら残ってないのよね」
 路地裏に移動して、辺りの壁や石畳を観察する。
 しかし重要な証拠はやはり残されてはいなくて――そこでハンターらは我が身を囮に事件解決へと乗り出した。 調査の合間にこの近辺の地理を把握。地図に頼らない追跡を可能にし、取り逃がし防止を心掛ける。加えて、オペレーターの設置する事で全体把握をしやすくし、狙われた者への対処と救援を迅速に出来る様に気を配る。
「さて、それじゃあ作戦開始だね」
 街のほぼ中央にあたる宿屋の一階で温かいミルクを注文し、鈴蘭は許可を得て宿屋の屋根へと上がっていく。
 残りの面子はそれぞれフォークスとケイ、篝とトリプルJがチームで。恭也はバイクを使う為単独で割り振った巡回場所へとくり出していく。ちなみに被害現場にこれと言った共通点はなく、同じ場所から撃たれている形跡もなかった。本当に通りがかった獲物を気まぐれに撃ち抜いた…そんな印象が強い。
(クロスボウ…ありゃ一発の威力が高いからな。俺も気をつけないと)
 機械弄りが講じて武器にもそれなりに詳しい恭也が心中で呟く。
 それ程まで危険だと判っていてもこの事件に乗り出したのは、知ってしまった以上はほっておくと寝覚めが悪いから。割に合わないのを承知で挑む彼は案外お人好しかもしれない。

●矢、飛び来る
 五人もやられているのだから街には夜歩き禁止令が発令され、今日も辺りは厳戒態勢。
 民間人が巻き込まれないよう近隣には職人から家族へのそのお触れは行き届いている。
 だからか街は職人街とは思えない程静まり返っていた。月明かりも流れてきた雲に遮られ、街灯が要所要所に設置されているものの、ぼんやりと淡いオレンジでどこか心許ない。そんな場所をハンターらはそれぞれのペースをもって歩く。敵が一人を狙うという事もあり、二人組であっても二人の間隔は広い。どちらかに異変があれば駆け付けられる、目視でも捉えられる微妙な距離で彼等は歩く。

 カタ カタ カタ

 規則的なチェーンの音。篝は自転車を押しつつ辺りを警戒する。
 彼女の瞳がうっすら青みを帯びているのは今、彼女が覚醒状態にあるからだ。
 いつ何時何が起こっても対処できるように、早くなる鼓動を必死に圧し留める。

 ヒュンッ

 そんな折、事は起きた。前を歩いていたJが路地裏との交差点に差し掛かった時だ。
 風を切る僅かな音が耳に届いたかと思うと前方の人影が大地に伏せる。
「Jッ!」
 ハッとして駆け出す篝の耳には更なる風切り音――一発で仕留められなかったのを悟ってかトリプルJの元に追い打ちの矢が発射される。
「こなくそっがぁ!」
 Jはそれを辛うじて鉄拳で弾き、肩にいた彼の梟が闇夜に飛び立たせた。それと同時に物影に隠れるもその時には既に放たれた三本が彼を負傷させている。第一射が頭、第二射が心臓、そして第三射はアキレス腱。弾いて尚完全な回避に至らせなかったのだ。
「後は任せてっ!」
 血を滲ませるJに代わって、篝が連絡を済ませ路地に向かう。
 Jは早くなる呼吸を押さえつつ意識を集中。肩に止まらせていた梟の目を借り、敵の追跡を試みる。
(確かこの道は暫く一本道の筈)
 篝は路地に侵入し敵の気配を探る。
 だが、不気味な事に周囲に全くと言っていいほどそれらしい気配が感じられない。
 逃げたのであれば多少なりとも足音がする筈だ。隠れていてもこの距離なら完全な気配断ちは難しい。
 なのに、この路地は驚く程静かでぞっとする。
(まさかあの一瞬で逃げたの?)
 Jのファミリアズアイでもまだ相手を捉え切れていないこの状況。
 情報は得られず辺りをライトで照らしながら彼女が進む。信じがたいが、上に逃げてないとなると潜伏しか考えられず、とすると敵はこの路地にあるダストボックスに隠れているのだろうか。
「出てきなさいよ、いるのは判ってるんだから」
 彼女がコートの下に隠していた銃を構える。
「おしっ、ここだね」
 そこへフォークスが到着して、逆側からこの路地へと駆け込んでくる。
 そこで影が動いた。きらりと光って見えたのは矢尻の部分か。ともかく光目掛けて、篝はペイント弾を発射する。
 すると着弾したのか、インクが四方に弾け跳びこれで犯人は一目瞭然、の筈だった。
 だが、彼女の視界に入ったのは路地の先から来たインク塗れのフォークスで……彼女はハッとした。
(手ごたえはあった。なのにあの量…とすると考えられるのは!)
 そこまで考えたところで思考は現実に戻される。
 何故なら再びの強襲が始まったのだ。闇に紛れて矢が各所に放たれる。
「へぇ…あたいとやり合うつもりかい?」
 フォークスが周囲に視線を走らせる。けれど、やはり姿は見えずで篝の推理は確信へと変わる。
「気を付けて、敵はクロスボウそのものよ!」
 篝が声を張り上げ、仲間にその事を知らせる。
「はぁ? 何そ…って、ッ!」
 その言葉に遅れてやって来たケイが反応しかけたが、矢の襲来により到着早々派手にその場ですっ転ぶ。
 そんな絶好のチャンスを敵は見逃しはしなかった。隙を見せた彼女を狙って素早く本体部に仕込まれた曲刀が抜かれ、彼女へと襲い掛かる。
「ちょっ、激熱かよ!」
 そこへ恭也も到着して、防御障壁を展開。事なきを得、それぞれが目視し理解する。
 連続殺人犯…それは紛れもなく『クロスボウ』そのものであった。

●雑魔、爆ぜる
 想定していた敵との違いに広がる動揺。
 五対一…数の上では優勢に見えたが、相手が人型ではない事もあってかなかなか攻撃が通らない。
「ったく、こんな奴が相手とはねっ」
 猟撃士のフォークスがオートマチックを両手に前線で曲刀相手に奮闘する。
 本来ならば支援に回りたい立場であるが、分解されたクロスボウは今や近接武器である曲刀と弓という二つの形態となり、それぞれの苦手を見極めてかフォークス側には曲刀が交戦の意志を見せ立ち塞がる。
「チッ、矢がなくなったと思えば何でもかんでも飛ばして来やがってッ!」
 一方ではリジェネレーションで傷口を塞いだJが弓との距離を詰めにかかるが、これもまた難航気味だ。
 篝の援護を受けるも結果が出ず。そこかしこのごみ屑を打ち出してくる弓の攻撃を避けるのが精一杯。雑魔の腕はすこぶるよく、リロードの速さは尋常ではない為、なかなかJの接近を許さない。
「まさか刃物自身と戦うとはな」
 そんな攻防が続く中、曲刀相手に防戦をしいられている恭也の呟き。
 ある意味貴重な体験であるが、正直これは勘弁してほしい。盾に伝わる衝撃は重く、僅かに腕が痺れ始めている。
「ッ! 武器のくせにやってくれるよ」
 そう言うのはフォークスだ。両手に銃を携えてイラつきを隠しつつ回避のステップを展開する。
「本当に。これじゃあ消耗するばかりよ」
 ケイも些かこの事態は予測し切れなかったようで額に汗を滲ませていた。
 装備しているのが手裏剣に投符と魔導銃とあっては曲刀に致命的な攻撃を叩き込むのは難しいと理解しているからだ。
(せめて相手があっちなら)
 ちらりと向こうの様子を見る。曲刀が仕込まれていたクロスボウの本体部は所々金属で強化されているものの、基本は木製だ。となれば拳銃や手裏剣の攻撃が有効に入ると言えるだろう。
(そうよ、だったら有効な方を相手すればいいだけのことよね)
 ケイがそう思い、相手を変えようと弓の方へ走り出す。
 とそこへようやく鈴蘭が到着した。屋根にいた彼は下りてくるのにも時間がかかったのだろう。
 魔導バイクを使っても皆とのタイムラグが生じている。
(弓と剣に別れてる? 皆さんの様子からしても長期戦は避けたいですね)
 即座に状況を判断して彼は動く。オペレーターとして体力を温存していた事もあり、彼の動きは軽い。
(いけるっ)
 石畳の大地を強く蹴り出し、彼が裏路地に突っ込む。
 それに気付いてケイは行動を移動から注視させる事へと変更した。
「ほぅら、こっちよ!」
 ケイが声を上げる。
 その間に一気に距離を詰めた鈴蘭は前方にシールドを翳して、篝とJの間をすり抜けまずは弓を後方――つまりはケイ側へと弾き飛ばしそちらを彼女らに任せる。そしてその勢いのまま突っ込んで曲刀の位置までくると手にしていたトランシーバーから眩い光。
 暗かった路地裏が一瞬明るくなる。それは彼の放ったエレクトリックショットだった。相手を麻痺させるそのスキルは金属を含む曲刀には効果覿面。ガタガタと空中で痙攣する暇も与えず、ケイと恭也が柄部を攻撃する。その威力に押されて曲刀と弓は場所が入れ替わる形となって、
「待ってたぜ…粉々にしてやらぁ」
 にたりと笑いJが拳を振り被る。そうして、力と手数で曲刀をねじ伏せにかかる。
 その連続攻撃は凄まじいものだった。霊闘士ならではの連撃は鉄拳へと伝わり、曲刀にヒビを作る。
 それから逃れるように空中へと逃げを取る曲刀であったが、既にもう力は残っていなくて…ふらふらと浮かぶそれには止めの一射。それは篝の林檎撃ちだった。オート銃の火力も加わり一溜りもない。闇夜に悪しき魂を得てしまった哀れな業物が再び無機物へと帰ってゆく。
 
 パン パンッ

 その後にはフォークスの銃が唸りを上げた。そう、それは弾かれた弓本体に対する最初で最後の攻撃だ。
 既に半身が破壊された今弓部だけではどうにもできない。木製の湾曲部が綺麗さっぱり吹き飛んでいく。
 その銃声はまるで弔銃のようで……しかし誰一人として、このクロスボウ…いや、雑魔に同情する者はいなかった。

 翌日、昨夜の出来事の全てをギアと工房長に話しハンターらはオフィスへと最終報告に向かう。
 話を聞いたギアがとても驚いたのは無理もない。職人は己が魂を込めてモノ作りにあたる。
 だが本当に魂を宿してしまったそのクロスボウは――作り手の思いとは裏腹に人殺しを行ったのだ。武器であるのだから命を手にかける事自体は覚悟していても、こんな形は想定外だったろう。
「皆さん、有難う御座いました…あれを救ってくれて」
 絞り出すようにギアが言う。例え雑魔がついてもあれは彼にとっては心血注いで作った我が子同然だったのだ。
「まあ、あれだ。仲間が悪さしてなくてよかったじゃねえか」
 彼を何とか励まそうとJが言う。
「あのクロスボウ、商品化してたらいい線いってたと思うし気を落とす事ないって」
 そう言うのは恭也だ。その身で受けたから判る。弓のみならず曲刀の頑丈さは伊達でなく、使えば心強い味方となってくれた事だろうと思う。
 そんな言葉を胸に、ギアはきっと立ち直るだろう。職人という道を選んでここにいるのだ。頑張りますと小さく答えた彼を信じて、ハンターらは任意で仕事の後の一杯へとくり出す。
 すると思いの外そんな状態のハンターを多く見かけて――ハンター稼業が盛況過ぎるのは如何なものか。
 噂に聞く不穏な空気が彼等の一杯に水を差す。
「あー……何処も妙な事ばっか起きやがって、一体なんだっての」
 そんな空気を無理矢理払うように恭也が麦酒を煽る。
 厄介事は御免だと思いながらも、雑魔化したクロスボウというこの真相に、何処か胸騒ぎを覚える彼等であった。

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MVP一覧

  • 世界の北方で愛を叫ぶ
    樹導 鈴蘭ka2851
  • 弓師
    八原 篝ka3104

重体一覧

参加者一覧

  • SUPERBIA
    フォークス(ka0570
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • Commander
    柊 恭也(ka0711
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 世界の北方で愛を叫ぶ
    樹導 鈴蘭(ka2851
    人間(紅)|14才|男性|機導師
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
柊 恭也(ka0711
人間(リアルブルー)|18才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/03/26 07:59:41
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/03/21 22:31:05