ゲスト
(ka0000)
ハンターズ・ヘルが君を待つ
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/22 12:00
- 完成日
- 2014/10/24 22:37
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
最後のひとりも遂に力尽き、ハンターたちは全員あえなく討死となり果てた。
倒れたばかりのハンターへ、ローブをまとった巨漢が歩み寄る。
「……お前たちの力は、その程度か」
秋らしからぬ強い日差しにじりじりと焼かれながら、
ハンターはうつ伏せたまま微動だにしない。
「おい」
巨漢が屈んで顔を覗き込むと、前へ伸ばされたハンターの手が微かに動いて、砂を掻く。
かぶりを振る巨漢。残念至極といった顔だ。
すると、ハンターががば、と顔を起こして、
「センパイ、このコース、無理っす」
「あのなぁ……お前覚醒者だろ? もちっと頑張れないのかよ~」
●
ここは冒険都市リゼリオから程近い野原に作られた、野外訓練場。
元ハンターにして現ハンターオフィス職員のダンテ氏は、
持て余した体力を使ってこの地に巨大な障害物コースを建設した。
僅かな人手で木を切り倒し、岩を動かし、穴を掘り、
苦労の末ようやく完成したコースを、早速現役のハンターたちに走らせてみたのだが……。
「俺でもゴール手前で限界来ちゃったんだから、覚醒してない他の連中には到底無理っすよ」
「そうかなぁ。どうも、ただの練習ってことで真剣みが足らんのじゃないか?」
ダンテ氏と復活したハンターは、休憩所のベンチに並んで腰かけつつ、結果について話し合った。
休憩所から見渡せば、訓練場のあちこちにコース途中で脱落した他のハンターたちが、
ぶっ倒れて天を仰いでいたり、地べたに座って手足の怪我をさすったりしている。
「途中途中の障害物が厳しくて、思った以上に体力と気力を持ってかれちゃうんですよ。
大体何ですかアレ、あの爆弾! マジ死んだかと思いましたよ」
「はっはっは、ありゃ知り合いに頼んで作ってもらった魔法地雷だ!
音と光でビビらせるが、至って安全だぞ。楽しかっただろ」
「飛んできた石が顔に刺さったんですけど……いや、それはまぁ良いとしてもですね。
あれでフラフラんなったまま最後のマラソン入ると、まっすぐ走れないんすよ?」
「お前、実戦で歪虚に目くらまし食らっても同じこと言えるのか?
どんなに不利な状況でも、最善を尽くすべく努力する! それがハンターの心意気ってもんだろが」
それを聞いて、肩をすぼめるハンター。
いやはや、全く手の込んだコースではあった。
●
最初の障害物は飛び石である。
細い丸太が泥沼の中に点々と生えていて、その上を渡っていかなければならない。
一度でも沼に落ちたら、戻って最初からやり直し。コース横ではダンテ氏が厳しく見張っている。
次がロープ登り。高さ15メートルほどの木製のやぐらから垂らされたロープを命綱なしでよじ登る。
下は柔らかい砂地だが、それでもうっかり落ちれば大怪我は必至というプレッシャーがある。
結果、体力作りの甘い魔術師や機導師たちが怯えて何人もリタイアする結果となった。
ロープ登りをクリアすると、今度は迷路だ。
丸太を積み上げて壁と天井を作った、通路は狭いながらも広大な迷路で、
方向感覚のないハンターは延々と暗がりを彷徨う内に気力を削がれてしまう。
迷路を抜ければ、切りたった崖の先端へ出る。
安全に下りる為には、用意された数本の短いロープを結びあわせて命綱を作らなければならない。
指先の器用でない奴と綱の使い方が分からない奴はこの崖で滑落、リタイアした。
崖から下りれば、恐怖の地雷原が待っている。
広い砂地にとても避けきれないほどびっしりと地雷が仕掛けてあって、踏むと凄まじい爆音と閃光に襲われる。
一応殺傷能力はないのだが、それでも耳と目をやられて動けなくなるハンターが続出した。
地雷原を越えると最後はマラソン。
これまでの障害物が懐かしくなるくらい、長い。
しかも終盤のゴール手前に、心臓破りの坂道が延々と続くご丁寧さ。
成る程、ハンターに必要と思われる資質をひとつひとつ確かめるようなコースではあったが、
「いや、おかしいでしょコレ! どーやって作ったんすかこんな長くて凝った仕掛け」
「引退した昔の仲間と数年がかりでな……是非とも現役の皆に役立てて欲しいと思ったんだが」
●
「近頃の若い連中はどいつもこいつも、優秀なスキルだの装備だのに守られて……。
そんなことじゃ、もし戦場で裸一貫になっちまったらどうするんだ?
だから、基礎的な能力をこそ育てられるような、そういうコースにしたかったんだよ。
しかしアレだな~、お前ら真剣さが足りん! 金か? 金が絡まないとやる気出ないのか?」
ダンテ氏のぼやきを受けて、隣に座るハンターはしばし考えて、答えた。
「覚醒者向けに、もう一度テストをやってみましょう。
そんで、上位入賞者にはささやかながら賞金も出すんです。どーですかコレ。
それやっても完走者が出ないようなら、やっぱりこのコースは無理があるってことですよ」
「賞金レースか……今なら金一封に豪華粗品もお付けして」
「日々の任務に飽き足りない君! 艱難辛苦を求める君! ハンターオフィスの歴史に名を残したい君!
地獄の障害物競走、ハンターズ・ヘルがリゼリオで君を待っている! さぁ、来たれ挑戦者たちよ!
……こんなカンジっすかね?」
ダンテ氏はハンターの提案を気に入ったようだ。顎鬚をいじりながら何度も頷く。
折角精魂込めて作ったコース、多くの人々に使ってもらいたい。
ただの訓練ではやる気が出ないというなら、賞金を設定して競わせれば良い。
「ペナルティがあれば更に真剣になれるか……よし。完走者がひとりも出なかったときは、
俺がこのコースを作る為に犠牲にしてきた山のような書類仕事を全員にやらせよう!」
「……挑戦者減ったりして」
最後のひとりも遂に力尽き、ハンターたちは全員あえなく討死となり果てた。
倒れたばかりのハンターへ、ローブをまとった巨漢が歩み寄る。
「……お前たちの力は、その程度か」
秋らしからぬ強い日差しにじりじりと焼かれながら、
ハンターはうつ伏せたまま微動だにしない。
「おい」
巨漢が屈んで顔を覗き込むと、前へ伸ばされたハンターの手が微かに動いて、砂を掻く。
かぶりを振る巨漢。残念至極といった顔だ。
すると、ハンターががば、と顔を起こして、
「センパイ、このコース、無理っす」
「あのなぁ……お前覚醒者だろ? もちっと頑張れないのかよ~」
●
ここは冒険都市リゼリオから程近い野原に作られた、野外訓練場。
元ハンターにして現ハンターオフィス職員のダンテ氏は、
持て余した体力を使ってこの地に巨大な障害物コースを建設した。
僅かな人手で木を切り倒し、岩を動かし、穴を掘り、
苦労の末ようやく完成したコースを、早速現役のハンターたちに走らせてみたのだが……。
「俺でもゴール手前で限界来ちゃったんだから、覚醒してない他の連中には到底無理っすよ」
「そうかなぁ。どうも、ただの練習ってことで真剣みが足らんのじゃないか?」
ダンテ氏と復活したハンターは、休憩所のベンチに並んで腰かけつつ、結果について話し合った。
休憩所から見渡せば、訓練場のあちこちにコース途中で脱落した他のハンターたちが、
ぶっ倒れて天を仰いでいたり、地べたに座って手足の怪我をさすったりしている。
「途中途中の障害物が厳しくて、思った以上に体力と気力を持ってかれちゃうんですよ。
大体何ですかアレ、あの爆弾! マジ死んだかと思いましたよ」
「はっはっは、ありゃ知り合いに頼んで作ってもらった魔法地雷だ!
音と光でビビらせるが、至って安全だぞ。楽しかっただろ」
「飛んできた石が顔に刺さったんですけど……いや、それはまぁ良いとしてもですね。
あれでフラフラんなったまま最後のマラソン入ると、まっすぐ走れないんすよ?」
「お前、実戦で歪虚に目くらまし食らっても同じこと言えるのか?
どんなに不利な状況でも、最善を尽くすべく努力する! それがハンターの心意気ってもんだろが」
それを聞いて、肩をすぼめるハンター。
いやはや、全く手の込んだコースではあった。
●
最初の障害物は飛び石である。
細い丸太が泥沼の中に点々と生えていて、その上を渡っていかなければならない。
一度でも沼に落ちたら、戻って最初からやり直し。コース横ではダンテ氏が厳しく見張っている。
次がロープ登り。高さ15メートルほどの木製のやぐらから垂らされたロープを命綱なしでよじ登る。
下は柔らかい砂地だが、それでもうっかり落ちれば大怪我は必至というプレッシャーがある。
結果、体力作りの甘い魔術師や機導師たちが怯えて何人もリタイアする結果となった。
ロープ登りをクリアすると、今度は迷路だ。
丸太を積み上げて壁と天井を作った、通路は狭いながらも広大な迷路で、
方向感覚のないハンターは延々と暗がりを彷徨う内に気力を削がれてしまう。
迷路を抜ければ、切りたった崖の先端へ出る。
安全に下りる為には、用意された数本の短いロープを結びあわせて命綱を作らなければならない。
指先の器用でない奴と綱の使い方が分からない奴はこの崖で滑落、リタイアした。
崖から下りれば、恐怖の地雷原が待っている。
広い砂地にとても避けきれないほどびっしりと地雷が仕掛けてあって、踏むと凄まじい爆音と閃光に襲われる。
一応殺傷能力はないのだが、それでも耳と目をやられて動けなくなるハンターが続出した。
地雷原を越えると最後はマラソン。
これまでの障害物が懐かしくなるくらい、長い。
しかも終盤のゴール手前に、心臓破りの坂道が延々と続くご丁寧さ。
成る程、ハンターに必要と思われる資質をひとつひとつ確かめるようなコースではあったが、
「いや、おかしいでしょコレ! どーやって作ったんすかこんな長くて凝った仕掛け」
「引退した昔の仲間と数年がかりでな……是非とも現役の皆に役立てて欲しいと思ったんだが」
●
「近頃の若い連中はどいつもこいつも、優秀なスキルだの装備だのに守られて……。
そんなことじゃ、もし戦場で裸一貫になっちまったらどうするんだ?
だから、基礎的な能力をこそ育てられるような、そういうコースにしたかったんだよ。
しかしアレだな~、お前ら真剣さが足りん! 金か? 金が絡まないとやる気出ないのか?」
ダンテ氏のぼやきを受けて、隣に座るハンターはしばし考えて、答えた。
「覚醒者向けに、もう一度テストをやってみましょう。
そんで、上位入賞者にはささやかながら賞金も出すんです。どーですかコレ。
それやっても完走者が出ないようなら、やっぱりこのコースは無理があるってことですよ」
「賞金レースか……今なら金一封に豪華粗品もお付けして」
「日々の任務に飽き足りない君! 艱難辛苦を求める君! ハンターオフィスの歴史に名を残したい君!
地獄の障害物競走、ハンターズ・ヘルがリゼリオで君を待っている! さぁ、来たれ挑戦者たちよ!
……こんなカンジっすかね?」
ダンテ氏はハンターの提案を気に入ったようだ。顎鬚をいじりながら何度も頷く。
折角精魂込めて作ったコース、多くの人々に使ってもらいたい。
ただの訓練ではやる気が出ないというなら、賞金を設定して競わせれば良い。
「ペナルティがあれば更に真剣になれるか……よし。完走者がひとりも出なかったときは、
俺がこのコースを作る為に犠牲にしてきた山のような書類仕事を全員にやらせよう!」
「……挑戦者減ったりして」
リプレイ本文
●
「今まで誰もゴールしたことのないコース……、
ぜーーったいリィフィが1番になるよ! 黒狼の誇りにかけて!」
スタート地点に仁王立ちして、闘志も露わにコースを睨むはリィフィ(ka2702)。
賞金を賭けて覚醒者の参加を募った今回の障害物競走、
チャレンジ精神旺盛な8人のハンターが、準備体操などしつつスタートを待ちかねている。
「でけぇな……こいつぁ浪漫が詰まってるぜ!」
鮫島 群青(ka3095)も、広大なコースを見渡して楽し気に言う。
その後ろに立つリュー・グランフェスト(ka2419)がにやりと笑い、
「『地獄』とは仰々しい名前だが、なかなか楽しそうじゃねぇか」
こちらはミィリア(ka2689)とミィコ=クレアスター(ka3103)。
参加者の中でもひときわ小柄なふたりだったが、やる気は十分。
「おサムライさんへの修行にピッタリに違いないのでござる!」
「どっちかってーとニンジャな感じに見えるけど。何にしても、あたいにかかればちょろいもんよ♪」
「ミィリアも負けませんからね! 1位狙って頑張るぞ! おー!」
「みんな、気合入ってるな」
そう呟く柊 真司(ka0705)とアイビス・グラス(ka2477)、
そしてアルファス(ka3312)は落ち着いた様子だったが、
「やるからには、俺も優勝目指していくぜ」
「真司さんも自信ありそうだね。
けど、これほど作り込んだコースとなると正直骨が折れそう……アルファスさんはどう?」
アイビスの問いかけに、アルファスが微笑む。
「僕はひとまず完走が目標だ。運動は不得手だが、苦手だからと逃げては進歩もないからね」
「難しい障害物があったら助け合わない? ちょっとくらいは協力したって、きっとルール違反じゃないでしょ」
「ああ、お互い助言するくらいは大丈夫かな。それじゃ、何かあったときは」
ふたりは握手を交わし、互いの健闘を祈った。
ダンテ氏が係員を伴ってスタート地点に現れ、いよいよレースが始まる。
●
「長い挨拶は抜きにしよう。諸君、よく集まってくれた!
我が『ハンターズ・ヘル』は、その名の通り地獄の障害物競走!
恵まれたスキルやアイテムの力は借りず、己が実力のみで戦う試練の場!
健闘を期待する! それでは、各自位置について……!」
係員がピストルを空に撃ち放つと、8人が一斉に走り出す。
少しの距離を走ってすぐ、第1障害物である飛び石にぶつかった。
まずは足を止め、泥沼の前で慎重に移動経路を測る者もいたが、
「こんなのちょー簡単! っておわっ」
真っ先に飛んだリィフィが、途中の足場で滑って転落してしまう。
どうやら足場の丸太、間隔が空いているだけでなく断面が微妙に傾斜しているらしい。
即座に係員からやり直しを命じられた。
係員は全員ハンターズ・ヘル脱落者。不正は見逃すまいと意地悪く目を光らせている。
次いで挑戦した真司、リュー、アイビス、群青、ミィコが見事飛び石を突破し、次の障害物へと向かった。
アイビスは協力を約束したアルファスを振り返るが、彼はまだ渡り切っていない。
(わざと遅れて待つ訳にもいかないし……ごめん!)
(慎重に。ルートを決めたら自分の運動能力と相談して、動きの隅々まで集中して……、
とイメージ通りに進めば楽なんだが。そうはいかないものだ)
アルファスも途中で失敗してしまい、最初からやり直しとなる。
その間に、出遅れたミィリアと、リィフィも次へ進んでしまった。
●
(飛び石で張り切りすぎたか、ちと腰に来たが……)
第2の障害物・ロープ登りをいち早くクリアしたのは群青と、軍隊で慣らした真司のふたりだった。
「あんた速ぇえな!」
「お前も!」
先頭を走るふたりは、そのまま第3障害物の迷路へ達する。
「お先!」
アイビスがリューを追い抜いて、やぐらの天辺に立った。
滑り止めに擦り込んでおいた砂を手から払いながら、前のふたりを追いかける。
すぐ後からリューと、更にミィコもロープを登り終え、
「ちょーっとキツくなってきたかも」
「なぁに、まだまだ! 負けねぇぜ!」
「先にあんなに……うー!」
飛び石で思わぬ失敗をしたリィフィがロープに飛びつく。
振り子の要領でロープを揺らして、勢いをつける作戦だった。
ミィリアも同時にロープ登りへ取りかかった。
刀の素振りで鍛えた腕力を生かし、ぐいぐいと力強く昇っていく。
●
(迷っちまった!)
迷路に手こずった群青だが、どうにか出口に辿り着いた。
眩い陽の下、次の障害物へと駆け出すが――
(あぁ畜生、抜かれた!)
ロープ登りで引き離した筈のアイビスが、前を走っている。
「あーゆーのは得意なんだよね!」
群青の隣にすっ、と出てきたのはミィコだ。
共に第4障害物・ロープ結びの用意された崖へ到着すると、
木箱に詰められたロープの切れ端を手当たり次第に取って結び始めた。
「俺だって、こーゆーのは得意なんだよ!」
群青が慣れた手つきでロープを漁師結びにし、次々つなげていく。
アイビスはここで遅れを取ってしまった。
群青とミィコがつなぎ終えたロープを使って先に崖を下る。
(焦っちゃダメだと分かってるんだけど……!
でも、ちょうど私が来たとき、地雷原の音と光がここから見えた。
何人先に行ってるのか……アルファスさんはどうしてるかな)
●
(遠回りしちまったようだ……!)
リューは迷路に苦戦していた。
右手の法則に従い、右の壁に手をついたままで進んでいくのだが、なかなか出口が見えてこない。
(運が悪い、と言っても仕方ねぇ。けど、狭くて暗い通路を延々歩くのは結構キツイぜ)
(運が良かったようだ)
序盤で遅れを取ったアルファスだが、
迷路では左の壁を伝い、短い経路を引き当てることができた。
(だが、後半にも体力勝負が続く。油断はできない)
迷路を抜けた先では、アイビスとミィリア、リィフィが手製の命綱で崖を下り始めている。
●
(おっ、やってるな)
地雷原に誰かが踏み込んで、地雷を爆発させる音が背後から聴こえてきた。
(きついだろうがみんな応援してるぞ。しかし、1位は俺が貰った!)
レースの先頭を行くのは真司。
見事5つの障害物をクリアし、最後の長距離走に挑んでいた。
コース終盤だが体力気力共に充分。勝利を確信しつつも、黙々と長い道のりを走り続ける。
「ばっかじゃないの!? ばっかじゃないの!? こんなの誰が考え」
ミィコの悲鳴は、新たな地雷の爆発にかき消された。
立ち込める白煙と閃光の中を、群青とミィコが駆け抜ける。魔法地雷の威力は想像以上だ。
悲鳴を上げつつも懸命に走るミィコと、気合に任せて突き進む群青。
(嵐だ、大嵐の中にいると思えばいい! 俺の体内羅針盤が、勝利に針を向けてるぜ!)
「あれをミィリアもやるでござるか……!」
ミィリア、リィフィ、そしてアイビスも地雷原に差しかかる。
3人ともぐっと目を瞑って、地雷まみれの砂地に踏み込んだ。
リィフィは鼻をひくつかせ――火薬臭さに混じって、汗の匂い。
姿は見えないが、先を進む走者たちの汗が香った。リィフィは己の嗅覚を信じて、爆音の中を走り抜ける。
「リィフィは……リィフィは、伝説の黒狼になるんだからー!」
●
ゴールのある、長い坂道の頂上。
先回りしたダンテ氏と助手のハンターが、走者たちを待ち受けていた。
「や~、今回も爆発してますねぇ地雷原。こりゃまだまだかかりそう……」
「いや、来た」
ダンテ氏が道の先を指さす。林を迂回するカーブから抜けてきたのは、真司だった。
力強い走りで、刻一刻とゴールに近づいてくる。
「嘘だろ!? は、速い……あいつが1位ですか!」
「まだだ。勝負というのは最後まで分からんものだ」
しかし、後に続く走者はなかなか見えてこない。
そうこうしている間に、真司が登り坂まで到達した。
流石に疲れが見え、坂も一息に駆け上がるとまではいかなかったが、
「……どうだ、1位か?」
「そうだ! おめでとう、ハンターズ・ヘル最初の完走者よ!」
地面に引かれた一本線を踏み越えて、真司がゴールする。
膝に手を当てて屈みつつも、すぐに呼吸を整えて、
「後の連中は?」
「まだ見えないなぁ。音からして、何人かは地雷原を抜けたと思うけど……」
受け取った水筒を呷りながら、真司は道端からコースを振り返る。
するとちょうど、カーブを抜けた群青の姿が。
彼は手足を大きく振り、全力でゴールへ向かってくる。
遅れてミィコも姿を現すが、かなり辛そうだ。どうにか群青に追いすがるも、
「きっ……きつい。しんどい。やばい。もうやってらんない」
坂の手前で、とうとうミィコが膝をついた。
群青は激しく息を吐きつつ、一歩一歩踏みしめるようにして坂を上がる。
(膝が笑ってやがる。けどよ、あと何歩だ? いや考えるな、俺は上がれる!
この坂が壁だろうが、その先に浪漫が待っているなら俺は――)
「よく頑張ったな、君は2位だ!」
ダンテ氏が上から覗き込むようにして声をかける。
ゴールするなりばったりと仰向けに倒れた群青は、
「ははっ、空が馬鹿みてぇに蒼いぜ……」
「えっ、おい大丈夫か」
「とりあえず日蔭に寝かせましょう!」
●
群青を介抱している内に、リィフィ、ミィリア、アイビスの3人が長距離走を突破してきた。
汗まみれになりながら3者、登り坂へと食らいつく。
へばっていたミィコも気力を振り絞り、3位の座を譲るまいと走り出す。
「ううぅ~……ここまで来てリタイアなんかできるかぁっ」
「さ、サムライとは、ブシドーとは死ぬことと見つけたり……」
「元陸上部の誇りに賭けて、ここはっ」
「あ、足が痛い。森にはこんな坂なかった……」
リィフィが坂の途中で靴を脱ぎ捨て、残った体力を使い尽くすかのように駆け出した。
他3人も負けじとスピードを上げるが、
「あぅっ」
ミィリアが途中で転んでしまう。
裸足のリィフィが頂上手前ぎりぎりで他を引き離し、見事3位でゴールを果たした。
続いてアイビスと、ミィコがゴールする。
「勝った……リィフィが勝った……」
「やぁ、3位入賞おめでとう!」
「ほぇ?」
ずっと跳ね上がっていたリィフィの黒い尻尾がぺたん、と下がる。
「さん、い……い、いや3位でも! やるだけは、やった……」
ごろんと寝転ぶリィフィを見つつ、アイビスとミィコが水筒の水を頭から被る。
「完走が第一、と思ってたけど。直前で負けるとちょっと悔しいね」
「あたいはもう、これで走らずに済むことが嬉しい……」
ミィリアも無事ゴールした。
擦りむいた膝が痛そうだったが、リィフィへにこやかに話しかける。
「入賞おめでとうでござる! 他の皆さんもお疲れ様でござった!」
リィフィが捨てた靴を拾ってきてくれたらしく、それを返すと、
「これで6人が完走……残りのおふたりは無事でござるか」
「迷路を抜ける前に、リューとアルファスの匂いが近かった気もするけど」
アイビスは坂の上からコースを見渡した。アルファスのことが気がかりだ。
結局、最初の障害物以降彼とは顔を合せなかったが……大丈夫だろうか?
●
(無心で、リズムを整えて。重心をぶらさずに)
先に姿を見せたのはアルファスだった。
途中途中で体力がネックとなりつつも、
持ち前の冷静さと知性によって、どうにか難局を乗り越えてきた。
リューがそのすぐ後ろから追いかけてくる。
迷路での苦戦が響いて大きく順位を落としてしまったが、まだ闘志を削がれてはいない。
アルファスと競い合いながらのコース後半、
ライバルとなった色白、細身の男がこうも手強いとは思わなかった。
(コース自体が無茶だぜ、特にあの地雷! ……でも、こいつはめげなかった。
俺だって今更めげるかよ! 例えドンケツ争いでも全力で戦って、勝つ!)
坂へと続く直線を、抜きつ抜かれつで走るふたり。
スタミナ勝負ではリューに分があるが、自分のペースを守ってきたアルファスも意外に余力を残していた。
繰り広げられるデッドヒートに、完走者たちも疲れを忘れて声援を送る。
リューは目元の汗を拭いながら、坂への距離を測りつつ走った。
マラソンで相手を引き離せないのなら、ぎりぎりで脚力の勝負を仕掛けてやる。
(まだだ、まだ力を溜めるんだ!)
(坂に入ったら前傾姿勢を心がける。着地の際の重心移動に注意し、小股でピッチを上げる)
坂に入った。
ペースを守り続けるアルファス。表情は涼しげだが、色白の顔は赤く火照り、大粒の汗が光る。
最後の力を出し尽くそうとするリュー。うっすらと笑みを浮かべ、力を込めて地面を蹴る。
(顎を引き、5メートル先の地面を見ながら肘を引いて走る)
(もう少しで頂上だ……!)
想像以上の坂の角度に、リューの足が滑った。
思わず土に手をつく。慌てて顔を上げ、再び走り出すが、その一瞬で呼吸が乱れた。
見上げた先にはアルファスの後ろ姿。数秒前まで追い抜ける筈と思っていた距離が、今はひどく遠く見え――
●
「負けたよ。コースにも、お前さんとの勝負にもな」
日蔭に寝そべって休むアルファスへ、リューが隣に腰を下ろして話しかける。
アルファスはゴール直後に倒れてしまい、そのままひとりで起き上がれずにいた。
何か答えようとするが、声を出すのも辛そうだ。
その様子から相手も死力を尽くして戦ったのだと分かると、リューの悔しさは多少薄まった。
「大丈夫か? 水とか要るか?」
アルファスは微笑みつつ、首を横に振る。
「しっかし悔しいな。最後の坂を上るときゃ、あの髭面のおっさん後で1発殴ってやると思ったが、
今じゃその体力も惜しい感じだ……くそっ! いつかリベンジしてやる! 今度こそ1位獲ってやる!」
●
「今回のレース記録は、この訓練場に記念として残される。皆の順位を発表しよう。
1位、柊 真司! 2位、鮫島 群青! 3位、リィフィ! 4位、アイビス・グラス!
5位、ミィコ=クレアスター! 6位、ミィリア! 7位、アルファス! 8位、リュー・グランフェスト!
皆、素晴らしい健闘振りだった! 全員完走、おめでとう!
これからもたゆまず、ハンターとしての体力、技量を磨いていって欲しい!
では、見事入賞した3人へ賞品授与を行いつつ、この場を納めたいと思う。改めて、おめでとう!」
ダンテ氏が、1位の真司に何やら大きな木箱を手渡す。その重さに真司も少々よろめいた。
「金一封と、心よりの粗品……野外用大型テントセットだ!
この訓練場は街から近いので、宿泊施設は用意されていない。しかしこのテントがあれば!
ここから離れず毎日毎夜、訓練に励むことができる! 是非活用してくれたまえ!」
「は、はぁ……頑張ります」
見るも重そうな賞品を抱え、曖昧な笑みで答える真司。
賞金のみの群青とリィフィはそれを見て、彼に少しばかり感謝の念を抱いてしまった……かも知れない。
「今まで誰もゴールしたことのないコース……、
ぜーーったいリィフィが1番になるよ! 黒狼の誇りにかけて!」
スタート地点に仁王立ちして、闘志も露わにコースを睨むはリィフィ(ka2702)。
賞金を賭けて覚醒者の参加を募った今回の障害物競走、
チャレンジ精神旺盛な8人のハンターが、準備体操などしつつスタートを待ちかねている。
「でけぇな……こいつぁ浪漫が詰まってるぜ!」
鮫島 群青(ka3095)も、広大なコースを見渡して楽し気に言う。
その後ろに立つリュー・グランフェスト(ka2419)がにやりと笑い、
「『地獄』とは仰々しい名前だが、なかなか楽しそうじゃねぇか」
こちらはミィリア(ka2689)とミィコ=クレアスター(ka3103)。
参加者の中でもひときわ小柄なふたりだったが、やる気は十分。
「おサムライさんへの修行にピッタリに違いないのでござる!」
「どっちかってーとニンジャな感じに見えるけど。何にしても、あたいにかかればちょろいもんよ♪」
「ミィリアも負けませんからね! 1位狙って頑張るぞ! おー!」
「みんな、気合入ってるな」
そう呟く柊 真司(ka0705)とアイビス・グラス(ka2477)、
そしてアルファス(ka3312)は落ち着いた様子だったが、
「やるからには、俺も優勝目指していくぜ」
「真司さんも自信ありそうだね。
けど、これほど作り込んだコースとなると正直骨が折れそう……アルファスさんはどう?」
アイビスの問いかけに、アルファスが微笑む。
「僕はひとまず完走が目標だ。運動は不得手だが、苦手だからと逃げては進歩もないからね」
「難しい障害物があったら助け合わない? ちょっとくらいは協力したって、きっとルール違反じゃないでしょ」
「ああ、お互い助言するくらいは大丈夫かな。それじゃ、何かあったときは」
ふたりは握手を交わし、互いの健闘を祈った。
ダンテ氏が係員を伴ってスタート地点に現れ、いよいよレースが始まる。
●
「長い挨拶は抜きにしよう。諸君、よく集まってくれた!
我が『ハンターズ・ヘル』は、その名の通り地獄の障害物競走!
恵まれたスキルやアイテムの力は借りず、己が実力のみで戦う試練の場!
健闘を期待する! それでは、各自位置について……!」
係員がピストルを空に撃ち放つと、8人が一斉に走り出す。
少しの距離を走ってすぐ、第1障害物である飛び石にぶつかった。
まずは足を止め、泥沼の前で慎重に移動経路を測る者もいたが、
「こんなのちょー簡単! っておわっ」
真っ先に飛んだリィフィが、途中の足場で滑って転落してしまう。
どうやら足場の丸太、間隔が空いているだけでなく断面が微妙に傾斜しているらしい。
即座に係員からやり直しを命じられた。
係員は全員ハンターズ・ヘル脱落者。不正は見逃すまいと意地悪く目を光らせている。
次いで挑戦した真司、リュー、アイビス、群青、ミィコが見事飛び石を突破し、次の障害物へと向かった。
アイビスは協力を約束したアルファスを振り返るが、彼はまだ渡り切っていない。
(わざと遅れて待つ訳にもいかないし……ごめん!)
(慎重に。ルートを決めたら自分の運動能力と相談して、動きの隅々まで集中して……、
とイメージ通りに進めば楽なんだが。そうはいかないものだ)
アルファスも途中で失敗してしまい、最初からやり直しとなる。
その間に、出遅れたミィリアと、リィフィも次へ進んでしまった。
●
(飛び石で張り切りすぎたか、ちと腰に来たが……)
第2の障害物・ロープ登りをいち早くクリアしたのは群青と、軍隊で慣らした真司のふたりだった。
「あんた速ぇえな!」
「お前も!」
先頭を走るふたりは、そのまま第3障害物の迷路へ達する。
「お先!」
アイビスがリューを追い抜いて、やぐらの天辺に立った。
滑り止めに擦り込んでおいた砂を手から払いながら、前のふたりを追いかける。
すぐ後からリューと、更にミィコもロープを登り終え、
「ちょーっとキツくなってきたかも」
「なぁに、まだまだ! 負けねぇぜ!」
「先にあんなに……うー!」
飛び石で思わぬ失敗をしたリィフィがロープに飛びつく。
振り子の要領でロープを揺らして、勢いをつける作戦だった。
ミィリアも同時にロープ登りへ取りかかった。
刀の素振りで鍛えた腕力を生かし、ぐいぐいと力強く昇っていく。
●
(迷っちまった!)
迷路に手こずった群青だが、どうにか出口に辿り着いた。
眩い陽の下、次の障害物へと駆け出すが――
(あぁ畜生、抜かれた!)
ロープ登りで引き離した筈のアイビスが、前を走っている。
「あーゆーのは得意なんだよね!」
群青の隣にすっ、と出てきたのはミィコだ。
共に第4障害物・ロープ結びの用意された崖へ到着すると、
木箱に詰められたロープの切れ端を手当たり次第に取って結び始めた。
「俺だって、こーゆーのは得意なんだよ!」
群青が慣れた手つきでロープを漁師結びにし、次々つなげていく。
アイビスはここで遅れを取ってしまった。
群青とミィコがつなぎ終えたロープを使って先に崖を下る。
(焦っちゃダメだと分かってるんだけど……!
でも、ちょうど私が来たとき、地雷原の音と光がここから見えた。
何人先に行ってるのか……アルファスさんはどうしてるかな)
●
(遠回りしちまったようだ……!)
リューは迷路に苦戦していた。
右手の法則に従い、右の壁に手をついたままで進んでいくのだが、なかなか出口が見えてこない。
(運が悪い、と言っても仕方ねぇ。けど、狭くて暗い通路を延々歩くのは結構キツイぜ)
(運が良かったようだ)
序盤で遅れを取ったアルファスだが、
迷路では左の壁を伝い、短い経路を引き当てることができた。
(だが、後半にも体力勝負が続く。油断はできない)
迷路を抜けた先では、アイビスとミィリア、リィフィが手製の命綱で崖を下り始めている。
●
(おっ、やってるな)
地雷原に誰かが踏み込んで、地雷を爆発させる音が背後から聴こえてきた。
(きついだろうがみんな応援してるぞ。しかし、1位は俺が貰った!)
レースの先頭を行くのは真司。
見事5つの障害物をクリアし、最後の長距離走に挑んでいた。
コース終盤だが体力気力共に充分。勝利を確信しつつも、黙々と長い道のりを走り続ける。
「ばっかじゃないの!? ばっかじゃないの!? こんなの誰が考え」
ミィコの悲鳴は、新たな地雷の爆発にかき消された。
立ち込める白煙と閃光の中を、群青とミィコが駆け抜ける。魔法地雷の威力は想像以上だ。
悲鳴を上げつつも懸命に走るミィコと、気合に任せて突き進む群青。
(嵐だ、大嵐の中にいると思えばいい! 俺の体内羅針盤が、勝利に針を向けてるぜ!)
「あれをミィリアもやるでござるか……!」
ミィリア、リィフィ、そしてアイビスも地雷原に差しかかる。
3人ともぐっと目を瞑って、地雷まみれの砂地に踏み込んだ。
リィフィは鼻をひくつかせ――火薬臭さに混じって、汗の匂い。
姿は見えないが、先を進む走者たちの汗が香った。リィフィは己の嗅覚を信じて、爆音の中を走り抜ける。
「リィフィは……リィフィは、伝説の黒狼になるんだからー!」
●
ゴールのある、長い坂道の頂上。
先回りしたダンテ氏と助手のハンターが、走者たちを待ち受けていた。
「や~、今回も爆発してますねぇ地雷原。こりゃまだまだかかりそう……」
「いや、来た」
ダンテ氏が道の先を指さす。林を迂回するカーブから抜けてきたのは、真司だった。
力強い走りで、刻一刻とゴールに近づいてくる。
「嘘だろ!? は、速い……あいつが1位ですか!」
「まだだ。勝負というのは最後まで分からんものだ」
しかし、後に続く走者はなかなか見えてこない。
そうこうしている間に、真司が登り坂まで到達した。
流石に疲れが見え、坂も一息に駆け上がるとまではいかなかったが、
「……どうだ、1位か?」
「そうだ! おめでとう、ハンターズ・ヘル最初の完走者よ!」
地面に引かれた一本線を踏み越えて、真司がゴールする。
膝に手を当てて屈みつつも、すぐに呼吸を整えて、
「後の連中は?」
「まだ見えないなぁ。音からして、何人かは地雷原を抜けたと思うけど……」
受け取った水筒を呷りながら、真司は道端からコースを振り返る。
するとちょうど、カーブを抜けた群青の姿が。
彼は手足を大きく振り、全力でゴールへ向かってくる。
遅れてミィコも姿を現すが、かなり辛そうだ。どうにか群青に追いすがるも、
「きっ……きつい。しんどい。やばい。もうやってらんない」
坂の手前で、とうとうミィコが膝をついた。
群青は激しく息を吐きつつ、一歩一歩踏みしめるようにして坂を上がる。
(膝が笑ってやがる。けどよ、あと何歩だ? いや考えるな、俺は上がれる!
この坂が壁だろうが、その先に浪漫が待っているなら俺は――)
「よく頑張ったな、君は2位だ!」
ダンテ氏が上から覗き込むようにして声をかける。
ゴールするなりばったりと仰向けに倒れた群青は、
「ははっ、空が馬鹿みてぇに蒼いぜ……」
「えっ、おい大丈夫か」
「とりあえず日蔭に寝かせましょう!」
●
群青を介抱している内に、リィフィ、ミィリア、アイビスの3人が長距離走を突破してきた。
汗まみれになりながら3者、登り坂へと食らいつく。
へばっていたミィコも気力を振り絞り、3位の座を譲るまいと走り出す。
「ううぅ~……ここまで来てリタイアなんかできるかぁっ」
「さ、サムライとは、ブシドーとは死ぬことと見つけたり……」
「元陸上部の誇りに賭けて、ここはっ」
「あ、足が痛い。森にはこんな坂なかった……」
リィフィが坂の途中で靴を脱ぎ捨て、残った体力を使い尽くすかのように駆け出した。
他3人も負けじとスピードを上げるが、
「あぅっ」
ミィリアが途中で転んでしまう。
裸足のリィフィが頂上手前ぎりぎりで他を引き離し、見事3位でゴールを果たした。
続いてアイビスと、ミィコがゴールする。
「勝った……リィフィが勝った……」
「やぁ、3位入賞おめでとう!」
「ほぇ?」
ずっと跳ね上がっていたリィフィの黒い尻尾がぺたん、と下がる。
「さん、い……い、いや3位でも! やるだけは、やった……」
ごろんと寝転ぶリィフィを見つつ、アイビスとミィコが水筒の水を頭から被る。
「完走が第一、と思ってたけど。直前で負けるとちょっと悔しいね」
「あたいはもう、これで走らずに済むことが嬉しい……」
ミィリアも無事ゴールした。
擦りむいた膝が痛そうだったが、リィフィへにこやかに話しかける。
「入賞おめでとうでござる! 他の皆さんもお疲れ様でござった!」
リィフィが捨てた靴を拾ってきてくれたらしく、それを返すと、
「これで6人が完走……残りのおふたりは無事でござるか」
「迷路を抜ける前に、リューとアルファスの匂いが近かった気もするけど」
アイビスは坂の上からコースを見渡した。アルファスのことが気がかりだ。
結局、最初の障害物以降彼とは顔を合せなかったが……大丈夫だろうか?
●
(無心で、リズムを整えて。重心をぶらさずに)
先に姿を見せたのはアルファスだった。
途中途中で体力がネックとなりつつも、
持ち前の冷静さと知性によって、どうにか難局を乗り越えてきた。
リューがそのすぐ後ろから追いかけてくる。
迷路での苦戦が響いて大きく順位を落としてしまったが、まだ闘志を削がれてはいない。
アルファスと競い合いながらのコース後半、
ライバルとなった色白、細身の男がこうも手強いとは思わなかった。
(コース自体が無茶だぜ、特にあの地雷! ……でも、こいつはめげなかった。
俺だって今更めげるかよ! 例えドンケツ争いでも全力で戦って、勝つ!)
坂へと続く直線を、抜きつ抜かれつで走るふたり。
スタミナ勝負ではリューに分があるが、自分のペースを守ってきたアルファスも意外に余力を残していた。
繰り広げられるデッドヒートに、完走者たちも疲れを忘れて声援を送る。
リューは目元の汗を拭いながら、坂への距離を測りつつ走った。
マラソンで相手を引き離せないのなら、ぎりぎりで脚力の勝負を仕掛けてやる。
(まだだ、まだ力を溜めるんだ!)
(坂に入ったら前傾姿勢を心がける。着地の際の重心移動に注意し、小股でピッチを上げる)
坂に入った。
ペースを守り続けるアルファス。表情は涼しげだが、色白の顔は赤く火照り、大粒の汗が光る。
最後の力を出し尽くそうとするリュー。うっすらと笑みを浮かべ、力を込めて地面を蹴る。
(顎を引き、5メートル先の地面を見ながら肘を引いて走る)
(もう少しで頂上だ……!)
想像以上の坂の角度に、リューの足が滑った。
思わず土に手をつく。慌てて顔を上げ、再び走り出すが、その一瞬で呼吸が乱れた。
見上げた先にはアルファスの後ろ姿。数秒前まで追い抜ける筈と思っていた距離が、今はひどく遠く見え――
●
「負けたよ。コースにも、お前さんとの勝負にもな」
日蔭に寝そべって休むアルファスへ、リューが隣に腰を下ろして話しかける。
アルファスはゴール直後に倒れてしまい、そのままひとりで起き上がれずにいた。
何か答えようとするが、声を出すのも辛そうだ。
その様子から相手も死力を尽くして戦ったのだと分かると、リューの悔しさは多少薄まった。
「大丈夫か? 水とか要るか?」
アルファスは微笑みつつ、首を横に振る。
「しっかし悔しいな。最後の坂を上るときゃ、あの髭面のおっさん後で1発殴ってやると思ったが、
今じゃその体力も惜しい感じだ……くそっ! いつかリベンジしてやる! 今度こそ1位獲ってやる!」
●
「今回のレース記録は、この訓練場に記念として残される。皆の順位を発表しよう。
1位、柊 真司! 2位、鮫島 群青! 3位、リィフィ! 4位、アイビス・グラス!
5位、ミィコ=クレアスター! 6位、ミィリア! 7位、アルファス! 8位、リュー・グランフェスト!
皆、素晴らしい健闘振りだった! 全員完走、おめでとう!
これからもたゆまず、ハンターとしての体力、技量を磨いていって欲しい!
では、見事入賞した3人へ賞品授与を行いつつ、この場を納めたいと思う。改めて、おめでとう!」
ダンテ氏が、1位の真司に何やら大きな木箱を手渡す。その重さに真司も少々よろめいた。
「金一封と、心よりの粗品……野外用大型テントセットだ!
この訓練場は街から近いので、宿泊施設は用意されていない。しかしこのテントがあれば!
ここから離れず毎日毎夜、訓練に励むことができる! 是非活用してくれたまえ!」
「は、はぁ……頑張ります」
見るも重そうな賞品を抱え、曖昧な笑みで答える真司。
賞金のみの群青とリィフィはそれを見て、彼に少しばかり感謝の念を抱いてしまった……かも知れない。
依頼結果
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MVP一覧
- 《聡明》なる天空の術師
アルファス(ka3312)
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依頼相談掲示板 | |||
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雑談卓 アルファス(ka3312) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/10/22 01:09:30 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/21 17:01:45 |