• 陶曲

【陶曲】Dolore Parade

マスター:瑞木雫

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/03/26 22:00
完成日
2018/05/10 19:41

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 自由都市同盟はその名の示すとおり、ひとつの国家ではなく、それぞれの都市が同盟を結ぶことで領土を維持しているのが最大の特徴である。
 極彩色の街「ヴァリオス」、港湾都市「ポルトワール」、農耕推進地域「ジェオルジ」、蒸気工場都市「フマーレ」――。どの都市も個性が強く、自立意識が高く、同盟を築いてはいるが都市の間での駆け引きや勢力争いといった物は絶えない。
 そんな同盟だからこそ。
 メロマーヌの魔女・ドローレ(kz0184)は大好きだった。

 ゆえに、
 “混沌に陥れたい”
 ゆえに、
 “皆を困らせたい”
 ゆえに、
 “とても楽しいことがしたい”

 しかしこの日のドローレはいつも以上に、胸の高鳴りを抑えきれないようで……?

「こんなにドキドキするのは久しぶりよ。――嗚呼、抑えきれないわ」
 メロマーヌ(音楽狂)の溢れ出る喜びを表現した序曲は、華やかで明るく、そして、これから同盟を脅かす大きな災厄の始まりであるように物語っていた。




 ××月 ××日
 場所は、ヴァリオスの某表通りにて。
 激しい爆音と手拍子、そしてカウントダウンと共に、事件が開幕する。

 ――Cinque!!!
 陸軍のナタリ小隊が騒ぎに駆け付けたのは偶然だった。
 彼らは別件の為、此処に訪れていた。
 しかしその件が解決した矢先に、次はこれである。
 ――Quattro!!!
「皆さん落ち着いてくださいっ! 落ち着いて、逃げてください!!」
 隊長のナタリが大きな声で叫ぶ。
 ――Tre!!!
 突如街中で起きたこの騒動に、住民や観光客達は慌てていた。
 しかしナタリ隊の隊員達が迅速・的確に避難誘導を行っている為、混乱は最小限に抑えられている。
 ――Due!!!
「ナタリ軍曹!!」
 先に様子を見て来たナタリ隊の一般兵・ヴァレーリオは必死に走っていた。
 ――Uno!!!
「パレードです! パレードが来ます……!!」
「パレード!?」
 ――Giochiamo!!!!
 するとドォォン!! という、大砲の発射音が聞こえた。
 ナタリ隊は度肝を抜かれていた。
 発射されたのは弾ではない・・・・
 一瞬で表通りを埋め尽くしてしまう勢いの“紙吹雪”だったのだ。
 そして明るく晴れ晴れとした軽快な曲と歌が大音量で流れだす。

<さあ、遊びましょう!!!>

 ナタリ隊は聞き覚えのある声に戦慄した。
 彼らは、この歪虚を知っている。
 彼女の名はドローレ。
 同盟を混沌に陥れる事を生き甲斐とする、陸軍とは何かと因縁深い歪虚なのだ。
「ドローレ……!」
 ナタリは目を見張っていた。
 するとナタリ小隊の隊員であり一般兵の男が叫ぶ。
「ナタリ軍曹! 応援を要請致しました! 同盟軍、10分程でこちらに到着予定とのことです!!」
「10分……、10分なら私達でも何とか凌げるかもしれません……!」
 ナタリは隊員達に任務を告げた。
「皆、人命を守る事が優先であります! A班は引き続き避難誘導を! B班は私と共にドローレを阻止するであります!!」
「は、はい!!」
 ナタリ隊はA班とB班に分かれ、任務にあたる。
 ――が。
「うああああああ」
 B班は数秒でものの見事に、ドローレに遊ばれていた。
 皆纏めて縄のようなものでぐるぐる巻きにされ、「ちょっとそこに居られると邪魔だから端の方に居て」と前進するパレードフロートに轢かれてしまわないように、端へと寄せられている。
「いやっ、やはり10分でも難しいですかね!?」
 あっという間に一人になってしまったナタリに、A班のヴァレーリオが戻ってきて告ぐ。
「ナタリ軍曹! 同盟軍から通信が……!」
「私に!?」
『ナタリ軍曹。聞こえるか? こちら、シルヴェスト・ロマーノだ』
「海軍のシルヴェスト大佐?!」
『ドローレの様子は…いつもと変わりないか?』
「ええ、いつも通り変な奴でありますよ! …いやでも、今日はちょっと、いつもとは感じが違うような?」
『・・・では、ナタリ軍曹。我々が到着する迄の間、ここ最近同盟地域の各地で起こっている騒ぎについて、なんでもいい。ドローレから情報を引き出してくれ』
「えっ!?」
『普通に考えれば歪虚が人間に情報を与えてくれるとは思わんが、変わり者でお喋りなドローレであれば引き出せる可能性が僅かにある……。この一連の事件、歪虚達の陰謀か、或いは更なる災厄の前兆か、ドローレも繋がっていないのか。それを探って欲しい。いいな?』
「ああ、ちょっと!? シルヴェスト大佐!?」
「ねぇ」
「ぎゃああッ! ドローレ!!」
 ずっと遠くに居た筈のドローレが、いつの間にか傍へとやってきていた事に動揺するナタリ。
「仲間内で遊んでないで私と遊びなさいよ。つまらないじゃない」
「うっ……ッ! 今日は何の目的があって、こんな事をするでありますかっ!」
「目的? 今更ね。皆の困っている顔が見たいのと、あとは皆と遊びたいからに決まってるわ」
「で、でもっ、なんかいつもと違うであります!! うまく言葉にはできないでありますが……なんだか、いつもより“ご機嫌”なような」
 するとドローレは、「ふぅん」と漏らす。
「“察しがいいじゃない?”」
「え? それはどういう……?」
 意味深な言葉の後、にっと笑ったドローレは腰に据えていたバズーカを構え、どばああああっと液体を発射する。
「ぎゃああああああああ」
 ――その液体はペンキのような液体で、黒い軍服を鮮やかな色に染めた挙句、ナタリを吹き飛ばす。
「た、隊長ォォっ!!」
 ヴァレーリオも助太刀しようと剣を抜くが、
「わあああああああああ」
 ――その前に液体を噴射され、吹っ飛ばされる。
「でもこれ以上は喋らないわ。その方が面白いの。そんな事よりも・・・遊びましょうよ?」
 ドローレは箒に乗ると、そのまま飛ぶ。
 そして表通りに並ぶお店に向かって……どばあああっと鮮やかな液体を噴射した。
「「ど、ドローレえええええええ」」
 ナタリとヴァレーリオの声が同時に揃う。
 ヴァリオスはオシャレで芸術的で、華やかな街だ。
 特にこの表通りは観光スポットとしても人気が高く……
 ゆえにペンキのような液体で落書きされてしまったら街にとって大打撃。
 非常に困るのである。
「ふふ。やめて欲しいなら、力尽くで止めなさい」
 ドローレはフロートに戻ると共に頂点に降り立つと、見下ろしながら微笑んだ。

 大音量の歌と音楽が、表通りを包み込む。
 そして細身の人形達がスタイリッシュに踊り、あるいはバズーカを所持して行進する。

 そんな中、“あなた”は騒ぎを聴いて駆け付けていた。
 するとナタリはまるで救世主を見るような眼差しであなたを見つめ、懇願する。
「もしやあなた達はハンターでありますか…!? お願いしますっ、我々に協力して頂けませんか!?」
 そうしてドローレという歪虚がどんな性質の歪虚なのかを簡潔に伝えながら、シルヴェストからのお願いも同時に伝えた。

リプレイ本文

●開幕
「なんか凄い音がして……って、ドローレさんがパレードしとるー?!」
 ミィナ・アレグトーリア(ka0317)が思わず驚きの声を上げると、魔女は気付いて振り返った。
 すると。
「あら、貴女達!」
 と、魔女が喜びの表情を浮かべる。
 ルナ・レンフィールド(ka1565)は見覚えのあるその顔を確認して――、
「もしかして……またあの子?」
 僅かに首を傾げながら呟いた。
 魔女はルナとも目が合うと、友好的な笑顔を向ける。
「また会えて嬉しいわ。また私と遊びたくなったの?」
 敵意はまるで感じられない。
「あ、アイツは前にロゼPを襲った! 確か…っ――メロローレの魔女! ドマーヌ!!」
「惜しい…! 鈴さん! メロマーヌの魔女・ドローレですっ!」
「!!」(間違えちまった~…!!)
「ドローレ! 極彩色の街だからってテキトーにラクガキしていいわけないでしょ!」
 大伴 鈴太郎(ka6016)の顔が真っ赤になる隣で、クレール・ディンセルフ(ka0586)はドローレに叫ぶ。
「私の名を忘れるなんて、寂しいわ! でも街を素敵な色に染め上げたら、驚きでもう忘れられなくなるかしら?」
 ドローレは名をしっかり覚えて貰っていなかった事が、ショックだったらしい。
 不満そうに、ぶつぶつと独り言を呟いている。
「これはこれは、メロマーヌ。随分と楽しそうじゃないか。僕の事は、……そう。覚えているようだね」
 カフカ・ブラックウェル(ka0794)が柔らかな口調で語り掛ける。
「覚えているわ! 私は楽しそうな人達を忘れはしないもの。そういえば……ねえ、貴方達のお名前は?」
 ドローレが問う。
 すると、七夜・真夕(ka3977)は応えた。
「恋しょこが一人。巫女アイドル、七夜・真夕! ここに見参! 覚えておく事ね!!」
 真夕は微笑みを浮かべると、燃える火球を生みだして、派手に“開幕”を演出する。
「私はハンターで、貴女は歪虚。そこが揺るぎないのなら、乗ってあげようじゃない!」
 ドローレは、嬉しそうな笑い声をあげた。
「ふふ。いいわ、それでも。楽しい。楽しいもの!」
 ドローレが連れていた人形達もカタカタと笑いだす。
 クレールは眉を潜めた。
「一人で遊ぶのもいいけど! ちょっと付き合ってきなさい!!」
 クレールが手を差し伸べ、左右の眸と共に紋章が美しく、白く輝く。
 ドローレの答えは勿論……
「“喜んで”♪」
 きっと誘いに乗ってくるだろう。
 クレールは心のどこかで、そう感じていた。
 そしてドローレを見つめながら口元に笑みを浮かべ、告げる。
「さあ、“遊びましょう”!!!」




●華やかなカラフル・パレード
 ドローレが現れ、混沌に陥った街には多くの住民や観光客がいた。
 彼らが無事避難できるようにと気に掛けていたミィナは、安堵の色を浮かべる。
(皆、無事に逃げられそうで良かったのん。それにヴァレーリオさんの方も…大丈夫そうなんよ)
 視線の先には、懸命に誘導する彼の姿があった。
 “うちらが引きつけとくから、近くにおる人の避難誘導お願いなのん!”
 実は先程、ミィナは彼にエレメンタルコールで声を届けていたのだ。
 そうしてミィナが安心してドローレと対戦する頃。
 ヴァレーリオは振り返り、ミィナを気に掛けていた。
「ミィナ……」
 心密かに、彼女を守る為駆け付けたい想いを秘めながら――。

 ミィナは、ドローレを引き付けるようにタンバリンを叩きながら問いかける。
「ドローレさん、お祭りじゃないのにどうして来たん? 他の虚歪さん達もお祭りしてるだけなのん?」
「私は毎日がお祭りだわ! 他の子は知らない。分からない訳でもないけど」
 続けて、真夕も問うた。
「なら何かの記念かしら? 目的は何!?」
 するとドローレは、意味深にウフフと笑った。そしてバズーカで撃ち放つ。
「記念日は……そうね。きっと近いかも!」
 ペンキの弾はハンター達には当たらなかった。しかし命中したのは、リアルブルーの学校をモチーフに建てられた建造物で――。
「にゃあああ」「ああ~~!!」
 ミィナと真夕の声が同時に重なった。
 これには鈴太郎も黙っちゃいられない。
「お、おぃコラ!」
 よく見ると人形達も『参上!』の文字に似たラクガキを描いているようで…、
「羨ま……もとい迷惑な真似してンじゃねぇよ!」
 思わずヤンキー心をくすぐられてしまう鈴太郎。
 それだけに留まらず、人形達は有名な劇場をも手に掛けていく――。
「あぁ…っ! なんて非道な……」
 カフカは目を疑ってしまった。
 この劇場は古くから人々に愛されてきた神聖な場所。
 その美を穢す者など、過去に誰も居なかったのだから。
「こらー! ドローレ、これ以上はさせないわよっ」
 真夕がドローレに怒ると、ドローレは楽しそうな声を出して笑った。
 まるで悪戯好きな子どものように。
「うぅ…やっぱ止めねぇとまじぃンだろなぁ」
 鈴太郎が呟き、ルナが頷く。
「これ以上被害を大きくしない為にも、もっとこちらに気を引かせないとですね…」
「なら、良い方法があるよ」
 カフカは皆と目を合わせ、作戦を話す。
 そうして彼らは実行した――。
 ルナがリュートでシャランとかき鳴せば、ドローレはぴたりと止まる。
「さあ、奏でましょう♪」
 ルナはパレードの音楽に心地よく乗せたメロディを紡ぎ、カフカへと繋ぐ。
 そしてカフカはドローレを見つめ、穏やかに微笑む。
「勿論、君一緒に」
 ルナも、カフカも、ドローレの音に溶け込むように奏で、調和する。
「貴方達、私の音楽に合わせてるのね」
 ドローレはルナとカフカの音に聴き惚れて、目を細める。するといつの間にかドローレの音楽にも少し変化が現れた。
 ドローレの音楽も、ルナとカフカの音に合わせ始めたのだ。
 音は不思議だ。
 ルナの音、カフカの音、ドローレの音。
 奏でる者の色の個性があって。
 心を一つに繋ぐ。
(不思議……)
 ルナは心の中で呟いた。
(恐ろしい力を秘めているのが分かる。けど、そんなに悪い子には見えないんだけど……)
 ドローレを見つめながら、複雑な想いを抱いて。
 同時に、カフカも。
(出来れば戦いが不要な場で出会いたかった)
 ドローレと音を紡ぎながら、目を瞑る。
(君は歪虚なのに不思議と殺意が湧かない……音楽を愛する心だけは、彼女も僕らもそう違いは無い様だから)
 より鮮やかで。
 より楽しく響くドローレ・パレード。
 人形達も楽しそうに踊る。踊る。
 鈴太郎は、ラクガキ隊目指し、突撃する。
「しゃーねー、やってやンかっ」
 ――ダンサーなんて、ただの賑やかしだ!
 そう高を括り、飛翔撃で吹っ飛ばす。
 すると……。
 カタカタ。
 ふっ飛ばした人形が鈴太郎へと振り返って、反撃した。
「ひっ」
 鈴太郎が更にその人形へと一撃を喰らわせ、撃破したものの…。
(こいつらやり返してくるのかよ! って……やべぇ、オレ、出れなくなっちまってる!?)
 踊るダンサー達に囲まれてしまい、まごまごしている鈴太郎。
 そんな中、放たれた弾を巨大化させた竜尾刀でぶった切り、鮮やかな色を浴びながら接近したのはクレール。
「そこな砲撃のお客様達! 手に手を取って、Shall We Dance?」
 恋しょこで磨いたアイドルダンスは軽やかで、音に合わせ、ステップ&ジャンプでダイナミックに動く――クレールのダンシングに、ドローレは魅せられた。
「あなた上手ね!」
 きゃーきゃーと魔女が喜んでいる隙に、人形達は弾き飛ばされていく。
 ミィナも一緒にワンドをくるりと回し、
「パレードに光をー♪」
 きらきら光る魔法で人形達をやっつけた。
 真夕も、風を纏い残像を残しながら舞うようにステップを踏んで、
「風よ、お願い! シルフィード・ダンス!」
 神聖な鈴の音が鳴ると共に、緑に輝く風が取り巻く。
「踊れ、炎。舞なさい、朱雀!」
 そして鳥のように翔る炎が、人形達を灼いた。
 鈴太郎は仲間達に触発され……。
「お、オレもやってやらぁっ」
 ぎこちない滑り出しながら、ダンスで流れに乗ろうとする。
 すると徐々に、楽しいと胸を高ぶらせ、自信が沸き始める。
 ――恋しょこで培った勘を取り戻し、今。
「鈴さーん! よろしくおねがいしまーす!」
 クレールが、ターン&ステップ&フライで人形をパスして。
「おう!」
 全身から激しい炎を燃え上がらせ、覚醒オーラ全開の鈴太郎が打ち上げ花火かの如く螺旋突をお見舞いした。
 見事なコンビネーションを決めて撃破したクレールと鈴太郎は、ハイタッチを交わす。
 そんな二人を、ウィンドスラッシュで人形を撃破しながら援護していたルナも、ほっと安心して。
「楽器には…触れさせません!」
 人形達が撃ち放つペンキからは背中を向けて、楽器を大事に抱えながら死守していた。
「ふぅ、人形達の数も少し落ち着いてきたようだね」
 頃合いを窺っていたカフカが、ドローレに問いかける。
「フマーレは橙色のConfuoco。ポルトワールは深青色のinquieto。さてさて、メロマーヌ。極彩の街と既に謳われるこのヴァリオスを、君は何色に染めるのかな?」
「私は、Colorfulだけじゃ、物足りない。Chaosに染めるわ。ヴァリオスだけじゃなくて自由都市同盟、すべてをね!」
 ドローレは無邪気に微笑む。
 そして真夕の方へと見つめた。
「そうそう。あなたさっき、これは何かの記念なのかと聞いたわね。詳しくは言えないけど、でもこれだけは教えてあげる。今日だけじゃない……これから先ずっと、同盟で楽しい事が起き続けるわ。絶対にネ」
「……!」
 ドローレの微笑みを見て、真夕は悪寒が走った。
 ――悪い予感がする。
 真夕は悟ったのだ。
 恐ろしい事が始まり、これから起こるのだと。
 そしてルナも、問い掛けた。
「今の貴女はSolo? Duo? それとももっと大勢ですか?」
「……」
 ドローレは沈黙して。
「私はいつもSoloだけど、私も一体の“お人形”に過ぎないわ」
「それって……どういう事でしょう?」
 ルナは問い掛けたが、ドローレの答えはこれ以上返らなかった。
 そしてクレールがドローレに優しく話し掛ける。
「ドローレも一緒に、踊りましょう? 私はクレール、恋しょこのクレール・ディンセルフ」
「クレール……ディンセルフ?」
「そう。職人の村から来て、恋しょこで踊りを教わって、貴女に出会った」
 ドローレの目がまっすぐ、クレールを見つめる。
「あなたは、どこから来て、どこに行く、どんな方?」
 そうクレールが続けると、ドローレの目が大きく見開いて、クレールの両手を力強く掴んだ。
「クレール!?」
 ドローレの突然の行動に真夕は驚き、身構えた。
 相手が動いた瞬間、いつでも助けに入れるよう、神経を研ぎ澄ませる。
 すると…。


 ぶくぶくぶく・・・


「え…?」
 真夕は思わず動揺した。
「っっ」
 どこからともなく聴こえてくる泡の音に、ルナも鳥肌が立つ。
 いつの間にかパレードの音は消えて、まるで、海に沈みゆくように。
 ドローレは、紡ぐ。
 ゆっくりと言葉を奏でるように。
 けれど、歌わないように。
『わたしは こがれていたの ひろいだいち やさしいひとたち・・・』
 ドローレの様子は、普段と明らかに違った。
「ドローレさん…?」
 故に、思わず心配そうにクレールが窺う。
 すると我を取り戻したように、ドローレは微笑みを浮かべた。
 そしてクレールの両手に込めた力を優しく緩め、くるくると回る。
「私は、ドローレ。楽しい場所に行く、楽しいピグマリオよ」
 そして次は、近くに居た鈴太郎の手を取った。
「どうして悲しそうな顔をしているの?」
「っっ…。おまえ……」
 鈴太郎は、ドローレに引っ張られて踊りながら、唇を噛みしめる。
「なんで……、」
 ――歌わねぇんだよ。
 本当は歌いたいんじゃないだろうか。
 歌うのを我慢しているように感じる鈴太郎は、歌わない理由を聞いていいか躊躇い、ついに聞けなかった。
 自分が抱いていた歪虚との差。
 故に、無自覚で人間の様に扱ってしまったのだ。
 すると。
「あなた、優しいのねっ」
 ドローレは、鈴太郎の気持ちを知ってか知らずか。
 とても好意的な笑顔が零れた。
 その表情に、鈴太郎はまた、複雑な想いを抱く。
 そしてドローレはハンター達の手を取って、ダンスに誘い、音に合わせ、くるりくるりと回っていった。
 そうして気付く。
 人形達が皆、倒れてしまっていたことを。
「あー楽しかった! 今日はもう帰るわ」
「帰るの?」
 真夕が尋ねると、ドローレは頷いた。
 そして、微笑みを浮かべ、箒に跨り、空へと浮上する。
「また遊びましょう」
 その時。
「あ!!」
 悲しそうな表情をしていた鈴太郎だったが、ある事に気付いて、ドローレを呼び止める。
「おぃ、待てよ!」
「? 何かしら?」
 それは……。
「コレどうすンだよ!?」
 パレードで使っていた巨大なフロートだ。
 パレード中大活躍していたそれ。
 しかし持ち帰るには重たいし、でかい。
「…」
 ドローレは少し考えた。結果――
「あげる~♪」
 そう言い残し、ばいばーいと手を振った。
 そして恐るべきスピードでどこかへと飛んで行ってしまったのだった。
 これには呆然と立ち尽くす鈴太郎。
「い、いらねぇ…!!」
 鈴太郎の心からの叫びが、青い空に響き渡ったのだった。





●終幕
「ミィナ!」
 ミィナの元に駆け付け、無事を確認すると安堵の表情が浮かぶヴァレーリオ。
「ヴァレーリオさん、誘導有難うなのん!」
「感謝すんのは俺の方だ。ドローレを追っ払ってくれて、ありがとな。怪我は無かったか?」
「大丈夫なのん! どこも怪我しとらんよ~。でも、ほら。お揃いなのん! うちもドローレさん達にいっぱいペンキ掛けられたんよ」
「え?」
 にこにこ笑顔なミィナは、ちょんちょんとペンキ塗れになったヴァレーリオの頬をついた。
「しっかり拭かんと~」
 ミィナはハンカチを取り、彼の頬を拭くが…。
「んんん…??? 全然取れないんよ」
「もう大丈夫! 大丈夫だからっ!」
 一生懸命ごしごし拭いても、全然消えない。
 それもその筈。
 ペンキは取れても、ヴァレーリオの頬が真っ赤になったままだったのだから。

「不思議な歪虚だったわね」
 と、真夕が呟く。
 ルナは頷いて、そしてドローレとのやりとりを振り返った。
「はっきりと答えてくださった訳ではないですが、それでも何かが起こる事を感じさせるような…。そして彼女の事を少し知れた事は、大きな収穫だったかもしれません」
 それにカフカは、頷いて。
「メロマーヌ、次はどんな舞台を用意してくれるのかな?」
 ドローレが去った青い空を見上げていた。








 ――魔女は紡ぐ。
「待ち遠しい。待ち遠しいわ」
 ――魔女が待ち望む、大きな混沌はもうすぐ。
 その一方で…。
「また…あの子達と遊べるかしら……」
 心密かに、彼ら彼女達とまた会える日を夢見、
 魔女は音に溺れながら、海へ沈む。

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MVP一覧

  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフka0586
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎ka6016

重体一覧

参加者一覧

  • 幸せの魔法
    ミィナ・アレグトーリア(ka0317
    エルフ|17才|女性|魔術師
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • 月氷のトルバドゥール
    カフカ・ブラックウェル(ka0794
    人間(紅)|17才|男性|魔術師
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎(ka6016
    人間(蒼)|22才|女性|格闘士

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マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】さあ、遊びましょう!
クレール・ディンセルフ(ka0586
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/03/26 20:32:40
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/03/23 08:28:20