ゲスト
(ka0000)
カモがネギ狙ってやって来た
マスター:トーゴーヘーゾー

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/17 12:00
- 完成日
- 2014/06/25 05:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「あっ、あれはなんだ!?」
「鳥だ!」
「……そう、その通りだ」
お約束があっさりと終わってしまった。
幾度か発生している事態なので、村人達の態度に危機感は見られない。
人的な被害が深刻ではないため余裕があるというのも、理由のひとつだろう。
編隊を組んだ鳥の群れが、悠々とネギ畑に降りてくる。
「あのカモめっ!」
「カモメ?」
「『鴨』って言ったんだよ!」
それは体がダチョウほどの大きさもあるカモだ。
どんな偶然か、この村のネギを食べて気に入ったらしく、たびたび襲撃しては畑を食い荒らしていく。
自発的に人を襲ったりしないが、追い払おうとすればカモだって当然抵抗する。
ある意味で、村で作るネギのファンとも言えるが、村人にしてみれば迷惑このうえない。
「くそっ! どっか行け!」
青年のひとりが、腹立ちまぎれに拾い上げた石を投げつけてしまう。
「あっ!? バカ!」
グワッ!?
驚いた1羽がこちらを向いて吼えた。
グワッ、グワッ、グワッ!
ネギ畑を踏み荒らしながらこちらへ肉迫するカモに、ふたりの青年が慌てて逃亡する。
「ハンターに依頼して、追い払ってやるからなー! 覚えてろー!」
残されたのは、負け犬の遠吠えであった。
この村で取れるネギは、品質が特別優秀というわけでもなく、ブランド価値だってほとんどない。それでも、村人達にとっては生活の糧であり、重要な収入源なのだ。
このような経緯を経て、ハンターズソサエティへカモ退治の依頼が持ち込まれた。
……ちなみに、踏み荒らされたネギは、カモたちが美味しく頂いたようだ。
「鳥だ!」
「……そう、その通りだ」
お約束があっさりと終わってしまった。
幾度か発生している事態なので、村人達の態度に危機感は見られない。
人的な被害が深刻ではないため余裕があるというのも、理由のひとつだろう。
編隊を組んだ鳥の群れが、悠々とネギ畑に降りてくる。
「あのカモめっ!」
「カモメ?」
「『鴨』って言ったんだよ!」
それは体がダチョウほどの大きさもあるカモだ。
どんな偶然か、この村のネギを食べて気に入ったらしく、たびたび襲撃しては畑を食い荒らしていく。
自発的に人を襲ったりしないが、追い払おうとすればカモだって当然抵抗する。
ある意味で、村で作るネギのファンとも言えるが、村人にしてみれば迷惑このうえない。
「くそっ! どっか行け!」
青年のひとりが、腹立ちまぎれに拾い上げた石を投げつけてしまう。
「あっ!? バカ!」
グワッ!?
驚いた1羽がこちらを向いて吼えた。
グワッ、グワッ、グワッ!
ネギ畑を踏み荒らしながらこちらへ肉迫するカモに、ふたりの青年が慌てて逃亡する。
「ハンターに依頼して、追い払ってやるからなー! 覚えてろー!」
残されたのは、負け犬の遠吠えであった。
この村で取れるネギは、品質が特別優秀というわけでもなく、ブランド価値だってほとんどない。それでも、村人達にとっては生活の糧であり、重要な収入源なのだ。
このような経緯を経て、ハンターズソサエティへカモ退治の依頼が持ち込まれた。
……ちなみに、踏み荒らされたネギは、カモたちが美味しく頂いたようだ。
リプレイ本文
●鴨害のある村
「おやクリムゾンウェストのオーディナリーピーポー諸君、ひどくお困りだね? だが心配ない!悪の天才科学者、ジョナサン・キャラウェイ(ka1084)ここにあり!」
唖然と見返す村人達に構わず、彼は先を続ける。
「難題を前に僕のニューロンは沸き立っている……。つまり君たちの問題はこれからあざやかに解決されるってことさ。うはははっ」
「俺……戦闘とか危ないこと嫌いなのに、なんでこんなところで……。ああ、でも働かないと宿泊費とか食事代稼げないし、働きたくないでござる。働いたら負けだと思うでござる。……危なくなったらにーげようっと」
ハンターへの信頼を低下させそうな如月・涼一(ka1734)の愚痴は、ジョナサンの高笑いにかき消され、幸いにも村人達の耳に届かなかった。
「俺達は鴨退治を引受けたハンターだ」
「そっ、そうだったんですか……」
代表して用件を告げた伊出 陸雄(ka0249)が、青年団の団長と打ち合わせを始めている。
「畑を大事にしないとバチがあたるでシュ。可愛そうでシュが、鴨には退治されてもらうでシュよ。シュシュシュ」
独特の口調ながら、やる気を見せるシュマ・グラシア(ka1907)。
「ハンターとしての初仕事は鴨退治とお料理ですか♪ 大阪で食べたネギ焼きが美味しかったので、それを作ってみようかな?」
天竜寺 詩(ka0396)の言葉に、シュマのやる気の方向性がころっと変る。
「ターゲットは巨大鴨が5羽。バッチリ仕留めて鴨料理と行くでシュかね!」
実際、詩だけでなく、抱えた荷物が多い者は、調理道具の持参が原因である。
「鴨に葱ですか……。俺の故郷では都合が良いと言う意味になるんですけどねぇ。この村の人達にもその意味を分かってもらいたいものです」
九竜 諒斗(ka1290)の言葉に約半数が頷いている。
「団長との交渉で、鴨を迎え撃つのは、被害のあった畑の隣に決まったぞ。順当に言って、次に荒らされるのはその畑だろうしな」
仲間を現場へ向かわせると、陸雄は別行動を取る。
(畑の地主さんには直接、挨拶とお詫びをしとかないとな。育ててきた作物が荒らされるのは、腹が立つだろうし、悲しいもんだろうから)
青々と育ったネギの畑を目にして、ランカ(ka0327)も同様の思いを抱く。
「折角、ここまで大切に育てたネギを……」
神妙な言葉とは裏腹に、ロト(ka0323)がツッコんだ。
「……ネギ畑を見て、ヨダレを垂らすのはランカぐらいだろうね」
「な、何をいってるのかな。……まぁ、美味しそうだとは思ったけどさ」
取り繕うも、口元を慌てて拭ってる時点で、ロト以外にもその心情はまるわかりだ。
「え、なに、その鴨に対するような疑惑の視線……おほんっ、鴨さん、食い逃げはいかん……と思うよ」
「相変わらずだね。……まさか、同じ依頼をランカも受けてるとは思わず、知った時は驚いたんだけど」
「やっぱり腐れ縁なんだろうね」
期せずして依頼で顔を合わせた幼なじみが、笑いあった。
「さしあたっての課題は巨大な鳥の駆除。問題点は連中が空を飛び広範囲の畑を食い荒らす事。だが、この僕の悪魔的発想力は既に決定的な戦術を導いている……」
例の調子でジョナサンが話を進める。
「なんでも、日本では確かこういうの……を畑に置いて鳥よけにするそうじゃないか」
宙を指した彼が、指をぐるぐると回す。
「……ああ。鳥よけの風船か。目玉っぽい柄の」
「日本の農村でよく見かける鳥よけだね。上手く使えば、鴨を誘導できるかも」
涼一や詩といったリアルブルー人がすぐに意図を察した。
「僕は日曜大工も得意だからね。村にあった材木なんかで、あれを模した看板を作るのはどうだろう?」
村人達が提供してくれた廃材で作業を進めているところへ、畑の主に了承を得た陸雄も合流する。
「お手伝いできるところがあれば手伝いたいけど……幼女に出来ることってなんでシュかね。……応援?」
そう結論づけたシュマにロトが声をかける。
「手が空いてるなら、靴にこのロープでも巻いておいたら? 畑だと足場が悪いしね」
「そうシュるでシュ」
「ロトが持ってきた長さだと、みんなの分には足りないよね。これは、使ってもいいのかな?」
「看板の制作用の材料ですけど、鴨退治に活用するならかまわないでしょう」
ランカや諒斗の会話を踏まえ、皆も滑り止めにロープを巻きつけていく。
●鴨のいる畑
準備を終えた一同は畑を見張りながら身を潜める。
「私のこの食に対する情熱! 鴨よ、覚悟しろー!」
「ナイフとフォークを装備するのは、あまりに気が早いんじゃないかな」
気勢を上げるランカを、ロトがツッコんでいた。
「危険からは隠れるもの……」
そんな涼一のポリシーに即した待ち伏せ作業も、陸雄の言葉で終わりの時が訪れる。
「あれが問題の鴨だな。……確かになかなかの大きさだ」
「本当ね」
「そうでシュね」
ランカとシュマが目を輝かせるのは、おそらく、食いでがあると考えたからだ。
「鴨の目的は畑の葱です。攻撃を加えるのは、完全に地面へ降り立ってからにしましょう」
諒斗達が向ける視線に気づくことなく、バッサバッサという羽ばたきの音がこちらまで届く。
編隊を組んで畑への着陸体勢に入った鴨を眺め、シュマは集中を発動させた。
お楽しみの葱にかぶりつく鴨の群れ。
「……いまです!」
一斉に攻撃が加えられた。
魔術師からは2本のマジックアロー、機導師からは2条の光線が放たれた。
「……浅いか?」
無事な1羽が慌てて飛び立ち、ジョナサンが捉えた1羽もそれを追う。
「それでも、鴨は遠距離での攻撃手段を持ってないしね。ただの的でしかない」
ロトが告げた通り、2羽にはそれぞれ2種の攻撃が届いた。撃ち落とされて真っ逆さまに落下する2羽。
「このまま、後衛組と連携して安全圏から機導砲で狙い、とどめは前衛に任せる。これなら攻撃の効率もいいし、何より僕が痛い目を見ずに済む。完璧じゃないか。うははっ!」
作戦が順調なこともあり、ジョナサンは上機嫌だ。
ちなみに、前衛にいる涼一も似たような方針だったりする。
「っとぉ! だから危険は嫌いだし逃げるって!」
ズザザザザーッと派手な音を立てて、鴨から距離を取る涼一。
「蝶のように舞い、ゴキブリのように逃げる! ――と見せかけて蜂のように刺す! そして逃げる!」
どこかで聞いたようなフレーズを用いて、ヒットアンドウェイを繰り返す。
「うまく羽を斬り落とせば、逃亡の可能性は大きく減るんだけど」
強打を発動させたランカは、ロングソードとナイフを交差させて、対峙する鴨の左翼を断ち切った。
葱を踏み、土を崩しながら、痛みに暴れる鴨へ、ランカが追撃を加える。
「地上での戦いで、勝てるとは思わない事だな」
翼や首を振りたくる鴨の動きは、陸雄の目から見ていかにも不格好だ。
彼のロングソードが強打の一閃で、鴨の首を跳ねとばす。
なんとか飛び立った鴨も、すぐさま後衛に狙い撃たれて、離脱を阻まれていた。
「……優勢なのはいいことなんだけどね」
『いざ出陣!』と勇んで戦いに臨んだものの、回復役の彼女の出番は非常に少ない。
ランカや陸雄へヒールをかけてはいたが、戦況はハンター側の優位で進んでいる。
「お怪我をされたら言ってくださいねー」
「わかった」
「期待してる」
「ありがとう」
との呼びかけに、軽く応じられるだけの余裕があるのだ。
「隣の畑に移動するでシュ!」
声に反応したロトが、マジックアローで鴨の逃走を阻止する。
「……なんだ、看板の影にいたのか。あれじゃ、見えないはずだ」
看板の陰から頭を出したシュマの様子に、ロトの口元に笑みを浮かべた。
「これも仕事っと」
ランアウトを使った涼一が、墜落した鴨へ到達する。スラッシュエッジの効果もあって、ショートソードが胴体を貫き、あっさりと鴨を絶命させる。
「ふむ、鳥よけの風船でも慣れるという話は聞くが……。鴨のサイズが大きい分だけ、『あの目』も大きく書かなければ効果が薄かったのかな?」
そんな風にジョナサンが分析する。
自分から逃げようとした鴨へ、とっさにランカはナイフを投げつけていた。
鴨が暴れて抜け落ちたナイフは、踏み荒らされた土の中に埋もれてしまい、回収できたのは戦いが終わった後のことだった。
鴨が向かった先に詩がいた。
咄嗟にメイスファイティングを施し、彼女はワンドで殴り飛ばす。グシャリという手応えと共に、鴨の頭が粉砕された。
「戦うつもりは無かったんですけどねえ」
意外な展開に驚く詩。
残り1羽となったため、後方支援組から一斉掃射が行われた。
それこそ四方から攻撃を浴びせられて、鴨の身体が土に沈む。
「意外に早く終わったな。あくまでも野生生物ということか」
陸雄の感想は、おそらく皆に共通したものだろう。
「無事片付きましたし、次はお料理だね♪」
楽しそうな詩の声が、戦いを締めくくった。
●鴨葱味わうべし
こわごわと様子をうかがいにきた村人に、陸雄やランカが強く訴える。
「鶏の解体やったことありますかぃ? ある? なら話は早ぇや。同じ要領でさぁ。この害獣、食ったらうめぇんですぜぃ」
「鴨! 鳥肉! こんな食材があるのに食べないだなんて勿体ない! それに、村で作っているネギと鳥肉が、相乗効果でとても美味しくなるんだから!」
獲物の解体など日常茶飯事の村なので、経験者が作業に加わった。
「肉が美味しいだけでなく、羽も色々と使い道があると思いますよ。特に羽のサイズが大きいですし」
血抜きをした鴨の羽を、諒斗や陸雄がむしっていく。
「風切り羽は装飾品、羽毛は防寒具や寝具にも使えるだろう」
鳥肌をさらした巨大鴨の、肉を切り、骨を断ち、血をしぶかせる。
「……こいつはR18G指定かもな」
陸雄が気づかったのは、居合わせる最年少の少女だ。
「がんばるでシュよー! 鴨料理パーティが待ってるでシュ!」
陸雄の心配をよそに、声援を送っているシュマ。
気を取り直した陸雄は、肉の熟成方法や、調理法についても村人達に教えていく。
「切り分けた肉以外も、鳥ガラなんかは煮込んでスープだな。葱の青い部分と相性がいい」
これまでとは裏腹に、ジョナサンはどこか手持ちぶさたで皆を眺めていた。
「僕自身は鳥の調理に明るいとは言いがたいしねぇ。……そういえば、数が足りないかな」
「あ、鴨肉を焼いた後は串を打って吊るして、しばらく血抜きをしておくといいでシュ。そのままだと鉄くさいでシュよ」
したり顔で注文をつけていたシュマに、ジョナサンが問いかける。
「シュマは調理しないのかな?」
「幼女は危ないから火や包丁を使っちゃダメなんでシュよ。なので口だけ出しておくでシュ」
「僕のカマド作りに手を貸してくれると、その分だけ料理の完成が早まるよ」
「しょうがないから、手伝うでシュ」
こうして、手頃な石を拾い集めにシュマは駆け回ることになった。
「牛すじや蒟蒻は砂糖と醤油でじっくり煮込まないと」
詩の鍋はリアルブルー製だ。彼女がサルヴァトーレ・ロッソから持ち出したのは、道具類だけでなく、調味料なども含めて多岐に渡る。
鍋の中身はあくまでも食材のひとつな。次の工程のために、彼女は小麦粉を水で溶き始めた。
「……単純な炒め物は、他の人が作りそうだからなぁ」
調理に自信のないロトへ、幼なじみが声をかける。
「私を手伝ってよ。普通の鴨なら丸焼きにしたいところだけど、このサイズじゃ無理だしね」
苦笑するランカに手を貸して、分厚い肉の塊を切り分ける。
「こうして葱の表面が黒くなるまで焼いて、中まで火を通します。食べる時には表面を剥いて、塩をさっと振り、オリーブオイルもかけると美味しいですよ」
確かに美味しいが、オリーブオイルの入手法で彼等は頭を悩ませる。
諒斗はさらに、鴨肉を焼いて出た油で葱を炒めた。問題は凝ったソースの方で、オレンジジュース、ワイン、バター、蜂蜜を使っているのだから、村人の悩みは増すばかりだ。
「ソースが難しいなら、塩だけでもいいですよ」
「だけど、このソースが……。ソースが……」
諦めきれない村人の嘆き。
「砂肝、レバーはバター炒めにする。心臓は塩胡椒を振って串焼きだな」
調理したそれを、村人の前で陸雄は自分の口に放り込む。
「ああーっ!?」
「味見だ、味見! かぁー! うめぇ! 新鮮&天然に勝るものなし! ほら、食ってみろ! 葱の風味とめっちゃ合うぜコレ!」
ハンター達がカマドで調理する端から、料理が消えていく。
そんな中に、シュマの小さな姿も混じっていた。
「『大食』のスキルを持っているのは、こういう時のためでシュ」
陸雄の口にする『おいしいご飯は幸せの元』を地でいく彼女であった。
「……美味しそうな顔をして食べてる人を見てるだけで、お腹いっぱいだよ」
ロトが手伝ったランカの方も盛況で、そういった意味でも充実感はあるのだ。
「ただの丸焼きなら、専用の道具が無くても結構簡単に作れるし、あと調味料も村の方で日頃使うのに合わせて食べられそうでしょ? 因みに鴨肉は堅いから薄く切って食べてね」
「なんだこれ?」
「大阪ってところの料理で、ネギ焼きっていうの。美味しいから食べてみて」
毛色の違った料理に手を出した村人は、詩の言葉が正しい事を実体験で知る。
村人達が、いくつものカマドを取り囲み、味わい、語っていた。
王道の鴨鍋を振る舞っているのは涼一だ。
「巨大鴨を追い返すんじゃなく、逆に考えるんだよ。いっそ、来てくれた方が、美味しくいただけるチャンスが来たってな。ほらネギとも良くあうだろ?」
笑って見せる涼一に、陸雄も頷く。
「災い転じて福となすだ。村のみんなには、害獣に負けず逞しく生きてって欲しいからな」
「涼一は、それも早く料理するでシュ」
めざとく見つけたシュマの要求に、涼一が慌てた。
「いや、これは違うんだ。……お土産に持って帰ろうかと。いやー、知り合い達が鴨鍋を期待しててさぁ」
事前に書き出しておいたレシピと引き替えに、取り置きした材料である。
疲れた様子で弁解する涼一は、なぜか皆の同情を誘った。
かくして、村人達はネギで鴨を釣るようになり、村では不定期に鴨料理祭りが行われる。
誰が入れ知恵したのか、リアルブルー由来のネーミングで『鴨-1』などと呼ばれ、この祭りは親しまれていくのだ。
「おやクリムゾンウェストのオーディナリーピーポー諸君、ひどくお困りだね? だが心配ない!悪の天才科学者、ジョナサン・キャラウェイ(ka1084)ここにあり!」
唖然と見返す村人達に構わず、彼は先を続ける。
「難題を前に僕のニューロンは沸き立っている……。つまり君たちの問題はこれからあざやかに解決されるってことさ。うはははっ」
「俺……戦闘とか危ないこと嫌いなのに、なんでこんなところで……。ああ、でも働かないと宿泊費とか食事代稼げないし、働きたくないでござる。働いたら負けだと思うでござる。……危なくなったらにーげようっと」
ハンターへの信頼を低下させそうな如月・涼一(ka1734)の愚痴は、ジョナサンの高笑いにかき消され、幸いにも村人達の耳に届かなかった。
「俺達は鴨退治を引受けたハンターだ」
「そっ、そうだったんですか……」
代表して用件を告げた伊出 陸雄(ka0249)が、青年団の団長と打ち合わせを始めている。
「畑を大事にしないとバチがあたるでシュ。可愛そうでシュが、鴨には退治されてもらうでシュよ。シュシュシュ」
独特の口調ながら、やる気を見せるシュマ・グラシア(ka1907)。
「ハンターとしての初仕事は鴨退治とお料理ですか♪ 大阪で食べたネギ焼きが美味しかったので、それを作ってみようかな?」
天竜寺 詩(ka0396)の言葉に、シュマのやる気の方向性がころっと変る。
「ターゲットは巨大鴨が5羽。バッチリ仕留めて鴨料理と行くでシュかね!」
実際、詩だけでなく、抱えた荷物が多い者は、調理道具の持参が原因である。
「鴨に葱ですか……。俺の故郷では都合が良いと言う意味になるんですけどねぇ。この村の人達にもその意味を分かってもらいたいものです」
九竜 諒斗(ka1290)の言葉に約半数が頷いている。
「団長との交渉で、鴨を迎え撃つのは、被害のあった畑の隣に決まったぞ。順当に言って、次に荒らされるのはその畑だろうしな」
仲間を現場へ向かわせると、陸雄は別行動を取る。
(畑の地主さんには直接、挨拶とお詫びをしとかないとな。育ててきた作物が荒らされるのは、腹が立つだろうし、悲しいもんだろうから)
青々と育ったネギの畑を目にして、ランカ(ka0327)も同様の思いを抱く。
「折角、ここまで大切に育てたネギを……」
神妙な言葉とは裏腹に、ロト(ka0323)がツッコんだ。
「……ネギ畑を見て、ヨダレを垂らすのはランカぐらいだろうね」
「な、何をいってるのかな。……まぁ、美味しそうだとは思ったけどさ」
取り繕うも、口元を慌てて拭ってる時点で、ロト以外にもその心情はまるわかりだ。
「え、なに、その鴨に対するような疑惑の視線……おほんっ、鴨さん、食い逃げはいかん……と思うよ」
「相変わらずだね。……まさか、同じ依頼をランカも受けてるとは思わず、知った時は驚いたんだけど」
「やっぱり腐れ縁なんだろうね」
期せずして依頼で顔を合わせた幼なじみが、笑いあった。
「さしあたっての課題は巨大な鳥の駆除。問題点は連中が空を飛び広範囲の畑を食い荒らす事。だが、この僕の悪魔的発想力は既に決定的な戦術を導いている……」
例の調子でジョナサンが話を進める。
「なんでも、日本では確かこういうの……を畑に置いて鳥よけにするそうじゃないか」
宙を指した彼が、指をぐるぐると回す。
「……ああ。鳥よけの風船か。目玉っぽい柄の」
「日本の農村でよく見かける鳥よけだね。上手く使えば、鴨を誘導できるかも」
涼一や詩といったリアルブルー人がすぐに意図を察した。
「僕は日曜大工も得意だからね。村にあった材木なんかで、あれを模した看板を作るのはどうだろう?」
村人達が提供してくれた廃材で作業を進めているところへ、畑の主に了承を得た陸雄も合流する。
「お手伝いできるところがあれば手伝いたいけど……幼女に出来ることってなんでシュかね。……応援?」
そう結論づけたシュマにロトが声をかける。
「手が空いてるなら、靴にこのロープでも巻いておいたら? 畑だと足場が悪いしね」
「そうシュるでシュ」
「ロトが持ってきた長さだと、みんなの分には足りないよね。これは、使ってもいいのかな?」
「看板の制作用の材料ですけど、鴨退治に活用するならかまわないでしょう」
ランカや諒斗の会話を踏まえ、皆も滑り止めにロープを巻きつけていく。
●鴨のいる畑
準備を終えた一同は畑を見張りながら身を潜める。
「私のこの食に対する情熱! 鴨よ、覚悟しろー!」
「ナイフとフォークを装備するのは、あまりに気が早いんじゃないかな」
気勢を上げるランカを、ロトがツッコんでいた。
「危険からは隠れるもの……」
そんな涼一のポリシーに即した待ち伏せ作業も、陸雄の言葉で終わりの時が訪れる。
「あれが問題の鴨だな。……確かになかなかの大きさだ」
「本当ね」
「そうでシュね」
ランカとシュマが目を輝かせるのは、おそらく、食いでがあると考えたからだ。
「鴨の目的は畑の葱です。攻撃を加えるのは、完全に地面へ降り立ってからにしましょう」
諒斗達が向ける視線に気づくことなく、バッサバッサという羽ばたきの音がこちらまで届く。
編隊を組んで畑への着陸体勢に入った鴨を眺め、シュマは集中を発動させた。
お楽しみの葱にかぶりつく鴨の群れ。
「……いまです!」
一斉に攻撃が加えられた。
魔術師からは2本のマジックアロー、機導師からは2条の光線が放たれた。
「……浅いか?」
無事な1羽が慌てて飛び立ち、ジョナサンが捉えた1羽もそれを追う。
「それでも、鴨は遠距離での攻撃手段を持ってないしね。ただの的でしかない」
ロトが告げた通り、2羽にはそれぞれ2種の攻撃が届いた。撃ち落とされて真っ逆さまに落下する2羽。
「このまま、後衛組と連携して安全圏から機導砲で狙い、とどめは前衛に任せる。これなら攻撃の効率もいいし、何より僕が痛い目を見ずに済む。完璧じゃないか。うははっ!」
作戦が順調なこともあり、ジョナサンは上機嫌だ。
ちなみに、前衛にいる涼一も似たような方針だったりする。
「っとぉ! だから危険は嫌いだし逃げるって!」
ズザザザザーッと派手な音を立てて、鴨から距離を取る涼一。
「蝶のように舞い、ゴキブリのように逃げる! ――と見せかけて蜂のように刺す! そして逃げる!」
どこかで聞いたようなフレーズを用いて、ヒットアンドウェイを繰り返す。
「うまく羽を斬り落とせば、逃亡の可能性は大きく減るんだけど」
強打を発動させたランカは、ロングソードとナイフを交差させて、対峙する鴨の左翼を断ち切った。
葱を踏み、土を崩しながら、痛みに暴れる鴨へ、ランカが追撃を加える。
「地上での戦いで、勝てるとは思わない事だな」
翼や首を振りたくる鴨の動きは、陸雄の目から見ていかにも不格好だ。
彼のロングソードが強打の一閃で、鴨の首を跳ねとばす。
なんとか飛び立った鴨も、すぐさま後衛に狙い撃たれて、離脱を阻まれていた。
「……優勢なのはいいことなんだけどね」
『いざ出陣!』と勇んで戦いに臨んだものの、回復役の彼女の出番は非常に少ない。
ランカや陸雄へヒールをかけてはいたが、戦況はハンター側の優位で進んでいる。
「お怪我をされたら言ってくださいねー」
「わかった」
「期待してる」
「ありがとう」
との呼びかけに、軽く応じられるだけの余裕があるのだ。
「隣の畑に移動するでシュ!」
声に反応したロトが、マジックアローで鴨の逃走を阻止する。
「……なんだ、看板の影にいたのか。あれじゃ、見えないはずだ」
看板の陰から頭を出したシュマの様子に、ロトの口元に笑みを浮かべた。
「これも仕事っと」
ランアウトを使った涼一が、墜落した鴨へ到達する。スラッシュエッジの効果もあって、ショートソードが胴体を貫き、あっさりと鴨を絶命させる。
「ふむ、鳥よけの風船でも慣れるという話は聞くが……。鴨のサイズが大きい分だけ、『あの目』も大きく書かなければ効果が薄かったのかな?」
そんな風にジョナサンが分析する。
自分から逃げようとした鴨へ、とっさにランカはナイフを投げつけていた。
鴨が暴れて抜け落ちたナイフは、踏み荒らされた土の中に埋もれてしまい、回収できたのは戦いが終わった後のことだった。
鴨が向かった先に詩がいた。
咄嗟にメイスファイティングを施し、彼女はワンドで殴り飛ばす。グシャリという手応えと共に、鴨の頭が粉砕された。
「戦うつもりは無かったんですけどねえ」
意外な展開に驚く詩。
残り1羽となったため、後方支援組から一斉掃射が行われた。
それこそ四方から攻撃を浴びせられて、鴨の身体が土に沈む。
「意外に早く終わったな。あくまでも野生生物ということか」
陸雄の感想は、おそらく皆に共通したものだろう。
「無事片付きましたし、次はお料理だね♪」
楽しそうな詩の声が、戦いを締めくくった。
●鴨葱味わうべし
こわごわと様子をうかがいにきた村人に、陸雄やランカが強く訴える。
「鶏の解体やったことありますかぃ? ある? なら話は早ぇや。同じ要領でさぁ。この害獣、食ったらうめぇんですぜぃ」
「鴨! 鳥肉! こんな食材があるのに食べないだなんて勿体ない! それに、村で作っているネギと鳥肉が、相乗効果でとても美味しくなるんだから!」
獲物の解体など日常茶飯事の村なので、経験者が作業に加わった。
「肉が美味しいだけでなく、羽も色々と使い道があると思いますよ。特に羽のサイズが大きいですし」
血抜きをした鴨の羽を、諒斗や陸雄がむしっていく。
「風切り羽は装飾品、羽毛は防寒具や寝具にも使えるだろう」
鳥肌をさらした巨大鴨の、肉を切り、骨を断ち、血をしぶかせる。
「……こいつはR18G指定かもな」
陸雄が気づかったのは、居合わせる最年少の少女だ。
「がんばるでシュよー! 鴨料理パーティが待ってるでシュ!」
陸雄の心配をよそに、声援を送っているシュマ。
気を取り直した陸雄は、肉の熟成方法や、調理法についても村人達に教えていく。
「切り分けた肉以外も、鳥ガラなんかは煮込んでスープだな。葱の青い部分と相性がいい」
これまでとは裏腹に、ジョナサンはどこか手持ちぶさたで皆を眺めていた。
「僕自身は鳥の調理に明るいとは言いがたいしねぇ。……そういえば、数が足りないかな」
「あ、鴨肉を焼いた後は串を打って吊るして、しばらく血抜きをしておくといいでシュ。そのままだと鉄くさいでシュよ」
したり顔で注文をつけていたシュマに、ジョナサンが問いかける。
「シュマは調理しないのかな?」
「幼女は危ないから火や包丁を使っちゃダメなんでシュよ。なので口だけ出しておくでシュ」
「僕のカマド作りに手を貸してくれると、その分だけ料理の完成が早まるよ」
「しょうがないから、手伝うでシュ」
こうして、手頃な石を拾い集めにシュマは駆け回ることになった。
「牛すじや蒟蒻は砂糖と醤油でじっくり煮込まないと」
詩の鍋はリアルブルー製だ。彼女がサルヴァトーレ・ロッソから持ち出したのは、道具類だけでなく、調味料なども含めて多岐に渡る。
鍋の中身はあくまでも食材のひとつな。次の工程のために、彼女は小麦粉を水で溶き始めた。
「……単純な炒め物は、他の人が作りそうだからなぁ」
調理に自信のないロトへ、幼なじみが声をかける。
「私を手伝ってよ。普通の鴨なら丸焼きにしたいところだけど、このサイズじゃ無理だしね」
苦笑するランカに手を貸して、分厚い肉の塊を切り分ける。
「こうして葱の表面が黒くなるまで焼いて、中まで火を通します。食べる時には表面を剥いて、塩をさっと振り、オリーブオイルもかけると美味しいですよ」
確かに美味しいが、オリーブオイルの入手法で彼等は頭を悩ませる。
諒斗はさらに、鴨肉を焼いて出た油で葱を炒めた。問題は凝ったソースの方で、オレンジジュース、ワイン、バター、蜂蜜を使っているのだから、村人の悩みは増すばかりだ。
「ソースが難しいなら、塩だけでもいいですよ」
「だけど、このソースが……。ソースが……」
諦めきれない村人の嘆き。
「砂肝、レバーはバター炒めにする。心臓は塩胡椒を振って串焼きだな」
調理したそれを、村人の前で陸雄は自分の口に放り込む。
「ああーっ!?」
「味見だ、味見! かぁー! うめぇ! 新鮮&天然に勝るものなし! ほら、食ってみろ! 葱の風味とめっちゃ合うぜコレ!」
ハンター達がカマドで調理する端から、料理が消えていく。
そんな中に、シュマの小さな姿も混じっていた。
「『大食』のスキルを持っているのは、こういう時のためでシュ」
陸雄の口にする『おいしいご飯は幸せの元』を地でいく彼女であった。
「……美味しそうな顔をして食べてる人を見てるだけで、お腹いっぱいだよ」
ロトが手伝ったランカの方も盛況で、そういった意味でも充実感はあるのだ。
「ただの丸焼きなら、専用の道具が無くても結構簡単に作れるし、あと調味料も村の方で日頃使うのに合わせて食べられそうでしょ? 因みに鴨肉は堅いから薄く切って食べてね」
「なんだこれ?」
「大阪ってところの料理で、ネギ焼きっていうの。美味しいから食べてみて」
毛色の違った料理に手を出した村人は、詩の言葉が正しい事を実体験で知る。
村人達が、いくつものカマドを取り囲み、味わい、語っていた。
王道の鴨鍋を振る舞っているのは涼一だ。
「巨大鴨を追い返すんじゃなく、逆に考えるんだよ。いっそ、来てくれた方が、美味しくいただけるチャンスが来たってな。ほらネギとも良くあうだろ?」
笑って見せる涼一に、陸雄も頷く。
「災い転じて福となすだ。村のみんなには、害獣に負けず逞しく生きてって欲しいからな」
「涼一は、それも早く料理するでシュ」
めざとく見つけたシュマの要求に、涼一が慌てた。
「いや、これは違うんだ。……お土産に持って帰ろうかと。いやー、知り合い達が鴨鍋を期待しててさぁ」
事前に書き出しておいたレシピと引き替えに、取り置きした材料である。
疲れた様子で弁解する涼一は、なぜか皆の同情を誘った。
かくして、村人達はネギで鴨を釣るようになり、村では不定期に鴨料理祭りが行われる。
誰が入れ知恵したのか、リアルブルー由来のネーミングで『鴨-1』などと呼ばれ、この祭りは親しまれていくのだ。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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作戦等相談用スレッド ジョナサン・キャラウェイ(ka1084) 人間(リアルブルー)|28才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/06/17 03:41:47 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/16 20:39:56 |