ゲスト
(ka0000)
【AP】大人の夢
マスター:葉槻
オープニング
CIAO! ようこそPretty Monkeyの夢芝居屋へ!
あたしが夢の案内人のおサルさんですよ。
あぁ、残念ながらイモ食べたりもしないし、あんたの毛繕いしたりもしませんけどね!
ここではあんたのみたい夢を見せてあげます。
どんな夢がお望みですか?
明るい夢? 楽しい夢? まだ見ぬ夢?
何だっていいんですよ、あんたのお望みの夢を叶えてあげましょう!
……
…………
……………………
あぁ、そうそう。一つだけ条件があるのを忘れていました。
■■■この夢では“大人”がキーワードです■■■
あんたが見るのはある一族の成人の儀式?
それとも、ちょっぴり成長したあの時の思い出?
それとも……憧れたあの人との日々の記憶……?
ウキー! ウキキキキキッ!
さぁ、あたしに見せて下さい。
あんたが見る『大人の夢』を。
ウキキキキーッ。
……ただし、夢を見て、現実に帰ったときに
「嗚呼!! もっと夢の中にいたかった!! 夢の中に帰りたい!!」
……なんて、現実に絶望することになっても、あたしはなぁんの責任も取りませんからね!
ウキキキキキキキーッ。
ウキキキキーッ。
ウキーッ、ウキキキキーッ。
――あぁ、これは夢だ。
あなたはふとした瞬間にそれに気付づくだろう。
それは最初から? それとも起きたときに初めて気付く?
それは遠い記憶、不確かな思い出。
それは繰り返し見る同じ夢。
現実とは違う、無限ループの挟間の一部。
それなのに起きると同時に、夢の内容を忘れるかもしれない。
クラクラと定まらぬ空間で、あなたは手を伸ばす。
――あぁ、これは夢だ。
あたしが夢の案内人のおサルさんですよ。
あぁ、残念ながらイモ食べたりもしないし、あんたの毛繕いしたりもしませんけどね!
ここではあんたのみたい夢を見せてあげます。
どんな夢がお望みですか?
明るい夢? 楽しい夢? まだ見ぬ夢?
何だっていいんですよ、あんたのお望みの夢を叶えてあげましょう!
……
…………
……………………
あぁ、そうそう。一つだけ条件があるのを忘れていました。
■■■この夢では“大人”がキーワードです■■■
あんたが見るのはある一族の成人の儀式?
それとも、ちょっぴり成長したあの時の思い出?
それとも……憧れたあの人との日々の記憶……?
ウキー! ウキキキキキッ!
さぁ、あたしに見せて下さい。
あんたが見る『大人の夢』を。
ウキキキキーッ。
……ただし、夢を見て、現実に帰ったときに
「嗚呼!! もっと夢の中にいたかった!! 夢の中に帰りたい!!」
……なんて、現実に絶望することになっても、あたしはなぁんの責任も取りませんからね!
ウキキキキキキキーッ。
ウキキキキーッ。
ウキーッ、ウキキキキーッ。
――あぁ、これは夢だ。
あなたはふとした瞬間にそれに気付づくだろう。
それは最初から? それとも起きたときに初めて気付く?
それは遠い記憶、不確かな思い出。
それは繰り返し見る同じ夢。
現実とは違う、無限ループの挟間の一部。
それなのに起きると同時に、夢の内容を忘れるかもしれない。
クラクラと定まらぬ空間で、あなたは手を伸ばす。
――あぁ、これは夢だ。
リプレイ本文
●I Vow To Thee, My Country
私、高瀬 未悠(ka3199)が隊長としては初陣となる作戦。
「頼りにしているよ」
緊張で表情を強張らせていた私に彼が声を掛けてくれた。
「……任せて」
たとえ、副師団長という立場からの言葉だったとしても嬉しい。
でも顔には出さず短く応え号令を放つ。
第一師団の一般兵として下積みをして、ようやく掴んだ隊長の座。
ハンターから兵士への転身は方々からそれこそ色々言われた。
それでも“『彼』を支えたい”という一念だけで今日まで来た。
守るべき命を守れず、深い後悔と自己嫌悪に囚われていた時に彼が前を進む勇気をくれた、恩人にして秘かに愛する人。
――上手く行くはずだった。
相手は格下で、作戦に抜かりは無かった。
それなのに、伏兵と増援に包囲され部下が次々に倒れていく。
この状況を一刻も早く指揮官の彼に伝えなければ。
「ここは任せて下さい」
「高瀬隊長、行って下さい!」
殿の二人に背を押され走り出す。
「必ず迎えに来るわ」
返した言葉は隊長としての顔で言えた筈だ。
その心の中では『ごめんなさい』と何度も叫んでいたとしても。
作戦は甚大な被害をだしたものの、彼の咄嗟の機転が功を成し辛勝を収めた。
そして、真面目で勇敢だった部下達は、誰ひとり残らず皆息絶えていた。
男の子が産まれたのだと目尻を下げた彼は、血と泥の上に沈んでいた。
来月結婚するのだとはにかんだ彼女は、首から上が無かった。
その向こうで倒れている彼には今年成人したという息子が。
辛うじて人の形を残している彼には年老いた両親が。
部下1人だけでは無い。その家族の幸せまで奪ったのだ。
「何故悲しむんだい? 彼らの遺志はここで哀れんでもらうことかい?」
立ち竦む私の背後から聞こえてきた声に振り返る。
背に広がる業火の逆光に照らされた彼の顔を見た瞬間、弱音、涙、甘え……溢れ出そうな全てを堪えた。
全の為に個を犠牲にする決断。
守らねばならない責任感。
守れなかった罪悪感。
彼は幾度この重圧と痛みに耐えたのだろう。
「……いいえ」
そう答えるのがやっとの私の頭に大きくて暖かな手のひらが置かれた。
「大人になったね」
そう言うくせに子供をあやすような仕草は優しく温かくて。
『大人』になりたい私と『子供』でいたい私を見抜かれた気がした。
目が覚めて、彼が触れた頭に手をやる。
ああ、私はまた彼に救われた。
この想いが叶わなくてもいい。
いつか彼を救える私になれますように。
●リトルビット・オトナヒット
「浅黄さん、お世話になりました」
振り返ると人の良さそうなお婆さんが微笑みながら私に頭を下げた。
「あぁ、タマちゃん。ますます美人はんになって……きっと公園でモテモテやね」
先ほどトリミングカットを終えたばかりのトイプードルのタマちゃんがお婆さんの腕の中で嬉しそうに尻尾を振っている。
「浅黄さーん」と奥から呼ぶ声が聞こえて「はい!」と返事をしつつ、お婆さんに会釈をして別れた。
ペットトリマーの仕事は楽しい。
元々動物に関わる仕事がしたいと思っていた私には天職かも知れない。
中学高校と吹奏楽に打ち込んで先輩や後輩に揉まれる内に人見知りがちだった性格もすっかり矯正された。
両親もよかったねと言ってくれる。先輩達には感謝しかない。
「あぁ、おねえはん達はお元気やろか……」
呟いて、ぐらりとセカイが歪む。
……そしてこれは夢だと気付いてしまった。
夢の中の『私』はテキパキと仕事をこなし、充実した日々を過ごしている。
それを浅黄 小夜(ka3062)は俯瞰するように見ていた。
あのままリアルブルーで過ごせていたら。
あの帰り道を通らなければ、今頃中学生になれた筈だった。
中学の勉強は小学校より難しいと聞いていた。
帰れそうな兆しはあるけれど、いざ帰れたとして今からで勉強について行けるのだろうか。
幸いにして転移後すぐにリゼリオで保護され、今はハンターとして生活が出来ている。
少しずつ繋がった人との縁。おねえはん、おにいはんと慕う人々と過ごす日々。自分の意志と手足で作った居場所。
『帰った先』に果たして今見ているような未来はあるのだろうか。
ガシャン、とガラスの割れる音と共に夢は砕けて消えた。
その先に広がるのは、ただただ暗い冥いまとわりつくような一面の闇。
小さな悲鳴を上げて身体を起こす。
カーテンの隙間はほんのりと明るいが、初春の早朝はまだ肌寒い。小夜は自分の身体を抱くように身を縮込ませた。
夢の中の『私』はとても楽しそうに仕事をしていた。
大人になりたいけど、将来の事は怖い。
矛盾した思いを行ったり来たり……みんなは違うのだろうか?
誰かに聞いてみたかったが、聞いても相手を困らせるだけなのも解っているから、今まで誰にも聞いたことはない。
「……早く“大人”になりたいなぁ……」
自分が弱くて子どもなのだと思い知らされた気がして、小夜は膝に額を押しつけて深い息を吐いたのだった。
●Salute D'amour
世界は平和になりました。
歪虚と呼べるほど凶悪な物は無く、時折害虫程度の雑魔対峙に駆り出される程度。
クリムゾンウェストとリアルブルーを遮る諸問題もほぼなくなり、海外旅行へ行く感覚で出入りが自由に出来るようになったんです。
ボクは背が伸びて……本音を言えば、もうちょっと伸びてくれても……でも、声変わりをして少し低くなった声、日々鍛えて厚みを増した肩幅、鏡に映る姿は幼い頃に憧れた“大人”に着実に近づいていると思います。
何よりリアルブルーに住む家族と無事再会した時に、「すっかり一人前になって」と泣いて喜ばた事がボクの自信に繋がりました。
そしてボクを一人前に育ててくれたこのクリムゾンウェストで暮らすことをボクは選んで。
「……よし」
カジュアル過ぎないジャケットに身を包み、襟を正します。
身体は十分“大人”に近づいて。だけど、何よりも“大人”になる事は……勇気を出せるようになる事だとボクは常々思っていました。
今まではどうしても遠回りする事しか出来なくて、きちんと言葉にすることが出来なかったから……
今日こそは勇気を出して、憧れのあの人にちゃんとボクの言葉で気持ちを伝えるんです!
待ち合わせ場所へと向かう途中、予想外のトラブルに巻き込まれたけれど無事5分前には着けました。
なのに。あぁ! 待ち合わせの花壇の前。もうあの人がいました。ボクを待っていてくれています。
しゃんと伸びた背筋、真剣な眼差しで手帳を見つめ、時折、思案するように口元にあてがわれるしなやかな指先。
ふと顔が上げられ、思わず見とれていたボクと視線が合うと、目元は和らぎ薄い唇が弧を描きます。
ボクは慎重にあの人へと近付いていきます。
自分の心音が煩くて、今にも全身が震え出しそうで。
それでも、ボクは逃げず、あの人の前まで辿り着くと、その美しい名前を口にしました。
片膝を付いて、その白い手袋に包まれた手を取ります。
「ボクは、あなたのことが――」
「……ん」
ブレナー ローゼンベック(ka4184)は春の柔らかな日差しに目が覚めた。
夢の内容を覚えていないのが残念だが、あの人が微笑ってくれたような……やることをやりきった後のような、そんなスッキリした目覚めだった。
「さぁ、今日も頑張ろう」
憧れのあの人の隣に立てるよう、ブレナーは今日も邁進する。
●Good Morning, Polar Night
ぼんやりと瞼を瞬かせる。
ダブルベッドの左側に手を伸ばすが、そこには温もりが残るだけ。
「……ふぁ」
欠伸を1つすると、扉の向こうから包丁が刻むリズムが聞こえた。
そのまま微睡んでれば、女2人の楽しそうな声が聞こえてきた。
2人の会話を聞くとも無しに聞いて、思わず頬が緩む。
枕元に置いてある愛刀を一撫ですると、素肌の上にいつもの赤い上着を羽織って髪をまとめて簪を刺してからベッドを出た。
朝の挨拶もそこそこに、台所に立つ嫁と下の娘……あぁ、上の娘は嫁に行ったんだったか、と私は椅子を引いて定位置に座り2人の後ろ姿を眺める。
誰ひとりとして血の繋がりの無い家族だが、私にとっては掛け替えのない『家族』だ。
若い頃の私なら、2人に抱きついてこの幸せを、存在を体で確認しただろう。
……そんなことをしなくなったのはいつ頃からだっただろうか。
ぼんやりと考えながら今朝は一体どんな料理が飛び出てくるのか、と恐怖半分楽しみ半分で待つ。
「あぁ、おはよう、サキムニ」
ユキウサギのサキムニがウサギの月兎と因幡と共に部屋から出てきたので、皿にエサを入れ、サキムニとは仕事の話を始めた。
年月が経とうとも戦うことは変わらない。ただ、戦う理由は変わった。
結婚したばかりの頃の私は、まだ何かに突き動かされるように剣を振るっていた。
だが今の私は“私”として幸せを守るために刀を振るっている。
出てきた朝食はオーバーイージーのサニーサイドアップとソーセージとサラダ。
焦げを削り取ったトーストと、辛うじて色がついただけの紅茶。
……うん、比較的上出来だ。
朝食を取りながらの議題は今日の過ごし方について。
嫁がぼけて、サキムニが助けを求めるように私を見て、娘が突っ込みを入れる。
笑い声が弾けて、私も一緒に笑う。
「今日は天気もいいから、ピクニックついでにあの人のお墓にでも行こうか」
私の提案にサキムニが嬉しそうに頷いて、嫁と娘も笑顔でその提案を受け入れてくれる。
2人がお弁当を作っている間に私とサキムニで洗濯を担当する。
暖かな日差しを受けながら石けんと日なたの匂いを胸一杯に吸い込む。
あの人のお墓に手を合わせても泣かずに今の幸せを静かに報告する。
そんな私を見守ってくれる嫁に私は微笑み返す。
サンドウィッチの出来に全員で顔を綻ばせ、お腹いっぱい頬張る。
月が昇る頃には1人外に出て夜露に濡れた草原で、碧く静かで湿った風を体で受ける。
どこか気まずくて気恥ずかしくて、直視することを避けて駆け抜けてきたそれらを、今の私は全身で感じ、受け止める。
ベッドに潜り込む。
穏やかな嫁の呼吸音を聞いて、そっとその頬を撫でて柔らかな手を取って眠りに落ちた。
玉兎 小夜(ka6009)は、聞こえる笑い声に夢から現実へと引き戻された。
「うー……」
ダブルベッドの左側に手を伸ばすが、そこには温もりが残るだけ。
一抹寂しさを覚えてその温もりに頬を寄せて……目が覚めた。
「夢……」
夢の中の『私』は今の小夜とは違った。
『兎』に逃げている私ではない、なりたい“大人”な小夜だった。
「……いつか夢みたいになって見せるんだ」
今はまだ、自分自身を認められなくても。
いつか、あんな“大人”になってやると小夜は誓い、枕元に置いてある愛刀を一撫でするといつもの赤い上着を羽織って髪をまとめて簪を刺してからベッドを出たのだった。
●RUN
「おい、デクノボー足引っ張んなよ!」
「そっちこそ前でずっこけねぇでくだせぇよ」
出会ってそろそろ15年? 14年? 少なくとも生まれてから出会う前より、2人で過ごした年月の方が長くなった。
時の流れとは面白いもので、血よりも濃いものを作る事があるというが、この2人の絆はまさにその体現と言っていいだろう。
突如成長期を迎え、ぐんと背を伸ばした鬼百合(ka3667)と、残念な事に成長期が来なかった事を逆手に取って、中性的な雰囲気に磨きをかけたお陰で性別不詳という龍華 狼(ka4940)の凸凹コンビは銃弾の雨が降る中を駆け抜ける。
「鬼百合! 行くぞ!」
「うっせ! 行きますぜ、ちゃんと避けなせぇ!」
狼が後方から支援しようとして……首を傾げた。
「あ、スキル切れでさぁ」
「はぁあん!? ざっけんなよお前この局面でか!?」
普段は狼にとって鬼百合は優秀で背中を預けれる相棒としては信頼しているのだが、時々こういうドジを踏んでくれるので全く油断ならない。
「仕方ねぇ、お前が囮。右から行け。一拍遅れて俺が左から回って全部仕留める」
「でも……」
狼の身体能力の高さは目を見張るほどで、一方鬼百合はというと魔導師であることからも平均かやや下回る。
だからこそ、人知れず日夜努力して魔法の腕を磨いているというのに……
(はぁぁ。借りイチ、でさぁ)
溜息1つ。しかし息を吸うと同時に鬼百合は飛び出すと土壁を形成。それに向かって銃撃が放たれる隙に狼が
逆サイドから走り出し、一気に敵を排除すべく抜刀した。
「ウシシシ! 今日の仕事は楽な上にたんまりだぜ!」
机の上に金貨を並べながら狼が下卑た笑い声を上げる。
オフィスや依頼人の前では(金にはがめついが)とても丁寧で人当たりがいいと評判の狼だが、実際のところコッチが素である。
「はい、たぁんと召し上がんなせぇ」
『忙しくても貧しくても三食ちゃんと食べる』をモットーとしている鬼百合特製のごろごろ野菜と鶏肉のシチューが金貨を避けて机の上に置かれる。
「あ、お前今回のポカミスで1割減な」
「えぇ!? そんな、今月は欲しい本がいっぱいありやして!」
「ざけんな。お前があそこでスキル切れとかしやがったからこちとら大怪我負ったんだぞ!」
幸いにして、敵を蹴散らした後、ツテの聖導士に回復を頼めたので大事には至らなかったが、着崩した和服の下、狼の全身にはまだ包帯が巻かれている。
2人揃って金にがめつく、金銭感覚が近い分、互いをベストパートナーだと思っているが、その分シビアな部分があり、今回のミスはそれに当たる。
「それは……申し訳ねぇと思ってますさぁ」
しゅん、と肩を落とし頭を下げる。
「ったく。図体ばっかでかくなりやがって。“仕事の内訳は?”」
「”能力次第”……了解。6:4でOKでさぁ」
財布に余裕があると、ついついうっかり気まぐれに孤児院に寄附などしてしまうものだから蓄えはほとんど無い。
……本代に足りない分は食費を切り詰めようと心に誓う鬼百合。
「そういや、次はこれなんてどうでさぁ」
食事も済んだ頃、鬼百合がハンターオフィスから持ってきた一枚のビラを狼へと手渡す。
「……悪くない。もうちょい吹っ掛けられるな……よし、話し聞きに行くか」
『誘拐された子どもの奪還』
相手は旧貴族の家柄。今も実業家として成功している要するに“正真正銘のお金持ち”。
一通り目を通した狼がニヤリと口角の端を上げる。
こういった依頼は狼が最も好む依頼の1つだった。
金払いのいい依頼人、そして、子どもを迎えてくれる両親。
実は心の何処かでまだ母親が自分を迎えに来てくれると信じている。
「よっしゃ、金儲け行くぜ!」
笑う狼を鬼百合は少し寂しげな眼差しで見つめる。
今は、こうしてダチとして相棒として一緒に居られるのが楽しくて幸せだ。
だが人間である狼とエルフである鬼百合は時間の流れが違う。
あと何年こうやって共に駆け回れるのだろう。
「死なない程度に、な。鬼百合」
「……了解でさぁ」
それでもダチが、家族が、世界が好きだから鬼百合は生きる。
2人でどこまでも行こう。
冗談を言いながら、じゃれ合いながら。
2人で生きている限り。
生きる限り、1人じゃ無い。
荒野も街中も世界の向こう側まで駆け抜けて。
2人ならどこまでも行ける。
「なんか随分気の長い夢を見ちまいましたねぃ」
「なんかすげー理不尽な夢を見た気がするぜ」
2人はまだ醒めきらない頭を掻きながらベッドから降りた。
カーテンを開ければ飛び込む眩しい世界。
違う場所に居ながらも同じ夢を見た……なんて事を2人が知るのはまだ先の未来の話し。
●
おやおや。皆さんお目覚めのようでおはようございます。
今日の夢見は如何でしたでしょうか? お気に召していただけました?
えぇえぇ、またお逢いする機会もありましょう。
その時にはまたこのPretty Monkeyの夢芝居屋をどうぞご贔屓に。
それでは、また逢う日まで、ごきげんようさようなら。
私、高瀬 未悠(ka3199)が隊長としては初陣となる作戦。
「頼りにしているよ」
緊張で表情を強張らせていた私に彼が声を掛けてくれた。
「……任せて」
たとえ、副師団長という立場からの言葉だったとしても嬉しい。
でも顔には出さず短く応え号令を放つ。
第一師団の一般兵として下積みをして、ようやく掴んだ隊長の座。
ハンターから兵士への転身は方々からそれこそ色々言われた。
それでも“『彼』を支えたい”という一念だけで今日まで来た。
守るべき命を守れず、深い後悔と自己嫌悪に囚われていた時に彼が前を進む勇気をくれた、恩人にして秘かに愛する人。
――上手く行くはずだった。
相手は格下で、作戦に抜かりは無かった。
それなのに、伏兵と増援に包囲され部下が次々に倒れていく。
この状況を一刻も早く指揮官の彼に伝えなければ。
「ここは任せて下さい」
「高瀬隊長、行って下さい!」
殿の二人に背を押され走り出す。
「必ず迎えに来るわ」
返した言葉は隊長としての顔で言えた筈だ。
その心の中では『ごめんなさい』と何度も叫んでいたとしても。
作戦は甚大な被害をだしたものの、彼の咄嗟の機転が功を成し辛勝を収めた。
そして、真面目で勇敢だった部下達は、誰ひとり残らず皆息絶えていた。
男の子が産まれたのだと目尻を下げた彼は、血と泥の上に沈んでいた。
来月結婚するのだとはにかんだ彼女は、首から上が無かった。
その向こうで倒れている彼には今年成人したという息子が。
辛うじて人の形を残している彼には年老いた両親が。
部下1人だけでは無い。その家族の幸せまで奪ったのだ。
「何故悲しむんだい? 彼らの遺志はここで哀れんでもらうことかい?」
立ち竦む私の背後から聞こえてきた声に振り返る。
背に広がる業火の逆光に照らされた彼の顔を見た瞬間、弱音、涙、甘え……溢れ出そうな全てを堪えた。
全の為に個を犠牲にする決断。
守らねばならない責任感。
守れなかった罪悪感。
彼は幾度この重圧と痛みに耐えたのだろう。
「……いいえ」
そう答えるのがやっとの私の頭に大きくて暖かな手のひらが置かれた。
「大人になったね」
そう言うくせに子供をあやすような仕草は優しく温かくて。
『大人』になりたい私と『子供』でいたい私を見抜かれた気がした。
目が覚めて、彼が触れた頭に手をやる。
ああ、私はまた彼に救われた。
この想いが叶わなくてもいい。
いつか彼を救える私になれますように。
●リトルビット・オトナヒット
「浅黄さん、お世話になりました」
振り返ると人の良さそうなお婆さんが微笑みながら私に頭を下げた。
「あぁ、タマちゃん。ますます美人はんになって……きっと公園でモテモテやね」
先ほどトリミングカットを終えたばかりのトイプードルのタマちゃんがお婆さんの腕の中で嬉しそうに尻尾を振っている。
「浅黄さーん」と奥から呼ぶ声が聞こえて「はい!」と返事をしつつ、お婆さんに会釈をして別れた。
ペットトリマーの仕事は楽しい。
元々動物に関わる仕事がしたいと思っていた私には天職かも知れない。
中学高校と吹奏楽に打ち込んで先輩や後輩に揉まれる内に人見知りがちだった性格もすっかり矯正された。
両親もよかったねと言ってくれる。先輩達には感謝しかない。
「あぁ、おねえはん達はお元気やろか……」
呟いて、ぐらりとセカイが歪む。
……そしてこれは夢だと気付いてしまった。
夢の中の『私』はテキパキと仕事をこなし、充実した日々を過ごしている。
それを浅黄 小夜(ka3062)は俯瞰するように見ていた。
あのままリアルブルーで過ごせていたら。
あの帰り道を通らなければ、今頃中学生になれた筈だった。
中学の勉強は小学校より難しいと聞いていた。
帰れそうな兆しはあるけれど、いざ帰れたとして今からで勉強について行けるのだろうか。
幸いにして転移後すぐにリゼリオで保護され、今はハンターとして生活が出来ている。
少しずつ繋がった人との縁。おねえはん、おにいはんと慕う人々と過ごす日々。自分の意志と手足で作った居場所。
『帰った先』に果たして今見ているような未来はあるのだろうか。
ガシャン、とガラスの割れる音と共に夢は砕けて消えた。
その先に広がるのは、ただただ暗い冥いまとわりつくような一面の闇。
小さな悲鳴を上げて身体を起こす。
カーテンの隙間はほんのりと明るいが、初春の早朝はまだ肌寒い。小夜は自分の身体を抱くように身を縮込ませた。
夢の中の『私』はとても楽しそうに仕事をしていた。
大人になりたいけど、将来の事は怖い。
矛盾した思いを行ったり来たり……みんなは違うのだろうか?
誰かに聞いてみたかったが、聞いても相手を困らせるだけなのも解っているから、今まで誰にも聞いたことはない。
「……早く“大人”になりたいなぁ……」
自分が弱くて子どもなのだと思い知らされた気がして、小夜は膝に額を押しつけて深い息を吐いたのだった。
●Salute D'amour
世界は平和になりました。
歪虚と呼べるほど凶悪な物は無く、時折害虫程度の雑魔対峙に駆り出される程度。
クリムゾンウェストとリアルブルーを遮る諸問題もほぼなくなり、海外旅行へ行く感覚で出入りが自由に出来るようになったんです。
ボクは背が伸びて……本音を言えば、もうちょっと伸びてくれても……でも、声変わりをして少し低くなった声、日々鍛えて厚みを増した肩幅、鏡に映る姿は幼い頃に憧れた“大人”に着実に近づいていると思います。
何よりリアルブルーに住む家族と無事再会した時に、「すっかり一人前になって」と泣いて喜ばた事がボクの自信に繋がりました。
そしてボクを一人前に育ててくれたこのクリムゾンウェストで暮らすことをボクは選んで。
「……よし」
カジュアル過ぎないジャケットに身を包み、襟を正します。
身体は十分“大人”に近づいて。だけど、何よりも“大人”になる事は……勇気を出せるようになる事だとボクは常々思っていました。
今まではどうしても遠回りする事しか出来なくて、きちんと言葉にすることが出来なかったから……
今日こそは勇気を出して、憧れのあの人にちゃんとボクの言葉で気持ちを伝えるんです!
待ち合わせ場所へと向かう途中、予想外のトラブルに巻き込まれたけれど無事5分前には着けました。
なのに。あぁ! 待ち合わせの花壇の前。もうあの人がいました。ボクを待っていてくれています。
しゃんと伸びた背筋、真剣な眼差しで手帳を見つめ、時折、思案するように口元にあてがわれるしなやかな指先。
ふと顔が上げられ、思わず見とれていたボクと視線が合うと、目元は和らぎ薄い唇が弧を描きます。
ボクは慎重にあの人へと近付いていきます。
自分の心音が煩くて、今にも全身が震え出しそうで。
それでも、ボクは逃げず、あの人の前まで辿り着くと、その美しい名前を口にしました。
片膝を付いて、その白い手袋に包まれた手を取ります。
「ボクは、あなたのことが――」
「……ん」
ブレナー ローゼンベック(ka4184)は春の柔らかな日差しに目が覚めた。
夢の内容を覚えていないのが残念だが、あの人が微笑ってくれたような……やることをやりきった後のような、そんなスッキリした目覚めだった。
「さぁ、今日も頑張ろう」
憧れのあの人の隣に立てるよう、ブレナーは今日も邁進する。
●Good Morning, Polar Night
ぼんやりと瞼を瞬かせる。
ダブルベッドの左側に手を伸ばすが、そこには温もりが残るだけ。
「……ふぁ」
欠伸を1つすると、扉の向こうから包丁が刻むリズムが聞こえた。
そのまま微睡んでれば、女2人の楽しそうな声が聞こえてきた。
2人の会話を聞くとも無しに聞いて、思わず頬が緩む。
枕元に置いてある愛刀を一撫ですると、素肌の上にいつもの赤い上着を羽織って髪をまとめて簪を刺してからベッドを出た。
朝の挨拶もそこそこに、台所に立つ嫁と下の娘……あぁ、上の娘は嫁に行ったんだったか、と私は椅子を引いて定位置に座り2人の後ろ姿を眺める。
誰ひとりとして血の繋がりの無い家族だが、私にとっては掛け替えのない『家族』だ。
若い頃の私なら、2人に抱きついてこの幸せを、存在を体で確認しただろう。
……そんなことをしなくなったのはいつ頃からだっただろうか。
ぼんやりと考えながら今朝は一体どんな料理が飛び出てくるのか、と恐怖半分楽しみ半分で待つ。
「あぁ、おはよう、サキムニ」
ユキウサギのサキムニがウサギの月兎と因幡と共に部屋から出てきたので、皿にエサを入れ、サキムニとは仕事の話を始めた。
年月が経とうとも戦うことは変わらない。ただ、戦う理由は変わった。
結婚したばかりの頃の私は、まだ何かに突き動かされるように剣を振るっていた。
だが今の私は“私”として幸せを守るために刀を振るっている。
出てきた朝食はオーバーイージーのサニーサイドアップとソーセージとサラダ。
焦げを削り取ったトーストと、辛うじて色がついただけの紅茶。
……うん、比較的上出来だ。
朝食を取りながらの議題は今日の過ごし方について。
嫁がぼけて、サキムニが助けを求めるように私を見て、娘が突っ込みを入れる。
笑い声が弾けて、私も一緒に笑う。
「今日は天気もいいから、ピクニックついでにあの人のお墓にでも行こうか」
私の提案にサキムニが嬉しそうに頷いて、嫁と娘も笑顔でその提案を受け入れてくれる。
2人がお弁当を作っている間に私とサキムニで洗濯を担当する。
暖かな日差しを受けながら石けんと日なたの匂いを胸一杯に吸い込む。
あの人のお墓に手を合わせても泣かずに今の幸せを静かに報告する。
そんな私を見守ってくれる嫁に私は微笑み返す。
サンドウィッチの出来に全員で顔を綻ばせ、お腹いっぱい頬張る。
月が昇る頃には1人外に出て夜露に濡れた草原で、碧く静かで湿った風を体で受ける。
どこか気まずくて気恥ずかしくて、直視することを避けて駆け抜けてきたそれらを、今の私は全身で感じ、受け止める。
ベッドに潜り込む。
穏やかな嫁の呼吸音を聞いて、そっとその頬を撫でて柔らかな手を取って眠りに落ちた。
玉兎 小夜(ka6009)は、聞こえる笑い声に夢から現実へと引き戻された。
「うー……」
ダブルベッドの左側に手を伸ばすが、そこには温もりが残るだけ。
一抹寂しさを覚えてその温もりに頬を寄せて……目が覚めた。
「夢……」
夢の中の『私』は今の小夜とは違った。
『兎』に逃げている私ではない、なりたい“大人”な小夜だった。
「……いつか夢みたいになって見せるんだ」
今はまだ、自分自身を認められなくても。
いつか、あんな“大人”になってやると小夜は誓い、枕元に置いてある愛刀を一撫でするといつもの赤い上着を羽織って髪をまとめて簪を刺してからベッドを出たのだった。
●RUN
「おい、デクノボー足引っ張んなよ!」
「そっちこそ前でずっこけねぇでくだせぇよ」
出会ってそろそろ15年? 14年? 少なくとも生まれてから出会う前より、2人で過ごした年月の方が長くなった。
時の流れとは面白いもので、血よりも濃いものを作る事があるというが、この2人の絆はまさにその体現と言っていいだろう。
突如成長期を迎え、ぐんと背を伸ばした鬼百合(ka3667)と、残念な事に成長期が来なかった事を逆手に取って、中性的な雰囲気に磨きをかけたお陰で性別不詳という龍華 狼(ka4940)の凸凹コンビは銃弾の雨が降る中を駆け抜ける。
「鬼百合! 行くぞ!」
「うっせ! 行きますぜ、ちゃんと避けなせぇ!」
狼が後方から支援しようとして……首を傾げた。
「あ、スキル切れでさぁ」
「はぁあん!? ざっけんなよお前この局面でか!?」
普段は狼にとって鬼百合は優秀で背中を預けれる相棒としては信頼しているのだが、時々こういうドジを踏んでくれるので全く油断ならない。
「仕方ねぇ、お前が囮。右から行け。一拍遅れて俺が左から回って全部仕留める」
「でも……」
狼の身体能力の高さは目を見張るほどで、一方鬼百合はというと魔導師であることからも平均かやや下回る。
だからこそ、人知れず日夜努力して魔法の腕を磨いているというのに……
(はぁぁ。借りイチ、でさぁ)
溜息1つ。しかし息を吸うと同時に鬼百合は飛び出すと土壁を形成。それに向かって銃撃が放たれる隙に狼が
逆サイドから走り出し、一気に敵を排除すべく抜刀した。
「ウシシシ! 今日の仕事は楽な上にたんまりだぜ!」
机の上に金貨を並べながら狼が下卑た笑い声を上げる。
オフィスや依頼人の前では(金にはがめついが)とても丁寧で人当たりがいいと評判の狼だが、実際のところコッチが素である。
「はい、たぁんと召し上がんなせぇ」
『忙しくても貧しくても三食ちゃんと食べる』をモットーとしている鬼百合特製のごろごろ野菜と鶏肉のシチューが金貨を避けて机の上に置かれる。
「あ、お前今回のポカミスで1割減な」
「えぇ!? そんな、今月は欲しい本がいっぱいありやして!」
「ざけんな。お前があそこでスキル切れとかしやがったからこちとら大怪我負ったんだぞ!」
幸いにして、敵を蹴散らした後、ツテの聖導士に回復を頼めたので大事には至らなかったが、着崩した和服の下、狼の全身にはまだ包帯が巻かれている。
2人揃って金にがめつく、金銭感覚が近い分、互いをベストパートナーだと思っているが、その分シビアな部分があり、今回のミスはそれに当たる。
「それは……申し訳ねぇと思ってますさぁ」
しゅん、と肩を落とし頭を下げる。
「ったく。図体ばっかでかくなりやがって。“仕事の内訳は?”」
「”能力次第”……了解。6:4でOKでさぁ」
財布に余裕があると、ついついうっかり気まぐれに孤児院に寄附などしてしまうものだから蓄えはほとんど無い。
……本代に足りない分は食費を切り詰めようと心に誓う鬼百合。
「そういや、次はこれなんてどうでさぁ」
食事も済んだ頃、鬼百合がハンターオフィスから持ってきた一枚のビラを狼へと手渡す。
「……悪くない。もうちょい吹っ掛けられるな……よし、話し聞きに行くか」
『誘拐された子どもの奪還』
相手は旧貴族の家柄。今も実業家として成功している要するに“正真正銘のお金持ち”。
一通り目を通した狼がニヤリと口角の端を上げる。
こういった依頼は狼が最も好む依頼の1つだった。
金払いのいい依頼人、そして、子どもを迎えてくれる両親。
実は心の何処かでまだ母親が自分を迎えに来てくれると信じている。
「よっしゃ、金儲け行くぜ!」
笑う狼を鬼百合は少し寂しげな眼差しで見つめる。
今は、こうしてダチとして相棒として一緒に居られるのが楽しくて幸せだ。
だが人間である狼とエルフである鬼百合は時間の流れが違う。
あと何年こうやって共に駆け回れるのだろう。
「死なない程度に、な。鬼百合」
「……了解でさぁ」
それでもダチが、家族が、世界が好きだから鬼百合は生きる。
2人でどこまでも行こう。
冗談を言いながら、じゃれ合いながら。
2人で生きている限り。
生きる限り、1人じゃ無い。
荒野も街中も世界の向こう側まで駆け抜けて。
2人ならどこまでも行ける。
「なんか随分気の長い夢を見ちまいましたねぃ」
「なんかすげー理不尽な夢を見た気がするぜ」
2人はまだ醒めきらない頭を掻きながらベッドから降りた。
カーテンを開ければ飛び込む眩しい世界。
違う場所に居ながらも同じ夢を見た……なんて事を2人が知るのはまだ先の未来の話し。
●
おやおや。皆さんお目覚めのようでおはようございます。
今日の夢見は如何でしたでしょうか? お気に召していただけました?
えぇえぇ、またお逢いする機会もありましょう。
その時にはまたこのPretty Monkeyの夢芝居屋をどうぞご贔屓に。
それでは、また逢う日まで、ごきげんようさようなら。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/04 23:15:11 |