ゲスト
(ka0000)
【哀像】潰えた村に残されたもの
マスター:紫月紫織
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/08 09:00
- 完成日
- 2017/04/18 23:03
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
◆新人ハンター里帰り
「それじゃあ、暫くの間留守にします」
「一月ほどで戻りますね」
四人組の新人ハンターがオフィスに挨拶に来たのを、暇だったのをいいことに見送りに出た。
新人の舞刀士、魔術師、符術師、格闘士の四人組は皆カラネ村出身のパーティだ。
ハンターとしての活動が安定しそうだということ、最近のエルフハイムを中心とした騒動で故郷が心配だということ、それらをあわせて一度仕送りも兼ねて里帰りする、。
そういう、たまにあるような話である。
わざわざ挨拶に来るなんて律儀ねと思いつつも、新人として転がり込んできてから面倒を見ていたエリクシアにとって、一人前とはまだまだいいづらくてもその成長は感慨深いものがあった。
「はい、皆さん道中も気をつけてくださいね」
手を振りながらあるき出した四人組を見送り、オフィスへと戻る。
活動中のハンターリストから先程のパーティの登録表を休止中のものへと移した。
「早く、戻ってきてくれるといいんですがねぇ……」
仕事は多く、ハンターはいくら居ても足りないとばかりにつぶやくエリクシア。
少し厚みを増した休止中のハンターリストを、そっとしまい込んだ。
エリクシアが彼ら、四人組の新米ハンターを見たのは、それが最後である。
およそ、五ヶ月ほど前の出来事だった。
◆やってきたのは行商人
帝都バルトアンデルスから遠く離れた、いうなれば開拓地とも言ってもいいようなカラネ村という寒村に、行商人、イリル・ロゼッティアははるばる足を運んでいた。
前回行商に来たのは一月前、そろそろあの時買い付けられた消耗品の備蓄も減ってきている頃だろう。
交通の安定していない寒村の生命線、その一つがイリルのような行商人だ。
小さな村で用意できるものというのは限られる、そのためそれ以外は外部からの入手が必須となる。
例えば調味料――塩や砂糖、香辛料だとか、金属加工品――農具や縫い針だとかである。
前回来た時とった頼まれものも用意できた。
それも、そこそこ品質の良いものだ。
開墾用の鍬や収穫用の鎌、縫い針に衣服を仕立てるための布。
砂糖や塩といった調味料に加えて、子供が欲しがっていたお菓子もある。
子供が生まれたばかりだと言っていた家から頼まれた赤ん坊用のおもちゃだって仕入れられた。
喜んでもらえるだろうか。
イリルもまた、開拓地にほど近い寒村で生まれた。
生まれた村は流行病で捨てざるを得なくなったが、だからこそ儲けを度外視にして彼は郊外の小さな村を行商のルートに組み込んでいるのだ。
喜ぶ顔に思いを馳せるのはもうやめだ。
そろそろ村が見えてくる、そう思って顔を上げたイリルの目に写ったのは、荒れ果てた畑。
そして、迎えるもののない村だった。
ずきりと、嫌な予感が胸中を襲う。
まさか、この一月の間に何かあったのか?
震える手を必死に抑えて手綱を握る。
がらがらと、馬車は止まらない。
村に入ったところで馬車を止め、そっと足をすすめる。
そんなイリルを出迎えたのは――赤黒く染まった地面だった。
そっと腰をかがめその痕跡を確認する。
雨風で薄くなっているけれど間違いない、血の跡だ。
遠目に、何かが動いているのが見えた。
その動きはゆるやかで、けれどはっきりとした人形だ。
ハンターにも見えるそれ、だが目のいいイリルにはそれがなんなのかしっかり捉えていた。
……ゾンビだ。
踵を取って返し、鞭を打つ。
ハンターオフィス目掛けて、馬を走らせた。
その背後で、ばさりと羽ばたく音が聞こえた。
怯えたイリルが振り返る。
不吉な容貌の黒い鳥が一羽、村の上空を回遊していた。
およそ一週間前の話である。
◆苦悩する受付嬢
――そして現在。
大慌てで戻ってきた行商人イリルから持ち込まれた情報は、すぐさまエリクシアによって依頼へと書き出されることになった。
辺境に位置するカラネ村。
現れたハンター風のゾンビ。
村人の安否不明。
そこまで確認したところで、彼女の記憶の片隅に引っかかるものがあった。
この村の事を、私は知っている……だが、どこで?
しばらく考え込んだのち、ハッとしたエリクシアが休止中のハンターリストを取り出す。
そこにある一枚のパーティリスト、五ヶ月ほど前から休止しその後音沙汰なしとなっていた彼らの姿絵を取り出す。
確か彼らの故郷は――。
「イリルさん、あなたが見たゾンビというのは、もしやこの様な姿ではありませんでしたか?」
震える声を隠して、姿絵を差し出すエリクシア。
イリルは少し考えたのちに、顔は分からないが着ているものは同じだったと頷く。
ぎり、とエリクシアの手が強く握られた。
握られていたペンがきしみ、びきりと割れる音が響く。
イリルがびくっと身をすくめた。
(落ち着きなさい、エリクシア)
手に刺さったペンの破片をそっと抜く、鮮やかな赤が書きかけの依頼表を汚した。
「わかりました。こちらの方で依頼を作成します。ご報告、ありがとうございました」
オフィス職員である以上、ハンターが戻ってこないという事態というのはある。
だが、慣れるものではない。
(五ヶ月前――ですか、確かエルフハイムの騒動があった頃……その時の何かに巻き込まれていたのなら、ゾンビ化するには十分な時間かもしれませんね)
でも、だとしたらそれはどんな悲劇だろうか。
故郷を思って帰郷しようとしたものが、ゾンビと化して故郷の村を襲うなど……。
やがて依頼票が書き上がった頃、エリクシアは窓の外へと意識を向けた。
黒い雲がたちこめ、風が吹きすさぶ風が窓を激しく揺らした。
「嵐に……なりそうですね」
「それじゃあ、暫くの間留守にします」
「一月ほどで戻りますね」
四人組の新人ハンターがオフィスに挨拶に来たのを、暇だったのをいいことに見送りに出た。
新人の舞刀士、魔術師、符術師、格闘士の四人組は皆カラネ村出身のパーティだ。
ハンターとしての活動が安定しそうだということ、最近のエルフハイムを中心とした騒動で故郷が心配だということ、それらをあわせて一度仕送りも兼ねて里帰りする、。
そういう、たまにあるような話である。
わざわざ挨拶に来るなんて律儀ねと思いつつも、新人として転がり込んできてから面倒を見ていたエリクシアにとって、一人前とはまだまだいいづらくてもその成長は感慨深いものがあった。
「はい、皆さん道中も気をつけてくださいね」
手を振りながらあるき出した四人組を見送り、オフィスへと戻る。
活動中のハンターリストから先程のパーティの登録表を休止中のものへと移した。
「早く、戻ってきてくれるといいんですがねぇ……」
仕事は多く、ハンターはいくら居ても足りないとばかりにつぶやくエリクシア。
少し厚みを増した休止中のハンターリストを、そっとしまい込んだ。
エリクシアが彼ら、四人組の新米ハンターを見たのは、それが最後である。
およそ、五ヶ月ほど前の出来事だった。
◆やってきたのは行商人
帝都バルトアンデルスから遠く離れた、いうなれば開拓地とも言ってもいいようなカラネ村という寒村に、行商人、イリル・ロゼッティアははるばる足を運んでいた。
前回行商に来たのは一月前、そろそろあの時買い付けられた消耗品の備蓄も減ってきている頃だろう。
交通の安定していない寒村の生命線、その一つがイリルのような行商人だ。
小さな村で用意できるものというのは限られる、そのためそれ以外は外部からの入手が必須となる。
例えば調味料――塩や砂糖、香辛料だとか、金属加工品――農具や縫い針だとかである。
前回来た時とった頼まれものも用意できた。
それも、そこそこ品質の良いものだ。
開墾用の鍬や収穫用の鎌、縫い針に衣服を仕立てるための布。
砂糖や塩といった調味料に加えて、子供が欲しがっていたお菓子もある。
子供が生まれたばかりだと言っていた家から頼まれた赤ん坊用のおもちゃだって仕入れられた。
喜んでもらえるだろうか。
イリルもまた、開拓地にほど近い寒村で生まれた。
生まれた村は流行病で捨てざるを得なくなったが、だからこそ儲けを度外視にして彼は郊外の小さな村を行商のルートに組み込んでいるのだ。
喜ぶ顔に思いを馳せるのはもうやめだ。
そろそろ村が見えてくる、そう思って顔を上げたイリルの目に写ったのは、荒れ果てた畑。
そして、迎えるもののない村だった。
ずきりと、嫌な予感が胸中を襲う。
まさか、この一月の間に何かあったのか?
震える手を必死に抑えて手綱を握る。
がらがらと、馬車は止まらない。
村に入ったところで馬車を止め、そっと足をすすめる。
そんなイリルを出迎えたのは――赤黒く染まった地面だった。
そっと腰をかがめその痕跡を確認する。
雨風で薄くなっているけれど間違いない、血の跡だ。
遠目に、何かが動いているのが見えた。
その動きはゆるやかで、けれどはっきりとした人形だ。
ハンターにも見えるそれ、だが目のいいイリルにはそれがなんなのかしっかり捉えていた。
……ゾンビだ。
踵を取って返し、鞭を打つ。
ハンターオフィス目掛けて、馬を走らせた。
その背後で、ばさりと羽ばたく音が聞こえた。
怯えたイリルが振り返る。
不吉な容貌の黒い鳥が一羽、村の上空を回遊していた。
およそ一週間前の話である。
◆苦悩する受付嬢
――そして現在。
大慌てで戻ってきた行商人イリルから持ち込まれた情報は、すぐさまエリクシアによって依頼へと書き出されることになった。
辺境に位置するカラネ村。
現れたハンター風のゾンビ。
村人の安否不明。
そこまで確認したところで、彼女の記憶の片隅に引っかかるものがあった。
この村の事を、私は知っている……だが、どこで?
しばらく考え込んだのち、ハッとしたエリクシアが休止中のハンターリストを取り出す。
そこにある一枚のパーティリスト、五ヶ月ほど前から休止しその後音沙汰なしとなっていた彼らの姿絵を取り出す。
確か彼らの故郷は――。
「イリルさん、あなたが見たゾンビというのは、もしやこの様な姿ではありませんでしたか?」
震える声を隠して、姿絵を差し出すエリクシア。
イリルは少し考えたのちに、顔は分からないが着ているものは同じだったと頷く。
ぎり、とエリクシアの手が強く握られた。
握られていたペンがきしみ、びきりと割れる音が響く。
イリルがびくっと身をすくめた。
(落ち着きなさい、エリクシア)
手に刺さったペンの破片をそっと抜く、鮮やかな赤が書きかけの依頼表を汚した。
「わかりました。こちらの方で依頼を作成します。ご報告、ありがとうございました」
オフィス職員である以上、ハンターが戻ってこないという事態というのはある。
だが、慣れるものではない。
(五ヶ月前――ですか、確かエルフハイムの騒動があった頃……その時の何かに巻き込まれていたのなら、ゾンビ化するには十分な時間かもしれませんね)
でも、だとしたらそれはどんな悲劇だろうか。
故郷を思って帰郷しようとしたものが、ゾンビと化して故郷の村を襲うなど……。
やがて依頼票が書き上がった頃、エリクシアは窓の外へと意識を向けた。
黒い雲がたちこめ、風が吹きすさぶ風が窓を激しく揺らした。
「嵐に……なりそうですね」
リプレイ本文
●受付嬢は語る
「なぁ……良かったら今度の休み、一緒にカラネ村に行かないか?」
ナンパのような物言いをするトリプルJ(ka6653)、だが、その言葉の端々にあるのはエリクシアへの気遣いである。そもそもとして誘う場所が場所だ、彼女もすぐにその意図を察して、少しだけ困ったように微笑んだ。
「ありがとうございます」
短い感謝の言葉、それ以上を返すことは受付として憚られた。
だが、トリプルJの気持ちはたしかに伝わっている。
「お話中ですがよろしいですか?」
二人の話が落ち着くのを待って、ハンス・ラインフェルト(ka6750)が声をかける。
「村周辺の地図や村民の数など、確認できるようでしたらお聞きしたいのですが」
「それは俺も聞いておきたいな」
ハンスの言葉に、同じように話を聞きに来ていたロニ・カルディス(ka0551)が反応する。
「……数えることになるかもしれないからな」
何を、とまで言わなかったのは彼なりの気遣いなのだろう、その言葉の意味するところを察せないほどではないが。
「村の規模は4~50人といったところです、正確な数はわかりません」
結構な人数であることに、少しばかり二人の眉が顰められる。
「直近のやり取りの記録とか、近隣の村の情報とか、あるか?」
トリプルJの言葉にエリクシアは資料を捲り、近場に村からの情報は特にないと首を振る。
「一応、商会などを当たって取引記録を確認してもらいました。最終のやり取りは一月ほど前だそうです」
つまり、その段階までは村は無事だったということになる。
そんな顔色の優れないエリクシアとのやり取りを側で聞きながら、フェリア(ka2870)は思考を巡らせる。
偶然にしてはできすぎている。
(彼らをゾンビに変えて操っている者がいるのかしら? なら何故そこにまだ戦力が残っているの?)
考えて答えが出るものでもない、だが思考を巡らせて整理しておくことは大事だ。
皇帝の剣として、この事件を解明しなければならない。
「考え込んでいるようだが、大丈夫か?」
不意に声をかけられて思考が途切れる、目の前にいたのはセルゲン(ka6612)だった。
「え? ええ……大丈夫よ」
「そうか。馬車を借りた、何時でも出れる」
セルゲンの言葉に、銃の手入れをしていた面々が腰を上げる。
ドアを開けて外へ出れば、強風がハンターを急かすように煽った。
●嵐の前の……
湿り気のある匂いが鼻をくすぐる。
間もなく降り出しそうな、そんな空模様だった。
「雨が近いな……降り出すと厄介だ、急ごうぜ」
ステラ・レッドキャップ(ka5434)の言葉に皆が頷いてそれぞれ馬車と馬、バイクから降りた。
「これがイリルさんの言っていた血痕かしら?」
「そうみたいだね、他には……目立つものはない、な」
かすかに残る馬車の轍、そしてその先に残る赤黒い染みを検分しながらエーミ・エーテルクラフト(ka2225)が確認するように口に出す、それを追って確認するように氷雨 柊羽(ka6767)が返す。
そこに血痕の元となる人の骸は存在しない。
(彼女が無事で本当に良かった。でも、何故?)
思考に残るかすかな違和感。
だがそれはまだ結実することはない。
「それでは私は罠にかかりに行ってこようと思いますので。後はよろしくお願いします」
そう言ってハンスはトリプルJを連れ墓地の方へと進んでいく。
後にエーミとステラが続いた。
「それでは俺達はこのあたりから調べてみるか」
セルゲンの提案に、残るものたちが頷いて続いた。
追いかけるように迫る雨音に、氷雨が振り返ると、迫る黒い雲が空一面を覆い尽くしていた。
もう間もなく、村も嵐の中に飲み込まれるだろう。
暴風のなか、墓地へと足をすすめる二人。
「俺は屋内の方を調べに行きたいんだがな」
「少しだけお付き合いください。歪虚の素材がある墓場なら必ずハンターが確認に来るだろう、余興の1つもを仕掛けておこう、と彼の存在が考えても不思議ではないと思います」
「なるほど」
話しながら足を進めた先、墓地は荒らされていた。
掘り返された墓に遺体はない。
これが何を意味するのか。
「気配はまるでねぇな……腐臭は、この風じゃちっとわからないか」
ライフルを構え油断なく周囲に視線を巡らせるステラ、その隣でエーミは思考をただ巡らせる。
罠は、なかった?
予想はしていたが、墓地の死体までもが無い。
ひとつのピースが嵌ったような気がした。
「ちっ、雨脚が強くなってきやがった。おーい、そろそろ村の方に戻ろうぜ」
「あてが外れましたか、そうするといたしましょう」
「ま、一つ情報は手に入ったな」
ステラの声に踵を返すハンス、そしてトリプルJ。
雨に降られて愛犬の上げた鳴き声に、思考を中断しエーミは三人の後を追った。
●追跡者達
空を覆う雲が黒く、まだ昼に差し掛かろうとした頃だというのに驚くほどに暗い。
そんな暗さを補うようにリトルファイアを灯す。
離れすぎないよう注意しつつもそれぞれ思いつく場所を調べているという状況だった。
フェリアに手綱を取られた柴犬が何かを嗅ぎつけたようで、それにつられて家屋の一つへと入る。
そこは血まみれだった。
だが、遺体がない。
(コップが三つ、だけど血痕は一つだけ。逃げのびた?)
二階があるほど広い家でもない、遺体もなく逃げれる場所も見当たらず、柴犬はそのままフェリアを外へ連れて行こうとする。
出たところでセルゲンと出くわした。
「どうやら合流したようだ」
尻尾を膨らませた虎猫が警戒するように先を示す、その先はフェリアの柴犬が連れて行こうとする方向と同じである。
幾つかの家屋が近く建てられた狭い場所を通り抜けようとする、匂いはその先へと続いているようだ。
「かすかだが足跡も残っているな」
ファミリアズアイを使い猫の目を借りて地面に近い所を確認していたセルゲンが間違いないと後押しする。
「こっちにもありますね、みんな同じ方向に向かってるみたいです」
地面に這いつくばって足跡を探していた氷雨からも声が上がる。
かすかな痕跡を追っていくその途中、遺体が転がっていた。
思わず足を止める四人のうち、ロニが盾を構えて前へ出る。
「負のマテリアルを感じるが……なぜ動かない。死んでいる、のか?」
「見た目からして、舞刀士だな、フレイって奴か?」
ゆっくりと距離を詰めるロニに、セルゲンが続く。
意識がそちらへと集中した瞬間、背後で巻き上がる負のマテリアルを感じたフェリアが振り向きざまにカウンターマジックを使う。
その行動に、全員の意識が後ろに向く。
建物の窓からこちら覗き杖を構えるゾンビの姿があった。
「不意打ちとは味な真似をしてくれるわね!」
お返しとばかりにライトニングボルトを詠唱しようとする、それを妨害するかのように屋根の上から舞い降りてくる影。
それに気づいたセルゲンが相対するように拳を振るう。
落下の威力を加えた蹴りであるが、体躯の差もありかろうじて相殺という形で互いに距離を取る。
その一連の流れによって生まれた間隙をぬって、凶刃がロニへと襲いかかった。
咄嗟に突き出した盾に激突する刃こぼれだらけの刀が火花を散らす。
「そう上手くいくと、思うな!」
ぎりぎりと盾を押し返すその最中、一枚の符がロニめがけて走る。
「そこだ!」
氷雨が反射的に符の射線めがけてデリンジャーの引き金を引く。
マテリアルを湛えた微かに明かりの灯った瞳が標的を映す。
カウンターとかばかりに空を引き裂く弾頭が符術師のゾンビ、カーマインの肩を穿った。
四人が四人とも、同じ疑問を抱いていた。
連携が取れすぎている。
「こちらA班! 襲撃を受けた!」
トランシーバーめがけて、ロニが叫んだ。
●合流
ぴくりと音に反応して顔を上げ、突如駆け出したのはステラだった。
「どう致しました!?」
「氷雨のデリンジャーの銃声だ!」
慌てて追いすがるハンスの問いへのステラの言葉に全員が駆け出す、トランシーバーからロニの声が聞こえたのはその直後だった。
トリプルJとハンスが仲間の元へと急ぐ最中、エーミとステラはそれぞれに空へと視線を泳がせる。
関連性があるのならば、必ず近くにその姿があるはずなのだ。
幾重にも閃く鈍色を盾で受け流しながら歌うロニのレクイエムは、元ハンターであるゾンビたちの動きを確実に阻害している、戦闘自体は優位に進んでいた。
気になることといえば一つ、まるで四体のゾンビが統率された一つの群れ……いや、一つの生物の様に動いている点。
正面から力押しで倒すことは十分に可能だろうが、疑問は拭えない。
セルゲンの拳と、ソフィアの蹴りが交錯する。
「くっ……首の後ろに何かあるのは見えたが、狙うには難しいな」
ゾンビゆえにか、肉の損傷をほとんど気にすることのない攻撃、この個体はとくに速さに寄っているらしい。
頃合いか。
そう判断したセルゲンがあえて一撃を受けながらもその脚を捉える。
速さとは動き続けて初めて意味のあるものだ。
「ナイスタイミングだぜセルゲン!」
横合いから弾丸のように飛び込んできたトリプルJが拳を振るう、それに応えるかのように鋼鉄の杭が勢いよく打ち出された。
撃鉄を叩くような、あるいはそれこそ、銃声のような音とともに女ゾンビが吹き飛んで転がる。
かろうじてまだ立ち上がるものの、すでに先ほどのような動きはできなくなったのか、軋むような動きで構えを取ろうとする。
「とっさに体を逸らしやがったか……いいぜ、ちゃんと眠らせてやる!」
「こっちにも一人欲しいところなんだがな」
盾を構え防戦中のロニの言葉に、建物の陰から這うように疾る影が応えた。
「では僭越ながら、私がお相手を」
剣を構えロニに剣を振るっていたゾンビの背めがけての一閃は紙一重に躱されて、ゾンビの背を引き裂く。
だが首にある結晶を捉える前に舞刀士のゾンビは体を捻り致命傷を避けてみせた。
「なるほど、人の身では出来ないような無茶な動きです」
畳み掛けるように動くハンス、繰り出される互いの剣戟が交錯するたび、火花が散り空を彩る。
軽い銃声が響いた。
二度、三度、聞くものであれば、それが魔導拳銃のものである事にも気づけただろう。
その後の聞こえた高い銃声。
その直後、ゾンビの動きから理性が消えた。
時は、少し遡る。
掘り荒らされた墓地、痕跡だけを残し死体の一つもない村。
連れてきた犬も反応を示していない事にも、ステラのトランシーバーから聞こえる仲間たちの声に、黒い石と機械化の痕跡も確認できた。
浮かびつつある解は、その鴉を空に見つけて確信に変わる。
こんな嵐の日に、まともな鴉が居るものか。
「これが、エーテルクラフトの解よ」
躊躇なく引き金を引く。
この嵐の中で距離もある的に魔導拳銃で当てるのは難しい、だがそれは確固たる意思の伝達だ。
自分が当てられない事に焦ることもない。
「あれを落とせばいいんだな?」
重量のあるライフルを、華奢な腕で構え狙いを定める。
猟撃士の、いうなれば射撃の専門家がここに居る。
荒れ狂う竜の巣の中を、目標めがけて貫き通すに足る力。
空での照準は極めて難しい、着弾を確認して弾道を修正することができないからだ。
まして嵐という乱気流、的は小さく今尚も遠ざかる。
マテリアルの灯った瞳が淡く輝く、そして響いた銃声、直後に鴉は姿勢を崩し真っ逆さまに地へ墜ちる。
「出来れば殺さずに落としたかったんだがな」
墜ちゆく鳥、そこにあるべき頭はない。
終わってしまえばあっけないほどに、元ハンターゾンビたちは制圧された。
もはや動くこともなく、緩やかに灰に戻っていくのみである。
それを見届けてロニは静かに冥福を祈る、この死してなお弄ばれた者たちが安らかに眠れるように。
「眠る前にお前の最後の願い吐いていけ……俺が必ず叶えてやるからよっ」
舞刀士フレイの亡骸に手を当て心を澄ませる。
彼の最後の願いがなんであったのかを確信し、散りゆく姿を見届けた。
「そちらも無事に終わったようですね」
遅れてやってきたステラとエーミ、その二人の無事な姿を確認して、氷雨はふっとようやく緊張を解いた。
「とりあえず答え合わせは後ほどとして、残りの調査を済ませましょう」
フェリアの言葉に、急ぎ調査の続きが行われることとなった。
「掘り荒らされた墓」
「鴉を撃ち落とした直後のゾンビの挙動の変わり具合」
「消えた鴉の死骸」
「続く足跡が同じ場所で消えていた」
「コンテナと思われる巨大な痕跡と、そこに集まる足跡」
空き家の一つを今夜の宿に、ハンス、エーミ、ステラ、セルゲン、氷雨が口々に手に入れた情報を確認する。
暴雨が空き家を激しく叩く音、一応村は調べ尽くしたものの、警戒を解かないロニとトリプルJがその場を見守る。
「おそらくですが、この一件は帝国で起きている剣機の誘拐事件の一つだと思います」
「同感ね、そして剣機は何かに操られているんでしょう、その鍵が」
「あの鴉か。死骸は結局見つからなかったし、ほぼ確定で歪虚だろうな」
フェリアの言葉をエーミがつなぎ、ステラが捕捉する。
「鹵獲できなかったのは惜しかったわね」
「あの状況じゃあな」
まして得物は銃、手加減できる種類の代物でもない。
だからこそ、相手も鴉という媒体を選んでいるのだろう。
「だとして、なぜこの村に戦力を残していたのか……」
「そればかりは想像するしかないな」
フェリアの疑問に、ロニが首を横に振る。
有った事実以外は推測するしかできない。
話すこともなくなり、その夜は静かに過ぎていった。
●闇の中にて
……プランデルタは失敗か。
……もとより優先度は低かった、問題はなかろう。
……村一つを囮にハンターの素材を収集する、上手く行けば面白いこともできただろうが。
……それは確かに惜しい、だが戦闘データは収集できた。
……思ったよりも早く対応されたようだがな、知られていたか?
……かもしれん、まぁいい。計画を続行しよう。
ごぽ、こぽと水の中を気泡が漂う音が響く。
いまだ、災禍は終わらない。
●託された願い
「トリプルJさん」
氷雨の呼ぶ声に、嵐の後に残った晴れ間ののぞく空をみあげていたトリプルJが振り返る。
嵐の後だというのに、多く雲の残る空は、どこかしら不吉だった。
「あの時、何が聞こえたんですか?」
氷雨が言っているのは舞刀士フレイを倒したあと、深淵の声を使ったときのことを言っているのだろう。
「……村の仲間を、助けてくれってな」
あの時、必ず叶えてやると言った気持ちに嘘はない。
最後の望みに応える時が来るのを、今はただ静かに待つのみ。
朝日に手を伸ばし、ぐっと握る。
誓いを確かなものにするように。
「なぁ……良かったら今度の休み、一緒にカラネ村に行かないか?」
ナンパのような物言いをするトリプルJ(ka6653)、だが、その言葉の端々にあるのはエリクシアへの気遣いである。そもそもとして誘う場所が場所だ、彼女もすぐにその意図を察して、少しだけ困ったように微笑んだ。
「ありがとうございます」
短い感謝の言葉、それ以上を返すことは受付として憚られた。
だが、トリプルJの気持ちはたしかに伝わっている。
「お話中ですがよろしいですか?」
二人の話が落ち着くのを待って、ハンス・ラインフェルト(ka6750)が声をかける。
「村周辺の地図や村民の数など、確認できるようでしたらお聞きしたいのですが」
「それは俺も聞いておきたいな」
ハンスの言葉に、同じように話を聞きに来ていたロニ・カルディス(ka0551)が反応する。
「……数えることになるかもしれないからな」
何を、とまで言わなかったのは彼なりの気遣いなのだろう、その言葉の意味するところを察せないほどではないが。
「村の規模は4~50人といったところです、正確な数はわかりません」
結構な人数であることに、少しばかり二人の眉が顰められる。
「直近のやり取りの記録とか、近隣の村の情報とか、あるか?」
トリプルJの言葉にエリクシアは資料を捲り、近場に村からの情報は特にないと首を振る。
「一応、商会などを当たって取引記録を確認してもらいました。最終のやり取りは一月ほど前だそうです」
つまり、その段階までは村は無事だったということになる。
そんな顔色の優れないエリクシアとのやり取りを側で聞きながら、フェリア(ka2870)は思考を巡らせる。
偶然にしてはできすぎている。
(彼らをゾンビに変えて操っている者がいるのかしら? なら何故そこにまだ戦力が残っているの?)
考えて答えが出るものでもない、だが思考を巡らせて整理しておくことは大事だ。
皇帝の剣として、この事件を解明しなければならない。
「考え込んでいるようだが、大丈夫か?」
不意に声をかけられて思考が途切れる、目の前にいたのはセルゲン(ka6612)だった。
「え? ええ……大丈夫よ」
「そうか。馬車を借りた、何時でも出れる」
セルゲンの言葉に、銃の手入れをしていた面々が腰を上げる。
ドアを開けて外へ出れば、強風がハンターを急かすように煽った。
●嵐の前の……
湿り気のある匂いが鼻をくすぐる。
間もなく降り出しそうな、そんな空模様だった。
「雨が近いな……降り出すと厄介だ、急ごうぜ」
ステラ・レッドキャップ(ka5434)の言葉に皆が頷いてそれぞれ馬車と馬、バイクから降りた。
「これがイリルさんの言っていた血痕かしら?」
「そうみたいだね、他には……目立つものはない、な」
かすかに残る馬車の轍、そしてその先に残る赤黒い染みを検分しながらエーミ・エーテルクラフト(ka2225)が確認するように口に出す、それを追って確認するように氷雨 柊羽(ka6767)が返す。
そこに血痕の元となる人の骸は存在しない。
(彼女が無事で本当に良かった。でも、何故?)
思考に残るかすかな違和感。
だがそれはまだ結実することはない。
「それでは私は罠にかかりに行ってこようと思いますので。後はよろしくお願いします」
そう言ってハンスはトリプルJを連れ墓地の方へと進んでいく。
後にエーミとステラが続いた。
「それでは俺達はこのあたりから調べてみるか」
セルゲンの提案に、残るものたちが頷いて続いた。
追いかけるように迫る雨音に、氷雨が振り返ると、迫る黒い雲が空一面を覆い尽くしていた。
もう間もなく、村も嵐の中に飲み込まれるだろう。
暴風のなか、墓地へと足をすすめる二人。
「俺は屋内の方を調べに行きたいんだがな」
「少しだけお付き合いください。歪虚の素材がある墓場なら必ずハンターが確認に来るだろう、余興の1つもを仕掛けておこう、と彼の存在が考えても不思議ではないと思います」
「なるほど」
話しながら足を進めた先、墓地は荒らされていた。
掘り返された墓に遺体はない。
これが何を意味するのか。
「気配はまるでねぇな……腐臭は、この風じゃちっとわからないか」
ライフルを構え油断なく周囲に視線を巡らせるステラ、その隣でエーミは思考をただ巡らせる。
罠は、なかった?
予想はしていたが、墓地の死体までもが無い。
ひとつのピースが嵌ったような気がした。
「ちっ、雨脚が強くなってきやがった。おーい、そろそろ村の方に戻ろうぜ」
「あてが外れましたか、そうするといたしましょう」
「ま、一つ情報は手に入ったな」
ステラの声に踵を返すハンス、そしてトリプルJ。
雨に降られて愛犬の上げた鳴き声に、思考を中断しエーミは三人の後を追った。
●追跡者達
空を覆う雲が黒く、まだ昼に差し掛かろうとした頃だというのに驚くほどに暗い。
そんな暗さを補うようにリトルファイアを灯す。
離れすぎないよう注意しつつもそれぞれ思いつく場所を調べているという状況だった。
フェリアに手綱を取られた柴犬が何かを嗅ぎつけたようで、それにつられて家屋の一つへと入る。
そこは血まみれだった。
だが、遺体がない。
(コップが三つ、だけど血痕は一つだけ。逃げのびた?)
二階があるほど広い家でもない、遺体もなく逃げれる場所も見当たらず、柴犬はそのままフェリアを外へ連れて行こうとする。
出たところでセルゲンと出くわした。
「どうやら合流したようだ」
尻尾を膨らませた虎猫が警戒するように先を示す、その先はフェリアの柴犬が連れて行こうとする方向と同じである。
幾つかの家屋が近く建てられた狭い場所を通り抜けようとする、匂いはその先へと続いているようだ。
「かすかだが足跡も残っているな」
ファミリアズアイを使い猫の目を借りて地面に近い所を確認していたセルゲンが間違いないと後押しする。
「こっちにもありますね、みんな同じ方向に向かってるみたいです」
地面に這いつくばって足跡を探していた氷雨からも声が上がる。
かすかな痕跡を追っていくその途中、遺体が転がっていた。
思わず足を止める四人のうち、ロニが盾を構えて前へ出る。
「負のマテリアルを感じるが……なぜ動かない。死んでいる、のか?」
「見た目からして、舞刀士だな、フレイって奴か?」
ゆっくりと距離を詰めるロニに、セルゲンが続く。
意識がそちらへと集中した瞬間、背後で巻き上がる負のマテリアルを感じたフェリアが振り向きざまにカウンターマジックを使う。
その行動に、全員の意識が後ろに向く。
建物の窓からこちら覗き杖を構えるゾンビの姿があった。
「不意打ちとは味な真似をしてくれるわね!」
お返しとばかりにライトニングボルトを詠唱しようとする、それを妨害するかのように屋根の上から舞い降りてくる影。
それに気づいたセルゲンが相対するように拳を振るう。
落下の威力を加えた蹴りであるが、体躯の差もありかろうじて相殺という形で互いに距離を取る。
その一連の流れによって生まれた間隙をぬって、凶刃がロニへと襲いかかった。
咄嗟に突き出した盾に激突する刃こぼれだらけの刀が火花を散らす。
「そう上手くいくと、思うな!」
ぎりぎりと盾を押し返すその最中、一枚の符がロニめがけて走る。
「そこだ!」
氷雨が反射的に符の射線めがけてデリンジャーの引き金を引く。
マテリアルを湛えた微かに明かりの灯った瞳が標的を映す。
カウンターとかばかりに空を引き裂く弾頭が符術師のゾンビ、カーマインの肩を穿った。
四人が四人とも、同じ疑問を抱いていた。
連携が取れすぎている。
「こちらA班! 襲撃を受けた!」
トランシーバーめがけて、ロニが叫んだ。
●合流
ぴくりと音に反応して顔を上げ、突如駆け出したのはステラだった。
「どう致しました!?」
「氷雨のデリンジャーの銃声だ!」
慌てて追いすがるハンスの問いへのステラの言葉に全員が駆け出す、トランシーバーからロニの声が聞こえたのはその直後だった。
トリプルJとハンスが仲間の元へと急ぐ最中、エーミとステラはそれぞれに空へと視線を泳がせる。
関連性があるのならば、必ず近くにその姿があるはずなのだ。
幾重にも閃く鈍色を盾で受け流しながら歌うロニのレクイエムは、元ハンターであるゾンビたちの動きを確実に阻害している、戦闘自体は優位に進んでいた。
気になることといえば一つ、まるで四体のゾンビが統率された一つの群れ……いや、一つの生物の様に動いている点。
正面から力押しで倒すことは十分に可能だろうが、疑問は拭えない。
セルゲンの拳と、ソフィアの蹴りが交錯する。
「くっ……首の後ろに何かあるのは見えたが、狙うには難しいな」
ゾンビゆえにか、肉の損傷をほとんど気にすることのない攻撃、この個体はとくに速さに寄っているらしい。
頃合いか。
そう判断したセルゲンがあえて一撃を受けながらもその脚を捉える。
速さとは動き続けて初めて意味のあるものだ。
「ナイスタイミングだぜセルゲン!」
横合いから弾丸のように飛び込んできたトリプルJが拳を振るう、それに応えるかのように鋼鉄の杭が勢いよく打ち出された。
撃鉄を叩くような、あるいはそれこそ、銃声のような音とともに女ゾンビが吹き飛んで転がる。
かろうじてまだ立ち上がるものの、すでに先ほどのような動きはできなくなったのか、軋むような動きで構えを取ろうとする。
「とっさに体を逸らしやがったか……いいぜ、ちゃんと眠らせてやる!」
「こっちにも一人欲しいところなんだがな」
盾を構え防戦中のロニの言葉に、建物の陰から這うように疾る影が応えた。
「では僭越ながら、私がお相手を」
剣を構えロニに剣を振るっていたゾンビの背めがけての一閃は紙一重に躱されて、ゾンビの背を引き裂く。
だが首にある結晶を捉える前に舞刀士のゾンビは体を捻り致命傷を避けてみせた。
「なるほど、人の身では出来ないような無茶な動きです」
畳み掛けるように動くハンス、繰り出される互いの剣戟が交錯するたび、火花が散り空を彩る。
軽い銃声が響いた。
二度、三度、聞くものであれば、それが魔導拳銃のものである事にも気づけただろう。
その後の聞こえた高い銃声。
その直後、ゾンビの動きから理性が消えた。
時は、少し遡る。
掘り荒らされた墓地、痕跡だけを残し死体の一つもない村。
連れてきた犬も反応を示していない事にも、ステラのトランシーバーから聞こえる仲間たちの声に、黒い石と機械化の痕跡も確認できた。
浮かびつつある解は、その鴉を空に見つけて確信に変わる。
こんな嵐の日に、まともな鴉が居るものか。
「これが、エーテルクラフトの解よ」
躊躇なく引き金を引く。
この嵐の中で距離もある的に魔導拳銃で当てるのは難しい、だがそれは確固たる意思の伝達だ。
自分が当てられない事に焦ることもない。
「あれを落とせばいいんだな?」
重量のあるライフルを、華奢な腕で構え狙いを定める。
猟撃士の、いうなれば射撃の専門家がここに居る。
荒れ狂う竜の巣の中を、目標めがけて貫き通すに足る力。
空での照準は極めて難しい、着弾を確認して弾道を修正することができないからだ。
まして嵐という乱気流、的は小さく今尚も遠ざかる。
マテリアルの灯った瞳が淡く輝く、そして響いた銃声、直後に鴉は姿勢を崩し真っ逆さまに地へ墜ちる。
「出来れば殺さずに落としたかったんだがな」
墜ちゆく鳥、そこにあるべき頭はない。
終わってしまえばあっけないほどに、元ハンターゾンビたちは制圧された。
もはや動くこともなく、緩やかに灰に戻っていくのみである。
それを見届けてロニは静かに冥福を祈る、この死してなお弄ばれた者たちが安らかに眠れるように。
「眠る前にお前の最後の願い吐いていけ……俺が必ず叶えてやるからよっ」
舞刀士フレイの亡骸に手を当て心を澄ませる。
彼の最後の願いがなんであったのかを確信し、散りゆく姿を見届けた。
「そちらも無事に終わったようですね」
遅れてやってきたステラとエーミ、その二人の無事な姿を確認して、氷雨はふっとようやく緊張を解いた。
「とりあえず答え合わせは後ほどとして、残りの調査を済ませましょう」
フェリアの言葉に、急ぎ調査の続きが行われることとなった。
「掘り荒らされた墓」
「鴉を撃ち落とした直後のゾンビの挙動の変わり具合」
「消えた鴉の死骸」
「続く足跡が同じ場所で消えていた」
「コンテナと思われる巨大な痕跡と、そこに集まる足跡」
空き家の一つを今夜の宿に、ハンス、エーミ、ステラ、セルゲン、氷雨が口々に手に入れた情報を確認する。
暴雨が空き家を激しく叩く音、一応村は調べ尽くしたものの、警戒を解かないロニとトリプルJがその場を見守る。
「おそらくですが、この一件は帝国で起きている剣機の誘拐事件の一つだと思います」
「同感ね、そして剣機は何かに操られているんでしょう、その鍵が」
「あの鴉か。死骸は結局見つからなかったし、ほぼ確定で歪虚だろうな」
フェリアの言葉をエーミがつなぎ、ステラが捕捉する。
「鹵獲できなかったのは惜しかったわね」
「あの状況じゃあな」
まして得物は銃、手加減できる種類の代物でもない。
だからこそ、相手も鴉という媒体を選んでいるのだろう。
「だとして、なぜこの村に戦力を残していたのか……」
「そればかりは想像するしかないな」
フェリアの疑問に、ロニが首を横に振る。
有った事実以外は推測するしかできない。
話すこともなくなり、その夜は静かに過ぎていった。
●闇の中にて
……プランデルタは失敗か。
……もとより優先度は低かった、問題はなかろう。
……村一つを囮にハンターの素材を収集する、上手く行けば面白いこともできただろうが。
……それは確かに惜しい、だが戦闘データは収集できた。
……思ったよりも早く対応されたようだがな、知られていたか?
……かもしれん、まぁいい。計画を続行しよう。
ごぽ、こぽと水の中を気泡が漂う音が響く。
いまだ、災禍は終わらない。
●託された願い
「トリプルJさん」
氷雨の呼ぶ声に、嵐の後に残った晴れ間ののぞく空をみあげていたトリプルJが振り返る。
嵐の後だというのに、多く雲の残る空は、どこかしら不吉だった。
「あの時、何が聞こえたんですか?」
氷雨が言っているのは舞刀士フレイを倒したあと、深淵の声を使ったときのことを言っているのだろう。
「……村の仲間を、助けてくれってな」
あの時、必ず叶えてやると言った気持ちに嘘はない。
最後の望みに応える時が来るのを、今はただ静かに待つのみ。
朝日に手を伸ばし、ぐっと握る。
誓いを確かなものにするように。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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痕跡探し(相談卓) 氷雨 柊羽(ka6767) エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/04/08 07:42:05 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/07 12:48:50 |