ゲスト
(ka0000)
【AP】四月になれば幻獣は
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/06 07:30
- 完成日
- 2017/04/13 21:19
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
春うららかな、いつもと変わらない日常。
――の筈なのだが――
とあるハンターの家。
「……だ、だれ、あんた」
朝目を覚ましてみれば、その家の主たる女性ハンターのすぐ傍にいたのは、眼をきらきらと輝かせた小柄な少年。
「ごしゅじんさま、おはよーございます!」
そう言ってにこっと笑う少年は、正直可愛い。まだ学校に行っているくらいの年齢だろう。ふっくらした頬は僅かに赤く、幼さを表わしているようにも見える。
……って、そういうことじゃなく。
「あんただれ? どうしてうちにいるの……!?」
女性の一人暮らし。そりゃあそうなるのも無理からぬことだ。しかし少年は僅かに首をかしげ、そしてにぱっと笑った。
「なんかね、おきたらこうなってました、ごしゅじんさま! ぼくです、ほっぷです!」
ホップ――それは、彼女のパートナーとも言える、ユキウサギの名前。言われて少年の顔を見れば、確かに瞳の色、髪の色などはそれに限りなく近く――
「……本当に?」
「はい! ごしゅじんさま!」
そう言って微笑む無垢な笑みに、ウソは見えなかった。
●
ハンターオフィスは混乱していた。
何しろ、『自分のパートナーユニットの幻獣が人間になっている』といういかにもな異常事態が、あちこちのハンターから寄せられているのだ。
困惑しないわけがない。
ちなみに、魔導アーマーなども人間の姿になるかと思ったが、こちらは不思議とそういうことにはなっていないらしい。理由は分からないが、そういうこともあるのだな、としか言いようがなかった。
そして当然と言えば当然だが、オフィスには幻獣だったであろう少年少女を連れたハンターも困惑顔のまま何人も訪れている。
正直、このまま依頼に出発しても不安材料しかない。
「……これが永続的なものか一時的なものかは判らないけれど、とりあえず今日くらいは羽を伸ばしてきたらどうかな」
オフィスの事務員で、三十がらみの男がそう言った。
「幻獣のほうも慣れない人間の姿で不安は多いだろうし、パートナー同士でのんびり過ごすといい。ちょうど、おあつらえ向きに良い天気だし、外を出歩くもよし、買いものするもよし……家でのんびりするもよし。だから、今日は休暇!」
事務員は無精髭のまま、にぃっと笑みを浮かべる。
ハンターたちは一瞬目をぱちくりさせたが――やがて頷いた。
春うららかなこんな日は、深くものを考えないで。
ゆっくりゆっくり、のんびりとすごそう。
見知らぬ顔の見知った仲間と、一緒にすごそう。
春うららかな、いつもと変わらない日常。
――の筈なのだが――
とあるハンターの家。
「……だ、だれ、あんた」
朝目を覚ましてみれば、その家の主たる女性ハンターのすぐ傍にいたのは、眼をきらきらと輝かせた小柄な少年。
「ごしゅじんさま、おはよーございます!」
そう言ってにこっと笑う少年は、正直可愛い。まだ学校に行っているくらいの年齢だろう。ふっくらした頬は僅かに赤く、幼さを表わしているようにも見える。
……って、そういうことじゃなく。
「あんただれ? どうしてうちにいるの……!?」
女性の一人暮らし。そりゃあそうなるのも無理からぬことだ。しかし少年は僅かに首をかしげ、そしてにぱっと笑った。
「なんかね、おきたらこうなってました、ごしゅじんさま! ぼくです、ほっぷです!」
ホップ――それは、彼女のパートナーとも言える、ユキウサギの名前。言われて少年の顔を見れば、確かに瞳の色、髪の色などはそれに限りなく近く――
「……本当に?」
「はい! ごしゅじんさま!」
そう言って微笑む無垢な笑みに、ウソは見えなかった。
●
ハンターオフィスは混乱していた。
何しろ、『自分のパートナーユニットの幻獣が人間になっている』といういかにもな異常事態が、あちこちのハンターから寄せられているのだ。
困惑しないわけがない。
ちなみに、魔導アーマーなども人間の姿になるかと思ったが、こちらは不思議とそういうことにはなっていないらしい。理由は分からないが、そういうこともあるのだな、としか言いようがなかった。
そして当然と言えば当然だが、オフィスには幻獣だったであろう少年少女を連れたハンターも困惑顔のまま何人も訪れている。
正直、このまま依頼に出発しても不安材料しかない。
「……これが永続的なものか一時的なものかは判らないけれど、とりあえず今日くらいは羽を伸ばしてきたらどうかな」
オフィスの事務員で、三十がらみの男がそう言った。
「幻獣のほうも慣れない人間の姿で不安は多いだろうし、パートナー同士でのんびり過ごすといい。ちょうど、おあつらえ向きに良い天気だし、外を出歩くもよし、買いものするもよし……家でのんびりするもよし。だから、今日は休暇!」
事務員は無精髭のまま、にぃっと笑みを浮かべる。
ハンターたちは一瞬目をぱちくりさせたが――やがて頷いた。
春うららかなこんな日は、深くものを考えないで。
ゆっくりゆっくり、のんびりとすごそう。
見知らぬ顔の見知った仲間と、一緒にすごそう。
リプレイ本文
一日限りの、ヒトの姿になったユニットと一緒の夢。
ハンターたちはこの夢を、どう紡ぐだろう?
●
「はあ……ひとまず落ち着け主。俺は大丈夫だから」
ため息交じりにそう言うのは二十代も半ばほどのインテリ風イケメン眼鏡男子。ゆったり目のローブを身に纏い、どことなく落ち着いた雰囲気を漂わせている彼は――イェジドのヴァーミリオン、通称ヴァン。ボルディア・コンフラムス(ka0796)の相棒たる幻獣だ。
「ええー!? ってそう言われても、お前、マジでヴァンか? ちゃんと元に戻るのかそれ?」
混乱しているボルディアをよそに、ヴァンはクールな対応。
「無理に戻そうとしなくても、そのうち元に戻るだろう。それより今日は良い天気だ。散歩にでも行かないか? 色々と伝えたいこともあるし、な?」
そう言ってどこか凄みのある笑みを浮かべてみせる。言われたボルディアは複雑そうな表情のまま、頷いた。
「ま、別にいいけど……お前、ちょっと顔が怖いぞ?」
たどり着くまでの間、ボルディアはずっと背筋の冷えるような思いをしていた。
なぜか。
それはヴァンがここぞとばかりに、ボルディアヘイ抱いていた胸の内を打ち明けたのである。……といっても、決して艶めいたことではない。
「家の中をあられもない格好で歩かないように。あと、化粧をするのは無理だろうと思うけれど、せめて身だしなみには気を使いなさい、年頃の女性だろう」
そんなことをぽんぽんと、まるで小姑かなにかのように繰り出すヴァンに、げっそりとしているボルディア。
「……あーあーあー、うるせえなぁ! お前は俺の母親かってんだ! いいんだよ、俺はこれで!」
そう声を荒げると――急にヴァンが服の裾を引っ張ってきた。不思議そうな顔をすると、僅かに顔をしかめて困ったような顔をしたヴァンがいる。
「……前から女性が来る。俺はどうも女性が苦手で……」
申し訳なさそうに小声でいうヴァンに、ボルディアは思わず吹き出した。
「女が苦手ェ? テメェ、ずっと俺と一緒にいるくせになんで苦手なんだよ?」
「……え? ああ、主は女性には見えないから、問題ない」
そこでまた思わずこぶしが出そうになるボルディアだったり。
たどり着いたのは、あたたかな春風の吹く草原。二人してそこで寝っ転がりながらのんびりと過ごす目論見だ。
「こうやって何も考えずに草の上でごろごろするのは、幻獣でも人でも変わらず気持ちが良いな」
「だなぁ」
ヴァンの様子が穏やかなのを見て、ボルディアもぼんやり相槌を返す。と、
「主、よかったら一緒に寝ないか?」
なんてヴァンが言い出した。
「……はぁ?! お前真顔で何言ってんだこら、んなはずいことできっかよ!」
しかしヴァンはしごく真面目に、
「何を恥ずかしがる。主はよく俺の毛皮を寝床にしてたじゃないか?あいにくいまは毛がないが、遠慮するな」
そんなことを言ってのけるのだから、もうため息しか出ない。ボルディアはふうっと息をつくと、
「しゃーねーな。今回だけだぞ?」
そう言ってごろりとヴァンのそばに横になった。そしてこう思う。
(あー……まったく人の姿だとこっちの心臓が持たねぇ。さっさと幻獣に戻っちまえ!)
そう思いながら、とろり、とろりと眠りが押し寄せてくる。
●
紫色の髪に可愛らしいネコミミをはやし、緑の帽子を被った少年――彼も幻獣。夢路 まよい(ka1328)のユグディラで、トラオムという。
「まよい、まよい!」
そうほんのり甲高い声で呼びかけると、まよいは何度か瞬きをして少年を見つめた。少年の正体は直感的にわかったらしい。
(トラオムが男の子になっちゃった……! でもネコミミなんかはやして、やっぱり可愛い~♪)
まよいはそんなことを思いながら、微笑んでみせる。
「姿かたちが違っても、トラオムはトラオム。いつもみたいに一緒に街にお散歩に出かけよ~よ♪」
いつものペースでそう提案するまよい。勿論トラオムも嬉しそうに頷く。しかし、その後でいつものように頭を撫でたり喉をごろごろしたり、挙げ句だっこまでしようとしてしまうまよいに、トラオムは戸惑うばかり。
(普段されてることばっかなのに、人間の姿になった途端ちょっと恥ずかしい気分になってきたよ……なんでだろ?)
いや、普通にそれらは人間同士でもなかなかしないスキンシップなので、トラオムの考えは正しいのであるが。
(……って。そんな風に抱きつかれたりしたら、その……恥ずかしいよ!)
そう、トラオムが人間の少年サイズになったことで、重くて持ち上げることが出来ず、トラオムを立たせたまま抱きつくという行動に出たのである。思春期の少年なら卒倒しそうなシチュエーションだ。
「ん~、でもやっぱり抱きごこちはいつもと違うなぁ。いつもはもっふもふのふっさふさが気持ちいいんだけど……」
その言葉に、ピク、とネコミミが反応する。まよいの中では、トラオムはいつもの姿の方が良いのだろうか。そう思うと、なんだかしょぼんとなってしまう。ネコミミもうなだれるというものだ。
「……あ、ごめんごめん! もちろん、いまのトラオムも十分可愛いよ。だから、そんなにしゅんとしないでいいんだからね?」
そう言って慰めてやるが、やはり言葉だけでは不安なようだ。とりあえず仕度をして、二人は街を散策することにした。
「そうだ、一緒に何かごはんでも食べよっか。しゅんってさせちゃったお詫びに、好きなもの買ったげる!」
まよいがそう言うと、トラオムはほんのり顔を紅潮させて、魚を指さす。
「いつもみたいにお魚がいいの? でも折角なら、ただのお魚じゃつまらなくない? 何かお魚を使った料理見繕ってあげようか、私も一緒に食べたいしね!」
そしてしばらくしてまよいが見つけたのは、白身魚を揚げたものをバンズにはさんだ、いわゆるフィッシュバーガー。これをトラオムにも手渡し、街角のベンチで一緒にぱくりと一口頬張る。揚げたてらしい魚のフライは、口の中でふわっと崩れていく。トラオムはその食感に感動したのか、あっという間に平らげてしまった。
「あはは、食べるの早いね。……それにしてもトラオムは、どうなってもやっぱり可愛いな~、私、トラオムのこと大好きだよ!」
にっこり笑ってそう言うまよいに、トラオムはドキリ、となった。顔が知らず赤くなる。
「ね、トラオムは私のこと、どう思ってる? 折角おしゃべりできるようになったんだし、教えてよ」
しかしトラオムの口は上手く動かない。
(そりゃ、まよいのことはボクも好きだけど……なんだか直接、言いづらい雰囲気だなぁ……)
少年らしい悩みを抱えた幻獣なのであった。
●
――でかい。
テオバルト・グリム(ka1824)の側にいるのは、蜂蜜色のウルフへアに褐色の瞳、抜けるような白い肌の巨漢。
「……誰だ?」
テオバルトは思わずうわずった声で呼びかけるが、すると青年は人なつこそうな笑顔を向けた。その表情にはどこか既視感がある――そう、イェジドのルドラだ。人間になったらきっとこんな風だろう、そう思っていると柄永 和沙(ka6481)がばたばたとやってきた。ちなみにテオバルトの恋人であったりする。
「どうしよう! くろ汰が人間に――」
そう言う彼女の後ろには、長身で金髪、緑の目、右の目に一本傷のはいった、見た目は完全にヤのつく自由業といった風体の男性がついてきていた。
どうやら、そのやばい見た目の男こそ、彼女のリーリー・くろ汰であるらしい。
「たく、和沙も俺に頼ればいいのに、恋人の所に行くんだからよ……ッたく」
悪態をついているのは、やはり主人の恋人達にいい感情を持っていない現れなのだろう。まあ、そんなものだ。
「そっちもか。今日はどうやら仕事にもならないし、たまには四人で花見でもするか?」
テオバルトはそう言いながら、和沙の頭を優しく撫でる。くろ汰がぴりっと一瞬反応したが、和沙はそれを慌ててなだめた。人間の姿と言うこともあって、普段以上にパートナーの感情がわかるらしい。
「うん、それならお弁当作るよ! 行こう行こう!」
かくして花見に行くことになったのである。
日当たりの良い草原。近くには桜の木が植わっていて、いかにも花見日和ですという風をなしている。
茣蓙を敷き、そこに四人が座る。和沙の用意した二段の重箱がそっと開けられると、三人は思わず喉を鳴らした。様々な料理が色とりどりに並べられている。
もっとも、どうやらひとりで作ったわけではないらしいのだが、そのへんはご愛敬という奴だ。
「さ! 今日のお弁当はあたしが腕をふるって作ったから、全部食べること!」
和沙のにっこりという言葉が似合う笑みに、他の三人もこくこく、と頷く。大柄なもと幻獣はもぐもぐと美味そうに次から次へと食事を口に運んでいくし、テオバルトはというと和沙にはい、と口もとに料理を差し出されて少しどぎまぎして――しかしくろ汰にしっかり邪魔されたり。そして和沙からくろ汰に雷が落ちたり。
「まあ、いまはご飯だ。くろ汰の好きなものはあるか?」
そう言ってテオバルトもなだめすかすが、微妙に逆効果だったり。
それでもしつこいくろ汰に渋々「あーん」をしてあげ、ルドラにもちゃんとしてあげる。
ある意味微笑ましい光景と言えるだろう。
和沙は小さくため息をついてくすりと笑う。
「ルドラは大人でいいよね。うちのくろ汰なんて、こんなでかい図体視点のに、煩いし」
するとルドラは穏やかな瞳でいう。
「まあ、年長者だからな。それより和沙、手尾とふたりがいいのなら遠慮なく言うといい。必要であれば席を外そう」
その一方で反論するのはくろ汰。
「バカ、うるさくねぇよ。……テオバルトばっか構ってねぇで、オレにも構え」
やきもちやきなのかと思わずクスクス笑う一同に、更に赤くなるくろ汰である。
「それにしても桜が綺麗だね」
テオバルトはそう言って、そっと和沙と桜を眺める。手を軽くつなぎ、寄り添いあうその姿はまるで一枚の絵のようで、見ているだけでほのぼのとしてくる。とはいえこの陽気に満腹の状態ではだんだんと眠気も押し寄せてきて――
「膝枕してあげる」
ぽん、と膝を叩いてみせる和沙の好意に甘えてゆっくり眠りに落ちるテオバルト。
そして和沙は笑顔を浮かべ、そっとその耳元に囁いてやる。
「……大好きだよ、テオ」
それを横目で見るくろ汰がルドラに八つ当たりするまで、あと数秒。
ルドラとくろ汰のじゃれ声(?)を遠くに聴きながら、
(……ルドラはやっぱり頼れる兄ちゃんなんだな……)
眠りの淵で、そんなことを思うテオバルトであった。
●
エルバッハ・リオン(ka2434)のイェジド・ガルムはエルバッハによく似ていた。耳の長さが違うことをのぞけば、確かによく似ているが、髪の色と瞳の色は異なっていた。
(おかしなことになりましたね)
そうは思いつつも、ガルムはエルバッハによく接してくれる。落ち着いた、礼儀正しい性格のガルムはやや戸惑うことも多いらしい。
というのも、受けていた護衛依頼に出向く準備をしていた時、ガルムは僅かに顔を赤らめながら
「エル様、本気でこのドレスを着ていくおつもりですか?」
そう問い詰めてきたのである。
ドレス――それは、ほぼ透明な生地で作られた、戦闘用のもの。しかしみただけなら、それが戦闘用とは思わないだろう。かなり露出度の高い衣装で、ガルムの纏う落ち着いた黒いワンピースとは対照的だ。
エルバッハは、しかしごく当たり前、というふうに返事をした。
「もちろん、強化や改造を施しているので性能が高いですし」
そう言って、更に
「それに今回の護衛対象は特産品の運搬をするという、あるムラの青年達と聞いていますから……きっと面白い反応を返してくれるはずです」
普段は出さない本音を、思わずガルムには漏らしてしまう。何しろエルバッハの家系は、露出度に抵抗のない家なのである。
するとガルムは、
「いいですかエル様。いまはそのような行為も黙認されているかも知れませんが、いつまでもこれが続くとは限りません。折角格好良く見えるように改造をしたドレスもあるのですから、そちらを着ていって下さい」
僅かに険の籠もった声で、びしっと説得しようとする――が、
「いやです」
エルバッハは即座に否定。ガルムのこめかみがひくりと動く。
「……主の過ちを正すのも、僕のつとめですね。ええ、これはエル様の為なのです……」
そう言って、ガルムはエルバッハに歩み寄った。
それから一時間ほどのち。
エルバッハは顔の右半分に青あざを作り、きちんとした戦闘用のドレスを身に纏って自宅から出てきた。その後ろには、長剣や軽鎧と言った装備に身を固めたガルムがおとなしく付き従っている。
(実力行使に出るとは、躾を間違えましたか……依頼を終えて帰ってきたら、覚えていなさい)
エルバッハはそんなことを思いながら睨み付けるが、ガルムの方はやり遂げた顔で満足そうに頷いている。
「……集合時間も近いですから、急ぎますよ」
エルバッハはなにか言おうとしたが、結局言葉をとどめ、そして二人で集合場所へと歩きだした。
●
「……へぇ、これがヒトかあ。いいね、いい、とても! 何より綺麗なお姉さんと、同じ目線であるというのが最高だ……!」
そういってたのしそうに笑っているのは二十代前半の青年。身長も高く、いわゆるイケメン――に属するだろうにどこか違和感があるのは、彼がおそらく幻獣だからだろう。
そう、ナツキ(ka2481)のユグディラ・エーカーこそ彼の正体だ。それを横で眺めているナツキは、少し微笑む。
「エーカー、だいたい私の予想通り。見た目的にも、性格的にも」
「どういうことだいナツキ?」
ナツキの言葉に大仰なポーズで尋ねるエーカー。なんとなくその言動がきざに見えるのは、気のせいではない。それに、エーカーは思っていた。
(ま、見た目の愛らしさでは、輪があるじに勝る女性はそう多くないだろうけどね)
あえて口に出さない当たりもきざである。
「……ううん、なんでも。とりあえず外に出てみようか?」
ナツキの提案に、エーカーも頷いた。
(それにしても、あるじの家には魅力的な子たちが揃っているわけだけど……やっぱり街には素敵な方々が沢山いらっしゃる)
ちなみにエーカーのいう『あるじの家の魅力的な子』は、ナツキの飼う雌の猫たちのことである。しかし、エーカーの目にうつる世界は、いつも以上にきらきらとしていて、ついつい心が弾む。
きれいどころの女性を見掛けては、
「どうです、今から僕と日向ぼっこでも」
なんて声をかけるのだ。いわゆるナンパである。しかも、一緒に連れ立って歩いているナツキはそう言う女性には妹かなにかと勘違いされるらしく、ナツキとしてはそこも微妙に気に入らない。その上エーカーときたら、ナツキのことを飼い主と説明するものだから、一層変態趣味と思われる有り様である。
「……じゃあ飼い主として命じる。わたしに美味しいご飯を奢りなさい」
しかしエーカーは首を小さく振って文無しであることを示す。考えてみれば当たり前だ、元々幻獣なのだから。
「仕方ない。わたしが奢ってあげるから、感謝して」
「ああ、ありがとう……といっても、よくよく考えると毎日あるじに奢って貰っているともいえるのかもだけど」
「そんなことは気にしない」
そんなことを言いながら入ったオープンカフェで、二人はのんびりとランチを頬張る。エーカーはそんなナツキの態度を見て、ふと思った。
(折角の機会だし、あるじの恋愛事情も聞き出しておこうかな)
しかし、それらしく話を持っていっても、ナツキは表情を余り崩さない。
「……私は別に。恋人とか、欲しくないし。エーカーとか、猫さんたちと一緒に毎日仲良く暮らせたら、それで充分だから」
そう言われると、エーカーも少しばかり照れくさそうに相好を崩した。
「そうだね、僕としてはあるじに頼ってもらえるだけで幸せなんだ。少しでもそう言って助けになっているのなら嬉しいけれど……」
そこで一旦エーカーは言葉を切る。
「ヒトの身体を体験して思うのはね、やっぱりもとの姿がいいなってことかな。不満げに見上げられるよりも、優しく見下ろしてもらうほうが落ち着くからね。それに何より、いつもの姿のほうが女性にちやほやされるしね!」
そう言ってウィンクひとつ。エーカーの女性好きはナツキの予想以上ではあったが、それでもエーカーはエーカー。そう言う仕草のひとつも、どこか愛らしく見えてしまうのだった。
●
鷹藤 紅々乃(ka4862)の朝は早い。というか、その日はやたらと犬小屋が騒がしくてつい起きた、というのが正しいのだろうが。
(ま、まさか曲者……?)
そう思って警戒しつつ玄関を開けると、目に飛び込んできたのは裾が僅かに躑躅色がかった深緋色の長い髪と群青色の双眸、鴇色の水干に猩々緋の菊綴をつけた十代後半とみられる青年がいた。
正直美青年である。しかし同時に、彼は紅々乃にとって妙に知った気配であると感じていた。
「……まさか、夜芸速?」
夜芸速――正しくは夜芸速彦、彼女のリーリー。若者は、尋ねられると破顔一笑して頷いた。
「もう腹をくくるしかありませんよね……」
ハンターオフィスでもずいぶんな騒ぎになっているのを見て、紅々乃は小さくため息をつく。
「御主殿? これからどうなさるのですか?……それにしても人の身になるとは、世の中何がどう起こるか分からぬものですね」
当の夜芸速はのほほんと茶をすすっているし、ここはもう本当に腹をくくって状況を楽しむしかない。
どちらにしてもまずは腹ごしらえだ。行きつけの定食屋に二人で赴き、和風――東方風とも言える定食をふたり分注文する。もぐもぐと静かに食べている姿を見て、紅々乃はなんだか嬉しくなる。
「……どうかしましたか、主様」
「ううん。夜芸速が、なかなかの箸使いだなと思ったのです」
僅かに笑うと、むこうも笑い返してくる。ほのぼのした光景だ。
それから街をそぞろ歩き。
「そういえば夜芸速と初めて出会ったのは幻獣の森でしたか」
「そうですね。主殿が懇願しにいらした時のことも、よく覚えております」
付き合いは長いような、短いような。
そんな止めどない話も、言葉が通じ合う今だからこその大切な会話だ。
ぼんやりと歩いているうちに、夜芸速はそっと紅々乃の手を取っていた。一応男性、エスコートと言うことなのだろうか。それとも、その絆の深さを再認する為だろうか。少なくとも今の二人は、何も知らないものが見ればお似合いの二人だろう。
「……あ」
何気なく空を見上げると、黄昏の色。一番星が、小さく、しかし強く瞬いている。それを見て、なんだか口元が緩む。不思議とそういう風になるものだ。
「……そういえば、御主殿。私のことを、よく私と判りましたね」
不審者と思われても仕方ない状況だったのに。そう付け加えて夜芸速が尋ねると、紅々乃は小さく微笑んだ。
「どんなに姿形が異なっていても、私は夜芸速が判るんですよ?」
自信を込めた一言。青年のなりをしたリーリーは、僅かに照れくさそうに笑った。
●
「ティオー?」
姿を見せないユグディラに戸惑うのはリアリュール(ka2003)。いつも早起きなのに、なぜか今はトイレに引きこもっているらしい。
「何かあったの?」
不安そうに声をかけると、僅かに甲高い声が返ってきた。
「みないで、みないで」
間違いなくそれは人の言葉。その声に、リアリュールも思わず固まった。
「……はあ」
オフィスの騒動を聞いて、納得はしたものの、いまだにうなだれているティオーを元気づけるにはどうすればいいか。
(そうだ)
リアリュールはジュースを買って、ティオーの元に戻る。そしてこう付け加えた。
「これをのめば、明日には元の姿に戻れるらしいわ」
鰯の頭も信心から。いわゆるプラセーボ効果を狙った、と言えばいいか。
「……らしい?」
いまだに疑いの強いティオーだが、
「せっかく今日はおしゃべりもできるし、人の姿で遊ぶこともできる。それを楽しむことも大事なんじゃないかな」
そう説得され、ティオーはようやく姿を現した。青みがかったシルバーグレーのさらさらヘアは短く切りそろえられ、綺麗な碧玉色の瞳はアーモンドアイと呼ぶに相応しい。年齢は十歳くらいだろうか、華奢な印象の愛らしい少年だ。
「ね、ティオー。なにがしたい? 言ってみて」
リアリュールが問うと、ティオーは「魚釣り」とぼそぼそと返事した。
「そっか。それなら今日は天気もいいしピクニックしよう!」
あるじたる少女はそう言ってにっこりと笑った。
春の野原は、柔らかな風が吹いて心地よい。本当はティオーと出逢った湖まで足を伸ばしたかったけれど、さすがに遠いので近場である。けれど近くには小さな川が流れていて、魚釣りもきちんと楽しめる、なかなかの穴場だ。
「ぽかぽかして気持ちいいね~」
「うん! 綺麗な桜、菜の花もきらきらしてる!」
ティオーもこうなったら楽しむつもりらしい、鼻歌交じりにスキップしている。
「ティオーって、お花好きだよね」
「うん」
リアリュールの問いに頷くティオー。
「それならせっかくだし、あとでいいものあげる。さあ、お魚釣ってきたらいいよ♪」
「はーい!」
ティオーは楽しそうに釣り道具を持って小川に向かう。その隙に、リアリュールは野原に咲く白詰草やレンゲソウをそっと集めた。これをつかって花冠を作れば、さぞティオーも喜ぶに違いない。
しばらくすると、ティオーは魚を幾らか持って嬉しそうに戻ってきた。これらはその場で焼いて食べれば絶対おいしいだろう、という感じである。
「お帰りティオー。ほら、これつけてみて」
「わぁ……!」
花冠をつけたティオーは、本当に嬉しそうに微笑む。魚も食べ頃に焼けたあたりで、一緒にいただきますをいう。
「……そうだ。せっかくだからこの際、ティオーに聞きたいこともいっぱいあったんだけど……」
「なに?」
しかしリアリュールはくすりと微笑んで優しくティオーの頭を撫でた。
「ううん。まず言いたいことを言っておこうと思って。とにかく、これからもよろしくね?」
するとティオーはにっこり笑って頷いた。
「ぼくこそよろしくね?」
「うん。いつも家事を手伝ってもくれて、ありがとう。それから……」
そこでリアリュールはくすっと照れくさそうに笑う。
「一度でいいから、思いっきりもふもふしたいな」
ティオーは僅かに驚いた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。
「……うん」
好奇心旺盛なわりに人見知りなティオーだが、あるじには全幅の信頼を置いているのだろう。こちらも照れくさそうに、頷くのだった。
●
「……人……?」
そう、呆然と呟いているのは骸香(ka6223)。目の前にいるのは、中性的な容姿の、思春期直前くらいの少年とも少女ともつかない子どもだった。
「はい! 主様! 僕ニンゲンになった、たくさんお手伝いできる!」
そう言ってタックルしてきたものだから、たまらない。しかもその勢いで押し倒され、骸香としては混乱の極みだ。しかし、その気配は確かに、紛れもなく、
「……え、珠雪?」
彼女のユキウサギなのである。
「ど、どういうことっすか!?」
「よくわからないです! でもこれでたくさん役立てるです!」
珠雪は無邪気な口調で、嬉しそうに言う。かなりテンションも上がっているようだ。
慌てて同居中の恋人、鞍馬 真(ka5819)に尋ねようとするも、彼も彼で戸惑っている。というのも――
「なんでお前のほうが私よりも背が高いんだ、レグルス……!」
真のイェジドであるレグルスも、しっかり人間の姿になっていたのである。それも、男性としてはやや小柄な真の身長をゆうに超える身長で。そのくせどこかかわいい系の雰囲気を漂わせているのは、もともとの性格なのだろうか。犬のような人なつこさが、感じられる。
しかし身長については真にとってはかなり重要ポイントだったらしく、ため息をついている。
「とりあえず考えていても埒があかない」
と、骸香はいいことを思い付いた、という顔で、
「それなら、珠雪も、真さん達も、一緒に気晴らしに散歩しません?」
と声をかける。
「……そうだな。こういう機会に、世界を見るのもひとつの手かも知れないし」
真も頷いて、四人で街へと繰り出した。
「大人数ではあるけれど、楽しいですね」
骸香は微笑みながら言う。彼女の着物の裾は珠雪が握っていて、遠目から見ると――
「なんか、家族とか思われたりして」
骸香はなんだか楽しそうに言葉を紡ぐ。
「……こうやってみんなでいると、たしかに家族みたいですねー」
レグルスはそう言ってにこにこ笑う。人なつっこい笑みは、確かに長身だがどこか愛嬌があり、少し間延びした口調も穏やかな性格を示していた。
(レグルスの言うとおり、確かに家族みたいだな)
真もそう思って穏やかな笑みを浮かべる。しかし、
「あ、でもご主人は小さいから、兄弟みたいな感じかな?」
そう言ってくっついてこようとするレグルスに思わず克を入れる真。そしてそんな光景を見て微笑む骸香。その脇で楽しそうに飛び跳ね、
「かぞく? 主さまといっしょにいられるなら、なんでもいいよ!」
そんなことを無邪気に言う珠雪。骸香も真もこの意見には苦笑を思わずうかべたが、
「まぁ、怪我なく生きていれば、一緒に居られるでしょ?」
ちら、と真を横目で見ながらそんなことを言う骸香。真はなにかと生傷の絶えない人なので、ちょっとした意趣返しだ。無論それだけではない。彼が心配であると言うことを暗に滲ませている。もっとも、幻獣たちにそれを悟られたくないので、あえてそんな言葉で濁してしまうわけだが。
「んー、確かにご主人は怪我してばかりですよね~。僕はご主人と眠れたらそれで満足なんですから、無事でいて下さいね?」
まあ、レグルスの方はいいたいことの一部は判ったらしくにこにこ笑って骸香に同意する。
「……悪かったな」
少し気恥ずかしそうに目を逸らす真。一応自覚はあるので、申し訳ないとは思っているようだ。
(……それと、いつもは言えない感謝の気持ちを伝えられたら……)
なにかと真を助けてくれるレグルス。真自身、レグルスのことは相棒として信頼している。何しろ、どんなに厳しい戦場であっても、レグルスはいやな顔せず彼をサポートしてくれるのだから。
「レグルス、俺はどんな戦場でも、お前がいれば何も怖くない。これからも相棒としてよろしくな」
そう言ってさしだした手に、レグルスは己の手を重ね、握る。
「こちらこそ~……僕はレグルスに、ついていきますから」
友情めいたそのやりとりに、骸香もなんだか嬉しそうに微笑む。すると珠雪も、自分も! と言わんばかりにぴょんこぴょんこと抱きついてきた。珠雪なりの親愛表現なのだろう。
――幻獣たちにも個性はあるし、幻獣たちとの付き合い方も人それぞれ。
それでも、この不思議な現象を経験した人たちは心に留めるのだろう。
桜の花のようにはかない、春の一日の不思議な出来事を――。
ハンターたちはこの夢を、どう紡ぐだろう?
●
「はあ……ひとまず落ち着け主。俺は大丈夫だから」
ため息交じりにそう言うのは二十代も半ばほどのインテリ風イケメン眼鏡男子。ゆったり目のローブを身に纏い、どことなく落ち着いた雰囲気を漂わせている彼は――イェジドのヴァーミリオン、通称ヴァン。ボルディア・コンフラムス(ka0796)の相棒たる幻獣だ。
「ええー!? ってそう言われても、お前、マジでヴァンか? ちゃんと元に戻るのかそれ?」
混乱しているボルディアをよそに、ヴァンはクールな対応。
「無理に戻そうとしなくても、そのうち元に戻るだろう。それより今日は良い天気だ。散歩にでも行かないか? 色々と伝えたいこともあるし、な?」
そう言ってどこか凄みのある笑みを浮かべてみせる。言われたボルディアは複雑そうな表情のまま、頷いた。
「ま、別にいいけど……お前、ちょっと顔が怖いぞ?」
たどり着くまでの間、ボルディアはずっと背筋の冷えるような思いをしていた。
なぜか。
それはヴァンがここぞとばかりに、ボルディアヘイ抱いていた胸の内を打ち明けたのである。……といっても、決して艶めいたことではない。
「家の中をあられもない格好で歩かないように。あと、化粧をするのは無理だろうと思うけれど、せめて身だしなみには気を使いなさい、年頃の女性だろう」
そんなことをぽんぽんと、まるで小姑かなにかのように繰り出すヴァンに、げっそりとしているボルディア。
「……あーあーあー、うるせえなぁ! お前は俺の母親かってんだ! いいんだよ、俺はこれで!」
そう声を荒げると――急にヴァンが服の裾を引っ張ってきた。不思議そうな顔をすると、僅かに顔をしかめて困ったような顔をしたヴァンがいる。
「……前から女性が来る。俺はどうも女性が苦手で……」
申し訳なさそうに小声でいうヴァンに、ボルディアは思わず吹き出した。
「女が苦手ェ? テメェ、ずっと俺と一緒にいるくせになんで苦手なんだよ?」
「……え? ああ、主は女性には見えないから、問題ない」
そこでまた思わずこぶしが出そうになるボルディアだったり。
たどり着いたのは、あたたかな春風の吹く草原。二人してそこで寝っ転がりながらのんびりと過ごす目論見だ。
「こうやって何も考えずに草の上でごろごろするのは、幻獣でも人でも変わらず気持ちが良いな」
「だなぁ」
ヴァンの様子が穏やかなのを見て、ボルディアもぼんやり相槌を返す。と、
「主、よかったら一緒に寝ないか?」
なんてヴァンが言い出した。
「……はぁ?! お前真顔で何言ってんだこら、んなはずいことできっかよ!」
しかしヴァンはしごく真面目に、
「何を恥ずかしがる。主はよく俺の毛皮を寝床にしてたじゃないか?あいにくいまは毛がないが、遠慮するな」
そんなことを言ってのけるのだから、もうため息しか出ない。ボルディアはふうっと息をつくと、
「しゃーねーな。今回だけだぞ?」
そう言ってごろりとヴァンのそばに横になった。そしてこう思う。
(あー……まったく人の姿だとこっちの心臓が持たねぇ。さっさと幻獣に戻っちまえ!)
そう思いながら、とろり、とろりと眠りが押し寄せてくる。
●
紫色の髪に可愛らしいネコミミをはやし、緑の帽子を被った少年――彼も幻獣。夢路 まよい(ka1328)のユグディラで、トラオムという。
「まよい、まよい!」
そうほんのり甲高い声で呼びかけると、まよいは何度か瞬きをして少年を見つめた。少年の正体は直感的にわかったらしい。
(トラオムが男の子になっちゃった……! でもネコミミなんかはやして、やっぱり可愛い~♪)
まよいはそんなことを思いながら、微笑んでみせる。
「姿かたちが違っても、トラオムはトラオム。いつもみたいに一緒に街にお散歩に出かけよ~よ♪」
いつものペースでそう提案するまよい。勿論トラオムも嬉しそうに頷く。しかし、その後でいつものように頭を撫でたり喉をごろごろしたり、挙げ句だっこまでしようとしてしまうまよいに、トラオムは戸惑うばかり。
(普段されてることばっかなのに、人間の姿になった途端ちょっと恥ずかしい気分になってきたよ……なんでだろ?)
いや、普通にそれらは人間同士でもなかなかしないスキンシップなので、トラオムの考えは正しいのであるが。
(……って。そんな風に抱きつかれたりしたら、その……恥ずかしいよ!)
そう、トラオムが人間の少年サイズになったことで、重くて持ち上げることが出来ず、トラオムを立たせたまま抱きつくという行動に出たのである。思春期の少年なら卒倒しそうなシチュエーションだ。
「ん~、でもやっぱり抱きごこちはいつもと違うなぁ。いつもはもっふもふのふっさふさが気持ちいいんだけど……」
その言葉に、ピク、とネコミミが反応する。まよいの中では、トラオムはいつもの姿の方が良いのだろうか。そう思うと、なんだかしょぼんとなってしまう。ネコミミもうなだれるというものだ。
「……あ、ごめんごめん! もちろん、いまのトラオムも十分可愛いよ。だから、そんなにしゅんとしないでいいんだからね?」
そう言って慰めてやるが、やはり言葉だけでは不安なようだ。とりあえず仕度をして、二人は街を散策することにした。
「そうだ、一緒に何かごはんでも食べよっか。しゅんってさせちゃったお詫びに、好きなもの買ったげる!」
まよいがそう言うと、トラオムはほんのり顔を紅潮させて、魚を指さす。
「いつもみたいにお魚がいいの? でも折角なら、ただのお魚じゃつまらなくない? 何かお魚を使った料理見繕ってあげようか、私も一緒に食べたいしね!」
そしてしばらくしてまよいが見つけたのは、白身魚を揚げたものをバンズにはさんだ、いわゆるフィッシュバーガー。これをトラオムにも手渡し、街角のベンチで一緒にぱくりと一口頬張る。揚げたてらしい魚のフライは、口の中でふわっと崩れていく。トラオムはその食感に感動したのか、あっという間に平らげてしまった。
「あはは、食べるの早いね。……それにしてもトラオムは、どうなってもやっぱり可愛いな~、私、トラオムのこと大好きだよ!」
にっこり笑ってそう言うまよいに、トラオムはドキリ、となった。顔が知らず赤くなる。
「ね、トラオムは私のこと、どう思ってる? 折角おしゃべりできるようになったんだし、教えてよ」
しかしトラオムの口は上手く動かない。
(そりゃ、まよいのことはボクも好きだけど……なんだか直接、言いづらい雰囲気だなぁ……)
少年らしい悩みを抱えた幻獣なのであった。
●
――でかい。
テオバルト・グリム(ka1824)の側にいるのは、蜂蜜色のウルフへアに褐色の瞳、抜けるような白い肌の巨漢。
「……誰だ?」
テオバルトは思わずうわずった声で呼びかけるが、すると青年は人なつこそうな笑顔を向けた。その表情にはどこか既視感がある――そう、イェジドのルドラだ。人間になったらきっとこんな風だろう、そう思っていると柄永 和沙(ka6481)がばたばたとやってきた。ちなみにテオバルトの恋人であったりする。
「どうしよう! くろ汰が人間に――」
そう言う彼女の後ろには、長身で金髪、緑の目、右の目に一本傷のはいった、見た目は完全にヤのつく自由業といった風体の男性がついてきていた。
どうやら、そのやばい見た目の男こそ、彼女のリーリー・くろ汰であるらしい。
「たく、和沙も俺に頼ればいいのに、恋人の所に行くんだからよ……ッたく」
悪態をついているのは、やはり主人の恋人達にいい感情を持っていない現れなのだろう。まあ、そんなものだ。
「そっちもか。今日はどうやら仕事にもならないし、たまには四人で花見でもするか?」
テオバルトはそう言いながら、和沙の頭を優しく撫でる。くろ汰がぴりっと一瞬反応したが、和沙はそれを慌ててなだめた。人間の姿と言うこともあって、普段以上にパートナーの感情がわかるらしい。
「うん、それならお弁当作るよ! 行こう行こう!」
かくして花見に行くことになったのである。
日当たりの良い草原。近くには桜の木が植わっていて、いかにも花見日和ですという風をなしている。
茣蓙を敷き、そこに四人が座る。和沙の用意した二段の重箱がそっと開けられると、三人は思わず喉を鳴らした。様々な料理が色とりどりに並べられている。
もっとも、どうやらひとりで作ったわけではないらしいのだが、そのへんはご愛敬という奴だ。
「さ! 今日のお弁当はあたしが腕をふるって作ったから、全部食べること!」
和沙のにっこりという言葉が似合う笑みに、他の三人もこくこく、と頷く。大柄なもと幻獣はもぐもぐと美味そうに次から次へと食事を口に運んでいくし、テオバルトはというと和沙にはい、と口もとに料理を差し出されて少しどぎまぎして――しかしくろ汰にしっかり邪魔されたり。そして和沙からくろ汰に雷が落ちたり。
「まあ、いまはご飯だ。くろ汰の好きなものはあるか?」
そう言ってテオバルトもなだめすかすが、微妙に逆効果だったり。
それでもしつこいくろ汰に渋々「あーん」をしてあげ、ルドラにもちゃんとしてあげる。
ある意味微笑ましい光景と言えるだろう。
和沙は小さくため息をついてくすりと笑う。
「ルドラは大人でいいよね。うちのくろ汰なんて、こんなでかい図体視点のに、煩いし」
するとルドラは穏やかな瞳でいう。
「まあ、年長者だからな。それより和沙、手尾とふたりがいいのなら遠慮なく言うといい。必要であれば席を外そう」
その一方で反論するのはくろ汰。
「バカ、うるさくねぇよ。……テオバルトばっか構ってねぇで、オレにも構え」
やきもちやきなのかと思わずクスクス笑う一同に、更に赤くなるくろ汰である。
「それにしても桜が綺麗だね」
テオバルトはそう言って、そっと和沙と桜を眺める。手を軽くつなぎ、寄り添いあうその姿はまるで一枚の絵のようで、見ているだけでほのぼのとしてくる。とはいえこの陽気に満腹の状態ではだんだんと眠気も押し寄せてきて――
「膝枕してあげる」
ぽん、と膝を叩いてみせる和沙の好意に甘えてゆっくり眠りに落ちるテオバルト。
そして和沙は笑顔を浮かべ、そっとその耳元に囁いてやる。
「……大好きだよ、テオ」
それを横目で見るくろ汰がルドラに八つ当たりするまで、あと数秒。
ルドラとくろ汰のじゃれ声(?)を遠くに聴きながら、
(……ルドラはやっぱり頼れる兄ちゃんなんだな……)
眠りの淵で、そんなことを思うテオバルトであった。
●
エルバッハ・リオン(ka2434)のイェジド・ガルムはエルバッハによく似ていた。耳の長さが違うことをのぞけば、確かによく似ているが、髪の色と瞳の色は異なっていた。
(おかしなことになりましたね)
そうは思いつつも、ガルムはエルバッハによく接してくれる。落ち着いた、礼儀正しい性格のガルムはやや戸惑うことも多いらしい。
というのも、受けていた護衛依頼に出向く準備をしていた時、ガルムは僅かに顔を赤らめながら
「エル様、本気でこのドレスを着ていくおつもりですか?」
そう問い詰めてきたのである。
ドレス――それは、ほぼ透明な生地で作られた、戦闘用のもの。しかしみただけなら、それが戦闘用とは思わないだろう。かなり露出度の高い衣装で、ガルムの纏う落ち着いた黒いワンピースとは対照的だ。
エルバッハは、しかしごく当たり前、というふうに返事をした。
「もちろん、強化や改造を施しているので性能が高いですし」
そう言って、更に
「それに今回の護衛対象は特産品の運搬をするという、あるムラの青年達と聞いていますから……きっと面白い反応を返してくれるはずです」
普段は出さない本音を、思わずガルムには漏らしてしまう。何しろエルバッハの家系は、露出度に抵抗のない家なのである。
するとガルムは、
「いいですかエル様。いまはそのような行為も黙認されているかも知れませんが、いつまでもこれが続くとは限りません。折角格好良く見えるように改造をしたドレスもあるのですから、そちらを着ていって下さい」
僅かに険の籠もった声で、びしっと説得しようとする――が、
「いやです」
エルバッハは即座に否定。ガルムのこめかみがひくりと動く。
「……主の過ちを正すのも、僕のつとめですね。ええ、これはエル様の為なのです……」
そう言って、ガルムはエルバッハに歩み寄った。
それから一時間ほどのち。
エルバッハは顔の右半分に青あざを作り、きちんとした戦闘用のドレスを身に纏って自宅から出てきた。その後ろには、長剣や軽鎧と言った装備に身を固めたガルムがおとなしく付き従っている。
(実力行使に出るとは、躾を間違えましたか……依頼を終えて帰ってきたら、覚えていなさい)
エルバッハはそんなことを思いながら睨み付けるが、ガルムの方はやり遂げた顔で満足そうに頷いている。
「……集合時間も近いですから、急ぎますよ」
エルバッハはなにか言おうとしたが、結局言葉をとどめ、そして二人で集合場所へと歩きだした。
●
「……へぇ、これがヒトかあ。いいね、いい、とても! 何より綺麗なお姉さんと、同じ目線であるというのが最高だ……!」
そういってたのしそうに笑っているのは二十代前半の青年。身長も高く、いわゆるイケメン――に属するだろうにどこか違和感があるのは、彼がおそらく幻獣だからだろう。
そう、ナツキ(ka2481)のユグディラ・エーカーこそ彼の正体だ。それを横で眺めているナツキは、少し微笑む。
「エーカー、だいたい私の予想通り。見た目的にも、性格的にも」
「どういうことだいナツキ?」
ナツキの言葉に大仰なポーズで尋ねるエーカー。なんとなくその言動がきざに見えるのは、気のせいではない。それに、エーカーは思っていた。
(ま、見た目の愛らしさでは、輪があるじに勝る女性はそう多くないだろうけどね)
あえて口に出さない当たりもきざである。
「……ううん、なんでも。とりあえず外に出てみようか?」
ナツキの提案に、エーカーも頷いた。
(それにしても、あるじの家には魅力的な子たちが揃っているわけだけど……やっぱり街には素敵な方々が沢山いらっしゃる)
ちなみにエーカーのいう『あるじの家の魅力的な子』は、ナツキの飼う雌の猫たちのことである。しかし、エーカーの目にうつる世界は、いつも以上にきらきらとしていて、ついつい心が弾む。
きれいどころの女性を見掛けては、
「どうです、今から僕と日向ぼっこでも」
なんて声をかけるのだ。いわゆるナンパである。しかも、一緒に連れ立って歩いているナツキはそう言う女性には妹かなにかと勘違いされるらしく、ナツキとしてはそこも微妙に気に入らない。その上エーカーときたら、ナツキのことを飼い主と説明するものだから、一層変態趣味と思われる有り様である。
「……じゃあ飼い主として命じる。わたしに美味しいご飯を奢りなさい」
しかしエーカーは首を小さく振って文無しであることを示す。考えてみれば当たり前だ、元々幻獣なのだから。
「仕方ない。わたしが奢ってあげるから、感謝して」
「ああ、ありがとう……といっても、よくよく考えると毎日あるじに奢って貰っているともいえるのかもだけど」
「そんなことは気にしない」
そんなことを言いながら入ったオープンカフェで、二人はのんびりとランチを頬張る。エーカーはそんなナツキの態度を見て、ふと思った。
(折角の機会だし、あるじの恋愛事情も聞き出しておこうかな)
しかし、それらしく話を持っていっても、ナツキは表情を余り崩さない。
「……私は別に。恋人とか、欲しくないし。エーカーとか、猫さんたちと一緒に毎日仲良く暮らせたら、それで充分だから」
そう言われると、エーカーも少しばかり照れくさそうに相好を崩した。
「そうだね、僕としてはあるじに頼ってもらえるだけで幸せなんだ。少しでもそう言って助けになっているのなら嬉しいけれど……」
そこで一旦エーカーは言葉を切る。
「ヒトの身体を体験して思うのはね、やっぱりもとの姿がいいなってことかな。不満げに見上げられるよりも、優しく見下ろしてもらうほうが落ち着くからね。それに何より、いつもの姿のほうが女性にちやほやされるしね!」
そう言ってウィンクひとつ。エーカーの女性好きはナツキの予想以上ではあったが、それでもエーカーはエーカー。そう言う仕草のひとつも、どこか愛らしく見えてしまうのだった。
●
鷹藤 紅々乃(ka4862)の朝は早い。というか、その日はやたらと犬小屋が騒がしくてつい起きた、というのが正しいのだろうが。
(ま、まさか曲者……?)
そう思って警戒しつつ玄関を開けると、目に飛び込んできたのは裾が僅かに躑躅色がかった深緋色の長い髪と群青色の双眸、鴇色の水干に猩々緋の菊綴をつけた十代後半とみられる青年がいた。
正直美青年である。しかし同時に、彼は紅々乃にとって妙に知った気配であると感じていた。
「……まさか、夜芸速?」
夜芸速――正しくは夜芸速彦、彼女のリーリー。若者は、尋ねられると破顔一笑して頷いた。
「もう腹をくくるしかありませんよね……」
ハンターオフィスでもずいぶんな騒ぎになっているのを見て、紅々乃は小さくため息をつく。
「御主殿? これからどうなさるのですか?……それにしても人の身になるとは、世の中何がどう起こるか分からぬものですね」
当の夜芸速はのほほんと茶をすすっているし、ここはもう本当に腹をくくって状況を楽しむしかない。
どちらにしてもまずは腹ごしらえだ。行きつけの定食屋に二人で赴き、和風――東方風とも言える定食をふたり分注文する。もぐもぐと静かに食べている姿を見て、紅々乃はなんだか嬉しくなる。
「……どうかしましたか、主様」
「ううん。夜芸速が、なかなかの箸使いだなと思ったのです」
僅かに笑うと、むこうも笑い返してくる。ほのぼのした光景だ。
それから街をそぞろ歩き。
「そういえば夜芸速と初めて出会ったのは幻獣の森でしたか」
「そうですね。主殿が懇願しにいらした時のことも、よく覚えております」
付き合いは長いような、短いような。
そんな止めどない話も、言葉が通じ合う今だからこその大切な会話だ。
ぼんやりと歩いているうちに、夜芸速はそっと紅々乃の手を取っていた。一応男性、エスコートと言うことなのだろうか。それとも、その絆の深さを再認する為だろうか。少なくとも今の二人は、何も知らないものが見ればお似合いの二人だろう。
「……あ」
何気なく空を見上げると、黄昏の色。一番星が、小さく、しかし強く瞬いている。それを見て、なんだか口元が緩む。不思議とそういう風になるものだ。
「……そういえば、御主殿。私のことを、よく私と判りましたね」
不審者と思われても仕方ない状況だったのに。そう付け加えて夜芸速が尋ねると、紅々乃は小さく微笑んだ。
「どんなに姿形が異なっていても、私は夜芸速が判るんですよ?」
自信を込めた一言。青年のなりをしたリーリーは、僅かに照れくさそうに笑った。
●
「ティオー?」
姿を見せないユグディラに戸惑うのはリアリュール(ka2003)。いつも早起きなのに、なぜか今はトイレに引きこもっているらしい。
「何かあったの?」
不安そうに声をかけると、僅かに甲高い声が返ってきた。
「みないで、みないで」
間違いなくそれは人の言葉。その声に、リアリュールも思わず固まった。
「……はあ」
オフィスの騒動を聞いて、納得はしたものの、いまだにうなだれているティオーを元気づけるにはどうすればいいか。
(そうだ)
リアリュールはジュースを買って、ティオーの元に戻る。そしてこう付け加えた。
「これをのめば、明日には元の姿に戻れるらしいわ」
鰯の頭も信心から。いわゆるプラセーボ効果を狙った、と言えばいいか。
「……らしい?」
いまだに疑いの強いティオーだが、
「せっかく今日はおしゃべりもできるし、人の姿で遊ぶこともできる。それを楽しむことも大事なんじゃないかな」
そう説得され、ティオーはようやく姿を現した。青みがかったシルバーグレーのさらさらヘアは短く切りそろえられ、綺麗な碧玉色の瞳はアーモンドアイと呼ぶに相応しい。年齢は十歳くらいだろうか、華奢な印象の愛らしい少年だ。
「ね、ティオー。なにがしたい? 言ってみて」
リアリュールが問うと、ティオーは「魚釣り」とぼそぼそと返事した。
「そっか。それなら今日は天気もいいしピクニックしよう!」
あるじたる少女はそう言ってにっこりと笑った。
春の野原は、柔らかな風が吹いて心地よい。本当はティオーと出逢った湖まで足を伸ばしたかったけれど、さすがに遠いので近場である。けれど近くには小さな川が流れていて、魚釣りもきちんと楽しめる、なかなかの穴場だ。
「ぽかぽかして気持ちいいね~」
「うん! 綺麗な桜、菜の花もきらきらしてる!」
ティオーもこうなったら楽しむつもりらしい、鼻歌交じりにスキップしている。
「ティオーって、お花好きだよね」
「うん」
リアリュールの問いに頷くティオー。
「それならせっかくだし、あとでいいものあげる。さあ、お魚釣ってきたらいいよ♪」
「はーい!」
ティオーは楽しそうに釣り道具を持って小川に向かう。その隙に、リアリュールは野原に咲く白詰草やレンゲソウをそっと集めた。これをつかって花冠を作れば、さぞティオーも喜ぶに違いない。
しばらくすると、ティオーは魚を幾らか持って嬉しそうに戻ってきた。これらはその場で焼いて食べれば絶対おいしいだろう、という感じである。
「お帰りティオー。ほら、これつけてみて」
「わぁ……!」
花冠をつけたティオーは、本当に嬉しそうに微笑む。魚も食べ頃に焼けたあたりで、一緒にいただきますをいう。
「……そうだ。せっかくだからこの際、ティオーに聞きたいこともいっぱいあったんだけど……」
「なに?」
しかしリアリュールはくすりと微笑んで優しくティオーの頭を撫でた。
「ううん。まず言いたいことを言っておこうと思って。とにかく、これからもよろしくね?」
するとティオーはにっこり笑って頷いた。
「ぼくこそよろしくね?」
「うん。いつも家事を手伝ってもくれて、ありがとう。それから……」
そこでリアリュールはくすっと照れくさそうに笑う。
「一度でいいから、思いっきりもふもふしたいな」
ティオーは僅かに驚いた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。
「……うん」
好奇心旺盛なわりに人見知りなティオーだが、あるじには全幅の信頼を置いているのだろう。こちらも照れくさそうに、頷くのだった。
●
「……人……?」
そう、呆然と呟いているのは骸香(ka6223)。目の前にいるのは、中性的な容姿の、思春期直前くらいの少年とも少女ともつかない子どもだった。
「はい! 主様! 僕ニンゲンになった、たくさんお手伝いできる!」
そう言ってタックルしてきたものだから、たまらない。しかもその勢いで押し倒され、骸香としては混乱の極みだ。しかし、その気配は確かに、紛れもなく、
「……え、珠雪?」
彼女のユキウサギなのである。
「ど、どういうことっすか!?」
「よくわからないです! でもこれでたくさん役立てるです!」
珠雪は無邪気な口調で、嬉しそうに言う。かなりテンションも上がっているようだ。
慌てて同居中の恋人、鞍馬 真(ka5819)に尋ねようとするも、彼も彼で戸惑っている。というのも――
「なんでお前のほうが私よりも背が高いんだ、レグルス……!」
真のイェジドであるレグルスも、しっかり人間の姿になっていたのである。それも、男性としてはやや小柄な真の身長をゆうに超える身長で。そのくせどこかかわいい系の雰囲気を漂わせているのは、もともとの性格なのだろうか。犬のような人なつこさが、感じられる。
しかし身長については真にとってはかなり重要ポイントだったらしく、ため息をついている。
「とりあえず考えていても埒があかない」
と、骸香はいいことを思い付いた、という顔で、
「それなら、珠雪も、真さん達も、一緒に気晴らしに散歩しません?」
と声をかける。
「……そうだな。こういう機会に、世界を見るのもひとつの手かも知れないし」
真も頷いて、四人で街へと繰り出した。
「大人数ではあるけれど、楽しいですね」
骸香は微笑みながら言う。彼女の着物の裾は珠雪が握っていて、遠目から見ると――
「なんか、家族とか思われたりして」
骸香はなんだか楽しそうに言葉を紡ぐ。
「……こうやってみんなでいると、たしかに家族みたいですねー」
レグルスはそう言ってにこにこ笑う。人なつっこい笑みは、確かに長身だがどこか愛嬌があり、少し間延びした口調も穏やかな性格を示していた。
(レグルスの言うとおり、確かに家族みたいだな)
真もそう思って穏やかな笑みを浮かべる。しかし、
「あ、でもご主人は小さいから、兄弟みたいな感じかな?」
そう言ってくっついてこようとするレグルスに思わず克を入れる真。そしてそんな光景を見て微笑む骸香。その脇で楽しそうに飛び跳ね、
「かぞく? 主さまといっしょにいられるなら、なんでもいいよ!」
そんなことを無邪気に言う珠雪。骸香も真もこの意見には苦笑を思わずうかべたが、
「まぁ、怪我なく生きていれば、一緒に居られるでしょ?」
ちら、と真を横目で見ながらそんなことを言う骸香。真はなにかと生傷の絶えない人なので、ちょっとした意趣返しだ。無論それだけではない。彼が心配であると言うことを暗に滲ませている。もっとも、幻獣たちにそれを悟られたくないので、あえてそんな言葉で濁してしまうわけだが。
「んー、確かにご主人は怪我してばかりですよね~。僕はご主人と眠れたらそれで満足なんですから、無事でいて下さいね?」
まあ、レグルスの方はいいたいことの一部は判ったらしくにこにこ笑って骸香に同意する。
「……悪かったな」
少し気恥ずかしそうに目を逸らす真。一応自覚はあるので、申し訳ないとは思っているようだ。
(……それと、いつもは言えない感謝の気持ちを伝えられたら……)
なにかと真を助けてくれるレグルス。真自身、レグルスのことは相棒として信頼している。何しろ、どんなに厳しい戦場であっても、レグルスはいやな顔せず彼をサポートしてくれるのだから。
「レグルス、俺はどんな戦場でも、お前がいれば何も怖くない。これからも相棒としてよろしくな」
そう言ってさしだした手に、レグルスは己の手を重ね、握る。
「こちらこそ~……僕はレグルスに、ついていきますから」
友情めいたそのやりとりに、骸香もなんだか嬉しそうに微笑む。すると珠雪も、自分も! と言わんばかりにぴょんこぴょんこと抱きついてきた。珠雪なりの親愛表現なのだろう。
――幻獣たちにも個性はあるし、幻獣たちとの付き合い方も人それぞれ。
それでも、この不思議な現象を経験した人たちは心に留めるのだろう。
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最終発言 2017/04/03 19:03:04 |