ゲスト
(ka0000)
【血盟】ある領地の魔法公害と終わり
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/11 07:30
- 完成日
- 2017/04/17 05:37
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●イノア・クリシスの証言
兄ニコラス・クリシスが死んだのはホロウレイドの戦いで王国が揺れていたところです。
魔法公害がひどく、父ウィリアム・クリシスが穏便に収めようとしていましたが、なぜかおさまりませんでした。商人も研究者もかたくなに「きちんと処理している」というのみで、実際は何もしていないのは明らかでした。
兄は直前に災厄の十三魔レチタティーヴォに遭ったそうです。その存在はわたくしたちが知っていたとしても見た目など知らない状態でしたのでそれだと知ったのは後でした。
兄は歪虚に遭ったことを告げようとして、忙しい父にはねつけられてしまいました。父が悪くはなく兄がねじ込めなかったのです。引き下がってしまったのです。
翌日もレチタティーヴォと遭い、むしろ「ハンターに頼めばいい」と助言されたそうです。身柄を狙われる危険性から兄は外出禁止で、手紙を書いていました。わたしがそれを見つけて、恋文だのからかったのです。
状況が分かったときには遅く、魔法生物による襲撃がありました。
母は私をかばって死にました。私はそのあとのことは伝聞です。
兄は自分の対応が悪かったと、剣を手にレチタティーヴォに向かいました。文武両道の兄とは言え、非覚醒者です。レチタティーヴォに殺されたというのを父は見たそうです。
そのあとはご存知の通り。死体は持ち去られていますが、あるとして葬儀を行いました。
●計算上の可能性
クリシスの町の魔法公害はハンターの介入で違う未来を示した。
はじき出された希望。
そこから再び話は続く。
エクラ教会やハンターオフィスへの注意喚起、協力を得る。貴族間でのパワーゲームにも使われる可能性はなくはないが、災厄の十三魔の絡みとあれば歩調のずれは、明日は我が身となりかねない。
動きは鈍いが、確実に、クリシスの領地は静かになっていった。
外出禁止はまだ続くが、屋敷内の原っぱを駆け回るのは許されてニコラスとイノアは遊ぶ。
昼食をバスケットに詰めてもらって、ニコラスとイノアはピクニックごっこをする。メードたちがついてくるのを押しとどめ、自分たちでするのがこの「ごっこ」のツボだ。
「お兄様、ワクワクしますわ」
イノアは目をキラキラさせている。
「そう? 良かった」
ニコラスは微笑む。
「さあ、ここでしよう」
丘の上の木の下に二人で両方引っ張り敷物を敷き、バスケットを置いた。
「町が見えます!」
イノアははしゃぐ。普段、母親について慈善事業で町に行ってもこういう見下ろすことはなかなかない。
「僕のお気に入りだよ。歌、歌いたいな」
「声変わりがあるからダメだって」
「うん、わかってる。でも、まだ今なら」
「……お兄様、無理はしないでくださいね?」
「一生声が出なくなるわけじゃないよ」
少しだけ、ニコラスは歌う。
イノアは嬉しかった。兄を独り占めしているというのは楽しい。
おどおどしてもどかしい兄だったが、ここ数週間でしっかりしてきたのである。かっこいい兄がもっとカッコよくなる。嬉しくて仕方がない。
拍手が聞こえる。
ニコラスの動きは早かった。イノアをかばうように拍手の音がしたほうを向く。
赤毛の見知らぬ男が立っていた。ニコラスが見ていると知ると、帽子をとりお辞儀をする。
姿を直接見たことはなかったが、ハンターから教えてもらった外見と合致する。
負のマテリアルを抑えているのかもしれないが、ニコラスはつらい。イノアが背中で震えているのがよくわかる。
「なぜ、ここに」
「面白い舞台があると聞き来たのだが、ハンターが大変よく介入して、ずいぶん簡素な内容となってしまった。残念と思って最後に町でも見て立ち去ろうかと思ったのだよ?」
優し気に、穏やかに告げる。
ニコラスの脳内は警鐘が鳴り響き、対応を迫っている。
動けば殺される。
イノアを逃がしても殺される。
解決策が見えない。
「なぜ、怯えているのかな?」
わざとらしい言葉。
前かがみでニコラスの顔を覗き込むしぐさ。
町の方から大きな音がする。
ニコラスは振り返りたいができない。
「そうそう、一人抗ったものがあって、爆発したようだね」
「爆発?」
「お兄様、町で何か暴れているみたい」
背後からイノアが小さく言う。
「そうそう、君も実際見てみればいい」
「お前がまず立ち去れ」
「ここは特等席だと思わないか? だから、しばらくここで見物することにしよう」
「……なっ!?」
ニコラスは少し下がる。
「……お前は……災厄の十三魔のレチタティーヴォか?」
男――レチタティーヴォは驚いた顔をしたが、妙にわざとらしい。
「私もなかなか名を知られるようになったようだ」
ニコラスはレチタティーヴォから目を離さない。
「さて、どのような惨劇が起こっているのか? 魔法公害を減らす努力……そのあとに『安心、それが人間の最も近くにいる敵』という自覚はあったかな?」
「……え」
ニコラスは屋敷内ならいいだろうと思っていたのは事実。
背後でイノアの体が離れる。
「イノアっ」
慌てて振り返り、体を支える。ここでレチタティーヴォに背中を見せた。
「私は別に、君に何かするつもりはない」
耳元で声がする。そばにいるということが明確だ。
ニコラスはイノアを抱きしめるようにしゃがみ込んだ。
(逃げられない……どうすればいいんだ? 僕が……僕がもっと強ければ。僕がハンターだったら?)
ニコラスの頭に撫でるように手が乗せられる。
「君は力を欲するのかな? 自由に遊びまわれる、力を」
「え?」
思わず振り返りそうになり止まった。
●町、混乱
ウィリアムは魔法生物の出現を音で聞き、報告も受けた。
それの移動経路がわかれば民の避難をさせやすい。
「ニコラスは?」
「……お、お伝えすます」
モース家の次男ジョルジュが真っ青な顔で入ってくる。
「お前は護衛だろう?」
「イノア様と丘の上に行くと言われ、私やメードたちは離れていました。ハンターへの依頼を」
何のことかウィリアムは困惑するが、よくないことは感じ取る。
「歪虚です……若君とイノア様はその腕の中にいます」
「なんだと!」
駆けだしそうになったウィリアムはとどまる。
「……なぜ」
ウィリアムは考える、何が優先か。
伝令が来て魔法生物の向かう方向がどこか明確になった。研究者らしい若者とともに領主の屋敷に向かっているという。
「逆に好都合……使用人たちは安全なところに避難を。前庭で待ち受ける。兵を集めよ」
ウィリアムは指示を出した。
「ニコラスは後だ」
「御屋形様……」
「この状況……でどうしろと」
ウィリアムはこぶしで机をたたいた。
ジョルジュは唇をかむ、ニコラスから離れた責任はあるが災厄の十三魔を前に何もできないのは現実だった。
兄ニコラス・クリシスが死んだのはホロウレイドの戦いで王国が揺れていたところです。
魔法公害がひどく、父ウィリアム・クリシスが穏便に収めようとしていましたが、なぜかおさまりませんでした。商人も研究者もかたくなに「きちんと処理している」というのみで、実際は何もしていないのは明らかでした。
兄は直前に災厄の十三魔レチタティーヴォに遭ったそうです。その存在はわたくしたちが知っていたとしても見た目など知らない状態でしたのでそれだと知ったのは後でした。
兄は歪虚に遭ったことを告げようとして、忙しい父にはねつけられてしまいました。父が悪くはなく兄がねじ込めなかったのです。引き下がってしまったのです。
翌日もレチタティーヴォと遭い、むしろ「ハンターに頼めばいい」と助言されたそうです。身柄を狙われる危険性から兄は外出禁止で、手紙を書いていました。わたしがそれを見つけて、恋文だのからかったのです。
状況が分かったときには遅く、魔法生物による襲撃がありました。
母は私をかばって死にました。私はそのあとのことは伝聞です。
兄は自分の対応が悪かったと、剣を手にレチタティーヴォに向かいました。文武両道の兄とは言え、非覚醒者です。レチタティーヴォに殺されたというのを父は見たそうです。
そのあとはご存知の通り。死体は持ち去られていますが、あるとして葬儀を行いました。
●計算上の可能性
クリシスの町の魔法公害はハンターの介入で違う未来を示した。
はじき出された希望。
そこから再び話は続く。
エクラ教会やハンターオフィスへの注意喚起、協力を得る。貴族間でのパワーゲームにも使われる可能性はなくはないが、災厄の十三魔の絡みとあれば歩調のずれは、明日は我が身となりかねない。
動きは鈍いが、確実に、クリシスの領地は静かになっていった。
外出禁止はまだ続くが、屋敷内の原っぱを駆け回るのは許されてニコラスとイノアは遊ぶ。
昼食をバスケットに詰めてもらって、ニコラスとイノアはピクニックごっこをする。メードたちがついてくるのを押しとどめ、自分たちでするのがこの「ごっこ」のツボだ。
「お兄様、ワクワクしますわ」
イノアは目をキラキラさせている。
「そう? 良かった」
ニコラスは微笑む。
「さあ、ここでしよう」
丘の上の木の下に二人で両方引っ張り敷物を敷き、バスケットを置いた。
「町が見えます!」
イノアははしゃぐ。普段、母親について慈善事業で町に行ってもこういう見下ろすことはなかなかない。
「僕のお気に入りだよ。歌、歌いたいな」
「声変わりがあるからダメだって」
「うん、わかってる。でも、まだ今なら」
「……お兄様、無理はしないでくださいね?」
「一生声が出なくなるわけじゃないよ」
少しだけ、ニコラスは歌う。
イノアは嬉しかった。兄を独り占めしているというのは楽しい。
おどおどしてもどかしい兄だったが、ここ数週間でしっかりしてきたのである。かっこいい兄がもっとカッコよくなる。嬉しくて仕方がない。
拍手が聞こえる。
ニコラスの動きは早かった。イノアをかばうように拍手の音がしたほうを向く。
赤毛の見知らぬ男が立っていた。ニコラスが見ていると知ると、帽子をとりお辞儀をする。
姿を直接見たことはなかったが、ハンターから教えてもらった外見と合致する。
負のマテリアルを抑えているのかもしれないが、ニコラスはつらい。イノアが背中で震えているのがよくわかる。
「なぜ、ここに」
「面白い舞台があると聞き来たのだが、ハンターが大変よく介入して、ずいぶん簡素な内容となってしまった。残念と思って最後に町でも見て立ち去ろうかと思ったのだよ?」
優し気に、穏やかに告げる。
ニコラスの脳内は警鐘が鳴り響き、対応を迫っている。
動けば殺される。
イノアを逃がしても殺される。
解決策が見えない。
「なぜ、怯えているのかな?」
わざとらしい言葉。
前かがみでニコラスの顔を覗き込むしぐさ。
町の方から大きな音がする。
ニコラスは振り返りたいができない。
「そうそう、一人抗ったものがあって、爆発したようだね」
「爆発?」
「お兄様、町で何か暴れているみたい」
背後からイノアが小さく言う。
「そうそう、君も実際見てみればいい」
「お前がまず立ち去れ」
「ここは特等席だと思わないか? だから、しばらくここで見物することにしよう」
「……なっ!?」
ニコラスは少し下がる。
「……お前は……災厄の十三魔のレチタティーヴォか?」
男――レチタティーヴォは驚いた顔をしたが、妙にわざとらしい。
「私もなかなか名を知られるようになったようだ」
ニコラスはレチタティーヴォから目を離さない。
「さて、どのような惨劇が起こっているのか? 魔法公害を減らす努力……そのあとに『安心、それが人間の最も近くにいる敵』という自覚はあったかな?」
「……え」
ニコラスは屋敷内ならいいだろうと思っていたのは事実。
背後でイノアの体が離れる。
「イノアっ」
慌てて振り返り、体を支える。ここでレチタティーヴォに背中を見せた。
「私は別に、君に何かするつもりはない」
耳元で声がする。そばにいるということが明確だ。
ニコラスはイノアを抱きしめるようにしゃがみ込んだ。
(逃げられない……どうすればいいんだ? 僕が……僕がもっと強ければ。僕がハンターだったら?)
ニコラスの頭に撫でるように手が乗せられる。
「君は力を欲するのかな? 自由に遊びまわれる、力を」
「え?」
思わず振り返りそうになり止まった。
●町、混乱
ウィリアムは魔法生物の出現を音で聞き、報告も受けた。
それの移動経路がわかれば民の避難をさせやすい。
「ニコラスは?」
「……お、お伝えすます」
モース家の次男ジョルジュが真っ青な顔で入ってくる。
「お前は護衛だろう?」
「イノア様と丘の上に行くと言われ、私やメードたちは離れていました。ハンターへの依頼を」
何のことかウィリアムは困惑するが、よくないことは感じ取る。
「歪虚です……若君とイノア様はその腕の中にいます」
「なんだと!」
駆けだしそうになったウィリアムはとどまる。
「……なぜ」
ウィリアムは考える、何が優先か。
伝令が来て魔法生物の向かう方向がどこか明確になった。研究者らしい若者とともに領主の屋敷に向かっているという。
「逆に好都合……使用人たちは安全なところに避難を。前庭で待ち受ける。兵を集めよ」
ウィリアムは指示を出した。
「ニコラスは後だ」
「御屋形様……」
「この状況……でどうしろと」
ウィリアムはこぶしで机をたたいた。
ジョルジュは唇をかむ、ニコラスから離れた責任はあるが災厄の十三魔を前に何もできないのは現実だった。
リプレイ本文
●開幕
ミオレスカ(ka3496)は町に近い魔法生物に向かって【制圧射撃】を行う。レチタティーヴォへは対応を行うと宣言している仲間に任せ、まずは脅威を減らすことに専念する。
「人造雑魔とでもいうべきでしょうか。肉厚ですが、やはり、食べられそうにないですね」
銃弾の手ごたえからミオレスカは何とも言えない表情になる。
アルマ・A・エインズワース(ka4901)はマテリアルを解放し、機導術を使う。
「わふーっ! おもちゃ作ってもいいですけど、お片付けも大事ですー」
【紺碧の流星】が魔法生物を穿つのを見届けるとともに、丘の上に魔導バイクを走らせた。
ミリア・エインズワース(ka1287)は損傷の激しい魔法生物たちに向かって斬魔刀を振るう。
「プエル! この程度のことは僕らに任せてお前は前を見てろ! 僕らの舞台に上がってくるんじゃない、君の戦場は別にある」
ミリアの言葉はニコラスの耳に届く。先日、町に遊びに行ったときの偽名で呼ばれ、目に力が戻る。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は丘の上を気にしながらも、かつてプエル(kz0127)がもたらした情報を意識し、まずは魔法生物制圧を行う。
「野郎がプエルが言うような演出家なら、剣を向けない一般人を直接殺しはしねぇはずだ……が、プエルからの情報だから、正直不安だが」
魔法生物を早く倒し、レチタティーヴォに対応すればいいだけなのだと剣を振う。
マリィア・バルデス(ka5848)は中央寄りの茂みを遮蔽物に、レチタティーヴォを狙う。戦場が全部見渡せる場だ。
「妹を連れてこちらに逃げるの、早くっ!」
叫びを聞き、ニコラスはイノアを強く抱きしめ、隙を探す。マリィアが放った弾丸をレチタティーヴォはぎりぎりで回避してしまっため難しい。
ステラ・レッドキャップ(ka5434)は魔法生物制圧が仕事と考えつつも、ちらりと見た丘の上が気になる。
「レチタティーヴォを相手にするには実力は足らない……警戒は必要だろうけどな……逃げてこられるならいいが」
ステラはニコラスたちを心配し、必要なら銃口を向けるために警戒はしてあった。
アメリア・フォーサイス(ka4111)は状況を見て優先順位を考えるが、領主の言う通りが最善だろう。ライブラリーでの出来事でハンターにもたらされる死が本当の死でないとしても、殺される可能性は減らしたい。
「雇われたからには全力で当たらせてもらいますけど……すでに敵の手に人質とはまた厄介きわまりないですねー」
つぶやきながら、レチタティーヴォがあきらめて撤退してくれることを願う。
チマキマル(ka4372)は頭蓋骨の仮面の中で研究者の青年への怒りに燃えるが、魔法生物に対しての視線は悲しみと憐れみで満ちる。
「殺したくはない……しかし、こうなってしまえば道はない。雑魔を生む寝床となるようなことは許せない。このようにけしかけた魔術師には魂を持って責任を、トッテモラウゾ……」
低い低い小さくこぼれる声音は、研究者の青年には届かない。
レチタティーヴォはハンターを溜息をもらす。
「こちらは放っておいてもらいたいものだ。ああ、君は立ち上がりたいのだね? 手伝ってあげよう」
幼子にするようにニコラスの脇に手を入れ、そのままスッと立たせる。
「その荷物は私が持とうか?」
イノアを指さし笑みを深くするレチタティーヴォをニコラスはにらみつける。
●決着は早く
盾を構える兵士たちに向かって、深い傷を負っている魔法生物たちは向かう。
「前にはいかせません」
ミオレスカは【レイターコールドショット】を放つ。魔法生物が丘の方に来ることは良いことであるが、一般的な兵だけで対応は難しいだろう。
「こんなゴミを作って遊んでいたのか、そりゃ打ち切られるだろう」
ミリアが攻撃すると、魔法生物は耐えきれず倒れる。
「護衛用のくせにぬるぬるしている上、見た目が悪すぎる。どう考えても欠陥品だな」
レイオスは青年を挑発しつつ、魔法生物を攻撃する。彼を逃がさないためにも、怒りという名の足止めをしたい。
「さっきの弾丸の状況考えると、凍らせれば最高、倒しやすいですよね?」
アメリアはマテリアルを込め銃弾を叩き込む。魔法生物の表皮のぬめりが攻撃を逃がしやすいようである。凍らせれば効率は良くなるだろうと推測する。
「同じの狙ったほうがいいよな」
ステラが弱っている物を重点的に狙う。敵の行動を考え、銃に弾が空にならないようにきちんとカウントしておく。
「……ァァァア……許せよかわいい子らよ……【凶作祝いの花葬】」
怨嗟の叫びのようなチマキマルの声の後、ファイアーボールが生じ、真紅の炎が魔法生物たちを包み込む。
「あああ、俺の、俺の研究の成果が!」
魔法生物が倒れるの時間の問題。それらが攻撃したとしても、ハンターには大した傷は負わせることはないだろう。
「何が、研究の成果だ! 魔法生物を作ることは否定しない。それによって生み出され、愛されるならば良し。君のようなことをして、生き物が悪に無にされる! 許せないことだ。慈しむべき存在であるというのに。雑魔を生むだけの、邪悪なものとなってしまう……悲しくて哀しくて……ソンナコトヲサセナイ」
チマキマルが研究者の青年にきっぱりと言い切った。必ず行ったことを実行する、そういう鬼気迫る気配が漂う。
レチタティーヴォとの距離を詰めたところで、アルマはバイクから降り、芝居がかかったお辞儀をする。
「わふー。知らないヒトです? せっかくなので、遊んであげてもいいです。僕、ちょっとだけ強いですよ?」
アルマの口調はおどけているが視線はレチタティーヴォを射貫くように鋭い。
レチタティーヴォの腕の中にいるニコラスは真っ青で震えているが、動けない状況ではないようだ。
「ニコラス! そいつが何言っているか知らないけど、歪虚は人をそそのかすことしか言わないのっ!」
マリィアがレチタティーヴォに向かって射撃をする。
銃弾は地面を穿つ。レチタティーヴォはニコラスを抱えたまま後方に少し移動していた。
「あっ」
ニコラスの腕からイノアがずり落ちて地面に転がった。
アルマが素早く近寄り、【禁じ手《蒼断》】を使用する。マテリアルで作られた刃を後方に飛び避けたレチタティーヴォの前に立つ。
ニコラスは少しだけ安堵した様子を見せた、イノアがアルマによって守られたのだから。
マリィアの援護があった瞬間、アルマがイノアを抱きかかえ引き返す。
「君のことはあきらめたのかな?」
「僕はそれでもいい。イノアは助かってほしいから」
レチタティーヴォはニコラスの穏やかな言葉聞いて何か考えている様子を見せた。
●魂
魔法生物は意外ともろかった、ハンターの攻撃が集中していためかもしれないが。すべて倒れた後、ハンターは次の行動に移る。
「てめぇは逃げるなっ」
レイオスが研究者の青年を取り押さえる。
「魂を以て償ってもらうぞ」
チマキマルの異装により、研究者はおびえる。
「殺すなよ」
「殺す? 生ぬるい。レチなんとかはドウデモイイ。こいつは……私が見ている……だから行けばいい」
レイオスは丘の上に向かって走る。チマキマルに任せておけば、青年が逃げることはないだろう。
「ニコラス……」
一方で兵士とともにいた領主のウィリアムは知らず知らずのうちに丘の上に向かって歩き出していた。
ミオレスカ、アメリア、ステラは射程を計りつつ、レチタティーヴォを狙う。
「ニコラスさん! あとでおいしいスープを御馳走しますよ。イノアさんと一緒にぜひ!」
ミオレスカは努めて明るい声で、ニコラスがレチタティーヴォに心を奪われないように、希望を、未来を考えられるように話しかける。
「見世物は終わりましたよー、さっさとどこか行ってください。その子はおいていってくださいね」
アメリアはニコラスを逃がす隙を作るための攻撃箇所を見る。
「いつでも……合わせて狙うぞ?」
ステラは仲間を視界に収める。アルマがイノアを抱え、後方の兵士に届けたのでほっとするが、レチタティーヴォがアクションを起こさないのは気持ちが悪い。
こうしている間にもミリアが攻撃できる範囲に入り、遅れてレイオスが近づく。
「……ここで君が死ぬと、領主は何を願うだろう?」
レチタティーヴォは優しい声で問いかけ、ニコラスの細い首にふれる。ニコラスはびくっと震えるが黙って前を見る。
「簡単にあれが倒されるとは意外だった。ハンターの強さを見誤ったということか? さて、帰ろうと思うのだが、少しだけ遊ぼうか? おもちゃもあるのだから」
彼の足元にあるピクニックセットが雑魔化し、音を立てる。
「ニコラスさんは十分強いです! ですから、少し待ってくださいね」
ミオレスカは引き金を引いた。
これに合わせるように、アメリアとマリィア、ステラの銃弾もレチタティーヴォに集中する。行動を鈍らせようとする弾丸は彼に命中しているようだった。
「通ったか」
ステラは呟いた後、舌打ちをする。
足元に氷も見えるが、コートに穴がある程度で回避をし、大したダメージはなかったようだ。
「邪魔をするなっ」
ミリアが足元で邪魔をするピクニックセットを薙ぎ払う。
「目障りだ」
ふわふわ移動するシートをレイオスは斬るが、攻撃が当たる前に引っ張られるように消える。
「これはこう使うものだ」
ニコラスはそのシートにグルグル巻きにされ、地面に転がされる。
「レイピアも時には研がねばならない」
レチタティーヴォがすっとさやから抜いた。
「もう、あきらめて帰ってくださいよー」
アメリアは苦情を言いつつも視線は鋭かった。銃の中にある弾を計算し、リロードのタイミングを考える。
「それはこちらの言葉でもあるのだが? 私が用があるのはクリシス家の者のみだよ?」
近づいたミリアの脚に鋭いレイピアの一撃が通る。
「っつう」
貫通した刃は距離を詰めていたアルマにも見えた。
「ミリア!」
機導を使い、魔法を放つ。
ハンターのレチタティーヴォへ攻撃が集中する。
その間はニコラスの周囲は手薄であった。
ニコラスは近づく護衛の青年ジョルジュ・モースを見て声を出さずに「駄目だ」と告げる。彼はナイフを引き抜くと、シートを切り裂こうとした。
そのシートはニコラスをとらえるのに使っていない、端っこを刃とし、ジョルジュを切りかかる。
「ジョー、逃げて!」
この悲鳴でハンターおよびレチタティーヴォは状況を知る。
「こんなガキでも守れなかったら俺は兄以下だ!」
「違う! 僕の命令だったんだっ!」
シートは容赦なくジョルジュを狙う。
「やめてえええ! レチタティーヴォ、彼を殺さないで! お願い!」
ニコラスはすがった、反射的に。
「駄目! 願うことなんて何もないの!」
マリィアがニコラスに言葉を発せさせないように叫ぶ。
「往生際が悪いですよ。『舞台』にすら上がれなかったヴィランさん? あー、あと名前、呼びにくいのでどうにかしてくださいよ。レチたんさんって呼びますよ」
アルマは挑発の言葉を口にする。
「てめえを退かせればいいんだよ! 大体、この領地でどんな演目を望んだんだ? 親殺しか?」
レイオスは接敵し、レチタティーヴォを薙ぎ払った。
避けたレチタティーヴォはレイピアをしまうと、ため息を漏らす。
「演出には時には悪の心も必要では? 演目……明かしてしまえばなんということもないことだ。善良と呼ばれる領主の下で魔法生物が大量に生まれたとあれば、貴族同士の均衡も崩れ、なかなか大掛かりな戦争になる……と思っていたのだが。いや、この領主がハンターをうまく使うとは思ってもなかったし、私の関係者が消えるとは……君たちがここまで力を持つことが気になる」
計算間違い。
「ニコラスがずいぶんと変わった。違うことを考えてもよさそうだ……ニコラス君、また会おう。私は好きだよ、君のような子は」
レチタティーヴォが手をたたくと、雑魔となっていたシートは元に戻る。
ハンターは追撃が必要かと武器を下さない。レチタティーヴォが、ただ帰ってくれるのかわからない。
「では、さよなら、だ」
「うわあああ」
シートから這い出たニコラスはジョルジュが手にしていたナイフをレチタティーヴォに向ける。
「駄目です」
「プエルやめろ!」
悲鳴に近いミオレスカの声、ミリアがつなぎとめようと呼ぶ。
ニコラスが振るったナイフは空を切る。そこにレチタティーヴォの姿はなかった。
●閉幕
斬られて倒れるジョルジュをレイオスは診る。
「止血だな」
「ははっ……俺は兄を……あんな兄を超え……」
「今縛るから、しゃべるな」
レイオスの腕の中でジョルジュは微笑んだようだった。
「うっ、ジョー……駄目だ、死んだら。お前が僕を嫌いでも……」
「殺すな、生きてるからな」
「そんな気休めを」
「気休めじゃない。とっとと司祭や医者を呼ぶこと。今動かすのは難しいから」
「あっ……」
レイオスに諭され、ニコラスは立ち上がる。
「そうね、そそっかしくなるのはその人が嫌いじゃないからよね。下には私が言ってくるわ。もし必要ならバイクでいくから、町へも」
マリィアはニコラスに微笑み手を振る。ニコラスが会釈した直後、マリィアは踵を返す。
「よく、頑張りました。イノアさんもニコラスさんも」
ミオレスカはホッと息を吐き、兵士の下にいるイノアを診る。
「おにいさま……」
「ハンターです。イノアさん、お屋敷に運びますね?」
「ごめんなさい」
「謝ることは何もありませんよ」
イノアを背負って、屋敷に向かう。
「あ、オレも手伝う」
ステラはミオレスカの置いた武器を抱え、ついていく。丘の上を見ると、ニコラスがお辞儀をしているのが見えた。
「気にすんな! 無事で良かった」
ステラは声をかけてから屋敷に向かった。
「魔法生物をけしかけた犯人は……無事なのかしら? ……ん? 無事?」
アメリアは兵士とチマキマルを見る。
どう見てもいい雰囲気はしない。無口そうで、雰囲気から放たれる言葉は重く鋭そうだ。
「人道的な観点と言うが、お前のしていることはどうなのだろうか?」
「うるさい!」
「お前を殺す……とは言っていない。魂を以て……」
「それは殺すということだろう」
「とは言っていない。悲しいかな、魔法生物は生まれて失敗すれば殺される。生物として生まれたにもかかわらず」
研究者はチマキマルの言葉と平行線にいる。兵士は見ているだけで手出しできない。
「これですべてが終わったわけじゃない、これからだ」
ミリアの言葉にニコラスはうなずく。最初に見たときより、きりっとした雰囲気が出てきている。
「幸せなほうがいいですよ? ニコラスさ……ニコラス君、また、一緒に遊びましょうね」
アルマの言葉に、ニコラスはうなずき笑顔を見せた。
ミオレスカ(ka3496)は町に近い魔法生物に向かって【制圧射撃】を行う。レチタティーヴォへは対応を行うと宣言している仲間に任せ、まずは脅威を減らすことに専念する。
「人造雑魔とでもいうべきでしょうか。肉厚ですが、やはり、食べられそうにないですね」
銃弾の手ごたえからミオレスカは何とも言えない表情になる。
アルマ・A・エインズワース(ka4901)はマテリアルを解放し、機導術を使う。
「わふーっ! おもちゃ作ってもいいですけど、お片付けも大事ですー」
【紺碧の流星】が魔法生物を穿つのを見届けるとともに、丘の上に魔導バイクを走らせた。
ミリア・エインズワース(ka1287)は損傷の激しい魔法生物たちに向かって斬魔刀を振るう。
「プエル! この程度のことは僕らに任せてお前は前を見てろ! 僕らの舞台に上がってくるんじゃない、君の戦場は別にある」
ミリアの言葉はニコラスの耳に届く。先日、町に遊びに行ったときの偽名で呼ばれ、目に力が戻る。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は丘の上を気にしながらも、かつてプエル(kz0127)がもたらした情報を意識し、まずは魔法生物制圧を行う。
「野郎がプエルが言うような演出家なら、剣を向けない一般人を直接殺しはしねぇはずだ……が、プエルからの情報だから、正直不安だが」
魔法生物を早く倒し、レチタティーヴォに対応すればいいだけなのだと剣を振う。
マリィア・バルデス(ka5848)は中央寄りの茂みを遮蔽物に、レチタティーヴォを狙う。戦場が全部見渡せる場だ。
「妹を連れてこちらに逃げるの、早くっ!」
叫びを聞き、ニコラスはイノアを強く抱きしめ、隙を探す。マリィアが放った弾丸をレチタティーヴォはぎりぎりで回避してしまっため難しい。
ステラ・レッドキャップ(ka5434)は魔法生物制圧が仕事と考えつつも、ちらりと見た丘の上が気になる。
「レチタティーヴォを相手にするには実力は足らない……警戒は必要だろうけどな……逃げてこられるならいいが」
ステラはニコラスたちを心配し、必要なら銃口を向けるために警戒はしてあった。
アメリア・フォーサイス(ka4111)は状況を見て優先順位を考えるが、領主の言う通りが最善だろう。ライブラリーでの出来事でハンターにもたらされる死が本当の死でないとしても、殺される可能性は減らしたい。
「雇われたからには全力で当たらせてもらいますけど……すでに敵の手に人質とはまた厄介きわまりないですねー」
つぶやきながら、レチタティーヴォがあきらめて撤退してくれることを願う。
チマキマル(ka4372)は頭蓋骨の仮面の中で研究者の青年への怒りに燃えるが、魔法生物に対しての視線は悲しみと憐れみで満ちる。
「殺したくはない……しかし、こうなってしまえば道はない。雑魔を生む寝床となるようなことは許せない。このようにけしかけた魔術師には魂を持って責任を、トッテモラウゾ……」
低い低い小さくこぼれる声音は、研究者の青年には届かない。
レチタティーヴォはハンターを溜息をもらす。
「こちらは放っておいてもらいたいものだ。ああ、君は立ち上がりたいのだね? 手伝ってあげよう」
幼子にするようにニコラスの脇に手を入れ、そのままスッと立たせる。
「その荷物は私が持とうか?」
イノアを指さし笑みを深くするレチタティーヴォをニコラスはにらみつける。
●決着は早く
盾を構える兵士たちに向かって、深い傷を負っている魔法生物たちは向かう。
「前にはいかせません」
ミオレスカは【レイターコールドショット】を放つ。魔法生物が丘の方に来ることは良いことであるが、一般的な兵だけで対応は難しいだろう。
「こんなゴミを作って遊んでいたのか、そりゃ打ち切られるだろう」
ミリアが攻撃すると、魔法生物は耐えきれず倒れる。
「護衛用のくせにぬるぬるしている上、見た目が悪すぎる。どう考えても欠陥品だな」
レイオスは青年を挑発しつつ、魔法生物を攻撃する。彼を逃がさないためにも、怒りという名の足止めをしたい。
「さっきの弾丸の状況考えると、凍らせれば最高、倒しやすいですよね?」
アメリアはマテリアルを込め銃弾を叩き込む。魔法生物の表皮のぬめりが攻撃を逃がしやすいようである。凍らせれば効率は良くなるだろうと推測する。
「同じの狙ったほうがいいよな」
ステラが弱っている物を重点的に狙う。敵の行動を考え、銃に弾が空にならないようにきちんとカウントしておく。
「……ァァァア……許せよかわいい子らよ……【凶作祝いの花葬】」
怨嗟の叫びのようなチマキマルの声の後、ファイアーボールが生じ、真紅の炎が魔法生物たちを包み込む。
「あああ、俺の、俺の研究の成果が!」
魔法生物が倒れるの時間の問題。それらが攻撃したとしても、ハンターには大した傷は負わせることはないだろう。
「何が、研究の成果だ! 魔法生物を作ることは否定しない。それによって生み出され、愛されるならば良し。君のようなことをして、生き物が悪に無にされる! 許せないことだ。慈しむべき存在であるというのに。雑魔を生むだけの、邪悪なものとなってしまう……悲しくて哀しくて……ソンナコトヲサセナイ」
チマキマルが研究者の青年にきっぱりと言い切った。必ず行ったことを実行する、そういう鬼気迫る気配が漂う。
レチタティーヴォとの距離を詰めたところで、アルマはバイクから降り、芝居がかかったお辞儀をする。
「わふー。知らないヒトです? せっかくなので、遊んであげてもいいです。僕、ちょっとだけ強いですよ?」
アルマの口調はおどけているが視線はレチタティーヴォを射貫くように鋭い。
レチタティーヴォの腕の中にいるニコラスは真っ青で震えているが、動けない状況ではないようだ。
「ニコラス! そいつが何言っているか知らないけど、歪虚は人をそそのかすことしか言わないのっ!」
マリィアがレチタティーヴォに向かって射撃をする。
銃弾は地面を穿つ。レチタティーヴォはニコラスを抱えたまま後方に少し移動していた。
「あっ」
ニコラスの腕からイノアがずり落ちて地面に転がった。
アルマが素早く近寄り、【禁じ手《蒼断》】を使用する。マテリアルで作られた刃を後方に飛び避けたレチタティーヴォの前に立つ。
ニコラスは少しだけ安堵した様子を見せた、イノアがアルマによって守られたのだから。
マリィアの援護があった瞬間、アルマがイノアを抱きかかえ引き返す。
「君のことはあきらめたのかな?」
「僕はそれでもいい。イノアは助かってほしいから」
レチタティーヴォはニコラスの穏やかな言葉聞いて何か考えている様子を見せた。
●魂
魔法生物は意外ともろかった、ハンターの攻撃が集中していためかもしれないが。すべて倒れた後、ハンターは次の行動に移る。
「てめぇは逃げるなっ」
レイオスが研究者の青年を取り押さえる。
「魂を以て償ってもらうぞ」
チマキマルの異装により、研究者はおびえる。
「殺すなよ」
「殺す? 生ぬるい。レチなんとかはドウデモイイ。こいつは……私が見ている……だから行けばいい」
レイオスは丘の上に向かって走る。チマキマルに任せておけば、青年が逃げることはないだろう。
「ニコラス……」
一方で兵士とともにいた領主のウィリアムは知らず知らずのうちに丘の上に向かって歩き出していた。
ミオレスカ、アメリア、ステラは射程を計りつつ、レチタティーヴォを狙う。
「ニコラスさん! あとでおいしいスープを御馳走しますよ。イノアさんと一緒にぜひ!」
ミオレスカは努めて明るい声で、ニコラスがレチタティーヴォに心を奪われないように、希望を、未来を考えられるように話しかける。
「見世物は終わりましたよー、さっさとどこか行ってください。その子はおいていってくださいね」
アメリアはニコラスを逃がす隙を作るための攻撃箇所を見る。
「いつでも……合わせて狙うぞ?」
ステラは仲間を視界に収める。アルマがイノアを抱え、後方の兵士に届けたのでほっとするが、レチタティーヴォがアクションを起こさないのは気持ちが悪い。
こうしている間にもミリアが攻撃できる範囲に入り、遅れてレイオスが近づく。
「……ここで君が死ぬと、領主は何を願うだろう?」
レチタティーヴォは優しい声で問いかけ、ニコラスの細い首にふれる。ニコラスはびくっと震えるが黙って前を見る。
「簡単にあれが倒されるとは意外だった。ハンターの強さを見誤ったということか? さて、帰ろうと思うのだが、少しだけ遊ぼうか? おもちゃもあるのだから」
彼の足元にあるピクニックセットが雑魔化し、音を立てる。
「ニコラスさんは十分強いです! ですから、少し待ってくださいね」
ミオレスカは引き金を引いた。
これに合わせるように、アメリアとマリィア、ステラの銃弾もレチタティーヴォに集中する。行動を鈍らせようとする弾丸は彼に命中しているようだった。
「通ったか」
ステラは呟いた後、舌打ちをする。
足元に氷も見えるが、コートに穴がある程度で回避をし、大したダメージはなかったようだ。
「邪魔をするなっ」
ミリアが足元で邪魔をするピクニックセットを薙ぎ払う。
「目障りだ」
ふわふわ移動するシートをレイオスは斬るが、攻撃が当たる前に引っ張られるように消える。
「これはこう使うものだ」
ニコラスはそのシートにグルグル巻きにされ、地面に転がされる。
「レイピアも時には研がねばならない」
レチタティーヴォがすっとさやから抜いた。
「もう、あきらめて帰ってくださいよー」
アメリアは苦情を言いつつも視線は鋭かった。銃の中にある弾を計算し、リロードのタイミングを考える。
「それはこちらの言葉でもあるのだが? 私が用があるのはクリシス家の者のみだよ?」
近づいたミリアの脚に鋭いレイピアの一撃が通る。
「っつう」
貫通した刃は距離を詰めていたアルマにも見えた。
「ミリア!」
機導を使い、魔法を放つ。
ハンターのレチタティーヴォへ攻撃が集中する。
その間はニコラスの周囲は手薄であった。
ニコラスは近づく護衛の青年ジョルジュ・モースを見て声を出さずに「駄目だ」と告げる。彼はナイフを引き抜くと、シートを切り裂こうとした。
そのシートはニコラスをとらえるのに使っていない、端っこを刃とし、ジョルジュを切りかかる。
「ジョー、逃げて!」
この悲鳴でハンターおよびレチタティーヴォは状況を知る。
「こんなガキでも守れなかったら俺は兄以下だ!」
「違う! 僕の命令だったんだっ!」
シートは容赦なくジョルジュを狙う。
「やめてえええ! レチタティーヴォ、彼を殺さないで! お願い!」
ニコラスはすがった、反射的に。
「駄目! 願うことなんて何もないの!」
マリィアがニコラスに言葉を発せさせないように叫ぶ。
「往生際が悪いですよ。『舞台』にすら上がれなかったヴィランさん? あー、あと名前、呼びにくいのでどうにかしてくださいよ。レチたんさんって呼びますよ」
アルマは挑発の言葉を口にする。
「てめえを退かせればいいんだよ! 大体、この領地でどんな演目を望んだんだ? 親殺しか?」
レイオスは接敵し、レチタティーヴォを薙ぎ払った。
避けたレチタティーヴォはレイピアをしまうと、ため息を漏らす。
「演出には時には悪の心も必要では? 演目……明かしてしまえばなんということもないことだ。善良と呼ばれる領主の下で魔法生物が大量に生まれたとあれば、貴族同士の均衡も崩れ、なかなか大掛かりな戦争になる……と思っていたのだが。いや、この領主がハンターをうまく使うとは思ってもなかったし、私の関係者が消えるとは……君たちがここまで力を持つことが気になる」
計算間違い。
「ニコラスがずいぶんと変わった。違うことを考えてもよさそうだ……ニコラス君、また会おう。私は好きだよ、君のような子は」
レチタティーヴォが手をたたくと、雑魔となっていたシートは元に戻る。
ハンターは追撃が必要かと武器を下さない。レチタティーヴォが、ただ帰ってくれるのかわからない。
「では、さよなら、だ」
「うわあああ」
シートから這い出たニコラスはジョルジュが手にしていたナイフをレチタティーヴォに向ける。
「駄目です」
「プエルやめろ!」
悲鳴に近いミオレスカの声、ミリアがつなぎとめようと呼ぶ。
ニコラスが振るったナイフは空を切る。そこにレチタティーヴォの姿はなかった。
●閉幕
斬られて倒れるジョルジュをレイオスは診る。
「止血だな」
「ははっ……俺は兄を……あんな兄を超え……」
「今縛るから、しゃべるな」
レイオスの腕の中でジョルジュは微笑んだようだった。
「うっ、ジョー……駄目だ、死んだら。お前が僕を嫌いでも……」
「殺すな、生きてるからな」
「そんな気休めを」
「気休めじゃない。とっとと司祭や医者を呼ぶこと。今動かすのは難しいから」
「あっ……」
レイオスに諭され、ニコラスは立ち上がる。
「そうね、そそっかしくなるのはその人が嫌いじゃないからよね。下には私が言ってくるわ。もし必要ならバイクでいくから、町へも」
マリィアはニコラスに微笑み手を振る。ニコラスが会釈した直後、マリィアは踵を返す。
「よく、頑張りました。イノアさんもニコラスさんも」
ミオレスカはホッと息を吐き、兵士の下にいるイノアを診る。
「おにいさま……」
「ハンターです。イノアさん、お屋敷に運びますね?」
「ごめんなさい」
「謝ることは何もありませんよ」
イノアを背負って、屋敷に向かう。
「あ、オレも手伝う」
ステラはミオレスカの置いた武器を抱え、ついていく。丘の上を見ると、ニコラスがお辞儀をしているのが見えた。
「気にすんな! 無事で良かった」
ステラは声をかけてから屋敷に向かった。
「魔法生物をけしかけた犯人は……無事なのかしら? ……ん? 無事?」
アメリアは兵士とチマキマルを見る。
どう見てもいい雰囲気はしない。無口そうで、雰囲気から放たれる言葉は重く鋭そうだ。
「人道的な観点と言うが、お前のしていることはどうなのだろうか?」
「うるさい!」
「お前を殺す……とは言っていない。魂を以て……」
「それは殺すということだろう」
「とは言っていない。悲しいかな、魔法生物は生まれて失敗すれば殺される。生物として生まれたにもかかわらず」
研究者はチマキマルの言葉と平行線にいる。兵士は見ているだけで手出しできない。
「これですべてが終わったわけじゃない、これからだ」
ミリアの言葉にニコラスはうなずく。最初に見たときより、きりっとした雰囲気が出てきている。
「幸せなほうがいいですよ? ニコラスさ……ニコラス君、また、一緒に遊びましょうね」
アルマの言葉に、ニコラスはうなずき笑顔を見せた。
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最良の幕引きの為に【相談卓】 アルマ・A・エインズワース(ka4901) エルフ|26才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/04/11 01:20:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/11 01:18:02 |